説明

超極細樹脂繊維束集合体及びそれを用いたワイパリング

【課題】相対的に摺動運動するいずれか一方の部材に取り付け、相手部材の摺動面の潤滑の維持と付着するダストの除去を行うゴム弾性体で加硫結合強化した超極細樹脂繊維束集合体の許容温度範囲の拡大と高強度化を図る。
【解決手段】加硫結合強化した超極細樹脂繊維束集合体をシリコーン・アクリル共重合体樹脂エマルションを含浸処理を行い、加硫結合部及び超極細樹脂繊繊にシリコーン・アクリル共重合体樹脂皮膜を生成し、加硫結合部の補強と共に酸化劣化の進行を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超極細樹脂繊維束集合体及びそれを用いたワイパリングに関し、具体的には、ゴム弾性体により加硫結合強化した超極細樹脂繊維束集合体の耐熱性改良に関し、高い温度領域や摩擦熱による温度上昇が想定される、流体圧シリンダやスライドガイド、ボールネジなどの相対的に摺動運動する摺動面の潤滑の維持・補給、粉塵、摩耗粉を含むダストの除去機能を発揮できる、不織布構造を有する加硫ゴム弾性体による加硫結合強化部分を備えた超極細樹脂繊維束集合体及びに超極細樹脂繊維束集合体からなるワイパリングに関する。
【背景技術】
【0002】
油圧・空気圧機器や水圧機器等におけるピストンやシリンダ等の往復運動部分や、ネジ運動する駆動機構、例えばボールネジやその回転運動あるいは往復運動のガイド機構部は、外部から内部への異物やダストの侵入、あるいは摺動運動により発生する摩耗粉などを摺動面から除去する部材であるワイパリング(本明細書ではこのようなダスト侵入、除去対策部材を「ワイパリング」という。ダストシールまたはスクレーパも同議語である。)を用いている。
【0003】
このような相対的摺動面においては、環境温度、ダストや摩耗粉等の状況によって、グリース等の潤滑剤が固化したりダスト等と共に除去され易く潤滑不足が発生し、パッキンやシールの摩耗や、軸受部金属の直接的接触、所謂かじりなどの発生が見られた。
【0004】
本出願人は、先に特許文献1により、潤滑不足とダストなどの除去と潤滑保持機能を一体的に有するワイパリングとして、内部に液体状潤滑材を保持及び通過させることができるとともに保持した液体状潤滑を毛細管現象によって前記摺動面へ供給することができる立体的な連通空間を備える不織布構造を有する超極細樹脂繊維束集合体からなるワイパリングに係る特許発明を開示した。
【0005】
この超極細樹脂繊維束集合体の加硫結合強化部分に用いられているポリウレタンゴムは、ゴム材料として、物性、耐摩耗性、ゴム弾性に優れており、液状のポリウレタンゴムを不織布状の樹脂繊維集合体にコーティングした後に加硫結合することにより繊維の結束部を補強し、超極細樹脂繊維束集合体に高い補強性を与えていることから、流体圧シリンダなどの流体圧機器を初めとして、ボールネジ、リニアガイド、ガイドバー等の摺動面の潤滑維持、ダスト等の除去するワイパリングの材料として優れた特性・機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3707499号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、超極細樹脂繊維束集合体の加硫結合強化部分を構成するポリウレタンゴムは、熱可塑性エラストマ(TPU)に分類されるゴム弾性材料であり、高温時には軟化し強度が低下するため補強効果が低下するとともに、熱ひずみによる超極細樹脂繊維束集合体の接触力の低下などのシール阻害や繊維のほつれが発生するなど、高温側の使用範囲が限定されていた。
【0008】
本発明は、上述した現在広く使用されている、超極細樹脂繊維束集合体の結束部の高温時における強度の向上を図り、実績のある現行の使用温度100℃を150℃程度以上に高めた超極細樹脂繊維束集合体及びそれを用いたワイパリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を達成するために、液状ニトリルゴム、液状ふっ素ゴムなどと共に、架橋タイプのシリコーン系繊維処理剤等を用いてポリウレタンゴム補強超極細樹脂繊維束集合体の補強を試み、シリコーン・アクリル共重合体樹脂エマルションを用いることにより上記課題を解決できることを知見し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は以下の通りである。
(1)複数の樹脂繊維を束ねた束を複数絡ませた樹脂繊維束集合体と、該複数の束をそれぞれ部分的に結合する加硫ゴム弾性体による加硫結合強化部分とを備える超極細樹脂繊維束集合体を、シリコーン・アクリル共重合体樹脂エマルションに含浸した後加熱処理してなることを特徴とする超極細樹脂繊維束集合体。
(2)上記(1)項に記載の超極細樹脂繊維束集合体からなるとともに、摺動部分の潤滑剤の保持及び補給、もしくはダストの除去に用いられることを特徴とするワイパリング。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上述した現在広く使用されている、超極細樹脂繊維束集合体の結束部の高温時における強度の向上を図り、実績のある現行の使用温度100℃を150℃程度以上に高めた超極細樹脂繊維束集合体及びそれを用いたワイパリングを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
略述すると、本発明は、上述したように、超極細樹脂繊維束集合体の加硫結合強化部分を構成する熱可塑性エラストマであるポリウレタンゴムが、高温時に軟化し物性が低下した状態においても、シリコーン・アクリル共重合体樹脂の皮膜を形成して、結束部のポリウレタンゴム部分をカバーすると共に補強して、劣化を防止すると共に高温時の強度の低下を補うことを可能とするものである。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る超極細樹脂繊維束集合体は、従来からのポリウレタンゴムによる加硫結合強化部分を有する超極細樹脂繊維束集合体に、シリコーン・アクリル共重合体樹脂エマルションを含浸させ、次いで乾燥〜加熱加橋の一連の処理を行うことにより、超極細樹脂繊維束集合体に含浸したシリコーン・アクリル共重合体樹脂エマルションが、ポリウレタンゴムおよび超極細樹脂繊維の表面にシリコーン・アクリル共重合体樹脂皮膜を生成する。
【0014】
このシリコーン・アクリル共重合体樹脂皮膜が、ポリウレタンゴムの高温時の物性の低下を補うように働き、超極細樹脂繊維束集合体の高温時の物性の低下を補い、実質的に恒温使用温度範囲を150℃程度以上に広げることができる。
【0015】
シリコーン・アクリル共重合体樹脂エマルションは、不揮発成分の含有量と粘度により超極細樹脂繊維束集合体中のシリコーン・アクリル共重合体樹脂の量を調整することが可能であり、共重合体樹脂の量が多いと補強性は高くなるが、樹脂繊維束集合の液体状潤滑剤を運動面に供給する連通空間が少なくなり潤滑剤の含浸量が減少する。
【0016】
このような共重合体樹脂成分の含浸量の最適化が、蒸留水の添加によりエマルションの濃度の調整により容易行えることも本発明の大きな特徴である。
本発明におけるシリコーン・アクリル共重合体樹脂エマルションとしては、例えば、日信化学工業(株)製のシャリーヌE(商品名)、品番FE−230N、R−170EM等を用いることが例示される。
【0017】
シリコーン・アクリル共重合体樹脂エマルションは、末端のアクリル基の親和性により超極細樹脂繊維束集合体の結束部のポリウレタンゴムおよび超極細樹脂繊維とも相溶し易く、より高い補強効果が得られると考えられる。また、シリコーン成分の作用として、超極細樹脂繊維束集合体の摺動特性の向上にも寄与する。
【0018】
このようにして、本発明によれば、上述した現在広く使用されている、超極細樹脂繊維束集合体の結束部の高温時における強度の向上を図り、実績のある現行の使用温度100℃を150℃程度以上に高めた超極細樹脂繊維束集合体及びそれを用いたワイパリングを提供することができる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。
実施例1は、シリコーン系エマルションとして日信化学工業(株)製のシャリーヌFE−230Nの原液を、処理液として容器に入れ、300mm×200mm×3mm厚のポリウレタンゴム補強超極細樹脂繊維束集合体シートを液中に浸し、処理液を含浸させた後10分間金属網に乗せ余分の処理液を滴下除去した。次いで100℃のオーブン中で30分間の乾燥を行い、水分を除去した後、150℃のオーブン中で2時間の加熱処理を行った。
【0020】
実施例2は、シリコーン系エマルションとしてシャリーヌFE−230Nの原液を等量の蒸留水で希釈した処理液を用いた以外、実施例1と同様に処理した。
実施例3は、シリコーン系エマルションとして日信化学工業(株)製のシャリーヌFE−230Nの原液を3倍の蒸留水にて希釈した処理液を用いた以外、実施例1と同様に処理した。
【0021】
比較例1は、従来からのポリウレタンゴム補強超極細樹脂繊維束集合体である。
以上の実施例1〜3および比較例により得られた超極細樹脂繊維束集合体について、以下の評価を行った。
1.引張強さTB(MPa):JIS K6251に準拠し、ダンベル3号型試験片を用いた。
2.恒温槽による高温引張り試験:JIS K6251に準拠し、ダンベル3号型試験片を用い、試験温度は、25℃、80℃、100℃、125℃、150℃、175℃とし試験片を恒温槽内で1時間以上放置し同温度で測定した。
3.充填率評価:各実施例のダンベル3号型試験片の重量と比較例1のダンベル3号型試験片の重量差からシリコーン・アクリル共重合体樹脂の充填率を求めた。
【0022】
得られた結果を表1にまとめて示す。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示すように、シリコーン・アクリル共重合体樹脂エマルション処理した超極細樹脂繊維束集合体は、25℃の常温領域で従来からの超極細樹脂繊維束集合体に比べ、約10〜30%の引張強さの向上が実現している。
【0025】
また、実施例1及び2には150℃の温度における引張強さが、従来の超極細樹脂繊維束集合体の使用限界である100℃の温度条件下の引張強さと同等の値が得られていることから、少なくとも150℃の温度条件での使用が可能である。実施例3においても150℃で比較例に対し約1MPa強度が向上している。
【0026】
150℃の高温領域においても使用できる繊維系のワイパリングの使用は、潤滑剤であるウレア系、シリコーン系、ふっ素系などの耐熱グリースとの併用により、高負荷条件下での使用が進んでいる、ボールネジやリニアガイド、耐熱仕様の空気圧シリンダ等のワイパリングとして特に有用である。
【0027】
また、シリコーン・アクリル共重合体樹脂エマルションを含浸させ、乾燥、加熱重合処理を施すという比較的簡単な処理操作によって得られる本発明のワイパリングは、経済的な面からも大きなメリットがもたらされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂繊維を束ねた束を複数絡ませた樹脂繊維束集合体と、該複数の束をそれぞれ部分的に結合する加硫ゴム弾性体による加硫結合強化部分とを備える超極細樹脂繊維束集合体を、シリコーン・アクリル共重合体樹脂エマルションに含浸した後加熱処理してなることを特徴とする超極細樹脂繊維束集合体。
【請求項2】
請求項1に記載の超極細樹脂繊維束集合体からなるとともに、摺動部分の潤滑剤の保持及び補給、もしくはダストの除去に用いられることを特徴とするワイパリング。

【公開番号】特開2013−19084(P2013−19084A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155523(P2011−155523)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000143891)株式会社阪上製作所 (8)
【Fターム(参考)】