説明

走査型電子顕微鏡用試料の識別子、走査型電子顕微鏡用試料のホルダーおよび走査型電子顕微鏡用試料の観察方法

【課題】観察すべき試料の数が非常に多い場合であっても、観察された試料の種類と得られた電子顕微鏡画像との対応関係を容易に取れるようにする。
【解決手段】所定の色の種類cjを情報の一単位とし、前記所定の色を有するエレメントekの集合を識別情報として利用する走査型電子顕微鏡用試料の識別子Pであって、前記エレメントekのそれぞれは前記所定の色の種類に対応した所定の二次電子放出強度ijまたは反射電子放出強度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型電子顕微鏡用試料の識別子、走査型電子顕微鏡用試料のホルダーおよび走査型電子顕微鏡用試料の観察方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
走査型電子顕微鏡用の試料は、試料選定、試料作製などの工程を経た後、観察される。試料選定、試料作製の工程の段階では、被観察対象を選定し、これを試料として容器に格納する。そして、試料観察の際は通常、試料を容器から取り出して、走査型電子顕微鏡に対応した金属製のホルダーにセットする。
【0003】
ここで、観察すべき試料が多数になる場合は、多数存在する試料同士の混同を防ぐ必要がある。そこで、個々の試料を識別するために、整理番号などの識別情報を使用することにより、試料同士の混同を防ぐことができる。
【0004】
すなわち、試料選定、試料作製の工程の段階で使用する試料の容器には、個々の試料の種類に対応したバーコード、番号ラベルなどの識別情報を付する。そして、試料観察の際も同様にして、識別情報となる個々の試料の種類に対応した番号等をホルダーに刻印する。ホルダーに識別情報を刻印する手法として、簡易的には、け書き手法、あるいは、特許文献1に記載されているような、ホルダーに構造的浮き彫りによって形成されるコードを使用する手法がある。
【0005】
【特許文献1】特表平03−501307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した手法において、試料を格納する容器と、ホルダーは互いに別物であるため、試料を識別するために2つの識別情報がそれぞれに付されることになる。そこで、容器に格納される試料とホルダーにセットされる同試料との混同を防ぐため、容器に付された識別情報とホルダーに刻印された識別情報との対応関係を明確にしておく必要がある。
【0007】
すなわち、通常は、観察すべき試料の数は無限に存在しうるのに対して、ホルダーの数に限りがある場合が多い。そのため、このような場合は、ホルダーを観察する試料ごとに使い回すことがある。ゆえに、ホルダーを使用して試料を観察するたびに、使用中のホルダーの識別情報と観察される試料の識別情報との対応関係を別途に記録しておかないと、試料作製から試料観察までの過程で試料同士の混同を生ずる場合がある。
【0008】
さらに、使用するホルダーが識別情報の付された特殊なホルダーではなく、一般的なホルダーの場合には、識別情報がホルダーに刻印されていないこともある。そのような場合には、試料を格納する容器に付された識別情報を、使用する試料ホルダーに厳格に対応付けることができない場合もある。
【0009】
そこでいずれの場合においても、ホルダーにセットされた試料を観察する際は、得られた電子顕微鏡画像上において、試料を格納する容器に付された番号などの識別情報をスーパーインポーズ(重ね合わせる)することが行われる。これにより、得られた電子顕微鏡画像と、観察された試料の種類との対応関係を取ることができる。
【0010】
しかし、容器に付された番号を電子顕微鏡画像上にスーパーインポーズする際、番号入力を手作業で行うときに、誤った番号を入力するおそれがある。このような間違いは、識別情報が刻印されているホルダーを使用することによりある程度防ぐことが可能である。すなわち、番号入力の際に、ホルダーに刻印された番号を電子顕微鏡の観察野に持っていき観察画像上で、容器に付された識別情報とホルダーに刻印された識別情報との対応関係を照合することができるためである。
【0011】
ところが、ホルダーに識別情報が刻印されていない通常のホルダーを使用する場合は、試料を格納する容器に付された識別情報を、使用する試料ホルダーに対応付けができず、上記のような照合ができない。そのため、試料作製から試料観察までの過程で試料の取り違えといった混同が生じやすく、容器に付された番号をスーパーインポーズする際に、番号入力の間違いが生じ易い。
【0012】
なお、け書き、あるいは、ホルダーに構造的浮き彫りによって形成されるコードを使用してホルダーに識別情報を刻印する手法では、ホルダーに刻印できる情報が非常に少ない。そのため、試料ホルダーに識別情報が刻印されていたとしても、観察すべき試料の数が非常に多い場合には、得られた電子顕微鏡画像に識別情報をスーパーインポーズする際に、観察された試料の種類と得られた電子顕微鏡画像との対応関係を取ることが困難な場合もある。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、観察すべき試料の数が非常に多い場合であっても、観察された試料の種類と得られた電子顕微鏡画像との対応関係を容易に取ることができる走査型電子顕微鏡用試料の識別子、走査型電子顕微鏡用試料のホルダーおよび走査型電子顕微鏡用試料の観察方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の観点の走査型電子顕微鏡用試料の識別子は、所定の色の種類を情報の一単位とし、前記所定の色を有するエレメントの集合を識別情報として利用する走査型電子顕微鏡用試料の識別子であって、前記エレメントのそれぞれは前記所定の色の種類に対応した所定の二次電子放出強度または反射電子放出強度を有する。
【0015】
本発明の第2の観点の走査型電子顕微鏡用試料のホルダーは、所定の色の種類を情報の一単位とし、前記所定の色を有するエレメントの集合を識別情報として利用する識別子を付した走査型電子顕微鏡用試料のホルダーであって、前記エレメントのそれぞれは前記所定の色の種類に対応した所定の二次電子放出強度または反射電子放出強度を有する。
【0016】
本発明の第3の観点の走査型電子顕微鏡用試料の観察方法は、所定の色の種類を情報の一単位とし、前記所定の色を有するエレメントの集合を識別情報として利用する識別子であって、前記エレメントのそれぞれは前記所定の色の種類に対応した所定の二次電子放出強度または反射電子放出強度を有する識別子を走査型電子顕微鏡用試料のホルダーに付するステップと、走査型電子顕微鏡で前記走査型電子顕微鏡用試料のホルダーに付された試料の像を観察するステップと、前記走査型電子顕微鏡で、前記走査型電子顕微鏡用試料のホルダーに付された前記識別子のエレメントのそれぞれから放出される二次電子強度または反射電子放出強度に応じた輝度情報を取得するステップと、前記識別子のエレメントのそれぞれについて取得した輝度情報における輝度を、前記所定の色の種類と照合することにより、前記所定の色の種類に対応する情報の一単位と同一な情報の一単位を再現するステップと、再現された前記情報の一単位を組み合わせて、前記識別情報と同一な識別情報を得るステップと、得られた前記識別情報と同一の識別情報を前記試料の像に重ね合わせるステップと、を有する。
【0017】
本発明では、所定の色の種類を情報の一単位とし、前記所定の色を有するエレメントの集合を識別情報として利用している。そして、前記エレメントのそれぞれは前記所定の色の種類に対応した所定の二次電子放出強度または反射電子放出強度を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、観察すべき試料の数が非常に多い場合であっても、観察された試料の種類と得られた電子顕微鏡画像との対応関係を容易に取ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(本発明の基本原理)
本発明の実施形態に係る走査型電子顕微鏡用試料の識別子に関して、図1を参照しながら説明する。
図1(a)は、n個のエレメントek(k=1〜n)の集合からなる識別子Pを示す図であり、図1(b)は、各エレメントekにおける、色の種類cjと二次(反射)電子放出強度ijを示したものである。
図1(c)、(d)は、各エレメントekにおける、色の種類cjと二次(反射)電子放出強度ijとの対応関係を示したものである。
【0020】
図1(a)に示したように、識別子Pは、n個のエレメントek(k=1〜n)の集合からなり、また、図1(b)に示したように、各エレメントekは所定の色の種類cjからなる色を有している。
【0021】
ここで、k番目のエレメントekに所定の色を割り当てる場合は、無限に存在する色の種類の集合Cの中から、所定の色の種類cj(cj∈Cが成立する)を選択する。そして、図1(b)に示したように、選択した色の種類cjをk番目のエレメントekに割り当てる。
【0022】
ここで、色の種類は無限に存在するが、図1(b)に示したように、実際に使用する色の種類をN種類に限定すると、k番目の各エレメントekには、所定の色の種類cj(j=1〜N)からなるN種類の情報を割り当てることができる。このとき、各エレメントekに割り当てられた色の種類cj中の符号jは、N種類の情報中の一単位となる。
【0023】
このように、N種類の情報の中から任意の1つの情報を、所定の色の種類cjとして、各エレメントekに割り当てていくことにより、n個のエレメントek(k=1〜n)の集合からなる識別子Pは、光学的観測下においてNn通りの情報を有する識別情報として利用することができる。
【0024】
また、図1(b)に示したように、本発明の実施形態に係る識別子Pの各エレメントekにおいて、所定の種類の色cj(j=1〜N)が割り当てられると共に、当該エレメントエレメントekは当該所定の種類の色cjに対応した所定の二次(反射)電子放出強度ij(j=1〜N)を有するようにする。
【0025】
各エレメントekにおける、色の種類cjと二次(反射)電子放出強度ijの対応関係について、図1(c),(d)を参照しながら説明する。
図1(c)に示したように、無限に存在する色の種類の集合Cと、任意の強度からなる二次(反射)電子放出強度の集合Iとを規定すると、各エレメントekにおける、色の種類cjはCの元であり、二次(反射)電子放出強度ijはIの元である。
【0026】
このとき、色の種類cjと二次(反射)電子放出強度ijの対応関係は、二次(反射)放出強度Iが、色の集合Cの関数fとなるようにする。すなわち、図1(c)に示したように、色の種類cjと二次(反射)電子放出強度ijの対応関係において、f(cj)=ijが成立するようにする。
【0027】
さらに、関数fにおいて、色の種類cjと二次(反射)電子放出強度ijとが一対一対応となるようにする。すなわち、図1(d)に示したように、色の種類cjの符号jが異なる場合は、二次(反射)電子放出強度ijも異なるようにする。より詳細には、cj≠ci(i,j=1〜N)のとき、f(cj)≠f(ci)すなわち、ij≠iiが成立するようにする。
【0028】
このようにすることで、各エレメントekにおいて、色の種類cjの符号jが異なる場合には、二次(反射)電子放出強度ijも異なるようになる。すなわち、各エレメントekは、割り当てられた色の種類に一対一対応した二次(反射)電子放出強度を有するようになる。
【0029】
ここで、各エレメントekに割り当てられた色の種類cj中の符号jは、N種類の情報中の一単位となっているので、対応する二次(反射)電子放出強度ij中の符号jも色の種類cj中の符号jと同一なN種類の情報中の一単位となる。
【0030】
また、図1(d)で説明したように、色の種類cjと二次(反射)電子放出強度ijとが一対一対応となっているので、二次(反射)電子放出強度ijが構成するN種類の情報中の一単位は、色の種類cjが構成するN種類の情報中の一単位と完全同一の単位となる。
【0031】
上記の構成からなる識別子Pにおいて、n個存在するエレメントekそれぞれからの二次(反射)電子放出強度ijをn個分観測すると、観測した二次(反射)電子放出強度を、例えば、輝度に置き換えることによりn個分の輝度情報を取得することができる。
【0032】
ここで、各エレメントekが有する二次(反射)電子放出強度ijは、そのエレメントekに割り当てられた色の種類cjに一対一対応しているので、n個分の輝度情報のそれぞれについて、上記関数fの対応関係を参照することによって、各輝度情報に対応する色の種類cjを特定することが可能である。
【0033】
こうして、各エレメントekについての輝度情報に対応する色の種類cjを特定することが可能であるため、取得した輝度情報に基づいて、各エレメントekにおける色の種類cjが構成するN種類の情報中の一単位と完全同一の一単位を再現することが可能である。
【0034】
そして、各エレメントekについて再現された上記色の種類cjが構成するN種類の情報中の一単位と完全同一の一単位をn個(エレメントekの数)組み合わせる。そうすると、各エレメントekに所定の色の種類cjを割り当てていくことによって得られる識別情報と完全同一の識別情報を輝度情報に基づいて得ることができる。
【0035】
以上のように、図1(b)に示した本発明の実施形態に係る識別子Pの各エレメントekにおいて、所定の種類の色cj(j=1〜N)が割り当てられると共に、当該エレメントエレメントekは当該所定の種類の色cjに対応した所定の二次(反射)電子放出強度ij(j=1〜N)を有している。
【0036】
そのため、所定の色の種類cjが割り当てられた各エレメントekの集合により光学的に得られる識別情報と完全に同一な識別情報を二次(反射)電子強度観測(走査型電子顕微鏡観察下)下においても再現することが可能である。
【0037】
そして、このようなエレメントekの集合からなる識別子Pを走査型電子顕微鏡用の試料と近接させて使用することにより、当該識別子Pを走査型電子顕微鏡用試料の識別子として使用することができる。
【0038】
識別子Pを試料と近接させて使用する場合、識別子Pは走査型電子顕微鏡外において、光学的な観察によって、識別子Pの識別情報を得ることができ、そして、走査型電子顕微鏡内においては、二次(反射)電子強度観測によって、上記識別情報と完全に同一の識別情報を得ることができる。
【0039】
こうして、走査型電子顕微鏡外においても走査型電子顕微鏡内においても、同一な識別情報を識別子Pから得ることができ、また、識別子Pに含ませることができる識別情報の量も非常に多くすることができる。そのため、観察すべき試料が多数存在する場合であっても、試料作製から試料観察までの過程で試料同士の混同が生ずる恐れが少ない。すなわち、試料作製の段階では、光学的な観察によって識別子のPの識別情報を得ることができるし、試料観察の段階では、走査型電子顕微鏡による輝度情報の観察によって、当該識別情報と同一な識別情報を得ることができるためである。
【0040】
なお、識別子Pを試料と近接させて使用する場合、図2に示したように、図1に示した識別子Pを走査型電子顕微鏡用試料のホルダーHに付して使用することもできる。
図2は、試料SがホルダーH上に取り付けられると共に、識別子PもホルダーH上に取り付けられた状態を示している。図2に示したような走査型電子顕微鏡用試料のホルダーによれば、上記と同様の理由により、試料作製から試料観察までの過程で試料同士の混同が生ずる恐れが少ない。
【0041】
図1(a)に示した識別子Pの各エレメントekの大きさは、各エレメントを光学的に認識できる限りにおいて、幾らでも小さくすることができる。例えば、光学顕微鏡の分解能は、0.2μm程度であるので、各エレメントekの大きさを0.2μm角とし、1mm角の識別子Pを使用した場合は、識別子Pにはエレメントekを5000×5000=25000000個集積することができる。
【0042】
そして、各エレメントekに割り当てる色の種類を、例えば、8種類としただけの場合であっても、2ビット情報に換算して約2Gb分の情報を蓄積することができる。そして、識別子Pを識別情報として利用した場合には、825000000とほぼ無限通りの識別情報が得られる。
【0043】
なお、各エレメントekに割り当てる色の種類も、8種類に限られることはなく、無限に存在する色の種類の集合Cの中から何種類でも選択することができる。
すなわち、各エレメントekは、割り当てられた色の種類に一対一対応した二次(反射)電子放出強度を有している。そのため、ある色を有する一のエレメントから得られた二次(反射)電子放出強度に対応する輝度情報が、他の色を有する別のエレメントから得られた二次(反射)電子放出強度に対応する輝度情報と信号処理上混同しない限り、上記一のエレメントと上記別のエレメントからの輝度情報との識別ができる。
したがって、互いに異なる二次(反射)電子放出強度を有する一のエレメントと別のエレメントからの輝度情報の信号強度を互いに識別できる限りにおいて、エレメントに割り当てる色の種類の制約がない。
【0044】
図1(a)に示した識別子Pの各エレメントekに対して、所定の色の種類cjからなる色を割り当てる場合の、発色材料または発色素材は任意に選択することができる。
例えば、発色材料として顔料を使用しても良いし、各エレメントekに対して、所定の色の光を回折または干渉する微細加工を施してもよい。
【0045】
一方で、図1(a)に示した識別子Pの各エレメントekに対して、所定の種類の色cjに対応した所定の二次(反射)電子放出強度ijを有するようにするためには、所定の種類の色cjに応じた種類の金属またはその化合物を各エレメントekに使用することができる。
【0046】
すなわち、二次(反射)電子放出強度は、金属またはその化合物の種類に依存するので、所定の種類の色cjごとに、金属またはその化合物の種類を変更すれば、その色に一対一に対応する二次(反射)電子放出強度ijが得られるためである。
【0047】
より具体的には、図1(a)に示した識別子Pの各エレメントekに対して、所定の種類の色cjに対応した異なる所定の二次(反射)電子放出強度ijを有するようにするためには、所定の種類の色cjに応じた金属またはその化合物の平均原子番号を異ならせる。
【0048】
図3は、金属の原子番号Zを横軸とし、二次電子強度放出率δ及び反射電子放出率ηを縦軸とした、金属の二次(反射)電子放出率を示すグラフである。
【0049】
図3に示したように、金属の原子番号Zが大きく、その密度が高いほど、二次電子強度放出率δ、反射電子放出率ηが増加していく。そのため、識別子Pの各エレメントekに対して、所定の種類の色cjに応じて、金属またはその化合物の平均原子番号を異ならせることにより、二次(反射)電子放出強度ijを異ならせることができる。
【0050】
ここで、二次(反射)電子放出率を異ならせる場合に、選択可能な金属またはその化合物の種類に制約が出る場合がある。しかし、そのような場合でも、原子番号の異なる数種類の金属を使用し、所定の種類の色cjに対応した二次(反射)電子放出率となるように、これらの金属の配合の割合を変更すればよい。
【0051】
そのようにすることで、選択可能な金属またはその化合物の種類に制約がある場合であっても、これらの配合の変更を適宜行うことにより、ほぼ無限通りの二次(反射)電子放出強度を得ることができる。
【0052】
また、あるエレメントekに対して所定の二次(反射)電子放出強度ijを有させるようにするためには、上記のように所定の種類の金属またはその化合物を使用する代わりに、エレメントek中に含有する金属またはその化合物を所定の量とするようにしても良い。すなわち、各エレメントek中に含有する金属またはその化合物の種類が同一である場合であっても、その量が異なってくると、二次(反射)電子放出強度ijが異なる。より具体的には、エレメントek中に含有する金属またはその化合物の量が少なければ二次(反射)電子放出強度ijは弱くなり、量が多ければ強くなるので、あるエレメントekは所定の二次(反射)電子放出強度ijを有するようになる。
【0053】
なお、各エレメントek中に金属を含有させ、その含有量を変更するようにすれば、二次(反射)電子放出強度ijを変更できるだけでなく、各エレメントekに導電性を持たせることもできる。そのため、例えば、エレメントekに所定の種類の色cjを持たせるために使用する材料、素材が絶縁性であっても、二次(反射)電子強度観測下(走査型電子顕微鏡観察下)で、エレメントekがチャージアップすることによる観察像のゆがみなどを防ぐことができる。
【0054】
さらに、各エレメントekに所定の種類の色cjを持たせるために使用する材料が金属を含む無機系の顔料を使用した場合は、各エレメントekに導電性を持たせることができると同時に、所定の種類の色cjに対応した二次(反射)電子放出強度ijを持たせることもできる。
【0055】
すなわち、無機系の顔料を使用した場合、色の種類が異なると、顔料中に使用されている金属またはその化合物の量、種類が異なってくるので、二次(反射)電子放出強度も同時に異なってくる。そのため、各エレメントekは、所定の種類の色cjに固有の二次(反射)電子放出強度ijを有するようになる。したがって、各エレメントekに、所定の種類の色cjを無機系の顔料で割り当てるだけで、自動的に所定の種類の色cjに対応した二次(反射)電子放出強度ijを持たせることができる。
【0056】
なお、各エレメントekに所定の種類の色cjを持たせるために使用する材料が有機系の顔料であっても、エレメントに対して光学的な影響を及ぼさない金属またはその化合物の量を変更して、二次(反射)電子放出強度ijを変更することができる。そうすると、上記と同様の理由で所定の種類の色cjに対応した二次(反射)電子放出強度ijを持たせることができる。
【0057】
特に、無機系の顔料は、一般的に有機系の顔料と比較して、選択可能な色の種類を多くすることができる。なお、各エレメントekに持たせる色の種類が多くなるような場合であっても、各エレメントekごとに、含有させる金属またはその化合物の量を、その色の種類に対応させることにより、無段階的に変化させることができる。そのため、選択可能の色の種類が非常に多い場合であっても、各エレメントekに所定の種類の色cjに対応した二次(反射)電子放出強度ijを持たせることができる。
【0058】
有機系の顔料を使用する場合、使用する金属またはその化合物は、例えばチタン酸化物、アルミニウム酸化物が好適である。すなわち、これらの酸化物の色は、無色(白色)系であるので、エレメントekに含有させたとしても、所定の種類の色cjを持たせるために使用する有機系の顔料に対して、光学的な影響を及ぼしにくい。そのため、エレメントエレメントekに割り当てる所定の種類の色cjのバリエーションを増やしつつ、エレメントekの光学的な色あいが酸化物の含有によって損なわれるというデメリットがない。
【0059】
(実施例)
上記の図1を参照しながら説明した識別子Pのより具体的な識別子について、図4を参照しながら説明する。
図4(a)は、4個のエレメントe1,e2,e3,e4の集合からなる識別子Pを示す図であり、図1(b)は、各エレメントek(k=1〜4)における、色の種類cjと二次(反射)電子放出強度ijを示したものである。
図1(c)は、各エレメントek(k=1〜4)における、色の種類cjと二次(反射)電子放出強度ijとの対応関係を示したものである。
【0060】
図4(a)に示したように、識別子Pは、4個のエレメントe1,e2,e3,e4の集合からなり、また、図4(b)に示したように、各エレメントekは所定の色の種類cjからなる色を有している。
【0061】
なお、識別子Pは、図4(a)に示したように、各エレメントekの二次(反射)電子放出強度ijに基づく輝度情報を識別する際に、基準となる輝度情報を得るためのパイロットエレメントepを有している。以下で説明するように、パイロットエレメントepは、所定の二次(反射)電子放出強度i2を有している。
【0062】
ここで、エレメントek(k=1〜4)に所定の色の種類を割り当てる場合は、3種類の色の中から、所定の色の種類cj(j=1〜3)を選択する。すなわち、色を選択する際は、Cを、赤色、緑色、青色の3種類の色の集合とし、かつ、その集合において、c1を赤色、c2を緑色、c3を青色と規定したものの中から選択する。
【0063】
そして、図4(b)に示したように、選択した色の種類cjをk番目のエレメントekに割り当てる。赤色、緑色、青色のうちいずれかの色の種類をエレメントに割り当てる場合は、印刷用の顔料を使用する。なお、パイロットエレメントepは所定の二次(反射)電子放出強度i2を得るのが目的であるため、パイロットエレメントepには必ずしも色を割り当てる必要は無い。
【0064】
ここで、図4(b)に示したように、実際に使用する色の種類は3種類であるので、k番目の各エレメントekには、所定の色の種類cj(j=1〜3)からなる3種類の情報を割り当てることができる。このとき、各エレメントekに割り当てられた色の種類cj中の符号jは、3種類の情報中の一単位となる。すなわち符号j(j=1のとき赤色、j=2のとき緑色、j=3のとき青色)は、赤色、緑色、青色の情報の集合の内の一単位となる。
【0065】
このように、4種類の情報の中から任意の1つの情報を、所定の色の種類cj(j=1〜3)として、各エレメントek(k=1〜4)に割り当てていくことにより、4個のエレメントe1,e2,e3,e4の集合からなる識別子Pは、光学的観測下において34=81通りの情報を有する識別情報として利用することができる。なお、この情報は、ホルダーHにけ書き、刻印する方法と比べるとはるかに多い。
【0066】
また、図4(b)に示したように、本発明の実施形態に係る識別子Pの各エレメントekにおいて、所定の種類の色cj(j=1〜3)が割り当てられると共に、当該エレメントエレメントekは当該所定の種類の色cjに対応した所定の二次(反射)電子放出強度ij(j=1〜3)を有するようにする。
【0067】
各エレメントekにおける、色の種類cj(j=1〜3)と二次(反射)電子放出強度ijの対応関係について、図4(c)を参照しながら説明する。
まず、説明したように、色の種類cj(j=1〜3)において、c1を赤色、c2を緑色、c3を青色と規定する。そして、色の種類cjに対する二次(反射)電子放出強度ijの対応関係を関数fに基づいて、決定する。
【0068】
色の種類cjに対する二次(反射)電子放出強度ijの対応関係をfに基づいて決定する際の規則は以下の通りである。
エレメントekにc1の色(赤色)を割り当てる場合は、そのエレメントekからの二次(反射)電子放出強度は、i1となるようにする。
エレメントekにc2の色(緑色)を割り当てる場合は、そのエレメントekからの二次(反射)電子放出強度は、i2となるようにする。
エレメントekにc3の色(青色)を割り当てる場合は、そのエレメントekからの二次(反射)電子放出強度は、i3となるようにする。
【0069】
なお、上記二次(反射)電子放出強度i1,i2,i3においてi1<i2<i3の関係が成立するようにする。
この関係の識別は、所定の二次(反射)電子放出強度i2を有するパイロットエレメントepからの二次(反射)電子放出強度を観測し、この強度を4個のエレメントe1,e2,e3,e4からの二次(反射)電子放出強度と比較することによって行うことができる。
【0070】
この関係により、各エレメントekにおいて、色の種類cjの符号j(j=1〜3)が異なる場合には、二次(反射)電子放出強度ij(j=1〜3)も異なるようになる。そのため、各エレメントekは、割り当てられた色の種類に一対一対応した二次(反射)電子放出強度を有するようになる。
【0071】
さらに、i1<i2<i3の関係を成立させるために、エレメントekにある色の種類cjを割り当てる場合に、そのエレメントekに使用する金属酸化物を、符号jに対応させて変更する。
【0072】
すなわち、エレメントekに、赤色(c1)を割り当てる場合は、二次(反射)電子放出強度i1を得るために、Mg12酸化物を使用し、緑色(c2)を割り当てる場合は、二次(反射)電子放出強度i2を得るために、Cr24酸化物を使用し、そして、青色(c3)を割り当てる場合は、二次(反射)電子放出強度i3を得るために、Sr34酸化物を使用する。
なお、符号jの番号が小さいほど、金属酸化物中の金属の原子番号が小さくなるので、上記の、i1<i2<i3の関係が成立している。
【0073】
ここで、各エレメントekに割り当てられた色の種類cj中の符号jは、赤色、緑色、青色からなる3種類の情報中の一単位となっているので、対応する二次(反射)電子放出強度ijもN種類の情報中の一単位となる。また、図4(c)で説明した関係から、二次(反射)電子放出強度ij(j=1〜3)が構成する3種類の情報中の一単位は、色の種類cj(j=1〜3)が構成する3種類の情報中の一単位と完全同一の単位となる。
【0074】
上記の構成からなる識別子Pにおいて、4個存在するエレメントek(k=1〜4)それぞれからの二次(反射)電子放出強度ijを4個分観測すると、観測した二次(反射)電子放出強度を輝度に置き換えることによりエレメント4個分の輝度情報を取得することができる。
【0075】
ここで、各エレメントek(k=1〜4)が有する二次(反射)電子放出強度ij(j=1〜3)は、そのエレメントekに割り当てられた色の種類cj(j=1〜3)に一対一対応しているので、エレメント4個分の輝度情報のそれぞれについて、上記関数fの対応関係を参照することによって、各輝度情報に対応する色の種類cj(j=1〜3)を特定することが可能である。
【0076】
そして、輝度情報に対応する色の種類cj(j=1〜3)を特定することが可能であるため、取得した輝度情報に基づいて、色の種類cj(j=1〜3)が構成する3種類の情報中の一単位と完全同一の一単位を再現することが可能である。
【0077】
さらに、再現された上記色の種類cj(j=1〜3)が構成する3種類の情報中の一単位と完全同一の一単位を4個(エレメントekの数に対応する)組み合わせることにより、各エレメントekに所定の色の種類cj(j=1〜3)を割り当てていくことにより得られる識別情報と完全同一の識別情報を得ることができる。
【0078】
以上のように、図4(b)に示した本発明の実施形態に係る識別子Pの各エレメントekにおいて、所定の種類の色cj(j=1〜3)が割り当てられると共に、当該エレメントエレメントekは当該所定の種類の色cj(j=1〜3)に対応した所定の二次(反射)電子放出強度ij(j=1〜3)を有している。
【0079】
そのため、識別子Pの各エレメントek(k=1〜4)から得られる二次(反射)電子放出強度ij(j=1〜3)に基づいて、所定の色の種類cj(j=1〜3)が割り当てられた各エレメントek(k=1〜4)の集合により光学的に得られる識別情報と完全に同一な識別情報を二次(反射)電子強度観測(走査型電子顕微鏡観察下)下においても再現することが可能である。
【0080】
図4(d)に、より具体的な識別子Pを示した。
なお、説明の便宜上、識別子Pは、4個のエレメントe1,e2,e3,e4のそれぞれに割り当てられた色の種類cj(j=1〜3)が示された識別子Pcと、それに対応する二次(反射)電子放出強度ij(j=1〜3)が示された識別子Peとを別々に分けている。
【0081】
ここで、図4(d)に示したように、識別子Pに対して10進数で表される識別情報の数字(69)10を、3種類の情報の単位によって表されるように、表記変換を行う。すなわち、数字(69)10を3種類の情報の単位によって表されるように、その数字(69)10を3進数の情報で表すと、2×33+1×32+2×31+0×30=(2120)3となる。
【0082】
そして、3進数で示された上記数字(2120)3において、33の位の桁の数表記にはエレメントe1を割り当て、32の位の桁の数表記にはエレメントe2を割り当て、31の位の桁の数表記にはエレメントe3を割り当て、30の位の桁の数表記にはエレメントe4を割り当てる。すなわち、数字(2120)3は4桁のエレメントek(k=1〜4)によって表されるようにする。
【0083】
なお、各位の桁において、0の数を示す場合は、エレメントek(k=1〜4)に対して赤色C1を割り当て、1の数を表す場合は、エレメントek(k=1〜4)に対して緑色C2を割り当て、2の数を表す場合には、エレメントek(k=1〜4)に対して青色C3を割り当てる。
【0084】
そして、各位の桁における、エレメントekにおいて、割り当てられた色の種類cjに二次(反射)電子放出強度を一対一対応させる。すなわち、各位の桁において、0の数を示す場合は、エレメントek(k=1〜4)に対して赤色C1に対応する二次(反射)電子放出強度i1を割り当て、1の数を表す場合は、エレメントek(k=1〜4)に対して緑色C2に対応する二次(反射)電子放出強度i2を割り当て、2の数を表す場合には、エレメントek(k=1〜4)に対して青色C3に対応する二次(反射)電子放出強度i3を割り当てる。
【0085】
以上の規則により、識別子Pに対して10進数で表される識別情報の数字(69)10を3進数で表される数字(2120)3に表現する場合は、図4(d)に示したようになる。すなわち、エレメントe1には、青色C3,二次(反射)電子放出強度i3が割り当てられ、エレメントe2には、緑色C2,二次(反射)電子放出強度i2が割り当てられ、エレメントe3には、青色C3,二次(反射)電子放出強度i3が割り当てられ、エレメントe4には、赤色C1,二次(反射)電子放出強度i1が割り当てられる。
なお、パイロットエレメントepには、二次(反射)電子放出強度は、i2が割り当てられている。そこで、パイロットエレメントepには、二次(反射)電子放出強度i2を得るために、Cr24酸化物を使用する。
【0086】
上記のような識別子Pcから、(緑,青,緑,赤)からなる識別情報を光学的に得ることができる。また、識別子Peからは二次(反射)電子観測下で、二次(反射)電子強度を輝度に換算した(強,中,強,弱)からなる識別情報を得ることができる。なお、この識別情報は、二次(反射)電子放出強度i2を持つパイロットエレメントepからの二次(反射)電子放出強度i2に基づく輝度(中)を、他のエレメントe1,e2,e3,e4からの二次(反射)電子放出強度ij基づく輝度との比較を行うことによって得ることができる。
【0087】
図4(d)に示した識別子Pを図2に示した走査型電子顕微鏡用試料のホルダーHに適用し、走査型電子顕微鏡で試料Sの観察を行う方法について、図5に示したフローチャートを参照しながら説明する。なお、使用する走査型電子顕微鏡は一般的な操作型電子顕微鏡であるので、その機能の詳細についての説明は省略する。
【0088】
まず、図4(d)に示した識別子Pを図2に示した走査型電子顕微鏡用試料のホルダーHに付する(ST1)。なお、この時点では、ホルダーHに付された試料Sは、所定の工程を経て既に作製されているものとする。
次に、ホルダーHを走査型電子顕微鏡内に搬入し、ホルダーHに付された試料Sの像を観察する(ST2)。観察された試料Sの像を図6(a)に示した。
【0089】
そして、走査型電子顕微鏡の観察倍率を、識別子P全体が観察野に入る程度に変更する。観察倍率を変更した後、ホルダーHに付された識別子Pの4個のエレメントe1,e2,e3,e4から放出される二次電子強度または反射電子放出強度を測定し、その強度に応じた輝度情報を、各エレメントe1,e2,e3,e4から取得する(ST3)。また、パイロットエレメントepから放出される二次電子強度または反射電子放出強度を測定しその強度に応じた輝度情報も取得する。
【0090】
ここで、図4(d)に示したように、エレメントe1には、二次(反射)電子放出強度i3が割り当てられ、エレメントe2には、二次(反射)電子放出強度i2が割り当てられ、エレメントe3には、二次(反射)電子放出強度i3が割り当てられ、エレメントe4には、二次(反射)電子放出強度i1が割り当てられている。
【0091】
そのため、エレメントe1,e2,e3,e4から得られる輝度情報は、エレメントe1ではi3が対応し、エレメントe2ではi2が対応し、エレメントe3ではi3が対応し、エレメントe4ではi1が対応する。なお、i1<i2<i3の関係が成立しているので、得られた輝度情報は、その関係に応じた強度となる。ここで、パイロットエレメントepは二次(反射)電子放出強度i2を有しているので、その輝度情報を基準にして、エレメントe1,e2,e3,e4それぞれから得られる輝度情報と比較し、これらの輝度情報に関する輝度を算出する。そうすると、識別子Pの各エレメントe1,e2,e3,e4から得られる輝度情報は、(強,中,強,弱)の情報となる。
【0092】
一方で、図4(d)に示したように、エレメントe1には、青色C3が割り当てられ、エレメントe2には、緑色C2が割り当てられ、エレメントe3には、青色C3が割り当てられ、エレメントe4には、赤色C1が割り当てられている。
さらに、図4(c)に示された関数fによって、各エレメントek(k=1〜4)が有する二次(反射)電子放出強度ij(j=1〜3)は、そのエレメントekに割り当てられた色の種類cj(j=1〜3)に一対一対応している。
【0093】
そこで、各エレメントe1,e2,e3,e4から取得され、(強,中,強,弱)からなる輝度情報のそれぞれについて、関数fの対応関係を参照する(ST4)。
【0094】
ST4の工程の後、各輝度情報に対応する色の種類cj(j=1〜3)を特定する。
すなわち、エレメントe1の二次電子放出強度は、i3であるので、3種類の色の情報中の一単位として、青色C3が特定される。エレメントe2の二次電子放出強度は、i2であるので、3種類の色の情報中の一単位として、緑色C2が特定される。エレメントe3の二次電子放出強度は、i3であるので、3種類の色の情報中の一単位として、青色C3が特定される。エレメントe4の二次電子放出強度は、i1であるので、3種類の色の情報中の一単位として、赤色C1が特定される。
【0095】
以上により、各エレメントe1,e2,e3,e4から取得された(強,中,強,弱)からなる輝度情報に基づき、色の種類cj(j=1〜3)が構成する3種類の情報中の一単位と完全同一の一単位が再現される(ST5)。
【0096】
次に、再現された色の種類cj(j=1〜3)が構成する3種類の情報中の一単位に基づいて、図4(d)に示した識別子Pcのエレメントe1,e2,e3,e4から構成される識別情報と同一の識別情報を取得する(ST6)。
【0097】
すなわち、ST6の工程により、各エレメントe1,e2,e3,e4から取得された(強,中,強,弱)からなる輝度情報から、エレメントe1については青色C3が特定され、エレメントe2については緑色C2が特定され、エレメントe3については青色C3が特定され、エレメントe4については赤色C1が特定されている。
【0098】
そのため、各エレメントe1,e2,e3,e4から取得された輝度情報に(強,中,強,弱)基づいて、光学的に得られる(緑,青,緑,赤)からなる識別情報と同一の識別情報(緑,青,緑,赤)が電子顕微鏡観察下で再現される。
【0099】
そして、電子顕微鏡観察下で再現された識別情報(緑,青,緑,赤)を、ST2の工程で観察され、図6(a)で示される試料Sの像に重ね合わせる(スーパーインポーズさせる)(ST7)。
【0100】
電子顕微鏡観察下で再現された識別情報(緑,青,緑,赤)が重ね合わされた試料Sの像を図6(b)に示した。これにより、試料Sの像に対して、電子顕微鏡外で光学的に得られる(緑,青,緑,赤)からなる識別情報と同一の識別情報(緑,青,緑,赤)が付されることになる。すなわち、図6(b)に示したように、試料Sが付されたホルダーHと、試料Sの像の中にPで示される識別情報が付されることになる。
【0101】
そのため、観察すべき試料が多数存在する場合であっても、試料が付されたホルダーHの識別情報を光学的観察下においても得ることができるし、また、電子顕微鏡下における像において、ホルダーHに付された識別情報を確認することができる。そのため、試料Sと電子顕微鏡下における像とホルダーHの試料との完全な対応を取ることができ、観察すべき試料が多数存在してもそれらを混同する恐れが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の実施形態に係る識別子を示し、(a)はエレメントの集合からなる識別子し、(b)は各エレメントにおける、色の種類と二次(反射)電子放出強度を示し、(c),(d)は各エレメントにおける、色の種類と二次(反射)電子放出強度との対応関係を示したものである。
【図2】本発明の実施形態に係る識別子を付した走査型電子顕微鏡用試料のホルダーを示し、(a)は上面図、(b)は側面図である。
【図3】金属の二次(反射)電子放出率の原子番号に対する依存性を示すグラフである
【図4】本発明の実施例に係る識別子を示し、(a)はエレメントの集合からなる識別子し、(b)は各エレメントにおける、色の種類と二次(反射)電子放出強度を示し、(c)は各エレメントにおける、色の種類と二次(反射)電子放出強度との対応関係を示し、(d)はある具体的な識別情報を有する識別子を示したものである。
【図5】本発明の実施例に係る識別子を使用して、走査型電子顕微鏡用試料の観察を行うためのフローチャートを示したものである。
【図6】本発明の実施例に係る識別子を付した走査型電子顕微鏡用試料ホルダーを使用したときの試料の観察像である。
【符号の説明】
【0103】
P…識別子、H…ホルダー、S…試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の色の種類を情報の一単位とし、前記所定の色を有するエレメントの集合を識別情報として利用する走査型電子顕微鏡用試料の識別子であって、前記エレメントのそれぞれは前記所定の色の種類に対応した所定の二次電子放出強度または反射電子放出強度を有する、走査型電子顕微鏡用試料の識別子。
【請求項2】
前記エレメントのそれぞれは、電子顕微鏡観察下において、前記所定の二次電子放出強度または反射電子放出強度に応じた量の二次電子または反射電子を放出する請求項1に記載の走査型電子顕微鏡用試料の識別子。
【請求項3】
前記それぞれのエレメントは、前記所定の色の種類に応じた種類の金属またはその金属化合物を含む、請求項2に記載の走査型電子顕微鏡用試料の識別子。
【請求項4】
前記それぞれのエレメントは、前記所定の色の種類に応じた量の所定の金属またはその金属化合物を含む、請求項2に記載の走査型電子顕微鏡用試料の識別子。
【請求項5】
前記それぞれのエレメントは、導電性を有する、請求項4に記載の走査型電子顕微鏡用試料の識別子。
【請求項6】
前記金属またはその金属化合物の金属の平均原子番号は、前記所定の二次電子放出強度または反射電子放出強度に対応付けられている請求項3に記載の走査型電子顕微鏡用試料の識別子。
【請求項7】
前記それぞれのエレメントは、前記所定の色の種類に応じた割合で配合した複数種類の金属またはその金属化合物を含む、請求項2に記載の走査型電子顕微鏡用試料の識別子。
【請求項8】
所定の色の種類を情報の一単位とし、前記所定の色を有するエレメントの集合を識別情報として利用する識別子を付した走査型電子顕微鏡用試料のホルダーであって、前記エレメントのそれぞれは前記所定の色の種類に対応した所定の二次電子放出強度または反射電子放出強度を有する、走査型電子顕微鏡用試料のホルダー。
【請求項9】
前記エレメントのそれぞれは、電子顕微鏡観察下において、前記所定の二次電子放出強度または反射電子放出強度に応じた量の二次電子または反射電子を放出する請求項8に記載の走査型電子顕微鏡用試料のホルダー。
【請求項10】
前記それぞれのエレメントは、前記所定の色の種類に応じた種類の金属またはその金属化合物を含む、請求項9に記載の走査型電子顕微鏡用試料のホルダー。
【請求項11】
前記金属またはその金属化合物の金属の平均原子番号は、前記所定の二次電子放出強度または反射電子放出強度に対応付けられている請求項10に記載の走査型電子顕微鏡用試料のホルダー。
【請求項12】
前記それぞれのエレメントは、前記所定の色の種類に応じた割合で配合した複数種類の金属またはその金属化合物を含む、請求項9に記載の走査型電子顕微鏡用試料のホルダー。
【請求項13】
所定の色の種類を情報の一単位とし、前記所定の色を有するエレメントの集合を識別情報として利用する識別子であって、前記エレメントのそれぞれは前記所定の色の種類に対応した所定の二次電子放出強度または反射電子放出強度を有する識別子を走査型電子顕微鏡用試料のホルダーに付するステップと、
走査型電子顕微鏡で前記走査型電子顕微鏡用試料のホルダーに付された試料の像を観察するステップと、
前記走査型電子顕微鏡で、前記走査型電子顕微鏡用試料のホルダーに付された前記識別子のエレメントのそれぞれから放出される二次電子強度または反射電子放出強度に応じた輝度情報を取得するステップと、
前記識別子のエレメントのそれぞれについて取得した輝度情報における輝度を、前記所定の色の種類と照合することにより、前記所定の色の種類に対応する情報の一単位と同一な情報の一単位を再現するステップと、
再現された前記情報の一単位を組み合わせて、前記識別情報と同一な識別情報を得るステップと、
得られた前記識別情報と同一の識別情報を前記試料の像に重ね合わせるステップと、
を有する走査型電子顕微鏡用試料の観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−27375(P2010−27375A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187136(P2008−187136)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(598123138)学校法人 創価大学 (49)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【出願人】(508219461)株式会社サン・テクノロジーズ (2)
【Fターム(参考)】