説明

走査型顕微鏡および走査型顕微鏡システム

【課題】走査型顕微鏡において、低ノイズの画像を高速で取得する。
【解決手段】走査型顕微鏡は、光源ユニット120、対物レンズ115、スキャナユニット114、ピンホールアレイ113、光学的分離器112、光量検出器116、および位置検出システム117を有する。光源ユニット120は光パルスを複数の出射点から順番に繰返し出射する。対物レンズ15は光パルスを試料上に結像させる。スキャナユニット114は対物レンズにより結像された光パルスを試料に走査させる。ピンホールアレイ113は試料に反射された反射光および蛍光の少なくとも一方の結像位置にピンホールが形成される。光学的分離器112は反射光および蛍光の少なくとも一方を偏向させることにより透過光の光路から分離する。光量検出器116は反射光または蛍光の光量を検出する。位置検出システム117は照射光の照射位置を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共焦点走査を行う走査型顕微鏡および走査型顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、数多くの種類の共焦点走査型顕微鏡が提案され(非特許文献1参照)、製品化されている。これらの共焦点走査型顕微鏡は、大きく分けて、シングルビーム走査装置を用いた顕微鏡と、マルチビーム走査装置を用いた顕微鏡(特許文献1〜特許文献3参照)の2種類に分類される。以下に、2種類の顕微鏡の基本構成を簡単に説明する。
【0003】
まず、シングルビーム走査装置を用いた走査型顕微鏡(以下、シングルビーム走査型顕微鏡と呼ぶ)の基本構成を説明する。シングルビーム走査型顕微鏡において、光源より発した光束は、集光レンズによって一点に集光される。集光位置に配置された第1の微小開口の透過像が、第1のリレーレンズと対物レンズを介して標本上に結像される。標本によって反射された光束は、対物レンズと第1のリレーレンズとの間に配置されたビームスプリッタによって、第1の微小開口の方向とは異なる方向に偏向される。偏向された光束は、第2のリレーレンズによって、第1の微小開口の共役位置にある第2の微小開口に集光される。第2の微小開口を通過した光の強度が、例えばフォトマルチプライアなどの検出器によって検出される。
【0004】
また、対物レンズとビームスプリッタの間には走査装置が配置されている。この走査装置は、例えばガルバノミラーやポリゴンミラーを有していて、第1の微小開口の像を標本面上で走査する。この走査装置と検出器に接続されているコントローラは、走査装置による光束の偏向量から、標本上での第1の微小開口の結像位置を検出する。検出位置と検出器により検出された光の強度とに基づいて、広い領域における標本像が再構成され、テレビモニタなどの画像表示装置に表示される。なお、光源としてシングルモード発振レーザを用いた場合には、上述の第1の微小開口が省略されることもある。
【0005】
次に、マルチビーム走査装置を用いた走査型顕微鏡(以下、マルチビーム走査型顕微鏡と呼ぶ)の一例としてニポーディスクを用いた走査型顕微鏡の基本構成を説明する。マルチビーム走査型顕微鏡において、光源より発した光束は、コンデンサレンズによってニポーディスク上に照射される。ニポーディスクに設けられた複数の小開口を透過することによって分割された複数の光束は、夫々、リレーレンズと対物レンズを介して標本上の一点に集光される。標本から反射した光束は、対物レンズとリレーレンズとを介して再びニポーディスクの小開口上に集光される。
【0006】
ニポーディスクとコンデンサレンズとの間に配置されたビームスプリッタは、ニポーディスクからの透過光を、光源とは異なる方向へ偏向させる。偏向された透過光が撮影レンズによってイメージセンサ上に集光される。このような構成により、イメージセンサ上には、標本の反射率に比例した像が形成される。形成された像がイメージセンサにより検出され、画像表示装置に表示される。ニポーディスクに設けられた複数の小開口は所定の間隔を空けて設けられるので、標本上に一度に当たる照明は多重スポット照明となる。しかし、ニポーディスクをモータによって高速に回転させているので、短時間ですべての標本面上を走査でき、肉眼による共焦点の観察が可能になる。
【0007】
このように、両者の基本構成の差異から理解されるように、シングルビーム走査型顕微鏡においては、光源の照明効率などが良いが、顕微鏡の視野全体の走査時間はマルチビーム走査型顕微鏡より長い。近年、試料の外観などの高速な時間変化を観察することが求められている。例えば、ビデオレート以上の100fpsで画像を取得するためには、走査装置に数十KHz相当の高速性能が必要である。しかし、走査装置に備えられる反射部のサイズを大きく保ったまま高速性能を満たすことは困難である。一方、上述のようにニポーディスクを用いているものを含めたマルチビーム走査型顕微鏡においては、走査時間が非常に短いので、1000fpsで高速に画像を取得可能であり、試料外観の高速な時間変化を観察するのに適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平1−503493号公報
【特許文献2】特開平5−60980号公報
【特許文献3】特開平8−211296号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T.R.Corle and G.S.Kino, “Confocal Scanning Optical Microscopy and Related Imaging Systems”, Academic Press (1966)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、このような高速観察に好適なマルチビーム走査型顕微鏡においても、散乱を伴う試料の観察において問題点がある。走査型顕微鏡は、資料中に集光したレーザのスポットと共役な位置にピンホールを配置することにより、レーザのスポット近傍のみの信号光(例えば、蛍光)を選択して取得することを可能足らしめることを特徴としている。それゆえ、試料による光の散乱が大きくないとみなせる場合には、その効力が発揮される。しかし、特に生体組織を試料とする場合には、生体組織の強散乱性によってレーザスポット近傍の信号光はたちまち散乱される。従って、ニポーディスクによって生成された多数のマルチビームが標本上に集光されても、マルチビームで発生した信号光は強く散乱し、対応する小開口とは別の小開口に信号光が染出すクロストークが発生する。小開口は光学的に共役な微小領域以外の微小領域における信号光も透過するため、ノイズ成分が増加する。クロストークを減少させるためにはマルチビームの空間的な間隔を広げることが考えられる。しかし、散乱の影響が非常に大きい場合には、マルチビームの本数が2本であったとしても、クロストークが発生し得る。
【0011】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明では、マルチビームによって発生する信号光に空間的なクロストークが生じても、ノイズの少ない画像を取得可能な走査型顕微鏡および操作型顕微鏡システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した諸課題を解決すべく、第1の発明による走査型顕微鏡は、
光パルスを、複数の出射点から順番に繰返し出射する光源ユニットと、
複数の出射点から出射される前記光パルスを試料上に別々に集光させる対物レンズと、
対物レンズにより集光された複数の光パルスの走査点を試料に対して相対的に移動させるスキャナユニットと、
対物レンズにより集光された光パルスの集光点と共役な位置にピンホールが形成されたピンホールアレイと、
光源ユニットから対物レンズまでの間の光パルスの光路上に設けられ、光パルスの照射により試料から発する信号光を光パルスから分離する光学的分離器と、
光学的分離器により分離された信号光の光量を検出する光量検出器と、
光量検出器による光量の検出時点における走査点を検出する位置検出システムと、
光量と走査点に基づいて試料の画像を再構成する画像再構成装置に、光量と照射位置とを出力する出力器とを備える
ことを特徴とするものである。
【0013】
本発明の第1の発明による操作型顕微鏡システムは、
光パルスを、複数の出射点から順番に繰返し出射する光源ユニットと、
複数の出射点から出射される光パルスを試料上に別々に集光させる対物レンズと、
対物レンズにより集光された複数の光パルスの走査点を試料に対して相対的に移動させるスキャナユニットと、
対物レンズにより集光された光パルスの集光点と共役な位置にピンホールが形成されたピンホールアレイと、
光源ユニットから対物レンズまでの間の光パルスの光路上に設けられ、光パルスの照射により試料から発する信号光を光パルスから分離する光学的分離器と、
光学的分離器により分離された信号光の光量を検出する光量検出器と、
光量検出器による光量の検出時点における走査点を検出する位置検出システムと、
光量と走査点とに基づいて試料の画像を再構成する画像再構成装置と、
画像再構成装置が再構成した試料の画像を表示するモニタとを備える
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成された本発明に係る走査型顕微鏡によれば、マルチビームを用いながら、ノイズの少ない画像を取得可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る走査型顕微鏡を含む走査型顕微鏡システムの光学的な概略構成および電気的な概略構成を示す構成図である。
【図2】図1の光源ユニットの構成を概略的に図示するブロック図である。
【図3】第1〜第4の光導波路に入射した励起光パルスの出射時期を示すタイミングチャートである。
【図4】走査型顕微鏡により観察される試料の走査範囲を示す図である。
【図5】励起光パルスの照射位置の時間変化を示すタイミングチャートである。
【図6】第1〜第4の出射端を直線上に並べない場合の試料の走査範囲を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る走査型顕微鏡を含む走査型顕微鏡システムの光学的な概略構成および電気的な概略構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の適用した走査型顕微鏡の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る走査型顕微鏡を含む走査型顕微鏡システムの光学的な構成および電気的な概略構成を示す構成図である。
【0018】
走査型顕微鏡システム100は、走査型顕微鏡110、画像処理装置101、モニタ102によって構成される。後に詳述するように、走査型顕微鏡110は、スポット状の励起光で試料Sを走査する。また、試料Sに照射された励起光による蛍光の光量が、走査型顕微鏡110により検出される。また、走査型顕微鏡110によりスポット状の励起光の照射位置が検出される。蛍光の光量および照射位置が、走査型顕微鏡110から画像処理装置101に伝達される。画像処理装置101では、蛍光の光量と照射位置に基づいて、試料Sの画像を再構成する。再構成された画像はモニタ102に送信され、表示される。
【0019】
次に、走査型顕微鏡110の構成について、説明する。走査型顕微鏡110は、光源ユニット120、第1〜第5のレンズ111a〜111e、ダイクロイックミラー112、ピンホールアレイ113、スキャナユニット114、対物レンズ115、PMT116(光量検出器、出力器)、位置検出部117(出力器)、および制御部118などによって構成される。
【0020】
光源ユニット120は、図2に示すように、LD121、変調器122、分岐器123、遅延器124、および位置規制体125によって構成される。
【0021】
生体に照射すると蛍光を発光させる励起光がLD121から出射される。励起光は、変調器122により(1)式を満たす繰返し周波数R、パルス幅Tの励起光パルスに変換される。
【0022】
N×(T+τ)<1/R (1)
なお(1)式において、τは励起光が照射された生体から発光され発光が停止するまでの蛍光寿命である。また、Nは分岐器123により分岐される光の列数であり、本実施形態では4である。
【0023】
励起光パルスは、分岐器123により強度および位相が実質的に等しくなるように4列に分岐され、遅延器124に入射される。なお、分岐器123は、例えばハーフミラー(図示せず)およびミラー(図示せず)の組合せ、ファイバカプラ(図示せず)の組合せ、および回折格子などにより形成可能である。
【0024】
遅延器124には、第1〜第4の遅延路124a〜124dが設けられる。分岐器123により分岐された4列の励起光パルスは、別々の遅延路124a〜124に入射される。繰返し周波数Rの励起光パルスが各遅延路124a〜124dから出射される時期がずれるように、各遅延路124a〜124dの長さが調整される。例えば、第2、第3、および第4の遅延路124b、124c、124dは、それぞれ第1の遅延路124aよりもΔ(=c/(4nR)、cは光速、nは第1〜第4の光導波路124a〜124dの屈折率とする)、2Δ、3Δだけ長くなるように形成される。
【0025】
このような構成により、図3に示すように、同時に第1〜第4の遅延路124a〜124dの入射端に繰返し周波数Rで入射する励起光パルスは、互いに隣合う遅延路とは繰返し周波数が4Rとなるように、第1〜第4の遅延路124a〜124dの第1〜第4の出射端t1〜t4から順番に繰返し、出射される。第1〜第4の出射端t1〜t4は、一定の間隔で直線上に並び且つ出射する励起光パルスの主光線が互いに平行となるように、位置規制体125により固定される。
【0026】
図1において、第1〜第4の出射端t1〜t4から出射される励起光パルスは、第1、第2のレンズ111a、111bによってテレセントリックな状態でピンホールアレイ113に形成される4つのピンホールに別々に集光される。ピンホールに集光された励起光パルスは、ピンホールを通過し、第3のレンズ111c、スキャナユニット114、第4、第5のレンズ111d、111e、および対物レンズ115を介して試料表面乃至試料内部に集光される。
【0027】
なお、第3、第4のレンズ111c、111dはリレー光学系を形成する。また、第4のレンズ111dによりスキャナユニット114と対物レンズ115の瞳位置とが共役位置に配置される。第4のレンズ111dを用いることにより、ピンホールを通過した励起光パルスを正しい位置および角度で対物レンズ115に入射させることが可能である。なお、後述するように、スキャナユニット114は互いに直交する軸に回動する第1、第2のガルバノミラー114a、114bを有しており、第1、第2のガルバノミラー114a、114bを瞳位置の共役位置近傍に配置することにより、スキャナユニット114と瞳位置とを共役位置に配置することが可能である。また、第1、第2のガルバノミラー114a、114bと瞳位置とが共役となるように、第1、第2のガルバノミラー114a、114b間にリレーレンズを設けることにより、スキャナユニット114と瞳位置とを共役位置に配置する構成であってもよい。
【0028】
スキャナユニット114は、光軸と直交する2次元面内において試料表面乃至試料内部を励起光パルスによって走査する。なお、前述のように、励起光パルスは第1〜第4の出射端t1〜t4から出射され、試料上にスポット状に照射される。したがって、スキャナユニット114は、試料表面乃至試料内部を4列の励起光パルスによって順次走査する。図4に示すように、走査により、走査型顕微鏡100の視野範囲全域ea(以後、全照射領域と呼ぶ)が4列の励起光パルスによって照射される。
【0029】
第1のガルバノミラー114aにより、第1の走査方向に沿って試料表面乃至試料内部が走査される。また、第2のガルバノミラー114bにより、第1の走査方向に垂直な第2の走査方向に沿って試料表面乃至試料内部が走査される。第1の出射端t1に対応する第1列の励起光パルスep1によって、全照射領域eaを第2の走査方向に沿って4分割した第1の部分領域ua1がラスタ走査される。同様に、第2〜第4の出射端t2〜t4に対応する第2〜第4列の励起光パルスep2〜ep4によって、第1の部分領域ua1と別の第2〜第4の部分領域ua2〜ua4がラスタ走査される。例えば、全照射領域eaを512本の走査線によって走査する場合には、第1〜第128の走査線を第1列の励起光パルスep1によって走査させ、第129〜第256の走査線を第2列の励起光パルスによって走査させ、第257〜第384の走査線を第3列の励起光パルスによって走査させ、第385〜第512の走査線を第4列の励起光パルスによって走査させる。
【0030】
前述のように、隣り合う列の励起光パルスは1/(4×R)のずれを有するので、図5に示すように、各部分領域ua1〜ua4には、同時にではなく時間をずらしながら励起光パルス(符号ep参照)が順番に繰返し照射される。
【0031】
なお、上述のように、第1〜第4列の励起光パルスにより、それぞれ第1〜第4の部分領域ua1〜ua4が走査されるように、第1〜第4の出射端t1〜t4の間隔が定められる。すなわち、第1〜第4の出射端t1〜t4における励起光パルスの光軸に垂直な仮想平面において、第1の走査方向に対応する第1の対応方向に垂直な直線上に等間隔になるように第1〜第4の出射端t1〜t4の位置が決められる。
【0032】
励起光パルスが照射されると、照射された励起光パルスの集光点近傍において試料が励起されて蛍光(信号光)が発生する。対物レンズ115による集光点とピンホールとが共役位置となるように、対物レンズ115およびピンホールアレイ113が配置されており、集光点において発生する蛍光成分のみがピンホールアレイ113の各ピンホールに結像する。集光点近傍において発生する蛍光成分はピンホールの周りにはみ出して結像するため、通過が制限される。したがって、集光点における蛍光成分のみがピンホールを通過する。
【0033】
ピンホールアレイ113を通過した蛍光は、第2のレンズ111bを透過してダイクロイックミラー112に到達する。蛍光はダイクロイックミラー112により反射され、ダイクロイックミラー112を透過する励起光の試料Sによる反射光から分離される。反射された蛍光はPMT116によって受光される。PMT116により受光量に応じた画素信号が生成され、画像処理装置101に伝達される。
【0034】
なお、各列の励起光パルスに対応する蛍光は第2のレンズ111b、ダイクロイックミラー112を介して、PMT116の受光部上に広く分布する。蛍光の入射範囲より広い受光部を有するPMT116が選択され、用いられる。
【0035】
なお、画像処理装置101には画素信号だけでなく、以下に説明するように位置検出部117において検知される励起光パルスの走査点の位置が位置情報として伝達される。位置検出部117は、第1、第2のガルバノミラー114a、114bに設けられる回転速度メータ(図示せず)により検出される第1、第2のガルバノミラー114a、114bの回転速度に基づいて第1、第2のガルバノミラー114a、114bによる各列の励起光パルスの偏向方向を算出する。また、位置検出部117には、制御部118によって検知される励起光パルスを出射中の出射端が伝達される。なお、出射中の出射端は、いかなる方法で検知してもよい。例えば、制御部118により励起光パルスを出射開始時期と出射開始後の経過時間とに基づいて、いずれの出射端から励起光パルスが出射されているかを検知可能である。位置検出部117は、偏向方向および出射中の出射端に基づいて、励起光パルスが照射されている走査点の位置を検出する。
【0036】
光源ユニット120、スキャナユニット114、および位置検出部117は、制御部118の制御に基づいて、それぞれ励起光パルスを出射し、第1、第2のガルバノミラー114a、114bによる走査を実行し、励起光パルスの照射位置を検出する。
【0037】
画像処理装置101は、画素信号と位置信号とに基づいて2次元状の試料の画像を再構成する。再構成された、2次元画像はモニタ102に送信され、表示される。
【0038】
以上のような構成の第1の実施形態の走査型顕微鏡によれば、低ノイズの画像を高速に取得可能である。前述のように、本実施形態においても、試料Sにおける蛍光は散乱により対応するピンホール以外のピンホールにも入射し得る、すなわち空間的なクロストークが発生し得る。しかし、本実施形態の走査型顕微鏡によれば、複数の出射端から出射されるマルチビームの試料Sへの照射時期および試料Sからの蛍光の発生時期を分離させることが可能である。蛍光の発生時期を分離することにより、空間的なクロストークが発生しても別の照射位置における蛍光の検出が防止されるので、低ノイズの試料画像を再構成可能である。また、4本のマルチビームにより試料を走査するので、既存のガルバノミラーを用いながら走査速度を向上させることが可能である。したがって、高速で試料画像を採取可能である。
【0039】
また、第1の実施形態の走査型顕微鏡によれば、上述のように第1〜第4の出射端t1〜t4を配置することにより、照射時期を分離させた構成においてスキャナユニット114の制御の簡素化を図りながら、フレームレートの最速化を図ることが可能である。例えば本実施形態と異なる構成として、第1、第2、第3、第4の出射端t1、t2、t3、t4から出射される励起光パルスが、第(4n−3)、第(4n−2)、第(4n−1)、第4nの走査線(1≦n≦128)に沿って走査される構成が考えられる。このような構成においてフレームレートを最速化するためには、第1の走査方向に沿った端部に走査点が達したときに、高速で第2の走査方向に4本の走査線に相当する距離だけ走査点を移動させる必要がある。したがって、第1のガルバノミラー114aによる偏向方向に応じて第2のガルバノミラー114bによる走査速度を変える必要がある。一方、本実施形態の構成によれば、第1のガルバノミラー114aの偏向方向に拠らず、第2のガルバノミラー114の走査速度を一定に保つことが可能なので、スキャナユニット114の制御が簡素化される。
【0040】
また、第1の実施形態の走査型顕微鏡によれば、上述のように第1〜第4の出射端t1〜t4を配置することにより、PMT116により受光した蛍光を有効に活用することが可能である。第1〜第4の出射端t1〜t4が第1の対応方向に垂直な直線上に配置されない場合には、図6に示すように、第1の走査方向に沿った各列の励起光パルスの走査範囲が変わる。それゆえ、矩形の画像として再現する場合には、画像の再現に用いられない領域(斜線部参照)も走査され、用いられない蛍光を受光することがある。一方、本実施形態の構成によれば、画像の再現に用いられる領域のみが走査されるので、受光する蛍光を有効に活用することが可能である。
【0041】
また、第1の実施形態の走査型顕微鏡によれば、上述のように第2のレンズ111bとスキャナユニット114との間にピンホールアレイ113を設けることにより、試料Sに照射する励起光パルスを制限するためのピンホールと共焦点効果を得るためのピンホールを共用することが可能である。ピンホールを共用することにより構成の簡素化が可能である。
【0042】
次に本発明の第2の実施形態に係る走査型顕微鏡について説明する。第2の実施形態は、光源ユニット120とピンホールアレイ113間およびダイクロイックミラー112とPMT116間の構成において第1の実施形態と異なっている。以下に、第1の実施形態と異なる点を中心に第2の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と同じ機能および構成を有する部位には同じ符号を付す。
【0043】
図7に示すように、第2の実施形態を適用した走査型顕微鏡200における光源ユニット120、第3〜第5のレンズ111c〜111e、ダイクロイックミラー112、ピンホールアレイ113、スキャナユニット114、対物レンズ115、位置検出部117、および制御部118の機能および構成は第1の実施形態と同じである。また、画像処理装置101およびモニタ102の機能および構成も第1の実施形態と同じである。
【0044】
第2の実施形態では、第1、第2のレンズ111a、111bの代わりに、第1、第2のレンズアレイ211a、211bが設けられる。第1、第2のレンズアレイ211a、211bには4つのレンズが設けられる。各列の励起光パルスが第1のレンズアレイ211aにおける4つのレンズを透過することにより平行光に変換される。平行光はダイクロイックミラー112を透過して、第2のレンズアレイ211bにおける4つのレンズを透過することによって、ピンホールアレイ113に形成されるピンホールに集光される。
【0045】
第1の実施形態と同じく、ピンホールを通過した各列の励起光パルスにより試料Sにおいて発生する蛍光がピンホールアレイ113に到達する。第1の実施形態と異なり、ピンホールを通過した蛍光は第2のレンズアレイ211bによって平行光に変換される。変換された平行光はダイクロイックミラー112により分離され、PMT116に向かって反射される。ダイクロイックミラー112とPMT116との間には、集光レンズ119が設けられる。集光レンズ119により、各列に対応する蛍光はPMT116の一点に集光される。
【0046】
第1の実施形態と同じく、PMT116おいて受光量に応じた画素信号が生成され、画像処理装置101に伝達される。また、第1の実施形態と同じく、画像処理装置101は、画素信号と位置検出部117から伝達された位置信号に基づいて、2次元状の試料の画像を再構成する。
【0047】
以上のような構成の第2の実施形態の走査型顕微鏡によっても、低ノイズの画像を高速に取得可能である。また、第1の実施形態と同じく、第2の実施形態の走査型顕微鏡によってもフレームレートの最速化、蛍光の有効活用、構成の簡素化を図ることが可能である。
【0048】
さらに、第1の実施形態と異なり、ピンホールアレイ113から出射され第2のレンズアレイ211bを透過した蛍光は、励起光パルスを出射した出射端によらず平行な方向に出射される。平行な方向に出射されるので集光レンズ119を用いることによりPMT116の1点に集光させることが可能である。したがって、第1の実施形態と異なり、検出部の小さなPMT116を用いることが可能となる。
【0049】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。
【0050】
例えば、上記の第1、第2の実施形態において、蛍光を分離するためにダイクロイックミラー112を用いたが、偏光ビームスプリッタとλ/4板とを組合わせた構成を用いて、試料の反射光を分離してPMT116で受光してもよい。光源から出射された光を透過し、反射光および蛍光の少なくとも一方を光源から出射された光から分離するいかなる光学的分離器を用いてもよい。
【0051】
また、第1、第2の実施形態において、スキャナユニット114が励起光パルスを偏向させることによって試料が走査される構成であるが、試料を変位させるステージスキャナを用いて複数の励起光パルスを試料に対して相対的に移動させることにより走査される構成であってもよい。
【0052】
また、第1、第2の実施形態において、光源ユニット120において光導波路の長さを変えることにより遅延器124が形成されるが、従来公知のいかなる遅延器を用いてもよい。例えば、ミラーとハーフミラーとを組合わせることによっても、本実施形態と同様の機能を有する遅延器を形成可能である。
【0053】
また、第1、第2の実施形態において、LD121から出射した励起光を変調させることにより励起光パルスを生成する構成であるが、励起光パルスを発光するように励起光源を駆動する構成であってもよい。また、第1、第2の実施形態において、分岐器123を用いて励起光パルスを4列に分岐する構成であるが、分岐器123を用いずに直接4つの光源を設けて、励起光パルスを発する構成であってもよい。光源を別々に設けるのであれば、遅延器123を省いて、励起光パルスの発光時期をずらす構成であっても第1、第2の実施形態と同様の効果を得ることが可能である。
【0054】
また、第1、第2の実施形態において、第1、第2のガルバノミラー114a、114bの回転速度に基づいて励起光パルスの走査点を検出する構成であるが、他の方法により走査点を検出する構成であってもよい。例えば、エンコーダを用いて回転位置を検出して、回転位置に基づいて走査点を検出する構成であってもよい。
【0055】
また、第1、第2の実施形態において、LD121は励起光を出射する構成であるが、通常の可視光を出射する光源を用いて反射光に基づいて試料の2次元画像を再構成する構成であってもよい。
【0056】
また、第1の実施形態において、ダイクロイックミラー112は第1、第2のレンズ111a、111bの間に設けられる構成であるが、第1のレンズ111aから対物レンズ115の間のいかなる位置に設けられてもよい。ただし、PMT116に検出される蛍光がピンホールにより制限されることが必要であり、ダイクロイックミラー112によりPMT116に受光される蛍光をピンホールに通過させる必要がある。したがって、ピンホールアレイ113よりも対物レンズ115側にダイクロイックミラー112を設ける場合には、ダイクロイックミラー112の反射方向において対物レンズ115の焦点と共役な位置にピンホールアレイ113を設けることが必要である。
【符号の説明】
【0057】
100、200 走査型顕微鏡システム
101 画像処理装置
102 モニタ
110 走査型顕微鏡
111a〜111d 第1〜第4のレンズ
112 ダイクロイックミラー
113 ピンホールアレイ
114 スキャナユニット
114a、114b 第1、第2のガルバノミラー
115 対物レンズ
116 PMT
117 位置検出部
119 集光レンズ
120 光源ユニット
121 LD
122 変調器
123 分岐器
124 遅延器
124a〜124d 第1〜第4の光導波路
125 位置規制体
211a、211b 第1、第2のレンズアレイ
s 試料
t1〜t4 第1〜第4の出射端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光パルスを、複数の出射点から順番に繰返し出射する光源ユニットと、
前記複数の出射点から出射される前記光パルスを試料上に別々に集光させる対物レンズと、
前記対物レンズにより集光された複数の前記光パルスの走査点を前記試料に対して相対的に移動させるスキャナユニットと、
前記対物レンズにより集光された前記光パルスの集光点と共役な位置にピンホールが形成されたピンホールアレイと、
前記光源ユニットから前記対物レンズまでの間の前記光パルスの光路上に設けられ、前記光パルスの照射により前記試料から発する信号光を前記光パルスから分離する光学的分離器と、
前記光学的分離器により分離された前記信号光の光量を検出する光量検出器と、
前記光量検出器による光量の検出時点における前記走査点を検出する位置検出システムと、
前記光量と前記走査点に基づいて前記試料の画像を再構成する画像再構成装置に、前記光量と前記照射位置とを出力する出力器とを備える
ことを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の走査型顕微鏡において、前記スキャナユニットは前記光源ユニットと前記対物レンズとの間に設けられ、前記光パルスの偏向方向を変える偏向器を備えることを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の走査型顕微鏡において、前記光源ユニットは、主光線が相互に平行となるように、前記複数の出射点から前記光パルスを出射することを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項4】
請求項3に記載の走査型顕微鏡において、前記複数の出射点から出射される前記光パルスの主光線を平行に保つように出射する第1の光学系を備えることを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項5】
請求項4に記載の走査型顕微鏡において、前記ピンホールアレイは前記第1の光学系から出射される前記複数の出射点に対応する前記光パルスの入射位置それぞれと前記ピンホールの位置とが一致するように、配置されることを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の走査型顕微鏡において、
前記光学的分離器により分離された前記信号光を前記光量検出器の一点に集光させる集光レンズを備え、
前記第1の光学系は、前記複数の出射点から出射される前記光パルスそれぞれの入射位置に設けられ前記光パルスをコリメートする第1のレンズ群と、前記第1のレンズ群によってコリメートされたそれぞれの光パルスを前記ピンホールに集光させる第2のレンズ群とを有し、
前記光学的分離器は、前記第1、第2のレンズ群の間に設けられる
ことを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の走査型顕微鏡において、
前記スキャナユニットは前記光パルスにより前記試料上を少なくとも第1の走査方向に沿って走査可能であり、
前記複数の出射点の任意の2つの前記出射点を結ぶ線分が、前記第1の走査方向に前記出射点上において対応する第1の対応方向から傾斜するように前記出射点が配置される
ことを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項8】
請求項7に記載の走査型顕微鏡において、前記複数の出射点は前記第1の対応方向に垂直に並べられることを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項9】
請求項8に記載の走査型顕微鏡において、
前記スキャナユニットは、前記第1の走査方向と非平行である第2の走査方向に沿って前記光パルスを走査可能であり、
前記複数の出射点は、すべての前記出射点から出射される前記光パルスの前記第2の走査方向に沿った走査範囲が、各々の前記出射点から出射される前記光パルスの前記第2の走査方向に沿った走査範囲により等分割されるように、等間隔に並べられる
ことを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の走査型顕微鏡において、
前記光源ユニットは、
前記光パルスを出射する単一の光源と、
前記光源から出射する光パルスを複数の光パルスに分岐する分岐器と、
前記分岐器により分岐された前記光パルスを前記複数の出射点に別々に伝達する複数の光導波路を有し、前記複数の光導波路毎に伝播時間が異なるように光路長差が設けられる遅延器と、
前記複数の出射点からの出射される前記光パルスの主光線が相互に平行となり、且つ前記複数の出射点が前記出射方向に垂直な平面上に配置されるように前記出射点の位置を規定する位置規定体とを有する
ことを特徴とする走査型顕微鏡。
【請求項11】
光パルスを、複数の出射点から順番に繰返し出射する光源ユニットと、
前記複数の出射点から出射される前記光パルスを試料上に別々に集光させる対物レンズと、
前記対物レンズにより集光された複数の前記光パルスの走査点を前記試料に対して相対的に移動させるスキャナユニットと、
前記対物レンズにより集光された前記光パルスの集光点と共役な位置にピンホールが形成されたピンホールアレイと、
前記光源ユニットから前記対物レンズまでの間の前記光パルスの光路上に設けられ、前記光パルスの照射により前記試料から発する信号光を前記光パルスから分離する光学的分離器と、
前記光学的分離器により分離された前記信号光の光量を検出する光量検出器と、
前記光量検出器による光量の検出時点における前記走査点を検出する位置検出システムと、
前記光量と前記走査点とに基づいて前記試料の画像を再構成する画像再構成装置と、
前記画像再構成装置が再構成した前記試料の画像を表示するモニタとを備える
ことを特徴とする走査型顕微鏡システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−208442(P2012−208442A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76046(P2011−76046)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】