説明

赤血球不活性化プロセスのための改善されたクエンチング方法

【課題】核酸結合リガンドと、求電子性基であるか、または該基を構成することができる官能基とを含む病原体不活化化合物で、赤血球組成物を処理する際の望ましくない副作用をクエンチングするための改善された方法を提供すること。
【解決手段】一部の実施形態において、該改善された方法では、求電子性基と共有結合性反応できる求核性官能基を含むクエンチャーを適切に高い濃度で用い、ここで、該処理は、充分なクエンチングをもたらすのに所望されるpH範囲内で行なう。一部の該方法における使用に好ましいクエンチャーとしては、赤血球組成物への添加により、6.8〜8.5の望ましいpH範囲の所望のクエンチャー濃度がもたらされるように適切に中和されたチオール(例えば、グルタチオン)が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、米国仮特許出願第60/623,177号(2004年10月29日出願)の優先権を主張し、この仮特許出願は、本明細書中でその全体が参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明の分野は、存在し得る病原体汚染物質を不活化するための血液製剤の処理に用いられる反応性求電子性化合物をクエンチング(quenching)する方法に関する。特に、チオールなどの求核性化合物を用いて、赤血球組成物中の反応性求電子性化合物をクエンチングする。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
血液製剤および他の生物学的材料による疾患の感染は、依然として深刻な健康上の問題である。血液ドナーのスクリーニングおよび血液試験は、相当進歩しているが、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのウイルスは、ウイルスまたはウイルス抗体のレベルが低いため、試験の際、血液製剤中での検出が見逃されることがある。ウイルスの有害性(hazard)に加え、現在、輸血における使用が意図される血液中の非ウイルス微生物(例えば、細菌または原虫など)の存在についてスクリーニングするための適格な認可試験はない。また、これまで未知の病原体が、輸血用血液中に蔓延(prevalent)した状態となり、疾患の感染の脅威を提示し得るというリスクも存在する(これは、実際、輸血によるHIV感染のリスクの認識以前に起こった)。
血液製剤の臨床使用の前に、病原体を不活化するための化学試薬が血液または血漿に導入されている。典型的には、赤血球含量をほとんどまたは全く有しない血液製剤、例えば、血小板および血漿には、光化学的に活性化された化合物(例えば、ソラレンなど)が使用される。赤血球含有血液製剤には、光活性化を必要としない化合物が、病原体の不活化のために開発されている。このような化合物は典型的には、病原体と、より詳しくは病原体の核酸と反応する求電子性基を有する。例えば、特許文献1には、アリールジオールエポキシドを用いた細胞およびタンパク質含有組成物中のウイルスの不活化が記載されている。インサイチュで求電子体を生成する他の化合物を使用してもよい。LoGrippoらは、ウイルスの不活化のための窒素マスタードCH−N(CHCHCl)の使用を評価した。非特許文献1。より注目すべきことに米国特許第6,410,219号および同第5,691,132号(その開示は、引用により本明細書に組み込まれる)には、病原体を不活化するために、核酸標的化成分ならびに該核酸と反応する求電子性成分を有する化合物の使用が記載されている。特許文献2(その開示は、引用により本明細書に組み込まれる)にも同様の化合物が記載されており、この場合、該化合物の核酸標的化成分が、反応性求電子性成分に加水分解性リンカーによって連結されている。特許文献3および特許文献4(その開示は、引用により本明細書に組み込まれる)には、病原体の不活化のために、エチレンイミンオリゴマーおよび関連化合物を使用することが記載されている。このようなエチレンイミン誘導体化化合物は、典型的には、反応性求電子性成分を提供するアジリジン基、および該化合物の核酸標的化を提供するポリアミン成分を有する。核酸と反応性である求電子性基または同様の基を有する核酸標的化化合物の一般的類型は、血液、血液製剤および種々の生物起源の試料中の病原体を不活化するために使用される。
このような化合物は核酸と特異的に反応するように設計されるが、これらが、依然として血液の他の成分、例えばタンパク質または細胞膜などと反応し得る懸念(concern)がある程度ある。このような副作用は好ましくなく、免疫系によって認識され得るタンパク質および細胞膜の改変などの有害効果を引き起こし得る。かかる処理血液製剤は、反復して使用されると、該処理血液製剤に対するレシピエントの免疫応答をもたらし得る。特許文献5(その開示は、引用により本明細書に組み込まれる)には、任意のかかる有害な副作用のレベルを低下させるため、かかる病原体不活化化合物をクエンチングする方法が記載されている。しかしながら、かかる方法は、望ましくない副作用を有意に低下させるが、望ましくない免疫応答のさらなる低減が望ましい。赤血球の処理のためにかかる化合物を用いた最近の臨床試験では、かかる有害事象の可能性が示されている。V.I.Technologies,Inc.の2003年11月17日付けのプレスリリースでは、赤血球用のINACTINE(登録商標)Pathogen Reduction SystemのそのフェーズIII長期試験を、INACTINE(登録商標)処理赤血球に対する抗体応答の懸念のため、中止することが推奨された。Cerus Corporationの2003年9月4日付けのプレスリリースでは、2段階の試験後、患者が、赤血球の病原体の不活化系に用いた化合物S−303で処理した赤血球に対する抗体を発現し、その病原体不活化赤血球プログラムのフェーズIII臨床試験を自主的に中止することが示された。かかる抗体は、典型的には、実際の抗体の性状または均質性の詳細な知識なしで行なわれ得る間接抗グロブリン試験の使用により検出される。かかるアッセイは当業者によく知られており、非常に感度がよく、RBCあたり500もの少ない分子の検出を可能にする。このような抗体の最も一般的な検出方法は、患者の血清を輸液の候補であるRBC調製物と混合し、凝集反応が起こるか否かを検出することによるものである。これは、患者の血清に対するRBC単位の交差適合と呼ばれる。よりよい感度は、該抗体との抗ヒト免疫グロブリン交差反応を含めることによって提供される。これにより、RBCの表面上でのIgGまたは他の抗体間の反応性が増強される。最後に、さらによい検出感度は、反応媒体に、抗体のオンレート(on−rate)を互いに増強する増強因子を含めることによって得られ得る(AABBマニュアル第13版)。かかるアッセイは、例えばフローサイトメトリーアッセイよりも感度がよく、他の方法ではいずれの潜在的抗体の非存在が示される場合であっても観察され得る。かかる現象は臨床試験において起こり、多くの場合で、このような抗体を発現するより高い傾向を有し得る特定の患者集団と関連している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,055,485号明細書
【特許文献2】米国特許第6,514,987号明細書
【特許文献3】米国特許第6,136,586号明細書
【特許文献4】米国特許第6,617,157号明細書
【特許文献5】米国特許第6,709,810号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】LoGrippoら,「Proceedings of the Sixth Congress of the International Society of Blood Transfusion」,Hollander編,Bibliotheca Haematologica,1958年,pp.225−230
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、求電子性基を介して病原体と反応するが、有害な病原体を不活化する病原体不活化化合物の能力は保持している病原体不活化化合物の望ましくない求電子性副作用をさらに低減させるための方法の必要性が存在する。具体的には、赤血球において病原体不活化化合物をクエンチングする改善された方法の必要性が存在する。かかる新規な方法は、病原体不活化化合物での処理により、赤血球に対する有害な免疫応答のリスクを有意に低減するために必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、赤血球組成物を病原体不活化化合物で、赤血球との病原体不活化化合物の望ましくない副作用をクエンチングするための改善された条件下で処理する種々の方法を提供する。一部の実施形態では、クエンチングは、クエンチャー(quencher)のpHおよび/または濃度の増大の調整によって改善される。
【0008】
一態様において、本発明は、a)i)反応性求電子性基を含む病原体不活化化合物、ii)チオール基を含むクエンチャー、およびiii)赤血球含有組成物であって、病原体で汚染されている可能性がある赤血球組成物を提供すること、およびb)病原体不活化化合物およびクエンチャーを赤血球含有組成物と混合することを含み、得られる混合物は、赤血球への病原体不活化化合物の結合の充分なクエンチングを提供するのに適したpH範囲である、赤血球組成物の処理方法を提供する。さらなる実施形態では、該方法は、c)赤血球含有組成物のpHを調整する工程を含む。一部の実施形態では、該処理により、少なくとも1log、同様に少なくとも2logまたは少なくとも3logの病原体汚染物質の不活化がもたらされる。一部の実施形態では、赤血球組成物は白血球を含有し、該処理により、少なくとも1log、同様に少なくとも2logまたは少なくとも3logの白血球の不活化がもたらされる。一部の実施形態では、クエンチャーを、赤血球含有組成物と、病原体不活化化合物を添加する前に混合する。一部の実施形態では、赤血球含有組成物のpHを、病原体不活化化合物とクエンチャーを混合する前に調整する。一部の実施形態では、赤血球含有組成物のpHを、病原体不活化化合物の添加後に調整する。一部の実施形態では、赤血球含有組成物のpHを、クエンチャーの添加によって調整する。一部の実施形態では、クエンチャー、病原体不活化化合物および赤血球含有組成物の混合物は、いったん3種類の成分すべてが混合されていると、室温で約6.8〜8.5、同様に約7.0〜8.5、同様に約7.2〜8.5または約7.2〜8.0の範囲のpHを有する。一部の実施形態では、クエンチャー、病原体不活化化合物および赤血球含有組成物の混合物を、適当な時間枠、例えば、約30分間〜48時間、同様に約2〜24時間、同様に約8〜24時間インキュベートする。さらなる実施形態では、インキュベーションは、約1℃〜30℃、同様に約18℃〜25℃の温度範囲、またはほぼ室温である。一部の実施形態では、クエンチャーの濃度は、いったん3種類の成分すべてが混合されていると、約2mM〜約40mM、同様に約4mM〜約40mM、同様に約4mM〜約30mM、同様に約5mM〜約30mM、同様に約10mM〜約30mM、同様に約20mMの範囲である。一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度は、約2mM、少なくとも約4mM、少なくとも約5mM、少なくとも約10mMまたは少なくとも約15mMよりも高い。一部の実施形態では、病原体の不活化化合物に対するクエンチャーのモル比は、いったん3種類の成分すべてが混合されていると、約10:1〜約400:1、同様に約10:1〜約200:1、同様に約20:1〜約200:1、同様に約50:1〜約200:1、同様に約100:1である。一部の実施形態では、クエンチャーがシステインまたはシステイン誘導体を含むものである。一部の実施形態では、クエンチャーが、少なくとも1個のシステインまたはシステイン誘導体を含むペプチドである。好ましい実施形態では、クエンチャーがグルタチオンである。一部の実施形態では、クエンチャーは中和されており、中和されたクエンチャーの添加によって、赤血球組成物のpHの調整が行なわれる。一部の実施形態では、中和されたクエンチャーがシステインまたはシステイン誘導体を含むものである。一部の実施形態では、中和されたクエンチャーが、システインまたはシステイン誘導体を含むペプチドである。一部の実施形態では、病原体不活化化合物が核酸結合基を含む。一部の実施形態では、核酸結合基が、アクリジン基などのインターカレーターである。一部の実施形態では、核酸結合基がポリアミンである。一部の実施形態では、病原体不活化化合物が、加水分解性結合を介して反応性求電子性基に連結された核酸結合基を含む。一部の実施形態では、核酸結合基がインターカレーターであり、反応性求電子性基が、マスタード、マスタード中間体およびマスタード同等物からなる群より選択される。好ましい実施形態では、クエンチャーが中和グルタチオンであり、この場合、プロトン化されたグルタチオンが約2当量の適当な塩基で中和され、病原体不活化化合物が、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである。
【0009】
さらなる態様では、本発明は、a)i)核酸結合基および反応性求電子性基を含む病原体不活化化合物、ii)システインまたは適当なシステイン誘導体を含むクエンチャー、およびiii)赤血球含有組成物であって、病原体で汚染されている可能性がある赤血球組成物を提供すること、b)クエンチャーを赤血球含有組成物と混合すること(ここで、クエンチャーの添加によって、混合物のpHが適当なpHに調整される)、およびc)病原体不活化化合物を赤血球含有組成物と混合することを含み、ここで、病原体は、赤血球含有組成物中に存在する場合には、少なくとも1log、同様に少なくとも2log、同様に少なくとも3log不活化される、赤血球組成物の処理方法を提供する。一部の実施形態では、赤血球組成物は白血球を含有し、該処理により、少なくとも1log、同様に少なくとも2logまたは少なくとも3logの白血球の不活化がもたらされる。一部の実施形態では、クエンチャーを赤血球含有組成物と、病原体不活化化合物と混合する前に混合する。一部の実施形態では、クエンチャーを赤血球含有組成物と、病原体不活化化合物との混合に続いて混合する。一部の実施形態では、クエンチャーおよび病原体不活化化合物を赤血球含有組成物と同時に、または本質的に同時に(例えば、互いに約1分間以内に)混合する。一部の実施形態では、クエンチャーと赤血球含有組成物の混合物を、病原体不活化化合物と混合する前に約1〜30分間インキュベートする。一部の実施形態では、このインキュベーションは、約1℃〜30℃、同様に約18℃〜25℃の範囲の温度、またはほぼ室温である。一部の実施形態では、クエンチャー、病原体不活化化合物および赤血球含有組成物の混合物を、適当な時間枠、例えば、約30分〜48時間、同様に約2〜24時間、同様に約8〜24時間インキュベートする。さらなる実施形態では、インキュベーションは、約1℃〜30℃、同様に約18℃〜25℃の温度範囲、またはほぼ室温である。一部の実施形態では、クエンチャーを赤血球含有組成物と混合する際の適当なpHは、室温で測定したとき、約6.8〜8.5、同様に約7.0〜8.5、同様に約7.2〜8.5または約7.2〜8.0の範囲である。一部の実施形態では、いったん3種類の成分すべてが混合されていると、混合物のpHは、室温で測定したとき、約6.8〜8.5、同様に約7.0〜8.5、同様に約7.2〜8.5または約7.2〜8.0の範囲である。一部の実施形態では、クエンチャーの濃度は、いったん3種類の成分すべてが混合されていると、約2mM〜約40mM、同様に約4mM〜約40mM、同様に約4mM〜約30mM、同様に約5mM〜約30mM、同様に約10mM〜約30mM、同様に約20mMの範囲である。一部の実施形態では、病原体の不活化化合物に対するクエンチャーのモル比は、いったん3種類の成分すべてが混合されていると、約10:1〜約400:1、同様に約10:1〜約200:1、同様に約20:1〜約200:1、同様に約50:1〜約200:1、同様に約100:1である。一部の実施形態では、クエンチャーが、少なくとも1個のシステインまたはシステイン誘導体を含むペプチドである。好ましい実施形態では、クエンチャーがグルタチオンである。一部の実施形態では、クエンチャーが中和されているか、または該組成物のpHにおいて所望の調整が行なわれる形態である。一部の実施形態では、クエンチャーは、クエンチャーへの1当量同様に約2当量の塩基の添加によって中和される。一部の実施形態では、クエンチャーは、適当な塩などの中和された形態である。一部の実施形態では、クエンチャーは中和されている。一部の実施形態では、中和されたクエンチャーは、システインまたはシステイン誘導体を含む中和されたペプチドである。好ましい実施形態では、中和されたペプチドは中和グルタチオンである。一部の実施形態では、病原体不活化化合物の核酸結合基は、アクリジン基などのインターカレーターである。一部の実施形態では、核酸結合基がポリアミンである。一部の実施形態では、核酸結合基が、加水分解性結合を介して反応性求電子性基に連結されている。一部の実施形態では、核酸結合基がインターカレーターであり、反応性求電子性基が、マスタード、マスタード中間体およびマスタード同等物からなる群より選択される。一部の実施形態では、核酸結合基がポリアミンであり、求電子性基がアジリジン基またはアジリジニウム基である。好ましい実施形態では、クエンチャーが中和グルタチオンであり、病原体不活化化合物が、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである。
【0010】
別の態様では、本発明は、以下の順に、a)i)β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル、ii)中和グルタチオン、およびiii)赤血球含有組成物であって、病原体で汚染されている可能性がある赤血球組成物を提供すること、b)中和グルタチオンを赤血球含有組成物と混合すること、c)該混合物を適切な時間インキュベートすること、およびd)β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルを、中和グルタチオンと赤血球含有組成物との混合物と混合することを含み、ここで、病原体は、赤血球含有組成物中に存在する場合には、少なくとも1log、同様に少なくとも2log、同様に少なくとも3log不活化される、赤血球組成物の処理方法を提供する。一部の実施形態では、赤血球組成物は白血球を含有し、該処理により、少なくとも1log、同様に少なくとも2logまたは少なくとも3logの白血球の不活化がもたらされる。一部の実施形態では、中和グルタチオンが適当な塩として提供される。一部の実施形態では、中和グルタチオンが、プロトン化されたグルタチオンを約1当量の塩基、同様に約2当量の塩基で中和することにより提供される。一部の実施形態では、中和グルタチオンが溶液状である。一部の実施形態では、中和グルタチオンが固形であり、例えば、凍結乾燥粉末が適当な塩である。一部の実施形態では、グルタチオンと混合された赤血球をインキュベートする時間枠は約1〜30分間、同様に約5〜20分間であり、この場合、インキュベーションは、約1℃〜30℃、同様に約18℃〜25℃の範囲の温度、またはほぼ室温である。一部の実施形態では、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルとの混合後、混合物を、適当な時間枠、例えば、約30分〜48時間、同様に約2〜24時間、同様に約8〜24時間インキュベートする。さらなる実施形態では、インキュベーションは、約1℃〜30℃、同様に約18℃〜25℃の温度範囲、またはほぼ室温である。一部の実施形態では、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルの混合時、混合物中のグルタチオンの濃度が約5mM〜約30mMの範囲であり、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルの濃度が約0.05mM〜約0.5mMの範囲である。一部の実施形態では、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルの混合時、混合物中のグルタチオンの濃度が約10mM〜約30mMの範囲であり、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルの濃度が約0.05mM〜約0.3mMの範囲である。一部の実施形態では、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルの混合時、混合物中のグルタチオンの濃度が約20mMであり、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルの濃度が約0.2mMである。
【0011】
別の態様では、本発明は、(a)i)反応性求電子性基であるか、または該基を構成する官能基を含む病原体不活化化合物、ii)病原体不活化化合物の反応性求電子性基と反応することができるチオール基を含むクエンチャー、およびiii)赤血球含有組成物であって、病原体で汚染されている可能性がある赤血球組成物提供すること;および(b)病原体不活化化合物およびクエンチャーを赤血球含有組成物と混合すること(ここで、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が2mMより大きく、得られる混合物の室温でのpHが約6.7以上の範囲である)を含む、赤血球組成物の処理方法を提供する。一部の実施形態では、得られる混合物の室温でのpHが約7.0〜8.5の範囲である。
【0012】
別の態様では、本発明は、赤血球組成物と以下のもの:(a)核酸結合リガンドと、核酸と反応することができる求電子性基であるか、または該基を構成する官能基とを含む病原体不活化化合物;(b)該求電子性基と反応することができるチオールを含むクエンチャー;および(c)適当な塩基であって、赤血球組成物、病原体不活化化合物、クエンチャーおよび該塩基を含む混合物において、該塩基を有しない混合物と比べて、病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応のレベルを低下させるのに充分な量の適当な塩基を混合することを含む、赤血球組成物の処理方法を提供する。一部の実施形態では、病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応が、病原体不活化化合物による赤血球の表面の改変である。
【0013】
さらに別の実施形態では、本発明は、赤血球組成物と以下のもの:(a)核酸結合リガンドと、核酸と反応することができる求電子性基であるか、または該基を構成する官能基とを含む病原体不活化化合物;(b)該求電子性基と反応することができるチオールを含むクエンチャー;および(c)適当な塩基であって、赤血球組成物、病原体不活化化合物、クエンチャーおよび該塩基を含む混合物のpHを、該塩基を有しない混合物と比べて増大させるのに充分な量の適当な塩基を混合することを含む、赤血球組成物の処理方法を提供する。一部の実施形態では(例えば、クエンチャーが酸性化合物である一部の実施形態では)、充分な量の適当な塩基を添加して、混合物のpHを、少なくとも塩基またはクエンチャーのいずれかを有しない混合物のpHあたりまで増大させる。
【0014】
さらなる態様では、本発明は、クエンチャーの存在下で病原体不活化化合物による赤血球含有組成物の処理中における、病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない副作用のクエンチングを改善する方法であって、クエンチャーがチオールを含み、病原体不活化化合物が、クエンチャーのチオールと反応性である求電子体であるか、または該求電子体を構成する官能基を含む方法を提供し、該方法は、赤血球組成物、病原体不活化化合物およびクエンチャーを含む反応混合物のpHを増大させることを含む。一部の実施形態では、該方法は、反応混合物中のクエンチャーの濃度を増大させる工程をさらに含む。一部の実施形態では、病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応が、病原体不活化化合物による赤血球の表面の改変である。
【0015】
前記の方法ならびに本明細書に記載の他の方法の各々の一部の実施形態において、該方法は、混合物中の病原体不活化化合物の濃度を低下させる工程をさらに含む。
【0016】
前記の方法ならびに本明細書に記載の他の方法の各々の一部の実施形態において、赤血球組成物は、エキソビボで処理される。前記の方法ならびに本明細書に記載の他の方法の各々の一部の他の実施形態において、赤血球組成物はインビトロで処理される。
【0017】
前記の方法ならびに本明細書に記載の他の方法の各々によって作製される赤血球組成物もまた提供される。
【0018】
さらなる態様では、本発明は、キット、例えば、赤血球組成物の加工処理における使用のための使い捨てキットを提供する。このようなキットは、手作業の加工処理、自動化された加工処理または手作業と自動化の両方の加工処理のいずれかに使用され得る。一部の実施形態では、キットは、反応性求電子性基を含む病原体不活化化合物(任意のその塩を含む)、チオール基を含むクエンチャー(任意のその塩を含む)、および1または2当量の適当な塩基を含み、ここで、当量は、キット内のクエンチャーのモル量に相当するモル量を意味する。好ましい実施形態では、キットは、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル(任意のその塩を含む)、グルタチオン(任意のその塩を含む)、および1または2当量の適当な塩基を含み、ここで、当量は、キット内のグルタチオンのモル量に相当するモル量を意味する。一部の実施形態では、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルまたは任意のその塩が固体形態である。一部の実施形態では、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルまたは任意のその塩が溶液状である。一部の実施形態では、グルタチオンまたは任意のその塩が固体形態である。一部の実施形態では、グルタチオンまたは任意のその塩が溶液状である。一部の実施形態では、1または2当量の塩基が固体形態である。一部の実施形態では、1または2当量の塩基が溶液状である。一部の実施形態では、グルタチオンまたは任意のその塩および1または2当量の塩基が混合物として存在する。一部の実施形態では、グルタチオンまたは任意のその塩と1または2当量の塩基の混合物が均質な混合物である。一部の実施形態では、この均質な混合物が固体形態である。一部の実施形態では、この均質な混合物が溶液状である。一部の実施形態では、キットは、固体形態であるβ−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルまたは任意のその塩を溶解するための溶液を含む。一部の実施形態では、キットは、固体形態であるグルタチオンまたは任意のその塩を溶解するための溶液を含む。一部の実施形態では、キットは、固体形態である1または2当量の塩基を溶解するための溶液を含む。一部の実施形態では、キットは、固体形態であるクエンチャーまたは任意のその塩および1または2当量の塩基の両方を溶解するための溶液を含む。一部の実施形態では、キットは、クエンチャーと1または2当量の塩基の混合物を溶解するための溶液を含む。一部の実施形態では、キットの固体成分または溶液は、許容され得る賦形剤、アジュバント、希釈剤または安定化剤をさらに含む。
【0019】
一態様において、本発明は、例えば、病原体を不活化するために赤血球組成物を処理するのに有用なキットであって、核酸結合リガンドおよび求電子性基であるか、または該基を構成する官能基を含む病原体不活化化合物(任意のその塩を含む)、チオール基を含むクエンチャー(任意のその塩を含む)、および少なくとも約1当量(ここで、当量は、キット内のクエンチャーのモル量に相当するモル量を意味する)の塩基を含むキットを提供する。一部の実施形態では、キットは、約1または約2当量の適当な塩基を含む。
【0020】
一態様において、本発明は、核酸結合リガンド、および求電子性基であるか、または該基を構成する官能基(例えば、PIC−1)(任意のその塩を含む)、ならびに中和されたチオール基を含むクエンチャー(例えば、中和グルタチオン)(任意のその塩を含む)を含む、病原体を不活化するための赤血球組成物を処理するためのキットを提供する。
【0021】
またさらなる態様では、本発明は、赤血球含有組成物、反応性求電子性基を含む病原体不活化化合物、および該求電子性基と反応することができる求核性基を含むクエンチャーを含み、ここで、クエンチャーは、約2mM〜40mM、同様に約4mM〜40mM、同様に約5mM〜30mM、または約10mM〜30mMの範囲の濃度であり、該組成物のpHは、約6.8〜8.5、同様に約7.0〜8.5、同様に約7.2〜8.5または約7.2〜8.0の範囲である。一部の実施形態では、病原体不活化化合物が核酸結合リガンドを含み、クエンチャーがチオール基を含むものである。好ましい実施形態は、赤血球含有組成物、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル、および約2mM〜40mMの範囲の濃度のグルタチオンを含むものであり、ここで、該組成物のpHは、約6.8〜8.5、同様に約7.0〜8.5、同様に約7.2〜8.5または約7.2〜8.0の範囲である。一部の実施形態では、該組成物は、赤血球ヘマトクリットが約1〜100%、同様に約10〜90%、同様に約35〜80%、または約40〜70%の範囲である。一部の実施形態では、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルの濃度が、約0.05mM〜4mM、同様に約0.05mM〜2mM、同様に約0.05mM〜0.5mM、または約0.1mM〜0.3mMの範囲であり、グルタチオンが、約5mM〜40mM、同様に約5mM〜30mM、または約10mM〜30mMの範囲である。
【0022】
さらなる態様では、本発明は、赤血球含有組成物、核酸結合リガンドと反応性求電子性基とを含む病原体不活化化合物、および該求電子性基と反応することができるチオール基を含むクエンチャーを提供し、クエンチャーが2mMより高い濃度であり、該組成物のpHが約6.7以上である。一部の実施形態では、該組成物が、約6.8〜8.5、約7.0〜8.5、約7.2〜8.5および約7.2〜8.0の範囲のpHを有する。例えば、一部の実施形態では、該組成物のpHが約7.0〜8.5の範囲である。一部の実施形態では、該組成物が、少なくとも約4mMのクエンチャーまたは少なくとも約10mMのクエンチャーを含むものである。一部の実施形態では、クエンチャーは、約4〜40mMまたは約10〜30mMの範囲の濃度である。例えば、一部の実施形態では、クエンチャーが約4mM〜40mMの範囲の濃度であり、該組成物のpHが約6.8〜8.5の範囲である。一部の実施形態では、クエンチャーが少なくとも約4mMの濃度であり、該組成物のpHが約6.8〜8.5の範囲である。
さらなる態様もまた、本発明によって提供される。
本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
赤血球組成物と以下のもの:
(a)核酸結合リガンドと、核酸と反応することができる求電子性基であるか、または該基を構成する官能基とを含む病原体不活化化合物;
(b)該求電子性基と反応することができるチオールを含むクエンチャー;および
(c)適当な塩基であって、該赤血球組成物、該病原体不活化化合物、該クエンチャーおよび該塩基を含む混合物において、該塩基を有しない混合物と比べて、該病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応のレベルを低下させるのに充分な量の適当な塩基
を混合することを含む、赤血球組成物の処理方法。
(項目2)
前記病原体不活化化合物と赤血球との前記望ましくない反応が、該病原体不活化化合物による該赤血球の表面の改変である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記塩基および前記クエンチャーの両方が前記赤血球組成物と、前記病原体不活化化合物と該赤血球組成物との混合前、該混合と同時、または該混合後約30分以内に混合される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記塩基および前記クエンチャーを、該塩基または該クエンチャーのいずれかと前記赤血球組成物と混合する前に互いに混合する、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記クエンチャーおよび前記塩基がともに、該クエンチャーを構成する塩基性の塩によって提供される、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記塩基がNaOHである、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記塩基が塩基性バッファーである、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記塩基が少なくとも約1当量の塩基を含み、ここで、当量は、前記混合物中のクエンチャーのモル量に相当するモル量を意味する、項目1に記載の方法。
(項目9)
得られる混合物中の前記クエンチャーの濃度が2mMより高い、項目1に記載の方法。
(項目10)
得られる混合物中の前記クエンチャーの濃度が約10mM〜30mMの範囲内にある、項目9に記載の方法。
(項目11)
得られる混合物が室温で約7.0〜8.5のpHを有する、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記クエンチャーがシステインまたはシステイン誘導体を含む、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記クエンチャーがグルタチオンである、項目12に記載の方法。
(項目14)
前記官能基が、マスタード、マスタード中間体およびマスタード同等物からなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記病原体不活化化合物が、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記処理が、前記赤血球組成物中の病原体汚染物質の少なくとも1logの不活化をもたらす、項目1に記載の方法。
(項目17)
前記混合物中の前記病原体不活化化合物の濃度を低下させる最終工程をさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目18)
項目17に記載の方法によって作製される赤血球含有組成物。
(項目19)
赤血球組成物と以下のもの:
(a)核酸結合リガンドと、核酸と反応することができる求電子性基であるか、または該基を構成する官能基とを含む病原体不活化化合物;
(b)該求電子性基と反応することができるチオールを含むクエンチャー;および
(c)適当な塩基であって、該赤血球組成物、該病原体不活化化合物、該クエンチャーおよび該塩基を含む混合物のpHを、該塩基を有しない混合物と比べて増大させるのに充分な量の適当な塩基、
を混合することを含む、赤血球組成物の処理方法。
(項目20)
前記塩基および前記クエンチャーの両方が、前記赤血球組成物と、前記病原体不活化化合物と該赤血球組成物との混合前、該混合と同時、または該混合後約30分以内に混合される、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記塩基および前記クエンチャーを、該塩基または該クエンチャーのいずれかと前記赤血球組成物とを混合する前に互いに混合する、項目19に記載の方法。
(項目22)
前記クエンチャーおよび前記塩基がともに、該クエンチャーを構成する塩基性の塩によって提供される、項目19に記載の方法。
(項目23)
前記塩基がNaOHである、項目19に記載の方法。
(項目24)
前記塩基が塩基性バッファーである、項目19に記載の方法。
(項目25)
前記塩基が少なくとも約1当量の塩基を含み、ここで、当量は、前記混合物中のクエンチャーのモル量に相当するモル量を意味する、項目19に記載の方法。
(項目26)
得られる混合物中の前記クエンチャーの濃度が2mMより高い、項目19に記載の方法。
(項目27)
得られる混合物中の前記クエンチャーの濃度が約10mM〜30mMの範囲内にある、項目26に記載の方法。
(項目28)
得られる混合物が室温で約7.0〜8.5のpHを有する、項目19に記載の方法。
(項目29)
前記クエンチャーがシステインまたはシステイン誘導体を含む、項目19に記載の方法。
(項目30)
前記クエンチャーがグルタチオンである、項目29に記載の方法。
(項目31)
前記官能基が、マスタード、マスタード中間体およびマスタード同等物からなる群より選択される、項目19に記載の方法。
(項目32)
前記病原体不活化化合物が、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記処理が、前記赤血球組成物中の病原体汚染物質の少なくとも1logの不活化をもたらす、項目19に記載の方法。
(項目34)
前記混合物中の前記病原体不活化化合物の濃度を低下させる最終工程をさらに含む、項目19に記載の方法。
(項目35)
項目34に記載の方法によって作製される赤血球含有組成物。
(項目36)
(a)i)反応性求電子性基であるか、または該基を構成する官能基を含む病原体不活化化合物、ii)該病原体不活化化合物の該反応性求電子性基と反応することができるチオール基を含むクエンチャー、およびiii)赤血球含有組成物であって、病原体で汚染されている可能性がある赤血球組成物を提供すること;および
(b)該病原体不活化化合物および該クエンチャーを赤血球含有組成物と混合することであって、ここで、得られる混合物中の該クエンチャーの濃度が2mMより高いこと、
を含み、
得られる混合物の室温でのpHが約7.0〜8.5の範囲内にある、
赤血球組成物の処理方法。
(項目37)
(c)赤血球含有組成物のpHを、得られる混合物の室温でのpHが約7.0〜8.5の範囲内となるように調整する工程をさらに含む、項目36に記載の方法。
(項目38)
前記赤血球含有組成物のpHが、該赤血球組成物への少なくとも約1当量の塩基の添加によって調整され、ここで、当量は、混合物中のクエンチャーのモル量に相当するモル量を意味する、項目36に記載の方法。
(項目39)
前記クエンチャーが、前記赤血球組成物への該クエンチャーの添加前に少なくとも約1当量の適当な塩基で中和され、該赤血球含有組成物のpHが、該中和されたクエンチャーの添加によって調整される、項目36に記載の方法。
(項目40)
得られる混合物が室温で約7.2〜8.5の範囲内のpHを有する、項目36に記載の方法。
(項目41)
得られる混合物中のクエンチャーの濃度が約10mM〜約30mMの範囲内にある、項目36に記載の方法。
(項目42)
前記クエンチャーがシステインまたは適当なシステイン誘導体を含む、項目36に記載の方法。
(項目43)
前記クエンチャーがグルタチオンである、項目42に記載の方法。
(項目44)
前記反応性求電子性基が、マスタード、マスタード中間体およびマスタード同等物からなる群より選択される、項目36に記載の方法。
(項目45)
前記病原体不活化化合物が、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである、項目44に記載の方法。
(項目46)
前記処理が、前記赤血球組成物中の病原体汚染物質の少なくとも1logの不活化をもたらす、項目36に記載の方法。
(項目47)
前記混合物中の前記病原体不活化化合物の濃度を低下させる最終工程をさらに含む、項目36に記載の方法。
(項目48)
項目47に記載の方法によって作製される赤血球組成物。
(項目49)
以下の順に、
(a)i)β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル、ii)中和グルタチオン、およびiii)赤血球含有組成物であって、病原体で汚染されている可能性がある赤血球組成物を提供すること;
(b)該中和グルタチオンを該赤血球含有組成物と混合すること;
(c)該混合物を適切な時間枠インキュベートすること;および
(d)該β−アラニン、該N−(アクリジン−9−イル)、該2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルを、中和グルタチオンと赤血球含有組成物との混合物と混合すること
を含み、ここで、病原体は、該赤血球含有組成物中に存在する場合には、少なくとも1log不活化される、
赤血球組成物の処理方法。
(項目50)
クエンチャーの存在下での病原体不活化化合物による赤血球含有組成物の処理中において、該病原体不活化化合物と該赤血球との望ましくない副作用のクエンチングを改善する方法であって、ここで、該クエンチャーがチオールを含み、そしてここで、該病原体不活化化合物が、該クエンチャーの該チオールと反応性である求電子体であるか、または該求電子体を構成する官能基を含む方法であって、該方法は、該赤血球組成物、該病原体不活化化合物および該クエンチャーを含む反応混合物のpHを増大させることを含む、方法。
(項目51)
前記反応混合物中の前記クエンチャーの濃度を増大させる工程をさらに含む、項目50に記載の方法。
(項目52)
前記病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない前記反応が、該病原体不活化化合物による該赤血球の表面の改変である、項目50に記載の方法。
(項目53)
(a)赤血球;
(b)核酸結合リガンドと反応性求電子性基とを含む病原体不活化化合物;および
(c)該求電子性基と反応することができるチオール基を含むクエンチャー
を含む組成物であって、
該クエンチャーが2mMより高い濃度であり、該組成物のpHが約7.0〜8.5の範囲内にある、
組成物。
(項目54)
核酸結合リガンドと、求電子性基であるか、または該基を構成する官能基とを含む病原体不活化化合物、チオール基を含むクエンチャー、および少なくとも約1当量の塩基を含むキットであって、当量は、該キット内のクエンチャーのモル量に相当するモル量を意味する、キット。
(項目55)
項目1に記載の方法によって作製される赤血球組成物。
(項目56)
項目19に記載の方法によって作製される赤血球組成物。
(項目57)
項目36に記載の方法によって作製される赤血球組成物。
(項目58)
項目49に記載の方法によって作製される赤血球組成物。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例12の第1段階での反復輸血中における血清抗体力価を示す。明確にするために、エラーバーは、KLH−アクリジン免疫処置についてのみ示す。RBC輸液群でのエラーバーはおよそ±1であった。
【図2】図2は、実施例12の第2段階での第4A、4Bおよび6群におけるオリジナル(Original)S−220 RBCの寿命を示す。寿命は、初期の時点を第0日の100%に外挿することにより測定した。第1群の動物にはビオチン化対照RBCを与えた。明確にするために、エラーバーは、第4A、4Bおよび6群についてのみ示す。
【図3】図3は、実施例12の第2段階での第2A、2Bおよび5群におけるオリジナルS−303(PIC−1)RBCの寿命を示す。寿命は、初期の時点を第0日の100%に外挿することにより測定した。第1群の動物にはビオチン化対照RBCを与えた。明確にするために、エラーバーは、第2Bおよび5群についてのみ示す。
【図4】図4は、実施例12の第2段階での第4A、4Bおよび6群における改変S−220 RBCの寿命を示す。寿命は、初期の時点を第0日の100%に外挿することにより測定した。第1群の動物にはビオチン化対照RBCを与えた。明確にするために、エラーバーは、第1、4Bおよび6群についてのみ示す。
【図5】図5は、実施例12の第2段階での第2A、2Bおよび5群における改変S−303 RBCの寿命を示す。寿命は、初期の時点を第0日の100%に外挿することにより測定した。第1群の動物にはビオチン化対照RBCを与えた。明確にするために、エラーバーは、第2Bおよび5群についてのみ示す。
【図6】図6は、S−303処理RBCのFACScan解析の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(発明の詳細な説明)
赤血球組成物中の反応性求電子性種のクエンチングのための既存の方法は、例えば、米国特許第6,709,810号に示されている。このような方法の非限定的な例として、グルタチオンが、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル(本明細書において以下、択一的に、「病原体不活化化合物I」、「PIC−1」または「S−303」という)と組み合わせて使用される。グルタチオンは、典型的には、酸性形態で単離され(すなわち、プロトン化されている)、これは、これらの公知の方法において使用されている形態である。したがって、公知のクエンチング方法に言及する場合、グルタチオンは、酸性またはプロトン化されたグルタチオンをいう。本明細書で用いる場合、赤血球(組成物)中の病原体の不活化のための標準的な条件は、赤血球組成物を、2mMのプロトン化されたグルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理することを伴う。プロトン化されたグルタチオン濃度は、望ましくない副作用のより良好なクエンチングを提供する試みにおいて、増大することがあり得、病原体不活化化合物に対するクエンチャーの比率が高くなる。しかしながら、プロトン化されたグルタチオン濃度が増大すると、赤血球組成物全体としてのpHは、グルタチオンの酸性度のため減少する。このpHの低下により、病原体不活化化合物と赤血球(特に赤血球の表面)との反応のクエンチングが不充分になることが測定されている。また、この標準的な条件では、赤血球表面の改変の充分なクエンチングがもたらされないことが測定された。したがって、本発明は、病原体不活化化合物およびクエンチャーを含む赤血球組成物のpHを、改善されたクエンチングがもたらされる適当な範囲に調整し、使用するクエンチャーの濃度が2mMより高い(例えば、約5〜40mM、同様に約10〜30mM、または約20mM)、改善されたクエンチング方法を提供する。例えば、赤血球含有組成物を病原体不活化化合物およびクエンチャーと混合すると、pHが適当な範囲内(例えば、約6.8〜8.5、同様に約7.0〜8.5、同様に約7.2〜8.5、または約7.2〜8.0のpH)であり、クエンチャー濃度が約5〜40mMの範囲であるような方法が提供される。
【0025】
本明細書に記載の方法の各々の一部の実施形態では、病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない(また、本明細書では、「不必要な」ともいう)副作用が低減される。一部の実施形態では、低減される望ましくない副作用は、病原体不活化化合物による赤血球表面の改変である。一部の実施形態では、副作用のレベルは、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも約90%低減される。副作用の低減(第2の方法と比べて)は、例えば、病原体不活化化合物に特異的な抗体の処理済み赤血球への結合の量を測定および/またはインビボでの該処理済み赤血球の寿命を測定し、これらの測定値を第2の異なる方法で処理した赤血球と比較することにより実証され得る。例えば、該改善された方法の一部の実施形態では、処理された血球に対する抗病原体不活化化合物への抗体結合のレベルは、改善なしの方法と比べて少なくとも約10%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、または少なくとも約90%減少する。
【0026】
本明細書に記載の本発明の態様の各々の一部の実施形態では、赤血球への病原体不活化化合物の結合の充分なクエンチングを提供するのに適当なpH範囲は、2mMのプロトン化されたグルタチオンおよび0.2mMのPIC−1による赤血球組成物の標準的な処理と比べて改善された赤血球への病原体不活化化合物の結合のクエンチングを提供するpH範囲である。一部の実施形態では、クエンチングにおける改善は、標準的な方法で処理したものと比べたときの該処理済み赤血球の免疫原性の減少によって実証される。一部の実施形態では、標準的な方法と比べたときの所与の方法によってもたらされるクエンチングにおける改善は、インビトロでの該処理済み赤血球への病原体不活化化合物に特異的な抗体の結合の量の減少によって、および/またはインビボでの該処理済み赤血球の寿命の増大によって実証される。
【0027】
一態様において、本発明は、a)i)反応性求電子性基を含む病原体不活化化合物、ii)チオール基を含むクエンチャー、およびiii)赤血球含有組成物であって、病原体で汚染されている可能性がある赤血球組成物を提供すること;およびb)病原体不活化化合物およびクエンチャーを赤血球含有組成物と混合すること(ここで、得られる混合物は、赤血球への病原体不活化化合物の結合の充分なクエンチングを提供するのに適当なpH範囲である)を含む、赤血球組成物の処理方法を提供する。一部の実施形態では、該方法は、赤血球含有組成物のpHを調整する工程をさらに含む。一部の実施形態では、赤血球含有組成物のpHを、病原体不活化化合物とクエンチャーを混合する前に調整する。一部の実施形態では、赤血球含有組成物のpHを、クエンチャーの添加によって調整する。一部の実施形態では、クエンチャーを、赤血球組成物へのクエンチャーの添加前に少なくとも約1当量の適当な塩基で中和する。一部の実施形態では、クエンチャーを赤血球含有組成物と、病原体不活化化合物を添加する前に混合する。該方法の一部の実施形態では、室温での適当なpH範囲は、約6.8〜8.5、約7.0〜8.5、約7.2〜8.5、または約7.2〜8.0である。一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が約2mM〜約40mMの範囲である。一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が約4mM〜約40mM、約10〜約30mMの範囲である。該方法の一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が少なくとも約4mMまたは少なくとも約10mMである。一部の実施形態では、該方法において使用されるクエンチャーがシステインまたはシステイン誘導体を含むものである。例えば、一部の実施形態では、クエンチャーがグルタチオンである。反応性求電子性基は、一部の実施形態では、マスタード、マスタード中間体およびマスタード同等物からなる群より選択される。一部の実施形態では、病原体不活化化合物が、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである。一部の実施形態では、該処理により、赤血球組成物において少なくとも1logの病原体汚染物質の不活化がもたらされる。
【0028】
別の態様では、本発明は、(a)i)反応性求電子性基であるか、または該基を構成する官能基を含む病原体不活化化合物、ii)病原体不活化化合物の反応性求電子性基と反応することができるチオール基を含むクエンチャー、およびiii)赤血球含有組成物であって、病原体で汚染されている可能性がある赤血球組成物提供すること;および(b)病原体不活化化合物およびクエンチャーを赤血球含有組成物と混合すること(ここで、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が2mMより大きく、得られる混合物の室温でのpHが約6.7以上の範囲である)を含む、赤血球組成物の処理方法を提供する。一部の実施形態では、得られる混合物が、室温で約7.0以上または約7.2以上のpHを有する。一部の実施形態では、得られる混合物のpHが、約6.8〜8.5、約7.0〜8.5、約7.2〜8.5、または約7.2〜8.0の範囲である。例えば、一部の実施形態では、得られる混合物の室温でのpHが約7.0〜8.5の範囲である。一部の実施形態では、該方法は、(c)赤血球含有組成物のpHを、得られる混合物のpHが室温で、表示した範囲(例えば、約7.0〜8.5の範囲)となるように調整する工程をさらに含む。一部の実施形態では、赤血球含有組成物のpHを、赤血球組成物への少なくとも約0.5当量、少なくとも約1当量、または少なくとも約2当量の塩基の添加によって調整し、ここで、当量は、混合物中のクエンチャーのモル量に相当するモル量を意味する。一部の実施形態では、クエンチャーが、赤血球組成物へのクエンチャーの添加前に少なくとも約1当量の適当な塩基で中和され、赤血球含有組成物のpHが、中和されたクエンチャーの添加によって調整される。一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が少なくとも約4mMまたは少なくとも約10mMである。一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が約4〜40mMまたは約10〜30mMである。例えば、一部の実施形態では、クエンチャーの濃度が少なくとも約4mMであり、ここで、混合物が室温で約6.8〜8.5の範囲のpHを有する。一部の実施形態では、クエンチャーの濃度が約4〜40mMであり、pHが室温で約7.2〜8.5の範囲である。一部の実施形態では、クエンチャーを、赤血球組成物へのクエンチャーの添加前に少なくとも約1当量の適当な塩基で中和する。一部の実施形態では、クエンチャーを赤血球含有組成物と、病原体不活化化合物の添加前に混合する。一部の実施形態では、クエンチャー化合物が酸性である。一部の実施形態では、クエンチャーがシステインまたはシステイン誘導体を含むものである。例えば、一部の実施形態では、クエンチャーがグルタチオンである。一部の実施形態では、該官能基が、マスタード、マスタード中間体およびマスタード同等物からなる群より選択される。一部の実施形態では、病原体不活化化合物が、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである。一部の実施形態では、該処理により、赤血球組成物において少なくとも1logの病原体汚染物質の不活化がもたらされる。一部の実施形態では、該処理により、赤血球組成物において少なくとも1log、少なくとも約(aobut)2log、または少なくとも約3logの病原体汚染物質の不活化がもたらされる。
【0029】
別の態様では、本発明は、赤血球組成物と以下のもの:(a)核酸結合リガンドと、核酸と反応することができる求電子性基であるか、または該基を構成する官能基とを含む病原体不活化化合物;(b)該求電子性基と反応することができるチオールを含むクエンチャー;および(c)適当な塩基であって、赤血球組成物、病原体不活化化合物、クエンチャーおよび該塩基を含む混合物において、該塩基を有しない混合物(すなわち、(c)の塩基が添加されていない以外は第1のものと同じ成分を含む第2の混合物)と比べて、該混合物において病原体不活化化合物と赤血球とのの望ましくない副作用のレベルを低下させるのに充分な量の適当な塩基を含む、赤血球組成物の処理方法を提供する。一部の実施形態では、病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応が、病原体不活化化合物による赤血球の表面の改変である。一部の実施形態では、該塩基およびクエンチャーを赤血球組成物と、病原体不活化化合物を赤血球組成物と合わせる前、合わせるのと同時、または合わせた後1時間、約30分、約20分、約10分、約5分、約2分、または約1分以内に合わせる。一部の実施形態では、該塩基およびクエンチャーを赤血球組成物と、病原体不活化化合物と赤血球組成物との混合前に混合する。一部の実施形態では、該塩基およびクエンチャーを、該塩基またはクエンチャーのいずれかと赤血球組成物と混合する前に互いに混合する。一部の実施形態では、該クエンチャーを構成する塩基性の塩は、クエンチャーおよび該塩基の両方を提供し、これらは、ともに、該クエンチャーを構成する塩基性の塩によって提供される。一部の実施形態では、該塩基がNaOHである。一部の実施形態では、該塩基が塩基性バッファーである。一部の実施形態では、少なくとも約0.5当量、少なくとも約1.0、または少なくとも約2当量の塩基が添加され、ここで、当量は、混合物中のクエンチャーのモル量に相当するモル量を意味する。一部の実施形態では、該塩基が少なくとも約1当量の塩基を構成する。該方法の一部の実施形態では、室温での適当なpH範囲は、約6.8〜8.5、約7.0〜8.5、約7.2〜8.5、または約7.2〜8.0である。一部の実施形態では、得られる混合物が室温で約7.0〜8.5のpHを有する。一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が2mMより大きく、約4mMより大きく、または約10mMより大きい。一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が約2mM〜約40mMの範囲である。一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が約4mM〜約40mM、約10〜約30mMの範囲である。例えば、一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が約10mM〜30mMの範囲である。一部の実施形態では、クエンチャーが酸性である。一部の実施形態では、クエンチャーが、システインまたはシステイン誘導体、例えばグルタチオンなどを含むものである。一部の実施形態では、該官能基が、マスタード、マスタード中間体およびマスタード同等物からなる群より選択される。例えば、一部の実施形態(請求項14に記載の方法)では、病原体不活化化合物が、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである。一部の実施形態では、該処理により、赤血球組成物において少なくとも1logの病原体汚染物質の不活化がもたらされる。
【0030】
さらに別の実施形態では、本発明は、赤血球組成物と以下のもの:(a)核酸結合リガンドと、核酸と反応することができる求電子性基であるか、または該基を構成する官能基とを含む病原体不活化化合物;(b)該求電子性基と反応することができるチオールを含むクエンチャー;および(c)適当な塩基であって、赤血球組成物、病原体不活化化合物、クエンチャーおよび該塩基を含む混合物のpHを、該塩基を有しない混合物(すなわち、該混合物に(c)の塩基が添加されていない以外は第1のものと同じ成分を含む第2の混合物)と比べて増大させるのに充分な量の適当な塩基を混合することを含む、赤血球組成物の処理方法を提供する。一部の実施形態では、(例えば、クエンチャーが酸性化合物である一部の実施形態では)、充分な量の適当な塩基を添加して、混合物のpHを、少なくとも塩基またはクエンチャーのいずれかを有しない混合物のpHあたりまで増大させる。一部の実施形態では、該塩基およびクエンチャーを赤血球組成物と、病原体不活化化合物を赤血球組成物と合わせる前、合わせるのと同時、または合わせた後1時間、約30分、約20分、約10分、約5分、約2分、または約1分以内に合わせる。一部の実施形態では、該塩基およびクエンチャーを赤血球組成物と、病原体不活化化合物と赤血球組成物との混合前に混合する。一部の実施形態では、該塩基およびクエンチャーを、該塩基またはクエンチャーのいずれかと赤血球組成物と混合する前に互いに混合する。一部の実施形態では、該クエンチャーを構成する塩基性の塩は、クエンチャーおよび該塩基の両方を提供し、これらは、ともに、該クエンチャーを構成する塩基性の塩によって提供される。一部の実施形態では、該塩基がNaOHである。一部の実施形態では、該塩基が塩基性バッファーである。一部の実施形態では、少なくとも約0.5当量、少なくとも約1.0、または少なくとも約2当量の塩基が添加され、ここで、当量は、混合物中のクエンチャーのモル量に相当するモル量を意味する。一部の実施形態では、該塩基が少なくとも約1当量の塩基を構成する。該方法の一部の実施形態では、室温での適当なpH範囲は、約6.8〜8.5、約7.0〜8.5、約7.2〜8.5、または約7.2〜8.0である。一部の実施形態では、得られる混合物が室温で約7.0〜8.5のpHを有する。一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が2mMより大きく、約4mMより大きく、または約10mMより大きい。一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が約2mM〜約40mMの範囲である。一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が約4mM〜約40mM、約10〜約30mMの範囲である。例えば、一部の実施形態では、得られる混合物中のクエンチャーの濃度が約10mM〜30mMの範囲である。一部の実施形態では、クエンチャーが酸性である。一部の実施形態では、クエンチャーが、システインまたはシステイン誘導体、例えばグルタチオンなどを含むものである。一部の実施形態では、該官能基が、マスタード、マスタード中間体およびマスタード同等物からなる群より選択される。例えば、一部の実施形態(請求項14に記載の方法)では、病原体不活化化合物が、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである。一部の実施形態では、該処理により、赤血球組成物において少なくとも1logの病原体汚染物質の不活化がもたらされる。
【0031】
さらなる態様では、本発明は、クエンチャーの存在下で病原体不活化化合物による赤血球含有組成物の処理中において、病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない副作用のクエンチングを改善する方法であって、クエンチャーがチオールを含み、病原体不活化化合物が、クエンチャーのチオールと反応性である求電子体であるか、または該求電子体を構成する官能基を含む方法を提供し、該方法は、赤血球組成物、病原体不活化化合物およびクエンチャーを含む反応混合物のpHを増大させることを含む。一部の実施形態では、該方法は、反応混合物中のクエンチャーの濃度を増大させる工程をさらに含む。一部の実施形態では、クエンチャーが酸性である。一部の実施形態では、病原体不活化化合物と赤血球との望ましくない反応が、病原体不活化化合物による赤血球の表面の改変である。
【0032】
さらなる態様では、本発明は、以下の順に、a)i)β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル、ii)中和グルタチオン、およびiii)赤血球含有組成物であって、病原体で汚染されている可能性がある赤血球組成物を提供すること;b)中和グルタチオンを赤血球含有組成物と混合すること;c)該混合物を適切な時間インキュベートすること;およびd)β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルを、中和グルタチオンと赤血球含有組成物との混合物と混合すること(ここで、病原体は、赤血球含有組成物中に存在する場合には、少なくとも1log不活化される)を含む、赤血球組成物の処理方法を提供する。一部の実施形態では、中和グルタチオンは、少なくとも約1当量の塩基が添加されているグルタチオンを構成し、ここで、当量は、クエンチャーのモル量に相当するモル量を意味する。一部の実施形態では、中和グルタチオンは、約2当量の塩基が添加されているグルタチオン(例えば、グルタチオンの遊離酸)を構成する。
【0033】
本明細書に記載の方法の各々によって作製される赤血球組成物もまた提供される。一部の実施形態では、赤血球組成物は、病原体不活化化合物での処理を伴う他の方法によって作製される赤血球と比べたとき、病原体不活化化合物による赤血球の表面の改変のレベルが低減されている。一部の実施形態では、該処理方法によって作製される赤血球組成物は、病原体不活化化合物の分解生成物(例えば、クエンチャーと病原体不活化化合物との反応生成物)を含むものである。一部の実施形態では、本明細書に記載の処理方法によって作製される赤血球組成物は、処理の完了後、病原体不活化化合物での処理を伴う別の方法によって作製される赤血球組成物と比べたとき、反応性求電子性基を含む病原体不活化化合物の量が低減されている。一部の実施形態では、該組成物中の反応性求電子性基を含む病原体不活化化合物の量は、病原体不活化化合物を伴う別の方法(例えば、クエンチャーおよび/または塩基を反応混合物に添加していない方法、または低pHでの処理)で処理した組成物と比べたとき、約10%、約25%、約50%、約75%、約90%、約95%、または約99%低減されている。
【0034】
さらなる態様では、本発明は、赤血球含有組成物、核酸結合リガンドと反応性求電子性基とを含む病原体不活化化合物、および該求電子性基と反応することができるチオール基を含むクエンチャーを提供し、該クエンチャーは2mMより高い濃度であり、該組成物のpHは約6.7以上である。一部の実施形態では、該組成物が、約6.8〜8.5、約7.0〜8.5および約7.2〜8.0の範囲のpHを有する。一部の実施形態では、該組成物が、少なくとも約4mMのクエンチャーまたは少なくとも約10mMのクエンチャーを含むものである。一部の実施形態では、クエンチャーは、約4〜40mMまたは約10〜30mMの範囲の濃度である。例えば、一部の実施形態では、クエンチャーが約4mM〜40mMの範囲の濃度であり、該組成物のpHが約6.8〜8.5の範囲である。一部の実施形態では、クエンチャーが少なくとも約4mMの濃度であり、該組成物のpHが約6.8〜8.5の範囲である。
【0035】
アミノ酸置換基を含む本明細書における配列に関し、当業者には自明のように、各アミノ酸置換基は独立して選択され得る。本発明はまた、アミノ酸置換基の1個以上が除去されたアミノ酸置換基を含む配列を提供する。
【0036】
本発明の方法において不活化される病原体汚染物質としては、ヒト、他の哺乳動物または脊椎動物において疾患を引き起こし得る任意の核酸含有因子が挙げられる。病原性因子は、単細胞性または多細胞性であり得る。病原体の例は、ヒト、他の哺乳動物または脊椎動物において疾患を引き起こす細菌、ウイルス、原虫、真菌、酵母、かび、およびマイコプラズマである。病原体の一般的な物質は、DNAまたはRNAであり得、該一般的な物質は、単鎖または二本鎖核酸として存在し得る。表1に、ウイルスの例を挙げるが、本発明をなんら限定することを意図しない。
【0037】
(表1.ウイルスの非限定的な例)
【0038】
【表1】

存在し得る病原体汚染物質の不活化に加え、本発明の方法はまた、赤血球組成物中に存在し得る白血球を不活化する。白血球低減処理(leukoreduction)方法は、白血球がレシピエントにおいて望ましくない免疫応答をもたらし得るため、好ましくは、ほとんどの白血球を輸液が意図される赤血球組成物から除去するために使用され得る。しかしながら、すべての血液が白血球低減処理されるわけではないか、または白血球低減処理方法により、すべての白血球が除去されるのではない。したがって、本発明の方法による残留(あれば)白血球の不活化により、かかる免疫応答のリスクがさらに低減され得る。
【0039】
本発明の方法は、病原体不活化化合物およびクエンチャーのエキソビボ使用を含む。該エキソビボ使用は、該化合物を赤血球組成物の処理のために、ヒト、哺乳動物または脊椎動物の生体外で使用することを伴い、ここで、処理された生物学的材料は、ヒト、哺乳動物または脊椎動物の生体内での使用が意図される。例えば、ヒトからの血液の採取、および病原体を不活化するための血中への化合物の導入は、該血液が、該ヒトまたは別のヒト内への再導入が意図される場合、該化合物のエキソビボ使用と規定される。かかるヒト血液の該ヒトまたは別のヒト内への再導入は、該化合物のエキソビボ使用とは対照的に、かかる血液のインビボ使用であり得る。ヒトに再導入したとき、該化合物が該血液中になお存在する場合、該化合物はまた、そのエキソビボ使用に加えて、インビボで導入される。本発明の一部の実施形態は、クエンチャーのエキソビボ使用を伴い、ここで、赤血球組成物はインビボ使用が意図される。場合によっては、クエンチャーもまたインビボで導入されるように、ある程度のレベルのクエンチャーを赤血球組成物中に残留させる。材料または化合物のインビトロ使用は、該材料または化合物をヒト、哺乳動物または脊椎動物の生体外で使用することを伴い、ここで、該材料または化合物は、ヒト、哺乳動物または脊椎動物の生体への再導入が意図されない。インビトロ使用の一例は、赤血球試料の諸成分の診断用解析であり得る。本発明の方法は、赤血球または他の構成成分の改変により血液試料の成分のインビトロ解析がなされ得るため、赤血球組成物のインビトロ使用に適用され得る。したがって、本発明の方法は、クエンチングしなければ試料の診断用試験を妨げ得る試料の改変の充分なクエンチングを伴うかかるインビトロ試料の取り扱いにおける安全性を提供し得る。
【0040】
本発明の赤血球組成物としては、限定されないが、赤血球を含む任意の血液製剤であって、ヒト使用、例えば輸液に適した赤血球を提供するか、または該赤血球を提供するように加工処理された血液製剤が挙げられる。赤血球組成物としては、例えば、全血および赤血球濃縮物(例えば、パッケージングされた赤血球)が挙げられる。赤血球組成物は、該組成物中の赤血球濃度の測定値であるそのヘマトクリットによって表示され得る。赤血球組成物は、約1〜100%、さらに好適には約10〜90%、同様に約35〜80%、または約40〜70%の範囲のヘマトクリットを有するものであり得る。かかる赤血球組成物は、化学薬品、例えば、病原体不活化化合物およびクエンチャーなどを含み得る。これはまた、バッファーおよび他の溶液、例えば、赤血球添加剤溶液(塩または緩衝溶液が挙げられる)などを含み得る。ヒト、哺乳動物または脊椎動物の生体と接触するか、または該生体内に導入される任意の赤血球組成物(この場合、かかる接触は、混入病原体による疾患の感染のリスクを有する)が、本明細書に開示するようにして処理され得る。
【0041】
病原体の不活化は、病原体を、再生能をもたない物質にすることを伴う。不活化は、再生能を有する残留病原体の割合の負のlog値(negative logarithm)で示す。したがって、ある一定の濃度の化合物が、病原体の90%を、再生能をもたない物質にする場合、病原体の10%または10分の1(0.1)が依然として再生能を有する。0.1の負のlog値は1であり、この濃度の化合物を、存在する病原体を1log不活化したという。あるいはまた、該化合物は、1logの不活化または該濃度の低減を有するという。1%または0.1%以外すべての病原体の不活化は、それぞれ、該化合物のその濃度における2logまたは3logの病原体の低減に相当し得る。赤血球含有組成物などの材料中の特定の病原体のレベルの測定方法は、よく知られており、かかる方法の例を実施例に提供する。
【0042】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、赤血球組成物の処理は、赤血球組成物中の病原体汚染物質(もし存在する場合)の少なくとも約1log、少なくとも約2log、または少なくとも約3logの不活化をもたらす。一部の実施形態では、病原体が、Staphylococcus epidermidis、Serratia marcescensまたはYersinia enterocoliticaなどの細菌である。一部の他の実施形態では、病原体が、水疱性口内炎ウイルスなどのウイルスである。他の実施形態では、赤血球組成物の処理が、該組成物中の病原体汚染物質の少なくとも約1log、少なくとも約2log、または少なくとも約3logの不活化をもたらす。
【0043】
赤血球組成物中の病原体の不活化は、赤血球組成物中の病原体を病原体不活化化合物と接触させることにより行なわれる。本発明の方法によってクエンチングされ得る病原体不活化化合物としては、例えばインサイチュで、求電子性基などの反応性基であるか、または該反応性基を形成し得、該反応性基を形成している官能基を含む化合物が挙げられる。本発明の病原体不活化化合物は、反応性とするための光活性化を必要としない。例えば、該官能基は、マスタード基、マスタード基中間体、マスタード基同等物、エポキシド、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド合成物(synthon)であり得る。かかる官能基は、インサイチュで、反応性基、例えば、求電子性アジリジン、アジリジニウム、チイランまたはチイラニウム(thiiranium)イオンなどを形成することができるものである。マスタード基は、モノ−またはビス−(ハロエチル)アミン基またはモノ(ハロエチル)スルフィド基であり得る。マスタード同等物は、マスタードと同様の機構によって、例えば、アジリジニウムおよびアジリジン基またはチイランおよびチイラニウム基などの反応性中間体を形成することにより反応する基である。例としては、アジリジン誘導体、モノまたはビス(メシルエチル)アミン基、モノ−(メシルエチル)スルフィド基、モノまたはビス(トシルエチル)アミン基およびモノ−(トシルエチル)スルフィド基が挙げられる。ホルムアルデヒドシンソンは、ホルムアルデヒドに分解される任意の化合物であり、ヒドロキシメチルグリシンなどのヒドロキシルアミンが挙げられる。病原体不活化化合物の反応性基は、病原体の核酸と(例えば、核酸上の求核性基と)反応することができるものである。反応性基はまた、クエンチャーの求核性基と反応することができるものである。病原体不活化化合物はまた、該化合物を核酸に標的化する成分、例えばアンカー部分などを含み得る。アンカー部分は、核酸生体高分子(例えば、DNAまたはRNAなど)に非共有結合することができる部分を含み、また、核酸結合リガンド、核酸結合基、または核酸結合部分ともいう。かかる化合物の例は、米国特許第5,691,132号、同第6,410,219号、同第6,136,586号、同第6,617,157号、および同第6,709,810号(各々は、引用により本明細書に組み込まれる)に記載されている。本発明の方法によってクエンチングされ得る病原体不活化化合物の別の類型は、米国特許第6,514,987号(引用により本明細書に組み込まれる)に記載されているような、加水分解性リンカーによって核酸結合基に連結された上記の反応性基を含むものである。病原体不活化化合物のアンカー部分は、核酸に対する親和性を有する。この親和性は、核酸とのいくつかの非共有結合様式(限定されないが、インターカレーション、副溝結合、主溝結合、静電結合(すなわち、リン酸主鎖結合が挙げられる)、および配列特異的結合のいずれかによるものであり得る。かかる核酸結合部分の詳細な例は、上記の特許を見るとよい。
【0044】
本明細書に記載の方法、組成物およびキットの各々の一部の実施形態では、病原体不活化化合物は、求核試薬である選択したクエンチャーと反応性である反応性求電子性基であるか、または該基を構成する官能基を含む。一部の実施形態では、病原体不活化基は、核酸結合リガンドと、求電子性基であるか、または該基を構成する官能基とを含む。
【0045】
本発明における使用のための適当な病原体不活化化合物の特定の例は、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル(あるいはまた、本明細書において「PIC−1」または「S−303」ともいう)であり、その構造は以下の通りであり、その塩も含む。
【0046】
【化1】

一部の実施形態では、赤血球組成物およびクエンチャーを含む混合物中のPIC−1などの病原体不活化化合物の濃度は、約0.05mM〜4mM、約0.05mM〜2mM、約0.05mM〜0.5mM、または約0.1mM〜0.3mMの範囲である。一部の実施形態では、病原体の不活化化合物に対するクエンチャーのモル比は、いったん両成分が赤血球組成物と混合されていると、約10:1〜約400:1、同様に約10:1〜約200:1、同様に約20:1〜約200:1、同様に約50:1〜約200:1、同様に約100:1である。
【0047】
本発明の方法における使用のためのクエンチャーは、病原体を不活化するために用いる反応性求電子性種の望ましくない副作用を低減することが意図される。好適なクエンチャーは、病原体不活化化合物の該求電子性基と反応することができる求核性基を含むものであり、米国特許第6,709,810号(引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)に詳細に記載されている。クエンチャーは、赤血球組成物における望ましくない副作用を有意に低減させることができると同時に、病原体不活化化合物が、赤血球組成物を汚染状態であり得る病原体を充分に不活化するのを可能にする。改善された本発明の方法は、望ましくない副作用の最適な低減と充分な病原体の不活化を同時にもたらす条件下で、有効量の病原体不活化化合物との組み合わせでの有効量のクエンチャーを提供する。多種種々の望ましくない副作用(例えば、タンパク質および赤血球成分による反応)が低減され得る。一部の実施形態では、クエンチャーは、赤血球の改変、例えば、赤血球へのIgGの結合または赤血球への病原体不活化化合物の結合の最適な低減を提供する。本発明の方法は、エキソビボ赤血球の処理組成物を伴うが、一部のクエンチャーは、個体内への導入時に該組成物中に残留する。したがって、本発明のクエンチャーは、輸液に適したものである必要がある。好適なクエンチャーとしては、限定されないが、チオール基を含む化合物、例えば、アミノ酸であるシステインまたは適当なシステイン誘導体(例えば、N−アセチルシステインなど)を含むクエンチャーなどが挙げられる。かかるクエンチャーの例としては、システイン、および少なくとも1個のシステインを含むペプチド、例えばグルタチオンなどが挙げられる。一部の実施形態では、適当なクエンチャーは、さらなる化学薬品または添加酵素の使用を伴って、または該使用なしでインサイチュでチオール基を形成し得るシステイン誘導体、例えば、S−アセチルシステインまたは他の適当なシステインのチオール由来プロドラッグ、またはS−アセチルシステインもしくは他の適当なシステインのチオール由来プロドラッグを含むペプチドなどを含むものである。好適なシステイン誘導体は、病原体不活化化合物の該求電子性基と反応することができるシステイニルチオールを含むもの、または該システイニルチオールをインサイチュで形成することができるもののいずれかである。
【0048】
一般的に、核酸への病原体不活化化合物の標的化により、充分な量の病原体不活化化合物が、クエンチングされる前に、病原体内に浸透して病原体の核酸と反応することができる。しかしながら、細胞外環境内に残留する病原体不活化化合物は、充分にクエンチングされ、望ましくない副作用が低減される。したがって、有効量の病原体不活化化合物との組み合わせでの有効量のクエンチャーが、本発明の方法によって提供される。一部の実施形態では、クエンチャーは、赤血球組成物の細胞外環境において望ましくない副作用をクエンチングすることができるが、細胞(例えば赤血球、ウイルスおよび細菌)内に有意に侵入しない。したがって、有効量の病原体不活化化合物は、充分な病原体不活化化合物が、細胞外環境内でクエンチングされる前に病原体内に浸透するように提供され得る。一部の実施形態では、クエンチャーは、システインまたは適当なシステイン誘導体を含むものであり、病原体(例えば、ウイルスまたは細菌)内に有意に浸透しない。かかるクエンチャーとしては、そのアミノ酸の少なくとも1個が、システイン、N−アセチルシステイン、S−アセチルシステインまたは他の適当なシステイン誘導体であるペプチドが挙げられる。一部の実施形態では、クエンチャーは、システインを含むペプチド(例えば、2〜10個のアミノ酸)を含むものである。
【0049】
一部の実施形態では、クエンチャーは、2〜10個のアミノ酸のペプチドであり、該アミノ酸の少なくとも1個が、システイン、N−アセチルシステイン、S−アセチルシステインまたは他の適当なシステイン誘導体である。一部の実施形態では、クエンチャーは、少なくとも3個のアミノ酸、例えば約3〜10個のアミノ酸、同様に約3〜6個のアミノ酸のペプチドであり、該アミノ酸の少なくとも1個が、システイン、N−アセチルシステイン、S−アセチルシステインまたは他の適当なシステイン誘導体である。一部の実施形態では、クエンチャーは、少なくとも3個のアミノ酸、例えば約3〜10個のアミノ酸、同様に約3〜6個のアミノ酸のペプチドであり、該アミノ酸の少なくとも1個が、システイン、N−アセチルシステイン、S−アセチルシステインまたは他の適当なシステイン誘導体であり、同様に、該アミノ酸の少なくとも2個または少なくとも3個が、システイン、N−アセチルシステイン、S−アセチルシステインまたは他の適当なシステイン誘導体である。好ましいクエンチャーはグルタチオン(また、L−グルタチオンおよびγ−L−グルタミル−L−システイニル−グリシンとして知られる)である。
【0050】
一部の実施形態では、クエンチャーが、その還元された形態においてグルタチオンである。グルタチオンの酸化された形態であるグルタチオンジスルフィドもまた、グルタチオンジスルフィドが溶液中で、該溶液を赤血球組成物を含む混合物に添加する前に溶液中で充分還元されるか、または赤血球組成物を含む混合物に添加した後に充分に還元される限り使用され得る。
【0051】
一部の実施形態では、クエンチャーは、グルタチオンの誘導体、例えば、グルタチオンモノアルキルエステルまたはジアルキルエステルなどであり、このとき、該アルキル基は、1〜10個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖基である。該アルキル基の具体例としては、限定されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、2−メチルペンチル基、1−エチルブチル基、ペプチル基、オクチル基、ノニル基、およびデシル基が挙げられる。例えば、グルタチオン誘導体の非限定的な例としては、グルタチオンメチルエステル、グルタチオンモノエチルエステル、およびグルタチオンモノイソプロピルエステルが挙げられる。一部の実施形態では、グルタチオン酸化ジエチルエステル(GSSG−(グリシル)−ジエチルエステル)が使用される。一部の実施形態では、グルタチオンのチオエステルを、赤血球組成物への添加後に加水分解してチオールを形成する。
【0052】
一部の実施形態では、クエンチャーが遊離の酸または塩基の形態で提供されるのに対し、他の実施形態では、クエンチャーが塩の形態で提供されることを理解されたい。クエンチャーが塩の形態である場合、該塩は、好ましくは、薬学的に許容され得る塩である。化合物の薬学的に許容され得る塩(水溶性もしくは油溶性または分散性生成物の形態)としては、例えば、無機系または有機系の酸または塩基から形成される慣用的な非毒性の塩または第4級アンモニウム塩が挙げられる。かかる酸付加塩の例としては、酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、重硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、ショウノウ酸塩、カンフルスルホン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、フマル酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2−ヒドロキシエタンスルホン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、メタンスルホン酸塩、2−ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3−フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、トシル酸塩、およびウンデカン酸塩が挙げられる。塩基塩としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩(ナトリウム塩およびカリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩およびマグネシウム塩など)、有機塩基との塩(ジシクロヘキシルアミン塩、N−メチル−D−グルカミンなど)、ならびにアルギニン、リシンなどのアミノ酸との塩などが挙げられる。また、塩基性窒素含有基を、低級アルキルハロゲン化物、例えば、メチル、エチル、プロピル、およびブチルの塩化物、臭化物およびヨウ化物;ジアルキル硫酸塩(ジメチル、ジエチル、ジ(did)ブチルなど);ならびにジアミル硫酸塩、長鎖のハロゲン化物(例えば、デシル、ラウリル、ミリスチルおよびステアリルの塩化物、臭化物およびヨウ化物、アラルキルハロゲン化物(例えば、ベンジルおよびフェネチル臭化物)などの薬剤で第4級化してもよい。他の薬学的に許容され得る塩としては、硫酸塩エタノレート(ethanolate)および硫酸塩が挙げられる。
【0053】
例えば、一部の実施形態では、クエンチャーが、グルタチオンから形成された薬学的に許容され得る塩の形態である。一部の実施形態では、クエンチャーが、グルタチオンおよび1種類以上のカチオン(例えば、ナトリウム、アルミニウム、カルシウム、リチウム、マグネシウム、亜鉛、またはテトラメチルアンモニウムなど)から形成された薬学的に許容され得る塩の形態である。一部の実施形態では、クエンチャーが、グルタチオン(還元型)であり、グルタチオン一ナトリウム塩(例えば、Biomedica Foscama(イタリア)から入手可能である)の形態で提供される。一部の他の実施形態では、グルタチオン(還元型)が、グルタチオン塩酸塩の形態で提供される。一部の他の実施形態では、グルタチオンが、グルタチオン(還元型)二ナトリウム塩の形態で提供される。さらなる実施形態では、グルタチオンモノアルキルエステル硫酸塩が使用される。一部の実施形態では、グルタチオンが、グルタチオン酸化二ナトリウム塩の形態で提供される。
【0054】
一部の実施形態では、クエンチャーを、そのままの形態の赤血球組成物および/または病原体不活化化合物と混合する。一部の実施形態では、赤血球組成物および/または病原体不活化化合物と混合されたクエンチャーは、水溶液状である。一部の実施形態では、クエンチャーは、水溶液状の中和されたクエンチャーである。例えば、一部の実施形態では、クエンチャーは、少なくとも1当量(例えば、約1または2当量)の塩基が添加されている水溶液状の酸性化合物であり得る。
【0055】
本発明のクエンチング方法は、赤血球組成物と、病原体不活化化合物およびクエンチャーとを、該組成物を病原体不活化化合物およびクエンチャーと混合すると、得られる組成物のpHが、充分な病原体の不活化を提供するのに適当な範囲内であり、赤血球の改変などの望ましくない副作用の低減が改善される条件下で組み合わせることを伴う。該改善された方法は、該クエンチング方法に重要であり得る3つの特徴を含む。第1の特徴は、チオール基または他の適当な求核性基である。第2は、溶液のpHの調整である。単に溶液のpHを適当に調整することにより、ある程度のレベルのクエンチングを提供することが可能である。したがって、本発明のクエンチャーは、赤血球含有組成物にある程度の緩衝能を提供し、この場合、緩衝能それ自体が、改善されたクエンチングを提供する。例えば、メチオニンなどのシステイン類似体をクエンチャーとして用いることは、赤血球組成物において適当なpH変化がもたらされるように適切に改変した場合、赤血球への病原体不活化化合物の結合のある程度のレベルのクエンチングをもたらす。メチオニンのイオウ原子は求核性でないため、メチオニンは、必要な溶液のpHを提供する以外は、なんらクエンチングをもたらさない。したがって、pH調整とチオール基との組合せにより、本発明のクエンチング方法に対してさらなる改善が提供される。一部の実施形態における改善されたクエンチングを提供するのに重要であり得る第3の特徴は、ウイルスおよび細菌などの病原体内部に実質的に浸透しない好ましいクエンチャーである。かかるクエンチャーは、いったん病原体内部に浸透している病原体不活化化合物をさらにクエンチングすることなく、赤血球表面への結合などの有害な反応が起こる細胞外環境に充分なクエンチングを提供する。
【0056】
赤血球組成物のpHを調整する特徴に関して、既存のかかる病原体不活化化合物のクエンチング方法では、得られる混合物のpHの該重要性を実現することができない。公知の方法において、より多くの量のクエンチャーが、充分な病原体の不活化を提供することが示されているが、これらの方法では、プロトン化されたグルタチオンなどのクエンチャーをより多くの量で使用した場合での赤血球の改変に対する効果が充分に報告されていない。本明細書の実施例で示されるように、酸性グルタチオンなどのクエンチャーをより多くの量で使用することは、赤血球改変のレベルを充分に低下させない。グルタチオンは酸性であるため、レベルが高くなると、赤血球組成物のpHが許容され得ない低レベルに至り、この場合、病原体不活化化合物の望ましくない副作用のクエンチングが無効になる。したがって、本発明の一態様は、病原体不活化化合物およびクエンチャーの添加時、赤血球組成物のpHが適当なレベルに維持されるのを確保することを伴う。一部の実施形態では、病原体不活化化合物およびクエンチャーを赤血球組成物と混合したとき、混合物のpHは、約6.8〜8.5、同様に約7.0〜8.5、同様に約7.2〜8.5または約7.2〜8.0の範囲である。赤血球組成物のpHは経時的に変化し得るが、クエンチャーを赤血球組成物に添加したとき、病原体不活化化合物が既に含有されているか否かに関わらず、pHが所望の範囲内にあることが望ましい。本発明の方法は、病原体不活化化合物およびクエンチャーを赤血球組成物に添加することを伴う。該所望のpH範囲は、病原体不活化化合物およびクエンチャーの両方の添加時に、赤血球組成物への病原体不活化化合物および/または(an/or)クエンチャーの添加順とは無関係に必要である。換言すると、いったん3種類の成分すべてが混合されていると、pHは該所望の範囲内にある。一部の実施形態では、クエンチャーが病原体不活化化合物の前に添加される。一部の実施形態では、病原体不活化化合物がクエンチャーの前に添加される。一部の実施形態では、クエンチャーと病原体不活化化合物が、本質的に同時に添加される。したがって、病原体不活化化合物およびクエンチャーの添加時は、クエンチャーと病原体不活化化合物の両方が赤血球組成物と混合された時点を意味する。所望のpHは、いくつかの手段によって達成され得、赤血球組成物のpHが調整されているときに関して限定されず、または一部の実施形態では、血液製剤の通常のpHから有意に調整されない。例えば、赤血球組成物の所望のpHは、pHを調整することにより達成され得る。pH調整は、例えば、病原体不活化化合物およびクエンチャーを添加する前に、適当な添加剤溶液、例えば緩衝溶液を添加することによって行なわれ得る。一部の実施形態では、赤血球組成物を、1回以上、適当なバッファーで洗浄した後、同じまたは他の適当なバッファー中に懸濁してもよい。あるいはまた、赤血球組成物のpHは、病原体不活化化合物、クエンチャーのいずれか、または両方の添加と同時に調整され得る。一部の実施形態では、pHを、クエンチャーの添加と同時に調整する。好ましい実施形態では、クエンチャーを中和し、中和されたクエンチャーの添加によって赤血球組成物に所望のpH範囲がもたらされるようにする。一例として、必要なpH調整を行なうために、グルタチオンの中和が使用され得る。グルタチオンはグルタミン酸を含むため、プロトン化された形態のpHは酸性である。持論に拘束されないが、推定されるプロトン化されたグルタチオンの中和を以下のスキームに示す。
【0057】
【化2】

したがって、適切なレベルのグルタチオンの中和は、例えば、2当量の塩基の添加によって、赤血球組成物に添加すると必要な該組成物のpH調整をもたらすクエンチャーを提供するために使用され得る。適切な中和は、使用するクエンチャーに依存する。例えば、ペプチドが使用される場合、該ペプチドのアミノ酸成分に依存する。一部の実施形態では、赤血球組成物のpHに有意に影響を与えないクエンチャーが使用され得る。例えば、システインを含有し、自然状態で(naturally)単離されたペプチドの溶液に対してより中性のpHをもたらし得るアミノ酸をさらに1個以上含み得るペプチドの使用。一部の実施形態では、該ペプチドは、少なくとも1個の塩基性アミノ酸(例えば、アルギニンまたはリシンなど)をさらに含む。
【0058】
塩基を赤血球組成物と、病原体不活化化合物およびクエンチャーとともに混合して、混合物のpHを所望のレベルまで増大および/または望ましくない副作用のクエンチングを改善する本明細書に記載の方法の一部の実施形態では、塩基は塩基性の塩である。塩基性の塩は、赤血球組成物と混合する前に最初に水溶液中に溶解させてもよく、または固体形態の赤血球組成物に直接添加してもよい。一部の実施形態では、塩基性の塩がクエンチャーを含み、クエンチャーおよび該塩基の両方を混合物に提供する。一部の実施形態では、該方法において使用される塩基は、NaOHなどの強塩基である。典型的には、NaOHなどの強塩基は、赤血球組成物と混合する前に最初に水溶液中に溶解させる。一部の実施形態では、強塩基(溶液状または固体形態)を、クエンチャーを赤血球組成物と混合する前にクエンチャーと混合する。一部の実施形態では、塩基は塩基性バッファーである(充分な量で添加され、適切なpKaを有し、混合物が所望のpH範囲に至る)。塩基性バッファーが使用される場合、バッファーは、一部の実施形態では、薬学的に許容され得るバッファーである。一部の実施形態では、バッファーは、滴定可能なプロトンを有し、pKaが約7〜8の範囲である。塩基性バッファーとして使用され得るバッファーの例としては、限定されないが、N−(2−ヒドロキシエチル)−ピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、およびリン酸ナトリウムバッファーが挙げられる。他の適当な塩基性バッファーは、当業者によって容易に特定され得よう。
【0059】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、赤血球、クエンチャー、病原体不活化化合物および任意の添加塩基の混合物のpHは、約6.7より高いか、約7.0より高いか、または約7.2より高い。本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、赤血球、クエンチャー、病原体不活化化合物および塩基(もし、添加されていれば)の混合物のpHは、約6.8〜8.5、同様に約7.0〜8.5、同様に約7.2〜8.5または約7.2〜8.0の範囲である。一部の好ましい実施形態では、表示したpHは室温でのpHである。例えば、一部の実施形態では、赤血球を含む該組成物を病原体不活化化合物で、クエンチャーおよび任意の添加塩基の存在下で処理し、このとき、混合物のpHは、約7.2〜約8.0の範囲である。
【0060】
一部の実施形態では、赤血球、クエンチャーおよび塩基(該方法の一部として塩基が添加される場合)の混合物のpHが、病原体不活化化合物と赤血球組成物との混合前で、約6.8〜8.5、約7.0〜8.5、約7.2〜8.5、または約7.2〜8.0の範囲である。一部の他の実施形態では、該pHは、病原体不活化化合物と赤血球を含む該組成物との混合と同時、または約1時間以内、約30分以内、約20分以内、約10分以内、約5分以内、または約2分以内に達成される。pHを調整する方法の一部の実施形態では、pHを、病原体不活化化合物と赤血球を含む該組成物との混合の前、混合と同時、混合の約1時間以内、約30分以内、約20分以内、約10分以内、約5分以内、または約2分以内に、所望のpH範囲に調整する。クエンチャーがグルタチオンであり、病原体不活化化合物がPIC−1である実施形態では、赤血球組成物およびクエンチャーを含む混合物のpHは、好ましくは、PIC−1を赤血球組成物と混合する前に、所望のpH範囲(例えば、pH7.2〜8.0)に調整される。
【0061】
一部の実施形態では、最終組成物で得られるpHは、必ずしも、最初の赤血球組成物のpHが調整されたものではない。例えば、赤血球組成物が、6.8〜8.5の所望の範囲のpHを有し得、該組成物のpHは、クエンチャー、続く病原体不活化化合物の添加によって有意に変化しない。かかる実施形態では、クエンチャーは、自然状態で所望のpHを提供するか、または所望のpHが提供されるようにしかるべく中和されるかのいずれかである。重要なのは、約5mM〜約40mMなどの高量のクエンチャーを添加することと、所望の範囲のpHがもたらされることとの組合せである。例えばグルタチオンをかかる濃度で用いる公知の方法は、本発明の所望のpH範囲では使用されていない。したがって、ペプチドでは、どのペプチドクエンチャーであるかにかかわらず、赤血球組成物に添加されると必要に応じて適当なpH範囲をもたらすように効果的に中和され得、さらに、所望のpH範囲で適当な量の緩衝がもたらされるように選択され得る。したがって、中和されたクエンチャーとは、クエンチャーが、赤血球組成物に添加されると、得られる混合物が、より良好な望ましくない副作用のクエンチングを提供するpH、例えば、約6.8〜8.5、同様に約7.0〜8.5、同様に約7.2〜8.5、または約7.2〜8.0の範囲pHを有するように、必要に応じて酸または塩基により適当に滴定されていることを意味する。一部の実施形態では、自然状態で単離されたペプチドが適当に中和される、すなわち、最終混合物に所望のpHをもたらすための酸または塩基の添加を必要としない。さらに、好ましいクエンチャーは、pHを所望の範囲内に、望ましくない副作用をクエンチングするのに必要な時間、維持するための緩衝能を提供する。
【0062】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、クエンチャーが中和されている。クエンチャーは、充分な量の塩基がクエンチャーと合わされており、その結果、病原体不活化化合物と赤血球間の望ましくない副作用のクエンチングが、赤血球を含む該組成物、病原体不活化化合物およびクエンチャーを含む混合物において改善される場合、塩基によって「中和されている」という。「中和されたクエンチャー」は、必ずしも中性pHを有するとは限らない。一部の実施形態では、クエンチャーの酸性が高い場合であっても、中和されたクエンチャーのpHは、7.0未満となり得る。一部の実施形態では、中和されたクエンチャーの溶液のpHは、7.0より高い場合もあり得る。一部の実施形態では、中和されたクエンチャーの溶液のpHは、塩基の添加前のクエンチャーのものより検出可能に高い。一部の実施形態では、クエンチャーを、少なくとも約0.25当量、少なくとも約0.5当量、少なくとも約0.75当量、少なくとも約1当量、または少なくとも約2当量の塩基で中和する。一部の実施形態では、クエンチャーを約1〜約2当量の塩基で中和する。一部の実施形態では、クエンチャーを約1当量の塩基で中和する。他の実施形態では、クエンチャーを約2当量の塩基で中和する。例えば、本発明の一部の実施形態では、グルタチオンを、約2当量の適当な塩基(例えば、水酸化ナトリウムなど)で中和する。この場合、プロトン化されたグルタチオンの溶液は、およそ3のpHを有するが、2当量の水酸化ナトリウムで中和された溶液は、およそ9.5のpHを有する。少なくとも1個のシステインを含む任意の適切なペプチドクエンチャーが、赤血球組成物に添加されると所望のpHがもたらされるように、適当に調整され得る。適当にpH調整または中和されたクエンチャーを提供することに加え、一部の実施形態では、好ましいクエンチャーは、病原体内に有意に侵入し得ず、その結果、細胞外環境において望ましくない反応を最適にクエンチングするが、いったん病原体不活化化合物が病原体内部に浸透すると、病原体の不活化を妨げない。
【0063】
本明細書に記載の方法の各々の一部の実施形態では、クエンチャーが酸性化合物である。一部の実施形態では、クエンチャーが遊離の酸の形態で提供される。一部の実施形態では、クエンチャーが酸性であり、クエンチャーを中和するのに少なくとも約1当量の塩基が添加される。かかる中和されたクエンチャーを含む溶液は、場合によっては、塩基性、中性またはさらに高い酸性であり得る。一部の実施形態では、クエンチャーを中和するのに、約1当量の塩基が添加される。一部の実施形態では、約2当量の塩基が添加される。一部の実施形態では、クエンチャーが酸性であり、クエンチャーを中和するのに、約1〜約2当量の塩基が使用される。一部の実施形態では、約1または約2当量の塩基が使用される。
【0064】
一部の実施形態では、クエンチャーを、赤血球組成物および/または病原体不活化化合物への添加前に中和する。他の実施形態では、クエンチャーを、クエンチャーを、赤血球組成物および/または病原体不活化化合物のいずれかと合わせた後に中和する。
【0065】
一部の実施形態では、クエンチャーがグルタチオンであり、グルタチオン一ナトリウム塩の形態で提供され、約1当量の塩基で中和する。一部の他の実施形態では、クエンチャーがグルタチオンであり、グルタチオン塩酸塩の形態で提供され、約2当量の塩基で中和する。
【0066】
一部の実施形態では、赤血球組成物、クエンチャー、病原体不活化化合物および任意の添加塩基を含む混合物中のクエンチャーの濃度が、2mMより高いか、約4mMより高いか、または約10mMより高い。一部の実施形態では、混合物中のクエンチャー濃度が、約2mM〜100mM、約2mM〜40mM、約4mM〜40mM、約5mM〜40mM、約5mM〜30mM、または約10mM〜30mMの範囲である。一部の実施形態では、混合物中のクエンチャー濃度が約20mMである。本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、混合物中のクエンチャーの濃度が2mMより高いか、約4mMより高いか、または約10mMより高く、赤血球、クエンチャーおよび病原体不活化化合物の濃度の混合物のpHが、約6.7より高いか、約7.0より高いか、または 約7.2より高い。本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、一部の実施形態では、混合物中のクエンチャーの濃度が、約2mM〜40mM、約4mM〜40mM、約5mM〜40mM、約5mM〜30mM、または約10mM〜30mMの範囲であり、赤血球、クエンチャーおよび病原体不活化化合物の混合物のpHは、約6.8〜8.5、同様に約7.0〜8.5、同様に約7.2〜8.5または約7.2〜8.0の範囲である。本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、混合物中のクエンチャーの濃度が、2mMより高いか、約4mMより高いか、または約10mMより高く、赤血球、クエンチャーおよび病原体不活化化合物混合物のpHが、約6.8〜8.5、同様に約7.0〜8.5、同様に約7.2〜8.5または約7.2〜8.0の範囲である。一部の実施形態では、混合物中のクエンチャー(例えば、グルタチオン)の濃度が、約4mM〜約40mMの範囲であり、混合物のpHが、約7.2〜8.0の範囲である。一部の実施形態では、混合物中のクエンチャーの濃度が約10mM〜約30mMの範囲であり、混合物のpHが、約6.8〜8.5の範囲である。
【0067】
好ましい実施形態では、クエンチャーが中和グルタチオンである。グルタチオンは、自身をクエンチャーとして特に有用なものとする多くの性質を有する。グルタチオンは、通常、あらゆる細胞型に存在する。細菌および脂質エンベロープを有するウイルスの細胞膜または脂質外被(coat)を通過すること、またはエンベロープを有しないウイルスのウイルスキャプシドを通過することなどにより、病原体内に受動的に浸透することができるとは考えられない。pH7では、グルタチオンは電荷を有し、能動輸送の非存在下では、有意な程度まで脂質二重層に浸透しない。これは、グルタチオン(中和グルタチオンの2mMより高い濃度での使用を含む)によって実質的に影響を受けない脂質エンベロープを有するウイルス(例えば、HIVおよびVSV)の不活化と一致する。グルタチオンの使用は、Yersinia enterocolitica、Staphylococcus epidermidisおよびSerratia marcescensの不活化に対していくらかの効果を有する。しかしながら、これは、有効量の中和グルタチオンおよび病原体不活化化合物を用いることにより対処され得る。したがって、ウイルス系または細菌系病原体による赤血球組成物の汚染が少なくとも2log、好ましくは少なくとも3log不活化される好ましいクエンチング方法が提供される。一部の実施形態では、Staphylococcus epidermidisが、少なくとも3log、同様に約4log、または約5logまで不活化され得、VSVが、少なくとも4log、同様に約5log、または約6logまで不活化され得る。さらに、不活化は、2mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1による赤血球組成物の標準的な処理のものの約3log、同様に約2log、好ましくは約1log以内である。一部の実施形態では、PIC−1によるStaphylococcus epidermidisの不活化は、2mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で不活化された同様の組成物のものの約3log、同様に約2log、または約1log以内である。一部の実施形態では、PIC−1によるVSVの不活化は、2mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で不活化された同様の組成物のものの約2logもしくは約1log以内であるか、または本質的に同等である。グルタチオンはまた、赤血球のインビトロ保存に適合性であり、その後の赤血球組成物はインビボ導入に適当である。
【0068】
グルタチオンおよび他のクエンチャーを中和するのに適切な方法は、当業者には容易にわかる。一部の実施形態では、水酸化ナトリウムを用いてクエンチャーを中和する。一部の実施形態では、固形ペレットのNaOHをまず水に溶解し、濃縮塩基溶液、例えば、1N、5N、10Nまたは20NのNaOH溶液を作製する。一部の実施形態では、次いで、適当な量の該NaOH溶液をクエンチャーに、混合物へのクエンチャーの添加前、添加と同時または添加後のいずれかで添加する。あるいはまた、このNaOHを、混合物へのクエンチャーの添加前に、赤血球組成物もしくは病原体不活化化合物または両者を合わせたものに添加する。
【0069】
本明細書に記載の方法において使用されるクエンチャーおよび/または添加塩基(すなわち中和されたクエンチャー)は赤血球組成物と、赤血球組成物への病原体不活化化合物の添加前、添加と同時または添加後に混合され得る。クエンチャーおよび塩基(すなわち中和されたクエンチャー)を赤血球組成物と、病原体不活化溶液を赤血球組成物と混合した後に混合する場合、クエンチャーおよび/または塩基(すなわち中和されたクエンチャー)は、好ましくは、病原体不活化化合物と赤血球との有意な量の副作用が起こる前に赤血球組成物に添加され、その結果、充分な望ましくない副作用のクエンチングが達成され得る。一部の実施形態では、クエンチャーおよび/または塩基(すなわち中和されたクエンチャー)を赤血球組成物と、病原体不活化化合物を赤血球組成物と混合した後、約1時間以内、約30分以内、約20分以内、約10(mintue)以内、約5分以内、約2分以内または約1分以内に混合する。一部の実施形態では、クエンチャーおよび/または塩基(すなわち中和されたクエンチャー)を赤血球組成物と、病原体不活化化合物と赤血球組成物との混合前に混合する。例えば、中和グルタチオンおよびPIC−1が該方法において使用される一部の実施形態では、中和グルタチオンを赤血球と、PIC−1を赤血球組成物と混合する前、混合と同時または混合後約10分以内に混合する。
【0070】
一部の実施形態では、クエンチャーおよび/または塩基(すなわち中和されたクエンチャー)を赤血球組成物と、病原体不活化化合物と赤血球組成物との混合前に混合する。
【0071】
本明細書に記載の方法の各々の一部の実施形態では、クエンチャーおよび添加塩基(すなわち中和されたクエンチャー)を赤血球組成物とともに、病原体不活化化合物の添加前に適当な時間枠、例えば、約30分〜48時間、同様に約2〜24時間、同様に約8〜24時間インキュベートする。一部のさらなる実施形態では、インキュベーションは、約1℃〜30℃、同様に約18℃〜25℃の温度範囲、またはほぼ室温である。
【0072】
本明細書に記載の方法の各々の一部の実施形態では、病原体不活化化合物を赤血球組成物とともに、クエンチャーおよび添加塩基(すなわち中和されたクエンチャー)の存在下で適当な時間枠、例えば、約30分〜48時間、同様に約2〜24時間、同様に約8〜24時間インキュベートする。一部のさらなる実施形態では、インキュベーションは、約1℃〜30℃、同様に約18℃〜25℃の温度範囲、またはほぼ室温である。
【0073】
上記のように不活化logを比較することに加え、改善されたクエンチング方法の有効性は、いくつかの他の方法によって評価され得る。クエンチング方法は、赤血球の機能の観点、および該処理済み赤血球と免疫系(例えば、抗体など)との反応性の観点の両方において、赤血球組成物の改変を評価することにより評価され得る。該処理済み赤血球組成物が、輸液などのヒトへの使用を目的とする場合、クエンチング方法は、赤血球機能を実質的に損傷しないものでなければならない。赤血球機能に対する損傷性の影響が実質的にないことは、当該技術分野で知られた赤血球機能試験方法によって測定され得る。例えば、細胞内ATP(アデノシン5’−三リン酸塩)、細胞内2,3−DPG(2,3−ジホスホグリセロール)または細胞外カリウムなどのインジケーターのレベルを測定し、未処理対照と比較し得る。さらに、溶血、細胞内および細胞外のpH、ヘマトクリット、ヘモグロビン、浸透圧ぜい弱性、グルコース消費および乳酸塩生成が測定され得る。改善された本発明の方法を、2mMの酸性グルタチオンを0.2mMのPIC−1と組み合わせた標準的な条件や、米国特許第6,709,810号に記載のようなグルタチオン増加を伴う条件(この場合、該公知法では、酸性グルタチオンが使用される)と比較してもよい。本発明においてグルタチオン濃度を増加させると、一部の病原体の不活化レベルの若干の低下がもたらされ得るが、依然として充分なレベルの不活化が得られ、赤血球の機能を充分維持したまま赤血球改変の低減が改善されることにより、全体としてより良好な生成物がもたらされる。
【0074】
ATP、2,3−DPG、グルコース、ヘモグロビン、溶血およびカリウムを測定するための方法は、当該技術分野において利用可能なものである。例えば、Daveyら、Transfusion,32:525−528(1992)(その開示は、本明細書に組み込まれる)を参照のこと。また、赤血球機能の測定方法は、Greenwaltら、Vox Sang,58:94−99(1990);Hogmanら、Vox Sang,65:271−278(1993);およびBeutlerら、Blood,第59巻(1982)(その開示は、引用により本明細書に組み込まれる)に記載されている。例えば、細胞内ATPおよび細胞内2,3−DPGは、Sigma ATPキットまたは2,3−DPGキット(Sigma,St.Louis,Mo.)を用いて測定される。該ATPキットは、Sigma手順番号366−UV(その開示は、引用により本明細書に組み込まれる)に従って使用される。細胞外カリウムレベルは、Ciba Corning
Model 614 K/Na Analyzer(Ciba Corning Diagnostics Corp.,Medford,MA)を用いて測定され得る。細胞外pHは、細胞を4℃で15分間12,000×gにて遠心分離し、上清みを取り出し、そのpHを、室温で標準的なpHメーター(例えば、Beckman,Epoxy Calomel電極)を用いて測定することにより測定される。細胞内pHは、残留ペレットを遠心チューブ内に封入し、約−80℃で少なくとも2時間保存する。次いで、これを脱イオン水の添加によって溶解する。溶解された試料を充分混合し、溶液のpHを、室温で標準的なpHメーターを用いるか、または室温でCiba Corning Model 238 Blood Gas Analyzer(Ciba Corning Diagnostics Corp.,Medford,MA)を用いるかのいずれかにより測定する。測定は、処理の直後、処理後保存(例えば、42日間までの保存)の関数として行なわれ得る。本発明の方法は、該処理済み赤血球の溶血が、28日間の保存後3%未満、より好ましくは42日間の保存後2%未満、および最も好ましくは、4℃で42日間の保存後に約1%以下である赤血球組成物を提供する。好ましい方法は、細胞内ATPレベルが、2mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1の標準的な条件で処理された同様の組成物のものより高い赤血球組成物を提供する。一部の実施形態では、本発明のクエンチング方法は、2mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理した組成物より約20%、また30%、また40%または約50%高いATPレベルを提供し、この高レベルのATPは、7、14、21、28、35または42日間の保存後、維持されている。
【0075】
本発明の方法での赤血球改変の低減は、いくつかのアッセイによって評価され得る。アッセイの一例では、アクリジンと反応性であるウサギポリクローナル血清を、KLHにコンジュゲートさせたアクリジン化合物をNew Zealand Whiteウサギに注射することによってを生成させる。アクリジン化合物S−197を使用し、これは以下の構造:
【0076】
【化3】

を有する。これをKLHに、10μLの該化合物(脱イオン水中10mM)を990μLのKLHの緩衝溶液(50mMリン酸塩、150mM NaCl、PBS(pH=7.2)中10mg/mL、特許品(proprietary)安定化剤、Pierceカタログ番号77600を含有する)に添加し、室温で20時間にわたってインキュベートすることによりコンジュゲートさせる。このインキュベーション後、コンジュゲートされたKLHを未反応S−197およびS−197副生成物から、脱塩カラム(例えば、D−塩カラム、Pierce)に通し、PBSバッファー中で溶出することにより単離する。次いで、着色した溶液画分を合わせ、KLHコンジュゲートを、210と410nmでの吸光度の比によってキャラクタライズする。アクリジン−KLHコンジュゲート溶液を完全フロイントアジュバントと混合し、ウサギの多数の部位に筋肉内注射し、このウサギを免疫処置する。得られたウサギ血清は、アクリジン構造と反応性である高力価のポリクローナル抗体を有する。ウサギ血清を、例えば、PIC−1およびグルタチオンで処理している赤血球組成物とともにインキュベートしてもよい。非結合ウサギ抗体を洗浄除去し、溶液をヤギ抗ウサギ抗体と反応させる。得られた溶液を凝集について、Buffer Gel
Card(Micro Typing Systems,Pompano Beach,Florida)に通すことによりアッセイし得る。ゲルカードは、非凝集赤血球の通過は許容するが、ウサギ血清との反応および抗ウサギ抗体との交差反応によって凝集した細胞はゲル上部に残留するように設計されている。該カードを0、1+、2+、3+、または4+としてスコア付けし、ここで、0は、すべての細胞がインタクトであり、ゲル下部にあることを示し、一方、4+は、完全に凝集し、すべての細胞がゲル上部にあることを示す。本発明のクエンチング方法は、1:100希釈度のウサギ血清を用いてアッセイした場合、1+以下、好ましくは0のスコアをもたらすが、2mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理した同様の組成物は、2+以上のスコアをもたらす。
【0077】
さらに、本発明のクエンチング方法は、好ましいクエンチング方法と同じクエンチャー濃度の酸性グルタチオンおよび同じ濃度の病原体不活化化合物で処理した同様の組成物と比べた場合、より低いスコアをもたらす。例えば、10mMの中和グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理した赤血球組成物は、10mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理した赤血球組成物より低いスコア、好ましくは1+または0のスコアをもたらす。
【0078】
別のアッセイでは、ウサギポリクローナル血清を処理済み赤血球と反応させ得る。非結合抗体を洗浄除去した後、FITC標識ヤギ抗ウサギFab’断片(抗H+L鎖、Caltag)を添加する。赤血球へのFITC標識の結合は、赤血球表面に結合したアクリジンの量と相関し、FACScan(登録商標)解析(Becton,Dickinson and Co.,NJ)によって評価する。赤血球の相対的な改変は、FACScan(登録商標)平均蛍光値で測定される。本発明のクエンチング方法は、2mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1を用いる処理と比べた場合、少なくとも50%、同様に少なくとも75%、または少なくとも90%の平均蛍光の低減をもたらす。さらに、本発明のクエンチング方法は、好ましいクエンチング方法と同じクエンチャー濃度の酸性グルタチオンおよび同じ濃度の病原体不活化化合物で処理した同様の組成物と比べた場合、より低いレベルの平均蛍光をもたらす。例えば、10mMの中和グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理した赤血球組成物は、10mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理した赤血球組成物より低いレベルの平均蛍光をもたらす。本発明のクエンチング方法は、酸性グルタチオンでのかかる同様の処理と比べた場合、該酸性グルタチオン処理と比べ、少なくとも10%、同様に少なくとも25%、同様に少なくとも50%、同様に少なくとも75%、または少なくとも90%の平均蛍光の低減をもたらす。
【0079】
最後に、2mMのグルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理されている赤血球を輸液され、抗PIC−1抗体を発現したと思われる患者由来の血清試料を用いて、本発明の処理済み赤血球組成物との交差反応性が評価され得る。このアッセイは、ウサギポリクローナル血清を用いるGel Cardアッセイと同様のものである。このアッセイでは、ゲルが、ウサギ抗ヒトIgGを含有し、その結果、患者の血清と反応性の赤血球はゲル上部で凝集する。カードを上記のとおりにスコア付けする。本発明のクエンチング方法は、このアッセイでは1+以下、好ましくは0のスコアをもたらすが、2mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理した同様の組成物は、2+以上のスコアをもたらす。さらに、本発明のクエンチング方法は、好ましいクエンチング方法と同じクエンチャー濃度の酸性グルタチオンおよび同じ濃度の病原体不活化化合物で処理した同様の組成物と比べた場合、より低いスコアをもたらす。例えば、10mMの中和グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理した赤血球組成物は、10mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理した赤血球組成物より低いスコア、好ましくは1+または0のスコアをもたらす。
【0080】
また、本発明のクエンチング方法を、試料中の核酸改変のレベルを測定することにより既存の方法と比較してもよい。典型的には、赤血球組成物は白血球を含有するものであり得、白血球由来の核酸を単離してもよい。該化合物と核酸との反応時に核酸に結合したままである放射性同位体を有する病原体不活化化合物。これは、種々のクエンチング方法で、核酸と反応した化合物の量を評価するために使用され得、予測される白血球不活化と直接相関し得る指標を提供する。1,000核酸塩基対あたりに形成された付加物の数が、病原体の不活化に対する種々の方法の予測される影響を評価するためのモデルとして使用され得る。あるいはまた、適当な量の病原体を赤血球組成物に添加してもよく、処理後に病原体の核酸を単離してもよい。しかしながら、この場合、任意の残留白血球のレベルが病原体の核酸の測定を妨げないように、試料を白血球低減処理する必要がある。
【0081】
望ましくない副作用のレベルを低下させるとともに充分な病原体の不活化を提供することに加え、本発明のクエンチング方法また、少なくとも一部の実施形態において、病原体の不活化後の反応性求電子性種の濃度の低下を提供する。赤血球組成物が輸液を目的とするものである場合、反応性求電子性種のレベルは、できる限り低いこと、好ましくは、本質的にもはや検出され得ないことが重要である。反応性求電子性種の存在は、当該技術分野において利用可能な方法、例えば、クロマトグラフィー法(液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)を含む)などを用いて測定され得る。また、試料の残留活性を、例えば、Mattiesによって記載された一般的なアルキル化剤アッセイ(Matties,WR,Anal.Biochem.1992 Oct;206(l):161−7)などを用い、核酸のグアニン残基と反応するその能力を評価することにより評価してもよい。このアッセイでは、RBCは、病原体不活化化合物およびクエンチャーとの適当なインキュベーション時間後に抽出する。任意の残留病原体不活化化合物、ならびにクエンチャーおよび他の低分子種は、該タンパク質から分離する。次いで、これらの種を、8−Hグアニン残基を用いて合成したds DNAとともにインキュベートする。残留病原体不活化化合物はds DNAとN7位のグアニンにて反応し、8−H残基(reside)が酸性化されてHを溶液中に放出し、これを単離し測定してもよい。放出されたトリチウムの量は定量され得、抽出された被験試料中に存在する残留アルキル化剤の量と1:1相関を有する。このような方法によって測定される求電子性種のレベルを、本発明の改善された方法を用いて評価し、公知の方法と比較してもよい。
【0082】
本明細書に記載の方法の各々の一部の実施形態では、該方法は、病原体不活化化合物または病原体不活化化合物の分解生成物からなる群より選択される化合物の混合物中での濃度を低下させる工程をさらに含む。一部の実施形態では、該方法が、混合物中の病原体不活化化合物の濃度を低下させる工程を含む。一部の実施形態では、該方法が、混合物中の求電子性種の濃度を低下させる工程を含む。一部の実施形態では、該方法が、混合物中のクエンチャーの濃度を低下させる工程を含む。生物学的材料(例えば、血液製剤)中の病原体不活化化合物および/またはクエンチャー(および関連生成物)中の濃度は、処理後、例えば、バッチ式または流動除去プロセスにおける吸着によって低減され得る。使用され得る方法およびデバイスは、米国特許第6,544,727号および同第6,331,387号ならびに米国特許公開公報第2002/0192632号、同第2005/0142542号、同第2004/0185544号、および同第2001/0009756号(その各々の開示は、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。したがって、一部の実施形態では、病原体不活化化合物の濃度は、混合物を、病原体不活化化合物に対する親和性を有する吸着剤粒子を含む吸着媒体と接触させることにより低減される。一部の実施形態では、吸着系は、バッチ式プロセスで病原体不活化化合物が除去されるように構成されたものであり得る。一部の実施形態では、混合物中の病原体不活化化合物の濃度は、赤血球を洗浄することにより低減される。
【0083】
本発明の方法は、赤血球組成物中に存在し得る病原体汚染物質の充分な不活化をもたらし、公知の方法と比べ、クエンチングは改善されている。好ましい方法では、上記のように、病原体不活化化合物は、核酸標的化部分および反応性求電子性基を含み、クエンチャーはシステインを含み、ここで、クエンチャーは、赤血球組成物に添加されたとき、適当なpHを提供するものである。一部の実施形態では、クエンチャーが酸性であり、1〜2当量の適当な塩基、例えば水酸化ナトリウムなどで中和する。好ましい実施形態では、クエンチャーが、2当量の塩基で中和したグルタチオンである。好ましい実施形態では、病原体不活化化合物が、エステル結合を介してマスタード基に連結されたアクリジン基を含む。好ましい実施形態では、病原体不活化化合物が、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルおよびその塩であり、クエンチャーが2当量の塩基で中和したグルタチオンである。クエンチャーは赤血球組成物に、病原体不活化化合物の前、後または該化合物と同時に添加され得る。一部の実施形態では、クエンチャーが、病原体不活化化合物の約30分前から病原体不活化化合物の約10分後までの時間範囲内で添加される。一部の実施形態では、クエンチャーおよび病原体不活化化合物は、本質的に同時であるが、別々に添加され得る。例えば、病原体不活化化合物がβ−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルであり、クエンチャーが、中和グルタチオンである好ましい実施形態では、これらは、赤血球組成物に一緒に添加するための溶液に容易に配合され得ない。充分なクエンチングに必要とされるグルタチオンが高濃度であるため、病原体不活化化合物は、これらが同じ溶液中に高濃度で存在する場合、沈殿する。いったん赤血球組成物に添加したら、両者が完全に可溶性となるように、これらを充分に希釈および緩衝化する。
【0084】
本発明の好ましい実施形態では、赤血球組成物をβ−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル、および2当量の塩基で中和したグルタチオンと混合する。さらなる実施形態では、中和グルタチオンを赤血球組成物と混合し、続いて、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルをグルタチオンの約30分以内、好ましくは約10分以内に添加する。別の実施形態では、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルおよび中和グルタチオンを赤血球組成物と、本質的に同時に、または互いに約1分以内に混合する。別の実施形態では、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルをまず赤血球組成物に添加し、中和グルタチオンを、約30分以内、また約10分以内、また約5分以内、また約1分以内に添加する。一部の実施形態では、3種類すべての成分の混合時、例えば、混合の約1〜5分以内に、グルタチオンは、約5mM〜30mM、好ましくは約10mM〜30mM、好ましくは約20mMの範囲の濃度になり、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルは、約0.05mM〜0.5mM、好ましくは約0.1mM〜0.3mM、好ましくは約0.2mMの範囲の濃度になり、混合物のpHは、約7.2〜8.0の範囲になる。
【0085】
本発明はまた、本明細書に記載された処理方法の各々から得られる赤血球組成物を提供する。
【0086】
本明細書に記載の方法および組成物の各々の一部の実施形態では、赤血球組成物中の赤血球が、哺乳動物の血球である。例えば、赤血球は、齧歯類(例えば、マウスもしくはラットもしくはウサギ)、類人猿(例えば、チンパンジー)、またはヒトの赤血球であり得る。例えば、一部の実施形態では、赤血球がヒトのものである。一部の実施形態では、赤血球が白血球低減処理されているものである。一部の他の実施形態では、赤血球が白血球低減処理されていないものである。一部の実施形態では、赤血球含有組成物が病原体に汚染されたものである可能性がある。一部の実施形態では、赤血球組成物が病原体に汚染されたものである。
【0087】
改善されたクエンチング方法に加え、本発明は、赤血球組成物の加工処理のための使い捨てキットを提供し、ここで、該加工処理は手作業または自動で行なわれ得る。一部の実施形態では、本発明は、本明細書に記載の方法の各々で使用される、病原体不活化化合物、クエンチャーおよび/または塩基を含むキットを提供する。
【0088】
一部の実施形態では、キットは、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステル(任意のその塩を含む)および中和グルタチオン(任意のその塩を含む)を含む。β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルは、固体形態または溶液状であり得る。同様に、中和グルタチオンも固体形態または溶液状であり得る。このような固体または溶液は、許容され得る賦形剤、アジュバント、希釈剤または安定化剤をさらに含み得る。一部の実施形態では、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルが塩酸塩であり、中和グルタチオンが、約2当量の水酸化ナトリウムで中和されている。一部の実施形態では、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルおよび中和グルタチオンが固体形態であり、キットが、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルを溶解するための適当な溶液、および中和グルタチオンを溶解するための適当な溶液をさらに含むものである。一部の実施形態では、本発明は、病原体不活化化合物、クエンチャー、およびクエンチャーを溶解するための溶液を含むキットを提供し、ここで、該溶液はクエンチャーを中和するものである。本明細書において論考された方法およびキットは、病原体不活化化合物およびクエンチャー(これらは、混合物として、または別々に製剤化され得る)の任意の適当な医薬用製剤を包含する。薬学的に許容され得る製剤は当業者に知られており、適当な賦形剤、アジュバント、希釈剤または安定化剤の例は、例えば、Gennaro編,Remington’s The Science and Practice of Pharmacy,第20版,Lippincott Williams & Wilkinsを見るとよい。本発明はまた、上記の方法で得られる組成物であって、上記の赤血球、病原体不活化化合物およびクエンチャーを含む組成物を包含し、ここで、該組成物は、病原体不活化化合物の改善されたクエンチングが行なわれるのに適当なpH範囲内にある。
【0089】
別の態様では、本発明は、例えば、病原体を不活化するために赤血球組成物を処理するのに有用なキットであって、核酸結合リガンドと、求電子性基であるか、または該基を構成する官能基を含む病原体不活化化合物(任意のその塩を含む)、チオール基を含むクエンチャー(任意のその塩を含む)、および少なくとも約1当量(ここで、当量は、キット内のクエンチャーのモル量に相当するモル量を意味する)の塩基を含むキットを提供する。一部の実施形態では、キットは、約1当量または約2当量の適当な塩基を含む。
【0090】
さらに別の態様では、本発明は、病原体を不活化するために赤血球組成物を処理するためのキットであって、核酸結合リガンドと、求電子性基であるか、または該基を構成する官能基(例えば、PIC−1)(任意のその塩を含む)、および中和されたチオール基を含むクエンチャー(例えば、中和グルタチオン)(任意のその塩を含む)を含むキットを提供する。
【0091】
本発明を、以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。これら実施例において、細菌およびウイルスはすべて、American Type Cell Culture(ATCC),Rockville,MDから入手したもの、または臨床分離株である。
【実施例】
【0092】
実施例1
標準的な条件とのSerratia marcescens、Staphylococcus epidermidisおよびYersinia enterocoliticaの不活化の比較
細菌S.marcescensを、マスタープレート由来の単一のコロニーを37℃で500mLのLB培地に添加することにより一晩成長させた。一夜培養物を新たな培地中で1:1000に希釈した。37℃での成長を、600nmでの懸濁液のODによってモニターした。懸濁液が0.5ODに達した調製物を使用した。全血液(Blood Source,Sacramento,CA)を用い、遠心分離して充填RBC(およそ90%のヘマトクリットの34mL)を得、次いで、17mLのErythrosolをおよそ60%のヘマトクリットまで添加することにより、赤血球(RBC)組成物を調製した。Erythrosolは、赤血球添加剤(Baxter Healthcare Corp.,Deerfield,IL)であり、これは、クエン酸ナトリウム二水和物(7.82g);過リン酸ナトリウム二水和物(0.73g);リン酸ナトリウム二水和物(3.03g);アデニン(0.22g);マンニトール(7.74g);およびグルコース(9g)を1リットルの蒸留水中で合わせることにより調製されたものであり得る。次いで、該細菌調製物(全容量の1/100)をRBC/Erythrosolに添加し、汚染RBCを得た。この汚染RBCをいくつかの試料に分割し、表2に従って処理した。ここで、PIC−1は、β−アラニン、N−(アクリジン−9−イル)、2−[ビス(2−クロロエチル)アミノ]エチルエステルである。PIC−1およびグルタチオン(Aldrich,St.Louis,Mo)を8%デキストロース一水和物の溶液に、一緒に添加する場合は最終赤血球組成物に所望される濃度の約15倍で、または別々に添加する場合は30倍で溶解した。また、グルタチオンは、表示した当量の水酸化ナトリウムで中和し、適当な量の5N NaOHをグルタチオンに添加することにより調製した。各試料について、4.67mLのRBCを、330μLのPIC−1/グルタチオンまたは165μLの別々の各PIC−1およびグルタチオンのいずれかと混合した。例えば、2mMのグルタチオンおよび0.2mMのPIC−1の標準処理物は、7.6mgのPIC−1および46mgのグルタチオンを5mLの8%デキストロースに溶解し、このうち330μLを4.67mLのRBCに添加することにより調製した。20mMの中和グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1の試料を、7.6mgのPIC−1および460mgのグルタチオンを4.4mLの8%デキストロースに溶解し、0.6mLの5N NaOHと混合し、次いで、このうち330μLを4.67mLのRBCに添加することにより調製した。20mMの中和グルタチオンを用いて別々に添加する場合、PIC−1は、7.6mgを2.5mLの8%デキストロースに溶解することにより調製し、グルタチオンは、460mgを1.9mLの8%デキストロースに溶解し、0.6mLの5N NaOHと混合することにより調製し、次いで、165μLの各溶液を4.67mLのRBCに適切な順序で添加する。種々の成分の容量は、表に示した適切な試料が提供されるように、しかるべく調整する。処理後、試料を2時間インキュベートし、各々100μLを連続希釈し、LBプレート上にプレーティングした。細菌の成長を評価するため、これらを一晩37℃でインキュベートした。細菌力価は、プレート上のコロニーを計測することにより測定し、プレートの希釈度に対してその力価を測定した。例えば、10倍連続希釈では、最初の溶液の5番目の希釈物(この場合、0.1mLがプレーティングされる)で30個のコロニーが計測されることは、(30×10)/0.1=3×10あるいは7.47logの初期力価を示し得る。未処理の対照試料(すなわち、PIC−1またはグルタチオンの添加なし)を、処理後の力価のlog低減を評価するためのベースラインとして用いる。表2Aおよび2Bは、種々の試料に関するlog力価およびlog低減の両方を示す。表2Aのほとんどの試料では、PIC−1およびグルタチオンを一緒に製剤化したことに留意されたい。グルタチオンを種々の量の水酸化ナトリウムで中和した試料4〜6では、PIC−1が溶液から析出し、塩基の添加量が増加するにつれて、沈殿は増加した。したがって、これらの結果は、溶液中のPIC−1実際の濃度がわからないので、不活化レベルの充分な表示を提供しない。表2Bに示すような、この2つの成分の逐次添加によって試験を繰返した(時間遅延0は、これらを同じ溶液中に添加したことを示す)。表2Aにおける標準的な条件との比較では(試料1および10)、該成分を別々に添加した試料7のみが、妥当な比較を提供する。この場合、表2Bでも示されるように、20mMの2当量の塩基で中和したグルタチオンによるクエンチングでは、標準的な条件(2mMの酸性グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1)と比べ、約1〜1.5log少ないlog低減がもたらされる。
【0093】
S.epidermidisを使用し、その一夜培養物を希釈なしで用いて、さらなる試験を行なった。この試験では、PIC−1およびグルタチオンを、表3に示す順序で添加した。結果をこの表に示す。S.epidermidisの不活化は、20mMの中和グルタチオンをクエンチャーとして使用した場合、有意に低減されない。PIC−1は、すべての試料で0.2mMである。
【0094】
Y.enterocoliticaを使用し、同様の試験を行なった。ここでは、中和グルタチオンに加えて、中和システインをクエンチャーとして使用し、このシステイン(Aldrich)は、1当量または2当量いずれかの水酸化ナトリウムで中和した。この試験では、2mMの酸性グルタチオンを、20mMの中和グルタチオンまたは20mMの中和システインと比較し、すべての試料で0.2mMのPIC−1とする。結果を表4に示す。結果は、適切に中和されたシステインは、中和グルタチオンと同程度に有効であることを示し、標準的な条件と比べて約2.5logの不活化の低減を示す。
【0095】
(表2A 種々のクエンチング条件下でのRBCにおけるSerratia marcescensの不活化)
【0096】
【表2A】

*この試料では、まずPIC−1を添加し、直後にグルタチオンを添加した。
他のすべての試料では、PIC−1およびグルタチオンを一緒に配合し、RBCに添加した。
【0097】
(表2B PIC−1およびグルタチオンの逐次添加を含むRBCにおけるSerratia marcescensの不活化(PIC−1は、すべての試料で0.2mM))
【0098】
【表2B】

(表3 PIC−1およびグルタチオンの逐次添加を含むRBCにおけるStaphylococcus epidermidisの不活化(PIC−1は、すべての試料で0.2mM))
【0099】
【表3】

(表4 PIC−1およびグルタチオンの逐次添加を含むRBCにおけるYersinia enterocoliticaの不活化(PIC−1は、すべての試料で0.2mM))
【0100】
【表4】

システインをクエンチャーとして用い、さらなる試験を行なった。試料を上記のようにして調製および評価し、システイン(Cys)は、1当量または2当量いずれかの水酸化ナトリウムで中和した。これらの試料のため、10NのNaOH原液を調製し、適切な容量の種々の成分を上記の手順に従って使用した。標準的な条件および/または20mMの中和グルタチオン(GSH)で比較を行なった。また、表5Aに示す試験では、システインとグルタチオンの組合せも使用した。表5A、5Bおよび5Cに示す結果は、すべての条件下で少なくとも約3logの不活化を示す。一般的に、システインおよびグルタチオンは、標準的な条件と比べ、同様の病原体の不活化の低減をもたらし、この場合、不活化は標準的な条件の約1〜1.5log以内である。両者の組合せは、システインは、細胞内に侵入することができるが、グルタチオンは、実質的な量では細胞内に侵入しないという点で重要である。これは、細胞の内部および外部の両方で、適切なクエンチング条件下では同様の不活化の結果が観察されることを示す。
【0101】
(表5A PIC−1およびグルタチオンもしくはシステインまたは両者の組合せを用いたRBCにおけるSerratia marcescensの不活化(PIC−1は、すべての試料で0.2mM))
【0102】
【表5A】

(表5B PIC−1およびグルタチオンまたはシステインを用いたRBCにおけるSerratia marcescensの不活化(PIC−1は、すべての試料で0.2mM))
【0103】
【表5B】

(表5C PIC−1およびグルタチオンまたはシステインを用いたRBCにおけるStaphylococcus epidermidisの不活化(PIC−1は、すべての試料で0.2mM))
【0104】
【表5C】

実施例2
標準的な条件との水疱性口内炎ウイルス(VSV)の不活化の比較
VSVの100倍原液(およそ1.78×10力価)を用い、実施例1のようにして調製した赤血球組成物を汚染する。汚染RBCを、表5A〜Bに示すようにして処理し、2時間インキュベートした。成分は、上記の同様の実験で示したようにして添加した。各試料に対して、5mL容量の汚染RBCを処理した。インキュベーションの終了後、RBCを液体N中で凍結し、後のある時点で解析した。残留VSVの力価を、10%ウシ胎仔血清および他の必須成分を加えたEMEM中で成長させたアフリカミドリザル細胞Vero 76において、プラークアッセイによって測定した。力価は、既報(Hsiung
GD and Melnick JL,Journal of Immunology
78,128−136.1957)のコンフルエント細胞調製物に対して希釈試料を適用したときに得られたプラークの数の測定によって計算した。結果を表6Aに示す。これは、該クエンチング方法はすべて、高力価のVSVの本質的に完全な不活化をもたらすことを示す。2当量の水酸化ナトリウムで中和した、または中和していないシステインをクエンチャーとして用い、さらなる試験を行なった。結果を、比較のための標準的な条件および20mMの中和グルタチオンとともに表6Bに示す。酸性、または中和されたいずれかの20mMのシステインは、不活化レベルを約2〜3log低下させ、中和された試料が最も低い不活化レベルを示す。また、20mMのグルタチオン試料も不活化レベルを約2log低下させる。結果はすべて、細胞外ウイルスVSVの不活化がクエンチング条件に対してあまり感受性でないことを示す。
【0105】
(表6A PIC−1およびグルタチオンの逐次添加を含む、RBCにおけるVSVの不活化(PIC−1は、すべての試料で0.2mM))
【0106】
【表6A】

*中和グルタチオンとの同時添加によってPIC−1が溶液から析出する。
【0107】
(表6B PIC−1およびグルタチオンまたはシステインを用いたRBCにおけるVSVの不活化(PIC−1は、すべての試料で0.2mM))
【0108】
【表6B】

実施例3
PIC−1およびグルタチオンまたはシステインでのRBCの処理後のヒト白血球ゲノムDNAにおけるPIC−1付加物頻度(adduct frequency)の測定
白血球低減処理されていない全血を用い、実施例1に記載のようにして、Erythrosolを加えたRBCを調製した。各々20mLのアリコートを、0.2mMのPIC−1、0.2mMのPIC−1および2mMの酸性グルタチオン、20mMの中和グルタチオン(2当量の塩基)および10分後に0.2mMまで添加するPIC−1、または各々20mMの中和グルタチオン(2当量のNaOH)および中和システイン(1当量のNaOH)ならびに10分後に0.2mMまで添加するPIC−1のいずれかで処理した。使用したPIC−1は放射能標識PIC−1を含むものであり、その反応性基は、14C標識を含むものであった(ViTrax,Inc.,Placentia,CA)。使用したPIC−1の比活性は、1.08μCi/μモルであった。すべての試料を室温で20時間インキュベートした。インキュベーション後、20mLのRBCを、20mL容量のPBSで希釈し、20mLの混合物を10mLのFicollを入れた2つのチューブの各々に添加した。次いで、この懸濁液を400×gで30分間遠心分離した。白血球部分を分離し、さらに20mLのPBSを添加後、遠心分離機工程を繰返した。得られたペレットを合わせ、合わせたペレットを5mLの溶解バッファー(100mM NaCl,10mM Tris HCl,25mM EDTA,5%SDS,0.1mg/mLプロテイナーゼK,Sigma,St.Louis,Mo)中に再懸濁し、50℃で少なくとも2時間インキュベートした。次いで、得られた溶液を5mLのフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール24:25:1、続いて5mLのクロロホルム、次いで5mLのエーテルで抽出した。ゲノムDNAが水層中に単離され、0.5mLの3M NaOAc、10mLの100%エタノールの添加後、ドライアイス/エタノール浴中での最終混合物のインキュベーションによって沈殿させた。DNAは、6,000×gで10分間の遠心分離によって単離した。上清みを除去し、ペレットを風乾し、1mLのTEバッファー(100mM Tris HCl,1mM EDTA,pH=7.4)中に再懸濁した。単離されたDNAの量は、260nmでのUV吸収によって定量し、PIC−1付加物の量は、DNA塩基対に対するPIC−1モル比を評価するためのPIC−1の比活性を用い、該DNA溶液の液体シンチレーション計測(Perkin Elmer−Wallac,Winspectral 1414 Liquid Scintillation
Counter,Shelton,CT)によって定量した。1000bp(kbp)あたりの付加物の数を以下の表7に示す。これは、標準的な条件または非クエンチング試料と比べ、20mMの中和グルタチオンを用いてクエンチングした試料において、白血球核酸の改変が同等であることを示す。表中ならびに本明細書の他の部分において、グルタチオンを「GSH」で、システインを「Cys」で示す。付加物頻度の測定は、白血球の不活化の代替的(surrogate)測定として用いた。標準的な病原体の不活化条件では、白血球は、限界希釈アッセイの検出レベルまで不活化されることが知られており、これは、5.3logの不活化に相当する。不活化の機構は、ゲノム核酸上への付加物の形成によるものである。したがって、結果は、該改善されたクエンチング方法は、白血球の不活化に有意に影響を与えないはずであることを示す。種々の条件下での病原体核酸に対する結合を評価するため、白血球低減処理された赤血球を用いて、適当な病原体で同様の試験を行ない得る。
【0109】
(表7 種々の処理条件後のゲノムDNAにおけるPIC−1付加物頻度)
【0110】
【表7】

*付加物間の塩基対の平均数
**2当量で中和
実施例4
赤血球への抗アクリジン抗体結合によって評価されるクエンチングに対するRBCのpH調整の効果
グルタチオンの添加前に、この実施例に示すようにして、異なるpHの種々の溶液を用いてRBCを洗浄することにより、RBC組成物のpHを調整することが可能である。白血球低減処理された全血(Blood Source,Sacramento,CA)の20mLの試料を、4本の50mL容遠心チューブの各々において、室温にて、4,100×gで5分間、遠心分離した。上清みを各チューブから取り出し、赤血球濃縮物(RCC)を得た。試料1には、5mLのErythrosol(pH7.3)を10mLのRCCに添加した。試料2〜4は、RCCを、表示した溶液10mLで3回洗浄し、上記のようにして遠心分離し、各洗浄後の上清みを取り出した。各洗浄RCCについて、細胞を、洗浄に用いた溶液5mL中に再懸濁した。これを、以下、RBC試験試料という。試料2〜4に用いた溶液は、それぞれ、Erythrosol(pH7.3)、PBS pH8(50mMリン酸塩,100mM NaCl,pH8.0)、およびCHES pH9(50mM CHES(Aldrich),100mM NaCl,pH9.0)であった。各RBC試験試料について、1.5mLを、100μLのPIC−1+グルタチオン(2mMの酸性のもの、または20mMの0.9、1.5もしくは2当量の水酸化ナトリウムで中和されたもの)と混合し、最終濃度が0.2mMのPIC−1および2mMまたは20mMのグルタチオンを得た。これらの試料を20時間、室温でインキュベートした。インキュベーション後、RBCをBBS(Blood Bank Saline、0.9%生理食塩水、非緩衝、Fisher Scientific)中で洗浄し、最終ヘマトクリット4%まで希釈した。25μLの各アリコートを、BBS中で1:100に希釈したウサギポリクローナル抗アクリジン血清15μLと混合し、混合物を37℃で30分間インキュベートした。続いて、細胞を1.5mLのBBSで洗浄した。洗浄を終了した後、細胞を、50μLのFITC標識ヤギ抗ウサギFab’断片(BBS中、1:64希釈度)と混合し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を、3×1.5mLのBBSで再度洗浄した。次いで、赤血球をFACScanによって解析した。各試料で観察された平均蛍光を表8に示す。この値は赤血球表面に対するPIC−1アクリジンの結合と、値が小さいほど、PIC−1とRBCとの副作用のクエンチングの改善を示すように相関する。RBCに対するPIC−1の結合は、単に、細胞を高pHバッファー中で洗浄することによって有意に低減され、中和グルタチオンは、さらにより良好なクエンチングを提供した。グルタチオンを中和する水酸化ナトリウムの量を増加させると、クエンチングが改善されることに留意されたい。この実施例は、改善されたクエンチングを提供するために赤血球組成物のpHを調整することの重要性を示す。CHES(pH9)での洗浄と1.5または2当量の水酸化ナトリウムで中和されたグルタチオンとの組み合わせにより、PIC−1の結合がほぼバックグラウンドレベルまで低下される。
【0111】
(表8 種々のクエンチング条件下での0.2mMのPIC−1によるRBCの処理、抗アクリジン抗体結合のFACScan解析)
【0112】
【表8】

実施例5
赤血球への抗アクリジン抗体結合の結合に関する種々のクエンチング条件の比較
処理済み赤血球に対するウサギ抗アクリジン血清の結合のFACScan解析を用い、種々のクエンチング条件を評価した。RBC試料は、実施例1に記載のようにして調製し、クエンチャーは、上記の実施例に記載のようにして調製した。RBCとの混合時の成分の添加順および最終化合物濃度を表9Aおよび9Bに示す。これらの表は、各々、試料を標準的な条件下または20mMの中和グルタチオンで処理した2つの異なる実験のデータを示す。PIC−1は、すべての試料で0.2mMである。実験のデータは、種々の処理の相対的な有効性を提供する。アッセイは、用いる赤血球のロット(lot)に依存し得るため、平均蛍光の絶対値は、ある試験と次のものとで異なり得、そのため、相対値は、所与の実験内のみで比較するのがよい。例えば、標準的な条件では、表9Aでは114で、表9Bでは151〜182の平均蛍光が得られていることに留意されたい。中和システインは、15または20mMで、本質的にバックグラウンドシグナル(すなわち、本質的に結合なし)まで効果的にクエンチングする。20mMの中和グルタチオンでは、バックグラウンドレベルに近くなる。表9Bから、システインに関する結果は、クエンチャー濃度を増加させると、RBCとの反応のより良好なクエンチングが提供されるが、システイン濃度が増加したとき、システインを中和すると、望ましくない副作用の最適なクエンチングが提供されることを示す。2.5mMシステインでは、中和システインと酸性システインとでほとんど差はないが、5mM以上では、同じ濃度の酸性システイン試料と比べ、1当量のNaOHにより、シグナルがさらに低減されることに留意されたい。
【0113】
(表9A FACScan平均蛍光として測定された処理RBCに対する相対抗アクリジン抗体結合(PIC−1は、すべての試料で0.2mM))
【0114】
【表9A】

(表9B FACScan平均蛍光として測定された処理RBCに対する相対抗アクリジン抗体結合(PIC−1は、すべての試料で0.2mM))
【0115】
【表9B】

実施例6
PIC−1および種々のクエンチャーの添加時の赤血球組成物のpHの評価
赤血球組成物のpHに対する種々のクエンチング条件の効果を、種々の処理条件で調べた。クエンチャー溶液は、8%デキストロース一水和物中600mMの濃度に調製した。システインでは、溶液の一部を1または2当量いずれかの水酸化ナトリウムと混合した。グルタチオンは、2mM(酸性)または20mM(2当量の塩基)で評価した。N−アセチルシステイン、メチオニンおよびペプチドダイマーであるシステイン−グリシン(CysGly)もまた評価し、ここで、N−アセチルシステインは、1当量の水酸化ナトリウムで中和し、メチオニンは、1または2当量の水酸化ナトリウムで中和し、CysGlyは、2当量の水酸化ナトリウムで中和した。クエンチャー溶液(非改変または中和のいずれか)のpHは、室温で、標準的なEpoxy Calomel電極(Beckman Instruments)を用いて測定した。PIC−1の溶液は、8%デキストロース一水和物中、6mMに調製した。赤血球組成物を実施例1のようにして調製した。各試料に対し、167μLのクエンチャーおよび167μLのPIC−1を4.67mLのRBCに逐次添加し、クエンチャーの添加後、室温で10分間インキュベートし、次いでPIC−1を添加した。試料を混合し、pHを室温で、上記のものと同じ電極を用いて測定した。種々の試験の結果を表10に示す。
【0116】
(表10 RBCにおける0.2mMのPIC−1での種々のクエンチャー条件を用いたpH測定)
【0117】
【表10】

実施例7
グルタチオン濃度と中和の関数としてのクエンチング;抗アクリジン抗体結合およびS.epidermidisの不活化の評価
これらにおいて、適当な量の600mMの原液を添加し、適切な容量の8%デキストロースと混合し、各RBC試料に対して同じ容量添加を提供した。ここで、試験の1つでは、グルタチオン濃度を変化させ、pHを、グルタチオンの添加後およびPIC−1の添加後に測定した。PIC−1の添加によって、クエンチャーの添加後、高pH値を有する一部の溶液のpHが低下するが、最終pHは依然として、改善されたクエンチングに好ましい範囲内にあり、中和していない同じ濃度のグルタチオンのpH値の充分上であることに留意されたい。種々の濃度のグルタチオン(表11A)を用いて実施例6と同様にして調製した試料を、抗アクリジンウサギ血清に対する結合について、ゲルカードまたはFACScan解析のいずれかによって評価した。また、同様の試料を、S.epidermidisの不活化について評価した。各RBC試料をグルタチオンで、続いて10分後にPIC−1で処理し、次いで、PIC−1の混合後に室温で20時間インキュベートした。ゲルカード解析では、インキュベーション後、RBCをBBS中で洗浄し、BBS中で最終ヘマトクリット4%まで希釈した。25μLの各アリコートを、BBS中で1:4または1:100のいずれかに希釈した15μLのウサギポリクローナル抗アクリジン血清と混合し、混合物を37℃で30分間インキュベートした。続いて、細胞を1.5mLのBBSで洗浄した。洗浄を終了した後、細胞をヤギ抗ウサギFab’断片の抗H+L鎖(PBS中、1:4希釈度)と混合し、37℃で30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を3×1.5mLのBBSで再度洗浄し、ゲルカード上に負荷し、該カードを、MTS Centrifuge(登録商標)(Ortho System,Pompano Beach,Fl)において、製造業者の設定に従って10分間900×gで遠心分離した。カードを、凝集の相対量を等級分けする0、1+、2+、3+、4+の段階でスコア付けする。ここで、0は、凝集なし(すべての細胞がゲルを通過する)を示し、4+は、完全な凝集(すべての細胞がゲル上部にある)を示す。これらの結果は、グルタチオン濃度が増加するにつれて、中和グルタチオンを用いることなどで、RBC組成物のpHを調整することが必要であることを示す。5mMであっても、2当量の塩基で中和したグルタチオンは、1または0当量の塩基で中和した5mMのものより良好なクエンチングするを提供する。中和グルタチオンは、濃度が増加するにつれて抗体結合の低減を示すが、酸性グルタチオンは、2mMの標準的な条件と比べ、より高い濃度では改善は、あったとしても、ほんのわずかである。このアッセイの感度は、この試験において、1:4希釈度では、すべての試料で完全な凝集を示す(未処理の対照は、凝集を示さない)ため、クエンチング方法における差を調べるには、1:100希釈度のウサギ血清が必要であるようなものである。したがって、1:100に希釈した試料のみを表11Bに示す。試験間の結果は、用いる血液試料によって異なる。例えば、この試験では、1:4に希釈した抗アクリジンウサギ血清では、すべての試料で4+スコアがもたらされたが、別の試験は、10、15および20mMの中和グルタチオン(2当量の塩基)を用いて行ない、この場合、1:4に希釈した試料において差が観察されたが、1:100に希釈した試料はすべて、スコア0を示した。1:4希釈度のウサギ血清を用いて試験したこれらの試料は、標準的な条件、10mM、15mMおよび20mMの中和(2当量または塩基)グルタチオンで、それぞれ、4+、4+、3+および1+のスコアを示した。また、中和グルタチオン(2当量の塩基)と中和システイン(1当量の塩基)の組合せも使用し、この場合、全クエンチャー濃度を20mMとし、すべてのかかる試料で、1+または0のスコアがもたらされた(すなわち、これらは、20mMの中和グルタチオンと少なくとも同程度に有効であった)。
【0118】
(表11A RBCにおける0.2mMのPIC−1での種々のクエンチャー条件を用いたpH測定)
【0119】
【表11A】

(表11B 種々の濃度のグルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理したRBCにおける抗アクリジン抗体結合。1:100希釈度の抗アクリジンウサギ血清および1:4希釈度の二次抗ウサギIgGのゲルカードスコア)
【0120】
【表11B】

表11Aに示すような別の組の試料を、上記のようにして、異なる単位のRBCを用いて調製し、FACScan解析によって評価した。これらの試料は、20時間のインキュベーション後、実施例4のようにして処理し、FACScanによって解析した。未処理対照試料ならびに標準的な試料(2mMの酸性グルタチオンと0.2mMのPIC−1との同時添加)もまた評価した。結果を表11Cに示す。
【0121】
(表11C 種々の濃度のグルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理したRBCにおける抗アクリジン抗体(ウサギポリクローナル;1:100希釈度)結合。FITC標識抗ウサギFab’(1:64希釈度)を用いたFACScan解析により評価。)
【0122】
【表11C】

表11Aに示すような別の組の試料を、上記のようにして、同じ単位のRBCを用いて調製し、S.epidermidisを摂取(spike)し、実施例1のようにして力価について評価した。結果を表11Dに示す。抗体結合の結果とS.epidermidisの不活化の結果を合わせると、より高濃度での中和グルタチオンの使用で、改善されたクエンチングが示される。
【0123】
(表11D 種々の濃度のグルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理したRBCにおけるS.epidermidisの不活化)
【0124】
【表11D】

実施例8
種々のクエンチャーでクエンチングした試料におけるゲルカード解析による抗アクリジン抗体結合の評価
ゲルカードアッセイを用いた同様の試験を、他のクエンチング条件で、例えば、システイン、システイン−グリシンジペプチドまたはシステインとグルタチオンの組合せなどを用いて行なった。また、試料を、1:4または1:100いずれかの希釈度のウサギ血清を用いて、および二次抗体なしで試験し、この場合、2mMのグルタチオンおよび0.2mMのPIC−1の標準的な条件で処理した試料、またはクエンチャーなしでPIC−1で処理した試料で、一部凝集がもたらされた。濃縮した1:4希釈度のウサギ血清を二次抗ウサギ抗体(表12および13)と用いたほとんどすべての試料で観察された凝集は、一部、異好性(heterophile)反応によるものと考えられる。異好性抗体は、天然に存在する抗体であり、RBCを別の種から非特異的様式で認識する。表12〜13は、1:4または1:100いずれかの希釈度のウサギ血清および1:4希釈度の抗ウサギ抗体に関する種々の実験の結果を示す。未処理の対照のデータは、すべての試料でスコア0であったため、示していない。試料はすべて、まずクエンチャーと、次いで0.2mMのPIC−1と混合した。クエンチャーの具体名、濃度、および当量の塩基を表に示す。これらの結果は、グルタチオンおよびシステインまたはシステイン単独の組合せにより、いくぶんより良好なRBCに対するPIC−1の結合のクエンチングが提供され得ることを示唆する。
【0125】
(表12 種々の濃度のグルタチオンおよびシステインおよび0.2mMのPIC−1で処理したRBCにおける抗アクリジン抗体結合)
【0126】
【表12】

*ゲル上部にごくわずかな着色
(表13 種々の濃度のグルタチオンおよびシステインおよび0.2mMのPIC−1で処理したRBCにおける抗アクリジン抗体結合)
【0127】
【表13】

また、ジペプチドであるシステイン−グリシン(CysGly)をクエンチャーとして使用した。標準的な条件ならびに20mMの中和システイン(2当量の塩基)を、1当量の塩基を用いた、または用いていない種々の濃度のCysGlyと比較した。結果を表14に示す。結果は、クエンチャーの量が増加するにつれて、改善されたクエンチングのために、例えばクエンチャーの中和によるpHの調整が必要とされるというグルタチオンおよびシステインの両方で見られたものと一致する。
【0128】
(表14 中和ありまたはなしのCysGlyと20mMの中和システインまたは標準的な条件とのクエンチングの比較。抗アクリジン抗体結合のゲルカード解析。)
【0129】
【表14】

実施例9
本発明の方法の処理による標準処理済み赤血球で見られた交差反応性の排除
2mMのグルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理されているRBCと交差反応する抗体を発現した患者由来の血清を用い、改善された方法との交差反応性を評価した。O陰性血液(Blood Source,Sacramento,CA)を用いた試料を実施例1に記載のようにして調製し、2mMのグルタチオンおよび0.2mMのPIC−1、0.2mMのPIC−1に続いて1分後に20mMの中和グルタチオン(2当量の塩基)、または20mMの中和グルタチオンに続いて10分後に0.2mMのPIC−1のいずれかで処理した。また、未処理の対照RBC試料も調製した。各試料をBBSで3回洗浄し、次いで、低イオン強度の生理食塩水(AABBマニュアル,第14版)中にヘマトクリット8%まで懸濁した。50μLの各アリコートをゲルカードに、25μLの患者血清とともに添加し、混合物を37℃で15分間インキュベートした。ゲルカードは、患者血清由来の抗体が結合したRBCを凝集させるウサギ抗ヒトIgGを含有するものである。カードを実施例7のように遠心分離した。カードは、実施例7記載のものと同じ目盛りで読む。3種類の異なる血清を用いて試験した試料は、標準処理したRBCで3+、および対照未処理または20mM(2当量)の中和グルタチオン処理試料で0のスコアを示した。
【0130】
実施例10
チオールのクエンチングと独立したpH調整によるクエンチングを評価するためのモデルとしてのメチオニンの使用
メチオニン(Met)は、イオウ原子上にメチル置換基を有するが、それ以外は、非常にシステインと類似するため、これを、クエンチングに対するpH調整単独の効果を評価するためのモデルアミノ酸として使用した。メチル基の存在はイオウ原子の求核特性を排除するため、クエンチングは、溶液のpHの増加によるものであり得る(例えば、高濃度の水酸化物は、ある程度のクエンチングをもたらし得る)。メチオニン(Aldrich)を、1または2当量の塩基の添加を伴って20mMで用い、システイン(1または2当量)およびグルタチオン(2当量)(すべて、クエンチャーの10分後に0.2mMのPIC−1の添加を伴う)と比較する。標準的な条件、すなわち、0.2mMのPIC−1および2mMの酸性グルタチオンの同時添加を含めた。試料は、ゲルカード解析用の試料を37℃または室温でインキュベートした以外は実施例7のようにして、抗アクリジンウサギ血清結合のゲルカード解析によって評価する。結果を表15に示す。結果は、2当量の塩基で中和されたメチオニンは、標準的な条件と比べて改善されたクエンチングを提供することを示す。
【0131】
(表15 抗アクリジンウサギ血清結合のゲルカード解析によって評価したメチオニン、システインまたはグルタチオンを用いたクエンチング)
【0132】
【表15】

実施例11
20mMの中和グルタチオンおよび0.2mMのPIC−1で処理した完全体単位(whole unit)に関するインビトロ機能試験
赤血球濃縮物(Interstate Blood Bank,Inc.,Memphis,TN)の完全体単位を白血球低減処理した。200mL容量のこのRCC(80%ヘマトクリット)を94mLのErythrosolまたは100mLのAdsol(Baxter Healthcare Corp.,Deerfield,IL)(対照として)(単位1)と混合した。20mL容量の8%デキストロースを用いてPIC−1(mg)および酸性グルタチオン(mg)を溶解し、1単位にに添加して0.2mMのPIC−1および2mMのグルタチオン(単位2)を得た。単位3および4では、PIC−1(mg)およびグルタチオン(mg)を、それぞれ、10mLまたは8.8mLの8%デキストロースに別々に溶解した。グルタチオンには、1.2mLの10N NaOHを添加した(2当量)。PIC−1をこの単位と、続いて1分後(単位3)または5分後(単位4)にグルタチオンと混合した。単位5では、まず中和グルタチオンを、続いて10分後にPIC−1を混合した。単位6では、グルタチオンを18.8mLの8%デキストロースに溶解し、1.2mLの10N NaOHと混合し、次いでRBC(PIC−1なし)と混合した。すべての単位は、血液バッグの両端をつかみ、8の字の動きを30回で混合することにより混合した。次いで、これらを室温で合計20時間インキュベートした。対照試料以外はすべて、メッシュポーチ内に入れたポリマー樹脂で構成された化合物吸着デバイス(CAD)を使用した。このデバイスは、残留PIC−1、PIC−1分解生成物および試料由来のグルタチオンを除去することを目的とするものである。試料を8時間インキュベートし、次いで、CADを入れた第2の血液バッグに移した。さらに12時間インキュベートした。室温でインキュベーション後、試料を冷蔵庫(4℃)に移し、43日間まで保存した。アリコートを各単位から、混合の12時間および20時間後に、その後は1週間毎に取り出した。アリコートを、全ヘモグロビン、pH、細胞内ATP、血漿ヘモグロビン、カリウム、細胞外グルコースおよび細胞外乳酸について解析した。また、抗ウサギ血清結合を、実施例4に記載のようにして、FACScan解析によって評価した。CADで処理した、または処理していないPIC−1処理単位を用いて、試験を繰り返した。ATP、溶血および抗ウサギ血清結合の結果を表16A〜Cおよび17A〜Cに示す。
表16A〜C 試料の具体名:
1:未処理対照
2:標準処理 0.2mM PIC 1+2mMのGSH
3:0.2mMのPIC−1、1分間遅延、20mMのGSH+2当量の塩基
4:0.2mMのPIC−1、5分間遅延、20mMのGSH+2当量の塩基
5:20mMのGSH+2当量の塩基、10分間遅延、0.2mMのPIC−1
6:0.2mMのGSH+2当量の塩基
(表16A 42日間にわたる保存のATPデータ)
【0133】
【表16A】

(表16B 42日間にわたる保存の溶血パーセント)
【0134】
【表16B】

(表16C 42日間にわたる保存の抗アクリジン抗体結合(FACScan)によって測定されたRBC改変)
【0135】
【表16C】

表17A〜C 試料の具体名:
1:標準処理、0.2mMのPIC−1、2mMのGSH+CAD
2:標準処理、0.2mMのPIC−1、2mMのGSH
3:0.2mMのPIC−1、1分間遅延、20mMの中和GSH+CAD
4:0.2mMのPIC−1、1分間遅延、20mMの中和GSH
5:20mMの中和GSH、10分間遅延、0.2mMのPIC−1+CAD
6:20mM nGSH、10分間遅延、0.2mMのPIC−1
7:20mMの中和GSH
8:未処理対照
(表17A 42日間にわたる保存の細胞内ATP値)
【0136】
【表17A】

(表17B 42日間にわたる保存の溶血パーセント)
【0137】
【表17B】

(表17C 42日間にわたる保存の抗アクリジン抗体結合(FACScan)によって測定されたRBC改変)
【0138】
【表17C】

実施例12
ウサギモデルにおける処理済み赤血球の免疫反応性のインビボ評価
非限定的な一例の改善されたクエンチング方法を用いてS−303で処理している赤血球(RBC)(この実施例では、「改変S−303 RBC」という)の免疫反応性のインビボ評価を、同種(allogeneic)輸血モデルを用いて行なった。(改変S−303 RBCのプロトコルの記載については下記参照。)使用した同種輸血モデルは、遅延型溶血性輸血反応の機構を調べるためのNessらによって記載されたウサギモデル(Trans Med Rev,2001,15:305−17)に基づくものであった。該モデルにおいて、HgD−陽性赤血球を用いて、HgD−陰性レシピエント動物を免疫処置した。しかしながら、HgD−ミスマッチRBCのみが稀に(infrequently)抗体形成を引き起こすという文献と一致して、Nessらは、検出可能な力価の抗HgD抗体を生成させるために、アジュバントと組み合わせたHgD−陽性RBCの皮下投与を報告した。
【0139】
評価は、2段階で行なった。第1段階では、ウサギに、HgD遺伝子座がミスマッチの同種ウサギRBCを反復的に輸血し、オリジナルS−303プロセス(下記参照)で処理した。第1段階の評価項目は、長期同種輸血の状況のオリジナルS−303 RBCに対して抗体応答が生じるか否かを調べることであった。第2段階では、抗アクリジン抗体の形成を刺激するため、ウサギを、アジュバント中のKLH−アクリジンコンジュゲートで慣用的に免疫処置した。これらの免疫処置動物に、次いで、S−303 RBCを輸血した。第2段階の評価項目は、オリジナルおよび改変S−303 RBCプロセスによって調製されたRBCの回収および寿命を比較することことであった。第1段階および第2段階の実験の対照試料は、オリジナルおよび改良プロセスによって調製したS−220 RBCを含むものであった。S−220は、各処理プロセスで、RBCに対するアクリジン結合の観点で最悪のケースを表すものであろうS−303の非不安定型である。これらの試験の結果は、改変S−303が、インビボで高力価の抗体の存在によって影響を受けないことを示す。
【0140】
A.材料および方法
動物飼育(husbandry):New Zealand Whiteウサギの雄および雌は、試験の開始時、およそ5〜7月齢であり、体重は3.5〜4.5kgであった。ドナー動物は、HgD−陽性;レシピエントはHgD−陰性であった。
【0141】
試薬:デキストロースなしのErythrosolは、Baxter Healthcare製であり、表18の配合に従うものであった。8%デキストロース一水和物の溶液もまた、Baxter製であった。
【0142】
(表18.Erythrosolの組成(デキストロースなし))
【0143】
【表18】

この実施例で使用した病原体不活化化合物はPIC−1であり、これを、この実施例ではS−303という。S−303・2HClをγ線照射によって滅菌した。S−220と呼ばれるS−303の非崩壊性(frangible)類似体を対照として用いた。S−303(また、本明細書において「PIC−1」ともいう)およびS−220の化学構造は以下の通りである。
【0144】
【化4】

この2つの化合物は、S−303にのみ崩壊性のエステル結合が存在すること以外は、非常に類似した構造を有する。本明細書において、S−303を、崩壊性アンカーリンカーエフェクター(Frangible Anchor Linker Effector)化合物(FRALE)と、S220を、アンカーリンカーエフェクター化合物(ALE)とよぶことがある。
【0145】
GSHは、2つの様式:γ線照射(Baxter Healthcare)によって滅菌した予め計量した184mgの粉末として、またはRBC処理時に計量および製剤化するバルク物質(Aldrich,St.Louis MO)としての一方で提供した。
【0146】
RBC処理:RBCを、調製して24〜36時間以内に輸血した。血液は無菌的に、ACD−AのHgD−陽性ドナーから採取した。およそ410〜500mLの全血をプラスチック容器内にプールし、4200×gで6分間遠心分離した。血漿を除去した後、94mLのErythrosolをデキストロースなしで添加し、およそ60%のヘマトクリットを有する充填赤血球調製物を得た。充填赤血球を図2に示し、以下に記載する3つの様式のうちの1つで処理した。
【0147】
対照RBC:充填赤血球を20mLの8%デキストロースと混合し、次いで、輸液前に4℃で保存した(2日間まで)。
【0148】
オリジナルS−303 RBC:GSH(184mg)を20mLの8%デキストロースに溶解した。次いで、このGSH溶液(pH2.8〜3.0)を用いてS−303・2HC1(33mg)を溶解した。続いて、S−303/GSH溶液を充填赤血球に添加し、手作業で混合した。RBCを12時間室温でインキュベートし、次いで、化合物吸着デバイス(CAD)に、混合しながらさらに8時間曝露した。オリジナルプロセスにおけるS−303およびGSHの最終濃度は、それぞれ、0.2mMおよび2.0mMであった。次いで、オリジナルS−303 RBCを、輸液前に4℃で保存した。オリジナルプロセスでの処理は、ヒト臨床試験で使用されるものと同じ使い捨てキットを用いて行なった。
【0149】
改変S−303 RBC:GSH・HCl(2026mg)を滅菌プラスチックチューブ内に秤量し、9.32mLの8%デキストロースに溶解させた。次いで、酸性GSHを1.32mLの10N NaOH(これは2当量の塩基を表す)と合わせた。10mLの滅菌濾過した塩基性GSH含有デキストロース(pH9)を充填赤血球に添加し、手作業で混合した。10分以内に、S−303・2HCl(33mg)を、別途、10mLの8%デキストロースに溶解させ、充填赤血球含有GSHに添加し、手作業で混合した。改変S−303 RBCを室温でインキュベートし、オリジナルプロセスと同一の様式でCADに曝露した。改良プロセスにおけるS−303およびGSHの最終濃度は、それぞれ、0.2mMおよび20mMであった。
【0150】
S−220 RBC:S−220は、不安定性エステルを欠くS−303の類似体であり、したがって、アクリジンは、RBC処理中、加水分解によって分子の残部から切断され得ない。S−220 RBCは、S−303について記載したオリジナルまたは改良プロセスと同様の方法を用いて調製し、可能であればいつでも、オリジナルプロセスの使い捨てキットを使用した。オリジナルS−220 RBCでは、S−220およびGSHの最終濃度は、それぞれ、0.2mMおよび2.0mMであった。改変S−220 RBCでは、S−220およびGSHの最終濃度は、それぞれ、0.2mMおよび20mMであった。
【0151】
アクリジン免疫処置:高力価の抗アクリジン抗体を惹起するため、第2段階において、ウサギをKLH−アクリジンコンジュゲートで免疫処置した。KLH−アクリジンは、2〜5mLの規模で、等モル量(476μM)のKLH(Pierce Biotechnology,IL)およびS−220をリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)中で48時間、室温にて反応させることにより調製した。S−220の低分子分解生成物をKLH−アクリジンから、脱塩カラムに通すことにより分離した。KLH−アクリジンコンジュゲートは、その吸収が210および410mnであることを特徴とし、KLHに対するアクリジンの比を、S−220の吸光率を用いて測定した。典型的には、1分子のKLHに対して200〜400個のアクリジン付加物が形成された。KLH−アクリジン溶液を使用まで冷蔵した。第1日に、ウサギを、完全フロイントアジュバント(0.5mg/mL)とともにKLH−アクリジンで、膝窩、肩甲骨前部および大腿前部のリンパ節上部の10ヶ所の部位(およそ0.1mL/部位)の皮下に免疫処置した。第8、15、36および64日に動物にフロイント不完全アジュバント(0.25mg/mL)とともにKLH−アクリジンで、同じ部位(およそ0.1mL/部位)に追加免疫した。ウサギ血清試料を、抗体の形成について隔週で試験した。
【0152】
アクリジンに対する抗体の検出(第1段階):アクリジンに対する抗体を、フローサイトメトリーアッセイを用いて検出した。ヒトS−303 RBCを、オリジナル処理プロセスを用いて試験試薬として調製した。ウサギ血清を1:4に希釈し、25μLの希釈血清を50μLのヒトS−303 RBC(0.8%ヘマトクリット)と混合した。予備免疫処置血清を陰性対照として試験した。試料を30分間37℃でインキュベートし、次いで、50μLの血液バンク生理食塩水中で洗浄および再懸濁した。FITC標識ヤギ抗ウサギIgG(供給業者)を1:64に希釈し、25μLをRBC試料とともに30分間37℃でインキュベートした。試料を、再度洗浄し、結合抗体複合体を検出するためのFL1チャネルを用いてFACSによって解析した。いったん陽性血清が同定されたら、複数の希釈度のウサギ血清を用いて、同じ手順を行ない、終点力価を測定した。
【0153】
アクリジンに対する抗体の検出(第2段階):ヒトS−303 RBCを、オリジナル処理プロセス(0.2μM S−303、2mMのGSH)を用いて試験試薬として調製した。RBCを血液バンク生理食塩水(BBS,Fisher Scientific)中で3回洗浄し、BBS中でおよそ4%ヘマトクリットまで希釈した。第VおよびVI群のウサギ由来の血清をBBS中で連続希釈した。25μlの4%RBCを15μlのウサギ血清と合わせ、30分間37℃でインキュベートさせた。陰性対照には、血清の代わりにBBSを使用した。インキュベーション後、RBCをBBS中で3回洗浄し、次いで、BBS中で1:64に希釈したFITC コンジュゲートヤギF(ab’)抗ウサギIgG(H&L)(Caltag)50μl中に再懸濁した。RBCを30分間37度(oC)でインキュベートし、BBSで3回洗浄した。次いで、試料を1mlのHaemaLine−2(HL2,Sereno Diagnostics)に再懸濁した。試料を、結合抗体複合体を検出するFL1チャネルを用いてFACSによって解析した。
【0154】
RBC輸液およびRBC寿命の測定:RBCを、耳の静脈から1mL/分で、輸血ポンプを用いて静脈内投与した。第1段階では、ウサギに10mLのRBC/kgを投与したが、第2段階では、ウサギに4mLのRBC/kgを投与した。10mL/kg用量は、鎌状赤血球およびサラセミア(thallasemia)患者のためのレジメンで1ヶ月に輸血される血液のおよその量に相当する。
【0155】
S−303またはS−220いずれかでの処理後、RBCのビオチン化を行なった。RBC(300mL)を、200mLのPBSG(12mMリン酸塩,138mM NaCl,2.7mM KCl,5mMグルコース,pH7.4)で2回洗浄し、同じ培地中に再懸濁した。次いで、これを60μM NHS−ビオチン(Aldrich,St Louis MO)を含有する等容量のPBSGと混合し、1時間37℃でインキュベートした。インキュベーション後、これを200mLのPBSGで3回洗浄し、最後に、PBSG中に50%ヘマトクリットで再懸濁し、輸血まで冷蔵保存した。
【0156】
RBCの寿命をFACScan解析によって評価した。輸血後、一定間隔(1、3、7、15、21および28日間)ですべての動物からウサギ血液を採取した。試料を80ミクロンフィルターに通して微小物質(microclot)を除去し、PBSG中0.07%HCTに希釈した。フィコエリトリン標識ストレプトアビジン(1:100希釈度,Molecular Probes)とともに暗所で室温にて20分間インキュベートした。5倍希釈した試料に対してFACS解析を行ない、正確な細胞定量を可能にするため、400事象/秒の速度で合計50,000事象を収集した。ビオチン化RBCの寿命を、第0日の100%回収に外挿することにより算出した。次いで、以降の日の値を第0日の値のパーセントで示した。適宜、寿命の差の統計的有意性を、Student t−検定を不均一分散(heteroskedastic)解析とともに用いて解析した。
【0157】
B.第1段階:ミスマッチRBCの反復輸液
第1段階において、S−303 RBCに対する応答が検出され得るか否かを調べるため、動物に、HgD遺伝子座がミスマッチの同種RBCを10mL/kgで、隔週で24週間輸血した。動物のコホートを表19に記載する。
【0158】
(表19.第1段階における動物のコホート)
【0159】
【表19】

血清試料を、1週間隔で採取し、フローサイトメトリー系アッセイにおいて抗アクリジン抗体の存在について試験した。簡単には、オリジナルプロセス(0.2mMのS−303および2mMのGSH)によって調製したヒトS−303 RBCを、1:4希釈度のウサギ血清とともにインキュベートした。洗浄後、結合したウサギ抗体の存在を、FITCで標識したヤギ抗ウサギIgGを用いて検出した。陽性結果のみが1:4希釈度の第3群において検出された。24週間にわたる輸液の結果を図1に示す。KLH−アクリジンで免疫処置した動物は、ロバストな抗アクリジン抗体応答を示した。対照的に、オリジナルプロセスによって調製したS−303またはS−220 RBCで反復輸血した動物では、有意な抗体応答はなかった。
【0160】
図1に示す結果を、ほとんどの血清試料について、オリジナルプロセスで処理したヒトS−303 RBCを用いた凝集アッセイを行なうことにより確認した。KLH−アクリジンで免疫処置した第3群動物由来の血清のみ、ヒトS−303 RBCを凝集させることが示された。また、本発明者らには、いずれのレシピエント動物でも抗HgD応答は観察されなかった。
【0161】
C.第2段階:KLH−アクリジンで免疫処置したウサギにおけるRBC寿命の測定
S−303またはS−220で処理した抗原−ミスマッチRBC調製物の反復輸液では、抗アクリジン免疫応答が生じなかったため、第2段階では、よりストリンジェントなアプローチを採用して抗アクリジン抗体を惹起した。アジュバントを含めた慣用的な初回免疫刺激/追加免疫レジメンを用いて、動物をKLH−アクリジンで免疫処置し、次いで、ウサギにおける種々の処理済みRBC調製物のインビボ寿命または高力価抗体を測定した。第1段階の結果は、KLH−アクリジンでの皮下免疫処置によりウサギを免疫処置し、高い抗体力価を得ることは実現可能であることを示した。
【0162】
また、第2段階では、第1、2および4群における動物を用いた。これらの群をさらに群分けし、亜群の動物をKLH−アクリジンで免疫処置し、残りは、その既存の輸血レジメンで維持した。いずれの型のRBC輸液も受けていないHgD−陰性ウサギの2つのさらなるコホートを第2段階で加えた。第2段階の実験コホートについて表20に記載する。
【0163】
(表20.第2段階における動物のコホート)
【0164】
【表20】

免疫処置中、第2段階では、抗体産生を、第1段階で用いたものと同じFACSおよび凝集アッセイによって毎週追跡した。およそ8週間後、KLH−アクリジンで免疫処置したウサギはすべて、ヒトS−303 RBCに特異的な強い抗体応答を示したが、種々のRBC調製物で免疫処置した動物由来の血清は非反応性状態が継続された。
【0165】
第VおよびVI群由来の血清における抗アクリジン抗体力価を測定した。フローサイトメトリー解析を用い、第VおよびVI群の第1回輸血前(オリジナルプロセスでのRBC)および第2回輸血前(改良プロセスでのRBC)動物由来の血清試料を滴定した。第V群動物にはS−303で処理したRBCを与え、一方、第VI群の動物には、S−220処理RBCを輸血した。
【0166】
力価を、平均蛍光がバックグラウンドより上である希釈度の血清と定義した。すべてのウサギが高力価の抗アクリジン抗体を有した。第V群の力価は、第1回輸血前(「Pre−T1」)に採取した血清において、第2回輸血前(「Pre−T2」)と比べてわずかに低かった。第VI群での力価は、どちらの輸血前でも同じであった。
【0167】
(表21.第1回輸血および第2回輸血前の平均終点力価/群)
【0168】
【表21】

いったんKLH−アクリジン免疫処置による血清抗体が確認されたら、種々のRBC調製物のインビボ寿命を調べるために各動物に輸血した。ビオチン標識を用い、RBCのインビボ循環を追跡した(SuzukiおよびDale(1987)Blood 70:791−5)。NHS−ビオチンは、RBC膜タンパク質に対する共有結合を形成し、蛍光標識されたストレプトアビジンを用いて検出され得る。ウサギには、表22のスキームに従って、およそ4mLのRBC/kgを与えた。第0日の輸血後、第1、3、7、15、21および28日に血液を採取し、第0日と比べたときの循環ビオチン標識細胞の割合を測定した。試験RBCは、表22に示すように、未処理対照RBC、オリジナルもしくは改良手順を用いて調製したS−303 RBC、またはオリジナルまたは改良手順を用いて調製したS−220 RBCのいずれかであった。
【0169】
(表22.動物のコホートのRBC寿命を測定するための輸血)
【0170】
【表22】

* すべてのRBC調製物は、輸液前にビオチン標識した
オリジナルプロセスによって調製されたRBCの寿命:対照RBCの生存を、非免疫ウサギおよびアクリジン免疫ウサギ(それぞれ、亜群IAおよびIB、表21)において測定した。これらの亜群間でRBCの寿命に差が無かったため、データを、以下にグラフにより、4匹すべての動物を合わせて平均回収パーセントとして示す。対照RBCを与えた動物を、その他のすべての群に対する比較対象として使用した。
【0171】
第4および6群には、オリジナルプロセスによって調製したS−220 RBCを第1回輸血で与えた。S−220は、ハプテン形成の「最悪ケース」であるため使用した。アクリジンは、インビトロ処理中または後のインビボ循環中のいずれにおいても加水分解され得ない。第4Aおよび4B群には、試験の第1段階でオリジナルS−220 RBCを輸血しているが、第6群は、S−220 RBC未処理とした(表20)。動物の免疫処置履歴に依存して、オリジナルS−220 RBCの寿命に著しい差があった(図2)。対照RBCを与えた第1群の動物は最も長いRBC寿命を有し、ビオチン化RBCが第57日に循環中に検出され得た。対照RBCクリアランスは、時間とともにほぼ線形であった。対照的に、KLH−アクリジンで免疫処置し、S−220 RBCを一度も輸血していない第6群は、オリジナルS−220 RBCの急速なクリアランスを示した。本質的に、S−220 RBCは、第20日に検出可能でなかった。これは、KLH−アクリジン手順によって免疫処置したが、第6群とは異なり、第1段階でオリジナルS−220 RBCも反復的に輸血した第4B群のウサギが、有意に長いRBC生存を示したことを示す。それにもかかわらず、第4B群でのオリジナルS−220の寿命は、第4A群(KLH−アクリジンで免疫処置しなかった)と比べて短かった。第1群(対照RBCを与えた)および第4A群(オリジナルS−220 RBCを与えた)で測定されたRBC寿命は同程度であったが、第1群において、より多くの割合の対照RBCが、3週間を超えて循環していた。
【0172】
第2A、2Bおよび5群において、オリジナルS−303 RBCの寿命を測定することにより同様の比較を行なった(図3)。最も短い寿命は、KLH−アクリジンに対して免疫処置し、S−303 RBC未処理とした第5群のウサギのS−303 RBCで観察された。しかしながら、第6群とは異なり、オリジナルS−303 RBCは、第20日までにクリアランスされず、ビオチン化S−303 RBCが第57日まで検出され得た。興味深いことに、高レベル循環抗アクリジン抗体を有した第2B群のウサギでのオリジナルS−303 RBCの寿命は、対照RBCを与えた第1群と、測定され得る程度には異ならなかった。第2B群と第5群のウサギの結果の比較において、オリジナルS−303 RBCへの事前曝露によって、RBCクリアランスに対する抗アクリジン抗体の効果が改善されたと思われる。この予期しない結果は、オリジナルS−220 RBCを用いた第4Bおよび6群で観察されたものと類似する(図2)。
【0173】
改良プロセスによって調製されたRBCの寿命:改良プロセスは、多数のパラメータを変更することにより、GSHによるクエンチングを改善するために開発した。第1に、GSHの量を10倍増加させた。第2に、GSHを、RBCへの添加前にNaOHで滴定した。これにより、−SH基の求核性が改善される。このような変更により、RBC表面に結合したS−303の有意な低減がもたらされる(例えば、実施例5および実施例13を参照)。改変S−220 RBCを、同じアプローチを用いて調製した。
【0174】
改変S−220 RBCの寿命を、第4A、4Bおよび6群において評価した(図4)。オリジナルプロセスにより調製したS−220 RBCで先に観察されたように、第6群動物での改変S−220 RBCの寿命は、第1群の動物に輸血された対照RBCと比べ、有意に低減された。しかしながら、経時的な改変S−220 RBCの循環の減少は、オリジナルS−220 RBCを用いた同じ動物で観察されたものより有意に少なかった。例えば、改変RBCは平均18パーセントが第14日に循環していたが、オリジナルRBCは、同じ時点で1.4%のみが観察された。また、第4A群(抗体なし)および第4B群(KLH−アクリジン誘導抗体)における改変S−220 RBCの寿命は、第1群の対照RBCと同等またはより良好であった。先のデータ(図3)と一致して、オリジナルS−220 RBCに対する事前曝露により、高力価抗体の存在下であっても、S−220 RBCの寿命が延長されたと思われる。
【0175】
最後に、第2A、2Bおよび5群における改変S−303 RBCの寿命を図5に示す。すべての場合で、改変S−303 RBCの寿命は対照RBCと同等であった。これは、オリジナルS−303 RBCのクリアランスの増大を示した第5群の動物であってもそうであった。この重要なデータは、改良プロセスによって調製されたS−303−処理済みRBCが、いくつかの供給源から誘導された抗アクリジン抗体とインビトロで免疫反応性でないというインビトロ所見を支持する。これには、患者血清、マウスモノクローナル抗体、およびウサギポリクローナル抗血清が挙げられる。
【0176】
実施例13
S−303処理RBCのさらなるFACScan解析
RBCをS−303(PIC−1)結合について試験するフローサイトメトリーのため、50μLの血液を1.2mLの0.9%生理食塩水中で3回洗浄し、次いで、0.75mL生理食塩水中におよそ4%ヘマトクリットまで再懸濁した。25μLのRBCを、1:100に希釈した抗アクリジンウサギ血清15μLと合わせた。30分間37℃でインキュベーション後、試料を上記のようにして3回洗浄した。次いで、RBCペレットを、0.1%ウシ血清アルブミン中1:64の希釈度で調製したFITC標識ヤギ抗ウサギ抗体(Caltag)50μL容量中に再懸濁した。試料を暗所で30分間37℃にてインキュベートした。さらに3回洗浄後、RBCを1mLのHaemaLine−2(Serono Diagnostics)中に再懸濁した。0.01%ヘマトクリットに希釈後、20,000事象を収集し、600nmでの蛍光について解析した。
【0177】
改良プロセスでは、フローサイトメトリーアッセイを用いて検出したとき、RBC表面に対するS−303結合が有意により低いレベルになる。RBCに結合されたS−303は、ウサギをアジュバントとともにKLH−アクリジンコンジュゲートで免疫処置することにより作製したポリクローナルウサギ抗血清を用いて検出した。次いで、結合ウサギIgGを、FITC標識ヤギ抗ウサギIgGを用いて検出した。FACScanの結果を、オリジナルおよび改良プロセスを用いて調製した9個の個々のRBCプールについて図6に示す。各プールについて、FACScanアッセイを用いてC−RBC、O−RBCおよびM−RBCに対するS−303結合を検出した。RBC表面に対するS−303の結合は、オリジナルプロセスと比べ、改良プロセスによって15〜35倍低減された。
【0178】
本明細書に記載した実施例および実施形態は、例示の目的にすぎないこと、およびこれに鑑みた種々の修正または変更は、当業者に示唆され、本出願の精神および範囲内に含まれるものとすることを理解されたい。
【0179】
本明細書で挙げたすべての刊行物、特許、特許出願および受託番号(ポリヌクレオチドおよびポリペプチドの両方の配列を含む)は、引用によりその全体が、個々の各刊行物、特許、特許出願または受託番号が引用により組み込まれて具体的かつ個々に示されているのと同程度に、あらゆる目的のために本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−107068(P2012−107068A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−50837(P2012−50837)
【出願日】平成24年3月7日(2012.3.7)
【分割の表示】特願2007−539281(P2007−539281)の分割
【原出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(505297024)シーラス コーポレイション (10)
【Fターム(参考)】