説明

超伝導材料の製造方法

【課題】本発明の技術的課題は、異種結晶(超伝導特性を示さない結晶)の析出量が少なく、短時間の処理でBi系超伝導結晶を析出させ得る超伝導材料の製造方法を創案することである。
【解決手段】本発明の超伝導材料の製造方法は、組成として、モル%表記で、Bi 7〜35%、SrO 25〜65%、CuO 25〜65%を含有する非晶質材料を、Ca含有化合物を含む融液に接触させる工程を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導材料の製造方法に関し、具体的には異種結晶(超伝導特性を示さない結晶)の析出量が少なく、短時間の処理でBi系超伝導結晶を析出させ得る超伝導材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カメリン・オンネスが、水銀により電気抵抗がゼロになる超伝導現象を発見して以来、強磁場を発生させるコイル、ロスの小さな送電線、SQUID等の電子素子等の用途に使用すべく、様々な超伝導材料の研究がなされている。特に、銅酸化物系超伝導材料は、超伝導状態になる温度Tc(臨界温度)が液体窒素の沸点(77K)より高いため、有望視されている。
【0003】
銅酸化物系超伝導材料の中には、イットリウム系(Y系)、ビスマス系(Bi系)、タリウム系(Tl系)、水銀系(Hg系)等がある。その中でも、環境的観点から、Y系とBi系が注目を集めている。
【0004】
更に、Bi系は、BiSrCuO(Bi−2201)、BiSrCaCu(Bi−2212)、BiSrCaCu10(Bi−2223)の3種類に大別される。その中でも、Bi−2212は液体窒素の沸点よりTcが高い。
【0005】
これらの結晶は、図1に示すように、CuO層が平面方向(ab軸方向)に形成されており、CuO層の中間にCaO層、CuO層の外側にSrO層、SrO層の外側にBiO層が形成された層状構造を有している。ここで、CuO層は超伝導層、それ以外の層はブロック層と呼ばれている。このような層状構造であれば、電流はab軸方向に流れ易く、c軸方向には流れ難くなる。そして、各結晶粒のab軸平面が揃っている程、つまりab軸の配向性が良好である程、電流が流れ易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平03−263715号公報
【特許文献2】特開平03−174327号公報
【特許文献3】特開平02−038359号公報
【特許文献4】特開平02−014825号公報
【特許文献5】特開平02−92827号公報
【特許文献6】特開平02−120227号公報
【特許文献7】特開平04−362076号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、Bi系超伝導結晶を配向させる方法として、パウダーインチューブ(PIT)法(例えば、特許文献1参照)、レーザーペデスタル法(例えば、特許文献2参照)、セラミック同士で所定成分を相互拡散させる方法(例えば、特許文献3参照)、電気泳動、CVD、スパッタ等のPVD等により、所定の元素を含む薄膜を形成した後に結晶化する方法(例えば、特許文献4参照)等が検討されてきた。
【0008】
しかし、これらの方法は、手間、時間、及び費用を要する。このため、現段階で実用化が検討されている方法は、PIT法のみである。そして、PIT法は、粉末材料を充填した金属管を機械的に延伸して線状化するため、延伸時にボイドが発生して断線したり、配向性が不十分になり易い。
【0009】
他の方法として、2つ以上の相から成分を拡散させることにより、超伝導材料を作製する方法が検討されている。例えば、特許文献5〜7には、まず一方又は両方の相を焼結させた後、これらをそれぞれ粉砕し、次に得られた結晶粉末同士を接触させた状態で、相互に成分を拡散させることにより、超伝導結晶を析出させる方法が開示されている。
【0010】
しかし、特許文献5〜7に記載の方法は、結晶の析出に時間がかかり過ぎると共に、結晶粉末同士の反応のため、異種結晶(超伝導特性を示さない結晶)が残存し易いという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の技術的課題は、異種結晶(超伝導特性を示さない結晶)の析出量が少なく、短時間の処理でBi系超伝導結晶を析出させ得る超伝導材料の製造方法を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、鋭意検討の結果、Bi−Sr−Cu−O系非晶質材料とCa含有化合物を含む融液とを接触させると、非晶質材料と融液の接触面から、非晶質材料の内部にCaが拡散すると共に、Caが拡散した部分から、配向性が良好なBi系超伝導結晶が析出することを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の超伝導材料の製造方法は、組成として、モル%表記で、Bi 7〜35%、SrO 25〜65%、CuO 25〜65%を含有する非晶質材料を、Ca含有化合物を含む融液に接触させる工程を有することを特徴とする。ここで、「非晶質材料」は、XRDのハロー、ピークの面積比から算出される結晶化度が20%以下、好ましくは10%以下のものを指し、例えば、溶融法、ゾル−ゲル法、薄膜法等の方法で作製可能である。
【0013】
Bi−Sr−Cu−O系非晶質材料とCa含有化合物を含む融液を接触させると、各成分の拡散速度が速くなるため、Bi系超伝導結晶を短時間で効率良く析出させることが可能になると共に、Bi系超伝導結晶の析出状態を均一化し易くなる。具体的には、Bi−Sr−Cu−O系非晶質材料とCa含有化合物を含む融液を接触させると、Ca含有化合物中のCaが、Bi−Sr−Cu−O系非晶質材料中に拡散し易くなる。そして、Bi−Sr−Cu−O系非晶質材料中にCaが拡散すると、Bi系超伝導結晶、特にBi−2212結晶が短時間、且つ効率的に析出すると共に、Bi系超伝導結晶の析出状態を均一化し易くなる。
【0014】
また、本発明の超伝導材料の製造方法によれば、Bi−Sr−Cu−O系非晶質材料からBi、Sr、Cuが拡散する方向、及びCa含有化合物からCaが拡散する方向は、両者の接触面に対して垂直な方向になる。よって、これらの成分が拡散すれば、Bi系超伝導結晶がa−b軸方向に成長するため、Bi系超伝導結晶、特にBi−2212結晶が高度に配向し、結果として、Bi系超伝導材料の特性や製造効率を高めることができる。
【0015】
更に、本発明の超伝導材料の製造方法によれば、Bi系超伝導材料の作製に当って、特殊な装置、操作等が不要になり、Bi系超伝導材料の製造コストを低廉化することが可能になる。
【0016】
第二に、本発明の超伝導材料の製造方法は、非晶質材料中のCaOの含有量が0〜5モル%であることが好ましい。
【0017】
第三に、本発明の超伝導材料の製造方法は、Ca含有化合物がCaClであることが好ましい。
【0018】
第四に、本発明の超伝導材料の製造方法は、融液の温度が700〜900℃であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】Bi系超伝導結晶の構造を示す模式図であり、(a)はBi−2212結晶を示す模式図であり、(b)はBi−2223結晶を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態の一例である実施例1で得られた超伝導結晶の配向状態を示すSEM写真である。
【図3】本発明の実施形態の一例である実施例2の実験手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
最初に、非晶質材料の作製方法を例示する。まずBi、Sr、Cu等を含む原料を所定割合になるように、調合、混合して、原料バッチを作製する。次に、この原料バッチを坩堝に充填した後、この坩堝を700〜900℃に設定した電気炉内に5〜30時間投入して、仮焼きする。続いて、電気炉内を1100〜1300℃に加熱して、均質な溶融ガラスを作製した後、この溶融ガラスを急冷する。このようにして、非晶質材料を得ることができる。なお、ゾル−ゲル法、薄膜法でも、非晶質材料を作製することができる。
【0021】
本発明の超伝導材料の製造方法において、非晶質材料は、溶融法で作製されてなることが好ましい。このようにすれば、非晶質材料の製造コストが低下し、結果として、超伝導材料の製造コストも低下する。
【0022】
本発明の超伝導材料の製造方法において、非晶質材料は、溶融法で作製されてなることが好ましい。このようにすれば、非晶質材料の製造コストが低下し、結果として、超伝導材料の製造コストも低下する。
【0023】
坩堝材質として、アルミナ、石英ガラス等の無機酸化物、白金等の耐熱金属が使用可能である。特に、白金は、熱衝撃や耐食性に優れるため好ましい。
【0024】
本発明の超伝導材料の製造方法において、非晶質材料は、組成として、モル%表記で、Bi 7〜35%、SrO 25〜65%、CuO 25〜65%を含有する。上記のように、非晶質材料の組成を限定した理由を下記に示す。
【0025】
Biは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は7〜35%であり、好ましくは9〜33%、特に10〜30%である。Biの含有量が7%より少ないと、非晶質材料を得ることが困難になると共に、非晶質材料中にCaが拡散する前に、異種結晶が析出し易くなり、結果として超伝導結晶が析出し難くなる。一方、Biの含有量が35%より多いと、融液と接触させる際に、非晶質材料が失透し易くなる。
【0026】
SrOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は25〜65%であり、好ましくは27〜60%、特に30〜55%である。SrOの含有量が25%より少ないと、非晶質材料中にCaを拡散させても、Srの含有量が少な過ぎて、超伝導結晶が析出し難くなる。一方、SrOの含有量が65%より多いと、非晶質材料を得ることが困難になる。
【0027】
CuOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は25〜65%であり、好ましくは27〜60%、特に30〜55%である。CuOの含有量が25%より少ないと、非晶質材料中にCaが拡散する前に、異種結晶が析出し易くなり、結果として、超伝導結晶が析出し難くなる。一方、CuOの含有量が65%より多いと、非晶質材料を得ることが困難になる。
【0028】
Bi+SrO+CuOの含有量は90%以上、特に95%以上が好ましい。このようにすれば、超伝導結晶の配向性を制御し易くなる。ここで、「Bi+SrO+CuO」は、Bi、SrO、及びCuOの合量を指す。
【0029】
任意成分として、例えば、以下の成分を添加してもよい。
【0030】
CaOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は0〜5%、特に0〜3%が好ましい。CaOの含有量が5%より多いと、非晶質材料中にCaが十分に存在した状態になり、この状態で融液に接触させると、無秩序に結晶が析出して、超伝導結晶の配向性を制御し難くなる。
【0031】
Bi+SrO+CuO+CaOの含有量は95%以上、特に97%以上が好ましい。このようにすれば、Bi−2212等のBi系超伝導結晶が析出し易くなる。ここで、「Bi+SrO+CuO+CaO」は、Bi、SrO、CuO、及びCaOの合量を指す。
【0032】
PbOは、超伝導結晶を析出し易くする成分である。特に、Biの一部をPbOに置換すると、その効果が顕著になる。しかし、その置換量が多過ぎると、均質な非晶質材料を得ることが困難になる。よって、モル比PbO/(Bi+PbO)の値は0.2以下、0.15以下、特に0.1以下が好ましい。ここで、「Bi+PbO」は、BiとPbOの合量を指す。
【0033】
LiO、NaO、KOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、CaOの一部をLiO、NaO、KOの何れかに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、その置換量が多過ぎると、非晶質材料が不安定になって、分相し易くなる。よって、モル比(LiO+NaO+KO)/CaOの値は0.3以下、0.1以下、0.05以下、特に0.02以下が好ましい。ここで、「LiO+NaO+KO」はLiO、NaO、及びKOの合量を指す。なお、モル比LiO/CaOの値は0.1以下、0.05以下、特に0.02以下が好ましい。モル比NaO/CaOの値は0.1以下、0.05以下、特に0.02以下が好ましい。モル比KO/CaOの値は0.1以下、0.05以下、特に0.02以下が好ましい。なお、超伝導結晶に酸素欠損を生じさせると、Tcが上昇し易くなる。
【0034】
TiOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、Biの一部をTiOに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、均質な非晶質材料を得ることが困難になる。よって、モル比TiO/Biの値は0.2以下、0.15以下、特に0.1以下が好ましい。
【0035】
SiOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、Biの一部をSiOに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、均質な非晶質材料を得ることが困難になる。よって、モル比SiO/Biの値は0.2以下、0.15以下、特に0.1以下が好ましい。
【0036】
CaOの一部をMgO、BaO、ZnOの何れかに置換することができる。但し、その置換量が多過ぎると、超伝導結晶に置換成分を固溶させることが困難になる。よって、モル比(MgO+BaO+ZnO)/CaOの値は0.5以下、0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。ここで、「MgO+BaO+ZnO」は、MgO、BaO、及びZnOの合量を指す。なお、モル比MgO/CaOの値は0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。モル比BaO/CaOの値は0.1以下、特に0.05以下が好ましい。モル比ZnO/CaOの値は0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。
【0037】
は、非晶質材料の安定性を高める成分であり、その含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。Bの含有量が多過ぎると、所望の超伝導結晶が析出し難くなる。
【0038】
上記成分以外にも、非晶質材料の熱的安定性を高める目的や超伝導結晶を析出し易くする目的のために、他の成分を10%以下、5%以下、特に2%以下の範囲で添加してもよい。
【0039】
本発明の超伝導材料の製造方法において、非晶質材料の形状は、バルク状よりも、フィルム状又は線状であることが好ましい。このようにすれば、非晶質材料中にCaを拡散させ易くなる。
【0040】
フィルム状の場合、フィルム厚は、拡散効率の観点から、小さい方が好ましく、例えば0.7mm以下、0.5mm以下、0.3mm以下、0.2mm以下、特に0.01〜0.1mmが好ましい。
【0041】
線状の場合、Ca含有化合物を含む融液に接触させることにより、超伝導結晶が配向した状態の超伝導線材を作製することができる。また、断面形状は、どのような形状であってもよいが、矩形が好ましく、その場合、厚さ方向の寸法は0.7mm以下、0.5mm以下、0.3mm以下、0.2mm以下、特に0.01〜0.1mmが好ましい。このようにすれば、非晶質材料中にCaを拡散させ易くなる。一方、幅方向の寸法は、特に制限されないが、略一定であることが好ましい。なお、断面のコーナー部は、欠損防止の観点から、面取りされていることが好ましい。
【0042】
本発明の超伝導材料の製造方法において、Ca含有化合物は、CaClが好ましい。CaClは、700〜900℃で融液化するため、非晶質材料と接触させることにより、拡散反応が生じると共に、接触面で超伝導結晶を析出させることが可能になる。更に、Cl以外の異種成分が殆ど残留しないという特徴も有する。
【0043】
本発明の超伝導材料の製造方法において、融液の温度は700〜900℃、750〜850℃、特に780〜830℃が好ましい。融液の温度が低過ぎると、Caの拡散速度が遅くなるため、成分拡散が生じる前に、非晶質材料に異種結晶が析出し易くなる。一方、融液の温度が高過ぎると、接触の際に非晶質材料又は超伝導結晶が溶解し易くなる。なお、熱処理時間は1分〜10時間、特に3分〜3時間が好ましい。
【0044】
非晶質材料と融液を接触させる方法として、バルク状の非晶質材料を融液が入った容器中に浸漬させてもよいが、超伝導材料の製造効率の観点から、融液が入った皿状等の容器中に、線状の非晶質材料を線材の長さ方向に連続的に移動させながら接触させる方法が好ましい。このようにすれば、非晶質材料の内部方向だけでなく、線材の長さ方向にもCaが拡散するため、配向した状態で超伝導結晶が析出し易くなる。
【0045】
本発明の超伝導材料の製造方法では、非晶質材料と融液を接触させる際に、両者の接触面で超伝導結晶を析出させることが可能であるが、超伝導結晶の析出量を増加させたい場合は、非晶質材料と融液の接触後に、別途の熱処理工程を設けて、超伝導結晶を析出させることも可能である。その場合、熱処理温度は、700〜900℃が好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて、本発明を説明する。但し、以下の実施例は、単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0047】
(実施例1)
組成がBi 20モル%、SrO 40モル%、CuO 40モル%になるように、Bi、SrCO、CuOを調合、混合して、非晶質材料用の原料バッチを作製した。次に、この原料バッチをアルミナ坩堝に充填した後、800℃に設定した電気炉内に15時間投入した。続いて、このアルミナ坩堝を1300℃に設定した電気炉内に移し、10分静置した。原料バッチが融液化したことを確認した上で、得られた溶融ガラスをツインローラーに流し出し、フィルム状(厚さ約0.3mm)の非晶質材料を得た。この非晶質材料を乳鉢で粉砕し、XRD測定を行ったところ、結晶ピークは認められず、非晶質(ガラス)であることが確認された。なお、XRDの測定装置として、リガク製RINT2100を用い、電圧40kV、電流40mA、測定範囲2θ=4〜60°、スキャン速度2°/分の条件で測定を行った。
【0048】
次に、得られたフィルム状の非晶質材料を約10×50mm角に折割った後、予めアルミナルツボで融解させたCaCl中に、非晶質材料を浸漬させた。続いて、820℃に設定した電気炉(大気雰囲気)に投入し、1時間後に取り出した後、得られた試料を乳鉢で粉砕して、XRDを測定したところ、Bi−2212結晶が析出しており、Bi−2212結晶以外の結晶が殆ど析出していなかった。なお、XRDの測定装置、測定条件は、上記と同様である。
【0049】
また、得られた試料の折割断面をSEM(HITACHI製S−3400N)で観察したところ、超伝導結晶が良好に配向していることが確認された。そのSEM像を図2に示す。
【0050】
(実施例2)
組成がBi 25モル%、SrO 40モル%、CuO 35モル%になるように、Bi、SrCO、CuOを調合、混合して、原料バッチを作製したこと以外は、実施例1と同様にして、非晶質材料を作製した。なお、得られたフィルム状の非晶質材料を乳鉢で粉砕し、XRD測定を行ったところ、結晶ピークは認められず、非晶質(ガラス)であることが確認された。
【0051】
次に、得られたフィルム状の非晶質材料を幅3mm、長さ200mmの線状に加工した。また、図3に示すように、2本のガイド3を設けたステンレス製バット2内にCaClの融液1を投入した。続いて、図3に示すように、融液1中に線状の非晶質材料4を2本のガイド3の下側を連続的に移動させた。なお、融液1の温度は800℃であった。線状の非晶質材料4が融液1中に滞留する時間は約30分であった。線状の非晶質材料4に移動速度は3mm/分であった。最後に、得られた試料を乳鉢で粉砕して、XRDを測定したところ、Bi−2212結晶が析出しており、Bi−2212結晶以外の結晶が殆ど析出していなかった。なお、XRDの測定装置、測定条件は、上記と同様である。
【0052】
(実施例3)
組成がBi 15モル%、SrO 50モル%、CuO 33モル%、CaO 2モル%になるように、Bi、SrCO、CuO、CaCOを調合、混合して、原料バッチを作製したこと以外は、実施例1と同様にして、非晶質材料を作製した。なお、得られたフィルム状の非晶質材料を乳鉢で粉砕し、XRD測定を行ったところ、結晶ピークは認められず、非晶質(ガラス)であることが確認された。
【0053】
次に、電気炉の設定温度を780℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして実験を行った。得られた試料を乳鉢で粉砕して、XRDを測定したところ、Bi−2212結晶が析出しており、Bi−2212結晶以外の結晶が殆ど析出していなかった。そして、図2に示すように、超伝導結晶が良好に配向していることが確認された。
【0054】
(比較例1)
実施例1と同様にして、非晶質材料用の原料バッチを作製し、この原料バッチをアルミナ坩堝に充填した後、800℃に設定した電気炉内に15時間投入した。得られた焼結体を乳鉢で粉砕し、XRD測定を行ったところ、シャープな結晶ピークが確認された。次に、得られた焼結体の欠片(10mm角程度)をCaClの融液中に820℃で4時間浸漬させた後、得られた試料を乳鉢で粉砕して、XRDを測定したところ、副生成物のXRDピークが残存しており、更に820℃で24時間熱処理しても、副生成物のXRDピークは残存したままであった。なお、XRDの測定装置、測定条件は、上記と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の超伝導材料の製造方法によれば、短時間の処理により超伝導結晶を高度に配向させることが可能である。よって、本発明に係る超伝導材料は、超伝導素子に好適であり、特に送電線、強磁場発生用コイル等の用途に好適である。
【符号の説明】
【0056】
1 融液
2 バット
3 ガイド
4 非晶質材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成として、モル%表記で、Bi 7〜35%、SrO 25〜65%、CuO 25〜65%を含有する非晶質材料を、Ca含有化合物を含む融液に接触させる工程を有することを特徴とする超伝導材料の製造方法。
【請求項2】
非晶質材料中のCaOの含有量が0〜5モル%であることを特徴とする請求項1に記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項3】
Ca含有化合物がCaClであることを特徴とする請求項1又は2に記載の超伝導材料の製造方法。
【請求項4】
融液の温度が700〜900℃であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の超伝導材料の製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−82562(P2013−82562A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221450(P2011−221450)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】