説明

超低周波音発生装置

【課題】屋外での使用を前提とした可搬型で、特定の周波数の超低周波音を大音圧で効率よく安定して発生でき、かつ低周波音ノイズを発生するおそれのある発電機等を動かすことなく実験を実施することができる超低周波音発生装置を提供する。
【解決手段】圧縮空気によって駆動する振動板を備えたことを特徴とする超低周波音発生装置1は、振動板2と、この振動板2を駆動させるための空圧サーボアクチュエータ3と、このアクチュエータ3に圧縮空気を供給するためのエアータンクを備えており、相対する2つの面にそれぞれ振動板を配置し、この2つの振動板が逆位相で駆動される形体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超低周波音を人工的に発生するための装置に関し、特に、電源がない屋外において低周波音による実験等を行うのに好適な超低周波音発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルの工事で発生する発破音、ダムの放流による轟音、超音速で飛行する航空機から発生するソニックブーム、大型トレーラーが橋を渡るときの振動等には超低周波音成分が含まれているため、家屋の建具をガタつかせたり人間に対して圧迫感を与えたりするなどの環境問題を引き起こすことがある。
【0003】
超低周波音が人体や建造物等に与える影響については依然として未解明な部分が多い。これらの影響を解明するためには人工的に類似した低周波音を発生する装置が必要であるが、特に20Hz以下の超低周波音については人工的に発生することが難しかった。これまでに、密閉された空間内という制限された条件であれば、20Hz以下の超低周波音を大音圧で発生できる装置が開発されている。しかし、このような室内に置いた装置で低周波音を発生させる実験では、音が屋外から伝搬してくるという実際の条件と異なるため、確からしいデータを集めることは困難であった。
【0004】
上記の密閉された空間内における超低周波音の発生装置としては、たとえば特許文献1の「建具試験用低周波音源」に記載されるような、サーボ機構を備えた油圧アクチュエータによって振動板を駆動させる方式が知られている。この方式によれば、20Hz以下の超低周波音を大音圧で発生することが可能である。しかし、屋内での密閉空間の特性を生かして大音圧の低周波音を発生させる方式であるため屋外での使用を前提にしていない。よって屋外で使用しようとした場合、油圧アクチュエータを駆動させるための電源の無い屋外では発動発電機で油圧コンプレッサーを稼動させる必要があり、このコンプレッサーが発する低周波音がノイズとなる。また、コンプレッサーの振動や振動板の駆動を原因とする振動を抑えるために強固な土台で固定する必要があり、装置を簡単に移動させることができなくなる。
【0005】
超低周波音を発生するための他の手段として、通常音の発生に使用されているスピーカーを使用することも考えられるが、スピーカーは20Hz以下の放射効率が悪い上に低周波領域では非常に大きな電源パワーを必要とするため屋外での使用には向いていない。以上の事情から、屋外で大音圧の超低周波音を発生することができる新しい装置が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−147051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示される「建具試験用低周波音源」は、上述の通り屋内の使用を前提としており屋外での使用には不向きである。本発明は、屋外での使用を前提とした可搬型で、超低周波音を大音圧で効率よく安定して発生でき、かつ低周波ノイズを発生するおそれのある発電機等を動かすことなく実験を実施することができる超低周波音発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の超低周波音発生装置は圧縮空気によって駆動する振動板を備えたことを特徴とする。好ましくは、相対する2つの面にそれぞれ振動板を配置し、この2つの振動板を逆位相で駆動する形態とすることにより装置自身の振動を防止することができる。
【0009】
上記超低周波音発生装置は、少なくとも振動板と、この振動板を駆動させるための空圧サーボアクチュエータと、このアクチュエータに圧縮空気を供給するためのエアータンクを備えていることが望ましい。また、動作時にエアーコンプレッサーを切り離すことで、屋外で使用するのに好適な可搬型とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の装置によれば、圧縮空気によって駆動する振動板によって超低周波音を発生させるため、圧縮空気さえ用意できれば屋外であっても超低周波音発生による建具のガタつき具合等を実験することができる。また、2つの振動板を逆位相で駆動する形体の装置とすれば、装置自身の振動を防止して安定した超低周波音を発生することができる。
【0011】
本発明の装置を、振動板と、この振動板を駆動させるための空圧サーボアクチュエータと、このアクチュエータに圧縮空気を供給するためのエアータンクを備えた形体とすることにより、実験中に圧縮空気を発生させる必要がなく、発動機等によるノイズ振動を防止することができ、安定した超低周波音を発生することができる。
【0012】
本発明の装置は、装置自身の振動や発動機等によるノイズ振動を防止することができるため、強固な土台を着けたり地面に固定したりする必要がない。したがって屋外に持ち出すことも、また、実験中に頻繁に移動させることも容易であり可搬型実験装置として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の超低周波音発生装置の一例を示し、(a)は側面図、(b)は(a)のA−A矢視断面図。
【図2】本発明の超低周波音発生装置の駆動システムの一例を示すブロック・ダイヤグラム。
【図3】表1記載の超低周波音発生装置に係る(a)10Hzの正弦波を発生させたときの振動板の変位、(b)装置から4m離れた位置で測定した音圧の時間変化を示す図。
【図4】表1記載の超低周波音発生装置から4mの距離で測定した10Hzの放射音の周波数分析結果を示す図。
【図5】表1記載の超低周波音発生装置から放射された低周波音の距離減衰特性の一例である、5Hzの放射音についての測定結果を示す図。
【図6】実施例の装置と家屋の位置関係、および家屋内外における超低周波音の測定位置を示す概略図。
【図7】(a)、(b)、(c)、(d)および(e)は実施例の屋外実験の結果を示す波形図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の実施の形態を図によって詳細に説明する。図1において、超低周波音発生装置1は振動板2、空圧サーボアクチュエータ3および後述のエアータンク9を備えている。
【0015】
そして、アクチュエータ3はその中心部を貫通するエアーシリンダー4によって振動板2と結合されている。ここで、振動板2の数は1枚以上あれば良く、複数枚の場合は実用的な枚数の範囲であれば上限はない。
【0016】
ただし、図1に示すように2枚の振動板2,2を2台のアクチュエータ3,3を用いて互いに逆位相で振動させると、呼吸球に近い振動形態を実現でき、またアクチュエータ3,3にかかる反力を相殺することができる。このため、装置を固定したり土台を据え付けたりする等の配慮をしなくても安定した使用が可能となる。
【0017】
アクチュエータ3を4枚、6枚等、複数枚使用して相対するアクチュエータ3を逆位相とすれば上記2枚使用の場合と同様の効果を得ることができる。また、呼吸球スピーカーの外見と同様の正五角形の振動板2を複数枚組み合わせて球形とすることによってもアクチュエータ3にかかる反力を相殺することができる。
【0018】
振動板2の形状および材質については、超低周波音発生実験の規模や環境条件によって適宜変更可能であるが、例えば一片が約1mの立方体型発生装置とするのであれば、向かい合う2面に1m×1mのアルミニウム製ハニカム振動板2,2をそれぞれ設置する。振動板2,2の作動を妨げないよう、振動板2,2の端縁部にはゴム等のフレキシブルな材質で形成したサラウンド5を取り付けておくと良い。
【0019】
本発明の係る空圧サーボアクチュエータ3は、電磁エアーバルブとエアーシリンダー4が一体化されたものであり、電磁エアーバルブによりエアーシリンダー4が作動し振動板2を振動させることができる。また、側面に付設されたダクト6は装置1内部に発生する圧力変位を緩和させるためのものであり、例えば直径60cmで15m以上の容積を付加することのできるダクト6を設ければ±70mmの最大変位に対応することができる。
【0020】
次に、図2を用いて本発明の装置1による超低周波音発生の手順を説明する。超低周波音発生装置1は電源がない屋外での使用を想定している。このため、実験場に持って行く前に、あらかじめ発電機7とエアーコンプレッサー8を用いてエアータンク9内に圧縮空気を溜めておく。こうすることにより屋外実験場では発電機を動かす必要がないため電源を確保する必要がなく、また発電機によるノイズ低周波音発生の心配もなくなる。
【0021】
実験場の所定位置に本装置1を置き実験を開始する。まず、エアータンク9内の圧縮空気を空圧サーボアクチュエータ3に送る。そのためには、ノート型PC等から制御信号(電圧信号)をアクチュエータ3の電磁エアーバルブに送り、バルブに接続されているエアーシリンダー4を動かす。なお、電磁エアーバルブを駆動させるためのバッテリーは別途用意しておく。
【0022】
上記手順で制御信号に従ってエアーシリンダー4に接続されている振動板2が駆動し超低周波音が発生する。振動板2およびシリンダー4が制御信号通りに動いているかどうかをチェックするため時々刻々、変位計10を使って計測し制御信号にフィードバックさせると良い。
【0023】
表1に、低周波音発生装置1の基本仕様の例を示す。
【表1】

【0024】
また図3に、表1に基づいた装置1を使用した場合の、(a)10Hzの正弦波を発生させたときの振動板2の変位と、(b)装置1から4mはなれた位置で測定した音圧の時間変化を示す。
【0025】
音圧の計測には、低周波音レベル計(RION XN−1G:周波数特定1〜500Hz)を使用した。(a)の振動板2の変位と(b)の音圧波形に関して解析すると、いずれも正弦波とみなせる波形が示されており、変位フィードバックを用いた空圧サーボシステムによって振動板2を適正に制御できていることが分かる。
【0026】
図4は、表1に基づいた装置1を使用した場合の、装置から4mの距離で測定した10Hzの放射音の周波数分析結果を示したものである。本図によれば、10Hz(超低周波音)以外の高周波成分も観測されているが、10Hz成分に比べて20dB以上レベルが低く、建具試験等においては測定結果に対して有意な影響を及ぼすことはないものと判断できる。
【0027】
図5に、装置1から放射された低周波音の距離減衰特性の一例として、5Hzの放射音についての測定結果を示す。装置1の近傍では減衰が緩やかになっているが、装置から3〜4m離れた以降は、2倍の距離当たりにして6dBの、点音源としての減衰特性が示されている。無風条件下で、屋外環境における20Hz以下の超低周波音成分の暗騒音は60〜65dBであるため、この装置1から放射した試験音は、建具試験に使用するに好適であることはもちろん、さらに数百m遠方までの伝搬実験にも使用できるとものと推察される。
【0028】
(実施例)
本発明の超低周波音発生装置1(表1に基づく装置)を使用し、簡易家屋を対象とした屋外実験を実施した。
【0029】
〔概要〕
本発明の超低周波音発生装置1を用いて屋外実験を行い、現場試験用の音源としての実用性を検証した。この種の試験のために製作した簡易家屋11から3mはなれた位置に装置1を設置し、家屋11に超低周波音を入射させて家屋11の応答を調査した。図6に、装置1と家屋11の位置関係、および家屋内外における超低周波音の測定位置を示す。
【0030】
試験に用いた簡易家屋11は広さが2m×4m、高さ2mの木造で、前面に1.8m×1.8mの掃出窓(アルミサッシ、ガラス厚5mm)12が取り付けられている。この窓12に対して低周波音が45度方向から入射するように装置1を配置した。音圧の計測は窓ガラスの前面13(窓面から15cm離れ)と家屋内中央14の2点で行った。なお、窓のガタつきの発生状況を確認するために、アルミサッシと窓ガラスの振動をそれぞれ小型振動ピックアップとレーザー変位計で計測した。
【0031】
〔試験結果〕
図7(a)には、5Hzの純音を試験音とし、振動板2の変位を徐々に増大させていき、窓ガラスのガタつき音が聞こえ始めた時の振動板2の変位を示す。また、(b)および(c)には、ガラス前面13および家屋内中央14の音圧波形をそれぞれ示す。さらに、(d)には、窓枠に取り付けた振動加速度ピックアップで計測した振動加速度を、(e)には、ガラス中央の変位をレーザー変位計で計測した結果を示す。
【0032】
図7(b)、(c)について家屋内中央14と窓ガラス前面13の音圧波形を比較すると、図から明らかなように、屋内14では屋外13に比べて圧力が小さくなるだけでなく波形も変化しており、5Hzという超低周波音に対しても明確な家屋存在の影響を認めることができる。
【0033】
次に、窓のガタつきの具合を眺めてみると、窓ガラスの変位(e)は入射音の音圧波形に対応していること、また、サッシの加速度波形(d)に見られる鋭いパルスに対応してガタつきが発生していることから、この窓は入射音の正圧時(窓ガラスを外から内側に押すとき)にガタつきが発生しやすいことが分かる。なお、ガタつきが始まる時の窓ガラス前面13の音圧レベル、すなわちガタつきの閾値は95dBであった。
【0034】
本発明の装置1は、PC等からの制御信号(電圧信号)を使用してエアーシリンダー4の動きを自在に変動させることができるため、周波数や試験音の発生レベルを自由にコントロールすることができ、しかも本実施例で使用した装置1では入射音圧レベルも最大で110dbまでの大音圧を発生させることができた。
【0035】
以上の結果から、本発明の装置1を使用すれば、比較的ガタつきにくいとされるアルミサッシや、その他の様々な建具について周波数別のガタつき閾値を比較的容易に調査することが可能となるものと推察される。特に、本装置1は可搬型として使えるため、例えば建具のガタつきが問題になっている実際の家屋でガタつき閾値を求め、このガタつきを発生させない低減目標値を把握する等の実験が可能となる。
【0036】
また、本発明者らが開発して既に特許出願したインパルス音源(特願2008−263558号公報参照)を併用すれば、低周波音領域における家屋の遮音性能やガタつきの発生における定常音と衝撃音の違いについても検討することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の超低周波音発生装置は、スピーカーなどでは再生できなかった5〜20Hzの超低周波音を発生することができる持ち運び可能な装置であるため、これまで実施できなかった実際の低周波音暴露条件に近い自由空間で建具等の対象物に超低周波音を入射することができ、より実態に即した建具等のガタつき閾値を調べることが可能となった。また、本装置は建具だけでなく、トンネル発破音や砲撃音などの任意の衝撃性超低周波音の再生が可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1…超低周波音発生装置、2…振動板、3…空圧サーボアクチュエータ、4…エアーシリンダー、5…サラウンド、6…ダクト、7…発電機、8…エアーコンプレッサー、9…エアータンク、10…変位計、11…簡易家屋、12…掃出窓、13…窓ガラス前面、14…家屋内中央。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮空気によって駆動する振動板を備えたことを特徴とする超低周波音発生装置。
【請求項2】
相対する2つの面にそれぞれ振動板を配置し、この2つの振動板が逆位相で駆動されることを特徴とする請求項1に記載の超低周波音発生装置。
【請求項3】
振動板と、この振動板を駆動させるための空圧サーボアクチュエータと、このアクチュエータに圧縮空気を供給するためのエアータンクを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の超低周波音発生装置。
【請求項4】
屋外で使用可能な可搬型であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超低周波音発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−15237(P2011−15237A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158203(P2009−158203)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(000173728)財団法人小林理学研究所 (15)
【Fターム(参考)】