説明

超撥水撥油性熱交換部材とその製造方法並びにそれらを用いた熱交換器

【課題】撥水撥油防汚機能に加え、耐摩耗性や耐候性等の耐久性、水滴離水性、撥油性、防汚性が向上した超撥水撥油性熱交換部材とその製造方法並びにそれらを用いた熱交換器を提供する。
【解決手段】複数の金平糖状の突起11を有する基材14と、突起11を有する基材14の表面の少なくとも一部に結合した撥水撥油防汚性薄膜15aとを有し、金平糖状の突起11が、略半球状の第1の突起12と、第1の突起12の表面に形成され、第1の突起12よりも底面の直径が小さな複数の円錐状またはタケノコ状の第2の突起13で構成されていることを特徴とする超撥水撥油性熱交換部材10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超撥水撥油性熱交換部材とその製造方法ならびにそれらを用いた熱交換器に関し、より具体的には高耐久性で且つ撥水撥油防汚性の被膜が表面に形成された超撥水撥油性熱交換部材とその製造方法ならびにそれらを用いた熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
各種部材の表面に撥水性、撥油性および防汚性を付与するために、フッ化炭素基含有クロロシラン系の吸着剤と非水系の有機溶媒よりなる溶液を用い、液相で化学吸着して単分子膜状の撥水撥油防汚性の化学吸着膜単分子膜を形成できることが既によく知られている(例えば、特許文献1参照)。
このような溶液中での単分子膜の製造原理は、基材表面のヒドロキシル基等の活性水素とクロロシラン系の吸着剤のクロロシリル基との脱塩酸反応を用いて単分子膜を形成することにある。
【0003】
ルームエアコン等の空調機用熱交換器は、空気との接触面積を大きくするため、厚みが約0.1mmのアルミのフィンを1〜2mmの間隔で重ね合わせた構造を有しているが、冷房運転時に結露した水がフィンの間でいわゆるブリッジを形成したり、その状態で凍結したりすると、通風抵抗が増大して空調性能が低下する。また、除湿器用の熱交換器において、冷却フィンの表面が結露水で濡れたままになると、結露性能が低下し除湿効率が低下する。そこで、例えば、特許文献2には、電子冷却素子の吸熱面に冷却フィンを、発熱面に放熱フィンをそれぞれ密着固定して構成された除湿部と、空気を循環させる送風部と、吸込口及び吐出口が形成され上記除湿部及び送風部を収納するハウジングとから成る吸湿器において、冷却フィンの表面に撥水性材料の皮膜を形成してなることを特徴とする吸湿器が提案されている。冷却フィンに付着する結露の水滴の接触角が大きくなって表面をスムーズに下方へ移動して落下しやすくなるため、冷却フィンの表面が結露水で濡れたままになることを防いで結露能力を高く保つことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−132637号公報
【特許文献2】特開平6−74479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の化学吸着膜を平坦な表面を有する部材に適用した場合において、水滴接触角は高々120度程度止まりであり、水滴や汚れが自然に除去されるようにするためには撥水撥油防汚性や離水性が不十分であるという課題があった。また、特許文献1記載の化学吸着膜単分子膜は、耐摩耗性や耐候性等の耐久性も乏しいという課題があった。
【0006】
また、特許文献2記載の吸湿器において冷却フィンの表面に形成される撥水性材料の皮膜は、フッ素樹脂等からなるものであるため、一般に高価であり、コスト高や熱伝導率の低下による基本性能の低下等が懸念される。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、水滴離水性(滑水性ともいう)、撥油性、防汚性が向上した超撥水撥油性熱交換部材とその製造方法ならびにそれらを用いた熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、表面に複数の金平糖状の突起を有する基材と、前記突起を有する基材の表面の少なくとも一部に結合した撥水撥油防汚性薄膜とを有し、前記金平糖状の突起が、中核となる略半球状の第1の突起と、前記第1の突起の表面に形成され、前記第1の突起の直径よりも底面の直径が小さな複数の円錐状またはタケノコ状の第2の突起で構成されていることを特徴とする超撥水撥油性熱交換部材を提供することにより上記課題を解決するものである。
基材の表面に中核となる微粒子を結合固定して第1の突起を形成し、更にその表面に第2の突起を結合固定することにより、複雑な凹凸を有する表面構造を形成できる。そのため、平坦な表面を有する場合によりも撥水撥油防汚性を向上できる。また、少なくとも金平糖状の突起の表面に撥水撥油防汚性薄膜を形成することにより、一般に親水性を有する基材の表面に撥水性、撥油性及び防汚性を付与できる。
【0009】
本発明の第1の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材において、球状または略球状の中核となる微粒子を前記基材の表面に融着させ、あるいはバインダを介して結合させることにより前記第1の突起が形成されていてもよい。
中核となる第1の微粒子が融着又はバインダを介して基材の表面に結合固定されているため、超撥水撥油性熱交換部材の表面の耐摩耗性及び耐候性等を向上できる。
【0010】
本発明の第1の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材において、前記中核となる微粒子の直径が30nm〜10μmであり、前記第2の突起の高さが10〜300nmであってもよい。
このようにすることで、撥水性、撥油性および防汚性に優れた超撥水撥油性熱交換部材を提供できる。
【0011】
本発明の第1の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材において、前記第2の突起の高さが、前記第1の突起の高さの1/10以上1/2以下であってもよい。
【0012】
本発明の第1の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材において、前記第2の突起が、酸化亜鉛からなるものであってもよい。
【0013】
本発明の第1の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材において、前記微粒子が、ガラス、シリカ、アルミナ及びジルコニアからなる群より選択される材質からなるものであってもよい。
中核となる微粒子がガラス、シリカ、アルミナ及びジルコニアからなる群より選択される材質からなるため、超撥水撥油性熱交換部材の表面の耐久性を向上できる。
【0014】
本発明の第1の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材において、前記撥水撥油防汚性薄膜が単分子膜であることが好ましい。
撥水撥油防汚性薄膜が単分子膜であるため、得られる超撥水撥油性熱交換部材の熱伝導性を損なうことがない。
【0015】
本発明の第1の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材において、表面の臨界表面エネルギーは理想的には低いほど良いが、1mN/m以上3mN/m以下であることが好ましい。
表面の臨界表面エネルギーが上記範囲であるため、得られる超撥水撥油性熱交換部材の撥水性、撥油性及び防汚性の全てを向上できる。
【0016】
本発明の第2の態様は、溶媒に分散させた球状または略球状の中核となる微粒子を基材の表面に散布する工程Aと、前記中核となる微粒子が散布された前記基材を加熱して、前記基材の表面に前記中核となる微粒子を結合固定または融着させ、略半球状の第1の突起を形成する工程Bと、前記第1の突起の表面に、該第1の突起の直径よりも底面の直径の小さな複数の円錐状またはタケノコ状の第2の突起を形成する工程Cと、前記第1および第2の突起とから構成される金平糖状の突起が形成された前記基材の表面に撥水撥油防汚性薄膜を形成する工程Dとを有することを特徴とする超撥水撥油性熱交換部材の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
工程A〜Cにおいて、基材の表面に結合固定または融着した複数の金平糖状の突起を形成することにより、基材の表面に複雑な凹凸を形成できる。そのため、平坦な基材及び中核となる微粒子のみが表面に結合固定された基材よりも撥水性、撥油性及び防汚性を向上できる。また、工程Cにおいて、少なくとも金平糖状の突起の表面に撥水撥油防汚性薄膜を形成することにより、撥水性、撥油性及び防汚性を更に向上できる。
【0017】
本発明の第2の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材の製造方法において、前記金平糖状の突起の高さが30〜300nmであってもよい。
【0018】
前記の場合において、前記中核となる微粒子の直径が30nm〜10μmであり、前記第2の突起の高さが10〜300nmであることが好ましい。
【0019】
本発明の第2の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材の製造方法において、前記工程Bにおいて、前記分散液を塗布後の前記基材を、該基材の軟化点以上で前記中核となる微粒子の融点以下で加熱し、前記基材の表面に前記中核となる微粒子を融着してもよい。
【0020】
本発明の第2の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材の製造方法において、前記分散液が、溶媒の蒸発および/またはその後の化学反応によりバインダを生成するバインダ前駆体を含み、前記工程Bにおいて、前記バインダを介して前記基材の表面に前記中核となる微粒子を結合固定または融着してもよい。
融着又はバインダを介して基材の表面に中核となる微粒子を結合固定または融着するため、超撥水撥油性熱交換部材の表面の耐摩耗性及び耐候性等を向上できる。
【0021】
工程Bにおいてバインダを介して中核となる微粒子を結合固定する本発明の第2の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材の製造方法において、前記バインダ前駆体が、ゾル−ゲル法により金属酸化物を形成する金属ゾル前駆体であってもよい。
ゾル−ゲル法により金属酸化物を形成する金属ゾル前駆体をバインダ前駆体として用いることにより、中核となる微粒子を基材の表面に強固に結合固定できる。
【0022】
本発明の第2の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材の製造方法において、前記工程Bの後で、結合固定されなかった前記中核となる微粒子を洗浄除去してもよい。
【0023】
本発明の第2の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材の製造方法において、前記工程Bにおいて、前記基材の表面に付着、結合固定または融着された前記中核となる微粒子の表面に、大気圧プラズマ法を用いて酸化亜鉛からなる前記突起を形成することが好ましい。
【0024】
本発明の第2の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材の製造方法において、前記工程Dにおいて、前記基材および前記金平糖状の突起の表面官能基と反応して結合を形成する反応基とフッ化炭素基またはジメチルシリル基とを有する化合物を含む反応液を前記第1及び第2の微粒子が結合固定された前記基材の表面に接触させ、前記表面官能基と前記反応基との反応により形成された結合を介して該表面に結合固定された前記化合物の被膜を形成してもよい。
表面官能基と反応基との反応により形成された結合を介して撥水撥油防汚性薄膜を金平糖状の突起の表面に結合固定することにより、撥水撥油防汚性薄膜の耐久性を向上できる。
【0025】
この場合において、前記反応基がアルコキシシリル基であり、前記反応液が、
(1)カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレートからなる群から選択される1または2以上の化合物、及び/又は
(2)ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物を縮合触媒として含んでいてもよい。
反応基としてアルコキシシリル基を用いることにより、反応時にハロゲン化水素等の有害な副生成物の生成を防ぐことができると共に、反応液が縮合触媒を含んでいるため、撥水撥油防汚性薄膜の形成に必要な処理時間を短縮できる。
【0026】
更に、前記工程Cの後で余分な前記反応液を洗浄除去してもよい。
余分な反応液を洗浄除去することにより、撥水撥油防汚性薄膜を単分子膜とすることができるため、製造される超撥水撥油性熱交換部材の熱伝導性を損なうことがない。
【0027】
本発明の第2の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材の製造方法において、前記工程Bの前に前記工程Cを行ってもよい。
【0028】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に係る超撥水撥油性熱交換部材を有する熱交換器を提供することにより上記課題を解決するものである。
撥水性、撥油性および防汚性に優れた熱交換器を提供できる。
【0029】
本発明の第3の態様に係る熱交換器が吸熱器である場合、結露水の付着や凍結による通風抵抗の低下や結露性能の低下等の問題を解決できる本発明の第1の態様に係る熱交換部材がより好適に適用できる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、撥水撥油防汚機能に加え、耐摩耗性や耐候性等の耐久性、水滴離水性(滑水性ともいう)、撥油性、防汚性が向上した超撥水撥油性熱交換部材とその製造方法が提供される。また、本発明によれば、撥水性、撥油性及び防汚性に加え、耐久性にも優れた熱交換器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施の形態に係る超撥水撥油性熱交換部材の断面構造を模式的に説明した説明図である。
【図2】同超撥水撥油性熱交換部材の製造方法において、基材の表面に中核となる微粒子を融着する工程の説明図である。
【図3】同超撥水撥油性熱交換部材の製造方法において、基材の表面に融着した中核となる微粒子の表面に複数の円錐状の突起を形成する工程の説明図である。
【図4】実施例1において製造した超撥水撥油性熱交換部材の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。なお、図1〜3は単なる概略説明図であり、基材、第1及び第2の突起並びに撥水撥油防汚性薄膜を形成する化合物の大きさについては、必ずしも実際の大きさの比率を反映していない。
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る超撥水撥油性熱交換部材10は、複数の金平糖状の突起11が形成された基材14と、突起11を有する基材14aの表面の少なくとも一部に結合した撥水撥油防汚性薄膜15aとを有している。金平糖状の突起11は、中核となる略半球状の第1の突起12と、第1の突起12の表面に形成され、第1の突起12の直径よりも底面の直径が小さな複数の円錐状またはタケノコ状の第2の突起13で構成されている。
【0033】
超撥水撥油性熱交換部材10は、溶媒に分散させた球状または略球状の中核となる微粒子16を基材14の表面に散布する工程Aと、中核となる微粒子16が散布された基材14を加熱して、基材14の表面に中核となる微粒子16を結合固定または融着させ、略半球状の第1の突起12を形成する工程Bと、基材14の表面に付着、結合固定または融着された第1の突起12の表面に、第1の突起12の直径よりも底面の直径の小さな複数のタケノコ状の突起13(円錐状またはタケノコ状の第2の突起の一例:以下、単に「突起」と略称する場合がある。)を形成する工程Cと、融着した中核となる微粒子16aの形成する半球状の突起(第1の突起の一例)12およびタケノコ状の突起13から構成される金平糖状の突起11が形成された基材14aの表面に撥水撥油防汚性薄膜15aを形成する工程Dとを有する方法により製造される。
以下、工程A〜Dについてより詳細に説明する。
【0034】
(1)工程A
超撥水撥油性熱交換部材10の製造に用いられる基材14の形状については特に制限はなく、任意の形状のものを用いることができる。基材14の形状の具体例としては、例えば、熱交換部材に通常用いられる、シート状、波板状、テープ状、チューブ状、蛇腹状または剣山状等の任意の形状のものが挙げられる。また、基材14の大きさについても特に制限はなく、任意の大きさのものを用いることができる。更に、基材14の材質についても特に制限はなく、アルミニウム、銅あるいはそれらの合金等の金属材料、窒化ケイ素や窒化アルミニウム等の高熱伝導性セラミックス等の任意の材質のものを用いることができる。
【0035】
微粒子16を散布する前に、基材14の表面を洗浄し、表面に付着した汚れを除去しておくことが好ましい。洗浄には、洗浄液中への浸漬(加熱、撹拌および超音波照射等を併用してもよい。)、コロナ処理、酸素プラズマ処理、あるいはエキシマ光の照射等の任意の方法を用いることができる。
【0036】
超撥水撥油性熱交換部材10の製造に用いられる中核となる微粒子16は、球状または略球状であり、直径は、10nm〜5mm、好ましくは20nm〜50μm、より好ましくは30nm〜10μmである。
【0037】
中核となる微粒子16の材質について特に制限はなく、ソーダ石灰ガラス、クリスタルガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、リンガラス、ボロンガラス、ガラスセラミックス、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の任意の材質のものを用いることができ、ポリメタクリル酸メチル等からなるアクリルガラス(プレキシガラス)等の有機材料を用いることもできる。特に、シリカ、アルミナ、ジルコニア等の硬質の無機酸化物からなる中核となる微粒子を用いる場合には、得られる超撥水撥油性熱交換部材10の表面の硬度および耐摩耗性を向上できる。なお、基材14がアルミニウム等の融点の低い金属で、中核となる微粒子16をその表面に直接融着させる場合には、シリカ等では融点が高すぎるため、リンガラスやボロンガラス等の低融点ガラスを用いる必要がある。
【0038】
中核となる微粒子16の散布は任意の方法を用いて行うことができるが、例えば、中核となる微粒子16を溶媒に分散させた分散液を基材14に塗布後、溶媒を蒸発させる方法が好ましく用いられる。
分散液の調製には、中核となる微粒子16を均一に分散でき、基材14および中核となる微粒子16と反応したり、膨潤や変形を起こしたりしない限りにおいて任意の溶媒を用いることができるが、揮発性、安全性、環境負荷および経済性等の観点から、水、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール系溶媒およびこれらの混合溶媒が好ましい。溶媒の量は、中核となる微粒子16の大きさおよび比重等に依存するため一義的に決定することは困難であるが、例えば、中核となる微粒子16の重量の4〜200倍(第1の分散液に含まれる中核となる微粒子16の濃度が約0.5〜約20重量%)、好ましくは10〜100倍、より好ましくは10〜50倍である。溶媒の量が少なすぎると、得られる第1の分散液がスラリー状になり、中核となる微粒子16を基材14の表面に均一に分散することが困難になり、逆に多すぎると作業効率が低下する。
【0039】
基材14の表面に分散液を塗布後、溶媒を蒸発させると、基材14の表面に中核となる微粒子16を均一に分散させることができる。第1の分散液の塗布には、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法、スクリーン印刷法等の任意の方法を用いることができる。
【0040】
(2)工程B
次いで、中核となる微粒子16を表面に散布した基材14の表面を、基材14の軟化点以上で中核となる微粒子16の融点以下の温度で加熱し、中核となる微粒子16が表面に融着した基材14aを得る。加熱温度および加熱時間は、用いられる基材14および中核となる微粒子16の材質等に依存するため一義的に決定することは困難であるが、例えば、例えば、基材14としてアルミニウム(後述するシリカ被膜が表面に形成されていてもよい。)、微粒子16としてシリカ微粒子を用いる場合には、650℃で30分〜1時間程度加熱することにより、中核となる微粒子16が表面に融着し、中核となる微粒子を融着させた基材14bが得られる。
【0041】
分散液は、溶媒の蒸発および/またはその後の化学反応により、基材14および中核となる微粒子16の表面に結合可能なバインダを生成するバインダ前駆体を含んでいてもよい。バインダ前駆体としては、例えば、化学反応により有機または無機高分子を生成する1または複数の化合物を用いることができ、その具体例としては、(1)熱硬化性樹脂またはその前駆体、(2)光硬化性樹脂またはその前駆体、(3)ゾル−ゲル法により金属酸化物の被膜を形成できる物質が挙げられる。熱硬化性樹脂の前駆体および光硬化性樹脂の前駆体の具体例としては、エポキシ系接着剤、シアノアクリレート系接着剤等が挙げられ、ゾル−ゲル法により金属酸化物の被膜を形成できる物質の具体例としては、テトラアルコキシシランSi(OR)(Rは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基等の低級アルキル基。以下同じ。)、ホウ酸トリアルコキシドB(OR)、アルミニウムトリアルコキシドAl(OR)、チタンテトラアルコキシドTi(OR)等の金属アルコキシド、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0042】
基材14の表面に分散液を塗布後、溶媒を蒸発させると、基材14の表面に、ゾル−ゲル法により形成されたシリカ被膜(以下、「シリカ被膜」と略称する場合もある。)を介して中核となる微粒子16を均一に分散した状態で結合固定できる。なお、この場合において、中核となる微粒子16の形状を損なわず、かつその大きさが所望の範囲内である限りにおいて、中核となる微粒子16の表面にもシリカ被膜が形成されていてもよい。なお、バインダ前駆体を含む溶液を分散液とは別に調製し、バインダ前駆体溶液を塗布後、溶媒を蒸発させることによりあらかじめシリカ被膜を形成した基材14の表面にバインダ前駆体を含まない分散液を塗布してもよい。
【0043】
次いで、更に200〜500℃程度の熱処理を行い、シリカ被膜を焼結させると、より強固に中核となる微粒子16を基材14の表面に結合固定できる。基材ガラスが軟化する程度まで焼結温度を高くすると、シリカ被膜が融解または軟化し、中核となる微粒子16を融着させることもできる。このとき、分散液中に、金属アルコキシドの5%程度のリン酸またはホウ酸を添加しておくと、シリカ被膜の融点を500℃程度まで低下させることができるので、基材ガラスを軟化させることなく500〜600℃で30分程度の焼結により、基材14の表面に中核となる微粒子16を融着できる。
【0044】
基材14、中核となる微粒子16のいずれかが有機材料である場合でも、耐熱性が確保出来る範囲で融着による結合固定を行うこともできる。但し、有機材料は無機材料よりも融点および軟化温度が低く、熱分解を起こしやすいため、無機材料の場合よりも加熱温度を低くする必要がある。
【0045】
また、本実施の形態においては、工程A、Bにおいて基材14をそのまま中核となる微粒子を融着させた基材14bの製造に用いたが、工程Aの前に基材14よりも低い温度で中核となる微粒子16を融着する被膜を基材14の表面に形成してもよい。被膜としては、基材14よりも低い温度で中核となる微粒子16を融着することのできる任意の被膜を用いることができるが、ゾルゲル法により形成された酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の金属酸化物の乾燥ゲル膜が好ましい。
【0046】
縮合触媒(詳細については後述する。)を含む金属アルコキシドの溶液を基材14の表面に塗布後溶媒を蒸発させると、空気中の水分によるアルコキシル基の加水分解により生成するヒドロキシル基とアルコキシル基との間で縮合反応が起こり、基材14の表面に金属酸化物の乾燥ゲル膜が形成される。未焼結の乾燥ゲル膜の表面および内部には、基材14よりも多くの遊離のヒドロキシル基が存在するため、基材14よりも低い温度で微粒子16と融着できる。
【0047】
被膜の一例であるシリカの乾燥ゲル膜の形成は、テトラメトキシシラン(Si(OCH)等のテトラアルコキシシラン、縮合触媒および溶媒を混合して得られるゾル溶液を基材14の表面に塗布し、溶媒を蒸発させることにより行うことができる。
用いることのできる縮合触媒、助触媒、溶媒の種類、テトラアルコキシシランの濃度、触媒の添加量については後述する。
【0048】
ゾル溶液の塗布は、ディップコート法、スピンコート法、スプレー法、インクジェット法、スクリーン印刷法等の任意の方法により行うことができる。また、乾燥ゲル膜の膜厚は、超撥水撥油性熱交換部材10の製造に用いる中核となる微粒子16の直径にもよるが、5〜50nmが好ましい。このようにして得られる、シリカの乾燥ゲル膜を表面に有する基材14を用いて超撥水撥油性熱交換部材10の製造を行うと、工程Aにおける加熱処理を300度以下の低温で行うことが可能となる。そのため、予め風冷強化された基材14を用いた場合にも、高温で加熱することにより強化度を劣化させることなく中核となる微粒子を融着させた基材14bを製造できる。
【0049】
バインダとしては、化学反応により形成される有機または無機高分子以外に、例えば、溶射皮膜等を用いることもできる。この場合、例えば、中核となる微粒子16を分散させた基材14の表面に、皮膜原料のアトマイズ粉を噴射することにより溶射皮膜を形成する。
【0050】
工程C
次いで、基材14の表面に付着、結合固定または融着された中核となる微粒子16(または16a)の表面に、中核となる微粒子16の直径よりも底面の直径の小さな複数の円錐状またはタケノコ状の突起13を形成する。突起13の形成には、生産性や大面積化の容易さ等の観点から、大気圧プラズマ法を用いた酸化亜鉛の化学気相成長(CVD)法が好ましく用いられる。プラズマCVD法を用いた酸化亜鉛からなる突起13の形成には、線状のプラズマトーチを用い、亜鉛源として亜鉛錯体または有機亜鉛化合物を、キャリアガスとしてヘリウム、アルゴン等を用いることができる。亜鉛錯体または金属亜鉛化合物の具体例としては、ジエチル亜鉛(Zn(C2H5)2)、ビスアセチルアセトナート亜鉛(Zn(acac)2)、ビス(2−メトキシ−6−メチル−3,5−ヘプタンジオナート)亜鉛(Zn(MOPD)2)等が挙げられる。
【0051】
このようにして形成される突起13は、円錐状またはタケノコ状の形状を有しており、底面の直径は、例えば、融着した中核となる微粒子16aの直径の1/100以上1/5以下であり、1nm〜50μm、好ましくは5nm〜80nm、より好ましくは10〜20nmである。突起13の底面の直径に対する突起13の高さの割合で定義される突起13のアスペクト比は、例えば1以上5以下である。アスペクト比が大きくなりすぎると第2の突起23が折損しやすくなり、アスペクト比が小さくなりすぎると、製造される超撥水撥油性熱交換部材10の表面形状のフラクタル性が低下し、十分な撥水撥油防汚性能が発揮されにくくなる。
【0052】
なお、図3に示すように、基材14の表面にもタケノコ状の突起13を形成してもよい。また、ここで、工程Bの前に工程Cを行っても、同様の表面形状が形成できる。
【0053】
工程D
金平糖状の突起(11)が形成された基材14aの表面の図示しない表面官能基と表面反応基との反応により形成された結合を介して、その表面に結合固定された撥水撥油防汚性薄膜15aを形成し、超撥水撥油性熱交換部材10を製造するのに用いる反応液は、フッ化炭素基を含むアルコキシシラン化合物(表面反応基とフッ化炭素基とを有する膜化合物15の一例)と、金平糖状の突起(11)が形成された基材14aの表面のヒドロキシル基(表面官能基の一例)とアルコキシシリル基との縮合反応を促進するための縮合触媒と、非水系の有機溶媒とを混合することにより調製される。
【0054】
フッ化炭素基を含むアルコキシシラン化合物としては、下記の一般式(I)で表されるアルコキシシラン化合物が挙げられる。
【0055】
(I)CF(CF−Y−Z−(CH−Si(OR)
【0056】
上式において、mは0〜20の整数を、nは0〜9の整数を、Rは炭素数1〜4のアルキル基をそれぞれ表す。
また、Yは、(CH(kは1〜3の整数を表す)および単結合のいずれかを表し、Zは、O(エーテル酸素)、COO、Si(CH、および単結合のいずれかを表す。
【0057】
式(I)で表されるフッ化炭素基を含むアルコキシシラン化合物としては、下記(1)〜(12)に示す化合物が挙げられる。
【0058】
(1)CFCHO(CH15Si(OCH
(2)CF(CHSi(CH(CH15Si(OCH
(3)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OCH
(4)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OCH
(5)CFCOO(CH15Si(OCH
(6)CF(CF(CHSi(OCH
(7)CFCHO(CH15Si(OC
(8)CF(CHSi(CH(CH15Si(OC
(9)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OC
(10)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(OC
(11)CFCOO(CH15Si(OC
(12)CF(CF(CHSi(OC
【0059】
縮合触媒としては、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレート等の金属塩が利用可能である。
縮合触媒の添加量は、好ましくはアルコキシシラン化合物の0.2〜5質量%であり、より好ましくは0.5〜1質量%である。
【0060】
カルボン酸金属塩の具体例としては、酢酸第1スズ、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクテート、ジブチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクテート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクタン酸第1スズ、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、2−エチルヘキセン酸鉄が挙げられる。
【0061】
カルボン酸エステル金属塩の具体例としては、ジオクチルスズビスオクチリチオグリコール酸エステル塩、ジオクチルスズマレイン酸エステル塩が挙げられる。
カルボン酸金属塩ポリマーの具体例としては、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジメチルスズメルカプトプロピオン酸塩ポリマーが挙げられる。
カルボン酸金属塩キレートの具体例としては、ジブチルスズビスアセチルアセテート、ジオクチルスズビスアセチルラウレートが挙げられる。
【0062】
チタン酸エステルの具体例としては、テトラブチルチタネート、テトラノニルチタネートが挙げられる。
チタン酸エステルキレート類の具体例としては、ビス(アセチルアセトニル)ジ−プロピルチタネートが挙げられる。
【0063】
金平糖状の突起(11)が形成された基材14aの表面に反応液を塗布し、室温の空気中で反応させると、アルコキシシリル基と金平糖状の突起(11)が形成された基材14aの表面のヒドロキシル基とが縮合反応を起こし、下記の化1で示されるような構造を有するフッ化炭素基を含む撥水撥油防汚性薄膜15aを生成する。なお、酸素原子から延びた3本の単結合は金平糖状の突起(11)が形成された基材14aの表面のヒドロキシル基または隣接するシラン化合物のケイ素(Si)原子と結合しており、そのうち少なくとも1本は金平糖状の突起(11)が形成された基材14aの表面のヒドロキシル基と結合している。
【0064】
【化1】

【0065】
アルコキシシリル基は、水分の存在下で分解するので、反応は相対湿度45%以下の空気中で行うことが好ましい。なお、縮合反応は、金平糖状の突起(11)が形成された基材14aの表面に付着した油脂分や水分により阻害されるので、金平糖状の突起(11)が形成された基材14aをよく洗浄して乾燥することにより、これらの不純物を予め除去しておくことが好ましい。
縮合触媒として上述の金属塩のいずれかを用いた場合、縮合反応の完了までに要する時間は2時間程度である。
【0066】
上述の金属塩の代わりに、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、アミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物を縮合触媒として用いた場合、反応時間を1/2〜2/3程度まで短縮できる。
【0067】
あるいは、これらの化合物を助触媒として、上述の金属塩と混合(質量比1:9〜9:1の範囲で使用可能だが、1:1前後が好ましい)して用いると、反応時間をさらに短縮できる。
【0068】
例えば、縮合触媒として、ジブチルスズオキサイドの代わりにケチミン化合物であるジャパンエポキシレジン社のH3を用い、その他の条件は同一にして処理を行うと、反応時間を1時間程度にまで短縮できる。
【0069】
さらに、縮合触媒として、ジャパンエポキシレジン社のH3とジブチルスズビスアセチルアセトネートとの混合物(混合比は1:1)を用いると、その他の条件は同一にした場合、反応時間を20分程度に短縮できる。
【0070】
なお、ここで用いることができるケチミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、2,5,8−トリアザ−1,8−ノナジエン、3,11−ジメチル−4,7,10−トリアザ−3,10−トリデカジエン、2,10−ジメチル−3,6,9−トリアザ−2,9−ウンデカジエン、2,4,12,14−テトラメチル−5,8,11−トリアザ−4,11−ペンタデカジエン、2,4,15,17−テトラメチル−5,8,11,14−テトラアザ−4,14−オクタデカジエン、2,4,20,22−テトラメチル−5,12,19−トリアザ−4,19−トリエイコサジエン等が挙げられる。
【0071】
また、用いることができる有機酸も特に限定されるものではないが、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、マロン酸等が挙げられる。
【0072】
反応液の調製には、有機塩素系溶媒、炭化水素系溶媒、フッ化炭素系溶媒、シリコーン系溶媒、およびこれらの混合溶媒を用いることができる。アルコキシシラン化合物の加水分解を防止するために、乾燥剤または蒸留により使用する溶媒から水分を除去しておくことが好ましい。また、溶媒の沸点は50〜250℃であることが好ましい。
【0073】
具体的に使用可能な溶媒としては、非水系の石油ナフサ、ソルベントナフサ、石油エーテル、石油ベンジン、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、デカリン、工業ガソリン、ノナン、デカン、灯油、ジメチルシリコーン、フェニルシリコーン、アルキル変性シリコーン、ポリエーテルシリコーン、ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
さらに、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、あるいはそれらの混合物を用いることもできる。
【0074】
また、用いることができるフッ化炭素系溶媒としては、フロン系溶媒、フロリナート(米国3M社製)、アフルード(旭硝子株式会社製)等がある。なお、これらは1種単独で用いても良いし、良く混ざるものなら2種以上を組み合わせてもよい。さらに、ジクロロメタン、クロロホルム等の有機塩素系溶媒を添加してもよい。
【0075】
反応液におけるアルコキシシラン化合物の好ましい濃度は、0.5〜3質量%である。
【0076】
反応後、溶媒で洗浄し、未反応物として表面に残った過剰なアルコキシシラン化合物および縮合触媒を除去すると、撥水撥油防汚性薄膜15aで表面が覆われた超撥水撥油性熱交換部材10が得られる。
【0077】
洗浄溶媒としては、アルコキシシラン化合物を溶解できる任意の溶媒を用いることができるが、安価であり、溶解性が高く、風乾により容易に除去することのできるジクロロメタン、クロロホルム、N−メチルピロリドン等が好ましい。
【0078】
反応後、余分な反応液を溶媒で洗浄除去せずに空気中に放置すると、表面に残ったアルコキシシラン化合物の一部が空気中の水分により加水分解を受け、生成したシラノール基がアルコキシシリル基と縮合反応を起こす。その結果、超撥水撥油性熱交換部材10の表面にポリシロキサンよりなる極薄のポリマー膜が形成される。このポリマー膜は、超撥水撥油性熱交換部材10の表面に共有結合により固定されていないが、フッ化炭素基を有しているため撥水撥油防汚性を有している。そのため、多少耐久性に劣る点を除けば、このままの状態でも超撥水撥油性熱交換部材10として使用できる。
【0079】
本実施の形態においては、アルコキシシラン化合物を用いた場合について説明したが、フッ化炭素基を有するハロシラン化合物を用いてもよい。ハロシラン化合物を用いる場合には、縮合触媒および助触媒が不要であること、アルコール系溶媒が使用できないこと、アルコキシシラン化合物より加水分解を受けやすいので、乾燥溶媒を用い、乾燥空気中(相対湿度30%以下)で反応を行うことを除き、アルコキシシラン化合物と同様に反応液の調製および金平糖状の突起(11)が形成された基材14aとの反応を行うことができる。
【0080】
単分子膜状の撥水撥油防汚性薄膜15aの膜厚は高々1nm程度であるため、金平糖状の突起(11)が形成された基材14aの表面に形成された5〜50nm程度の凸凹はほとんど損なわれることがない。また、この凸凹の効果(いわゆる「蓮の葉効果」)により、超撥水撥油性熱交換部材10の見かけ上の表面エネルギーを小さくでき、水滴接触角は、140°以上(本実施の形態では150°程度)となり、超撥水が実現できる。
【0081】
また、工程Dにおいて用いることができるフッ化炭素基を含むハロシラン化合物としては、下記(21)〜(26)に示す化合物が挙げられる。また、下記(27)〜(32)に示すイソシアネートシラン化合物を用いることもできる。
【0082】
(21)CFCHO(CH15SiCl
(22)CF(CHSi(CH(CH15SiCl
(23)CF(CF(CHSi(CH(CHSiCl
(24)CF(CF(CHSi(CH(CHSiCl
(25)CFCOO(CH15SiCl
(26)CF(CF(CHSiCl
(27)CFCHO(CH15Si(NCO)
(28)CF(CHSi(CH(CH15Si(NCO)
(29)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(NCO)
(30)CF(CF(CHSi(CH(CHSi(NCO)
(31)CFCOO(CH15Si(NCO)
(32)CF(CF(CHSi(NCO)
【0083】
超撥水撥油性熱交換部材10は、150度程度の水滴接触角を有している。種々の体積の水滴(0.02〜0.08mL)を用いた検討結果より、水滴接触角が150度以上のとき、水滴の体積に関係なく転落角は15度以下となることを確認している。そのため、超撥水撥油性熱交換部材10を乗り物や建築物の窓ガラス板として用いた場合、ほとんどの水滴は表面にとどまることができずに転落する。
【0084】
超撥水撥油性熱交換部材10、100は、耐摩耗性および耐候性等の耐久性、水滴離水性(滑水性)、ならびに防汚性に優れており、撥水撥油防汚機能が要求される熱交換器の熱交換部材として用いることができる。超撥水撥油性熱交換部材10、100を用いることのできる熱交換器としては、自動車、鉄道車両、船舶、航空機等の空冷エンジン用冷却フィンまたは水冷エンジン用ラジエータ、ルームエアコン等の空調機器用熱交換器、家庭用または業務用冷蔵庫または冷凍庫用熱交換器、除湿器用熱交換器等が挙げられる。特に、埃等の汚染物質が付着しやすく、結露による通風抵抗の増大や結露性能の低下を起こしやすい冷房機器や冷蔵庫または冷凍庫等の吸熱器や除湿器用の吸熱器に超撥水撥油性熱交換部材10、100を適用すると、水滴接触角が大きいため、結露水が水滴となって表面から容易に脱落する。したがって、結露による通風抵抗の増大や、結露性能の低下による除湿効率の低下等を大幅に低減できる。
【実施例】
【0085】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。これらの実施例は単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1:超撥水撥油性熱交換部材の製造(1)
[1]基材表面への中核となるシリカ微粒子の融着
テトラメトキシシランのメタノール溶液に微量の水およびリン酸を加えて作製したゾル−ゲル溶液(シリカ濃度2%)を、アルミニウム板の表面に塗布後乾燥し、数ナノメートル程度の膜厚を有するシリカ被膜を形成した。平均直径が約130nmのシリカ微粒子をエタノールに分散後、シリカ被膜の全面に塗布後、エタノールを蒸発させ、更に600℃で30分焼結した、その後、表面に融着しなかったシリカ微粒子を洗浄除去した。
【0086】
このとき、上記のゾル−ゲル溶液にリン酸またはホウ酸を固形分にして5%程度添加しておくと、シリカ被膜の融点を450℃程度まで低減できるので、500〜600℃で30分程度の焼結温度でシリカ微粒子を十分融着できた。また、この加熱条件では、融着複合微粒子に由来する凸凹を損なうことはなかった。
【0087】
[2]大気圧プラズマによる第2の突起形成
ビス(2−メトキシ−6−メチル−3,5−ヘプタンジオナート)亜鉛((Zn(MOPD)2(C18H30O6Zn)、宇部興産製)を亜鉛源とし、ヘリウムをプラズマガスとする大気圧プラズマ法(により、シリカ微粒子を融着したアルミニウム板の表面に酸化亜鉛からなるタケノコ状の突起を形成した(図4参照)。なお、ここで、大気圧プラズマ法の条件は下記のとおりであった。
気化器温度 100℃
基板温度 210℃
プラズマHeガス流量 1400ccm
キャリアHeガス流量 250ccm
全Heガス流量 1650ccm
酸素流量 50ccm
ギャップ(カソード電極と基板との隙間) 0.5mm
電源 高周波パルス電源
印加電圧 1kV
周波数 20kHz
ステージ移動速度 1mm/s(20mm間の往復運動)
成膜時間 180min
【0088】
[3]撥水撥油防汚性被膜の形成
99重量部のヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシランCF(CF(CHSi(OCH、1重量部のジブチルスズジアセチルアセトナート(縮合触媒)をそれぞれ秤量後、ヘキサメチルジシロキサンに溶解し、濃度1重量%程度の反応液を作製した。融着複合微粒子が融着した基材の表面に反応液を塗布し、室温で反応させた。このとき、融着複合微粒子ならびにシリカ被膜の表面にはヒドロキシル基が多数含まれているので、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン−Si(OCH)基とヒドロキシル基が、縮合触媒の存在下で脱アルコール(この場合は、脱CHOH)反応し、下記化学式(化2)に示したような結合を形成し、フッ化炭素基を含む撥水撥油防汚性薄膜が表面と化学結合した状態で約1ナノメートル程度の膜厚で形成された。
【0089】
【化2】

【0090】
その後、ジクロロメタンで余分な反応液を洗浄除去すると、表面全面に亘り表面と化学結合したフッ化炭素基を含む撥水撥油防汚性薄膜(単分子膜)で被われた、撥水撥油防汚性を有する超撥水撥油性熱交換部材を製造できた。このようにして得られた超撥水撥油性熱交換部材の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図4に示す。なお、図4中、「Sample A」および「Sample B」は、同一の超撥水撥油性熱交換部材について、それぞれ異なる撮影角度から撮影した写真である。融着複合微粒子がそれぞれ基材および第1のシリカ微粒子の表面に融着したことにより、表面に複雑な凹凸が形成されており、後述するように、平坦な基材の表面に撥水撥油防汚性薄膜を形成した場合の水滴接触角110度程度に比べて、撥水性、撥油性および防汚性に優れた水滴接触角160±4度を実現出来ることが確認された。
【0091】
なお、シリカ微粒子の融着の際の焼成温度は、250℃以上かつ基材の軟化温度未満であれば高いほど微粒子を強固にガラス表面に融着できるが、あまり高すぎるとシリカ被膜中または基材の内部までシリカ微粒子が埋没してしまった。したがって、加熱温度は、基材の軟化度程度またはそれ以下でなくてはならない。
【0092】
一方、このとき、形成された微粒子表面の撥水撥油防汚性薄膜は、シリカ微粒子の表面エネルギーを小さくする作用があり、フラクタル構造を有する凸凹と併せて、基材表面の見かけ上の表面エネルギーを大きく低減できる作用がある。実際に水滴接触角を測定したところ、多少のバラツキは観測されたものの、接触角は160°程度であり、臨界表面エネルギーも1〜3mN/m程度であった。
【0093】
[4]撥水性能の評価
このようにして得られた超撥水撥油性を有するアルミニウム板をペルチェ素子(12V用、4cm×4cm、3.82mm厚)に装着し、ペルチェ素子に通電してヒートシンクを冷却し、結露試験(室温の大気中、相対湿度55%)を行った。その結果、結露した水滴はシートシンクの表面になじむことなく、球状になり、ファンで通風したりヒートシンクを傾けることにより容易に表面から脱落した。
【0094】
実施例2:超撥水撥油性熱交換部材の製造(2)
金平糖状の突起の中核となる微粒子として直径の異なる2種類のシリカ微粒子(平均直径50nmのシリカ微粒子と平均直径10nmのシリカ微粒子を1:10程度に混合して用いた。)を用いる以外は実施例1と同様に、アルミニウム板の表面に金平糖状の突起を形成した。その後、金平糖状の突起を形成した表面に、フッ化炭素基を含む撥水撥油防汚性薄膜を形成すると、表面近傍断面がフラクタル構造で、撥水撥油効果が高い(水滴接触角で158度)膜で覆われたアルミニウム板を製造できた。実施例1と同様にペルチェ素子による冷却試験を行い、実施例1の場合と同様の撥水性能を示すことを確認した。
【0095】
実施例3:超撥水撥油性熱交換部材の製造(3)
実施例1と同様の方法を用いて撥水撥油防汚性反射防止膜を形成した除湿器用吸熱フィンを製造し、除湿器に取り付けて試験を行った。長時間にわたり大気中の相対湿度の数値がほぼ一定に保たれることから、結露水の吸熱フィン表面への滞留による結露性能の顕著な低下は確認されなかった。
【符号の説明】
【0096】
10 超撥水撥油性熱交換部材
11 金平糖状の突起
12 半球状の突起
13 タケノコ状の突起
14 基材
14a 金平糖状の突起が形成された基材
14b 中核となる微粒子を融着させた基材
15 表面反応基とフッ化炭素基とを有する化合物
15a 撥水撥油防汚性薄膜
16 中核となる微粒子
16a 基材に融着した中核となる微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数の金平糖状の突起を有する基材と、
前記突起を有する基材の表面の少なくとも一部に結合した撥水撥油防汚性薄膜とを有し、
前記金平糖状の突起が、中核となる微粒子よりなる略半球状の第1の突起と、前記第1の突起の表面に形成され、前記第1の突起の直径よりも底面の直径が小さな複数の円錐状またはタケノコ状の第2の突起で構成されていることを特徴とする超撥水撥油性熱交換部材。
【請求項2】
球状または略球状の中核となる微粒子を前記基材の表面に融着させ、あるいはバインダを介して結合させることにより前記第1の突起が形成されていることを特徴とする請求項1記載の超撥水撥油性熱交換部材。
【請求項3】
前記中核となる微粒子の直径が30nm〜10μmであり、
前記第2の突起の高さが10〜300nmであることを特徴とする請求項2記載の超撥水撥油性熱交換部材。
【請求項4】
前記第2の突起の高さが、前記第1の突起の高さの1/10以上1/2以下であることを特徴とする請求項1から3記載の超撥水撥油性熱交換部材。
【請求項5】
前記第2の突起が、酸化亜鉛からなることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の超撥水撥油性熱交換部材。
【請求項6】
前記中核となる微粒子が、ガラス、シリカ、アルミナおよびジルコニアからなる群より選択される材質からなるものであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の超撥水撥油性熱交換部材。
【請求項7】
前記撥水撥油防汚性薄膜が単分子膜であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の超撥水撥油性熱交換部材。
【請求項8】
表面の臨界表面エネルギーが1mN/m以上3mN/m以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の超撥水撥油性熱交換部材。
【請求項9】
溶媒に分散させた球状または略球状の中核となる中核となる微粒子を基材の表面に散布する工程Aと、
前記中核となる中核となる微粒子が散布された前記基材を加熱して、前記基材の表面に前記中核となる中核となる微粒子を結合固定または融着させ、略半球状の第1の突起を形成する工程Bと、
前記第1の突起の表面に、該第1の突起の直径よりも底面の直径の小さな複数の円錐状またはタケノコ状の第2の突起を形成する工程Cと、
前記第1および第2の突起とから構成される金平糖状の突起が形成された前記基材の表面に撥水撥油防汚性薄膜を形成する工程Dとを有することを特徴とする超撥水撥油性熱交換部材の製造方法。
【請求項10】
前記金平糖状の突起の高さが30〜300nmであることを特徴とする請求項9記載の超撥水撥油性熱交換部材の製造方法。
【請求項11】
前記中核となる微粒子の直径が30nm〜10μmであり、前記第2の突起の高さが10〜300nmであることを特徴とする請求項10記載の超撥水撥油性熱交換部材の製造方法。
【請求項12】
前記工程Bにおいて、前記分散液を塗布後の前記基材を、該基材の軟化点以上で前記中核となる微粒子の融点以下で加熱し、前記基材の表面に前記中核となる微粒子を融着することを特徴とする請求項9から11のいずれか1項記載の超撥水撥油性熱交換部材の製造方法。
【請求項13】
前記分散液が、溶媒の蒸発および/またはその後の化学反応によりバインダを生成するバインダ前駆体を含み、前記工程Bにおいて、前記バインダを介して前記基材の表面に前記中核となる微粒子を結合固定または融着することを特徴とする請求項9から12のいずれか1項記載の超撥水撥油性熱交換部材の製造方法。
【請求項14】
前記バインダ前駆体が、ゾル−ゲル法により金属酸化物を形成する金属ゾル前駆体であることを特徴とする請求項13記載の超撥水撥油性熱交換部材の製造方法。
【請求項15】
前記工程Bの後で、結合固定または融着されなかった前記中核となる微粒子を洗浄除去することを特徴とする請求項9から14のいずれか1項記載の超撥水撥油性熱交換部材の製造方法。
【請求項16】
前記工程Bにおいて、前記基材の表面に付着、結合固定または融着された前記中核となる微粒子の表面に、大気圧プラズマ法を用いて酸化亜鉛からなる前記突起を形成することを特徴とする請求項9から15のいずれか1項記載の超撥水撥油性熱交換部材の製造方法。
【請求項17】
前記工程Dにおいて、前記基材および前記金平糖状の突起の表面官能基と反応して結合を形成する反応基とフッ化炭素基またはジメチルシリル基とを有する化合物を含む反応液を、前記第1および第2の突起が形成された前記基材の表面に接触させ、前記表面官能基と前記反応基との反応により形成された結合を介して該表面に結合固定された前記化合物の被膜を形成することを特徴とする請求項9から16のいずれか1項記載の超撥水撥油性熱交換部材の製造方法。
【請求項18】
前記反応基がアルコキシシリル基であり、前記反応液が、
(1)カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステルおよびチタン酸エステルキレートからなる群から選択される1または2以上の化合物、および/または
(2)ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、およびアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1または2以上の化合物を縮合触媒として含むことを特徴とする請求項17記載の超撥水撥油性熱交換部材の製造方法。
【請求項19】
前記工程Cの後で、余分な前記反応液を洗浄除去することを特徴とする請求項17または18記載の超撥水撥油性熱交換部材の製造方法。
【請求項20】
前記工程Bの前に前記工程Cを行うことを特徴とする請求項9から19のいずれか1項記載の超撥水撥油性熱交換部材の製造方法。
【請求項21】
請求項1から8のいずれか1項記載の超撥水撥油性熱交換部材を有する熱交換器。
【請求項22】
吸熱器であることを特徴とする請求項21記載の熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−92289(P2013−92289A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233800(P2011−233800)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】