説明

走行シミュレーション装置

【課題】夜間の視界を正確に再現可能な走行シミュレーション装置を提供する。
【解決手段】走行シミュレーション装置1は、面状ディスプレイ装置10によって、搭乗者側から見える映像を映し出すようにし、この面状ディスプレイ装置10の背面側に車両用疑似光源20を配置し、車両用ヘッドランプと同様な光を、面状ディスプレイ装置10を透過させて前面側に放つようにする。更に、光源移動機構30によって、車両用疑似光源20を、面状ディスプレイ装置10の面方向に移動させることで、この車両用疑似光源20の位置を、映像内に含まれる車両の前照灯の動きに合わせるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の搭乗者側から見た周囲の映像を画面に映し出して、擬似的に搭乗環境を構築する走行シミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交通死亡事故は、交通量が少ないにも関わらず夜間時がその半数近くを占める。この夜間事故は、交通弱者である歩行者に対する事故の比率が多いのが特徴である。こうした夜間事故の多くは、ドライバーの夜間時の視覚認知能力の低下(視力の低下、グレア感度の上昇、検出視野の低下)が原因と考えられる。また、夜間時の視覚システムの運用に関しては、その視認性だけでなくグレア(眩しさ)にも注意を払うべきであり、特に前照灯については眩しすぎると対向車に蒸発現象(前方を横断する歩行者が見えなくなる現象)を与える危険性がある。
【0003】
また、高齢社会が進展している昨今、65歳以上の高齢者の免許保有者数は年々増加し続けており、平成17年度には約1000万人に達している。これに伴って、高齢者が事故に関わる割合も増加し、ここ十年で2.2倍に増加している。また平成17年度の免許保有者一万人当たりの死亡事故件数は、全体平均は0.8件であるが、75歳〜79歳の高齢者ドライバーに限定して調べると1.6件、80〜84歳になると2.3件、85歳以上では4.2件というように、高齢者ドライバーになるにつれて、死亡事故に発展する割合が高くなる。
【0004】
高齢者ドライバーによる死亡事故の増加要因の一つとして、視覚認知能力の劣化が上げられる。加齢に伴う水晶体の混濁度の増加などにより、グレア(まぶしさ)感度等が変化し、視覚機能は低下する。こうした視覚機能の低下により、視野から収集された運転情報が十分に認知されない可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のドライビングシミュレータは、搭乗者側から見える映像を画面に映し出すのみであるため、その表現能力に限界があり、グレア感を再現することができないという問題があった。このためシミュレータを用いた夜間時の評価には、様々な制約があるのが現状となっている。
【0006】
例えば、高齢者ドライバーの場合は、加齢に伴って人間の視覚能力の低下が起こっていることは推測されるが、それによって運転中にどのような問題が発生し、それに対処するための環境作りをどのように行うべきか、また具体的な安全対策はどのようにするべきか等の検討が出来ないという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、夜間時運転や高齢者ドライバーによる運転等の様々な状況を仮想的に造り出して評価することが可能な走行シミュレーション装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者の鋭意研究によって、上記目的は以下の手段によって達成される。
【0009】
即ち、上記目的を達成する本発明は、搭乗者側から見える映像を映し出すと共に、光を透過することが可能な面状ディスプレイ装置と、前記面状ディスプレイ装置の背面側に配置され、車両用ヘッドランプと同様な光を、前記面状ディスプレイ装置を透過させて前面側に放つ車両用疑似光源と、前記車両用疑似光源を、前記面状ディスプレイ装置の面方向に移動させる光源移動機構と、前記映像内に含まれる車両の前照灯の動きに合わせて、前記光源移動機構を用いて前記車両用疑似光源を移動させる制御装置と、を備えることを特徴とする走行シミュレーション装置である。
【0010】
上記目的を達成する走行シミュレーション装置の前記面状ディスプレイ装置は、上記発明において、光を透過可能な光透過性スクリーン及び前記光透過性スクリーンに前記映像を投射するプロジェクタを備えることを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成する走行シミュレーション装置は、上記発明において、前記光透過性スクリーンは暗箱の一部を構成しており、前記暗箱内に、前記車両用疑似光源と前記光源移動機構が収容されることを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成する走行シミュレーション装置は、上記発明において、前記車両用疑似光源の光度を調整する調光装置を備えることを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成する走行シミュレーション装置の前記制御装置は、上記発明において、前記調光装置を介して、前記映像内に含まれる前記車両の前照灯の仮想的な光軸変化に合わせて前記車両用疑似光源の光度を制御する光度制御部を有することを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成する走行シミュレーション装置の前記制御装置は、利用者の年齢に応じた眼球内の光散乱状態を擬似的に解析して、加齢フィルターを生成する眼球内光散乱シミュレーション部と、搭乗者側から見える準備用映像に対して、前記加齢フィルターを適用して、前記準備用映像における明るい部分に散乱情報を付加し、前記映像を生成する映像生成部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
上記目的を達成する走行シミュレーション装置の前記眼球内光散乱シミュレーション部は、更に、年齢に応じた水晶体内の混濁粒子の粒径を算出する水晶体内混濁粒子設定部と、前記粒径に基づいて前記水晶体内の光減衰率及び光散乱角を算出する光減衰率・光散乱角算出部と、前記光減衰率及び前記光散乱角を用いて、模擬光子1個分の光幕輝度分布を算出する模擬光子統計処理部と、有するようにし、前記加齢フィルターに前記光幕輝度分布を含めることを特徴とする。
【0016】
上記目的を達成する走行シミュレーション装置の前記制御装置は、更に、前記映像を面状ディスプレイ装置に映し出す再生制御部と、前記映像内の車両が該映像内において面方向に移動する際の異動情報を利用して、前記光源移動機構に対して前記車両用疑似光源の移動指示を出す光源移動制御部と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、走行中の搭乗者の視界を、極めて高精度に再現できるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る走行シミュレーション装置の全体構成を示す側面図
【図2】同走行シミュレーション装置の車両用疑似光源と移動機構を示す正面図
【図3】同走行シミュレーション装置の制御装置の内部構成を示す正面図
【図4】同走行シミュレーション装置における光度制御部の理論を説明する概念図
【図5】同走行シミュレーション装置の制御装置で実行される完成映像の生成フローを示すブロック図
【図6】同走行シミュレーション装置における加齢フィルターの生成手順を示すブロック図
【図7】同走行シミュレーション装置で生成される映像を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態の例について具体的に説明する。
【0020】
図1には、本実施形態の走行シミュレーション装置1の全体構成が示されている。この走行シミュレーション装置1は、面状ディスプレイ装置10、車両用疑似光源20、光源移動機構30、制御装置40、暗箱50、調光装置60を備える。
【0021】
面状ディスプレイ装置10は、搭乗者側から見える周囲の映像を映し出すと共に、光を透過することができるように構成されている。具体的にこの面状ディスプレイ装置10は、光を透過可能な光透過性スクリーン12とプロジェクタ14を備える。プロジェクタ14は光透過性スクリーン12の前面側上方に配置されており、映像を光透過性スクリーン12に向かって投射する。光透過性スクリーン12は、プロジェクタ14の映像を反射して、利用者(仮想的な搭乗者)に映像を提供する。更に、この光透過性スクリーン12は、背面側からの光を前面側に透過できるようになっている。即ち、この光透過性スクリーン12は、一部の光は反射すると共に、一部の光は透過する半透過特性を有していることになる。なお、プロジェクタ14映像データは後述する制御装置40から供給される。
【0022】
車両用疑似光源20は、面上ディスプレイ装置10の背面側、即ち光透過性スクリーン12の背面側に配置されるいわゆる点光源であって、二輪車、四輪車を含む車両の前照灯と同等の光を放つものである。この車両用疑似光源20は、調光装置60から電流が供給されて発光し、この調光装置60によって光度を変更できるようになっている。なお、ここでは2個の車両用疑似光源20が同じ高さに配置されている。
【0023】
光源移動機構30は、図2に示されるように、いわゆるX−Y移動ステージであって、面上ディスプレイ装置10の面方向に沿って車両用疑似光源20を移動させる。なお、本実施形態の光源移動機構30は、更に、同じ高さに配置される2つの車両用疑似光源20の距離を変更するX軸補充ガイド32を備えており、四輪車の2つの前照灯を仮想的に表現する場合に、両者の距離を自在に制御できるようになっている。
【0024】
図1に戻って、暗箱50は、光源移動機構30と車両用疑似光源20を収容するものであり、その周壁の一部は、光透過性スクリーン12によって構成されている。従って、車両用疑似光源20の光は、光透過性スクリーン12のみを介して暗箱50の外部に放たれるので、効果的な夜間環境を構築できる。仮に光透過性スクリーン12以外の場所から車両用疑似光源20の光が漏れだすと、周囲の空間が明るくなってしまい、夜間の表現にばらつきが生じやすい。
【0025】
制御装置40は、いわゆる電子計算機(パーソナルコンピュータ)であり、特に図示しないメモリ、CPU、ハードディスク(記録媒体)、バスを少なくとも備えて構成される。メモリ又はハードディスクには、走行シミュレーション装置1用のソフトウエアプログラムが保存されており、このソフトウエアプログラムがCPUで実行されることで、走行シミュレーション装置1の全体が制御される。
【0026】
この制御装置40の最も重要な制御機能は、、スクリーン12に映し出すための映像を生成し、更に、その映像をスクリーン12に映し出して、搭乗者から見える周囲の状態を再現することにある。更に、スクリーン12に映し出す映像内に含まれる車両の前照灯の動きに合わせて、光源移動機構30を制御して、車両用疑似光源20を移動させることである。
【0027】
この制御装置40は、走行シミュレーション映像生成プログラム(以下プログラムという)が実行されることによって実現される機能構成として、図3に示されるように、再生制御部70、前照灯重畳制御部71、眼球内光散乱シミュレーション部80、映像生成部96を備える。従って、ここでは制御装置40における「機能ブロック」として表現しているが、プログラムの観点では「実行ステップ」と同義となる。
【0028】
再生制御部70は、後述する映像生成部96で生成され且つ記録媒体に格納される映像を読み出して、プロジェクタ14に対して送信するものである。この映像は、例えば図7(A)、(B)に示されるように、本走行シミュレーション装置1の利用者(仮想的な搭乗者)から見た映像であって、且つ対向車両とすれ違う際の映像を送信するようになっている。
【0029】
前照灯重畳制御部71は、映像の再生タイミングと合わせるようにして、光源移動機構30に移動指示を出し、且つ、調光装置60に照射指示を出す。具体的にこの前照灯重畳制御部71は、光源移動制御部72及び光度制御部74を備える。光源移動制御部72は、映像内の対向車両が面方向に移動する際に、この対向車両の前照灯の移動に合わせて車両用疑似光源20を移動させる。これは、映像内に含まれる対向車両の2つの前照灯に関する画面上の移動情報を、記録媒体に予め保存しておき、これをプログラムが読み出して光源移動機構30に送信することで行う。この結果、映像内の車両の前照灯の位置と、その背面にある車両用疑似光源20、20の位置が常に一致するようになる。
【0030】
光度制御部74は、映像内における対向車両の前照灯の光軸と搭乗者の位置関係に基づいて、車両用疑似光源20の光度を制御するように調光装置60に指示を出す。例えば、図4に示されるように、搭乗者が右カーブ運転、映像内の対向車両が左カーブ運転ですれ違う場合、対向車両の光軸は一時的に搭乗者を重なり合う。光度制御部74は、この光軸と搭乗差の関係や、対向車両と搭乗者との距離を利用して、映像のタイミングチャートに合わせた光度変化情報を算出し、記録媒体に予め記録しておく。この光度制御部74は、映像の再生と同時に、この光度変化情報を記録媒体から読み出して、調光装置60に送信する。この結果、映像に同調して車両用疑似光源20の明るさが制御され、あたかも実際の対向車両とすれ違ったような状態を再現できる。
【0031】
なお、この光度制御部74は、その他にも、映像内に含まれる車両の前照灯の種類、シミュレーションする時間帯(日中、夜間、夕暮れ)、天候(晴れ、雨、曇り)などを予め記憶しておき、これらを考慮して、調光装置60に対して光度を変化させることができる。また、後述する眼球内光散乱シミュレーション部80の計算結果を利用して、光度を微調整するすることも可能である。
【0032】
眼球内光散乱シミュレーション部80は、年齢に応じて、眼球内の色覚、グレア光幕、視覚の空間周波数特性がどのようになるかを解析して、加齢フィルター情報を生成する。この解析は、年齢に応じて眼球の水晶体内の混濁粒子の増減を算出し、その混濁粒子の量や大きさをふまえた光散乱シミュレーションによって行われる。なお、眼球内光散乱シミュレーション部80のグレア光幕や視角の空間周波数特性の解析結果は、加齢フィルターとなる。
【0033】
その後、映像生成部96によって、図5に示されるように、この加齢フィルターを、準備映像内における前照灯や周囲の街灯に適用し、その適用結果を、完成した映像として記録媒体に保管するようになっている。なお、この準備用映像は、一般的なデジタルカメラ等によって対向車両とすれ違う場面を実際に撮影したものを用いるか、又はコンピュータグラフィックで作製したものを用いれば良い。準備用映像に対して、若齢者ドライバーを想定して加齢フィルターを通過した映像を図7(A)に、高齢者ドライバーを想定した加齢フィルターを通過した映像を図7(B)に示す。これらの図から分かるように、若齢者ドライバーの方が、眩しさが少ないため、視認性が良好である。一方、高齢者ドライバーは眩しさが強く表れるため、視認性が極めて悪いことになる。
【0034】
具体的にこの眼球内光散乱シミュレーション部80は、図3及び図6に示されるように、水晶体内混濁粒子設定部82、映像内光源設定部84、光減衰率・光散乱角計算部86、模擬光子統計処理部88を備える。
【0035】
水晶体内混濁粒子設定部82は、水晶体の光学濃度、水晶体内の屈折率、水晶体内の混濁粒子の粒径を算出する。水晶体内の光学濃度は加齢変化するので、以下式1の加齢変化モデル式をプログラムに登録しておく。この式1を用いて、インプットされる利用者の年齢から光学濃度情報を生成する。
【数1】

【0036】
水晶体内の屈折率は、ここでは水晶体自体の屈折率を1.40とし、水晶体内の混濁粒子の屈折率を1.55としてプログラムに予め登録しておく。なお、この値は適宜変更することも可能であり、更に加齢状態をふまえて再設定するようにしても良い。
【0037】
混濁粒子の粒径は、加齢により変化するので以下式2の加齢変化モデル式を用いる。即ち、インプットされる利用者の年齢から、式2を利用して粒径を算出する。なお、粒径は1〜7μmの範囲内になるのが通常である。
【数2】

【0038】
映像内光源設定部84は、光度制御部74と同様に、例えば映像内に含まれる車両の前照灯の種類、すれ違う際の光軸変動、前照灯と利用者の距離、シミュレーションする時間帯(日中、夜間、夕暮れ)、天候(晴れ、雨、曇り)などをインプットする部分である。これらの情報は記録媒体に格納される。
【0039】
光減衰率・光散乱角計算部86は、Mie散乱理論を用いて解析を行う。単位照度となる平面波が入射する時の、散乱強度I(α,θ)及び散乱効率Ke(α)(散乱断面積/幾何学断面積)は、散乱角θ、粒子屈折率m、サイズパラメータα=2πr/λ(r:微粒子半径、λ:光波長)との以下の関係式3により導きだす。
【0040】
なおPV(cosθ)はLegendre多項式、a、bは1次、2次Ricatti-Bessel関数ψ、ζ及びその導関数よりなる。なお、各微粒子における散乱特性である散乱効率K(α)や散乱強度I(α,θ)が求まれば、以下式4によって、微粒子が複数個存在する空間での散乱光分布が推定できる。
【数3】

【数4】

【0041】
更に、散乱効率Ke(α)により、大気中を光が進行した時の減衰係数σ(m−1)が式5より求められる。
【数5】

【0042】
このσにより、光子が次に散乱するまでの予測距離Lが式6より求まる。
【数6】

【0043】
そして、以下式7の散乱角確率密度分布F(α,θ)により、各散乱地点における散乱角θを予測できる。
【数7】

【0044】
以上の結果から、光子が放出してから、どの位置でどの方向に順次散乱していくのか、1つ1つシミュレーションすることが可能となる。
【0045】
図6には、この眼球内光散乱シミュレーション部80におけるシミュレーションステップが示されている。このシミュレーションは、模擬光子統計処理部88がモンテカルロ法を用いることで行う。具体的には、まず加齢によって変化する水晶体の条件、及び光源条件(位置や強度)の設定を行う。その条件に基づき各種光源から眼球へ進入する光子の進入角を決定する。そしてその光子が眼球内のどの位置でどの角度に散乱するか、あるいは散乱せずにそのまま網膜に到達するかを1個ずつ確率的に予測する。散乱した場合はさらに次に散乱する位置を予測し、散乱数>最大散乱次数あるいは光子吸収、となるまで試行を続け(なお最大散乱次数は解析結果に影響を与えない十分に大きな数とする)、最終的に網膜に到達位置・角度(あるいは眼球外に放出)を予測していく。この予測を全模擬光子数(全模擬光子数は、解析結果に影響を与えない十分に大きな数とする)に対し試行し、その結果網膜に到達した光子の分布から眼球内光散乱を考慮した網膜像を推定する。
【0046】
この結果、模擬光子1個分の光幕輝度分布が算出され、これが加齢フィルター情報となる。既に述べたように、この加齢フィルターを用いて準備映像を再加工すれば、図7に示したように、年齢を考慮した、プロジェクタ14から投影するための映像を得ることができる。
【0047】
以上の結果、本実施形態の走行シミュレーション装置1によれば、図1に示されるように、面状ディスプレイ装置10を利用して、搭乗者側から見える映像を映し出すことで、搭乗者からみた視野を擬似的に造り出すことが出来る。更にこの走行シミュレーション装置1によれば、車両用疑似光源20を用いて、この面状ディスプレイ装置10の背面側から利用者に対して、実際の車両の前照灯と同様な光度の光を照射することができる。更に、この車両用疑似光源29を、面状ディスプレイ装置10の面方向に移動させることで、映像内に含まれる車両の前照灯の動きに合わせることができるので、実際の運転状況と同様な眩しさを評価することも可能になる。
【0048】
特に本走行シミュレーション装置1によれば、面状ディスプレイ装置10として、光を透過可能な光透過性スクリーン12と、この光透過性スクリーン12に映像を投射するプロジェクタ14を備えるようにしているので、映像を大きく投射することが可能となり、且つ、車両用疑似光源29の光を容易に透過させることができる。なお、ここではプロジェクタ14を光透過性スクリーン12の前面上方に配置する場合に限って示したが、本発明はこれに限定されず、背面側に配置しても良く、下側に配置しても良い。また、面状ディスプレイ装置10として、プロジェクタ型ではなく、有機EL等の面発光ディスプレイ等を用いることもできる。
【0049】
更に本走行シミュレーション装置1は、、光透過性スクリーン12が暗箱50の一部を構成するようにし、この暗箱50内に、車両用疑似光源20を収容しているので、ディスプレイ以外の場所に車両用疑似光源20の光が漏れだすことが抑制され、夜間の視界をより具体的に再現することができる。また、この車両用疑似光源20は、制御装置40と連動する調光装置60によって、映像内の対向車両の向きや、道路の反射状況、前照灯の状態(ハイビーム、ロービーム)、前照灯の種類(LED、HID、ハロゲン)などに合わせて、光度を経時的に変化させることができる。従って、例えば夜間走行中のカーブで、対向車両とすれ違うような状況を擬似的に再現することが可能となる。従って、様々な環境を評価することができ、安全対策等の検証に活用出来る。なお、車両用疑似光源20の種類は特に限定されず、LED、HID、ハロゲン、その他の様々な種類を採用できる。
【0050】
また、本走行シミュレーション装置1は、制御装置40によって、年齢に応じた眼球内の変化に基づいて、映像データを年齢に合わせて変換する加齢フィルター(眼球内光散乱シミュレーション部80)を有しているので、例えば、高齢者ドライバーは、夜間走行中はどのように風景が見えているかを再現できる。
【0051】
なお、この加齢フィルターや光度制御部は、互いに連携して、車両用疑似光源20の光度を設定する為の情報も生成することができる。高齢者は一般的に対向車の前照灯がまぶしく感じることから、高齢となるにつれて前照灯の光度を強くするように制御してもよい。また例えば、この加齢フィルターを利用して、30歳の利用者が70歳の視界状態を体感させるために、30歳の利用者が70歳の同等な眩しさ、即ち眼球が得られるように、前照灯の光度を強くするように制御しても良い。
【0052】
なお、映像内に映し出される車両として、ここでは4輪自動車である場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、それ以外にも2輪、3輪、トラック、バスなど様々な車両を映し出すことが可能である。
【0053】
尚、本発明の走行シミュレーション装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、夜間等における走行時の視野状態を、より具体的に評価することが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1 走行シミュレーション装置
10 面状ディスプレイ装置
20 車両用疑似光源
30 光源移動機構
40 制御装置
50 暗箱
60 調光装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗者側から見える映像を映し出すと共に、光を透過することが可能な面状ディスプレイ装置と、
前記面状ディスプレイ装置の背面側に配置され、車両用ヘッドランプと同様な光を、前記面状ディスプレイ装置を透過させて前面側に放つ車両用疑似光源と、
前記車両用疑似光源を、前記面状ディスプレイ装置の面方向に移動させる光源移動機構と、
前記映像内に含まれる車両の前照灯の動きに合わせて、前記光源移動機構を用いて前記車両用疑似光源を移動させる制御装置と、
を備えることを特徴とする走行シミュレーション装置。
【請求項2】
前記面状ディスプレイ装置は、光を透過可能な光透過性スクリーン及び前記光透過性スクリーンに前記映像を投射するプロジェクタを備えることを特徴とする請求項1に記載の走行シミュレーション装置。
【請求項3】
前記光透過性スクリーンは暗箱の一部を構成しており、前記暗箱内に、前記車両用疑似光源と前記光源移動機構が収容されることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行シミュレーション装置。
【請求項4】
前記車両用疑似光源の光度を調整する調光装置を備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の走行シミュレーション装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記調光装置を介して、前記映像内に含まれる前記車両の前照灯の仮想的な光軸変化に合わせて前記車両用疑似光源の光度を制御する光度制御部を有することを特徴とする請求項4に記載の走行シミュレーション装置。
【請求項6】
前記制御装置は、
利用者の年齢に応じた眼球内の光散乱状態を擬似的に解析して、加齢フィルターを生成する眼球内光散乱シミュレーション部と、
搭乗者側から見える準備用映像に対して、前記加齢フィルターを適用して、前記準備用映像における明るい部分に散乱情報を付加し、前記映像を生成する映像生成部と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の走行シミュレーション装置。
【請求項7】
前記眼球内光散乱シミュレーション部は、更に、
年齢に応じた水晶体内の混濁粒子の粒径を算出する水晶体内混濁粒子設定部と、
前記粒径に基づいて前記水晶体内の光減衰率及び光散乱角を算出する光減衰率・光散乱角算出部と、
前記光減衰率及び前記光散乱角を用いて、模擬光子1個分の光幕輝度分布を算出する模擬光子統計処理部と、有するようにし、
前記加齢フィルターに前記光幕輝度分布を含めることを特徴とする請求項6に記載の走行シミュレーション装置。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記映像を面状ディスプレイ装置に映し出す再生制御部と、
前記映像内の車両が該映像内において面方向に移動する際の異動情報を利用して、前記光源移動機構に対して前記車両用疑似光源の移動指示を出す光源移動制御部と、
を有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の走行シミュレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−22027(P2012−22027A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157621(P2010−157621)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(301028761)独立行政法人交通安全環境研究所 (55)