説明

超伝導線材用被覆材、超伝導電線及び電気機器

【課題】超伝導線材が極低温環境下に配されたとき、その絶縁性の低下を抑制可能な超伝導線材用被覆材、これを備えた超伝導電線及び電気機器を提供する。
【解決手段】超伝導線材を被覆するための被覆材であって、25℃における引張弾性率が6.0GPa以下であることを特徴とする超伝導線材用被覆材10。超伝導線材用被覆材は、表面11aと表面11aと反対側の裏面11bとを有する基材11と、基材11の表面11a上に形成された粘弾性体層12とを備えている。なお、基材11と粘弾性体層12との間には、別の層がさらに形成されていてもよい。また、粘弾性体層12の表面12a上に、表面12aを保護するための剥離ライナー(図示せず)が形成されていてもよい。また、基材11の裏面11bには、粘弾性体層12は形成されていないことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導線材用被覆材、超伝導電線及び電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気機器に使用される回転機器、磁石等のコイル機器には、平角線材を絶縁性の被覆材で被覆した平角電線が用いられている。
【0003】
この種の絶縁性の被覆材としては、例えば、室温での引張弾性率や伸びが所定値以上であるポリイミド基材の一面に粘着層が積層されてなる粘着テープが開示されている(特許文献1参照)。かかる被覆材によれば、製造中の切断の抑制と粘着性とを維持することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4258895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、超伝導線材は、液体窒素温度での使用が可能であり、比較的高い臨界電流密度が得られ、長尺化が可能なまでに開発が進んでいる。このため、超伝導線材を電気機器に用いることが期待されている。
【0006】
しかし、上記特許文献1に示すような被覆材を螺旋状に巻回することにより超伝導線材を被覆して超伝導電線を作製し、この超伝導電線を用いてさらに電気機器を作製し、作製された電気機器を液体窒素温度下に配したとき、超伝導電線の絶縁性が低下する場合がある。そして、このように絶縁性が低下すると、電気機器の動作不良等を招くことになる。特に、例えばコイル等の電気機器を作製するために用いる場合等において超伝導電線を屈曲させた場合には、該超伝導電線の絶縁性が一層低下し易くなる。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、超伝導線材が極低温環境下に配されたとき、その絶縁性の低下を抑制可能な超伝導線材用被覆材、これを備えた超伝導電線及び電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、液体窒素温度のような極低温下における超伝導線材及び被覆材の特性に着目して鋭意研究した結果、超伝導線材は液体窒素温度領域において収縮し易く、この収縮に超伝導線材用被覆材が追従できないことから巻きズレが生じ、かかる巻きズレが絶縁性の低下に大きな影響を及ぼすことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明に係る超伝導線材用被覆材は、超伝導線材を被覆するための被覆材であって、25℃における引張弾性率が6.0GPa以下であることを特徴とする。
【0010】
このように、25℃での引張弾性率が上記範囲であることにより、超伝導線材用被覆材が、室温領域から液体窒素温度領域への環境温度変化によって超伝導線材よりも大きく収縮することが可能となる。これにより、超伝導線材に対する巻き締まり作用を発揮することができるため、巻きズレを防止することができる。従って、超伝導線材が極低温環境下に配されたとき、その絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る超伝導線材用被覆材は、20℃〜−150℃における線膨張係数が10×10-6/℃以上であることが好ましい。
【0012】
このように、超伝導線材用被覆材の20℃〜−150℃における線膨張係数が上記範囲であることにより、液体窒素温度領域において、より大きく収縮することが可能となるため、超伝導線材に対する巻き締まり作用をより発揮し得る。
【0013】
上記超伝導線材用被覆材において好ましくは、基材と、該基材の一面側に形成された粘弾性体層とを備えており、前記基材は、ポリイミド樹脂を含有する。
【0014】
ポリイミド樹脂は、耐熱性を有すると共に、不燃性材料であることから、電気機器に使用する絶縁材料として優れた難燃性を有するため、ポリイミド樹脂を含有する基材を備えていることにより、超伝導線材用被覆材に難燃性を付与することが可能となる。また、粘弾性体層を備えていることにより、超伝導線材用被覆材で超伝導線材を被覆する際、超伝導線材用被覆材と超伝導線材との間、及び超伝導線材用被覆材同士の間の密着性を高めることができるため、超伝導線材に対する巻き締まり作用をより発揮し得る。
【0015】
上記超伝導線材用被覆材において好ましくは、前記粘弾性体層は、シリコーン系粘弾性体組成物を含有する。
【0016】
シリコーン系粘弾性体組成物は、耐寒性、耐放射性、耐熱性及び耐腐食性に優れるため、粘弾性体層の特性を向上できる。
【0017】
本発明の超伝導電線は、上記超伝導線材用被覆材と、該超伝導線材用被覆材で被覆された超伝導線材とを備えていることを特徴とする。
【0018】
本発明の超伝導電線によれば、25℃における引張弾性率が上記範囲である超伝導線材用被覆材を備えているため、超伝導電線を電気機器に用い、液体窒素温度下で動作させたときに、超伝導電線の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0019】
本発明の電気機器は、上記超伝導電線を用いて作製されていることを特徴とする。
【0020】
本発明の電機機器によれば、液体窒素温度で動作させたときに、絶縁性の低下が抑制された超伝導電線を備えているため、かかる絶縁性の低下に起因する動作不良等を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、超伝導線材が極低温環境下に配されたとき、その絶縁性の低下を抑制可能な超伝導線材用被覆材、これを備えた超伝導電線及び電気機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態における超伝導線材用被覆材を概略的に示す側面図である。
【図2】本発明の第1実施形態における超伝導線材用被覆材を概略的に示す断面図であり、図1における領域IIの拡大断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態における超伝導電線を概略的に示す斜視図である。
【図4】本発明の第2実施形態における超伝導電線を概略的に示す平面図である。
【図5】本発明の第2実施形態における超伝導電線を概略的に示す、図3及び図4におけるV−V線に沿った断面図である。
【図6】本発明の第3実施形態における電気機器の一例である超伝導コイルを概略的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0024】
(第1実施形態)
図1及び図2を参照して、本発明の第1実施形態における超伝導線材用被覆材について説明する。図1及び図2に示すように、本発明の第1実施形態における超伝導線材用被覆材10は、超伝導線材を被覆するための被覆材である。
【0025】
図1に示すように、本実施形態における超伝導線材用被覆材10は、テープ状であり、例えば巻芯20にロール状に巻回されている。なお、超伝導線材用被覆材10は、テープ状に限定されず、シート状、フィルム状などの他の形状であってもよい。
【0026】
図2に示すように、超伝導線材用被覆材10は、表面11aと表面11aと反対側の裏面11bとを有する基材11と、基材11の表面11a上に形成された粘弾性体層12とを備えている。なお、基材11と粘弾性体層12との間には、別の層がさらに形成されていてもよい。また、粘弾性体層12の表面12a上に、表面12aを保護するための剥離ライナー(図示せず)が形成されていてもよい。また、基材11の裏面11bには、粘弾性体層12は形成されていないことが好ましい。
【0027】
基材11は、絶縁性を有していれば特に限定されないが、耐放射性及び耐熱性を有していることが好ましい。このような基材11として、例えばポリイミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの樹脂のうち、特にポリイミド樹脂を基材11として用いることが好ましい。ポリイミド樹脂は、耐熱性と共に、不燃性材料であるので、電気機器に使用する絶縁材料としては、優れた難燃性を有するという点で、本実施形態の超伝導線材用被覆材10の基材11として優れた特性を有する。
【0028】
上記ポリイミド樹脂は、公知または慣用の方法により得ることができる。例えば、ポリイミドは有機テトラカルボン酸二無水物とジアミノ化合物(ジアミン)とを反応させてポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を合成し、このポリイミド前駆体を脱水閉環することにより得ることができる。
【0029】
上記有機テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物等が挙げられる。これらの有機テトラカルボン酸二無水物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
上記ジアミノ化合物としては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル等が挙げられる。これらのジアミノ化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
上記ジアミノ化合物としては、エーテル結合を含有する化合物が好ましく、具体的には4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を用いることが好ましい。ODAを含むことで超伝導線材用被覆材10の伸びが向上し、柔らかいフィルムに設計することができる。ジアミノ化合物成分中のODAの添加量としては、10モル%以上100モル%以下が好ましく、50モル%以上100モル%以下がより一層好ましい。
【0032】
なお、本実施形態において用いるポリイミド樹脂としては、有機テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用い、ジアミノ化合物としてp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用いることが好ましい。
【0033】
このようなポリイミド樹脂は、「カプトン(登録商標)H」(東レ・デュポン社製)、「カプトン(登録商標)EN」(東レ・デュポン社製)などの市販品を用いることもできる。
【0034】
基材11は、5μm以上25μm以下の厚みを有することが好ましく、7μm以上15μm以下の厚みを有することがより好ましく、7.5μm以上12.5μm以下の厚みを有することがより一層好ましい。厚みがこの範囲内であると、十分な絶縁性を確保でき、超伝導線材を被覆したときに超伝導線材の機能を十分に発揮できる。
具体的には、基材11の厚みが25μm以下であると、超伝導線材用被覆材10を超伝導線材に被覆した際に形成される超伝導電線における超伝導線材の線占積率を高めることができるので、超伝導電線の特性の低下をより抑制できる。基材11の厚みが15μm以下であると、超伝導電線の特性の低下をさらに抑制できる。基材11の厚みが12.5μm以下であると、超伝導電線の特性の低下をより一層抑制できる。
一方、基材11の厚みが5μm以上であると、超伝導線材用被覆材10を超伝導線材に被覆した際に形成される超伝導電線の絶縁性を高めることができるので、作動中に絶縁破壊することを抑制できる。基材11の厚みが7μm以上であると、絶縁破壊をより抑制できる。基材11の厚みが7.5μm以上であると、絶縁破壊をより一層抑制できる。
【0035】
なお、本実施形態における基材11は、後述する粘弾性体層12との投錨力を向上させるために、スパッタエッチング処理、コロナ処理、プラズマ処理などの化学的処理がされていてもよく、下塗り剤などが塗布されていてもよい。
【0036】
また、本実施形態における基材11は、1層で構成されていてもよく、複数層で構成されていてもよい。
【0037】
粘弾性体層12は、粘弾性体を構成するベースポリマーを含む。このようなベースポリマーとしては、特に限定されず、公知のベースポリマーから適宜選択して用いることができ、例えばアクリル系ポリマー、ゴム系ポリマー、ビニルアルキルエーテル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ウレタン系ポリマー、フッ素系ポリマー、エポキシ系ポリマー等が挙げられる。これらのベースポリマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらのベースポリマーのうち、耐寒性、耐放射線性、耐熱性及び耐腐食性に優れる観点から、シリコーン系ポリマーを粘弾性体層12として用いることが好ましい。つまり、粘弾性体層12は、シリコーン系ポリマーを含有する粘弾性体組成物(シリコーン系粘弾性体組成物)を含むことが好ましく、シリコーン系粘弾性体組成物を主成分とし、残部が不可避的不純物からなることがより好ましい。
【0038】
ここで、上記シリコーン系粘弾性体組成物は、シリコーンガム及びシリコーンレジンを主成分とする配合物の架橋構造を含有している。
【0039】
シリコーンガムとしては、例えば、ジメチルシロキサンを主な構成単位とするオルガノポリシロキサンを好適に用いることができる。オルガノポリシロキサンには必要に応じてビニル基、または他の官能基が導入されてもよい。オルガノポリシロキサンの重量平均分子量は通常18万以上であるが、28万以上100万以下が好ましく、50万以上90万以下がより好ましい。これらのシリコーンガムは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。重量平均分子量が低い場合には、架橋剤の量によりゲル分率を調整することができる。
【0040】
シリコーンレジンとしては、例えば、M単位(R3SiO1/2)、Q単位(SiO2)、T単位(RSiO3/2)及びD単位(R2SiO)から選ばれるいずれか少なくとも1種の単位(上記単位中、Rは一価炭化水素基または水酸基を示す)を有する共重合体からなるオルガノポリシロキサンを好適に用いることができる。この共重合体からなるオルガノポリシロキサンは、OH基を有する他に、必要に応じてビニル基等の種々の官能基が導入されていてもよい。導入する官能基は架橋反応を起こすものであってもよい。共重合体としては、M単位とQ単位とからなるMQレジンが好ましい。
【0041】
シリコーンガムとシリコーンレジンとの配合割合(重量比)は特に限定されないが、シリコーンガム:シリコーンレジン=100:0〜20:80程度が好ましく、100:0〜30:70程度がより好ましい。シリコーンガム及びシリコーンレジンは、単にそれらを配合してもよく、それらの部分縮合物であってもよい。
【0042】
上記配合物には、それを架橋構造物とするために、通常、架橋剤を含む。架橋剤により、シリコーン系粘弾性体組成物のゲル分率を調整することができる。
【0043】
粘弾性体層12のゲル分率は、シリコーン系粘弾性体組成物の種類によっても異なるが、概ね20%以上99%以下程度が好ましく、30%以上98%以下程度がより好ましい。ゲル分率がこの範囲内であると、接着力と保持力とのバランスがとりやすいという利点がある。具体的には、ゲル分率が99%以下の場合、初期接着力が低くなることを抑制できるので、貼り付きが良好になる。ゲル分率が20%以上の場合、十分な保持力が得られるので、超伝導線材用被覆材10のずれを抑制できる。
【0044】
本実施形態におけるシリコーン系粘弾性体組成物のゲル分率(重量%)は、シリコーン系粘弾性体組成物から乾燥重量W1(g)の試料を採取し、これをトルエンに浸漬した後、この試料の不溶分をトルエン中から取り出し、乾燥後の重量W2(g)を測定し、(W2/W1)×100の式より求められる値である。
【0045】
本実施形態におけるシリコーン系粘弾性体組成物は、一般に用いられる、過酸化物系架橋剤による過酸化物硬化型架橋と、Si−H基を含有するシロキサン系架橋剤による付加反応型架橋を用いることができる。
【0046】
過酸化物系架橋剤の架橋反応はラジカル反応であるため、通常150℃以上220℃以下の高温下で架橋反応が進められる。一方、ビニル基含有のオルガノポリシロキサンとシロキサン系架橋剤との架橋反応は付加反応であるので、通常80℃以上150℃以下の低温で反応が進む。本実施形態においては、特に低温短時間で架橋を完了できる観点から、付加反応型架橋が好ましい。
【0047】
上記過酸化物系架橋剤としては、従来よりシリコーン系粘弾性体組成物に使用されている各種のものを特に制限なく使用でき、例えば過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、t−ブチルオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキサン、2,4−ジクロロ−ベンゾイルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルパーオキシヘキシン−3等が挙げられる。これらの過酸化物系架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。過酸化物系架橋剤の使用量は、通常、シリコーンゴム100重量部に対して0.15重量部以上2重量部以下であることが好ましく、0.5重量部以上1.4重量部以下であることがより好ましい。
【0048】
シロキサン系架橋剤として、例えば、ケイ素原子に結合した水素原子を分子中に少なくとも平均2個有するポリオルガノハイドロジエンシロキサンが用いられる。ケイ素原子に結合した有機基としてはアルキル基、フェニル基、ハロゲン化アルキル基等が挙げられるが、合成及び取り扱いが容易である観点から、メチル基が好ましい。シロキサン骨格構造は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよいが、直鎖状が好ましい。
【0049】
シロキサン系架橋剤の添加量は、シリコーンゴム及びシリコーンレジン中のビニル基1個に対して、ケイ素原子に結合した水素原子が好ましくは1個以上30個以下、より好ましくは4個以上17個以下になるように配合する。ケイ素原子に結合した水素原子が1個以上の場合には十分な凝集力が得られ、4個以上の場合にはより十分な凝集力が得られる。ケイ素原子に結合した水素原子が30個以下の場合には接着特性の低下を抑制でき、17個以下の場合には接着特性の低下をより抑制できる。
シロキサン系架橋剤を用いる場合には、通常、白金触媒が用いられるが、その他種々の触媒を使用することができる。
なお、シロキサン系架橋剤を用いる場合には、シリコーンゴムとしてビニル基を有するオルガノポリシロキサンを用い、そのビニル基は0.0001モル/100g以上0.01モル/100g以下程度であることが好ましい。
【0050】
本発明の粘弾性体層には、上記ベースポリマーの他に、本発明の効果を阻害しない範囲で、粘着付加剤、可塑剤、分散剤、老化防止剤、酸化防止剤、加工助剤、安定剤、消泡剤、難燃剤、増粘剤、顔料、軟化剤、充填剤などの従来公知の各種の添加剤を適宜配合することができる。
【0051】
粘弾性体層12は、1μm以上25μm以下の厚みを有することが好ましく、2μm以上10μm以下の厚みを有することがより好ましい。粘弾性体層12の厚みがこの範囲内であると、適度な接着性が得られるという利点がある。
具体的には、粘弾性体層12の厚みが25μm以下であると、超伝導線材用被覆材10を超伝導線材に被覆した際に形成される超伝導電線における超伝導線材の線占積率を高めることができるので、超伝導電線の特性の低下をより抑制できる。粘弾性体層12の厚みが10μm以下であると、特性の低下をより一層抑制できる。
一方、粘弾性体層12の厚みが1μm以上であると、超伝導線材への密着度を高めることができ、超伝導線材と超伝導線材用被覆材10との間に形成される隙間をより抑制できる。粘弾性体層12の厚みが2μm以上であると、超伝導線材と超伝導線材用被覆材10との間に形成される隙間をより一層抑制できる。
【0052】
超伝導線材用被覆材10は、25℃における引張弾性率が6.0GPa以下であり、4.0GPa以下であることが好ましい。25℃における引張弾性率が6.0GPa以下であると、超伝導線材用被覆材10が、室温領域から液体窒素温度領域への環境温度変化によって超伝導線材よりも大きく収縮することが可能となる。これにより、超伝導線材に対する巻き締まり作用を発揮することができるため、巻きズレを防止することができる。従って、超伝導線材用被覆材10で超伝導線材を被覆し、該超伝導線材が極低温環境下に配されたとき、その絶縁性の低下を抑制することが可能となる。また、25℃における引張弾性率が4.0GPa以下であると、超伝導線材の巻きズレをより防止することが可能となる。
【0053】
なお、超伝導線材用被覆材10の25℃での引張弾性率は小さいほど好ましいが、巻き付け精度の観点から、下限は、例えば2.5GPaである。
【0054】
ここで、上記「25℃における引張弾性率」は、ASTM−D882に準じて25℃の雰囲気下で引張試験を行うことにより測定される。
【0055】
上記「25℃における引張弾性率」は、基材のポリマー設計、製膜条件、延伸条件等に応じて基材を構成する分子構造中に−O−(エーテル結合)を適宜挿入することによって調整することができる。
【0056】
上記引張弾性率において25℃を基準にしているのは、超伝導線材用被覆材で超伝導線材を被覆し、被覆された超伝導線材を用いてコイル等を作製するのは、一般的に室温で行われることから、液体窒素環境下での巻き締め作用を発揮させるような引張弾性率を、室温での値でもって特定するためである。
【0057】
また、超伝導線材用被覆材10は、20℃〜−150℃における線膨張係数が10×10-6/℃以上であることが好ましい。20℃〜−150℃における線膨張係数が10×10-6/℃以上であることにより、液体窒素温度下で超伝導線材用被覆材がより大きく収縮するため、超伝導線材用被覆材10の巻き締め作用をより発揮させることが可能となる。
【0058】
ここで、上記「20℃〜−150℃における線膨張係数」は、幅が5mmで長さが25mmの超伝導線材用被覆材10を20℃〜−150℃の雰囲気下に配置した状態で、超伝導線材用被覆材10の温度を1℃下降させたときの体積膨張率を意味し、数値が大きいほど低温にしたときに収縮し易いことを示す。なお、上記「線膨張係数」は、超伝導線材に巻回されるときと同じ状態にある超伝導線材用被覆材10の線膨張係数を意味する。すなわち、超伝導線材用被覆材10が剥離ライナーを備えている場合には、かかる剥離ライナーが剥離された状態での超伝導線材用被覆材10の線膨張係数を意味する。
【0059】
上記「20℃〜−150℃における線膨張率」は、基材のポリマー設計、製膜条件、延伸条件等に応じて基材を構成する分子構造中に−O−(エーテル結合)を適宜挿入することによって調整することができる。
【0060】
また、超伝導線材用被覆材10は、7μm以上40μm以下の厚みを有することが好ましく、10μm以上30μm以下の厚みを有することがより好ましく、10μm以上20μm以下の厚みを有することがさらに好ましい。超伝導線材用被覆材10の厚みが7μm以上であると、強度が十分であり、取り扱い性に優れ、10μm以上であると、強度がより十分であり、取り扱い性により優れる。超伝導線材用被覆材10の厚みが40μm以下であると、超伝導線材用被覆材10を超伝導線材に被覆した際に形成される超伝導電線における超伝導線材の線占積率を高めることができるので、超伝導電線の特性の低下をより抑制できる。
【0061】
巻き回し角度が20°以上80°以下で、且つ超伝導線材用被覆材10の一部が重なり合うハーフラップで螺旋状に被覆される場合において、超伝導線材の幅と、巻き回し角度とを考慮すると、超伝導線材用被覆材10は、被覆する超伝導線材の幅の1倍以上2倍以下の幅を有することが好ましい。このような超伝導線材用被覆材10の幅は、例えば、1mm以上80mm以下であることが好ましく、1.5mm以上60mm以下であることが好ましい。
【0062】
超伝導線材用被覆材10は、超伝導線材を被覆する際の接続部分であるつなぎ目を設けないことが好ましいことから、長尺であることが好ましい。このような超伝導線材用被覆材10の長さは、例えば500m以上であることが好ましく、1000m以上であることがより好ましく、3000m以上であることが一層好ましい。本実施形態の超伝導線材用被覆材10は巻芯20にロール状に巻回されて保持されているが、1つの巻芯20に複数列に亘って巻回する、いわゆるボビン巻きにより保持されていてもよい。
【0063】
続いて、図1及び図2を参照して、本実施形態における超伝導線材用被覆材10の製造方法について説明する。
【0064】
まず、上述したように、表面11aと、この表面11aと反対側の裏面11bとを有する基材11を準備する。
【0065】
次に、基材11の表面11a上に、粘弾性体層12を形成する。粘弾性体層12の形成方法は特に限定されないが、例えばシリコーン系粘弾性体組成物を基材11の表面11a上にコーティングする方法により、粘弾性体層12を形成することができる。
【0066】
具体的には、シリコーンゴム、シリコーンレジン、架橋剤、触媒等を含むシリコーン系粘弾性体組成物をトルエン等の溶剤に溶解した溶液を基材11の表面11aに塗布し、次いで上記配合物を加熱することで溶剤の留去と架橋とを行う。本実施形態におけるシリコーン系粘弾性体組成物を含む粘弾性体層12の形成方法としては、例えば、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコーター等による押出しコート法などの方法が挙げられる。
【0067】
以上の工程を実施することにより、図2に示す超伝導線材用被覆材10を製造することができる。なお、超伝導線材用被覆材10の製造方法は、上述した方法に特に限定されない。超伝導線材用被覆材10が剥離ライナーを備えている場合には、例えば以下の方法で製造してもよい。
【0068】
具体的には、まず剥離ライナーを準備する。剥離ライナーとしては、例えば、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂フィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シート、金属箔、またはそれらのラミネート体等が挙げられる。
【0069】
次に、剥離ライナー上に、例えばシリコーン系粘弾性体組成物を含む粘弾性体層12を形成する。粘弾性体層12を形成する方法は特に限定されないが、トルエンを溶剤に用い、加熱により付加反応型架橋を行う場合には、加熱温度は、例えば80℃以上150℃以下が好ましく、100℃以上130℃以下がより好ましい。なお、加熱温度は、溶剤を留去でき、所定の架橋反応が進行できる温度であれば特に限定されない。
【0070】
次に、剥離ライナー上に形成された粘弾性体層12を、基材11に転写する。以上の工程を実施することにより、図2に示す超伝導線材用被覆材10を製造することができる。
【0071】
なお、本実施形態では、図1に示すように、図2に示す超伝導線材用被覆材10を巻芯20に巻き付ける工程をさらに実施する。この工程は、超伝導線材用被覆材10の形状等により省略されてもよい。
【0072】
以上説明したように、本実施形態における超伝導線材用被覆材10は、超伝導線材を被覆するための被覆材であって、25℃における引張弾性率が6.0GPa以下である。
【0073】
本実施形態における超伝導線材用被覆材10によれば、基材11の25℃での引張弾性率が上記範囲であることから、超伝導線材用被覆材10が、室温領域から液体窒素温度領域への環境温度変化によって超伝導線材よりも大きく収縮することが可能となる。これにより、超伝導線材に対する巻き締まり作用を発揮することができるため、巻きズレを防止することができる。従って、超伝導線材が極低温環境下に配されたとき、その絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0074】
(第2実施形態)
図3〜図5を参照して、本発明に係る第2実施形態における超伝導電線100について説明する。本実施形態における超伝導電線100は、図3に示すように、第1実施形態の超伝導線材用被覆材10と、この超伝導線材用被覆材10により被覆された超伝導線材110とを備えている。
【0075】
超伝導線材110が超伝導線材用被覆材10に被覆される態様は特に限定されず、螺旋状に巻回されてもよく、超伝導線材用被覆材10の長さ方向に超伝導線材110を添わせるように(タテ添えされるように)巻回されてもよい。本実施形態における超伝導線材110は、図3〜図5に示すように、超伝導線材用被覆材10に螺旋状に巻回されるように被覆されている。
【0076】
ここで、超伝導線材110が超伝導線材用被覆材10に螺旋状に巻回された場合の好ましい態様について、図3〜図5を参照して説明する。
【0077】
図4に示すように、超伝導線材110の延在方向と超伝導線材用被覆材10の巻回する方向とのなす角度θ(巻き角度θまたは巻き回し角度θとも言う)は、例えば20°以上80°以下である。
【0078】
超伝導線材110は、テープ状の線材であり、各頂点は角張っていてもよく、湾曲していても(Rが設けられていても)よい。また、超伝導線材110は、ビスマス系、イットリウム系、ニオブ系などの各種超伝導材料からなるものを適宜用いることができる。
【0079】
超伝導線材110の具体的寸法の一例を示すと、厚みは例えば1mm以上10mm以下であり、幅は例えば1mm以上20mm以下であり、アスペクト比(断面形状における幅/厚みの比)は例えば1以上60以下程度である。
【0080】
続いて、本実施形態における超伝導電線100の製造方法について説明する。
【0081】
まず、第1実施形態に従って超伝導線材用被覆材10を製造する。
【0082】
次に、超伝導線材110を準備して、図3〜図5に示すように、超伝導線材用被覆材10の一部が重なり合うハーフラップで螺旋状に巻回する。超伝導線材用被覆材10が粘弾性体層12を備えていない場合には、超伝導線材用被覆材10の基材11の表面11a(裏面11b)の一部が超伝導線材110に接触するように、且つ、超伝導線材用被覆材10の基材11の表面11a(裏面11b)の残部が超伝導線材110と表面11aで接触している超伝導線材用被覆材10の基材11の裏面11b(表面11a)の一部上に接触するように、超伝導線材用被覆材10を配置する。また、超伝導線材用被覆材10が粘弾性体層12を備えている場合には、粘弾性体層12の一部が超伝導線材110に接触するように、且つ、粘弾性体層12の残部が超伝導線材110と接触している超伝導線材用被覆材10の基材11の裏面11bの一部上に接触するように、超伝導線材用被覆材10を配置する。
【0083】
なお、超伝導線材用被覆材10が剥離ライナーを備えている場合には、超伝導線材110に巻回する際に、剥離ライナーと粘弾性体層12の表面12aとを剥離しながら、超伝導線材110を巻回する。
【0084】
上記工程を実施することにより、図3〜図5に示す本実施形態の超伝導電線100を製造することができる。
【0085】
以上説明したように、本実施形態における超伝導電線100は、第1実施形態の超伝導線材用被覆材10と、この超伝導線材用被覆材10に被覆された超伝導線材110とを備えている。
【0086】
本実施形態における超伝導電線100によれば、25℃における引張弾性率が上記範囲である超伝導線材用被覆材10を備えているため、超伝導線材110に超伝導線材用被覆材10を被覆した超伝導電線100を電気機器に用い、液体窒素温度下で動作させたときに、超伝導電線100の絶縁性の低下を抑制することが可能となる。
【0087】
(第3実施形態)
図6を参照して、本発明の第3実施形態における電気機器の一例であるコイル200を説明する。図6に示すように、本実施形態のコイル200は、巻枠210と、この巻枠210に巻きつけられた第2実施形態の超伝導電線100とを備えている。
【0088】
巻枠210は、超伝導電線100を巻装できれば特に限定されないが、例えば円筒型、レーストラック型等である。超伝導電線100は、1本であってもよく、必要な長さに応じて、複数本が接続されていてもよい。コイルは、複数のコイル200が積層されていてもよい。
【0089】
第3実施形態におけるコイル200の製造方法は、巻枠210を準備する工程と、この巻枠210に超伝導電線100を巻きつける工程とを備えている。
【0090】
ここで、本実施形態では、電気機器の一例としてコイル200を例に挙げて説明したが、本発明の電気機器は超伝導コイル200に限定されず、例えば超伝導マグネット、超伝導ケーブル、電力貯蔵装置などであってもよい。
【0091】
以上説明したように、本実施形態の電気機器の一例であるコイル200は、第2実施形態の超伝導電線100を用いて作製されている。
【0092】
本発明の電機機器の一例であるコイル200によれば、液体窒素温度下において動作させたときに絶縁性の低下が抑制された超伝導電線を備えているため、かかる絶縁性の低下に起因する動作不良等を抑制することが可能となる。
【実施例】
【0093】
(実施例1)
第1実施形態と同様の超伝導線材用被覆材を製造した。具体的には、シリコーン系粘弾性体として「X−40−3229」(シリコーンガム、固形分60%、信越化学工業社製)70重量部及び「KR−3700」(シリコーンレジン、固形分60%、信越化学工業社製)30重量部と、白金触媒として「PL−50T」(信越化学工業社製)0.5重量部と、溶剤としてトルエン315重量部とを配合し、ディスパーで攪拌して、シリコーン系粘弾性体組成物を含有する混合液を得た。また、基材としてポリイミド樹脂フィルム「カプトン50H」(厚み12.5μm、東レ・デュポン社製)を用いた。次に、該基材に上記混合液を、ファウンテンロールで乾燥後の厚みが3μmとなるように塗布し、乾燥温度150℃、乾燥時間1分の条件でキュアー・乾燥して、基材11上にゲル分率が74%の粘弾性体層12を形成した超伝導線材用被覆材10を作製した。これを巻芯20(内径76mm)に巻き取り、図1に示すようなロール状の巻回体を得た。
【0094】
(実施例2)
基材として、ポリイミド樹脂フィルム「カプトン50EN」(厚み12.5μm、東レ・デュポン社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の超伝導線材用被覆材を製造した。
【0095】
(実施例3)
基材として、ポリイミド樹脂フィルム「カプトン40EN」(厚み10μm、東レ・デュポン社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の超伝導線材用被覆材を製造した。
【0096】
(実施例4)
基材として、ポリイミド樹脂フィルム「カプトン30EN」(厚み7.5μm、東レ・デュポン社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の超伝導線材用被覆材を製造した。
【0097】
(実施例5)
基材として、ポリイミド樹脂フィルム「カプトン100H」(厚み25μm、東レ・デュポン社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の超伝導線材用被覆材を製造した。
【0098】
(実施例6)
基材として、ポリイミド樹脂フィルム「カプトン100EN」(厚み25μm、東レ・デュポン社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の超伝導線材用被覆材を製造した。
【0099】
(実施例7)
基材として、ポリイミド樹脂フィルム「ユーピレックス−25R」(厚み25μm、宇部興産社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7の超伝導線材用被覆材を製造した。
【0100】
(比較例1)
基材として、ポリイミド樹脂フィルム「ユーピレックス(登録商標)−12.5S」(厚み12.5μm、宇部興産社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の超伝導線材用被覆材を製造した。
【0101】
(比較例2)
基材として、ポリイミド樹脂フィルム「ユーピレックス(登録商標)−25S」(厚み25μm、宇部興産社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の超伝導線材用被覆材を製造した。
【0102】
(評価方法)
実施例1〜7及び比較例1、2について、引張弾性率、線膨張係数をそれぞれ以下のように測定すると共に、巻きズレを以下のように評価した。結果を表1に示す。
【0103】
(引張弾性率)
実施例1〜7及び比較例1、2において用いた基材の引張弾性率は、25℃の雰囲気下でASTM−D882に準じて測定した。
【0104】
(線膨張係数)
実施例1〜7及び比較例1、2において作製した超伝導線材用被覆材を、25mm×4mmに打ち抜いて評価サンプルを作製した。これら評価サンプルについて、熱機械測定装置TMA4000A(ブルカー・エイエックス社製)を用い、引張法にて、測定荷重3g、昇温速度5℃/分、20〜−150℃の降温過程の条件で測定し、各評価サンプルの線膨張係数を算出した。
【0105】
(室温での巻きズレ評価)
実施例1〜7及び比較例1、2で作製した超伝導線材用被覆材について、幅5mmの試験片とし、超伝導線材として「Di−BSCCO」(線材:ビスマス系超伝導線、厚み0.23mm×幅4.3mm、住友電気工業社製)に対し、巻き回し角度(図4における角度θ)を60度、超伝導線材用被覆材同士の重なり(図5におけるラップ部120の幅W120)を約2.0mmで螺旋状に被覆して、長さ10cmの評価サンプルを作製した。
この評価サンプルを外径30mmのマンドレルに巻き付けた。その後、室温で1時間放置したのち、マンドレルに巻き付けた評価サンプルの外周部を目視観察することで、超伝導線材用被覆材の巻きズレの有無を確認した。巻きズレが見られなかった場合を「○」、巻きズレが見られた場合を「×」とした。結果を表1に示す。
【0106】
(液体窒素浸漬後の巻きズレ評価)
実施例1〜7及び比較例1、2で作製した超伝導線材用被覆材について、上記した室温での巻きズレ評価と同様にして、評価サンプルを作製し、この評価サンプルをマンドレルに巻き付けた。その後、液体窒素中に1時間浸漬したのち、マンドレルに巻き付けた評価サンプルの外周部を目視観察することで、上記した室温での巻きズレ評価と同様にして、超伝導線材用被覆材の巻きズレの有無を確認した。結果を表1に示す。
【0107】
【表1】

【0108】
表1に示すように、25℃における基材の引張弾性率が6.0GPa以下である実施例1〜7の超伝導線材用被覆材を、室温で超伝導線材に巻回した後、室温で放置した場合、巻きズレは発生しなかった。また、かかる実施例1〜7の超伝導線材用被覆材を、室温で超伝導線材に巻回した後、液体窒素に浸漬して極低温環境下に曝したところ、かかる極低温環境下に曝された場合においても巻きズレは発生しなかった。従って、実施例1〜7の超伝導線材用被覆材を用いて超伝導線材を被覆して超伝導電線を作製することにより、該超伝導線材の絶縁性の低下を抑制し得ることがわかった。
これに対し、25℃における基材の引張弾性率が上記範囲を満たさない比較例1では、室温で放置された場合に巻きズレが発生し、また、極低温環境下に曝された場合においても巻きズレが発生した。該比較例1と同様に上記引張弾性率が上記範囲を満たさない比較例2では、極低温環境下に曝された場合に巻きズレが発生した。
【0109】
以上のように本発明の実施形態及び実施例について説明を行なったが、各実施形態及び実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施形態及び実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態及び実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0110】
10 超伝導線材用被覆材、11 基材、11a,12a 表面、11b 裏面、12 粘弾性体層、20 巻芯、100 超伝導電線、110 超伝導線材、120 ラップ部、200 コイル、210 巻枠、W120 幅、θ 角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導線材を被覆するための被覆材であって、
25℃における引張弾性率が6.0GPa以下であることを特徴とする超伝導線材用被覆材。
【請求項2】
20℃〜−150℃における線膨張係数が10×10-6/℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の超伝導線材用被覆材。
【請求項3】
基材と、該基材の一面側に形成された粘弾性体層とを備え、前記基材は、ポリイミド樹脂からなることを特徴とする請求項1または2に記載の超伝導線材用被覆材。
【請求項4】
前記粘弾性体層は、シリコーン系粘弾性体組成物を含有することを特徴とする請求項3に記載の超伝導線材用被覆材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の超伝導線材用被覆材と、
前記超伝導線材用被覆材で被覆された超伝導線材とを備えていることを特徴とする超伝導電線。
【請求項6】
請求項5に記載の超伝導電線を用いて作製されていることを特徴とする電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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