走行制御装置および車両
【課題】車両の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができる走行制御装置および車両を提供すること。
【解決手段】車両1の進路方向における仮想バンパー領域71を広く設定する。これにより、車両1の進行先にある物体80との衝突回避を確実に行うことができる。一方、車両1の進行方向とは異なる方向においては、仮想バンパー領域71が車両1の進行方向と比して相対的に狭く設定されるので、車両1の進行方向とは関係のない場所にある物体との衝突回避動作を抑制できる。よって、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【解決手段】車両1の進路方向における仮想バンパー領域71を広く設定する。これにより、車両1の進行先にある物体80との衝突回避を確実に行うことができる。一方、車両1の進行方向とは異なる方向においては、仮想バンパー領域71が車両1の進行方向と比して相対的に狭く設定されるので、車両1の進行方向とは関係のない場所にある物体との衝突回避動作を抑制できる。よって、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行制御装置および車両に関し、特に、車両の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができる走行制御装置および車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動車椅子などの移動体の周辺に設定した所定領域に何らかの物体(障害物)が存在する場合に、その物体を回避するための反発力が仮想的に移動体に加えられたものとして、移動体の走行を制御することで、その物体との衝突を回避する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−110711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される技術では、物体の衝突回避が行われる前記所定領域として、移動体(電動車椅子1)の外縁から一定距離(規準距離zo)離れた地点までの領域を設定している。
【0005】
しかしながら、この所定領域は、移動体の進行方向を考慮していない。そのため、基準距離z0が短い場合は、移動体の進行先にある物体との衝突回避が遅れる可能性があり、運転者に不安感を与えてしまう。これに対し、進行先にある物体との衝突回避を確実に行うために、規準距離zoを長くすることも考えられるが、移動体の進行先とは全く関係ない場所にある物体との衝突回避も行ってしまい、場合によっては、運転者が所望する進行方向とは別の方向に車両の進行方向が曲げられてしまって、運転者に不満感を与えるおそれがある。よって、従来の技術では、運転者に不満感や不安感といったストレスを感じさせるおそれがあるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、車両の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができる走行制御装置および車両を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
この目的を達成するために請求項1記載の走行制御装置によれば、検出手段により検出された物体が、設定手段により設定された所定領域内に存在していると、その物体との衝突を回避するための仮想的な反発力が、その物体と車両との位置関係に基づいて算出手段により算出される。そして、その算出された反発力が車両に加えられたものとして、制御手段によって、車両の走行に伴う制御が行われる。これにより、物体が所定領域内に存在すると、その物体との衝突を回避するように反発力が仮想的に車両に加えられ、その反発力に基づいて車両の走行に伴う制御が行われるので、容易に且つ速やかにその物体を回避して車両を走行させることができる。
【0008】
また、取得手段により取得された車両の操舵に関する操舵情報に基づいて、車両の進路が予測手段によって予測される。そして、所定領域として、その予測された進路の方向における所定領域の範囲が他の方向よりも広くなるように、設定手段によって所定領域が設定される。これにより、車両の進行先にある物体との衝突回避を確実に行うことができ、また、車両の進行方向とは関係のない場所にある物体との衝突回避動作を抑制できる。よって、車両の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0009】
請求項2記載の走行制御装置によれば、請求項1記載の走行制御装置と同様に、物体が所定領域内に存在すると、その物体との衝突を回避するように反発力が仮想的に車両に加えられ、その反発力に基づいて車両の走行に伴う制御が行われるので、容易に且つ速やかにその物体を回避して車両を走行させることができる。一方、請求項2記載の走行制御装置では、取得手段により取得された車両の操舵に関する操舵情報に基づいて、車両の進路が予測手段によって予測されると、所定領域として用意された基準領域に対して、予測手段により予測された進路の方向における所定領域の範囲が広くなるように基準領域を変形して所定領域が生成され、その生成された所定領域が設定手段により設定される。これにより、車両の進路の方向における所定領域の範囲が広く設定されるので、車両の進行先にある物体との衝突回避を確実に行うことができる。また、車両の進路の方向とは異なる方向の所定領域の範囲は、基準領域の範囲とされるので、車両の進行方向とは関係のない場所にある物体との衝突回避が行われることを抑制できる。よって、車両の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0010】
請求項3記載の走行制御装置によれば、請求項1又は2に記載の走行制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。即ち、車両の運転者により回転操作される操作手段の回転量が、操舵情報として取得手段により取得される。そして、その取得された操作手段の回転量に基づいて車両のヨーレートが算出され、その算出されたヨーレートに基づいて車両の進路が予測手段により予測される。これにより、運転者による操作手段の回転操作により示された、運転者の進行したい方向に基づいて、車両の進路が予測されることになるので、設定手段により設定される所定領域は、運転者が希望する進路の方向が広くなる。よって、運転者が希望する進行先の影響を考慮しながら、物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0011】
請求項4記載の走行制御装置によれば、請求項3記載の走行制御装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、取得手段により取得された操作手段の回転量が所定量よりも小さいと判断手段により判断されると、車両の姿勢からヨーレート検出手段によって検出された車両のヨーレートに基づいて車両の進路が予測手段により予測される。ここで、例えば、車両が走行する路面が、車両の前後方向と直行する左右方向に傾いている場合、運転者は、操作手段を少しだけ回転操作した状態で維持することで、車両を直進させる動作を行う。この場合、車両にはヨーレートが発生しないが、操作手段の回転量からヨーレートを算出すると若干のヨーレートを有することになり、車両の進路として誤った進路を予測するおそれがある。これに対し、請求項4記載の走行制御装置では、このような場合に、車両の姿勢からヨーレート検出手段によって検出された車両のヨーレートに基づいて車両の進路を予測するので、車両の進路をより正確に予測できる。よって、車両が実際に進む進路の方向に所定領域を広げることができるので、物体の衝突回避をより確実に行うことができるという効果がある。
【0012】
請求項5記載の車両によれば、請求項1から4のいずれかに記載の走行制御装置が設けられているので、その車両において、対応する請求項に記載の走行制御装置と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における車両を模式的に示した模式図である。
【図2】走行制御装置における物体の衝突回避方法を説明する説明図である。
【図3】走行制御装置を含む車両の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】(a)は、仮想バンパー領域の基準形状を模式的に示す模式図であり、(b)は、車両の進路方向を考慮して設定された仮想バンパー領域の形状を示す模式図である。
【図5】バネ設定テーブルメモリの内容を模式的に示した模式図である。
【図6】物体回避処理を示すフローチャートである。
【図7】仮想バンパー設定処理を示すフローチャートである。
【図8】(a)は、予測位置へ向かう進路方向において仮想バンパー領域が広くなるように、図4(a)で示した基準形状に対して変形を行った仮想バンパー領域を示す図であり、(a)で示した仮想バンパー領域に対し、複数のバネ72を並設した状態を示す図である。
【図9】物体回避実行処理を示すフローチャートである。
【図10】車両左右方向の反発力が加えられた場合において生じる反モーメント力によって取り得るべき車両の操舵角を算出する場合に用いるパラメータを説明する図である。
【図11】(a),(b)は、本発明を適用した仮想バンパー領域の変形例を示す図である。
【図12】(a),(b),(c)は、本発明を適用した仮想バンパー領域の変形例を示す図である。
【図13】本発明を適用した仮想バンパー領域の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態である走行制御装置100を有する車両1を模式的に示した模式図である。
【0015】
まず、図1を参照して、車両1の構成について説明する。車両1は、その車両1の周囲に物体が存在する場合に、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができるように構成されている。
【0016】
なお、図1において、矢印Fによって示される方向が車両1の前方向を示している。この矢印Fは、その他の図面においても同様に、矢印Fによって示される方向を車両1の前方向として示している。また、以下の説明において、車両1が矢印F方向に進行する場合を「前進」、車両1が矢印F方向とは逆方向に進行する場合を「後退」と称す。
【0017】
走行制御装置100は、車両1の走行を制御するコンピュータ装置である。この走行制御装置100によって、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避が行われる。
【0018】
ここで、図2を参照して、走行制御装置100における物体の衝突回避の方法について、その概略を説明する。図2は、走行制御装置100における物体の衝突回避方法を説明する説明図である。
【0019】
走行制御装置100は、車両1周囲に、衝突を避けるべき物体を検出する領域として、仮想バンパー領域71を設定(形成)する。なお、詳細については後述するが、本実施形態では、図2のような楕円形を仮想バンパー領域71の基準形状とし、車両1の進路方向における仮想バンパー領域71が広くなるようにその形状を変形させたうえで(図4(b)参照)、仮想バンパー領域71を設定(形成)する。
【0020】
走行制御装置100は、その仮想バンパー領域71に、複数のバネ72を仮想的に並設することで、仮想バンパーを構成することを想定する。このとき、各バネ72は、いずれも、一端を車両1の外周11に取着した状態で、他端が仮想バンパー領域71の外縁71aに位置するように、仮想バンパー領域71に並設されることを走行制御装置100にて想定する。また、各バネ72の一端は、車両1の外周11において、10cm間隔で取着されることを走行制御装置100にて想定する。
【0021】
更に、車両1の前方側または後方側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72f,72bは、一端が車両1の前方先端(前端)または後方先端(後端)に取着された状態で、バネの長さ方向が車両1の前後方向と平行となるように配設され、他端は車両1前方側または後方側の外縁71aに位置されることを走行制御装置100にて想定する。
【0022】
車両1の右側または左側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72r,72lは、一端が車両1の右側面または左側面に取着された状態で、バネの長さ方向が車両1の左右方向と平行となるように配設され、他端は車両1右側または左側の外縁71aに位置されることを想定する。
【0023】
また、車両1の右前コーナー,左前コーナー,左後コーナー,右後コーナー側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72fr,72fl,72bl,72brは、一端が車両1の対応するコーナー部分に取着された状態で、バネの長さ方向が、車両1の右前方向,左前方向,左後方向または右後方向となるように配設され、他端が車両1の左前コーナー,左後コーナー,右後コーナー側の外縁71aに位置されることを想定する。
【0024】
走行制御装置100は、車両1に設けられた後述の第1〜第4カメラ26a〜26d(図1参照)によって取得された画像から、車両1の周辺にある物体の位置を判断し、以下に従って、その物体80との衝突を回避するための反発力Frを算出する。
【0025】
即ち、走行制御装置100は、仮想バンパー領域71内に仮想的に並設されたバネ72のうち、物体80の存在によって収縮されたバネ73を検索する。そして、収縮されたバネ73がある場合、仮想バンパー領域71内に物体80が存在するとして、そのバネ73の収縮量dを物体80と車両1との位置関係から判断し、その収縮量dに基づいて、バネ73に生じる弾性力Feを以下の式(1)により算出する。なお、以下の式(1)において、knはバネ73のバネ定数である。
【0026】
Fe=kn×d ・・・(1)
走行制御装置100は、弾性力Feの反作用として、その弾性力Feが発生したバネ73の一端が取着されている車両1上の点に、反発力Frが、バネ73の長さ方向に車両1の内側に向けて加えられるものとする。
【0027】
例えば、図2に示すように、物体80によって収縮されたバネ73が、車両1の前方に配設されたバネ72fの一つであった場合、そのバネ72fが取着された車両1上の点に、車両1に対して後向きの反発力Fr1が車両1に加えられる。同様に、バネ73が車両1の左側または右前方向に配設されたバネ72l,72frの一つであった場合、そのバネ72l又はバネ72frが取着された車両1上の点に、車両1に対して右向き又は左後向きの反発力Fr2又はFr3が車両1に加えられる。つまり、各バネ72が取着される車両1の外周11上の点が、反発力Frが加えられる作用点となる。
【0028】
走行制御装置100は、各バネ72(73)から加えられた反発力Frの前後方向成分(車両1の前後方向と同じ方向の成分)を合成して、車両1の重心Cに加えられる車両1の前後方向の反発力Fryを算出する。また、各バネ72(73)から加えられた反発力Frの左右方向成分(車両1の前後方向に対する左右方向と同じ方向の成分)から、車両1の重心Cに加えられる反モーメント力Mを算出する。
【0029】
そして、走行制御装置100は、車両1の重心Cに加えられた前後方向の反発力Fryに基づいて、その反発力Fryによって生じる車両1の加速度を算出する。走行制御装置100には、車両1に設けられたアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量に関する情報も入力される。走行制御装置100は、現在の車両1の速度と、運転者によって踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量と、前後方向の反発力Fryによって生じる車両1の加速度とから、目標とすべき車両速度を決定し、その目標とすべき車両速度を示す制御信号を、後述する車輪駆動装置3(図1参照)へ送信する。これにより、車両1が、前後方向の反発力Fryによって生じる車両1の加速度を反映させた速度で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。
【0030】
また、走行制御装置100は、その算出した反モーメント力Mに応じて車両1の操舵角を算出して、その操舵角を示す制御信号を、後述する操舵駆動装置5(図1参照)へ送信する。これにより、車両1が、反発力Frによって生じる反モーメント力を反映させた操舵角で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。
【0031】
このように、走行制御装置100は、仮想バンパー領域71内に存在する物体との衝突を回避するために、仮想的に並設したバネ72の一部(バネ73)が物体80によって収縮されたものとし、そのバネ73の弾性力Feを算出して、その反作用として反発力Frが車両1に加えたものとすることで、その反発力Frに基づいて、車両1の速度や操舵角を制御する。これにより、容易に且つ速やかに、その物体80を回避しながら車両1を走行させることができる。
【0032】
また、物体80が車両1に近いほど、仮想バンパー領域71内に想定上並設されているバネ72の一部(バネ73)がその物体80によって大きく縮められる。バネの弾性力Feはバネの収縮量(縮み量)が大きいほど大きいので、物体80が車両1に近いほど、大きな反発力Frを車両1に加えることができる。よって、物体80が車両1に近いほど大きくなる反発力Frにより、確実に物体80との衝突を回避できる。
【0033】
なお、走行制御装置100には、車両1に設けられ、運転者によって回転操作される後述のステアリングホイール13(図1参照)から、ステアリングホイール13の回転角速度を示す情報も入力されている。反力Frが車両1に仮想的に加えられていない場合、即ち、仮想バンパー領域71内に物体が存在しない場合には、走行制御装置100は、ステアリングホイール13の回転角速度を積分して得られるステアリングホイール13の操舵角に応じて車両1の操舵角を決定し、その操舵角を示す制御信号を操舵駆動装置5へ送信する。
【0034】
図1に戻って、車両1の構成について説明を続ける。車両1は、走行制御装置100の他に、複数(本実施形態では4輪)の車輪2FL,2FR,2RL,2RRと、それら複数の車輪2FL〜2RRの内の一部(本実施形態では、左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、複数の車輪2FL〜2RRの内の一部(本実施形態では、左右の前輪2FL,2FR)を操舵するステアリング装置6及び操舵駆動装置5と、各車輪2FL〜2RRの車輪速を検出する第1〜第4車輪速検出センサ12FL〜12RRと、運転者から車両1の操舵方向の指示を受け付けるステアリングホイール13と、車両1の周囲を第1〜第4カメラ26a〜26dと、ジャイロセンサ装置27とを主に有している。
【0035】
車輪2FL,2FRは、車両1の前方側に配置される左右の前輪であり、車輪駆動装置3によって回転駆動される駆動輪として構成されている。一方、車輪2RL,2RRは、車両1の後方側に配置される左右の後輪であり、車両1の走行に伴って従動する従動輪として構成されている。
【0036】
車輪駆動装置3は、左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与するものであり、デファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに接続されている。車輪駆動装置3は、走行制御装置100から通知された、目標とすべき車両速度を示す制御信号に基づき、ドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する。これにより、車両1は、走行制御装置100から通知された車両速度に応じた速度で走行する。
【0037】
なお、車輪駆動装置3は、走行制御装置100から、その走行制御装置100によって算出された反発力Frの車両1の前後方向の反発力Frfによって生じる車両1の加速度を示す制御信号を受け取り、その車両1の加速度と、運転者によって踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量と、現在の車両1の速度とから目標とすべき車両速度を算出して、その目標とすべき車両速度となるように、ドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与してもよい。
【0038】
操舵駆動装置5は、左右の前輪2FL,2FRを操舵するための装置であり、ステアリング装置6に回転駆動力を付与する電動モータ5a(図3参照)を備えて構成されている。ステアリング装置6は、ステアリングシャフト61と、フックジョイント62と、ステアリングギヤ63と、タイロッド64と、ナックルアーム65とを主に備えて構成されている。なお、ステアリング装置6は、ステアリングギヤ63がピニオン(図示せず)とラック(図示せず)とを備えたラックアンドピニオン機構によって構成されている。
【0039】
操舵駆動装置5は、走行制御装置100から車両1の操舵角を示す制御信号を受信すると、その操舵角に応じて電動モータ5aを駆動し、電動モータ5aの回転駆動力がステアリング装置6のステアリングシャフト61に付与される。その回転駆動力は、ステアリングシャフト61を介してフックジョイント62に伝達されると共にフックジョイント62によって角度を変えられ、ステアリングギヤ63のピニオンに回転運動として伝達される。そして、ピニオンに伝達された回転運動はラックの直線運動に変換され、ラックが直線運動することで、ラックの両端に接続されたタイロッド64が移動し、ナックルアーム65を介して前輪2FL,2FRが操舵される。これにより、車両1は、走行制御装置100から指示された操舵角で、前輪2FL,2FRが操舵される。
【0040】
第1車輪速検出センサ12FLは、車輪2FLに設けられ、車輪2FLの車輪速を検出するセンサである。また、第2車輪速検出センサ12FR,第3車輪速検出センサ12RL,第4車輪速検査12RRは、それぞれ対応する車輪2FR,2RL,2RRに設けられ、その対応する車輪2FL,2RL,2RRの車輪速を検出するセンサである。第1〜第4車輪速検出センサ12FL〜12RRによって検出された各車輪2FR〜2RRの車輪速は、走行制御装置100に入力され、走行制御装置100において、この入力された車輪速に基づいて車両1の速度(車両速度)が算出される。
【0041】
ステアリングホイール13は、車両1の搭乗者から回転操作されることで、車両1の操舵方向の指示を受け付けるものである。ステアリングホイール13は、搭乗者によって回転操作されると、その回転角速度を走行制御装置100へ送信する。なお、ステアリングホイール13は、搭乗者によって回転操作された回転角を走行制御装置100へ送信してもよい。そして、走行制御装置100が、ステアリングホイール13から取得した回転角を微分して、回転角速度を算出してもよい。
【0042】
第1〜第4カメラ26a〜26dは、車両1の周囲を撮像するための撮像装置であり、CCDイメージセンサや、CMOSイメージセンサなどの撮像素子が搭載されたデジタルカメラで構成されている。各第1〜第4カメラ26a〜26dは、撮像した画像を画像データに変換して走行制御装置100へ出力する。
【0043】
第1カメラ26aは、車両1の前方中央に配設され、第2カメラ26bは、車両1の後方中央に配設され、第3カメラ26cは、車両1の右側面のサイドミラー(非図示)に配設され、第4カメラ26dは、車両1の左側面のサイドミラー(非図示)に配設されている。本実施形態では、4つの第1〜第4カメラ26a〜26dにより、車両1を中心として車両1の前後方向に少なくとも30mと、車両1を中心として車両1の左右方向に少なくとも15mの範囲を撮像可能に構成されている。なお、第1〜第4カメラ26a〜26dによって撮像可能な範囲は、適宜設定されるものであってよい。
【0044】
各第1〜第4カメラ26a〜26dは、撮像した画像を画像データに変換して走行制御装置100へ出力する。走行制御装置100へ出力された画像データは、その走行制御装置100によって解析され、車両1の周囲に存在する物体と、車両1を基準としたその物体の位置とが検出される。そして、検出された物体の位置から、仮想バンパー領域71内に物体が存在するか否かが判断される。また、仮想バンパー領域71内に物体が存在する場合には、走行制御装置100において、その物体の位置から収縮されるバネ73(図2参照)が検索され、そのバネ73にかかる弾性力が算出されて、車両1に加えられる反発力が求められる。
【0045】
ジャイロセンサ装置72は、車両1の水平面に対するヨーレートを検出し、その検出結果を走行制御装置100へ出力するための装置であり、車両1の重心Cを通る上下方向軸回りの車両1の回転角であるヨー角を検出するセンサ部(図示せず)と、そのセンサ部の検出結果を処理してヨー角の時間的変化量であるヨーレートを検出し、CPU91へ出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0046】
次いで、図3を参照して、走行制御装置100の詳細構成について説明する。図3は、走行制御装置100を含む車両1の電気的構成を示したブロック図である。
【0047】
走行制御装置100は、CPU91、フラッシュメモリ92及びRAM93を有しており、それらがバスライン94を介して入出力ポート95に接続されている。入出力ポート95には、上述した、車輪駆動装置3,操舵駆動装置5、第1〜第4車輪速センサ12FL〜12RR、ステアリングホイール13、第1〜第4カメラ26a〜26d、ジャイロセンサ装置27、及び、その他の入出力装置99などが接続されている。
【0048】
CPU91は、入出力ポート95に接続された第1〜第4車輪速センサ12FL〜12RR、ステアリングホイール13、第1〜第4カメラ26a〜26d、ジャイロセンサ装置27等から送信された各種の情報に基づいて、車輪駆動装置3や操舵駆動装置5等を制御する演算装置である。
【0049】
フラッシュメモリ92は、CPU91によって実行される制御プログラムや固定値データ等を記憶するための書き換え可能な不揮発性のメモリである。このフラッシュメモリ92には、プログラムメモリ92aと基準形状メモリ92bとが設けられている。
【0050】
プログラムメモリ92aは、CPU91にて実行される各種のプログラムが格納されたフラッシュメモリ92上の領域である。後述する図6のフローチャートに示す物体回避処理、図7のフローチャートに示す仮想バンパー設定処理、図9のフローチャートに示す物体回避実行処理をCPU91にて実行されるための各プログラムは、このプログラムメモリ92aに格納されている。CPU91は、このプログラムメモリ92aに格納された各プログラムに従って各種処理を実行することで、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うよう、車両1の走行を制御する。
【0051】
基準形状メモリ92bは、仮想バンパー領域71の基準形状を規定するパラメータを格納するメモリである。ここで、図4(a)を参照して、仮想バンパー領域71の基準形状について説明する。図4(a)は、仮想バンパー領域71の基準形状を模式的に示す模式図である。
【0052】
仮想バンパー領域71の基準形状は、図4(a)に示す通り、車両1の重心Cを中心とし、車両1の前後方向を長軸、車両1の左右方向を短軸として、短径をa、長径をbとする楕円である。基準形状メモリ92bには、この短径a及び長径bの大きさが格納されている。走行制御装置100(CPU91)では、この短径a及び長径bによって規定される基準形状を基に、所定時間間隔毎(本実施形態では、50ミリ秒毎)に、車両1の進路方向の仮想バンパー領域71の範囲を広げる変形を行って、図4(b)に示すような仮想バンパー領域71を設定(形成)する。
【0053】
なお、基準形状メモリ92bに格納された短径a、長径bの値は、車両1に設けられた操作パネル(図示せず)を運転者(搭乗者)が操作することにより、その運転者(搭乗者)によって設定変更可能に構成されてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、基準形状の楕円の中心を車両1の重心Cとする場合について説明するが、必ずしも車両1の重心Cとする必要はなく、任意の場所に設定されてよい。例えば、車両1中央の前後軸と、後輪軸(後輪2RL,2RRを結んだ直線)との交点に、その楕円の中心としてもよい。また、その楕円の中心位置(座標)も基準形状メモリ92bに格納するようにし、運転者(搭乗者)が操作パネル(図示せず)を操作することにより、その運転者(搭乗者)によって楕円の中心位置(座標)を設定変更可能に構成してもよい。
【0055】
図3に戻り説明を続ける。RAM93は、書き換え可能な揮発性のメモリであり、CPU91によって実行される制御プログラムの実行時に各種のデータを一時的に記憶するためのメモリである。RAM93には、車両速度メモリ93aと、操舵角メモリ93bと、バネ設定テーブルメモリ93cが設けられている。
【0056】
車両速度メモリ93aは、車両1の車両速度を格納するメモリである。走行制御装置13では、第1〜第4車輪速度検出センサ12FL〜12RRから入力される各車輪2FL〜2RRの車輪速に基づき、車両速度を算出し、その算出した車両速度を車両速度メモリ93aに格納する。
【0057】
操舵角メモリ93bは、ステアリングホイール13の操舵角を格納するメモリである。走行制御装置113では、ステアリングホイール13から入力される、運転者がそのステアリングホイール13を回転操作したときの回転角速度を積分して、ステアリングホイール13の操舵角を算出し、その算出したステアリングホイール13の操舵角を操舵角メモリ93bに格納する。
【0058】
車両メモリ93aに格納された車両1の車両速度、及び、操舵角メモリ93bに格納されたステアリングホイール13の操舵角は、車両1の進路を算出する場合に用いられる。具体的には、車両1の車両速度と、ステアリングホイール13の操舵角とから、車両1のヨーレートを算出し、現在の車両1の位置から車両1の進路を予測し、t秒経過後の車両位置(以下、「予測位置」と称す)Dvbを求める。この予測位置Dvbの求め方については、図7を参照して後述する仮想バンパー設定処理(S11)の説明の中で後述する。
【0059】
図4(b)は、走行制御装置100において、車両1の進路方向を考慮して設定(形成)された仮想バンパー領域71の形状を示す模式図である。走行制御装置100では、t秒経過後の車両位置である予測位置Dvbを求めると、図4(a)で示した基準形状に対し、車両1が予測位置Dvbへ向かう進路方向において仮想バンパー領域71が広くなるように変形処理を行い、図4(b)に示すような仮想バンパー領域71を形成して設定する。
【0060】
走行制御装置100(CPU91)では、この図4(b)に示す仮想バンパー領域71を設定すると、図2に示した並べ方で、その仮想バンパー領域71内に複数のバネ72を仮想的に並設することで、その仮想バンパー領域71内に物体80が存在する場合に、その物体80を回避するための反発力Frを車両1に加える。ここで、車両1の進路方向における仮想バンパー領域71が広く設定されるので、車両1の進行先にある物体80との衝突回避を確実に行うことができる。一方、車両1の進路方向とは異なる方向においては、仮想バンパー領域71が車両1の進路方向と比して相対的に狭く設定されるので、車両1の進路方向とは関係のない場所にある物体との衝突回避動作を抑制できる。よって、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【0061】
図3に戻り説明を続ける。バネ設定テーブルメモリ93cは、仮想バンパー領域71に仮想的に並設した複数のバネ72に関する情報を記憶するメモリである。ここで、図5を参照して、バネ設定テーブルメモリ93cの詳細について説明する。図5は、バネ設定テーブルメモリ93cの内容を模式的に示した模式図である。
【0062】
走行制御装置100(CPU91)は、仮想バンパー領域71を設定(形成)すると、その仮想バンパー領域71内に複数のバネ72を仮想的に並設する。その並設されたバネ72の情報として、図5に示す通り、バネ72毎に、バネ72の識別情報であるバネ番号nに対応付けて、そのバネ番号nで示されるバネの作用点X座標Xpnと、作用点Y座標Ypnと、外郭X座標Xcnと、外郭Y座標Ycnと、取付角度αnと、バネ長Lvbnと、バネ定数knとを格納する。
【0063】
バネ番号nは、並設されたバネ1本1本を識別するための情報である。本実施形態では、車両1の前端に取着されたバネ72fの一番右側になるバネのバネ番号nを1とし、バネ番号1のバネから順に、反時計回りに各バネ72に対してバネ番号nを1ずつ大きくしながら、バネ番号nを割り振る。
【0064】
作用点X座標Xpn,作用点Y座標Ypnは、バネ番号nのバネにおける一端が、車両1に取着される点、つまり、そのバネの反発力Frが作用する作用点の座標を示すものである。本実施形態では、車両1中央の前後軸をY軸(車両1の前方向、即ち、矢印Fで示す方向を正方向)とし、車両1の重心を通る左右軸(後輪軸と平行な軸)をX軸(車両1の右方向を正方向)として、X軸とY軸との交点を原点とした座標系で、作用点X座標Xpn,作用点Y座標Ypnを表す。
【0065】
外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnは、バネ番号nのバネ72における他端、つまり、仮想バンパー領域71の外郭に位置する他端の座標を示すものである。本実施形態では、上記の作用点X座標Xpn,作用点Y座標Ypnと同じ座標系で、外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnを表す。
【0066】
取付角度αnは、バネ番号nのバネ72の車両1に対する取付角度を示すものである。ここでは、車両1中央の前後軸から車両1の右方向に伸びる半直線と、各バネ72の一端と他端とを結んだ直線とのなす角度を取付角度αnとして規定する。
【0067】
つまり、車両1の前端から前方側に配設されたバネ72fは、取付角度αnが90°となる。また、車両1の左側面から左側に配設されたバネ72l,車両1の後端から後方側に配設されたバネ72b,車両1の右側面から右側に配設されたバネ72rは、それぞれ、取付角度αnが180°,270°,0°となる。
【0068】
また、車両1の右前コーナーから右前方向に配設されるバネ72fr,車両1の左前コーナーから左前方向に配設されるバネ72fl,車両1の左後コーナーから左後方向に配設されるバネ72bl,車両1の右後コーナーから右後方向に配設されるバネ72brの取付角度αnは、それぞれ、0〜90°,90°〜180°,180°〜270°,270°〜360°の範囲内で次の式(2)で定まる角度となる。
【0069】
αn=tan−1((Ypn−Ycn)/(Xpn−Xcn)) ・・・(2)
バネ長Lvbnは、バネ番号nのバネ72の自然長(バネ72を伸縮させない状態におけるバネ72の長さ)を示すものである。各バネ72のバネ長Lvbnは、バネ72の一端が接続される作用点(作用点X座標Xpn,作用点Y座標Ypnで示される点)と、バネ72の他端が位置する外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnで示される点との距離によって算出される。
【0070】
バネ定数knは、バネ番号nのバネ72のバネ定数を示すものである。なお、本実施形態では、すべてのバネ72において、バネ定数knを一定の大きさ(例えば、100N/m)とする。ただし、各バネについて、バネ定数knの大きさを異ならせてもよい。例えば、車両1の進路方向に近い位置に配設されたバネ72ほど、大きなバネ定数knを設定してもよい。これにより、車両1の進路方向に近い場所に物体80が存在するほど車両1に大きな反発力が加えられるので、より安全に物体80との衝突回避を行うことができる。
【0071】
また、バネ定数knの大きさは、操作パネル(図示せず)を運転者(搭乗者)が操作することにより、その運転者(搭乗者)によって設定変更可能に構成されてもよい。
【0072】
次いで、図6〜図10までのフローチャートと模式図とを参照して、車両1に搭載された走行制御装置100のCPU91により実行される物体回避処理について説明する。まず、図6は、この物体回避処理を示すフローチャートである。
【0073】
物体回避処理は、所定時間間隔(本実施形態では50ミリ秒)でCPU91により実行される処理で、車両1の進路方向に基づいて仮想バンパー領域71を設定(形成)し、その設定した仮想バンパー領域71内に物体80が存在する場合には、その物体80との衝突回避動を行う処理である。
【0074】
この物体回避処理が実行されると、CPU91は、まず、仮想バンパー設定処理を実行する(S11)。この仮想バンパー設定処理では、車両1の進路を予測し、図4(b)に示した予測位置Dvbを算出して、その進路方向が広くなるように仮想バンパー領域71を形成し、設定する処理を行う。この仮想バンパー設定処理の詳細については、図7を参照して後述する。
【0075】
仮想バンパー設定処理の次には、物体回避実行処理を行う(S12)。この物体回避実行処理では、仮想バンパー領域71内に物体80が存在する場合に、その仮想バンパー領域71内に仮想的に並設させた複数のバネ72の一部(バネ73)が、物体80によって収縮されたとして、そのバネ73に生じる弾性力Feの反作用として車両1に反発力Frを加え、車両1の走行を制御する処理を行う。この物体回避実行処理の詳細については、図9を参照して後述する。
【0076】
物体回避処理は、物体回避実行処理の終了後、その処理を終了する。
【0077】
次に、図7を参照して、図6の物体回避処理の一処理である仮想バンパー設定処理(S11)について説明する。図7は、この仮想バンパー設定処理を示すフローチャートである。
【0078】
仮想バンパー設定処理が実行されると、まず、第1〜第4車輪速検出センサ12FL〜12RRから入力される各車輪2FL〜2RRの車輪速を取得し、その車輪速から、車両1の車両速度Vを算出する(S21)。S21の処理では、また、算出した車両速度Vは、車両速度メモリ93aに格納する。
【0079】
次いで、ステアリングホイール13から入力される、運転者がそのステアリングホイール13を回転操作したときの回転角速度を取得し、その回転速度を積分して、ステアリングホイール13の操舵角δDを算出する(S22)。S22の処理では、また、算出した操舵角δDを操舵角メモリ93bに格納する。
【0080】
次に、ステアリングホイール13の操舵角δDの絶対値が、所定値δmin(例えば、5°)よりも大きいか否かを判断する(S23)。その結果、操舵角δDの絶対値が所定値δminよりも大きい場合(S23:Yes)、車両速度Vと、操舵角δDとに基づいて、車両1のヨーレートγstを算出して(S24)、S26の処理へ移行する。
【0081】
S24の処理では、次の式(3)によって車両1のヨーレートγstを算出する。
【0082】
γst=V・tan(Kd×δD)/Lwb ・・・(3)
ここで、Kdは、左右の前輪2FL,2FRの操舵角δTに対する、ステアリングホイール13の操舵角δDの関係を示す比例係数であり、Kd=δT/δDである。また、Lwbは、車両1の前輪軸(前輪2FL,2FRを結んだ線)と、後輪軸(後輪2RL,2RRを結んだ線)との距離(ホイールベース)である。
【0083】
S23の処理によって、操作角δDの絶対値が、所定値δmin以下であると判断される場合は(S23:No)、ジャイロセンサ装置72から車両1のヨーレートδseを取得して(S25)、S26の処理へ移行する。
【0084】
S26の処理では、S24の処理で算出した車両1のヨーレートγst、または、S25の処理で取得した車両1のヨーレートγseを用いて、車両1の進路を予測し、t秒後の予測位置Dvbを算出する(S26)。
【0085】
S26の処理では、以下の式(4)〜(7)を用いて、微小時間dt経過する毎に、ヨーレートγnを予測しながら、車両1の位置の座標(Xn,Yn)と、車両1のヨー角θnとを算出することで、車両1の進路を予測する。なお、ここで使用される座標系は、車両1中央の前後軸をY軸(車両1の前方向、即ち、矢印Fで示す方向を正方向)とし、車両1の重心を通る左右軸(後輪軸と平行な軸)をX軸(車両1の右方向を正方向)として、X軸とY軸との交点を原点とした座標系である。
【0086】
Xn=Xn−1+V・dt・cosθn−1 ・・・(4)
Yn=Yn−1+V・dt・sinθn−1 ・・・(5)
θn=θn−1+γn−1・dt ・・・(6)
γn=γn−1+G ・・・(7)
ここで、nは1以上の自然数であり、(X0,Y0)は、車両1の現在の車両位置を示す座標であり、θ0は、車両1の現在のヨー角である。また、γ0は、車両1の現在のヨーレートであって、γst又はγseである。また、Gは、ヨーレートの時間的な変化量(ヨー角の加速度)である。
【0087】
また、S26の処理では、微小時間dt毎に車両1の位置の座標(Xn,Yn)を算出すると、現在の車両1の車両位置から座標(Xn,Yn)までの予測進路における移動距離Dを次式にて算出する。
【0088】
【数1】
そして、t秒間に移動する距離となるまで、即ち、[数1]にて算出した移動距離がV・tとなるまで、(4)〜(7)の計算を繰り返し行う、即ち、積分することにより、t秒後における車両1の予測位置Dvbの座標(Xvb,Yvb)と、車両1のヨー角θvbとを算出する。
【0089】
次に、S26の処理によって算出した予測位置Dvbへ向かう進路方向において仮想バンパー領域71が広くなるように、図4(a)で示した基準形状に対して変形し、図4(b)に示すような仮想バンパー領域71を形成する処理を実行する(S27)。
【0090】
ここで、図8(a)を参照して、S27の処理の詳細について説明する。図8(a)は、予測位置Dvbへ向かう進路方向において仮想バンパー領域71が広くなるように、図4(a)で示した基準形状に対して変形を行った仮想バンパー領域71を示す図である。
【0091】
この変形では、図4(a)に示す基準形状(楕円)に対し、車両1の後輪軸より車両1の進路方向側にある楕円の一部71a1を、予測位置Dvbの位置まで、その楕円の長径が車両1のヨー角θvbの向きとなるように移動させる。そして、車両1の後輪軸より車両1の進路方向とは逆方向側にある楕円の一部71a4と、移動された楕円の一部71a1とを、円弧71a3と円弧71a4とで結び、これら71a1〜71a4を外縁として、変形後の仮想バンパー領域71を形成する。
【0092】
変形後の仮想バンパー領域71の外縁71a1〜71a4は、それぞれ、次の式によって、表される。なお、ここで使用される座標系も、S26の処理で使用した座標系と同じ座標系である。
【0093】
【数2】
【0094】
【数3】
【0095】
【数4】
【0096】
【数5】
ここで、(xVB2,yVB2)は、基準形状の楕円と車両1の後輪軸との交点であって、車両1の右側にある交点の座標であり、(xVB3,yVB3)は、基準形状の楕円と車両1の後輪軸との交点であって、車両1の左側にある交点の座標である。
【0097】
また、(xVB1,yVB1),(xVB4,yVB4)は、それぞれ、車両1の後輪軸より車両1の進路方向側にある楕円の一部71a1を、予測位置Dvbの位置まで、その楕円の長径が車両1のヨー角θvbの向きとなるように移動させた場合に、基準形状の点(xVB2,yVB2),(xVB3,yVB3)が移動する位置の座標である。
【0098】
また、(xVB0,yVB0)は、2つの点(xVB1,yVB1),(xVB4,yVB4)を結んだ直線と、車両1の後輪軸との交点の座標である。
【0099】
以上の[数2]〜[数4]により、仮想バンパー領域71が形成され、設定される。
【0100】
次に、バンパー形成処理を実行する(S28)。このバンパー形成処理では、図8(b)に示すように、仮想バンパー領域71内に、バネ72を仮想的に並設する。具体的には、各バネ72の一端を、車両1の外周11において、10cm間隔で取着する。そして、車両1の前方側または後方側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72f,72bは、一端が車両1の前方先端(前端)または後方先端(後端)に取着された状態で、バネの長さ方向が車両1の前後方向と平行となるように配設し、他端を車両1前方側または後方側の外縁71aに位置させる。
【0101】
また、車両1の右側または左側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72r,72lは、一端が車両1の右側面または左側面に取着された状態で、バネの長さ方向が車両1の左右方向と平行となるように配設し、他端を車両1右側または左側の外縁71aに位置させる。
【0102】
また、車両1の右前コーナー,左前コーナー,左後コーナー,右後コーナー側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72fr,72fl,72bl,72brは、一端が車両1の対応するコーナー部分に取着された状態で、バネの長さ方向が、車両1の右前方向,左前方向,左後方向または右後方向となるように配設し、他端を車両1の左前コーナー,左後コーナー,右後コーナー側の外縁71aに位置させる。
【0103】
S28の処理では、このようにして配設した各バネ72のバネ情報をバネ設定テーブルメモリ93cに格納することで、バネ72の設定を完了する。そして、S28の処理の終了後、仮想バンパー設定処理を終了し、物体回避処理へ戻る。
【0104】
以上、仮想バンパー設定処理を実行することにより、車両1の進路方向における仮想バンパー領域71が広く設定されるので、車両1の進行先にある物体80との衝突回避を確実に行うことができる。一方、車両1の進路方向とは異なる方向においては、仮想バンパー領域71が車両1の進路方向と比して相対的に狭く設定されるので、車両1の進路方向とは関係のない場所にある物体との衝突回避動作を抑制できる。よって、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【0105】
また、車両1の進路方向(車両1から見た予定位置Dvbの方向)にある仮想バンパー領域71は広く設定されており、その方向での仮想バンパー領域71の外縁71aから車両1までの距離が長い。これにより、車両1の進路方向には、バネ長Lvbnの長いバネ72が設けられることになり、車両1の進路方向とは異なる方向には、車両1の進路方向と比して、バネ長Lvbnの短いバネ72が設けられることになる。
【0106】
ここで、車両1の進路方向では、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が長く、バネ長Lvbnの長いバネ72が設定されるので、車両1の進路方向に物体80が存在する場合に、早くから車両1に反発力Frを加えることができ、その物体80が車両1に近づくと、より大きな反発力Frを車両1に加えることができる。よって、この場合、その反発力Frを運転者が感じることによって、安心して運転を行うことができる。
【0107】
また、車両1の進路方向とは異なる方向において、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が長く、バネ長Lvbnの長いバネ72が設定されると、車両1の進行先とは全く関係のない場所に物体80があったとしても、大きな反発力Frが車両に加えられ、場合によっては、運転者が所望する進路方向とは別の方向に車両の進路方向が曲げられてしまって、運転者に不満感を与えるおそれがある。
【0108】
これに対し、車両1の進路方向とは異なる方向には、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が短く、バネ長Lvbnの短いバネ72が設定されるので、車両1の進行先とは全く関係のない場所に物体80があった場合であっても、反発力Frが車両に加えられないか、若しくは、小さな反発力Frが車両に加えられる。よって、運転者に不満感を与えることなく、物体80の衝突回避を適切に行うことができる。
【0109】
従って、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0110】
また、S23,S24の処理により、ステアリングホイール13の操舵角δDの絶対値が所定値δminより大きい場合に、その操舵角δDに基づいて車両1のヨーレートγstが算出され、そのヨーレートγstに基づいて車両1の進路が予測されて、仮想バンパー領域71が形成される。これにより、運転者によるステアリングホイール13の回転操作により示された、運転者の進行したい方向に基づいて、車両1の進路が予測されることになるので、仮想バンパー領域71は、運転者が希望する進路の方向が広くなる。よって、運転者が希望する進行先の影響を考慮しながら、物体80の衝突回避を行うことができる。
【0111】
更に、S23,S25の処理により、ステアリングホイール13の操舵角δDの絶対値が所定値δmin以下の場合は、ジャイロセンサ装置72によって検出された車両1のヨーレートδseを取得し、そのヨーレートγseに基づいて車両1の進路が予測されて、仮想バンパー領域71が形成される。
【0112】
ここで、例えば、車両1が走行する路面が、車両1の前後方向と直行する左右方向に傾いている場合、運転者は、ステアリングホイール13を少しだけ回転操作した状態で維持することで、車両1を直進させる動作を行う。この場合、車両1にはヨーレートγが発生しないが、ステアリングホイール13の回転量からヨーレートγstを算出すると若干のヨーレートを有することになり、車両1の進路として誤った進路を予測するおそれがある。これに対し、仮バンパー設定処理では、このような場合に、車両1の姿勢からジャイロセンサ装置72によって検出された車両1のヨーレートγseに基づいて車両1の進路を予測するので、車両1の進路をより正確に予測できる。よって、車両1が実際に進む進路の方向に所定領域を広げることができるので、物体1の衝突回避をより確実に行うことができる。
【0113】
次いで、図9を参照して、図6の物体回避処理の一処理である物体回避実行処理(S12)について説明する。図9は、この物体回避実行処理を示すフローチャートである。
【0114】
物体回避実行処理が実行されると、CPU91は、まず、第1〜第4カメラ26a〜26dにて撮像された画像の画像データから、車両1の周囲に存在する物体80と、車両1を基準としたその物体80の位置とを判断する(S51)。次に、S51の処理にて判断された物体80の位置と、バネ設定テーブルメモリ93cに格納された各バネ72のバネ情報とから、物体80の存在によって、仮想バンパー領域71内に仮想的に並設されたバネ72の中から収縮されたバネ73を検索する(S52)。
【0115】
そして、S52の処理の結果、収縮されたバネ73があるか否かを判断する(S53)。その結果、収縮されたバネ73がなければ(S53:No)、仮想バンパー領域71内に物体80がないと判断し、そのまま物体回避実行処理を終了する。
【0116】
一方、収縮されたバネ73があると判断された場合(S53:Yes)、仮想バンパー領域71内に物体80があると判断できるので、次に説明するS54〜S59の処理を実行して、物体80を回避するよう、車両1の走行を制御する。
【0117】
まず、S54の処理では、収縮したバネ73から車両1に対して加えられる反発力Frを算出する(S54)。反発力Frの大きさは上述の式(1)によって算出される。このとき、式(1)で用いるバネ定数は、収縮したバネ73のバネ定数をバネ設定テーブルメモリ93cより取得する。なお、収縮したバネ73が複数ある場合は、それぞれのバネ73から加えられる反発力の向きも考慮して、すべてのバネ73から車両1に加えられる反発力を算出する。
【0118】
次に、S54の処理にて算出した各バネ72(バネ73)から加えられた反発力Frの前後方向成分を合成して、車両1の重心Cに加えられる前後方向の反発力Fryを算出する。(S55)。そして、以下の式(8)により、車両1の加速度aを算出する(S56)。
【0119】
a=Fry/m ・・・(8)
ここで、mは、車両1の重量(質量)である。
【0120】
続くS58の処理では、前進時において、S54の処理にて算出した各バネ72(73)から加えられた反発力Frの左右方向成分から、車両1の重心Cに加えられる反モーメント力Mを算出する(S58)。
【0121】
そして、算出した反モーメント力Mから、以下の式により、車両1の操舵角δfを算出する。
【0122】
【数6】
なお、車両1が前進する場合、後進する場合のいずれにおいても、その車両速度が毎秒0.5m以下である場合、次の式(9)により、車両1の操舵角δfを算出する。
【0123】
δf=−M/(2・Kf・Lf) ・・・(9)
ここで、[数6],式(9)の各式で用いられる各種パラメータの意味について、図10を参照して説明する。図10は、反モーメント力によって取り得るべき車両1の操舵角δfを算出する場合に用いるパラメータを説明する図である。
【0124】
まず、Lfは、前輪軸と車両1の重心との距離であり、Lrは、後輪軸と車両1の重心との距離である。Kfは、前輪等価コーナーリングスティフネスであり、Krは、後輪等価コーナーリングスティフネスである。βは、重心位置における車両1の横滑り角であり、γは車両1のヨーレートである。Vは、車両速度である。なお、図10において、δrは、後輪における操舵角であるが、本実施形態における車両1は、前輪のみ操舵可能であるので、δrを0として取り扱っている。
【0125】
図9に戻り説明を続ける。S58の処理が終了すると、続いて、S59の処理を実行する。S59の処理では、S56の処理により算出した加速度aと、現在の車両1の速度と、運転者によって踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量とから、目標とすべき車両速度を決定し、その目標とすべき車両速度を示す制御信号を、後述する車輪駆動装置3(図1参照)へ送信する。また、S59の処理では、S58の処理により算出した操舵角δfを示す制御信号を、後述する操舵駆動装置5(図1参照)へ送信する。そして、S59の処理の終了後、物体回避実行処理を終了する。
【0126】
このS59の処理により、車両1が、前後方向の反発力Fryによって生じる車両1の加速度を反映させた速度で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。また、車両1が、左右方向の反発力によって生じる反モーメント力Mを反映させた操舵角で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。よって、容易に且つ速やかに、その物体80を回避しながら車両1を走行させることができる。
【0127】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記各実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0128】
上記実施形態では、仮想バンパー設定処理(図7)のS27の処理において、図4(a)に示す基準形状を、図8(a)に示す形状に変形させる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、仮想バンパー領域71が、進路方向において広く設定されれば、仮想バンパー領域71の変形の方法は種々の方法が採用され得る。
【0129】
例えば、図11に示す通り、車両1の重心C(または、車両1中央の前後軸と後輪軸とが交わる点)が、t秒後に予想位置Dvb(xvb,yvb)の位置にあると予測される場合に、基準形状の楕円の長軸が、現在の車両1の重心C(または、車両1中央の前後軸と後輪軸とが交わる点)から予想位置Dvbとを結んだ直線上に位置するように、基準形状の楕円を回転させることで、仮想バンパー領域71を形成してもよい。この場合、図11(b)に示される回転後の仮想バンパー領域71は、次式で表すことができる。なお、図11で示される、車両1中央の前後軸と、現在の車両1の重心C(または、車両1中央の前後軸と後輪軸とが交わる点)から予想位置Dvbとを結んだ直線とのなす角度αは、左回りを正とし、右回りを負とした値である。
【0130】
【数7】
これにより、仮想バンパー領域71が、進路方向において広く設定されるので、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【0131】
また、上記実施形態において、仮想バンパー領域71の基準形状を図4(a)に示すような楕円形状とする場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、図12(a)に示す通り、車両1中央の前後軸と車両1の前輪軸との交点、及び、その前後軸と車両1の後輪軸との交点を中心とする扇形形状をした領域を、車両1の前方方向と後方方向とに設けた形状を、仮想バンパー領域71の基準形状としてもよい。この場合、基準形状メモリ92bには、扇形の半径と、扇形の範囲(例えば、図12(a)に示す角度θvb1〜θvb4)を格納してもよい。
【0132】
図12(a)に示す形状を仮想バンパー領域71の基準形状とした場合、仮想バンパー設定処理のS27の処理では、図12(b)又は図12(c)に示す方法で、仮想バンパー領域71の進路方向が広くなるように変形してもよい。即ち、車両1の重心C(または、車両1中央の前後軸と後輪軸とが交わる点)が、t秒後に予想位置Dvb(xvb,yvb)の位置にあると予測される場合に、少なくとも車両1の進路方向(図12(b),(c)の例では、車両1の前方方向)にある扇形の範囲を、予想位置Dvb側に傾けるようにしてもよい。具体的には、車両1中央の前後軸と、現在の車両1の重心C(または、車両1中央の前後軸と後輪軸とが交わる点)から予想位置Dvbとを結んだ直線とのなす角度α(ただし、左回りを正とし、右回りを負、図12の場合α<0)とした場合に、S27の処理において、車両1の進路方向にある扇形の範囲θvbを次の式(10)のように設定すればよい。
【0133】
θvb1+α <= θvb <= θvb2+α ・・・(10)
これにより、扇形が基準形状の仮想バンパー領域71においても、進路方向において広く設定されるので、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【0134】
また、この場合、車両1の進路方向とは逆方向側(図12(b),(c)の例では、車両1の後方方向側)にある扇形の範囲については、図12(a)と同じ範囲(θvb3<=θvb<=θvb4)としてもよいし、図12(b)に示すように、車両1の左右方向において予想位置Dvbが存在する方向(図12(b)の例では右方向)とは逆の方向(図12(b)の例では左方向)に、その範囲を広げてもよい。また、図12(c)に示すように、車両1の進路方向とは逆方向側(図12(c)の例では、車両1の後方方向側)にある扇形の範囲を、車両1の左右方向において予想位置Dvbが存在する方向(図12(c)の例では右方向)と同じ方向(図12(c)の例では右方向)に、その範囲を広げてもよい。
【0135】
図12(b)の例においては、車両1の進路方向とは逆方向側にある扇形の範囲θvbを次の式(11)のように設定すればよい。
【0136】
θvb3+α <= θvb <= θvb4+α ・・・(11)
また、図12(c)の例においては、車両1の進路方向とは逆方向側にある扇形の範囲θvbを次の式(12)のように設定すればよい。
【0137】
θvb3−α <= θvb <= θvb4−α ・・・(12)
更に、車両1の進路方向とは逆方向側にある扇形の範囲θvbを次の式(13)のように設定し、図12(b)と図12(c)とを合わせた範囲を、車両1の進路方向とは逆方向側にある扇形の範囲に設定してもよい。
【0138】
θvb3−|α| <= θvb <= θvb4+|α| ・・・(13)
車両1の運転者は、車両1を旋回させる場合、特に車両1の内輪差に注意して、車両1の内輪側を気にしながら運転する。車両1の進路方向とは逆方向側にある扇形の範囲を、式(11)(図12(b))や式(13)のように設定すれば、運転者が車両1の外輪側にある物体に気付かなかった場合でもその物体との衝突回避を早い段階から始めることができる。
【0139】
また、車両1の進路方向とは逆方向側にある扇形の範囲を、式(12)(図12(c))や式(13)のように設定すれば、車両1の内輪側にある物体との衝突回避を早い段階から始めることができるので、車両1の内輪差を考慮しながら車両1の走行を制御することができる。
【0140】
上記実施形態における仮想バンパー領域71では、反発力Frが作用する作用点を車両1の外周に分散させ、その分散させた作用点から仮想バンパー領域71の外縁71aに向けて仮想的にバネ72を並設する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、反発力Frが作用する作用点を車両1の任意の1点または複数個所の点に集中させて、仮想バンパー領域71に複数のバネ72を並設してもよい。例えば、図13に示すように、車両1中央の前後軸と車両1の前輪軸との交点、及び、その前後軸と車両1の後輪軸との交点を、反発力Frが作用する作用点とし、これら2か所に、バネ72の一端を取着させて、バネ72を仮想バンパー領域71に並設させてもよい。なお、車両1中央の前後軸と車両1の前輪軸との交点、及び、その前後軸と車両1の後輪軸との交点を、反発力Frが作用する作用点とし、これら2か所に、バネ72の一端を取着させて、バネ72を仮想バンパー領域71に並設する方法は、図8(a)や図11(b)に示す、楕円を基準形状として生成した仮想バンパー領域71に対しても適用可能である。
【0141】
上記実施形態において、仮想バンパー領域71内に存在する物体80によって車両1に反発力Frが加えられた場合に、前輪2FL,2FRの操舵角がその反発力Frに基づいて算出した操舵角δfとなるよう、走行制御装置100が操舵駆動装置5を制御する場合について説明したが、車両1にステアリングホイール13に回転力を加える駆動装置を設け、走行制御装置100は、その駆動装置を制御して、操舵角δfの方向に、操舵角δfの大きさに応じた回転力をステアリングホイール13に加えるようにしてもよい。運転者は、ステアリングホイール13に加えられた回転力によってステアリングホイール13を回転操作することにより、物体80との衝突回避を行うことができる。
【0142】
上記各実施形態では、第1〜第4カメラ26a〜26dを搭載して、車両1の周辺情報を取得する場合について説明したが、周辺情報を取得する手段として、ステレオカメラ、赤外線カメラを用いてもよいし、ミリ波レーダ、レーザレーダ、UWB(Ultra Wide Band)レーダ等の各種レーダや、ソナーを用いてもよい。また、道路と車両との間の通信である路車間通信や、他車との間の通信による車車間通信によって、物体の位置情報を取得してもよい。またこれらを複数組み合わせて使用してもよい。
【0143】
例えば、レーザレーダは、レーザビームを車両1の周囲へ照査し、その反射の有無や反射を検出した方向およびレーザビームを照射してから反射を検出するまでの時間に基づいて、車両1の周辺にある道路や物体の形状等を把握するものである。走行制御装置100は、このレーザレーダを用いることにより、レーザレーダにより照射したレーザビームの反射の検出結果から、車両1の周辺に存在する物体等の形状をマップ化し、それに基づいて、物体の位置等を検出するように構成してもよい。
【0144】
上記各実施形態では、操舵装置5がラック&ピニオン式のステアリングギヤとして構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ボールナット式等の他のステアリングギヤ機構を採用することは当然可能である。
【符号の説明】
【0145】
1 車両
13 ステアリングホイール(取得手段)
24 ジャイロセンサ装置(ヨーレート検出手段)
26a〜26d 第1〜第4カメラ(検出手段)
71 仮想バンパー領域(所定領域)
80 物体
Fr 反発力
100 走行制御装置
S23 (判断手段)
S26 (予測手段)
S27 (設定手段)
S54 (算出手段)
S59 (制御手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行制御装置および車両に関し、特に、車両の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができる走行制御装置および車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動車椅子などの移動体の周辺に設定した所定領域に何らかの物体(障害物)が存在する場合に、その物体を回避するための反発力が仮想的に移動体に加えられたものとして、移動体の走行を制御することで、その物体との衝突を回避する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−110711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される技術では、物体の衝突回避が行われる前記所定領域として、移動体(電動車椅子1)の外縁から一定距離(規準距離zo)離れた地点までの領域を設定している。
【0005】
しかしながら、この所定領域は、移動体の進行方向を考慮していない。そのため、基準距離z0が短い場合は、移動体の進行先にある物体との衝突回避が遅れる可能性があり、運転者に不安感を与えてしまう。これに対し、進行先にある物体との衝突回避を確実に行うために、規準距離zoを長くすることも考えられるが、移動体の進行先とは全く関係ない場所にある物体との衝突回避も行ってしまい、場合によっては、運転者が所望する進行方向とは別の方向に車両の進行方向が曲げられてしまって、運転者に不満感を与えるおそれがある。よって、従来の技術では、運転者に不満感や不安感といったストレスを感じさせるおそれがあるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、車両の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができる走行制御装置および車両を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0007】
この目的を達成するために請求項1記載の走行制御装置によれば、検出手段により検出された物体が、設定手段により設定された所定領域内に存在していると、その物体との衝突を回避するための仮想的な反発力が、その物体と車両との位置関係に基づいて算出手段により算出される。そして、その算出された反発力が車両に加えられたものとして、制御手段によって、車両の走行に伴う制御が行われる。これにより、物体が所定領域内に存在すると、その物体との衝突を回避するように反発力が仮想的に車両に加えられ、その反発力に基づいて車両の走行に伴う制御が行われるので、容易に且つ速やかにその物体を回避して車両を走行させることができる。
【0008】
また、取得手段により取得された車両の操舵に関する操舵情報に基づいて、車両の進路が予測手段によって予測される。そして、所定領域として、その予測された進路の方向における所定領域の範囲が他の方向よりも広くなるように、設定手段によって所定領域が設定される。これにより、車両の進行先にある物体との衝突回避を確実に行うことができ、また、車両の進行方向とは関係のない場所にある物体との衝突回避動作を抑制できる。よって、車両の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0009】
請求項2記載の走行制御装置によれば、請求項1記載の走行制御装置と同様に、物体が所定領域内に存在すると、その物体との衝突を回避するように反発力が仮想的に車両に加えられ、その反発力に基づいて車両の走行に伴う制御が行われるので、容易に且つ速やかにその物体を回避して車両を走行させることができる。一方、請求項2記載の走行制御装置では、取得手段により取得された車両の操舵に関する操舵情報に基づいて、車両の進路が予測手段によって予測されると、所定領域として用意された基準領域に対して、予測手段により予測された進路の方向における所定領域の範囲が広くなるように基準領域を変形して所定領域が生成され、その生成された所定領域が設定手段により設定される。これにより、車両の進路の方向における所定領域の範囲が広く設定されるので、車両の進行先にある物体との衝突回避を確実に行うことができる。また、車両の進路の方向とは異なる方向の所定領域の範囲は、基準領域の範囲とされるので、車両の進行方向とは関係のない場所にある物体との衝突回避が行われることを抑制できる。よって、車両の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0010】
請求項3記載の走行制御装置によれば、請求項1又は2に記載の走行制御装置の奏する効果に加えて、次の効果を奏する。即ち、車両の運転者により回転操作される操作手段の回転量が、操舵情報として取得手段により取得される。そして、その取得された操作手段の回転量に基づいて車両のヨーレートが算出され、その算出されたヨーレートに基づいて車両の進路が予測手段により予測される。これにより、運転者による操作手段の回転操作により示された、運転者の進行したい方向に基づいて、車両の進路が予測されることになるので、設定手段により設定される所定領域は、運転者が希望する進路の方向が広くなる。よって、運転者が希望する進行先の影響を考慮しながら、物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0011】
請求項4記載の走行制御装置によれば、請求項3記載の走行制御装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、取得手段により取得された操作手段の回転量が所定量よりも小さいと判断手段により判断されると、車両の姿勢からヨーレート検出手段によって検出された車両のヨーレートに基づいて車両の進路が予測手段により予測される。ここで、例えば、車両が走行する路面が、車両の前後方向と直行する左右方向に傾いている場合、運転者は、操作手段を少しだけ回転操作した状態で維持することで、車両を直進させる動作を行う。この場合、車両にはヨーレートが発生しないが、操作手段の回転量からヨーレートを算出すると若干のヨーレートを有することになり、車両の進路として誤った進路を予測するおそれがある。これに対し、請求項4記載の走行制御装置では、このような場合に、車両の姿勢からヨーレート検出手段によって検出された車両のヨーレートに基づいて車両の進路を予測するので、車両の進路をより正確に予測できる。よって、車両が実際に進む進路の方向に所定領域を広げることができるので、物体の衝突回避をより確実に行うことができるという効果がある。
【0012】
請求項5記載の車両によれば、請求項1から4のいずれかに記載の走行制御装置が設けられているので、その車両において、対応する請求項に記載の走行制御装置と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における車両を模式的に示した模式図である。
【図2】走行制御装置における物体の衝突回避方法を説明する説明図である。
【図3】走行制御装置を含む車両の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】(a)は、仮想バンパー領域の基準形状を模式的に示す模式図であり、(b)は、車両の進路方向を考慮して設定された仮想バンパー領域の形状を示す模式図である。
【図5】バネ設定テーブルメモリの内容を模式的に示した模式図である。
【図6】物体回避処理を示すフローチャートである。
【図7】仮想バンパー設定処理を示すフローチャートである。
【図8】(a)は、予測位置へ向かう進路方向において仮想バンパー領域が広くなるように、図4(a)で示した基準形状に対して変形を行った仮想バンパー領域を示す図であり、(a)で示した仮想バンパー領域に対し、複数のバネ72を並設した状態を示す図である。
【図9】物体回避実行処理を示すフローチャートである。
【図10】車両左右方向の反発力が加えられた場合において生じる反モーメント力によって取り得るべき車両の操舵角を算出する場合に用いるパラメータを説明する図である。
【図11】(a),(b)は、本発明を適用した仮想バンパー領域の変形例を示す図である。
【図12】(a),(b),(c)は、本発明を適用した仮想バンパー領域の変形例を示す図である。
【図13】本発明を適用した仮想バンパー領域の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態である走行制御装置100を有する車両1を模式的に示した模式図である。
【0015】
まず、図1を参照して、車両1の構成について説明する。車両1は、その車両1の周囲に物体が存在する場合に、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができるように構成されている。
【0016】
なお、図1において、矢印Fによって示される方向が車両1の前方向を示している。この矢印Fは、その他の図面においても同様に、矢印Fによって示される方向を車両1の前方向として示している。また、以下の説明において、車両1が矢印F方向に進行する場合を「前進」、車両1が矢印F方向とは逆方向に進行する場合を「後退」と称す。
【0017】
走行制御装置100は、車両1の走行を制御するコンピュータ装置である。この走行制御装置100によって、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避が行われる。
【0018】
ここで、図2を参照して、走行制御装置100における物体の衝突回避の方法について、その概略を説明する。図2は、走行制御装置100における物体の衝突回避方法を説明する説明図である。
【0019】
走行制御装置100は、車両1周囲に、衝突を避けるべき物体を検出する領域として、仮想バンパー領域71を設定(形成)する。なお、詳細については後述するが、本実施形態では、図2のような楕円形を仮想バンパー領域71の基準形状とし、車両1の進路方向における仮想バンパー領域71が広くなるようにその形状を変形させたうえで(図4(b)参照)、仮想バンパー領域71を設定(形成)する。
【0020】
走行制御装置100は、その仮想バンパー領域71に、複数のバネ72を仮想的に並設することで、仮想バンパーを構成することを想定する。このとき、各バネ72は、いずれも、一端を車両1の外周11に取着した状態で、他端が仮想バンパー領域71の外縁71aに位置するように、仮想バンパー領域71に並設されることを走行制御装置100にて想定する。また、各バネ72の一端は、車両1の外周11において、10cm間隔で取着されることを走行制御装置100にて想定する。
【0021】
更に、車両1の前方側または後方側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72f,72bは、一端が車両1の前方先端(前端)または後方先端(後端)に取着された状態で、バネの長さ方向が車両1の前後方向と平行となるように配設され、他端は車両1前方側または後方側の外縁71aに位置されることを走行制御装置100にて想定する。
【0022】
車両1の右側または左側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72r,72lは、一端が車両1の右側面または左側面に取着された状態で、バネの長さ方向が車両1の左右方向と平行となるように配設され、他端は車両1右側または左側の外縁71aに位置されることを想定する。
【0023】
また、車両1の右前コーナー,左前コーナー,左後コーナー,右後コーナー側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72fr,72fl,72bl,72brは、一端が車両1の対応するコーナー部分に取着された状態で、バネの長さ方向が、車両1の右前方向,左前方向,左後方向または右後方向となるように配設され、他端が車両1の左前コーナー,左後コーナー,右後コーナー側の外縁71aに位置されることを想定する。
【0024】
走行制御装置100は、車両1に設けられた後述の第1〜第4カメラ26a〜26d(図1参照)によって取得された画像から、車両1の周辺にある物体の位置を判断し、以下に従って、その物体80との衝突を回避するための反発力Frを算出する。
【0025】
即ち、走行制御装置100は、仮想バンパー領域71内に仮想的に並設されたバネ72のうち、物体80の存在によって収縮されたバネ73を検索する。そして、収縮されたバネ73がある場合、仮想バンパー領域71内に物体80が存在するとして、そのバネ73の収縮量dを物体80と車両1との位置関係から判断し、その収縮量dに基づいて、バネ73に生じる弾性力Feを以下の式(1)により算出する。なお、以下の式(1)において、knはバネ73のバネ定数である。
【0026】
Fe=kn×d ・・・(1)
走行制御装置100は、弾性力Feの反作用として、その弾性力Feが発生したバネ73の一端が取着されている車両1上の点に、反発力Frが、バネ73の長さ方向に車両1の内側に向けて加えられるものとする。
【0027】
例えば、図2に示すように、物体80によって収縮されたバネ73が、車両1の前方に配設されたバネ72fの一つであった場合、そのバネ72fが取着された車両1上の点に、車両1に対して後向きの反発力Fr1が車両1に加えられる。同様に、バネ73が車両1の左側または右前方向に配設されたバネ72l,72frの一つであった場合、そのバネ72l又はバネ72frが取着された車両1上の点に、車両1に対して右向き又は左後向きの反発力Fr2又はFr3が車両1に加えられる。つまり、各バネ72が取着される車両1の外周11上の点が、反発力Frが加えられる作用点となる。
【0028】
走行制御装置100は、各バネ72(73)から加えられた反発力Frの前後方向成分(車両1の前後方向と同じ方向の成分)を合成して、車両1の重心Cに加えられる車両1の前後方向の反発力Fryを算出する。また、各バネ72(73)から加えられた反発力Frの左右方向成分(車両1の前後方向に対する左右方向と同じ方向の成分)から、車両1の重心Cに加えられる反モーメント力Mを算出する。
【0029】
そして、走行制御装置100は、車両1の重心Cに加えられた前後方向の反発力Fryに基づいて、その反発力Fryによって生じる車両1の加速度を算出する。走行制御装置100には、車両1に設けられたアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量に関する情報も入力される。走行制御装置100は、現在の車両1の速度と、運転者によって踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量と、前後方向の反発力Fryによって生じる車両1の加速度とから、目標とすべき車両速度を決定し、その目標とすべき車両速度を示す制御信号を、後述する車輪駆動装置3(図1参照)へ送信する。これにより、車両1が、前後方向の反発力Fryによって生じる車両1の加速度を反映させた速度で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。
【0030】
また、走行制御装置100は、その算出した反モーメント力Mに応じて車両1の操舵角を算出して、その操舵角を示す制御信号を、後述する操舵駆動装置5(図1参照)へ送信する。これにより、車両1が、反発力Frによって生じる反モーメント力を反映させた操舵角で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。
【0031】
このように、走行制御装置100は、仮想バンパー領域71内に存在する物体との衝突を回避するために、仮想的に並設したバネ72の一部(バネ73)が物体80によって収縮されたものとし、そのバネ73の弾性力Feを算出して、その反作用として反発力Frが車両1に加えたものとすることで、その反発力Frに基づいて、車両1の速度や操舵角を制御する。これにより、容易に且つ速やかに、その物体80を回避しながら車両1を走行させることができる。
【0032】
また、物体80が車両1に近いほど、仮想バンパー領域71内に想定上並設されているバネ72の一部(バネ73)がその物体80によって大きく縮められる。バネの弾性力Feはバネの収縮量(縮み量)が大きいほど大きいので、物体80が車両1に近いほど、大きな反発力Frを車両1に加えることができる。よって、物体80が車両1に近いほど大きくなる反発力Frにより、確実に物体80との衝突を回避できる。
【0033】
なお、走行制御装置100には、車両1に設けられ、運転者によって回転操作される後述のステアリングホイール13(図1参照)から、ステアリングホイール13の回転角速度を示す情報も入力されている。反力Frが車両1に仮想的に加えられていない場合、即ち、仮想バンパー領域71内に物体が存在しない場合には、走行制御装置100は、ステアリングホイール13の回転角速度を積分して得られるステアリングホイール13の操舵角に応じて車両1の操舵角を決定し、その操舵角を示す制御信号を操舵駆動装置5へ送信する。
【0034】
図1に戻って、車両1の構成について説明を続ける。車両1は、走行制御装置100の他に、複数(本実施形態では4輪)の車輪2FL,2FR,2RL,2RRと、それら複数の車輪2FL〜2RRの内の一部(本実施形態では、左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、複数の車輪2FL〜2RRの内の一部(本実施形態では、左右の前輪2FL,2FR)を操舵するステアリング装置6及び操舵駆動装置5と、各車輪2FL〜2RRの車輪速を検出する第1〜第4車輪速検出センサ12FL〜12RRと、運転者から車両1の操舵方向の指示を受け付けるステアリングホイール13と、車両1の周囲を第1〜第4カメラ26a〜26dと、ジャイロセンサ装置27とを主に有している。
【0035】
車輪2FL,2FRは、車両1の前方側に配置される左右の前輪であり、車輪駆動装置3によって回転駆動される駆動輪として構成されている。一方、車輪2RL,2RRは、車両1の後方側に配置される左右の後輪であり、車両1の走行に伴って従動する従動輪として構成されている。
【0036】
車輪駆動装置3は、左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与するものであり、デファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに接続されている。車輪駆動装置3は、走行制御装置100から通知された、目標とすべき車両速度を示す制御信号に基づき、ドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する。これにより、車両1は、走行制御装置100から通知された車両速度に応じた速度で走行する。
【0037】
なお、車輪駆動装置3は、走行制御装置100から、その走行制御装置100によって算出された反発力Frの車両1の前後方向の反発力Frfによって生じる車両1の加速度を示す制御信号を受け取り、その車両1の加速度と、運転者によって踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量と、現在の車両1の速度とから目標とすべき車両速度を算出して、その目標とすべき車両速度となるように、ドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与してもよい。
【0038】
操舵駆動装置5は、左右の前輪2FL,2FRを操舵するための装置であり、ステアリング装置6に回転駆動力を付与する電動モータ5a(図3参照)を備えて構成されている。ステアリング装置6は、ステアリングシャフト61と、フックジョイント62と、ステアリングギヤ63と、タイロッド64と、ナックルアーム65とを主に備えて構成されている。なお、ステアリング装置6は、ステアリングギヤ63がピニオン(図示せず)とラック(図示せず)とを備えたラックアンドピニオン機構によって構成されている。
【0039】
操舵駆動装置5は、走行制御装置100から車両1の操舵角を示す制御信号を受信すると、その操舵角に応じて電動モータ5aを駆動し、電動モータ5aの回転駆動力がステアリング装置6のステアリングシャフト61に付与される。その回転駆動力は、ステアリングシャフト61を介してフックジョイント62に伝達されると共にフックジョイント62によって角度を変えられ、ステアリングギヤ63のピニオンに回転運動として伝達される。そして、ピニオンに伝達された回転運動はラックの直線運動に変換され、ラックが直線運動することで、ラックの両端に接続されたタイロッド64が移動し、ナックルアーム65を介して前輪2FL,2FRが操舵される。これにより、車両1は、走行制御装置100から指示された操舵角で、前輪2FL,2FRが操舵される。
【0040】
第1車輪速検出センサ12FLは、車輪2FLに設けられ、車輪2FLの車輪速を検出するセンサである。また、第2車輪速検出センサ12FR,第3車輪速検出センサ12RL,第4車輪速検査12RRは、それぞれ対応する車輪2FR,2RL,2RRに設けられ、その対応する車輪2FL,2RL,2RRの車輪速を検出するセンサである。第1〜第4車輪速検出センサ12FL〜12RRによって検出された各車輪2FR〜2RRの車輪速は、走行制御装置100に入力され、走行制御装置100において、この入力された車輪速に基づいて車両1の速度(車両速度)が算出される。
【0041】
ステアリングホイール13は、車両1の搭乗者から回転操作されることで、車両1の操舵方向の指示を受け付けるものである。ステアリングホイール13は、搭乗者によって回転操作されると、その回転角速度を走行制御装置100へ送信する。なお、ステアリングホイール13は、搭乗者によって回転操作された回転角を走行制御装置100へ送信してもよい。そして、走行制御装置100が、ステアリングホイール13から取得した回転角を微分して、回転角速度を算出してもよい。
【0042】
第1〜第4カメラ26a〜26dは、車両1の周囲を撮像するための撮像装置であり、CCDイメージセンサや、CMOSイメージセンサなどの撮像素子が搭載されたデジタルカメラで構成されている。各第1〜第4カメラ26a〜26dは、撮像した画像を画像データに変換して走行制御装置100へ出力する。
【0043】
第1カメラ26aは、車両1の前方中央に配設され、第2カメラ26bは、車両1の後方中央に配設され、第3カメラ26cは、車両1の右側面のサイドミラー(非図示)に配設され、第4カメラ26dは、車両1の左側面のサイドミラー(非図示)に配設されている。本実施形態では、4つの第1〜第4カメラ26a〜26dにより、車両1を中心として車両1の前後方向に少なくとも30mと、車両1を中心として車両1の左右方向に少なくとも15mの範囲を撮像可能に構成されている。なお、第1〜第4カメラ26a〜26dによって撮像可能な範囲は、適宜設定されるものであってよい。
【0044】
各第1〜第4カメラ26a〜26dは、撮像した画像を画像データに変換して走行制御装置100へ出力する。走行制御装置100へ出力された画像データは、その走行制御装置100によって解析され、車両1の周囲に存在する物体と、車両1を基準としたその物体の位置とが検出される。そして、検出された物体の位置から、仮想バンパー領域71内に物体が存在するか否かが判断される。また、仮想バンパー領域71内に物体が存在する場合には、走行制御装置100において、その物体の位置から収縮されるバネ73(図2参照)が検索され、そのバネ73にかかる弾性力が算出されて、車両1に加えられる反発力が求められる。
【0045】
ジャイロセンサ装置72は、車両1の水平面に対するヨーレートを検出し、その検出結果を走行制御装置100へ出力するための装置であり、車両1の重心Cを通る上下方向軸回りの車両1の回転角であるヨー角を検出するセンサ部(図示せず)と、そのセンサ部の検出結果を処理してヨー角の時間的変化量であるヨーレートを検出し、CPU91へ出力する出力回路(図示せず)とを主に備えている。
【0046】
次いで、図3を参照して、走行制御装置100の詳細構成について説明する。図3は、走行制御装置100を含む車両1の電気的構成を示したブロック図である。
【0047】
走行制御装置100は、CPU91、フラッシュメモリ92及びRAM93を有しており、それらがバスライン94を介して入出力ポート95に接続されている。入出力ポート95には、上述した、車輪駆動装置3,操舵駆動装置5、第1〜第4車輪速センサ12FL〜12RR、ステアリングホイール13、第1〜第4カメラ26a〜26d、ジャイロセンサ装置27、及び、その他の入出力装置99などが接続されている。
【0048】
CPU91は、入出力ポート95に接続された第1〜第4車輪速センサ12FL〜12RR、ステアリングホイール13、第1〜第4カメラ26a〜26d、ジャイロセンサ装置27等から送信された各種の情報に基づいて、車輪駆動装置3や操舵駆動装置5等を制御する演算装置である。
【0049】
フラッシュメモリ92は、CPU91によって実行される制御プログラムや固定値データ等を記憶するための書き換え可能な不揮発性のメモリである。このフラッシュメモリ92には、プログラムメモリ92aと基準形状メモリ92bとが設けられている。
【0050】
プログラムメモリ92aは、CPU91にて実行される各種のプログラムが格納されたフラッシュメモリ92上の領域である。後述する図6のフローチャートに示す物体回避処理、図7のフローチャートに示す仮想バンパー設定処理、図9のフローチャートに示す物体回避実行処理をCPU91にて実行されるための各プログラムは、このプログラムメモリ92aに格納されている。CPU91は、このプログラムメモリ92aに格納された各プログラムに従って各種処理を実行することで、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うよう、車両1の走行を制御する。
【0051】
基準形状メモリ92bは、仮想バンパー領域71の基準形状を規定するパラメータを格納するメモリである。ここで、図4(a)を参照して、仮想バンパー領域71の基準形状について説明する。図4(a)は、仮想バンパー領域71の基準形状を模式的に示す模式図である。
【0052】
仮想バンパー領域71の基準形状は、図4(a)に示す通り、車両1の重心Cを中心とし、車両1の前後方向を長軸、車両1の左右方向を短軸として、短径をa、長径をbとする楕円である。基準形状メモリ92bには、この短径a及び長径bの大きさが格納されている。走行制御装置100(CPU91)では、この短径a及び長径bによって規定される基準形状を基に、所定時間間隔毎(本実施形態では、50ミリ秒毎)に、車両1の進路方向の仮想バンパー領域71の範囲を広げる変形を行って、図4(b)に示すような仮想バンパー領域71を設定(形成)する。
【0053】
なお、基準形状メモリ92bに格納された短径a、長径bの値は、車両1に設けられた操作パネル(図示せず)を運転者(搭乗者)が操作することにより、その運転者(搭乗者)によって設定変更可能に構成されてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、基準形状の楕円の中心を車両1の重心Cとする場合について説明するが、必ずしも車両1の重心Cとする必要はなく、任意の場所に設定されてよい。例えば、車両1中央の前後軸と、後輪軸(後輪2RL,2RRを結んだ直線)との交点に、その楕円の中心としてもよい。また、その楕円の中心位置(座標)も基準形状メモリ92bに格納するようにし、運転者(搭乗者)が操作パネル(図示せず)を操作することにより、その運転者(搭乗者)によって楕円の中心位置(座標)を設定変更可能に構成してもよい。
【0055】
図3に戻り説明を続ける。RAM93は、書き換え可能な揮発性のメモリであり、CPU91によって実行される制御プログラムの実行時に各種のデータを一時的に記憶するためのメモリである。RAM93には、車両速度メモリ93aと、操舵角メモリ93bと、バネ設定テーブルメモリ93cが設けられている。
【0056】
車両速度メモリ93aは、車両1の車両速度を格納するメモリである。走行制御装置13では、第1〜第4車輪速度検出センサ12FL〜12RRから入力される各車輪2FL〜2RRの車輪速に基づき、車両速度を算出し、その算出した車両速度を車両速度メモリ93aに格納する。
【0057】
操舵角メモリ93bは、ステアリングホイール13の操舵角を格納するメモリである。走行制御装置113では、ステアリングホイール13から入力される、運転者がそのステアリングホイール13を回転操作したときの回転角速度を積分して、ステアリングホイール13の操舵角を算出し、その算出したステアリングホイール13の操舵角を操舵角メモリ93bに格納する。
【0058】
車両メモリ93aに格納された車両1の車両速度、及び、操舵角メモリ93bに格納されたステアリングホイール13の操舵角は、車両1の進路を算出する場合に用いられる。具体的には、車両1の車両速度と、ステアリングホイール13の操舵角とから、車両1のヨーレートを算出し、現在の車両1の位置から車両1の進路を予測し、t秒経過後の車両位置(以下、「予測位置」と称す)Dvbを求める。この予測位置Dvbの求め方については、図7を参照して後述する仮想バンパー設定処理(S11)の説明の中で後述する。
【0059】
図4(b)は、走行制御装置100において、車両1の進路方向を考慮して設定(形成)された仮想バンパー領域71の形状を示す模式図である。走行制御装置100では、t秒経過後の車両位置である予測位置Dvbを求めると、図4(a)で示した基準形状に対し、車両1が予測位置Dvbへ向かう進路方向において仮想バンパー領域71が広くなるように変形処理を行い、図4(b)に示すような仮想バンパー領域71を形成して設定する。
【0060】
走行制御装置100(CPU91)では、この図4(b)に示す仮想バンパー領域71を設定すると、図2に示した並べ方で、その仮想バンパー領域71内に複数のバネ72を仮想的に並設することで、その仮想バンパー領域71内に物体80が存在する場合に、その物体80を回避するための反発力Frを車両1に加える。ここで、車両1の進路方向における仮想バンパー領域71が広く設定されるので、車両1の進行先にある物体80との衝突回避を確実に行うことができる。一方、車両1の進路方向とは異なる方向においては、仮想バンパー領域71が車両1の進路方向と比して相対的に狭く設定されるので、車両1の進路方向とは関係のない場所にある物体との衝突回避動作を抑制できる。よって、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【0061】
図3に戻り説明を続ける。バネ設定テーブルメモリ93cは、仮想バンパー領域71に仮想的に並設した複数のバネ72に関する情報を記憶するメモリである。ここで、図5を参照して、バネ設定テーブルメモリ93cの詳細について説明する。図5は、バネ設定テーブルメモリ93cの内容を模式的に示した模式図である。
【0062】
走行制御装置100(CPU91)は、仮想バンパー領域71を設定(形成)すると、その仮想バンパー領域71内に複数のバネ72を仮想的に並設する。その並設されたバネ72の情報として、図5に示す通り、バネ72毎に、バネ72の識別情報であるバネ番号nに対応付けて、そのバネ番号nで示されるバネの作用点X座標Xpnと、作用点Y座標Ypnと、外郭X座標Xcnと、外郭Y座標Ycnと、取付角度αnと、バネ長Lvbnと、バネ定数knとを格納する。
【0063】
バネ番号nは、並設されたバネ1本1本を識別するための情報である。本実施形態では、車両1の前端に取着されたバネ72fの一番右側になるバネのバネ番号nを1とし、バネ番号1のバネから順に、反時計回りに各バネ72に対してバネ番号nを1ずつ大きくしながら、バネ番号nを割り振る。
【0064】
作用点X座標Xpn,作用点Y座標Ypnは、バネ番号nのバネにおける一端が、車両1に取着される点、つまり、そのバネの反発力Frが作用する作用点の座標を示すものである。本実施形態では、車両1中央の前後軸をY軸(車両1の前方向、即ち、矢印Fで示す方向を正方向)とし、車両1の重心を通る左右軸(後輪軸と平行な軸)をX軸(車両1の右方向を正方向)として、X軸とY軸との交点を原点とした座標系で、作用点X座標Xpn,作用点Y座標Ypnを表す。
【0065】
外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnは、バネ番号nのバネ72における他端、つまり、仮想バンパー領域71の外郭に位置する他端の座標を示すものである。本実施形態では、上記の作用点X座標Xpn,作用点Y座標Ypnと同じ座標系で、外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnを表す。
【0066】
取付角度αnは、バネ番号nのバネ72の車両1に対する取付角度を示すものである。ここでは、車両1中央の前後軸から車両1の右方向に伸びる半直線と、各バネ72の一端と他端とを結んだ直線とのなす角度を取付角度αnとして規定する。
【0067】
つまり、車両1の前端から前方側に配設されたバネ72fは、取付角度αnが90°となる。また、車両1の左側面から左側に配設されたバネ72l,車両1の後端から後方側に配設されたバネ72b,車両1の右側面から右側に配設されたバネ72rは、それぞれ、取付角度αnが180°,270°,0°となる。
【0068】
また、車両1の右前コーナーから右前方向に配設されるバネ72fr,車両1の左前コーナーから左前方向に配設されるバネ72fl,車両1の左後コーナーから左後方向に配設されるバネ72bl,車両1の右後コーナーから右後方向に配設されるバネ72brの取付角度αnは、それぞれ、0〜90°,90°〜180°,180°〜270°,270°〜360°の範囲内で次の式(2)で定まる角度となる。
【0069】
αn=tan−1((Ypn−Ycn)/(Xpn−Xcn)) ・・・(2)
バネ長Lvbnは、バネ番号nのバネ72の自然長(バネ72を伸縮させない状態におけるバネ72の長さ)を示すものである。各バネ72のバネ長Lvbnは、バネ72の一端が接続される作用点(作用点X座標Xpn,作用点Y座標Ypnで示される点)と、バネ72の他端が位置する外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnで示される点との距離によって算出される。
【0070】
バネ定数knは、バネ番号nのバネ72のバネ定数を示すものである。なお、本実施形態では、すべてのバネ72において、バネ定数knを一定の大きさ(例えば、100N/m)とする。ただし、各バネについて、バネ定数knの大きさを異ならせてもよい。例えば、車両1の進路方向に近い位置に配設されたバネ72ほど、大きなバネ定数knを設定してもよい。これにより、車両1の進路方向に近い場所に物体80が存在するほど車両1に大きな反発力が加えられるので、より安全に物体80との衝突回避を行うことができる。
【0071】
また、バネ定数knの大きさは、操作パネル(図示せず)を運転者(搭乗者)が操作することにより、その運転者(搭乗者)によって設定変更可能に構成されてもよい。
【0072】
次いで、図6〜図10までのフローチャートと模式図とを参照して、車両1に搭載された走行制御装置100のCPU91により実行される物体回避処理について説明する。まず、図6は、この物体回避処理を示すフローチャートである。
【0073】
物体回避処理は、所定時間間隔(本実施形態では50ミリ秒)でCPU91により実行される処理で、車両1の進路方向に基づいて仮想バンパー領域71を設定(形成)し、その設定した仮想バンパー領域71内に物体80が存在する場合には、その物体80との衝突回避動を行う処理である。
【0074】
この物体回避処理が実行されると、CPU91は、まず、仮想バンパー設定処理を実行する(S11)。この仮想バンパー設定処理では、車両1の進路を予測し、図4(b)に示した予測位置Dvbを算出して、その進路方向が広くなるように仮想バンパー領域71を形成し、設定する処理を行う。この仮想バンパー設定処理の詳細については、図7を参照して後述する。
【0075】
仮想バンパー設定処理の次には、物体回避実行処理を行う(S12)。この物体回避実行処理では、仮想バンパー領域71内に物体80が存在する場合に、その仮想バンパー領域71内に仮想的に並設させた複数のバネ72の一部(バネ73)が、物体80によって収縮されたとして、そのバネ73に生じる弾性力Feの反作用として車両1に反発力Frを加え、車両1の走行を制御する処理を行う。この物体回避実行処理の詳細については、図9を参照して後述する。
【0076】
物体回避処理は、物体回避実行処理の終了後、その処理を終了する。
【0077】
次に、図7を参照して、図6の物体回避処理の一処理である仮想バンパー設定処理(S11)について説明する。図7は、この仮想バンパー設定処理を示すフローチャートである。
【0078】
仮想バンパー設定処理が実行されると、まず、第1〜第4車輪速検出センサ12FL〜12RRから入力される各車輪2FL〜2RRの車輪速を取得し、その車輪速から、車両1の車両速度Vを算出する(S21)。S21の処理では、また、算出した車両速度Vは、車両速度メモリ93aに格納する。
【0079】
次いで、ステアリングホイール13から入力される、運転者がそのステアリングホイール13を回転操作したときの回転角速度を取得し、その回転速度を積分して、ステアリングホイール13の操舵角δDを算出する(S22)。S22の処理では、また、算出した操舵角δDを操舵角メモリ93bに格納する。
【0080】
次に、ステアリングホイール13の操舵角δDの絶対値が、所定値δmin(例えば、5°)よりも大きいか否かを判断する(S23)。その結果、操舵角δDの絶対値が所定値δminよりも大きい場合(S23:Yes)、車両速度Vと、操舵角δDとに基づいて、車両1のヨーレートγstを算出して(S24)、S26の処理へ移行する。
【0081】
S24の処理では、次の式(3)によって車両1のヨーレートγstを算出する。
【0082】
γst=V・tan(Kd×δD)/Lwb ・・・(3)
ここで、Kdは、左右の前輪2FL,2FRの操舵角δTに対する、ステアリングホイール13の操舵角δDの関係を示す比例係数であり、Kd=δT/δDである。また、Lwbは、車両1の前輪軸(前輪2FL,2FRを結んだ線)と、後輪軸(後輪2RL,2RRを結んだ線)との距離(ホイールベース)である。
【0083】
S23の処理によって、操作角δDの絶対値が、所定値δmin以下であると判断される場合は(S23:No)、ジャイロセンサ装置72から車両1のヨーレートδseを取得して(S25)、S26の処理へ移行する。
【0084】
S26の処理では、S24の処理で算出した車両1のヨーレートγst、または、S25の処理で取得した車両1のヨーレートγseを用いて、車両1の進路を予測し、t秒後の予測位置Dvbを算出する(S26)。
【0085】
S26の処理では、以下の式(4)〜(7)を用いて、微小時間dt経過する毎に、ヨーレートγnを予測しながら、車両1の位置の座標(Xn,Yn)と、車両1のヨー角θnとを算出することで、車両1の進路を予測する。なお、ここで使用される座標系は、車両1中央の前後軸をY軸(車両1の前方向、即ち、矢印Fで示す方向を正方向)とし、車両1の重心を通る左右軸(後輪軸と平行な軸)をX軸(車両1の右方向を正方向)として、X軸とY軸との交点を原点とした座標系である。
【0086】
Xn=Xn−1+V・dt・cosθn−1 ・・・(4)
Yn=Yn−1+V・dt・sinθn−1 ・・・(5)
θn=θn−1+γn−1・dt ・・・(6)
γn=γn−1+G ・・・(7)
ここで、nは1以上の自然数であり、(X0,Y0)は、車両1の現在の車両位置を示す座標であり、θ0は、車両1の現在のヨー角である。また、γ0は、車両1の現在のヨーレートであって、γst又はγseである。また、Gは、ヨーレートの時間的な変化量(ヨー角の加速度)である。
【0087】
また、S26の処理では、微小時間dt毎に車両1の位置の座標(Xn,Yn)を算出すると、現在の車両1の車両位置から座標(Xn,Yn)までの予測進路における移動距離Dを次式にて算出する。
【0088】
【数1】
そして、t秒間に移動する距離となるまで、即ち、[数1]にて算出した移動距離がV・tとなるまで、(4)〜(7)の計算を繰り返し行う、即ち、積分することにより、t秒後における車両1の予測位置Dvbの座標(Xvb,Yvb)と、車両1のヨー角θvbとを算出する。
【0089】
次に、S26の処理によって算出した予測位置Dvbへ向かう進路方向において仮想バンパー領域71が広くなるように、図4(a)で示した基準形状に対して変形し、図4(b)に示すような仮想バンパー領域71を形成する処理を実行する(S27)。
【0090】
ここで、図8(a)を参照して、S27の処理の詳細について説明する。図8(a)は、予測位置Dvbへ向かう進路方向において仮想バンパー領域71が広くなるように、図4(a)で示した基準形状に対して変形を行った仮想バンパー領域71を示す図である。
【0091】
この変形では、図4(a)に示す基準形状(楕円)に対し、車両1の後輪軸より車両1の進路方向側にある楕円の一部71a1を、予測位置Dvbの位置まで、その楕円の長径が車両1のヨー角θvbの向きとなるように移動させる。そして、車両1の後輪軸より車両1の進路方向とは逆方向側にある楕円の一部71a4と、移動された楕円の一部71a1とを、円弧71a3と円弧71a4とで結び、これら71a1〜71a4を外縁として、変形後の仮想バンパー領域71を形成する。
【0092】
変形後の仮想バンパー領域71の外縁71a1〜71a4は、それぞれ、次の式によって、表される。なお、ここで使用される座標系も、S26の処理で使用した座標系と同じ座標系である。
【0093】
【数2】
【0094】
【数3】
【0095】
【数4】
【0096】
【数5】
ここで、(xVB2,yVB2)は、基準形状の楕円と車両1の後輪軸との交点であって、車両1の右側にある交点の座標であり、(xVB3,yVB3)は、基準形状の楕円と車両1の後輪軸との交点であって、車両1の左側にある交点の座標である。
【0097】
また、(xVB1,yVB1),(xVB4,yVB4)は、それぞれ、車両1の後輪軸より車両1の進路方向側にある楕円の一部71a1を、予測位置Dvbの位置まで、その楕円の長径が車両1のヨー角θvbの向きとなるように移動させた場合に、基準形状の点(xVB2,yVB2),(xVB3,yVB3)が移動する位置の座標である。
【0098】
また、(xVB0,yVB0)は、2つの点(xVB1,yVB1),(xVB4,yVB4)を結んだ直線と、車両1の後輪軸との交点の座標である。
【0099】
以上の[数2]〜[数4]により、仮想バンパー領域71が形成され、設定される。
【0100】
次に、バンパー形成処理を実行する(S28)。このバンパー形成処理では、図8(b)に示すように、仮想バンパー領域71内に、バネ72を仮想的に並設する。具体的には、各バネ72の一端を、車両1の外周11において、10cm間隔で取着する。そして、車両1の前方側または後方側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72f,72bは、一端が車両1の前方先端(前端)または後方先端(後端)に取着された状態で、バネの長さ方向が車両1の前後方向と平行となるように配設し、他端を車両1前方側または後方側の外縁71aに位置させる。
【0101】
また、車両1の右側または左側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72r,72lは、一端が車両1の右側面または左側面に取着された状態で、バネの長さ方向が車両1の左右方向と平行となるように配設し、他端を車両1右側または左側の外縁71aに位置させる。
【0102】
また、車両1の右前コーナー,左前コーナー,左後コーナー,右後コーナー側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72fr,72fl,72bl,72brは、一端が車両1の対応するコーナー部分に取着された状態で、バネの長さ方向が、車両1の右前方向,左前方向,左後方向または右後方向となるように配設し、他端を車両1の左前コーナー,左後コーナー,右後コーナー側の外縁71aに位置させる。
【0103】
S28の処理では、このようにして配設した各バネ72のバネ情報をバネ設定テーブルメモリ93cに格納することで、バネ72の設定を完了する。そして、S28の処理の終了後、仮想バンパー設定処理を終了し、物体回避処理へ戻る。
【0104】
以上、仮想バンパー設定処理を実行することにより、車両1の進路方向における仮想バンパー領域71が広く設定されるので、車両1の進行先にある物体80との衝突回避を確実に行うことができる。一方、車両1の進路方向とは異なる方向においては、仮想バンパー領域71が車両1の進路方向と比して相対的に狭く設定されるので、車両1の進路方向とは関係のない場所にある物体との衝突回避動作を抑制できる。よって、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【0105】
また、車両1の進路方向(車両1から見た予定位置Dvbの方向)にある仮想バンパー領域71は広く設定されており、その方向での仮想バンパー領域71の外縁71aから車両1までの距離が長い。これにより、車両1の進路方向には、バネ長Lvbnの長いバネ72が設けられることになり、車両1の進路方向とは異なる方向には、車両1の進路方向と比して、バネ長Lvbnの短いバネ72が設けられることになる。
【0106】
ここで、車両1の進路方向では、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が長く、バネ長Lvbnの長いバネ72が設定されるので、車両1の進路方向に物体80が存在する場合に、早くから車両1に反発力Frを加えることができ、その物体80が車両1に近づくと、より大きな反発力Frを車両1に加えることができる。よって、この場合、その反発力Frを運転者が感じることによって、安心して運転を行うことができる。
【0107】
また、車両1の進路方向とは異なる方向において、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が長く、バネ長Lvbnの長いバネ72が設定されると、車両1の進行先とは全く関係のない場所に物体80があったとしても、大きな反発力Frが車両に加えられ、場合によっては、運転者が所望する進路方向とは別の方向に車両の進路方向が曲げられてしまって、運転者に不満感を与えるおそれがある。
【0108】
これに対し、車両1の進路方向とは異なる方向には、車両1から仮想バンパー領域71の外縁71aまでの距離が短く、バネ長Lvbnの短いバネ72が設定されるので、車両1の進行先とは全く関係のない場所に物体80があった場合であっても、反発力Frが車両に加えられないか、若しくは、小さな反発力Frが車両に加えられる。よって、運転者に不満感を与えることなく、物体80の衝突回避を適切に行うことができる。
【0109】
従って、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0110】
また、S23,S24の処理により、ステアリングホイール13の操舵角δDの絶対値が所定値δminより大きい場合に、その操舵角δDに基づいて車両1のヨーレートγstが算出され、そのヨーレートγstに基づいて車両1の進路が予測されて、仮想バンパー領域71が形成される。これにより、運転者によるステアリングホイール13の回転操作により示された、運転者の進行したい方向に基づいて、車両1の進路が予測されることになるので、仮想バンパー領域71は、運転者が希望する進路の方向が広くなる。よって、運転者が希望する進行先の影響を考慮しながら、物体80の衝突回避を行うことができる。
【0111】
更に、S23,S25の処理により、ステアリングホイール13の操舵角δDの絶対値が所定値δmin以下の場合は、ジャイロセンサ装置72によって検出された車両1のヨーレートδseを取得し、そのヨーレートγseに基づいて車両1の進路が予測されて、仮想バンパー領域71が形成される。
【0112】
ここで、例えば、車両1が走行する路面が、車両1の前後方向と直行する左右方向に傾いている場合、運転者は、ステアリングホイール13を少しだけ回転操作した状態で維持することで、車両1を直進させる動作を行う。この場合、車両1にはヨーレートγが発生しないが、ステアリングホイール13の回転量からヨーレートγstを算出すると若干のヨーレートを有することになり、車両1の進路として誤った進路を予測するおそれがある。これに対し、仮バンパー設定処理では、このような場合に、車両1の姿勢からジャイロセンサ装置72によって検出された車両1のヨーレートγseに基づいて車両1の進路を予測するので、車両1の進路をより正確に予測できる。よって、車両1が実際に進む進路の方向に所定領域を広げることができるので、物体1の衝突回避をより確実に行うことができる。
【0113】
次いで、図9を参照して、図6の物体回避処理の一処理である物体回避実行処理(S12)について説明する。図9は、この物体回避実行処理を示すフローチャートである。
【0114】
物体回避実行処理が実行されると、CPU91は、まず、第1〜第4カメラ26a〜26dにて撮像された画像の画像データから、車両1の周囲に存在する物体80と、車両1を基準としたその物体80の位置とを判断する(S51)。次に、S51の処理にて判断された物体80の位置と、バネ設定テーブルメモリ93cに格納された各バネ72のバネ情報とから、物体80の存在によって、仮想バンパー領域71内に仮想的に並設されたバネ72の中から収縮されたバネ73を検索する(S52)。
【0115】
そして、S52の処理の結果、収縮されたバネ73があるか否かを判断する(S53)。その結果、収縮されたバネ73がなければ(S53:No)、仮想バンパー領域71内に物体80がないと判断し、そのまま物体回避実行処理を終了する。
【0116】
一方、収縮されたバネ73があると判断された場合(S53:Yes)、仮想バンパー領域71内に物体80があると判断できるので、次に説明するS54〜S59の処理を実行して、物体80を回避するよう、車両1の走行を制御する。
【0117】
まず、S54の処理では、収縮したバネ73から車両1に対して加えられる反発力Frを算出する(S54)。反発力Frの大きさは上述の式(1)によって算出される。このとき、式(1)で用いるバネ定数は、収縮したバネ73のバネ定数をバネ設定テーブルメモリ93cより取得する。なお、収縮したバネ73が複数ある場合は、それぞれのバネ73から加えられる反発力の向きも考慮して、すべてのバネ73から車両1に加えられる反発力を算出する。
【0118】
次に、S54の処理にて算出した各バネ72(バネ73)から加えられた反発力Frの前後方向成分を合成して、車両1の重心Cに加えられる前後方向の反発力Fryを算出する。(S55)。そして、以下の式(8)により、車両1の加速度aを算出する(S56)。
【0119】
a=Fry/m ・・・(8)
ここで、mは、車両1の重量(質量)である。
【0120】
続くS58の処理では、前進時において、S54の処理にて算出した各バネ72(73)から加えられた反発力Frの左右方向成分から、車両1の重心Cに加えられる反モーメント力Mを算出する(S58)。
【0121】
そして、算出した反モーメント力Mから、以下の式により、車両1の操舵角δfを算出する。
【0122】
【数6】
なお、車両1が前進する場合、後進する場合のいずれにおいても、その車両速度が毎秒0.5m以下である場合、次の式(9)により、車両1の操舵角δfを算出する。
【0123】
δf=−M/(2・Kf・Lf) ・・・(9)
ここで、[数6],式(9)の各式で用いられる各種パラメータの意味について、図10を参照して説明する。図10は、反モーメント力によって取り得るべき車両1の操舵角δfを算出する場合に用いるパラメータを説明する図である。
【0124】
まず、Lfは、前輪軸と車両1の重心との距離であり、Lrは、後輪軸と車両1の重心との距離である。Kfは、前輪等価コーナーリングスティフネスであり、Krは、後輪等価コーナーリングスティフネスである。βは、重心位置における車両1の横滑り角であり、γは車両1のヨーレートである。Vは、車両速度である。なお、図10において、δrは、後輪における操舵角であるが、本実施形態における車両1は、前輪のみ操舵可能であるので、δrを0として取り扱っている。
【0125】
図9に戻り説明を続ける。S58の処理が終了すると、続いて、S59の処理を実行する。S59の処理では、S56の処理により算出した加速度aと、現在の車両1の速度と、運転者によって踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量とから、目標とすべき車両速度を決定し、その目標とすべき車両速度を示す制御信号を、後述する車輪駆動装置3(図1参照)へ送信する。また、S59の処理では、S58の処理により算出した操舵角δfを示す制御信号を、後述する操舵駆動装置5(図1参照)へ送信する。そして、S59の処理の終了後、物体回避実行処理を終了する。
【0126】
このS59の処理により、車両1が、前後方向の反発力Fryによって生じる車両1の加速度を反映させた速度で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。また、車両1が、左右方向の反発力によって生じる反モーメント力Mを反映させた操舵角で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。よって、容易に且つ速やかに、その物体80を回避しながら車両1を走行させることができる。
【0127】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記各実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0128】
上記実施形態では、仮想バンパー設定処理(図7)のS27の処理において、図4(a)に示す基準形状を、図8(a)に示す形状に変形させる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、仮想バンパー領域71が、進路方向において広く設定されれば、仮想バンパー領域71の変形の方法は種々の方法が採用され得る。
【0129】
例えば、図11に示す通り、車両1の重心C(または、車両1中央の前後軸と後輪軸とが交わる点)が、t秒後に予想位置Dvb(xvb,yvb)の位置にあると予測される場合に、基準形状の楕円の長軸が、現在の車両1の重心C(または、車両1中央の前後軸と後輪軸とが交わる点)から予想位置Dvbとを結んだ直線上に位置するように、基準形状の楕円を回転させることで、仮想バンパー領域71を形成してもよい。この場合、図11(b)に示される回転後の仮想バンパー領域71は、次式で表すことができる。なお、図11で示される、車両1中央の前後軸と、現在の車両1の重心C(または、車両1中央の前後軸と後輪軸とが交わる点)から予想位置Dvbとを結んだ直線とのなす角度αは、左回りを正とし、右回りを負とした値である。
【0130】
【数7】
これにより、仮想バンパー領域71が、進路方向において広く設定されるので、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【0131】
また、上記実施形態において、仮想バンパー領域71の基準形状を図4(a)に示すような楕円形状とする場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。例えば、図12(a)に示す通り、車両1中央の前後軸と車両1の前輪軸との交点、及び、その前後軸と車両1の後輪軸との交点を中心とする扇形形状をした領域を、車両1の前方方向と後方方向とに設けた形状を、仮想バンパー領域71の基準形状としてもよい。この場合、基準形状メモリ92bには、扇形の半径と、扇形の範囲(例えば、図12(a)に示す角度θvb1〜θvb4)を格納してもよい。
【0132】
図12(a)に示す形状を仮想バンパー領域71の基準形状とした場合、仮想バンパー設定処理のS27の処理では、図12(b)又は図12(c)に示す方法で、仮想バンパー領域71の進路方向が広くなるように変形してもよい。即ち、車両1の重心C(または、車両1中央の前後軸と後輪軸とが交わる点)が、t秒後に予想位置Dvb(xvb,yvb)の位置にあると予測される場合に、少なくとも車両1の進路方向(図12(b),(c)の例では、車両1の前方方向)にある扇形の範囲を、予想位置Dvb側に傾けるようにしてもよい。具体的には、車両1中央の前後軸と、現在の車両1の重心C(または、車両1中央の前後軸と後輪軸とが交わる点)から予想位置Dvbとを結んだ直線とのなす角度α(ただし、左回りを正とし、右回りを負、図12の場合α<0)とした場合に、S27の処理において、車両1の進路方向にある扇形の範囲θvbを次の式(10)のように設定すればよい。
【0133】
θvb1+α <= θvb <= θvb2+α ・・・(10)
これにより、扇形が基準形状の仮想バンパー領域71においても、進路方向において広く設定されるので、車両1の進行先の影響を考慮しつつ、運転者に安心感を与えながら物体80の衝突回避を行うことができる。
【0134】
また、この場合、車両1の進路方向とは逆方向側(図12(b),(c)の例では、車両1の後方方向側)にある扇形の範囲については、図12(a)と同じ範囲(θvb3<=θvb<=θvb4)としてもよいし、図12(b)に示すように、車両1の左右方向において予想位置Dvbが存在する方向(図12(b)の例では右方向)とは逆の方向(図12(b)の例では左方向)に、その範囲を広げてもよい。また、図12(c)に示すように、車両1の進路方向とは逆方向側(図12(c)の例では、車両1の後方方向側)にある扇形の範囲を、車両1の左右方向において予想位置Dvbが存在する方向(図12(c)の例では右方向)と同じ方向(図12(c)の例では右方向)に、その範囲を広げてもよい。
【0135】
図12(b)の例においては、車両1の進路方向とは逆方向側にある扇形の範囲θvbを次の式(11)のように設定すればよい。
【0136】
θvb3+α <= θvb <= θvb4+α ・・・(11)
また、図12(c)の例においては、車両1の進路方向とは逆方向側にある扇形の範囲θvbを次の式(12)のように設定すればよい。
【0137】
θvb3−α <= θvb <= θvb4−α ・・・(12)
更に、車両1の進路方向とは逆方向側にある扇形の範囲θvbを次の式(13)のように設定し、図12(b)と図12(c)とを合わせた範囲を、車両1の進路方向とは逆方向側にある扇形の範囲に設定してもよい。
【0138】
θvb3−|α| <= θvb <= θvb4+|α| ・・・(13)
車両1の運転者は、車両1を旋回させる場合、特に車両1の内輪差に注意して、車両1の内輪側を気にしながら運転する。車両1の進路方向とは逆方向側にある扇形の範囲を、式(11)(図12(b))や式(13)のように設定すれば、運転者が車両1の外輪側にある物体に気付かなかった場合でもその物体との衝突回避を早い段階から始めることができる。
【0139】
また、車両1の進路方向とは逆方向側にある扇形の範囲を、式(12)(図12(c))や式(13)のように設定すれば、車両1の内輪側にある物体との衝突回避を早い段階から始めることができるので、車両1の内輪差を考慮しながら車両1の走行を制御することができる。
【0140】
上記実施形態における仮想バンパー領域71では、反発力Frが作用する作用点を車両1の外周に分散させ、その分散させた作用点から仮想バンパー領域71の外縁71aに向けて仮想的にバネ72を並設する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、反発力Frが作用する作用点を車両1の任意の1点または複数個所の点に集中させて、仮想バンパー領域71に複数のバネ72を並設してもよい。例えば、図13に示すように、車両1中央の前後軸と車両1の前輪軸との交点、及び、その前後軸と車両1の後輪軸との交点を、反発力Frが作用する作用点とし、これら2か所に、バネ72の一端を取着させて、バネ72を仮想バンパー領域71に並設させてもよい。なお、車両1中央の前後軸と車両1の前輪軸との交点、及び、その前後軸と車両1の後輪軸との交点を、反発力Frが作用する作用点とし、これら2か所に、バネ72の一端を取着させて、バネ72を仮想バンパー領域71に並設する方法は、図8(a)や図11(b)に示す、楕円を基準形状として生成した仮想バンパー領域71に対しても適用可能である。
【0141】
上記実施形態において、仮想バンパー領域71内に存在する物体80によって車両1に反発力Frが加えられた場合に、前輪2FL,2FRの操舵角がその反発力Frに基づいて算出した操舵角δfとなるよう、走行制御装置100が操舵駆動装置5を制御する場合について説明したが、車両1にステアリングホイール13に回転力を加える駆動装置を設け、走行制御装置100は、その駆動装置を制御して、操舵角δfの方向に、操舵角δfの大きさに応じた回転力をステアリングホイール13に加えるようにしてもよい。運転者は、ステアリングホイール13に加えられた回転力によってステアリングホイール13を回転操作することにより、物体80との衝突回避を行うことができる。
【0142】
上記各実施形態では、第1〜第4カメラ26a〜26dを搭載して、車両1の周辺情報を取得する場合について説明したが、周辺情報を取得する手段として、ステレオカメラ、赤外線カメラを用いてもよいし、ミリ波レーダ、レーザレーダ、UWB(Ultra Wide Band)レーダ等の各種レーダや、ソナーを用いてもよい。また、道路と車両との間の通信である路車間通信や、他車との間の通信による車車間通信によって、物体の位置情報を取得してもよい。またこれらを複数組み合わせて使用してもよい。
【0143】
例えば、レーザレーダは、レーザビームを車両1の周囲へ照査し、その反射の有無や反射を検出した方向およびレーザビームを照射してから反射を検出するまでの時間に基づいて、車両1の周辺にある道路や物体の形状等を把握するものである。走行制御装置100は、このレーザレーダを用いることにより、レーザレーダにより照射したレーザビームの反射の検出結果から、車両1の周辺に存在する物体等の形状をマップ化し、それに基づいて、物体の位置等を検出するように構成してもよい。
【0144】
上記各実施形態では、操舵装置5がラック&ピニオン式のステアリングギヤとして構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ボールナット式等の他のステアリングギヤ機構を採用することは当然可能である。
【符号の説明】
【0145】
1 車両
13 ステアリングホイール(取得手段)
24 ジャイロセンサ装置(ヨーレート検出手段)
26a〜26d 第1〜第4カメラ(検出手段)
71 仮想バンパー領域(所定領域)
80 物体
Fr 反発力
100 走行制御装置
S23 (判断手段)
S26 (予測手段)
S27 (設定手段)
S54 (算出手段)
S59 (制御手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周囲に存在する物体を検出する検出手段と、
その検出手段により検出された物体であって、前記車両に設定された所定領域内に存在する物体との衝突を回避するための仮想的な反発力を、前記物体と前記車両との位置関係に基づいて算出する算出手段と、
その算出手段により算出された反発力が前記車両に加えられたものとして、前記車両の走行に伴う制御を行う制御手段と、
前記車両の操舵に関する操舵情報を取得する取得手段と、
その取得手段により取得された前記操舵情報に基づいて、前記車両の進路を予測する予測手段と、
前記所定領域として、前記予測手段により予測された前記進路の方向における前記所定領域の範囲が他の方向よりも広くなるように、前記所定領域を設定する設定手段とを備えることを特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
車両の周囲に存在する物体を検出する検出手段と、
その検出手段により検出された物体であって、前記車両に設定された所定領域内に存在する物体との衝突を回避するための仮想的な反発力を、前記物体と前記車両との位置関係に基づいて算出する算出手段と、
その算出手段により算出された反発力が前記車両に加えられたものとして、前記車両の走行に伴う制御を行う制御手段と、
前記車両の操舵に関する操舵情報を取得する取得手段と、
その取得手段により取得された前記操舵情報に基づいて、前記車両の進路を予測する予測手段と、
前記所定領域として用意された基準領域に対して、前記予測手段により予測された前記進路の方向における前記所定領域の範囲が広くなるように前記基準領域を変形して前記所定領域を生成し、その生成した所定領域を設定する設定手段を備えることを特徴とする走行制御装置。
【請求項3】
前記取得手段は、前記車両の運転者により回転操作される操作手段の回転量を前記操舵情報として取得するものであり、
前記予測手段は、前記取得手段により取得された前記操作手段の回転量に基づいて前記車両のヨーレートを算出し、その算出されたヨーレートに基づいて前記車両の進路を予測するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行制御装置。
【請求項4】
前記取得手段により取得された前記操作手段の回転量が所定量よりも小さいかを判断する判断手段と、
前記車両の姿勢からその車両のヨーレートを検出するヨーレート検出手段とを備え、
前記予測手段は、前記判断手段により前記操作手段の回転量が所定量よりも小さいと判断された場合は、前記ヨーレート検出手段により検出されたヨーレートに基づいて前記車両の進路を予測するものであることを特徴とする請求項3記載の走行制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の走行制御装置を備えることを特徴とする車両。
【請求項1】
車両の周囲に存在する物体を検出する検出手段と、
その検出手段により検出された物体であって、前記車両に設定された所定領域内に存在する物体との衝突を回避するための仮想的な反発力を、前記物体と前記車両との位置関係に基づいて算出する算出手段と、
その算出手段により算出された反発力が前記車両に加えられたものとして、前記車両の走行に伴う制御を行う制御手段と、
前記車両の操舵に関する操舵情報を取得する取得手段と、
その取得手段により取得された前記操舵情報に基づいて、前記車両の進路を予測する予測手段と、
前記所定領域として、前記予測手段により予測された前記進路の方向における前記所定領域の範囲が他の方向よりも広くなるように、前記所定領域を設定する設定手段とを備えることを特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
車両の周囲に存在する物体を検出する検出手段と、
その検出手段により検出された物体であって、前記車両に設定された所定領域内に存在する物体との衝突を回避するための仮想的な反発力を、前記物体と前記車両との位置関係に基づいて算出する算出手段と、
その算出手段により算出された反発力が前記車両に加えられたものとして、前記車両の走行に伴う制御を行う制御手段と、
前記車両の操舵に関する操舵情報を取得する取得手段と、
その取得手段により取得された前記操舵情報に基づいて、前記車両の進路を予測する予測手段と、
前記所定領域として用意された基準領域に対して、前記予測手段により予測された前記進路の方向における前記所定領域の範囲が広くなるように前記基準領域を変形して前記所定領域を生成し、その生成した所定領域を設定する設定手段を備えることを特徴とする走行制御装置。
【請求項3】
前記取得手段は、前記車両の運転者により回転操作される操作手段の回転量を前記操舵情報として取得するものであり、
前記予測手段は、前記取得手段により取得された前記操作手段の回転量に基づいて前記車両のヨーレートを算出し、その算出されたヨーレートに基づいて前記車両の進路を予測するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行制御装置。
【請求項4】
前記取得手段により取得された前記操作手段の回転量が所定量よりも小さいかを判断する判断手段と、
前記車両の姿勢からその車両のヨーレートを検出するヨーレート検出手段とを備え、
前記予測手段は、前記判断手段により前記操作手段の回転量が所定量よりも小さいと判断された場合は、前記ヨーレート検出手段により検出されたヨーレートに基づいて前記車両の進路を予測するものであることを特徴とする請求項3記載の走行制御装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の走行制御装置を備えることを特徴とする車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−75639(P2013−75639A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218096(P2011−218096)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】
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