走査型画像表示装置
【課題】レーザビームの安全性の基準を考慮し、安全性を確保するとともに表示画像の輝度を向上させること。
【解決手段】レーザ光源11,12,13は、緑色(G)、赤色(R)、青色(B)の光ビームをそれぞれ発生し、ダイクロイックミラー15,16により合成され、第1ビーム(G)21と、第2ビーム(R/B)24を生成する。偏向ミラー装置14は、偏向ミラーの回転により第1、第2ビームを2次元的に走査する。第1、第2ビーム21,24の出射方向はスクリーン18の垂直方向に角度差θを有し、それらの間隔dが、レーザ安全基準で定められたアパーチャ径APよりも大きくなるよう設定する。
【解決手段】レーザ光源11,12,13は、緑色(G)、赤色(R)、青色(B)の光ビームをそれぞれ発生し、ダイクロイックミラー15,16により合成され、第1ビーム(G)21と、第2ビーム(R/B)24を生成する。偏向ミラー装置14は、偏向ミラーの回転により第1、第2ビームを2次元的に走査する。第1、第2ビーム21,24の出射方向はスクリーン18の垂直方向に角度差θを有し、それらの間隔dが、レーザ安全基準で定められたアパーチャ径APよりも大きくなるよう設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は走査型画像表示装置に係り、特に偏向ミラーを回転させて光ビームを2次元的に走査することにより、スクリーン等に画像を投射表示する走査型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光源から発せられた光ビーム(レーザビーム)を偏向手段によって2次元的に偏向することでスクリーン上を走査させ、その残像効果によってスクリーン上に2次元画像を投射表示する走査型画像表示装置が提案されている。このような走査型画像表示装置においては、光源に3原色(R,G,B)のレーザ光を用いてこれらを合成し、MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)ミラーなどの偏向手段によりスクリ−ン上を走査する構成となっている。この構成では、合成した1本のレーザビームを走査するので走査系が簡素化できるが、レーザ光は発散角が小さい平行光であるため、スクリーンに照射される前のレーザビームが人間の眼に入ると網膜を熱傷する危険性がある。よってレーザの眼に対する安全性を確保するため、合成した1本のレーザビームのパワー(エネルギー)に上限値を設けている。その結果、表示画像の明るさが制限されることになる。
【0003】
これに関し特許文献1では、レーザビームの安全性を確保するとともに、表示画像を明るくすることを目的に、照射するレーザビームを複数のビームに分割し、分割したレーザビームがスクリーンの略同位置場所にておいて時間差を有してスクリーンに照射される構成とし、略同一場所におけるレーザビーム強度を分散低下させることが記載される。
【0004】
また特許文献2には、簡易な構成により複数のビーム光を用いて画像を表示することを目的に、複数のビーム光を供給する光源部と、それぞれ異なる入射角度で入射する複数の光ビームを第1の方向と、第1の方向に略直交する第2の方向へ走査させる走査させる走査部とを有する構成が記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−031529号公報
【特許文献2】特開2007−140010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザ製品の安全基準(IEC60825、JISC6802)では、レーザ製品は最大許容露光レベル(MPE:Maximum Permissible Exposure)に基づきクラス分けされる。つまり、(1)所定サイズの開口部(アパーチャ:人間の眼の瞳孔径に相当)に同時に入射するレーザビーム強度(単一パルス)の上限値(AEL:被爆放出限界)と、(2)所定サイズのアパーチャに繰り返して入射するレーザビーム強度(繰り返しパルス)の上限値、が規定されている。
【0007】
特許文献1においては、レーザビームを分割して複数パルスを時間差をおいて照射することで、アパーチャに同時に入射されるビーム強度を低減することができる。しかしながら特許文献1に記載される技術では、分割した複数パルスの間隔が所定時間Ti(波長帯ごとに定められている)よりも短いと、規格ではそれらのパルス群は単一のパルスとみなされ各パルスのビーム強度が合算されるため、ビームを分割した効果が得られない。例えば分割した複数のビームを、ビームの走査方向(2次元方向のうち高速で走査する画面水平方向)にアパーチャ径AP以上ずらして配置した場合を想定する。水平走査周波数fHを25kHzと仮定すると、複数パルスの間隔は、水平走査時間(1/(2fH)=20μsec)よりはるかに小さな値(数μsec)となるので、所定時間Ti(波長400〜1050nmでは、Ti=18μsec)よりも短くなり、分割ビームは単一パルスとみなされる。よって、ビーム分割により安全性を向上させること、あるいはビーム分割により生じた安全基準との余裕分だけビーム強度を増大し表示画像を明るくすることは困難である。
【0008】
なお、特許文献2においては、複数のビームを画面水平方向、および垂直方向にずらして配置する構成が開示されるが、レーザビームの安全性は考慮されておらず、よってその時間差は安全性に基づいて決定されたものではない。
【0009】
以上のような状況に鑑み本発明では、レーザビームの安全性の基準を考慮し、安全性を確保するとともに表示画像の輝度を向上させることのできる走査型画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、レーザビームをスクリーンへ投射しスクリーン上で2次元的に走査して画像を表示する走査型画像表示装置であって、赤色光、緑色光、青色光のレーザビームをそれぞれ発生する複数のレーザ光源と、複数のレーザビームを合成して第1、第2のレーザビームを生成する光学系と、第1、第2のレーザビームを偏向ミラーの回転により2次元的に走査する偏向ミラー装置とを備える。前記光学系は、第1、第2のレーザビームの出射方向がスクリーンの垂直方向に角度差θを有し、第1、第2のレーザビームの垂直方向の間隔dが、レーザビームの安全基準で定められた距離Mだけ離れた位置において安全基準で定められたアパーチャ径APよりも大きくなるよう設定する。
【0011】
好ましくは、前記第1のレーザビームは緑色光ビームにより、前記第2のレーザビームは赤色光ビームと青色光ビームにより生成する。
【0012】
あるいは、前記第1のレーザビームは緑色光ビームと赤色光ビームにより、前記第2のレーザビームは緑色光ビームと青色光ビームにより生成する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、レーザビームに対する安全性を確保するとともに表示画像の輝度を向上させることのできる走査型画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による走査型画像表示装置の第1の実施例を示す構成図。
【図2】第1の実施例における信号制御回路を示す図。
【図3】各レーザ光源に対するレーザ駆動信号を示す図。
【図4】ブランキング期間の設定を説明する図。
【図5】レーザビーム強度の評価条件を説明する図。
【図6】アパーチャを通過するビーム走査線を示す図。
【図7】第1の実施例における分割ビームの配置を示す図。
【図8】白色表示時のR,G,B光の光束量(強度比)を示す図。
【図9】アパーチャへ入射する分割ビームの時間変化を示す図。
【図10A】各種のビーム分割方式を示す図(1ビーム方式)。
【図10B】各種のビーム分割方式を示す図(水平分割)。
【図10C】各種のビーム分割方式を示す図(垂直分割)。
【図10D】各種のビーム分割方式を示す図(垂直分割)。
【図11A】図10Aにおける入射ビームの時間変化を示す図(1ビーム方式)。
【図11B】図10Bにおける入射ビームの時間変化を示す図(水平分割)。
【図11C】図10Cにおける入射ビームの時間変化を示す図(垂直分割)。
【図11D】図10Dにおける入射ビームの時間変化を示す図(垂直分割)。
【図12】第1の実施例によるビーム光束量増大効果を示す図。
【図13】本発明による走査型画像表示装置の第2の実施例を示す構成図。
【図14】本発明による走査型画像表示装置の第3の実施例を示す構成図。
【図15】第3の実施例によるビーム強度増大効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明による走査型画像表示装置の第1の実施例を示す構成図である。筐体17には、以下の光学部品が収納されている。レーザ光源11は波長510nm帯の緑色光ビーム(G光)21を出射し、レーザ光源12は波長640nm帯の赤色光ビーム(R光)22を出射し、レーザ光源13は波長440nm帯の青色光ビーム(B光)23を出射する。各光ビーム21,22,23は、画像信号の各色成分の信号に応じた強度で出射される。
【0017】
ダイクロイックミラー15は、G光ビーム21を透過しR光ビーム22を反射する。ダイクロイックミラー16は、G光ビーム21とR光ビーム22を透過しB光ビーム23を反射する。ダイクロイックミラー15,16を透過あるいは反射した各光ビーム21,22,23のうち、G光ビーム21は単独のビーム(第1ビーム)として、R光ビーム22とB光ビーム23は合成されて(以下、R/B光と記述)、1本のビーム24(第2ビーム)として進行する。その際第1ビーム21と第2ビーム24は、それらのビーム進行方向が互いに垂直方向に角度差θだけずれるように設定する。この角度差θを実現するため、各レーザ光源11,12,13の光軸の傾きと位置、及びダイクロイックミラー15,16の傾きを調整する。第1ビーム21と第2ビーム24は、光ビーム走査用の偏向ミラー装置14に入射する。
【0018】
偏向ミラー装置14は、入射した2つのビーム21,24を反射する1個の反射ミラー(偏向ミラー)と該偏向ミラーを2次元的に回転駆動する駆動機構を有し、入射した光ビーム21,24を反射して所定距離離れたスクリーン18上に投射する。偏向ミラーは駆動機構により、図中のZ軸に略平行な回転軸31およびX−Y平面に略平行な回転軸32の回りに、それぞれ所定角度(偏向角)だけ周期的に反復回転運動を行う。偏向ミラー装置14は、例えばMEMSミラーやガルバノミラー等を用いて構成する。
【0019】
偏向ミラー装置17から出射した2つの光ビーム21,24は、出射方向が垂直方向に角度差θだけずれているので、スクリーン18上に照射されるビーム位置も垂直方向(V方向)に間隔Dだけ離れている。そして、偏向ミラー装置14の偏向動作により、スクリーン18上を水平方向(H方向)と垂直方向(V方向)に走査される。その際、スクリーン18上における光ビーム21,24の走査位置に同期して各レーザ光源11,12,13の光出力をそれぞれに独立に変調させることで、人間の眼の残像現象を利用してスクリーン18上に2次元状のカラー画像を表示させる。
【0020】
このように本実施例では、スクリーン18上に投射する光ビームを第1ビーム(R)21と第2ビーム(R/B)24に分割し、スクリーン18上で垂直方向に間隔Dだけずらして照射することで、単一ビームとしての強度を下げレーザビームの安全性を向上させる。本実施例では、R,G,B光の強度比(白色表示時の強度比)を考慮し、最大強度のG光を第1ビーム21とし、他のR光とB光を合成し第2ビーム24とした。ビーム出射方向の角度差θが一定でも、スクリーン18上でのビーム間の間隔Dの大きさはスクリーン18までの投射距離に依存するので一義に規定できない。そこで、レーザビームの安全基準では、ビームの出射口から所定距離M(100mm)だけ離れた位置で所定サイズの開口部(アパーチャ)を通過するビーム強度で評価されることに基づき、ビームの出射位置から所定距離Mだけ離れた位置で2つのビーム21,24の間隔dをアパーチャ径APより大きくするように配置する。
【0021】
図2は、本実施例の走査型画像表示装置における信号制御回路を示す図である。制御回路20は、各レーザ光源11,12,13に対し、画像信号の出力タイミングの制御信号とブランキング処理信号を送る。また制御回路20は、偏向ミラー装置14の位置検出信号を受け、画像信号に同期して水平方向及び垂直方向に偏向ミラーを反復回転させる制御信号を送る。
【0022】
図3は、各レーザ光源に対するレーザ駆動信号を示す図である。スクリーン上のある一点をビームで照射するときのR,G,B信号の出力タイミングを示す。ビーム出射口から所定距離M(100mm)だけ離れた位置での垂直方向のビームずれをd、垂直方向の走査速度をVvとする。第1ビーム21(G光)が第2ビーム24(R/B光)よりも垂直方向に先行して走査する場合、G信号に対してR信号とB信号を時間差ΔT=d/Vvだけタイミングを遅らせて出力する。その結果、スクリーン上の一点に表示されるR,G,Bの各信号に時間的なずれ(色ずれ)が生じることはない。
【0023】
図4は、ブランキング期間の設定を説明する図である。ビームの2次元走査による画像表示では、フレームの切り替えのためビーム走査位置を画面下端から上端に戻る期間(ブランキング期間)を有し、その期間は画像の表示(信号出力)を停止する。さらに本実施例では、ビームを分割して垂直方向にずらして配置するので、画面上下端では一方のビームが照射されない無効領域(時間差ΔTに相当する)が発生する。そこでこの領域を上記ブランキング期間に含める処理を行うことで、画面上下端での画像の乱れを回避する。
【0024】
図5は、レーザビーム強度の評価条件を説明する図である。レーザビームの安全基準では、レーザ光源(または装置の出射口)から距離M(100mm)だけ離れた位置において、アパーチャ径AP(7mm)を通過するビーム強度で評価される。この大きさAPは人間の瞳孔径に相当し、光源からアパーチャに対する見通し角はθap=4degとなる。このAP内に同時に入射するビームは単一ビーム(単一パルス)となり、その強度に上限値(AEL:被爆放出限界)が定められている。
【0025】
図6は、アパーチャを通過するビーム走査線を示す図である。ビーム走査は、左右往復する水平走査(周波数fH=25kHz)と、垂直走査(周波数fV=60Hz)で行う。1回の垂直走査でアパーチャ径APを通過する走査線の数Nは、垂直走査線数Nv、垂直走査角度θv、アパーチャに対する見通し角θapで決まり、例えばNv=768本、θv=36deg、θap=4degのとき、通過本数N=86本となる。また、水平走査角度θh=46degとすれば、1本の走査線がアパーチャを横切る時間Tpは、画面中央で0.956μsecとなる。
【0026】
図7は、本実施例における分割ビームの配置を示す図である。分割後の第1ビーム(G)と第2ビーム(R/B)を、ビーム出射口から距離Mだけ離れた位置において、アパーチャ径APより大きい間隔dだけ垂直方向にずらして配置する。言い換えれば、出射する2つのビームの垂直方向の角度差θを、アパーチャの見通し角θap(4deg)よりも大きくする。そして、この間隔d(または角度差θ)を保ちながらビーム対を水平方向に走査する。その結果、2つのビームが同時にアパーチャに入射することはなくなる。この図では、第1ビーム(G)を第2ビーム(R/B)よりも垂直方向に先行させる配置(下方に配置)としたが、第2ビーム(R/B)を先行させる配置としても良い。その場合は、図3の各信号の出力タイミングを逆転させれば良い。
【0027】
図8は、白色表示時にレーザ光源から出射するR,G,B光の光束量(強度比)を示す図である。最大のG光(510nm)が67.7%、次にR光(637nm)が30.8%、最小のB光(445nm)が1.5%である。なお、使用波長の選択によりこの強度比は多少ずれる。ビーム分割後のビーム強度のバランスを考えると、最大強度のG光を第1ビームとし、他のR光とB光を合成し第2ビームとするのが最も簡単な分割方法である。
【0028】
図9は、アパーチャへ入射する分割ビームの時間変化を示す図である。アパーチャには、まず第1ビーム(G)のパルス列がN本(例えば86本)入射する。各パルスは時間幅Tp=0.956μsec、間隔Th=20μsecである。そしてこれらのパルス列の後に、第2ビーム(R/B)のパルス列がN本入射する。第2ビームのパルス列の時間幅Tpや間隔Thは第1ビームと同様である。このとき、第1ビームと第2ビームの垂直方向間隔dをアパーチャ径APよりも大きく設定しているので、両者の入射開始する時間差ΔTは、第1ビームの全てのパルスが通過する時間より大きくなり、第1ビームと第2ビームのパルス列がその一部でも時間的に重なることはない。
【0029】
このようなビーム分割により、アパーチャに同時に入射する単一パルスの最大値は、第1ビーム(G)入射時の光束量67.7%に低減し、レーザビームに対する安全性が高まる。なお、パルス列の間隔はTh(20μsec)であり繰返しパルスに対して規定される所定時間Ti(18μsec)よりも長いので、ビーム強度が合算されて単一パルスとみなされることがなくビーム分割は有効となる。
【0030】
次に、本実施例のビーム分割方式の優位性について他と比較して説明する。図10A〜図10Dと図11A〜図11Dは、各種のビーム分割方式とそれに対する入射ビームの時間変化の関係を示す図であり、このうち図10Dと図11Dは本実施例の場合である。
【0031】
図10Aと図11Aは従来の1ビーム方式を示し、R,G,Bの全てを合成して1ビームを生成する。この場合は、単一パルスの強度に上限値があるため、全体の光束量を増大することができない。
【0032】
図10Bと図11Bは水平分割方式を示し、第1ビームと第2ビームを水平方向にアパーチャ径APより大きい間隔dだけ離して配置した場合である。この場合には、2つのビームがアパーチャに同時に入射することはない。しかしながら、隣接する2つのパルス(第1ビームと第2ビーム)が近接し所定時間Ti(18μsec)に含まれるので、単一パルスとみなされ第1ビームと第2ビームのビーム強度が合算される。その結果、図10Aと図11Aの1ビーム方式と同じ扱いになってしまう。
【0033】
図10Cと図11Cは垂直分割方式であるが、第1ビームと第2ビームを垂直方向にアパーチャ径APより小さい間隔d’だけ離して配置した場合である。この場合には、第1ビームと第2ビームの入射開始する時間差ΔT’が短くなるので、第1ビームの全てのパルス列が通過しないうちに、第2ビームのパルス列が入射し時間的に重なってしまう。すなわち、2つのビームがアパーチャに同時に入射する期間が発生し、結局、図10Aと図11Aの1ビーム方式と同じ扱いを受けることになる。
【0034】
図10Dと図11Dは垂直分割方式であり、第1ビームと第2ビームを垂直方向にアパーチャ径APより大きい間隔dだけ離して配置した場合である。図9で述べたように、2つのビームがアパーチャに同時に入射することがなく、また隣接するパルスの間隔は常に所定時間Tiより長いので、単一パルスとみなされることもない。よって、ビーム分割により単一パルスのビーム強度を確実に低減することができる。
【0035】
図12は、本実施例によるビーム光束量増大効果を示す図である。縦軸は、安全基準の上限値から決まるレーザビームの許容光束量(相対値)を示す。従来の1ビーム方式の上限値を100とすると、分割ビーム方式では繰返しパルス数が2倍に増加するので、その補正を行うと上限値(AEL)が84.1に低下する。第1ビーム(G)の光束量を上限値84.1まで利用するように設定し、これに合わせて第2ビーム(R/B)を図8で示した強度比で割り当てると、R光が38.3、B光が1.8となる。その結果、レーザビーム出射光束量の合計を124.2まで増大させ、表示画像の輝度を向上させることができる。
【実施例2】
【0036】
図13は、本発明による走査型画像表示装置の第2の実施例を示す構成図である。基本構成は実施例1(図1)と同様であるが、分割した第1ビーム21と第2ビーム24の位置を垂直方向に間隔dだけずらして配置する際に、水平方向にもΔdだけずれている場合である。その結果、スクリーン18に投射するビーム位置は斜め方向にD’だけずれることになる。水平方向のずれΔdがあると、表示画面の左右端において一方のビームが照射されない領域が発生するので好ましくないが、光学系(レーザ光源11,12,13やダイクロイックミラー15,16)の調整によっても、わずかなずれΔdが残る場合がある。
【0037】
この場合には前記図2の制御回路20で、第1ビーム21と第2ビーム24の画像信号の出力タイミングをΔdに相当する時間だけずらすことで補正する。すなわち前記図3のレーザ駆動信号において、時間差ΔT=d/Vv+Δd/Vh(Vh:水平走査速度)を与えるようにする。その結果、スクリーンに表示されるR,G,Bの信号に時間的なずれ(色ずれ)が生じることはない。
【実施例3】
【0038】
図14は、本発明による走査型画像表示装置の第3の実施例を示す構成図である。本実施例ではレーザビームの分割方法を変え、G光をG1光とG2光に分け、G1光とR光で合成した第1ビームと、G2光とB光で合成した第2ビームを生成する。すなわち、ビーム強度比の大きいG光を2つに分離することで、第1ビームと第2ビームの強度(光束量)を揃えたものである。
【0039】
装置は2つの筐体(光学系)を備える。筐体17aにはG1光のレーザ光源11aとR光のレーザ光源12を有し、G1光ビーム21aとR光ビーム22を合成して第1ビーム(G1/R)25とし、第1の偏向ミラー装置14aで反射してスクリーン18に投射する。筐体17bにはG2光のレーザ光源11bとB光のレーザ光源13を有し、G2光ビーム21bとB光ビーム23を合成して第2ビーム(G2/B)26とし、第2の偏向ミラー装置14bで反射してスクリーン18に投射する。そして、各光学系の位置を調整することで、実施例1と同様に第1ビーム25と第2ビーム26の出射方向を垂直方向にずらす。すなわち、ビームの出射位置から所定距離M(100mm)だけ離れた位置で垂直方向に間隔dだけ離れるように配置し、この間隔dは、アパーチャ径AP(7mm)より大きくする。
【0040】
図15は、本実施例によるビーム強度増大効果を示す図である。縦軸はレーザビームの許容光束量を示す。従来の1ビーム方式の上限値を100とすると、分割ビーム方式では繰返しパルス数の補正を行うと上限値が84.1となる。第1ビーム(G1/R)と第2ビーム(G2/B)の光束量をいずれも上限値84.1まで使用するように設定する。そして各色光の光束量を前記図8で示した強度比で割り当てると、G1光が32.3、G2光が81.6、R光が51.8、B光が2.5となる。その結果、レーザビーム光束量の合計を168.2まで増大させ、表示画像の輝度をさらに向上させることができる。
【0041】
以上述べた各実施例によれば、スクリーンへ投射するレーザビームを第1ビームと第2ビームに分割して垂直方向に間隔dだけ離して配置する。間隔dはレーザビーム安全基準で定めるアパーチャ径APより大きくすることで、2つのビームがアパーチャに同時に入射することがなく単一パルスとしてのビーム強度を低減することができる。またアパーチャに入射する第1ビームと第2ビームの時間間隔は基準で定められる所定時間Tiよりも長いので、単一パルスとみなされて両者のビーム強度が合算されることもない。従って、単一パルスとしてのビーム強度が低減することで安全性を向上させることができる。さらには、単一パルスのビーム強度が低減することで安全基準(許容値)との間に余裕が発生し、全体のビーム光束量を増大させて表示画像の輝度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0042】
11,11a,11b,12,13…レーザ光源、
14,14a,14b…偏向ミラー装置、
15,16…ダイクロイックミラー、
17,17a,17b…筐体、
18…スクリーン、
20…制御回路、
21,22,23,24,25,26…レーザビーム(光ビーム)。
【技術分野】
【0001】
本発明は走査型画像表示装置に係り、特に偏向ミラーを回転させて光ビームを2次元的に走査することにより、スクリーン等に画像を投射表示する走査型画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光源から発せられた光ビーム(レーザビーム)を偏向手段によって2次元的に偏向することでスクリーン上を走査させ、その残像効果によってスクリーン上に2次元画像を投射表示する走査型画像表示装置が提案されている。このような走査型画像表示装置においては、光源に3原色(R,G,B)のレーザ光を用いてこれらを合成し、MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems)ミラーなどの偏向手段によりスクリ−ン上を走査する構成となっている。この構成では、合成した1本のレーザビームを走査するので走査系が簡素化できるが、レーザ光は発散角が小さい平行光であるため、スクリーンに照射される前のレーザビームが人間の眼に入ると網膜を熱傷する危険性がある。よってレーザの眼に対する安全性を確保するため、合成した1本のレーザビームのパワー(エネルギー)に上限値を設けている。その結果、表示画像の明るさが制限されることになる。
【0003】
これに関し特許文献1では、レーザビームの安全性を確保するとともに、表示画像を明るくすることを目的に、照射するレーザビームを複数のビームに分割し、分割したレーザビームがスクリーンの略同位置場所にておいて時間差を有してスクリーンに照射される構成とし、略同一場所におけるレーザビーム強度を分散低下させることが記載される。
【0004】
また特許文献2には、簡易な構成により複数のビーム光を用いて画像を表示することを目的に、複数のビーム光を供給する光源部と、それぞれ異なる入射角度で入射する複数の光ビームを第1の方向と、第1の方向に略直交する第2の方向へ走査させる走査させる走査部とを有する構成が記載される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−031529号公報
【特許文献2】特開2007−140010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
レーザ製品の安全基準(IEC60825、JISC6802)では、レーザ製品は最大許容露光レベル(MPE:Maximum Permissible Exposure)に基づきクラス分けされる。つまり、(1)所定サイズの開口部(アパーチャ:人間の眼の瞳孔径に相当)に同時に入射するレーザビーム強度(単一パルス)の上限値(AEL:被爆放出限界)と、(2)所定サイズのアパーチャに繰り返して入射するレーザビーム強度(繰り返しパルス)の上限値、が規定されている。
【0007】
特許文献1においては、レーザビームを分割して複数パルスを時間差をおいて照射することで、アパーチャに同時に入射されるビーム強度を低減することができる。しかしながら特許文献1に記載される技術では、分割した複数パルスの間隔が所定時間Ti(波長帯ごとに定められている)よりも短いと、規格ではそれらのパルス群は単一のパルスとみなされ各パルスのビーム強度が合算されるため、ビームを分割した効果が得られない。例えば分割した複数のビームを、ビームの走査方向(2次元方向のうち高速で走査する画面水平方向)にアパーチャ径AP以上ずらして配置した場合を想定する。水平走査周波数fHを25kHzと仮定すると、複数パルスの間隔は、水平走査時間(1/(2fH)=20μsec)よりはるかに小さな値(数μsec)となるので、所定時間Ti(波長400〜1050nmでは、Ti=18μsec)よりも短くなり、分割ビームは単一パルスとみなされる。よって、ビーム分割により安全性を向上させること、あるいはビーム分割により生じた安全基準との余裕分だけビーム強度を増大し表示画像を明るくすることは困難である。
【0008】
なお、特許文献2においては、複数のビームを画面水平方向、および垂直方向にずらして配置する構成が開示されるが、レーザビームの安全性は考慮されておらず、よってその時間差は安全性に基づいて決定されたものではない。
【0009】
以上のような状況に鑑み本発明では、レーザビームの安全性の基準を考慮し、安全性を確保するとともに表示画像の輝度を向上させることのできる走査型画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、レーザビームをスクリーンへ投射しスクリーン上で2次元的に走査して画像を表示する走査型画像表示装置であって、赤色光、緑色光、青色光のレーザビームをそれぞれ発生する複数のレーザ光源と、複数のレーザビームを合成して第1、第2のレーザビームを生成する光学系と、第1、第2のレーザビームを偏向ミラーの回転により2次元的に走査する偏向ミラー装置とを備える。前記光学系は、第1、第2のレーザビームの出射方向がスクリーンの垂直方向に角度差θを有し、第1、第2のレーザビームの垂直方向の間隔dが、レーザビームの安全基準で定められた距離Mだけ離れた位置において安全基準で定められたアパーチャ径APよりも大きくなるよう設定する。
【0011】
好ましくは、前記第1のレーザビームは緑色光ビームにより、前記第2のレーザビームは赤色光ビームと青色光ビームにより生成する。
【0012】
あるいは、前記第1のレーザビームは緑色光ビームと赤色光ビームにより、前記第2のレーザビームは緑色光ビームと青色光ビームにより生成する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、レーザビームに対する安全性を確保するとともに表示画像の輝度を向上させることのできる走査型画像表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明による走査型画像表示装置の第1の実施例を示す構成図。
【図2】第1の実施例における信号制御回路を示す図。
【図3】各レーザ光源に対するレーザ駆動信号を示す図。
【図4】ブランキング期間の設定を説明する図。
【図5】レーザビーム強度の評価条件を説明する図。
【図6】アパーチャを通過するビーム走査線を示す図。
【図7】第1の実施例における分割ビームの配置を示す図。
【図8】白色表示時のR,G,B光の光束量(強度比)を示す図。
【図9】アパーチャへ入射する分割ビームの時間変化を示す図。
【図10A】各種のビーム分割方式を示す図(1ビーム方式)。
【図10B】各種のビーム分割方式を示す図(水平分割)。
【図10C】各種のビーム分割方式を示す図(垂直分割)。
【図10D】各種のビーム分割方式を示す図(垂直分割)。
【図11A】図10Aにおける入射ビームの時間変化を示す図(1ビーム方式)。
【図11B】図10Bにおける入射ビームの時間変化を示す図(水平分割)。
【図11C】図10Cにおける入射ビームの時間変化を示す図(垂直分割)。
【図11D】図10Dにおける入射ビームの時間変化を示す図(垂直分割)。
【図12】第1の実施例によるビーム光束量増大効果を示す図。
【図13】本発明による走査型画像表示装置の第2の実施例を示す構成図。
【図14】本発明による走査型画像表示装置の第3の実施例を示す構成図。
【図15】第3の実施例によるビーム強度増大効果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は、本発明による走査型画像表示装置の第1の実施例を示す構成図である。筐体17には、以下の光学部品が収納されている。レーザ光源11は波長510nm帯の緑色光ビーム(G光)21を出射し、レーザ光源12は波長640nm帯の赤色光ビーム(R光)22を出射し、レーザ光源13は波長440nm帯の青色光ビーム(B光)23を出射する。各光ビーム21,22,23は、画像信号の各色成分の信号に応じた強度で出射される。
【0017】
ダイクロイックミラー15は、G光ビーム21を透過しR光ビーム22を反射する。ダイクロイックミラー16は、G光ビーム21とR光ビーム22を透過しB光ビーム23を反射する。ダイクロイックミラー15,16を透過あるいは反射した各光ビーム21,22,23のうち、G光ビーム21は単独のビーム(第1ビーム)として、R光ビーム22とB光ビーム23は合成されて(以下、R/B光と記述)、1本のビーム24(第2ビーム)として進行する。その際第1ビーム21と第2ビーム24は、それらのビーム進行方向が互いに垂直方向に角度差θだけずれるように設定する。この角度差θを実現するため、各レーザ光源11,12,13の光軸の傾きと位置、及びダイクロイックミラー15,16の傾きを調整する。第1ビーム21と第2ビーム24は、光ビーム走査用の偏向ミラー装置14に入射する。
【0018】
偏向ミラー装置14は、入射した2つのビーム21,24を反射する1個の反射ミラー(偏向ミラー)と該偏向ミラーを2次元的に回転駆動する駆動機構を有し、入射した光ビーム21,24を反射して所定距離離れたスクリーン18上に投射する。偏向ミラーは駆動機構により、図中のZ軸に略平行な回転軸31およびX−Y平面に略平行な回転軸32の回りに、それぞれ所定角度(偏向角)だけ周期的に反復回転運動を行う。偏向ミラー装置14は、例えばMEMSミラーやガルバノミラー等を用いて構成する。
【0019】
偏向ミラー装置17から出射した2つの光ビーム21,24は、出射方向が垂直方向に角度差θだけずれているので、スクリーン18上に照射されるビーム位置も垂直方向(V方向)に間隔Dだけ離れている。そして、偏向ミラー装置14の偏向動作により、スクリーン18上を水平方向(H方向)と垂直方向(V方向)に走査される。その際、スクリーン18上における光ビーム21,24の走査位置に同期して各レーザ光源11,12,13の光出力をそれぞれに独立に変調させることで、人間の眼の残像現象を利用してスクリーン18上に2次元状のカラー画像を表示させる。
【0020】
このように本実施例では、スクリーン18上に投射する光ビームを第1ビーム(R)21と第2ビーム(R/B)24に分割し、スクリーン18上で垂直方向に間隔Dだけずらして照射することで、単一ビームとしての強度を下げレーザビームの安全性を向上させる。本実施例では、R,G,B光の強度比(白色表示時の強度比)を考慮し、最大強度のG光を第1ビーム21とし、他のR光とB光を合成し第2ビーム24とした。ビーム出射方向の角度差θが一定でも、スクリーン18上でのビーム間の間隔Dの大きさはスクリーン18までの投射距離に依存するので一義に規定できない。そこで、レーザビームの安全基準では、ビームの出射口から所定距離M(100mm)だけ離れた位置で所定サイズの開口部(アパーチャ)を通過するビーム強度で評価されることに基づき、ビームの出射位置から所定距離Mだけ離れた位置で2つのビーム21,24の間隔dをアパーチャ径APより大きくするように配置する。
【0021】
図2は、本実施例の走査型画像表示装置における信号制御回路を示す図である。制御回路20は、各レーザ光源11,12,13に対し、画像信号の出力タイミングの制御信号とブランキング処理信号を送る。また制御回路20は、偏向ミラー装置14の位置検出信号を受け、画像信号に同期して水平方向及び垂直方向に偏向ミラーを反復回転させる制御信号を送る。
【0022】
図3は、各レーザ光源に対するレーザ駆動信号を示す図である。スクリーン上のある一点をビームで照射するときのR,G,B信号の出力タイミングを示す。ビーム出射口から所定距離M(100mm)だけ離れた位置での垂直方向のビームずれをd、垂直方向の走査速度をVvとする。第1ビーム21(G光)が第2ビーム24(R/B光)よりも垂直方向に先行して走査する場合、G信号に対してR信号とB信号を時間差ΔT=d/Vvだけタイミングを遅らせて出力する。その結果、スクリーン上の一点に表示されるR,G,Bの各信号に時間的なずれ(色ずれ)が生じることはない。
【0023】
図4は、ブランキング期間の設定を説明する図である。ビームの2次元走査による画像表示では、フレームの切り替えのためビーム走査位置を画面下端から上端に戻る期間(ブランキング期間)を有し、その期間は画像の表示(信号出力)を停止する。さらに本実施例では、ビームを分割して垂直方向にずらして配置するので、画面上下端では一方のビームが照射されない無効領域(時間差ΔTに相当する)が発生する。そこでこの領域を上記ブランキング期間に含める処理を行うことで、画面上下端での画像の乱れを回避する。
【0024】
図5は、レーザビーム強度の評価条件を説明する図である。レーザビームの安全基準では、レーザ光源(または装置の出射口)から距離M(100mm)だけ離れた位置において、アパーチャ径AP(7mm)を通過するビーム強度で評価される。この大きさAPは人間の瞳孔径に相当し、光源からアパーチャに対する見通し角はθap=4degとなる。このAP内に同時に入射するビームは単一ビーム(単一パルス)となり、その強度に上限値(AEL:被爆放出限界)が定められている。
【0025】
図6は、アパーチャを通過するビーム走査線を示す図である。ビーム走査は、左右往復する水平走査(周波数fH=25kHz)と、垂直走査(周波数fV=60Hz)で行う。1回の垂直走査でアパーチャ径APを通過する走査線の数Nは、垂直走査線数Nv、垂直走査角度θv、アパーチャに対する見通し角θapで決まり、例えばNv=768本、θv=36deg、θap=4degのとき、通過本数N=86本となる。また、水平走査角度θh=46degとすれば、1本の走査線がアパーチャを横切る時間Tpは、画面中央で0.956μsecとなる。
【0026】
図7は、本実施例における分割ビームの配置を示す図である。分割後の第1ビーム(G)と第2ビーム(R/B)を、ビーム出射口から距離Mだけ離れた位置において、アパーチャ径APより大きい間隔dだけ垂直方向にずらして配置する。言い換えれば、出射する2つのビームの垂直方向の角度差θを、アパーチャの見通し角θap(4deg)よりも大きくする。そして、この間隔d(または角度差θ)を保ちながらビーム対を水平方向に走査する。その結果、2つのビームが同時にアパーチャに入射することはなくなる。この図では、第1ビーム(G)を第2ビーム(R/B)よりも垂直方向に先行させる配置(下方に配置)としたが、第2ビーム(R/B)を先行させる配置としても良い。その場合は、図3の各信号の出力タイミングを逆転させれば良い。
【0027】
図8は、白色表示時にレーザ光源から出射するR,G,B光の光束量(強度比)を示す図である。最大のG光(510nm)が67.7%、次にR光(637nm)が30.8%、最小のB光(445nm)が1.5%である。なお、使用波長の選択によりこの強度比は多少ずれる。ビーム分割後のビーム強度のバランスを考えると、最大強度のG光を第1ビームとし、他のR光とB光を合成し第2ビームとするのが最も簡単な分割方法である。
【0028】
図9は、アパーチャへ入射する分割ビームの時間変化を示す図である。アパーチャには、まず第1ビーム(G)のパルス列がN本(例えば86本)入射する。各パルスは時間幅Tp=0.956μsec、間隔Th=20μsecである。そしてこれらのパルス列の後に、第2ビーム(R/B)のパルス列がN本入射する。第2ビームのパルス列の時間幅Tpや間隔Thは第1ビームと同様である。このとき、第1ビームと第2ビームの垂直方向間隔dをアパーチャ径APよりも大きく設定しているので、両者の入射開始する時間差ΔTは、第1ビームの全てのパルスが通過する時間より大きくなり、第1ビームと第2ビームのパルス列がその一部でも時間的に重なることはない。
【0029】
このようなビーム分割により、アパーチャに同時に入射する単一パルスの最大値は、第1ビーム(G)入射時の光束量67.7%に低減し、レーザビームに対する安全性が高まる。なお、パルス列の間隔はTh(20μsec)であり繰返しパルスに対して規定される所定時間Ti(18μsec)よりも長いので、ビーム強度が合算されて単一パルスとみなされることがなくビーム分割は有効となる。
【0030】
次に、本実施例のビーム分割方式の優位性について他と比較して説明する。図10A〜図10Dと図11A〜図11Dは、各種のビーム分割方式とそれに対する入射ビームの時間変化の関係を示す図であり、このうち図10Dと図11Dは本実施例の場合である。
【0031】
図10Aと図11Aは従来の1ビーム方式を示し、R,G,Bの全てを合成して1ビームを生成する。この場合は、単一パルスの強度に上限値があるため、全体の光束量を増大することができない。
【0032】
図10Bと図11Bは水平分割方式を示し、第1ビームと第2ビームを水平方向にアパーチャ径APより大きい間隔dだけ離して配置した場合である。この場合には、2つのビームがアパーチャに同時に入射することはない。しかしながら、隣接する2つのパルス(第1ビームと第2ビーム)が近接し所定時間Ti(18μsec)に含まれるので、単一パルスとみなされ第1ビームと第2ビームのビーム強度が合算される。その結果、図10Aと図11Aの1ビーム方式と同じ扱いになってしまう。
【0033】
図10Cと図11Cは垂直分割方式であるが、第1ビームと第2ビームを垂直方向にアパーチャ径APより小さい間隔d’だけ離して配置した場合である。この場合には、第1ビームと第2ビームの入射開始する時間差ΔT’が短くなるので、第1ビームの全てのパルス列が通過しないうちに、第2ビームのパルス列が入射し時間的に重なってしまう。すなわち、2つのビームがアパーチャに同時に入射する期間が発生し、結局、図10Aと図11Aの1ビーム方式と同じ扱いを受けることになる。
【0034】
図10Dと図11Dは垂直分割方式であり、第1ビームと第2ビームを垂直方向にアパーチャ径APより大きい間隔dだけ離して配置した場合である。図9で述べたように、2つのビームがアパーチャに同時に入射することがなく、また隣接するパルスの間隔は常に所定時間Tiより長いので、単一パルスとみなされることもない。よって、ビーム分割により単一パルスのビーム強度を確実に低減することができる。
【0035】
図12は、本実施例によるビーム光束量増大効果を示す図である。縦軸は、安全基準の上限値から決まるレーザビームの許容光束量(相対値)を示す。従来の1ビーム方式の上限値を100とすると、分割ビーム方式では繰返しパルス数が2倍に増加するので、その補正を行うと上限値(AEL)が84.1に低下する。第1ビーム(G)の光束量を上限値84.1まで利用するように設定し、これに合わせて第2ビーム(R/B)を図8で示した強度比で割り当てると、R光が38.3、B光が1.8となる。その結果、レーザビーム出射光束量の合計を124.2まで増大させ、表示画像の輝度を向上させることができる。
【実施例2】
【0036】
図13は、本発明による走査型画像表示装置の第2の実施例を示す構成図である。基本構成は実施例1(図1)と同様であるが、分割した第1ビーム21と第2ビーム24の位置を垂直方向に間隔dだけずらして配置する際に、水平方向にもΔdだけずれている場合である。その結果、スクリーン18に投射するビーム位置は斜め方向にD’だけずれることになる。水平方向のずれΔdがあると、表示画面の左右端において一方のビームが照射されない領域が発生するので好ましくないが、光学系(レーザ光源11,12,13やダイクロイックミラー15,16)の調整によっても、わずかなずれΔdが残る場合がある。
【0037】
この場合には前記図2の制御回路20で、第1ビーム21と第2ビーム24の画像信号の出力タイミングをΔdに相当する時間だけずらすことで補正する。すなわち前記図3のレーザ駆動信号において、時間差ΔT=d/Vv+Δd/Vh(Vh:水平走査速度)を与えるようにする。その結果、スクリーンに表示されるR,G,Bの信号に時間的なずれ(色ずれ)が生じることはない。
【実施例3】
【0038】
図14は、本発明による走査型画像表示装置の第3の実施例を示す構成図である。本実施例ではレーザビームの分割方法を変え、G光をG1光とG2光に分け、G1光とR光で合成した第1ビームと、G2光とB光で合成した第2ビームを生成する。すなわち、ビーム強度比の大きいG光を2つに分離することで、第1ビームと第2ビームの強度(光束量)を揃えたものである。
【0039】
装置は2つの筐体(光学系)を備える。筐体17aにはG1光のレーザ光源11aとR光のレーザ光源12を有し、G1光ビーム21aとR光ビーム22を合成して第1ビーム(G1/R)25とし、第1の偏向ミラー装置14aで反射してスクリーン18に投射する。筐体17bにはG2光のレーザ光源11bとB光のレーザ光源13を有し、G2光ビーム21bとB光ビーム23を合成して第2ビーム(G2/B)26とし、第2の偏向ミラー装置14bで反射してスクリーン18に投射する。そして、各光学系の位置を調整することで、実施例1と同様に第1ビーム25と第2ビーム26の出射方向を垂直方向にずらす。すなわち、ビームの出射位置から所定距離M(100mm)だけ離れた位置で垂直方向に間隔dだけ離れるように配置し、この間隔dは、アパーチャ径AP(7mm)より大きくする。
【0040】
図15は、本実施例によるビーム強度増大効果を示す図である。縦軸はレーザビームの許容光束量を示す。従来の1ビーム方式の上限値を100とすると、分割ビーム方式では繰返しパルス数の補正を行うと上限値が84.1となる。第1ビーム(G1/R)と第2ビーム(G2/B)の光束量をいずれも上限値84.1まで使用するように設定する。そして各色光の光束量を前記図8で示した強度比で割り当てると、G1光が32.3、G2光が81.6、R光が51.8、B光が2.5となる。その結果、レーザビーム光束量の合計を168.2まで増大させ、表示画像の輝度をさらに向上させることができる。
【0041】
以上述べた各実施例によれば、スクリーンへ投射するレーザビームを第1ビームと第2ビームに分割して垂直方向に間隔dだけ離して配置する。間隔dはレーザビーム安全基準で定めるアパーチャ径APより大きくすることで、2つのビームがアパーチャに同時に入射することがなく単一パルスとしてのビーム強度を低減することができる。またアパーチャに入射する第1ビームと第2ビームの時間間隔は基準で定められる所定時間Tiよりも長いので、単一パルスとみなされて両者のビーム強度が合算されることもない。従って、単一パルスとしてのビーム強度が低減することで安全性を向上させることができる。さらには、単一パルスのビーム強度が低減することで安全基準(許容値)との間に余裕が発生し、全体のビーム光束量を増大させて表示画像の輝度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0042】
11,11a,11b,12,13…レーザ光源、
14,14a,14b…偏向ミラー装置、
15,16…ダイクロイックミラー、
17,17a,17b…筐体、
18…スクリーン、
20…制御回路、
21,22,23,24,25,26…レーザビーム(光ビーム)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザビームをスクリーンへ投射し該スクリーン上で2次元的に走査して画像を表示する走査型画像表示装置において、
赤色光、緑色光、青色光のレーザビームをそれぞれ発生する複数のレーザ光源と、
該複数のレーザビームを合成して第1、第2のレーザビームを生成する光学系と、
該第1、第2のレーザビームを偏向ミラーの回転により2次元的に走査する偏向ミラー装置とを備え、
前記光学系は、前記第1、第2のレーザビームの出射方向が前記スクリーンの垂直方向に角度差θを有し、該第1、第2のレーザビームの垂直方向の間隔dが、レーザビームの安全基準で定められた距離Mだけ離れた位置において安全基準で定められたアパーチャ径APよりも大きくなるよう設定したことを特徴とする走査型画像表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の走査型画像表示装置において、
前記第1のレーザビームは緑色光ビームにより、前記第2のレーザビームは赤色光ビームと青色光ビームにより生成したことを特徴とする走査型画像表示装置。
【請求項3】
請求項1に記載の走査型画像表示装置において、
前記第1のレーザビームは緑色光ビームと赤色光ビームにより、前記第2のレーザビームは緑色光ビームと青色光ビームにより生成したことを特徴とする走査型画像表示装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の走査型画像表示装置において、
前記第1のレーザビームと前記第2のレーザビームの画像信号に対し、前記間隔dを垂直方向に走査するのに要する時間差ΔTだけタイミングをずらして出力させる制御回路を有することを特徴とする走査型画像表示装置。
【請求項1】
レーザビームをスクリーンへ投射し該スクリーン上で2次元的に走査して画像を表示する走査型画像表示装置において、
赤色光、緑色光、青色光のレーザビームをそれぞれ発生する複数のレーザ光源と、
該複数のレーザビームを合成して第1、第2のレーザビームを生成する光学系と、
該第1、第2のレーザビームを偏向ミラーの回転により2次元的に走査する偏向ミラー装置とを備え、
前記光学系は、前記第1、第2のレーザビームの出射方向が前記スクリーンの垂直方向に角度差θを有し、該第1、第2のレーザビームの垂直方向の間隔dが、レーザビームの安全基準で定められた距離Mだけ離れた位置において安全基準で定められたアパーチャ径APよりも大きくなるよう設定したことを特徴とする走査型画像表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載の走査型画像表示装置において、
前記第1のレーザビームは緑色光ビームにより、前記第2のレーザビームは赤色光ビームと青色光ビームにより生成したことを特徴とする走査型画像表示装置。
【請求項3】
請求項1に記載の走査型画像表示装置において、
前記第1のレーザビームは緑色光ビームと赤色光ビームにより、前記第2のレーザビームは緑色光ビームと青色光ビームにより生成したことを特徴とする走査型画像表示装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の走査型画像表示装置において、
前記第1のレーザビームと前記第2のレーザビームの画像信号に対し、前記間隔dを垂直方向に走査するのに要する時間差ΔTだけタイミングをずらして出力させる制御回路を有することを特徴とする走査型画像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−3561(P2013−3561A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138161(P2011−138161)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000153535)株式会社日立メディアエレクトロニクス (452)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000153535)株式会社日立メディアエレクトロニクス (452)
【Fターム(参考)】
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