説明

走行制御装置および車両

【課題】衝突回避対象の物体の種別に応じて、安全に物体の衝突回避を行うことができる走行制御装置および車両を提供すること。
【解決手段】対象物の種別に応じて、その対象物に接触されているバネ73のバネ定数を設定し、そのバネ定数を使用して、収縮したバネ73から車両に加えられる反発力を算出する。これにより、対象物の種別に応じて適宜バネ定数を定義することにより、対象物の存在によって車両に加えられる反発力Frを、対象物の種別に合わせて大きくしたり、逆に、小さくしたりすることができる。よって、優先的に衝突を回避しなければならない物体については、より強い反発力が車両に加えられるようにすることができるので、衝突回避対象の対象物の種別に応じて、安全に物体の衝突回避を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行制御装置および車両に関し、特に、衝突回避対象の物体の種別に応じて、安全に物体の衝突回避を行うことができる走行制御装置および車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電動車椅子などの移動体の周辺に設定した仮想領域内に複数のバネを仮想的に並設させ、何らかの物体(障害物)がその仮想領域内に存在する場合に、その物体によってバネが収縮されることを想定し、そのバネから移動体に反発力が加えられるものとして、移動体の走行を制御することで、その物体との衝突を回避する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−110711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される技術では、仮想領域内に存在する物体の大きさによって、収縮されるバネの数が異なってくる。即ち、物体が大きい場合には、収縮されるバネの数が多くなり、物体が小さいに場合には、収縮されるバネの数が少なくなる。これにより、物体が小さいほど、収縮されたバネから移動体に加えられる反発力が小さくなる。このため、大きな物体と小さな物体との両方が仮想領域内に存在する場合は、大きな物体との衝突を回避する側に移動体が走行するように制御されるので、小さな物体の方向へ移動体が進行するおそれがある。一方、小さな物体であっても、その物体の種別によっては、必ず回避しなければならないものがある。
【0005】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、衝突回避対象の物体の種別に応じて、安全に物体の衝突回避を行うことができる走行制御装置および車両を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
この目的を達成するために請求項1記載の走行制御装置によれば、車両の周囲に仮想的に設定される領域であって、一端が車両に取着され他端が前記領域の外縁に位置するバネを仮想的に複数並設した仮想領域が、設定手段により設定される。そして、検出手段により検出された車両の周囲に存在する物体が、仮想領域内に存在する場合、一部のバネにおいて、その仮想領域の外縁に位置していたバネの他端が該物体の位置まで収縮されるものとして、そのバネに加えられる弾性力を算出することで、その弾性力の反作用として車両に加えられる反発力が算出手段によって算出される。そして、その算出された反発力が車両に加えられたものとして、車両の走行に伴う制御が制御手段によって行われる。これにより、物体が仮想域内に存在すると、その物体との衝突を回避するように反発力が仮想的に車両に加えられ、その反発力に基づいて車両の走行に伴う制御が行われるので、容易に且つ速やかにその物体を回避して車両を走行させることができるという効果がある。また、物体が車両に近いほど、仮想領域に仮想的に並設されているバネの一部がその物体によって大きく縮められる。バネの弾性力はバネの縮み量(変化量)が大きいほど大きいので、物体が車両に近いほど、大きな反発力を車両に加えることができる。よって、物体が車両に近いほど大きくなる反発力によって、確実に物体との衝突を回避できるという効果がある。
【0007】
また、請求項1記載の走行制御装置によれば、物体の種別に対応付けて、その物体によって収縮されたバネのパラメータが定義手段により定義されており、また、仮想領域においてバネを収縮させた物体の種別が特定手段により特定される。そして、算出手段において、物体の存在によって収縮されたバネから車両に加えられる反発力を算出するために使用するバネのパラメータとして、特定手段により特定された物体の種別に対応付けて定義手段において定義されたパラメータが、パラメータ設定手段により設定される。これにより、物体の種別に応じてバネのパラメータを設定し、そのパラメータを使用して収縮したバネから車両に加えられる反発力を算出できるので、物体の存在によって車両に加えられる反発力を、その物体の種別に応じて大きくしたり、逆に、小さくしたりすることができる。よって、優先的に衝突を回避しなければならない物体については、より強い反発力が車両に加えられるようにすることができるので、衝突回避対象の物体の種別に応じて、安全に物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0008】
請求項2記載の走行制御装置によれば、請求項1記載の走行制御装置の奏する効果に加え、物体の種別に応じて定義されるバネのパラメータとして、バネ定数が定義手段により定義されるので、優先的に衝突を回避しなければならない物体については、大きなバネ定数を定義するだけで、より強い反発力が車両に加えられるようにすることができる。よって、物体の種別に応じたバネ定数を定義するだけで、衝突回避対象の物体の種別に応じて、安全に物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。また、バネ定数を、物体の種別に応じてきめ細かく設定できるので、バネから車両に加えられる反発力を、物体の種別に応じてきめ細かく調整できるという効果がある。
【0009】
請求項3記載の走行制御装置によれば、請求項1又は2に記載の走行制御装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、物体の種別に応じて定義されるバネのパラメータとして、その物体によって収縮されるバネの本数を変更するためのパラメータが定義手段により定義される。これにより、優先的に衝突を回避しなければならない物体については、その物体によって収縮されるバネの数を多くすることにより、より強い反発力が車両に加えられるようにすることができる。しかも、バネの本数に比例して反発力が増加するので、優先的に衝突を回避しなければならない物体について、その物体によって収縮されるバネの数を多くするだけで、大きな反発力を車両に加えることができる。よって、物体の種別に応じて、収縮されるバネの数を変更するためのパラメータを定義するだけで、衝突回避対象の物体の種別に応じて、安全に物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0010】
請求項4記載の走行制御装置によれば、請求項3記載の走行制御装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、仮想領域に仮想的に並設されるバネには、その取付位置が固定された第1バネと、その取付位置が移動可能な複数の第2バネとが含まれており、物体の種別に応じて定義される、収縮されるバネの本数を変更するためのパラメータとして、その物体によって収縮される第2バネの比率が定義手段により定義される。これにより、複数の物体の存在により車両1に対して反発力が加えられる場合、それぞれの物体の種別に応じて、各物体によって収縮される第2バネの比率が決まるので、各物体の関係で、それぞれの物体の存在によって加えられる反発力を算出できる。よって、衝突回避対象の物体が複数ある場合に、その物体の関係で、衝突回避動作が行われるので、より安全に物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。
【0011】
請求項5記載の走行制御装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の走行制御装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。即ち、物体の種別に応じて定義されるバネのパラメータとして、バネ長に関するパラメータが定義手段により定義される。これにより、優先的に衝突を回避しなければならない物体については、大きなバネ長となるようにパラメータを定義すれば、そのバネが大きく収縮された状態となるので、より強い反発力が車両に加えられるようにすることができる。よって、物体の種別に応じたバネ長に関するパラメータを定義するだけで、衝突回避対象の物体の種別に応じて、安全に物体の衝突回避を行うことができるという効果がある。また、バネ長を、物体の種別に応じてきめ細かく設定できるので、バネから車両に加えられる反発力を、物体の種別に応じてきめ細かく調整できるという効果がある。
【0012】
請求項6記載の車両によれば、請求項1から5のいずれかに記載の走行制御装置が設けられているので、その車両において、対応する請求項に記載の走行制御装置と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態における車両を模式的に示した模式図である。
【図2】走行制御装置における物体の衝突回避方法を説明する説明図である。
【図3】走行制御装置を含む車両の電気的構成を示したブロック図である。
【図4】バネ設定テーブルメモリの内容を模式的に示した模式図である。
【図5】(a)は、パラメータテーブルメモリの内容を模式的に示した模式図であり、(b)は、接触バネメモリの内容を模式的に示した模式図である。
【図6】物体回避実行処理を示すフローチャートである。
【図7】車両左右方向の反発力が加えられた場合において生じる反モーメント力によって取り得るべき車両の操舵角を算出する場合に用いるパラメータを説明する図である。
【図8】(a)は、パラメータテーブルによって、各種物体の種別に対応付けて、その対象物によって収縮されるバネの構成数を規定する変形例を示す図であり、(b)は、パラメータテーブルによって、各種物体の種別に対応付けて、その対象物によって収縮されるバネの分配比率を規定する変形例を示す図であり、(c)は、パラメータテーブルによって、各種物体の種別に対応付けて、その対象物によって収縮されるバネのバネ長に加算すべき加算バネ長を規定する変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態である走行制御装置100を有する車両1を模式的に示した模式図である。
【0015】
まず、図1を参照して、車両1の構成について説明する。車両1は、衝突回避対象の物体の種別に応じて、安全に物体の衝突回避を行うことができるように構成されている。
【0016】
なお、図1において、矢印Fによって示される方向が車両1の前方向を示している。この矢印Fは、その他の図面においても同様に、矢印Fによって示される方向を車両1の前方向として示している。また、以下の説明において、車両1が矢印F方向に進行する場合を「前進」、車両1が矢印F方向とは逆方向に進行する場合を「後退」と称す。
【0017】
走行制御装置100は、車両1の走行を制御するコンピュータ装置である。この走行制御装置100によって、衝突回避対象の物体の種別に応じて、安全に物体の衝突回避が行われる。
【0018】
ここで、図2を参照して、走行制御装置100における物体の衝突回避の方法について、その概略を説明する。図2は、走行制御装置100における物体の衝突回避方法を説明する説明図である。
【0019】
走行制御装置100は、車両1周囲に、衝突を避けるべき物体を検出する領域として、仮想バンパー領域71を仮想的に設定(形成)する。走行制御装置100は、その仮想バンパー領域71に、複数のバネ72を仮想的に並設することで、仮想バンパーを構成することを想定する。
【0020】
このとき、各バネ72は、いずれも、一端を車両1の外周11に取着した状態で、他端が仮想バンパー領域71の外縁71aに位置するように、仮想バンパー領域71に並設されることを走行制御装置100にて想定する。また、各バネ72の一端は、車両1の外周11において、10cm間隔で取着されることを走行制御装置100にて想定する。
【0021】
更に、車両1の前方側または後方側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72f,72bは、一端が車両1の前方先端(前端)または後方先端(後端)に取着された状態で、バネの長さ方向が車両1の前後方向と平行となるように配設され、他端は車両1前方側または後方側の外縁71aに位置されることを走行制御装置100にて想定する。
【0022】
車両1の右側または左側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72r,72lは、一端が車両1の右側面または左側面に取着された状態で、バネの長さ方向が車両1の左右方向と平行となるように配設され、他端は車両1右側または左側の外縁71aに位置されることを想定する。
【0023】
また、車両1の右前コーナー,左前コーナー,左後コーナー,右後コーナー側の仮想バンパー領域71に配設されるバネ72fr,72fl,72bl,72brは、一端が車両1の対応するコーナー部分に取着された状態で、バネの長さ方向が、車両1の右前方向,左前方向,左後方向または右後方向となるように配設され、他端が車両1の左前コーナー,左後コーナー,右後コーナー側の外縁71aに位置されることを想定する。
【0024】
走行制御装置100は、車両1に設けられた後述の第1〜第4カメラ26a〜26d(図1参照)によって取得された画像から、車両1の周辺にある物体の位置を判断し、以下に従って、その物体80との衝突を回避するための反発力Frを算出する。
【0025】
即ち、走行制御装置100は、仮想バンパー領域71内に仮想的に並設されたバネ72のうち、物体80の存在によって収縮されたバネ73を検索する。そして、収縮されたバネ73がある場合、仮想バンパー領域71内に物体80が存在するとして、そのバネ73の収縮量dを物体80と車両1との位置関係から判断し、その収縮量dに基づいて、バネ73に生じる弾性力Feを以下の式(1)により算出する。なお、以下の式(1)において、knはバネ73のバネ定数である。
【0026】
Fe=kn×d ・・・(1)
走行制御装置100は、弾性力Feの反作用として、その弾性力Feが発生したバネ73の一端が取着されている車両1上の点に、反発力Frが、バネ73の長さ方向に車両1の内側に向けて加えられるものとする。
【0027】
例えば、図2に示すように、物体80によって収縮されたバネ73が、車両1の前方に配設されたバネ72fの一つであった場合、そのバネ72fが取着された車両1上の点に、車両1に対して後向きの反発力Fr1が車両1に加えられる。同様に、バネ73が車両1の左側または右前方向に配設されたバネ72l,72frの一つであった場合、そのバネ72l又はバネ72frが取着された車両1上の点に、車両1に対して右向き又は左後向きの反発力Fr2又はFr3が車両1に加えられる。つまり、各バネ72が取着される車両1の外周11上の点が、反発力Frが加えられる作用点となる。
【0028】
走行制御装置100は、各バネ72(73)から加えられた反発力Frの前後方向成分(車両1の前後方向と同じ方向の成分)を合成して、車両1の重心Cに加えられる車両1の前後方向の反発力Fryを算出する。また、各バネ72(73)から加えられた反発力Frの左右方向成分(車両1の前後方向に対する左右方向と同じ方向の成分)から、車両1の重心Cに加えられる反モーメント力Mを算出する。
【0029】
そして、走行制御装置100は、車両1の重心Cに加えられた前後方向の反発力Fryに基づいて、その反発力Fryによって生じる車両1の加速度を算出する。走行制御装置100には、車両1に設けられたアクセルペダル(図示せず)の踏み込み量に関する情報も入力される。走行制御装置100は、現在の車両1の速度と、運転者によって踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量と、前後方向の反発力Fryによって生じる車両1の加速度とから、目標とすべき車両速度を決定し、その目標とすべき車両速度を示す制御信号を、後述する車輪駆動装置3(図1参照)へ送信する。これにより、車両1が、前後方向の反発力Fryによって生じる車両1の加速度を反映させた速度で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。
【0030】
また、走行制御装置100は、その算出した反モーメント力Mに応じて車両1の操舵角を算出して、その操舵角を示す制御信号を、後述する操舵駆動装置5(図1参照)へ送信する。これにより、車両1が、反発力Frによって生じる反モーメント力を反映させた操舵角で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。
【0031】
このように、走行制御装置100は、仮想バンパー領域71内に存在する物体との衝突を回避するために、仮想的に並設したバネ72の一部(バネ73)が物体80によって収縮されたものとし、そのバネ73の弾性力Feを算出して、その反作用として反発力Frが車両1に加えたものとすることで、その反発力Frに基づいて、車両1の速度や操舵角を制御する。これにより、容易に且つ速やかに、その物体80を回避しながら車両1を走行させることができる。
【0032】
また、物体80が車両1に近いほど、仮想バンパー領域71内に想定上並設されているバネ72の一部(バネ73)がその物体80によって大きく縮められる。バネの弾性力Feはバネの収縮量(縮み量)が大きいほど大きいので、物体80が車両1に近いほど、大きな反発力Frを車両1に加えることができる。よって、物体80が車両1に近いほど大きくなる反発力Frにより、確実に物体80との衝突を回避できる。
【0033】
なお、走行制御装置100には、車両1に設けられ、運転者によって回転操作される後述のステアリングホイール13(図1参照)から、ステアリングホイール13の回転角速度を示す情報も入力されている。反力Frが車両1に仮想的に加えられていない場合、即ち、仮想バンパー領域71内に物体が存在しない場合には、走行制御装置100は、ステアリングホイール13の回転角速度を積分して得られるステアリングホイール13の操舵角に応じて車両1の操舵角を決定し、その操舵角を示す制御信号を操舵駆動装置5へ送信する。
【0034】
図1に戻って、車両1の構成について説明を続ける。車両1は、走行制御装置100の他に、複数(本実施形態では4輪)の車輪2FL,2FR,2RL,2RRと、それら複数の車輪2FL〜2RRの内の一部(本実施形態では、左右の前輪2FL,2FR)を回転駆動する車輪駆動装置3と、複数の車輪2FL〜2RRの内の一部(本実施形態では、左右の前輪2FL,2FR)を操舵するステアリング装置6及び操舵駆動装置5と、運転者から車両1の操舵方向の指示を受け付けるステアリングホイール13と、車両1の周囲を第1〜第4カメラ26a〜26dとを主に有している。
【0035】
車輪2FL,2FRは、車両1の前方側に配置される左右の前輪であり、車輪駆動装置3によって回転駆動される駆動輪として構成されている。一方、車輪2RL,2RRは、車両1の後方側に配置される左右の後輪であり、車両1の走行に伴って従動する従動輪として構成されている。
【0036】
車輪駆動装置3は、左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与するものであり、デファレンシャルギヤ(図示せず)及び一対のドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに接続されている。車輪駆動装置3は、走行制御装置100から通知された、目標とすべき車両速度を示す制御信号に基づき、ドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与する。これにより、車両1は、走行制御装置100から通知された車両速度に応じた速度で走行する。
【0037】
なお、車輪駆動装置3は、走行制御装置100から、その走行制御装置100によって算出された反発力Frの車両1の前後方向の反発力Frfによって生じる車両1の加速度を示す制御信号を受け取り、その車両1の加速度と、運転者によって踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量と、現在の車両1の速度とから目標とすべき車両速度を算出して、その目標とすべき車両速度となるように、ドライブシャフト31を介して左右の前輪2FL,2FRに回転駆動力を付与してもよい。
【0038】
操舵駆動装置5は、左右の前輪2FL,2FRを操舵するための装置であり、ステアリング装置6に回転駆動力を付与する電動モータ5a(図3参照)を備えて構成されている。ステアリング装置6は、ステアリングシャフト61と、フックジョイント62と、ステアリングギヤ63と、タイロッド64と、ナックルアーム65とを主に備えて構成されている。なお、ステアリング装置6は、ステアリングギヤ63がピニオン(図示せず)とラック(図示せず)とを備えたラックアンドピニオン機構によって構成されている。
【0039】
操舵駆動装置5は、走行制御装置100から車両1の操舵角を示す制御信号を受信すると、その操舵角に応じて電動モータ5aを駆動し、電動モータ5aの回転駆動力がステアリング装置6のステアリングシャフト61に付与される。その回転駆動力は、ステアリングシャフト61を介してフックジョイント62に伝達されると共にフックジョイント62によって角度を変えられ、ステアリングギヤ63のピニオンに回転運動として伝達される。そして、ピニオンに伝達された回転運動はラックの直線運動に変換され、ラックが直線運動することで、ラックの両端に接続されたタイロッド64が移動し、ナックルアーム65を介して前輪2FL,2FRが操舵される。これにより、車両1は、走行制御装置100から指示された操舵角で、前輪2FL,2FRが操舵される。
【0040】
ステアリングホイール13は、車両1の搭乗者から回転操作されることで、車両1の操舵方向の指示を受け付けるものである。ステアリングホイール13は、搭乗者によって回転操作されると、その回転角速度を走行制御装置100へ送信する。なお、ステアリングホイール13は、搭乗者によって回転操作された回転角を走行制御装置100へ送信してもよい。そして、走行制御装置100が、ステアリングホイール13から取得した回転角を微分して、回転角速度を算出してもよい。
【0041】
第1〜第4カメラ26a〜26dは、車両1の周囲を撮像するための撮像装置であり、CCDイメージセンサや、CMOSイメージセンサなどの撮像素子が搭載されたデジタルカメラで構成されている。各第1〜第4カメラ26a〜26dは、撮像した画像を画像データに変換して走行制御装置100へ出力する。
【0042】
第1カメラ26aは、車両1の前方中央に配設され、第2カメラ26bは、車両1の後方中央に配設され、第3カメラ26cは、車両1の右側面のサイドミラー(図示せず)に配設され、第4カメラ26dは、車両1の左側面のサイドミラー(図示せず)に配設されている。本実施形態では、4つの第1〜第4カメラ26a〜26dにより、車両1を中心として車両1の前後方向に少なくとも30mと、車両1を中心として車両1の左右方向に少なくとも15mの範囲を撮像可能に構成されている。なお、第1〜第4カメラ26a〜26dによって撮像可能な範囲は、適宜設定されるものであってよい。
【0043】
各第1〜第4カメラ26a〜26dは、撮像した画像を画像データに変換して走行制御装置100へ出力する。走行制御装置100へ出力された画像データは、その走行制御装置100によって解析され、車両1の周囲に存在する物体と、車両1を基準としたその物体の位置とが検出される。そして、検出された物体の位置から、仮想バンパー領域71内に物体が存在するか否かが判断される。また、仮想バンパー領域71内に物体が存在する場合には、走行制御装置100において、その物体の位置から収縮されるバネ73(図2参照)が検索され、そのバネ73にかかる弾性力が算出されて、車両1に加えられる反発力が求められる。
【0044】
次いで、図3を参照して、走行制御装置100の詳細構成について説明する。図3は、走行制御装置100を含む車両1の電気的構成を示したブロック図である。
【0045】
走行制御装置100は、CPU91、フラッシュメモリ92及びRAM93を有しており、それらがバスライン94を介して入出力ポート95に接続されている。入出力ポート95には、上述した、車輪駆動装置3,操舵駆動装置5、ステアリングホイール13、第1〜第4カメラ26a〜26d、及び、その他の入出力装置99などが接続されている。
【0046】
CPU91は、入出力ポート95に接続されたステアリングホイール13、第1〜第4カメラ26a〜26dなどから送信された各種の情報に基づいて、車輪駆動装置3や操舵駆動装置5等を制御する演算装置である。
【0047】
フラッシュメモリ92は、CPU91によって実行される制御プログラムや固定値データ等を記憶するための書き換え可能な不揮発性のメモリである。このフラッシュメモリ92には、プログラムメモリ92a、バネ設定テーブルメモリ92b、パラメータテーブルメモリ92cが設けられている。
【0048】
プログラムメモリ92aは、CPU91にて実行される各種のプログラムが格納されたフラッシュメモリ92上の領域である。後述する図6のフローチャートに示す物体回避実行処理をCPU91にて実行されるための各プログラムは、このプログラムメモリ92aに格納されている。CPU91は、このプログラムメモリ92aに格納された各プログラムに従って各種処理を実行することで、衝突回避対象の物体の種別に応じて、安全に物体の衝突回避が行われるように、車両1の走行を制御する。
【0049】
バネ設定テーブルメモリ92bは、仮想バンパー領域71に仮想的に並設した複数のバネ72に関する情報を記憶するメモリである。ここで、図4を参照して、バネ設定テーブルメモリ92bの詳細について説明する。図4は、バネ設定テーブルメモリ92bの内容を模式的に示した模式図である。
【0050】
バネ設定テーブルメモリ92bは、仮想バンパーメモリ71に並設されるバネ72の情報として、図4に示す通り、バネ72毎に、バネ72の識別情報であるバネ番号nに対応付けて、そのバネ番号nで示されるバネの作用点X座標Xpnと、作用点Y座標Ypnと、外郭X座標Xcnと、外郭Y座標Ycnと、取付角度αnと、バネ長Lvbnとを格納する。
【0051】
バネ番号nは、並設されたバネ1本1本を識別するための情報である。本実施形態では、車両1の前端に取着されたバネ72fの一番右側になるバネのバネ番号nを1とし、バネ番号1のバネから順に、反時計回りに各バネ72に対してバネ番号nを1ずつ大きくしながら、バネ番号nを割り振る。
【0052】
作用点X座標Xpn,作用点Y座標Ypnは、バネ番号nのバネにおける一端が、車両1に取着される点、つまり、そのバネの反発力Frが作用する作用点の座標を示すものである。本実施形態では、車両1中央の前後軸をY軸(車両1の前方向、即ち、矢印Fで示す方向を正方向)とし、車両1の重心を通る左右軸(後輪軸と平行な軸)をX軸(車両1の右方向を正方向)として、X軸とY軸との交点を原点とした座標系で、作用点X座標Xpn,作用点Y座標Ypnを表す。
【0053】
外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnは、バネ番号nのバネ72における他端、つまり、仮想バンパー領域71の外郭に位置する他端の座標を示すものである。本実施形態では、上記の作用点X座標Xpn,作用点Y座標Ypnと同じ座標系で、外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnを表す。
【0054】
取付角度αnは、バネ番号nのバネ72の車両1に対する取付角度を示すものである。ここでは、車両1中央の前後軸から車両1の右方向に伸びる半直線と、各バネ72の一端と他端とを結んだ直線とのなす角度を取付角度αnとして規定する。
【0055】
つまり、車両1の前端から前方側に配設されたバネ72fは、取付角度αnが90°となる。また、車両1の左側面から左側に配設されたバネ72l,車両1の後端から後方側に配設されたバネ72b,車両1の右側面から右側に配設されたバネ72rは、それぞれ、取付角度αnが180°,270°,0°となる。
【0056】
また、車両1の右前コーナーから右前方向に配設されるバネ72fr,車両1の左前コーナーから左前方向に配設されるバネ72fl,車両1の左後コーナーから左後方向に配設されるバネ72bl,車両1の右後コーナーから右後方向に配設されるバネ72brの取付角度αnは、それぞれ、0〜90°,90°〜180°,180°〜270°,270°〜360°の範囲内で次の式(2)で定まる角度となる。
【0057】
αn=tan−1((Ypn−Ycn)/(Xpn−Xcn)) ・・・(2)
バネ長Lvbnは、バネ番号nのバネ72の自然長(バネ72を伸縮させない状態におけるバネ72の長さ)を示すものである。なお、各バネ72のバネ長Lvbnは、バネ72の一端が接続される作用点(作用点X座標Xpn,作用点Y座標Ypnで示される点)と、バネ72の他端が位置する外郭X座標Xcn,外郭Y座標Ycnで示される点との距離である。
【0058】
図3に戻り説明を続ける。パラメータテーブルメモリ92cは、各種物体の種別に対応付けて、その物体により収縮されたバネ73に適用するバネ定数を規定するパラメータテーブルを格納するメモリである。
【0059】
ここで、図5(a)を参照して、パラメータテーブルメモリ92cの詳細について説明する。図5(a)は、パラメータテーブルメモリ92cの内容を模式的に示した模式図である。パラメータテーブルメモリ92cは、衝突回避の対称となる物体80(以下「対象物」と称す)の種別に対応付けて、バネ定数を規定している。
【0060】
対象物は、「第1分類」と「第2分類」とに分けられ、第1分類で大まかに分けられた種別が、第2分類で更に細分化されている。例えば、第1分類として、「人間」、「壁」、「車」、・・・と分けられている。そして、「人間」は、更に、第2分類として、「大人」と「子供・老人」とに細分化され、「車」は、「普通車」と「大型車」に細分化されている。
【0061】
そして、第1分類および第2分類によって分けられた対象物の種別に対応付けて、バネ定数が規定されている。例えば、「人間」の「大人」には、バネ定数Khuman1が対応付けられ、「人間」の「子供・老人」には、バネ定数Khuman2が対応付けられている。また、第2分類のない「壁」には、バネ定数Kwallが対応付けられている。
【0062】
走行制御装置100(CPU91)では、仮想バンパー領域71内に物体80が存在すると判断すると、その物体80の種別を、第1〜第4カメラ26a〜26dによって撮像された画像の画像データを用いて認識・識別し、その物体80を衝突回避の対象物として、その対象物の種別に応じたバネ定数をパラメータテーブルメモリ92cから読み出す。そして、その読み出したバネ定数を、その対象物によって収縮されているバネ73に適用し、上述した式(1)を用いて、そのバネ73により車両1に加えられる反発力を算出する。
【0063】
図3に戻り、説明を続ける。RAM93は、書き換え可能な揮発性のメモリであり、CPU91によって実行される制御プログラムの実行時に各種のデータを一時的に記憶するためのメモリである。RAM93には、接触バネメモリ93aが設けられている。
【0064】
接触バネメモリ93aは、仮想バンパー領域71内に存在する物体80(対象物)と接触して収縮されるバネ73のバネ番号を記憶するためのメモリである。ここで、図5(b)を参照して、接触バネメモリ93aの詳細について説明する。図5(b)は、接触バネメモリ93aの内容を模式的に示した模式図である。
【0065】
接触バネメモリ93aでは、仮想バンパー領域71内に存在する対象物毎に、その対象物の種別に対応付けて、その対象物と接触して収縮されているバネ73のバネ番号を接触バネ番号として記憶する。
【0066】
走行制御装置100(CPU91)では、仮想バンパー領域71内に物体80(対象物)が存在すると判断すると、その対象物の種別を対象物毎に認識・識別する。そして、対象物毎に、その対象物と接触しているバネ73との関連付けを行い、その対象物に関連付けられたバネ73のバネ番号を接触バネ番号として、その対象物の種別に対応付けて、接触バネメモリ93aに記憶する。例えば、図5(b)に示す例では、対象物の種別「人間、大人」に対応付けて、接触バネ番号として「6」、「7」が記憶され、対象物の種別「壁」に対応付けて、接触バネ番号として「14」、「15」、「16」、「17」が記憶されている。
【0067】
これにより、大人の人間によって、バネ番号「6」及び「7」のバネ73が収縮されていることが示され、壁によって、バネ番号「14」〜「16」のバネ73が収縮されていることが示される。
【0068】
走行制御装置100(CPU91)は、この接触バネメモリ93aに格納されている接触バネ番号のバネ73に対し、その接触バネ番号を対応付けている対象物の種別に適用するバネ定数をパラメータテーブルメモリ92cから読み出して、その読み出したバネ定数を適用する。図5(b)の例では、バネ番号「6」及び「7」のバネ73に対して、バネ定数Khuman1を適用し、バネ番号「14」〜「16」のバネ73に対しては、バネ定数Kwallを適用する。そして、適用したバネ定数を用いて、各バネ73からの反発力を上述した式(1)によって算出する。
【0069】
次いで、図6,図7のフローチャートと模式図とを参照して、車両1に搭載された走行制御装置100のCPU91により実行される物体回避実行処理について説明する。まず、図6は、この物体回避実行処理を示すフローチャートである。
【0070】
物体回避処理は、所定時間間隔(本実施形態では50ミリ秒)でCPU91により実行される処理で、仮想バンパー領域71内に物体80が存在する場合に、その仮想バンパー領域71内に仮想的に並設させた複数のバネ72の一部(バネ73)が、物体80によって収縮されたとして、そのバネ73に生じる弾性力Feの反作用として車両1に反発力Frを加え、車両1の走行を制御することで、物体との衝突を回避する処理である。
【0071】
物体回避処理が実行されると、CPU91は、まず、第1〜第4カメラ26a〜26dにて撮像された画像の画像データから、車両1の周囲に存在する物体80と、車両1を基準としたその物体80の位置とを判断する(S11)。次に、S11の処理にて判断された物体80の位置と、バネ設定テーブルメモリ92bに格納された各バネ72のバネ情報とから、物体80の存在によって、仮想バンパー領域71内に仮想的に並設されたバネ72の中から収縮されたバネ73を検索する(S12)。
【0072】
そして、S12の処理の結果、収縮されたバネ73があるか否かを判断する(S13)。その結果、収縮されたバネ73がなければ(S13:No)、仮想バンパー領域71内に物体80がないと判断し、そのまま物体回避実行処理を終了する。
【0073】
一方、収縮されたバネ73があると判断された場合(S13:Yes)、仮想バンパー領域71内に物体80があると判断できるので、次に説明するS14〜S22の処理を実行して、物体80を回避するよう、車両1の走行を制御する。
【0074】
まず、バネを収縮している物体80を衝突回避の対象物とし、その対象物の種別を、第1〜第4カメラ26a〜26dによって撮像された画像の画像データを用いて認識・識別して判断する(S14)。対象物が複数ある場合は、全ての対象物について、その種別を判断する。
【0075】
次いで、S14の処理にて種別を判断した対象物毎に、その対象物と接触しているバネ73との関連付けを行い、その接触バネ番号を対象物の種別に対応付けて接触バネメモリ93aに記憶する(S15)。
【0076】
次に、接触バネメモリ93aに格納されている接触バネ番号のバネ73に対し、そのバネ73が接触している対象物の種別に適用するバネ定数をパラメータテーブルメモリ92cから読み出して、その読み出したバネ定数を適用する(S16)。そして、適用したバネ定数を用いて、各バネ72(73)からの反発力Frを上述した式(1)によって算出する(S17)。
【0077】
これにより、対象物の種別に応じて、その対象物に接触されているバネ73のバネ定数を設定し、そのバネ定数を使用して、収縮したバネ73から車両に加えられる反発力を算出できるので、対象物の種別に応じて適宜バネ定数を定義することにより、対象物の存在によって車両に加えられる反発力Frを、対象物の種別に合わせて大きくしたり、逆に、小さくしたりすることができる。よって、優先的に衝突を回避しなければならない物体については、より強い反発力が車両に加えられるようにすることができるので、衝突回避対象の対象物の種別に応じて、安全に物体の衝突回避を行うことができる。
【0078】
また、対象物の種別に応じたバネ定数が定義されているので、優先的に衝突を回避しなければならない物体については、大きなバネ定数を定義するだけで、より強い反発力Frが車両1に加えられるようにすることができる。
【0079】
例えば、対象物となる「人間、子供・老人」は優先的に衝突を回避しなければならない物体である。よって、この「人間、子供・老人」に対して、バネ定数Khuman2を他の対象物よりも大きく定義するだけで、子供や老人から非常に強い反発力Frを車両1に加えることができ、子供や老人を優先的に衝突を回避できる。
【0080】
また、バネ定数を、対象物の種別に応じてきめ細かく設定できるので、バネ73から車両1に加えられる反発力Frを、物体の種別に応じてきめ細かく調整できる。
【0081】
続いて、S17の処理にて算出した各バネ72(バネ73)から加えられた反発力Frの前後方向成分を合成して、車両1の重心Cに加えられる前後方向の反発力Fryを算出する。(S18)。そして、以下の式(3)により、車両1の加速度aを算出する(S19)。
【0082】
a=Fry/m ・・・(3)
ここで、mは、車両1の重量(質量)である。
【0083】
続くS20の処理では、前進時において、S27の処理にて算出した各バネ72(73)から加えられた反発力Frの左右方向成分から、車両1の重心Cに加えられる反モーメント力Mを算出する(S20)。
【0084】
そして、算出した反モーメント力Mから、以下の式により、車両1の操舵角δfを算出する(S21)。
【0085】
【数1】

なお、車両1が前進する場合、後進する場合のいずれにおいても、その車両速度が毎秒0.5m以下である場合、次の式(4)により、車両1の操舵角δfを算出する。
【0086】
δf=−M/(2・Kf・Lf) ・・・(4)
ここで、[数1],式(4)の各式で用いられる各種パラメータの意味について、図7を参照して説明する。図7は、反モーメント力によって取り得るべき車両1の操舵角δfを算出する場合に用いるパラメータを説明する図である。
【0087】
まず、Lfは、前輪軸と車両1の重心との距離であり、Lrは、後輪軸と車両1の重心との距離である。Kfは、前輪等価コーナーリングスティフネスであり、Krは、後輪等価コーナーリングスティフネスである。βは、重心位置における車両1の横滑り角であり、γは車両1のヨーレートである。Vは、車両速度である。なお、図10において、δrは、後輪における操舵角であるが、本実施形態における車両1は、前輪のみ操舵可能であるので、δrを0として取り扱っている。
【0088】
図6に戻り説明を続ける。S21の処理が終了すると、続いて、S22の処理を実行する。S22の処理では、S19の処理により算出した加速度aと、現在の車両1の速度と、運転者によって踏み込まれたアクセルペダルの踏み込み量とから、目標とすべき車両速度を決定し、その目標とすべき車両速度を示す制御信号を、後述する車輪駆動装置3(図1参照)へ送信する。また、S22の処理では、S21の処理により算出した操舵角δfを示す制御信号を、後述する操舵駆動装置5(図1参照)へ送信する。そして、S22の処理の終了後、物体回避実行処理を終了する。
【0089】
このS22の処理により、車両1が、前後方向の反発力Fryによって生じる車両1の加速度を反映させた速度で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。また、車両1が、左右方向の反発力によって生じる反モーメント力Mを反映させた操舵角で走行するように、車両1の走行の制御が行われる。よって、容易に且つ速やかに、その物体80を回避しながら車両1を走行させることができる。
【0090】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、上記各実施形態で挙げた数値は一例であり、他の数値を採用することは当然可能である。
【0091】
上記実施形態では、パラメータテーブル92cにより、各種物体(対象物)の種別に対応付けて、その物体(対象物)により収縮されたバネ73に適用するバネ定数を規定する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、パラメータテーブル92cにより、バネに関する種々のパラメータを、各種物体(対象物)の種別に対応付けて規定してもよい。そして、物体(対象物)によって収縮されたバネのパラメータとして、パラメータテーブル92cにおいて、その物体の種別に対応付けて規定されたパラメータを設定するようにしてもよい。
【0092】
ここで、図8を参照して、パラメータテーブル92cによって、各種物体(対象物)の種別に対応付けて規定されるバネのパラメータの例を説明する。まず、図8(a)は、パラメータテーブル92cによって、各種物体(対象物)の種別に対応付けて、その対象物によって収縮されるバネの構成数(バネ数)Nを規定する例を示している。この例では、バネ番号nのバネが、例えば、壁によって収縮されている場合、そのバネ番号nのバネがNwall本のバネによって構成されているものとして、そのバネによって車両1に加えられる反発力Frを以下の式(5)によって算出する。なお、以下の式(5)において、dは、バネの収縮量であり、knはバネ番号nのバネのバネ定数である。
【0093】
Fr=Nwall×kn×d ・・・(5)
これにより、優先的に衝突を回避しなければならない対象物については、その対象物によって収縮されるバネ73の構成数(バネ数)Nを多くすることにより、より強い反発力が車両1に加えられるようにすることができる。しかも、バネ73のバネ数に比例して反発力が増加するので、優先的に衝突を回避しなければならない物体について、その物体によって収縮されるバネ数を多くするだけで、大きな反発力を車両1に加えることができる。よって、物体の種別に応じて、収縮されるバネ数を変更するためのパラメータを定義するだけで、衝突回避対象の物体の種別に応じて、安全に物体の衝突回避を行うことができる。
【0094】
また、図8(b)は、パラメータテーブル92cによって、各種物体(対象物)の種別に対応付けて、その対象物によって収縮されるバネの分配比率(バネ分配比率)rを規定する例を示している。この例では、仮想バンパー領域71に併設されるバネ72が、車両1への取付位置(作用点)が固定された第1バネと、車両1への取付位置(作用点)が移動可能な第2バネとによって構成されている場合を想定する。そして、仮想バンパー領域71に対象物が存在する場合、仮想バンパー領域71に設けられた第2バネがすべて、対象物に接触され収縮されるものとする。バネ分配比率rは、仮想バンパー領域71に2以上の対象物が存在する場合に、それぞれの対象物に接触される第2バネを各対象物に分配する比率を定めたものである。
【0095】
例えば、仮想パンパー領域71に大人と、普通車が存在する場合、大人に接触される第2バネの数Nhuman1と、普通車に接触される第2バネの数Nvehicle1とは、以下の式(6)、(7)によって算出され、それぞれの数の第2バネが、各対象物に分配される。なお、以下の式(6)、(7)において、N2は、第2バネの総数である。
【0096】
human1=rhuman1×N2/(rhuman1+rvehicle1) ・・・(6)
vehicle1=rvehicle1×N2/(rhuman1+rvehicle1) ・・・(7)
これにより、複数の対象物の存在により車両1に対して反発力Frが加えられる場合、それぞれの対象物の種別に応じて、各物体によって収縮される第2バネの分配比率が決まるので、各対象物の関係で、それぞれの対象物の存在によって加えられる反発力Frを算出できる。よって、衝突回避対象の対象物が複数ある場合に、その対象物の関係で、衝突回避動作が行われるので、より安全に物体の衝突回避を行うことができる。
【0097】
また、図8(c)は、パラメータテーブル92cによって、各種物体(対象物)の種別に対応付けて、その対象物によって収縮されるバネのバネ長Lvbnに加算すべきバネ長(加算バネ長)Lを規定する例を示している。この例では、バネ番号nのバネが、例えば、壁によって収縮されている場合、そのバネ番号nのバネ長Lvbnに対して、Lwallの長さが加算され、その加算されたバネ長によってバネ番号nのバネが構成され、その加算後のバネ長を有するバネ番号nのバネが、対象物によって収縮されているものとする。これにより、そのバネによって車両1に加えられる反発力Frは、以下の式(8)によって算出できる。なお、以下の式(8)において、dは、加算前のバネ長におけるバネ番号nのバネの収縮量であり、knはバネ番号nのバネのバネ定数である。
【0098】
Fr=kn×(d+Lwall) ・・・(8)
これにより、優先的に衝突を回避しなければならない対象物については、大きなバネ長となるように加算バネ長を定義すれば、そのバネが大きく収縮された状態となるので、より強い反発力Frが車両1に加えられるようにすることができる。よって、対象物の種別に応じた加算バネ長を定義するだけで、衝突回避対象の物体の種別に応じて、安全に対象物との衝突回避を行うことができる。また、バネ長を、対象物の種別に応じてきめ細かく設定できるので、バネ73から車両1に加えられる反発力Frを、対象物の種別に応じてきめ細かく調整できる。
【0099】
なお、図8(c)の例では、対象物によって収縮されるバネのバネ長Lvbnに加算すべきバネ長(加算バネ長)Lを規定する場合について説明したが、そのバネ長Lvbnに対して乗ずるべき係数KLを対象物の種別毎に規定してもよい。そして、バネ番号nのバネが、例えば、壁によって収縮されている場合、そのバネ番号nのバネ長Lvbnに対して、壁に対応付けられた係数KLwallを乗じ、その係数が乗じられたバネ長によってバネ番号nのバネが構成されているものとして、そのバネが、対象物によって収縮された場合の反発力Frを算出してもよい。
【0100】
また、上記実施形態、及び、図8に示す変形例では、パラメータテーブル92cにより、各種物体(対象物)の種別に対応付けて、その物体(対象物)により収縮されたバネ73に適用するパラメータが1種類(バネ定数、バネ数、バネ分配比率、加算バネ長など)である場合について説明したが、必ずしも1種類である必要はなく、2種類以上のパラメータが、各種物体(対象物)の種別に対応付けられて規定されて、バネ73に適用されるようにしてもよい。例えば、バネ定数とバネ数とが、各種物体(対象物)の種別に対応付けられて規定され、バネ73に適用されるようにしてもよい。バネ定数は、物体の種別に応じてきめ細かく設定できるので、バネ73から車両1に加えられる反発力Frを、対象物の種別に応じてきめ細かく調整できる一方、対象物によって収縮されるバネ数を多くするだけで、大きな反発力Frを車両に加えることができる。よって、バネ定数とバネ数とを、各種物体(対象物)の種別に対応付けて、規定対象物の種別に応じて、車両1に加えられる反発力Frを広い範囲できめ細かく調整できる。
【0101】
上記実施形態では、仮想バンパー領域71の形状を楕円形状とする場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、任意の形状であってもよい。例えば、車両1中央の前後軸と車両1の前輪軸との交点、及び、その前後軸と車両1の後輪軸との交点を中心とする扇形形状をした領域を、車両1の前方方向と後方方向とに設けた形状を、仮想バンパー領域71の基準形状としてもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、仮想バンパー領域71が予め定められ、固定的なものとして説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、車両1の操舵や、速度、加速度に応じて、または、車両1が走行する道路の状況に応じて、随時、仮想バンパー領域71が形成されるものであっても、本発明を適用可能である。
【0103】
上記実施形態における仮想バンパー領域71では、反発力Frが作用する作用点を車両1の外周に分散させ、その分散させた作用点から仮想バンパー領域71の外縁71aに向けて仮想的にバネ72を並設する場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、反発力Frが作用する作用点を車両1の任意の1点または複数個所の点に集中させて、仮想バンパー領域71に複数のバネ72を並設してもよい。例えば、車両1中央の前後軸と車両1の前輪軸との交点、及び、その前後軸と車両1の後輪軸との交点を、反発力Frが作用する作用点とし、これら2か所に、バネ72の一端を取着させて、バネ72を仮想バンパー領域71に並設させてもよい。
【0104】
上記実施形態において、仮想バンパー領域71内に存在する物体80によって車両1に反発力Frが加えられた場合に、前輪2FL,2FRの操舵角がその反発力Frに基づいて算出した操舵角δfとなるよう、走行制御装置100が操舵駆動装置5を制御する場合について説明したが、車両1にステアリングホイール13に回転力を加える駆動装置を設け、走行制御装置100は、その駆動装置を制御して、操舵角δfの方向に、操舵角δfの大きさに応じた回転力をステアリングホイール13に加えるようにしてもよい。運転者は、ステアリングホイール13に加えられた回転力によってステアリングホイール13を回転操作することにより、物体80との衝突回避を行うことができる。
【0105】
上記各実施形態では、第1〜第4カメラ26a〜26dを搭載して、車両1の周辺情報を取得する場合について説明したが、周辺情報を取得する手段として、ステレオカメラ、赤外線カメラを用いてもよいし、ミリ波レーダ、レーザレーダ、UWB(Ultra Wide Band)レーダ等の各種レーダや、ソナーを用いてもよい。また、道路と車両との間の通信である路車間通信や、他車との間の通信による車車間通信によって、物体の位置情報を取得してもよい。またこれらを複数組み合わせて使用してもよい。
【0106】
例えば、レーザレーダは、レーザビームを車両1の周囲へ照査し、その反射の有無や反射を検出した方向およびレーザビームを照射してから反射を検出するまでの時間に基づいて、車両1の周辺にある道路や物体の形状等を把握するものである。走行制御装置100は、このレーザレーダを用いることにより、レーザレーダにより照射したレーザビームの反射の検出結果から、車両1の周辺に存在する物体等の形状をマップ化し、それに基づいて、物体の位置等を検出するように構成してもよい。
【0107】
上記各実施形態では、操舵装置5がラック&ピニオン式のステアリングギヤとして構成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、ボールナット式等の他のステアリングギヤ機構を採用することは当然可能である。
【符号の説明】
【0108】
1 車両
26a〜26d 第1〜第4カメラ(検出手段)
92a 設定手段
92c パラメータテーブルメモリ(定義手段)
100 走行制御装置
S16 (パラメータ設定手段)
S17 (算出手段)
S22 (制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周囲に仮想的に設定される領域であって、一端が前記車両に取着され他端が前記領域の外縁に位置するバネを仮想的に複数並設した仮想領域を設定する設定手段と、
前記車両の周囲に存在する物体を検出する検出手段と、
その検出手段により検出された物体であって前記設定手段により設定された前記仮想領域内に存在する物体によって、一部のバネにおいて前記仮想領域の外縁に位置していたバネの他端が前記物体の位置まで収縮されるものとして、そのバネに加えられる弾性力を算出することで、その弾性力の反作用として前記車両に加えられる反発力を算出する算出手段と、
その算出手段により算出された反発力が前記車両に加えられたものとして、前記車両の走行に伴う制御を行う制御手段と、
物体の種別に対応付けて、その物体によって収縮されたバネのパラメータを定義する定義手段と、
前記仮想領域においてバネを収縮させた物体の種別を特定する特定手段と、
前記算出手段において、前記物体の存在によって収縮されたバネから前記車両に加えられる反発力を算出するために使用する前記バネのパラメータとして、前記特定手段により特定された前記物体の種別に対応付けて前記定義手段において定義されたパラメータを設定するパラメータ設定手段とを備えることを特徴とする走行制御装置。
【請求項2】
前記定義手段は、物体の種別に応じて定義されるバネのパラメータとして、バネ定数を定義するものであることを特徴とする請求項1記載の走行制御装置。
【請求項3】
前記定義手段は、物体の種別に応じて定義されるバネのパラメータとして、その物体によって収縮されるバネの本数を変更するためのパラメータを定義するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の走行制御装置。
【請求項4】
前記仮想領域に仮想的に並設されるバネは、その取付位置が固定された第1バネと、その取付位置が移動可能な複数の第2バネとを含み、
前記定義手段は、物体の種別に応じて定義される、収縮されるバネの本数を変更するためのパラメータとして、その物体によって収縮される第2バネの比率を定義するものであることを特徴とする請求項3記載の走行制御装置。
【請求項5】
前記定義手段は、物体の種別に応じて定義されるバネのパラメータとして、バネ長に関するパラメータを定義するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の走行制御装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の走行制御装置を備えることを特徴とする車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−77266(P2013−77266A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218099(P2011−218099)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】