説明

超疎水性パターン印刷用インク、これを用いて得られる超疎水性パターン印刷物及びその製造方法

【課題】 任意の超疎水性パターンを基材表面に印刷することが可能な超疎水性パターン形成用の印刷インキと、これを用いて得られる超疎水性パターン印刷物、並びにその簡便な製造方法を提供すること。
【解決手段】 直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー(A)のフィラメントがシリカ(B)で被覆されてなる有機無機複合のナノ構造体からなる粉末(X1)と、重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1)と、沸点が115〜300℃の有機溶剤(Z)と、を含有することを特徴とする超疎水性パターン印刷用インク、及びこれを基材にパターン印刷し硬化させてなる印刷物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメートルオーダーの基本構造を有するシリカを含有してなる超疎水性パターン形成用の印刷インクと、これを用いることで特殊な設備を要せず簡単なプロセスで得られる超疎水性パターン印刷物及びその製法に関する。
【背景技術】
【0002】
水の固体表面に対するぬれ性を制御して疎水化、撥水化する技術は、水滴の除去、指紋付着防止、防錆、氷着防止、積雪防止といった用途で、建材や電子機器部材、繊維加工や自動車のコーティングなどに利用されている。水滴が固体面と接触した場合に半球状になり付着するのは、接触面において水分子と固体表面が分子間力により引き合うためである。例えばガラス表面では、水と固体表面水酸基との水素結合により分子間力が大きくなるので水にぬれ易くなり、水滴の接触角は20〜30°になる。逆に、撥水性の最も大きい素材として知られているフッ素樹脂(PTFEなど)表面では、分極率の小さいフッ素原子により界面の分子間力が小さくなるので水にぬれ難くなり、水滴の接触角は110°程度まで大きくなる。
【0003】
ぬれ性の大きく異なる親水/疎水領域パターニングは、流体デバイスやバイオチップ、細胞チップ、オフセット印刷などに利用されている。このようなパターンを製造する方法としては、例えば、親水化した基体の上にフォトリソグラフィによって撥水性有機化合物を重合、硬化させ、パターンを作製する方法が提供されている(例えば、特許文献1参照)。また、超撥水化した基体の上にフォトリソグラフィによって有機化合物を硬化させ、パターンを作製する方法も提供されている(例えば、特許文献2参照)。これらの方法は、何れもそのパターンを構築するために複雑な工程を有するため、実用上の問題点が多い。
【0004】
又、凹凸構造を有するTiO基体あるいは凹凸表面に形成したTiO皮膜上に撥水性化合物をコーティングし、この化合物が酸化チタンの光触媒効果により分解されることを利用したフォトリソグラフィで超撥水/超親水パターンを作製する方法も提供されている(例えば、非特許文献1、2参照)。これらの方法は、基体が限定される上、少なくとも400℃以上の高温と長い製造プロセスを要することが問題である。
【0005】
更に又、凹凸構造を有する金薄膜に対して酸化チタンの非接触酸化反応を利用したフォトリソグラフィで、親水性/撥水性化合物をパターニングする方法(例えば、非特許文献3参照)や、あらかじめ超撥水化した印刷用紙にインクジェット印刷を施すことで、印刷部分の超撥水性を無くしたパターンを作製する方法(例えば、非特許文献4参照)も提供されている。
【0006】
しかしながら、以上に列挙したものを含め従来のほとんどの超撥水パターンの製造法に共通する問題点は、パターン印刷部と水滴との接触角が170°以下の「弱い疎水性」であること及び製造プロセスが複雑なことである。
【0007】
このような「弱い疎水性」では、辛うじて水をはじくことは可能であるが、より表面張力の小さい液体、例えば水性塗料、水性インク、生体液に対しては良好な撥液効果は期待できない。即ち、水滴の静的接触角が175°以上の高度な超疎水膜では、付着性の強い分散体を含む水性塗料(例えば機能性水性インクなど)をパターニングするといった、従来の疎水性の材料を用いたパターニングでは不可能な新たな工業的応用が可能になると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−248726号公報
【特許文献2】特開平11−265058号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Tadanaga et al.,J.Sol−Gel Sci.Tech.,2000,19,211−214.
【非特許文献2】Nakata et al.,Langmuir Lett.,2010,26,11628−11630.
【非特許文献3】Notsu et al.,J.Mater.Chem.,2005,15,1523−1527.
【非特許文献4】Barona et al.,Lab Chip,2011,11,936−940.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、任意の超疎水性パターンを基材表面に印刷することが可能な超疎水性パターン形成用の印刷インキと、これを用いて得られる超疎水性パターン印刷物、並びにその簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーのフィラメントが、シリカで被覆されてなる複合体の会合体である粉末、または当該複合体から直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが除去されたシリカを主成分とするナノ構造体からなる粉末と、重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物と有機溶剤とを含有するインクを、基材に印刷した後硬化することにより、印刷部を容易に超疎水性にさせることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー(A)のフィラメントがシリカ(B)で被覆されてなる有機無機複合のナノ構造体からなる粉末(X1)と、重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1)と、沸点が115〜300℃の有機溶剤(Z)と、を含有することを特徴とする超疎水性パターン印刷用インクとこれを基材に塗布し硬化させて得られる超疎水性パターン印刷物及びその製造方法を提供するものである。
【0013】
更に本発明は、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー(A)のフィラメントがシリカ(B)で被覆されてなる有機無機複合ナノ構造体からなる粉末(X1)を焼成してなるシリカを主構成成分とするナノ構造体からなる粉末(X2)と、重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1)と、沸点が115〜300℃の有機溶剤(Z)と、を含有することを特徴とする超疎水性パターン印刷用インクとこれを基材に塗布し硬化させて得られる超疎水性パターン印刷物及びその製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の超疎水性パターン形成用の印刷インクは、通常の活性エネルギー線硬化性組成物や熱硬化性組成物と同様の塗料であって、その使用方法や保存方法に特段の配慮を必要とするものではなく、任意材質、任意形状の基材表面に印刷し硬化させることで、容易に該パターン印刷物の印刷部を超疎水性に変換させることができる。
【0015】
又、インク組成物であり、印刷により施工でき、しかもその方法は簡単であるため、必要な部分だけに超撥水処理を施すことができ、施工時間と資源の無駄を省くことが可能になると同時に、明瞭な撥水性のコントラストを精緻に作製することが可能となる。
【0016】
又、本発明の超疎水性パターン印刷物の印刷部分は従来のものより高度な超疎水性を有するため、水または水に近い表面張力の水性溶液及び水性分散体とパターン印刷部との直接接触を遮断し、これら水性混合物に含まれる溶質及び分散体及び意図しない浮遊物の沈着を防止でき、超疎水性の低下を阻止できる(図4参照)。水性混合物はより具体的には、水性塗料、水性インク、塵芥の微粒子を含む雨水、微生物やその死骸を含む海水、細菌や新陳代謝により剥離脱落した細胞などを含む体液、などである。したがってこれは従来の超撥水膜では困難であった、付着性の強い分散体を含む水性塗料(例えば機能性水性塗料など)の、金属、金属酸化物、繊維、木材、紙、皮革、プラスチック、ガラス等へのパターニングに応用可能である。
【0017】
例えば超撥水ネガパターンを印刷した基材は各種水性塗液に浸漬するだけで親水部分に塗液パターンが形成されるため、様々な塗料の簡便なパターン作製方法となる(図6参照)。このとき濡れ性のコントラストが非常に高いため、塗液は撥水部分を跨がないだけでなく、盛り上がって多くの量が載り、粘度の小さい塗液であっても厚みを持った塗液パターンを作製することが可能となる(図8参照)。これは例えば厚くすることで電気抵抗が低下する導電性塗料のパターン作製などのテンプレートとして応用できる。
【0018】
また例えば処理表面を無数の微小領域に分割する超撥水パターンを印刷した場合、これらの微小領域は水性液体を保持・固定することができる無数のマイクロ容器になる(図8参照)。これらのマイクロ容器スポットはそれぞれ独立して加熱や通電、光照射、検出、分析といった操作を行えるようにすることも可能であり、培養容器、反応容器、分析容器として利用できる。このように超撥水パターンで仕切りをつくることで2次元平面を3次元的に利用することが可能になると同時に同一平面状に多数のスポットをごく簡単に作製できるため、DNAマイクロアレイに代表されるバイオチップのように、スクリーニング試験に応用できる。
【0019】
また例えば流路状の超撥水パターンを作製して水性液体のマイクロ流路として使用することで、マイクロ化学反応デバイスに応用できる。さらに任意の場所に水性液体を集積したり、逆に網目状のパターンを面全体に印刷したりすることで水性液体を平面全体に均一に分散・保持させるなど、印刷によって平面上の水性液体の配置や運動制御が可能になる。また、超撥水パターンに囲まれた領域の大きさを変えて水性液体を計量する、などの応用も可能となる。さらに平面に限定せず、既に凹凸のある容器(例えば細胞培養用複数穴プレートなど)の口部に超撥水印刷を施すことで口部を跨いだ液の移動を妨げコンタミネーションを防止したり、水性液体を収容する容器の口部や水性液体を吐出するノズルの吐出口に印刷して液垂れを防止したりするといった応用が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1で作製したインク1を用いて網目状に印刷した超疎水パターンの写真である。
【図2】実施例1で作製したインク1を用いて網目状に印刷した超疎水パターンの走査型電子顕微鏡写真(30倍)である。
【図3】実施例1で作製したインク1を用いて網目状に印刷した超疎水パターンの走査型電子顕微鏡写真(5,000倍)である。
【図4】実施例1で作製したインク1を用いて網目状に印刷した超疎水パターンを水中に浸漬したときにパターン上に空気膜が保持されて鏡面のようになり、水との接触が遮断されている様子を撮影した写真である。
【図5】応用例1において銀ペーストを超疎水パターン上にヘラでのばしてベタ塗りしたとき、線上には付着していない様子を撮影した写真である。
【図6】応用例1において超疎水パターンを銀ペーストに浸漬した直後の写真であり、線上には付着していない。
【図7】比較例2において疎水パターンを銀ペーストに浸漬したものの写真であり、線上にも付着している。
【図8】実施例1で作製したインク1を用いてポリイミドフィルムに網目状に印刷した超疎水パターンに蒸留水を載せた写真であり、水滴が線を跨がず大きく盛り上がって載っている様子を示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは既に、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが水性媒体中で自己組織化的に成長する結晶性会合体を反応場にし、溶液中でその会合体表面にてアルコキシシランを加水分解的に縮合させ、シリカを析出させることで、ナノファイバー、ナノフィルム等のナノメートルオーダーの構造体を基本ユニットにした複雑形状の粉体及びそれらの製法を提供した(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報参照。)。
【0022】
この技術の基本原理は、溶液中で直鎖状ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの結晶性会合体を自発的に生長させることであり、一旦結晶性会合体ができたら、後は単に該結晶性会合体の分散液中にシリカソースを混合して、結晶性会合体表面上だけでのシリカの析出を自然に任せることになる(いわゆる、ゾルゲル反応)。これで得られるシリカナノ構造体は基本的にナノファイバー、ナノリボン、ナノシート等を構造単位とするものであり、それら構造単位の空間的配列(会合)によって全体の構造体の形状を誘導するため、ナノレベルの隙間が多く、表面積が大きい粉体である。
【0023】
このような粉体は、自然界での超疎水性を発現するに必要とする基本構造、即ち、ナノファイバーが集合して、マイクロメーター次元の大きさを形成することと非常に良く似ている。従って、この粉体を各種基材表面にパターン印刷で固定化すると共に、その表面を表面張力が低い化合物で被覆すれば、超疎水性パターン印刷物を与えると考えられる。
【0024】
このような考え方をもとに、本発明者らは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーにより誘導されたナノファイバー、ナノリボン、ナノシート等を基本構造とするマイクロメーターオーダーのシリカナノ構造体(シリカを含有するナノメートルオーダーの基本単位からなる構造体のことを示す。)である粉体と、重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1)と、有機溶剤(Z)を含有するインクをパターン印刷し硬化させてなる印刷部が超疎水性であることを見出したものである。以下、本発明について、詳細に記載する。
【0025】
なお、本願において、フィラメントとは、本発明で用いる直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー鎖中にある直鎖状ポリエチレンイミン骨格部分の複数が水分子の存在下で結晶化することにより、ポリマー鎖が相互に会合してナノメートルオーダーのファイバー状、リボン状あるいはシート状等に成長したものをいう。このフィラメントの表面でゾルゲル反応が起こることによって、該フィラメントがシリカで被覆されたシリカナノファイバー、シリカナノリボン、シリカナノシート等(まとめて構造単位と称する)が形成されるが、この反応時に複数の構造単位間がシリカによって結合されたり、凝集したりすることによって、該構造単位の会合体(粉体)が形成される。
【0026】
[直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー(A)]
本発明で用いる直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー(A)としては、線状、星状、櫛状構造の単独重合体であっても、他の繰り返し単位を有する共重合体であっても良い。共重合体の場合には、該ポリマー中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格のモル比が20%以上であることが、安定なフィラメントを形成できる点から好ましく、該ポリエチレンイミン骨格の繰り返し単位数が10以上である、ブロック共重合体であることがより好ましい。
【0027】
前記直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー(A)としては、結晶性会合体形成能が高いほど好ましい。従って、単独重合体であっても共重合体であっても、直鎖状ポリエチレンイミン骨格部分に相当する分子量が500〜1,000,000の範囲であることが好ましい。これら直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー(A)は市販品または本発明者らがすでに開示した合成法(前記特許文献を参照。)により得ることができる。
【0028】
[有機無機複合のナノ構造体からなる粉末(X1)及びこれを焼成した粉末(X2)]
本発明で提供するインクは、前記直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー(A)のフィラメントがシリカで被覆されてなる有機無機複合のナノ構造体からなる粉末(X1)、又は当該粉末(X1)から前記ポリマーを焼成により除去して得られる焼成物である粉末(X2)を用いることを必須とする。
【0029】
前記有機無機複合のナノ構造体からなる粉末(X1)は、前記ポリマーのフィラメントの存在下、該フィラメント表面でのゾルゲル反応によってシリカが形成されることで得られるものであり、該シリカ形成に必要なシリカソースとしては、例えば、アルコキシシラン類、水ガラス、ヘキサフルオロシリコンアンモニウム等を用いることができる。
【0030】
アルコキシシラン類としては、テトラメトキシシラン、メトキシシラン縮合体のオリゴマー、テトラエトキシシラン、エトキシシラン縮合体のオリゴマーを好適に用いることができる。さらに、アルキル置換アルコキシシラン類の、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン等、更に、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等を、単一で、又は混合して用いることができる。
【0031】
また、上記シリカソースに、他のアルコキシ金属化合物を混合して用いることもできる。例えば、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、または水性媒体中安定なチタニウムビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド水溶液、チタニウムビス(ラクテート)の水溶液、チタニウムビス(ラクテート)のプロパノール/水混合液、チタニウム(エチルアセトアセテート)ジイソプロポオキシド、硫酸チタン、ヘキサフルオロチタンアンモニウム等を用いることができる。
【0032】
上記のシリカソースのゾルゲル反応によって、前記ポリマーのフィラメント表面にシリカが析出されるとともに、複数のフィラメント間がシリカによって結合されたり、凝集したりすることによって一定形状の会合体が形成される。これが粉末(X1)である。
【0033】
前記粉末(X1)中の前記ポリマーの含有率は5〜30質量%に調整可能であり、該ポリマーは前述の通り、フィラメントの形状として含まれている。
【0034】
前記粉末(X1)はその生成過程(ゾルゲル反応時)において3次元空間でナノ構造体がランダム配列し、2〜100μmの大きさに集合してなる粉体であり、該粉体の表面積は50〜200m/gの範囲になる。
【0035】
前記シリカで被覆してなる複合体である粉末(X1)の製造方法については、前記した本発明者がすでに提供した特許文献に記載されたいずれの手法であっても良い。
【0036】
上述した粉末(X1)を加熱焼成すると、形状を維持したまま、その内部に含まれていたポリマーが除去され、シリカを主構成成分とするシリカナノ構造体からなる粉末(X2)を得ることができる。通常の焼成条件では、ポリマーは完全に除去され、100%シリカからなる焼成物を得ることができる。仮に、焼成が不十分の場合、ポリマーの炭化物等が含まれることもあり得るがこの様な炭化物を含有する焼成物であっても本発明のインクの原料として用いることができる。何れの場合でも、焼成物はシリカを主とするものであって、その含有率は通常95質量%以上、好ましくは98〜100質量%である。
【0037】
焼成温度は300℃以上であれば良いが、ポリマーを完全に除去するためには、温度を500〜800℃に設定することが望ましい。焼成時間は温度により適宜に設定することができる。500℃よりもっと高い温度では1〜3時間であればよく、500℃付近では2〜6時間以上焼成することが望まれる。
【0038】
焼成して得られる粉末(X2)の構造・形状・サイズは焼成前と変わりがない。ただし、焼成後に得られる粉末(X2)の比表面積は焼成前より大きく、概ね100〜400m/gである。
【0039】
本発明では、前述の粉末(X1)またはこの焼成物である粉末(X2)をそのまま本発明のインクの原料として用いる。さらに、これらのシリカ表面に存在するシラノール(Si−OH)に、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の重合性不飽和基を導入してもよい。導入する方法としては特に限定されるものではないが、製造方法が簡便であることとから、重合性不飽和基を有するシランカップリング剤で処理する方法であることが好ましい。
【0040】
重合性不飽和基を有するシランカップリング剤としては、例えば、γ−メタクリロイルプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロイルプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルプロピルトリエトキシシラン、p−ビニルフェニルトリメトキシシラン、p−ビニルフェニルトリエトキシシランなどのシランカップリング剤を取り上げることができる。これらは、単独または2種以上を併用しても良い。
【0041】
重合性不飽和基の導入割合としては特に限定されるものではないが、後述する重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1)と架橋(共重合)しながら硬化しやすい観点から、シランカップリング剤の飽和導入量を100モル%とした場合、それの30モル%以上の導入で十分である。
【0042】
重合性不飽和基の導入は、前記粉体(X1)又は(X2)を溶剤中に分散し、重合性不飽和基を有するシランカップリング剤の溶液と混合し、室温〜50℃の温度下、一定時間攪拌または浸漬すればよく、容易に目的の重合性不飽和基を有する粉体を得ることができる。
【0043】
重合性不飽和基を有するシランカップリング剤はクロロホルム、塩化メチレン、シクロヘキサノン、キシレン、トルエン、エタノール、メタノールなどの溶剤に溶解させて用いることができる。これらの溶剤は単独または混合して用いることもできる。
【0044】
上記溶液中、シランカップリング剤の濃度は1〜5質量%であれば好適に用いることができ、特に1〜5質量%アンモニア水のエタノール溶液と混合して用いることがより好ましい。混合する際の体積比としては、シランカップリング剤の溶液に対し、アンモニア水エタノール溶液は5〜10倍量であれば好適である。
【0045】
ポリマーが含まれている粉体(X1)を用いる場合、上記溶液と混合する時間は10〜24時間であることが好ましい。又、焼成物である粉体(X2)を用いる場合には、混合時間は2時間以上であれば、容易に重合性不飽和基を導入することができる。
【0046】
この様にして得られる粉末(X1)及び(X2)、又はその表面に重合性不飽和基を導入してなる粉末は何れもファイバー状(アスペクト比の高い1次元の繊維状)、リボン状(一定の太さがあるが厚みがなく2次元のリボン状)またはシート状(2次元の広がりを有する平面状)の構造単位から形成されており、該構造単位(ナノ構造体)の大きさは前記ポリマーのフィラメントを調製する際の条件により制御できるが、基本的には10〜50nm範囲の太さまたは厚みであり、長さは100nm〜10μmの範囲である。
【0047】
[重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1)]
本発明では、前述の粉体(X1)(X2)、又はこれを表面処理してなる粉体を基材表面に固定して印刷物とするバインダー樹脂として、重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1)を用いることを必須とするものである。即ち、前述のナノ構造体からなる粉体は、それのみでナノメートルオーダーの微細な凹凸を有し、これが水滴よりも小さなエアーポケットとなることから水滴等との直接接触を阻害し、超疎水性を発現させうる可能性を有するものであるが、この効果を最大に発現させるためには印刷部表面をも疎水性であることが必要であるため、含フッ素化合物であることが好ましく、更に粉末の基材表面からの脱落による疎水性劣化の防止等のために、重合性不飽和基を有する化合物であることが必要である。
【0048】
本発明で用いることができる硬化性含フッ素化合物(Y1)としては、従来反応性フッ素系界面活性剤、反応性フッ素系表面改質剤等として市販されているものを用いることができる。例えば、パーフルオロアルキル基と(メタ)アクリロイル基やビニル基とを1分子中に併有するものが挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリロイル」とは、メタクリロイルとアクリロイルの一方又は両方をいうものである。
【0049】
前記パーフルオロアルキル基と(メタ)アクリロイル基やビニル基とを1分子中に有する化合物としては、例えば、反応性モノマーとしても知られているパーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル(メタ)アクリレート等を単独、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0050】
又、モノマーのみではインクとしての適正な粘度が確保できにくい等の理由により、ある程度の分子量を有するオリゴマータイプの硬化性含フッ素化合物(Y1)を使用することも可能である。この様なオリゴマータイプの化合物としては、例えば、炭素原子数1〜6のフッ素化アルキル基を有するラジカル重合性不飽和単量体と、水酸基、イソシアネート基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボン酸ハロゲン化物、酸無水物等の反応性基を有するラジカル重合性不飽和単量体とを必須の単量体成分として、リビングラジカル重合により共重合させてブロック共重合体を得た後、この共重合体の前述の反応性基の一部又は全部に対し、当該反応性基と反応して結合を形成する官能基及びラジカル重合性不飽和基を有する化合物とを反応させることによって得ることができる。この様な化合物の製造方法としては、例えば、特開2010−196044号公報や特開2010−235784号公報等に詳細が記載されているので、これを参考として合成することが可能である。
【0051】
又、パーフルオロアルキレンエーテル鎖はフッ素化アルキル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル部位に比べ、より印刷部の表面に集まりやすく、優れた撥水性を賦与することが知られている。よって、本発明のインクには、パーフルオロアルキレンエーテル鎖と重合性不飽和基、特には(メタ)アクリロイル基又はビニル基とを有する化合物を好ましく用いることができる。更には分子内に2つ以上の重合性不飽和基を有するものが、前述の粉末(X1)(X2)の固定化が向上し、防汚性も向上するので好ましい。また、分子の両末端にそれぞれ重合性不飽和基を有するものがさらに好ましい。
【0052】
前述のような好ましい化合物としては、例えば、末端にヒドロキシル基を有するフッ素含有ポリエーテル化合物を原料として、このヒドロキシル基に(メタ)アクリロイル基が導入されたものを挙げることができる。原料としてのフッ素含有ポリエーテル化合物としては、例えば、次の化合物が挙げられる。もちろん、これらに限定されるものではない。
【0053】
HOCH−CFO−[CFCFO]−[CFO]−CFCHOH (ZDOL)F−[CFCFCFO]−CFCFCHOH (Demnum−SA)
F−[CF(CF)CFO]−CF(CF)CHOH (Krytox−OH)
HO(CHCHO)−CH−CFO−[CFCFO]−[CFO]−CFCH(OCHCHOH (Zdol−TX)
HOCHCH(OH)CHO−CH−CFO−[CFCFO]−[CFO]−CFCHOCHCH(OH)CHOH(Z−Tetraol)
【0054】
また、分子量1000当たりに1つ以上の活性エネルギー線反応性基を有するものとして、FomblinZDOLdiacrylate〔FomblinZDOL(アウジモント社製)の末端ヒドロキシル基をアクリレート変性したもの〕や、フルオライトART4(共栄社化学)、分子量1000当たりに2つ以上の活性エネルギー線反応性基を有するものとして、フルオライトART3(共栄社化学)、分子量1000当たりに4つ以上の活性エネルギー線反応性基を有するものとして、FomblinZ−Tetraol(アウジモント社製)の4つの末端ヒドロキシル基をアクリレート変性したもの、等が挙げられる。
【0055】
更に、パーフルオロアルキレンエーテル鎖と重合性不飽和基とを有する化合物の合成方法としては、ジイソシアネートを3量体化させたトリイソシアネートに、少なくとも1つの活性水素を有するパーフルオロポリエーテルと、活性水素、特には水酸基と(メタ)アクリロイル基又はビニル基を有するモノマー(ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートやアミノエチル(メタ)アクリレート等)とを反応させる方法が、例えば、WO2003/002628等で提供されており、この様な化合物も好適に用いることができる。
【0056】
更に又、特表2007−237059号公報にも、パーフルオロアルキレンエーテル鎖と重合性不飽和基とを1分子中に有する化合物の例示及びその製法について種々記載されているので、これらを参考とすることもできる。
【0057】
又、パーフルオロアルキレンエーテル鎖の両末端に重合性不飽和基を有する化合物を合成した後、これと共重合可能な、反応性基含有モノマーと共重合させ、この反応性基を元に重合性不飽和基を導入することで、パーフルオロアルキレンエーテル鎖を1分子中に複数有する化合物も、例えば、WO2009/133770等で提供されている。この様な化合物は、ある程度の分子量を有するため、本発明のインクの主剤としても好適に用いることが可能である。
【0058】
[沸点が115〜300℃の有機溶剤(Z)]
本発明のインクには常圧における沸点が115〜300℃の有機溶剤(Z)を、印刷適性を発現させるために使用する。前記有機溶剤(Z)に求められる性質としては、蒸発速度が適度に遅くスクリーン版の目詰まりを起こしにくいものであればよく、パターン印刷時の印刷方法・乾燥(硬化)条件等によって適宜選択されるものであり、特に限定されるものではない。前記有機溶剤(Z)の沸点の範囲の根拠は、沸点と蒸発速度は概ね逆相関の関係にあるので、115℃未満では乾燥が速すぎて適さず、逆に300℃を超えると乾燥が遅すぎて実用的ではないためである。前記溶剤としては例えばキシレン、イソホロン、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、セロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテートなどを単独または併用して用いることができる。
【0059】
また、前述の硬化性フッ素化合物(Y1)と同様の硬化性を有する、重合性不飽和基を有するモノマーを反応性希釈剤として有機溶剤(Z)と併用することもできる。これらモノマーは単官能でも多官能でも好適に用いることができ、例えば、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、エチレンビス(メタ)アクリレート等が挙げられ、ビニル基を有するモノマーとしては、スチレン、ジビニルベンゼン等を挙げることができる。
【0060】
[その他の硬化性化合物(Y2)]
前述の硬化性フッ素化合物(Y1)は、含有するフッ素原子の働きにより、パターン印刷部表面に集まる傾向があり、これが界面活性剤、表面改質剤といわれる所以となっている。即ち、本発明の印刷物においては、パターン印刷部の最表面に当該硬化性フッ素化合物(Y1)の硬化膜が存在すればよいので、インク中にはバインダー樹脂としてその他の硬化性化合物(Y2)を含有するものであってもよい。
【0061】
前記その他の硬化性化合物(Y2)としては、汎用の熱硬化性化合物または活性エネルギー線硬化性化合物を何れも用いることができる。目的とする超疎水性パターン印刷物の疎水性以外の性能により、種々選択して用いることが好ましい。
【0062】
これらの中でも、特に好ましいその他の硬化性化合物(Y2)としては、例えば、ポリシロキサン骨格を有する水性樹脂が挙げられる。前記ポリシロキサン骨格を有する水性樹脂としては、(メタ)アクリレート系モノマーからなる重合体の一部のモノマー残基の側鎖に、ポリシロキサン骨格を有するポリマーが結合されてなる水性樹脂であることが好ましい。このような構造を有する水性樹脂としては、DIC株式会社製のセラネート系列の製品が挙げられる。または、特開平10−36514や特開2006−328354に開示された方法に従い、合成することもできる。
【0063】
例えば、トリアルコキシアルキル(フェニル)シランの加水分解性ケイ素化合物、又は前記トリアルコキシアルキル(フェニル)シランの加水分解性ケイ素化合物と、ジアルコキシジアルキルシラン類、テトラアルコキシシラン類である加水分解性ケイ素化合物とを含む混合物を加水分解縮合し、次いで得られる、ケイ素原子に結合した水酸基および/または加水分解性基を有するポリシロキサンと、加水分解性シリル基および酸基を併有する(メタ)アクリレート系共重合体とを縮合反応させたのち、塩基性化合物で部分中和ないし完全に中和して得られる樹脂を水に分散または溶解して得られる、水性樹脂の分散液または溶液を用いることができる。
【0064】
または、前記のポリシロキサンと、加水分解性シリル基および酸基と、これ以外の官能基とを併有する(メタ)アクリレート系共重合体とを縮合反応させたのち、塩基性化合物で部分中和ないし完全に中和して得られる樹脂を水に分散または溶解して得られる、水性樹脂の分散液または溶液を用いることができる。
【0065】
より、単純に言えば、上記水性樹脂の合成法には、とりわけ、(メタ)アクリレート系共重合体中の一部のモノマー残基の側鎖にトリアルコキシシランの官能基が含まれること、そして、その共重合体の側鎖のトリアルコキシシラン官能基とアルコキシシラン類とを混合し、加水分解的縮合反応させることで、(メタ)アクリレート系共重合体の側鎖にポリシロキサンを結合することを特徴とする。この様なポリシロキサン骨格を有する化合物は、ポリシロキサン骨格に由来のシラノール(Si−OH)基が多く存在する。この官能基は、本発明で用いる前述の粉末(X1)又は(X2)と混合される際、シリカ表面のシラノール基と脱水縮合することができる。このため、得られるパターン印刷物において当該粉末(X1)または(X2)の脱落を防止できる観点から、本発明で好ましく用いることができる。
【0066】
又、前述の水性樹脂中に更に(メタ)アクリル基又はビニル基を有するものは、印刷後の乾燥時により強固に基材と密着し、且つパターン印刷物としての強度にも優れるため好ましいものである。この様な(メタ)アクリル基又はビニル基を有するポリシロキサン骨格を有する化合物(樹脂)としては、例えば、特開2006−328354号公報等に記載された方法で合成することが可能である。
【0067】
更に又、本発明のインクを熱硬化によって硬化反応させることも可能であり、この場合は、より耐熱性に優れるパターン印刷物が得られる点から、ポリイミド樹脂とエポキシ樹脂との硬化反応を利用することが好ましい。
【0068】
ポリイミド樹脂としては、例えば、イソシアヌレート環含有ポリイソシアネートと、芳香族イソシアネートと、ラクタムおよび酸無水物を含有するポリカルボン酸とをクレゾール系溶媒中で合成したポリアミドイミド樹脂が挙げられるが、より汎用の溶剤に溶解する、溶剤可溶型イミド樹脂を用いることが好ましく、例えば、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環式イソシアネート化合物とトリカルボン酸無水物及び/又はテトラカルボン酸無水物とを反応させて得られるポリイミド樹脂、環式脂肪族ポリイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネートと線状炭化水素構造を有するポリオール化合物であって、線状炭化水素構造部分の数平均分子量が700〜4,500のポリオール化合物とを反応させて得られる末端にイソシアネート基を有するプレポリマーと、3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸の酸無水物を有機溶剤中で反応させて得られるポリイミド樹脂(例えば、特開2008−195966号公報)、分子中に2個以上のイソシアネート基を有する脂肪族イソシアネート化合物及び/又は脂環族イソシアネート化合物と、トリカルボン酸無水物及び/又はテトラカルボン酸無水物とを反応させて得られるカルボキシル基含有イミド樹脂(例えば、特開2010−126622号公報)等が挙げられる。
【0069】
これらのポリイミド樹脂と組み合わせて使用できるエポキシ樹脂としては、特に限定されるものではなく、用いる有機溶剤に均一に溶解するものを適宜選択して用いることができる。例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型などのビスフェノールから誘導される液状又は固形のエポキシ樹脂や、各種ノボラック樹脂から誘導される多官能エポキシ樹脂、又はナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂、更には、得られるパターン印刷物の目的とする性能によって、アルキレン鎖、アルキレンエーテル鎖等の柔軟性骨格を有するエポキシ樹脂などを用いることも可能である。
【0070】
また、インクには、ラジカル重合用の光重合開始剤を含むこともできる。光重合開始剤としては、例えば、イルガキュア651、イルガキュア184、イルガキュア1173、イルガキュア500、イルガキュア1300、イルガキュア2959、イルガキュア907などを用いることができる。また株式会社ソート製のSB−PI703,SB−PI704,SB−PI705,SB−PI710,SB−PI711,SB−PI712,SB−PI714等が挙げられる。
【0071】
前記光重合開始剤の使用量としては、当該インク中に含まれる重合性基全体に対し、0.5〜5mol%であれば好適である。
【0072】
[インク]
本発明のインクにおいては、前記粉末(X1)又は粉末(X2)と、前記硬化性フッ素化合物(Y1)との使用割合としては特に限定されるものではなく、目的とするパターン印刷物の疎水性や耐摩耗性等のレベルに応じて適宜決定されるものであるが、得られる印刷物に超疎水性が簡単に発現される観点から、粉末(X1)又は(X2)/(Y1)の質量比としては通常5/95〜90/10の範囲であり、粉末(X1)又は(X2)が比較的嵩高いものである点を鑑み、取り扱いやすさの観点も踏まえ、30/70〜60/40の範囲になるように調製することが好ましい。
【0073】
又、前述のようなその他の硬化性化合物(Y2)を併用する場合には、前記粉末(X1)又は粉末(X2)と、前記硬化性フッ素化合物(Y1)と前記その他の硬化性化合物(Y2)の使用割合として、〔(X1)又は(X2)〕/〔(Y1)+(Y2)〕で表される質量比は通常5/95〜90/10の範囲であり、粉末(X1)又は(X2)が比較的嵩高いものである点を鑑み、取り扱いやすさの観点も踏まえ、30/70〜60/40の範囲になるように調製することが好ましい。
【0074】
インク中の不揮発分としては、印刷方法によって選択するものであるが、スクリーン印刷の場合はその版のメッシュ数に合わせ、5〜70質量%の範囲で調整することが好ましい。例えば、メッシュ数120の場合は、不揮発分を15〜30質量%で調製することが望ましい。メッシュ数が200メッシュよりも大きい場合は、5〜15質量%で調製することが望ましい。メッシュ数が100メッシュよりも小さい場合は、不揮発分を30〜70質量%にすることが望ましい。
【0075】
[超疎水性パターン印刷物]
本発明では、前述のインクを固体基材表面に印刷し、加熱硬化又は活性エネルギー線硬化反応等の硬化反応(乾燥のみを含む)を行うことによって簡便に超疎水性パターン印刷物を得ることができる。
【0076】
本発明では、重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1)、又は必要に応じて併用される反応性希釈剤、その他の硬化性化合物(Y2)により、粉体(X1)又は粉体(X2)の表面のシリカと有機化合物間に強固な架橋が進行し、無機成分と有機成分とが複合化してなるパターン印刷物を形成する。本発明で用いる粉体(X1)又は粉体(X2)のかさ密度は低く、わずかの配合量でもその体積が大きい。従って、前記パターン印刷物において、有機成分がバインダーとして機能しても、印刷物の印刷部自体の大部分を粉体(X1)又は粉体(X2)で占められることになる。その結果、得られるパターン印刷部の表面は、粉体(X1)又は粉体(X2)のナノ構造体由来の無規則な配列により、全面に渡りナノメートルオーダーの凹凸を有する粗い界面を形成する。それと同時に、粉体(X1)又は粉体(X2)の表面はフッ素原子を含む有機成分に覆われた状態となる。即ち、パターン印刷部はナノ構造体によるナノ次元の粗さの連続体であると同時に表面全体の自由エネルギーは低い。これにより、得られたパターン印刷物の印刷部は超疎水性を示すことになる。
【0077】
本発明での印刷後の硬化は、加熱または活性エネルギー線照射で行なうことができる。加熱硬化の場合、温度は120〜250℃の範囲であればよく、加熱時間は5〜60分の範囲であれば良い。また、加熱硬化は、窒素雰囲気下または減圧下で行なうこともできる。活性エネルギー線硬化の場合、基材形状が該エネルギー線照射に適するものであれば種々の照射法を適用することができる。
【0078】
パターン印刷物の厚みは概ね500nm〜50μm範囲で調製できる。このパターン印刷部上での水接触角は通常150°以上であると同時に、水滴を残留せず完全に弾くことができる。更に、170°以上の超疎水性パターン印刷部も簡便に得ることができ、この場合は、水滴がパターンに全く触れずに転がり落ちる。若しくは、印刷されていない部分にトラップされるような挙動を示すことになる。特に表面張力が水よりも低い水性液体に対しては、完全にこれを弾く挙動を示すものである。
【0079】
本発明での超疎水性パターン印刷に用いる基材としては、通常の印刷、特にはスクリーン印刷が可能なものであれば、平面および曲面の任意素材の上に形成させることができ、ガラス、シリコン、金属、陶磁器、プラスチック、紙、布等、特に限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、特に断わりがない限り、「%」「部」は「質量%」「質量部」を表わす。
【0081】
[走査電子顕微鏡による会合体や粉体の形状分析]
単離乾燥した会合体や粉体を両面テープにてサンプル支持台に固定し、それをキーエンス製表面観察装置VE−9800にて観察した。
【0082】
[透過電子顕微鏡によるナノ構造体の観察]
粉末状態のサンプルをメタノール中に分散し、それを銅グリッドに乗せ、日本電子株式会社製透過型電子顕微鏡「JEM−2200FS」にて観察した。
【0083】
[接触角測定]
接触角は自動接触角計Contact Angle System OCA(Dataphysics社製)により測定した。
【0084】
[示差熱重量分析]
シリカナノ構造体に導入された重合性基の含有率をTG−DTA 6300 (SII Nano Technology Inc社製)により測定した。
【0085】
[比表面積測定]
比表面積はFlow Sorb II 2300(Micrometrics社製)により測定した。
【0086】
合成例1
[シリカナノ構造体の合成]
特許文献(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報)に開示した方法により、形状が異なる粉体を作製した。
【0087】
<線状のポリエチレンイミン(P5K)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量500,000、平均重合度5,000、Aldrich社製)100gを、5Mの塩酸水溶液300mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末をH−NMR(重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH)と2.3ppm(CH)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0088】
その粉末を100mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水500mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿した粉末を濾過し、その粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の粉末をデシケータ中で室温(25℃)乾燥し、線状のポリエチレンイミン(P5K)を得た。収量は94g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、P5Kの重合度は加水分解前の5,000と同様である。
【0089】
<粉体(X1)の合成>
一定量のP5Kを蒸留水中に混合し、それを90℃に加熱し透明溶液を得た後、全体を3%の水溶液に調製した。該水溶液を室温で自然冷却し、真っ白のP5Kの会合体液を得た。攪拌しながら、その会合体液100mL中に、70mLのMS51(メトキシシランの5量体、)のエタノール溶液(体積濃度50%)を加え、室温で1時間攪拌を続けた。析出した沈殿物をろ過し、それをエタノールで3回洗浄した後、40℃で加熱下乾燥することにより、粉体(X1)として16gの会合体を得た。SEM写真によりナノファイバーの会合体であることを確認した。
【0090】
前記で得た粉体(X1)の熱重量損失分析から、ポリエチレンイミンの含有率が7%であることを確認した。また、比表面積測定を行なった結果、132m/gであった。
【0091】
合成例2
[粉体(X2)の合成]
合成例1で得た粉体(X1)5gを空気導入条件下、電気炉にて600℃、2時間加熱し、粉体(X1)に含まれたポリエチレンイミンを除去し、白い粉体(X2)を得た。比表面積は208m/gであった。SEM写真により、焼成前後のナノファイバー構造には変化がないことを確認した。
【0092】
合成例3
[硬化性含フッ素化合物(Y1−1)の合成]
国際公開WO2009/133770の実施例1に記載の方法に従って、重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1−1)を合成した。フッ素原子数25〜80個の両末端水酸基含有パーフルオロポリエーテル化合物(フッ素原子の数が平均46、GPCによる数平均分子量は1,500)20部、ジイソプロピルエーテル20部、p−メトキシフェノール0.02部、トリエチルアミン3.1部を用いて、空気気流下にて攪拌を開始し、10℃に保ちながらアクリル酸クロリド2.7部を滴下した。滴下終了後、昇温して攪拌しアクリル酸クロリドの消失を確認するまで反応を進行させた。次いで、ジイソプロピルエーテル、イオン交換水を用いる洗浄を行い、減圧下で溶媒を留去することによって、原料の両末端水酸基含有パーフルオロポリエーテル化合物にアクリロイル基が導入された、ニ官能性モノマーを合成した。別のフラスコにメチルイソブチルケトン63部を仕込み、窒素気流下にて攪拌しながら105℃に昇温した。前記で得られたモノマー21.5部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート41.3部、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート9.4部とメチルイソブチルケトン126部を混合した開始剤溶液135.4部の3種類の滴下液をそれぞれ別々の滴下装置にセットし、フラスコ内を105℃に保ちながら同時に2時間かけて滴下した。滴下終了後、105℃で10時間攪拌した後、減圧下で溶媒を留去することによって、重合体67.5質量部を得た。更に、メチルエチルケトン74.7部、p−メトキシフェノール0.1部、ジブチル錫ジラウレート0.06部を仕込み、空気気流下で攪拌を開始し、60℃を保ちながら2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート44.8部を1時間で滴下した。滴下終了後、60℃で1時間攪拌した後、80℃に昇温して10時間攪拌することにより反応を行い、IRスペクトル測定によりイソシアネート基の消失を確認した。次いで、メチルエチルケトン37.4部を添加し、硬化性含フッ素化合物(Y1−1)50%含有のメチルエチルケトン溶液224.6部を得た。硬化性含フッ素化合物(Y1−1)の数平均分子量は2,400、重量平均分子量は7,100である(GPC測定の結果)。
【0093】
合成例4
[ポリシロキサン骨格とビニル基とを有する化合物(Y2−1)の合成]
特開2006−328354号公報の実施例1に記載の方法で、ポリシロキサン骨格含有硬化型樹脂を合成した。攪拌機、温度計、滴下ロート、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、フェニルトリメトキシシラン191部を仕込んで、120℃まで昇温した。次いで、メチルメタクリレート169部、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン11部、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート18部からなる混合物を、前記反応容器中へ4時間かけて滴下した。その後、同温度で16時間撹拌し、トリメトキシシリル基を有するビニル重合体を合成した。次いで、前記反応容器の温度を80℃に調整し、メチルトリメトキシシラン131部、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン226部、ジメチルジメトキシシラン116部を、前記反応容器中へ添加した。その後、堺化学株式会社製の、iso−プロピルアシッドホスフェート6.3部と脱イオン水97部との混合物を滴下し、同温度で2時間撹拌することにより、加水分解縮合反応させ、反応生成物を得た。その後、前記反応生成物を、10〜300mmHgの減圧下で、40〜60℃の条件で蒸留することにより、不揮発分が99.4%であるポリシロキサン骨格とビニル基とを有する化合物(Y2−1)を得た。ここに酢酸n−ブチルとメチルエチルケトンの混合溶剤を加え、不揮発分を40%に調整した。
【0094】
合成例5
[銀ナノ粒子分散体の合成]
特開2011−46770号公報の合成例1に記載の方法に従って、銀ナノ粒子分散体を合成した。窒素雰囲気下、メトキシポリエチレングリコール[Mn=2,000]20.0g(10.0mmol)、ピリジン8.0g(100.0mmol)、クロロホルム20mlの混合溶液に、p−トルエンスルホン酸クロライド9.6g(50.0mmol)を含むクロロホルム(30ml)溶液を、氷冷撹拌しながら30分間滴下した。滴下終了後、浴槽温度40℃でさらに4時間攪拌した。反応終了後、クロロホルム50mlを加えて反応液を希釈した。引き続き、5%塩酸水溶液100ml、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液100ml、そして飽和食塩水溶液100mlで順次に洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過、減圧濃縮した。得られた固形物をヘキサンで数回洗浄した後、濾過、80℃で減圧乾燥して、トシル化された生成物22.0gを得た。
【0095】
上記で合成した末端にp−トルエンスルホニルオキシ基を有するメトキシポリエチレングリコール化合物5.39g(2.5mmol)、分岐状ポリエチレンイミン(アルドリッチ社製、分子量25,000)を20.0g(0.8mmol)、炭酸カリウム0.07g及びN,N−ジメチルアセトアミド100mlを、窒素雰囲気下、100℃で6時間攪拌した。得られた反応混合物に酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)300mlを加え、室温で強力攪拌した後、生成物の固形物を濾過した。その固形物を酢酸エチルとヘキサンの混合溶液(V/V=1/2)100mlを用いて2回繰り返し洗浄した後、減圧乾燥して、分岐状ポリエチレンイミンにポリエチレングリコールが結合した化合物の固体を24.4g得た。
【0096】
上記で得られた化合物を0.592g用いた水溶液138.8gに酸化銀10.0gを加えて25℃で30分間攪拌した。引き続き、ジメチルエタノールアミン46.0gを攪拌しながら徐々に加えたところ、反応溶液は黒赤色に変わり、若干発熱したが、そのまま放置して25℃で30分間攪拌した。その後、10%アスコルビン酸水溶液15.2gを攪拌しながら徐々に加えた。その温度を保ちながらさらに20時間攪拌を続けて、黒赤色の分散体を得た。
【0097】
上記で得られた反応終了後の分散液にイソプロピルアルコール200mlとヘキサン200mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にイソプロピルアルコール50mlとヘキサン50mlの混合溶剤を加えて2分間攪拌した後、3000rpmで5分間遠心濃縮を行った。上澄みを除去した後、沈殿物にさらに少量の水を加えて攪拌した後、減圧下、有機溶剤を除去して銀ナノ粒子と有機化合物との複合体の水系濃縮物を得た。さらに該水系濃縮物に水を加え、均一に分散させて固形分率30%の銀ナノ粒子の水系分散体を得た。さらに水を用いて固形分率4%に希釈して銀ナノ粒子分散体を得た。
【0098】
実施例1
合成例2で得られた粉体(X2)と合成例3で得られた硬化性含フッ素化合物(Y1−1)と合成例4で得られたポリシロキサン骨格とビニル基とを有する化合物(Y2−1)とを不揮発分として粉体(X2)/(Y1−1)/(Y2−1)=36/9/55になるように混合し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点146℃)を有機溶剤(Z)として不揮発分28%となるように希釈し、インク1を得た。これをガラス基板上にバーコート法で製膜し、空気中170℃で15分間加熱処理して連続塗膜を得た。接触角を測定したところ175°以上であった。
【0099】
前記で得られたインク1を120メッシュのスクリーン版を通してガラススライド上に印刷し、パターンを作製した。これを170℃で15分間加熱処理して超疎水性パターン印刷物を得た。このパターン印刷部は走査型電子顕微鏡写真(図2、3参照)のように、粉体(X2)由来の数μm及び数十〜数百nmのオーダーの周期的な凹凸を有する階層的凹凸構造(フラクタルな凹凸構造)であるのに加えて、スクリーン印刷によりメッシュ数に応じた数十μm周期の凹凸も加わり、撥水に有利な構造となっている。このパターン印刷部は水を完全にはじいた。
【0100】
実施例2
合成例1で得られた粉体(X1)と合成例3で得られた硬化性含フッ素化合物(Y1−1)と合成例4で得られたポリシロキサン骨格とビニル基とを有する化合物(Y2−1)とを不揮発分として粉体(X1)/(Y1−1)/(Y2−1)=42/9/49になるように混合し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを溶剤として不揮発分20%となるように希釈し、インク2を得た。これをガラス基板上にバーコート法で製膜し、空気中170℃で15分間加熱処理して連続塗膜を得た。接触角を測定したところ175°以上であった。
【0101】
前記で得られたインク2を実施例1と同様にして印刷し、パターン印刷物を作製した。このパターン印刷部は水を完全にはじいた。
【0102】
実施例3
実施例1で得られたインク1 100部に対して架橋剤であるヘキサメチレンジイソシアネート1部を加えインク3を得た。これを用いて実施例1と同様に連続塗膜を作製して接触角を測定したところ、175°以上であった。
【0103】
またインク3を用いて実施例1と同様にパターン印刷物を作製したところ、印刷部は水を完全にはじいた。このパターン印刷物をアセトンに12時間浸漬して架橋剤の効果を確認した。浸漬後にもパターン印刷部分は溶解しておらず、撥水性も低下していなかった。
【0104】
比較例1
実施例1においてプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点146℃)のかわりに、トルエン(沸点110.6℃)30%/2−プロパノール(沸点82.4℃)70%の混合溶媒を用いる以外は同様の方法でインク4を調製した。これを120メッシュのスクリーン版を通してガラススライド上に印刷し、パターンを作製した。このとき乾燥が速いため目詰まりが起こってインクが抜けず、パターンが印刷されない部分が発生した。インク4で印刷された部分の撥水性はインク1で印刷したものと比較して遜色無かった。
【0105】
応用例1<超疎水性パターン印刷物を利用した銀のパターニング>
実施例1で作製したガラス基板上の超疎水性パターン印刷物を、当該ガラス基板ごと合成例5で得られた銀ナノ粒子分散体にディッピングして取り出した。銀ナノ粒子分散体は超疎水性パターン印刷部には全く付着せず、印刷されていない部分には強く付着したため、超疎水性パターン印刷物によって区切られた銀のパターンを作製できた(図6参照)。
【0106】
また、超疎水性パターン印刷物上に銀ナノ粒子分散体を落とし、これをヘラでのばしたときも同様に、印刷部分を除いて銀ナノ粒子が付着した(図5参照)。
【0107】
比較例2
合成例3で得られた硬化性含フッ素化合物(Y1−1)を、実施例1で用いたものと同じ120メッシュのスクリーン版を使用してガラス基板上に印刷し、170℃で15分間加熱処理して疎水性パターン印刷物を得た。(Y1−1)の硬化膜と水滴との接触角は113°であった。このガラス基板を応用例1と同様にして銀ナノ粒子分散液にディッピングして取り出した。分散体は疎水性パターンが印刷された場所にも印刷されていない場所にも同様に強く付着したため、銀パターンを作製できなかった(図7参照)。
【0108】
応用例2<超疎水性パターン印刷物を利用した平面上への液滴保持>
実施例1で作製したインク1を用いて印刷した、線幅1mm、線厚み0.02mmの超疎水性パターンで囲まれた4mm×4mm(面積16mm)のスポットに水滴を載せた。水滴量が100mg(面積16mm×高さ6.3mm)を超えるまで、線を跨ぐことはなかった。また水滴量を20mg、35mg、50mg、65mg、80mgで載せて基板を90°傾けたところ、50mg(面積16mm×高さ3.1mm)までは線を跨がず、その位置に保持された。
【0109】
水の代わりに表面張力の小さい33%エタノール水溶液で同様に検討したところ、地面に平行で40mg、地面に垂直で20mgまで線を跨がずに保持された。
【0110】
比較例3
合成例3で得られた硬化性含フッ素化合物(Y1−1)を用いて印刷した、線幅1mm、線厚み0.02mmの疎水パターンで囲まれた4mm×4mmのスポットに水滴を載せ、応用例2の結果と比較した。水では地面と平行の場合40mgで線上に載ってしまい、垂直では20mgで滑落した。33%エタノール水溶液では地面と平行では10mgで線に載り、垂直でも10mgで滑落した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー(A)のフィラメントがシリカ(B)で被覆されてなる有機無機複合のナノ構造体からなる粉末(X1)と、
重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1)と、
沸点が115〜300℃の有機溶剤(Z)と、
を含有することを特徴とする超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項2】
直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー(A)のフィラメントがシリカ(B)で被覆されてなる有機無機複合ナノ構造体からなる粉末(X1)を焼成してなる、シリカを主構成成分とするナノ構造体からなる粉末(X2)と
重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1)と、
沸点が115〜300℃の有機溶剤(Z)と、
を含有することを特徴とする超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項3】
前記重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1)が、熱硬化性または活性エネルギー線硬化性である請求項1又は2記載の超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項4】
前記重合性不飽和基を有する硬化性含フッ素化合物(Y1)がパーフルオロアルキレンエーテル部位と、(メタ)アクリロイル基又はビニル基とを有する化合物である請求項3記載の超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項5】
前記ナノ構造体が10〜50nmの太さ又は厚みと、100nm〜10μmの長さを有するものである請求項1〜4の何れか1項記載の超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項6】
前記シリカ(B)に(メタ)アクリロイル基又はビニル基が化学結合しているものである請求項1〜5の何れか1項記載の超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項7】
前記粉末(X1)又は粉末(X2)と、前記硬化性フッ素化合物(Y1)との使用割合(X1)又は(X2)/(Y1)が30/70〜50/50(質量比)である請求項1〜6の何れか1項記載の超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項8】
前記有機溶剤(Z)が、キシレン、イソホロン、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、セロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、及びカルビトールアセテートからなる群から選ばれる一種以上の有機溶剤である請求項1〜7の何れか1項記載の超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項9】
更にその他の硬化性化合物(Y2)を含有する請求項1〜8の何れか1項記載の超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項10】
前記その他の硬化性化合物(Y2)が、熱硬化性化合物または活性エネルギー線硬化性化合物である請求項9記載の超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項11】
前記その他の硬化性化合物(Y2)が、ポリシロキサン骨格を有する樹脂である請求項9記載の超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項12】
前記その他の硬化性化合物(Y2)が、ポリシロキサン骨格と(メタ)アクリル基又はビニル基とを有する化合物である請求項9記載の超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項13】
前記粉末(X1)又は粉末(X2)と、前記硬化性フッ素化合物(Y1)と前記その他の硬化性化合物(Y2)の使用割合、〔(X1)又は(X2)〕/〔(Y1)+(Y2)〕が30/70〜60/40(質量比)である請求項9〜12の何れか1項記載の超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項14】
超疎水性パターン印刷用インク中における不揮発分が5〜70質量%の範囲である請求項1〜13の何れか1項記載の超疎水性パターン印刷用インク。
【請求項15】
請求項1〜14の何れか1項記載の超疎水性パターン印刷用インクを基材にスクリーン印刷した後、加熱硬化又は活性エネルギー線硬化を行うことを特徴とする超疎水性パターン印刷物の製造方法。
【請求項16】
請求項15の製造方法で得られるパターン印刷物であり、その細線部が、表面張力が水よりも低い水性液体を弾くことを特徴とする超疎水性パターン印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−236946(P2012−236946A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108222(P2011−108222)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】