説明

超微粒子の製造方法及び改質した超微粒子材料

【課題】 原料の性質を改質する超微粒子の製造方法と改質した超微粒子材料に関し、改質した超微粒子を効率的に得ることのできる超微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】 反応性ガスを含むガスのプラズマを発生させる工程と、原料を蒸発させ、前記反応性ガスを含むガスのプラズマ中を通過させることにより改質された超微粒子を生成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、超微粒子に関し、特に原料の性質を改質する超微粒子の製造方法と改質した超微粒子材料に関する。
【0002】
【従来の技術】プラズマは電離した気体であり、陽イオン、陰イオン(電子を含む)、ラジカルを含む。プラズマは化学的、物理的に活性な性質を有し、種々の処理に用いられている。
【0003】プラズマには、電子温度とガス温度との間に熱的平衡の存在する高温プラズマ(平衡プラズマ)と、電子温度とガス温度との間に熱平衡の存在しない低温プラズマ(非平衡プラズマ)とがある。低温プラズマにおいては、電界で加速される電子の電子温度は中性ガス分子(原子)が支配的な役割を演じるガス温度よりも高い。
【0004】プラズマの放電形式には、直流放電と交流放電とがある。直流放電にはグロー放電、コロナ放電、アーク放電等があり、交流放電には高周波放電、マイクロ波放電等がある。グロー放電、コロナ放電、高周波放電、マイクロ波放電は、低温プラズマを発生させる。アーク放電は、高温プラズマを発生させる。
【0005】プラズマによる高分子材料の製造や表面改質、電子材料のエッチング等の表面処理が行われている。プラズマの化学的活性、物理的活性、あるいは両者を利用するものが知られている。
【0006】さらに、粉体のプラズマによる表面処理技術も報告されている(荒川他編「最新粉体の材料設計」第235〜256頁、1988年、テクノシステム発行(東京))。
【0007】カーボンブラックや高級有機顔料は、粉体であるが、水をはじめとする活性溶媒中への分散のよくない顔料として知られている。これらの顔料は、表面極性が小さく、樹脂や溶媒との親和性が乏しいためと考えられている。表面を極性化すれば、この性質を改質できると考えられる。このような改質処理の1つの方法としてプラズマ処理が提案されている。低温プラズマを利用すれば、反応基質にプラズマの熱作用をほとんど与えることなく、表面を改質することが可能である。
【0008】図2(A)に、従来の技術による粉体処理用プラズマ処理装置の構成例を示す。真空容器51は、例えばパイレックス製のフラスコ51aと、給排気手段を備えた蓋部51bとの組み合わせからなる。真空容器51のフラスコ51aの周囲には、高周波電極であるコイル53が巻かれている。コイル53は、マッチング回路58bを介して13.56MHzの高周波電源58aに接続されている。真空容器51は、自転公転磁場発生装置61bの上に配置され、底部に永久磁石を含むスターラ61aを含む。すなわち、スターラ61aと自転公転磁場発生装置61bとは、マグネチックスターラ61を構成する。
【0009】真空容器の蓋部51bには、給気ポート54、排気ポート55が備えられている。給気ポート54は、たとえばO2 等のガス源に接続されている。排気ポート55は、たとえば真空ポンプ等の排気手段に接続されている。
【0010】真空容器51のフラスコ51a底部にスターラ61aを配置した状態で、フラスコ51aに処理対象である顔料などの粉体を投入する。フラスコ51aの上に蓋51bを気密に結合した後、排気ポート55を介して真空容器51内を真空に排気する。ガス源から給気ポート54を介して処理ガスを導入する。排気ポート55を介する真空ポンプの排気は継続する。
【0011】給気、排気を調整することにより、真空容器51内を所定の減圧状態に保持する。この状態で、高周波電源58aからプラズマ励起電極であるコイル53に高周波電力を供給すると、真空容器51内にプラズマが発生する。真空容器51内に投入された粉体は、プラズマによる処理を受ける。
【0012】フラスコ51a底部に配置したスターラ61aを自転公転磁場発生装置61bが発生する自転公転磁場で回転させることにより、顔料などの粉体をかき混ぜ、粉体の全粒子表面に均一な処理を行う。このようなプラズマ処理により、たとえば粉体顔料の分散性を向上させることができる。
【0013】ところで、粉体の1種として、超微粒子が知られている。超微粒子とは、粒径の極めて小さな粒子であり、バルク状態の同一材料とは明らかに異なる性質を有することによって特徴づけられる。粒子の表面積は、粒径の2乗に比例し、粒子の体積は粒径の3乗に比例する。粒径が小さいことは、表面積が体積に較べて大きなことを意味する。超微粒子は、粒径が極めて小さいために表面の影響が大きくなり、表面の影響が小さなバルクの状態とは異なる性質を示す材料であるとも考えられる。超微粒子は、特徴的には100nm以下の粒径、たとえば50nm以下の粒径を有する。本明細書においては、粒径数μm以下の粒子を超微粒子と呼ぶ。実用上の粒径の下限は約0.01μmである。
【0014】固体粒子の表面は、固体内部と異なり、必然的にダングリングボンドを多く含む。このため、固体表面は固体内部と異なる物性を有する。超微粒子においては、表面の影響が極めて大きくなるため、粒径の大きな粒子とは異なる物性を示すようになるものと考えられている。また、粒径が小さなことにより量子力学的効果が顕著になるとも考えられている。一般的に、超微粒子は粒径の大きな粒子に較べ、化学的に極めて活性な性質を有する。
【0015】図2(b)は、超微粒子生成装置の構成例を示す。真空容器51は、ガス導入ポート54および排気ポート55を有し、その内部を所定圧力に維持することができる。このような、真空容器51によって超微粒子生成空間GSが画定される。真空容器51内には、蒸発源52および基板56が配置される。
【0016】蒸発源52は、たとえば坩堝等に原料を収容し、その蒸気を発生させる。蒸気発生部材52aと、原料を蒸発させるためのエネルギーを供給する手段である電源等のエネルギー源52bを含む。基板56は、生成された超微粒子を回収するための手段であり、たとえば、水等の冷媒を循環させる冷却手段を備えた基板で構成される。ガス導入ポート54は不活性ガス源に接続され、排気ポート55は真空排気手段に接続される。
【0017】真空容器51内を真空に排気した後、ガス導入ポート54から不活性ガスを導入する。排気ポート55を介して真空容器51内を数Torr以下の所定圧力に排気しつつ、蒸発源52から原料を蒸発させる。坩堝等の蒸気発生部材52aから蒸発した原料は、超微粒子生成空間GS内で衝突を繰り返しつつ、次第に粒径を増大させ、やがて基板56に到達して捕集される。
【0018】超微粒子生成空間GS内に導入される不活性ガスは、蒸気発生手段52aから蒸発した蒸気の衝突を促進するためのものであり、化学的に不活性なガスが選択される。基板56上に捕集された超微粒子を回収することにより、超微粒子材料が調製される。
【0019】図2(B)に示すような超微粒子生成装置を用い、カーボンブラックや高級有機顔料などの顔料を製造した場合、得られる超微粒子はやはり分散性の良くない材料である。このような顔料の分散性を向上させるため、図2(A)に示すようなプラズマ処理を行うことが考えられる。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】顔料などの超微粒子材料に対し、従来提案されている粉体のプラズマ処理を施しても、プラズマ処理による効果は不十分であることが判明した。プラズマは、プラズマに対面している表面の改質には有効であるが、陰になった表面に対しては改質効果が少ない。
【0021】超微粒子は、表面が化学的に極めて活性であるため、凝集し易く、一旦凝集すると、スターラ等によって攪拌しても十分分離しない性質を有する。凝集した粉体は、最も外側の表面しかプラズマに対面しない。このため、従来提案されている粉体のプラズマ処理技術によっては、超微粒子の表面改質を十分に行うことは困難である。
【0022】本発明の目的は、改質した超微粒子を効率的に得ることのできる超微粒子の製造方法を提供することである。
【0023】本発明の他の目的は、新規な改質した超微粒子材料を提供することである。
【0024】
【課題を解決するための手段】本発明の一観点によれば、反応性ガスを含むガスのプラズマを発生させる工程と、原料を蒸発させ、前記反応性ガスを含むガスのプラズマ中を通過させることにより改質された超微粒子を生成する工程とを含む超微粒子の製造方法が提供される。
【0025】超微粒子成長と共に、又は超微粒子成長工程に引き続き、超微粒子を浮遊状態に保ったままプラズマ処理を行うことにより、超微粒子の表面を効率的に改質できることが判明した。
【0026】超微粒子生成用の作動ガスとして、反応性ガスを含むガスを用いることにより、超微粒子成長と共に、または成長に引続き改質した表面を有する超微粒子を得ることができる。
【0027】
【発明の実施の形態】図1(A)は、本発明の実施例による超微粒子の製造方法を実施するための製造装置の構成を概略的に示す断面図である。真空容器1は、石英ガラス等で形成され、内部に超微粒子生成空間GSを画定する。真空容器1には、ガス導入ポート4および排気ポート5が設けられている。ガス導入ポート4は、ガス源に接続され、反応性ガスを含むガスを導入する。排気ポート5を介して真空排気装置によって排気することにより、真空容器1内を0.1Torr〜数Torrの範囲内の所定圧力に維持する。
【0028】真空容器1内には、坩堝等の蒸気生成装置2a、プラズマ生成のための放電電極3、生成された超微粒子を回収するための基板6が配置されている。蒸気生成装置2aは、たとえば抵抗ヒータを備え、交流電源等のエネルギ源2bに接続され、選択的に原料を蒸発させることができる。蒸発した原料蒸気はガス分子と衝突を繰り返し、互いにも衝突して、次第に粒径の大きな粒子になる。
【0029】放電電極3は、たとえば直流電源である放電電源8に接続され、真空容器1内でガス導入ポート4から導入されたガス雰囲気中にプラズマを発生させる。プラズマはガス中の反応性ガスを励起し、イオン、ラジカル等の活性種を発生させる。これらの活性種が成長中の超微粒子と衝突すると、反応を生じ、超微粒子を改質する。極性基が表面に取り込まれると、表面は極性化する。真空容器1内に導入するガスは反応性ガスのみでも、反応性ガスと不活性ガスとの混合ガスでもよい。
【0030】基板6は、蒸気発生装置2aから蒸発され、プラズマ中を通過した超微粒子を回収するための基板であり、好ましくは冷媒供給路7aおよび冷媒回収路7bを含み、プラズマと対向する面を冷却する機能を有する冷却手段付き基板である。
【0031】本構成においては、直流電源8に接続された放電電極3が、真空容器1内の超微粒子生成空間GS内に配置され、直流グロー放電を発生させる。蒸気発生装置2aは、たとえばヒータ等の励起手段を備え、電源2bに接続され、選択的に原料の蒸気を発生させることができる。
【0032】まず、蒸発源2の原料蒸気発生装置2aに顔料等の原料を装填した後、排気ポート5から真空容器1内を排気することにより真空容器1内を真空排気する。次に、ガス導入ポート4から反応性ガスを含むガスを導入する。反応性ガスを含むガスの導入と、真空排気装置の排気量とを調整することにより、真空容器1内を所定圧力のガス雰囲気に保つ。たとえば、真空容器1内は、0.1Torr〜数Torrの圧力に保たれる。
【0033】放電電源8から放電電極3に供給する直流電圧を徐々に増大させると、真空容器容器1内でグロー放電が生じる。所望のグロー放電が生じる電圧に放電電源8の供給電圧を調整する。
【0034】次に、基板6内の冷媒通路に所定温度の冷媒を流しつつ、電源2bから坩堝2aのヒータに電流を流すことにより、坩堝2aから対象とする原料の蒸気を発生させる。坩堝2aから発生した原料の蒸気は、放電電極3が形成するプラズマ中を通過しつつ、互いに衝突を繰り返し、徐々に粒径を増大させる。この間にプラズマ中の反応性ガスの励起種が粒子内に取り込まれる。
【0035】粒径が増大した超微粒子は、ガス導入ポート4から排気ポート5に向かうガス流に乗って移動し、基板6上に捕集される。蒸気発生装置2aから蒸発し、基板6に到達するまでの間に、原料蒸気は互いに衝突を繰り返すと共に、ガス導入ポート4から導入されたガス分子とも衝突を繰り返すことにより、通常の超微粒子生成を行う。
【0036】さらに、ガスはプラズマ状態とされているので、ガス中の反応性ガスは極めて化学的に活性な励起種を発生させている。反応性ガス由来種と原料蒸気(粒子)との衝突により生成される粒子の表面は改質される。
【0037】ガス導入ポート4から導入する反応性ガスは、プラズマ状態で原料である顔料から生成される顔料超微粒子表面にイオン、修飾基を導入でき、超微粒子表面を改質し得るものであり、真空下で気体状態を保つものである。例えば、O2 、CO、CO2 、NO、NO2 、N2 O、H2 O、H2 2 等の酸化物、N2 及びNH3 、N2 4 等の窒化物、H2 S及びPH3 、P2 4 等の燐化水素ガス、CH3 OH、C2 5 OH等のアルコール、CH3 OCH、C2 5 OC2 5 等のエーテル、CH4 、C2 6 等の炭化水素、CH3 Cl、CH3 Br、CH3I等の炭化水素ハロゲン置換体、またはこれらの内複数のガスの混合ガスを用いることができる。
【0038】原料蒸気発生装置2aに導入する原料としては、例えば、カーボンブラックや、鮮映性、着色力、透明性、堅牢性等に優れた高級有機顔料等の顔料を用いることができる。原料は、加熱等の方法で蒸発させた場合に、その性状が著しく損なわれないことが必要である。
【0039】有機顔料を原料とする場合、以下に挙げるような材料を用いることができる。黄色顔料としては、アンスラピリミジンイエロー、イソインドリノンイエロー、フラバンスロンイエロー、アシルアミドイエロー、キノフタロンイエロー、縮合アゾイエロー、ニッケルアゾイエロー、銅アゾメチルイエロー等を用いることができる。
【0040】橙色顔料としては、ペリノンオレンジ、イソインドリノンオレンジ、アンスアンスロンオレンジ、ピランスロンオレンジ、ピランスロンレッド等を用いることができる。
【0041】赤色顔料としては、キナクリドンレッド、キナクリドンマゼンダ、キナクリドンスカーレット、ペリレンレッド、ペリレンスカーレット、ペリレンマルーン、ペリレンバーミリオン、ペリレンボルドー、ジアンスラキノニルレッド、チオインジゴマゼンダ、チオインジゴボルドー、縮合アゾレッド等を用いることができる。
【0042】緑色顔料としては、フタロシアニングリーン、ポリクロルブロム銅フタロシアンニン等を用いることができる。
【0043】青色および紫色顔料とては、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー、ジオキサジンバイオレット、イソビオランスロンバイオレット、イソダンスロンブルー等を用いることができる。
【0044】黒色顔料としては、シアニンブラック等を用いることができる。蛍光顔料としては、ルモゲン(Lumogen)Lイエロー、ルモゲンLイエローオレンジ、ルモゲンLレッドオレンジ等を用いることができる。
【0045】無機顔料としては、カーボンブラック等の炭素を主成分としたものを用いることができる。
【0046】原料蒸気発生装置は、原料の蒸気を発生させるものであれば良いが、原料が分解しないことが必要である。たとえば、抵抗加熱、レーザー加熱、ランプ加熱等により原料を蒸発させる装置を用いることができる。
【0047】放電電極による放電方式は、グロー放電、コロナ放電、ア−ク放電、高周波放電、マイクロ波放電等を用いることができる。
【0048】図1(A)においては、グロー放電を行う電極3を例示したが、放電電極の形状などは目的に応じて修正することができる。たとえば、図1(A)に示したコイル状電極の代わりに、平板状電極、筒状電極、球状電極、棒状電極、導波管等を用いてもよい。これらの電極構造において、メッシュ状構造を採用してもよい。放電電極3は、真空容器1内に配置される場合に限らず、真空容器1外に配置されるものであっても良い。
【0049】放電電極3の材質は、金属、ステンレス、カーボン等を用いることができる。真空容器1内に配置される場合と、真空容器1外に配置される場合とで、放電電極3に要求される条件が異なるため、使用条件に応じて放電電極3の材質を選択することが好ましい。
【0050】放電電極3が真空容器1内に配置される場合、放電電極3は、適時通電等により加熱し、表面に付着した付着物を蒸発させることが可能な構成が好ましい。蒸発源2から蒸発する材料が絶縁性、高抵抗率である場合、放電電極3表面上に堆積膜が形成されると、プラズマ発生率の低下を招くことがある。放電電極3を加熱し、堆積膜を蒸発させることにより、このようなプラズマ発生率の低下を防止することができる。なお、放電電極3が真空容器1外部に配置される場合には、このような条件は消滅する。
【0051】基板6は、生成された超微粒子を回収できるものであれば良い。基板6が冷却機能を備える場合、飛来した超微粒子を効率的に回収することが可能となる。基板5を冷却する冷媒としては、水や空気等の周知の冷媒を用いることができる。
【0052】放電電源8から放電電極3に投入する電力は、プラズマを発生させるためには高い方が好ましい。但し、用いるガスの種類や、その圧力、顔料の種類やその蒸発速度によって好ましい投入電力は異なる。顔料等の原料が分解をおこさない程度で放電を行うことが必要である。例えば、直流放電の場合数十W程度の電力が放電電源8から放電電極3に投入される。
【0053】実際の超微粒子の生成工程においては、放電状態が安定した後に、電源2bから蒸気発生装置2aに電流を供給して顔料などの原料を蒸発させる。蒸発した顔料分子は、ガス分子と衝突を繰り返し、冷却されつつ凝結し、超微粒子に成長する。この時、放電によって生じた反応性ガスの活性ラジカルが、超微粒子表面に作用し、化学的な改質が生じる。
【0054】このような作用を受けた超微粒子は、基板6上に回収される。基板6を冷却することにより、超微粒子の回収率、蒸発源からの輻射による超微粒子に対する熱ダメージの抑制を向上させることができる。
【0055】図1(B)は、他の超微粒子製造装置の構成を概略的に示す。図1(A)と同様の参照番号は、図1R>1(A)と同等な部材を示す。以下、図1(A)と異なる部分を主に説明する。
【0056】放電電極3a、3bは、真空容器1の外部に配置され、高周波電源8に接続されて対向電極を構成する。対向電極3a、3b間に高周波電圧を印加することにより超微粒子生成空間GS内に容量結合された高周波電場が発生する。この高周波電場により、導入された反応性ガスを含むガスがプラズマ状になる。
【0057】以下、図(A)に示す装置を用いた本発明の実施例による超微粒子の製造方法を説明する。
【0058】(実施例1)図1(A)に示した装置を用い、顔料にフタロシアニンブルー、作動ガスにH2 O、給電方式に直流グロー放電を用いて改質した超微粒子の製造を行った。用いたフタロシアニンブルーは、東京化成工業(株)製、フタロシアニンカッパーP1006であり、これを原料とした。H2 Oガスの圧力は、0.5Torrとした。放電電力の投入量は、約1Wとした。
【0059】回収された超微粒子を試験管に移し、重量比0.2%で純水中に超音波処理により分散させた。この分散液を放置し、上澄みを試験管中のサンプルの上端部から30μl取り出し、0.1%のポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(トリトンX−100)水溶液2mlで希釈し、フタロシアニンブルーの波長610nm付近の吸収ピークの吸光度を測定する。放置時間は13時間および26時間とし、放置無しの場合の吸光度との比を取り、分散性の指標とした。
【0060】この数値の意味するところは、分散性が悪く、粒子の凝集が生じ、沈降が生じる場合には、上澄みの吸光度は小さくなるため、0に近くなり、沈降も無く安定して分散している場合には、吸光度は初期の値に近くなり、この比は1近くなる。
【0061】図4は、測定の結果を示す。13時間までは安定に分散し、透明感のある分散液を呈し、表面改質された超微粒子が生成されていることを示す。
【0062】(実施例2)導入するガスをNH3 に変更した。その他の条件は実施例1と同様である。
【0063】図5に測定結果を示す。若干の沈降は認められるものの、透明感のある分散液が呈され、良好な分散が得られ、顕著に表面改質された超微粒子が生成されていることが判る。
【0064】(実施例3)作動ガスを02 に変更した。その他の条件は実施例1と同様である。
【0065】図6は、測定結果を示す。沈降は認められず、透明感のある分散液が呈され、良好な分散性が見られ、顕著に表面改質された超微粒子が生成されていることが判る。
【0066】(比較例1)原料に対し、プラズマ処理を全く実施しない。この原料を、水に分散させた。これら以外の条件は実施例1と同様である。
【0067】図7は、測定結果を示す。初期段階においても濁りがあり、沈降が支配的に生じ、安定な分散は全く望めないことが判った。
【0068】(比較例2)作動ガスをHeとし、放電を行わない。これ以外の条件は全て実施例1と同様である。
【0069】図8に測定結果を示す。初期段階においても濁りがあり、沈降が支配的に生じ、安定な分散は全く望めないことが判った。
【0070】(比較例3)作動ガスをHeとした以外は全て実施例1と同様にした。
【0071】図9に、測定結果を示す。初期段階においても濁りがあり、沈降が支配的に生じ安定な分散は全く望めないことが判った。
【0072】(実施例4)用いる顔料をキナクリドンマゼンタとした。作動ガスは02 に変更し、検出する吸光度を580nm付近の吸収ピークに合わせた。これら以外の条件は全て実施例1と同様である。用いたキナクリドンマゼンタは、第日本インキ化学工業(株)製、2,9−ジメチルキナクリドンRTSであった。
【0073】図10は測定結果を示す。若干の沈降は認められるものの、透明感のある分散液が呈され、良好な分散が見られた。顕著に表面改質された超微粒子が生成されていることが判る。
【0074】(実施例5)作動ガスをCO2 に変更した以外は、実施例4と同等の条件を採用した。
【0075】図11は測定結果を示す。沈降は認められず透明感のある分散液が呈され、良好な分散が見られた。顕著に表面改質された超微粒子が生成されていることが判る。
【0076】(比較例4)原料を全くプラズマ処理せずに、水に分散させた以外は全て実施例4と同等の条件とした。
【0077】図12に、測定結果を示す。初期段階においても濁りがあり、沈降が支配的に生じ、安定な分散は全く望めないことが判った。
【0078】(比較例5)作動ガスをHeとし、放電を行わない以外は全て実施例4と同様にした。
【0079】図13に測定結果を示す。初期段階においても濁りがあり、沈降が支配的に生じ、安定な分散は全く望めないことが判った。
【0080】(比較例6)作動ガスをHeとした以外は、全て実施例4と同様とした。
【0081】図14に測定結果を示す。サンプル全体がゲル状に凝集し、沈降成分はそれほどでもないが、濁りがあり、安定な分散は全く望めないことが判った。
【0082】上述の実施例においては、反応性ガス雰囲気中で顔料等の原料を蒸発させ、反応性ガス雰囲気中で超微粒子を生成させた。反応性ガスは、生成される超微粒子の表面改質のためのものである。反応性ガスに改質に寄与しないHe等の不活性ガスを添加してもよいことは当業者に自明であろう。
【0083】ところで、生成される超微粒子は、その表面が改質されていれば改質の目的は達成され、内部まで改質されている必要はない。生成される超微粒子の表面部分のみを改質させる実施例を以下に説明する。
【0084】図3(A)は、プラズマ発生空間を制限した例を示す。図1(A)の実施例と比較すると、超微粒子生成空間が2つの部分GS1、GS2に分割されている。2つの空間の分離に金属メッシュ等を用いてもよい。空間GS1は、図2(B)に示す従来技術と同様の方法で超微粒子を生成する空間であり、プラズマ処理は行わない。空間GS2は超微粒子の成長と改質を行う空間であり、プラズマ処理が行われる。プラズマを発生させる空間GS2に対応して真空容器1の上部空間を囲むように高周波コイル3が配置されている。蒸発源2から蒸発した原料の蒸気は、プラズマの存在しない空間GS1中で所定粒径まで成長し、その後プラズマ空間GS2中に導入される。プラズマ空間GS2中では、超微粒子の粒径が成長すると共に、表面の改質が行われる。このようにして、基板6上に回収される超微粒子は、その表面部分が改質され、内部は改質されていないものとなる。
【0085】なお、ガス導入ポートを図示のように複数設けてもよい。プラズマの存在しない空間GS1に対応させて不活性ガス導入ポート4bを設け、プラズマ空間GS2に対応させて反応性ガス導入ポート4aが設けられている。さらに排気ポートも図示の5a、5bのように複数としてもよい。
【0086】図3(B)は、他の超微粒子製造装置の構成を概略的に示す。超微粒子生成部10は、従来の超微粒子生成装置と同等の構成を有する。蒸発源52から蒸発した原料蒸気は、ガス導入ポート54から導入されたガス雰囲気中で衝突を繰り返し、超微粒子に成長する。成長した超微粒子は、輸送ポート11から輸送配管12を介して作動ガスと共にプラズマ処理室14に搬送される。なお、輸送配管の途中にバッファ室を設けてもよい。
【0087】プラズマ処理室14においては、ガス導入口4から導入された反応性ガスにより、反応性ガスを含むガス雰囲気が形成される。プラズマ処理室14には、排気ポート5が接続され、真空排気装置に接続されている。プラズマ処理室14内の圧力を一定値に保ち、プラズマ励起手段3によりプラズマ処理室14内にプラズマを発生させる。このプラズマにより、導入された超微粒子の表面が改質される。表面が改質された超微粒子は、基板6上に回収される。
【0088】以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、原料として顔料を用いる場合を説明したが、プラズマ処理する原料は顔料に限られない。プラズマ処理により、表面の性質が改質されるものであれば、どのような原料を用いることもできる。たとえば、EL等の発光材料やセンサー等に使える機能性材料や有機半導体、医薬材料等にも利用できると考えられる。金属等の無機材料も利用できるであろう。蒸発方法として、スパッタ、誘導加熱、レーザーアブレーション、電子ビーム加熱等を用いることもできる。
【0089】その他、種々の変更、改良、組み合わせが可能なことは当業者に自明であろう。
【0090】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、超微粒子の表面の性質を改質することが可能となった。従来の凝集した粉体を対象にしたプラズマ処理と較べ、粉体の表面処理を効率的に行えるようになった。超微粒子が凝集する前にその表面処理を行うため、超微粒子の表面を効率的に改質することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例による超微粒子の製造方法を実施するための製造装置を示す概略断面図である。
【図2】従来技術による粉体処理用プラズマ処理装置と超微粒子生成装置を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施例による超微粒子生成方法を実施するための製造装置を示す概略断面図である。
【図4】本発明の実施例による実験結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例による実験結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例による実験結果を示すグラフである。
【図7】比較例の実験結果を示すグラフである。
【図8】比較例の実験結果を示すグラフである。
【図9】比較例の実験結果を示すグラフである。
【図10】本発明の実施例による実験結果を示すグラフである。
【図11】本発明の実施例による実験結果を示すグラフである。
【図12】比較例の実験結果を示すグラフである。
【図13】比較例の実験結果を示すグラフである。
【図14】比較例の実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 真空容器
2 蒸発源
3 放電電極
4 ガス導入ポート
5 排気ポート
6 基板
7 冷媒通路
8 放電電源
GS 超微粒子生成空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】 反応性ガスを含むガスのプラズマを発生させる工程と、原料を蒸発させ、前記反応性ガスを含むガスのプラズマ中を通過させることにより改質された超微粒子を生成する工程とを含む超微粒子の製造方法。
【請求項2】 前記超微粒子を生成する工程が、成長中の超微粒子が浮遊した状態のまま前記反応性ガスのプラズマ中を通過する工程を含む請求項1記載の超微粒子の製造方法。
【請求項3】 前記超微粒子を生成する工程が、一定の平均粒子径までガス中で超微粒子を成長させる成長工程と、前記一定の平均粒子径まで成長した超微粒子をガス中に浮遊させた状態のまま前記反応性ガスを含むガスのプラズマ中を通過させる改質工程とを含む請求項1記載の超微粒子の製造方法。
【請求項4】 前記反応性ガスを含むガスのプラズマが数Torr以下の圧力を有する請求項1記載の超微粒子の製造方法。
【請求項5】 前記原料が顔料である請求項1記載の超微粒子の製造方法。
【請求項6】 前記反応性ガスがO2 、CO2 、NH3 、H2 Oの少なくとも1種類を含む請求項1記載の超微粒子の製造方法。
【請求項7】 各超微粒子が、その体積の一部もしくは全体に亘って極性基を導入されている超微粒子材料。
【請求項8】 前記各超微粒子が顔料を主成分とする請求項7記載の超微粒子材料。

【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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