説明

走査型画像表示装置

【課題】光源としての半導体レーザに供給されるバイアス電流の調整によって光出力の自動的な制御が行われる構成において、黒レベルが変化することを抑制し、良好で安定した画質を得る。
【解決手段】光源としての半導体レーザに供給されるバイアス電流及び変調電流を制御する電流制御部は、走査部によるレーザ光の走査位置が、走査部によるレーザ光の全走査領域のうち表示画像を形成する有効走査領域外である無効走査領域にある状態で、半導体レーザの電流−発光量特性に基づき、光検出部により検出された光量の最小値(黒レベル)が、あらかじめ設定された第1の目標値となるように、変調電流の変調幅を調整した後(S31〜S33)、光検出部により検出された光量の最大値(白レベル)が、あらかじめ設定された第2の目標値となるように、バイアス電流を調整する電流制御を行う(S34〜S36)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源として半導体レーザを有する光源部から出射されたレーザ光を走査して投射対象に投射する走査型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像信号に応じた強度のレーザ光を出射する光源部と、この光源部から出射されたレーザ光を2次元走査する走査部とを有し、走査部により走査されたレーザ光を投射部から投射対象に投射して画像を表示する走査型画像表示装置が知られている。走査型画像表示装置としては、例えば、投射対象を観察者の眼の網膜とした網膜走査型の画像表示装置や、投影対象をスクリーンとした光走査型の画像表示装置等がある。
【0003】
このような走査型画像表示装置において、光源部を構成する光源が半導体レーザ(レーザダイオード)である場合、光源は、供給される電流値が固有の閾値電流値に達するまではほとんど発光しないという特性を有する。そこで、光源部の応答性を高める観点から、光源にバイアス電流を供給することが行われている。つまり、光源部から出射されるレーザ光によって画像表示が行われる場合、画像信号に応じた大きさの駆動電流が、バイアス電流に重畳して光源に供給される。
【0004】
上述のような光源の特性は、レーザ光の出射にともなって発生する熱や外気温の変化や経時劣化等により変化する。この光源の特性の変化には、光源の閾値電流の値の変化が含まれる。光源の閾値電流の値が変化することは、表示画像の輝度が安定しない等の不具合の原因となる。
【0005】
そこで、従来、光源部の光出力を一定に保つための技術として、自動的に光出力の制御を行うAPC(Automatic Power Control)がある。APCによれば、例えば、フォトダイオード等によって光源の光出力が検出され、光源の光出力が所定の値となるように、光源に供給されるバイアス電流が制御される。特許文献1には、網膜走査型の画像表示装置において、光源から出射されたレーザ光の強度に基づいて光源に供給する電流を調整することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−244797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
走査型画像表示装置において上述したようなAPCが行われる場合、次のような問題がある。走査型画像表示装置においては、走査部によるレーザ光の走査領域として、表示画像が形成される有効走査領域と、有効走査領域の外の領域であり画像表示が行われない無効走査領域とが存在する。つまり、無効走査領域では、光源にバイアス電流が供給され、有効走査領域では、画像信号に応じた大きさの駆動電流(変調電流)がバイアス電流に重畳して光源に供給される。
【0008】
したがって、レーザ光の走査位置が無効走査領域にある状態では、光源はバイアス電流のみの供給を受ける状態となり、かかる状態でレーザの光量(表示画像の輝度のレベル)が最小値(黒レベル)となる。この黒レベルの状態を基準として、画像信号に応じた大きさの駆動電流(変調電流)が供給されることによる画像表示が行われる。そして、APCは、通常、レーザ光の走査位置が無効走査領域にある状態で、光源に供給されるバイアス電流が調整されることにより行われる。
【0009】
このため、光源に供給されるバイアス電流の値がAPCによって気温の変化等に応じて変化すると、黒レベルが変化するという現象が生じる。このように温度変化等によって黒レベルが変化することは、有効走査領域において表示画像の輝度を不安定としたりコントラストを低下させたりし、表示画像の画質の低下を招く原因となる。
【0010】
そこで、本発明は、光源としての半導体レーザに供給されるバイアス電流の調整によって光出力の自動的な制御が行われる構成において、黒レベルが変化することを抑制することができ、良好で安定した画質を得ることができる走査型画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の走査型画像表示装置は、画像信号に応じた強度のレーザ光を出射する半導体レーザを有する光源部と、前記光源部から出射されたレーザ光を2次元走査する走査部と、前記半導体レーザから出射されたレーザ光を検出する光検出部と、前記光検出部により検出されたレーザ光の光量に基づいて、前記半導体レーザに供給されるバイアス電流及び該バイアス電流を基準として前記画像信号に応じて変化する変調電流を制御する電流制御部と、を備え、前記電流制御部は、前記走査部によるレーザ光の走査位置が、前記走査部によるレーザ光の全走査領域のうち表示画像を形成する有効走査領域外である無効走査領域にある状態で、前記半導体レーザに供給される電流値と前記半導体レーザの発光量との関係を示す電流−発光量特性に基づき、前記光検出部により検出されたレーザ光の光量の最小値が、あらかじめ設定された第1の目標値となるように、前記変調電流の変調幅を調整した後、前記光検出部により検出されたレーザ光の光量の最大値が、あらかじめ設定された第2の目標値となるように、前記バイアス電流を調整する電流制御を行うものである。
【0012】
請求項2に記載の走査型画像表示装置は、請求項1に記載の走査型画像表示装置において、前記電流−発光量特性は、前記電流値に関し、前記電流値が上昇する過程で前記電流値の増加にともなう前記発光量の増加量が急激に大きくなる前記電流値として規定される閾値電流を有し、前記第1の目標値は、前記閾値電流よりも小さい値の前記電流値に対応する前記発光量の値に設定されるものである。
【0013】
請求項3に記載の走査型画像表示装置は、請求項1または請求項2に記載の走査型画像表示装置において、前記光源部は、互いに異なる色のレーザ光を出射する複数の半導体レーザを有し、前記電流制御部は、前記複数の半導体レーザの各半導体レーザの前記電流制御を、前記各半導体レーザが出射するレーザ光の色の視感度が高い順に行うものである。
【0014】
請求項4に記載の走査型画像表示装置は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の走査型画像表示装置において、前記電流制御部は、前記光検出部により検出されたレーザ光の光量の最小値と前記第1の目標値との差の大きさに応じて、前記変調電流の変調幅の調整量を変化させる第1の調整量制御、及び前記光検出部により検出されたレーザ光の光量の最大値と前記第2の目標値との差の大きさに応じて、前記バイアス電流の調整量を変化させる第2の調整量制御のうち、少なくともいずれかを行うものである。
【0015】
請求項5に記載の走査型画像表示装置は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の走査型画像表示装置において、前記走査部により2次元走査されたレーザ光を、観察者の少なくとも一方の眼の網膜に入射させる接眼光学系部をさらに備え、前記網膜をレーザ光の投射対象として、画像を表示するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光源としての半導体レーザに供給されるバイアス電流の調整によって光出力の自動的な制御が行われる構成において、黒レベルが変化することを抑制することができ、良好で安定した画質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る走査型画像表示装置の全体的な構成を示す図。
【図2】本発明の一実施形態に係る走査部の動作説明図。
【図3】本発明の一実施形態に係る光源部における電流値と発光量との関係を示す図。
【図4】本発明の一実施形態に係る光源部における電流値と発光量との関係の変化についての説明図。
【図5】本発明の一実施形態に係る制御構成を示すブロック図。
【図6】本発明の一実施形態に係る電流制御の一例を示すフロー図。
【図7】本発明の一実施形態に係る電流制御の一例を示すフロー図。
【図8】本発明の一実施形態に係る電流制御の一例を示すフロー図。
【図9】本発明の一実施形態に係る電流制御の一例を示すフロー図。
【図10】本発明の一実施形態に係る電流制御の一例を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、温度変化等によって特性が変化する光源としての半導体レーザの光出力の最大値及び最小値の各値を所定の値に保つ自動制御を行い、各値についての制御を行うタイミングを工夫することで、黒レベルの変化を防止し、画質の安定化を図ろうとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
以下に説明する本発明の実施の形態は、本発明を、走査型画像表示装置の一例である網膜走査ディスプレイ(Retinal Scanning Display、以下「RSD」とする。)に適用した場合のものである。なお、本発明は、網膜走査型の画像表示装置であるRSDに限らず、例えば投影対象をスクリーンとした光走査型の画像表示装置(レーザディスプレイ)等の、他の走査型画像表示装置にも適用可能である。
【0020】
[RSDの構成]
まず、本実施形態に係る走査型画像表示装置としてのRSD1の構成について、図1を用いて説明する。本実施形態に係るRSD1は、投影対象を、観察者の少なくとも一方の眼10の網膜10bとし、光束としてのレーザ光を走査する走査部によって走査したレーザ光を、レーザ光を投射する投射部により網膜10bに入射して、画像を表示する。つまり、RSD1は、微弱な光を高速で走査しながら観察者の網膜10bに照射することで、網膜10b上に走査された光の残像を映像として観察者に認識させる網膜走査型の画像表示装置である。
【0021】
図1に示すように、RSD1は、コントロールユニット2と、投影ユニット3とを備える。コントロールユニット2は、画像信号に応じた強度のレーザ光を画像光として出射する。コントロールユニット2から出射された画像光は、光ファイバケーブル4により、投影ユニット3に伝送される。
【0022】
コントロールユニット2は、記憶部を内蔵し、この記憶部に記憶されたコンテンツ情報等に基づいて画像信号を形成する。コントロールユニット2は、形成した画像信号に応じた強度のレーザ光を画像光として光ファイバケーブル4へ出射する。
【0023】
投影ユニット3は、光ファイバケーブル4により伝送されて来た画像光を、観察者が表示画像として認識可能とするために走査する。投影ユニット3は、コントロールユニット2においてR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の色毎に強度変調された画像光を、2次元方向に走査し、観察者の眼10に入射させる。
【0024】
RSD1の電気的構成及び光学的構成について具体的に説明する。コントロールユニット2は、制御部5と、光源ユニット6とを有する。光源ユニット6は、光源部7と、駆動信号供給回路8とを含む。
【0025】
制御部5は、RSD1の各部を統括的に制御する。制御部5は、あらかじめ記憶されている制御プログラムにしたがって所定の処理を実行することにより、RSD1を制御する。制御部5は、データ通信用のバスにより接続されるCPU、フラッシュメモリ、RAM、VRAM、複数の入出力インターフェース等の各種機能部分を有し、バスを介して各種情報の送受信を行う。
【0026】
制御部5は、入出力端子等を介して外部接続された図示しない機器類から供給される画像データや、あらかじめ記憶されたコンテンツ情報に基づく画像データ等の各種画像データの入力を受ける。制御部5は、入力された画像データに基づいて、画像信号5Sを生成する。制御部5により生成された画像信号5Sは、駆動信号供給回路8に送られる。つまり、制御部5は、画像信号5Sに応じた強度のレーザ光を光源部7に出射させる。
【0027】
駆動信号供給回路8は、画像信号5Sに応じた駆動信号を生成する駆動信号生成部として機能する。駆動信号供給回路8は、画像信号5Sに基づいて、表示画像を形成するための要素となる各信号を画素単位で生成する。
【0028】
光源部7は、駆動信号供給回路8により生成された駆動信号に応じた強度のレーザ光を出力する。光源部7は、赤色レーザ光を生成して出射する赤色レーザ部11と、緑色レーザ光を生成して出射する緑色レーザ部12と、青色レーザ光を生成して出射する青色レーザ部13とを有する。
【0029】
各色のレーザ部11,12,13は、各色のレーザ光を発生させる光源としてのレーザ11a,12a,13aと、このレーザ11a,12a,13aを駆動させるための光源駆動部としてのレーザドライバ11b,12b,13bとを含む。各色のレーザ11a,12a,13aは、半導体レーザ(レーザダイオード)である。なお、各色のレーザ11a,12a,13aの少なくともいずれかのレーザ、特に緑色のレーザ12bが、波長変換素子である第2高調波発生(SHG:Second Harmonic generation)素子によって第2高調波のレーザを発生し得るSHGレーザ等であってもよい。各色のレーザ11a,12a,13aと、対応する色のレーザドライバ11b,12b,13bとは、それぞれ駆動ライン11c,12c,13cにより接続される。
【0030】
各色のレーザドライバ11b,12b,13bは、駆動信号供給回路8から入力される駆動信号に基づき、それぞれ対応するレーザ11a,12a,13aに駆動電流を供給する。そして、各色のレーザ11a,12a,13aは、対応するレーザドライバ11b,12b,13bから供給される駆動電流に応じて強度変調されたレーザ光を出射する。
【0031】
したがって、赤色レーザ部11は、駆動信号供給回路8からの駆動信号14Rに基づき、レーザドライバ11bによってレーザ11aを駆動させ、赤色のレーザ光を出射する。また、緑色レーザ部12は、駆動信号供給回路8からの駆動信号14Gに基づき、レーザドライバ12bによってレーザ12aを駆動させ、緑色のレーザ光を出射する。また、青色レーザ部13は、駆動信号供給回路8からの駆動信号14Bに基づき、レーザドライバ13bによってレーザ13aを駆動させ、青色のレーザ光を出射する。
【0032】
このように、本実施形態では、各色のレーザ11a,12a,13aに供給される駆動電流が、画像信号5Sに応じて変化する変調電流に相当する。そして、各色のレーザドライバ11b,12b,13bは、画像信号5Sに応じた大きさの変調電流を画素単位で順次各色のレーザ11a,12a,13aに供給することによって、各色のレーザ11a,12a,13aを駆動する。各色のレーザ11a,12a,13aに供給される変調電流が変調されることで、各色のレーザ11a,12a,13aから出射されるレーザ光の強度変調が行われる。
【0033】
また、駆動信号供給回路8は、各色のレーザ11a,12a,13aにバイアス電流を供給するためのバイアス電流供給信号24R,24G,24Bを生成する。そして、各色のレーザドライバ11b,12b,13bは、駆動信号供給回路8から入力されるバイアス電流供給信号に基づき、それぞれ対応するレーザ11a,12a,13aにバイアス電流を供給する。バイアス電流により、光源部7を構成する各色のレーザ11a,12a,13aは待機状態となり、光源部7の応答性が高められる。なお、各色に対応するバイアス電流供給信号24R,24G,24Bは、対応する色の駆動信号14R,14G,14Bに重畳して駆動信号供給回路8から出力されてもよい。
【0034】
このように、本実施形態のRSD1では、駆動信号供給回路8が、画像信号5Sに応じた画像表示用電流としての変調電流、及び光源部7を待機状態とするためのバイアス電流を、光源部7に供給させる電流供給部として機能する。すなわち、駆動信号供給回路8は、各色のレーザドライバ11b,12b,13bに、変調電流及びバイアス電流を各色のレーザ11a,12a,13aに供給させるため、各色のレーザドライバ11b,12b,13bに送信する駆動信号14R,14G,14B、及びバイアス電流供給信号24R,24G,24Bを生成する。
【0035】
光源部7は、各色のレーザ部11,12,13により出射したレーザ光を、合波してから、光ファイバケーブル4に出射する。このため、光源部7は、コリメート光学系16,17,18と、ダイクロイックミラー19,20,21と、結合光学系22とを有する。
【0036】
各色のレーザ部11,12,13から出射した各色のレーザ光は、それぞれコリメート光学系16,17,18によって平行光化された後、それぞれ対応するダイクロイックミラー19,20,21に入射する。各ダイクロイックミラー19,20,21に入射する赤色,緑色,青色の3色のレーザ光は、3個のダイクロイックミラー19,20,21により、波長に関して選択的に反射・透過させられて結合光学系22に達し、合波されて集光される。結合光学系22により集光されたレーザ光は、光ファイバケーブル4に入射する。
【0037】
このように、光源部7から光ファイバケーブル4に入射するレーザ光は、強度変調された各色のレーザ光が合波されたものである。なお、各色のレーザ部11,12,13からのレーザ光を光源部7からの出射光として出射させるための光学系の構成は、各色のレーザ部11,12,13から出射される各色のレーザ光が波長に関して選択的に反射・透過させられる構成であれば限定されるものではない。
【0038】
以上のように、光源部7は、制御部5から入力される画像信号5Sに応じた強度のレーザ光を出射する。また、本実施形態では、光源部7は、互いに異なる色のレーザ光を出射する3個の半導体レーザとして、赤色のレーザ光を出射するレーザ11aと、緑色のレーザ光を出射するレーザ12aと、青色のレーザ光を出射するレーザ13aとを有する。
【0039】
投影ユニット3は、RSD1において光源部7と観察者の眼10との間に位置する。投影ユニット3は、コリメート光学系31と、水平走査部32と、第1リレー光学系33と、垂直走査部34と、第2リレー光学系35とを有する。
【0040】
コリメート光学系31は、光源部7で生成され光ファイバケーブル4から出射されたレーザ光を平行光化する。水平走査部32は、コリメート光学系31で平行光化されたレーザ光を画像表示のために水平方向に往復走査する。第1リレー光学系33は、水平走査部32と垂直走査部34との間に設けられ、走査レンズ系を構成し、水平走査部32と垂直走査部34との間でレーザ光を中継する。
【0041】
垂直走査部34は、水平走査部32で水平方向に走査されたレーザ光を垂直方向に走査する。第2リレー光学系35は、水平走査部32及び垂直走査部34によって水平方向と垂直方向に走査されたレーザ光を、投影ユニット3から外部へと出射させるための光学系である。
【0042】
水平走査部32及び垂直走査部34、ならびに第1リレー光学系33は、光ファイバケーブル4から出射したレーザ光を、画像として観察者の網膜10bに投影可能な状態とするために、水平方向と垂直方向に走査して走査光束とするための光走査装置及び光学系である。つまり、本実施形態では、水平走査部32及び垂直走査部34を含む構成が、光源部7から出射されたレーザ光を2次元走査する走査部として機能する。以下の説明では、水平走査部32及び垂直走査部34を含む構成を総称して「走査部」という。
【0043】
水平走査部32は、走査部において、垂直走査部34に対して相対的に高速にレーザ光を走査する高速スキャナとして機能する。水平走査部32は、共振型の偏向素子32aと、水平走査駆動回路32bとを備える。偏向素子32aは、レーザ光を水平方向に走査するため偏向面(反射面)を有する。水平走査駆動回路32bは、偏向素子32aを共振させて偏向素子32aの偏向面を揺動させる駆動信号を生成する。水平走査駆動回路32bは、偏向素子32aに対する駆動信号を、駆動信号供給回路8から入力される水平駆動信号36に基づいて生成する。
【0044】
一方、垂直走査部34は、走査部において、水平走査部32に対して相対的に低速にレーザ光を走査する低速スキャナとして機能する。垂直走査部34は、非共振型の偏向素子34aと、垂直走査駆動回路34bとを備える。偏向素子34aは、レーザ光を垂直方向に走査するため偏向面(反射面)を有する。垂直走査駆動回路34bは、偏向素子34aの偏向面を非共振状態で揺動させる駆動信号を生成する。垂直走査駆動回路34bは、偏向素子34aに対する駆動信号を、駆動信号供給回路8から入力される垂直駆動信号37に基づいて生成する。
【0045】
垂直走査部34は、表示すべき画像の1フレーム毎に、画像を形成するためのレーザ光を最初の水平走査線から最後の水平走査線に向かって垂直に走査する。これにより、2次元走査された画像が形成される。ここで「水平走査線」とは、水平走査部32による水平方向への1走査を意味する。走査部が有する偏向素子32a,34aは、例えば、ガルバノミラー等である。また、偏向素子32a,34aの駆動方式は、例えば、圧電駆動、電磁駆動、静電駆動等である。
【0046】
第1リレー光学系33は、水平走査部32が有する偏向素子32aの偏向面によって水平方向に走査されたレーザ光を、垂直走査部34が有する偏向素子34aの偏向面に収束させる。そして、偏向素子34aの偏向面に収束したレーザ光が、偏向素子34aの偏向面によって垂直方向に走査され、画像光Lxを形成する。なお、RSD1においては、水平走査部32と垂直走査部34との配置を入れ替えることで、レーザ光を垂直走査部34によって垂直方向に走査した後、水平走査部32によって水平方向に走査する構成が採用されてもよい。
【0047】
また、図示は省略するが、RSD1は、第1リレー光学系33において、タイミング検出用のレーザ光を検出するため、BDセンサを有する。BDセンサは、受光した光の強度に応じた電流をBD信号として出力する。BDセンサから出力されるBD信号は、制御部5に入力される。BDセンサによる検出信号に基づいて、走査部によるレーザ光の走査タイミングが検出される。
【0048】
BDセンサが用いられ、駆動信号供給回路8からの駆動信号に基づいて光源部7から出射されるタイミング検出用のレーザ光が検出されることで、光源部7から出射されるレーザ光の出射タイミングが調整される。BDセンサは、第1リレー光学系33において、画像を形成するためのレーザ光の妨げとならない位置、例えば、走査部によるレーザ光の全走査領域のうち表示画像を形成する有効走査領域外である無効走査領域に対応する所定の位置に配置される。
【0049】
第2リレー光学系35は、正の屈折力を持つ2つのレンズ系として、直列配置されるレンズ系38,39を有する。垂直走査部34により走査されたレーザ光は、レンズ系38によって、走査されるレーザ光同士で中心線が相互に平行となるように、かつ収束レーザ光となるように変換される。レンズ系38により変換されたレーザ光は、レンズ系39により、RSD1が備えるハーフミラー15を介して観察者の瞳孔10aに収束するように変換される。
【0050】
このように、画像光Lxとしてのレーザ光は、第2リレー光学系35を介した後、ハーフミラー15により反射させられて、観察者の瞳孔10aに入射する。画像光Lxが瞳孔10aに入射することにより、網膜10b上に、画像信号5Sに応じた表示画像が投影される。このようにして、観察者は、画像光Lxを表示画像として認識する。
【0051】
本実施形態では、第2リレー光学系35を構成するレンズ系38,39、及びハーフミラー15を含む構成が、走査部により2次元走査されたレーザ光を、観察者の少なくとも一方の眼10の網膜10bに入射させる接眼光学系部として機能する。そして、RSD1は、網膜10bをレーザ光の投射対象として、画像を表示する。
【0052】
また、ハーフミラー15は、外光Lyを透過させて観察者の眼10に入射させる。これにより、観察者は、外光Lyにより認識される背景に、画像光Lxによる画像を重ねて視認することができる。このように、本実施形態のRSD1は、投影ユニット3から出射される画像光Lxを観察者の眼10に走査しつつ投射するとともに、外光Lyを透過させるシースルー型である。ただし、RSD1はシースルー型である必要はない。
【0053】
以上のような構成を備えるRSD1は、例えば、投影ユニット3を含む構成を支持する眼鏡型のフレームを備えることで、観察者の頭部に装着されるヘッドマウントディスプレイを構成する。以下では、本実施形態のRSD1の詳細について説明する。
【0054】
[走査部の動作等について]
RSD1が備える走査部の動作等について、図1及び図2を用いて説明する。RSD1においては、走査部による走査範囲として、水平方向及び垂直方向の各方向について、画像信号5Sに応じた画像表示が行われる有効走査範囲と、この有効走査範囲に対して走査方向の両端側に位置し、画像表示が行われない無効走査範囲とが存在する。
【0055】
すなわち、図2に示すように、水平走査部32の走査方向である水平方向について、有効走査範囲Za1と、この有効走査範囲Za1の両側に位置する無効走査範囲Za2とが存在し、垂直走査部34の走査方向である垂直方向について、有効走査範囲Zb1と、この有効走査範囲Zb1の両側に位置する無効走査範囲Zb2とが存在する。有効走査範囲Za1,Zb1と無効走査範囲Za2,Zb2とは、光源部7に供給される変調電流の値によって切り替えられる。
【0056】
有効走査範囲Za1,Zb1とは、具体的には、水平走査部32及び垂直走査部34のそれぞれの偏向素子32a,34aがレーザ光を走査できる最大の範囲(以下「最大走査範囲」という。)Za3,Zb3のうち、実際に光源部7から画像信号5Sに応じて強度変調されたレーザ光(以下「画像形成用レーザ光」という。)が出射される範囲である。つまり、画像形成用レーザ光は、走査部の偏向素子32a,34aによる走査位置が所定の範囲として定められる有効走査範囲Za1,Zb1にあるタイミングで出射される。そして最大走査範囲Za3,Zb3のうち、画像形成用レーザ光が出射されない無効走査範囲Za2,Zb2が、各有効走査範囲Za1,Zb1に対してレーザ光の走査方向の両側に存在する。
【0057】
このようにレーザ光の走査状態が有効走査範囲Za1,Zb1と無効走査範囲Za2,Zb2とで切り替わる構成によれば、図2に示すように、走査部によってレーザ光が2次元走査されることで画像が形成される画面において、有効走査範囲Za1,Zb1に対応する画像有効領域A1と、無効走査範囲Za2,Zb2に対応する画像無効領域A2(斜線部分参照)とが形成される。
【0058】
つまり、画像有効領域A1が、画面における画像の表示領域であり、レーザ光の走査位置(以下「光走査位置」という。)が画像有効領域A1にある場合、画像信号5Sに応じた大きさの変調電流が、光源部7に供給される。そして、水平走査部32及び垂直走査部34により、1フレーム分のレーザ光が走査され、この走査が1フレームの画像ごとに繰り返される。本実施形態では、図2に示すように、画像無効領域A2は、矩形状に形成される画像有効領域A1に対して、画像有効領域A1を囲む枠状の領域として形成される。
【0059】
なお、図2には、光源部7からレーザ光が常時出射されたとの仮定のもと、水平走査部32及び垂直走査部34によって走査されるレーザ光の軌跡γが仮想的に示されている。ただし、水平走査部32による水平走査方向(Y方向)の走査数は、1フレームあたり数百または千程度あることから、図2では、便宜上、レーザ光の軌跡γを簡略して記載している。走査部によるレーザ光の走査方向について、水平走査部32による走査方向である水平方向が主走査方向であり、垂直走査部34による走査方向である垂直方向が副走査方向である。
【0060】
[光源部の特性等について]
光源部7が有する各色のレーザ11a,12a,13a(以下「各レーザ」ともいう。)の特性について説明する。図3は、レーザに供給される電流値とレーザの発光量との関係を示す電流−発光量特性(I−L特性)を表す。図3に示すグラフにおいて、横軸はレーザに供給される電流値(I)を示し、縦軸はレーザの発光量(L)を示す。
【0061】
図3に示すように、各レーザに供給される電流値が固有の閾値電流の値Ithに達するまでは、電流値の増加にともなって発光量は増加するものの、その増加量はわずかであり、発光量は少ない。そして、各レーザに供給される電流値が閾値電流の値Ithを超えることにより、発光量が急激に立ち上がる。
【0062】
このようなレーザの特性を踏まえ、本実施形態のRSD1においては、上述したように、光源部7の応答性を高める観点から、各レーザに値Ibのバイアス電流が供給される。具体的には、半導体レーザである各レーザは、容量成分を含むことから、供給される電流値が0から閾値電流の値Ithまで上昇する過程で、電流の一部が容量の充電に用いられる分、実際の発光に寄与する電流の立ち上がりが遅れる。このため、各レーザは、電流の供給を受け始めてから発光するまでの遅延時間を要する。
【0063】
そこで、各レーザに、バイアス電流(値Ib)が供給されることで、レーザが待機状態となり、発光の遅延が抑制され、応答性が高められる。本実施形態のRSD1では、バイアス電流の値Ibは、各色のレーザがフル点灯(発光量La)の状態となる電流(以下「最大電流」という。)の値Iaの略半分の値である。なお、バイアス電流の値としては、例えば、閾値電流の値Ithよりもわずかに小さい値が用いられる場合もある。
【0064】
このように、各レーザにバイアス電流の供給が行われる構成において、各レーザに供給される電流の値に関し、電流の値がバイアス電流の値Ibから最大電流の値Iaまでの範囲d1で、光源部7から画像形成用レーザ光が出射される。つまり、各レーザに供給される電流の値について、バイアス電流の値Ibの状態が画像0%の状態に対応し、最大電流の値Iaの状態が画像100%の状態に対応し、画像0〜100%の範囲d1が、画像信号5Sに応じた変調成分としてのレーザ光が出射される範囲に対応する。
【0065】
したがって、図3に示すように、各レーザに値Ibのバイアス電流が供給されている画像0%の状態での表示画像の輝度のレベルが黒レベルであり、バイアス電流の値Ibから最大電流の値Iaまでの電流値の範囲d1が各レーザに供給される変調電流の変調幅である。このように、各レーザに供給される変調電流は、黒レベルを規定するバイアス電流を基準(画像0%)として、画像信号5Sに応じて、最大電流(画像100%)までの範囲で変化する。
【0066】
[電流制御について]
本実施形態のRSD1では、各レーザの光量に関し、自動的に光出力の制御を行うAPCとして、各レーザの光出力の最大値を所定の値に保つAPC(以下「最大値APC」という。)と、各レーザの光出力の最小値を所定の値に保つAPC(以下「最小値APC」という。)とが行われる。
【0067】
すなわち、最大値APCによれば、画像100%の状態におけるレーザの光量(白レベル)が所定の値となるように自動的に制御され、最小値APCによれば、画像0%の状態におけるレーザの光量(黒レベル)が所定の値となるように自動的に制御される。このように、最大値APCと最小値APCとが行われる場合、上述したようなレーザのI−L特性から、次のような現象が生じ得る。
【0068】
各レーザのI−L特性は、レーザ光を出射する際に発生する熱や外気温の変化等に起因して変化する。例えば、図4に示すように、レーザの温度が温度T1から温度T2に上昇することで、I−L特性は、実線で示す曲線41から一点鎖線で示す曲線42へと、閾値電流の値(図3、値Ith参照)が増加するように変化する。
【0069】
ここで、最大値APCによって所定の値に維持される白レベルの値を値Lh0、最小値APCによって所定の値に維持される黒レベルの値を値Ll0とする。この場合、温度T1の状態では、曲線41から、最大電流として、白レベルの値Lh0に対応する値Ia1の電流が供給され、バイアス電流として、黒レベルの値Ll0に対応する値Ib1の電流が供給される。この場合、バイアス電流の値Ib1から最大電流の値Ia1までの電流値の範囲d10が、変調電流の変調幅となる。
【0070】
最大値APCによれば、変調電流の変調幅d10を維持した状態で、白レベルの値が値Lh0となるように、最大電流が調整される。つまり、最大値APCによれば、レーザのI−L特性に基づいて、バイアス電流の値が調整されることにより、バイアス電流の値と変調電流の変調幅とから定まる最大電流に対応する白レベルの値が値Lh0となるように、レーザに供給される電流が制御される。
【0071】
したがって、レーザの温度が温度T1から温度T2に変化した場合、最大値APCにより、曲線42で示す温度T2でのI−L特性に基づき、バイアス電流の値が、値Ib1から値Ib2へと調整される。これにより、最大電流の値は、バイアス電流の値Ib2と変調幅d10とによって、値Ia1から値Ia2へと変化する。
【0072】
このように最大値APCが行われることにより、バイアス電流の値が変化することから、黒レベルの値が変化する。本例のようにレーザの温度が温度T1から温度T2に上昇した場合、図4に示すように、最大値APCによってバイアス電流の値が値Ib1から値Ib2に上昇することにより、黒レベルの値が値Ll0から値Ll1に上昇する。
【0073】
このように最大値APCが行われることで黒レベルの値が変化することは、変調電流の変調幅に、レーザのI−L特性におけるバイアス領域を含むこと、及び最大値APCにおいては変調電流の変調幅が固定であることに起因する。ここで、バイアス領域とは、I−L特性において、閾値電流(図3、値Ith)を起点に電流値が小さい側の領域であり、LED領域とも称される。
【0074】
そこで、上述したように最大値APCによって変化した黒レベルが、最小値APCによって所定の値に調整されると仮定する。この場合、最小値APCによれば、値Ll0から値Ll1に変化した黒レベルの値が値Ll0となるように、変調電流の変調幅が調整される。つまり、最小値APCによれば、レーザのI−L特性に基づいて、変調電流の変調幅d10が調整されることにより、黒レベルの値が値Ll0となるように、レーザに供給される電流が制御される。しかしながら、このように最小値APCが行われる場合、最大値APCによって調整された白レベルの値が変化するという現象が生じる。
【0075】
具体的には、本例のようにレーザの温度が温度T1から温度T2に上昇した場合、上述したように、最大値APCにより、白レベルの値を所定の値Lh0に保つため、バイアス電流の値が値Ib1から値Ib2へと調整される。バイアス電流の値が値Ib2の状態から、最小値APCが行われた場合、変調電流の変調幅は、最大値APCによって調整されたバイアス電流の値Ib2を起点として、プラス側(図4のグラフにおいて右側)に広がる方向に調整される(矢印43参照)。
【0076】
つまり、先に行われた最大値APCにより、バイアス電流の値が値Ib2に規定されることで、最小値APCによる変調電流の変調幅の調整は、最大電流の値Ia2の値を増加させることにより行われる。このように変調電流の変調幅がプラス側に広がると、曲線42で示す温度T2でのI−L特性により、白レベルの値が、最大値APCによって維持される所定の値Lh0よりも増えてしまう。言い換えると、先に行われた最大値APCによって変化した最大電流の値Ia2を起点とし、変調電流の変調幅がマイナス側(図4のグラフにおいて左側)に広がる方向の調整された場合、白レベル及び黒レベルの両方の値が所定の値に保たれるが、実際には、最大値APCによってバイアス電流の値が値Ib2に規定されることから、その値Ib2を起点にプラス側に変調電流の変調幅が調整され、白レベルの値が変化してしまう。本例の場合、矢印43で示す変調幅の増加量に応じて、白レベルの値が値Lh0から値Lh1に増加する。
【0077】
以上のように、最大値APCが行われた後、最小値APCが行われると、最大値APCによってバイアス電流の値が規定されてしまうことから、変調電流の変調幅の調整により行われる最小値APCによって、最大電流の値が変化し、レーザのI−L特性から、白レベルが変化するという現象が生じる。
【0078】
そこで、本実施形態のRSD1においては、各レーザに供給される電流について、以下に説明するような電流制御が行われる。まず、本実施形態のRSD1が備える、電流制御を行うための構成について、図5を用いて説明する。
【0079】
[電流制御のための構成について]
RSD1における電流制御は、各レーザの光出力が検出される。このため、図5に示すように、RSD1は、各色のレーザ11a,12a,13aの光出力のレベルを検出するモニタ用のフォトダイオード11d,12d,13dを備える。
【0080】
本実施形態のRSD1では、レーザ光の色毎に、レーザ11a,12a,13aとフォトダイオード11d,12d,13dとを含むレーザモジュール50R,50G,50Bが構成される。本実施形態のRSD1においては、各色のレーザモジュール50R,50G,50Bを構成する各フォトダイオード11d,12d,13dが、最小値APC及び最大値APCを行う電流制御において、各色のレーザ11a,12a,13aから出射されたレーザ光を検出する光検出部として機能する。
【0081】
各フォトダイオード11d,12d,13dは、例えば各色のレーザ11a,12a,13aの背面光を受光することにより、各色のレーザ11a,12a,13aの光出力を検出する。また、本実施形態では、赤色のレーザ11aは、独立した電源51に接続され、緑色のレーザ12a及び青色のレーザ13aは、共通の電源52に接続されている。
【0082】
また、図5に示すように、RSD1は、各色のレーザ11a,12a,13aに対応する各色のIV変換回路53a,53b,53cと、ADコンバータ54とを備える。IV変換回路53a,53b,53cは、例えばトランスインピーダンスアンプ等により構成され、各色のレーザ11a,12a,13aの光出力を検出するフォトダイオード11d,12d,13dからのモニタ信号としての電流信号を受け、電圧信号に変換する。各IV変換回路53a,53b,53cにより得られた電圧信号は、ADコンバータ54に入力される。
【0083】
ADコンバータ54は、各IV変換回路53a,53b,53cから受けた電圧信号としてのアナログ信号を、デジタル信号に変換する。ADコンバータ54により得られたデジタル信号は、駆動信号供給回路8に入力される。駆動信号供給回路8は、ADコンバータ54から受けた信号を処理する構成として、APC制御部55と、電流制御DAコンバータ57とを有する。
【0084】
APC制御部55は、各色のレーザ11a,12a,13aの光出力についての情報を含むADコンバータ54からの信号の入力を受け、この入力信号に基づいて、レーザ光の色毎に、最小値APC及び最大値APCを行うための制御信号を生成する。本実施形態では、APC制御部55は、駆動信号供給回路8において、FPGA(Field Programmable Gate Arrey)56の一機能部分として構成される。FPGAとは、現場において回路の書換えが可能な集積回路である。
【0085】
最小値APC及び最大値APCは、概略的には、ADコンバータ54からの入力信号と、あらかじめ設定された目標値との比較に基づくフィードバック制御として行われる。このため、APC制御部55においては、最小値APC用の目標値と、最大値APC用の目標値とが、それぞれあらかじめ設定され記憶されている。
【0086】
ここで、最小値APC及び最大値APCそれぞれの目標値は、所定の値として設定されたり、上限値及び下限値を有する所定の範囲として設定されたりする。言い換えると、最小値APC及び最大値APCそれぞれの目標値は、所定の数値として設定されても、所定の数値範囲として設定されてもよい。
【0087】
具体的には、APC制御部55は、上述したように、各フォトダイオード11d,12d,13dにより検出されたレーザ光の光量を、各IV変換回路53a,53b,53c及びADコンバータ54を介することで、電圧信号として受ける。このため、APC制御部55において設定される、最小値APC及び最大値APCそれぞれの目標値は、レーザ光の光量に対応する電圧値として設定される。
【0088】
APC制御部55により行われる最小値APCによれば、各レーザのI−L特性に基づき、各フォトダイオード11d,12d,13dにより検出された光量(以下「検出光量」という。)の最小値(黒レベル)が、あらかじめ設定された目標値となるように、変調電流の変調幅が調整される。このように、本実施形態では、最小値APCにおける目標値が、第1の目標値に相当する。
【0089】
また、同じくAPC制御部55により行われる最大値APCによれば、各レーザのI−L特性に基づき、検出光量の最大値(白レベル)が、あらかじめ設定された目標値となるように、バイアス電流が調整される。このように、本実施形態では、最大値APCにおける目標値が、第2の目標値に相当する。
【0090】
最小値APCは、上記のとおり変調電流の変調幅の調整により行われることから、APC制御部55は、最小値APCを行うために、変調電流に対する制御信号を生成する。また、最大値APCは、上記のとおりバイアス電流の調整により行われることから、APC制御部55は、最大値APCを行うために、バイアス電流に対する制御信号を生成する。
【0091】
つまり、APC制御部55は、最小値APC用の制御信号として、変調電流に対する制御信号を生成し、最大値APC用の制御信号として、バイアス電流に対する制御信号を生成する。また、APC制御部55は、最小値APC用の制御信号と、最大値APC用の制御信号とを、各色のレーザ11a,12a,13a毎に生成する。
【0092】
電流制御DAコンバータ57は、APC制御部55により生成された制御信号としてのデジタル信号を、アナログ信号に変換する。電流制御DAコンバータ57は、上記のとおりAPC制御部55によって生成された変調電流及びバイアス電流それぞれに対する制御信号を、各色のレーザ11a,12a,13a毎に変換する機能を有する。
【0093】
電流制御DAコンバータ57により得られたアナログ信号は、対応する色のレーザドライバ11b,12b,13bに入力され、各色の駆動ライン11c,12c,13cを介して、各色のレーザ11a,12a,13aに電流を供給させる。このように、APC制御部55によって生成された制御信号は、電流制御DAコンバータ57によって変換され、各レーザドライバ11b,12b,13bを介して、各色のレーザ11a,12a,13aに供給される電流を制御する。
【0094】
以上のような構成により、本実施形態のRSD1における電流制御が行われる。したがって、本実施形態では、APC制御部55が、各色のレーザ11a,12a,13aに供給されるバイアス電流及びこのバイアス電流を基準として画像信号5Sに応じて変化する変調電流を制御する電流制御部として機能する。
【0095】
APC制御部55は、電流制御として、先に最小値APCを行った後、最大値APCを行う。また、APC制御部55は、最小値APC及び最大値APCを、走査部による光走査位置が、走査部によるレーザ光の全走査領域のうち表示画像を形成する有効走査領域外である無効走査領域にある状態で行う。したがって、例えば、最小値APC及び最大値APCは、表示画像の1フレーム毎に、走査部による光走査位置が副走査方向(垂直方向)について無効走査範囲Zb2(図2参照)にある状態で行われる。
【0096】
本実施形態の電流制御について、図4に示すように、レーザの温度が温度T1から温度T2に上昇した場合を用いて説明する。また、この場合において、第1の目標値である最小値APCの目標値を値Ll0とし、同じく第2の目標値である最大値APCの目標値を値Lh0とする。つまり、最小値APCにより、黒レベルの値が値Ll0となるように変調電流の変調幅が制御され、最大値APCにより、白レベルの値が値Lh0となるようにバイアス電流が制御される。
【0097】
本実施形態の電流制御では、RSD1の起動時から、最小値APCが行われる。最小値APCによれば、レーザの温度が温度T1から温度T2に変化することによるI−L特性の曲線41から曲線42への変化に対応して、黒レベルの値が値Ll0に維持されるような制御が行われる。最小値APCは、レーザに供給される変調電流の調整により、黒レベルの値を制御する。ここでは、温度T1のI−L特性の曲線41によって規定される、白レベルの目標値である値Lh0に対応する電流の値Ia1を起点に、変調電流の変調幅d10が調整される(図4、矢印44参照)。
【0098】
最小値APCが行われた後、最大値APCが行われる。最大値APCによれば、最小値APCによって調整された変調電流の変調幅と、曲線42で示す温度T2におけるレーザのI−L特性とに基づいて、白レベルの値が値Lh0に維持されるような制御が行われる。最大値APCは、レーザに供給されるバイアス電流の調整により、白レベルの値を制御する。
【0099】
より具体的に説明する。RSD1の起動時における変調電流及びバイアス電流の初期の値を、それぞれ、変調電流の変調幅d10、バイアス電流の値Ib1とする。RSD1の起動時では、レーザの温度に変化がないため、I−L特性は変化しない。このため、RSD1の起動後の1回目の最小値APCによれば、変調電流の変調幅の増減はない。
【0100】
次に、最大値APCが実施されることにより、白レベルの値が値Lh0に維持されるように、バイアス電流が調整される。ここでのバイアス電流の調整は、レーザの温度上昇に対応するものであるため、バイアス電流を増加させるものである。これにより、黒レベルが上昇する。ただし、このRSD1の起動時における1回目の最大値APCは、RSD1の起動時における微小な温度変化に対応するものであるため、ここでの黒レベルの上昇は、微小な変化である。したがって、RSD1の起動時の1回目の表示画像は、黒レベルが若干上昇した状態で表示される可能性があるが、その黒レベルの上昇は、製品上は無視できる程度のものである。
【0101】
そして、APCについて、2回目以降は、レーザの温度も上昇し、黒レベルも上昇している。本例の場合、変調電流の変調幅d10と白レベルの値Lh0とから、黒レベルは値Ll1に上昇している。そこで、黒レベルの値を値Ll0に維持するため、変調電流の変調幅d10の調整が行われる。実際には、図4に示すように、温度T2の状態では、変調電流の変調幅は、d10+αとなるように増加させられ、黒レベルの値が値Ll0に維持される。
【0102】
以上のように、最小値APCの後に最大値APCを行う電流制御が実施されることにより、レーザの光量が黒レベルの状態における表示画像の明るさが一定に保たれる。また、最小値APCが行われた後、最大値APCが行われるので、白レベルが一定に保たれる。つまり、先に最大値APCが行われてから最小値APCが行われる場合、上述したように、変調電流の変調幅の調整によって、白レベルの値が変動することになるが、本実施形態の電流制御のように、先に最小値APCが行われてから最大値APCが行われることにより、先に変調電流の変調幅の調整が行われることから、白レベルの変動が防止される。
【0103】
このように、本実施形態のRSD1によれば、光源としての各レーザに供給されるバイアス電流の調整によって光出力の自動的な制御が行われる構成において、黒レベルが変化することを抑制することができ、良好で安定した画質を得ることができる。黒レベルが変化することは、有効走査範囲において表示画像の輝度を不安定としたりコントラストを低下させたりし、表示画像の画質の低下を招く原因となる。そこで、黒レベルの変化が抑制されることにより、黒レベルの画質が改善され、黒レベルの変化が有効走査範囲における表示画像の輝度に与える影響が小さくなり、安定した輝度の表示画像が得られる。
【0104】
また、本実施形態のRSD1における電流制御においては、最小値APCの目標値として、I−L特性におけるバイアス領域に対応する発光量が用いられている。図3に示すように、各レーザのI−L特性は、電流値に関し、電流値が上昇する過程で電流値の増加にともなう発光量の増加量が急激に大きくなる電流値として規定される閾値電流(Ith)を有する。つまり、レーザのI−L特性は、電流値に関し、閾値電流(Ith)を境に、電流値が低い側の領域であるバイアス領域と、電流値が高い側の領域とに区分される。そして、最小値APCの目標値は、閾値電流(Ith)よりも小さい値の電流値に対応する発光量の値に設定される。すなわち、温度等によって変化するI−L特性について想定される変化の範囲内において、最小値APCの目標値が、バイアス領域の電流値に対応する発光量の値に設定される。
【0105】
このように、最小値APCの目標値としてI−L特性におけるバイアス領域の電流値に対応する発光量が用いられることにより、レーザに供給される変調電流の変調幅を広くすることが容易となり、表示画像について高いコントラストを容易に得ることができる。これにより、黒レベルの変化が抑制されることによる画質改善を効果的なものとすることができる。ただし、最小値APCの目標値は、レーザのI−L特性における閾値電流(Ith)よりも大きい値の電流値に対応する発光量として設定されてもよい。
【0106】
[電流制御の制御フロー]
本実施形態のRSD1における電流制御を含む一連の制御フローの一例について、図6及び図7に示すフロー図を用いて説明する。図6に示すように、まず、RSD1において、電源スイッチがONされる(S10)。電源スイッチがONされると、RSD1の制御部5において、RSD1の各部の動作等に関する各種設定等を行う起動シーケンスが実行される(S20)。
【0107】
起動シーケンスが実行された後、最小値APC及び最大値APCを順に実行する電流制御が行われる。本例の制御処理においては、各レーザについての電流制御が、赤色、緑色、青色の順に、表示画像の1フレーム毎に行われる。
【0108】
また、電流制御は、各フレームにおいて、光走査位置が副走査方向についての有効走査範囲Zb1(図2参照)に入る前の無効走査範囲Zb2(同図参照)にある状態で行われる。したがって、RSD1においては、レーザ光の走査ラインをカウントする処理が行われており、走査ラインが副走査方向について有効走査範囲に入る前の無効走査範囲にある場合に、電流制御が行われる。例えば、全部で1000本の走査ラインのうち、副走査方向の両端側の100本の走査ラインが無効走査範囲Zb2で、中間の800本の走査ラインが有効走査範囲Zb1として設定された場合、光走査位置が副走査方向の手前側の100本の走査ラインにあるときに、電流制御が行われる。
【0109】
したがって、図6に示すように、電流制御としては、まず、あるフレームについてレーザ光の走査が開始されてから、光走査位置が副走査方向における無効走査範囲にある状態で、赤色のレーザ11aについての電流制御が行われる(S30)。その電流制御が行われたフレームにおいて、光走査位置が副走査方向における有効走査範囲に達すると、画像信号5Sに基づく通常の画像表示が行われる(S40)。
【0110】
同様にして、次のフレームで、緑色のレーザ12aについての電流制御が行われた後(S50)、そのフレームの有効走査範囲での通常表示が行われ(S60)、さらに次のフレームで、青色のレーザ13aについての電流制御が行われた後(S70)、そのフレームの有効走査範囲での通常表示が行わる(S80)。このように3色のレーザ11a,12a,13aについての電流制御及び通常の画像表示を行う処理(S30〜S80)が、3フレームを単位として繰り返される。
【0111】
各レーザの電流制御(図6、S30,S50,S70)について、図7に示すフロー図を用いて説明する。なお、各レーザの電流制御としては、3色のレーザで共通の処理が採用されるため、赤色のレーザ11aの電流制御(図6、S30)を例に説明する。図7に示すような電流制御の処理は、RSD1が備えるAPC制御部55により実行される。
【0112】
図7に示すように、本例の電流制御においては、まず、赤色のレーザ(LD)11aのフォトダイオード(PD)11dの黒レベルの電圧値が取り込まれる(S31)。すなわち、上述したように、赤色用のフォトダイオード11dにより検出された赤色のレーザ11aの光出力の黒レベルが、IV変換回路53a及びADコンバータ54を介することで、デジタル信号の電圧信号として、APC制御部55に取り込まれる(図5参照)。
【0113】
次に、APC制御部55により、取り込まれた黒レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っているか否かの判断が行われる(S32)。すなわち、APC制御部55においては、黒レベルの電圧値についての所定の目標電圧値範囲があらかじめ設定され記憶されており、その目標電圧値範囲を規定する上限値及び下限値と、取り込んだ黒レベルの電圧値との比較により、黒レベルの電圧値が目標電圧値範囲内であるか否かが判断される。取り込まれた黒レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っている場合(S32、YES)、処理はステップS34に移行する。
【0114】
一方、取り込まれた黒レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っていない場合(S32、NO)、APC制御部55は、変調電流用DAコンバータ(DAC)への信号を所定量変化させる(S33)。APC制御部55から赤色のレーザ11aに対する制御信号は、電流制御DAコンバータ57によってデジタル信号に変換され、赤色のレーザドライバ11bに入力される。このため、APC制御部55から電流制御DAコンバータ57に入力される信号が変化することで、レーザ11aに供給される電流量が変化し、レーザ11aの発光量が変化する。
【0115】
つまり、黒レベルの電圧値についての目標電圧値範囲は、黒レベルの値についての目標値(第1の目標値)に対応して設定されるものであり、黒レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っていない場合、黒レベルが第1の目標値に近付くように、電流制御DAコンバータ57への信号が所定量変化させられる。
【0116】
ステップS33において所定量変化させられる電流制御DAコンバータ57への信号は、電流制御DAコンバータ57が有する、変調電流用の変換機能に対する信号である。したがって、ステップS33によれば、APC制御部55から電流制御DAコンバータ57への信号の変化量についての所定量に対応して、レーザ11aに供給される変調電流の変調幅が変化する。これにより、黒レベルの値が、あらかじめ設定された第1の目標値に近付くかまたは合致する。
【0117】
ステップS33において変化させられる電流制御DAコンバータ57への信号についての所定量としては、例えば、電流制御DAコンバータ57への信号が段階的に調整される構成において、その段階的な調整の単位量が用いられる。ただし、電流制御DAコンバータ57への信号についての所定量は適宜の量に設定される。ステップS33で電流制御DAコンバータ57への信号が変化させられた後、処理はステップS34に移行する。
【0118】
以上のステップS31〜S33の処理が、電流制御において行われる最小値APCに相当する。本例では、最小値APCの目標値(第1の目標値)は、黒レベルの電圧値についての目標電圧値範囲に対応して、所定の数値範囲として設定される。
【0119】
ステップS32またはステップS33が行われた後、赤色のレーザ11aのフォトダイオード11dの白レベルの電圧値が取り込まれる(S34)。すなわち、上述したように、赤色用のフォトダイオード11dにより検出された赤色のレーザ11aの光出力の白レベルが、IV変換回路53a及びADコンバータ54を介することで、デジタル信号の電圧信号として、APC制御部55に取り込まれる(図5参照)。
【0120】
次に、APC制御部55により、取り込まれた白レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っているか否かの判断が行われる(S35)。すなわち、APC制御部55においては、白レベルの電圧値についての所定の目標電圧値範囲があらかじめ設定され記憶されており、その目標電圧値範囲を規定する上限値及び下限値と、取り込んだ白レベルの電圧値との比較により、白レベルの電圧値が目標電圧値範囲内であるか否かが判断される。取り込まれた白レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っている場合(S35、YES)、電流制御の処理は終了する。
【0121】
一方、取り込まれた白レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っていない場合(S35、NO)、APC制御部55は、バイアス電流用DAコンバータ(DAC)への信号を所定量変化させる(S36)。つまり、白レベルの電圧値についての目標電圧値範囲は、白レベルの値についての目標値(第2の目標値)に対応して設定されるものであり、白レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っていない場合、白レベルが第2の目標値に近付くように、電流制御DAコンバータ57への信号が所定量変化させられる。
【0122】
ステップS36において所定量変化させられる電流制御DAコンバータ57への信号は、電流制御DAコンバータ57が有する、バイアス電流用の変換機能に対する信号である。したがって、ステップS36によれば、APC制御部55から電流制御DAコンバータ57への信号の変化量についての所定量に対応して、レーザ11aに供給されるバイアス電流が変化する。これにより、白レベルの値が、あらかじめ設定された第2の目標値に近付くかまたは合致する。
【0123】
ステップS36において変化させられる電流制御DAコンバータ57への信号についての所定量は、ステップS33における所定量と同様に設定される。ステップS36で電流制御DAコンバータ57への信号が変化させられた後、電流制御の処理は終了する。
【0124】
以上のステップS34〜S36の処理が、電流制御において行われる最大値APCに相当する。本例では、最大値APCの目標値(第2の目標値)は、白レベルの電圧値についての目標電圧値範囲に対応して、所定の数値範囲として設定される。
【0125】
以上のような電流制御が、ステップS50では緑色のレーザ12aについて、ステップS70では青色のレーザ13aについて、それぞれ赤色のレーザ11aの場合と同様にして行われる。なお、各色のレーザ11a,12a,13aの電流制御が行われるタイミングや順番等については、図6に示すフロー図の場合に限定されない。
【0126】
図6に示す例では、各レーザの電流制御は、各フレームにおいて光走査位置が副走査方向についての有効走査範囲に入る前の無効走査範囲にある状態で行われている。この点、特に限定されず、電流制御は、例えば、副走査方向について、光走査位置が有効走査範囲から出た後の無効走査範囲にある状態で行われたり、光走査位置が有効走査範囲の両側の無効走査範囲にある状態で行われたりしてもよい。さらに、1フレームにおける副走査方向の有効走査範囲の両側の無効走査範囲で、異なる色のレーザの電流制御が行われてもよい。
【0127】
また、図6に示すように、各レーザの電流制御がフレーム毎に行われる場合、各レーザの電流制御が行われないフレームが存在してもよい。この場合、例えば、赤色のレーザ11aの電流制御が行われるフレーム、緑色のレーザ12aの電流制御が行われるフレーム、青色のレーザ13aの電流制御が行われるフレーム、電流制御が行われないフレームが、4フレームを単位として繰り返される。
【0128】
また、各レーザの電流制御は、同時に並行されてもよい。各レーザの電流制御が同時に行われる場合の制御フローの一例を、図8に示す。この場合、図8に示すように、RSD1の電源スイッチがONされ(S110)、起動シーケンスが実行された後(S120)、3色のレーザ11a,12a,13aの電流制御が同時に行われる(S130)。
【0129】
3色同時の電流制御としては、光走査位置が副走査方向についての有効走査範囲に入る前の無効走査範囲にある状態で、図7に示すような電流制御の処理が、3色のレーザで並行して行われる。3色同時の電流制御が行われた後、その電流制御が行われたフレームの有効走査範囲での通常表示が行われる(S140)。このようにして、3色同時の電流制御及び通常の画像表示を行う処理(S130、S140)が、フレーム毎に繰り返される。
【0130】
このように、3色のレーザの電流制御が同時に行われることにより、色によるレーザの電流制御のタイミングの差が無くなることから、より安定した画質を得ることができる。
【0131】
また、各色のレーザ11a,12a,13aの電流制御が行われる順番に関しては、視感度(比視感度)の高い色の順に行うことが好適に採用される。つまりこの場合、APC制御部55は、各色のレーザ11a,12a,13aの電流制御を、各レーザが出射するレーザ光の色の視感度が高い順に行う。
【0132】
本実施形態のRSD1がレーザ光の色として有する赤色、緑色、青色の3色では、緑色が最も視感度が高く、青色が最も視感度が低い。したがって、本実施形態のRSD1で、レーザ光の色の視感度が高い順に電流制御が行われる場合、緑色のレーザ12a、赤色のレーザ11a、青色のレーザ13aの順に、電流制御が行われる。
【0133】
このようにレーザ光の色の視感度が高い順に電流制御が行われる場合について、図9に示すフロー図を用いて説明する。ここでは、図6に示す制御フローにならって、各色のレーザの電流制御が1フレーム毎に行われる場合を例に説明する。この場合、図9に示すように、RSD1の電源スイッチがONされ(S210)、起動シーケンスが実行された後(S220)、緑色、赤色、青色の順に、電流制御が行われる。
【0134】
すなわち、まず、緑色のレーザ12aについての電流制御が行われた後(S230)、そのフレームの有効走査範囲での通常表示が行われる(S240)。次のフレームで、赤色のレーザ11aについての電流制御が行われた後(S250)、そのフレームの有効走査範囲での通常表示が行われる(S260)。そして、さらに次のフレームで、青色のレーザ13aについての電流制御が行われた後(S270)、そのフレームの有効走査範囲での通常表示が行われる(S280)。
【0135】
このように、3色のレーザ11a,12a,13aについて、照射するレーザ光の色の視感度が高い順に電流制御を行うことにより、RSD1の観察者が認識する表示画像において、発光量が変化することによる影響が大きい色の順に電流制御が行われる。これにより、黒レベルの変化が抑制されることによる画質改善を効果的なものとすることができる。
【0136】
[電流制御の変形例]
電流制御の変形例について説明する。本例の電流制御では、最小値APC及び最大値APCにおいて、検出光量の値と目標値との差の大きさに応じて、電流値の制御量が変化させられる。すなわち、最小値APCについては、APC制御部55は、検出光量の最小値(黒レベル)と最小値APCの目標値(第1の目標値)との差の大きさに応じて、変調電流の変調幅の調整量を変化させる制御を行う。また、最大値APCについては、APC制御部55は、検出光量の最大値(白レベル)と最大値APCの目標値(第2の目標値)との差の大きさに応じて、バイアス電流の調整量を変化させ制御を行う。
【0137】
電流制御の変形例について、図10に示すフロー図を用いて説明する。なお、本例の電流制御も、3色のレーザで共通の処理が採用されるため、赤色のレーザ11aの電流制御を例に説明する。また、上述した各色のレーザの電流制御と重複する部分については適宜説明を省略する。
【0138】
図10に示すように、本例の電流制御では、まず、赤色のレーザ(LD)11aのフォトダイオード(PD)11dの黒レベルの電圧値が取り込まれる(S331)。次に、APC制御部55により、取り込まれた黒レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っているか否かの判断が行われる(S332)。取り込まれた黒レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っている場合(S332、YES)、処理はステップS335に移行する。
【0139】
一方、取り込まれた黒レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っていない場合(S332、NO)、APC制御部55は、目標電圧値範囲に対する取込み電圧値の差分を計算する(S333)。つまり、ステップS333では、取り込まれた電圧値が目標電圧値範囲の上限値よりも大きい場合は、その上限値と取込み電圧値との差分が計算され、取り込まれた電圧値が目標電圧値範囲の下限値よりも小さい場合は、その下限値と取込み電圧値との差分が計算される。
【0140】
続いて、APC制御部55は、変調電流用DAコンバータ(DAC)への信号を、ステップS333にて算出した差分に応じた量変化させる(S334)。すなわち、APC制御部55は、ステップS333にて算出した差分に基づき、検出光量としての電圧値が目標電圧値範囲内に入るように、電流制御DAコンバータ57に送る信号を変化させる。
【0141】
黒レベルの電圧値についての目標電圧値範囲は、黒レベルの値についての目標値(第1の目標値)に対応して設定されるものである。そこで、取り込まれた電圧値が目標電圧値範囲内に入っていない場合、取り込まれた電圧値と目標電圧値範囲との差の大きさに応じて、取り込まれる電圧値が目標電圧値範囲内に入るように、電流制御DAコンバータ57への信号が変化させられる。
【0142】
ステップS334において所定量変化させられる電流制御DAコンバータ57への信号は、電流制御DAコンバータ57が有する、変調電流用の変換機能に対する信号である。したがって、ステップS334によれば、ステップS333にて算出された差分に応じて、検出光量としての電圧値が目標電圧値範囲内に入るように、レーザ11aに供給される変調電流の変調幅が変化する。これにより、黒レベルの値が、あらかじめ設定された第1の目標値に合致する。ステップS334で電流制御DAコンバータ57への信号が変化させられた後、処理はステップS335に移行する。
【0143】
以上のステップS331〜S334の処理が、本例の電流制御において行われる最小値APCに相当する。そして、最小値APCにおいて行われるステップS333及びS334が、検出光量の最小値(黒レベル)と最小値APCの目標値(第1の目標値)との差の大きさに応じて、変調電流の変調幅の調整量を変化させる第1の調整量制御に相当する。
【0144】
ステップS332またはステップS334が行われた後、赤色のレーザ11aのフォトダイオード11dの白レベルの電圧値が取り込まれる(S335)。次に、APC制御部55により、取り込まれた白レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っているか否かの判断が行われる(S336)。取り込まれた白レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っている場合(S336、YES)、電流制御の処理は終了する。
【0145】
一方、取り込まれた白レベルの電圧値が目標電圧値範囲内に入っていない場合(S336、NO)、APC制御部55は、ステップS333と同様に、目標電圧値範囲に対する取込み電圧値の差分を計算する(S337)。
【0146】
続いて、APC制御部55は、バイアス電流用DAコンバータ(DAC)への信号を、ステップS337にて算出した差分に応じた量変化させる(S338)。すなわち、APC制御部55は、ステップS333にて算出した差分に基づき、検出光量としての電圧値が目標電圧値範囲内に入るように、電流制御DAコンバータ57に送る信号を変化させる。
【0147】
白レベルの電圧値についての目標電圧値範囲は、白レベルの値についての目標値(第2の目標値)に対応して設定されるものである。そこで、取り込まれた電圧値が目標電圧値範囲内に入っていない場合、取り込まれた電圧値と目標電圧値範囲との差の大きさに応じて、取り込まれる電圧値が目標電圧値範囲内に入るように、電流制御DAコンバータ57への信号が変化させられる。
【0148】
ステップS338において所定量変化させられる電流制御DAコンバータ57への信号は、電流制御DAコンバータ57が有する、バイアス電流用の変換機能に対する信号である。したがって、ステップS338によれば、ステップS337にて算出された差分に応じて、検出光量としての電圧値が目標電圧値範囲内に入るように、レーザ11aに供給されるバイアス電流が変化する。これにより、白レベルの値が、あらかじめ設定された第2の目標値に合致する。
【0149】
以上のステップS335〜S338の処理が、電流制御において行われる最大値APCに相当する。そして、最大値APCにおいて行われるステップS337及びS338が、検出光量の最大値(白レベル)と最大値APCの目標値(第2の目標値)との差の大きさに応じて、バイアス電流の調整量を変化させる第2の調整量制御に相当する。
【0150】
以上の電流制御の変形例では、最小値APCでは第1の調整量制御が行われ、最大値APCでは第2の調整量制御が行われることで、第1の調整量制御及び第2の調整量制御の両方が行われているが、いずれか一方の調整量制御のみが行われてもよい。つまり、第1の調整量制御及び第2の調整量制御の少なくともいずれかが行われればよい。
【0151】
このように、電流制御において検出光量と目標値との差に応じて制御量が調整されることにより、温度変化等に起因するレーザのI−L特性の変化の実状に即した電流制御を行うことができる。これにより、黒レベルの変化を効果的に抑制することができ、より安定した画質を得ることができる。
【0152】
以上のように、本実施形態のRSD1においては、各色のレーザの光出力の最大値を規定する最大値APCと、各色のレーザの光出力の最小値を規定する最小値APCとが行われ、これらのAPCが、最小値APC、最大値APCの順番で、無効走査領域が用いられて行われる。本実施形態のRSD1における電流制御は、画質を安定させる観点から最大値APCと最小値APCとが行われる相対的なタイミングが重要であることに着目し、両APCを所定のタイミングで行い、バイアス電流及び変調電流を制御するものである。
【0153】
なお、本実施形態のRSD1では、電流制御を行うためにレーザ光の光量を検出するための光検出部として、各色のレーザ11a,12a,13aに対応して設けられるフォトダイオード11d,12d,13dが用いられているが、これに限定されない。光検出部としては、RSD1が備える既存の構成であっても、電流制御を行うために別途設けられた構成であってもよい。
【0154】
RSD1が備える既存の構成としては、例えば、上述したようにRSD1が第1リレー光学系33において有するBDセンサを用いることができる。この場合、BDセンサが検出するタイミング検出用のレーザ光によって各レーザの光量が検出される。そして、BDセンサから出力されるBD信号が、IV変換回路により電圧信号に変換され、ADコンバータによってデジタル信号に変換され、APC制御部55に入力される構成が採用される。
【0155】
また、本実施形態のRSD1は、互いに異なる色のレーザ光を出射する光源として、赤色、緑色、青色の各色のレーザ光を出射する3個のレーザ11a,12a,13aを備えるが、これに限定されない。互いに異なる色のレーザ光を出射する光源は、2個または4個以上のレーザであってもよい。
【0156】
以上説明したように、本実施形態に係るRSD1によれば、以下の効果が期待できる。
【0157】
(1)本実施形態のRSD1は、画像信号5Sに応じた強度のレーザ光を出射するレーザ11a,12a,13aを有する光源部7と、光源部7から出射されたレーザ光を2次元走査する走査部と、各色のレーザ11a,12a,13aから出射されたレーザ光を検出するフォトダイオード11d,12d,13dと、検出光量に基づいて、各レーザに供給されるバイアス電流及びこのバイアス電流を基準として画像信号5Sに応じて変化する変調電流を制御するAPC制御部55と、を備える。そして、APC制御部55は、走査部によるレーザ光の走査位置が、走査部によるレーザ光の全走査領域のうち表示画像を形成する有効走査領域外である無効走査領域にある状態で、各レーザのI−L特性に基づき、検出光量の最小値(黒レベル)が、あらかじめ設定された第1の目標値となるように、変調電流の変調幅を調整した後、検出光量の最大値(白レベル)が、あらかじめ設定された第2の目標値となるように、バイアス電流を調整する電流制御を行う。これにより、各レーザに供給されるバイアス電流の調整によって光出力の自動的な制御が行われる構成において、黒レベルが変化することを抑制することができ、良好で安定した画質を得ることができる。
【0158】
(2)本実施形態のRSD1においては、I−L特性は、電流値に関し、電流値が上昇する過程で電流値の増加にともなう発光量の増加量が急激に大きくなる電流値として規定される閾値電流(Ith)を有し、第1の目標値は、閾値電流(Ith)よりも小さい値の電流値に対応する発光量の値に設定される。これにより、各レーザに供給される変調電流の変調幅を広くすることが容易となり、表示画像について高いコントラストを容易に得ることができることから、黒レベルの変化が抑制されることによる画質改善を効果的なものとすることができる。
【0159】
(3)本実施形態のRSD1においては、光源部7は、互いに異なる色のレーザ光を出射する3個のレーザ11a,12a,13aを有し、APC制御部55は、3個のレーザの各レーザの電流制御を、各レーザが出射するレーザ光の色の視感度が高い順に行う。これにより、RSD1の観察者が認識する表示画像において、発光量が変化することによる影響が大きい色の順に電流制御が行われることから、黒レベルの変化が抑制されることによる画質改善を効果的なものとすることができる。
【0160】
(4)本実施形態のRSD1においては、APC制御部55は、検出光量の最小値(黒レベル)と第1の目標値との差の大きさに応じて、変調電流の変調幅の調整量を変化させる第1の調整量制御、及び検出光量の最大値(白レベル)と第2の目標値との差の大きさに応じて、バイアス電流の調整量を変化させる第2の調整量制御のうち、少なくともいずれかを行う。これにより、温度変化等に起因するレーザのI−L特性の変化の実状に即した電流制御を行うことができることから、黒レベルの変化を効果的に抑制することができ、より安定した画質を得ることができる。
【0161】
(5)本実施形態のRSD1は、走査部により2次元走査されたレーザ光を、観察者の少なくとも一方の眼10の網膜10bに入射させる接眼光学系部をさらに備え、網膜10bをレーザ光の投射対象として、画像を表示する。これにより、観察者によって黒レベルの変化が比較的認識されやすい構成において電流制御が行われることから、黒レベルの変化が抑制されることによる画質改善を効果的なものとすることができる。
【符号の説明】
【0162】
1 RSD(走査型画像表示装置)
2 コントロールユニット
5 制御部
5S 画像信号
7 光源部
8 駆動信号供給回路
10 眼
10b 網膜
11a,12a,13a レーザ(半導体レーザ)
11d,12d,13d フォトダイオード(光検出部)
15 ハーフミラー
32 水平走査部
33 第1リレー光学系
34 垂直走査部
35 第2リレー光学系
38 レンズ系
39 レンズ系
55 APC制御部(電流制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像信号に応じた強度のレーザ光を出射する半導体レーザを有する光源部と、
前記光源部から出射されたレーザ光を2次元走査する走査部と、
前記半導体レーザから出射されたレーザ光を検出する光検出部と、
前記光検出部により検出されたレーザ光の光量に基づいて、前記半導体レーザに供給されるバイアス電流及び該バイアス電流を基準として前記画像信号に応じて変化する変調電流を制御する電流制御部と、を備え、
前記電流制御部は、
前記走査部によるレーザ光の走査位置が、前記走査部によるレーザ光の全走査領域のうち表示画像を形成する有効走査領域外である無効走査領域にある状態で、
前記半導体レーザに供給される電流値と前記半導体レーザの発光量との関係を示す電流−発光量特性に基づき、
前記光検出部により検出されたレーザ光の光量の最小値が、あらかじめ設定された第1の目標値となるように、前記変調電流の変調幅を調整した後、
前記光検出部により検出されたレーザ光の光量の最大値が、あらかじめ設定された第2の目標値となるように、前記バイアス電流を調整する電流制御を行う、
ことを特徴とする走査型画像表示装置。
【請求項2】
前記電流−発光量特性は、前記電流値に関し、前記電流値が上昇する過程で前記電流値の増加にともなう前記発光量の増加量が急激に大きくなる前記電流値として規定される閾値電流を有し、
前記第1の目標値は、前記閾値電流よりも小さい値の前記電流値に対応する前記発光量の値に設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の走査型画像表示装置。
【請求項3】
前記光源部は、互いに異なる色のレーザ光を出射する複数の半導体レーザを有し、
前記電流制御部は、前記複数の半導体レーザの各半導体レーザの前記電流制御を、前記各半導体レーザが出射するレーザ光の色の視感度が高い順に行う、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の走査型画像表示装置。
【請求項4】
前記電流制御部は、前記光検出部により検出されたレーザ光の光量の最小値と前記第1の目標値との差の大きさに応じて、前記変調電流の変調幅の調整量を変化させる第1の調整量制御、及び前記光検出部により検出されたレーザ光の光量の最大値と前記第2の目標値との差の大きさに応じて、前記バイアス電流の調整量を変化させる第2の調整量制御のうち、少なくともいずれかを行う、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の走査型画像表示装置。
【請求項5】
前記走査部により2次元走査されたレーザ光を、観察者の少なくとも一方の眼の網膜に入射させる接眼光学系部をさらに備え、
前記網膜をレーザ光の投射対象として、画像を表示する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の走査型画像表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−155019(P2012−155019A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12169(P2011−12169)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】