説明

超極細繊維からなる粉末およびその製造方法

【課題】繊維分散体からなり、溶媒に分散させた際の分散性や保存安定性に優れる粉末を提供する。
【解決手段】数平均直径が1〜500nmである超極細繊維から構成され、数平均粒径が1〜1000μmであることを特徴とする超極細繊維からなる粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超極細繊維を球状に成形した粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より繊維を粉末に成形して、樹脂や塗料、化粧品などのフィラーとして利用することが進められている。繊維を粉末に成形したものとしては、例えば直径が3μm以下の超極細繊維を5〜100μmの長さに切断した微粉末が挙げられる(特許文献1参照)。しかしながら、この繊維微粉末は単に繊維が分散して粉末状になっているにすぎず、また、超極細繊維を凍結後に機械的に粉砕することで得られたものであるため、凍結・破砕の際に繊維が径方向や長手方向にランダムに破砕や切断され、粉末としてみた場合には繊維長などのバラツキが大きい。そのため、樹脂や塗料ならびに化粧品などのフィラーとして添加した場合に、繊維が凝集するために沈降したりして分散性が悪く、保存安定性が低下したり、これらを塗布した際に均一に塗布することができないといった問題があった。
【0003】
そこで、分散性や保存安定性に優れ、各種フィラーとして有用な超極細繊維からなる粉末が求められていた。
【特許文献1】特開2001−146630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、分散性や保存安定性に優れる超極細繊維からなる粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の粉末は数平均直径が1〜500nmである超極細繊維が絡み合って構成された、数平均粒径が1〜1000μmであるものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、構成繊維の繊維径が小さく、見かけ密度が小さい粒状構造の粉末を得ることができる。そのため、その粉末はかかる特性を活かして、樹脂や塗料ならびに化粧品などのフィラーとしてだけでなく、吸着剤、保水剤、医療、衛生等の各分野において広く用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の粉末について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0008】
本発明において粉末とは、一般的な無機粒子と同様に乾燥状態で粒状構造となっているものをいう。形状としては真球状に近い形態から扁平状、棒状などの形態を呈するものであって、その形状としては限定されない。
【0009】
本発明における超極細繊維は、単繊維が分散した形態のものを指し、具体的には単繊維が実質的に凝集していない状態を例示できる。実質的とは、単繊維間が完全にバラバラで無配向の状態であるもの、および部分的に結合しているものの大部分がバラバラで無配向の状態などの形態を呈するものを含み、いわゆる単繊維レベルで繊維状の形態であればよい。すなわち、特開2004−162244号公報に記載されたような配向された集合体とは異なるものである。なお、超極細繊維の繊維長や断面形状などは限定されない。
【0010】
本発明の超極細繊維からなる粉末は、上記の分散した超極細繊維が無配向のまま凝集したり、互いに絡みあったり等して粒状となったものである。ここで、「無配向のまま凝集している」とは、粉末中の単繊維同士がバラバラの状態で存在し、かつ単繊維同士の交差点が分子間力や水素結合力などで結合している状態のことである。また、「互いに絡みあっている」とは、単繊維同士の交差点が単繊維間の絡みあいによって結合されている状態のことである。尚、超極細繊維からなる粉末の一例として、後述の実施例1で得られた粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図1〜2に示した。
【0011】
本発明の超極細繊維を構成する繊維は数平均直径が1〜500nmであることが重要である。繊維の数平均直径をかかる範囲内にすることで、製造工程上、分散媒中に超極細繊維が分散しやすくなるため、繊維が粉末において部分的に偏在することなく均一に存在しし易くなり、また、見かけ密度が小さく、空隙率が高い粉末を得やすいといった利点がある。繊維の数平均直径としては1〜200nmであることが好ましく、1〜100nmであることがさらに好ましい。
【0012】
本発明において、繊維の数平均直径は以下のようにして求めることができる。すなわち、粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で少なくとも150本以上の単繊維が1視野中に観察できる倍率で観察し、撮影した写真の1視野において、無作為に抽出した150本の単繊維の繊維長手方向に対して垂直な方向の繊維幅を繊維の直径とし、数平均を計算する。
本発明の粉末の数平均粒径は1〜1000μmである。かかる粒径範囲にすることで、樹脂や塗料ならびに化粧品に配合した際に分散性良く配合することができ、さらにこれらを塗布した際に粉末同士が凝集してダマになったりせず、均一に塗布することが可能となる。数平均粒径は1〜200μmであることがより好ましく、1〜100μm以下であることがさらに好ましい。
【0013】
本発明において、粉末の数平均粒径は以下のようにして求めることができる。すなわち、上記SEM観察による写真から市販の画像処理ソフトを用いて粉末の粒径を球換算で計算し、それの単純な平均値を求めた。この際、同一視野内で無作為に抽出した150個の粉末の粒径を解析し、数平均を計算する。
【0014】
本発明で用いる超極細繊維を構成する繊維としては、木材パルプなどから製造されるセルロース、コットンや、麻、ウール、シルクなどの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維、アセテートなどの半合成繊維、ナイロンやポリエステル、アクリルなどに代表される合成繊維などが挙げられ、繊維の種類としては特に限定はないが、繊維分散体が熱可塑性ポリマーからなることが好ましい。これにより、繊維分散体を溶融紡糸法を利用して製造することができるために、生産性を非常に高くすることができる。本発明でいう熱可塑性ポリマーとは、ポリエチレンレタフタレート(以下、PETと呼ぶことがある)、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと呼ぶことがある)、ポリブチレンレフタレート(以下、PBTと呼ぶことがある)、ポリ乳酸(以下、PLAと呼ぶことがある)などのポリエステルやナイロン6(以下、N6と呼ぶことがある)、ナイロン66などのポリアミド、ポリスチレン(以下、PSと呼ぶことがある)、ポリプロピレン(以下、PPと呼ぶことがある)などのポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド(以下、PPSと呼ぶことがある)等が挙げられるが、ポリエステルやポリアミドに代表される重縮合系ポリマーは融点が高いものが多く、より好ましい。ポリマーの融点が165℃以上であると繊維分散体の耐熱性が良好であり好ましい。例えば、該融点はPLAは170℃、PETは255℃、N6は220℃である。また、ポリマーには粒子、難燃剤、帯電防止剤等の添加物を含有させていてもよい。またポリマーの性質を損なわない範囲で他の成分が共重合されていてもよい。さらに、溶融紡糸の容易さから、融点が300℃以下のポリマーが好ましい。
【0015】
本発明において超極細繊維の製造方法は特に限定されず、常法の溶融紡糸法等により得ることが可能であるが、特に数平均直径が1μm(1000nm)以下のナノレベルの超極細繊維(以下、ナノファイバーと呼ぶことがある)を得るための製造方法の一例として下記の方法を挙げることができる。
【0016】
すなわち、溶剤に対する溶解性の異なる2種類以上のポリマーをポリマーアロイ溶融体となし、これを紡糸した後、冷却固化して繊維化する。そして必要に応じて延伸・熱処理を施しポリマーアロイ繊維を得る。そして、易溶解性ポリマーを溶剤で除去することにより本発明で使用するナノファイバーを得ることができる。
【0017】
ここで、ナノファイバーの前駆体であるポリマーアロイ繊維中で易溶解性ポリマーが海(マトリックス)、難溶解性ポリマーが島(ドメイン)となし、その島サイズを制御することが重要である。ここで、島サイズとは、ポリマーアロイ繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、直径換算で評価したものである。前駆体中での島サイズによりナノファイバーの直径がほぼ決定されるため、島サイズの分布はナノファイバーの直径分布に準じて設計される。このため、アロイ化するポリマーの混練が非常に重要であり、混練押出機や静止混練器等によって高混練することが好ましい。なお、単純なチップブレンド(例えば特開平6−272114号公報、特開平10−53967号公報等)では混練が不足するため、数十nmサイズで島を分散させることは困難である。
【0018】
具体的に混練を行う際の目安としては、組み合わせるポリマーにもよるが、混練押出機を用いる場合は、2軸押出混練機を用いることが好ましく、静止混練器を用いる場合は、その分割数は100万以上とすることが好ましい。また、ブレンド斑や経時的なブレンド比率の変動を避けるため、それぞれのポリマーを独立に計量し、独立にポリマーを混練装置に供給することが好ましい。このとき、ポリマーはペレットとして別々に供給しても良く、あるいは、溶融状態で別々に供給してもよい。また、2種以上のポリマーを押出混練機の根本に供給しても良いし、あるいは、一成分を押出混練機の途中から供給するサイドフィードとしてもよい。
【0019】
混練装置として二軸押出混練機を使用する場合には、高度の混練とポリマー滞留時間の抑制を両立させることが好ましい。スクリューは、送り部と混練部から構成されているが、混練部の長さをスクリューの有効長さの20%以上とすることで高混練とすることができ好ましい。また、混練部の長さがスクリュー有効長さの40%以下とすることで、過度の剪断応力を避け、しかも滞留時間を短くすることができ、ポリマーの熱劣化やポリアミド成分等のゲル化を抑制することができる。また、混練部はなるべく二軸押出機の吐出側に位置させることで、混練後の滞留時間を短くし、島ポリマーの再凝集を抑制することができる。加えて、混練を強化する場合は、押出混練機中でポリマーを逆方向に送るバックフロー機能のあるスクリューを設けることもできる。
【0020】
また、島を数十nmサイズで超微分散させるには、ポリマーの組み合わせも重要である。
【0021】
島ドメイン(ナノファイバー断面)を円形状に近づけるためには、島ポリマーと海ポリマーは非相溶であることが好ましい。しかしながら、単なる非相溶ポリマーの組み合わせでは島ポリマーが十分に超微分散化し難い。このため、組み合わせるポリマーの相溶性を最適化することが好ましいが、このための指標の一つが溶解度パラメータ(SP値)である。SP値とは(蒸発エネルギー/モル容積)1/2で定義される物質の凝集力を反映するパラメータであり、SP値が近い物同士では相溶性が良いポリマーアロイが得られる可能性がある。SP値は種々のポリマーで知られているが、例えば「プラスチック・データブック」旭化成アミダス株式会社/プラスチック編集部共編、189ページ等に記載されている。2つのポリマーのSP値の差が1〜9(MJ/m1/2であると、非相溶化による島ドメインの円形化と超微分散化が両立させやすく好ましい。例えばナイロン6(N6)とPETはSP値の差が6(MJ/m1/2程度であり好ましい例であるが、N6とポリエチレン(PE)はSP値の差が11(MJ/m1/2程度であり好ましくない例として挙げられる。
【0022】
また、ポリマー同士の融点差が20℃以下であると、特に押出混練機を用いた混練の際、押出混練機中での融解状況に差を生じにくいため高効率混練しやすく、好ましい。
【0023】
また、熱分解や熱劣化し易いポリマーを1成分に用いる際は、混練や紡糸温度を低く抑える必要があるが、これにも有利となるのである。ここで、非晶性ポリマーの場合は融点が存在しないためガラス転移温度あるいはビカット軟化温度あるいは熱変形温度でこれに代える。
【0024】
さらに、溶融粘度も重要であり、海ポリマーの溶融粘度は紡糸性に大きな影響を与える場合があり、海ポリマーとして100Pa・s以下の低粘度ポリマーを用いると島ポリマーを分散させ易く好ましい。また、これにより紡糸性を著しく向上できるのである。この時、溶融粘度は紡糸の際の口金面温度で剪断速度1216sec−1での値である。
【0025】
本発明で用いる超微分散化したポリマーアロイを紡糸する際は、紡糸口金設計が重要であるが、糸の冷却条件も重要である。上記したようにポリマーアロイは非常に不安定な溶融流体であるため、口金から吐出した後に速やかに冷却固化させることが好ましい。このため、口金から冷却開始までの距離は1〜15cmとすることが好ましい。ここで、冷却開始とは糸の積極的な冷却が開始される位置のことを意味するが、実際の溶融紡糸装置ではチムニー上端部でこれに代える。
このようにして紡糸したポリマーアロイ繊維(海島型繊維)の易溶解性ポリマーを溶剤で除去することにより本発明で使用するナノファイバーを得ることができる。
【0026】
また、上記のナノファイバーの製造方法において、特に口金直上に静止混練器を位置させた場合には、理論上ナノファイバーが無限に伸びた長繊維形状のナノファイバーが得られる場合もある。
【0027】
上記、ポリマーアロイにより得られるナノファイバーは、従来のエレクトロスピニングにより得られるナノファイバーとは全く異なり、前駆体であるポリマーアロイ繊維を延伸・熱処理することによりナノファイバーをも延伸・熱処理することになる。そのため、得られるナノファイバーの引っ張り強度や収縮率を自由にコントロールすることができる。また、延伸・熱処理により結晶配向化されるために、結晶化度が20%以上であり、通常の衣料用繊維と同等の強度を持つような高強度のナノファイバーを得ることができる。したがって、かかる方法によって得られた繊維を下記するような超極細繊維からなる粉末の作製方法に適用し易く、粉末として適切な構造体強度を得やすいものであり、これによって様々な設計パターンの粉末の形成が容易となる。また、さらに前駆体であるポリマーアロイ繊維において、捲縮加工することも可能である。
【0028】
また、本発明で用いる超極細繊維は、単繊維直径が500nmより大きい単繊維の繊維構成比率が3重量%以下であることが好ましい。ここで粗大繊維の繊維構成比率とは、直径が1nmより大きい繊維全体の重量に対する粗大単繊維(直径500nmより大きいもの)の重量の比率のことを意味し、次のようにして計算する。すなわち、繊維束それぞれの単繊維直径をdとし、その2乗の総和(d+d+・・+d)=Σd(i=1〜n)を算出する。また、直径500nmより大きい繊維束それぞれの繊維直径をDとし、その2乗の総和(D+D+・・+Dm)=ΣD(i=1〜m)を算出する。Σdに対するΣDの割合を算出することで、全繊維に対する粗大繊維の面積比率、すなわち重量比率を求めることができる。
【0029】
本発明で用いる超極細繊維は直径500nmより大きい単繊維の繊維構成比率はより好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下である。すなわち、これは500nmを越える粗大な繊維の存在がゼロに近いことを意味するものである。
また、超極細繊維の数平均直径が200nm以下の場合には、直径200nmより大きい単繊維の繊維構成比率は、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下であることである。また、超極細繊維の単繊維の数平均直径が100nm以下の場合には、直径100nmより大きい単繊維の繊維構成比率は、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.1重量%以下であることである。このように、繊維分散液における粗大繊維の構成比率を低く抑えることで、得られる粉末が均質なものとなり、また、同一の繊維分散液から複数の粉末を製造する場合には個体差がなくなり、製品の品質安定性も良好とすることができる。」 本発明において、超極細繊維はどのような状態で分散されていてもかまわないが、以下、分散媒中に超極細繊維が単繊維レベルで分散された状態のものを、特に繊維分散液という。後述するように、本発明の粉末は繊維分散液から好ましく製造されるため、次に、超極細繊維(ナノファイバー)分散液の調整方法について説明する。
【0030】
上述のようにして得られた繊維(ナノファイバー)をギロチンカッターやスライスマシンおよびクライオスタットなどの切断機などを使用して、所望の繊維長にカットする。上述のように溶融紡糸法により得られたナノファイバーは、繊維同士が一定方向に揃った繊維束として得られるため、すべてのカット繊維を所望の繊維長に揃えることが可能である。尚、エレクトロスピニング法によるナノファイバー繊維では、その作製方法から一定方向に繊維が揃った繊維束を作製することができないため、カットしても繊維長を揃えることができなく、繊維分散液を作製するのには不向きであった。
【0031】
繊維分散液中での繊維分散性を向上させるためには、カット繊維の繊維長は長すぎると分散性が不良となる傾向がある。一方、カット繊維の繊維長が短すぎると粉末とした時に繊維の絡み合いの程度が小さくなり、その結果として粉末が粒状構造を取りにくくなったり、、粉末構造の強度が低くなる。これらを改善する観点から、繊維長としては0.2〜30mmにカットすることが好ましい。繊維長はより好ましくは0.5〜10mm、さらに好ましくは0.8〜5mmである。
【0032】
次に得られたカット繊維を分散媒中に分散させる。分散媒としては水だけでなく、繊維との親和性も考慮してヘキサンやトルエンなどの炭化水素系溶媒、クロロホルムやトリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、エタノールやイソプロピルアルコール、ブチルアルコールおよびヘキサノールなどのアルコール系溶媒、エチルエーテルやテトラヒドロフランおよびジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトンやメチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、酢酸メチルや酢酸エチなどのエステル系溶媒、エチレングリコールやプロピレングリコールなどの多価アルコール系溶媒、トリエチルアミンやN,N−ジメチルホルムアミドなどのアミンおよびアミド系溶媒などの一般的な有機溶媒を好適に用いることができる。但し、安全性や環境等を考慮すると、分散媒として水を用いることが好ましい。なお、分散媒は単独でも2種類以上を組み合わせても良い。
【0033】
また、下記するような分散媒の除去により粉末を作製する観点からは、常圧あるいは低圧状態で昇華できるような性質をもつ分散媒であることが好ましいため、分散媒としてはこのような性質をもつ水を使用することが好ましい。
【0034】
カット繊維を分散媒中に分散させる方法としては、ミキサーやホモジナイザーおよび超音波型撹拌機等の攪拌機を用いることができる。溶融紡糸で得られたナノファイバーのように、カット繊維中の単繊維同士が強固に凝集した形態の場合には、撹拌による分散の前処理工程として、分散媒中で叩解することが好ましく、ナイアガラビータ、リファイナー、カッター、ラボ用粉砕器、バイオミキサー、家庭用ミキサー、ロールミル、乳鉢、PFI叩解機、バス型超音波処理機およびプローブ型超音波処理機などでせん断力を与え、繊維1本1本まで分散させ分散媒中に投与することができる。
【0035】
ナノファイバーの分散液を作製するためには、繊維自体がさまざまな操作に耐えうる機械的な強度を有している必要があるため、上記のように溶融紡糸法によって作製され、配向結晶化されることによって機械的な強度を得たナノファイバーを使用することが好ましい。上記製造方法によって製造されたナノファイバーは、結晶化度が20%以上であり、通常の衣料用繊維と同等の強度を持つ。
【0036】
また、繊維分散液中での超極細繊維の分散性を均一にするために、分散液中の超極細繊維濃度は分散液全重量に対して0.001〜30重量%にすることが好ましい。特に粉末中の粒状構造は分散液中の繊維の存在状態、すなわち繊維間距離に大きく依存するため、分散液中の超極細繊維濃度を上記範囲に制御することが好ましい。分散液中の超極細繊維濃度はより好ましくは0.01〜10重量%であり、さらに好ましくは0.05〜5重量%である。
【0037】
また、超極細繊維の再凝集を抑制したり、繊維同士の接着性や接着性を向上させるために、必要に応じて分散液中に分散剤などの添加剤を用いてもよい。添加剤の種類としては天然ポリマー、合成ポリマー、有機化合物および無機化合物等が挙げられる。例えば、水系で用いる場合のポリマー系の添加剤であって、繊維同士の凝集を抑制して分散性をあげる添加剤として、ポリカルボン酸塩などのアニオン系化合物、第4級アンモニウム塩などのカチオン系化合物、ポリオキシエチレンエーテルやポリオキシエチレンエステルなどのノニオン系化合物から選択することができる。このような分散性を向上させる添加剤の分子量としては1000〜50000であることが好ましく、5000〜15000であることがさらに好ましい。
【0038】
また、添加剤の濃度は、分散液全体に対し0.00001〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは0.0001〜5重量%、さらに最も好ましくは0.01〜1重量%であり、これにより十分な分散効果が得られる。
【0039】
次に、繊維分散液から粉末を製造する方法について説明する。
【0040】
上記で得られた分散液中の繊維(ナノファイバー)を粒状化して本発明の粉末とするためには、繊維分散液を乾燥して分散媒を除去する必要がある。繊維分散液を乾燥し、分散媒を除去する乾燥方法としては、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。例えば、繊維分散液を凍結して、これを粉砕や種々の手法により球状に成形し、さらにこれを凍結乾燥して本発明の粉末を得ることも可能であるが、より粒径が小さい粉末とするためには、スプレードライにより本発明の粉末を得ることが好ましい。スプレードライではスプレードライ装置を用い、分散液を細かい液滴として噴霧しながら熱風で分散媒を除去し、粉末を捕集する。これにより、繊維がほぼ球形に近い状態で寄り集まった粉末が得られる。液滴にしてスプレーする方法としてはノズルで噴霧する方法や回転ディスクで液滴を飛ばす方法など種々の方法を採用することができる。
【0041】
本発明の粉末の数平均粒径は1〜1000μmであるが、スプレードライにより粉末とする場合には、液滴の直径、繊維分散液における超極細繊維の濃度、超極細繊維の繊維径等を調整することにより、粉末粒子の数平均粒径を1〜1000μmに制御することができる。すなわち、粉末粒径は液滴の直径よりも大きくなることはないので、主として液滴の直径と繊維分散液の超極細繊維濃度とを調整することにより、粉末の数平均粒径をコントロールすることができる。なお、液滴の直径は、ノズルで噴霧する方法の場合はノズルの構造や噴霧速度、回転ディスクで液滴を飛ばす方法の場合は分散液の滴下速度やディスクの回転速度等によって調整することができる。
【0042】
また、本発明で用いられるナノファイバーは、使用する用途に応じて様々な処理を行うことも可能である。処理としては、加熱処理、冷却処理、凍結処理、酸やアルカリによる加水分解処理、溶媒処理、熱水処理、グロー放電処理、プラズマ放電処理、コロナ放電処理、γ線処理、電子線処理、レーザー処理、紫外線処理、赤外線処理、オゾン処理、加圧処理、減圧処理、加圧蒸気処理、ガス処理、蒸気処理、火炎処理、コーティング処理、グラフト重合処理、延伸処理、真空処理、架橋処理、化学的修飾処理およびイオン注入等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
処理方法として、粉末を形成させたナノファイバー同士が絡み合った状態で、ナノファイバー表面を軟化、溶融あるいは溶解させ、再凝固させることにより、ナノファイバー同士を部分的に融着することにより接着させることも可能である。このような処理の代表例として、熱処理、電子線処理および溶媒処理があるが、中でも加圧蒸気処理がもっとも好ましく用いられる。この場合、ナノファイバーの原料として使用する合成ポリマーのガラス転移温度以上、溶融温度以下の温度条件で処理することが好ましい。
【0044】
また、これらの処理は、粉末を作製する前の状態であっても後の状態であっても、いずれの時点で行っても良い。
【0045】
特にこれらの処理において、ナノファイバー同士を部分的に接着させることにより、ナノレベルの構造を保持したまま、耐水性や耐圧性のような外部からの物理的な力に対する耐久性を向上させることが可能となる。このようなナノファイバー同士を接着させる好ましい処理方法として、コーティング処理による被覆、熱処理による融着、および溶媒処理による溶着が好ましい様態として含まれる。しかしながら、コーティング処理は他のポリマー類でナノファイバーを被覆することによりナノファイバー同士を接着させて耐久性を向上させることができるが、ナノファイバー自体の物性を著しく変化させる可能性がある。また、溶媒処理による溶着はナノファイバーのナノレベルの構造を変化させてしまう可能性が高い。そのため、特にナノファイバー自体の物性やナノ構造を変化させない点で熱処理がより好ましく用いられる。
【0046】
本発明の繊維からなる粉末を配合した塗料は、本発明の粉末と溶媒で構成されており、本発明の粉末が溶媒に分散されているものである。さらに、粘性を調整する粘剤や分散性を向上させる分散剤などの各種添加剤が配合されていても良い。溶媒や各種添加剤の種類については特に限定はなく、目的や用途に応じて適宜選定すればよい。溶媒としては、例えば次のような有機溶媒などが挙げられ、アルコール類、エステル類、グリコール類、グリセリン類、ケトン類、エーテル類、アミン類、乳酸・酪酸などの低級脂肪酸類、ピリジン、テトラヒドロフラン、フルフリルアルコール、アセトニトリル類、乳酸メチル、乳酸エチルなどがあり、単独でも2種類以上の組合わせても使用可能である。
本発明の繊維からなる粉末を配合した化粧品は、本発明の粉末と各種有効成分や溶媒などを配合した液状物もしくは固形状物のことを指す。
【0047】
溶媒としては水及び/又は油及び/又は有機溶媒のうちで、適宜組みあわせて使用することができる。油としては、アマニ油、トウモロコシ油、オリーブ油、ヒマワリ油、菜種油、ゴマ油、大豆油、カカオ油、ヤシ油、パーム油、モクロウなどの天然油やパラフィン、ワセリン、セレシン、流動パラフィン、スクワラン、ワックス、高級脂肪酸、シリコーン油、架橋シリコーン油などがあり、単独でも2種類以上の組合わせても使用可能である。
また、有機溶媒としては、上記の各種溶媒を用いることができ、単独でも2種類以上の組合わせても使用可能である。
【0048】
さらに、有効成分としては各種アミノ酸やタンパク質、ビタミン類などがあり、具体的にはヒアルロン酸やコウジ酸、コラーゲンやセラミド、スクワラン、レシチン、ビタミンCの主成分であるアスコルビン酸やビタミンEの主成分であるトコフェロールなど、肌に保湿性や潤いを与えたり、肌をみずみずしく保つような各種成分を挙げることができる。
【0049】
以上のように、本発明の粉末は、塗料ならびに化粧品などのフィラーとして有用であるが、本発明の粉末は樹脂のフィラーとしても有用である。また、本発明の粉末は、その表面積を活かして、吸着剤、保水剤などにも有用であり、さらには、医療、衛生等の各分野における粉末材料などにも好適である。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0051】
A.ポリマーの溶融粘度
東洋精機製作所製キャピログラフ1Bによりポリマーの溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までのポリマーの貯留時間は10分とした。
【0052】
B.融点
Perkin Elmaer社製 DSC−7を用いて2nd runでポリマーの融解を示すピークトップ温度をポリマーの融点とした。このときの昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0053】
C.ポリマーアロイ繊維のウースター斑(U%)
ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTER 4を用いて給糸速度200m/分でノーマルモードで測定を行った。
【0054】
D.SEM観察
サンプルに白金を蒸着し、超高分解能電解放射型走査型電子顕微鏡で観察した。
SEM装置:日立製作所(株)製UHR−FE−SEM
E.TEMによるナノファイバーの横断面観察
分散前の超極細繊維束を用い、これの横断面方向に超薄切片を切り出してTEMでナノファイバーの横断面を観察した。また、必要に応じ金属染色を施した。
TEM装置:日立製作所(株)製H−7100FA型
F.繊維の数平均直径
ポリマーアロイ繊維中の島成分の数平均直径や繊維束の単繊維(ナノファイバー)の数平均直径は、次のようにして求める。すなわち、上記E項のTEMで、ポリマーアロイ繊維の場合には少なくとも300個の島成分を、繊維束の場合には少なくとも300本の単繊維を1視野中に観察できる倍率で観察し、観察による写真から画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、島あるいは単繊維のそれぞれの直径の単純な平均値を求めた。この際、同一視野内で無作為に抽出した、島成分であれば300個、単繊維であれば300本の直径を解析し、計算に用いた。
【0055】
一方、粉末を構成する単繊維の数平均直径は、以下のようにして求める。
すなわち、上記D項のSEMで、少なくとも150本以上の単繊維が1視野中に観察できる倍率で観察し、観察による写真から画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、繊維長手方向に対して垂直な方向の繊維幅を繊維の直径とし、それの単純な平均値を求めた。この際、同一視野内で無作為に抽出した150本の繊維の直径を解析し、計算に用いた。
【0056】
G.繊維束中の単繊維の繊維構成比率
上記繊維束中の単繊維の直径解析を利用し、超極細繊維束中のそれぞれの単繊維直径をdとし、その2乗の総和(d+d+・・+d)=Σd(i=1〜n)を算出する。また、直径500nmより大きい繊維束中のそれぞれの繊維直径をDとし、その2乗の総和(D+D+・・+Dm)=ΣD(i=1〜m)を算出する。Σdに対するΣDの割合を算出することで、全繊維に対する粗大繊維の面積比率、すなわち繊維構成比率とした。
【0057】
H.力学特性
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に、破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸度として強伸度曲線を求めた。
【0058】
I.粉末の数平均粒径
粉末の数平均粒径は、以下のようにして求める。
すなわち、上記D項のSEMで少なくとも150個の粉末が1視野中に観察できる倍率で観察し、観察による写真から画像処理ソフト(WINROOF)を用いて粉末の粒径を球換算で計算し、それの単純な平均値を求めた。この際、同一視野内で無作為に抽出した150個の粉末の粒径を解析し、計算に用いた。
【0059】
<分散液の製造例1>
溶融粘度57Pa・s(240℃、剪断速度2432sec-1)、融点220℃のN6(20重量%)と重量平均分子量12万、溶融粘度30Pa・s(240℃、剪断速度2432sec-1)、融点170℃のポリL乳酸(光学純度99.5%以上)(80重量%)を2軸押出混練機で220℃で溶融混練してポリマーアロイチップを得た。尚、N6の262℃、剪断速度121.6sec-1での溶融粘度は53Pa・sであった。また、このポリL乳酸の215℃、剪断速度1216sec-1での溶融粘度は86Pa・sであった。また、このときの混練条件は以下のとおりであった。
ポリマー供給 :N6とポリL乳酸を別々に計量し、別々に混練機に供給した。
スクリュー型式:同方向完全噛合型 2条ネジ
スクリュー :直径37mm、有効長さ1670mm
L/D :45.1
混練部長さはスクリュー有効長さの1/3より吐出側に位置
温度 :220℃
ベント :2箇所。
【0060】
このポリマーアロイチップを230℃の溶融部で溶融し、紡糸温度230℃のスピンブロックに導いた。そして、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、口金面温度215℃とした口金から紡糸速度3500m/分で溶融紡糸した。この時、口金としては口金孔径0.3mm、吐出孔長0.55mmのものを使用したが、バラス現象はほとんど観察されなかった。そして、この時の単孔あたりの吐出量は0.94g/分とした。さらに、口金下面から冷却開始点(チムニーの上端部)までの距離は9cmであった。吐出された糸条は20℃の冷却風で1mにわたって冷却固化され、口金から1.8m下方に設置した給油ガイドで給油された後、非加熱の第1引き取りローラーおよび第2引き取りローラーを介して巻き取った。その後、糸条を温度90℃の第1ホットローラーと、温度130℃の第2ホットローラーとで延伸熱処理した。この時、第1ホットローラーと第2ホットローラーによる延伸倍率を1.5倍とした。得られたポリマーアロイ繊維は62dtex、36フィラメント、強度3.4cN/dtex、伸度38%、U%=0.7%の優れた特性を示した。また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、ポリL乳酸が海、N6が島の海島構造を示し、島N6の数平均による直径は55nmであり、N6が超微分散化したN6ナノファイバーの前駆体であるポリマーアロイ繊維が得られた。
【0061】
得られたポリマーアロイ繊維を95℃の5%水酸化ナトリウム水溶液にて1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中のポリL乳酸成分の99%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、N6ナノファイバーの繊維束を得た。この繊維束をTEM写真から解析した結果、N6ナノファイバーの数平均直径は60nmと従来にない細さであり、単繊維直径100nmより大きいものの繊維構成比率は0重量%であった。
【0062】
得られたN6ナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、N6ナノファイバーのカット繊維を得た。タッピースタンダードナイヤガラ試験ビータ((株)東洋精機製作所製)に水23Lと先に得られたカット繊維30gを仕込み、5分間予備叩解し、その後余分な水を切って繊維を回収した。この繊維の重量は250gであり、その含水率は88重量%であった。含水状態の繊維250gをそのまま自動式PFIミル(熊谷理機工業(株)製)に仕込み、回転数1500rpm、クリアランス0.2mmで6分間叩解した。オスターブレンダー(オスター社製)に、叩解した繊維42g、分散剤としてアニオン系分散剤であるシャロール(登録商標)AN−103P(第一工業製薬(株)製:分子量10000)を0.5g、および水500gを仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌し、N6ナノファイバーの含有率が1.0重量%の分散液1を得た。
【0063】
<分散液の製造例2>
分散液の製造例1のN6を溶融粘度212Pa・s(262℃、剪断速度121.6sec-1)、融点220℃のN6(45重量%)とした以外は分散液の製造例1と同様に溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。次いで、これを分散液の製造例1と同様に溶融紡糸、延伸熱処理しポリマーアロイ繊維を得た。得られたポリマーアロイ繊維は67dtex、36フィラメント、強度3.6cN/dtex、伸度40%、U%=0.7%の優れた特性を示した。また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、分散液の製造例1と同様にポリL乳酸が海、N6が島の海島構造を示し、島N6の数平均による直径は110nmであり、N6が超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。
【0064】
得られたポリマーアロイ繊維を分散液の製造例1と同様にしてポリマーアロイ繊維中のポリL乳酸成分の99%以上を加水分解除去、酢酸で中和した後、水洗、乾燥し、N6ナノファイバーの繊維束を得た。この繊維束をTEM写真から解析した結果、N6ナノファイバーの数平均直径は120nmと従来にない細さであり、単繊維直径で500nmより大きいものの繊維構成比率は0重量%、単繊維直径で200nmより大きいものの繊維構成比率は1重量%であった。
【0065】
得られたN6ナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、N6ナノファイバーのカット繊維を得た。これを分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率88重量%のN6ナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解した。オスターブレンダー(オスター社製)に、叩解した繊維21g、分散剤としてアニオン系分散剤であるシャロール(登録商標)AN−103P(第一工業製薬(株)製:分子量10000)、および水500gを仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、N6ナノファイバーの含有率が0.5重量%の分散液2を得た。
【0066】
<分散液の製造例3>
オスターブレンダー(オスター社製)に仕込む水および分散剤の量は変えずに、叩解後の繊維量を変更することで、N6ナノファイバーの含有率を0.1重量%とした以外は分散液の製造例2と同様にして分散液3を得た。
【0067】
<分散液の製造例4>
オスターブレンダー(オスター社製)に仕込む水および叩解後の繊維量は変えずに、分散剤を用いなかったこと以外は分散液の製造例1と同様にしてN6ナノファイバー分散液4を得た。
【0068】
<分散液の製造例5、6>
分散液の製造例5ではN6ナノファイバーのカット長を0.5mm、分散液の製造例6ではN6ナノファイバーのカット長を5mmとした以外は分散液の製造例1と同様にしてN6ナノファイバーの含有率が1.0重量%分散液5及び6を得た。
【0069】
<分散液の製造例7>
溶融粘度120Pa・s(262℃、121.6sec-1)、融点225℃のPBT(ポリブチレンテレフタレート)と2エチルヘキシルアクリレートを22%共重合したポリスチレン(PS)を用い、PBTの含有率を20重量%とし、混練温度を240℃として分散液の製造例1と同様に溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。この時、共重合PSの262℃、121.6sec-1での溶融粘度は140Pa・s、245℃、1216sec-1での溶融粘度は60Pa・sであった。
【0070】
これを溶融温度260℃、紡糸温度260℃(口金面温度245℃)、紡糸速度1200m/分で分散液の製造例1と同様に溶融紡糸を行った。この時、口金として吐出孔上部に直径0.3mmの計量部を備えた、吐出孔径が0.7mm、吐出孔長が1.85mmのものを使用した。紡糸性は良好であり、1tの紡糸で糸切れは1回であった。この時の単孔あたりの吐出量は1.0g/分とした。得られた未延伸糸を延伸温度100℃、延伸倍率を2.49倍とし、熱セット温度115℃として分散液の製造例1と同様に延伸熱処理した。得られた延伸糸は161dtex、36フィラメントであり、強度1.4cN/dtex、伸度33%、U%=2.0%であった。得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、共重合PSが海、PBTが島の海島構造を示し、PBTの数平均による直径は70nmであり、PBTがナノサイズで均一分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。
【0071】
得られたポリマーアロイ繊維をトリクレンに浸漬することにより、海成分である共重合PSの99%以上を溶出し、これを乾燥して、PBTナノファイバーの繊維束を得た。この繊維束をTEM写真から解析した結果、PBTナノファイバーの数平均直径は85nmと従来にない細さであり、単繊維直径で200nmより大きいものの繊維構成比率は0重量%、単繊維直径で100nmより大きいものの繊維比率は1重量%であった。
【0072】
得られたPBTナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、PBTナノファイバーのカット繊維を得た。これを分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率80重量%のPBTナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解した。この叩解した繊維25g、分散剤としてノニオン系分散剤であるノイゲン(登録商標)EA−87(第一工業製薬(株)製:分子量10000)を0.5g、および水500gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、PBTナノファイバーの含有率が1.0重量%の分散液7を得た。
【0073】
<分散液の製造例8>
溶融粘度220Pa・s(262℃、121.6sec-1)、融点225℃のPTT(ポリトリメチレンテレフタレート)と新日鐵化学(株)製共重合PS(ポリスチレン)(“エスチレン”KS−18、メチルメタクリレート共重合、溶融粘度110Pa・s、262℃、121.6sec-1)を、PTTの含有率を25重量%とし、混練温度を240℃として分散液の製造例1と同様に溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。また、この共重合PSの245℃、1216sec-1での溶融粘度は76Pa・sであった。
【0074】
これを溶融温度260℃、紡糸温度260℃(口金面温度245℃)、紡糸速度1200m/分で分散液の製造例1と同様に溶融紡糸を行った。この時、口金としては吐出孔上部に直径0.23mmの計量部を備えた、吐出孔径が2mm、吐出孔長が3mmの紡糸口金を使用した。紡糸性は良好であり、1tの紡糸で糸切れは1回であった。この時の単孔吐出量は1.0g/分とした。得られた未延伸糸を90℃の温水バス中で2.6倍延伸を行った。得られたポリマーアロイ繊維は140detx、36フィラメントであり、強度1.3cN/dtex、伸度25%であった。これの横断面をTEMで観察したところ、共重合PSが海、PTTが島の海島構造を示し、PTTの数平均による直径は75nmであり、PTTがナノサイズで均一分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。また、これは単繊維繊度3.9dtex、強度1.3cN/dtex、伸度25%であった。
【0075】
得られたポリマーアロイ繊維を分散液の製造例7と同様にしてポリマーアロイ繊維中のPS成分の99%以上を溶出、乾燥し、PTTナノファイバーの繊維束を得た。この繊維束をTEM写真から解析した結果、PTTナノファイバーの数平均直径は95nmと従来にない細さであり、単繊維直径で200nmより大きいものの繊維構成比率は0重量%、単繊維直径で100nmより大きいものの繊維構成比率は3重量%であった。
【0076】
得られたPTTナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、PTTナノファイバーのカット繊維を得た。これを分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率80重量%のPTTナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解した。この叩解した繊維25g、分散剤としてノニオン系分散剤であるノイゲン(登録商標)EA−87(第一工業製薬(株)製:分子量10000)を0.5g、および水500gオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、PTTナノファイバーの含有率が1.0重量%の分散液8を得た。
【0077】
<分散液の製造例9>
分散液の製造例1のN6を溶融粘度350Pa・s(220℃、121.6sec-1)、融点162℃のPP(ポリプロピレン)(23重量%)とした以外は分散液の製造例1と同様に溶融混練し、ポリマーアロイチップを得た。なお、ポリL乳酸の220℃、121.6sec-1における溶融粘度は107Pa・sであった。このポリマーアロイチップを溶融温度230℃、紡糸温度230℃(口金面温度215℃)、単孔吐出量1.5g/分、紡糸速度900m/分で分散液の製造例1と同様に溶融紡糸を行った。得られた未延伸糸を延伸温度90℃、延伸倍率を2.7倍、熱セット温度130℃として分散液の製造例1と同様に延伸熱処理した。得られたポリマーアロイ繊維は、77dtex、36フィラメント、強度2.5cN/dtex、伸度50%であった。
【0078】
得られたポリマーアロイ繊維を98℃の5%水酸化ナトリウム水溶液にて1時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中のポリL乳酸成分の99%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、PPナノファイバーの繊維束を得た。この繊維束をTEM写真から解析した結果、PPナノファイバーの数平均直径は240nmであり、単繊維直径で500nmより大きいものの繊維比率は0重量%であった。
【0079】
得られたPPナノファイバーの繊維束を2mm長に切断して、PPナノファイバーのカット繊維を得た。これを分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率75重量%のPPナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解した。この叩解した繊維を20g、分散剤としてノニオン系分散剤であるノイゲン(登録商標)EA−87(第一工業製薬(株):分子量10000)を0.5g、および水500gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、PPナノファイバーの含有率が1.0重量%の分散液9を得た。
【0080】
<分散液の製造例10>
溶融粘度280Pa・s(300℃、1216sec−1)のPETを80重量%、溶融粘度160Pa・s(300℃、1216sec−1)のポリフェニレンサルファイド(PPS)を20重量%として、下記条件で2軸押出混練機を用いて溶融混練を行い、ポリマーアロイチップを得た。ここで、PPSは直鎖型で分子鎖末端がカルシウムイオンで置換された物を用いた。
スクリュー L/D=45
混練部長さはスクリュー有効長さの34%
混練部はスクリュー全体に分散させた
途中2個所のバックフロー部有り。
ポリマー供給 PPSとPETを別々に計量し、別々に混練機に供給した。
温度 300℃
ベント 無し。
【0081】
ここで得られたポリマーアロイチップを分散液の製造例1と同様に紡糸機に導き、紡糸を行った。この時、紡糸温度は315℃、限界濾過径15μmの金属不織布でポリマーアロイ溶融体を濾過した後、口金面温度292℃とした口金から溶融紡糸した。この時、口金としては、吐出孔上部に直径0.3mmの計量部を備えた、吐出孔径が0.6mmのものを用いた。そして、この時の単孔あたりの吐出量は1.1g/分とした。さらに、口金下面から冷却開始点までの距離は7.5cmであった。吐出された糸条は20℃の冷却風で1mにわたって冷却固化され、脂肪酸エステルが主体の工程油剤が給油された後、非加熱の第1引き取りローラーおよび第2引き取りローラーを介して1000m/分で巻き取られた。この時の紡糸性は良好であり、24時間の連続紡糸の間の糸切れはゼロであった。そして、これを第1ホットローラーの温度を100℃、第2ホットローラーの温度を130℃として延伸熱処理した。この時、第1ホットローラーと第2ホットローラー間の延伸倍率を3.3倍とした。得られたポリマーアロイ繊維は400dtex、240フィラメント、強度4.4cN/dtex、伸度27%、U%=1.3%の優れた特性を示した。また、得られたポリマーアロイ繊維の横断面をTEM観察したところ、海ポリマーであるPET中にPPSが島として直径100nm未満で均一に分散していた。また、島の円換算直径を画像解析ソフトWINROOFで解析したところ、島の平均直径は65nmであり、PPSが超微分散化したポリマーアロイ繊維が得られた。
【0082】
得られたポリマーアロイ繊維を98℃の5%水酸化ナトリウム水溶液にて2時間浸漬することでポリマーアロイ繊維中のPET成分の99%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥し、PPSナノファイバーの繊維束を得た。この繊維束をTEM写真から解析した結果、PPSナノファイバーの数平均直径は60nmと従来にない細さであり、単繊維直径100nmより大きいものの繊維比率は0重量%であった。
【0083】
得られたPPSナノファイバーの繊維束を3mm長に切断して、PPSナノファイバーのカット繊維を得た。これを分散液の製造例1と同様に予備叩解を施し、含水率80重量%のPPSナノファイバーを得た後、さらに分散液の製造例1と同様に叩解した。この叩解した繊維25g、分散剤としてノニオン系分散剤であるノイゲン(登録商標)EA−87(第一工業製薬(株)製:分子量10000)を0.5g、および水500gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、PPSナノファイバーの含有率が1.0重量%の分散液10を得た。
【0084】
<分散液の製造例11>
海成分にアルカリ可溶型共重合ポリエステル樹脂60重量%、島成分にN6樹脂40重量%を用い、溶融紡糸で島成分を100島とし、5.3dtexの高分子配列体複合繊維(以後複合繊維)を作成後、2.5倍延伸して2.1dtexの複合繊維を得た。この複合繊維の強度は2.6cN/dtex、伸度は35%であった。その後、この複合繊維を98℃の3%濃度の水酸化ナトリウム水溶液にて1時間処理することで、複合繊維中のポリエステル成分の99%以上を加水分解除去し、酢酸で中和後、水洗、乾燥してN6の極細繊維を得た。得られた極細繊維の平均単糸繊度をTEM写真から解析したところ、0.02dtex(平均繊維径2μm)相当であった。得られたN6極細繊維を2mm長に切断してカット繊維とした後、このカット繊維50g、分散剤としてアニオン系分散剤であるシャロール(登録商標)AN−103P(第一工業製薬(株)製:分子量10000)を0.5g、および水500gをオスターブレンダー(オスター社製)に仕込み、回転数13900rpmで30分間撹拌して、N6極細繊維の含有率が1.0重量%の分散液11を得た。
【0085】
以上説明した製造例で作製した各分散液をまとめて表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
<実施例1>
分散液の製造例1で得られたナノファイバー分散液1を用い、乾燥機としては三井三池化工機(株)製SD10型スプレードライヤーを用いた。この分散液1を9000rpmで回転している直径5cmのディスクに20g/分の速度で滴下し、液滴の直径を約100μmの霧状にしたものを180℃雰囲気下に噴霧して乾燥(スプレードライ)し、乾燥した粉末を回収した。
得られた粉末をSEMで観察したところ、数平均直径は60nmであり、粉末の数平均粒径は25μmであった。図1および図2に実施例1で得られた粉末のSEM写真を示した。
得られた粉末を手に塗ったところ、しっとりとした感触があり、保湿性に優れるものであった。また、塗った面の肌のしわをぼかすような効果が認められた。
【0088】
<実施例2〜10>
実施例2〜10については分散液の製造例2〜10で得られたナノファイバー分散液2〜10を用い、実施例1と同様にスプレードライを行い、粉末を得た。繊維分散体の数平均直径、粉末の数平均粒径は表2に示したとおりであった。
【0089】
<比較例1>
分散液の製造例11で得られた極細繊維の分散液11を用い、実施例1と同様にスプレードライを行ったが、繊維が綿状になり粉末状のものが得られなかった。
【0090】
<実施例11>
実施例1で得られた粉末を121℃、103.7kPaの条件下で20分間加圧蒸気処理を行った。
繊維分散体の数平均直径、粉末の数平均粒径は表5に示したとおりであった。
また、SEMによる観察により、加圧蒸気処理することで繊維同士が、部分的に融着して接着していることが確認された。さらに、上記の加熱蒸気処理された粉末を水に浸漬させても構造体が崩壊することはなかった。
【0091】
<実施例12>
実施例11で作製した粉末と市販の化粧水(資生堂製ザ・スキンケア ハイドロバランシングソフナー(商品名))を下記の配合比率とし、ラボ攪拌機で3分間混合し、粉末を配合した化粧水を作製した。被験者10人に対して、化粧水を使用した時の官能評価を行ったところ、被験者全てにおいて、使用時の違和感がなく自然な感じがするとのことであった。また、粉末を配合することによって、汗による化粧の流れが防止でき、化粧もちも向上した。また粉末を配合することで、粉末自身が保水性が高いことから、保湿性が良好となり、化粧使用後の肌のしっとり感が向上した。
【0092】
実施例11の粉末 10wt%
ザ・スキンケア ハイドロバランシングソフナー 90wt%
合計 100wt%
<実施例13>
ナノファイバー配合塗料の例
実施例11で得られた粉末30gと、溶媒がトルエンである市販のウレタン系塗料300gとを、ラボニーダーで120rpmの条件で30℃、30分間攪拌し、ナノファイバーを配合した塗料を得た。得られた塗料は、刷毛による塗布時の伸びがよく、適度な粘性を持つため液ダレもなく、塗布加工がし易いものであった。また、塗布後の塗料のツヤがよく、塗布表面も繊維を添加してあるにもかかわらず滑らかであった。
【0093】
以上説明した各実施例および比較例をまとめて表2に示す。
【0094】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係る粉末は塗料ならびに化粧品などのフィラー、樹脂のフィラーとして好適である。
また、吸着剤、保水剤などにも好適である。
さらに、医療、衛生等の各分野における粉末材料などにも好適である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】実施例1の繊維分散体からなる粉末のSEMによる観察結果を示す図面代用写真(500倍)である。
【図2】実施例1の繊維分散体からなる粉末のSEMによる観察結果を示す図面代用写真(2000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均直径が1〜500nmである超極細繊維で構成された、数平均粒径が1〜1000μmであることを特徴とする超極細繊維からなる粉末。
【請求項2】
前記超極細繊維が熱可塑性ポリマーを含むものであることを特徴とする請求項1に記載の超極細繊維からなる粉末。
【請求項3】
前記繊維同士が部分的に接着されている、請求項1または2に記載の粉末。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の粉末を配合した塗料。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の粉末を配合した化粧品。
【請求項6】
数平均直径が1〜500nmである超極細繊維を分散媒中に分散させた繊維分散液を粒状化して乾燥し、分散剤を除去することを特徴とする超極細繊維からなる粉末の製造方法。
【請求項7】
前記繊維分散液をスプレードライにより粒状化して乾燥することを特徴とする請求項6に記載の超極細繊維からなる粉末の製造方法。
【請求項8】
前記超極細繊維が熱可塑性ポリマーを含むものであることを特徴とする請求項6または7に記載の超極細繊維からなる粉末の製造方法。
【請求項9】
前記超極細繊維が、直径500nmより大きい単繊維の繊維構成比率が3重量%以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の超極細繊維からなる粉末の製造方法。
【請求項10】
分散媒を除去した後に、さらに加圧蒸気処理する、請求項6〜9のいずれかに記載の繊維からなる粉末の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−77563(P2007−77563A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−216909(P2006−216909)
【出願日】平成18年8月9日(2006.8.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】