説明

起毛編地およびその製造方法および衣料

【課題】高密度に製編され、地組織部と起毛部とで構成される起毛編地であって、前記起毛部がソフトな風合いを呈する起毛編地およびその製造方法およびかかる起毛編地を用いてなる衣料を提供する。
【解決手段】地組織部用糸条からなる地組織部と、起毛糸からなる起毛部とで構成され、かつ前記地組織部のループ密度が6000個/(2.54cm)以上である起毛編地であって、前記起毛部を構成する起毛糸において、下記式で定義するみかけ縮み率が20%以下であることを特徴とする起毛編地。
みかけ縮み率(%)=(LK2−LK1)/LK2×100
ただし、LK1は、起毛糸を根本からカットし、糸に張力をかけない状態で測定したときの起毛糸の両端部間直線距離(mm)であり、LK2は該起毛糸を直線状に伸ばしたときの長さ(mm)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度に製編され、地組織部と起毛部とで構成される起毛編地であって、前記起毛部がソフトな風合いを呈する起毛編地およびその製造方法およびかかる起毛編地を用いてなる衣料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高密度に製編され、地組織部と起毛部とで構成される起毛編地は、編地特有のソフト性とストレッチ性とを有するだけでなく防風性をも有しているので、防風編地として使用されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。また、特許文献3では、高密度に製編された起毛編地を用いて、編地と織物とが貼り合わされたボンデイング布帛と同様の防風性とハリコシ感とを兼備したボンデイング布帛調起毛編地を得ることが提案されている。
【0003】
しかしながら、高密度に製編された編地に起毛加工を施すと、起毛糸同士が容易に絡み合い、見かけ上縮んでしまうため、起毛部のソフトな風合いが損なわれるという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特許第3853175号公報
【特許文献2】特開2002−88263号公報
【特許文献3】特開2005−232643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、高密度に製編され、地組織部と起毛部とで構成される起毛編地であって、前記起毛部がソフトな風合いを呈する起毛編地およびその製造方法およびかかる起毛編地を用いてなる衣料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、高密度に編成された編地に起毛加工を施すと、起毛糸が互いに絡み合い見かけ上縮んでしまうが、該編地に高圧湿熱処理を施すことにより、起毛糸同士の絡みが消失し起毛糸が引き伸ばされるため、起毛部がソフトな風合いを呈する起毛編地が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明に想到した。
【0007】
かくして、本発明によれば「地組織部用糸条からなる地組織部と、起毛糸からなる起毛部とで構成され、かつ前記地組織部のループ密度が6000個/(2.54cm)以上の起毛編地であって、前記起毛部を構成する起毛糸において、下記式で定義するみかけ縮み率が20%以下であることを特徴とする起毛編地。」が提供される。
みかけ縮み率(%)=(LK2−LK1)/LK2×100
ただし、LK1は、起毛糸を根本からカットし、糸に張力をかけない状態で測定したときの起毛糸の両端部間直線距離(mm)であり、LK2は該起毛糸を直線状に伸ばしたときの長さ(mm)である。
【0008】
その際、起毛糸の両端部間直線距離(LK1)が5mm以上であることが好ましい。また、隣り合う起毛糸が互いに絡み合っていないことが好ましい。
前記起毛糸において、起毛糸の単繊維横断面形状が異型であることが好ましい。また、起毛糸の単繊維横断面形状が、扁平度3〜6の扁平断面であることが好ましい。また、起毛糸がポリエステル系繊維からなることが好ましい。また、起毛糸が非捲縮糸であることが好ましい。
【0009】
一方、前記地組織部用糸条において、地組織部用糸条がポリエステル系繊維からなることが好ましい。また、地組織部用糸条に仮撚捲縮加工糸条および/または、サイドバイサイド型潜在捲縮複合繊維糸条の捲縮が発現してなる捲縮糸条が含まれることが好ましい。その際、起毛編地がボンデイング布帛調を呈することが好ましい。また、地組織部用糸条において、単繊維繊度が0.1〜2dtex、総繊維繊度が20〜90dtexの範囲内であることが好ましい。
【0010】
本発明の起毛編地において、起毛糸が地組織部の裏面に挿入組織として挿入されていることが好ましい。また、前記地組織部の厚みが0.6mm以下であることが好ましい。また、前記地組織部において、起毛部とは反対側の表面にも起毛加工が施されていることが好ましい。また、編地の通気度が20cc/cm/sec以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、「起毛部用糸条と地組織部用糸条とを用いて編地を編成した後、該編地に起毛加工を施し、地組織部と起毛部とで構成される起毛編地を得て、次いで、該起毛編地に、温度100℃以上、時間10分以上の高温湿熱処理を施ことにより、前記起毛加工の際に発生した起毛糸同士の絡みを消失させることを特徴とする、前記の起毛編地の製造方法。」が提供される。
【0012】
その際、編地を編成した後、該編地に起毛加工を施す前に染色加工を施すことが好ましい。また、起毛糸用糸条が、単繊維繊度1〜4dtex、総繊維繊度30〜100dtexの糸条であることが好ましい。また、地組織部用糸条が、単繊維繊度0.1〜2dtex、総繊維繊度20〜90dtexの糸条であることが好ましい。
また、本発明によれば、前記の起毛編地を用いてなる衣料が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高密度に製編され、地組織部と起毛部とで構成される起毛編地であって、前記起毛部がソフトな風合いを呈する起毛編地およびその製造方法およびかかる起毛編地を用いてなる衣料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明の起毛編地は、地組織部用糸条からなる地組織部と、起毛糸からなる起毛部とで構成され、かつ前記地組織部のループ密度が6000個/(2.54cm)以上(好ましくは、8000〜12000個/(2.54cm))である。該ループ密度が6000個/(2.54cm)よりも小さいと防風性が低下するため好ましくない。
【0015】
ここで、前記起毛部は、編地においてシンカーループが現れる面またはパイルに通常の起毛加工を施すことにより形成される起毛部である。また、本発明でいうループ密度とは、コース数(個/2.54cm)とウエール数(個/2.54cm)との積である。コース数とウエール数は、その積が6000以上である限り特に限定されないが、各々60個/2.54cm以上(より好ましくは、70〜120個/2.54cm)であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の起毛編地において、下記式で定義する、起毛糸のみかけ縮み率が20%以下(好ましくは15%以下、特に好ましくは1〜14%)であることが肝要である。該みかけ縮み率が20%よりも大きいと、起毛部のソフトな風合いが損なわれるため好ましくない。
みかけ縮み率(%)=(LK2−LK1)/LK2×100
ただし、LK1は、図1に示すように起毛糸を根本からカットし、糸に張力をかけない状態で測定したときの起毛糸の両端部間直線距離(mm)であり、LK2は、図2に示すように前記起毛糸を糸が直線状になるよう両端をピンセットで引張り、まっすぐになった状態で粘着性のテープに貼り付け、その状態で測定したときの長さ(mm)である。
【0017】
前記起毛糸の両端部間直線距離(LK1)としては5mm以上(好ましくは10〜30mm)であると、起毛部の風合いがソフトになり、またふくらみが向上し好ましい。
また、本発明の起毛編地において、隣り合う起毛糸が互に絡みあっていないことが好ましい。図4に模式的に示すように隣り合う起毛糸が互に絡みあっていると、起毛部のソフトな風合いが損なわれるため好ましくない。
【0018】
本発明の起毛編地は例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、起毛糸用糸条と地組織部用糸条とを用意する。
ここで、起毛糸用糸条を形成する繊維の種類としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルからなるポリエステル繊維や、前記ポリエステルにイソフタル酸などの第3成分を共重合させた共重合ポリエステルからなる共重合ポリエステル繊維などのポリエステル系繊維が好ましい。起毛糸用糸条を形成する繊維の種類は1種類でもよいし、2種類以上でもよい。なお、繊維を形成するポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0019】
前記起毛糸用糸条の単繊維横断面形状としては、異型断面(すなわち、丸断面以外の断面)が好ましい。特に、扁平度(長辺の長さ/短辺の長さ)が3〜6(より好ましくは4〜6)の扁平糸が好ましい。扁平糸は同じ繊度の丸断面糸や他の異型断面糸と比べて、起毛性が良好で起毛加工の際に発生する起毛糸同士の絡まりが弱く、その後の湿熱処理加工で起毛糸同士の絡みが消失し易く好ましい。なお、かかる扁平糸は図5に模式的に示すようにくびれを有していてもよいし、くびれがなく上面および下面がフラットでもよい。
【0020】
前記起毛糸用糸条の形態としては、非捲縮フィラメント糸(いわゆる生糸)または捲縮率5%以下の低捲縮糸であることが好ましい。仮撚捲縮加工糸などの高捲縮糸であると起毛糸同士の絡まりが強くなりすぎるため、湿熱処理加工で起毛糸同士の絡まりが取れにくくなり、前記みかけ縮み率を20%以下にすることが困難になるおそれがある。
【0021】
前記起毛糸用糸条において、単繊維繊度、総繊維繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)、フィラメント数としては、単繊維繊度が0.5dtex以上(より好ましくは1.0〜4dtex)、総繊維繊度が30〜100dtex、フィラメント数10〜200本の範囲内であることが好ましい。該単繊維繊度が1dtexよりも小さいと起毛糸が立ち難くなり、逆に4dtexより大きいと起毛糸同士が絡みやすくなるため、前記みかけ縮み率を20%以下にすることが困難になるおそれがある。また、該総繊維繊度が30dtexよりも小さいと前記みかけ縮み率を20%以下にすることが困難になるおそれがある。
【0022】
一方、地組織部用糸条を形成する繊維の種類としては、前記のようなポリエステル系繊維が好ましい。地組織部用糸条を形成する繊維の種類も1種類でもよいし、2種類以上であってもよい。特に、地組織部用糸条に仮撚捲縮加工糸条および/またはサイドバイサイド型潜在捲縮複合繊維糸条が含まれると編地の通気性が低下するため好ましい。特に、地組織部にサイドバイサイド型潜在捲縮複合繊維糸条か仮撚捲縮加工糸が含まれていると、起毛編地に熱処理を施すことにより該サイドバイサイド型潜在捲縮複合繊維糸条が捲縮を発現し、特開2005−232643号公報に開示されているようなボンデイング布帛調(すなわち、地組織部が織物のような外観と風合いを呈する。)のハリコシ感と防風性とを呈し好ましい。
【0023】
前記サイドバイサイド型複合繊維糸条は沸騰水中で捲縮を発現することが可能な複合繊維糸条であれば特に限定されず、糸条を形成する単糸が、2種のポリマーが貼り合わされた通常の複合繊維からなるものでよい。その際、単糸は糸長方向に沿って完全なサイドバイサイド型である必要はなく、熱処理により捲縮を発現するものであれば偏心芯鞘型であってもよい。2種のポリマーの組合せとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート、ポリエステルとナイロンなどの異系のポリマーを貼り合わせたものや、ポリエチレンテレフタレートと第3成分を共重合させたポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートと第3成分を共重合させたポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンタレフタレートと第3成分を共重合させたポリブチレンタレフタレートなどのように同系のポリマーで熱収縮率の異なるポリマーを貼り合わせたものや、互いに固有粘度が異なるポリエチレンテレフタレートなどの同種ポリマーを貼り合わせたものなどが例示される。前記の第3成分としては、例えば共重合酸成分として、イソフタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等があげられ、また、オキシカルボン酸成分として、パラヒドロキシ安息香酸等があげられ、さらに、ジオール成分として、繰り返し単位を形成しているグリコール成分以外のエチレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコール、さらにはヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノール(フェノール性水酸基にエチレンオキサイドを付加したものでもよい)、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等があげられる。共重合量としては通常30モル%未満である。繊維を形成するポリマーには、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0024】
前記地組織部用糸条において、単繊維繊度が0.1〜2dtex、総繊維繊度が20〜90dtex、フィラメント数が20〜150本の範囲内の糸条が含まれることが好ましい。地組織部用糸条の単繊維繊度は小さいほど編地の通気性を小さくすることができ好ましく、単繊維繊度が2dtexよりも大きい糸条のみでは編地の通気性が大きくなってしまうおそれがある。また、地組織部用糸条の総繊維繊度が90dtexを超えると地組織部の厚みが大きくなり織物のような風合いが得られないおそれがある。
【0025】
次いで、前記起毛糸用糸条と地組織部用糸条とを用いて、最終的に得られる起毛編地の地組織部のループ密度が6000個/(2.54cm)以上となるような高編密度で編地を編成する。ここで、最終的に得られる起毛編地の地組織部のループ密度をこのように大きくする方法としては、28ゲージ以上のハイゲージ編機を使用してコース数100個/2.54cm以上の編条件で編成する方法、地組織部用糸条として高熱収縮率の糸条や高捲縮率の糸条を交編する方法などがあげられる。
【0026】
また、編地の編組織は特に限定されず丸編、経編のいずれでもよいが、地組織部に織物のような風合い、防風性を持たせてボンデイング布帛調とする上で経編が好ましい。その際、フロント組織が10針以上飛んだサテン系組織や、パイル組織、イベージョンラップした挿入組織などが好適に例示される。なかでもイベージョンラップした挿入組織は、挿入糸が編地裏面(シンカーループ面)にのみ現れ、起毛加工により挿入糸を起毛した際、起毛糸が起毛部のみを構成し地組織部にほとんど含まれないため、地組織部の厚みを薄くしやすく、また、地組織部の糸と起毛糸との糸種類を異ならせることができ好ましい。また、使用する編機も特に限定されないが、起毛糸の高さ(起毛糸の両端部間直線距離)を高くして起毛部のソフトな風合いを得る上で、シンカーパイル編機の場合はシンカーを高くすること、トリコット編機、丸編機の場合は起毛糸用糸条のランナー、編歩を長くすることが好ましい。また、前述のとおり、起毛糸の高さ(起毛糸の両端部間直線距離)を高くするには、起毛糸用糸条として非捲縮フィラメント糸または捲縮率5%以下の低捲縮糸を用いること、起毛糸用糸条の単繊維繊度を1dtex以上とすること、起毛糸用糸条の総繊維繊度を30dtex以上とすることなどが好ましい。
【0027】
次いで、該編地のシンカーループ側またはパイルに通常の起毛加工を施すことにより起毛部を形成することにより、地組織部と、該地組織部の片側面に形成された起毛部とで構成される起毛編地を得る。なお、該起毛加工の際、通常起毛糸同士が図4に示すように絡み合う。
【0028】
そして、該編地に温度100℃以上(好ましくは110〜140℃)、時間10分以上(好ましくは20〜60分)の高温湿熱処理を施ことにより、前記起毛加工の際に発生した起毛糸同士の絡みを消失させることにより、本発明の起毛編地が得られる。その際、高温湿熱処理を行う設備は特に限定されないが、高圧液流染色機や高圧気流染色機などが条件設定等に汎用性があり好ましい。また、これらの設備を使用して、生地(編地)を走行速度10m/分以上(好ましくは15〜30m/分)で走行させるか、高温液体を流速10m/分以上(好ましくは15〜30m/分)で循環させると、起毛加工の際に発生した起毛糸同士の絡みを効果的に消失させることができ好ましい。
【0029】
また、起毛加工された起毛編地に染色加工を施す場合は、前記高温湿熱処理は染色加工で代用することができる。起毛加工の前の編地に染色加工を施す場合は起毛加工後に前記高温湿熱処理を行う必要がある。また、染色加工の最終工程である乾熱ファイナルセットの温度は120〜200℃(より好ましくは140〜180℃)の範囲が好ましい。乾熱ファイナルセットの温度が120℃未満では、染色加工時のシワが残り易く、また仕上がり製品の寸法安定性が悪くなるおそれがある。逆に、該温度が200℃を超えると繊維が硬化し生地の風合いが硬くなるおそれがある。
【0030】
また、起毛加工および染色加工だけでなく、通常のアルカリ減量加工、吸水加工、撥水加工、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。また、前記起毛部と反対側表面、すなわちニードルループ面にも起毛加工を施してもよい。
かくして得られた起毛編地において、図3に模式的に示すように、起毛糸は互いに絡み合っていないので、起毛部はソフトな風合いとふくらみを呈する。
【0031】
また、かかる起毛編地において、地組織部の厚みが0.6mm以下(好ましくは0.2〜0.5mm)であると、地組織部が織物のような風合いとなり好ましい。このような厚みの地組織部を得るには、前述のように地組織部用糸条として総繊維繊度が90dtex以下の糸条を用いるとよい。なお、本発明において、厚みは以下の方法により測定するものとする。すなわち、電子顕微鏡を使用し、編地の横方向から編地の断面を70倍の倍率で撮影し、その画像から地組織部の厚さを測定する。
また、起毛編地がボンデイング布帛調(地組織部が織物のような外観と風合いを呈する。)を呈することが好ましい。
【0032】
また、かかる起毛編地の通気性は防風性の点で20cc/cm/sec以下(より好ましくは15cc/cm/sec以下)であることが好ましい。このように通気度を小さくする方法としては、前述のように地組織部のループ密度を大きくする方法、地組織部用糸条として単糸繊維繊度が1.0dtex以下かつフィラメント数が20本以上の細繊度ハイマルチ糸条や捲縮率10%以上の高捲縮仮撚加工糸などを交編する方法などがあげられる。
【0033】
また、かかる起毛編地の目付けは180〜600g/m(より好ましくは200〜550g/m)の範囲内であることが好ましい。起毛編地の目付けを該範囲内とする方法としては、地組織部用糸条の平均総繊維繊度を20〜90dtexの範囲内とする方法、ひとつのループを2〜3本の糸条で構成する方法、起毛糸用総繊維平均繊度を30〜200dtexの範囲内とする方法などがあげられる。
【0034】
また、本発明の衣料は、前記の起毛編地を用いてなる衣料である。前記の起毛編地を用いて衣料を縫製する際、起毛部が肌側に位置することが好ましいが外気側に位置してもよい。本発明の衣料は前記の起毛編地を用いているので起毛部がソフトな風合いを呈する。かかる衣料はコートやジャケット等のアウター用衣料、ウインドブレーカーやスキー用ジャケット等のスポーツ用衣料として好適である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。なお、実施例中の各物性は下記の方法により測定したものである。
【0036】
(1)ループ密度
拡大鏡を使用して地組織部表面を観察し、コース数(個/2.54cm)とウエール数(個/2.54cm)とを数え、両者の積をループ密度(個/(2.54cm))とした。なお、n数は5でその平均を求めた。
【0037】
(2)通気度
JIS L 1096−1998、6.27.1、A法(フラジール形通気性試験機法)により温度20℃、湿度65%RHに24時間放置し調質した編地について通気度(cc/cm/sec)を測定した。なお、n数は5でその平均を求めた。
【0038】
(3)地組織部用糸条の捲縮率
枠周:1.125mの巻き返し枠を用いて荷重:49/50mN×9×トータルテックス(0.1g×トータルデニール)をかけて一定の速度で巻き返し、巻き数:10回の小綛を作り、該小綛を捩じり2重の輪状にしたものを捲縮測定板にかけ、初荷重:49/2500mN×20×9×トータルテックス(2mg×20×トータルデニール)、及び重荷重:98/50mN×20×9×トータルデシテックス(0.2g×20×トータルデニール)を負荷した後、1分経過後の綛長:L0を測定した。測定後直ちに重荷重を除き1分以上経過後、沸水中に初荷重をかけたまま入れて30分間処理し、該沸水処理の後に初荷重を除き、フリーの状態で24時間自然乾燥させた。乾燥後再び小綛を前記と同様に捲縮測定板にかけ、前記の初荷重及び重荷重を負荷し、1分経過後に綛長:L1を測定し、直ちに重荷重を取り除いた。除重1分後の綛長L2を測定し、次式により捲縮率を算定した。なお、n数は5でその平均を求めた。
捲縮率(%)=((L1−L2)/L0)×100
【0039】
(4)みかけ縮み率
図1に示すように起毛糸を根本からカットし、糸に張力をかけない状態で測定したときの起毛糸の両端部間直線距離LK1(mm)と、図2に示すように前記起毛糸を糸が直線状になるよう両端をピンセットで、延伸しないように引き伸ばし、まっすぐになった状態で市販の粘着性テープに貼り付け、その状態で測定したときの長さLK2(mm)を測定し、次式によりみかけ縮み率(%)を算定した。なお、n数は5でその平均を求めた。
みかけ縮み率(%)=((LK2−LK1)/LK2)×100
【0040】
(5)目付け
JIS L1018−1998により目付け(g/m)を測定した。なお、n数は5でその平均を求めた。
【0041】
(6)起毛部の風合い
試験者3人により、起毛部の風合いを官能評価し、3級:起毛糸同士の絡まりがなくソフトな肌さわりである、2級:普通である、1級:起毛糸同士が絡まっておりソフト感がない、と3段階に評価した。
【0042】
[実施例1]
まず、単糸がポリエチレンテレフタレートとポリトリメチレンテレフタレートとのサイドバイサイド型複合繊維である糸条(総繊度56dtex/24fil)を用意した。該サイドバイサイド型複合繊維糸条は、潜在捲縮能を有しており上記の方法で捲縮率を測定したところ、捲縮率は28%であった。該サイドバイサイド型複合繊維(捲縮率28%)をフルセットでバック筬に通し、図5に示すような四つ山(膨出部が4箇所、くびれ部が3箇所)断面の84dtex/30filのポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(扁平度4)をフルセットでミドル筬に通し、33dtex/36filのポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(捲縮率20%)をフルセットでフロント筬に通し、36ゲージのトリコット編機にて、バック10−12、ミドル44−00、フロント23−10で経編地を編成し、得られた編地に常法の起毛加工を行い、ミドルに挿入した起毛糸用糸条(84dtex/30filの四つ山断面のポリエチレンテレフタレートフィラメント糸)を十分に引き出してフルカットすることにより、起毛糸が地組織部の裏面に挿入組織として挿入されている起毛編地を得た。該起毛編地において起毛糸同士が絡まっていた。次いで、高圧液流染色機を使用して、温度(トップ温度)130℃、生地速度20m/min、トップ温度のキープ時間20分の条件にて高圧染色を行い、地組織を収縮させると共に起毛糸の糸同士の絡まりを無くした後、最終セットとして160℃の乾熱セット行った。得られた編地の評価結果は表1に示す通りで、地組織部は織物のような緻密感と風合いを有しており、起毛部は起毛糸同士の絡まりが無く非常にソフトな肌触り(3級)となり、表裏の異質感が高いボンディング布帛のような外観と風合いを持つ1枚物の起毛編地が得られた。
次いで、該起毛編地を用いて起毛部が肌側になるようジャケットを縫製し着用したところソフトな肌触りを呈するものであった。
【0043】
[実施例2]
実施例1のフロント筬に用いた33デシテックス/36本のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(捲縮率20%)をバック筬にも用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で編地を編成し、実施例1と同様に起毛加工および染色加工を行った。
得られた編地の評価結果は表1に示す通りで、地組織部は織物のような緻密感と風合いを有しており、起毛部は起毛糸同士の絡まりが無く非常にソフトな肌触り(3級)となり、表裏の異質感が高いボンディング布帛のような外観と風合いを持つ1枚物の起毛編地が得られた。
【0044】
[実施例3]
実施例1でバック筬に用いたサイドバイサイド型複合繊維(捲縮率28%)をフルセットでバック筬に通し、実施例1でフロント筬に用いた33デシテックス/36本のポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(捲縮率20%)をフルセットでミドル筬に通し、実施例1でミドル筬に用いた84dtex/30filの四つ山断面のポリエチレンテレフレートフィラメント糸(扁平度B/C1:4)を1イン1アウトでフロント筬に通し、36ゲージのトリコット編機にて、バック10−12、ミドル10−23、フロント1112−44−10−77で編成し、得られた編地に実施例1と同様の起毛加工を行い、フロント糸(84dtex/30filの四つ山断面のポリエチレンテレフタレートフィラメント糸)を十分に引き出してフルカットした後、実施例1と同様の染色仕上げ加工を行った。
得られた編地の評価結果は表1に示す通りで、地組織部は織物のような緻密感と風合いを有しており、起毛部は起毛糸同士の絡まりが無く非常にソフトな肌触り(3級)となり、表裏の異質感が高いボンディング布帛のような外観と風合いを持つ1枚物の起毛編地が得られた。
【0045】
[比較例1]
実施例1と同様の方法で編成された編地を、温度130℃、生地速度20m/分、トップ温度のキープ時間20分の条件にて高圧染色を行った後、ミドルに挿入した起毛糸(84dtex/30filの四つ山断面のポリエチレンテレフタレートフィラメント糸)を起毛加工により起毛した後、高温湿熱処理を施すことなく最終セットとして160℃の乾熱セット行った。
得られた編地の評価結果は表1に示す通りで、地組織部は織物のような緻密感と風合いを有していたが、起毛部は起毛糸の見かけ縮み率が大きく、且つ起毛糸同士が絡まりソフト感が無く(1級)、表裏の異質感も低く商品価値の低いものであった。
【0046】
[比較例2]
56dtex/72filのポリエチレンテレフタレート仮撚捲縮加工糸(捲縮率20%)をフルセットでバック筬およびフロント筬に通し、84dtex/30filの四つ山断面のポリエチレンテレフタレートフィラメント糸(扁平度4)をフルセットでミドル筬に通し、36ゲージのトリコット編機にて、バック10−12、ミドル44−00、フロント23−10で編成し、得られた編地を実施例1と同様に起毛加工と染色仕上げ加工を行った。
得られた編地の評価結果は表1に示す通りで、起毛部は起毛糸同士の絡まりが無く非常にソフトな肌触り(3級)であったが、地組織部は厚くなりすぎ、地組織部のループ密度が小さいため、織物のような薄さとハリコシ感が無く、表裏の異質感も低く商品価値の低いものであった。また、編地の通気度も大きいものであった。
【0047】
[比較例3]
ミドル糸に84dtex/24filの丸断面のポリエチレンテレフタレートフィラメント糸をフルセットで用いる以外は実施例1と同様にして編成された編地を、実施例1と同様に起毛加工と染色仕上げ加工を行った。
得られた編地の評価結果は表1に示す通りで、地組織部は織物のような緻密感と風合いを有していたが、起毛部は起毛糸の見かけ縮み率が大きく、且つ起毛糸同士が絡まりソフト感が無く(1級)、表裏の異質感も低く商品価値の低いものであった。
【0048】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば、高密度に製編され、地組織部と起毛部とで構成される起毛編地であって、前記起毛部がソフトな風合いを呈する起毛編地およびその製造方法およびかかる起毛編地を用いてなる衣料が提供され、その工業的利用価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明において、起毛糸の両端部間直線距離LK1を測定する方法を模式的に示す図である。
【図2】本発明において、起毛糸の真の長さ(まっすぐ伸ばした状態での長さ)LK2を測定する方法を模式的に示す図である。
【図3】起毛糸同士が互に絡んでいない様子を模式的に示す図である。
【図4】起毛糸同士が互に絡んでいる様子を模式的に示す図である。
【図5】実施例1で用いた、四つ山断面のポリエチレンテレフタレートフィラメント糸の単繊維横断面形状を模式的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地組織部用糸条からなる地組織部と、起毛糸からなる起毛部とで構成され、かつ前記地組織部のループ密度が6000個/(2.54cm)以上の起毛編地であって、
前記起毛部を構成する起毛糸において、下記式で定義するみかけ縮み率が20%以下であることを特徴とする起毛編地。
みかけ縮み率(%)=(LK2−LK1)/LK2×100
ただし、LK1は、起毛糸を根本からカットし、糸に張力をかけない状態で測定したときの起毛糸の両端部間直線距離(mm)であり、LK2は該起毛糸を直線状に伸ばしたときの長さ(mm)である。
【請求項2】
起毛糸の両端部間直線距離(LK1)が5mm以上である、請求項1に記載の起毛編地。
【請求項3】
隣り合う起毛糸が互いに絡み合っていない、請求項1または請求項2に記載の起毛編地。
【請求項4】
起毛糸の単繊維横断面形状が異型である、請求項1〜3のいずれかに記載の起毛編地。
【請求項5】
起毛糸の単繊維横断面形状が、扁平度3〜6の扁平断面である、請求項1〜4のいずれかに記載の起毛編地。
【請求項6】
起毛糸がポリエステル系繊維からなる、請求項1〜5のいずれかに記載の起毛編地。
【請求項7】
起毛糸が非捲縮糸である、請求項1〜6のいずれかに記載の起毛編地。
【請求項8】
地組織部用糸条がポリエステル系繊維からなる、請求項1〜7のいずれかに記載の起毛編地。
【請求項9】
地組織部用糸条に仮撚捲縮加工糸条および/または、サイドバイサイド型潜在捲縮複合繊維糸条の捲縮が発現してなる捲縮糸条が含まれる、請求項1〜8のいずれかに記載の起毛編地。
【請求項10】
起毛編地がボンデイング布帛調を呈する、請求項9に記載の起毛編地。
【請求項11】
起毛糸が地組織部の裏面に挿入組織として挿入されている、請求項1〜10のいずれかに記載の起毛編地。
【請求項12】
前記地組織部の厚みが0.6mm以下である、請求項1〜11のいずれかに記載に起毛編地。
【請求項13】
前記地組織部において、起毛部とは反対側の表面にも起毛加工が施されている、請求項1〜12のいずれかに記載の起毛編地。
【請求項14】
編地の通気度が20cc/cm/sec以下である、請求項1〜13のいずれかに記載の起毛編地。
【請求項15】
起毛部用糸条と地組織部用糸条とを用いて編地を編成した後、該編地に起毛加工を施し、地組織部と起毛部とで構成される起毛編地を得て、次いで、該起毛編地に、温度100℃以上、時間10分以上の高温湿熱処理を施ことにより、前記起毛加工の際に発生した起毛糸同士の絡みを消失させることを特徴とする、請求項1〜14のいずれかに記載の起毛編地の製造方法。
【請求項16】
編地を編成した後、該編地に起毛加工を施す前に染色加工を施す、請求項15に記載の起毛編地の製造方法。
【請求項17】
起毛糸用糸条が、単繊維繊度1〜4dtex、総繊維繊度30〜100dtexの糸条である、請求項15または請求項16に記載の起毛編地の製造方法。
【請求項18】
地組織部用糸条が、単繊維繊度0.1〜2dtex、総繊維繊度20〜90dtexの糸条である、請求項15〜17のいずれかに記載の起毛編地の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜14のいずれかに記載の起毛編地を用いてなる衣料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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