説明

走査光学系

【課題】光トモグラフィー装置に適用できる簡潔な構成の走査光学系を提供する。
【解決手段】走査光学系は、光源10と反射体20と光束回転機構30と複数の光学素子40と光検出器50とを有している。光源10は、中心軸Cに沿って伝播する平行光束L1を射出する。反射体20は、中心軸Cに対して傾けて配置されており、平行光束L1を透過する光学的開口22を有している。光束回転機構30は、反射体20を通過した平行光束L1を中心軸Cから離心させるとともに中心軸Cを中心に回転させる。光学素子40は、回転される平行光束L1を中心軸Cに垂直かつ中心軸Cに向かう方向に反射するとともに、中心軸C上に配置された被検体70の表面に集光させる。光検出器50は、被検体70の内部に入射して拡散伝播し、被検体70から射出され、光学素子40と反射体20とによって順に反射された光束L2を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光トモグラフィー装置に適用可能な走査光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
生体などの被検体に光を照射して、その透過光又は散乱光を検出して、被検体内の情報を非破壊的に取得する光トモグラフィー装置が知られている。特開平8−166341号公報には、被検体に光を照射するための複数の送光用の光ファイバーと、被検体内を透過、散乱した光を受光するための複数の受光用の光ファイバーとが、被検体の周囲に配置された光トモグラフィー装置が開示されている。この装置では、一本の送光用の光ファイバーから光が被検体に照射され、被検体内を伝播して被検体から射出された光が、複数の受光用の光ファイバーで受光されるとともに、送光用の光ファイバーを順次切り換えながら、被検体に照射する光の入射位置を走査し、被検体内を伝播して被検体から射出された光を複数の受光用の光ファイバーで受光する動作が繰り返される。そして、受光用の光ファイバーに結合した検出系を介して検出された光を解析することにより、被検体内の光学特性の分布情報が得られる。
【特許文献1】特開平8−166341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した光トモグラフィー装置では、被検体に光を照射するために、複数の光ファイバーがそれぞれ複数の光源に接続されていて、発光させる光源を切り換える構成が必要である。あるいは、一つの光源から射出される光を複数の光ファイバーのいずれか一本に選択的に導入する構成が必要である。また、光検出のために、光を検出するための複数の光ファイバーにそれぞれ接続される複数の光検出器を用意する必要がある。さらに、被検体周辺の空間が、多数の光ファイバーが配置されるために装置構成が煩雑になる傾向がある。
【0004】
本発明は、この様な実状を考慮して成されたものであり、その目的は、光トモグラフィー装置に適用できる簡潔な構成の走査光学系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による走査光学系は、中心軸に沿って伝播する平行光束を射出する光源と、前記平行光束を透過する光学的開口を有し、前記中心軸に対して傾けて配置された反射体と、前記反射体を通過した前記平行光束を前記中心軸から離心させるとともに前記中心軸を中心に回転させる光束回転機構と、前記光束回転機構によって回転される前記平行光束を前記中心軸に垂直かつ前記中心軸に向かう方向に反射するとともに前記中心軸上に配置された被検体の表面に集光させる複数の光学素子と、前記被検体の内部に入射して拡散伝播し前記被検体から射出される光束を検出する光検出器とを有している。
【0006】
また、本発明による別の走査光学系は、前記光束回転機構は、前記平行光束を前記中心軸に垂直な方向に反射する第一のミラーと、前記第一のミラーによって反射された前記平行光束を前記中心軸に平行な方向に反射する第二のミラーと、前記第一のミラーと前記第二のミラーとを備えた光学的に透明な透明基板と、前記透明基板を前記中心軸の周りに回転させる回転機構とを有している。
【0007】
また、本発明による別の走査光学系は、前記光学素子が凹面ミラーから構成されている。
【0008】
また、本発明による別の走査光学系は、前記反射体が、光学的に透明な基板と、前記光学的開口に対応する領域を除いて前記基板の表面に形成された反射膜とから構成されている。
【0009】
また、本発明による別の走査光学系は、前記光学素子を前記中心軸に垂直な方向に移動させる複数の移動機構をさらに有している。
【0010】
また、本発明による別の走査光学系は、前記反射体の反射面が正のパワーを有している。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光トモグラフィー装置に適用できる簡潔な構成の走査光学系が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0013】
図1は、本発明による走査光学系の実施形態を概略的に示している。図1に示すように、走査光学系は、所定の中心軸C上に配置された光源10と光源10の光出射側に配置された反射体20と反射体20を挟んで光源10と反対側に配置された光束回転機構30と光束回転機構30を挟んで反射体20と反対側に配置された複数の光学素子から構成された光学素子40と光検出器50とを有している。
【0014】
光源10は、中心軸Cに沿って伝播する平行光束L1を射出する。光源10は、例えば、単一の発光素子で構成される。
【0015】
反射体20は、中心軸Cに対して、例えば45°傾けて配置されると共に、中心軸Cと交わる位置に平行光束L1を透過させる光学的開口22を規定する穴が形成されている。また、反射体20は、光源10に対して反対側の表面に反射面が形成されている。
【0016】
光束回転機構30は、反射体20を通過した平行光束L1を中心軸Cから離心させるとともに中心軸Cを中心に回転させる。光束回転機構30は、平行光束L1を中心軸Cに垂直な方向に反射する平面ミラー32と、平面ミラー32によって反射された平行光束L1を中心軸Cに平行な方向に反射する平面ミラー34と、平面ミラー32と平面ミラー34とを備えた光学的に透明な透明基板36と、透明基板36を中心軸Cの周りに回転させるモーターなどから構成される回転機構38とを有している。平面ミラー32は、中心軸Cに対して、例えば45°傾けて配置されている。また、平面ミラー34は、回転の際に光学素子40を構成する複数の光学素子の各々と対向する位置に配置されている。回転機構38は、被検体70を収容する空間を規定する光学的に透明な円筒体62に固定されている。光学素子40は、輪帯状のプレート64に支持されている。
【0017】
光学素子40を構成する複数の光学素子は、中心軸Cを中心とする所定の円周上に均一の角度間隔で配置されている。中心軸Cから光学素子40までの距離は、中心軸Cから平面ミラー34までの距離にほぼ等しい。従って、光学素子40は、中心軸Cを中心として平行光束L1が回転移動する円周上に位置している。光学素子40は、例えば凹面ミラーから構成されている。光学素子40は、回転移動される平行光束L1を中心軸Cに垂直かつ中心軸Cに向かう方向に反射するとともに、中心軸C上に配置された被検体70の表面に集光させる。また、光学素子40の表面には、反射エリアを選択できるマスクを施こしてもよい。ここで被検体70は、例えば生体であり、擬似的に円柱で図示されている。
【0018】
光検出器50は、被検体70の内部に入射して拡散伝播し、被検体70から射出され、再び光学素子40と反射体20とによって順に反射された光束L2を検出する。光検出器50は、例えばCCDなどのエリア型の単一の光検出素子で構成される。
【0019】
この光学系は次のように動作する。
【0020】
光源10から射出された平行光束L1は反射体20の光学的開口22を通過し、光束回転機構30の透明基板36に入射する。透明基板36に入射した平行光束L1は、平面ミラー32によって中心軸Cから離心するように、中心軸Cに垂直な方向に反射され、平面ミラー34によって中心軸Cに平行な方向に反射される。
【0021】
平面ミラー32,34を備えた透明基板36は回転機構38によって一定の角速度で回転される。このため、平面ミラー34によって反射された平行光束L1は、中心軸Cを中心とする円周上を一定の角速度で移動する。平行光束L1が回転移動する円周に沿って光学素子40が配置されており、平行光束L1は、円周上を回転移動しながら各光学素子40に順次入射する。つまり、平行光束L1は、時系列的に一つの光学素子40に入射する。
【0022】
光学素子40に入射した平行光束L1は、光学素子40によって中心軸Cに垂直かつ中心軸Cに向かう方向に反射されるとともに、中心軸C上に配置された被検体70の表面に集光する。
【0023】
被検体70の表面に集光した平行光束L1の一部は被検体70の内部に入射して拡散的に伝播し、被検体70から放射状に射出する。被検体70から射出された光は、再び光学素子40によって反射されて光束L2となり、反射体20に入射する。反射体20に入射した光束L2は、反射体20の光学的開口22を除いた領域に形成された反射面よって反射され、光検出器50に入射する。光検出器50に入射した光束L2は、光検出器50の検出面上に、円周上に位置する複数のスポットを形成する。
【0024】
光検出器50は、スポットに対応する検出面上の異なる領域ごとに、入射した光の強度を反映した計測信号を出力する。計測信号は図示しない演算装置によって解析され、その解析結果から被検体70内の光学特性の分布情報が得られる。例えば、得られた光学特性の分布情報を再構成することによって、拡散光トモグラフィー画像が形成される。
【0025】
本実施形態の走査光学系では、一方向からの被検体70の表面への光照射に対して、透過光だけでなく、拡散光も同時に検出される。また、被検体70への光照射の方向が連続的に変えられる。また、光源10が単一の発光素子で構成され、光検出器50が単一の光検出素子で構成されるため、被検体70の周辺の構成が簡素となる。さらに、温度変化や振動等の使用環境の外的な影響を受けやすい光ファイバーを使用しないので、安定した計測が可能である。これにより本実施形態の走査光学系は光トモグラフィー装置に適用可能でありながら、簡潔な構成とすることができる。
【0026】
[反射体の変形例]
図2は、反射体20に代替可能な別の反射体80を示している。図2に示すように、反射体80は、光学的に透明な基板82と、光学的開口86に対応する領域を除いて基板82の反射面に形成された反射膜84とから構成されている。
【0027】
[検出系の変形例]
図3は、検出系の変形例を示している。この変形例では、図3に示すように、光検出器50の手前に、計測に不必要な特定の波長範囲の光を遮断するフィルター52が配置されている。例えば、励起光を照射して被検体70の内部から発生した蛍光を検出する計測においては、フィルター52を励起光を遮断する励起フィルターとすることができる。この構成によって、計測に不要な励起光をカットして、S/N比のより高い計測信号が得られる。
【0028】
[光学素子40の変形例]
図4は、光学素子40の変形例を示している。この変形例では、図4に示すように、各光学素子40がスライダー42に保持されており、中心軸Cに垂直な方向に移動可能となっている。
【0029】
計測に先立って、光学素子40を被検体70の表面形状に応じてスラーダー42に沿って移動させることにより、各光学素子40によって反射された平行光束L1が被検体70の表面に集光されるように光学素子40の位置が調整される。例えば、被検体70が凸部72を有する場合には、凸部72に対向する光学素子40の光学素子を中心軸Cから遠ざけるように位置調整すれば、光学素子40によって反射された平行光束L1が凸部72の表面に集光するように調整できる。
【0030】
この構成により、擬似的に円柱として扱えない複雑な表面形状を持つ被検体70に対しても正確に計測を行なうことができる。
【0031】
[反射体20の変形例]
図5は、反射体20に代替可能な別の反射体90を示している。図5に示すように、反射体90は、光学的に透明な基板92と、光学的開口96に対応する領域を除いて基板92の反射面に形成された反射膜94とから構成されている。基板92の上側の面は平面になっている。また、基板92の下側の面は、光学的開口96に対応する領域が基板92の上側の面に平行な平面92bになっており、それ以外の領域すなわち反射膜94が形成されている領域が凹面92aになっている。このため、反射膜94が形成された反射面が正のパワーを有し、この面に入射する複数の平行光束をそれぞれ一点に集光する収束光束にする作用がある。また、光検出器50は、反射膜94による集光点から光路に沿ってデフォーカスした位置に配置されている。
【0032】
反射体90に入射した平行光束は、それぞれ、反射体90によって反射される際に一点に向かう収束光束となって光検出器50に入射する。このため、両面が平行な反射体80を用いた場合に比べて、使用する光検出器50をより小型のものにすることができる。
【0033】
これまで、図面を参照しながら本発明の実施形態を述べたが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において様々な変形や変更が施されてもよい。
【0034】
上述した実施形態では、各光学素子40が凹面ミラーから構成されているが、凹面ミラーに代えて、平面ミラーと正のパワーを有する光学部品(例えばレンズや回折格子など)とから構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による走査光学系の実施形態を概略的に示している。
【図2】図1に示した反射体に代替可能な別の反射体を示している。
【図3】図1に示した検出系の変形例を示している。
【図4】図1に示した光学素子の変形例を示している。
【図5】図1に示した反射体に代替可能な別の反射体を示している。
【符号の説明】
【0036】
10…光源、20…反射体、22…光学的開口、24…軸、30…光束回転機構、32,34…平面ミラー、36…透明基板、38…回転機構、40…光学素子、42…スライダー、50…光検出器、52…フィルター、62…円筒体、64…プレート、70…被検体、72…凸部、80…反射体、82…基板、84…反射膜、86…光学的開口、90…反射体、92…基板、92a…凹面、92b…平面、94…反射膜、96…光学的開口、L1…平行光束、L2…光束。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸に沿って伝播する平行光束を射出する光源と、
前記平行光束を透過する光学的開口を有し、前記中心軸に対して傾けて配置された反射体と、
前記反射体を通過した前記平行光束を前記中心軸から離心させるとともに前記中心軸を中心に回転させる光束回転機構と、
前記光束回転機構によって回転される前記平行光束を前記中心軸に垂直かつ前記中心軸に向かう方向に反射するとともに前記中心軸上に配置された被検体の表面に集光させる複数の光学素子と、
前記被検体の内部に入射して拡散伝播し前記被検体から射出される光束を検出する光検出器とを有している、走査光学系。
【請求項2】
前記光束回転機構は、前記平行光束を前記中心軸に垂直な方向に反射する第一のミラーと、前記第一のミラーによって反射された前記平行光束を前記中心軸に平行な方向に反射する第二のミラーと、前記第一のミラーと前記第二のミラーとを備えた光学的に透明な透明基板と、前記透明基板を前記中心軸の周りに回転させる回転機構とを有している、請求項1に記載の走査光学系。
【請求項3】
前記光学素子が凹面ミラーから構成されている、請求項1又は2に記載の走査光学系。
【請求項4】
前記反射体が、光学的に透明な基板と、前記光学的開口に対応する領域を除いて前記基板の表面に形成された反射膜とから構成されている、請求項1〜3のいずれかに記載の走査光学系。
【請求項5】
前記光学素子を前記中心軸に垂直な方向に移動させる複数の移動機構をさらに有している、請求項1〜4のいずれかに記載の走査光学系。
【請求項6】
前記反射体の反射面が正のパワーを有している、請求項1〜5のいずれかに記載の走査光学系。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−91428(P2010−91428A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262005(P2008−262005)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】