説明

走行支援装置、方法およびプログラム

【課題】走行安定性を低下させることなく目標位置において目標車速以下となるように走行支援を行うこと。
【解決手段】車両の前方に存在する目標位置および当該目標位置における目標車速を示す情報を取得し、前記車両の前方に存在する路面の摩擦度合が所定の基準より小さい低摩擦区間の長さを示す情報を取得し、前記車両の現在位置と前記目標位置との間に前記低摩擦区間が存在する場合、前記車両の現在位置と前記目標位置との間に前記低摩擦区間が存在しない場合に前記目標位置において車速を前記目標車速以下にさせる走行支援を行う際の走行支援開始位置よりも、前記低摩擦区間の長さだけ車両側の位置から前記走行支援を開始するとともに、前記低摩擦区間においては前記走行支援を中断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低摩擦区間を含む区間での車両の走行を支援する走行支援装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、路面状態に応じた車両の制御を行う技術が知られている。例えば、特許文献1には、他車両から送信された走行状態情報に基づいて路面の摩擦度合を推定し、摩擦度合が小さいほど目標減速度を小さい値に設定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−278480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術においては路面の摩擦係数に適した減速度となるように目標減速度を調整しており、路面の摩擦係数が小さい場合に小さな目標減速度となるように減速度を設定しているものの、路面の摩擦係数が小さい区間において車両に対する減速介入を行っている。しかし、路面の摩擦係数が小さい区間において減速介入を行うと、車両の走行安定性を維持することは困難である。
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、走行安定性を低下させることなく目標位置において目標車速以下となるように走行支援を行うことが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明においては、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在する場合、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在しない場合に目標位置において車速を目標車速以下にさせる走行支援を行う際の走行支援開始位置よりも、低摩擦区間の長さだけ車両側の位置から走行支援を開始する。さらに、低摩擦区間においては当該走行支援を中断する。すなわち、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在する場合には、当該低摩擦区間においては走行支援を中断する替わりに、当該低摩擦区間の長さだけ通常の走行支援における走行支援開始位置よりも早い段階で走行支援を開始する。この構成により、走行安定性を維持することが困難な低摩擦区間において走行支援が行われることを防止することができる。従って、走行安定性を低下させることなく目標位置において目標車速以下となるように走行支援を行うことが可能になる。
【0006】
ここで、目標情報取得手段は、車両の前方に存在する目標位置および目標位置における目標車速を示す情報を取得することができればよい。すなわち、走行支援を行う際に支援を完了すべき目標位置と、支援を完了する際の上限車速となる目標車速とを示す情報を取得することができればよい。目標位置は、目標車速が0km/hである停止線の位置や特定の車速以下で走行すべき徐行区間の開始位置のように、道路上の地物に対応付けられていても良いし、信号機が示す信号に応じて停止すべき位置を目標位置とする構成としても良く、種々の構成を採用可能である。
【0007】
低摩擦区間情報取得手段は、車両の前方に存在する、路面の摩擦度合が所定の基準より小さい低摩擦区間の長さを示す情報を取得することができればよい。すなわち、走行支援を中断すべき区間の長さを示す情報を取得することができればよい。低摩擦区間の長さを示す情報は、各種の手法によって取得可能である。例えば、路車間通信、車車間通信等によって取得しても良いし、カメラ等のセンサによって取得しても良い。むろん、低摩擦区間の開始位置および終了位置を特定可能である場合には、当該開始位置および終了位置を示す情報を低摩擦区間の長さを示す情報に含める構成としても良い。
【0008】
低摩擦区間は路面の摩擦度合が所定の基準より小さい区間であれば良く、減速介入等の走行支援が行われることによって車両の走行安定性を低下させる可能性がある区間を決定できるように所定の基準が設定されていればよい。従って、通常の路面(水や氷などによって摩擦度合が通常よりも低下していない路面)を所定の基準とし、通常の路面よりも摩擦度合が小さい路面を低摩擦区間としても良いし、摩擦度合を示す指標(摩擦係数等)に所定の基準値を設定し、摩擦度合を示す指標が当該所定の基準値より小さい路面を低摩擦区間としても良く、種々の構成を採用可能である。
【0009】
走行支援手段は、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在する場合と存在しない場合とで異なる位置を走行支援開始位置とし、また、低摩擦区間において走行支援を中断できるように構成されていればよい。すなわち、目標位置における車速を目標車速以下にさせるための走行支援法が予め決められており、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在しない場合には当該予め決められた走行支援法での支援を実行する。一方、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在する場合、走行支援開始位置を低摩擦区間の長さだけ車両側の位置とし、低摩擦区間では支援を中断する。そして、低摩擦区間以外の区間では当該予め決められた走行支援法での支援を実行する。なお、走行支援は、目標位置において車速を目標車速以下にさせるための支援であれば良く、車両に対する減速制御介入であっても良いし、目標位置の存在や目標車速、低摩擦区間の存在等を示す警告を行う案内であっても良い。
【0010】
さらに、低摩擦区間以外の区間においては走行支援を中断せずに実行すれば良く、その例として、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在する場合、低摩擦区間が存在しない場合の走行支援によって車両に作用させる減速度と同じ減速度を低摩擦区間以外の区間において車両に作用させる構成を採用しても良い。すなわち、走行支援は減速度を規定した減速制御であり、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在する場合であっても、低摩擦区間以外の区間においては通常の走行支援と同様の減速制御を行う。この構成によれば、低摩擦区間で減速介入等の走行支援を中断しても目標位置において目標車速以下となるように適切な走行支援を行うことが可能である。なお、減速度は、車両前方を正の方向とした場合の負の加速度である。
【0011】
さらに、走行支援を行っている過程において低摩擦区間を特定する構成を採用しても良い。例えば、走行中の路面の摩擦度合を検出する摩擦変化検出手段を備える構成とし、当該摩擦変化検出手段によって摩擦度合の変化が検出された後、車両が低摩擦区間の長さだけ走行するまでの間、走行支援を中断する構成としても良い。すなわち、路面の摩擦度合が変化した位置が低摩擦区間の開始位置であるとみなして走行支援を中断する。この構成によれば、低摩擦区間の開始位置および終了位置が予め特定されていない状態で走行支援を開始した場合であっても、低摩擦区間において走行支援を中断することが可能である。
【0012】
なお、摩擦変化検出手段は、車両が走行中の路面の摩擦度合を検出することができればよい。例えば、車輪の回転速度に基づいて摩擦度合や摩擦度合の変化を検出する構成等を採用可能である。むろん、他のセンサによって摩擦度合を検出する構成であっても良い。
【0013】
さらに、本発明のように車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在する場合に、低摩擦区間が存在しない場合よりも車両側に走行支援開始位置を設定するとともに低摩擦区間において走行支援を中断する手法は、プログラムや方法としても適用可能である。また、以上のような装置、プログラム、方法は、単独の装置として実現される場合もあれば、車両に備えられる各部と共有の部品を利用して実現される場合もあり、各種の態様を含むものである。例えば、以上のような装置を備えたナビゲーション装置や方法、プログラムを提供することが可能である。また、一部がソフトウェアであり一部がハードウェアであったりするなど、適宜、変更可能である。さらに、装置を制御するプログラムの記録媒体としても発明は成立する。むろん、そのソフトウェアの記録媒体は、磁気記録媒体であってもよいし光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても全く同様に考えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】走行支援装置を含むナビゲーション装置のブロック図である。
【図2】走行支援処理を示すフローチャートである。
【図3】停止線が存在する道路の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)ナビゲーション装置の構成:
(2)走行支援処理:
(3)他の実施形態:
【0016】
(1)ナビゲーション装置の構成:
図1は、本発明にかかる走行支援装置を含むナビゲーション装置10の構成を示すブロック図である。ナビゲーション装置10は、CPU,RAM,ROM等を備える制御部20、記録媒体30を備えており、記録媒体30やROMに記憶されたプログラムを制御部20で実行することができる。本実施形態においては、このプログラムとして走行支援プログラム21を実行可能である。走行支援プログラム21は、停止線に応じた位置にて車両を停止させるための減速制御を行う機能を備えている。
【0017】
記録媒体30には、地図情報30aが記録されている。地図情報30aは、車両の位置の特定や車両の前方に存在する目標位置の特定に利用される情報であり、車両が走行する道路上に設定されたノードを示すノードデータ,ノード間の道路の形状を特定するための形状補間点データ,ノード同士の連結を示すリンクデータ,道路やその周辺に存在する地物(道路上の停止線や横断歩道など)を示すデータ等を含んでいる。本実施形態において走行支援プログラム21は、停止線に応じた停止位置で停止するための減速制御を実行可能である。すなわち、本実施形態において、制御部20は、停止線を示すデータに基づいて停止線に応じた停止位置を目標位置として特定する。運転者は停止線に応じて車両を停止させるべきであるため、本実施形態における目標車速は0km/hである。
【0018】
本実施形態における車両は、GPS受信部41と車速センサ42とジャイロセンサ43と通信部44と変速部45と制動部46とユーザーI/F部47とを備えている。GPS受信部41は、GPS衛星からの電波を受信し、図示しないインタフェースを介して車両の現在位置を算出するための情報を出力する。制御部20は、この信号を取得して車両の現在位置を取得する。車速センサ42は、車両が備える車輪の回転速度に対応した信号を出力する。制御部20は、図示しないインタフェースを介してこの信号を取得し、車両の速度を取得する。ジャイロセンサ43は、車両に作用する角速度に対応した信号を出力する。制御部20は図示しないインタフェースを介してこの信号を取得し、車両の走行方向を取得する。車速センサ42およびジャイロセンサ43は、GPS受信部41の出力信号から特定される車両の現在位置を補正するなどのために利用される。また、車両の現在位置は、当該車両の走行軌跡に基づいて適宜補正される。
【0019】
通信部44は、車両の外部の図示しない路面情報管理装置と通信を行う回路を備えており、制御部20は、通信部44を介して当該路面情報管理装置と通信を行い、路面情報を取得して低摩擦区間に関する情報を取得する。
【0020】
変速部45は、前進について計6速、後進について計1速等の複数の変速段を有する有段のトルクコンバータを備えており、各変速段に対応した変速比で回転数を調整しながらエンジンの駆動力を車両の車輪に伝達することができる。制御部20は図示しないインタフェースを介して変速段を切り替えるための制御信号を出力し、変速部45は当該制御信号を取得して変速段を切り替えることが可能である。本実施形態においては、前進1速〜前進6速のように変速段がハイギアになるにつれて変速比が小さくなるように構成されている。
【0021】
制動部46は、車両の車輪に搭載されたブレーキによる減速の程度を調整するホイールシリンダの圧力を制御する装置を含み、制御部20は当該制動部46に対して制御信号を出力してホイールシリンダの圧力を調整させることが可能である。従って、制御部20が当該制動部46に対して制御信号を出力してホイールシリンダの圧力を増加させると、ブレーキによる制動力が増加し、車両が減速される。
【0022】
ユーザーI/F部47は、運転者の指示を入力し、また運転者に各種の情報を提供するためのインタフェース部であり、図示しないタッチパネルディスプレイやスイッチ、スピーカ等を備えている。制御部20は、ユーザI/F部47に対して制御信号を出力することによって各種の案内を出力させる。
【0023】
制御部20は、走行支援プログラム21を実行することにより、路面状態に応じた走行支援を実行する。このために、走行支援プログラム21は、目標情報取得部21aと低摩擦区間情報取得部21bと走行支援部21cとを備えている。
【0024】
目標情報取得部21aは、車両の前方に存在する目標位置および当該目標位置における目標車速を示す情報を取得する機能を制御部20に実現させるモジュールである。すなわち、制御部20は、目標情報取得部21aの処理により、GPS受信部41,車速センサ42,ジャイロセンサ43の出力信号に基づいて車両の現在位置を特定し、地図情報30aを参照して車両の前方の所定範囲内に目標位置となる停止線が存在するか否かを判定する。停止線が存在する場合、制御部20は、当該停止線の位置および目標車速(0km/h)を示す情報を取得する。
【0025】
低摩擦区間情報取得部21bは、車両の前方に存在する路面の摩擦度合が所定の基準より小さい低摩擦区間の長さを示す情報を取得する機能を制御部20に実現させるモジュールである。本実施形態においては、路面が凍結している区間を、路面の摩擦度合が所定の基準より小さい低摩擦区間であるとみなしており、制御部20は、通信部44を介して低摩擦区間の開始位置および終了位置を示す低摩擦区間情報を取得し、当該開始位置および終了位置に基づいて低摩擦区間の長さを特定する。
【0026】
走行支援部21cは、走行支援を行う機能を制御部20に実現させるモジュールであり、本実施形態においては、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在する場合と存在しない場合とで、走行支援開始位置が異なり、走行支援を行っている期間が異なるように設定される。すなわち、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在しない場合には、予め決められた減速度で車両を減速させるための走行支援を、所定の走行支援開始位置から停止線に応じた停止位置の間にて実行する。一方、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在する場合、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在しない場合の走行支援開始位置よりも低摩擦区間の長さだけ車両側の位置から走行支援を開始する。また、走行支援を開始した後、停止線に応じた停止位置までの間において、車両が低摩擦区間を走行している間には走行支援を中断する。以上の構成により、走行安定性を維持することが困難な低摩擦区間において走行支援が行われることを防止することができ、走行安定性を低下させることなく目標位置において目標車速以下となるように走行支援を行うことが可能になる。
【0027】
(2)走行支援処理:
次に、走行支援プログラム21による走行支援処理を説明する。走行支援プログラム21は、所定の期間(例えば、100ms)毎に実行される。図2は走行支援プログラム21が実行する走行支援処理を示すフローチャートである。走行支援プログラム21の処理が開始されると、制御部20は、目標情報取得部21aの処理により、GPS受信部41,車速センサ42,ジャイロセンサ43の出力信号に基づいて車両の現在位置を取得する(ステップS100)。
【0028】
次に、制御部20は、目標情報取得部21aの処理により、地図情報30aを参照し、車両の現在位置から車両前方の所定距離以内に停止線が存在するか否かを判定する(ステップS105)。すなわち、制御部20は、地図情報30aを参照して、車両の現在位置から車両の進行方向前方の所定距離以内の道路上に存在する地物を示すデータを抽出し、当該所定距離以内の道路上に停止線が存在するか否かを判定する。ステップS105にて、車両の現在位置から所定距離以内に停止線が存在すると判定されない場合にはステップS110以降をスキップして処理を終了する。
【0029】
ステップS105にて、車両の現在位置から所定距離以内に停止線が存在すると判定された場合、制御部20は、目標情報取得部21aの処理により、停止線の位置を取得する。すなわち、ステップS105にて抽出された地物を示すデータに基づいて停止線の位置を特定する。
【0030】
次に、制御部20は、走行支援部21cの処理により、当該停止線に応じて車両を停止させるための減速制御を行うべき距離である制動距離を取得する(ステップS115)。本実施形態においては、一定の減速度a(例えば、−0.2G)を作用させて車両が停止線に応じた位置に到達する段階で現在車速が0km/hとなるように車両を制御する。ここでは、このような減速制御を行うために必要な距離を制動距離L1とする。具体的には、制御部20は、車速センサ42の出力信号に基づいて現在車速V0を取得し、制動距離L1=(−V02)/(2a)として制動距離L1を取得する。なお、ステップS115において制御部20は、停止線に応じた停止位置から制動距離L1だけ車両側(車両の進行方向に沿って後方)の位置を走行支援開始位置に設定する。
【0031】
次に、制御部20は、低摩擦区間情報取得部21bの処理により、通信部44を介して車両の前方の路面の状態を示す路面情報を取得する(ステップS120)。本実施形態において、路面情報は道路に関する交通情報であり、道路上に渋滞が発生している場合には路面情報に渋滞情報が含まれる。また、道路上に路面が凍結している低摩擦区間が存在する場合、路面情報には当該低摩擦区間の開始位置および終了位置を示す低摩擦区間情報が含まれている。
【0032】
そこで、制御部20は、低摩擦区間情報取得部21bの処理により、路面情報に基づいて低摩擦区間が存在するか否かを判定する(ステップS125)。すなわち、制御部20は、路面情報に低摩擦区間情報が含まれている場合に、当該低摩擦区間情報を参照して低摩擦区間の開始位置および終了位置を特定し、車両の現在位置と停止線に応じた停止位置との間に低摩擦区間の開始位置が存在する場合に、低摩擦区間が存在すると判定する。
【0033】
ステップS125にて、低摩擦区間が存在すると判定された場合、制御部20は、走行支援部21cの処理により、走行支援開始位置の補正および中断区間の設定を行う(ステップS130)。すなわち、本実施形態においては、車両の現在位置と停止線に応じた停止位置との間に低摩擦区間の開始位置が存在する場合に、ステップS115にて設定された走行支援開始位置を補正する。具体的には、制御部20は、低摩擦区間の開始位置および終了位置に基づいて低摩擦区間の長さを特定し、ステップS115にて設定された走行支援開始位置から低摩擦区間の長さだけ車両側の位置を新たに走行支援開始位置として設定する。また、低摩擦区間の開始位置から終了位置までの区間を、走行支援を中断すべき中断区間として設定する。
【0034】
次に、制御部20は、走行支援部21cの処理により、車両の減速制御を実行する(ステップS135)。すなわち、制御部20は、変速部45および制動部46に対して制御信号を出力し、走行支援開始位置から停止線に応じた停止位置までの区間において、一定の減速度aが作用するように変速比および制動力を制御する。なお、ステップS130において中断区間が設定された場合、制御部20は、GPS受信部41,車速センサ42,ジャイロセンサ43の出力信号に基づいて現在位置を取得し、当該現在位置が中断区間に含まれる状態においては車両に対して一定の減速度aを作用させる制御を中断する。また、車両が中断区間を通過すると再度車両に対して一定の減速度aを作用させる制御を再開する。
【0035】
図3A,3Bは、停止線が存在する道路における走行支援を説明するための図である。図3Aは道路上の存在する車両Cを上から見た状態を示しており、車両Cの前方には停止線Sが存在する。また、図3Aに示す例において、道路上には低摩擦区間Zが存在するとともにその開始位置をFs、終了位置をFeと示している。本例において図2に示す処理が実行されると、ステップS115において停止線Sに関する制動距離L1が特定され、走行支援開始位置が位置P1に設定される。仮に、車両Cの前方に低摩擦区間Zが存在しない場合には、ステップS125の判別を経てステップS130がスキップされるため、ステップS135において、位置P1を走行支援開始位置とした減速制御が実行される。図3Bは、縦軸に車速、横軸に位置を示したグラフであり、本実施形態においては等加速度(等減速度)運動を想定しているため、減速制御により位置P1から車速が一点鎖線に示すように変化して停止線Sに応じた停止位置にて車速が0km/hとなる。
【0036】
一方、図3Aに示すように、車両Cの前方に低摩擦区間Zが存在する場合、ステップS125の判別を経てステップS130にて走行支援開始位置が補正される。すなわち、位置P1よりも低摩擦区間Zの長さL0だけ車両側の位置P2が走行支援開始位置に設定される。また、車両Cの前方に低摩擦区間Zが存在する場合においては、低摩擦区間Zの開始位置Fsから終了位置Feまでの区間が走行支援の中断区間とされる。従って、ステップS135において減速制御が実行されると、図3A,3Bに示す位置P2から減速制御が開始される。この場合、図3Bに示すように、位置P2から車速が実線に示すように変化するが、車両が低摩擦区間Zの開始位置Fsに到達すると低摩擦区間Zの終了位置Feに到達するまで走行支援が中断され、車速は維持される。そして、車両が低摩擦区間Zの終了位置Feに到達すると、再び車速が実線に示すように変化して停止線Sに応じた停止位置にて車速が0km/hとなる。なお、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間Zが存在する場合と低摩擦区間Zが存在しない場合とで減速度は共通であり、低摩擦区間以外においては、車両に対して同じ減速度が作用する。従って、低摩擦区間Zの終了位置Feから停止線Sまでの区間における一点鎖線に示す曲線と実線に示す曲線は同形状であり、位置P2から低摩擦区間Zの開始位置Fsまでの区間における実線に示す曲線と位置P1から低摩擦区間Zの終了位置Feまでの区間における実線に示す曲線とは同形状である。
【0037】
以上の処理においては、車両の現在位置と停止線に応じた停止位置との間に低摩擦区間の開始位置が存在する場合に、車両の現在位置と停止線に応じた停止位置との間に低摩擦区間の開始位置が存在しない場合における走行支援開始位置よりも低摩擦区間の長さだけ車両側の位置から走行支援が開始される。さらに、車両の現在位置と停止線に応じた停止位置との間に低摩擦区間の開始位置が存在する場合、低摩擦区間にて走行支援が中断される。従って、走行安定性を維持することが困難な低摩擦区間において走行支援が行われることを防止することができ、走行安定性を低下させることなく目標位置において目標車速以下となるように走行支援を行うことが可能になる。さらに、図3Bに示すように、車両の現在位置と停止線に応じた停止位置との間に低摩擦区間の開始位置が存在する場合には、車両の現在位置と停止線に応じた停止位置との間に低摩擦区間の開始位置が存在しない場合と比較して、低摩擦区間の開始位置に到達する段階での車速を抑制することができる。従って、低摩擦区間における走行安定性の低下をより効果的に防止することが可能になる。
【0038】
(3)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在する場合に、低摩擦区間が存在しない場合よりも車両側に走行支援開始位置を設定するとともに低摩擦区間において走行支援を中断する限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、目標位置は走行支援を行う際に支援を完了すべき位置であり、目標車速は支援を完了する際の上限車速であればよく、目標位置が停止線であり、目標車速が0km/hである構成に限定されない。例えば、目標位置は、特定の車速以下で走行すべき徐行区間の開始位置のように、道路上の地物に対応付けられていても良い。また、停止位置は、地図情報30aにおいて直接的に定義されている構成に限定されず、地図情報30aが示す地物から特定してもよい。例えば、信号機が示す信号に応じて停止すべき場合に信号機に応じて停止すべき位置を目標位置とする構成としても良い。
【0039】
低摩擦区間は、車両の前方に存在する、路面の摩擦度合が所定の基準より小さい区間であればよく、走行支援を中断すべき区間であればよい。低摩擦区間を示す情報は種々の手法によって取得可能であり、路車間通信の他、車車間通信等によって取得しても良いし、カメラ等のセンサによって取得しても良い。
【0040】
低摩擦区間は路面の摩擦度合が所定の基準より小さい区間であれば良く、減速介入等の走行支援が行われることによって車両の走行安定性を低下させる可能性がある区間を決定できるように所定の基準が設定されていればよい。従って、通常の路面(水や氷などによって摩擦度合が低下していない路面)を所定の基準とし、通常の路面よりも摩擦度合が小さい路面を低摩擦区間とすることが可能である。従って、上述の凍結区間の他、水によって摩擦度合が小さくなっている路面を低摩擦区間としても良い。さらに、摩擦度合を示す指標(摩擦係数等)に所定の基準値を設定し、摩擦度合を示す指標が当該所定の基準値より小さい路面を低摩擦区間としても良い。
【0041】
走行支援は、車両の現在位置と目標位置との間に低摩擦区間が存在する場合と存在しない場合とで異なる走行支援開始位置から開始され、また、低摩擦区間において走行支援を中断できるように構成されていればよい。従って、車両を減速させるための各種支援を想定することが可能であり、目標位置の存在や目標車速、低摩擦区間の存在等を示す警告を行う案内であっても良い。すなわち、当該警告が低摩擦区間において行われると運転者に動揺を与える可能性があるため、低摩擦区間において警告を行わないようにすることで走行安定性の低下を防止することができる。
【0042】
さらに、走行支援を行っている過程において低摩擦区間の開始位置を特定する構成を採用しても良い。例えば、車速センサ42の出力信号に基づいて、車輪の回転速度の変化度合が非連続となったことが検出された場合に車両が走行中の路面の摩擦度合の変化を検出する構成とする。そして、摩擦度合の変化が検出された後、車両が低摩擦区間の長さだけ走行するまでの間、走行支援を中断する構成としても良い。すなわち、路面の摩擦度合が変化した位置が低摩擦区間の開始位置であるとみなして走行支援を中断する。この構成によれば、低摩擦区間の開始位置および終了位置が予め特定されていない状態で走行支援を開始した場合であっても、低摩擦区間において走行支援を中断することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
10…ナビゲーション装置、20…制御部、21…走行支援プログラム、21a…目標情報取得部、21b…低摩擦区間情報取得部、21c…走行支援部、30…記録媒体、30a…地図情報、41…GPS受信部、42…車速センサ、43…ジャイロセンサ、44…通信部、45…変速部、46…制動部、47…ユーザーI/F部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前方に存在する目標位置および当該目標位置における目標車速を示す情報を取得する目標情報取得手段と、
前記車両の前方に存在する路面の摩擦度合が所定の基準より小さい低摩擦区間の長さを示す情報を取得する低摩擦区間情報取得手段と、
前記車両の現在位置と前記目標位置との間に前記低摩擦区間が存在する場合、前記車両の現在位置と前記目標位置との間に前記低摩擦区間が存在しない場合に前記目標位置において車速を前記目標車速以下にさせる走行支援を行う際の走行支援開始位置よりも、前記低摩擦区間の長さだけ車両側の位置から前記走行支援を開始するとともに、前記低摩擦区間においては前記走行支援を中断する走行支援手段と、
を備える走行支援装置。
【請求項2】
前記走行支援手段は、前記車両の現在位置と前記目標位置との間に前記低摩擦区間が存在する場合、前記低摩擦区間が存在しない場合の前記走行支援によって前記車両に作用させる減速度と同じ減速度を前記低摩擦区間以外の区間において前記車両に作用させる、
請求項1に記載の走行支援装置。
【請求項3】
前記車両が走行中の路面の摩擦度合を検出する摩擦変化検出手段を備え、
前記走行支援手段は、前記摩擦度合の変化が検出された後、前記車両が前記低摩擦区間の長さだけ走行するまでの間、前記走行支援を中断する、
請求項1または請求項2のいずれかに記載の走行支援装置。
【請求項4】
車両の前方に存在する目標位置および当該目標位置における目標車速を示す情報を取得する目標情報取得工程と、
前記車両の前方に存在する路面の摩擦度合が所定の基準より小さい低摩擦区間の長さを示す情報を取得する低摩擦区間情報取得工程と、
前記車両の現在位置と前記目標位置との間に前記低摩擦区間が存在する場合、前記車両の現在位置と前記目標位置との間に前記低摩擦区間が存在しない場合に前記目標位置において車速を前記目標車速以下にさせる走行支援を行う際の走行支援開始位置よりも、前記低摩擦区間の長さだけ車両側の位置から前記走行支援を開始するとともに、前記低摩擦区間においては前記走行支援を中断する走行支援工程と、
を含む走行支援方法。
【請求項5】
車両の前方に存在する目標位置および当該目標位置における目標車速を示す情報を取得する目標情報取得機能と、
前記車両の前方に存在する路面の摩擦度合が所定の基準より小さい低摩擦区間の長さを示す情報を取得する低摩擦区間情報取得機能と、
前記車両の現在位置と前記目標位置との間に前記低摩擦区間が存在する場合、前記車両の現在位置と前記目標位置との間に前記低摩擦区間が存在しない場合に前記目標位置において車速を前記目標車速以下にさせる走行支援を行う際の走行支援開始位置よりも、前記低摩擦区間の長さだけ車両側の位置から前記走行支援を開始するとともに、前記低摩擦区間においては前記走行支援を中断する走行支援機能と、
をコンピュータに実現させる走行支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−186577(P2011−186577A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48665(P2010−48665)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】