説明

超微粒炭素の製造法

【課題】 一次電池および二次電池用の電子伝導材料である超微粒炭素を水溶液系で製造し、電池のエネルギー密度、内部抵抗、充放電サイクル寿命、製造コストを改良する。
【解決手段】 導電性を有する炭素材を、該炭素材と親和性があり分子中に水酸基、カルボニル基、マイナスに分極した酸素原子の少なくともいずれかを含む有機化合物の共存下で粒子径が0.8ないし0.05マイクロメートルまで磨砕する。さらに必要に応じてこれを加熱し、前記有機化合物を蒸発除去する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は超微粒炭素の製造法に関するものであり、特に一次電池および二次電池の電極活物質粒子と混合したり、電極板の表面に塗布することにより、電池のエネルギー密度の向上、内部抵抗の減少、充放電サイクル寿命の延長等の効果に優れた超微粒炭素の製造に適した方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】 一次電池や二次電池に用いられる電極活物質は通常それ自体は導電性が低いので、その電極活物質粒子層に電池として十分な導電性を付与するために、導電性に優れたアセチレンブラックやグラファイトが電極活物質粒子に混ぜて使用されている。しかしながらアセチレンブラックは嵩高な粉末であるため、十分な導電性を得るためには電極活物質に対して数十容量%も加える必要があり、このため電極活物質の使用量が制限され、電池のエネルギー密度を向上させる妨げになっていた。またグラファイトを微細な粉末にしようとしても従来の方法では数マイクロメートルにしかならなかった。また二次電池では、充放電サイクルの繰り返しに伴い、電極活物質粒子が電気化学反応に伴い、活物質の体積変化が進行する結果、粗粒の炭素粒子ではその体積変化に追随できず、電気的導通が断たれることにより電池の容量が減少したり内部抵抗が増大した。更に、これらの電極活物質粒子層と集電体である電極板との導通を確保する目的で電極板の表面に炭素粒子を付着させる方法はとられてきたが、その塗膜の粒子が荒く剥がれやすい欠点があった。これらの問題を解決するため本発明者等は、特開平09−049564、および特開平10−241677において炭素材の粉砕に際してPVA等の高分子有機化合物との混合物に剪断力を作用せしめることにより、サブミクロンの微粒子を得た。しかしながら、この方法において、炭素材料であるグラファイトやカーボンブラックの表面はもともと撥水性であるため、PVA等の高分子有機化合物との混合には炭素材料に対し10ないし100重量%の多量のPVAの添加と長時間にわたる混練が必要であり、生産効率が低かった。また炭素微粒子は高分子有機化合物との混合物として得られるので、使用目的によってはこの多量の高分子有機化合物が障害となる欠点があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】 本発明の超微粒炭素の製造法では、これらの従来の製造法にくらべ、極めて容易に炭素材の表面を水溶液で濡らすことができ短時間での生産が可能であり、必要に応じて余分な高分子有機化合物を含まず、電池の作成に必要な成分のみを含む超微粒炭素の水系のコロイドを得る方法を見いだしたものである。本発明の第一の目的は、撥水性の炭素材の表面の水溶液との濡れ性を改善する助剤を提供することにより、短時間で炭素粒子径をサブミクロンの大きさにまで小さくする製造法を提供することにある。本発明の第二の目的は、撥水性の炭素材の表面の水溶液との濡れ性を改善する極めて少量の助剤の使用により、目的以外の有機物の含有量を極度に少なくした超微粒炭素を提供することにある。本発明の第三の目的は、電極活物質粒子と電極板との間の導電性を得るために用いられている炭素粒子の使用量を減少することにより、電極活物質の使用量を増大せしめ、電池全体としてのエネルギー密度を増大させることである。本発明の第四の目的は、電池の内部抵抗を減少させ、大電流の充放電を可能にすることにある。本発明の第五の目的は、電極活物質粒子と電極板との間の導電性を高めることにより、二次電池の充放電サイクル寿命を延長させることにある。本発明の第六の目的は、電極板に炭素層を塗布するに際し、水に懸濁した超微粒炭素を用い、且つ塗膜の厚さを極小化することにより、電池の生産性を高めることにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】 本発明は、導電性を有する炭素材を、該炭素材と親和性があり且つ水に溶解する低分子有機化合物および水の共存下で、粒子径が0.8ないし0.05マイクロメートルまで磨砕する超微粒炭素の製造法であり、好ましくは前記有機化合物が分子中に水酸基、カルボニル基、マイナスに分極した酸素原子の少なくともいずれかを含むものである電池用超微粒炭素の製造法であり、更に好ましくは前記有機化合物がイソプロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルメチルケトン、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトンよりなる群の少なくとも一つを含むものである超微粒炭素の製造法である。
【0005】
【作用】 本発明者等は、導電性を有する炭素材の粉砕に、該炭素材と親和性があり且つ水に溶解する有機化合物、特にアルコール系の水酸基や、カルボニル基、マイナスに分極した酸素原子の少なくともいずれかを含む低分子の有機化合物の存在下でトリロールミル、サンドミル、振動ミル、ボールミル等を用いて磨砕することにより、従来の粉砕方法にくらべて極めて短時間に、且つ低分子有機化合物が炭素に対して20ないし0.1%という極めて少ない条件でも超微粒の炭素粒子が得られることを見いだしたのである。その磨砕のメカニズムは明確ではないが、次のように推定する。即ち、元来電池の活物質層に導電性を付与するために用いられる炭素材はその表面に水素原子が結合した状態にあり、そのためそのままでは水系の電解液には濡れにくい。また石油系の液体には濡れるが、液体との分子間での相互作用はほとんど無いので、通常の粉砕方法ではサブミクロン程度の微粒子までの粉砕は困難であった。ところが、この炭素材の表面に結合した水素原子は水酸基やカルボニル基の弱くマイナスに分極した酸素原子とは水素結合を形成し、磨砕の際に有機化合物の液相に外部から加えられた応力が水素結合を介して炭素材にも伝わり、炭素材の破砕が効率よく進行するものと思われる。この効果は液体中での水素結合が少ない有機化合物単体では有機化合物分子間の相互作用が小さいので起こらず、水素結合による相互作用の大きい水溶液中ではじめて起こるものと推測する。
【0006】本発明で用いる炭素材としては、良好な導電性を示す材料であれば特に限定されないが、かさ密度の大きい材料としてグラファイトが、また粉砕しやすい材料としてカーボンブラックが好ましい。そして、本発明の方法により製造されたメジアン径0.8ないし0.05マイクロメートルの超微粒炭素は、磨砕に使用した有機物が残ったまま電池活物質と混合して使うこともできるが、通常は一旦前記有機化合物の沸点以上の温度に加熱してこれらの有機物を除去した後、改めて所定の電解液を含浸させて使うことが望ましい。
【0007】本発明の方法により製造された超微粒炭素は、メジアン径0.8ないし0.05マイクロメートルの場合、一次電池および二次電池の電極活物質や電極板の表面に塗布した場合、従来よりはるかに少量で十分な効果があり、しかも特に二次電池において、その付着層は充放電に伴う電極活物質の体積変化に良く追随して導電性を保持しており、サイクル寿命も優れている。また電極板を兼ねる金属製の電池容器の内側は従来電池容器を成形した後、アセチレンブラック等の炭素粉末層を塗布していたが、本発明の超微粒炭素を用いると塗布層が薄いため剥がれにくく、また有機溶媒を使用していないので、大気を汚染することもない。
【0008】本発明で用いる分子中に水酸基、カルボニル基、マイナスに分極した酸素原子の少なくともいずれかを含み前記炭素粒子と親和性のある低分子有機化合物としては、微粉砕する炭素粒子の表面に結合している水素原子と親和性のあるアルコール性の水酸基、またはカルボニル基、またはマイナスに分極した酸素原子の少なくともいずれかを分子中に持っている化合物、例えば、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類、およびアセトン、メチルエチルケトン、ブチルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、およびN−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン等を用いることができる。また、これらの化合物は単独あるいは2種類以上の混合物として用いることができる。通常、これらの化合物は炭素粒子に対し数十重量%以下、好ましくは20ないし0.1重量%を用い、より好ましくは10重量%未満、0.2重量%以上を用いる。低分子有機化合物の割合が10重量%以上の場合は磨砕の効率が低下し、20%より多い場合は磨砕の効率が著しく低下する。0.2重量%より少ない場合は炭素粒子と水との濡れ性が悪く、0.1重量%未満では混練が困難になる。これらの混合物には必要に応じてバインダーとして炭素粒子に対し100重量%以下、1重量%以上のポリアクリル酸ソーダ、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)等を混合して用いることもできる。
【0009】
【実施例】
【実施例1】水500mlに2gのイソプロピルアルコールを加えてA液とした。これとは別に水500mlに5gのポリアクリル酸ソーダを溶解しB液とした。A液を撹拌しつつメジアン径50マイクロメートルのアセチレンブラック100gを少量づつ加えた。アセチレンブラックはA液に容易に濡れてA液中に懸濁した。この懸濁液を撹拌しつつB液を加え、ペースト状とした。このペーストをトリロールミルに5回通した。得られたペースト中の炭素粒子のメジアン径は0.14マイクロメートルだった。比較試験として、水500mlを撹拌しつつ前記のアセチレンブラックを少量づつ加えた結果、アセチレンブラックは水面に浮遊するのみで、懸濁液は得られなかった。
【0010】
【実施例2】水500mlに1gのN−メチルピロリドンを加えてA液とした。A液を撹拌しつつメジアン径50マイクロメートルのアセチレンブラック200gを少量づつ加えた。アセチレンブラックはA液に容易に濡れてA液と混和し、ペースト状になった。このペーストをトリロールミルに2回通した。得られたペースト中の炭素粒子のメジアン径は0.5マイクロメートルだった。このペーストに水を加え全体を5リットルに薄めて炭素量4%の懸濁液とした。この懸濁液10mlとリチウムイオン電池用のコバルト酸リチウム粉末95gとPVDF4gとを混合しコバルト酸リチウム塗布液を得た。この塗布液をアルミニウム箔ニ薄く均一に塗布し、真空中で約100°Cに加熱し、N−メチルピロリドンと水を蒸発させ、完全に乾燥したものを正極とし、負極に多孔質炭素を用い、電解液として1MLiPF6,エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート(体積比1:3)を用いてリチウムイオン電池を組み立て、表面が炭素粒子で覆われていないLiCoO2粉末を用いた場合と比較した。この結果、本発明の炭素粒子で表面を覆ったLiCoO2粉末を用いた場合、電池の内部抵抗は30%低く、電気容量は15%多かった。
【0011】
【実施例3】実施例1で作成したペーストを水で10倍に希釈し、これをアルカリマンガン電池の鋼板ケースの内面に塗布し、120°Cで乾燥した。その結果、塗膜に剥離は認められず、このケースを用いて電池を組み立てたものも正常に作動した。
【0012】
【実施例4】水500mlに2gのアセトンを加えてA液とした。これとは別に水500mlに5gのポリアクリル酸ソーダを溶解しB液とした。A液を撹拌しつつメジアン径50マイクロメートルの黒鉛粉末100gを少量づつ加えた。黒鉛粉末はA液に容易に濡れてA液中に懸濁した。この懸濁液を撹拌しつつB液を加え、ペースト状とした。このペーストをトリロールミルに5回通した。得られたペースト中の炭素粒子のメジアン径は0.3マイクロメートルだった。このペーストを水で3倍に薄め、電解二酸化マンガン100重量部に対し、炭素量が1.5重量部に相当する量を加えて混合し、これに28%KOH水溶液10重量部と黒鉛粉末1.5重量部を加え、アルカリマンガン電池用の二酸化マンガン合剤を作成した。この合剤を用いてアルカリマンガン電池を組み立てた。この電池は従来の合剤を用いた電池に比べて、同一の内部抵抗を得るのに必要な黒鉛の使用量が約1/3で済み、電気容量は20%多かった。
【0013】
【発明の効果】 以上の説明から明らかな通り、本発明の製造法によれば、取扱いの容易な水溶液系で磨砕を行うことができ、且つ余分な成分を含まない超微粒炭素の生産が可能である。またそれを一次電池および二次電池の電極活物質層の導電材料または電極板表面のコート材に使用することにより、エネルギー密度の大きい、充放電の繰り返しによる電池容量の低下が少なく、且つ長寿命で、低コストの電池を提供できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 導電性を有する炭素材を、該炭素材と親和性があり且つ水に溶解する低分子有機化合物および水の共存下で、粒子径が0.8ないし0.05マイクロメートルまで磨砕することを特徴とする超微粒炭素の製造法。
【請求項2】 請求項1において、前記低分子有機化合物が分子中に水酸基、カルボニル基、マイナスに分極した酸素原子の少なくともいずれかを含むものである超微粒炭素の製造法。
【請求項3】 請求項2において、前記低分子有機化合物がイソプロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、ブチルメチルケトン、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトン、よりなる群の少なくとも一つを含むものである超微粒炭素の製造法。
【請求項4】 請求項1ないし請求項3において、磨砕する手段がトリロールミル、サンドミル、振動ミル、ボールミルのいずれかである超微粒炭素の製造法。
【請求項5】 請求項1ないし請求項4において、該炭素材と親和性があり且つ水に溶解する高分子有機化合物を前記低分子有機化合物に共存せしめた条件下で磨砕する超微粒炭素の製造法。

【公開番号】特開2002−241116(P2002−241116A)
【公開日】平成14年8月28日(2002.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−81709(P2001−81709)
【出願日】平成13年2月13日(2001.2.13)
【出願人】(596062772)
【出願人】(596115953)
【Fターム(参考)】