説明

起立補助椅子

【課題】筋力の低下レベルあるいは障害のレベルに応じたきめ細かい起立制御を行うことができる起立補助椅子を得る。
【解決手段】座面後部を一様に上げ下げするという発想から離れ、座面を複数に分割した上で、分割座面の傾斜及び高さ位置を個別に制御することで、筋力の低下レベルあるいは障害のレベルに応じたきめ細かい起立制御を行うために、座部基体上に位置する座面を複数に分割し、これら複数の分割座面の傾斜及び高さ位置を変化させるアクチュエータを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や下肢身障者の起立補助椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
下肢筋力の衰えた高齢者や下肢身障者の起立を補助する椅子として、座面全体を前方の枢軸を中心に起立可能に支持し、座面後方を押し上げることで、起立(着座)を補助する椅子が提案されている(特許文献1)。
【特許文献1】実開平7-9327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、この起立補助椅子は、単に座面後部を持ち上げ、あるいはその高さ位置を調節するものであって、筋力の低下のレベル、あるいは障害のレベルに応じたきめ細かい要求に応えることができなかった。
【0004】
本発明は、筋力の低下レベルあるいは障害のレベルに応じたきめ細かい起立制御を行うことができる起立補助椅子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、座面後部を一様に上げ下げするという発想から離れ、座面を複数に分割した上で、分割座面の傾斜及び高さ位置を個別に制御することで、筋力の低下レベルあるいは障害のレベルに応じたきめ細かい起立制御を行うという着想に基づいてなされたものである。
【0006】
本発明による起立補助椅子は、座部基体上に位置する座面を複数に分割し、これら複数の分割座面の傾斜及び高さ位置を変化させるアクチュエータを設けたことを特徴としている。
【0007】
座面の分割態様は、マトリックス状にすることも可能であるが、起立時には座面後部を持ち上げることが必須であることから、好ましい一態様では、分割座面を、座部基体の前縁に一直線上に位置する枢軸で軸着された互いに平行をなす複数の独立揺動座面から構成し、アクチュエータによって各独立揺動座面の角度を変化させることができる。
【0008】
別の態様では、分割座面を、平面視で矩形をなす座部基体の二本の対角線相当線によって、前側三角形状、後側三角形状及び左右三角形状の4枚から構成し、前側三角形状分割座面はその前縁を座部基体前縁に枢着し、左右三角形状分割座面はそれぞれ、前側三角形状分割座面と後側三角形状分割座面に枢着し、アクチュエータは、前側三角形状、後側三角形状及び左右三角形状分割座面を各枢軸を中心に回動させるように設けることができる。
【0009】
分割座面の分割態様によらず、分割座面上には、一連の非分割柔軟材を載置するのがよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の起立補助椅子によれば、座面を分割し、その分割座面の傾斜と高さ位置を個別に制御できるので、筋力の低下レベル、障害のレベルに応じきめ細かく起立補助及び着座補助を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1ないし図5は、本発明による起立補助椅子10の第一の実施形態を示している。この実施形態は、室内用の椅子に本発明を適用したものである。起立補助椅子10は、平面矩形の座部基体11を有し、この座部基体11から脚12が下方に延びている。また、座部基体11の左右からは肘掛け部13、後方からは背凭れ部14が上方に延びている。座部基体11の前縁は着座入口部15である。
【0012】
座部基体11上には、左右の肘掛け部13と平行な直線で分割された分割座面(座板)20が位置している。各分割座面20は、着座入口部15の前縁に一直線上に位置する蝶番21(図2)によって独立して傾動可能に枢着されており、各分割座面20の後端部は、座部基体11との間に張設した引張ばね22によって下方に回動付勢されている。分割座面(独立揺動座面)20の付勢回動端は、分割座面20が座部基体11と当接する位置で規制されており、この位置で分割座面20は水平または後部が若干低い標準着座位置になる。
【0013】
分割座面20の上には、全ての分割座面20に渡る大きさの柔軟なマットまたはシート(非分割柔軟材)17が位置している。このマットまたはシート17は、伸縮性に富むものを用い、面ファスナーを用いて分割座面20に定着させることができる。
【0014】
座部基体11の下方には、ポケット部16(図1)が形成されており、このポケット部16内に、各分割座面20に対応させて油圧式シリンダ装置23が配置されている。このシリンダ装置23のプランジャ(ピストンロッド)23aは、分割座面20の裏面に当接しており、プランジャ23aを押し上げることによって分割座面20は前方の蝶番22を中心に後部が高くなるように傾斜する。またプランジャ23aを引き込むと、引張ばね22の力により各分割座面20が標準着座位置に復帰する。各分割座面20に対応させて設けたシリンダ装置23は、図5に示すように、制御ユニット24に接続されており、制御ユニット24は、各シリンダ装置23の昇降動作を制御する。
【0015】
制御ユニット24は、マニュアル操作手段25に接続されている。マニュアル操作手段25は、同時昇降ボタン(アップダウンスイッチ)26と、6個の個別昇降ボタン(アップダウンスイッチ)27-1ないし27-6を有している。同時昇降ボタン26は、6個のシリンダ装置23(1)から23(6)のプランジャ23aを同時に昇降させるスイッチであり、個別昇降ボタン27-1ないし27-6は、6個のシリンダ装置23(1)から23(6)のプランジャ23aを個別に昇降させるスイッチである。これらのスイッチは、押込位置によって方向を変化させ、押込深さ(強さ)によって速度を変化させる周知のスイッチを用いることができる。復帰ボタン28は、全てのシリンダ装置23を原位置(プランジャ23aが下降端に達する位置)に復帰させるスイッチである。
【0016】
制御ユニット24はまた、異なる起立パターンを選択するパターン選択手段30が接続されている。起立パターンの例を挙げると、起立パターン1は、整列した分割座面20を右から順に徐々に起立させるパターン、起立パターン2は、同左から順に徐々に起立させるパターン、起立パターン3は、中央部の分割座面20を先に起立させ、続いて左右の分割座面20を対称形に起立させるパターンである。起立パターンには、各分割座面20の最大高さ(最大傾斜)を記憶させることもできる。また制御ユニット24は、速度選択手段31を有しており、例えば、標準、低速、高速を選択することができる。また、個別ユーザ記憶手段32は、パターン選択手段30で選択した起立パターンと速度選択手段31で選択した速度とを個々のユーザの個別データとして記憶する。
【0017】
上記構成の本起立補助椅子10は、マニュアルモードで使用するときには、着座者がマニュアル操作手段25の同時昇降ボタン26を操作すれば、6個の分割座面20の傾斜角度を同時に変化させることができる(図3)。また、6個の個別昇降ボタン27-1ないし27-6を操作することで、6個の分割座面20の傾斜角度を個別に制御して、着座者の好む(楽な)姿勢で起立補助を行うことができる(図4、図4ではマットまたはシート17の図示を省略している)。起立補助が終了後は、復帰ボタン28を押して6個の分割座面を全て標準着座位置に戻すことができる。勿論、本起立補助椅子10は、着座前に、6個の分割座面20を任意の位置に起立させておき、その後6個の個別昇降ボタン27-1ないし27-6を操作して6個の分割座面20の徐々に標準着座位置に戻すこともできる。
【0018】
自動モードでは、パターン選択手段30により予め起立パターンを選択し、速度選択手段31により動作速度を選択することができる。個別ユーザ記憶手段32を用いれば、特定人に適した起立パターンと速度で起立補助、着座補助を行うことができる。いずれの制御モードによる分割座面20の動きでも、分割座面20の全体の上に載置したマットまたはシート17が着座者に柔らかい感触を与える。
【0019】
図6及び図7は、本発明による起立補助椅子の第二の実施形態を示している。この実施形態では、分割座面は、平面視で矩形をなす座部基体11の二本の対角線相当線11X、11Yによって、前側三角形状分割座面20A、後側三角形状分割座面20B及び左右の三角形状分割座面20Cの4枚に分割されている。前側三角形状分割座面20Aは、その前縁が座部基体11の前縁に蝶番21Aによって枢着されており、左右の三角形状分割座面20Cはそれぞれ、その前後が、前側三角形状分割座面20Aと後側三角形状分割座面20Bに蝶番21Bと21Cによって枢着されている。
【0020】
前側三角形状分割座面20A、後側三角形状分割座面20B、及び2枚の左右三角形状分割座面20Cの下面にはそれぞれ、第一の実施形態と同様に、シリンダ装置23が位置しており、そのプランジャ23aを上昇させることにより、前側三角形状分割座面20Aないし20Cをそれぞれ上昇させることができる。引張ばね22は、各分割座面に備えられている。この実施形態では、第一の実施形態と異なり、独立して揺動できる座面は存在しない。つまり、前側三角形状分割座面20Aをシリンダ装置23によって蝶番21Aを中心に揺動させると、分割座面20Aに蝶番21Bで結合されている左右の三角形状分割座面20Cも上昇し、左右座面20Cに蝶番21Cで結合されている後側座面20Bも上昇する傾向となる。また、仮に、左右の分割座面20Cの一方を上昇させれば、前側分割座面20Aと後側分割座面20Bも影響を受け、後側分割座面20Bを上昇させれば左右の分割座面20Cも影響を受ける。よって、4個のシリンダ装置23を総合的に制御して、滑らかな座面移動が生じるように制御する。
【0021】
本発明の起立補助椅子は、室内の椅子のみならず、車両の座席としても用いることが可能である。例えば運転席に用いれば運転者をスムーズに乗降させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による起立補助椅子の一実施形態を示す、平面図、正面図、側面図及び背面図である。
【図2】同要部の分解斜視図である。
【図3】同着座状態と起立補助状態を示す斜視図である。
【図4】同別の起立補助状態を示す斜視図である。
【図5】図1ないし図4の起立補助椅子の制御ブロック図である。
【図6】本発明による起立補助椅子の別の実施形態を示す、平面図、正面図及び側面図である。
【図7】同起立補助状態の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0023】
10 起立補助椅子
11 座部基体
12 脚
13 肘掛け部
14 背凭れ部
15 着座入口部
16 ポケット部
16 シート(非分割柔軟材)
20 分割座面(独立揺動座面)
20A 前側三角形状分割座面
20B 後側三角形状分割座面
20C 左右三角形状分割座面
21 21A 21B 21C 蝶番
22 引張ばね
23 油圧式シリンダ装置
23a プランジャ
24 制御ユニット
25 マニュアル操作手段
26 同時昇降ボタン
27 個別昇降ボタン
28 復帰ボタン
30 パターン選択手段
31 速度選択手段
32 個別ユーザ記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座部基体上に位置する座面を複数に分割し、これら複数の分割座面の傾斜及び高さ位置を変化させるアクチュエータを設けたことを特徴とする起立補助椅子。
【請求項2】
請求項1記載の起立補助椅子において、分割座面は、座部基体の前縁に一直線上に位置する枢軸で軸着された互いに平行をなす複数の独立揺動座面からなっており、アクチュエータは各独立揺動座面に対応させて該独立揺動座面の角度を変化させるように設けられている起立補助椅子。
【請求項3】
請求項1記載の起立補助椅子において、分割座面は、平面視で矩形をなす座部基体の二本の対角線相当線によって、前側三角形状分割座面、後側三角形状分割座面及び左右三角形状分割座面の4枚に分割されており、前側三角形状分割座面は、その前縁が座部基体前縁に枢着されており、左右三角形状分割座面はそれぞれ、前側三角形状分割座面と後側三角形状分割座面に枢着されており、アクチュエータは、上記前側三角形状分割座面、後側三角形状分割座面及び左右三角形状分割座面に対応させて設けられている起立補助椅子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の起立補助椅子において、分割座面上には、一連の非分割柔軟材が載置されている起立補助椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−154795(P2008−154795A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347016(P2006−347016)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)