説明

起泡性アルコール飲料の泡品質評価用容器及び泡品質評価方法

【課題】 起泡性アルコール飲料の泡品質を、より一般市場(一般家庭や料飲店等)に近い状態で評価するための容器、及び泡品質評価方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 容器内面に長鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸を含む食用油脂が塗布されていることを特徴とする起泡性アルコール飲料の泡品質評価用容器、前記泡品質評価用容器を用いた起泡性アルコール飲料の泡品質評価方法、並びに、清浄容器を用いた起泡性アルコール飲料の泡品質評価結果と、前記泡品質評価用容器を用いた起泡性アルコール飲料の泡品質評価結果とを比較することを特徴とする起泡性アルコール飲料の泡品質評価方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールや発泡酒等の起泡性アルコール飲料の、泡付き・泡持ち・泡立ち等の泡品質を評価するために用いる容器に関する発明であり、特に、発酵麦芽飲料の泡品質の評価に用いられるグラスに関する発明である。また、一般市場(一般家庭や料飲店)で使用されるグラスやジョッキなどと同じ泡付き・泡持ち・泡立ちを再現し、起泡性アルコール飲料の泡品質を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールや発泡酒などの起泡性アルコール飲料における泡は製品品質評価上不可欠な要素であり、泡立ち(head formation)、泡持ち(head retention)、泡の付着性(泡付き、head adhesion, foam lacing)など、泡に対する品質評価項目は多い。
泡立ちとは、壜や缶などを開栓し、グラスに注ぎ出したとき形成される泡のことである。また、泡持ちとは、形成された泡の安定性のことを示し、気泡を崩壊させる何らかの要因により、泡の安定性が損なわれる。
ビールの泡が安定しているのは、ビール中の蛋白質と、ホップ由来のイソフムロンが結合して、泡の安定性を高めているためである。しかしながら、この泡は、脂質により速やかに崩壊することが知られている。
また、泡の付着性はレースとも呼ばれ、グラス中のビールの量が減るに従って、グラス内面にビールの泡のあとがリング状に付着する現象を指している。
【0003】
これまで、ビールや発泡酒の泡品質を測定する方法として、Ross & Clark法、Σ法およびNIBEM法などが知られている。
Ross & Clark法およびΣ法は、25℃のビール(または発泡酒)を一定条件下で泡立て、一定時間に泡から生じる液体の量、及び、その時点で残っている泡から生じる液体の量を測定し、所定の計算式によって泡持ち(泡の平均寿命)を算出する方法である。
また、NIBEM法は、20℃のビール(または発泡酒)を、専用の円筒グラス(内径60mm、内高120mm)の中に炭酸ガスを用いて強制的に注いで起泡させ、ビール液面が10mm降下したときから40mmまで降下するまでの時間を、電極を用いて測定する方法である。
【0004】
このようなビールや発泡酒の泡の評価方法に加えて、特許文献1〜6に記載されているような泡持ち・泡付き等を評価するための装置及び評価方法が知られている。
しかしながら、これらはいずれも試験用に管理した極めて清浄な容器を用いて、泡持ちを秒数で測定・評価する方法及び装置である。
【0005】
このような清浄容器を用いた泡品質評価結果は優れていても、一般市場(一般家庭や飲食店など)で用いられるグラスやジョッキなどにビールや発泡酒を注ぐと、泡品質が著しく悪い場合がある。
【0006】
【特許文献1】特開2004−85217号公報
【特許文献2】特再WO099/30149号公報
【特許文献3】特許第3549432号公報
【特許文献4】特許第3485830号公報
【特許文献5】特開2000−180358号公報
【特許文献6】特許第2717049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、起泡性アルコール飲料の泡品質を、より一般市場(一般家庭や料飲店等)に近い状態で評価するための容器、及び泡品質評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。
一般市場(一般家庭や料飲店等)で使用されるグラスやジョッキには、食品や食器用洗剤に含まれる脂質などの成分が付着したままの場合があり、このグラス内面に付着した脂質によりビールや発泡酒の泡立ち、泡持ち、泡付きが損なわれる場合もある。
実際に、一般家庭7件で使用されているグラス内面の脂質の状態を調査したところ、全ての家庭のグラスに脂肪酸が付着しており、その付着量はグラスあたり6〜81μgであった。さらに、付着した脂肪酸の組成を分析したところ、パルミチン酸48%、ステアリンさん27%、オレイン酸21%、リノール酸4%であった。
【0009】
従来、ビールや発泡酒の泡品質評価に用いていた一定品質の容器(清浄容器)を用いた泡品質評価(泡立ち、泡持ち、泡付き等)は問題なくとも、市場で用いられるグラスやジョッキ等(市場容器)に注いだ場合は、その泡品質評価が著しく悪くなる場合がある。逆に、清浄容器と市場容器での泡品質評価の差が小さいものほど、泡品質の高いビール(発泡酒)と評価できる。
【0010】
本発明者らは、容器内面に長鎖脂肪酸、特にパルミチン酸を塗布した容器を用いることによって、一般市場で用いられるグラスやジョッキ等に起泡性アルコール飲料を注いだときと同等の泡品質を再現可能であることを見出した。そして、当該容器を、起泡性アルコール飲料の泡品質評価に利用可能であることも見出した。
【0011】
さらに、当該容器と清浄容器とを用いた泡品質評価結果を比較して、両方の評価結果の差が小さいものほど泡品質が高いことを利用した、起泡性アルコール飲料の泡品質評価が可能であることを明らかにした。
本発明は、これらの知見に基いて完成されたものである。
【0012】
すなわち、請求項1に係る本発明は、容器内面に長鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸を含む食用油脂が塗布されていることを特徴とする起泡性アルコール飲料の泡品質評価用容器である。
請求項2に係る本発明は、長鎖脂肪酸が、C14〜C18の鎖長の脂肪酸から選ばれた1種類または2種類以上の混合物であることを特徴とする請求項1記載の泡品質評価用容器である。
請求項3に係る本発明は、長鎖脂肪酸がパルミチン酸を含むものであることを特徴とする請求項1〜2記載の泡品質評価用容器である。
請求項4に係る本発明は、請求項1〜3に記載の泡品質評価用容器を用いた、起泡性アルコール飲料の泡品質評価方法である。
請求項5に係る本発明は、清浄容器を用いた起泡性アルコール飲料の泡品質評価結果と、請求項1〜3に記載の泡品質評価用容器を用いた起泡性アルコール飲料の泡品質評価結果とを比較することを特徴とする起泡性アルコール飲料の泡品質評価方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、起泡性アルコール飲料、特に起泡性発酵麦芽飲料の一般市場における泡品質を評価できる。また、本発明を用いて泡品質を評価することにより、製造された起泡性アルコール飲料の泡品質を評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
請求項1に係る本発明は、容器内面に長鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸を含む食用油脂が塗布されていることを特徴とする起泡性アルコール飲料の泡品質評価用容器である。
【0015】
請求項1に係る本発明における長鎖脂肪酸は特に限定されず、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸を用いることができる。飽和脂肪酸としては、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸などを、不飽和脂肪酸としては、パルミトレイン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸などの一価不飽和脂肪酸、および、ヘキサデカジエン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘキサデカテトラエン酸、リノール酸、α−リノレイン酸、γ−リノレイン酸、オクタデカテトラエン酸などの多価不飽和脂肪酸等が例示でき、これらの中から選ばれた1種類または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
中でも、請求項2に記載したように、長鎖脂肪酸としてC14〜C18の鎖長の脂肪酸から選ばれた1種類または2種類以上の混合物を用いることが好ましい。
特に、請求項3に記載したように、一般市場のグラスに最も多く付着している長鎖脂肪酸であり、かつ、取扱いの容易さから、これらの長鎖脂肪酸は、パルミチン酸を含むものであることが好ましい。
【0016】
また、上記の長鎖脂肪酸は、後述する容器内面に塗布するため、通常、適当な溶媒に溶解させた溶液として用いる。ここで用いる溶媒としては、エタノール、アセトンなどが例示できるが、これらに限定されない。
溶媒に溶解させて用いる場合の長鎖脂肪酸の濃度は0.5〜10容量%、好ましくは1〜3容量%とすればよい。
なお、請求項1に係る本発明において長鎖脂肪酸とは、上記のような長鎖脂肪酸溶液をも包含するものとする。
【0017】
請求項1に係る本発明においては、長鎖脂肪酸の代わりに、長鎖脂肪酸を含む食用油脂を用いてもよい。長鎖脂肪酸を含む食用油脂としては、オリーブ油、パーム油、サラダ油、なたね油、コーン油、ごま油、ラードなどが例示できるが、これらに限定されない。
【0018】
請求項1に係る本発明における容器は、起泡性アルコール飲料の泡を立てることができるものであれば、特にその形状は限定されないが、例えば、容量90〜680mlの円筒形のグラス等が例示できる。なお、後述の泡品質評価方法としてNIBEM法を採用する場合は、容器を内径60mm、内高120mmの円筒グラスとする必要がある。
また、容器の素材についても特に制限はなく、例えばガラス、プラスチックなどを用いることができ、特にガラス製が好ましい。
【0019】
請求項1に係る本発明では、長鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸を含む食用油脂を容器に塗布することにより、泡品質評価用容器を作成する。
泡品質評価に用いる容器は予め洗剤および温水で十分に洗浄し、十分量の水(好適には蒸留水、イオン交換水など)ですすいで、脂肪酸等の汚れを完全に除去したものを、好ましくはさらに乾燥させてから用いる。
次に、上記により得られた清浄容器に、長鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸を含む食用油脂を均一に塗布する。好適には、さらに該容器を乾燥させ、余分な長鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸を含む食用油脂を拭き取る。
長鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸を含む食用油脂の容器内面への塗布は、容器内面全体(壁面及び底面)に塗布することが望ましいが、容器内面の一部、特に壁面にのみ塗布した場合でも、泡品質評価に用いることができる。
【0020】
このようにして作成した請求項1に係る本発明の泡品質評価用容器は、以下に述べる起泡性アルコール飲料の泡品質評価方法において用いることができる。当該泡品質評価用容器は、一般市場(一般家庭や料飲店等)において通常行われる程度に洗浄された容器と同様の泡立ち、泡持ち、泡付き等を再現することができるため、実状に即した泡品質の評価を可能にする。なお、泡品質とは、上記のように、泡立ち、泡持ち、泡付き等を指す。
請求項1に係る本発明における起泡性アルコール飲料には特に制限はないが、好ましくはビールや発泡酒といった麦芽発酵飲料であり、特にビールが好ましい。
【0021】
請求項4に係る本発明は、請求項1〜3に記載の泡品質評価用容器を用いた、起泡性アルコール飲料の泡品質評価方法である。
ここで起泡性アルコール飲料とは、既述の通り特に制限されないが、ビールや発泡酒といった麦芽発酵飲料が好ましく、特にビールが好ましい。
【0022】
請求項4に係る本発明では、上記の方法により作成した泡品質評価用容器を用いて、公知の方法により起泡性アルコール飲料の泡品質の評価を行う。泡品質の評価方法としては、前記したRoss & Clark法、Σ法およびNIBEM法など公知の方法を採用することができ、特に限定されない。なお、泡品質とは、上記のように、泡立ち、泡持ち、泡付き等を指す。
【0023】
以下に、ビールの泡持ちを評価する方法の一例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
泡品質評価用容器としては、ガラス製の175ml容グラスを用いる(この段落において、以下、泡品質評価用グラスという。)。
まず、10℃のビール90mlを100ml容コニカルシリンダに量り取る。高さ2.8cmの試料台の上に置いた泡品質評価用グラス口部にコニカルシリンダの注ぎ口をあて、コニカルシリンダの底部が90度になるまで持ち上げ、ビールを泡品質評価用グラスに注ぎ起泡させる。注ぎ開始から、泡が消え液面が2〜3mm(マッチ棒の頭程度の大きさ)に見えるまでにかかった時間を、泡持ち時間(秒)として測定する。
このようにして測定した泡持ち時間を泡持ちの指標とする。泡持ち時間が長いほど、泡持ちが良く、泡品質が高いことを示す。
【0024】
請求項5に係る本発明は、清浄容器を用いた起泡性アルコール飲料の泡品質評価結果と、請求項1〜3に記載の泡品質評価用容器を用いた起泡性アルコール飲料の泡品質評価結果とを比較することを特徴とする起泡性アルコール飲料の泡品質評価方法である。
ここで起泡性アルコール飲料とは、既述の通り特に制限されないが、ビールや発泡酒といった麦芽発酵飲料が好ましく、特にビールが好ましい。
【0025】
請求項5に係る本発明における清浄容器とは、上記した泡品質評価用容器の作成に用いた清浄容器を指し、上記泡品質評価用容器に長鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸を含む食用油脂を塗布する前の状態の容器である。すなわち、清浄容器とは脂肪酸等の汚れを完全に除去した容器であって、例えば、洗剤および温水で十分に洗浄し、十分量の水(好適には蒸留水、イオン交換水など)ですすいで、好ましくはさらに乾燥させたものを用いればよい。
【0026】
請求項5に係る本発明では、まず、前記の清浄容器および上記の方法により作成した泡品質評価用容器を用いて、それぞれ公知の方法により起泡性アルコール飲料の泡品質の評価を行う。泡品質の評価方法としては、請求項4に係る本発明と同様に、前記したRoss & Clark法、Σ法およびNIBEM法など公知の方法を採用することができ、特に限定されない。なお、泡品質とは、上記のように、泡立ち、泡持ち、泡付き等を指す。
次に、上記で得られた清浄容器を用いた泡品質評価結果と、泡品質評価用容器を用いた泡品質評価結果とを比較することにより、起泡性アルコール飲料の泡品質評価を行う。
【0027】
上記のように、請求項1〜3に記載の泡品質評価用容器は、清浄容器に長鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸を含む食用油脂を塗布して得られるものである。したがって、請求項5に係る本発明では、清浄容器および泡品質評価用容器による泡品質評価結果を比較することによって、起泡性アルコール飲料の泡品質、特に、長鎖脂肪酸に対する耐久性(以下、脂質耐久性という。)を評価することが可能となる。
【0028】
よって、長鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸を含む食用油脂を塗布した泡品質評価用容器を用いても、脂肪酸等の汚れを除去した清浄容器を用いた場合と同程度の泡品質が得られれば、試料である起泡性アルコール飲料の泡の脂質耐久性が極めて高いことが分かり、また、両容器での泡品質評価結果の間の差が小さいほど、泡の脂質耐久性が高いということができる。
【0029】
起泡性アルコール飲料の泡品質は、原料の使用比率や仕込み配合、醸造条件などにより左右されることが知られている。したがって、請求項5に係る本発明により評価した泡泡品質は、起泡性アルコール飲料の製造方法の改善のための指標とすることができる。
【0030】
以下に実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
(パルミチン酸溶液の調製)
エタノール(特級)10mlにパルミチン酸を200mg溶解し、泡品質評価用グラス塗布用のパルミチン酸溶液(2%)とした。
【0032】
(泡品質評価用グラスの作成)
ガラス製のグラス(容量175ml)を洗剤で洗浄し、40℃以上の温水で、洗剤がなくなるまですすいだ。その後、蒸留水で十分にすすいだグラスを風乾させた。
風乾させたグラスの内側面および内底面に、上記パルミチン酸溶液を均一に塗布した後、10分間乾燥させた。グラスあたりの塗布量は、パルミチン酸として0.1mgであった。
【0033】
(清浄グラスの作成)
上記で泡品質評価用グラスに用いた容量175mlのグラスを洗剤で洗浄し、40℃以上の温水で、洗剤がなくなるまですすいだ。その後、蒸留水で十分にすすいだグラスを風乾させた。
【0034】
(市場グラスの作成)
上記で泡品質評価用グラスに用いた容量175mlのグラスを、一般家庭で2週間使用したものを、蒸留水ですすいだグラスを風乾させ、市場グラスとして用いた。
【0035】
(泡品質評価:泡持ちの評価)
上記泡品質評価用グラス(実施例1)、上記清浄グラス(対照例1)、及び上記市場グラス(対照例2)に、10℃のビールを注ぎ、泡持ち試験を行った。それぞれのグラスに注ぐビールは、100ml容コニカルシリンダに90ml量り取り、試料台(高さ2.8cm)の上に置いたグラス(175ml容)の口部にコニカルシリンダの注ぎ口をあて、コニカルシリンダの底部が90度になるまで持ち上げ、ビールをグラスに注ぎ起泡させた。
注ぎ開始から、泡が消え液面が2〜3mm(マッチ棒の頭程度の大きさ)に見えるまでにかかった時間を、泡持ち時間として測定することにより、泡持ちを評価した。
結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
(結果)
表1から、泡品質評価用グラスにより評価した泡持ちは、一般家庭で使用した市場グラスによる評価と同じ程度であり、泡品質評価用グラスが市場グラスと同等の泡持ちを再現できることが分かる。
【実施例2】
【0038】
清浄グラスへ注いだビールにパルミチン酸を滴下したときの泡持ちと、泡品質評価用グラスにビールを注いだときの泡持ちを、以下のように評価した。
実施例1と同様に作成した泡品質評価用グラス(実施例2)、実施例1と同様に作成した清浄グラス(対照例3)、当該清浄グラスにビールを注ぎ、実施例1と同様に調製したパルミチン酸溶液を50μl滴下した場合(対照例4)、対照例4においてパルミチン酸溶液の滴下量を100μlとした場合(対照例5)、及び、実施例1と同様に作成した市場グラス(対照例6)における泡持ち時間を測定することにより、泡持ちを評価した。
泡持ちの評価方法は、実施例1と同様に行った。泡持ち時間測定結果を表2に示す。
【0039】
【表2】

【0040】
(結果)
清浄グラスに2%パルミチン酸溶液を滴下(50μl、100μl)した場合(対照例4、5)は、市場グラスよりも泡持ち時間が長く、市場グラスよりも泡持ちが良いと判定されてしまった。対照例4と5の泡持ち時間の差について、測定のばらつきを用いて有意差検定を行ったが、危険率5%で有意差は認められず、両者ともほぼ同等の値を示すことが分かった。従って、脂肪酸滴下量を増加するだけでは、実際の市場における泡持ち状態を再現することは困難であることが推測された。
一方、2%パルミチン酸溶液を内面に塗布した泡品質評価用グラス(実施例2)の泡持ちは、市場グラスと近い評価であった。
【0041】
これは、ビールや発泡酒の泡持ちは、グラス内面の泡付き(レース)が良いほど泡持ちも良くなり、泡付き(レース)が悪くなると泡持ちも悪くなる。しかし、パルミチン酸溶液の滴下では、液面に形成された泡を消す働きはあるものの、グラス内面に接している泡の付着性(泡付き)を阻害するものではないためであると推測される。
一般市場では、脂肪酸がビールに滴下される状況は少なく、グラス内面に付着した脂肪酸がビールや発泡酒の泡を阻害するため、グラス内面にパルミチン酸を塗布した実施例2が、市場グラスに近い結果となったものと考えられる。
【実施例3】
【0042】
パルミチン酸以外の脂肪酸を塗布した泡品質評価用グラス(175ml容)を作成し、それに大瓶ビールを実際に手注ぎ(瓶口をグラスにあて、約45度の角度まで瓶底を持ち上げる。)することにより注ぎ、泡持ち評価を行った。
【0043】
(オレイン酸塗布グラスの作成)
実施例1で用いたグラス(容量175ml)を洗剤で洗浄し、40℃以上の温水で、洗剤がなくなるまですすいだ。その後、蒸留水で十分にすすいだグラスを風乾させた。
風乾させたグラスの内側面、内底面に、オレイン酸とエタノールを1:1(容量比)で混合したオレイン酸溶液(50%)を均一に塗布した後、すぐにふき取った。
【0044】
(オリーブ油塗布グラスの作成)
実施例1で用いたグラス(容量175ml)を洗剤で洗浄し、40℃以上の温水で、洗剤がなくなるまですすいだ。その後、蒸留水で十分にすすいだグラスを風乾させた。
風乾させたグラスの内側面、内底面に、市販のオリーブ油を均一に塗布した後、すぐにふき取った。
【0045】
(市場グラス)
実施例1と同様の、2週間一般家庭で使用したグラスを用いた。
(清浄グラス)
実施例1と同様の手順により、清浄グラスを作成した。
【0046】
(泡品質評価:泡持ちの評価)
上記のオレイン酸塗布グラス、オリーブ油塗布グラス、市場グラス、及び清浄グラスにビールを注ぎ、それぞれ泡持ちを評価した。なお、評価方法は、上記のように大瓶ビールを手注ぎでグラスに注ぐこと以外は、実施例1記載の(泡品質評価:泡持ちの評価)と同様の方法により4回繰り返して行った。
結果を表3に示す。
【0047】
【表3】

(単位:秒)
【0048】
(結果)
オリーブ油塗布グラスは市場グラスと近い評価であり、泡品質評価グラスとしての使用に適していることが分かった。一方、オレイン酸塗布グラスはオリーブ油および市場グラスと比べて泡持ちが悪かった。
【実施例4】
【0049】
ビールの泡品質の評価を、以下の2種類の製造方法で得られたビールを用いて行った。
【0050】
(ビールAの製造)
大麦麦芽10kgに仕込用水を70L加え、65℃で30分間糖化反応させた後、麦汁清澄化を行い、ろ過麦汁を得た。
得られたろ過麦汁に液糖3kgとホップペレット70gを添加し、70分間煮沸した。煮沸後、加水によりエキス濃度12%に調整し、5℃まで冷却し、冷麦汁とした。
冷麦汁にビール酵母(Saccaromyces pastorianus)を3000万 cells/mlの割合で添加し、12.5℃で7日間発酵させた。
発酵終了後、0℃で10日間静置した。最後にろ過処理を行い、ビールAとした。
【0051】
(ビールBの製造)
大麦麦芽8kg、小麦麦芽6kgに仕込用水を90L加え、65℃で30分間糖化反応させた後、麦汁清澄化を行い、ろ過麦汁を得た。
得られたろ過麦汁にホップペレット65gを添加し、70分間煮沸した。
以降、前述のビールAと同様の操作で、ビールBを得た。
【0052】
(泡品質評価:泡持ちの評価)
実施例1と同様の清浄グラスと泡品質評価用グラスを用い、それぞれのビールの泡持ちを評価した。評価方法はNIBEM法にて以下のように行った。
すなわち、20℃のビールを、グラスの中に炭酸ガスを用いて強制的に注ぎ起泡させ、ビール泡面が10mm低下したときから40mmまで低下するまでの時間を、電極を用いて測定した。
結果を図1に示す。
【0053】
(結果)
ビールAとビールBをそれぞれ清浄グラスと泡品質評価用グラスに注ぎ、その泡持ち時間をNIBEM法で測定した結果、清浄グラスではビールAとビールBの泡持ちに大きな違いはなかった。
しかしながら、泡品質評価用グラス(本発明品)に注いだ場合のビールAとビールBの泡持ちは大きく異なり、ビールAの泡持ちは悪いが、ビールBの泡持ちは清浄グラスの場合との差が少なかった。これは、ビールAの泡は、ビールBの泡と比較して泡の耐久性が低く、崩壊しやすい泡であった、つまり、ビールAは、ビールBに比べて脂質耐久性の弱いビールであったためと考えられる。
【0054】
この結果から、清浄グラスと本発明の泡品質評価用グラスを用いてそれぞれに行った泡品質評価結果を比較することによって、ビール(または発泡酒)の泡品質(泡の脂質耐久性)を評価することができることが分かる。また、このようにして評価した泡品質(泡の脂質耐久性)は、泡持ちを改善するためのビール(または発泡酒)の原料比率、処方や醸造工程の改善の指標として利用できることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施例4において、清浄グラスと泡品質評価用グラス(本発明品)を用いて測定したビールの泡持ち時間(秒)を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内面に長鎖脂肪酸又は長鎖脂肪酸を含む食用油脂が塗布されていることを特徴とする起泡性アルコール飲料の泡品質評価用容器。
【請求項2】
長鎖脂肪酸が、C14〜C18の鎖長の脂肪酸から選ばれた1種類または2種類以上の混合物である請求項1記載の泡品質評価用容器。
【請求項3】
長鎖脂肪酸がパルミチン酸を含むものである請求項1〜2記載の泡品質評価用容器。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の泡品質評価用容器を用いた、起泡性アルコール飲料の泡品質評価方法。
【請求項5】
清浄容器を用いた起泡性アルコール飲料の泡品質評価結果と、請求項1〜3に記載の泡品質評価用容器を用いた起泡性アルコール飲料の泡品質評価結果とを比較することを特徴とする起泡性アルコール飲料の泡品質評価方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−178146(P2007−178146A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−374010(P2005−374010)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)