説明

走行情報記録装置、メータコンピュータ

【課題】ユーザを煩わせずかつナビゲーションシステムを用いずに、記憶容量の増大を抑制して走行情報を記録可能な走行情報記憶装置等を提供すること。
【解決手段】IGオンからIGオフまでの車両の走行距離を記憶する区間距離記憶手段31と、IGオン時刻又はIGオフ時刻の少なくとも一方の時刻情報に走行距離を対応づけた、複数の走行情報を記憶する走行情報記憶手段32と、複数の走行情報に基づき、IGオンしてからIGオフまでの間に移動した車両の使用態様が日常的か否かを判定する使用態様判定手段25と、走行情報記憶手段32の記憶容量の上限に達した場合、新たに取得された走行情報が日常的である場合には、日常的であると判定された使用態様の走行情報に上書きし、新たに取得された走行情報が日常的でない場合、日常的でないと判定された使用態様の走行情報に上書きする走行情報更新手段27と、と有することを特徴とする走行情報記録装置100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行履歴を記録する走行情報記録装等に関し、特に、時刻情報と走行距離を記録可能な走行情報記録装置及びメータコンピュータに関する。
【背景技術】
【0002】
車両を使用していると過去の走行履歴を参照したい場合がある。走行履歴は、例えば車両を運転した日時や時刻、走行距離等の情報を含むので、出張や旅行に車両を使用した場合、走行履歴を記録しておけば後に運転した距離等を参照することができる。かかる要求に対し、ナビゲーションシステムを用いて走行履歴を記録する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には開始ボタンを押してから終了ボタンを押すまでの、位置情報や走行距離を記録する走行履歴記録方法が記載されている。また、車両にはトリップメータが搭載されていることを利用して、トリップメータの情報を乗員に提供する技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2には、前回イグニッションをオンにしてからオフにするまでの走行距離、平均車速、平均燃費を記憶しておき、次回のイグニッションオン時に、所定速度に達するまで記憶されていた情報を乗員に表示するトリップデータ計測装置が記載されている。
【特許文献1】特開平6−348988号公報
【特許文献2】特開平10−104016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1記載の走行履歴記録方法では乗員の操作により走行履歴を記録するため、乗員に煩わしさを感じさせてしまうし、また、乗員が操作を忘れたら走行履歴を記録できないという問題がある。また、そもそもナビゲーションシステムを搭載していない車両には適用できない。また、特許文献2記載のトリップデータ計測装置では前回分の走行履歴しか表示されないので、前回よりも過去の走行履歴や複数の走行履歴を参照することができないという問題がある。また、イグニッションオンの度に走行履歴を記録すると記憶容量が増大してコスト増をもたらすおそれがある。
【0004】
本発明は、上記課題に鑑み、ユーザを煩わせずかつナビゲーションシステムを用いずに、記憶容量の増大を抑制して走行情報を記録可能な走行情報記憶装置及びメータコンピュータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題に鑑み、本発明は、イグニッションオンからイグニッションオフまでの車両の走行距離を記憶する区間距離記憶手段と、イグニッションオン時刻又はイグニッションオフ時刻の少なくとも一方の時刻情報に前記走行距離を対応づけた、複数の走行情報を記憶する走行情報記憶手段と、複数の走行情報に基づき、イグニッションオンしてからイグニッションオフまでの間に移動した車両の使用態様が日常的か否かを判定する使用態様判定手段と、走行情報記憶手段に記憶容量の上限に達した場合、新たに取得された走行情報が日常的である場合には、日常的であると判定された走行情報記憶手段に記憶されている使用態様の走行情報に上書きし、新たに取得された走行情報が日常的でない場合、日常的でないと判定された走行情報記憶手段に記憶されている使用態様の前記走行情報に上書きする走行情報更新手段と、を有することを特徴とする走行情報記録装置を提供する。
【0006】
本発明によれば、日常的でないと判定された使用態様の走行情報を、走行情報記憶手段に記憶されている日常的でないと判定された使用態様の走行情報に上書きするので、後に参照する可能性の高い走行情報を効率的に記録することができる。
【発明の効果】
【0007】
ユーザを煩わせずかつナビゲーションシステムを用いずに、記憶容量の増大を抑制して走行情報を記録可能な走行情報記憶装置及びメータコンピュータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は走行情報記録装置100の概略を示す図である。走行情報記憶装置100は例えば次のように動作する。
1.イグニッションオンの時刻を記録する。
2.イグニッションオン時、専用トリップデータをリセットする(ゼロにする)。
3.イグニッションオフの時刻を記録する。
4.イグニッションオフ時、専用トリップデータを読み出す。
5.イグニッションオンの時刻、オフの時刻、及び、走行距離(以下、これら3点を走行情報という)から、車両の使用態様が日常使用か特殊使用かを判定する。
6.日常使用でない使用態様の走行情報(以下、特殊走行情報という)を後にユーザが参照できるように走行情報記憶部32に記録する。具体的には、走行情報記憶部32の記憶容量の上限に到達した後は、日常的な使用態様の走行情報は、すでに走行情報記憶部32に記憶されている日常的な使用態様の走行情報に上書きし、日常的でない使用態様の特殊走行情報は、すでに走行情報記憶部32に記憶されている特殊走行情報に上書きする。この記録方法により、多くの場合、十分な期間の特殊走行情報を保持できるようになる。以下では、かかる手順を単に「優先的に」特殊走行情報を記録するという場合がある。
【0009】
なお、日常使用でない使用態様とは、後から参照する必要が生じる可能性が高い出張や旅行のために車両を使用した使用態様をいう。
7.ユーザ(運転者、乗員等の車両に乗車する権限がある者)が特殊走行情報を表示する操作をすれば、走行情報記憶部からそれが読み出され、ユーザは特殊な使用態様の特殊走行情報を参照することができる。
【0010】
すなわち、本実施形態の走行情報記録装置100は、ナビゲーションシステムを用いることなく走行情報を記録することができ、かつ、日常使用でない特殊走行情報を優先的に記録するので記憶装置の記憶容量を節約しながら、十分な期間の特殊走行情報を確実に保持することができる。また、ユーザの操作なしに走行情報を記録するので記録忘れが生じることもない。
【0011】
図2は、走行情報記録装置100のブロック図を示す。走行情報記録装置100は、例えば所定のコンピュータにより制御される。トリップデータやオドデータはメータECU(electronic control unit)20がオド/トリップデータ表示部17に表示を制御するものであるため、本実施形態ではメータECU20が走行情報記録装置100を制御するものとする。メータECU20はインストルメントパネルの表示を制御するコンピュータであって、この他、車速情報を表示するスピードメータ、エンジン回転数を表示するタコメータ、シフトポジション「D(ドライブ)」〜「R(後退)」を表示するインジケータ、燃料残量を表示する燃料メータ、にそれぞれ表示量を指示する。
【0012】
なお、本実施形態では、「オドデータは、車両出荷時から現在までの累積走行距離であってリセット不能」、「トリップデータは、ユーザがリセットしてから現在までの走行距離であってユーザ操作によりリセット可能」、「走行情報用トリップデータは、イグニッション(以下、IG)オンからIGオフまでの走行距離であって走行情報記録装置100がリセットする」ものとする。
【0013】
メータECU20には、IGをオン又はオフするIG-SW11、押下する度にオド/トリップデータ表示部17に表示するオドデータとトリップデータとを切り換えるオド/トリップ切り換えSW15、トリップデータをユーザの操作によりリセットするためのリセットSW16、車速情報を出力する車速センサ12、年月日、曜日及び時刻等の情報を出力する時計13、特殊走行情報を表示するディスプレイ14、が接続されている。なお、オド/トリップ切り換えSW15を長押しすることでトリップデータをリセットする等、オド/トリップ切り換えSW15とリセットSW16を一体に構成してもよい。
【0014】
また、メータECU20には、ユーザが操作することでディスプレイ14に特殊走行情報が表示される特殊走行情報表示ボタン18が接続されている。特殊走行情報表示ボタン18を、オド/トリップ切り換えSW15と一体に構成してもよい。
【0015】
メータECU20はCPU、RAM、ROM等を有し、演算回路やプログラムの実行により実現される、走行距離変換部21、トリップデータ更新部22、走行情報更新部27、時刻取得部23、日常使用データ範囲決定部24、使用態様判定部25及び特殊走行情報アクセス部26、を有する。また、オドデータ記憶部28及びトリップデータ記憶部29は、メータECU20以外の外部からは書き換えが困難なICメモリ等に配置される。また、専用トリップデータ記憶部31、走行情報記憶部32及び日常使用データ範囲記憶部33は、ハードディスクドライブやフラッシュメモリなどの不揮発メモリに実装される。
【0016】
〔車速情報、走行距離の検出〕
車速センサ12が検出する車速情報について説明する。車速センサ12は、車輪と一体に回転するロータの外周上に等間隔に設けた凸部と、永久磁石とコイルを設けたピックアップとを有し、車輪が回転することでピックアップと凸部との距離が変化する際に、ピックアップに生じる磁束を交流電圧として検出する。この交流電圧は、ロータの回転数に比例して周波数が変化し、ロータの回転数はタイヤの回転数に比例しているので、交流電圧をパルスに整形しパルスの数をカウントすることで走行距離に比例した情報を検出することができる。
【0017】
車速センサ12のレジスタ1にはパルスのカウント値が入力される。車速センサ12のパルスカウント回路はパルスの立ち上がり又は立ち下がりのエッジを検出し、パルスの数をカウントしレジスタ1に記憶する。なお、レジスタ1を下位桁と上位桁の2つに分け、通常は下位桁のみをカウントアップし下位桁のレジスタが桁上がりしたら上位桁をカウントアップしてもよい。また、レジスタ2には所定時間(例えば、数十ミリ秒)内にカウントされるパルス数が記憶され、このパルス数は所定時間毎に読み出して初期化される。一定の所定時間にカウントされるパルス数は車輪の回転速度に比例した値となるので、所定時間毎に読み出したレジスタ2のパルス数は車速に比例した情報となる。レジスタ2のパルス数と予め記憶した補正値とを算出式に代入することで車速を算出することができる。補正値は、ロータの外周上に設けられた凸部の間隔から算出される。車速センサ12は、上記所定時間毎に車速を示す車速情報をメータECU20に送出する。
【0018】
走行距離変換部21は車速情報を距離に変換し、距離を積算してオドデータ記憶部28にオドデータを、トリップデータ記憶部29にトリップデータを記憶する。距離は車速×所定時間から算出され、走行距離変換部21は車速情報を受信して距離を算出する度に、
・オドデータ記憶部28 ←「距離+オドデータ記憶部28に記憶されているオドデータ」
・トリップデータ記憶部29 ←
「距離+トリップデータ記憶部29に記憶されているトリップデータ」
を繰り返す。
【0019】
〔専用トリップデータの記憶〕
トリップデータ更新部22は走行情報を取得するため、IGオンからIGオフまでの走行距離を専用トリップデータ記憶部31に記憶する。トリップデータ更新部22は、IG-SW11からIGオン信号を取得した時に専用トリップデータ記憶部31をリセットする。そして、IG-SW11からIGオフ信号を取得するまで、走行距離変換部21が変換した距離を専用トリップデータ記憶部31に記憶することを繰り返す。
専用トリップデータ記憶部31 ←「距離+専用トリップデータ記憶部31に記憶されている専用トリップデータ」
したがって、専用トリップデータ記憶部31にはIGオンからIGオフまでの走行距離が記憶される。
【0020】
〔走行情報の記憶〕
時刻取得部23は、IG-SW11からIGオン信号を検出した時に時計13からIGオン時刻を取得し、走行情報更新部27に送出する。走行情報更新部27は、IGオン時刻をRAMや不揮発メモリ(以下、単にRAMという)に記憶する。また、時刻取得部23はIG-SW11からIGオフ信号を検出した時に時計13からIGオフ時刻を取得し、走行情報更新部27に送出する。走行情報更新部27はIGオフ時刻をRAMに記憶する。
【0021】
また、走行情報更新部27は、IG-SW11からIGオフ信号を取得すると、IGオンからIGオフまでの走行距離を専用トリップデータ記憶部31から読み出し、一対のIGオン時刻とIGオフ時刻に対応づけてRAMに記憶する。したがって、走行情報更新部27は、IGオフの度に次のような走行情報を記憶することができる。
「IGオン時刻:走行距離:IGオフ時刻」
〔使用態様を判定するための走行情報の統計処理(日常使用データ範囲の決定)〕
使用態様を判定するため、走行情報を統計処理して使用態様が日常使用か特殊使用かを判定するための日常使用データ範囲を決定する。日常使用データ範囲とは、日常的な使用態様における走行情報の範囲である。
【0022】
本実施形態では、使用態様を日常使用と日常使用でない特殊使用とに区分する。通勤や趣味のため車両を日常的に使用する場合、IGオン時刻及びIGオフ時刻はユーザが目安とする時刻を中心に分布すると考えられ、また、目的地が同じなのでIGオンからIGオフまでの走行距離は同程度になる。したがって、IGオン時刻、IGオフ時刻、及び、IGオンからIGオフまでの走行距離、の統計を取ることで、日常的な使用における走行情報の範囲(日常使用データ範囲)を決定することができる。
【0023】
図3は、走行情報を統計処理して走行情報から日常使用データ範囲を決定する手順を示すフローチャート図である。統計処理するには、所定期間の走行情報を蓄える必要があるが、ここでは所定期間の過去の走行情報が走行情報記憶部32に記憶されているものとする。記憶の手順は後述するが、走行情報記憶部32は例えばメータECU20の不揮発メモリに実装される。
【0024】
ところで、通勤の場合、勤務形態には、事務職に多い1勤制、工場などの2勤制(朝勤、夕勤)、看護師などの3勤性(朝勤、昼勤、夜勤)等がある。2勤制や3勤性では、2週間から1ヶ月程度かけて勤務形態が一周するため、勤務形態毎に日常使用データ範囲を決定するには1勤制の勤務形態よりも多い走行情報が必要となる。例えば、1週間毎に朝勤、昼勤、夜勤が切り替わるとすると、走行情報記憶部32には少なくとも3週間の走行情報が記憶される必要がある。1週間で5日勤務すると5日分の走行情報が記録されるが、統計は母数が多い方が正確になるのでより好ましくは6週間程度の走行情報、すなわち1つの勤務形態で10日分を記録する。なお、走行情報は、毎日、通勤と退勤の2つが記憶されるので、例えば「2×(21〜42日)×走行情報1つ当たりのバイト数」、だけ走行情報記憶部32の記憶容量を確保すればよい。
【0025】
したがって、まず、日常使用データ範囲決定部24は、予め決定された数だけ走行情報記憶部32に走行情報が記録されているか否かを判定する(S10)。走行情報の数が充分でない場合、日常使用データ範囲決定部24は日常使用データ範囲が決定されていない「不明」を表すフラグを走行情報記憶部32に立て(S20)、処理を終了する。
【0026】
走行情報の数が充分である場合(S10のYes)、日常使用データ範囲決定部24は、まず密集データを抽出する(S30)。
【0027】
図4(a)は走行情報記憶部32に記憶された走行情報の一例を、図4(b)はIGオン時刻と走行距離をプロットしたプロットデータの一例を示す。図4(a)には例えば時系列に複数の走行情報が記憶されており、複数の走行情報には日常使用の走行情報と特殊使用の特殊走行情報が含まれる。
【0028】
図4(a)をプロットすると、図4(b)に示すように「○」内部の走行情報(以下、密集データという)は、分布に偏りがあることがわかるので、密集データは日常使用の走行情報であると推定される。したがって、「○」の中心位置及び外縁を統計により確定すればよい。確定された範囲が日常使用データ範囲となる。
【0029】
図5(a)はプロットデータの一例を、図5(b)は密集データの確定を説明する図を、図5(c)は日常使用データ範囲の一例をそれぞれ示す。日常使用データ範囲決定部24は、密集データ検出ウィンドウの1マス毎に図5(a)のプロットデータを走査する。密集データ検出ウィンドウは、密集したプロットを検出するためのウィンドウで、例えば3〜5以上のプロットが含まれると密集データ検出ウィンドウの周囲に密集データがあると検出する。密集データ検出ウィンドウの横方向の長さは、日常的な使用でIGオン時刻又はIGオフ時刻がどのくらい分散するか、縦方向の長さは同じ出発地と目的地で走行距離がどのくらい分散するかにより決定する。図5(a)ではそれぞれ30分と1Kmに設定した。
【0030】
次に、図5(b)に示すように、日常使用データ範囲決定部24は密集データ検出ウィンドウの検出結果に基づき密集データを確定する。例えば3以上のプロットが密集データ検出ウィンドウに含まれると、そのうちのいずれか1つのプロットから、密集判定スケール内のプロットを抽出する。密集判定スケール内に抽出された全てのプロットに対し、同様に密集判定スケール内のプロットを抽出する手順を繰り返すと、密集判定スケール内に近接した全てのプロットを抽出することができる。すなわち、いずれかのプロットに対し密集判定スケール以上離れていないプロットを全て抽出したことになる。密集判定スケールは近接していると判定してよいプロット間の距離であるので、IGオン時刻と走行距離のグラフにおいて、例えば横方向に数分〔分〕縦方向に数百〔m〕とした矩形の対角線に相当する長さである。
【0031】
次に、日常使用データ範囲決定部24はこの密集データから標準偏差σを算出する(S50)。密集データはIGオン時刻と走行距離という2次元に分布しているので、それぞれの標準偏差を算出する。すなわち、密集データからIGオン時刻の平均toと、走行距離の平均Lを求め、
σto=√{Σ((各プロットのIGオン時刻−平均t)/データ数}
σ=√{Σ((各プロットのIGオン時刻−平均L))/データ数}
からそれぞれの標準偏差σto及びσを算出する。
密集データが正規分布に従う場合、標準偏差の性質から平均値を中心に±σの範囲に約68%のデータが含まれる。
【0032】
最後に、図5(c)に示すように、日常使用データ範囲決定部24は、日常使用データ範囲を決定する(S60)。密集データと同じ程度の分布に含まれる走行データであれば日常使用と判定するとすれば、例えば平均値を中心に±3σの範囲(約99.7%のデータ含まれる)を日常使用データ範囲に決定する。すなわち、平均t±3σtoの範囲、かつ、平均L±3σの範囲が、密集データの外縁を定める日常使用データ範囲となる。
【0033】
なお、IGオン時刻とIGオフ時刻は一対なので、IGオン時刻の密集データからIGオフ時刻の密集データを抽出できる。したがって、
σtf=√{Σ((各プロットのIGオフ時刻−平均t)/データ数}
を算出して、平均t±3σtfの範囲を決定してもよい。この場合、走行距離の標準偏差σは既に算出されたσである。
【0034】
以上の処理により、日常使用データ範囲を決定することができる。図3の処理は、例えば1つの走行情報がRAMに記憶される毎(すなわち、IGオフの度)に実行される。1勤制の通勤の場合であって、毎日同程度の時刻に退勤すれば、退勤時のIGオン時刻から同様の日常使用データ範囲が検出されるので、図4(b)に示すように2つの日常使用データ範囲が決定される。日常使用データ範囲決定部24は、日常使用データ範囲記憶部33に日常使用データ範囲を記憶する。
【0035】
なお、図2では説明のため、日常使用データ範囲記憶部33に日常使用データ範囲を記憶することとしたが、日常使用データ範囲は使用態様の判定の度に決定すればよく、日常使用データ範囲記憶部33を省略することができる。
【0036】
また、IGオン時刻と走行距離の標準偏差σから日常使用データ範囲を確定するのでなく、密集データのうちIGオン時刻の最小値と最大値、及び、走行距離の最小値と最大値、を日常使用データ範囲に決定してもよいし、最大値と最小値にプラス又はマイナスのマージンを設け日常使用データ範囲に決定してもよい。
【0037】
また、IGオン時刻と走行距離とからそれぞれ標準偏差σを算出すると、日常使用データ範囲は矩形となるので、これを円形にするため、時刻の平均toと走行距離の平均Lを中心に各プロットまでの離間距離を求め、この離間距離の標準偏差を算出してもよい。平均toと平均Lを中心に3×標準偏差の円を描けば、日常使用データ範囲は円形となる。
【0038】
〔使用態様の判定〕
図2に戻り、使用態様の判定について説明する。日常使用データ範囲が決定されれば、RAMに記憶された走行情報が日常使用データ範囲に含まれるか以下に基づき、使用態様が日常使用か特殊使用かを判定することができる。すなわち、使用態様判定部25は、IG-SW11からIGオフ信号を取得すると、走行情報更新部27がRAMに記憶した最新の走行情報を取得する。そして、走行情報のIGオン時刻及び走行距離が日常使用データ範囲に含まれるか否かを判定する。
【0039】
〔走行情報の更新〕
走行情報更新部は、走行情報を走行情報記憶部32に記憶するが、特殊走行情報を優先的に走行情報記憶部32に記憶する。ところで、走行情報を走行情報記憶部32に記憶するに当たって、日常使用の走行情報と特殊使用の特殊走行情報の、記憶領域や記憶容量をそれぞれ制限する方法と、制限しない方法がある。
【0040】
制限しない方法の場合、走行情報により走行情報記憶部32の記憶容量が上限に達した時の、日常使用の走行情報と特殊使用の特殊走行情報の比率が以後、保たれることになる(日常使用の走行情報は走行情報記憶部32の日常使用の走行情報に上書きされ、特殊使用の特殊走行情報は、走行情報記憶部32の特殊使用の特殊走行情報に上書きされるため。)。一般的に、日常使用のみで車両を使用することは少ないため、制限しない方法でも、特殊使用の特殊走行情報のために所定の記憶容量を確保できる。また、仮に、特殊使用の特殊走行情報の記憶容量が極めて小さく(例えば、10個以下)なってしまったような場合(車両を日常使用にほとんど使用した場合)、走行情報記憶部32を初期化すればよい。したがって、日常使用の走行情報と特殊使用の特殊走行情報の記憶領域や記憶容量を制限しない場合、走行情報記憶部32の構成を簡易化できるのでコスト増を抑制できる。
【0041】
しかしながら、予め日常使用の走行情報と特殊使用の特殊走行情報の、記憶領域や記憶容量をそれぞれ制限しておけば、必ず一定数の特殊走行情報を記憶しておくことができる。特殊走行情報を優先的に記憶するため、本実施形態では日常使用の走行情報の記憶容量に及び特殊使用の特殊走行情報の記憶容量に上限を設ける。そして、日常使用と判定された走行情報を最も古い走行情報に上書きし、特殊使用と判定された特殊走行情報を最も古い特殊走行情報に上書きする。
【0042】
図6は、走行情報記憶部32に記憶される走行情報の構成概念を示す図である。例えば、日常使用と特殊使用の走行情報の記憶容量を均等に設ける(時系列に記憶すると実際には日常使用と特殊使用の走行情報は混在する)。頻度の大きい日常使用の走行情報は数が多いため、上限を設けることで、走行情報記憶部32全体の記憶容量を増大させることなく、特殊使用の特殊走行情報の記憶領域を確保することができる。したがって、いずれも記憶容量に上限は存在するが、走行情報記憶部32全体の記憶容量を最小限に保ちながら、特殊走行情報を効率的に保存することができる。なお、日常使用の走行情報の記憶領域は上記のように3〜6週間分確保できればよく、日常使用と特殊使用の記憶容量は均等である必要はない。
【0043】
ところで、日常使用の走行情報と特殊走行情報は特に識別情報が付与されているわけでないので(付与してもよい。例えば、フラグ1:日常使用の走行情報、フラグ2:特殊走行情報とする。)、日常使用の走行情報は、日常使用データ範囲決定部24が密集データと確定した走行情報であり、特殊走行情報は密集データ以外の走行情報である。
【0044】
走行情報更新部27は、使用態様の判定の結果、日常使用データ範囲に含まれる場合であって、日常使用の走行情報の数が上限に達していればそのうち最も古い走行情報を削除し、RAMに記憶されている走行情報で置き換える。また、同様に、走行情報更新部27は、使用態様の判定の結果、日常使用データ範囲に含まれない場合であって、特殊使用の特殊走行情報の数が上限に達していればそのうち最も古い特殊走行情報を削除し、RAMの走行情報を記憶する。
【0045】
なお、日常使用データ範囲を決定するための充分な数の走行情報が記憶されていない場合、走行情報更新部27はRAMに記憶している走行情報を単に走行情報記憶部32に記憶(転記)する。
【0046】
〔特殊走行情報の表示〕
特殊走行情報アクセス部26は、ユーザが特殊走行情報表示ボタン18を操作すると走行情報記憶部32から特殊走行情報を読み出し、ディスプレイ14に表示する。特殊走行情報アクセス部26は、使用態様判定部25から例えば特殊走行情報のアドレスを受け取り、走行情報記憶部32にアクセスし、特殊走行情報を抽出する。特殊走行情報にフラグなどの識別情報が付与されている場合は、使用態様判定部25からアドレスを受け取ることなく特殊走行情報を抽出できる。
【0047】
〔特殊走行情報の記録手順〕
以上の構成に基づき、走行情報記録装置100が走行情報を記録する手順を図7のフローチャート図に基づき説明する。図7の手順は例えばIGオンになるとスタートする。
【0048】
トリップデータ更新部22はIGオン信号を検出して(S110)、専用トリップデータ記憶部31をリセットし、また、走行情報更新部27は時刻取得部23が時計13から取得したIGオン時刻を、例えばRAMに一時的に記憶する(S120)。IGオンの後、車両が走行すればトリップデータ更新部22は専用トリップデータ記憶部31に走行距離を順次計上していく。
【0049】
そして、IGオフ信号を検出すると(S130)、走行情報更新部27は時刻取得部23が時計13からIGオフ時刻を取得して、IGオン時刻とIGオフ時刻を一対にして、RAMに記憶する。また、走行情報更新部27は専用トリップデータ記憶部31から専用トリップデータを読み出し、一対のIGオン時刻とオフ時刻に対応づけてRAMに記憶する(S140)。
【0050】
ついで、使用態様判定部25はRAMに記憶された走行情報に基づき、日常使用データ範囲記憶部33を参照し、使用態様を判定する(S150)。これまで説明したように、使用態様は日常使用、特殊使用、又は、不明、のいずれかである(S160)。新たな走行情報がRAMに記憶された時に、日常使用データ範囲決定部24が図3の処理を実行し日常使用データ範囲を決定してもよいし、過去の走行情報から予め日常使用データ範囲を決定しておいてもよい。
【0051】
使用態様が日常使用の場合、走行情報更新部27は最も古い日常使用の走行情報を走行情報記憶部32から削除し、RAMに記憶された走行情報を走行情報記憶部32に記憶する(S170)。したがって、使用態様が日常的な場合、走行情報記憶部32に記憶される走行情報は一定数に保たれる。
【0052】
使用態様が特殊使用の場合、走行情報更新部27は走行情報記憶部32に空きメモリがあるか否かを判定する(S180)。空きメモリがあれば(S180のYes)、走行情報更新部27はRAMに記憶された走行情報(特殊走行情報)を走行情報記憶部32に記憶する(S190)。空きメモリがない場合(S180のNo)、走行情報更新部27は最も古い特殊走行情報を削除した後(S200)、RAMに記憶された走行情報を走行情報記憶部32に記憶する(S190)。
【0053】
使用態様が不明の場合、日常使用データ範囲を決定するには走行情報の数が充分でないことになるので、走行情報更新部27はRAMに記憶された走行情報を走行情報記憶部32に記憶する(S210)。
【0054】
以上のように、特殊な使用態様の特殊走行情報を優先的に記憶することで、走行情報記憶部32の記憶容量を最小限に抑制して、日常的でないと判定された使用態様の特殊走行情報を効率的に記憶することができる。したがって、出張や旅行など後にユーザが参照したい特殊な走行情報が優先的に長期間保存され、ユーザが特殊走行情報表示ボタン18を操作した場合、過去に長い期間さかのぼって特殊走行情報を表示することができる。また、本実施形態の走行情報記録装置100はナビゲーションシステムを必要としないので構成が容易でありコスト増を抑制できる。
【0055】
〔日常使用データ範囲の種類〕
その他の日常使用データ範囲について説明する。
・平日と休日
休日の決まった時刻にIGオンし決まった目的地に行くのに車両を使用する場合、休日においても日常使用データ範囲を決定することができる。しかしながら、図4(b)のように時刻に対しIGオン時刻をプロットするだけでは、平日の日常使用と休日の日常使用が混在する可能性がある。このため、好ましくは平日毎と休日毎、より好ましくは曜日毎に日常使用データ範囲を決定することが好適となる。
【0056】
図8は曜日毎の日常使用データ範囲を重畳した図を示す。例えば、1勤制のユーザの場合、平日の日常使用データ範囲は少なくとも一部が重複し、平日の日常使用データ範囲は休日よりも数が多いと考えられる。図8のように、曜日毎の日常使用データ範囲を比較して、重複した日常使用データ範囲をカウントしその数が1週間のうち例えば4〜5日程度あれば、その日常使用データ範囲は平日の日常使用データ範囲としてよい。また、1週間のうち1日しかないか又は2日程度しか重複しない日常使用データ範囲があれば、休日の日常使用データ範囲としてよい。したがって、平日の使用態様と休日の使用態様の日常使用データ範囲を決定することができる。なお、この平日と休日はカレンダー上の平日(月〜金)と休日(土、日)と関係なく決定できる。
【0057】
このような曜日毎の日常使用データ範囲が決定されれば、走行情報が得られることでユーザが平日なのか休日なのかを判定することができる。例えば、図8では走行情報が「月〜金」の日常使用データ範囲に含まれた場合、平日の日常使用であると判定でき、「土」の日常使用データ範囲に含まれた場合、休日の日常使用であると判定できる。
・ユーザ毎
ユーザが異なれば車両の使用態様が変わるので、日常使用データ範囲決定部24はユーザ毎に日常使用データ範囲を決定することが好ましい。スマートキー(登録商標)を用いて車両を解錠する場合、ユーザはキーIDにより識別できる。また、指紋や静脈などユーザの生体情報によりユーザを識別してもよい。すなわち、日常使用データ範囲決定部24はユーザ毎に図3の処理を実行し、ユーザ毎に日常使用データ範囲を記憶する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の走行情報記録装置100は、ユーザを煩わせずかつナビゲーションシステムを用いずに、記憶容量の増大を抑制して走行情報を記録することができる。また、ユーザが平日か休日かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】走行情報記録装置の概略を示す図である。
【図2】走行情報記録装置のブロック図の一例である。
【図3】走行情報を統計処理して走行情報から日常使用データ範囲を決定する手順を示すフローチャート図である。
【図4】走行情報記憶部に記憶された走行情報の一例を示す図である。
【図5】プロットデータ、密集データ、日常使用データ範囲の一例をそれぞれ示す図である。
【図6】走行情報記憶部に記憶される走行情報の構成概念を示す図である。
【図7】走行情報記録装置が走行情報を記録する手順を示すフローチャート図である。
【図8】曜日毎の日常使用データ範囲を重畳した図である。
【符号の説明】
【0060】
11 IG−SW
12 車速センサ
13 時計
14 ディスプレイ
20 メータECU
24 日常使用データ範囲決定部
25 使用態様判定部
31 専用トリップデータ記憶部
32 走行情報記憶部




【特許請求の範囲】
【請求項1】
イグニッションオンからイグニッションオフまでの車両の走行距離を記憶する区間距離記憶手段と、
イグニッションオン時刻又はイグニッションオフ時刻の少なくとも一方の時刻情報に前記走行距離を対応づけた、複数の走行情報を記憶する走行情報記憶手段と、
複数の前記走行情報に基づき、イグニッションオンしてからイグニッションオフまでの間に移動した車両の使用態様が日常的か否かを判定する使用態様判定手段と、
前記走行情報記憶手段の記憶容量の上限に達した後、新たに取得された前記走行情報が日常的であると判定された場合には、日常的であると判定された前記走行情報記憶手段に記憶されている前記使用態様の前記走行情報に上書きし、新たに取得された前記走行情報が日常的でないと判定された場合、日常的でないと判定された前記走行情報記憶手段に記憶されている前記使用態様の前記走行情報に上書きする走行情報更新手段と、
と有することを特徴とする走行情報記録装置。
【請求項2】
前記走行情報記憶手段に記憶された複数個の前記走行情報のうち、類似した前記走行情報の範囲を決定するデータ範囲決定手段、を有し、
前記使用態様判定手段は、前記データ範囲決定手段が決定した前記範囲に、前記使用態様の前記走行情報が含まれるか否かにより日常的な前記使用態様か否かを判定する、
ことを特徴とする請求項1記載の走行情報記録装置。
【請求項3】
前記データ範囲決定手段は、
前記走行情報記憶手段に記憶された複数個の前記走行情報を読み出し、差が所定時間内の複数の前記イグニッションオン時刻を抽出し抽出された複数の前記イグニッションオン時刻から標準偏差Aを算出して、標準偏差Aの所定数倍を前記範囲に確定するか、又は、
差が所定距離内の複数の前記走行距離を抽出し抽出された複数の前記走行距離から標準偏差Bを算出して、標準偏差Bの所定数倍を前記範囲に確定する、
ことを特徴とする請求項2記載の走行情報記録装置。
【請求項4】
前記走行情報記憶手段は、日常的であると判定された前記使用態様の前記走行情報、又は、日常的でないと判定された前記使用態様の前記走行情報、を記憶する記憶容量若しくは個数に上限を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の走行情報記録装置。
【請求項5】
前記走行情報記憶手段に記憶された前記走行情報のうち、日常的でないと判定された前記使用態様の前記走行情報を表示する表示手段、
を有することを特徴とする請求項1記載の走行情報記録装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか記載の走行情報記録装置と、
オドデータ記憶部と、トリップデータ記憶部と、
オド/トリップデータ表示部と、
を有することを特徴とするメータコンピュータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−276293(P2009−276293A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129976(P2008−129976)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】