説明

超小形チップ抵抗器及び超小形チップ抵抗器用抵抗体ペースト。

【課題】低抵抗値で且つ低TCRである超小形チップ抵抗器用抵抗体ペーストを提供する。
【解決手段】少なくとも銅粉末を含有する銅系導電性金属粉末とガラスフリットと有機ビヒクルからなるペーストにおいて、銅系導電性金属粉末に銀粉末を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路や電源回路に設ける電流検出回路等に使用されるチップ抵抗器に関し、さらに詳しくは、低抵抗値且つ低抵抗温度係数である超小形チップ抵抗器及び超小形チップ抵抗器用抵抗体ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノートパソコンなどに代表されるように、小形の電子機器の需要は高まる一方であり、これらの電子機器の小形化、高性能化はこれに用いるチップ型電子部品の小形化、高性能化に大きく依存している。
【0003】
そこで、従来のチップ抵抗器の製造方法の一例について、図3(a)に基づいて説明する。図3(a)において、アルミナ基板(縦横に切断用溝が形成されたもの)21の上面の両端部に対向するように表電極22用ペーストを印刷し、アルミナ基板21の下面の両端部に対向するように裏電極23用ペーストを印刷する。これら表電極22用ペーストと裏電極23用ペーストを乾燥後、同時に焼成する。次に、アルミナ基板21の上面の両端部の表電極22、22を接続するようにアルミナ基板21の上面の中央部に抵抗体24用ペーストを印刷し、乾燥後焼成する。そして、必要に応じて抵抗値を調整するために、抵抗体24の一部がレーザートリミングなどの手段により除去される。さらに、抵抗体24を覆うようにガラス層25用ペーストを印刷し、乾燥後焼成する。次に、ガラス層25の上に保護膜26用ペーストが印刷され、乾燥後焼成される。そして、アルミナ基板21が紙面に対して直角方向の切断用溝に沿って短冊状に切断される。さらに、短冊状の各アルミナ基板21の対向する一対の両端面に表電極22と裏電極23を接続するように端面電極27用ペーストが塗布され、乾燥後焼成される。次に、各アルミナ基板21が紙面方向の切断用溝に沿って実際のチップ抵抗器の大きさに切断される。最後に、端面電極27を覆うように、銅メッキ膜28を電気メッキにより形成し、銅メッキ膜28を覆うようにニッケル膜29を電気メッキにより形成し、ニッケル膜29を覆うようにスズメッキ膜30を電気メッキにより形成する。
【0004】
上記のような方法で製造されるチップ抵抗器において、抵抗体となる導電粒子として酸化ルテニウムを主成分とする厚膜抵抗体材料が用いられることが多い。酸化ルテニウムからなる抵抗体材料は抵抗値の温度変化を示す抵抗温度係数(以下、TCRともいう)を、金属酸化物などのTCR調整材料を添加することにより、±50ppm/℃以内という低い値にすることは可能である。しかし、酸化ルテニウムの比抵抗が高いために、低抵抗温度係数とともに低抵抗値を有するチップ抵抗器を提供することは困難である。そこで、以下に説明するようなチップ抵抗器または抵抗体ペーストが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、銅、マンガンおよびゲルマニウムの金属成分を100重量部としたとき、ガラス粉体および銅酸化物粉体を10重量部以下で含有する抵抗体を備えた抵抗器が開示されている。
【0006】
特許文献2には、銅粉とニッケル粉の混合粉またはCu−Ni合金粉からなる導電性粉末100重量部に対して3〜20重量部のガラス粉末および1〜10重量部の銅酸化物粉末を、導電成分の割合が75〜90重量%となるように有機ビヒクルに分散させた抵抗体ペーストが開示されている。
【0007】
特許文献3には、絶縁性基体と、絶縁性基体上に形成された銅とニッケルからなる金属成分100重量部に対して1乃至10重量部の銅酸化物と1乃至12重量部のアルミニウム酸化物と1乃至10重量部のガラス成分を有する抵抗体を備えた抵抗器が開示されている。
【0008】
特許文献4には、銅およびニッケルからなる導電性粉末と、400〜500℃の軟化点を有するカドミウムを含まないガラス粉末と、金属酸化物と、ビヒクルを含む抵抗体ペーストが開示されている。
【0009】
特許文献5には、銅粉体とマンガン粉体とスズ粉体からなる第1の混合粉体と、銅とマンガンとスズの合金粉体と、第1の混合粉体と合金粉体からなる第2の混合粉体の少なくともいずれかの粉体からなる導電性金属粉体と、ガラス粉体と、銅酸化物粉体と、有機ビヒクルからなる抵抗体ペーストが開示されている。
【0010】
特許文献6には、絶縁性基体と、絶縁性基体上に形成された銅とニッケルとマンガンからなる金属成分と、銅酸化物と、ガラス成分を有する抵抗体を備えた抵抗器が開示されている。
【0011】
特許文献7には、絶縁性基体と、絶縁性基体上に形成された銅とニッケルからなる金属成分と、銅酸化物と鉄酸化物からなる金属酸化物成分と、ガラス成分を有する抵抗体を備えた抵抗器が開示されている。
【特許文献1】特開2004−104047号公報
【特許文献2】特開平11−288801号公報
【特許文献3】特開2003−347102号公報
【特許文献4】特開平11−233302号公報
【特許文献5】特開2004−119692号公報
【特許文献6】特開2004−119561号公報
【特許文献7】特開2003−324002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、抵抗器は、電極ならびに電極と重なる抵抗体部分および抵抗体のすべてを一体として性能を評価するが、抵抗器を小形化すると、抵抗値やTCRが大きくなりやすい。というのは、小形チップ抵抗器は、図3(b)に示すように、電極31と抵抗体32自体の寸法が小さいが、その寸法に比して電極31、31間の間隔Dが極めて短い。そのため、抵抗体全体の面積に占める電極と抵抗体が重なる部分(斜線部分)の比率が高くなる。その結果、チップ抵抗器の抵抗値が高くなりやすく、上記重なり部分における電極と抵抗体を構成する元素の相互拡散などによって抵抗体が電極特性の影響を受けやすいので、TCRが高くなる傾向にある。
【0013】
この点で、特許文献1には、抵抗体のTCRとして300ppm/℃以内のものが得られ、3.2mm×1.6mmの大きさのチップ抵抗器に適用可能なことは記載されているが、本発明の対象とする超小形チップ抵抗器(1.0mm×0.5mmの大きさ)に適用可能なことは記載されていない。
【0014】
また、特許文献2に記載された抵抗体ペーストのシート抵抗値は50mΩ/□以下で、TCRは200ppm/℃以下であるが、超小形チップ抵抗器に適用可能なことは記載されていない。
【0015】
また、特許文献3には、3.2mm×1.6mmの大きさのチップ抵抗器において、シート抵抗値が200mΩ/□以下で、TCRが±100ppm/℃以内であることは記載されているが、超小形チップ抵抗器に適用可能なことは記載されていない。
【0016】
また、特許文献4に記載された抵抗体ペーストのシート抵抗値は50mΩ/□以下で、TCRは±100ppm/℃以内であるが、超小形チップ抵抗器に適用可能なことは記載されていない。
【0017】
また、特許文献5には、3.2mm×1.6mmの大きさのチップ抵抗器において、抵抗値が50mΩ以下で、TCRが300ppm/℃以内であることは記載されているが、超小形チップ抵抗器に適用可能なことは記載されていない。
【0018】
さらに、特許文献6には、3.2mm×1.6mmの大きさのチップ抵抗器において、抵抗値が50mΩ以下で、TCRが500ppm/℃以内であることは記載されているが、超小形チップ抵抗器に適用可能なことは記載されていない。
【0019】
そして、特許文献7に記載された抵抗体ペーストのシート抵抗値は100mΩ/□以下で、TCRは200ppm/℃以下であり、3.2mm×1.6mmの大きさのチップ抵抗器に適用可能なことは記載されているが、超小形チップ抵抗器に適用可能なことは記載されていない。
【0020】
本発明は従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は、低抵抗値で且つ低TCRである超小形チップ抵抗器用抵抗体ペーストおよび係るペーストからなる抵抗体を備えた超小形チップ抵抗器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために本発明の超小形チップ抵抗器用抵抗体ペーストは、少なくとも銅を含有する銅系導電性金属粉末とガラスフリットと有機ビヒクルからなる超小形チップ抵抗器用抵抗体ペーストにおいて、銅系導電性金属粉末に銀粉末を添加したことを特徴としている。
【0022】
銅系導電性金属粉末100重量部に銀粉末を1〜10重量部添加することが好ましい。
【0023】
銅系導電性金属粉末が銅粉末を必須とする銅粉末を含有する混合粉末であるとき、銅系導電性金属粉末100重量部中の銅粉末が40〜80重量部であることが好ましい。
【0024】
銅系導電性金属粉末が銅を必須とする銅含有合金粉末を含有する混合粉末であるとき、銅系導電性金属粉末100重量部中の銅含有合金粉末が50〜60重量部であることが好ましい。
【0025】
銅系導電性金属粉末が、銅粉末を必須とし、この銅粉末と、ニッケル粉末、マンガン粉末、スズ粉末もしくは亜鉛粉末の中の少なくとも1種類以上の粉末とを混合した銅粉末を含有する混合粉末、銅を必須とし、この銅と、ニッケル、マンガン、スズもしくは亜鉛の中の少なくとも1種類以上の金属との合金からなる銅含有合金粉末、または、銅粉末、ニッケル粉末、マンガン粉末、スズ粉末もしくは亜鉛粉末の中の少なくとも1種類以上の粉末と上記銅含有合金粉末とを混合した銅含有合金粉末を含有する混合粉末であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明は銅系導電性金属粉末に銀粉末を添加することにより、抵抗値を下げるとともに、銀粉末はTCRをプラス側にシフトする特性があるので、マイナスTCR領域にある銅系導電性金属粉末のTCRを原点近傍の限られた範囲内に制御することができる。
【0027】
従って、超小形チップ抵抗器用抵抗体ペーストとして、銅系導電性金属粉末に銀粉を添加したものを用いることにより、低抵抗で且つ低TCRである超小形チップ抵抗器を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0029】
本明細書において、銅系導電性金属粉末としては、銅粉末を必須とし、この銅粉末と、ニッケル粉末、マンガン粉末、スズ粉末もしくは亜鉛粉末の中の少なくとも1種類以上の粉末とを混合した銅粉末を含有する混合粉末、銅を必須とし、この銅と、ニッケル、マンガン、スズもしくは亜鉛の中の少なくとも1種類以上の金属との合金からなる銅含有合金粉末、または、銅粉末、ニッケル粉末、マンガン粉末、スズ粉末もしくは亜鉛粉末の中の少なくとも1種類以上の粉末と上記銅含有合金粉末とを混合した銅含有合金粉末を含有する混合粉末が好ましい。低コストで低抵抗値の抵抗体を得るために銅は必須成分であるが、銅単独のものはTCRが極めて大きく、抵抗体としての使用に適さない。ニッケルやマンガンやスズや亜鉛は銅に比べて抵抗値が高い。
【0030】
しかし、銅粉末にニッケル粉末、マンガン粉末、スズ粉末または亜鉛粉末を混合したものを焼成すると、粉末のもつ余分な表面エネルギーを減少させようとする方向、つまり表面積を減少させようとする方向に物質移動が起こり、粒子同士の結合が起こる。焼結過程における微細構造の変化は複雑であるが、次の3つの段階に分けて考えることができる。(1)初期段階では、粒子同士の癒着が起こり、この部分の面積が次第に増加する。この変化は頸部成長と呼ばれる。この段階で、相対密度(焼結体密度の理論密度に対する比)は約0.5〜0.6、収縮率では4〜5%程度になる。(2)中期段階では、チャネル状の空隙が次第に狭くなり、相対密度は0.6〜0.95、収縮率は5〜20%近くまでになり、粒子の成長が顕著に起こる。(3)終期段階では、相対密度が0.95以上になり、多面体化した粒子の角の部分や粒内に空隙が残るだけになる。この空隙の消滅によってさらに緻密化が進む。焼結の機構は、蒸発−凝縮機構、拡散機構、溶解−析出機構、流動機構に大別することができるが、実際の焼結現象は多くの場合、いくつかの機構が混ざり合って起こる複雑な現象である。
【0031】
さらに、単相粉末の焼結と異なり、異種混合粉末の焼結の場合、成分の濃度勾配に比例する駆動力が表面応力による駆動力より大きいため、異種混合粉末間の相互拡散や相反応が粒子間結合や緻密化に主要な役割を果たす。しかし、一般に異種成分間の拡散係数値が異なるため、拡散流に不均一を生じ、いわゆるカーケンドール効果により結合ネック近傍に空隙や深い溝が形成されたり、粒子表面に凹凸が形成されるなど極めて複雑な形態変化を呈する。異種金属粉末の焼結体においては空孔の存在(焼結体の密度)が主たる原因となって同組成の溶製金属とは異なる電磁気的性質を示す。焼結体の密度以外にも、焼結組織や不純物の存在も異種金属粉末の焼結体の電磁気的性質に影響を及ぼす。従って、異種金属粉末の混合比率や粉末粒径により焼結体の電磁気的性質は変化する。
【0032】
このように、異種金属粉末の焼結体は同組成の溶製金属とは異なる電磁気的性質を示す。その結果、銅粉末にニッケル粉末、マンガン粉末、スズ粉末もしくは亜鉛粉末を混合した銅系導電性金属粉末とガラスフリットと有機ビヒクルからなるペーストを焼成した焼結体は、銅粉末単体とガラスフリットと有機ビヒクルからなるペーストを焼成した焼結体に比べて抵抗値は増加するが、焼成の結果生じる空孔の存在により一般的に抵抗温度係数は低下する。本発明において抵抗温度係数とは、以下で定義される数値である。試料を温度T0℃およびT1℃に30分間以上静置して、それぞれの温度における抵抗値R0とR1を測定し、次式(1)より抵抗温度係数は算出される。
【0033】
【数1】

【0034】
本発明に従って、銅系導電性金属粉末に適量の銀粉末を添加することにより、抵抗体の抵抗値を低下させることができる。銅の金属結合半径(1.28Å)に比べて銀の金属結合半径(1.44Å)は大きく、ニッケルやマンガンや亜鉛などは銅より金属結合半径が小さいか僅かに大きい程度である。そこで、これら銅系導電性金属粉末の焼結体の空孔状況と、銅系導電性金属粉末に銀粉末を添加した混合粉末の焼結体の空孔状況は異なり、銀粉末を添加することによりTCRはプラス側にシフトする傾向がある。その結果、マイナスTCR領域にある銅系導電性金属粉末の焼結体のTCRを原点近傍の限られた範囲内に制御することが可能である。
【0035】
銅系導電性金属粉末100重量部に対して銀粉末を1重量部以上添加することにより、抵抗体の抵抗値を低下させることができる。銀粉末はTCRをプラスにシフトさせる特性があるので、銀粉末を10重量部超添加すると、TCRの増加代が大きくなりすぎるので好ましくない。
【0036】
銅系導電性金属粉末100重量部中の銅粉末の比率は銅粉末の粒径との関係で以下のようにするのが好ましい。
【0037】
銅系導電性金属粉末が銅粉末を必須とする銅粉末を含有する混合粉末であるとき(銅粉末の平均粒径=1.5〜2.5μm)、銅系導電性金属粉末100重量部中の銅粉末は80重量部以下とするのが好ましい。銅粉末が80重量部を超えると、初期のTCRが高くなりすぎるからである。一方、銅系導電性金属粉末100重量部中の銅粉末は40重量部以上とするのが好ましい。銅粉末が40重量部未満であると、初期の抵抗値が高くなりすぎるからである。
【0038】
銅系導電性金属粉末が銅を必須とする銅含有合金粉末を含有する混合粉末であるとき(銅含有合金粉末の平均粒径=4.5〜5.5μm)、銅系導電性金属粉末100重量部中の銅含有合金粉末は60重量部以下とするのが好ましい。銅含有合金粉末が60重量部を超えると、初期のTCRが高くなりすぎるからである。一方、銅系導電性金属粉末100重量部中の銅含有合金粉末は50重量部以上とするのが好ましい。銅含有合金粉末が50重量部未満であると、初期の抵抗値が高くなりすぎるからである。
【0039】
銅を除く導電性金属粉末の粒径は0.1〜10μmであるのが好ましい。0.1μm未満であると、過焼結でブリスターが発生しやすいという不都合があり、10μmを超えると、焼結しにくいという不都合がある。
【0040】
ガラスフリットとしては、限定されるものではないが、硼珪酸バリウム系ガラス、硼珪酸カルシウム系ガラス、硼珪酸バリウムカルシウム系ガラス、硼珪酸亜鉛系ガラス、硼酸亜鉛系ガラス等を用いることができる。
【0041】
ガラスフリットの粒径はスクリーン印刷で使用できる範囲内のものが好ましく、例えば、粒径0.1〜10μmであるのが好ましい。
【0042】
有機ビヒクルに使用される樹脂としては、例えば、エチルセルロース、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、エチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート等を挙げることができる。また、有機ビヒクルに使用される溶剤としては、例えば、ターピネオール、キシレン、トルエン等を挙げることができる。
【0043】
銅系導電性金属粉末100重量部に対してガラスフリットは1〜10重量部であるのが好ましい。ガラスフリットが1重量部未満であると、接着強度が弱く、10重量部を超えると、抵抗値が高くなり、ガラスの滲み出しが起こり易くなるからである。
【0044】
銅系導電性金属粉末とガラスフリットの合計100重量部に対して、有機ビヒクルは10〜30重量部であるのが好ましい。有機ビヒクルが10重量部未満であると抵抗体ペーストの粘度が高く印刷性が悪くなり、30重量部を超えると抵抗体ペーストの粘度が低くなりすぎ、印刷時にダレが生じるからである。
【0045】
また、膜性状の調節のために、アルミナ粉末や分散剤などの添加剤を使用することができる。
【実施例】
【0046】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において適宜変更と修正が可能である。
(1)超小形チップ抵抗器
図1(a)は、本発明の抵抗体ペーストを適用可能な超小形チップ抵抗器(1.0mm×0.5mm)の一部破断斜視図、図1(b)は図1(a)のB−B矢視断面図、図1(c)は図1(b)の端面部分の拡大図である。
【0047】
図1(a)(b)(c)において、1はアルミナ基板(縦横に切断用溝が形成されたもの)であり、アルミナ基板1の上面の中央部を残して両端部に対向するように第一表電極2、2を形成し、アルミナ基板1の上面の中央部を覆う抵抗体3で両端部の第一表電極2、2を接続し、両端部の第一表電極2上に積層した第二表電極4に抵抗体3の一部を収容し、抵抗体3上に積層した保護膜5で第二表電極4の一部を保護し、アルミナ基板1の下面の両端部に対向するように裏電極6、6を形成し、アルミナ基板1の対向する一対の両端面に第二表電極4,第一表電極2および裏電極6を接続するようにクロム薄膜7を形成し、クロム薄膜7を覆うようにニッケル薄膜8を形成し、さらに、第二表電極4の保護膜5で保護されていない部分、ニッケル薄膜8および裏電極6を覆うように、銅メッキ膜9、ニッケルメッキ膜10、スズメッキ膜11を順次形成する。
【0048】
上記のように構成される超小形チップ抵抗器は以下のように製造することができる。まず、第一表電極2用ペースト組成物と裏電極6用ペースト組成物を印刷し、乾燥後、不活性ガス雰囲気下で同時に焼成する。次に、抵抗体3用ペースト組成物を印刷し、乾燥後、不活性ガス雰囲気下で焼成する。次に、第二表電極4用ペースト組成物を印刷し、乾燥後、不活性ガス雰囲気下で焼成する。必要に応じて所望の抵抗値に調整するために、抵抗体3の一部をレーザートリミングなどの手段により除去する。さらに、保護膜5用樹脂ペーストを印刷し、焼き付ける。次に、アルミナ基板1を紙面に対して直角方向の切断用溝に沿って短冊状に切断する。短冊状の各アルミナ基板1の対向する一対の両端面にクロム薄膜7をスパッタリングにより形成し、クロム薄膜7を覆うニッケル薄膜8をスパッタリングにより形成する。次に、各アルミナ基板1を紙面方向の切断用溝に沿って実際のチップ抵抗器の大きさに切断する。最後に、第二表電極4の保護膜5で保護されていない部分、ニッケル薄膜8および裏電極6を覆うように、銅メッキ膜9、ニッケルメッキ膜10、スズメッキ膜11を電気メッキにより順次形成する。
(2)抵抗体ペースト
図1のチップ抵抗器と図3(a)のチップ抵抗器を比較した場合、図1のチップ抵抗器は、表電極が2層からなる点が異なる。ところが、表電極を2層とすることで低抵抗化を図ることができるが、1.0mm×0.5mmの大きさの超小形チップ抵抗器では、電極と抵抗体の導電性ペーストを構成する合金粉の組成および合金粉とガラスフリットの比率を調整しても、低抵抗値(100mΩ以下)と低TCR化(300ppm/℃以下)を実現することができなかった。その理由としては、超小形チップ抵抗器では、図3(b)に示す抵抗体全体の面積に対する抵抗体と電極の重なり部分(斜線部分)の面積の比率が大きくなり、従来のペースト組成では低抵抗値と低TCR化を実現することができなかったと考えられる。
【0049】
そこで、本発明者は超小形チップ抵抗器用抵抗体ペーストを開発したのである。具体的には、表1に示すように、平均粒径2.2μmの銅粉末と平均粒径0.7μmのニッケル粉末と平均粒径1.8μmの銀粉末からなる銅粉末を含有する混合金属粉末(試料No=1〜12)または平均粒径5.0μmの銅含有合金粉末と平均粒径0.7μmのニッケル粉末と平均粒径1.8μmの銀粉末からなる銅含有合金粉末を含有する混合金属粉末(試料No=13〜25)について、銅粉末または銅含有合金粉末とニッケル粉末を同表記載のような重量比率で配合したもの100重量部に対して、銀粉末を1〜10重量部配合し、さらに、ガラスフリット(硼珪酸ガラス)を6重量部配合し、有機ビヒクル(エチルセルロースのターピネオール溶液)を19重量部配合し、3本ロールミルで混練して抵抗体ペーストを作製した。なお、上記銅含有合金粉末は、Cu:Mn:Sn=92:6:2の重量比率の合金からなる粉末である。
【0050】
このペーストを、アルミナ基板上に図2に示すようなパターン(配線幅W=1mm、L=配線の全長、L/W=220)でスクリーン印刷し、乾燥後、窒素雰囲気下で900℃で10分間焼成し、テスト用抵抗体パターンを形成した。そして、この抵抗体パターンのシート抵抗(mΩ/□/10μm)とTCRを測定した。その結果を表1に示す。
【0051】
なお、抵抗値は、試料を温度25℃、相対湿度65%の恒温・恒湿雰囲気下に30分間静置した後、テスターを用いて4端子法にて測定した。
【0052】
また、TCRは、試料を25℃(T0)および125℃(T1)の雰囲気に30分間静置した後、テスターを用いて4端子法にてそれぞれの抵抗値(R0、R1)を5回繰り返して測定し、式(1)より算出した数値の5回の平均値を採用した。
(3)超小形チップ抵抗器
さらに、図1に示す構造の超小形チップ抵抗器において、抵抗体3を上記組成のペーストとし、第一表電極2と第二表電極4と裏電極6形成用の導電性ペースト組成物は、導電性金属粉末を銅粉末とし、ガラスフリットを硼珪酸ガラスとし、有機ビヒクルをエチルセルロースのターピネオール溶液とし、導電性金属粉末を100重量部、ガラスフリットを6重量部、有機ビヒクルを19重量部配合してなる組成の超小形チップ抵抗器を作製した。
【0053】
そして、この超小形チップ抵抗器の抵抗値とTCRを上記方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1から以下の点が明らかである。
(1)銅粉末または銅含有合金粉末の配合比率が低くなるほど、抵抗値は増加しているが、一方、TCRは低くなる傾向にある。
(2)銅粉末単体のTCRは極めて大きいが、ニッケル粉末を配合することによって急激にTCRを小さくすることができる。しかし、ニッケル粉末を配合すると抵抗が増加するという不都合がある。
【0056】
そこで、試料No4〜7や試料No18〜22のように適正量の銀粉末を添加すると、抵抗値を低くし、しかも、TCRを一定範囲内に収めることができる。
【0057】
銅系導電性金属粉末として銅粉末を必須とする銅粉末を含有する混合粉末(銅粉末の平均粒径=2.2μm)を使用する場合において、銅粉末とニッケル粉末を、80:20〜40:60の重量比率で配合したもの100重量部に銀粉末を1〜10重量部を添加した導電性金属粉末を使用することによって、抵抗値が約100mΩ以下で、TCRが約300ppm/℃以下の低抵抗・低TCRの超小形チップ抵抗器を得ることが可能である。
【0058】
しかし、銅系導電性金属粉末として銅粉末を必須とする銅粉末を含有する混合粉末(銅粉末の平均粒径=2.2μm)を使用する場合において、銅粉末とニッケル粉末の混合粉末中の銅粉末の配合比率が90%以上になると、初期のTCRが高すぎるので、銀粉末を添加しても、低抵抗・低TCRの超小形チップ抵抗器を得ることは困難である。また、銅粉末とニッケル粉末の混合粉末中の銅粉末の配合比率が30%以下になると、初期のTCRが高すぎるので、銀粉末を添加しても、低抵抗・低TCRの超小形チップ抵抗器を得ることは困難である。
【0059】
銅系導電性金属粉末として銅を必須とする銅含有合金粉末を含有する混合粉末(銅含有合金粉末の平均粒径=5μm)を使用する場合において、銅含有合金粉末とニッケル粉末を、60:40〜50:50の重量比率で配合したもの100重量部に銀粉末を1〜10重量部を添加した導電性金属粉末を使用することによって、抵抗値が約100mΩ以下で、TCRが約300ppm/℃以下の低抵抗・低TCRの超小形チップ抵抗器を得ることが可能である。
【0060】
しかし、銅系導電性金属粉末として銅を必須とする銅含有合金粉末を含有する混合粉末(銅含有合金粉末の平均粒径=5μm)を使用する場合において、銅含有合金粉末とニッケル粉末の混合粉末中の銅含有合金粉末の配合比率が70%以上になると、初期のTCRが高すぎるので、銀粉末を添加しても、低抵抗・低TCRの超小形チップ抵抗器を得ることは困難である。また、銅含有合金粉末とニッケル粉末の混合粉末中の銅含有合金粉末の配合比率が40%になると、初期の抵抗値が高くなり、その銅含有合金粉末の配合比率が30%以下になると、初期のTCRが高すぎるので、銀粉末を添加しても、低抵抗・低TCRの超小形チップ抵抗器を得ることは困難である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1(a)は、本発明の抵抗体ペーストを適用可能な超小形チップ抵抗器(1.0mm×0.5mm)の一部破断斜視図、図1(b)は図1(a)のB−B矢視断面図、図1(c)は図1(b)の端面部分の拡大図である。
【図2】抵抗体ペーストの印刷パターンの一例を示す平面図である。
【図3】図3(a)は従来の小形チップ抵抗器の断面図、図3(b)は抵抗体と電極の重なり状態を説明する平面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 アルミナ基板
2 第一表電極
3 抵抗体
4 第二表電極
5 保護膜
6 裏電極
7 クロム薄膜
8 ニッケル薄膜
9 銅メッキ膜
10 ニッケルメッキ膜
11 スズメッキ膜
21 アルミナ基板
22 表電極
23 裏電極
24 抵抗体
25 ガラス層
26 保護膜
27 端面電極
28 銅メッキ膜
29 ニッケルメッキ膜
30 スズメッキ膜
31 電極
32 抵抗体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも銅を含有する銅系導電性金属粉末とガラスフリットと有機ビヒクルからなる超小形チップ抵抗器用抵抗体ペーストにおいて、銅系導電性金属粉末に銀粉末を添加したことを特徴とする超小形チップ抵抗器用抵抗体ペースト。
【請求項2】
銅系導電性金属粉末100重量部に銀粉末を1〜10重量部添加したことを特徴とする請求項1記載の超小形チップ抵抗器用抵抗体ペースト。
【請求項3】
銅系導電性金属粉末が、銅粉末を必須とし、この銅粉末と、ニッケル粉末、マンガン粉末、スズ粉末もしくは亜鉛粉末の中の少なくとも1種類以上の粉末とを混合した銅粉末を含有する混合粉末、銅を必須とし、この銅と、ニッケル、マンガン、スズもしくは亜鉛の中の少なくとも1種類以上の金属との合金からなる銅含有合金粉末、または、銅粉末、ニッケル粉末、マンガン粉末、スズ粉末もしくは亜鉛粉末の中の少なくとも1種類以上の粉末と上記銅含有合金粉末とを混合した銅含有合金粉末を含有する混合粉末であることを特徴とする請求項1または2記載の超小形チップ抵抗器用抵抗体ペースト。
【請求項4】
銅系導電性金属粉末が銅粉末を含有する混合粉末であるとき、銅系導電性金属粉末100重量部中の銅粉末が40〜80重量部であることを特徴とする請求項3記載の超小形チップ抵抗器用抵抗体ペースト。
【請求項5】
銅系導電性金属粉末が銅含有合金粉末を含有する混合粉末であるとき、銅系導電性金属粉末100重量部中の銅含有合金粉末が50〜60重量部であることを特徴とする請求項3記載の超小形チップ抵抗器用抵抗体ペースト。
【請求項6】
請求項1ないし5記載のペーストを焼成したものを抵抗体として用いたことを特徴とする超小形チップ抵抗器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−123301(P2007−123301A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−309325(P2005−309325)
【出願日】平成17年10月25日(2005.10.25)
【出願人】(591100769)釜屋電機株式会社 (16)
【出願人】(397059571)京都エレックス株式会社 (43)
【Fターム(参考)】