説明

超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物

【課題】 半導体超微粒子が均一分散したビニル系熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A)アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、アミド基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる2種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された半導体超微粒子と、(B)メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを必須成分とした超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体超微粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物に関する。より詳しくは、(A)アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、アミド基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる2種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された半導体超微粒子と、(B)メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを含有することを特徴とする超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子径100nm以下の半導体超微粒子は、その表面積の大きさや量子特性を利用して、触媒、紫外線遮蔽材料、蛍光材料、発光材料、塗料、磁性材料など多くの用途への展開が検討されている。ところがこのような半導体超微粒子は表面活性が高いため凝集しやすく、安定した分散形態で製造することが困難であり、また原料から分離精製することが困難であった。
【0003】
従来このような超微粒子の凝集を防止し、安定に単離するための技術として保護剤による超微粒子の修飾が提案されている。保護剤としては例えば、ドデカンチオールやメルカプト酢酸などの低分子チオール、オレイン酸やステアリン酸などの長鎖アルキルカルボン酸、オレイルアミンやドデシルアミンなどの長鎖アルキルアミン、トリオクチルホスフィンオキシドやトリブチルホスフィンオキシドなどの長鎖アルキルホスフィンオキシド、ポリビニルピロリドンやポリビニルピリジンなどの配位性ポリマーなどを挙げることができる。
【0004】
しかしドデカンチオールを始めとする低分子化合物は超微粒子安定化の効果が不十分であり、得られる超微粒子は室温で1週間以内に凝集してしまうという問題があった。例えば特許文献1では、低分子チオールと低分子アミンで表面を複合修飾された半導体超微粒子が提案されているが、1ヶ月を超えるような長期保存はできない。
【0005】
特許文献2には、半導体超微粒子を脂溶性表面修飾分子を用いて有機溶媒中へ抽出する方法が記載されているが、該脂溶性表面修飾分子の分子量が小さいために有機溶媒中における分散安定性が不十分であった。脂溶性表面修飾分子として分子量の大きなものを用いた場合には、有機溶媒への抽出に時間がかかるため生産性が低く実用的ではなかった。
【0006】
特許文献3には、表面安定化剤により安定化された半導体超微粒子の表面安定化剤を置換して親水性と親油性の相互変換を行い、半導体超微粒子を水層と有機層に相互移動させて回収する方法が記載されている。しかし該方法は複層半導体超微粒子を製造するための方法であり、表面安定化剤としてポリマーを利用すると外殻層を形成できなくなるために、表面安定化剤としては低分子化合物を使用せざるを得ず、したがって超微粒子の安定性が乏しいという欠点があった。
【0007】
また非特許文献1に記載されているようにカルボキシル基含有ポリスチレンのような配位性ポリマーを用いた場合も、超微粒子への付着力が弱いため長期安定性に問題があった。さらに配位性ポリマーを用いた場合、超微粒子合成の原料をも取り込んでしまうため、超微粒子を精製することが困難であった。半導体超微粒子を強固に修飾できるポリマーとして、特許文献4と特許文献5に末端にSH基を有するポリアルキレングリコールを利用する技術が記載されている。しかし該ポリマーは親水性であるため、親水性溶媒中で合成された半導体超微粒子を疎水性溶媒中へ抽出することができず、半導体超微粒子を単離精製することができなかった。
【0008】
特許文献6には、リン原子含有配位子を有するポリマーで表面修飾された半導体超微粒子について記載されているが、該ポリマーの合成が煩雑であり生産性も低いため実用的ではなかった。特許文献7および8には、アミン化合物もしくはカルボン酸化合物で修飾された半導体超微粒子を末端にSH基を有するポリマーでさらに修飾しているが、超微粒子分散液が不安定であったりSH基を有するポリマーでの修飾が不完全なために均一に超微粒子が分散した組成物が得られにくかった。
【特許文献1】特開2003‐89522号公報
【特許文献2】特開2003‐73126号公報
【特許文献3】特開2003‐226521号公報
【特許文献4】特開2002‐121548号公報
【特許文献5】特開2002‐121549号公報
【特許文献6】特開2002‐105325号公報
【特許文献7】国際公開05/010100号パンフレット
【特許文献8】国際公開06/019008号パンフレット
【非特許文献1】X.Yangら、Langmuir 2004,20,6071
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半導体超微粒子が熱可塑性樹脂中に分散した組成物はこれまで作成されていたが、超微粒子同士が凝集したまま熱可塑性樹脂に分散している組成物であり、超微粒子同士が凝集せずに分散したものはなかった。本発明の課題は、半導体超微粒子同士が凝集せず均一に熱可塑性樹脂に分散した組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するための手段として、以下に示す組成物を発明した。
【0011】
(A)アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、アミド基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる2種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された半導体超微粒子と、(B)メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを必須成分として含有する超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項1)。
【0012】
成分(A)がアミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物からなる群より選ばれる1種類以上の有機低分子化合物と、カルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された半導体超微粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項2)。
【0013】
成分(A)がアミノ基含有化合物とカルボキシル基含有化合物によって表面修飾された半導体超微粒子であることを特徴とする、請求項1または2に記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項3)。
【0014】
半導体超微粒子の分散状態の数平均粒子径が0.1nm以上100nm未満の範囲であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項4)。
【0015】
半導体超微粒子が、III‐V族化合物半導体あるいはII‐VI族化合物半導体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項5)。
【0016】
半導体超微粒子が酸化亜鉛または硫化亜鉛であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項6)。
【0017】
成分(B)メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂が、可逆的付加脱離連鎖移動重合により得られる重合体を処理剤で処理して得られるものであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項7)。
【0018】
処理剤がアレニウス塩基、還元剤、1級アミノ基含有化合物、および2級アミノ基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする、請求項7に記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項8)。
【0019】
成分(A)の半導体超微粒子と成分(B)のメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを溶媒存在下で混合して得られることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項9)。
【0020】
成分(C)メルカプト基を含有しない熱可塑性樹脂をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物(請求項10)。である
【発明の効果】
【0021】
本発明においては、配位性の官能基を有する2種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された半導体超微粒子と、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを、有機溶媒存在下混合する。そのプロセスによって、メルカプト基よりも配位能の低い有機低分子化合物を、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂に置き換え、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂と有機低分子化合物によって修飾された超微粒子を生成させるため、樹脂との相溶性が向上し超微粒子が熱可塑性樹脂組成物に均一分散するようになる。
【0022】
本発明に使用する半導体超微粒子とメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂は、別々に調製することができる為、公知の半導体超微粒子と公知のメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂との、あらゆる組み合わせに容易に適用することができ応用範囲が広い。また本樹脂組成物の製造法は簡便な為、大量製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明で用いられる超微粒子のうち、半導体超微粒子としては、以下のようなものが挙げられる。C、Si、Ge、Sn等の周期表第14族元素の単体、P(黒リン)等の周期表第15族元素の単体、SeやTe等の周期表第16族元素の単体、SiC等の複数の周期表第14族元素からなる化合物、SnO2、Sn(II)Sn(VI)S3、SnS2、SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、PbTe等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、BN、BP、BAs、AlN、AlP、AlAs、AlSb、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb等の周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物(あるいはIII‐V族化合物半導体)、Al23、Al2Se3、Ga23、Ga2Se3、Ga2Te3、In23、In23、In2Se3、In2Te3等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、TlCl、TlBr、TlI等の周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、HgS、HgSe、HgTe等の周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物(あるいはII‐VI族化合物半導体)、As23、As2Se3、As2Te3、Sb23、Sb2Se3、Sb2Te3、Bi23、Bi2Se3、Bi2Te3等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、Cu2O、Cu2Se等の周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、CuCl、CuBr、CuI、AgCl、AgBr等の周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、NiO等の周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、CoO、CoS等の周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物、Fe34等の酸化鉄類、FeS等の周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、MnO等の周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、MoS2、WO2等の周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、VO、VO2、Ta25等の周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、TiO2、Ti25、Ti23、Ti59等の酸化チタン類(結晶型はルチル型、ルチル/アナターゼの混晶型、アナターゼ型のいずれでも構わない)、ZrO2等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、MgS、MgSe等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、CdCr24、CdCr2Se4、CuCr24、HgCr2Se4等のカルコゲンスピネル類、あるいはBaTiO3等が挙げられる。(なお、本願では、周期表のアラビア数字で示す族は長周期表における族であり、ローマ数字で示す族は短周期表における族を示す。)。
【0024】
これら半導体超微粒子のうち好ましいものは、例えばSnO2、SnS2、SnS、SnSe、SnTe、PbS、PbSe、PbTe等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb等のIII‐V族化合物半導体、Ga23、Ga23、Ga2Se3、Ga2Te3、In23、In23、In2Se3、In2Te3等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、HgO、HgS、HgSe、HgTe等のII‐VI族化合物半導体、As23、As23、As2Se3、As2Te3、Sb23、Sb23、Sb2Se3、Sb2Te3、Bi23、Bi23、Bi2Se3、Bi2Te3等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、前記の酸化チタン類やZrO2等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、MgS、MgSe等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物である。
【0025】
これらの中でも、GaN、GaP、GaAs、GaSb、InN、InP、InAs、InSb等のIII‐V族化合物半導体、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdO、CdS、CdSe、CdTe、HgO、HgS、HgSe、HgTe等のII‐VI族化合物半導体は、可視領域とその近傍に発光帯を有するため工業的にも重要であり、より好ましい。
【0026】
さらに、これらの中でも半導体結晶の粒径の制御性と発光能が高く、毒性の高い元素を含まないことからZnO、ZnSがさらにより好ましい。
【0027】
ここで例示した任意の半導体結晶の組成には必要に応じて微量のドープ物質(故意に添加する不純物の意味)として例えばAl、Mn、Cu、Zn、Ag、Cl、Ce、Eu、Tb、Er等の元素を加えても構わない。
【0028】
本発明で用いられる半導体超微粒子は、気相法、液相法、など一般的に用いられる超微粒子の製造方法を用いて、半導体の前駆体から合成して製造されるのが一般的であるが、超微粒子の製造方法はこれらの方法に限定されるものではなく、公知の任意の方法を用いる事ができる。以下に製造方法を例示する。
【0029】
半導体超微粒子の製造方法としては、原料水溶液を非極性有機溶媒の逆ミセル中に存在させ、結晶成長させる方法(逆ミセル法)、熱分解性の原料を高温の液体有機溶媒中で結晶成長させる方法(ホットソープ法)、原料の錯体を酸塩基反応を用いて水酸化物錯体に変換し続いて水酸化物錯体同士で脱水することにより結晶を成長させる方法(ゾル生成法)などにより製造可能であり、これらの方法を用いれば得られる半導体超微粒子の粒子径制御が容易であることなどから好ましく用いられる。
【0030】
超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の超微粒子の分散状態の数平均粒径は、特に限定されないが、微粒子の量子的特性が顕著となる点で0.1nm以上100nm未満の範囲が好ましい。数平均粒径が0.1nmに満たないと、半導体超微粒子としての性質が十分に発現しない場合がある。0.5nm以上50nm未満がより好ましく、1nm以上20nm未満がさらに好ましい。
【0031】
なお本発明における数平均粒径とは、透過型電子顕微鏡にて撮影された写真を用いて、少なくとも100個以上の粒子の粒子径を定規により測定して算出した数平均粒子径をいう。但し、電子顕微鏡で撮影された粒子の写真が円形でない場合には、粒子の占める面積を算出した後、同面積を有する円形に置き換えた際の円直径を用いて計算する。
【0032】
本発明の半導体微粒子含有熱可塑性樹脂組成物中の半導体超微粒子の部数としては、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂100重量部あたり、0.01重量部以上1000部未満の範囲が好ましい。半導体超微粒子が0.01重量部未満しか含まれない場合は、半導体超微粒子の特性が発現されない為好ましくない。また、1000重量部以上含まれると、熱可塑性樹脂組成物中の半導体超微粒子の分散性が低下する為好ましくない。0.1重量部以上100重量部未満がより好ましく、0.5重量部以上20重量部未満がさらに好ましい。
【0033】
本発明で用いるアミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、アミド基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる2種以上の有機低分子化合物は、半導体超微粒子の表面を修飾し、有機低分子化合物の立体障害によって超微粒子同士が凝集するのを防ぐ役割がある。
【0034】
さらにアミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物は、表面修飾した微粒子を末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂と混合した際に、配位能力がメルカプト基より弱い為に超微粒子表面から脱離し、末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂と修飾剤交換をすることができる。そのことによって、メルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂によって表面が修飾された超微粒子が生成し、超微粒子は樹脂中に分散し易くなる。
【0035】
カルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物は、超微粒子の表面修飾剤として超微粒子同士の凝集を防ぐことはできるが、配位能力が強い為、メルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂との修飾剤交換を行うことが難しい傾向があるが、しかしながら、超微粒子同士の凝集を防ぐ効果は強い傾向が認められる。
【0036】
好ましい有機低分子化合物の組み合わせとしては、修飾剤交換をすることができるアミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物と、超微粒子同士の凝集を防ぐ効果が強いカルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を、併用し超微粒子を表面修飾することが好ましい。
【0037】
アミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物からなる群より選ばれる化合物だけで超微粒子を表面修飾すると、凝集を防ぐ効果が低い為に、製造過程もしくは製造後長期間経過する間に、超微粒子同士が凝集し凝集塊を形成する可能性がある。しかしながら、カルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を併用し超微粒子を修飾することによって凝集塊の形成を妨げることができる。一方、カルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる化合物だけで超微粒子を表面修飾すると、メルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂と修飾剤交換ができない為に、樹脂との相溶性が低く、超微粒子は樹脂中に分散しない可能性がある。
【0038】
しかしながら、アミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物を併用し超微粒子を修飾することによって、メルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂と修飾剤交換をすることができ、樹脂との相溶性が向上し、超微粒子が樹脂中に分散し易くなる。
【0039】
カルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる化合物との反応性の低さ、化合物の入手容易性の観点から、アミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物が好ましく、中でもアミノ基含有化合物がより好ましい。また、スルホン酸基含有化合物、およびスルフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる化合物は、酸性が高く半導体超微粒子の種類によっては溶解する可能性があること、ホスホン酸基含有化合物およびホスフィン酸基含有化合物はカルボキシル基含有化合物と比較して入手し難いこと等から、カルボキシル基含有化合物が好ましい。
【0040】
有機低分子化合物は、炭化水素構造と上記の官能基のみの化合物であることが好ましい。炭化水素構造としては、アルキル基や、アルキレン基、芳香族基があり、超微粒子同士の凝集を防ぐ為に短鎖のものよりも、中鎖、長鎖の炭化水素構造が好ましい。そのような炭化水素構造として、オレイル基、ドデシル基、ステアリル基、オクチル基、ヘキシル基が好ましい。有機低分子化合物の分子量は、50以上1,000未満であることが好ましい。50未満であると超微粒子同士の凝集を防ぐことが難しくなることと共に、化合物が気化し易く取り扱いの点で好ましくない。また分子量が1,000以上であると、分子中の官能基の比率が減り、超微粒子の表面を修飾する為に多くの部数が必要になり、経済的ではない為好ましくない。
【0041】
そのようなアミノ基含有化合物の例としては、1-アミノ-n-ブタン、1-アミノ-n-ヘキサン、1-アミノ-n-オクタン、1-アミノ-n-デカン、1-アミノ-n-ドデカン、1-アミノ-n-ヘキサデカン、オレイルアミン、ジブチルアミン、トリプロピルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ピペリジン等のアルキルアミン類、ピリジン、アニリン、ベンジルアミン等の芳香族基を有するアミン類等を挙げることができる。
【0042】
また、カルボキシル基含有化合物の例としては、オレイン酸、ステアリン酸、ラウリン酸、オクタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、6−フェニルヘキサイック酸、4‐オクチル安息香酸等のカルボン酸化合物を挙げることができる。また、ヒドロキシル基含有化合物の例としては、1‐ヘキサノール、1‐オクタノール、1‐ドデカノール、オレイルアルコール、フェノール、ベンジルアルコール等のヒドロキシル基含有化合物を挙げることができる。また、アミド基含有化合物の例としては、ヘキサンアミド、デカンアミド、オクタデカンアミド、ベンズアミド、ホルムアニリド、N,N‐ジメチルベンズアミド等のアミド基含有化合物を挙げることができる。
【0043】
また、スルホン酸基含有化合物の例としては、1‐ヘキサンスルホン酸、1‐ドデカンスルホン酸、1‐ナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸基含有化合物を挙げることができる。また、スルフィン酸基含有化合物の例としては、1‐ヘキサンスルフィン酸、1‐ドデカンスルフィン酸、1‐ナフタレンスルフィン酸、ドデシルベンゼンスルフィン酸等のスルフィン酸基含有化合物を挙げることができる。また、ホスホン酸基含有化合物の例としては、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、t‐ブチルホスホン酸、フェニルホスホン酸等のホスホン酸基含有化合物を挙げることができる。また、ホスフィン酸基含有化合物の例としては、ジメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸等のホスフィン酸基含有化合物を挙げることができる。
【0044】
上記の有機低分子化合物の使用量は特に限定されない。しかしながら、使用する2種以上の有機低分子化合物のモル数の合計が、半導体超微粒子のモル数の0.001モル当量以上10モル当量未満になることが好ましい。0.001モル当量未満であると、超微粒子の表面修飾が不十分で超微粒子が凝集する可能性が有る。また10モル当量以上であると、経済的でないと共に、有機低分子化合物によって本発明の熱可塑性樹脂組成物の機械物性等の特性が低下する可能性が有り好ましくない。0.05モル当量以上5モル当量未満がより好ましい。さらには0.1モル当量以上1モル当量未満がより好ましい。
【0045】
これらの有機低分子化合物による半導体超微粒子の表面修飾法は、特に限定されないが、超微粒子を合成する際に系に添加しておく方法や、超微粒子を合成した後に有機低分子化合物で修飾する方法が有り、超微粒子合成法に応じて適宜検討する必要がある。
【0046】
本発明で使用するメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂としては特に限定されず、末端にメルカプト基を有しモノマーユニットが10個以上つながった構造の化合物が使用可能である。樹脂構造としては直鎖状、枝状、デンドリマー、ハイパーブランチなど限定されないが、超微粒子を修飾する効率が高い点で直鎖状ポリマーが好ましい。またポリマーの1次構造も特に限定されず、単独重合体、ブロック重合体、ランダム重合体、傾斜重合体などいずれも使用可能であり、シンジオタクチックポリマー、イソタクチックポリマー、ヘテロタクチックポリマーなど立体規則性ポリマーも使用可能である。
【0047】
このようなポリマーの具体例としては、チオ酢酸の存在下に酢酸ビニルを重合し、次いで末端基を加水分解させて得られるポリマーや、J.Am.Chem.Soc.,123,10411(2001)に記載されているようなメルカプト基を有するポリスチレンなどを挙げることができる。
【0048】
本発明で使用する末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂は、メルカプト基を容易にかつ確実に導入でき、分子量や分子量分布の制御が可能である点で、可逆的付加脱離連鎖移動(RAFT)重合の後、処理剤により末端メルカプト化された熱可塑性樹脂が最も好ましい。すなわちチオカルボニルチオ化合物の存在下にビニル系モノマーをラジカル重合することにより、チオカルボニルチオ基を有する熱可塑性樹脂を合成し、続いて処理剤を用いてチオカルボニルチオ基の結合を切断しメルカプト基を生成させることにより、末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂を得ることができる。以下にRAFT重合により得られる末端にメルカプト基を有する熱可塑性樹脂について説明する。
【0049】
本発明のRAFT重合で用いる連鎖移動剤は、チオカルボニルチオ基を有している化合物であれば特に限定はないが、好ましくは、一般式(1)
【0050】
【化1】

【0051】
(式中、Rは炭素数1以上の1価の有機基であり;Zは硫黄原子(p=2の場合)、酸素原子(p=2の場合)、窒素原子(p=3の場合)、または炭素数1以上のp価の有機基であり;pは1以上の整数であり;pが2以上の場合、Rは互いに同じでもよく異なっていてもよい)で示される化合物である。
【0052】
前記チオカルボニルチオ基を有する化合物において、炭素数1以上の1価の有機基Rとしては特に限定されず、炭素原子以外に水素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、ハロゲン原子、ケイ素原子、リン原子、および金属原子のうちの少なくとも一つを含んでいてもよく、高分子量体であってもよい。Rの例としては、アルキル基、アラルキル基、およびこれらの置換体等を挙げることができる。
【0053】
上記RAFT重合に供するモノマーとしては特に限定されないが、例えば以下の化合物を挙げることができる:アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n‐プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n‐ブチル、アクリル酸t‐ブチル、アクリル酸n‐ヘキシル、アクリル酸2‐エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸2‐メトキシエチル、アクリル酸3‐メトキシブチル、アクリル酸2‐ヒドロキシエチル、アクリル酸2‐ヒドロキシプロピル、アクリル酸グリシジル、2‐アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、2‐アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、アクリル酸2,2,2‐トリフルオロエチル、アクリル酸アリルなどのアクリル酸エステル系モノマー;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n‐プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n‐ブチル、メタクリル酸t‐ブチル、メタクリル酸n‐ヘキシル、メタクリル酸2‐エチルヘキシル、メタクリル酸n‐オクチル、メタクリル酸n‐デシル、メタクリル酸n‐ドデシル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸2‐メトキシエチル、メタクリル酸3‐メトキシブチル、メタクリル酸2‐ヒドロキシエチル、メタクリル酸2‐ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2,2,2‐トリフルオロエチル、メタクリル酸アリルなどのメタクリル酸エステル系モノマー;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸カリウムなど;スチレン、α‐メチルスチレン、p‐メチルスチレン、p‐メトキシスチレンなどのスチレン系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系モノマー;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどの共役ジエン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、けい皮酸ビニルなどのビニルエステル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステルなどの不飽和ジカルボン酸化合物およびその誘導体;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド化合物など。
【0054】
これらモノマーは単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。使用するモノマーは、最終的に得られる超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の要求特性に応じて選択すればよい。
【0055】
本発明において適用する上記RAFT重合方法は、その形式に関しては特に限定されず、例えば塊状重合、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、微細懸濁重合などを適用することができる。塊状重合以外の場合に使用する媒体(溶媒)としては特に限定されず、ラジカル重合において一般的に使用されているものを使用することができる。入手性および重合の容易さの点で、水、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトンが好ましい。
【0056】
RAFT重合の実施に関しては一般的に知られている方法を採用すればよいが、典型的には以下のように行う。反応器に上記チオカルボニルチオ化合物、重合開始剤、単量体、必要に応じて媒体(溶媒)を入れ、系内の酸素を常法により除去した後、不活性ガス雰囲気で加熱撹拌する。RAFT重合の特徴として、単量体/チオカルボニルチオ化合物の仕込み比と単量体の反応率に応じて、得られる熱可塑性樹脂の分子量が決まるため、所望の分子量の熱可塑性樹脂を得ることができる。
【0057】
本発明の実施においては、上記RAFT重合で得られるチオカルボニルチオ基を有するビニル系熱可塑性樹脂を処理剤により処理し、片末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂を得る。このような処理剤としては限定されないが、反応効率が高い点で、塩基性化合物、還元剤、または水素‐窒素結合含有化合物が好ましい。
【0058】
上記処理剤のうち、塩基性化合物としては特に限定されないが、金属水酸化物、金属アルコキサイド、金属水素化物、強塩基と弱酸の無機塩、有機金属試薬、3級アミン化合物、アルカリ金属、アルカリ土類金属を挙げることができる。上記処理剤のうち還元剤としては特に限定されないが、水素化ナトリウム、水素化リチウム、水素化カルシウム、LiAlH4、NaBH4、LiBEt3H、水素などを挙げることができる。上記処理剤のうち水素‐窒素結合含有化合物としては特に限定されないが、例えばアンモニア、ヒドラジン、1級アミノ基含有化合物、2級アミノ基含有化合物、アミド基含有化合物、アミン塩酸塩含有化合物、水素‐窒素結合含有高分子、およびヒンダードアミン系光安定剤(HALS)などを挙げることができる。
【0059】
これらの化合物のうち、反応の効率が高い点で、アレニウス塩基、還元剤、および1級アミノ基含有化合物、および2級アミノ基含有化合物が好ましい。取り扱いが容易である点、入手性および回収除去の容易さの点で、1級アミノ基含有化合物および2級アミノ基含有化合物がさらに好ましく、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、シクロヘキシルアミンがよりさらに好ましい。
【0060】
末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂の分子量は、使用する半導体超微粒子の種類、粒子径、使用する熱可塑性樹脂の種類、粒子の添加量などにより好ましい範囲が異なるため限定されないが、重合反応の進行の容易さ、メルカプト基の導入率の点で数平均分子量として1000〜10万の範囲が好ましく、2000〜5万の範囲がより好ましい。
【0061】
上記RAFT重合により製造される末端にメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂は、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が通常1.5以下、一般的には1.3以下となる。分子量分布が狭くなると、半導体超微粒子の分散性が向上し、熱可塑性樹脂組成物の透明性、成形性、機械物性が優れるなどの利点がある。
【0062】
表面修飾半導体超微粒子と、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを混合する方法としては、溶媒存在下で混合する方法と、溶媒を用いずに混合する方法がある。溶媒を用いずに混合する方法には、液体のメルカプト末端を有する樹脂と超微粒子を混合する方法、固体状態のメルカプト末端を有する樹脂を加熱し溶融状態にして超微粒子と混合する方法がある。溶媒を用いずに混合する方法は大量生産に適しているが、超微粒子を樹脂に均一に分散させる為には、樹脂に剪断力をかけることができる混練機等の装置や混合条件を選択しなければならない。
【0063】
一方、溶媒存在下で混合する方法は、超微粒子が分散し且つ樹脂が溶解する溶媒を選択すれば、一般的な撹拌機や混合条件を用いるだけで、均一に超微粒子が分散した樹脂組成物を容易に得られることができる為好ましい。
【0064】
混合する際に用いる溶媒としては、表面修飾した半導体超微粒子が溶媒中に分散し、且つメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂が溶解する溶媒であれば特に限定されず、汎用されている溶媒を用いることができる。また、半導体微粒子が分散する溶媒と、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂が溶解する溶媒の、2種の溶媒を混合して用いることもできる。溶媒としては、半導体超微粒子、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂と、反応をしないものが好ましい。
【0065】
そのような溶媒としては、エーテル系溶媒のジエチルエーテル、テトラハイドロフラン、1,4‐ジオキサン、ジフェニルエーテル等、エステル系溶媒の酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチル等、アルカン系溶媒のヘキサン、ヘプタン、石油エーテル等、芳香族系溶媒のトルエン、ベンゼン、キシレン等、ケトン系溶媒のアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等、アルコール系溶媒のメタノール、エタノール、2‐プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等、アミン・アミド系溶媒のピリジン、ジエチルアミン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等、ハロゲン溶媒のジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等、スルホキシド系溶媒のジメチルスルホキシドがある。また、超臨界状態の二酸化炭素も取り扱いに特別な装置を必要とするが用いることができる。
【0066】
溶媒の部数については特に限定されず、半導体超微粒子が溶媒中に分散し、且つメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂が溶解すれば、どのような部数でも構わない。溶媒の部数は、作成する超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物100重量部に対して、0.01〜100,000重量部が好ましく、より好ましくは、100〜10,000重量部である。溶媒の使用量が0.01重量部より少ない場合は、熱可塑性樹脂が溶解しない、または溶解したとしても系の粘度が高く均一に攪拌できないために好ましくない。また溶媒の使用量が、100,000重量部を越えた場合は経済的ではなく好ましくない。
【0067】
溶媒存在下混合する方法としては、半導体超微粒子とメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂が、溶媒に分散または溶解している状態で系が均一に撹拌されていれば、撹拌速度等は特に限定されない。均一に攪拌されずに局所的に攪拌されない部分があった場合には、超微粒子が不均一に分散した熱可塑性樹脂組成物が作成されるため好ましくない。撹拌時間は特に限定されないが、1分間以上12時間未満が好ましい。1分間より短い時間であると、超微粒子表面を修飾しているアミノ基含有化合物、またはヒドロキシル基含有化合物、アミド基含有化合物は、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂と修飾剤交換する反応が終わらない為好ましくない。
【0068】
また、修飾剤交換反応は12時間未満の時間で終了すると考えられる為、12時間以上の撹拌は不必要であり好ましくない。より好ましい撹拌時間は、30分以上3時間未満である。撹拌時に溶媒を加熱しても良く特に限定されない。加熱温度としては、溶媒の沸点以下で、且つ有機低分子化合物、熱可塑性樹脂の分解温度以下であることが好ましい。撹拌時の雰囲気は特に限定されない。混合装置としては、上記の混合条件を満たすものであれば特に限定されない。
【0069】
混合後の溶媒の除去の方法は特に限定されない。溶媒の除去の方法としては、加熱乾燥による方法、減圧下での加熱蒸留による方法、樹脂の貧溶媒を用いた再沈澱による方法、または溶融混練機を用いて樹脂組成物を混練しながら同時に溶媒を留去する方法等を挙げることができる。
【0070】
本発明の超微粒子含有樹脂組成物は、メルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂以外の熱可塑性樹脂を含有してもよい。超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物の機械的特性を改善する目的で、そのような熱可塑性樹脂を含有させることもできる。
【0071】
このような熱可塑性樹脂は、超微粒子やメルカプト基を有するビニル系熱可塑性樹脂と反応しないものが好ましい。熱可塑性樹脂は、表面修飾した超微粒子を合成する際にあらかじめ混合しておいてもよく、超微粒子を合成した後の段階で添加してもよい。表面修飾微粒子を合成した後に添加して混合する場合には、適当な溶媒を使用してもよく、あるいは溶融混練してもよい。
【0072】
本発明で使用するこのような熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、末端にメルカプト基を有する熱可塑性樹脂との相溶性を調節することにより、超微粒子の分散性やモルフォロジーを制御することが可能となる。例えば共連続構造や海島構造の一方の相にのみ超微粒子を局在化させたり、熱可塑性樹脂組成物の表面に超微粒子を局在化させたりすることが可能となる。
【0073】
本発明で使用する上記熱可塑性樹脂の具体例としては特に限定されないが、ポリスチレンなどの芳香族ビニル系樹脂、ポリアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニルなどの塩素系樹脂、ポリメチルメタクリレート等のポリメタアクリル酸エステル系樹脂やポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンや環状ポリオレフィン樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ酢酸ビニルなどのポリビニルエステル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂及びこれらの誘導体樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂やポリアクリル酸系樹脂及びこれらの金属塩系樹脂、ポリ共役ジエン系樹脂、マレイン酸やフマル酸及びこれらの誘導体を重合して得られる樹脂、マレイミド系化合物を重合して得られる樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアルキレンオキシド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、フッ素系樹脂、液晶ポリマー、及びこれら例示された樹脂のランダム・ブロック・グラフト共重合体などが挙げられる。
【0074】
熱可塑性樹脂の使用量については特に制限はないが、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂100重量部あたり、100,000重量部未満になるような使用量が好ましい。熱可塑性樹脂を100,000重量部以上使用した場合には、メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂や半導体超微粒子の部数が少なすぎるため、半導体超微粒子の特性が発現されない為好ましくない。1000重量部未満がより好ましい。
【0075】
更に本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の特性を損なわない範囲で強化充填剤を添加してもよい。これにより耐熱性や機械的強度等の向上を図ることができる。このような強化充填剤としては特に限定されず、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウム繊維等の繊維状充填剤;ガラスビーズ、ガラスフレーク;タルク、マイカ、カオリン、ワラストナイト、スメクタイト、珪藻土等のケイ酸塩化合物;炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。なかでも、ケイ酸塩化合物及び繊維状充填剤が好ましい。
【0076】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物をより高性能なものにするため、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等の酸化防止剤、リン系安定剤等の熱安定剤を1種のみで又は2種類以上併せて使用することが好ましい。更に必要に応じて、通常良く知られた、滑剤、離型剤、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、ドリッピング防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、染料、帯電防止剤、導電性付与剤、分散剤、相溶化剤、抗菌剤等の添加剤を使用することもできる。
【0077】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形加工法としては特に限定されず、一般に用いられている成形法、例えば、フィルム成形、射出成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、プレス成形、カレンダー成形、発泡成形等を利用することができる。また本発明の熱可塑性樹脂組成物は、種々の用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。
樹脂組成物中の半導体超微粒子の数平均粒径測定:得られた樹脂組成物から、ウルトラミクロトーム(ライカ製ウルトラカットUCT)を用いて超薄切片を作成した後、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子JEM‐1200EX)を用いて、倍率1万倍〜40万倍で半導体超微粒子の分散状態を複数箇所で写真撮影した。得られたTEM写真において少なくとも100個以上の粒子で粒径を測定することにより、粒子の数平均粒径を算出した。
【0079】
(製造例1)片末端にメルカプト基を有するポリメチルメタクリレートの製造
還流冷却管、窒素ガス導入管、温度計、磁気撹拌子を備えた反応器に、チオカルボニルチオ基を有する化合物としてクミルジチオベンゾエート(8.01g)、単量体としてメチルメタクリレート(500g)、溶媒としてトルエン(260g)、重合開始剤として2,2’‐アゾビスイソブチロニトリル(1.11g)を入れ、窒素ガスをバブリングしながら系内を減圧する方法により脱酸素・窒素置換を行った。
【0080】
85℃で4時間撹拌し重合を行った。室温まで温度を下げ、n‐ブチルアミン(16.8ml)を滴下し70℃で2時間攪拌した。冷却後、メタノールに注いで重合体を析出させた。さらにメタノールで洗浄後乾燥し、末端にメルカプト基を有するポリメチルメタクリレートを得た。えられた重合体のGPC測定を行い、分子量および分子量分布を決定した(Mn=12,000、Mw=14,000、Mw/Mn=1.17)。
【0081】
(製造例2)片末端にメルカプト基を有するポリスチレンの製造
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流冷却管を備えた100mL反応器に、スチレン(27.0g)、アゾビスイソブチロニトリル(9mg)、およびベンジルジチオベンゾエート(68mg)を入れ、系内を窒素置換した。反応液を撹拌しながら60℃で20時間加熱した。反応液を室温まで冷却した後、メタノール(200mL)中に注ぎ込み、Mw=16200、Mn=14000、Mw/Mn=1.16の重合体(4.3g)を得た。
【0082】
1H NMR測定の結果、チオカルボニルチオ構造はポリスチレンの片末端に導入されており、導入率は片末端基準で90%であることを確認した。得られたポリスチレン(2g)をトルエン(40mL)に溶解し、室温でGoodriteUV‐3034(Goodrich製,0.5g)と、ジエチルアミン(1g)とを添加し、50℃で4時間撹拌した後減圧脱揮した。得られた重合体の1H NMR測定から、片末端にメルカプト基を有するポリスチレンであることを確認した。
【0083】
(実施例1)
オレイン酸(和光純薬(株)製,27mg)およびオレイルアミン(和光純薬(株)製,28mg)のヘキサン(和光純薬(株)製,40ml)溶液に、L.Spanhelらの方法(L.Spanhelら;J.Am.Chem.Soc.,113巻,2826頁(1991))に従って調製されたZnO超微粒子の0.02Mメタノール分散液(20ml)を加え10分間室温で撹拌した。撹拌後、メタノール層をデカンテーションによって取り除きオレイルアミンおよびオレイン酸で修飾されたZnO超微粒子のヘキサン分散液(6.9ml)を調製した。上記のヘキサン分散液(0.5ml)をシャーレに入れ乾燥させたところ、2.7mgの修飾ZnO微粒子を含んでいることが分かった。上記のZnO超微粒子のヘキサン分散液(0.46ml)を、製造例1において合成した片末端にメルカプト基を有するポリメチルメタクリレート(Mn=12,000;0.25g)のトルエン(和光純薬(株)製,2.5ml)溶液に加え1時間室温で撹拌した。
【0084】
1時間の撹拌後、市販のポリメチルメタクリレートであるスミペックスMH(住友化学株式会社製,0.25g)を溶液に加えさらに1時間撹拌した。撹拌後、溶液をシャーレ(直径5cm)に移し室温で乾燥することによってZnO超微粒子含有ポリメチルメタクリレートを得た。透過型電子顕微鏡による観察によって、ZnO超微粒子は樹脂中に均一に分散しており、超微粒子の数平均粒子径は4nmであることが分かった。
【0085】
(比較例1)
オレイルアミンを用いずにオレイン酸(54mg)だけを用いたこと以外は実施例1と同様にして、ZnO超微粒子分散液(7.5ml)を調製した。超微粒子分散液(0.5ml)は、シャーレ上で乾燥させることにより2.5mgの修飾ZnO超微粒子を含んでいることが分かった。上記のZnO超微粒子のヘキサン分散液(0.5ml)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ZnO超微粒子含有ポリメチルメタクリレートを得た。透過型電子顕微鏡で観察することによって、ZnO超微粒子は樹脂中に均一には分散しておらず、大きな超微粒子の凝集塊は数百nmの粒子径を有することが分かった。
【0086】
(比較例2)
片末端にメルカプト基を有するポリメチルメタクリレートを用いずに、市販のポリメチルメタクリレート(スミペックスMH,0.5g)だけを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてZnO超微粒子含有ポリメチルメタクリレートを得た。樹脂組成物を光学顕微鏡(デジタルマイクロスコープVHX‐100,株式会社キーエンス製,175倍)で観察したところ、数μmの凝集塊があることが分かった。
【0087】
(実施例2)
片末端にメルカプト基を有するポリメチルメタクリレートの代わりに、製造例2で合成した片末端にメルカプト基を有するポリスチレン(0.25g)、市販のポリメチルメタクリレートの代わりに市販のポリスチレンであるA&MポリスチレンG9305(エー・アンド・エムスチレン株式会社製、0.25g)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてZnO超微粒子含有ポリスチレンを得た。透過型電子顕微鏡による観察によって、ZnO超微粒子は樹脂中に均一に分散しており、超微粒子の数平均粒子径は4nmであることが分かった。
【0088】
(実施例3)
酢酸亜鉛二水和物(0.22g)をジメチルホルムアミド‐水(1:1(体積))(25ml)に溶解させ、室温で攪拌しながら硫化ナトリウム九水和物(0.24g)を添加した。室温で1時間攪拌後、65℃で10時間攪拌した。オレイン酸(和光純薬(株)製,56mg)およびオレイルアミン(和光純薬(株)製,53mg)のヘキサン(和光純薬(株)製,50ml)溶液を加え10分間室温で撹拌した。撹拌後、不溶物を濾過して取り除いた。無水エタノール(和光純薬(株)製,50ml)を濾液に加え、ZnS超微粒子沈殿を析出させた後、遠心分離(6000rpm、10分)をし、不純物を含んだ上澄み溶液をデカンテーションによって取り除いた。次にZnS超微粒子の沈殿に、トルエン(和光純薬(株)製,20ml)を加え、ZnS超微粒子のトルエン分散液(20ml)を調製した。上記のトルエン分散液(0.5ml)をシャーレに入れ乾燥させたところ、2.4mgの修飾ZnS微粒子を含んでいることが分かった。
【0089】
上記のZnS超微粒子のヘキサン分散液(0.52ml)を、製造例1において合成した片末端にメルカプト基を有するポリメチルメタクリレート(Mn=12,000;0.25g)のトルエン(和光純薬(株)製,2.5ml)溶液に加え1時間室温で撹拌した。1時間の撹拌後、市販のポリメチルメタクリレートであるスミペックスMH(住友化学株式会社製,0.25g)を溶液に加えさらに1時間撹拌した。撹拌後、溶液をシャーレ(直径5cm)に移し室温で乾燥することによってZnS超微粒子含有ポリメチルメタクリレートを得た。透過型電子顕微鏡による観察によって、ZnS超微粒子は樹脂中に均一に分散しており、超微粒子の数平均粒子径は5nmであることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アミノ基含有化合物、カルボキシル基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、アミド基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる2種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された半導体超微粒子と、(B)メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを必須成分として含有する超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
成分(A)がアミノ基含有化合物、ヒドロキシル基含有化合物、およびアミド基含有化合物からなる群より選ばれる1種類以上の有機低分子化合物と、カルボキシル基含有化合物、スルホン酸基含有化合物、スルフィン酸基含有化合物、ホスホン酸基含有化合物、およびホスフィン酸基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の有機低分子化合物によって表面修飾された半導体超微粒子であることを特徴とする、請求項1に記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
成分(A)がアミノ基含有化合物とカルボキシル基含有化合物によって表面修飾された半導体超微粒子であることを特徴とする、請求項1または2に記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
半導体超微粒子の分散状態の数平均粒子径が0.1nm以上100nm未満の範囲であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
半導体超微粒子が、III‐V族化合物半導体あるいはII‐VI族化合物半導体であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
半導体超微粒子が酸化亜鉛または硫化亜鉛であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
成分(B)メルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂が、可逆的付加脱離連鎖移動重合により得られる重合体を処理剤で処理して得られるものであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
処理剤がアレニウス塩基、還元剤、1級アミノ基含有化合物、および2級アミノ基含有化合物からなる群より選ばれる1種以上の化合物であることを特徴とする、請求項7に記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
成分(A)の半導体超微粒子と成分(B)のメルカプト基を末端に有するビニル系熱可塑性樹脂とを溶媒存在下で混合して得られることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。
【請求項10】
成分(C)メルカプト基を含有しない熱可塑性樹脂をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の超微粒子含有熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−63427(P2008−63427A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242360(P2006−242360)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】