説明

超伝導液面計

【課題】超伝導線材の機械的な脆弱性や熱への脆弱性を補うと共に、液体水素のように液位の検出が困難な低温液体であっても正確に液位を測定することができる超伝導液面計を提供する。
【解決手段】低温液体2に少なくとも一部が接触した状態で収納容器3内に立設する超伝導線材4と、超伝導線材4に電流を供給する電源7と、超伝導線材4の上端部に配設され電源7から供給された電流により熱を発生するヒータ8とを備え、超伝導線材4の両端部に、少なくとも超伝導線材4よりも加工度が大きい導電線を溶着して接続部を形成し、接続部と電源7とが電気的に接続された状態で、接続部を収納容器3内の上部、及び下部に取り付けて超伝導線材4を張設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導線材を用いて低温液体の液面を検出する超伝導液面計に関する。
【背景技術】
【0002】
液体ヘリウム(大気圧下の沸点が約4K)のような超低温液体の液位を計測するため、ニオブ−チタン(NbTi)線材(臨界温度が約9K)を用いた超伝導液面計が一般的に知られている。超伝導液面計の動作原理は、容器内に鉛直に立設された超伝導線材に最適な電流を通電すると、液体中では電気抵抗ゼロの超伝導状態となり、気体中では抵抗がある常伝導状態となり、気体中の長さに比例した電圧値が出力されることで、その値に基づいて液位を算出するものである。
【0003】
近年注目されている液体水素(大気圧下の沸点が約20K)の液面計として、静電容量方式の液面計が一般的に知られている。しかし、水素は密度が小さく、且つ液相と気相との比誘電率の差が非常に小さいため、液位を測定するには再較正が必要となり、作業に手間が掛かってしまうという問題がある。
【0004】
上記問題に関連して、比較的新しい超伝導体である2ホウ化マグネシウム(MgB2)(臨界温度が約39K)を利用した液体水素用の液面計が開示されている(例えば、特許文献1、2を参照)。特許文献1に示す液面測定装置は、液化水素容器、特に自動車用タンクに入った液化水素を対象とする、1つのタンクの内部に二ホウ化マグネシウムMgB2をベースとする1つの超伝導体が垂直に又は垂線に対して斜めに配置されるとともに、前記超伝導体の上側の領域に1つの可制御式熱源が配置されており、さらに前記超伝導体が1つの可制御式電源並びに1つの電圧測定装置に電気的に接触されるとともに、液面測定が電圧測定として構成される、超伝導式液面測定装置である。
【0005】
特許文献2に示す技術は、少なくともその一部が極低温流体中に配置される液面検知部と、液面検知部に電流を供給する電源部と、液面検知部の電気抵抗を測定する抵抗測定部とを有し、液面検知部が二ホウ化マグネシウムから形成されていることを特徴とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−532022号公報
【特許文献2】特開2007−40825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記MgB2線材を含む多数の超伝導線材は、機械的に非常に脆く、少しの曲げや伸縮に対しても断線や損傷等を生じやすく、加工が非常に困難である。また、熱に対しても非常に脆く、外部からの熱や常伝導状態における電流により生じる内部の熱により、断線や損傷等を生じてしまう。
【0008】
上記のような脆弱性を有する超伝導線材により低温液体の液位を測定する場合には、超伝導線材が低温液体を投入した中空の容器の内壁に接触することなく、鉛直に立設された状態を維持する必要があり、また、低温液体の液位や気体の状態に応じて超伝導線材の膨張率が頻繁に変化するため、そのような状態変化に対応できるように、超伝導線材が容器内で支持される必要がある。
【0009】
さらに、超伝導液面計に利用する超伝導線材の場合は、通常の超伝導線と異なり、外部から熱を加えることで部分的に常伝導状態にする必要があると共に、常伝導状態の部分が存在することにより線材に過度の熱が生じてしまう可能性がある。そのため、熱の管理を非常に厳密に行う必要がある。
【0010】
しかしながら、上記特許文献1、2では、超伝導線材の機械的な脆弱性や熱への脆弱性が考慮されておらず、超伝導線材が断線したり損傷を生じる可能性がある。特に、液体水素のように移動体の燃料として利用されるような低温液体の液位を測定する場合には、移動や振動により超伝導線材が湾曲したり、伸縮する可能性が高く、超伝導線材を中空内に立設することは困難となる。
【0011】
そこで、本発明は超伝導線材の機械的な脆弱性や熱への脆弱性を補うと共に、液体水素のように液位の検出が困難な低温液体であっても正確に液位を測定することができる超伝導液面計を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本願に開示する超伝導液面計は、直線状の超伝導線材を用いて収納容器内に収納された低温液体の液位を測定する超伝導液面計において、前記低温液体に少なくとも一部が接触した状態で前記収納容器内に立設する超伝導線材と、当該超伝導線材に電流を供給する電源部と、前記超伝導線材の上端部に配設され前記電源部から供給された電流により熱を発生する発熱部とを備え、前記超伝導線材の両端部に、少なくとも前記超伝導線材よりも加工度が大きい導電線を溶着して接続部を形成し、当該接続部と前記電源部とが電気的に接続された状態で、前記接続部を前記収納容器内の上部、及び下部に取り付けて前記超伝導線材を張設することを特徴とするものである。
【0013】
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、超伝導線材の両端部に、少なくとも超伝導線材よりも加工度が大きい導電線を溶着して接続部を形成し、接続部を収納容器内の上部、及び下部に取り付けて超伝導線材を張設することで、加工度が大きい導電線で形成される接続部により収納容器への取り付けが行われ、超伝導線材自体に対して変形等の加工を行う必要がなく直線状に維持することができ、加工による超伝導線材の断線や損傷を防止することができるという効果を奏する。
【0014】
(2)本願に開示する超伝導液面計は、前記収納容器内の上部に取り付けられる上部接続部が、伸縮性を有するバネ材を介して前記収納容器内に取り付けられることを特徴とするものである。
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、上部接続部が、伸縮性を有するバネ材を介して収納容器内に取り付けられることで、超伝導線材の膨張率の変化による伸縮や、振動等による湾曲をバネ材で吸収し、超伝導線材への負荷を最小限に抑えて断線や損傷を防止することができるという効果を奏する。
【0015】
(3)本願に開示する超伝導液面計は、前記上部接続部と前記バネ材との間にドーナツ状のリング体を備え、当該リング体が前記上部接続部で形成される環状体と連環して、当該上部接続部と前記バネ材とを接続することを特徴とするものである。
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、上部接続部とバネ材との間にドーナツ状のリング体を備え、リング体が上部接続部で形成される環状体と連環して接続していることで、バネ材と上部接続部との接続箇所における変位(例えば、立設された超伝導線材の横方向の変位や周方向の回転変位等)に対しても超伝導線材への負荷が軽減され、断線や損傷を確実に防止することができるという効果を奏する。
【0016】
(4)本願に開示する超伝導液面計は、前記発熱部が、前記収納容器内の上部に取り付けられる接続部の表面に電気抵抗線を巻回して形成されることを特徴とするものである。
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、発熱部が、収納容器内の上部に取り付けられる接続部の表面に電気抵抗線を巻回して形成されることで、超伝導線材に対して外部から直接熱が加わることを防止し、熱による断線や損傷を防止することができるという効果を奏する。
【0017】
(5)本願に開示する超伝導液面計は、前記超伝導線材が、2ホウ化マグネシウム線材、ニオブ3スズ線材、並びにビスマス系、イットリウム系、及び希土類系各酸化物超伝導線材のいずれかであることを特徴とするものである。
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、超伝導線材が、2ホウ化マグネシウム線材、ニオブ3スズ線材、並びにビスマス系、イットリウム系、及び希土類系各酸化物超伝導線材のいずれかであるため、このような機械的に脆弱な超伝導線材であっても断線や損傷を防止することができ、低温液体に適した様々な超伝導線材を用いて液位を測定することができるという効果を奏する。
【0018】
(6)本願に開示する超伝導液面計は、前記超伝導線材が2ホウ化マグネシウム線材であり、2ホウ化マグネシウムがステンレス鋼のみのシース材で被覆されていることを特徴とするものである。
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、超伝導線材が2ホウ化マグネシウム線材であり、2ホウ化マグネシウムが抵抗率の温度依存性が低いステンレス鋼のみのシース材で被覆されているため、特に対流が大きい気体中における温度分布の激しい変化に対して、その影響を最小限に抑え再現性のよい測定を行うことができるという効果を奏する。また、発生電圧と液面位置との1対1対応の線形性(直線性)が良くなって換算し易くなるという効果を奏する。さらに、センサ長を長くすると発生電圧が急増するため長さに限界があるが、その問題を解決することができるという効果を奏する。
【0019】
(7)本願に開示する超伝導液面計は、前記2ホウ化マグネシウム線材の線径が0.1ないし0.2mmであることを特徴とするものである。
このように、本願に開示する超伝導液面計においては、2ホウ化マグネシウム線材の線径が0.1ないし0.2mmであるため、2ホウ化マグネシウム線材の長手方向の密度を均一に加工することができ、正確な液位の測定が可能になるという効果を奏する。また、動作電流を低減させ、発熱による液体水素の余分な蒸発を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る超伝導液面計の全体構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る超伝導液面計の構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る超伝導液面計における超伝導線材の両端部の加工を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る超伝導液面計における接続部を示す図である。
【図5】実施例で使用するMgB2の超伝導線材を示す図である。
【図6】実施例において液体ヘリウムを投入してその液面を測定した結果を示す図である。
【図7】実施例において液体水素を投入してその液面を測定した結果を示す図である。
【図8】超伝導線材の抵抗率の温度依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明は多くの異なる形態で実施可能である。従って、本実施形態の記載内容のみで本発明を解釈すべきではない。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0022】
(本発明の実施形態)
本実施形態に係る超伝導液面計について、図1ないし図4を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る超伝導液面計の全体構成図、図2は、本実施形態に係る超伝導液面計の構成を示す図、図3は、本実施形態に係る超伝導液面計における超伝導線材の両端部の加工を示す図、図4は、本実施形態に係る超伝導液面計における接続部を示す図である。
【0023】
図1において、超伝導液面計1は、液面測定の測定対象となる低温液体2、低温液体2を収納する収納容器3、低温液体2に少なくとも一部が接触した状態で収納容器3内に立設する超伝導線材4、超伝導線材4を外部と電気的に接続するための上下におけるそれぞれの上電極5と下電極6、上電極5と下電極6とに接続し外部から電流を供給する電源7、電源7から供給された電流により発熱し超伝導線材4の上端部から熱を供給するヒータ8、及び超伝導線材4にかかる電圧を測定する電圧計9を備える。
【0024】
超伝導液面計1による低温液体2の液面位置は、電圧計9に出力される電圧値により求めることができる。つまり、低温液体2に浸漬している部分の超伝導線材4は、超伝導状態になっており、低温液体2に浸漬していない部分の超伝導線材4は、常伝導状態になっている。したがって、低温液体2の液面の位置に応じて超伝導線材4全体の抵抗値が変化し、その値を出力することで液面の位置を算出することができる。このとき、ヒータ8により熱を供給することで低温液体2に浸漬していない部分(気体部分)を確実に常伝導状態にしている。
【0025】
本実施形態においては、低温液体2が主に液体水素であり、大気圧下の沸点が約20Kである。また、超伝導線材4は、液体水素中でも超伝導状態に転移するMgB2(臨界温度が約39K)線材を使用する。超伝導線材4は、中心にMgB2を有し、その外側をSUS(ステンレス鋼)/Fe(鉄)シース、又はSUSのみのシースで被覆している。SUSのみのシースを用いた場合には、抵抗率の温度依存性を小さくすることができるため、収納容器3内の気体中の状態変化(温度変化)に対して安定的な抵抗率となり、再現性を良くすることができる。また、発生電圧と液面位置との1対1対応の線形性(直線性)が良くなって換算し易くなることに加え、センサ長を長くすると発生電圧が急増するため長さに限界があるという問題を解決することができる。
なお、図1においてはヒータ8と超伝導線材4に電流を供給する電源を一つの電源7としているが、ヒータ8用の電源と超伝導線材4用の電源とに分けてもよい。
【0026】
図2は超伝導液面計1の構成を示す図である。図2(A)が超伝導液面計1の測定部分の断面図であり、図2(B)が、収納容器3の内部構成図である。図2(A)において、超伝導線材4は内側プラスチックパイプ15内に、当該内側プラスチックパイプ15に接触しないように上下に張設されて保持されている。内側プラスチックパイプ15は、外側ステンレスパイプ16に被覆されて保護されており、外部からの入熱の防止や機械的な強度を保障している。
【0027】
超伝導線材4の両端部には、上電極5、下電極6を介して超伝導線材4に電流を供給するためのリード線が接続されており(接続部分の詳細は図示しない)、それぞれのリード線は外部の電源7に接続される。
なお、ヒータ8用の電源と超伝導線材4用の電源を分ける場合は、ヒータ8用のリード線を備え、同様にヒータ8用の電源に接続するようにしてもよい。
【0028】
図2(B)において、超伝導線材4の両端部には、上電極5と下電極6とが形成されている。上電極5にはヒータ8となる抵抗発熱線が巻回されている。ヒータ8に電流が供給されると、抵抗発熱線からの発熱により超伝導線材4が温められて低温液体2に浸漬していない部分が常伝導状態となる。
【0029】
超伝導線材4の上端部は、上電極5、ドーナツ状のリング体11、及びバネ材12を介して、上部支持体14に支持されている。超伝導線材4の下端部は、下電極6を介して電極金具13に支持されている。それぞれの端部における詳細な構成については図4を用いて後述する。
【0030】
超伝導線材4と上部支持体14との間にバネ材12を介することで、バネの弾性力により超伝導線材4が張設され、超伝導線材4を内側プラスチックパイプ15内の中空領域にその内面と接触することなく支持することができる。また、装置内の温度状態に応じて超伝導線材4が膨張、収縮を繰り返して行うため、上部支持体14と電極金具13に固定されてしまうと、その変位により超伝導線材4に断線、損傷等が生じてしまう。つまり、バネ材12の弾性力が膨張、収縮による超伝導線材4の体積変化を吸収することで、断線、損傷等を防止することができる。
【0031】
また、バネ材12と上電極5との間にリング体11を介することで、超伝導液面計1の横方向の移動に伴う超伝導線材4のブレや振動を和らげると共に、超伝導線材4の捻りをなくして断線、損傷等を防止することができる。
【0032】
図3は、超伝導線材4の両端部の加工を示す図である。MgB2線材は、高い温度で超伝導状態に転移することができるが、従来から超伝導線材として一般的に利用されているNb−Ti合金等に比べて機械的に脆いため、曲げや伸線等を自由に行うことができず、無理な加工を行おうとすると断線、損傷等を生じてしまう。そのため、超伝導線材4の両端部をいかに機械的な加工をせずに収納容器3内の中空領域に支持できるかが非常に重要である。本実施形態においては、超伝導線材4の両端部に機械的な強度が大きく、自由に加工できる銅線を溶着して接続部を形成する。
【0033】
まず、図3(A)に示すように、超伝導線材4の銅コーティング部4a(例えば、長さを10mm程度とする)に、銅線31をオーバーラップさせる。オーバーラップした部分に、銅線31よりも細い銅線31aを巻回して、銅コーティング部4aと銅線31とを密着させる。その状態でオーバーラップ部分に半田付けをして接続部を形成する。そして、図3(B)に示すように、形成された接続部における上電極5となる部分に対してヒータ8の抵抗発熱線を巻回する。ヒータ8を接続部におけるオーバーラップした部分に巻回することで、超伝導線材4がヒータ8の熱を直接受けて損傷してしまうことを防止することができる。
【0034】
このように形成された接続部(上電極5、下電極6を含む銅線部分)に対して伸線、曲げ等の加工を行うことで、超伝導線材4には外部からの力が直接加わることがなく、断線や損傷等を確実に防止することができる。
【0035】
図4は、接続部の加工の具体例を示す図である。図4(A)が上端部における接続部の加工を示し、図4(B)が下端部における接続部の加工を示す。図4(A)においては、上記のように超伝導線材4が、上電極5、リング体11、及びバネ材12を介して上部支持体14に支持されている。
【0036】
接続部の上端部には、半田付けにより環状に形成した環状体41を有しており、この環状体41とリング体11とが連環している。また、バネ材12の下端部にも、半田付け等により環状に形成した環状体42を有しており、この環状体42とリング体11とが連環している。つまり、図4(A)に示すように環状体41と環状体42とがリング体11を介して連環して接続されている。このように接続されることで、超伝導線材4の横方向の移動や捻れを最小限に抑えることができる。
【0037】
図4(B)においては、接続部が電極金具13を下方向に貫通し、電極金具13の底部に沿って略90度に曲折されている。曲折箇所は半田付けにより固定され、余分な箇所はニッパにより切断しておく。つまり、超伝導線材4の上端部はある程度可動自在に支持され、超伝導線材4の下端部は固定されて支持されている。
【0038】
このように、接続部が、銅線のように加工度が大きい材料により形成されているため、環状に変形したり略90度に曲折しても機械的に安定させることができ、超伝導線材4を中空内で安定して立設することができる。また、リング体11を介してバネ材12と連環して接続されているため、横方向や捻れに対しての負荷を最小限に抑えつつ、バネ材12により縦方向の負荷を吸収することができ、超伝導線材4の断線、損傷等を防止することができる。
【0039】
次に、本実施形態に係る超伝導液面計の動作について説明する。収納容器3内に低温液体2が投入され、超伝導線材4の下部における低温液体2に浸漬する部分が、低温液体2の温度(液体水素の場合は約20K)に冷却される。MgB2の臨界温度が39K程度であるため、低温液体2(液体水素)に浸漬している部分は超伝導状態に転移して電気抵抗がゼロ抵抗となる。
【0040】
また、同時にヒータ8に電流を供給しヒータ8を発熱させる。超伝導線材4の上部における低温液体2に浸漬していない部分は、上端部の方向からヒータ8により熱が伝えられて温度が上昇する。つまり、低温液体2に浸漬していない部分は、温度が臨界温度以上となり常伝導状態に転移して抵抗値が発生する。
【0041】
この超伝導線材に所定の電流値を供給し、電圧値(抵抗値)を測定する。得られた抵抗値から超伝導状態部分又は常伝導状態部分の長さを算出して、液面の位置を測定する。
なお、本実施形態に係る超伝導液面計は、主にMgB2線材を超伝導線材4として用いることとしたが、超伝導線材4は、超伝導特性を示す線材であれば何でもよく、例えばNb−Tiのように比較的加工が容易であるものから、ニオブ3スズ線材、並びにビスマス系、イットリウム系、及び希土類系各酸化物超伝導線材等のように加工が困難なものまで適用することができる。
【0042】
また、超伝導線材4の線径は、適宜設計可能であるが、好ましくは0.1ないし0.2mm程度がよい。そうすることで、長手方向に均一な超伝導線材4を形成することができる。
このように、本実施形態に係る超伝導液面計によれば、超伝導線材4の両端部に、少なくとも超伝導線材4よりも加工度が大きい銅線を溶着して接続部を形成し、接続部を収納容器3内の上部、及び下部に取り付けて超伝導線材4を張設することで、加工度が大きい銅線で形成される接続部により収納容器3への取り付けが行われ、超伝導線材4自体を変形等させる必要がなく直線状に維持することができ、変形等による超伝導線材4の断線や損傷を防止することができる。
【0043】
また、超伝導線材4の上端部の接続部が、伸縮性を有するバネ材12を介して収納容器3内に取り付けられることで、超伝導線材4の膨張率の変化による変形や、振動等による湾曲や伸縮をバネ材12で吸収し、超伝導線材4への負荷を最小限に抑えて断線や損傷を防止することができる。
【0044】
さらに、超伝導線材4の上端部の接続部とバネ材12との間にドーナツ状のリング体11を備え、リング体11が上端部の接続部で形成される環状体41と連環していることで、バネ材12と接続部との接続箇所における変位(例えば、超伝導線材4の左右方向の変位や周方向への回転変位等)に対しても超伝導線材4への負荷が軽減され、断線や損傷を確実に防止することができる。
【0045】
さらにまた、ヒータ8が、収納容器3内の上部に取り付けられる接続部の表面に電気抵抗線を巻回して形成されることで、超伝導線材4に対して外部から直接熱が加わることを防止し、熱による断線や損傷を防止することができる。
【0046】
さらにまた、超伝導線材4に、2ホウ化マグネシウム線材、ニオブ3スズ線材、並びにビスマス系、イットリウム系、及び希土類系各酸化物超伝導線材等を適用可能であるため、機械的に脆弱な超伝導線材であっても断線や損傷を防止することができ、低温液体2に適した様々な超伝導線材4を用いて液位を測定することができる。
【0047】
さらにまた、超伝導線材4が2ホウ化マグネシウム線材であり、2ホウ化マグネシウムが抵抗率の温度依存性が低いステンレス鋼のみのシース材で被覆されることで、特に対流が大きい気体中における温度分布の激しい変化に対して、その影響を最小限に抑え再現性のよい測定を行うことができる。また、発生電圧と液面位置との1対1対応の線形性(直線性)が良くなって換算し易くなることに加え、センサ長を長くすると発生電圧が急増するため長さに限界がある問題を解決することができる。
【0048】
さらにまた、2ホウ化マグネシウム線材の線径を0.1ないし0.2mmとすることで、2ホウ化マグネシウム線材の長手方向の密度を均一に加工することができ、正確な液位の測定が可能になる。また、動作電流を低減させ、発熱による液体水素の余分な蒸発を防止することができる。
【実施例】
【0049】
本発明の実施例を以下に説明する。図5は、本実施例で使用するMgB2の超伝導線材を示す図である。図5(A)が超伝導線材の断面図であり、図5(B)が超伝導線材の抵抗率の温度依存性を示すグラフである。本実施例で使用するMgB2線材は、SUS/Feシース内にMgB2を配置した構成となっており、径が0.1mmφ、MgB2コアの断面積が0.0014mm2、シース/コア断面積比が4.69、臨界温度(自己磁場中)が36Kである。
【0050】
(液体ヘリウムでの実験)
図5のMgB2線材を上記実施の形態に示すように中空の容器内に張設し、センサ長を300mmとした超伝導液面計に、液体ヘリウムを投入してその液面を測定した結果を図6に示す。図6において横軸が気体中の長さで、縦軸が発生電圧である。なお、気体中の長さについては従来から使用されているNbTi線材を併設して液位を測定し、その値から算出している。
図6に示すように、1.1Aを通電した場合も1.2Aを通電した場合も、共に液位と電圧とが1対1で対応しており、電圧に応じて正確に液位を測定することができる。
【0051】
(液体水素での実験)
図5のMgB2線材を上記実施の形態に示すように中空の容器内に張設し、センサ長を300mmとした超伝導液面計に、液体水素を投入してその液面を測定した結果を図7に示す。図7において横軸が気体中の長さで、縦軸が発生電圧である。なお、気体中の長さについては、液体水素を一定の速度で投入することで、その液量から算出したものである。
【0052】
図7に示すように、0.6Aを通電した場合も0.7Aを通電した場合も、共に液位と電圧とが1対1で対応しており、電圧に応じて正確に液位を測定することができる。しかし、図7のグラフから回帰曲線を算出すると、気体中の長さが0の場合でも電圧値が0になっていない。これは、MgB2線材に不健全な箇所があり、その部分が超伝導状態に転移することができずに電圧が発生した可能性がある。
【0053】
このように、本発明に係る超伝導液面計は、MgB2線材の機械的な脆弱性や熱への脆弱性の問題を解決し、中空の容器内に張設させて正確な超伝導液面計として機能させることができる。また、線径を0.1ないし0.2mmとすることで、動作電流を低減させ、発熱による液体水素の余分な蒸発を防止し、線材の長手方向への均一性を保つことができる。
【0054】
さらに、図8に示すように線材の抵抗率の温度依存性を小さくすることで、発生電圧と液面位置との1対1対応の線形性(直線性)が良くなって換算し易くなることに加えて、センサ長を長くすると発生電圧が急増するため長さに限界がある問題があるが、その問題を解決することができる。さらにまた、気体中の温度や圧力の条件にあまり影響されず、再現性を良くすることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 超伝導液面計
2 低温液体
3 収納容器
4 超伝導線材
5 上電極
6 下電極
7 電源
8 ヒータ
9 電圧計
11 リング体
12 バネ材
13 電極金具
14 上部支持体
15 内側プラスチックパイプ
16 外側ステンレスパイプ
31 銅線
41,42 環状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状の超伝導線材を用いて収納容器内に収納された低温液体の液位を測定する超伝導液面計において、
前記低温液体に少なくとも一部が接触した状態で前記収納容器内に立設する超伝導線材と、当該超伝導線材に電流を供給する電源部と、前記超伝導線材の上端部に配設され前記電源部から供給された電流により熱を発生する発熱部とを備え、
前記超伝導線材の両端部に、少なくとも前記超伝導線材よりも加工度が大きい導電線を溶着して接続部を形成し、当該接続部と前記電源部とが電気的に接続された状態で、前記接続部を前記収納容器内の上部、及び下部に取り付けて前記超伝導線材を張設することを特徴とする超伝導液面計。
【請求項2】
請求項1に記載の超伝導液面計において、
前記収納容器内の上部に取り付けられる上部接続部が、伸縮性を有するバネ材を介して前記収納容器内に取り付けられることを特徴とする超伝導液面計。
【請求項3】
請求項2に記載の超伝導液面計において、
前記上部接続部と前記バネ材との間にドーナツ状のリング体を備え、当該リング体が前記上部接続部で形成される環状体と連環して、当該上部接続部と前記バネ材とを接続することを特徴とする超伝導液面計。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の超伝導液面計において、
前記発熱部が、前記収納容器内の上部に取り付けられる接続部の表面に電気抵抗線を巻回して形成されることを特徴とする超伝導液面計。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の超伝導液面計において、
前記超伝導線材が、2ホウ化マグネシウム線材、ニオブ3スズ線材、並びにビスマス系、イットリウム系、及び希土類系各酸化物超伝導線材のいずれかであることを特徴とする超伝導液面計。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の超伝導液面計において、
前記超伝導線材が2ホウ化マグネシウム線材であり、2ホウ化マグネシウムがステンレス鋼のみのシース材で被覆されていることを特徴とする超伝導液面計。
【請求項7】
請求項6に記載の超伝導液面計において、
前記2ホウ化マグネシウム線材の線径が0.1ないし0.2mmであることを特徴とする超伝導液面計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−214951(P2011−214951A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82419(P2010−82419)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(397036457)株式会社ジェック東理社 (4)
【Fターム(参考)】