説明

赤血球含有試料における目的成分の測定方法

【課題】 赤血球含有試料のHt値による影響を抑制して、優れた信頼性で目的成分を測定する測定方法を提供する。
【解決手段】 本発明の測定方法は、まず、測定に先立ち、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係を提供する。そして、バイオセンサにより、赤血球含有試料中の目的成分由来の複数のシグナルを取得し、前記関係を参照し、前記赤血球含有試料について取得した前記複数のシグナルから、前記試料中の目的成分の量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤血球含有試料における目的成分の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液中の目的成分を測定するために、バイオセンサを用いて、電気化学的シグナルまたは光学的シグナルを検出する方法が、汎用されている。前記シグナルの大きさまたは強度を示すシグナル値は、前記目的成分の量に対応するため、前記シグナル値の測定によって、血液中の目的成分の量を測定できる。
【0003】
このような測定において、血液のヘマトクリット値(Ht値)の影響が問題視されている。血液のHt値は、一般に、30〜55%が正常値とされているが、貧血の場合には、前記正常値よりも低い値を示し、多血症の場合には、前記正常値より高い値を示すこともある。このように、血液のHt値は、個々で異なるため、Ht値が不明である血液試料について前記目的成分の測定を行うと、Ht値の影響により、目的成分の量を正確に決定できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/079652号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1645876号明細書
【特許文献3】国際公開第2007/121111号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、赤血球含有試料のHt値による影響を抑制して、優れた信頼性で目的成分を測定する測定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の測定方法は、赤血球含有試料中の目的成分を、バイオセンサを用いて測定する測定方法であって、下記(A)、(B)および(C)工程を含むことを特徴とする。
(A)測定に先立ち、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係を提供する工程
(B)前記バイオセンサにより、前記赤血球含有試料中の目的成分由来の複数のシグナルを取得する工程
(C)前記(A)工程の前記関係を参照し、前記(B)工程の複数のシグナルから、前記試料中の目的成分の量を求める工程
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係を参照することによって、前記目的成分の測定に対するHt値の影響を補正し、より正確に前記赤血球含有試料中の目的成分量を測定することが可能である。このため、本発明は、分析または臨床の分野等において、極めて有用といえる。
【0008】
本発明者らは、赤血球含有試料の目的成分量を、目的成分由来のシグナルに基づいて測定するにあたり、(1)目的成分量が同じであっても、前記試料のHt値に応じて前記シグナルが変動すること、ならびに、(2)シグナルを複数測定すると前記シグナルが変動すること、を見出した。この知見に基づき、本発明者らは、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係を参照することによって、前記赤血球含有試料の目的成分量を、より正確に測定する本発明を完成するに到った。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施例1において、グルコースを含み且つ所定のHt値を示す標準試料について、電圧印加から5秒後の電流と10秒後の電流との関係を示すグラフである。
【図2】図2は、グルコースを含み且つ所定のHt値を示す標準試料について、電圧印加から5秒後の電流とグルコース濃度との関係を示すグラフである。
【図3】図3は、本発明の実施例2において、二次多項式に基づいた、10秒後の電流(A10)と5秒後の電流(A)との関係をプロットしたグラフである。
【図4】図4は、本発明の実施例2において、アルゴリズムにより補正したHt値のエラー(%Ht)を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の実施例4において、アルゴリズムにより補正したグルコース濃度と既知グルコース濃度との関係を示すグラフである。
【図6】図6は、従来法のアルゴリズムにより算出したグルコース濃度と既知グルコース濃度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の測定方法は、前述のように、赤血球含有試料中の目的成分を、バイオセンサを用いて測定する測定方法であって、下記(A)、(B)および(C)工程を含むことを特徴とする。
(A)測定に先立ち、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係を提供する工程
(B)前記バイオセンサにより、前記赤血球含有試料中の目的成分由来の複数のシグナルを取得する工程
(C)前記(A)工程の前記関係を参照し、前記(B)工程の複数のシグナルから、前記試料中の目的成分の量を求める工程
【0011】
本発明の測定方法において、「シグナルを取得する」は、例えば、「シグナルを測定する」ということもできる。また、「シグナル」を取得または測定するとは、例えば、シグナルの大きさまたは強さ等を表す「シグナル値」を取得または測定することを意味する。また、シグナルの変動は、例えば、シグナル値の変動を意味する。
【0012】
本発明の測定方法は、前記(A)工程において、測定に先立ち、異なるHt値における、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係を提供してもよい。
【0013】
本発明の測定方法において、前記複数のシグナルは、例えば、複数の時点で取得したシグナルでもよいし、複数の検出部位で取得したシグナルでもよい。以下に、本発明の測定方法として、前記複数のシグナルが複数の時点で取得したシグナルである第1の測定方法、および、前記複数のシグナルが複数の検出部位で取得したシグナルである第2および第3の測定方法について、それぞれ説明する。本発明は、これらの形態に制限されない。
【0014】
(第1の測定方法)
本発明の第1の測定方法は、前述のように、前記複数のシグナルとして、複数の時点で取得したシグナルを使用して、赤血球含有試料の目的成分を測定する方法である。
【0015】
本発明の第1の測定方法は、前述のように、前記(1)目的成分量が同じであっても、前記試料のHt値に応じて前記シグナルが変動する、前記(2)シグナルを複数測定すると、前記シグナルが変動するとの発明者らによる知見に基づき、完成されるに到った。前記(1)は、例えば、前記シグナルが、目的成分量の増加に伴って増加するシグナルの場合、前記シグナルは、Ht値が相対的に高値であるほど減少し、Ht値が相対的に低値であるほど増加するという知見である。また、前記(2)は、例えば、前記シグナルが、目的成分量の増加に伴って増加するシグナルの場合、経時的にシグナルを検出すると、前記シグナルは、検出する時点が相対的に遅いほど減少するという知見である。
【0016】
本発明によれば、複数の時点で取得したシグナルから、例えば、赤血球含有試料のHt値を換算できる。これによってHt値の影響を補正して、前記試料の目的成分を測定できる。また、本発明によれば、例えば、前記試料のHt値を換算することなく、Ht値の影響を補正して、前記試料の目的成分を測定することもできる。
【0017】
本発明は、前記(A)工程において、測定に先立ち、異なるHt値における、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係を提供することが好ましい。また、前記(A)工程において、前記関係は、例えば、前記目的成分の量に応じた複数のシグナルと、Ht値との関係であってもよい。
【0018】
前記複数の時点で取得したシグナルは、例えば、経時的に複数回取得したシグナルを意味する。前記時点の数、すなわち、シグナル取得の回数は、複数時点であればよく、特に制限されず、例えば、2時点以上であり、好ましくは2〜4時点、より好ましくは2〜3時点、さらに好ましくは2時点である。
【0019】
前記複数のシグナルは、例えば、同じ検出部位から取得したシグナルであることが好ましい。
【0020】
前記シグナルを取得する時間の間隔は、特に制限されず、例えば、シグナルの種類、目的成分の種類、シグナルを発生するための条件等によって、適宜決定できる。具体例として、前記複数のシグナルは、例えば、1〜20秒の間隔で取得したシグナルであることが好ましく、より好ましくは5〜10秒であり、さらに好ましくは4〜5秒である。
【0021】
前記複数のシグナルについて、シグナルの取得開始時間と、シグナルの取得終了時間とは、特に制限されず、例えば、シグナルの種類、目的成分の種類、シグナルを発生するための条件等によって、適宜決定できる。前記複数のシグナルのうち、最初に取得するシグナルは、例えば、シグナル発生が可能となった時点を0秒として、1〜20秒の間に発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは5〜10秒の間に発生するシグナルであり、さらに好ましくは4〜5秒の間に発生するシグナルである。また、前記複数のシグナルのうち、最後に取得するシグナルは、例えば、シグナル発生が可能となった時点を0秒として、5〜20秒の間に発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは5〜10秒の間に発生するシグナルであり、さらに好ましくは5〜6秒の間に発生するシグナルである。
【0022】
本発明の第1の測定方法において、前記シグナルを取得するタイミングは、特に制限されず、例えば、シグナルの種類、目的成分の種類、シグナルを発生するための条件等によって、適宜決定できる。具体例として、前記複数のシグナルは、例えば、シグナル発生が可能となった時点を0秒として、10秒以降に発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは6秒以降に発生するシグナルであり、さらに好ましくは4秒以降に発生するシグナルである。また、前記複数のシグナルは、例えば、シグナル発生が可能となった時点を0秒として、20秒までに発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは10秒までに発生するシグナルであり、さらに好ましくは5秒までに発生するシグナルである。また、前記シグナルは、例えば、シグナル発生が可能となった時点を0秒として、10〜15秒の間に発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは6〜10秒の間に発生するシグナルであり、さらに好ましくは4〜5秒の間に発生するシグナルである。
【0023】
本発明の第1の測定方法において、前記シグナルは、例えば、電気化学的測定により検出可能なシグナル(以下、「電気シグナル」ともいう)でもよい。この場合、前記電気シグナルは、例えば、前記バイオセンサの検出部位である作用極から検出可能なシグナルであることが好ましい。
【0024】
前記電気シグナルの種類は、特に制限されず、例えば、電流、電流から変換された電圧、および、これらに応じたデジタル信号等でもよい。これらの電気シグナルは、例えば、公知の方法によって相互に変換できる。具体例として、前記電気化学的測定により電流を測定した場合、前記電流は、例えば、電流/電圧変換器等によって電圧に変換でき、また、アナログ信号である電圧は、例えば、A/D(アナログ/デジタル)変換器によってデジタル信号に変換できる。
【0025】
前記電気シグナルを取得する時間の間隔は、特に制限されず、例えば、目的成分の種類、電気シグナルを発生するための条件等によって、適宜決定できる。具体例として、前記複数の電気シグナルは、例えば、1〜10秒の間隔で取得した電気シグナルであることが好ましく、より好ましくは1〜5秒であり、さらに好ましくは1〜2秒である。
【0026】
前記複数の電気シグナルについて、取得開始時間と取得終了時間とは、特に制限されず、例えば、目的成分の種類、電気シグナルを発生するための条件等によって、適宜決定できる。前記複数の電気シグナルのうち、最初に取得する電気シグナルは、例えば、電圧印加時を0秒として、1〜20秒の間に発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは5〜10秒の間に発生するシグナルであり、さらに好ましくは4〜5秒の間に発生するシグナルである。また、前記複数の電気シグナルのうち、最後に取得する電気シグナルは、例えば、電圧印加時を0秒として、5〜20秒の間に発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは5〜10秒の間に発生するシグナルであり、さらに好ましくは5〜6秒の間に発生するシグナルである。
【0027】
前記電気シグナルを取得するタイミングは、特に制限されず、例えば、目的成分の種類、電気シグナルを発生するための条件等によって、適宜決定できる。具体例として、前記複数の電気シグナルは、例えば、電圧印加時を0秒として、10秒以降に発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは5秒以降に発生するシグナルであり、さらに好ましくは4秒以降に発生するシグナルである。また、前記複数の電気シグナルは、例えば、電圧印加時を0秒として、20秒までに発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは10秒までに発生するシグナルであり、さらに好ましくは5秒までに発生するシグナルである。また、前記電気シグナルは、例えば、電圧印加時を0秒として、1〜20秒の間に発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは5〜10秒の間に発生するシグナルであり、さらに好ましくは4〜5秒の間に発生するシグナルである。
【0028】
また、本発明の第1の測定方法において、前記シグナルは、例えば、光学的測定により検出可能なシグナル(以下、「光学シグナル」ともいう)でもよい。前記光学シグナルの種類は、特に制限されず、例えば、吸光度、反射率、透過率、および、これらに応じたデジタル信号等でもよい。これらの光学シグナルは、例えば、公知の方法によって、相互に変換できる。
【0029】
前記光学シグナルは、例えば、検出器により検出できる。前記検出器は、例えば、前記バイオセンサ内に配置されてもよいし、前記バイオセンサ外に配置されてもよい。後者の場合、例えば、光学シグナルの検出前から、予め、前記バイオセンサと前記検出器とを連結させてもよいし、検出時に、前記バイオセンサと前記検出器とを連結させてもよい。
【0030】
前記光学シグナルを取得する時間の間隔は、特に制限されず、例えば、目的成分の種類、光学シグナルを発生するための条件等によって、適宜決定できる。具体例として、前記複数の光学シグナルは、例えば、1〜20秒の間隔で取得した光学シグナルであることが好ましく、より好ましくは5〜10秒であり、さらに好ましくは4〜5秒である。
【0031】
前記複数の光学シグナルについて、取得開始時間と取得終了時間とは、特に制限されず、例えば、目的成分の種類、光学シグナルを発生するための条件等によって、適宜決定できる。前記光学シグナルのうち、最初に取得する光学シグナルは、例えば、シグナル発生が可能となった時点を0秒として、1〜20秒の間に発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは5〜10秒の間に発生するシグナルであり、さらに好ましくは4〜5秒の間に発生するシグナルである。また、前記複数の光学シグナルのうち、最後に取得する光学シグナルは、例えば、シグナル発生が可能となった時点を0秒として、5〜20秒の間に発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは5〜10秒の間に発生するシグナルであり、さらに好ましくは5〜6秒の間に発生するシグナルである。シグナル発生が可能となった時点は、例えば、光学シグナルを発生させるための反応開始時があげられる。
【0032】
前記光学シグナルを取得するタイミングは、特に制限されず、例えば、目的成分の種類、光学シグナルを発生するための条件等によって、適宜決定できる。具体例として、前記複数の光学シグナルは、例えば、シグナル発生が可能となった時点を0秒として、10秒以降に発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは6秒以降に発生するシグナルであり、さらに好ましくは4秒以降に発生するシグナルである。また、前記複数の光学シグナルは、例えば、シグナル発生が可能となった時点を0秒として、20秒までに発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは10秒までに発生するシグナルであり、さらに好ましくは5秒までに発生するシグナルである。また、前記光学シグナルは、例えば、シグナル発生が可能となった時点を0秒として、1〜20秒の間に発生するシグナルであることが好ましく、より好ましくは5〜10秒の間に発生するシグナルであり、さらに好ましくは4〜5秒の間に発生するシグナルである。
【0033】
本発明の第1の測定方法において、前記シグナルは、例えば、前記目的成分との酸化還元反応に基づくシグナルがあげられる。前記酸化還元反応の種類は、例えば、目的成分の種類に応じて適宜決定できる。
【0034】
前記酸化還元反応は、特に制限されず、例えば、目的成分の種類に応じて、必要な試薬を用いた酸化還元反応があげられる。具体例として、前記酸化還元反応は、酸化反応および還元反応の少なくとも一方を触媒する酵素と、メディエータまたは発色基質とを用いた反応があげられる。前記シグナルが電気シグナルの場合、前記メディエータは、例えば、電子伝達物質が使用でき、具体例として、ルテニウム錯体、鉄錯体、他の有機金属錯体、有機金属錯体ポリマー、導電性イオン塩、ベンゾキノン等の有機メディエータ化合物等があげられる。前記酵素は、例えば、目的成分の種類に応じて適宜決定できるが、例えば、酸化酵素、還元酵素、酸化還元酵素等があげられる。また、前記シグナルが光学シグナルの場合、前記発色基質は、酸化または還元により発色する発色基質、酸化または還元により蛍光を発する蛍光基質等があげられる。前記酵素と、前記メディエータまたは発色基質とは、例えば、バイオセンサにおいて、試料の供給部または試料の移動部等に、固定化されていることが好ましい。
【0035】
本発明の第1の測定方法において、前記(A)工程は、前述のように、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係(以下、「特定の関係」ともいう)を提供する工程である。この特定の関係を参照することで、前記目的成分の測定に対するHt値の影響を補正でき、より正確に、前記赤血球含有試料中の目的成分量を測定することが可能となる。この特定の関係を設定する方法は、特に制限されない。例えば、前記特定の関係は、目的成分濃度が既知である標準試料について、複数のシグナルを取得することによって、設定できる。また、前記既知濃度の標準試料は、異なるHt値の複数の標準試料であることが好ましい。
【0036】
前記標準試料についての複数のシグナルは、特に制限されず、例えば、以下のようにして取得できる。
【0037】
まず、Ht値が異なる複数の標準試料を準備する。前記標準試料の種類は、特に制限されず、例えば、2種類以上であり、好ましくは3種類以上、より好ましくは5種類以上であり、特に好ましくは10種類以上である。例えば、前記標準試料の種類が相対的に多い程、より信頼性に優れた測定が可能となることから、前記種類の上限は、特に制限されない。前記標準試料のHt値は、特に制限されず、前述のように、例えば、異なるHt値であればよく、その値は、既知でもよいし、未知でもよい。前記標準試料のHt値は、例えば、正常値と異常値とを含む範囲であることが好ましい。Ht値は、一般に、正常値が約30〜55%であり、異常値の上限が、約70%であり、異常値の下限が、約10%である。したがって、前記標準試料のHt値は、例えば、10〜70%の範囲内であることが好ましい。前記複数の標準試料として、特に、上限付近のHt値の標準試料、下限付近のHt値の標準試料および正常値のHt値の標準試料を少なくとも含むことが好ましい。
【0038】
つぎに、前記各標準試料のそれぞれについて、目的成分濃度を変化させた目的成分濃度系列を準備する。前記目的成分濃度は、例えば、前記標準試料ごとに異なってもよいが、同じであることが好ましい。前記標準試料における前記目的成分濃度系列の種類、つまり、目的成分濃度のバリエーションは、特に制限されず、例えば、2段階以上であり、好ましくは3段階以上、より好ましくは5段階以上であり、特に好ましくは10段階以上である。前記目的成分濃度系列の種類が相対的に多い程、より信頼性に優れた測定が可能となることから、例えば、前記種類の上限は、制限されない。前記目的成分濃度系列における濃度は、特に制限されず、例えば、目的成分の種類、シグナルを発生するための条件、シグナルの取得方法等によって、適宜決定できる。前記濃度は、例えば、目的成分の種類に応じて、正常値と異常値とを含む範囲に設定することが好ましく、この範囲において、上限付近の濃度、下限付近の濃度および正常値の濃度を、少なくとも含むことが好ましい。目的成分として、グルコースを一例にあげる。前記グルコースは、一般に、正常値が約80〜140mg/dLであり、上限が、約600mg/dLであり、下限が、約20mg/dLである。したがって、グルコース濃度系列は、例えば、20〜600mg/dLの範囲内で設定することが好ましい。なお、グルコースは、一例であって、本発明における目的成分は、これには何ら制限されない。
【0039】
そして、各標準試料の目的成分濃度系列について、複数のシグナルを取得する。複数のシグナルの取得は、各標準試料間で、同じ条件および方法で行うことが好ましく、また、後述する(B)工程における、前記赤血球含有試料のシグナルの取得と、同じ条件および方法で行うことが好ましい。
【0040】
このようにして得られた複数数のシグナルと、前記標準試料の目的成分の濃度とから、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係を導くことができる。この特定の関係は、Ht値によるシグナルの変動、複数の時点で測定した際のシグナルの変動(経時的なシグナル値変動)、および、目的成分の量に応じた複数のシグナルの変動を表している。このため、前記関係に基づけば、赤血球含有試料について測定した複数のシグナルから、例えば、Ht値の影響を考慮した目的成分の濃度を求めることができる。
【0041】
本発明の第1の測定方法において、前記特定の関係の表し方は、何ら制限されず、例えば、検量線、検量表、回帰式等が応用できる。
【0042】
前記特定の関係について、回帰式で表わす一例を、以下に示す。前記回帰式は、例えば、下記(X)工程によって設定した回帰式が使用できる。すなわち、本発明の第1の測定方法は、前記(A)工程において、異なるHt値における、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係が、下記(X)工程により求められた回帰式であることが好ましい。
(X)Ht値が異なる各標準試料の、目的成分濃度系列について、複数のシグナルを取得し、
前記各標準試料について、前記複数のシグナル間の相関式を求め、
前記各標準試料のうちいずれか一つを、基準Ht値を示す基準試料として選択し、
前記選択した基準試料の相関式を基準相関式とし、
前記各標準試料の相関式を、前記基準相関式に収束する回帰式を求める工程
【0043】
本発明は、一例として、前記(X)工程により求められた回帰式を使用するのであって、前記回帰式を用いる場合であっても、前記(X)工程は、本発明の必須工程にはあたらない。
【0044】
前記(X)工程の一例を以下に説明するが、本発明はこれには制限されない。前記(X)工程では、まず、前述と同様にして、Ht値が異なる各標準試料の目的成分濃度系列について、複数のシグナルを取得し、得られた複数のシグナルに基づいて、各標準試料について、前記複数のシグナル間の相関式を求める。前記相関式は、従来公知の手法により求めることができ、例えば、一般的な計算ソフトが使用できる。
【0045】
他方、前記各標準試料のうちいずれか一つを、基準Ht値を示す基準試料として選択する。この基準試料の選択は、任意であり、特に制限されず、例えば、前記標準試料の中で、中間のHt値を示す標準試料、または、正常値のHt値を示す標準試料等を選択できる。
【0046】
そして、この基準試料の相関式を基準相関式とし、前記各標準試料の相関式を、前記基準試料の相関式に収束する回帰式を求め、この回帰式を前記特定の関係として、後の前記(C)工程で参照する。前記回帰式は、従来公知の手法により求めることができ、例えば、一般的な計算ソフトが使用できる。
【0047】
前記特定の関係は、例えば、前記回帰式に制限されず、例えば、検量線、検量表等で表わすことができる。これらも、例えば、前記回帰式と同様に、複数の標準試料の目的成分濃度系列について、複数のシグナルを取得することで、作成できる。
【0048】
本発明の測定方法において、前記(B)工程は、前述のように、前記赤血球含有試料中の目的成分由来の複数のシグナルを取得する工程である。前記赤血球含有試料のシグナルの取得は、例えば、前述した前記標準試料のシグナルの取得と、同じ条件および方法で行うことが好ましい。
【0049】
本発明の測定方法において、前記(C)工程は、前述のように、前記(A)工程の前記特定の関係を参照し、前記(B)工程の複数のシグナルから、前記試料中の目的成分量を求める工程である。前記特定の関係は、前述のように、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係である。
【0050】
前記特定の関係を参照することで、例えば、以下のようにして、前記赤血球含有試料のHt値を考慮した目的成分量を求めることができる。この特定の関係は、前述のように、Ht値によるシグナルの変動、複数の時点で測定した際のシグナルの変動(経時的なシグナルの変動)、および、目的成分の量に応じた複数のシグナルの変動を表している。このため、前記特定の関係を参照すれば、例えば、前記赤血球含有試料のHt値が不明であっても、測定した前記試料の複数のシグナルから、Ht値によるシグナルの変動を考慮した上で、前記目的成分の量を求めることができる。
【0051】
また、前記(C)工程においては、例えば、前記特定の関係として、前記(A)工程で例示した前記回帰式を参照することもできる。前記回帰式は、前述のように、前記各標準試料の相関式を前記基準試料の相関式(基準相関式)に収束する回帰式である。この場合、例えば、以下のようにして、前記試料中の目的成分量を求めることができる。すなわち、例えば、測定した前記試料の複数のシグナルが、基準相関式に当てはまらない場合でも、前記回帰式に基づけば、前記複数のシグナルを、前記基準試料の相関式に当てはまるシグナルに補正できる。つまり、Ht値によるシグナルの変動を考慮して、シグナルを補正できる。このため、前記補正後の複数のシグナルを、前記基準試料の複数のシグナルと仮定することで、前記基準試料についての複数のシグナルと前記目的成分の量との関係から、目的成分の量を求めることができる。
【0052】
また、前記(C)工程においては、下記検量式を使用することもできる。すなわち、本発明の第1の測定方法は、前記(C)工程において、前記(A)工程の前記関係を参照し、前記(B)工程の複数のシグナルから、補正後の複数のシグナルを求め、下記(Y)工程により求められた検量式を参照し、前記補正後の複数のシグナルから、前記試料中の目的成分の量を求めることもできる。
(Y)前記基準Ht値を示す基準試料の、目的成分濃度系列について、複数のシグナルを取得し、
前記複数のシグナルと、前記基準試料における前記目的成分量との相関式を、検量式として求める工程
【0053】
なお、本発明においては、一例として、下記(Y)工程により求められた検量式を使用するのであって、前記(Y)工程は、本発明の必須工程にはあたらない。
【0054】
本発明の第1の測定方法は、赤血球量を示すHt値による測定への影響を抑制できることから、前述のように、赤血球含有試料に適用される。前記赤血球含有試料は、例えば、全血試料があげられる。前記全血試料は、例えば、未処理の全血でもよいし、希釈処理した全血でもよいし、溶血処理した全血であってもよい。
【0055】
本発明の測定方法において、前記目的成分は、何ら制限されず、赤血球含有試料に含まれる成分または含まれると考えられる成分があげられる。前記成分は、例えば、グルコース等の糖、C反応性タンパク質(CRP)、HbA1c、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、FT3、FT4、hCG、HBs抗原、HBc抗体、HCV抗体、TY抗原、アンチ−ストレプトリシン O(ASO)、IV型コラーゲン、マトリックスメタロプロテナーゼ(MMP−3)、PIVAK−II、α1マイクログロブリン、β1マイクログロブリン、アミロイドA(SAA)、エラスターゼ1、塩基性フェトプロテイン(BFP)、カンジダ抗原、子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼ、ジゴキシン、シスタチンC、第XIII因子、尿中トランスフェリン、梅毒、ヒアルロン酸、フィブリンモノマー複合体(SFMC)、フォン・ウィルブランド因子(第VIII因子様抗原)、プロテインS、リウマチ因子(RF)、IgD、α1アシドグリコプロテイン(α1AG)、α1アンチトリプシン(α1AT)、α2マクログロブリン、アルブミン(Alb)、セルロプラスミン(Cp)、ハプトグロビン(Hp)、プレアルブミン、レチノール結合蛋白(RBP)、β1C/β1Aグロブリン(C3)、β1Eグロブリン(C4)、IgA、IgG、IgM、βリポ蛋白(β−LP)、アポ蛋白A−I、アポ蛋白A−II、アポ蛋白B、アポ蛋白C−II、アポ蛋白C−III、アポ蛋白E、トランスフェリン(Tf)、尿中アルブミン、プラスミノーゲン(PLG)およびリポ蛋白(a)(LP(a))、乳酸塩、低密度脂質、高密度脂質、トリグリセリド等があげられる。
【0056】
本発明の第1の測定方法において、使用する前記バイオセンサは、特に制限されず、従来のバイオセンサが使用できる。前記バイオセンサの種類は、特に制限されず、例えば、シグナルの種類、すなわち、電気シグナルであるか、光学シグナルであるか等によって、適宜選択できる。以下、電気化学的測定方法に使用するバイオセンサを、電気バイオセンサといい、光学的測定方法に使用するバイオセンサを、光学バイオセンサという。
【0057】
本発明の第1の測定方法は、複数時点のシグナルを測定できればよいことから、前記バイオセンサは、例えば、少なくとも1つの検出部位を備えていればよい。
【0058】
前記シグナルが電気シグナルの場合、検出部位として作用極を備える電気バイオセンサを使用することが好ましい。前記電気バイオセンサにおいて、前記作用極の個数は、特に制限されず、少なくとも一個の作用極を備えていればよい。具体的には、前記電気バイオセンサは、作用極と対極とを含む、少なくとも1セットの電極群を備えることが好ましい。そして、シグナルの検出時には、前記電気バイオセンサの前記作用極と前記対極との間に、電圧を印加することによって、前記作用極から電流等のシグナルを測定できる。また、前記バイオセンサは、複数の作用極を有してもよく、例えば、2個以上、好ましくは2個である。この場合、各作用極において、複数の時点でシグナルを取得してもよい。前記複数の作用極は、例えば、異なる作用極があげられる。前記異なる作用極は、例えば、電極の材料が異なるもの、電極にコーティングする目的成分の検出用試薬が異なるもの等があげられる。
【0059】
前記電気バイオセンサを使用することにより、例えば、前記作用極に連結した検出器により前記シグナルを検出できる。前記検出器は、例えば、前記バイオセンサ内に配置されてもよいし、前記バイオセンサ外に配置されてもよい。後者の場合、例えば、前記光学シグナルの検出前から、予め、前記バイオセンサと前記検出器とを連結させてもよいし、検出時に、前記バイオセンサと前記検出器とを連結させてもよい。
【0060】
前記作用極は、例えば、端子を介して、前記検出器を連結してもよい。前記検出器は、特に制限されず、例えば、電流検出器があげられ、電流/電圧変換器、A/D変換器および演算器等を含んでもよい。
【0061】
前記電気バイオセンサは、例えば、試料の添加領域、または、試料の移動領域に、必要に応じて、試薬が配置されていることが好ましい。前記試薬は、例えば、目的成分の種類、シグナルを発生するための酸化還元反応の種類等によって、適宜決定できるが、例えば、前述のようなメディエータおよび酵素等があげられる。
【0062】
前記シグナルが光学シグナルの場合、例えば、光学バイオセンサが使用できる。前記光学バイオセンサにおいて、前記検出部位は、例えば、試料と試薬との反応領域等があげられる。本発明においては、例えば、前記反応領域において、前記試料と試薬との反応を開始してもよいし、前記試料と試薬とを含む反応液が、前記反応領域に導入されてもよい。前者の場合、例えば、予め前記反応領域に前記試薬が配置されてもよいし、異なる領域に配置された試薬が、前記試料との混合前に、前記反応領域に導入されてもよい。後者の場合、例えば、前記反応領域とは別の領域に、前記試薬が配置されており、前記試料と混合した後、前記反応液が、前記反応領域に導入されてもよい。
【0063】
(第2の測定方法)
本発明の第2の測定方法は、前述のように、前記複数のシグナルとして、複数の検出部位で取得したシグナルを使用して、赤血球含有試料の目的成分を測定する方法である。なお、本発明の第2の測定方法について、特に示さない限りは、前記本発明の第1の測定方法と同様にして行うことができる。
【0064】
前記複数の検出部位の個数は、特に制限されず、例えば、2カ所以上であり、好ましくは2〜5カ所、より好ましくは2〜3カ所、さらに好ましくは2カ所である。
【0065】
本発明の第2の測定方法において、使用する前記バイオセンサは、特に制限されず、前述のように複数の検出部位を備えていればよく、従来のバイオセンサが使用できる。
【0066】
前記シグナルが電気シグナルの場合、例えば、複数の作用極を有する電気バイオセンサを使用することが好ましく、各作用極から、電気シグナルを測定することが好ましい。前記作用極の個数は、例えば、2個以上であり、好ましくは2〜5個、より好ましくは2〜3個、さらに好ましくは2個である。具体的には、前記電気バイオセンサは、例えば、作用極と対極とを含む電極群を複数、すなわち、前記電極群を2セット以上有することが好ましく、より好ましくは2〜5セット、より好ましくは2〜3セット、さらに好ましくは2セットである。前記バイオセンサにおける対極の個数は、何ら制限されず、1個でもよいし、2個以上であってもよい。例えば、前記各電極群は、それぞれ別個の対極を有してもよいし、1つの電極群における対極が、他の電極群の対極を兼ねてもよい。
【0067】
前記バイオセンサが複数の作用極を有する場合、前記作用極は、例えば、異なる作用極であることが好ましい。具体的には、前記複数の作用極が、目的成分に対して異なる化学反応を示す電極であることが好ましい。この場合、前記各電極において、前記各化学反応が、ヘマトクリットにより影響を受ける。このため、前記特定の関係として、前記目的成分の量と、それに応じた各電極で取得したシグナルとの関係を提供することによって、ヘマトクリットの影響を補正できる。各電極におけるシグナルの測定は、例えば、同時に行うことが好ましい。異なる化学反応を示す電極は、例えば、電極の材料が異なるもの、電極にコーティングする目的成分の検出用試薬が異なるもの等があげられる。
【0068】
また、前記シグナルが光学シグナルの場合、例えば、複数の検出部位を有する光学バイオセンサが使用できる。前記光学バイオセンサにおいて、前記検出部位は、例えば、試料と試薬との反応領域等があげられる。
【0069】
(第3の測定方法)
本発明の第3の測定方法は、複数の検出部位で取得したシグナルを使用して、赤血球含有試料の目的成分を測定する方法であって、前記検出部位は、例えば、試料の移動方向に平行であって、且つ試料の添加部からそれぞれ異なる距離に配置されている。
【0070】
本発明の第3の測定方法は、前述のように、前記(1)目的成分量が同じであっても、前記試料のHt値に応じて前記シグナルが変動する、前記(2)シグナルを複数測定すると前記シグナルが変動する、との発明者らによる知見に基づき、完成されるに到った。前記(1)は、前述のように、例えば、前記シグナルが、目的成分量の増加に伴って増加するシグナルの場合、前記シグナルは、Ht値が相対的に高値であるほど減少し、Ht値が相対的に低値であるほど増加するという知見である。また、前記(2)は、例えば、前記シグナルが、目的成分量の増加に伴って増加するシグナルの場合、前記シグナルは、試料の添加部から相対的に遠い検出部位で検出するほど減少するという知見である。これは、Ht値によって、試料の拡散速度が遅くなり、その影響がシグナル値に反映されると考えられる。具体的には、例えば、Ht値が相対的に大きい程、試料の拡散速度が相対的に遅くなるため、シグナルが減少すると考えられる。
【0071】
本発明においては、前記特定の関係を参照すればよく、例示した態様には制限されない。
【0072】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0073】
[実施例1]
静脈血を用いて、所定のHt値(29%、41%および55%(±2%))の標準試料を調製した。以下、これらの試料を、Ht29%、Ht41%およびHt55%という。そして、これらの標準試料について、それぞれ、グルコース濃度を所定濃度(50、100、150、250、350および550mg/dL)とした、グルコース濃度系列のサンプルを調製した。
【0074】
電流測定装置として、Modified Advance meters(商品名、Hypoguard社製、修正されたソフトウェアを有し、電流トランジエントを収集可能な計測器)、および、バイオセンサとして、2pots of Menarini Glucomen GM strips(商品名、アークレイ(株)製)を使用し、使用説明書にしたがって、電流の測定を行った。電流測定は、電圧印加時を0秒として、5秒および10秒の時点で行った。また、各サンプルについて、それぞれ8回測定を行い、その平均値を求めた。
【0075】
これらの結果を、図1に示す。図1は、各標準試料のグルコース濃度系列について、電圧印加から5秒の電流(A)と10秒の電流(A10)とをプロットしたグラフである。図1において、x軸は、10秒の電流(A10)を示し、y軸は、5秒の電流(A)を示す。図1において、◇は、Ht29%の結果であり、□は、Ht41%の結果であり、△は、Ht55%の結果である。また、図1において、円に囲まれる各3つのプロットは、左から、グルコース50mg/dLの結果、グルコース100mg/dLの結果、グルコース150mg/dLの結果、グルコース250mg/dLの結果、グルコース350mg/dLの結果、およびグルコース550mg/dLの結果を示す。電流は、平均をプロットした。
【0076】
各サンプルについて、前述のように、2時点の電流測定を行った結果、以下のことが明らかとなった。まず、各グルコース濃度に対して、Ht55%の電流値が最も低く、Ht29%の電流値が最も高いことから、電流値は、Ht値の影響を受けて、Ht値の増加にしたがって低下し、Ht値の低下にしたがって増加する、という挙動を示すことがわかった。さらに、2時点の電流測定を行った結果、5秒の電流(A)よりも、10秒の電流(A10)が低下したことから、電流値は、Ht値の影響を受けて、電圧印加から測定までの時間が遅くなるにしたがって、低下する挙動を示すことがわかった。この挙動を示すグラフが、前記図1である。したがって、これらの挙動に基づき、2時点の電流測定の結果から、Ht値による影響を補正することが可能といえる。
【0077】
一方、各標準試料のグルコース濃度系列について、グルコース濃度と、5秒の電流(A)とをプロットしたグラフを図2に示す。図2において、◇は、Ht29%についての5秒の電流(A)の結果であり、□は、Ht41%についての5秒の電流(A)の結果であり、△は、Ht55%についての5秒の電流(A)の結果である。図2において、電流は、平均値をプロットした。
【0078】
図2に示すように、1時点の電流のみをプロットした場合、例えば、測定電流が8000nAであると仮定すると、各標準試料について8000nAのプロットが存在する。このため、前記試料のHt値が不明である限り、Ht29%(◇)の結果に基づいて約250mg/dL、Ht41%(□)の結果に基づき約300mg/dL、Ht55%(△)の結果に基づき約390mg/dLという、3種類のグルコース濃度が導かれることになる。このため、Ht値を補正することができず、正確性に乏しい測定結果となってしまう。
【0079】
[実施例2]
続いて、前記図1の結果から、各標準試料について、5秒の電流(A)と10秒の電流(A10)との相関関係について、二次多項式を求めた。この結果を以下に示す。下記式において、yは、5秒の電流(A)であり、xは、10秒の電流(A10)である。
Ht値29%:y=−4E−05x+1.8339x−372.56
=1
Ht値41%:y=9E−06x+1.3647x−4.3381
=1
Ht値55%:y=4E−05x+1.0089x+225.14
=0.9999
【0080】
そして、これらの各二次多項式の「x」に、下記表に示す10秒の電流(A10)0〜12000nAを代入し、5秒の電流(A)を算出した。これらの結果を、下記表および図3にあわせて示す。表1の参照表または図3の参照図により、測定した電流が5秒の電流(A)および10秒の電流(A10)のいずれであっても、ヘマトクリットを換算できる。
【0081】
【表1】

【0082】
そして、前記表1に基づいて、Htエラー、すなわち、算出したHt値と実際のHt値との差を求めた。具体的には、Ht値が既知である、所定のグルコース濃度(86mg/dL、161mg/dL、279mg/dL、386mg/dL)の試料を準備し、10秒の電流を測定し、前記表1に基づいて、前記試料のHt値を算出した。そして、算出したHt値について、既知Ht値との差を求めた。この結果を図4に示す。図4は、各グルコース試料についてのHtエラー(%Ht)を示すグラフである。図4に示すように、グルコース濃度が約80mg/dL〜400mg/dLの試料について、Htエラーが極めて低い値であった。このため、前記表1および図3により、前述のようなグルコース濃度の範囲において、より正確にヘマトクリットを換算できる。
【0083】
[実施例3]
前記実施例1における測定結果を用いて、Ht55%の各グルコース濃度の測定電流値およびHt21%の各グルコース濃度の測定電流値を、Ht41%の対応するグルコース濃度の測定電流値に収束するアルゴリズムを、市販のプログラムMicrosoft Office Excel(登録商標)を用いて求めた。このアルゴリズムを以下に示す。
【0084】
1. 中度のHt(41%)におけるグルコース反応による前記10秒の電流(A10)に基づいて、グルコースと電流との2系列を使用した二次多項式を作成する。この多項式は、未補正のグルコース多項式である。
2. 前記1.から、10秒の電流に基づくグルコース値を算出する。このグルコース値は、未補正のグルコース値である。
3. 5秒の電流および10秒の電流を用いて、Ht−電流表(表1)から、Ht値を補間する。このようにして、Htを推測する。
4. 前記グルコースについての、低度のHt(29%)、中度のHt(41%)および高度のHt(55%)に適合する二次数多項式、および、未補正のグルコース値(前記2.参照)を用いて、200mg/dLの未補正のグルコース値に基づくグルコース値を算出する。このようにして、Ht29%、Ht41%およびHt55%に対する、Htエラーを有するグルコース値(前記Htエラーグルコース200値)が得られる(エラーが無い場合、中度の41%Ht値では、200mg/dLである。)。
5. 前記4.で算出した、3つのHtのグルコース200値を用いて、Htエラーのあるグルコース200に対して、Htの二次多項式を算出する。この多項式は、Htの補正多項式である。
6. 未補正のグルコース値、前記Ht推測値および前記Htの補正多項式を用いて、Ht41%に基づく補正グルコース推測値を算出する。この推測値は、最終的な補正グルコース推測値である。
【0085】
そして、前記実施例1における各標準試料の2時点の電流値から、前記アルゴリズムを用いて、グルコース濃度を算出した。これらの結果を、図5に示す。図5は、前記標準試料における既知グルコース濃度と、アルゴリズムを用いて算出した前記標準試料のグルコース濃度との関係を示すグラフである。図5において、◇は、Ht29%の結果であり、□は、Ht41%の結果であり、△は、Ht55%の結果である。図5に示すように、いずれの標準試料についても、極めて正確なグルコース濃度が算出できたことがわかった。
【0086】
これに対して、比較例として、電圧印加から10秒後(10秒の電流(A10))の測定結果を用いて、Ht値を補正せずに、グルコース濃度を算出した。具体的には、図2に示す相関式に基づいて、グルコース濃度を算出した。この結果を図6に示す。図6に示すように、Ht値によって、電流値が異なるため、Ht値ごとにグルコース濃度を算出する必要があった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上のように、本発明によれば、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係を参照することによって、前記目的成分の測定に対するHt値の影響を補正し、より正確な前記赤血球含有試料中の目的成分量を測定することが可能である。このため、本発明は、分析または臨床の分野等において、極めて有用であるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球含有試料中の目的成分を、バイオセンサを用いて測定する測定方法であって、
下記(A)、(B)および(C)工程を含むことを特徴とする測定方法。
(A)測定に先立ち、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係を提供する工程
(B)前記バイオセンサにより、前記赤血球含有試料中の目的成分由来の複数のシグナルを取得する工程
(C)前記(A)工程の前記関係を参照し、前記(B)工程の複数のシグナルから、前記試料中の目的成分量を求める工程
【請求項2】
前記(A)工程において、測定に先立ち、異なるHt値における、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係を提供する、請求項1記載の測定方法。
【請求項3】
前記複数のシグナルが、複数の時点で取得したシグナルである、請求項1または2記載の測定方法。
【請求項4】
前記複数のシグナルが、2時点で取得したシグナルである、請求項1から3のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項5】
前記複数のシグナルが、1〜20秒の間隔で取得したシグナルである、請求項1から4のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項6】
前記複数のシグナルが、同じ検出部位から取得したシグナルである、請求項1から5のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項7】
前記複数のシグナルが、複数の検出部位から取得したシグナルである、請求項1から6のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項8】
前記複数のシグナルが、2カ所の検出部位から取得したシグナルである、請求項1から7のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項9】
前記複数のシグナルが、複数の検出部位から、同時に取得したシグナルである、請求項1から8のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項10】
前記シグナルが、電気化学的測定により検出可能なシグナルである、請求項1から9のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項11】
前記シグナルが、前記バイオセンサの検出部位である作用極から検出可能なシグナルである、請求項1から10のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項12】
前記シグナルが、光学的測定により検出可能なシグナルである、請求項1から11のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項13】
前記複数のシグナルが、前記シグナル発生が可能となった時点を0秒として、20秒後までに取得したシグナルである、請求項1から12のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項14】
前記シグナルが、前記目的成分との酸化還元反応に基づくシグナルである、請求項1から13のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項15】
前記酸化還元反応が、酸化還元酵素とメディエータとを用いた反応である、請求項14記載の測定方法。
【請求項16】
前記(A)工程において、異なるHt値における、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係が、下記(X)工程により求められた回帰式である、請求項1から15のいずれか一項に記載の測定方法。
(X)Ht値が異なる各標準試料の、目的成分濃度系列について、複数のシグナルを取得し、
前記各標準試料について、前記複数のシグナル間の相関式を求め、
前記各標準試料のうちいずれか一つを、基準Ht値を示す基準試料として選択し、
前記選択した基準試料の相関式を基準相関式とし、
前記各標準試料の相関式を、前記基準相関式に収束する回帰式を求める工程
【請求項17】
前記(C)工程において、
前記(A)工程の前記関係を参照し、前記(B)工程の複数のシグナルから、補正後の複数のシグナルを求め、
下記(Y)工程により求められた検量式を参照し、前記補正後の複数のシグナルから、前記試料中の目的成分の量を求める、請求項16記載の測定方法。
(Y)前記基準Ht値を示す基準試料の、目的成分濃度系列について、複数のシグナルを取得し、
前記複数のシグナルと、前記基準試料における前記目的成分量との相関式を、検量式として求める工程
【請求項18】
前記赤血球含有試料が、全血である、請求項1から17のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項19】
前記目的成分が、グルコース、C反応性タンパク質(CRP)、HbA1c、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、FT3、FT4、hCG、HBs抗原、HBc抗体、HCV抗体、TY抗原、アンチ−ストレプトリシン O(ASO)、IV型コラーゲン、マトリックスメタロプロテナーゼ(MMP−3)、PIVAK−II、α1マイクログロブリン、β1マイクログロブリン、アミロイドA(SAA)、エラスターゼ1、塩基性フェトプロテイン(BFP)、カンジダ抗原、子宮頸管粘液中顆粒球エラスターゼ、ジゴキシン、シスタチンC、第XIII因子、尿中トランスフェリン、梅毒、ヒアルロン酸、フィブリンモノマー複合体(SFMC)、フォン・ウィルブランド因子(第VIII因子様抗原)、プロテインS、リウマチ因子(RF)、IgD、α1アシドグリコプロテイン(α1AG)、α1アンチトリプシン(α1AT)、α2マクログロブリン、アルブミン(Alb)、セルロプラスミン(Cp)、ハプトグロビン(Hp)、プレアルブミン、レチノール結合蛋白(RBP)、β1C/β1Aグロブリン(C3)、β1Eグロブリン(C4)、IgA、IgG、IgM、βリポ蛋白(β−LP)、アポ蛋白A−I、アポ蛋白A−II、アポ蛋白B、アポ蛋白C−II、アポ蛋白C−III、アポ蛋白E、トランスフェリン(Tf)、尿中アルブミン、プラスミノーゲン(PLG)、リポ蛋白(a)(LP(a))、乳酸塩、低密度脂質、高密度脂質およびトリグリセリドからなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1から18のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項20】
バイオセンサを用いた赤血球含有試料中の目的成分の測定方法に使用する測定装置であって、
バイオセンサから、赤血球含有試料中の目的成分由来の複数のシグナルを取得する取得手段、
および、
目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係を参照し、前記取得手段により得られた複数のシグナルから、目的成分の量を算出する算出手段
を有することを特徴とする測定装置。
【請求項21】
前記関係が、異なるHt値における、前記目的成分の量と、それに応じた複数のシグナルとの関係である、請求項20記載の測定装置。
【請求項22】
前記複数のシグナルが、複数の時点で取得したシグナルである、請求項20または21記載の測定装置。
【請求項23】
前記複数のシグナルが、2時点で取得したシグナルである、請求項20から22のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項24】
前記複数のシグナルが、1〜20秒の間隔で取得したシグナルである、請求項20から23のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項25】
前記複数のシグナルが、同じ検出部位から取得したシグナルである、請求項20から24のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項26】
前記複数のシグナルが、複数の検出部位から取得したシグナルである、請求項20から25のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項27】
前記複数のシグナルが、2カ所の検出部位から取得したシグナルである、請求項20から26のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項28】
前記複数のシグナルが、複数の検出部位から、同時に取得したシグナルである、請求項20から27のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項29】
前記シグナルが、電気化学的測定により検出可能なシグナルである、請求項20から28のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項30】
前記シグナルが、前記バイオセンサの検出部位である作用極から検出可能なシグナルである、請求項20から29のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項31】
前記シグナルが、光学的測定により検出可能なシグナルである、請求項20から30のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項32】
前記複数のシグナルが、前記シグナル発生が可能となった時点を0秒として、20秒後までに取得したシグナルである、請求項20から31のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項33】
前記シグナルが、前記目的成分との酸化還元反応に基づくシグナルである、請求項20から32のいずれか一項に記載の測定装置。
【請求項34】
前記酸化還元反応が、酸化還元酵素とメディエータとを用いた反応である、請求項33記載の測定装置。
【請求項35】
前記関係が、下記(X)工程により求められた回帰式である、請求項20から34のいずれか一項に記載の測定装置。
(X)Ht値が異なる各標準試料の、目的成分濃度系列について、複数のシグナルを取得し、
前記各標準試料について、前記複数のシグナル間の相関式を求め、
前記各標準試料のうち、いずれか一つを基準Ht値を示す基準試料として選択し、
前記選択した基準試料の相関式を基準相関式とし、
前記各標準試料の相関式を、前記基準相関式に収束する回帰式を求める工程
【請求項36】
前記算出手段が、
前記関係を参照し、前記取得手段により得られた複数のシグナルから、補正後の複数のシグナルを算出する補正手段、
および、
前記基準Ht値を示す基準試料の目的成分濃度系列について取得した複数のシグナルと、前記基準試料における前記目的成分の量との相関式を、検量式として参照し、前記試料中の目的成分量を算出する算出手段
を有する、請求項35記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−75362(P2011−75362A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−225978(P2009−225978)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】