説明

超伝導配線

【課題】磁束揺らぎに対して敏感な超伝導回路に使用される超伝導配線では、磁束雑音を抑制することが必要であり、超伝導磁気センサの測定雑音限界の改善や超伝導量子ビット回路における磁束雑音を抑制し、超伝導量子ビット回路の量子コヒーレンス向上に寄与する超伝導配線、磁束雑音の抑制方法、磁束センサ及び超伝導量子ビット回路を提供する。
【解決手段】超伝導配線の超伝導体層101の上下表面及び端面を磁気秩序層として機能する反強磁性絶縁体層102または強磁性絶縁体層で被覆した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導配線に関し、特に、超高感度の磁束センサとして用いられる超伝導磁束量子干渉計や超高速の量子計算に用いられる超伝導量子ビット回路に適用できる超伝導配線に関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導回路はその巨視的な量子力学的性質と抵抗のない無散逸な特徴を活かして、様々な分野で応用されている。例えば、超伝導磁束量子干渉素子(SQUID)は非常に高感度な磁束センサとして広く実用化されている。また近年では、超伝導回路の量子力学的振る舞いを活かして量子計算を実現するための超伝導量子ビット回路が実証され、そのコヒーレントな動作が示されている。
【0003】
この種、超伝導量子ビット回路に用いられる超伝導配線として、特許文献1には、超伝導材料である窒化二オブを用いた超伝導配線が記載されている。特許文献1では、窒化二オブ配線に電流が流れ難くなる原因について指摘している。即ち、その原因が、蒸着膜の結晶が柱状構造であるため段差の部分で結晶の欠陥ができるためであることを指摘し、当該窒化二オブ配線を平坦化して段差をなくすことを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−158306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、超伝導回路に用いられる超伝導配線は、図3に示すように、絶縁体基板303上に、主に、二オブ、アルミニウム等の金属材料によって形成された超伝導配線層301を被着することによって構成されている。
【0006】
このような超伝導配線層301の表面は、絶縁体膜302によって覆われているのが普通である。即ち、超伝導配線層301の表面を大気に曝すことによって自然酸化膜が超伝導配線層301の表面に絶縁体膜302として形成されるか、または、陽極酸化やプラズマ酸化で形成された酸化膜によって超伝導配線層301の表面が覆われている場合、或いは、スパッタなどで製膜された保護用の絶縁体酸化膜例えばシリカなどで覆われている場合もある。
【0007】
しかしながら、絶縁体膜302によって覆われた超伝導配線層301によって形成された超伝導配線には、以下のような問題点があることが判明した。
【0008】
その問題点は、磁束雑音による動作性能の限界があるということである。この原因は、超伝導配線層表面に存在する局在電子スピンによって、回路に内在する磁束雑音に起因していることが判明した。
【0009】
より具体的に説明すると、ニオブやアルミニウムなどの金属材料が超伝導体層として用いられているが,図3に示すように、その表面が絶縁体膜302によって覆われていると、磁束雑音が発生することが判った。これは、超伝導配線層301と絶縁体膜302との間の界面欠陥に生じる電子スピンによるものであることを見出した。
【0010】
図4には、超伝導体層と絶縁体層の界面の模式図が示されている。超伝導金属層401とこれらの酸化膜および絶縁体膜402の間に、界面欠陥として表面欠陥電子スピン(常磁性電子スピン)403が生じ、当該常磁性電子スピン403の揺らぎが磁束雑音を発生し,超伝導磁束量子干渉計の測定雑音限界や超伝導量子ビットのコヒーレンスの消失に寄与していることが判った。
【0011】
本発明の目的は、超伝導磁気センサの測定雑音限界の改善や超伝導量子ビット回路における磁束雑音を抑制できる超伝導配線を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、超伝導量子ビット回路の量子コヒーレンス向上に寄与する超伝導配線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様によれば、超伝導体層と、その上下表面および端面を覆う反強磁性絶縁体層とを有することを特徴とする超伝導配線が得られる。
【0014】
本発明の別の態様によれば、超伝導体層と、その上下表面および端面を覆う強磁性絶縁体層とを有することを特徴とする超伝導配線が得られる。
【0015】
本発明の更に別の態様によれば、超伝導体層によって形成された超伝導配線に伴う磁束雑音を抑制する方法において、前記超伝導体層との界面における局在スピンをピンニングできる磁気秩序層を前記超伝導体層上に形成することにより、前記磁束雑音を抑制することを特徴とする磁束雑音の抑制方法が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、伝導配線層の表面を反強磁性体絶縁層または強磁性体絶縁層で被覆することで、磁気雑音の抑制を実現した超伝導体配線を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の超伝導配線の第1の実施の形態を示す断面図である。
【図2】本発明の超伝導配線の第2の実施の形態を示す断面図である。
【図3】従来の超伝導配線の断面図である。
【図4】従来の超伝導配線における超伝導体層と絶縁体層の界面の模式図である。
【図5】本発明の超伝導配線の第1の実施の形態における超伝導体層と反強磁性絶縁体層の界面の断面図である。
【図6】本発明の超伝導配線の第2の実施の形態における超伝導体層と強磁性絶縁体層の界面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
図1を参照すると、本発明の第1の実施形態に係る超伝導配線は、超伝導体層101の上下表面および端面は反強磁性絶縁体層102が形成されている。超伝導体層101及び反強磁性絶縁体層102は絶縁体基板103上に設けられている。ここで、超伝導体層101は二オブ、アルミニウム等の金属材料によって形成されており、他方、反強磁性体絶縁層102は、例えば、酸化マンガン、酸化ニッケル等によって形成されている。
【0019】
図1に示された超伝導配線の超伝導体層101と反強磁性絶縁体層102の界面の状態を、図5を参照して説明する。超伝導体層501と反強磁性絶縁体層502の界面においては、局在電子スピン503が界面欠陥電子スピンとして存在する。しかしながら、反強磁性絶縁体層中502ではスピンが秩序化しているので、局在電子スピン503はそれらのスピンとの強い相互作用によりピニングされ、それらの揺らぎは抑えられる。従って、磁束雑音の抑制という効果がもたらされる。
【0020】
しかも、本実施の形態では、反強磁性絶縁体層502は全体としては磁化を持たないので、超伝導回路の動作に磁束バイアスのオフセットを与えないという効果が得られる。
【0021】
また、この構成では、超伝導体層101表面に常伝導金属層が存在しないため、高周波回路における抵抗散逸がなく、超伝導量子ビット回路のコヒーレンスに悪影響を及ぼさないと云う利点もある。
【0022】
(第2の実施形態)
図2を参照すると、本発明の第2の実施形態に係る超伝導配線は、超伝導体層201と、その上下表面および端面を覆う強磁性絶縁体層202を有し、これら超伝導体層201及び強磁性絶縁体層202は、絶縁体基板203上に形成されている。ここで、強磁性体絶縁体層202は、例えば、酸化物磁性体であるフェライト等のフェリ磁性体によって形成されている。
【0023】
図2に示された超伝導配線の超伝導体層201と強磁性絶縁体層202との間の界面状態を、図6を参照して説明する。図6においても、超伝導体層601と強磁性絶縁体層602の界面においては、局在電子スピン603が界面欠陥電子スピンとして存在するが、強磁性絶縁体層中602ではスピンが秩序化しているため、局在電子スピン603はそれらのスピンとの強い相互作用によりピニングされている。この結果、局在電子スピン603による揺らぎは抑制される。
【0024】
図6に示された実施の形態でも、超伝導体層601表面に常伝導金属層が存在しないため、高周波回路における抵抗散逸がなく、超伝導量子ビット回路のコヒーレンスに悪影響を及ぼさない。
【0025】
図5および図6に示すように、超伝導体層501または601表面を反強磁性体絶縁体層502または強磁性体絶縁体層602で被覆することで,超伝導体層と絶縁体層の間の界面欠陥に生じる電子スピン503または603の揺らぎを磁気秩序層502または602との間の交換相互作用によりピニングすることで,磁束雑音を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、高感度の磁気センサに用いられる超伝導磁束量子干渉素子や量子計算機に用いられる超伝導量子ビットに使用される超伝導配線に適用できる。
【符号の説明】
【0027】
101 超伝導体層
102 反強磁性絶縁体層
103 絶縁体基板
201 超伝導体層
202 強磁性絶縁体層
203 絶縁体基板
301 超伝導配線層
302 絶縁体膜
303 絶縁体基板
401 超伝導金属層
402 絶縁体膜
403 表面欠陥電子スピン
501 超伝導体層
502 反強磁性絶縁体層
503 界面欠陥電子スピン
601 超伝導体層
602 強磁性絶縁体層
603 界面欠陥電子スピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超伝導体層と、その上下表面および端面を覆う反強磁性絶縁体層とを有することを特徴とする超伝導配線。
【請求項2】
超伝導体層と、その上下表面および端面を覆う強磁性絶縁体層とを有することを特徴とする超伝導配線。
【請求項3】
超伝導体層によって形成された超伝導配線に伴う磁束雑音を抑制する方法において、前記超伝導体層との界面における局在スピンをピンニングできる磁気秩序層を前記超伝導体層上に形成することにより、前記磁束雑音を抑制することを特徴とする磁束雑音の抑制方法。
【請求項4】
請求項3において、前記磁気秩序層は、反強磁性絶縁体層及び強磁性絶縁体層のいずれか一方であることを特徴とする磁束雑音の抑制方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された超伝導配線を含むことを特徴とする磁束センサ。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載された超伝導配線を含むことを特徴とする超伝導量子ビット回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−44631(P2011−44631A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192794(P2009−192794)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】