説明

超伝導コイル体

【課題】軽量化、及びコンパクト化を図ることができる超伝導コイル体を提供する。
【解決手段】超伝導コイル体は、超伝導材から形成された線材11と、この線材11を保持した平板状の樹脂製絶縁体12とを有する複数のコイル構成部材10を具備しており、これらコイル構成部材10を連結し、かつ各線材11を巻き方向が一方向になるようにコイル状に連結している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超伝導コイル体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は従来の高温超伝導コイル体を開示している。この高温超伝導コイル体は複数の高温超伝導薄膜線材プレートを積層して形成されている。高温超伝導薄膜線材プレートは、一部が切断されてスリット部を有するレーストラック形状であり、内径側がくり抜かれている。スリット部の端部を次層のプレートの端部に接続してコイルを形成している。高温超伝導コイル体は各高温超伝導薄膜線材プレートの間に絶縁材として絶縁材シートを介在している。
【0003】
高温超伝導薄膜線材プレートは超伝導薄膜線材によって形成されている。超伝導薄膜線材は、金属基板と、この金属基板上に形成された高温超伝導薄膜と、この高温超伝導薄膜上に形成された安定化金属層とを有している。超伝導薄膜線材は、幅広に作製することが可能であるため、打ち抜き、切り出しなどの加工によって、歪みのない高温超伝導薄膜線材プレートを形成することができる。このため、超伝導特性を劣化させずに小さな空間に高い磁場を発生することができる高温超伝導コイル体を作製することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−115635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の高温超伝導コイル体は、各高温超伝導薄膜線材プレートを形成する高温超伝導薄膜線材が金属基板と安定化金属層との間に高温超伝導薄膜を挟み込む構造であるため、厚肉となり、重量が重くなる。また、高温超伝導薄膜線材プレートは、打ち抜き、切り出しなどの加工により作製するため、幅広の電流経路になる。このため、この高温超伝導コイル体は、軽量化、及びコンパクト化を図ることが困難である。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、軽量化、及びコンパクト化を図ることができる超伝導コイル体を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の超伝導コイル体は、超伝導材から形成された線材と、この線材を保持した平板状の樹脂製絶縁体とを有する複数のコイル構成部材を具備しており、
これらコイル構成部材を連結し、かつ各前記線材を巻き方向が一方向になるようにコイル状に連結していることを特徴とする。
【0008】
この超伝導コイル体は、超伝導材から形成された線材を樹脂製絶縁体で保持するため、軽量化を図ることができる。また、超伝導材から形成された線材を樹脂製絶縁体で保持しているため、この線材を歪み難くすることができ、断線を防止することができる。このため、線材を細線化して、超伝導コイル体をコンパクト化しても良好に電流を流すことができる。
【0009】
したがって、本発明の超伝導コイル体は、軽量化、及びコンパクト化を図ることができる。
【0010】
前記線材は、一部が開いた一重の環状に形成した環状部を有しており、この環状部を同心軸上に配置するように複数の前記コイル構成部材を積み重ね得る。この場合、コイル形状を容易に形成することができる。
【0011】
前記線材は長さ方向に直交する断面が層状である部分を含み得る。この場合、形成された層に沿って線材の長さ方向に電流を良好に流すことができる。
【0012】
前記樹脂製絶縁体は、前記線材を載置したフェノール樹脂製の平板と、前記線材を載置した状態で前記平板上に積層して硬化したエポキシ樹脂層とから形成され得る。この場合、フェノール樹脂製の平板、及びエポキシ樹脂層が線材を保持しつつ、かつ、各線材間を絶縁することができる。このため、超伝導コイル体を容易に形成することができるとともに軽量化を図ることができる。また、超伝導性を発現するための低温(液体窒素を使用する場合、77K=−196°C)と、生活温度(およそ300K=27°C)との大きな温度差に対して、超伝導材から形成された線材と熱膨張係数等の特性が適合し、繰り返しの熱履歴にも耐え得るフェノール樹脂及びエポキシ樹脂を採用することによって、温度変化を繰り返しても、超伝導コイル体を良好に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の高温超伝導コイル体を示す斜視図である。
【図2】実施例1の線材を作製する際の熱処理パターンを示すグラフである。
【図3】試験片の線材を示す写真である。
【図4】試験片を示す写真である。
【図5】試験片の温度−低効率の変化を示すグラフである。
【図6】実施例2の高温超伝導コイル体を示す分解斜視図である。
【図7】実施例2の高温超伝導コイル体を示す断面図である。
【図8】実施例3の高温超伝導コイル体を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の超伝導コイル体を具体化した実施例1〜3について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
<実施例1>
実施例1の超伝導コイル体は、図1に示すように、複数のコイル構成部材10を積み重ねて連結している。各コイル構成部材10は、高温超伝導材から形成された線材11と、この線材11を保持した平面視が矩形の平板状に形成した樹脂製絶縁体12とから形成されている。
【0016】
線材11は一部が開いた一重の環状に形成した環状部11Aを有する略C字状に形成されている。また、線材11は環状部11Aの両端部を他の線材11に電気的に連結するための連結端部11Bにしている。この連結端部11Bはコイル構成部材10の側面から突出している。
【0017】
コイル構成部材10は、平面視が矩形状のフェノール樹脂製の平板12A上に線材11を載置し、その上に積層したエポキシ樹脂層12Bが硬化することによって、平板状に形成している。このように、フェノール樹脂製の平板12Aとエポキシ樹脂層12Bとからなる樹脂製絶縁体12で線材11を保持しているため、超伝導コイル体(以下、高温超伝導コイル体という。)は軽量化を図ることができる。また、樹脂製絶縁体12で線材11を保持しているため、線材11が歪み難くすることができ、断線を防止することができる。このため、線材11を細線化して、高温超伝導コイル体をコンパクト化しても良好に電流を流すことができる。
【0018】
高温超伝導コイル体は高温超伝導材から形成された線材11の環状部11Aを同心軸上に配置するように各コイル構成部材10を積層して連結している。この状態で、線材11の連結端部11Bの一方(図1において、右側に突出している連結端部11B)と、下層の線材11の連結端部11Bの他方(図1において、左側に突出している連結端部11B)とを銀製の導線13で連結している。このようにして、各線材11を巻き方向が一方向になるようにコイル状に連結することができる。このため、この高温超伝導コイル体はコイル形状を容易に形成することができる。
【0019】
各線材11は溶液紡糸法を用いて作製した繊維状のDy−Ba−Cu−O(以下、「Dy123」と示す。)超伝導体である。
【0020】
この線材11の作製方法を説明すると、先ず3種類の金属酢酸塩Dy(CH3COO)3・4H2O、Ba(CH3COO)2、Cu(CH3COO)2・H2Oのモル比がDy:Ba:Cu=1.18:2.12:3.09で総量が15gとなるように秤量する。
【0021】
次に、これに、2−ハイドロキシイソ酪酸1.5g、蒸留水約55ml及びプロピオン酸6mlを加えて溶解する。さらに、重合度2450のPVA(ポリビニルアルコール)水溶液(7wt%)55gを加え、均一に混合する。その後、濃縮及び粘度調製により紡糸ドープを作製する。乾式紡糸によって繊維状に加工し、環状部11A及び連結端部11Bに相当する形状に成形して風乾し、超伝導体の前駆体を作製する。
【0022】
次に、有機物を熱分解させるために、この前駆体をプラチナ材で作製した焼成台上に水平に載置して、O2ガス(250ml/min)雰囲気下で900°C、15分の熱処理を行う。さらに、図2に示す熱処理パターンを用いて、酸素濃度を調整した20%O2+Arガス雰囲気(200ml/min)中で溶融温度Tsを系統的に変化させ、部分溶融熱処理を行う。引き続き、500°Cで5時間、340°Cで10時間のO2アニールを行う。
【0023】
コイル構成部材10の特性を確認するために、図3及び図4に示すように、試験片15を作製した。つまり、図3に示すように、U字状の線材16を上述したように溶液紡糸法を用いて作製し、その線材16に電圧測定用の銀製の電極17と、電流測定用の銀製の電極18とを接続した。そして、この線材16をフェノール樹脂製の平板上に載置し、その上からエポキシ樹脂を積層して硬化させ、図4に示すように、試験片15を作製した。
【0024】
この試験片15を利用して、臨界温度Tc、臨界電流Ic、臨界電流密度Jcを測定した結果を図5に示す。コイル構成部材10の線材11に相当する試験片15の線材16は、臨界温度Tcが91.4Kであり、臨界電流Icが0.2A以上、臨界電流密度Jcが0.6×104A/cm2以上であった。このように、この線材16は、液体窒素を利用して冷却すれば超伝導性を発現し、かつ、大電流を流すことができる高温超伝導体である。このため、コイル構成部材10の線材11は細線化することができ、高温超伝導コイル体のコンパクト化を図ることができる。
【0025】
したがって、実施例1の超伝導コイル体は、軽量化、及びコンパクト化を図ることができる。
【0026】
<実施例2>
実施例2の高温超伝導コイル体は、図6及び図7に示すように、コイル構成部材20の樹脂製絶縁体21の構成が実施例1と相違する。他の点は実施例1と同様であり、同一の構成は同一の符号を付し詳細な説明を省略する。
【0027】
この樹脂製絶縁体21は、平面視が矩形状のフェノール樹脂製の平板の上面に線材11が嵌り込む溝部22を形成している。このため、線材11を溝部22に嵌め込んだコイル構成部材20を積み重ねて連結することによって、高温超伝導コイル体を形成することができる。このように、線材11を樹脂製絶縁体21の溝部22に嵌め込んで保持しているため、高温超伝導コイル体を軽量化することができる。また、線材11を樹脂製絶縁体21で保持しているため、線材11が歪み難くすることができ、断線を防止することができる。このため、線材11を細線化して、高温超伝導コイル体をコンパクト化しても良好に電流を流すことができる。
【0028】
したがって、実施例2の超伝導コイル体も、軽量化、及びコンパクト化を図ることができる。
【0029】
<実施例3>
実施例3の高温超伝導コイル体は、図8に示すように、内側が上下に貫通した空洞を有する三角柱状であり、3つのコイル構成部材30を連結して形成している。各コイル構成部材30は、縦長矩形状の平板であり、エポキシ樹脂からなる樹脂製絶縁体32と、この樹脂製絶縁体32内に水平方向に等間隔を空けて配置した高温超伝導材から形成された複数本の直線状の線材31とから形成されている。各線材31は、実施例1及び2と同様、溶液紡糸法を用いて作製した繊維状のDy123超伝導体である。各線材31は、両端部が樹脂製絶縁体の左右側面から突出しており、この両端部を他の線材31に電気的に連結するための連結端部31Aにしている。
【0030】
この高温超伝導コイル体は3つのコイル構成部材30を三角柱の側面を形成するように連結している。この状態で、三角柱の2つのコーナー部Xでは同じ高さで隣り合う連結端部31A同士を銀製の導線33で連結している。三角柱の残りの1つのコーナー部Yでは上下に一段ずれた連結端部31A同士を銀製の導線33で連結している。このようにして、各線材31を巻き方向が一方向になるようにコイル状に連結することができる。このため、この高温超伝導コイル体はコイル形状を容易に形成することができる。
【0031】
この高温超伝導コイル体は、線材31を樹脂製絶縁体32で保持しているため、高温超伝導コイル体を軽量化することができる。また、線材31を樹脂製絶縁体32で保持しているため、線材が歪み難くすることができ、断線を防止することができる。このため、線材31を細線化して、高温超伝導コイル体をコンパクト化しても良好に電流を流すことができる。
【0032】
したがって、実施例3の超伝導コイル体も、軽量化、及びコンパクト化を図ることができる。
【0033】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1及び2では、線材が略C字状であるが、他の形状であってもよい。
(2)実施例1及び2では、樹脂製絶縁体が平面視において矩形の平板であるが、平面視において線材に沿った形状であってもよい。つまり、高温超伝導コイル体は線材の内側を上下方向に貫通するように空洞部を設けてもよい。また、高温超伝導コイル体の外形が円筒状であってもよい。
(3)実施例1では、樹脂製絶縁体をフェノール樹脂製の平板とエポキシ樹脂層で形成したが、樹脂製絶縁体をエポキシ樹脂のみで形成してもよい。
(4)実施例1〜3では、線材を銀製の導線で連結したが、電気伝導率の高い導線であればよい。例えば、金製等の導線を利用してもよい。
(5)実施例1〜3では、線材がDy123超伝導体であったが、Sm元素サイトをRE(RE=rare earth)に置換したRE−Ba−Cu−O超伝導体であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は超伝導マグネット、発電機に利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
10、20、30…コイル構成部材
11、31…線材
11A…環状部
12、21、32…樹脂製絶縁体
12A…(フェノール樹脂製の)平板
12B…エポキシ樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導材から形成された線材と、この線材を保持した平板状の樹脂製絶縁体とを有する複数のコイル構成部材を具備しており、
これらコイル構成部材を連結し、かつ各前記線材を巻き方向が一方向になるようにコイル状に連結していることを特徴とする超伝導コイル体。
【請求項2】
前記線材は、一部が開いた一重の環状に形成した環状部を有しており、この環状部を同心軸上に配置するように複数の前記コイル構成部材を積み重ねていることを特徴とする請求項1記載の超伝導コイル体。
【請求項3】
前記線材は長さ方向に直交する断面が層状である部分を含んでいることを特徴とする請求項1又は2記載の超伝導コイル体。
【請求項4】
前記樹脂製絶縁体は、前記線材を載置したフェノール樹脂製の平板と、前記線材を載置した状態で前記平板上に積層して硬化したエポキシ樹脂層とから形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の超伝導コイル体。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−115287(P2013−115287A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261300(P2011−261300)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(599002043)学校法人 名城大学 (142)