説明

走行車両

【課題】軌道と道路の双方を走行可能な走行車両において惰行を実現する。
【解決手段】昇降用のアクチュエータ7,8により軌道走行用車輪5,6を上方に退避させて道路走行用タイヤ3,4のみで走行を行う道路走行モードと、昇降用のアクチュエータにより軌道走行用車輪を下降させて当該軌道走行用車輪とトルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤとがレールに接地した状態で走行を行う軌道走行モードとを切り替え可能な走行車両1であって、軌道走行モードでの走行時に、所定の実行条件を検出した場合に、前側若しくは後側の昇降用のアクチュエータ又はこれら両方を下降方向に作動させてレールに接地した一対の道路走行用タイヤを離陸させる惰行制御を行う惰行制御装置90を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路走行と軌道走行とを可能とする走行車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、鉄道と道路とのシームレス化を行って鉄道車両とバスの双方の利点を生かす交通システムを構築する目的で、車体の前後にタイヤ用車軸を介して設けられた道路走行用のタイヤと、車体の前後にガイド輪用車軸を介して設けられた軌道走行用のガイド輪と、を備えた軌道走行と道路走行との双方が可能な車両(以下「デュアルモード車両」という)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記デュアルモード車両は、軌道走行時には油圧シリンダにより、前後の軌道走行用のガイド輪を下降させてレールに乗せ、且つ、エンジンからトルクが付与される後タイヤ(駆動輪)もレールに当接する高さに調節し、前後のガイド輪によりレールに追従走行すると共に後タイヤにより走行駆動力を生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3679108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、通常の鉄道車両は、直線や下り勾配において、ある程度の速度が得られると、加速を行わず惰性により走行を行ういわゆる惰行を行い、エネルギー消費の低減を図ることを可能としている。
しかしながら、上記デュアルモード車両では、軌道走行時には、道路走行用のタイヤをレールに当接させて走行トルクを得る構造のため、惰行時に道路走行用のタイヤも転動を行い、これが損失となるためにすぐに車両が減速を生じ、十分なエネルギーの消費の低減を図れないという問題があった。
【0006】
本発明は、デュアルモード車両において、適宜惰行を可能とすることで効果的エネルギー消費の低減を図ることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、車体の前側と後側の各々において、車軸に支持された一対の軌道走行用車輪と、車体の前側と後側の各々において、車軸に支持された一対の道路走行用タイヤと、前記前側と後側の一対の軌道走行用車輪をそれぞれ昇降させる前側と後側の昇降用のアクチュエータと、少なくとも一方の前記一対の道路走行用タイヤの駆動源と、前記駆動源から前記一対の道路走行用タイヤにトルクを伝達するトルク伝達機構と、車両の制動を行うブレーキ装置と、を備え、前記昇降用のアクチュエータにより前記前側と後側の一対の軌道走行用車輪を上方に退避させて前記道路走行用タイヤのみで走行を行う道路走行モードと、前記昇降用のアクチュエータにより前記前側と後側の一対の軌道走行用車輪を下降させて当該軌道走行用車輪と前記トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤとがレールに接地した状態で走行を行う軌道走行モードとを切り替え可能な走行車両であって、前記軌道走行モードでの走行時に、所定の実行条件を検出した場合に、前記前側若しくは後側の昇降用のアクチュエータ又はこれら両方を下降方向に作動させて前記レールに接地した一対の道路走行用タイヤを離陸させる惰行制御を行う惰行制御装置を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記惰行制御装置は、前記所定の実行条件として、前記トルク伝達機構によるトルクが非伝達状態であることを検出した場合に前記惰行制御を行うことを特徴とする請求項1記載の走行車両。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記惰行制御装置は、前記所定の実行条件として、前記トルク伝達機構によるトルクが非伝達状態であり且つ前記ブレーキ装置が非作動であることを検出した場合に、前記惰行制御を行うことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤの車軸は、サスペンション装置を介して車体に支持されており、当該一対の道路走行用タイヤの車軸が一定距離以上車体に対して下降しないように規制する規制体を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記規制体は、規制体アクチュエータにより規制状態と規制解除状態とを切り替え可能であり、前記惰行制御装置は、前記惰行制御を行う際に、予め、前記規制状態への切り替えを行うよう前記規制体アクチュエータを制御することを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記規制体が前記規制状態にあることを検出する規制状態検出手段を備え、前記惰行制御装置は、前記規制状態検出手段により前記規制体が前記規制状態にあることを検出してから前記惰行制御を実行することを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤとこれに近接する前記一対の軌道走行用車輪とについて、それぞれ軸重を検出する軸重検出手段を備え、前記惰行制御装置は、前記惰行制御を解除して前記トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤがレールに接地する際に、当該一対の道路走行用タイヤがこれに近接する前記一対の軌道走行用車輪よりも軸重の比率が上回るように当該一対の軌道走行用車輪の昇降用のアクチュエータを制御することを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記惰行制御装置は、前記惰行制御を解除する際に、前記トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤに近接する前記一対の軌道走行用車輪の昇降用のアクチュエータに対して、当該一対の軌道走行用車輪の軸重を前記比率となるまでに段階的に低減するように制御することを特徴とする。
【0015】
請求項9記載の発明は、請求項1から8のいずれか一項に記載の発明と同様の構成を備えると共に、前記トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤとは逆側の一対の道路走行用タイヤとこれに近接する前記一対の軌道走行用車輪とのそれぞれに制動装置を設け、
前記道路走行モードでは、前記逆側の一対の道路走行用タイヤに設けられた制動装置を作動可能とし、前記軌道走行モードでは、前記逆側の一対の道路走行用タイヤに近接する前記一対の軌道走行用車輪に設けられた制動装置を作動可能とする切り換え手段を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明は、軌道走行モードでの走行時に、前記所定の実行条件を満たすと、レールに接地した一対の道路走行用タイヤを離陸させる惰行制御を行うので、道路走行タイヤが接地による回転を生じなくなることから、車両が惰性により走行している場合に、道路走行タイヤやその駆動系による損失を回避し、惰行時の負荷低減により惰行時間を延長することで走行駆動源のエネルギーの消費の低減を図ることを可能としている。
なお、上記「前記所定の実行条件」としては、請求項2又は3の場合や運転手からの実行の操作入力等が挙げられる。
【0017】
請求項2記載の発明は、惰行制御装置が、トルク伝達機構によるトルクが非伝達状態であることを検出した場合に惰行制御を実行することから、車両の加速中に惰行に移行することがなく、適切なタイミングで惰行に移行することが可能となる。
【0018】
請求項3記載の発明は、惰行制御装置は、トルク非伝達状態であり且つブレーキ装置が非作動であることを検出した場合に惰行制御を行うことから、惰行を必要としない制動中での惰行切り替えを防止し、また、制動時の道路走行タイヤによる負荷を制動に利用することが可能となる。
【0019】
請求項4記載の発明は、一対の道路走行用タイヤの車軸が一定距離以上車体に対して下降しないように規制する規制体を備えるので、惰行制御実行時にサスペンション装置に支持された道路走行用タイヤが垂下状態で下降することを防止し、車体の上昇量を低減することができ、車両限界を超えることを防止すると共に、昇降用のアクチュエータについてそのストロークや出力がより小さいものを使用することが可能となる。
【0020】
請求項5記載の発明は、惰行制御装置が、惰行制御を行う際に、予め、規制体を規制状態への切り替えるよう規制体アクチュエータを制御するので、通常の走行時にはサスペンション装置の許容動作範囲を制限することがなく、規制が必要な惰行開始時について規制体を有効に作用させることが可能となる。
さらに、請求項6記載の発明では、惰行制御装置は、規制体の規制状態を検出する規制状態検出手段により検出が行われてから惰行制御を実行するので、より確実に規制体により規制を実行することが可能となる。
【0021】
請求項7記載の発明は、惰行制御装置は、惰行制御解除時に、トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤがレールに接地する際に、当該一対の道路走行用タイヤがこれに近接する一対の軌道走行用車輪よりも軸重の比率が上回るように当該一対の軌道走行用車輪の昇降用のアクチュエータを制御するので、道路走行用タイヤがレールに接地する時に、その接地荷重を十分に確保して空転を回避することができ、惰行制御を解除して加速することを予定している場合にはその推進力をレールにより確実に伝えることができ、惰行制御を解除して減速することを予定している場合には道路走行用タイヤを通じて制動力をレールにより確実に伝えることができる。
【0022】
請求項8記載の発明は、惰行制御装置が、惰行制御を解除する際に、トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤに近接する一対の軌道走行用車輪の昇降用のアクチュエータに対して、当該一対の軌道走行用車輪の軸重を段階的に低減するように制御するので、道路走行用タイヤの接地の際の衝撃や振動を低減することが可能となる。
【0023】
請求項9記載の発明は、道路走行モードでは、道路走行用タイヤに設けられた制動装置を作動可能とし、軌道走行モードでは、軌道走行用車輪に設けられた制動装置を作動可能とする切り換え手段を備えるため、モードに応じて不要となる制動装置の作動を回避することが可能となると共に、各制動装置を作動させる駆動源が共通化を図られている場合に、動力の分散を回避し、良好な応答性や制動力を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明における実施の形態に係るデュアルモード車両の主要な構成要素を表し、図1(A)はその側面図、図1(B)はその平面図である。
【図2】デュアルモード車両の制御系を示すブロック図である。
【図3】デュアルモード車両の後方ガイド輪及び油圧シリンダに関する主要な構成要素を表し、図3(A)はその側面(断面)図、図3(B)はその正面図である。
【図4】デュアルモード車両の昇降用油圧シリンダの油圧経路を示す説明図である。
【図5】デュアルモード車両の後方ガイド輪(車輪)を示し、図5(A)はその側面図、図5(B)はその断面図、図5(C)は後方ガイド輪に設けられたひずみゲージの回路構成図である。
【図6】デュアルモード車両のサスペンション装置を示し、図6(A)はその背面図、図6(B)は図6(A)のX−X線に沿った断面図である。
【図7】デュアルモード車両のブレーキ装置の油圧経路を示す説明図である。
【図8】デュアルモード車両の惰行時の側面図である。
【図9】惰行制御開始時における後部ガイド輪の昇降用油圧シリンダへの出力を制御する指令値の変化を示す線図である。
【図10】惰行制御の主要な処理を示すフローチャートである。
【図11】惰行制御の開始時の処理を示すフローチャートである。
【図12】惰行制御の解除時の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[発明の実施の形態の概要]
本発明における実施形態である走行車両としてのデュアルモード車両1について、図1から図12を参照しながら説明する。
本実施の形態に係るデュアルモード車両1は、図1及び図2に示すように、車体2、車体2の下部における前側及び後側に配設されたゴムタイヤ用車軸3a,4aを中心に回転する一対の道路走行用タイヤとしての前方ゴムタイヤ3及び後方ゴムタイヤ4、車軸方向における内側にフランジ部5f,6fを備え、車体2の前側及び後側にアーム5b,6bを介して昇降自在に配設されたガイド輪用車軸5a,6aを中心に回転する一対の軌道走行用車輪としての前方ガイド輪5及び後方ガイド輪6、前方ガイド輪5及び後方ガイド輪6を上昇下降させるための昇降用のアクチュエータとしての昇降用油圧シリンダ7,8、ガイド輪用車軸6aに設けられデュアルモード車両1の走行速度を検出する車速センサ11、後方ゴムタイヤ4の回転速度を検出するタイヤ回転速度センサ12、後方ゴムタイヤ4にかかる重量を測定するためのポテンショメータ13、後方ゴムタイヤ4の駆動源としてのエンジン14、トルク伝達機構としてのトランスミッション15、差動装置(図示略)、サスペンション装置20、ブレーキ装置70(図7参照)、上記各構成を制御する制御装置90等を備えて構成されている。
【0026】
また、デュアルモード車両1には、運転席の各操縦装置や操作入力を行うスイッチ類等をはじめとする運転及び制御に必要な装置は当然備えられており、必要に応じて、ATSや防護無線等の安全確保に必要な装置、車内放送や戸締め装置等の接客サービスに必要な装置、無線装置やGPS等の運行管理に用いる装置、自車両と他車両を連結する連結器、連結する際にトランスミッション15と差動装置の間で駆動力を断接する断接装置も備えている。
【0027】
なお、デュアルモード車両1は、車体2にマイクロバスの車体を採用しており、運転士を含めて29人程度を搭乗させることができる。また、エンジン、及び差動装置については、道路走行を行う一般的な自動車が備える一般的なものが使用されている。そのため、従来の鉄道車両の全体重量が約40トンであるのに対し、本実施の形態に係るデュアルモード車両1の全体重量は6トン程度と軽量である。
【0028】
また、トランスミッション15は、運転席に設けられたシフトレバー17(図2参照)のギアの段数入力操作により、伝達トルクが異なる複数段のギア比でエンジンとプロペラシャフトの接続状態を切り換えることを可能とし、また、シフトレバー17をニュートラル位置に操作することで、エンジンからプロペラシャフトへのトルク伝達を切断することを可能としている。シフトレバー17は、ギアの入力段数及びニュートラル位置の入力に応じた位置信号を制御装置90に入力するようになっている。
【0029】
[前方及び後方のゴムタイヤ]
前方ゴムタイヤ3は、車体2の運転席のハンドルにより操舵することができる。後方ゴムタイヤ4は、後方ゴムタイヤ用車軸4aに左右2本ずつ軸支され、エンジン及び動力伝達装置(トランスミッション等)によって駆動される。即ち、かかる後方ゴムタイヤ4が「トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤ」に相当する。
【0030】
[前方及び後方ガイド輪]
前方ガイド輪5及び後方ガイド輪6は鉄等の金属で構成され、図3に例示するように、昇降用油圧シリンダ7,8の伸縮により上方及び下方に移動する。
昇降用油圧シリンダ8の伸縮を行う油圧系統は、図4のように構成され、2本備えられている昇降用油圧シリンダ8に均一の油圧を供給する。そして、その共通する油圧供給管の一点に圧力計9が備えられている。後述のように、この圧力計9により測定された昇降用油圧シリンダ8にかかっている油圧の圧力値から、後方ガイド輪6が受けている軸重(レールに対する接地荷重)を算出することができる。つまり、圧力計9は、後方ガイド輪6の軸重を検出する軸重検出手段として機能する。
また、各昇降用油圧シリンダ7,8の油圧供給源には、比例制御弁である電磁弁16(図2参照)が併設され、制御装置90の制御信号により油圧の圧力を制御することを可能としている。
【0031】
後方ガイド輪6には、図5に示すように、外周と後方ガイド輪用車軸6aとの中間に円周に沿って複数の孔6hが設けらた輪重の測定用の車輪と、穴のない通常の走行用の車輪とが存在する。輪重測定用の後方ガイド輪6には、その孔6hにひずみゲージw,x,y,zが貼付けられ、例えば図5(C)のように配線されて後方ガイド輪6が受けている輪重を測定することが可能となる。出力される信号は、後方ガイド輪6の回転に伴って変動する正弦波状の波形となり、その極大値が輪重の値を表していると言える。なお、図5(A)に示したひずみゲージが設けられていない孔6hを用いて図5(C)と同様に配線し輪重測定の回路を構成しても良い。その場合、それぞれ位相の異なる波形を記録することができ、瞬間的な輪重の変動をより正確に補足することができる。
【0032】
なお、かかるひずみゲージw,x,y,zは、後方ガイド輪6の軸重(一対の後方ガイド輪6,6の輪重の合計)を事前に正確に求める時にのみ設けられ、制御装置90によるデュアルモード車両1の制御の際には、昇降用油圧シリンダ8の油圧の圧力を検出する圧力計9が使用される。即ち、輪重測定時には、昇降用油圧シリンダ8の油圧を徐々に変化させてその際の圧力を圧力計9で検出すると共に、各油圧圧力でのひずみゲージw,x,y,zの出力を記録し、圧力計9により検出圧力と後方ガイド輪6の軸重との対応関係を示すテーブルを事前に作成し、制御装置90はこれを記憶する。
これにより、制御装置90は、走行時(ひずみゲージw,x,y,zを装着しない通常の走行用の後方ガイド輪6を装着した状態)には、圧力計9の検出圧力が入力されると、テーブルを参照することにより、後方ガイド輪6の軸重を算出することが可能となっている。
【0033】
前方ガイド輪5及び後方ガイド輪6は、踏面勾配やフランジ部5f,6fを備えており、軌道案内機能を果たす。このため、駆動輪である後方ゴムタイヤ4に踏面勾配やフランジが設けられていなくても、デュアルモード車両1は、レールRに沿って正確に軌道走行を行うことができる。
また、前方ガイド輪5及び後方ガイド輪6のフランジ角度θ(約87°)は、通常用いられる車輪よりもフランジ角度が大きく設定されている(図5(B)参照)。これは、公知の先行技術から、デュアルモード車両1の脱線限界値を考慮して算出されたものであり、後方ガイド輪6の軸重が後部荷重全体の40%まで減少した時でも脱線係数が規定値を超えないよう考慮されている。
【0034】
[車速センサ及びタイヤ回転速度センサ]
車速センサ11は、デュアルモード車両1の軌道走行時における走行速度を検出する。本実施の形態においては、後方ガイド輪6に搭載されたガイド輪回転速度センサ(車速センサ11)を採用しており、車速センサ11で検出された前後のガイド輪の回転速度に基づいて、軌道走行時におけるデュアルモード車両1の走行速度を算出している。車速センサ11で検出された速度情報は制御装置90に伝送されて、後方ゴムタイヤ4の空転状態の検出に用いられる。なお、車速センサ11としては、GPS(Global Positioning System)やINS(Inertial Navigation System)等を採用することもできる。
なお、この車速センサ11は、後方ガイド輪6に限らず、前方ガイド輪5にも設けても良い。
【0035】
タイヤ回転速度センサ12は、軌道走行時における後方ゴムタイヤ4の回転速度を検出する。本実施の形態においては、プロペラシャフトに取付けられたタイヤ回転速度センサ12から後方ゴムタイヤ4の回転速度を算出するようにしている。このようにタイヤ回転速度センサ12を用いて算出された速度情報は、制御装置90に伝送されて、後方ゴムタイヤ4の空転状態の検出に用いられる。
【0036】
[サスペンション装置]
図6(A)はサスペンション装置20の背面図、図6(B)は図6(A)のX−X線に沿った断面図である。前述した後方ゴムタイヤ用車軸4aはサスペンション装置20を介してシャーシ部2aに支持されている。
このサスペンション装置20は、シャーシ部2aの下側において前後方向に沿って装備された二つの板バネ21,21と、二つの板バネ21,21の中間において後方ゴムタイヤ用車軸4aの両端部をそれぞれ回転可能に支持する支持部22,22とを備えている。
各板バネ21,21は、その長手方向が車体前後方向に沿うように両端部がシャーシ部2aの下面に支持されている。そして、各板バネ21,21は、弓なりに湾曲形成されており、その長手方向中間部はシャーシ部2aの下面から離間している。そして、当該中間部には支持部22,22が設けられ、支持部22,22に支持された後方ゴムタイヤ用車軸4aがシャーシ部2aに対して上下方向に揺動することが可能となっている。そして、支持部22の揺動の際には、板バネ21は、撓みを生じて弾性力を支持部22に付与する。これにより、サスペンション装置20は、後方ゴムタイヤ用車軸4aを路面又はレール側に押圧して走行時の路面密着性を高めると共に緩衝効果を得ることが可能となっている。
【0037】
また、サスペンション装置20は、シャーシ部2aから後方ゴムタイヤ用車軸4aまでの距離を検出するポテンショメータ13が装備され(図2参照)、かかるポテンショメータ13の検出信号は、制御装置90に入力される。シャーシ部2aから後方ゴムタイヤ用車軸4aまでの距離は、後方ゴムタイヤ4の路面又はレールに対する接地荷重と等しい後方ゴムタイヤ4の軸重との間で相関関係がある。このため、制御装置90はこれらの対応関係を示すテーブルデータを予め用意し、ポテンショメータ13の検出信号が入力されると、テーブルデータから後方ゴムタイヤ4の軸重を算出するようになっている。なお、これにより、ポテンショメータ13は後方ゴムタイヤ4の軸重検出手段として機能するものである。
【0038】
[昇降規制装置]
上記サスペンション装置20には、図6に示すように、当該サスペンション装置20により上下に揺動可能とされた後方ゴムタイヤ用車軸4a及びサスペンション装置20の支持部22がシャーシ部2aから所定距離以上下降しないように規制する昇降規制装置23が併設されている。
かかる昇降規制装置23は、後方ゴムタイヤ用車軸4a及びサスペンション装置20の支持部22がシャーシ部2aから所定距離以上下降しないように規制する規制体24と、規制体24による規制状態と規制解除状態とを切り替える規制体アクチュエータとしての規制体用油圧シリンダ25と、規制体24が規制状態にあることを検出する規制状態検出手段としての規制体センサ26とを備えている。
【0039】
上記規制体24は、先端部が鈎状であって後方ゴムタイヤ用車軸4aに平行な支軸によりシャーシ部2aの下面に回動可能且つ垂下状態で支持された一対の回動腕24aと、一対の回動腕24aを同時回動可能に連結する連結棒24bとから構成される。
各回動腕24aは、規制解除状態では、先端の鈎状部が支持部22から離間する方向に回動し、規制状態では、先端の鈎状部が支持部22に向かって回動する。これにより、規制状態の回動腕24aは、先端の鈎状部が支持部22の真下に位置する状態となり、支持部22が下降すると鈎状部に引っかかることで、それ以上の支持部22の下降移動を規制する。
【0040】
規制体用油圧シリンダ25は、そのシリンダ部がシャーシ部2aの下面に支持されると共にプランジャ部の先端は規制体24の回動腕24aに連結されている。そして、規制体用油圧シリンダ25は、プランジャ部が前進移動を行うと、規制体24が規制状態となるように回動させ、プランジャ部が後退移動を行うと、規制体24が規制解除状態となるように回動させる。
なお、規制体用油圧シリンダ25は、開閉の切り換え可能な電磁弁27による油圧の供給により作動を行い、当該電磁弁27の開閉動作は制御装置90により制御される。
【0041】
規制体センサ26は、回動腕24aに設けられ、回動腕24aと共に回動を行う近接スイッチであり、回動腕24aが規制体24の規制状態となる位置に回動すると、当該位置変化を検知し、規制体24が規制状態であることを示す検知信号を制御装置90に入力する。
【0042】
[ブレーキ装置]
図7は、デュアルモード車両1のブレーキ装置70の構成図である。ブレーキ装置70は、前側のガイド輪用車軸5aに設けられた制動装置としての前方ガイド輪用ディスクブレーキ71と、左右の前方ゴムタイヤ3,3にそれぞれ併設された制動装置としての前方ゴムタイヤ用ディスクブレーキ72,72と、左右の後方ゴムタイヤ4,4にそれぞれ併設された制動装置としての後方ゴムタイヤ用ドラムブレーキ73,73と、各ブレーキ71,72,73を作動させるための油圧を伝達する圧油を貯留するオイルリザーバ74と、運転席に設けられ制動時に踏み込み操作を行うブレーキペダル75と、ブレーキペダル75の踏み込み操作により油圧を各ブレーキ71,72,73に付与するマスタシリンダ76と、ブレーキペダル75の踏み込みによる油圧の付与をブレーキロックが生じないように調整する周知のABS(Antilock Brake System)アクチュエータ77と、制御装置90の制御指令に応じて前方ガイド輪用ディスクブレーキ71又は前方ゴムタイヤ用ディスクブレーキ72,72のいずれか一方に選択的に油圧を伝達する切り換え手段としてのブレーキ切り換え弁78と、ブレーキペダル75の踏み込みを検知して制御装置90に検知信号を入力するブレーキセンサ79(図2参照)とを備えている。
【0043】
ブレーキ装置70は、制御装置90によるブレーキ切り換え弁78の制御により、後述する道路走行モードでは、前方ゴムタイヤ用ディスクブレーキ72,72が作動し、後述する軌道走行モードでは、前方ガイド輪用ディスクブレーキ71が作動するようになっている。また、いずれの走行モードでも、後方ゴムタイヤ用ドラムブレーキ73,73は作動を行う。
道路走行モードでは前方ゴムタイヤ3,3が接地して前方ガイド輪5は接地せず、軌道走行モードでは前方ゴムタイヤ3,3が接地せずに前方ガイド輪5が接地するよう制御が行われるので、走行時に不要となるブレーキに対する油圧供給が回避され、制動に必要なブレーキのみに油圧を集中して作動させることができ、良好且つ安定的な制動を行うことができる。
【0044】
なお、ブレーキ切り換え弁78は手動操作により切り替えを行うものであっても良い。その場合には、道路走行モードを実施する際には、前方ゴムタイヤ用ディスクブレーキ72,72が作動するように運転手が手動操作によりブレーキ切り換え弁78の切り替えを行い、軌道走行モードを実施する際には、前方ガイド輪用ディスクブレーキ71が作動するように運転手が手動操作によりブレーキ切り換え弁78の切り替えを行うこととなる。
【0045】
[制御装置]
制御装置90は、デュアルモード車両1の機器全体を統合制御するCPUやRAM、各種制御プログラムや制御データを格納したROM等から構成されている。
上記制御装置90には、図2に示すように、圧力計9、車速センサ11,タイヤ回転速度センサ12,シフトレバー17、ブレーキ切り換え弁78,昇降用油圧シリンダ7,8の電磁弁16,規制体用油圧シリンダ25の電磁弁27等が図示しないインターフェイス又はドライバ回路を介して接続されている。
そして、制御装置90は、上記の制御系により、デュアルモード車両1の道路走行モードと軌道走行モードとを切り替える走行モード切り替え制御、軌道走行モードにおいて惰行を行う惰行制御を実行する。
【0046】
[走行モード切り替え制御]
デュアルモード車両1は、前方ゴムタイヤ3及び後方ゴムタイヤ4による道路走行モードと、前方ガイド輪5、後方ガイド輪6及び後方ゴムタイヤ4による軌道走行モードとの双方を自在に切り換えて実現させることができるものである。
制御装置90は、道路走行モードから軌道走行モードへ切り替えを行う際には、電磁弁16を通じて各昇降用油圧シリンダ7,8を作動させ、上方に退避していた前方ガイド輪5、後方ガイド輪6を下降し、昇降用油圧シリンダ7については前方ゴムタイヤ3が離陸するまで前方ガイド輪5が下降するよう制御を行う。また、昇降用油圧シリンダ8については後方ゴムタイヤ4が離陸を生じない範囲で後方ガイド輪6がレールに接地する位置まで下降するよう制御を行う。これにより、デュアルモード車両1は、前方ガイド輪5及び後方ガイド輪6がレールに接地して軌道にガイドされると共に、後方ゴムタイヤ4がレールに接地してエンジンからトルクを付与されて軌道走行を行うことが可能となる。
また、制御装置90は、軌道走行モードから道路走行モードへ切り替えを行う際には、電磁弁16を通じて各昇降用油圧シリンダ7,8を作動させ前方ガイド輪5、後方ガイド輪6を上方に退避させる。これにより、前方ゴムタイヤ3が下降して路面に接地し、後方ゴムタイヤ4がエンジンからトルクが付与されて道路走行を行うことが可能となる。
【0047】
[惰行制御]
制御装置90は、軌道走行モードでの走行中に、シフトレバー17によるニュートラル位置への操作を検知し且つブレーキセンサ79によるブレーキ操作が行われていないことを検知すると、惰行制御を実施し、また、惰行制御中に、シフトレバー17によるニュートラル位置以外への操作を検知し又はブレーキセンサ79によるブレーキ操作を検知すると、惰行制御の解除を実施する。
軌道走行モードでの走行中にニュートラル位置への操作が行われるということは、車両が目標速度に到達し、エンジンによる加速を必要としない状態にあることを意味するため、シフトレバー17のニュートラル位置への切り替えをトリガとして惰行制御を開始するようになっている。また、ブレーキセンサ79によるブレーキ操作が行われた場合には、惰行は不要であり、むしろ後方ゴムタイヤ4,4がレールに接地している方が制動に有利であるため、惰行制御は実行されない。
【0048】
上記惰行制御では、図8に示すように、主に、後方ガイド輪6の昇降用油圧シリンダ8により、後方ゴムタイヤ4,4がレールに接地した状態から離陸するまで車体後部を上昇させる制御が行われる。
このように、後方ゴムタイヤ4,4が離陸することにより、後方ゴムタイヤ4,4が接地による回転を生じなくなることから、デュアルモード車両1が惰性により走行している場合に、後方ゴムタイヤ4,4やその駆動系による損失を回避し、惰行時の負荷低減によるエネルギー消費の低減を図ることを可能としている。
また、惰行制御では、規制体用油圧シリンダ25の電磁弁27を作動させて規制体24を規制状態とし、当該規制状態が規制体センサ26により検出されてから後方ガイド輪6の昇降用油圧シリンダ8により車体後部を上昇させる制御を実行している。
これにより、昇降用油圧シリンダ8により車体後部を上昇させる際に、弾性支持された後方ゴムタイヤ4及び後方ゴムタイヤ用車軸4aが自重により大きく沈むことを阻止することができ、昇降用油圧シリンダ8による車体後部の上昇量を低減することが可能となる。従って、車体が上昇により車両限界を逸脱することが防止され、また、昇降用油圧シリンダ8自体もストロークや出力の小さなものを使用することが可能となる。
【0049】
惰行制御の解除では、規制体24の規制状態を解除して、後方ガイド輪6の昇降用油圧シリンダ8により、後方ゴムタイヤ4,4がレールに接地するまで車体後部を下降させる制御が行われる。
このとき、図9に示すように、後方ガイド輪6の軸重が、後部荷重全体(後方ガイド輪6と後方ゴムタイヤ4の合計軸重)の40%となるまで、段階的に後方ガイド輪6の昇降用油圧シリンダ8の出力が低減するよう電磁弁16は制御される。即ち、後方ゴムタイヤ4,4がレール上に接地する際には、当該後方ゴムタイヤ4の軸重が後方ガイド輪6の軸重より大きな後部荷重全体の60%となる。
【0050】
なお、デュアルモード車両1の全体的な後部荷重は、より正確を期するために、後方ゴムタイヤ4を離陸させる惰行制御を開始する直前の車両停止時に測定が行われる。即ち、デュアルモード車両1を旅客目的、運輸目的等に使用する場合、乗客や貨物の入れ替わりが行われて車体の総重量が変動し、後部荷重も変動する可能性があるため、直近の停止時に後部荷重を計測することが望ましい。また、後部荷重の計測には、圧力計9とポテンショメータ13とを使用するが、走行中は、車体の振動等の影響によりポテンショメータ13の正確な検出が難しいことから、後部荷重の計測は停車中に行うことが望ましい。
具体的には、デュアルモード車両1の全体的な後部荷重の検出の際には、圧力計9による圧力検出を行って得られた検出圧力から前述したテーブルを参照することで後方ガイド輪6における軸重を算出すると共に、サスペンション装置20に設けられたポテンショメータ13の出力から前述したテーブルを参照して後方ゴムタイヤ4の軸重を算出し、これらを合計することで算出する。算出されたデュアルモード車両1の全体的な後部荷重は、制御装置90内の図示しないメモリに記憶される。なお、このデュアルモード車両1の全体的な後部荷重の検出は、デュアルモード車両1の停車ごとに毎回実施し、その都度、データが上書きされて直近のデータのみが記憶される。
【0051】
そして、惰行制御の解除の際には、上記デュアルモード車両1の全体的な後部荷重の値とその40%の荷重値との間の値を複数に分け(例えば、図9の例では5段階としている)、各目標値となるように電磁弁16を制御して車体後部の下降が行われる。また、段階的な後部荷重の変化は、均等な時間配分で実行される(図9の例は0.2[S]間隔)。
即ち、制御装置90は、0.2[S]間隔で段階的に定められた目標の軸重が得られるように電磁弁16の圧力制御を実施する。
【0052】
なお、惰行制御の解除における後方ガイド輪6の目標軸重を、後部荷重全体の40%としているが、これは、前述したように、後方ガイド輪6において脱線係数が脱線限界値を超えない限界に近い値である。
即ち、後方ガイド輪6の軸重を限界手前まで低減し、後方ゴムタイヤ4の接地荷重(軸重)を最大限まで高めるよう車体後部の下降が行われる。これにより、惰行制御を解除した後に加速を予定している場合には後方ゴムタイヤ4による推進力を最大限に得られる状態を得ることが可能となる。また、惰行制御を解除した後に減速を予定している場合には後方ゴムタイヤ4による制動力を最大限に得られる状態を得ることが可能となる。
なお、後方ガイド輪6の軸重を後部荷重全体の40%とした状態は、一時的なものであり、その後の軌道走行時には、従前から行われている輪重制御(例えば、特開2008-100654公報に記載の輪重制御等)に移行して、昇降用油圧シリンダ8の電磁弁16を制御して、後方ガイド輪6の軸重を後部荷重全体の40〜69%の範囲で調整し、後方ゴムタイヤ4の接地荷重(軸重)を後部荷重全体の31〜60%の範囲で調整する(なお、ここに記載した後部荷重の比率の値は特開2008-100654公報に記載の輪重制御における数値計算を上記デュアルモード車両1に適用して算出したものである)。
【0053】
[惰行制御における動作説明]
次に、図10〜図12のフローチャートに基づいて惰行制御における詳細な動作説明を行う。図10は惰行制御の全体的な処理を示し、図11は惰行開始時における処理を示し、図12は惰行解除時における処理を示す。
惰行制御は、デュアルモード車両1が軌道走行モードであって走行中であることを前提とする。
図10に示すように、軌道走行モードでの走行中において、制御装置90は、シフトレバー17によるニュートラル位置への入力の有無を判定し、ニュートラル位置への入力を検知すると(ステップS1:YES)、ブレーキセンサ79によりブレーキ操作の有無を判定する(ステップS3)。
そして、ブレーキ操作が行われていない場合には(ステップS3:NO)、規制体センサ26により、規制体24が規制状態にあるか否かを判定する(ステップS5)。このとき、既に規制体24が規制状態にある場合には(ステップS5:YES)、規制体用油圧シリンダ25を前進させる必要がないのでステップS1に処理を戻す。
一方、まだ、規制体24が規制状態ではない場合には(ステップS5:NO)、惰行開始処理に移行する(ステップS7)。
また、ステップS1において、シフトレバー17がニュートラル位置ではないと判定した場合(ステップS1:NO)及びステップS3において、ブレーキ操作が行われていると判定した場合には(ステップS3:YES)、既に、惰行制御が実行されていることを前提に、惰行解除処理に移行する(ステップS9)。なお、惰行制御が実行されてない場合には処理は終了となる。
【0054】
惰行開始処理では、図11に示すように、制御装置90は、電磁弁27を制御して規制体用油圧シリンダ25に前進動作を行わせ(ステップS11)、規制体24を規制状態とする(ステップS13)。そして、規制体24が規制状態位置となることで、規制体センサ26は規制状態の検知信号を制御装置90に入力する(ステップS15)。
次いで、制御装置90は、電磁弁16を制御して後方ガイド輪の6の昇降用油圧シリンダ8を車体上昇方向に作動させる(ステップS17)。このとき、後方ガイド輪6の軸重の目標値は後部荷重の100%となるように車体後部の上昇動作制御が行われる。
これにより、デュアルモード車両1の車体後部が上昇し、後方ゴムタイヤ4はレールから離陸する。また、このとき、規制体24が規制状態に位置しているため、サスペンション装置20に支持された後方ゴムタイヤ4はシャーシ部2aに対して下降移動を生じるが、すぐに規制体24により下降を阻止される。従って、昇降用油圧シリンダ8は少ないストロークで後方ゴムタイヤ4を離陸させることができる。
そして、後方ガイド輪6の軸重の目標値が圧力計9により検出されると、電磁弁16を通じて昇降用油圧シリンダ8の作動が停止される。
これにより、デュアルモード車両1は、後方ゴムタイヤ4がレールに接することなく惰性による惰行を行う。
【0055】
惰行解除処理では、図12に示すように、制御装置90は、電磁弁16を制御して後方ガイド輪の6の昇降用油圧シリンダ8を車体下降方向に作動させる(ステップS21)。このとき、後方ガイド輪6の軸重の目標値は後部荷重の100%の状態から五段階で40%となるように車体後部の上昇動作制御が行われる。
これにより、デュアルモード車両1の車体後部が段階的に下降し、後方ゴムタイヤ4はレール上に接地する。
そして、後方ガイド輪6の軸重の目標値が圧力計9により検出されると、電磁弁16を通じて昇降用油圧シリンダ8の作動が停止される。
次いで、制御装置90は、電磁弁27を制御して規制体用油圧シリンダ25に後退動作を行わせ(ステップS23)、規制体24を規制解除状態とする(ステップS25)。そして、規制体24が規制状態位置から退避することで、制御装置90に対する規制体センサ26は規制状態の検知信号の入力を停止する(ステップS27)。
これにより、デュアルモード車両1は、後方ゴムタイヤ4がレールに接した状態に戻され、エンジン14の駆動により通常の軌道走行を行う。
【0056】
[発明の実施の形態の効果]
デュアルモード車両1では、後方ゴムタイヤ4,4が離陸することにより、後方ゴムタイヤ4,4が接地による回転を生じなくなることから、デュアルモード車両1が惰性により走行している場合に、後方ゴムタイヤ4,4やその駆動系による損失を回避し、惰行時の負荷低減により惰行時間を延長することでエネルギー消費の低減を図ることを可能としている。
【0057】
上記デュアルモード車両1は、走行試験として、下り勾配条件16.7パーミル、走行距離1kmの区間を等速50km/hの惰行制御を実施した場合に、燃料消費量は34.4km/lとなった。比較のために、同条件において惰行制御を実施しなかった場合には、燃料消費量は24.8km/lという結果が得られた。かかる比較試験結果からわかるように、惰行制御は、大幅な燃料消費量の低減が得られることが実証されている。
【0058】
また、制御装置90は、トランスミッションがニュートラルに切り換えられ、後方ゴムタイヤ4へのトルクが非伝達状態であることを検出した場合に惰行制御を実行することから、車両の加速中に惰行に移行することがなく、適切なタイミングで惰行に移行することが可能となる。
また、制御装置90は、トランスミッションがニュートラル状態であり且つブレーキ装置70が非作動であることを検出した場合に惰行制御を行うことから、惰行を必要としない制動中での惰行切り替えを防止し、また、制動時の道路走行タイヤによる負荷を制動に利用することが可能となる。
【0059】
また、デュアルモード車両1は、後方ゴムタイヤ4の車軸4aが一定距離以上シャーシ部2aに対して下降しないように規制する規制体24を有する規制装置23を備えるので、惰行制御実行時にサスペンション装置20に支持された後方ゴムタイヤ4が垂下状態で下降することを防止し、車体の上昇量を低減することができ、車両限界を超えることを防止すると共に、昇降用の油圧シリンダ8についてそのストロークや出力がより小さいものを使用することが可能となる。
また、規制体24は、惰行制御の開始時において車体が上昇する前に規制状態となる位置に移動するので、通常の走行時にはサスペンション装置20の許容動作範囲を制限することがなく、規制が必要な惰行開始時について規制体24を有効に作用させることが可能となる。
さらに、規制装置23は規制体センサ26を備え、制御装置90は、規制体センサ26により規制状態の検出が行われてから惰行制御を実行するので、より確実に規制体24により規制を実行することが可能となる。
【0060】
制御装置90は、惰行制御解除時に、後方ゴムタイヤ4がレールに接地する際の、後方ガイド輪6との軸重の比率が6:4となるように当該一対の軌道走行用車輪の昇降用のアクチュエータを制御するので、後方ガイド輪6が脱線限界値の条件を適正に満た条件下で、後方ゴムタイヤ4のレールに対する接地荷重(軸重)を最大限に大きくすることができ、惰行制御解除時に後方ゴムタイヤ4による推進力を速やかに得ることが可能となる。
また、制御装置90は、惰行制御解除時に、後方ゴムタイヤ4の下降動作を段階的に行うので、道路走行用タイヤの接地の際の衝撃や振動を低減することが可能となる。
【0061】
また、デュアルモード車両1は、道路走行モードでは、前方ゴムタイヤ3に併設された前方ゴムタイヤ用ディスクブレーキ72を作動可能とし、軌道走行モードでは、前側のガイド輪用車軸5aに設けられた前方ガイド輪用ディスクブレーキ71を作動可能とするブレーキ切り換え弁78を備え、制御装置90がモードに応じてこれらを切り換えるため、モードに応じて不要となるブレーキの作動を回避することが可能となると共に、各ブレーキを作動させる油圧源が共通化を図られているので、動力の分散を回避し、良好な応答性や制動力を得ることが可能となる。
【0062】
(その他)
なお、上記デュアルモード車両1では、トルク付与が行われる道路走行用タイヤが後方ゴムタイヤ4である場合を例示したが、前方ゴムタイヤ3がエンジン14からトルク付与が行われる構成としてもよい。その場合には、軌道走行モードでは、前方ゴムタイヤ3がレールに対する接地状態を維持するよう各油圧シリンダ7,8が制御される。
また、その場合には、惰行制御時には、油圧シリンダ8に換えて油圧シリンダ7に対して油圧シリンダ8と同じ制御が実施される。
また、サスペンション装置20及び規制装置23は前方ゴムタイヤ3側に設けられる。
【0063】
また、規制装置23の規制体24は、規制状態と規制解除状態とに切り換え可能であることがより望ましいが、特に走行の妨げやサスペンション装置20の許容動作範囲を制限しなければ、規制状態の位置で固定された部材で構成しても良い。
【0064】
制御装置90は、軌道走行モードにおいて、トランスミッションがニュートラルに切り換えられ且つブレーキ操作が行われていないことを検出した場合に惰行制御を実行しているが、これに限られるものではない。例えば、制御装置90は、軌道走行モードにおいて、トランスミッションがニュートラルに切り換えられたことを検出すると惰行制御を実行する構成としても良い(ブレーキ操作の有無は判定しない)。
また、制御装置90は、トランスミッションやブレーキ操作を惰行制御開始のトリガーとせず、軌道走行モードにおいて、運転手が惰行制御実行の開始を入力するレバーやボタン等からなる操作入力手段の入力を検出すると惰行制御を実行する構成としても良い。
【0065】
また、デュアルモード車両1では、規制装置23に規制体24が規制状態にあることを検出する規制体センサ26を設けているが、当該規制体センサ26を第一の規制体センサとし、新たに、規制体24が規制解除状態(規制解除位置まで規制体24が移動を完了した状態)にあることを検出する第二の規制体センサを付加してもよい。その場合、制御装置90は、惰行制御を解除する際に、第二の規制体センサにより、規制体24の規制解除状態が検出されてから昇降用油圧シリンダ8を作動させて車体を下降させる制御を行うこととなる。
【符号の説明】
【0066】
1 デュアルモード車両(走行車両)
2 車体
3 前方ゴムタイヤ(道路走行用タイヤ)
4 後方ゴムタイヤ(道路走行用タイヤ)
3a,4a ゴムタイヤ用車軸
5 前方ガイド輪(軌道走行用車輪)
6 後方ガイド輪(軌道走行用車輪)
5a,6a ガイド輪用車軸
7,8 昇降用油圧シリンダ(昇降用のアクチュエータ)
9 圧力計(軸重検出手段)
11 車速センサ
12 タイヤ回転速度センサ
13 ポテンショメータ(軸重検出手段)
14 トランスミッション(トルク伝達機構)
20 サスペンション装置
23 規制装置
24 規制体
25 規制体用油圧シリンダ(規制体アクチュエータ)
26 規制体センサ(規制状態検出手段)
70 ブレーキ装置
71 前方ガイド輪用ディスクブレーキ(制動装置)
72 前方ゴムタイヤ用ディスクブレーキ(制動装置)
73 後方ゴムタイヤ用ドラムブレーキ(制動装置)
78 ブレーキ切り換え弁(切り換え手段)
90 制御装置(惰行制御装置)
R レール
w,x,y,z ひずみゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前側と後側の各々において、車軸に支持された一対の軌道走行用車輪と、
車体の前側と後側の各々において、車軸に支持された一対の道路走行用タイヤと、
前記前側と後側の一対の軌道走行用車輪をそれぞれ昇降させる前側と後側の昇降用のアクチュエータと、
少なくとも一方の前記一対の道路走行用タイヤの駆動源と、
前記駆動源から前記一対の道路走行用タイヤにトルクを伝達するトルク伝達機構と、
車両の制動を行うブレーキ装置と、
を備え、
前記昇降用のアクチュエータにより前記前側と後側の一対の軌道走行用車輪を上方に退避させて前記道路走行用タイヤのみで走行を行う道路走行モードと、前記昇降用のアクチュエータにより前記前側と後側の一対の軌道走行用車輪を下降させて当該軌道走行用車輪と前記トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤとがレールに接地した状態で走行を行う軌道走行モードとを切り替え可能な走行車両であって、
前記軌道走行モードでの走行時に、所定の実行条件を検出した場合に、前記前側若しくは後側の昇降用のアクチュエータ又はこれら両方を下降方向に作動させて前記レールに接地した一対の道路走行用タイヤを離陸させる惰行制御を行う惰行制御装置を備えることを特徴とする走行車両。
【請求項2】
前記惰行制御装置は、前記所定の実行条件として、前記トルク伝達機構によるトルクが非伝達状態であることを検出した場合に前記惰行制御を行うことを特徴とする請求項1記載の走行車両。
【請求項3】
前記惰行制御装置は、前記所定の実行条件として、前記トルク伝達機構によるトルクが非伝達状態であり且つ前記ブレーキ装置が非作動であることを検出した場合に、前記惰行制御を行うことを特徴とする請求項1記載の走行車両。
【請求項4】
前記トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤの車軸は、サスペンション装置を介して車体に支持されており、
当該一対の道路走行用タイヤの車軸が一定距離以上車体に対して下降しないように規制する規制体を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の走行車両。
【請求項5】
前記規制体は、規制体アクチュエータにより規制状態と規制解除状態とを切り替え可能であり、
前記惰行制御装置は、前記惰行制御を行う際に、予め、前記規制状態への切り替えを行うよう前記規制体アクチュエータを制御することを特徴とする請求項4記載の走行車両。
【請求項6】
前記規制体が前記規制状態にあることを検出する規制状態検出手段を備え、
前記惰行制御装置は、前記規制状態検出手段により前記規制体が前記規制状態にあることを検出してから前記惰行制御を実行することを特徴とする請求項5記載の走行車両。
【請求項7】
前記トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤとこれに近接する前記一対の軌道走行用車輪とについて、それぞれ軸重を検出する軸重検出手段を備え、
前記惰行制御装置は、前記惰行制御を解除して前記トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤがレールに接地する際に、当該一対の道路走行用タイヤがこれに近接する前記一対の軌道走行用車輪よりも軸重の比率が上回るように当該一対の軌道走行用車輪の昇降用のアクチュエータを制御することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の走行車両。
【請求項8】
前記惰行制御装置は、前記惰行制御を解除する際に、前記トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤに近接する前記一対の軌道走行用車輪の昇降用のアクチュエータに対して、当該一対の軌道走行用車輪の軸重を前記比率となるまでに段階的に低減するように制御することを特徴とする請求項7記載の走行車両。
【請求項9】
前記トルク伝達が行われる一対の道路走行用タイヤとは逆側の一対の道路走行用タイヤとこれに近接する前記一対の軌道走行用車輪とのそれぞれに制動装置を設け、
前記道路走行モードでは、前記逆側の一対の道路走行用タイヤに設けられた制動装置を作動可能とし、前記軌道走行モードでは、前記逆側の一対の道路走行用タイヤに近接する前記一対の軌道走行用車輪に設けられた制動装置を作動可能とする切り換え手段を備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の走行車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−176728(P2012−176728A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41696(P2011−41696)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー使用合理化技術戦略的開発/エネルギー使用合理化技術実用化開発/i−HAC(intelligent Hydraulic Axle Control)を利用した次世代型DMVの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【出願人】(591117631)株式会社日本除雪機製作所 (18)