説明

走査型プローブ顕微鏡及びその走査方法

【課題】形状の制約なしに3次元の立体形状を測定することが可能な走査型プローブ顕微鏡を提供する。
【解決手段】カンチレバー11と、カンチレバーホルダ14と、サンプルホルダ8と、サンプル9表面の任意の2次元面内で探針10を相対的に移動させる水平方向微動機構4と、2次元面に垂直な方向に探針10とサンプル9を相対的に移動させる垂直方向微動機構15と、カンチレバー11の撓み量を検出するための変位検出機構22を有する走査型プローブ顕微鏡において、変位検出機構をカンチレバー11に組み込み、カンチレバー11の長軸に直交し探針10先端を通る軸が、2次元平面に直交する任意の平面内となるように前記カンチレバー11を配置し、サンプル9表面の被測定面が、水平方向微動機構4の移動面と略平行になるようにサンプル9とカンチレバー11の相対位置を規定する角度調整機構を含む位置決め機構(3、5,6,7,17)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端に探針を有するカンチレバーでサンプル表面の形状観察や物性測定を行う走査型プローブ顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の走査型プローブ顕微鏡では、探針を有するカンチレバーを使用して、探針とサンプルを近接させて、半導体レーザとフォトディテクタを使用した光てこなどの方式による変位検出機構によりカンチレバーの撓み量やカンチレバーを振動させたときの振幅量を検出し、撓み量や振幅の減衰量または位相や共振周波数の変化量などにより探針とサンプル表面間の距離を垂直方向微動機構で制御しながら、水平方向微動機構により探針とサンプルを相対的にスキャンすることで、サンプル表面の形状や物性の測定が行われている。探針の形状は三角錐や四角錘、円錐などの錐体が多く、カーボンナノチューブなどを探針先端に設ける場合もある。
【0003】
このような、従来の走査型プローブ顕微鏡では(1)錐体の探針側面の傾斜角の影響が測定データにアーティファクトとして現れる、(2)サンプルの凹凸が大きい場合や複雑な立体形状の場合にはカンチレバーの根元や先端あるいはカンチレバーホルダの部材などがサンプルに接触する、(3)垂直方向微動機構と水平方向微動機構の移動量が小さく広範囲の測定ができない、などの理由により大きな高低差を持つサンプルや複雑な3次元形状のサンプルの測定は困難であり、測定可能なサンプルは平面状のサンプル表面の微小な凹凸の測定に限られていた。
【0004】
一方、比較的大きな高低差を持つサンプルの測定は、一部の走査型プローブ顕微鏡でも対応できることが開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
この走査型プローブ顕微鏡では、サンプルに対向する位置に探針を備えたカンチレバーを配置し、このカンチレバーを探針とサンプルの相対的位置を変位させるXYZスキャナに取り付け、カンチレバーの変位を検出する変位検出機構を備え、サンプル表面を走査しながら探針とサンプルの間に作用する原子間力等に基づくカンチレバーの撓み量を変位検出機構で検出し、その撓み量を制御してサンプル表面を測定する。
【0006】
カンチレバーをXYZスキャナへ取り付ける部分には取り付け角度を任意に設定できる取付角設定部を設け、XYZスキャナと変位検出機構とカンチレバーはZ軸まわりに任意の角度で回転する回転ステージに固定されている。またサンプルはXY粗動ステージの載せられており、回転ステージはZ粗動ステージに取り付けられている。このように構成された走査型プローブ顕微鏡によりカンチレバーの傾斜姿勢と回転動作を調整してハイアスペクトの凹凸を有するレジストパターンなどのサンプル表面の凹凸部の縁部を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−226926号公報(図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の発明の場合、変位検出機構とカンチレバーが別体として配置されている。このため、カンチレバーの取り付け角度を変更した場合には、カンチレバーに対する変位検出機構の位置の再調整が必要となる。特に走査型プローブ顕微鏡で普及している光てこ方式による変位検出機構を使用した場合には、カンチレバーの傾きを検出しているため、カンチレバーの取り付け角度を変更した場合に光軸が大きくずれてしまい変位検出機構からカンチレバーへの入射光の位置や検出器の位置調整が必要となるが、これらの位置を設定できる範囲には限界があるため、カンチレバーの傾斜角を大きく変更することは不可能である。
【0009】
また、特許文献1記載の発明では、XYZスキャナと変位検出機構とカンチレバーホルダとカンチレバーなどをすべてZ軸まわりに任意の角度で回転する回転ステージに搭載する必要があるため、装置が大型化し、取り付け角度や回転角を変更した場合に構成部品がサンプルに接触してしまう場合もある。また、カンチレバーの取り付け角度とZ軸まわりの回転ステージのみでカンチレバーの姿勢を調整しているが、この2つの角度調整機構のみでは設定できるカンチレバーの取り付け角度や回転角には限界があるため、測定できる立体形状には制約がある。
【0010】
したがって、本発明の目的は、上記の課題に鑑みて発明されたものであり、カンチレバーの取り付け角度を自由に設定でき、装置も小型化し従来よりも形状の制約なしに3次元の立体形状を高分解能で広範囲に測定することが可能な走査型プローブ顕微鏡及びその走査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明では以下のように走査型プローブ顕微鏡を構成した。
本発明の走査型プローブ顕微鏡では、先端に探針を有するカンチレバーと、前記カンチレバーを固定するためのカンチレバーホルダと、サンプルを固定するためのサンプルホルダと、前記サンプル表面の任意の2次元面内で前記探針を相対的に移動させる水平方向微動機構と、前記2次元面に垂直な方向に前記探針と前記サンプルを相対的に移動させる垂直方向微動機構と、前記カンチレバーの撓み量を検出するための変位検出機構を有する走査型プローブ顕微鏡において、前記変位検出機構を前記カンチレバーに組み込み、前記カンチレバーの長軸に直交し探針先端を通る軸が、前記2次元平面に直交する任意の平面内となるように前記カンチレバーを配置し、前記サンプルホルダ上に載置される任意形状のサンプル表面の被測定面が、前記水平方向微動機構の移動面と略平行になるように前記サンプルと前記カンチレバーの相対位置を規定する任意の軸まわりの角度調整機構を含む位置決め機構を設けた。
【0012】
また、前記角度調整機構のうちの少なくとも1つが、前記カンチレバーの長軸に直交し前記水平方向微動機構の移動面に平行な軸まわりに前記カンチレバーの取り付け角度を調整可能にしたカンチレバー取付角度調整機構とした。
【0013】
また、前記角度調整機構がサンプル角度調整機構であり、前記水平方向微動機構の移動面上に前記サンプルの任意の方向の回転または傾斜を調整可能な前記サンプル角度調整機構を設け、該サンプル角度調整機構上に前記サンプルホルダを設けた。
【0014】
また、前記角度調整機構がカンチレバー角度調整機構であり、前記カンチレバーの任意の方向の回転または傾斜を調整可能な前記カンチレバー角度調整機構を設け、該カンチレバー角度調整機構に前記水平方向微動機構を取り付け、前記水平方向微動機構に前記カンチレバーホルダを取り付けた。
【0015】
さらに、本発明では、前記水平方向微動機構の最大移動量よりも大きな移動量を有し、任意の2次元平面内で移動する水平方向粗動機構と、前記垂直方向微動機構の最大移動量よりも大きな移動量を有し、水平方向粗動機構の移動面に直交する方向に移動する垂直方向粗動機構を、前記カンチレバーと前記サンプルを相対的に移動させるように設けた。
【0016】
また、前記角度調整機構または前記水平方向粗動機構または前記垂直方向粗動機構に位置検出機構を設け、前記角度調整機構または前記水平方向粗動機構または前記垂直方向粗動機構のうち1つ以上の機構を移動させて、前記水平方向微動機構と前記垂直方向微動機構を動作させて複数個所の表面形状データまたは表面物性データを取得し、前記位置検出機構の情報から、前記表面形状測定データまたは表面物性データを合成して、前記水平方向微動機構または垂直方向微動機構の移動範囲よりも広範囲の前記サンプルの3次元形状データを取得するようにした。
【発明の効果】
【0017】
以上のように走査型プローブ顕微鏡を構成することで、カンチレバーに変位検出機構が組み込まれているため、変位検出機構とカンチレバーが分離している場合に比べて、カンチレバーの取り付け角度調整範囲が大きくとれ、装置も小型化するため、従来よりも複雑な3次元形状のサンプルの形状像や物性像が高分解能で測定可能となる。
【0018】
また、本発明では、任意の軸まわりの傾斜角または回転角を調整可能な角度調整機構または水平方向粗動機構または垂直方向粗動機構のうち1つ以上の機構を移動させて、高分解能測定を行いたいサンプル表面の被測定面を、水平方向微動機構の移動面と概ね平行に配置することで、探針先端以外の箇所がサンプルに衝突したり探針側面の傾斜角の影響が測定データにアーティファクトとして現れることなしに、任意の3次元形状のサンプルの測定が可能となる。また、カンチレバーに変位検出機構が組み込まれているため装置が小型化し取り付け角度調整範囲のほか、粗動機構の移動量や角度調整機構の調整範囲も大きくとれる。
【0019】
また、角度調整機構または水平方向粗動機構または垂直方向粗動機構に位置検出機構を設け、角度調整機構または水平方向粗動機構または垂直方向粗動機構のうち1つ以上のステージを移動させて、水平方向微動機構と垂直方向微動機構を動作させて複数個の表面形状データまたは物性データを取得し、位置検出機構の情報から、表面形状測定データまたは物性データを合成して、サンプルの3次元形状データを取得するようにしたので、広範囲の3次元形状を高分解能で測定することが可能となる。また、バネ定数の小さいカンチレバーを使用して走査型プローブ顕微鏡による距離制御を行っているため、従来の触針式の3次元測定器を用いる場合よりも測定力を小さくできるためサンプルや探針先端のダメージが少なくなり、表面が軟らかいサンプルなども測定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡の概観図である。
【図2】(a)本発明の第1の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡で使用されるカンチレバーの底面図である。(b)図2(a)のA−A線断面図である。(c)図2(a)のB−B線断面図である。
【図3】カンチレバー取り付け角度とサンプル配置の関係を示す概観図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡の概観図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
<第1の実施形態>
図1は本発明の第1の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡の全体構成を示す概観図である。図1の走査型プローブ顕微鏡は、サンプルスキャン方式であり、水平方向微動機構がサンプル側に設けられている。また、図1において、図の左右方向にX軸を紙面に垂直な方向にY軸を、図の上下方向をZ軸と規定する。
【0022】
第1の実施形態の走査型プローブ顕微鏡1ではベースブロック2上にXY面内で移動を行う水平方向粗動機構(XYステージ)3を固定し、水平方向粗動機構3の移動面に同じくXY面内で移動を行う水平方向微動機構(XYスキャナ)4を固定する。水平方向微動機構4の移動面には、Z軸まわりに回転動作を行う第一の角度調整機構(回転ステージ)5を固定し、第一の角度調整機構5の回転面にY軸まわりに傾斜動作を行う第二の角度調整機構(チルトステージ)6を固定し、第二の角度調整機構6の傾斜面にX軸まわりに傾斜動作を行う第三の角度調整機構(チルトステージ)7を固定し、第三の角度調整機構7の傾斜面にサンプル9を固定するサンプルホルダ8を設け、サンプルホルダ8上にサンプル9を固定した。
【0023】
また、カンチレバーには先端に探針10が設けられ変位検出機構22がカンチレバーに組み込まれた自己変位検出型カンチレバー11を使用した。自己変位検出型カンチレバー11の詳細は後述する。カンチレバー11は、カンチレバー11の長軸が水平方向微動機構5の移動平面(本実施形態ではXY平面)に直交する平面であるXZ平面と平行な面内で撓み変形をし、探針10の先端がサンプルホルダ8に対向するように配置され、Y軸に平行な任意軸まわりにカンチレバー11の取り付け角度を調整可能な第四の角度調整機構である取付角度調整機構12とカンチレバー加振用の圧電素子13が設けられたカンチレバーホルダ14に固定される。カンチレバーホルダ14は、Z軸方向に移動方向を一致させて配置された垂直方向微動機構15の先端部に固定され、垂直方向微動機構15の末端はベース部16に固定されて、ベース部16は探針10をサンプル9に近接させる垂直方向粗動機構(Zステージ)17の移動面に固定され、垂直方向粗動機構17の固定面はベースブロック2に固定された支柱部18に固定された構造である。
【0024】
水平方向粗動機構3と垂直方向粗動機構17は、ステッピングモータとボールネジにより駆動され、第一の角度調整機構5と第二の角度調整機構6と第三の角度調整機構7はステッピングモータとウォームギアにより駆動され、所定の方向以外の動きを規制するガイドが設けられた構造である。
【0025】
それぞれの移動量は水平方向粗動機構3がX軸とY軸双方に50mm、垂直方向粗動機構17は50mm、第一の角度調整機構である回転ステージ5は30度、第二および第三の角度調整機構であるチルトステージ6、7はそれぞれ30度の角度が調整可能である。これらの各位置決め機構にはエンコーダによる位置検出機構が設けられており、原点からの位置や角度が計測可能である。
【0026】
また、水平方向微動機構4は放電加工により一体成型されたベース部に平行バネ構造で移動体を固定した構造であり、ベース部と移動体の間に積層型圧電素子を組み込み積層型圧電素子の変位を拡大して移動体を移動させる方式である。X方向Y方向にそれぞれの移動量は100μmである。垂直方向微動機構15も積層型圧電素子を平行バネ構造のステージに組み込んだ構造であり、垂直方向微動機構15では拡大機構なしで積層型圧電素子の変位がそのまま出力され、最大移動量は15μmである。これらの水平方向微動機構5と垂直方向微動機構15のXYZの各軸には静電容量型変位計が組み込まれており、印加電圧に対して移動体が線形に動くようにクローズドループ制御されている。
【0027】
カンチレバーホルダ14の取付角度調整機構12は回転軸12aがベアリングを介して駆着されて回転方向以外の動きが規制された構造であり、直流型リニアモータ12bで駆動されて回転動作が行われる。取付角度調整機構12にもエンコーダが組み込まれており取り付け角度が認識される。また、取り付け角度を決めた後は振動防止のため直流型リニアモータ12bの励磁が切られる。なお取付角度調整機構12の回転体は固定体に対して面接触で摺動する構造であり、停止時には摩擦力により保持される。取付角度調整機構12の角度調整範囲は30度である。変位検出機構をカンチレバーと別体として設けた場合にはカンチレバーの取り付け角度は変位検出機構の調整範囲によって制限されるが、本実施形態のようにカンチレバー11に変位検出機構22を組み込むことで、カンチレバー11の取り付け角度は制限されず、原理的には探針10の側面がサンプル9の表面に当たるまで傾けることが可能であり、変位検出機構を別体として設けた場合よりも角度調整範囲が広くすることが可能である。
【0028】
次に、本発明で使用される自己検知型のカンチレバーの構造を図2に示す。図2はカンチレバー11を探針10側から見た低面図である。
【0029】
図2の自己変位検出型カンチレバー11では、先端に三角錐型の探針10を有し末端にベース部20を有するカンチレバー部21に、カンチレバー21の変位を検出するための変位検出機構22と、変位検出機構22に接続されベース部20に連通する電極部23が設けられている。ベース部20はシリコン基板24の上に酸化シリコン25が積層された構造となっている。酸化シリコンの上側には、n型シリコン基板26がベース部20からカンチレバー21の先端まで連続して積層されており、このn型シリコン基板26が主要な材料となってカンチレバー21を形成している。
【0030】
n型シリコン基板26の表面のカンチレバー21の末端からベース部20の一部にかけてカンチレバー21の長手方向と平行に2本の直線状にp型不純物シリコン22a、22bが注入されており、このp型不純物シリコン22a、22bがピエゾ抵抗体として作用し、カンチレバー21の変位検出機構22を構成している。
【0031】
n型シリコン基板26とp型不純物シリコン22の表面には、電極23a、23b、23cとn型シリコン基板26とp型シリコン基板22a、22b間のリーク電流を防止するために絶縁用の酸化シリコン膜28が形成されて、酸化シリコン膜28の表面の一部にはアルミニウムが膜付けされ電極23a、23b、23cを形成している。
【0032】
この電極部23は、酸化シリコン膜28の一部を除去して、2つの直線状のp型不純物シリコン部22a、22bのカンチレバー上の先端部分同士を電極23cにより電気的に接続し変位検出機構22をU字状に構成するとともに、ベース部20に設けられたU字の末端の2箇所からそれぞれ電極23a、23bが連通している。
【0033】
これらの電極部23a、23bはベース部20に設けられた、メタルコンタクト部27a、27bまで連通しており、このメタルコンタクト部27a、27bが外部の電気回路に接続される。
【0034】
カンチレバーが撓むとp型不純物半導体22a,22bに歪が生じ抵抗値が変化する。電気回路には、カンチレバー11に組み込まれたp型不純物半導体22a,22bを含むブリッジ回路に接続されており、抵抗値が変化するとブリッジ回路の出力電圧が変化し、この変化量によりカンチレバー部21の変位が計測される。
【0035】
この自己検出型カンチレバー11をカンチレバーホルダ14に設けられた圧電素子13により共振周波数の近傍で加振しながらサンプル9に近づけ、振幅の減衰量が一定となるように垂直方向微動機構15で探針10とサンプル9の距離が制御される。
【0036】
次に、本実施形態でのサンプルの測定方法について説明する。本実施形態では従来の走査型プローブ顕微鏡で測定されるような平面形状の表面に数μm以下の微小な凹凸を有するサンプルだけではなく、数μm以上の凹凸を持つ3次元の形状をしたサンプルの測定が可能である。測定を行う場合には、水平方向粗動機構3と第一の角度調整機構5と第二の角度調整機構6と第三の角度調整機構7を任意に動作させて、被測定面が水平方向微動機構4の移動面(本実施形態ではXY平面)に概ね平行となるように配置する。次に、サンプル9と探針10を垂直方向粗動機構17により近接させる。このとき、サンプル9の形状によっては、探針10がサンプルに近づくよりも前にカンチレバー11のベース部や先端部などがサンプル9に接触してしまう場合がある。このような場合には、図3に示したカンチレバー11とサンプル9の配置の一例のように、カンチレバーホルダ14の取付角度調整機構12を使用して探針10以外の場所がサンプル9に当たらないようにカンチレバーの取り付け角度を調整する。
【0037】
その後、垂直方向微動機構15で距離制御を行いながら、水平方向微動機構4によりサンプル9の表面を走査し、水平方向微動機構の走査範囲以下の微小領域の表面形状や物性の測定を行う。局所的な測定のみであれば以上で測定が終了する。
【0038】
水平方向微動機構4や垂直方向微動機構15の最大移動量を超える領域を高分解能で測定したい場合には、あらかじめ、水平方向粗動機構3と第一の角度調整機構5と第二の角度調整機構6と第三の角度調整機構7の原点を設定し、上記の水平方向微動機構4と垂直方向微動機構15での局所的な領域での測定を複数個所測定する。このとき各ステージでの原点からの位置を各ステージに設けられた位置検出機構により認識して、複数の局所的なデータをつなぎあわせることで、広領域の3次元データが測定される。なお、カンチレバーを取付角度調整機構12により回転したときには、X軸方向とZ軸方向に探針先端の位置がわずかにずれるが、これらの量は回転中心12aから探針10の先端までの長さと取り付け角度で算出することができるのでカンチレバーのごとに補正を行うようにした。
【0039】
また、図1に示した光学顕微鏡19、または、レーザ顕微鏡(コンフォーカル顕微鏡)、接触あるいは非接触型の3次元測定器、電子顕微鏡などを複合させて、各ステージの位置情報を共有し、それらの観察画像と走査型プローブ顕微鏡1による局所的な形状像や物性像などの測定データを重ね合わせたり、複合させる計測装置の観察画像から走査型プローブ顕微鏡による測定位置を指定したりすることも可能である。また、取付角度調整機構12により回転したときの探針10の先端の位置ずれ量を複合させる計測装置による探針先端の観察画像から補正するようにしてもよい。
【0040】
<第2の実施形態>
図4は本発明の第2の実施形態に係る走査型プローブ顕微鏡の全体構成を示す概観図である。図4の走査型プローブ顕微鏡は、カンチレバースキャン方式であり、水平方向微動機構と垂直方向微動機構がカンチレバー側に設けられている。図4においても、図の左右方向にX軸を紙面に垂直な方向にY軸を、図の上下方向をZ軸と規定する。また、本実施形態はカンチレバーの構造や探針とサンプル間の距離制御方法は第1の実施形態と同じであるため同一の構成部品には同一の番号を付し詳細な説明は省略する。
【0041】
第2の実施形態の走査型プローブ顕微鏡40ではベースブロック41上に水平方向粗動機構(XYステージ)42のベース部42aを固定し、XYステージの移動面42bにサンプルホルダ43を設けサンプル9を固定する。
【0042】
また、ベースブロック41に固定された支柱部44には、垂直方向粗動機構(Zステージ)45が固定され、Zステージ45の移動面にはX軸まわりに回転動作を行う第一の角度調整機構46が固定され、第一の角度調整機構46の移動面には第一の角度調整機構の回転角度が0°のときにY軸まわりに回転動作を行う第二の角度調整機構47が固定され、第二の角度調整機構の回転アーム部47aには、第一と第二の角度調整機構の回転角度が0°のときにZ軸まわりに回転動作を行う第三の角度調整機構48が固定され、第三の角度調整機構48の先端には、水平方向微動機構49と垂直方向微動機構50が一体成型された円筒型圧電素子51の末端が固定されて、円筒型圧電素子51の先端に、カンチレバー11の取付角度調整機構52とカンチレバー加振用の圧電素子53が配置されたカンチレバーホルダ54が固定されている。
【0043】
なお、第二の角度調整機構47と第三の角度調整機構48の回転中心軸は第一の角度調整機構46を含むそれぞれの角度調整機構の設定角度によって変化する。
【0044】
水平方向粗動機構42と垂直方向粗動機構45は超音波モータで駆動され移動方向以外はリニアガイドで規制されている。超音波モータを使用した場合、ステージを停止させたときに静止摩擦力で移動体が保持されるために高い剛性が得られ、振動の影響に強くなり高速走査も可能となる。
【0045】
また、第一の角度調整機構46は円板状の移動体を有する構造である。また、第二の角度調整機構47は回転軸47bを中心に回転アーム部47aが回転動作をする構造である。第三の角度調整機構48は円筒型の形状であり末端の固定部48aに対して先端48bが回転する。これらの第一、第二、第三の角度調整機構46、47、48はいずれもウォームギアと直流モータにより駆動される。水平方向粗動機構42、垂直方向粗動機構45、第一、第二、第三の角度調整機構46、47、48にはそれぞれ位置検出器機構が内蔵されている。
【0046】
末端部に水平方向微動機構49が、先端部に垂直方向微動機構50が設けられている円筒型の圧電素子51は、圧電素子を円筒状に加工し、円周方向にポーリングを施し、内周面にグランド電極を設けグランドに接続する。水平方向微動機構49の部分は円周に沿って90度毎に4分割され中心軸と平行方向に電極が設けられる。この電極の対向する2つの電極に電圧を印加して、一方には引っ張り歪を与え、他方には圧縮歪を与えることで円筒型圧電素子51の先端に変位が生ずる。このとき厳密に言えば円筒型圧電素子51の先端は円弧運動を行うが変位量が微小であるため近似的に水平面での移動をみなすことができる。もう1対の電極にも同様に電極を印加することで先端を2次元平面内で移動させることができる。
【0047】
垂直方向微動機構50は外周面に円周に沿ってベタ電極を設け、この電極に電圧を印加すると一様な引っ張りまたは圧縮歪が発生して水平方向微動機構49で移動する2次元平面に直交する円筒型圧電素子の中心軸方向に変位が生ずる。水平方向微動機構49と垂直方向微動機構50の変位は円筒型圧電素子51の外周の各電極に歪ゲージを貼って歪ゲージの出力から変位を計測し印加電圧に対して線形な移動量が得られるようにクローズドループで制御される。
【0048】
カンチレバーホルダ54に設けられるカンチレバー11の取付角度回転機構52は水平方向微動機構49で移動する2次元平面に平行な方向に回転中心軸52aを配置して超音波モータで駆動される構造であり、角度検出機構が内蔵されており、第1の実施形態と同様の方法により角度変更時の先端位置補正が行われる。
【0049】
各ステージの移動量は、水平方向粗動機構42はX軸とY軸双方に50mm、垂直方向粗動機構45はZ軸方向に50mm、第一、第二、第三の角度調整機構46、47、48とカンチレバー取付角度調整機構52の角度調整範囲はそれぞれの回転中心に対して30度、水平方向微動機構49は直交する2軸にそれぞれ100μm、垂直方向微動機構50は円筒型圧電素子51の中心軸方向に10μm移動が可能である。
【0050】
次に、本実施形態での測定方法について説明する。本実施形態の場合には、先に規定したXY平面に対して、水平方向微動機構49の移動面は必ずしも一致せず、サンプル9の被測定面と水平方向微動機構49の移動面が概ね平行になるように調整する。また、水平方向微動機構49の移動面に直交する垂直方向微動機構50の移動方向もZ軸には必ずしも一致せずに、水平方向微動機構49の移動面に対して直交する方向となる。
【0051】
本実施形態では測定する立体形状のサンプル9の被測定面と水平方向微動機構49の移動面が概ね平行となるように、第一、第二、第三の角度調整機構46、47、48でX軸、Y軸、Z軸に対するカンチレバーの角度を規定する。
【0052】
次に、探針10の直下に被測定箇所がくるように水平方向粗動機構42で位置調整を行う。その後、垂直方向粗動機構45により探針10をサンプル9に近接させる。このときカンチレバー11の根元や先端部や探針10の側面あるいはカンチレバーホルダ54の部材などが探針10の先端よりも先にサンプル9に接触してしまう場合にはカンチレバー取付角度調整機構52によりカンチレバー11の取り付け角度を変更する。
【0053】
その後、水平方向微動機構42によりサンプル9の表面を走査し、水平方向微動機構と垂直方向微動機構の調整範囲内での微小領域の表面形状や物性の測定を行う。局所的な測定のみであれば以上で測定が終了する。
【0054】
本実施形態でも、第1の実施形態と同様に水平方向微動機構49や垂直方向微動機構50の最大移動量を超える領域を高分解能で測定したい場合には、複数の局所的なデータをつなぎあわせて、広領域の3次元データが測定される。また、図4に記載したレーザ顕微鏡(コンフォーカル顕微鏡)55や、光学顕微鏡、接触あるいは非接触型の3次元測定器、電子顕微鏡などを複合させて、各ステージの位置情報を共有し、それらの観察画像と走査型プローブ顕微鏡40による局所的な形状像や物性像などの測定データを重ね合わせたり、複合させる装置の測定データから走査型プローブ顕微鏡40による測定位置を指定したりすることも可能である。
【0055】
以上、本発明の走査型プローブ顕微鏡について説明したが、本発明は上記の発明に限定されず、さまざまな形態に用いることができる。
【0056】
各ステージや角度調整機構の配置は、被測定面を水平方向微動機構の移動面に平行にして、垂直方向微動機構の移動方向を水平方向微動機構の移動面に対して直交する方向に調整できれば、任意の配置が可能である。例えば第1の実施形態で垂直方向粗動機構をサンプル側に設けてもよい。また第2の実施形態で水平方向粗動機構をカンチレバー側に設けてもよい。
【0057】
探針とサンプルの相対位置調整の自由度も本実施形態のように6自由度を設ける必要はなく、測定目的に合わせて任意の自由度で設定可能である。
粗動機構や角度調整機構、取付角度調整機構、微動機構などの形状や駆動方式も任意の方式が使用可能である。
【0058】
また、カンチレバーに組み込まれる変位検出機構も任意の方式が使用可能である。例えばカンチレバー表面にピエゾ薄膜を設けてピエゾ薄膜のひずみを電気的に計測するものなども適用できる。また、カンチレバーホルダに水晶振動子をあらかじめ固定しておいて、カンチレバーを取り付けたときに、水晶振動子にカンチレバーが固着され、水晶振動子の周波数変動により変位を検出する方式のように、変位検出機構が1本1本のカンチレバーに直接的に組み込まれていなくてもカンチレバーに直接的に固着される構造でありカンチレバー取付後にカンチレバーの取り付け角度により変位検出機構側の調整を必要とせずに変位検出機構とカンチレバーが一体とみなすことができるものであれば本発明に含まれる。
【0059】
また、走査型プローブ顕微鏡の測定方式も振動方式に限定されず、他の方式も適用できる。例えば、カンチレバーを振動させずにサンプルに近づけた場合の撓み量により距離制御を行うコンタクト方式や周波数変動を検出するFM制御方式なども本発明に含まれる。
【0060】
また走査型プローブ顕微鏡での測定は、形状測定に限定されず、硬さや粘弾性などの機械的な特性、電磁気的な特性、近接場光特性などの立体形状での測定も可能である。
【0061】
以上のように本発明では、カンチレバーに変位検出機構が組み込まれているため、変位検出機構とカンチレバーが分離している場合に比べカンチレバーの取り付け角度調整範囲が大きくとれ、装置も小型化するため、従来よりも複雑な3次元形状のサンプルの形状像や物性像が高分解能で測定可能となる。
【0062】
また、任意の軸まわりの傾斜角または回転角を調整可能な角度調整機構または水平方向粗動機構または垂直方向粗動機構のうち1つ以上の機構を移動させて、高分解能測定を行いたいサンプル表面の被測定面を、水平方向微動機構の移動面と概ね平行に配置することで、探針先端以外の箇所がサンプルに衝突したり探針側面の傾斜角の影響が測定データにアーティファクトとして現れることなしに、任意の3次元形状のサンプルの測定が可能となる。また、カンチレバーに変位検出機構が組み込まれているため装置が小型化し取り付け角度調整範囲のほか、粗動機構の移動量や角度調整機構の調整範囲も大きくとれる。
【0063】
また、角度調整機構または水平方向粗動機構または垂直方向粗動機構に位置検出機構を設け、角度調整機構または水平方向粗動機構または垂直方向粗動機構のうち1つ以上のステージを移動させて、水平方向微動機構と垂直方向微動機構を動作させて複数個の表面形状データまたは物性データを取得し、位置検出機構の情報から、表面形状測定データまたは物性データを合成して、サンプルの3次元形状データを取得するようにしたので、広範囲の3次元形状を高分解能で測定することが可能となる。また、バネ定数の小さいカンチレバーを使用して走査型プローブ顕微鏡による距離制御を行っているため、従来の触針式の3次元測定器を用いる場合よりも測定力を小さくできるためサンプルや探針先端のダメージが少なくなり、表面が軟らかいサンプルなども測定可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1 走査型プローブ顕微鏡
2 ベースブロック
3 水平方向粗動機構(XYステージ)
4 水平方向微動機構(XYスキャナ)
5 第一の角度調整機構(回転ステージ)
6 第二の角度調整機構(チルトステージ)
7 第三の角度調整機構(チルトステージ)
8 サンプルホルダ
9 サンプル
10 探針
11 (自己変位検出型)カンチレバー
12 第四の角度調整機構(取付角度調整機構)
14 カンチレバーホルダ
15 垂直方向微動機構
17 垂直方向粗動機構(Zステージ)
18 支柱部
20 ベース部
21 カンチレバー部
22 変位検出機構
23 電極部
27 メタルコンタクト部
40 走査型プローブ顕微鏡
41 ベースブロック
42 水平方向粗動機構(XYステージ)
43 サンプルホルダ
44 支柱部
45 垂直方向粗動機構(Zステージ)
46 第一の角度調整機構
47 第二の角度調整機構
48 第三の角度調整機構
49 水平方向微動機構
50 垂直方向微動機構
51 円筒型圧電素子
52 カンチレバー取付角度調整機構
54 カンチレバーホルダ
55 レーザ顕微鏡(コンフォーカル顕微鏡)




【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に探針を有するカンチレバーと、
前記カンチレバーを固定するためのカンチレバーホルダと、
サンプルを固定するためのサンプルホルダと、
前記サンプル表面の任意の2次元面内で前記探針を相対的に移動させる水平方向微動機構と、
前記2次元面に垂直な方向に前記探針と前記サンプルを相対的に移動させる垂直方向微動機構と、
前記カンチレバーの撓み量を検出するための変位検出機構を有する走査型プローブ顕微鏡において、
前記変位検出機構を前記カンチレバーに組み込み、前記カンチレバーの長軸に直交し探針先端を通る軸が、前記2次元平面に直交する任意の平面内となるように前記カンチレバーを配置し、
前記サンプルホルダ上に載置される任意形状のサンプル表面の被測定面が、前記水平方向微動機構の移動面と略平行になるように前記サンプルと前記カンチレバーの相対位置を規定する任意の軸まわりの角度調整機構を含む位置決め機構を設けたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡。
【請求項2】
前記角度調整機構のうちの少なくとも1つが、前記カンチレバーの長軸に直交し前記水平方向微動機構の移動面に平行な軸まわりに前記カンチレバーの取り付け角度を調整可能にしたカンチレバー取付角度調整機構であることを特徴とする請求項1に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項3】
前記角度調整機構が、前記水平方向微動機構の移動面上に前記サンプルの任意の方向の回転または傾斜を調整可能なサンプル角度調整機構を設け、該サンプル角度調整機構上に前記サンプルホルダを設けた請求項1又は2に記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項4】
前記角度調整機構が、前記カンチレバーの任意の方向の回転または傾斜を調整可能なカンチレバー角度調整機構を設け、該カンチレバー角度調整機構に前記水平方向微動機構を取り付け、前記水平方向微動機構に前記カンチレバーホルダを取り付けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項5】
前記水平方向微動機構の最大移動量よりも大きな移動量を有して任意の2次元平面内で移動する水平方向粗動機構と、
前記垂直方向微動機構の最大移動量よりも大きな移動量を有して水平方向粗動機構の移動面に直交する方向に移動する垂直方向粗動機構と、を備え、前記カンチレバーと前記サンプルを相対的に移動可能にした請求項1乃至4のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項6】
前記角度調整機構または前記水平方向粗動機構または前記垂直方向粗動機構に位置検出機構を設け、前記角度調整機構または前記水平方向粗動機構または前記垂直方向粗動機構のうち1つ以上の機構を移動させて、前記水平方向微動機構と前記垂直方向微動機構を動作させて複数個所の表面形状データまたは表面物性データを取得し、前記位置検出機構の情報から、前記表面形状測定データまたは表面物性データを合成して、前記水平方向微動機構または垂直方向微動機構の移動範囲よりも広範囲の前記サンプルの3次元形状データを取得する請求項1乃至5のいずれかに記載の走査型プローブ顕微鏡。
【請求項7】
位置検出機構が備わるカンチレバーの先端に有した探針を、該探針の先端に対向配置したサンプルの任意の2次元面内を水平微動機構により及び該2次元面に直行する面内を垂直微動機構によって前記探針と前記サンプルとを相対的に移動させることで前記試料の表面を前記探針で走査する走査型プローブ顕微鏡の走査方法において、
前記カンチレバーの長軸に直交し前記探針先端を通る軸が、前記2次元平面に直交する任意の平面内となるように前記カンチレバーを配置し、
前記サンプルの任意の形状表面の被測定面が、前記水平方向微動機構の移動面と略平行になるように前記サンプルと前記カンチレバーの相対位置を角度調整することを特徴とする走査型プローブ顕微鏡の走査方法。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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