説明

起倒式帆を備える帆走船

【課題】帆の不使用時や荒天時においては、帆を倒すことができるように起倒式にした帆走船を提供する。
【解決手段】帆支持装置10は、帆1をマスト2に対して起倒する第1駆動手段と、マスト2をマスト中心線20の回りに回転駆動する第2駆動手段とを備えている。帆1は硬質または軟質の帆からなり、帆1を取り付ける枠体(張設体)3に張られている。張設体3にはマスト2方向に延びるスリット部5が設けられている。スリット部5内のマスト2上端部において、帆1および張設体3(以下、両者を総称して帆張設体4という)をマスト2に対して起倒可能にヒンジ結合している。このヒンジ部6は帆張設体4の支持点を構成しており、支持点(ヒンジ部)6の位置は、特に図示のように帆1の高さの中間位置に限定するものではなく、帆1の高さの上端から下端の間の中途位置であればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帆走船に関し、特にマストに対して帆を起倒可能に支持するようにした起倒式帆を備える帆走船に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化防止のためのCO2削減や省エネルギー効果を実現するために帆走船または汽帆船(以下、これらを総称して「帆走船」という)が注目されている。帆走船は推進動力として風力を利用したものであり、CO2削減および省エネルギー効果を実現することができる。また、一般に、無風時や悪天候時等の航行のためにエンジン等の補助機関を搭載している。
このよう帆走船において、手動によるマスト起倒装置を設けたもの(例えば、特許文献1参照)や筒状の硬質帆を入れ子状に構成して帆を上下方向に伸縮可能にしたもの(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平5−71090号公報
【特許文献2】特開2009−214633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、船に帆を装備した場合、帆の不使用時には船の風圧抵抗が増加したり、荒天時にはマストや帆に受ける風力によって、マストや帆が損傷したり、船舶自体が転覆するなどの被害をもたらす。また、マストや帆が荷役クレーンなどの荷役装置の稼働の障害になることもある。さらには、マストや帆が船の船橋からの視界を遮り操船時視界の邪魔になったりする。
また、起倒式帆の場合では帆を起倒する際、帆の下端部で起倒するようにすると、支持点回りの風力や重力のモーメントが過大となり、その結果起倒用の駆動力を大きくしなければならず、また起立状態にあってもその状態の保持力は大きくなってしまい、アクチュエーターとして大きな力量が必要となる。
【0005】
本発明は、上記のような課題に鑑み、帆の不使用時や荒天時においては、帆を倒すことができるように起倒式にした帆走船を提供することを目的とする。
また、本発明は、帆を起倒可能にするとともにマストを上下移動可能にした帆走船を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、帆をマストに対して起倒する第1駆動手段と、マストをマスト中心線回りに回転駆動する第2駆動手段とを備え、帆を起倒可能および旋回可能に構成したことを特徴とする起倒式帆を備える帆走船である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、マストを上下方向に移動させる第3駆動手段をさらに設けたものである。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、帆は高さ方向の上端と下端との間の途中に位置する支持点でマストの上端部にヒンジ結合され、その支持点回りに帆を起倒可能にする第1駆動手段を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、帆の不使用時や荒天時には帆を倒すことにより、帆不使用時の風圧抵抗の削減、荒天時の帆やマストに付与される力の削減あるいは力の方向の変更、荷役時の障害の防止、操船時視界の確保などに効果がある。
【0010】
請求項2に記載の発明によれば、さらにマストを上下方向に移動可能に構成したので、帆を甲板付近に下降させることにより、クレーンなどの荷役設備との干渉を回避することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、マスト上端部おけるヒンジ部である支持点を高さ方向の上端と下端との間に設けることにより、支持点回りの風力や重力のモーメントを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1に係る帆走船の概要図で、(a)は帆を起立させた状態、(b)は帆を倒した状態を示す図である。
【図2】実施の形態1における帆支持装置の概略正面図と断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2に係る帆走船の概要図である。
【図4】帆の下端部を起倒自在に支持した場合の概要図で、(a)は帆を起立させた状態、(b)は帆を倒した状態を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態3に係る帆走船の概要図で、(a)は帆を起立させた状態、(b)は帆を倒した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る帆走船の概要図であり、(a)は帆を起立させた状態、(b)は帆を倒した状態を示す図である。また、図2(a)は実施の形態1における帆支持装置の概略正面図、(b)は(a)のA−A線(マスト中心線)における断面図である。
図1において、帆走船100は、帆1を起倒可能および旋回可能に支持する帆支持装置10を備えている。帆支持装置10の具体的な構成は図2に示されている。
【0014】
本実施の形態の帆支持装置10は、帆1をマスト2に対して起倒する第1駆動手段と、マスト2をマスト中心線20の回りに回転駆動する第2駆動手段とを備えている。帆1は硬質または軟質の帆からなり、帆1を取り付ける枠体(張設体)3に張られている。
張設体3にはマスト2方向に延びるスリット部5が設けられている。すなわち、図2に示すように、スリット部5内のマスト2上端部において、帆1および張設体3(以下、両者を総称して帆張設体4という)をマスト2に対して起倒可能にヒンジ結合している。このヒンジ部6は帆張設体4の支持点を構成しており、支持点(ヒンジ部)6の位置は、特に図示のように帆1の高さの中間位置に限定するものではなく、帆1の高さの上端から下端の間の中途位置であればよい。
【0015】
上記の第1駆動手段(帆起倒用駆動手段)11は、図2に示すように、例えば油圧シリンダー21からなり、マスト2と帆張設体4との間に適当なブラケット23を介し油圧シリンダー21とシリンダーロッド22の各端部をそれぞれピンで結合することにより構成されている。これによって、帆張設体4をマスト2に対して鉛直から水平まで任意の角度に起倒することができる。
【0016】
第2駆動手段(帆旋回用駆動手段)12は、例えばマスト2をウォームギヤ機構26を介してモーター25により回転駆動するようになっている。これによりマスト2をマスト中心線20の回りに回転駆動することができ、風向に合わせて帆張設体4を任意の角度に旋回することができる。
【0017】
本実施の形態の帆走船100は、平常航行時には帆1を図1(a)に示すように起立させ、マスト2を第2駆動手段(帆旋回用駆動手段)12により回転させ、帆1をできるだけ最大の推進力が出るように風向に合わせて旋回させる。一方、帆1の不使用時や荒天時には図1(b)のように帆張設体4を甲板101に対して水平に保持することができる。そのため、帆不使用時の風圧抵抗の削減、荒天時の帆やマストに付与される力の削減あるいは力の方向の変更、荷役時の障害の防止、操船時視界の確保などに効果がある。
【0018】
実施の形態2.
図3は本発明の実施の形態2に係る帆走船の概要図である。本実施の形態では、実施の形態1において、さらにマスト2を上下方向に移動させる第3駆動手段(マスト伸縮用駆動手段)を追加したものである。この第3駆動手段によって、帆張設体4を例えば図1(b)の状態からさらに図3のように甲板101付近に下降させることができる。この第3駆動手段は、図示していないが、例えば油圧ジャッキ等によりマスト2を上下移動させればよい。前述したウォームギヤ機構からなる第2駆動手段(帆旋回用駆動手段)12を装備した基台を油圧ジャッキに取り付け、この基台に対しマスト2を回転自在に取り付ける構造とする。
【0019】
本実施の形態の帆走船100によれば、荷役時に帆張設体4を甲板101付近に下降させることにより、クレーンなど荷役設備との干渉を回避でき、また、例えば荒天時に甲板101上に波が浸入してきた場合には、波の高さを避けるように傾斜した帆を甲板101から図2(b)のように離すことにより、波の水圧による帆の損傷を防止できるなどの効果がある。
【0020】
実施の形態3.
本発明の実施の形態3を図4および図5に示す。図4は帆の下端部を起倒自在に支持した場合の概要図で、図5は帆の略中間部を起倒自在に支持した場合の概要図である。
図4に示すように、帆1の支持点(ヒンジ部)6の位置を帆1の高さ方向の下端部とした場合には、帆1にかかる流体力(揚力や抗力)による支持点6に発生するモーメントが過大になる。これに対して、支持点6の高さ方向の位置を図5に示すように、適切に選定することにより、支持点6回りの流体力のモーメントを軽減することができる。
また、帆1を倒した状態においても、図4(b)のような支持点6には過大な重力モーメントが発生するが、図5(b)のように支持点6の高さを適切に選定することにより、支持点6回りの重力のモーメントを軽減することができる。
【符号の説明】
【0021】
1 帆
2 マスト
3 張設体
4 帆張設体
5 スリット部
6 ヒンジ部(支持点)
10 帆支持装置
11 第1駆動手段(帆起倒用駆動手段)
12 第2駆動手段(帆旋回用駆動手段)
13 第3駆動手段(マスト伸縮用駆動手段)
20 マスト中心線
21 油圧シリンダー
22 シリンダーロッド
23 ブラケット
25 モーター
26 ウォームギヤ機構
100 帆走船
101 甲板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帆をマストに対して起倒する第1駆動手段と、
マストをマスト中心線回りに回転駆動する第2駆動手段とを備え、
帆を起倒可能および旋回可能に構成したことを特徴とする起倒式帆を備える帆走船。
【請求項2】
マストを上下方向に移動させる第3駆動手段をさらに設けたことを特徴とする請求項1記載の起倒式帆を備える帆走船。
【請求項3】
帆は高さ方向の上端と下端との間の途中に位置する支持点でマストの上端部にヒンジ結合され、その支持点回りに帆を起倒可能にする第1駆動手段を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の起倒式帆を備える帆走船。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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