説明

走査型プローブ顕微鏡用の試料台配列

【課題】複数の試料台の試料固定面を容易に一様に表面処理することを可能にする試料台配列を提供する。
【解決手段】試料台配列10は、10個の試料台12が架橋部分14とガラス板GPの左端部とで一体的に保持されている。試料台配列10はガラス板GPを削り出して作製される。すべての試料台12は試料固定面12aが同一平面を共有するように配列されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡用の試料台に関する。
【背景技術】
【0002】
原子間力顕微鏡(AFM)は走査型プローブ顕微鏡の代表的な機器のひとつで、探針と試料との間の距離がサブnmからnmオーダーになったときに働く力の影響を探針に連なるカンチレバーの変位または共振特性の変化として検出することにより試料の三次元画像を測定するものである。高速AFMとは、カンチレバーをこれまでのAFMで用いられていた数kHz〜数100kHzの応答性を持つものから500kHz以上の応答性を持つものに変更して、1秒間に100ライン以上の走査を可能としたものである。高速に走査するためには、試料台の重量は少なければ少ないほど良い。
【0003】
高速AFMの試料台は、ガラスを削り出したものや、樹脂を削り出したものなど、個別に作製される。試料台には試料を吸着させる面とスキャナーに接している面があり、試料吸着面は、マイカを貼ったり表面処理したりして試料を吸着する下地を作ってから使用される。
【0004】
表面処理については再現性を良くするため、また試料間の差を比較するため、表面の処理条件が一定にそろっている必要がある。ところがこれまでの試料台は一つ一つ分かれているため、試料台の表面処理の結果としての試料の活性や試料の吸着密度などの条件に、個体間のばらつきが大きい。また一様な処理をするための取り扱いも試料台が小さいために取扱いが難しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高速AFMは試料分子の動きや反応性の確認をするための測定を行なう
試料の固定の強さを制御するために、試料台表面の電荷状態や親水性、疎水性を制御する必要がある。また分子間の特異的な吸着を利用して試料を保持するために、特異的に吸着する分子の表面密度が一定になるように表面処理したい。
【0006】
ところが高速AFMでは、高速走査を実現するために試料台を小さくする必要があり、試料を固定する部分の大きさは1mm径ないし2mm径程度の範囲になる。このような小さなものに表面処理を施す場合、取り扱いに注意を払うことによって、処理時間や反応のばらつきを避けることは難しい。
【0007】
本発明は、このような実状を考慮して成されたものであり、その目的は、複数の試料台の試料固定面を容易に一様に表面処理することを可能にする試料台配列を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による試料台配列は、走査型プローブ顕微鏡の観察対象となる試料を保持するための複数の試料台を有し、各試料台は試料が固定される試料固定面を有し、すべての試料台の試料固定面が同一平面を共有するようにすべての試料台が配列されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複数の試料台の試料固定面を容易に一様に表面処理することを可能にする試料台配列が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0011】
<第一実施形態>
第一実施形態はガラス板を機械加工して作製される試料台配列である。ガラス板の機械加工にはダイシングソウまたはダイヤモンド切削機などが使用される。本実施形態の試料台配列は以下の加工手順に従って作製される。
【0012】
まず図1に示されるように、ガラス板GPを、試料固定面になる面を左端部分を除いてB断面方向に間隔をおいてC断面方向に一定の幅かつ一定の深さで切削する。
【0013】
次に図2に示されるように、試料固定面になる面をC断面方向に間隔をおいてB断面方向に一定の幅かつ一定の深さで切削する。
【0014】
続いて図3に示されるように、図2の加工において切削した部分の内側の一部をさらに、試料台の切り出しの際に破壊される架橋部分の厚さに相当する厚さを残して、C断面方向に間隔をおいてB断面方向に一定の幅かつ一定の深さで切削する。
【0015】
さらに図4に示されるように、図1の加工において切削した部分の内側の一部を、B断面方向に間隔をおいてC断面方向に一定の幅で切り抜く。
【0016】
最後に図5に示されるように、試料台配列を1列ずつに切り分けるのを容易にするための切り込みを入れて、本実施形態の試料台配列10が完成する。
【0017】
本実施形態の試料台配列は複数の試料台が行列状に配列されているが、図4の工程において、切り抜きをC断面方向に通して、複数の試料台が線状に配列された試料台配列としてもよい。
【0018】
図5に示されるように、試料台配列10は、10個の試料台12が架橋部分14とガラス板GPの左端部とで一体的に保持されている。本実施形態の試料台配列10は、同一材料の平板部材であるガラス板GPを削り出して作製されるので、すべての試料台12は試料固定面12aが同一平面を共有するように配列されている。このため、試料台配列全体を処理溶液に漬け込んだり、試料固定面12aに金などの金属を蒸着したり、試料固定面12aに処理溶液を一様に噴霧したり、試料固定面12aをプラズマアッシングして有機汚れを灰化したりするなど、試料台配列10のすべての試料台12の試料固定面12aを容易に一様に表面処理することが可能である。
【0019】
これまで複数の試料台は個別に表面処理せざるを得なかったが、本実施形態の試料台配列10によれば、複数の試料台12を同時に表面処理することが可能である。例えば、試料が吸着される試料固定表面として金の111面の出ている膜を生成したり、シランカプラーを用いて試料固定表面に一定の密度でSH基やアミノ基、カルボキシル基、スルホン基などの官能基を結合させたりすることができる。
【0020】
試料台配列から切り出された試料台12は、図6に示されるように、高速AFMのZスキャナー18上に粘着性の物質を用いて直接吸着される。
【0021】
<第二実施形態>
第二実施形態はシリコンプロセスを用いて作製される試料台配列である。本実施形態の試料台配列20は、図7に示されるように、複数の試料台22と、試料台22をそれぞれ取り囲んでいる枠組み24と、試料台22と枠組み24とをつないでいる架橋部分26とを有している。この試料台配列は、マスキングプロセスおよび等方性・異方性エッチングなどのMEMS技術を利用してシリコンなどの半導体基板から作製される。A断面から分かるように、試料台22と枠組み24は架橋部分26によって一体的に結合されている。
【0022】
第二実施形態の試料台22は第一実施形態の試料台12に比べて厚さが薄くなるため、第一実施形態のガラス製の試料台12の高さに合わせて設置された高速AFMの構成に用いる場合には、Zスキャナー18に直接はり付けられるのではなく、図8に示されるように、スペーサー28を介在させてZスキャナー18にはり付けられる。
【0023】
本実施形態の試料台配列20は、MEMS技術を利用して同一材料の平板部材である半導体基板を削り出して作製されるので、すべての試料台22は試料固定面22aが同一平面を共有するように配列されている。従って、第一実施形態と同様に、試料台配列20のすべての試料台22の試料固定面22aを容易に一様に表面処理することが可能である。
【0024】
第二実施形態の試料台配列では、試料台22がそれぞれ枠組み24と架橋部分26によって独立して保持されているため、任意の位置の試料台22を切り出して使用することが可能である。
【0025】
<第三実施形態>
第三実施形態は保持部材上に複数の試料台を並べて作製される試料台配列である。本実施形態の試料台配列30は、図9に示されるように、複数の試料台32と、試料台32を保持するための保持部材34とから構成されている。保持部材34は粘着性の表面を有する膜で構成される。試料台32は保持部材34上に一定の間隔をおいて配置され、スキャナー接触面が保持部材34の粘着性の表面に粘着されている。すべての試料台32は高さが一定になるように保持部材34に保持されている。その結果、すべての試料台32の試料固定面は同一平面に共有する。保持部材34は、粘着性の表面を有する膜で構成される代わりに、粘着物質を塗布した板材で構成されてもよい。
【0026】
本実施形態の試料台配列30は、すべての試料台32は試料固定面が同一平面を共有するように保持部材34に保持されているので、第一実施形態と同様に、試料台配列30のすべての試料台32の試料固定面32aを容易に一様に表面処理することが可能である。
【0027】
第二実施形態の試料台配列30では、粘着性の表面を有する膜を引っ張って試料台32のスキャナー接触面を剥離することによって、試料台32が一つ一つ取り分けられる。その際に、ガラス片やシリコン片などの塵が出ないので、試料表面に不純物が混入しにくい。
【0028】
これまで、図面を参照しながら本発明の実施形態を述べたが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において様々な変形や変更が施されてもよい。
【0029】
例えば、それぞれ第一実施形態と第二実施形態により構成された試料台配列の試料固定面にマイカ、つまり雲母を接着し、劈開して試料台配列全体を表面処理してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第一実施形態の試料台配列の作製工程の最初の工程を示している。
【図2】本発明の第一実施形態の試料台配列の作製工程の図1に続く工程を示している。
【図3】本発明の第一実施形態の試料台配列の作製工程の図2に続く工程を示している。
【図4】本発明の第一実施形態の試料台配列の作製工程の図3に続く工程を示している。
【図5】本発明の第一実施形態の試料台配列の完成品を示している。
【図6】図5の試料台配列から切り出された試料台が高速AFMのZスキャナーに取り付けられた様子を示している。
【図7】本発明の第二実施形態の試料台配列を示している。
【図8】図7の試料台配列から切り出された試料台が高速AFMのZスキャナーに取り付けられた様子を示している。
【図9】本発明の第三実施形態の試料台配列を示している。
【符号の説明】
【0031】
10…試料台配列、12…試料台、12a…試料固定面、14…架橋部分、18…Zスキャナー、20…試料台配列、22…試料台、22a…試料固定面、24…枠組み、26…架橋部分、28…スペーサー、30…試料台配列、32…試料台、32a…試料固定面、34…保持部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型プローブ顕微鏡の観察対象となる試料を保持するための複数の試料台を有し、各試料台は試料が固定される試料固定面を有し、すべての試料台の試料固定面が同一平面を共有するようにすべての試料台が配列されている走査型プローブ顕微鏡用の試料台配列。
【請求項2】
前記試料台配列が同一材料の平板部材を有している請求項1に記載の試料台配列。
【請求項3】
前記試料台配列が、前記試料台をそれぞれ取り囲んでいる枠組みと、前記枠組みと前記試料台とをつないでいる架橋部とを有している請求項1に記載の試料台配列。
【請求項4】
前記試料台配列が前記試料台を保持するための保持部材を有し、前記保持部材は粘着性の表面を有する膜で構成され、前記試料台はすべて高さが一定になるように前記保持部材に保持されている請求項1に記載の試料台配列。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−343285(P2006−343285A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171269(P2005−171269)
【出願日】平成17年6月10日(2005.6.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】