説明

超伝導結晶粉末の製造方法及び超伝導線材の製造方法

【課題】本発明は、Bi−2212結晶粉末等を短時間、且つ容易に作製可能な方法を創案すると共に、Bi−2212結晶等の配向性が良好な超伝導線材を短時間、且つ容易に作製可能な方法を創案することを技術的課題とする。
【解決手段】本発明の超伝導結晶粉末の製造方法は、組成として、モル%濃度で、Bi 10〜30%、SrO 20〜50%、CaO 5〜30%、CuO 20〜50%を含有する非晶質体を用意する工程と、非晶質体を熱処理して、超伝導結晶物を得る工程と、超伝導結晶物から超伝導結晶粉末を採取する工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導結晶粉末の製造方法及び超伝導線材の製造方法に関し、特にBi−2212単結晶粉末の製造方法及びBi−2212単結晶が長さ方向に配向した超伝導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導材料は、臨界温度(Tc)よりも低い温度で電気抵抗がゼロになる材料であり、送電ロスの小さい送電線、強磁場を発生させるコイル等への応用が検討されている。これらの用途には超伝導材料の線材化が不可欠である。
【0003】
現在、NbSnやNbTi等の合金系の超伝導材料が、強磁場を発生させるコイル等として実用化されている。しかし、この超伝導材料は、臨界温度が20K程度であるため、高価な冷媒である液体ヘリウムを用いる必要があり、ランニングコストの高騰を招来させるという課題を有している。
【0004】
一方、銅酸化物系の超伝導材料は、臨界温度が液体窒素の沸点(77K)より高いため、ランニングコストを低廉化し得るが、セラミックスであるため、金属のように圧延したり、非晶質体や樹脂のように軟化させて繊維化することが困難である。また、銅酸化物系の超伝導材料は、銅酸化物の面方向しか超伝導を示さない。よって、大きな電流を流すためには銅酸化物の結晶を配向させる必要がある。
【0005】
銅酸化物の結晶を配向させる方法としては、各種の方法が提案されている。例えば、特許文献1には、金属等の線材の上に蒸着等により銅酸化物の薄膜を形成する方法が開示されている。特許文献2には、金属の筒(シース)の中に銅酸化物を入れて圧延し、線材化する方法が開示されている。特許文献3には、Bi−Sr−Ca−Cu−O系の非晶質体にAlを添加、或いは酸素濃度を制御しながら熱処理することにより、Bi−2212結晶(BiSrCaCu結晶、但しxは任意の自然数)のウィスカを作製し、このウィスカをヘキサン等の有機溶媒に懸濁させた後、濾取して、Bi−2212結晶を配向する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2008−532230号公報
【特許文献2】特開平5−159645号公報
【特許文献3】特開平10−001313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2に記載の方法は、長時間を要し、巨大な設備を必要とするため、超伝導線材の低廉化が困難である。また、特許文献3に記載の方法は、ウィスカが1時間当たりせいぜい数百μmしか成長しないため、長時間を要し、ウィスカの生成本数も限られるため、線材化に膨大な時間と労力を必要とする。
【0008】
そこで、本発明の技術的課題は、Bi−2212結晶粉末等を短時間、且つ容易に作製可能な方法を創案すると共に、Bi−2212結晶等の配向性が良好な超伝導線材を短時間、且つ容易に作製可能な方法を創案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記技術的課題に対して鋭意検討した結果、Bi−Sr−Ca−Cu−O系非晶質体は熱処理による結晶析出速度が非常に速いこと、非晶質体を結晶化すると、表面に対して垂直方向に結晶が析出すること、析出結晶物(超伝導結晶物)から容易に単結晶粉末を採取し得ること等を見出し、本発明として提案するものである。すなわち、本発明の超伝導結晶粉末の製造方法は、組成として、モル%濃度で、Bi 10〜30%、SrO 20〜50%、CaO 10〜30%、CuO 20〜50%を含有する非晶質体を用意する工程と、非晶質体を熱処理して、超伝導結晶物を得る工程と、超伝導結晶物から超伝導結晶粉末を採取する工程とを含むことを特徴とする。ここで、「非晶質体」は、XRDのハロー、ピークの面積比から算出される結晶化度が20%以下、好ましくは10%以下のものを指す。
【0010】
第二に、本発明の超伝導結晶粉末の製造方法は、超伝導結晶粉末が実質的に単結晶であることが好ましい。ここで、「実質的に単結晶」とは、単結晶に不純物が付着した場合等を含む趣旨であり、例えば鱗片状の単結晶の表面に結晶や非晶質体の小片等が付着した場合等を含む趣旨である。
【0011】
第三に、本発明の超伝導結晶粉末の製造方法は、超伝導結晶粉末の主結晶がBi−2212結晶であることが好ましい。ここで、「主結晶」とは、XRDによる結晶ピークから算出される結晶量が80%以上の結晶を指す。
【0012】
第四に、本発明の超伝導結晶粉末の製造方法は、熱処理の温度が700〜900℃であることが好ましい。
【0013】
第五に、本発明の超伝導結晶粉末の製造方法は、超伝導結晶粉末を粘着シートにより採取することが好ましい。
【0014】
第六に、本発明の超伝導線材の製造方法は、上記の超伝導結晶粉末の製造方法により超伝導結晶粉末を得る工程と、超伝導結晶粉末を溶媒に懸濁させる工程と、溶媒に懸濁させた超伝導結晶粉末を濾材で濾取する工程と、濾材を切断して、超伝導線材を得る工程とを含むことを特徴とする。
【0015】
第七に、本発明の超伝導線材の製造方法は、上記の超伝導結晶粉末の製造方法により超伝導結晶粉末を得る工程と、超伝導結晶粉末を溶媒に懸濁させる工程と、溶媒に懸濁させた超伝導結晶粉末を濾材で濾取する工程と、濾材で濾取した超伝導結晶粉末を線材に付着させて、超伝導線材を得る工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
第八に、本発明の超伝導線材の製造方法は、溶媒が有機溶媒であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の超伝導結晶粉末の製造方法によれば、短時間(例えば1時間以内)で超伝導結晶(特にBi−2212結晶)のみを析出させることが可能であり、図1に示すように、超伝導結晶物に鱗片状の超伝導結晶を表面に向かって垂直方向に多数析出させることが可能である。この鱗片状の結晶は、ピンセット等で引っ掻くことにより、容易に折り割り可能である。このため、鱗片状の単結晶の超伝導結晶粉末(特に単結晶のBi−2212結晶粉末)を容易に採取することができる。なお、熱処理により、結晶物の原料から超伝導結晶を直接作製する方法(固相反応法)では、このような超伝導結晶を短時間で採取することは困難である。
【0018】
この超伝導結晶粉末は、数μmの鱗片状であるため、溶媒に懸濁させた後に、濾材により超伝導結晶粉末を濾取すると、濾材の表面に沿って、鱗片状の結晶が配向し易く、結果として濾材の表面に沿って、銅酸化物の超伝導層が形成されて、その方向に電流を流し易くなる。そして、線状の濾材を用いると、長さ方向に超伝導層が配向した超伝導線材を容易に得ることができる。また、帯状の濾材を線状に切断する場合でも、長さ方向に超伝導層が配向した超伝導線材を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】超伝導結晶物の表面から析出した超伝導結晶(Bi−2212結晶)のSEM写真である。
【図2】本発明に係る超伝導結晶粉末の一例を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の超伝導結晶粉末の製造方法において、組成として、モル%濃度で、Bi 10〜30%、SrO 20〜50%、CaO 5〜30%、CuO 20〜50%を含有する非晶質体を用いる。上記のように非晶質体の組成を限定した理由を下記に示す。
【0021】
Biは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は10〜30%、好ましくは12〜28%、より好ましくは13〜25%である。Biの含有量が10%より少ないと、非晶質化し難くなると共に、非晶質体中に超伝導結晶を析出させる際に、超伝導結晶以外の異種の結晶が析出し易くなる。一方、Biの含有量が30%より多いと、非晶質化し難くなる。
【0022】
SrOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は20〜50%、好ましくは22〜47%、より好ましくは23〜45%である。SrOの含有量が20%より少ないと、非晶質体中に超伝導結晶を析出させる際に、超伝導結晶以外の異種の結晶が析出し易くなる。一方、SrOの含有量が50%より多いと、非晶質化し難くなる。
【0023】
CaOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は5〜30%、好ましくは7〜25%、より好ましくは8〜20%である。CaOの含有量が5%より少ないと、非晶質体中に超伝導結晶を析出させる際に、超伝導結晶以外の異種の結晶が析出し易くなる。一方、CaOの含有量が30%より多いと、非晶質化し難くなる。
【0024】
CuOは、超伝導結晶を形成する成分であり、その含有量は20〜50%、好ましくは22〜48%である。CuOの含有量が20%より少ないと、熱処理しても、Bi系超伝導結晶が析出し難くなる。一方、CuOの含有量が50%より多いと、非晶質化し難くなる。
【0025】
Bi+SrO+CaO+CuOの含有量は95%以上、特に97%以上が好ましい。このようにすれば、熱処理により、超伝導結晶が析出し易くなる。ここで、「Bi+SrO+CaO+CuO」は、Bi、SrO、CaO、及びCuOの合量を指す。
【0026】
必要に応じて、以下の成分を添加してもよい。
【0027】
PbOは、超伝導結晶の臨界温度を上昇させる成分である。特に、Biの一部をPbOに置換すると、超伝導結晶の臨界温度が上昇する傾向がある。しかし、置換量が多過ぎると、均質な非晶質を作製し難くなる。よって、モル比PbO/(Bi+PbO)の値は0.2以下、0.15以下、特に0.005〜0.1が好ましい。ここで、「Bi+PbO」は、BiとPbOの合量を指す。
【0028】
TiOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、Biの一部をTiOに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、均質な非晶質体を作製し難くなる。よって、モル比TiO/Biの値は0.2以下、0.15以下、特に0.005〜0.1が好ましい。
【0029】
SiOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、Biの一部をSiOに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、均質な非晶質を作製し難くなる。よって、モル比SiO/Biの値は0.2以下、0.15以下、特に0.1以下が好ましい。
【0030】
LiO、NaO、KOは、超伝導結晶に酸素欠陥を生じさせる成分である。特に、SrO又はCaOの一部をLiO、NaO、KOの何れかに置換すると、超伝導結晶に酸素欠陥が生成し易くなる。しかし、置換量が多過ぎると、非晶質体が不安定になって、溶融時に非晶質体が分相し易くなる。よって、モル比(LiO+NaO+KO)/(SrO+CaO)の値は0.3以下、0.1以下、0.05以下、特に0.0005〜0.02が好ましい。ここで、「LiO+NaO+KO」はLiO、NaO、及びKOの合量を指し、「SrO+CaO」はSrOとCaOの合量を指す。なお、モル比LiO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、0.05以下、特に00005〜0.02が好ましい。モル比NaO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、0.05以下、特に0.02以下が好ましい。モル比KO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、0.05以下、特に0.02以下が好ましい。
【0031】
SrO又はCaOの一部をMgO、BaO、ZnOの何れかに置換することができる。但し、置換量が多過ぎると、超伝導結晶に置換成分を固溶させることが困難になる。よって、モル比(MgO+BaO+ZnO)/(SrO+CaO)の値は0.5以下、0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。ここで、「MgO+BaO+ZnO」は、MgO、BaO、及びZnOの合量を指す。なお、モル比MgO/(SrO+CaO)の値は0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。モル比BaO/(SrO+CaO)の値は0.1以下、特に0.05以下が好ましい。モル比ZnO/(SrO+CaO)の値は0.3以下、0.1以下、特に0.05以下が好ましい。
【0032】
は、非晶質体の安定性を高める成分であり、その含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。Bの含有量が多過ぎると、所望の超伝導結晶が析出し難くなる。
【0033】
上記成分以外にも、非晶質体の熱的安定性を高める目的や超伝導結晶を析出し易くする目的のために、他の成分を10%以下、5%以下、特に2%以下の範囲で添加してもよい。
【0034】
上記の非晶質体は、溶融法等で作製可能である。溶融法で非晶質体を作製する場合、種々の方法で任意の形状に成形可能である。しかし、非晶質体の厚さが数mm(例えば3mm)より大きくなると、内部を冷却し難くなるため、内部が失透し易くなり、結果として、非晶質体を作製し難くなる。よって、成形方法として、ツインロール等でフィルム形状(例えば3mm以下)に成形することが好ましい。このようにすれば、急冷により非晶質化し易くなると共に、表面積が大きくなるため、鱗片状の結晶が析出し易くなる。
【0035】
本発明の超伝導結晶粉末の製造方法において、非晶質体を700〜900℃で熱処理することが好ましい。このようにすれば、Bi−2212結晶が析出し易くなり、また表面から鱗片状に析出し易くなる。
【0036】
鱗片状の結晶をピンセット等で擦ることにより、超伝導結晶粉末を採取してもよいが、粘着シート(例えば粘着テープ)を超伝導結晶物の表面に貼り付けた後、粘着シートを剥がし、超伝導結晶粉末を採取することが好ましい。このようにすれば、単結晶の超伝導結晶粉末を採取し易くなる。なお、乳鉢等で超伝導結晶物を物理的に粉砕すると、多結晶体の超伝導結晶粉末が得られ易くなる。
【0037】
本発明の超伝導線材の製造方法は、上記超伝導結晶粉末を溶媒に懸濁させる工程と、溶媒に懸濁させた超伝導結晶粉末を濾材で濾取する工程と、濾材を切断して、超伝導線材を得る工程、或いは濾材で濾取した超伝導結晶粉末を線材に付着させて、超伝導線材を得る工程とを含むことを特徴とする。
【0038】
超伝導結晶粉末を溶媒に懸濁させる溶媒は、Bi−2212結晶等の超伝導結晶を腐食させないものであれば、概ね使用可能である。特に、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等)、炭化水素(ヘキサン、石油エーテル、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等)、エーテル(ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル等)、エステル(酢酸エチル、酢酸メチル等)、ケトン(アセトン、エチルメチルケトン等)の有機溶媒が、揮発性が高いため、好ましい。更に、溶媒に対して、分散性を高めるために界面活性剤を添加してもよく、濾取後に超伝導結晶粉末同士の接着性を高めるために接着剤等を添加してもよい。
【0039】
超伝導結晶粉末を濾材で濾取する前に、超伝導結晶粉末の構成成分を含む溶液により、超伝導結晶粉末を表面処理することが好ましい。このようにすれば、焼き固める際に、超伝導結晶が成長して、超伝導結晶粉末間の空隙が小さくなり易いと共に、超伝導結晶粉末同士の接着性が向上し易くなる。
【0040】
溶媒に懸濁させた超伝導結晶粉末(例えばBi−2212単結晶粉末)を濾材で濾取すると、濾材の表面に沿ってBi−2212結晶を配向させることが可能になる。濾材として、紙、金属メッシュ、メンブランフィルター等が使用可能である。
【0041】
超伝導結晶粉末を濾材で濾取した後、再度、熱処理して超伝導結晶粉末同士を焼き固めてもよいし、樹脂でコートして超伝導結晶粉末を固定してもよい。
【0042】
濾材として、線材になる大きさの濾材を使用してもよく、帯状の濾材を使用してもよい。
【0043】
帯状の濾材をレーザースクライブや機械的スクライブにより切断すれば、超伝導線材を得ることができる。また、濾材で濾取した超伝導結晶粉末を例えばテープ線材等の線材に接着させたり、2本以上の線材で濾材を挟み込むことにより、超伝導線材を作製することもできる。線材の材質は、ガラスやプラスチック等の非導電性の線材でもよいが、金属、特に電気伝導性が高い銀が好ましい。なお、線材の材質として金属を用いると、超伝導部分が断線した場合にバイパスとして作用することができる。
【0044】
得られた超伝導線材の表面をテープで被覆してもよく、樹脂等でコートしてもよい。このようにすれば、超伝導線材の強度を高めることができる。
【実施例】
【0045】
実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0046】
〔実施例1〕
組成として、モル%濃度で、Bi 16.7%、SrO 33.3%、CaO 16.7%、CuO 33.3%になるように原料を調合し、ライカイ器で混合粉砕した後、アルミナルツボに投入して、800℃で3時間仮焼きした。
【0047】
続いて、1250℃で30分間溶融した後、得られた融液をツインロールで急冷して、厚さ約0.3mmのフィルムを得た。なお、このフィルムを乳鉢で粉砕して、XRDを測定したところ、非晶質であることが確認された。
【0048】
次に、フィルム状の非晶質体を830℃に設定した電気炉に30分間投入して、熱処理した後、室温で放冷した。得られた試料の一部を乳鉢で粉砕して、XRDを測定したところ、Bi−2212結晶が析出していることが確認された。
【0049】
得られたBi−2212結晶物の表面にスコッチテープを貼り付けた後、スコッチテープの上からピンセットで擦り、スコッチテープテープを剥がして、Bi−2212結晶物の表面からBi−2212単結晶粉末を採取した。なお、採取した結晶粉末をSEM観察したところ、鱗片状の単結晶であることが確認された(図2参照)。
【0050】
次に、得られたBi−2212単結晶粉末0.1gを20mLのエタノールに懸濁させた後、濾紙でBi−2212単結晶粉末を濾取し、50℃で1時間乾燥した。その後、濾紙を1mm幅に切断することにより、長さ方向にBi−2212単結晶が配向した超伝導線材を作製した。
【0051】
〔実施例2〕
〔実施例1〕により超伝導線材を幅2mm、厚さ0.1mmの銀のテープ線材2本で挟み、その周囲をビニールテープで被覆した。
【0052】
〔実施例3〕
組成として、モル%濃度で、Bi 12.5%、SrO 25.0%、CaO 25.0%、CuO 37.5%になるように原料を調合した以外は、〔実施例1〕と同様にして、フィルム状の非晶質体を作製した。次に、この非晶質体を830℃に設定した電気炉に30分間投入して、熱処理した後、室温になるまで放冷した。なお、得られた試料の一部を乳鉢で粉砕して、XRDを測定したところ、Bi−2212結晶が析出していることが確認された。
【0053】
得られたBi−2212結晶物の表面をピンセットで擦って、Bi−2212単結晶粉末を採取した。なお、採取した結晶粉末をSEM観察したところ、鱗片状の単結晶であることが確認された。次に、得られたBi−2212単結晶粉末0.2gを30mLのジエチルエーテルに懸濁させた後、樹脂製のメンブランフィルターでBi−2212単結晶粉末を濾取し、50℃で1時間乾燥した。続いて、メンブランフィルターを1mm幅に切断し、幅2mm、厚さ0.1mmの銀のテープ線材の上に載せた状態で、600℃に設定した電気炉に30分間投入して、メンブランフィルターを焼却すると共に、Bi−2212単結晶粉末を焼き固めた後、室温になるまで放冷した。最後に、得られた超伝導線材をエポキシ樹脂で結束すると共に、テープ線材に固定した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の超伝導結晶粉末の製造方法によれば、高純度のBi−2212単結晶粉末を短時間、且つ容易に作製可能である。また、本発明の超伝導線材の製造方法によれば、長さ方向に配向した超伝導線材を容易、且つ安価に作製可能である。よって、得られた超伝導線材は、送電ケーブルや強磁場発生用コイル等に好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成として、モル%濃度で、Bi 10〜30%、SrO 20〜50%、CaO 5〜30%、CuO 20〜50%を含有する非晶質体を用意する工程と、
前記非晶質体を熱処理して、超伝導結晶物を得る工程と、
前記超伝導結晶物から超伝導結晶粉末を採取する工程とを含むことを特徴とする超伝導結晶粉末の製造方法。
【請求項2】
前記超伝導結晶粉末が実質的に単結晶であることを特徴とする請求項1に記載の超伝導結晶粉末の製造方法。
【請求項3】
前記超伝導結晶粉末の主結晶がBi−2212結晶であることを特徴とする請求項1又は2に記載の超伝導結晶粉末の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理の温度が700〜900℃であることを特徴とする請求項1に記載の超伝導結晶粉末の製造方法。
【請求項5】
前記超伝導結晶粉末を粘着シートにより採取することを特徴とする請求項1に記載の超伝導結晶粉末の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の超伝導結晶粉末の製造方法により超伝導結晶粉末を得る工程と、
前記超伝導結晶粉末を溶媒に懸濁させる工程と、
前記溶媒に懸濁させた超伝導粉末を濾材で濾取する工程と、
前記濾材を切断して、超伝導線材を得る工程とを含むことを特徴とする超伝導線材の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか一項に記載の超伝導結晶粉末の製造方法により超伝導結晶粉末を得る工程と、
前記超伝導結晶粉末を溶媒に懸濁させる工程と、
前記溶媒に懸濁させた超伝導粉末を濾材で濾取する工程と、
前記濾材で濾取した超伝導結晶粉末を線材に付着させて、超伝導線材を得る工程とを含むことを特徴とする超伝導線材の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒が有機溶媒であることを特徴とする請求項6又は7に記載の超伝導線材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−12438(P2013−12438A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145678(P2011−145678)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】