超疎水性粉体を分散剤とする油中水型エマルジョン及びその製造方法
【課題】 超疎水性粉体を固体界面活性剤して用いることによる、水滴がオイル中に分散された油中水型エマルジョン及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 水性溶液(X)の水滴が、シリカを主成分としてなる超疎水性粉体からなる殻に包まれ、これが水と非相溶の媒体(Y)中に分散してなることを特徴とする油中水型エマルジョン。超疎水性粉体は、有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体を含有する超疎水性粉体であって、該ナノファイバー(I)が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)のフィラメントが、疎水性基が結合しているシリカ(B)で被覆されてなるもの、又はこれを焼成し有機成分を除去してなるシリカ(B)を主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体を含有する超疎水性粉体であって、該シリカ(B)に疎水性基が結合してなるものである。
【解決手段】 水性溶液(X)の水滴が、シリカを主成分としてなる超疎水性粉体からなる殻に包まれ、これが水と非相溶の媒体(Y)中に分散してなることを特徴とする油中水型エマルジョン。超疎水性粉体は、有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体を含有する超疎水性粉体であって、該ナノファイバー(I)が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)のフィラメントが、疎水性基が結合しているシリカ(B)で被覆されてなるもの、又はこれを焼成し有機成分を除去してなるシリカ(B)を主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体を含有する超疎水性粉体であって、該シリカ(B)に疎水性基が結合してなるものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性溶液の水滴が、シリカを主成分としてなる超疎水性粉体からなる殻に包まれ、これが水と非相溶の媒体中に分散してなる油中水型エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
固体粒子を、相分離状態の水とこれと非相溶の溶剤(以下、オイルと称する場合がある。)に加える際、固体粒子そのものが界面活性剤のように働き、水滴をオイル中、又はオイル滴を水中に分散させてエマルジョンを形成することができる。これは、早くも1907年、Pickeringの報告によって知られた(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、その概念は100年過ぎた今に来て、やっと多くの関心を集めている。
【0003】
固体粒子が界面活性剤として機能するには、固体粒子そのものの表面物性、即ち濡れ性が重要な要素である。今までの知見では、水接触角がやや90°以上、又はやや90°以下を示す固体粒子の場合、比較的、効率よく水中油型又は油中水型のエマルジョンを形成することができると言われている。これは、固体粒子が親水性−疎水性バランスを持つことが必要条件であることを示唆する。
【0004】
最近の多くの事例からもわかるように、固体粒子が水にも濡れ性を示し、またオイルにも濡れるなどの両親媒性を有する際、その固体粒子は界面活性剤として安定化エマルジョンを与えることができる。例えば、表面疎水性を有するシリカ粒子を用い、ヒドロキシプロピルセルロースの存在下、パラフィンオイル中、水滴を安定に分散した油中水型エマルジョンが形成できる(例えば、非特許文献2参照)。又、疎水性を有するシリカナノ粒子を用い、高速剪断力を有する分散機の攪拌下、水滴をトルエン中に分散した油中水型エマルジョンが形成できる(例えば、非特許文献3参照)。)。単分散性ポリスチレンラテックスを用い、一定の塩濃度の条件下、水滴をシクロヘキサンなどの溶剤に分散した油中水型エマルジョンを作製できることも報告されている(例えば、非特許文献4参照)。単分散性ポリメタクリレート系ポリマー微粒子を用い、デカリン中に水滴を分散した油中水型エマルジョンを得ることができる(例えば、非特許文献5参照)。また、疎水性アルキル基でキャップされた銀ナノ粒子を用い、トリクロロエチレンを水中に分散した水中油型エマルジョンが形成できることも報告されている(例えば、非特許文献6参照)。また、カーボンナノチューブを用い、水滴をトルエン中に分散した油中水型エマルジョンも報告されている(例えば、非特許文献7参照)。しかし、水を完全に弾く固体粒子、即ち水そのものには全く濡れない超撥水性固体粒子でエマルジョンを形成させた例はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Pickering,S.U.,J.Chem.Soc.,91巻,2001頁,1907年
【非特許文献2】Midomore B.R.,J.Colloidal Interface Sci.,213巻、257頁、1999年
【非特許文献3】Binks,B.P.et al.,Langmuir,16巻、2539頁、2000年
【非特許文献4】Binks,B.P.et al.,Langmuir,17巻,4540頁,2001年
【非特許文献5】Dicsmore,A.D.et al.,Science,298巻,1006頁,2002年
【非特許文献6】Dai,L.L.,Langmuir,21巻,2641頁,2005年
【非特許文献7】Wang H.et al.,Langmuir,19巻,3091頁,2003年;Panhuis et al.,ChemComm.,1726頁,2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超撥水性を示す固体粒子は、内部にナノ空間が多く、その空間には空気がトラップされた状態である。そのため、超撥水性粉体は水に全く濡れず、水には分散できないが、オイル中には非常に分散されやすく、完全に濡れてしまう。即ち、超疎水性粉体は通常の固体界面活性剤で要求される明確な両親媒性を示さない。従来の概念、例えば前記非特許文献3によれば、両親媒性を示さない粒子では安定エマルジョンを作ることはできない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、従来の概念とは全く異なる、超疎水性粉体を固体界面活性剤して用いることによる、水滴がオイル中に分散された油中水型エマルジョン及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シリカを主成分とする超疎水性粉体は、それ自体は全く水に濡れない状態であるのに、それを油性液体、水性液体と混合することで、油中水型のエマルジョンを効率的に形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、水性溶液の水滴が、シリカを主成分としてなる超疎水性粉体からなる殻に包まれ、これが水と非相溶の媒体中に分散してなることを特徴とする油中水型エマルジョン及びその製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の超疎水性粉体からなる油中水型エマルジョンは、水性液体を水と全く混ざらないオイル中に効率的に分散できることを特徴とする。従って、本発明の技術は、オイルに不溶性、又は非分散性の水溶性物質を有効にオイル中に分散させることが出来る。このことから、本発明の技術はエマルジョンを反応場として用いることができる。例えば、オイル相に溶解した化合物と水滴中に含まれた化合物とを、超疎水性粉体からなる固体界面(殻)を経て反応させ、目的化合物を得ることができる。しかも、従来の界面活性剤方式での汚染のような、不純物の混入が全くなく、超疎水性粉体ときれいに単離できる。また、本発明技術を利用すれば、酵素、微生物を含む水滴をオイル中に分散することができるため、酵素/微生物の触媒作用によるオイル中での化合物の分解などに利用出来る。更にまた、異なる化合物を含む油中水型エマルジョン同士を混合することで、危険性を伴う劇的反応を温和に反応させることができる。従って、本発明の技術は、産業上の水/オイル界面を伴う様々な用途に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】合成例1で得たシリカ粉末の走査型電子顕微鏡写真である。粉体はナノファイバーから構成された束状構造である。
【図2】合成例2で得た焼成後のシリカ粉末の走査型電子顕微鏡写真である。焼成後でもナノファイバーから構成された束状構造が維持されている。
【図3】合成例4で得られた超疎水性粉体S−2の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】合成例4で得た超疎水性粉体S−2を用いて作製したビー玉写真イメージ。内部は水、外側は固体粒子からなる殻である。
【図5】合成例6で得た超疎水性粉体S−4のTEM写真である。左図:ポリエチルメタクリレートが吸着される前、右図:吸着後。
【図6】合成例6で得た超疎水性粉体S−4の熱分析(TG−DTA)チャートである。
【図7】合成例6で得た超疎水性粉体S−4で作製した超疎水性膜(上図)、とその膜表面で形成した水滴の接触イメージである。
【図8】図7で超疎水性膜を80℃に乾燥したときの濡れ性写真である。
【図9】実施例1で得たエマルジョンの写真である。
【図10】実施例2で得たエマルジョンの写真である。
【図11】実施例3で得たエマルジョン及び乾燥状態までの光学顕微鏡写真である。
【図12】実施例4で作製したエマルジョンE−1の時間変化における光学顕微鏡写真である。
【図13】応用例1で作製した球状炭酸カルシウムのXRDパターンである。
【図14】応用例1で作製した球状炭酸カルシウムのSEM写真である。
【図15】応用例1で作製した球状炭酸カルシウムを割ってから観察したSEM写真である。
【図16】比較用炭酸カルシウムのXRDパターンである
【図17】比較用炭酸カルシウムのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いる超疎水性粉体は、シリカを主成分とし、水に全く濡れない固体粉末である。超疎水性を示す粉体は、内部にナノ空間が多く、その空間には空気がトラップされた状態である。そのため、超疎水性粉体は水に全く濡れず水中に分散できないが、オイル中には非常に分散されやすく完全に濡れてしまう。しかしながら、超疎水性のシリカ系粉体がオイルに完全に濡れた場合、粉体中のナノ空間にトラップされた空気成分が追い出され、見かけ状では「オイルコート固体」となる。この状態では、水に対し疎水性(接触角として70〜150°の範囲)を示すことができても、超疎水性(接触角として150°以上)を示すことはできない。それと同時に、この「オイルコート固体」の内部には、−O−Si−O−Si−O−の結合が多く包まれ、これの分極性により、「オイルコート固体」内部には荷電状態の静電的ドメインがリッチに存在する。従って、この「オイルコート固体」は、その大きな「疎水性比表面積」をもって、水分子との疎水相互作用を引き起こすことで、水分子同士の水素結合を促進すると同時に、内部の静電的ドメインをもって、水分子との静電引力で水分子を「オイルコート固体」表面に引き寄せることができる。本発明のエマルジョンは、シリカ系超疎水性粉体のこのような性質の一面を利用し、水をオイル中に分散させた油中水型エマルジョンである。
【0013】
本発明者らは既に、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが水性媒体中で自己組織化的に成長する結晶性会合体を反応場にし、溶液中でその会合体表面にてアルコキシシランを加水分解的に縮合させ、シリカを析出させることで、ナノファイバーを基本ユニットにした複雑形状のシリカ含有ナノ構造体(粉体)及びそれらの製法を提供した(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報参照。)。
【0014】
この技術の基本原理は、溶液中で直鎖状ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの結晶性会合体を自発的に生長させることであり、一旦結晶性会合体ができたら、後は単に該結晶性会合体の分散液中にシリカソースを混合して、結晶性会合体表面上だけでのシリカの析出を自然に任せることになる(いわゆる、ゾルゲル反応)。これで得られるシリカ含有ナノ構造体は基本的にナノファバーを構造形成のユニットとするものであり、それらユニットの空間的配列によって全体の構造体の形状を誘導するため、ナノレベルの隙間が多く、表面積が大きい粉体である。
【0015】
このような粉体は、自然界での超疎水性を発現するに必要とする基本構造、即ち、ナノファイバーが集合して、マイクロメーター次元の大きさを形成することと非常に良く似ている。従って、この粉体表面を表面張力が低い化学残基で修飾さえすれば、超疎水性を発現することは可能であると考えられる。
【0016】
このような考え方をもとに、本発明者らは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーにより誘導されたナノファイバーを基本構造とするマイクロメーターオーダーのシリカ含有ナノ構造体(シリカを含有するナノメートルオーダーの基本単位からなる構造体のことを示す。)である粉体表面に疎水性基を結合させることで、粉体そのものを超疎水性にすることができる事を見出し、特開2010−043365号公報等として提供している。
【0017】
本発明で用いる直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー鎖中にある直鎖状ポリエチレンイミン骨格部分が水分子の存在下で結晶化することにより、ポリマー鎖が相互に会合して繊維状に成長するが、それをフィラメントと定義する。このフィラメントの表面でゾルゲル反応が起こることによって、該フィラメントがシリカで被覆された有機無機複合ナノファイバー(I)が形成されるが、この反応時に複数の有機無機ナノファイバー(I)間がシリカによって結合されたり、凝集したりすることによって、有機無機ナノファイバー(I)の会合体(バンドル)が形成される。また、この有機無機ナノファイバー(I)の会合体(バンドル)を焼成すると、全体形状を維持したまま、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー鎖を除去することができ、シリカを主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体を得ることができる。
【0018】
[直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)]
本発明で用いる直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)としては、線状、星状、櫛状構造の単独重合体であっても、他の繰り返し単位を有する共重合体であっても良い。共重合体の場合には、該ポリマー(A)中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)のモル比が20%以上であることが、安定なフィラメントを形成できる点から好ましく、該ポリエチレンイミン骨格(a)の繰り返し単位数が10以上である、ブロック共重合体であることがより好ましい。
【0019】
前記直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)としては、結晶性会合体形成能が高いほど好ましい。従って、単独重合体であっても共重合体であっても、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)部分に相当する分子量が500〜1,000,000の範囲であることが好ましい。これら直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)は市販品または本発明者らがすでに開示した合成法(前記特許文献を参照。)により得ることができる。
【0020】
[シリカ(B)]
本発明で用いる超疎水性粉体は、前記直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)のフィラメントがシリカ(B)で被覆されてなる有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体、又は当該有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体から前記ポリマー(A)を焼成により除去して得られるシリカ(B)を主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体を基本構造とする。
【0021】
前記シリカ(B)は、前記ポリマー(A)のフィラメントの存在下、該フィラメント表面でゾルゲル反応によって得られるものであり、該シリカ(B)の形成に必要なシリカソースとしては、例えば、アルコキシシラン類、水ガラス、ヘキサフルオロシリコンアンモニウム等を用いることができる。
【0022】
アルコキシシラン類としては、テトラメトキシシラン、メトキシシラン縮合体のオリゴマー、テトラエトキシシラン、エトキシシラン縮合体のオリゴマーを好適に用いることができる。さらに、アルキル置換アルコキシシラン類の、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン等、更に、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等を、単一で、又は混合して用いることができる。
【0023】
また、上記シリカソースに、他のアルコキシ金属化合物を混合して用いることもできる。例えば、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、または水性媒体中安定なチタニウムビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド水溶液、チタニウムビス(ラクテート)の水溶液、チタニウムビス(ラクテート)のプロパノール/水混合液、チタニウム(エチルアセトアセテート)ジイソプロポオキシド、硫酸チタン、ヘキサフルオロチタンアンモニウム等を用いることができる。
【0024】
[金属イオン]
前記有機無機複合ナノファイバー(I)中には金属イオンを安定に取り込むことができ、従って、金属イオンを含有する超疎水性粉体を得ることもできる。
【0025】
前記ポリマー(A)中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)は金属イオンに対して強い配位能力を有するため、金属イオンは該骨格中のエチレンイミン単位と配位結合して金属イオン錯体を形成する。該金属イオン錯体は金属イオンがエチレンイミン単位に配位されることにより得られるものであり、イオン結合等の過程と異なり、該金属イオンがカチオンでも、またはアニオンでも、エチレンイミン単位への配位により錯体を形成することができる。従って、金属イオンの金属種は、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位と配位結合できるものであれば制限されず、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、半金属、ランタン系金属、ポリオキソメタレート類の金属化合物等のいずれでも良く、単独種であっても複数種が混合されていても良い。
【0026】
上記アルカリ金属としては、Li,Na,K,Cs等が挙げられ、該アルカリ金属のイオンの対アニオンとしては、Cl,Br,I,NO3,SO4,PO4,ClO4,PF6,BF4,F3CsO3などが挙げられる。
【0027】
アルカリ土類金属としては、Mg,Ba,Ca等が挙げられる。
【0028】
遷移金属系の金属イオンとしては、それが遷移金属カチオン(Mn+)であっても、または遷移金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MOxn−)、またはハロゲン類結合からなるアニオン(MLxn−)であっても、好適に用いることができる。なお、本明細書において遷移金属とは、周期表第3族のSc,Y、及び、第4〜12族で第4〜6周期にある遷移金属元素を指す。
【0029】
遷移金属カチオンとしては、各種の遷移金属のカチオン(Mn+)、例えば、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Y,Zr,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,W,Os,Ir,Pt,Au,Hgの一価、二価、三価または四価のカチオンなどが挙げられる。これら金属カチオンの対アニオンは、Cl,NO3,SO4、またはポリオキソメタレート類アニオン、あるいはカルボン酸類の有機アニオンのいずれであってもよい。ただし、Ag,Au,Ptなど、エチレンイミン骨格により還元されやすいものは、pHを酸性条件にする等、還元反応を抑制してイオン錯体を調製することが好ましい。
【0030】
また遷移金属アニオンとしては、各種の遷移金属アニオン(MOxn−)、例えば、MnO4,MoO4,ReO4,WO3,RuO4,CoO4,CrO4,VO3,NiO4,UO2のアニオン等が挙げられる。
【0031】
本発明における金属イオンとしては、前記遷移金属アニオンが、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位に配位した金属カチオンを介してシリカ(B)中に固定された、ポリオキソメタレート類の金属化合物の形態であってもよい。該ポリオキソメタレート類の具体例としては、遷移金属カチオンと組み合わせられたモリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジン酸塩類等を挙げることができる。
【0032】
さらに、各種の金属が含まれたアニオン(MLxn−)、例えば、AuCl4,PtCl6,RhCl4,ReF6,NiF6,CuF6,RuCl6,In2Cl6等、金属がハロゲンに配位されたアニオンもイオン錯体形成に好適に用いることができる。
【0033】
また、半金属系イオンとしては、Al,Ga,In,Tl,Ge,Sn,Pb,Sb,Biのイオンが挙げられ、なかでもAl,Ga,In,Sn,Pb,Tlのイオンが好ましい。
【0034】
ランタン系金属イオンとしては、例えば、La,Eu,Gd,Yb,Euなどの3価のカチオンが挙げられる。
【0035】
[金属ナノ粒子]
上記した通り、本発明では金属イオンを有機無機複合ナノファイバー(I)に取り込むことができる。従って、これらの金属イオンのなかでも、還元反応により還元されやすい金属イオンは、金属ナノ粒子に変換させることで、金属ナノ粒子を含有した超疎水性粉体を得ることもできる。
【0036】
金属ナノ粒子の金属種としては、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム、マンガン、ニッケル、ロジウム、コバルト、ルテニウム、レニウム、モリブデン、鉄等が挙げられ、超疎水性粉体中の金属ナノ粒子は一種であっても、二種以上であってもよい。これら金属種の中でも、特に、銀、金、白金、パラジウムは、その金属イオンがエチレンイミン単位に配位された後、室温または加熱状態で自発的に還元されるため特に好ましい。
【0037】
超疎水性粉体中の金属ナノ粒子の大きさは、1〜20nmの範囲に制御できる。また、金属ナノ粒子は、ポリマー(A)とシリカ(B)との有機無機複合ナノファイバー(I)の内部、または外表面に固定することができる。
【0038】
[有機色素分子]
ポリマー(A)中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)はアミノ基、ヒドロキシ基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基を有する化合物と、水素結合及び/又は静電気引力により、物理的な結合構造を構成することができる。従って、これらの官能基を有する有機色素分子等を超疎水性粉体中に含有させることが可能である。
【0039】
前記有機色素分子としては、単官能酸性化合物、または二官能以上の多官能酸性化合物を好適に用いることができる。
【0040】
具体的には、例えば、テトラフェニルポルフィリンテトラカルボン酸、ピレンジカルボン酸などの芳香族酸類、ナフタレンジスルホン酸、ピレンジスルホン酸、ピレンテトラスルホン酸、アンスラキノンジスルホン酸、テトラフェニルポルフィリンテトラスルホン酸、フタロシアニンテトラスルホン酸、ピペス(PIPES)などの芳香族または脂肪族のスルホン酸類、acid yellow,acid blue,acid red,direct blue,direct yellow,direct red系列のアゾ系染料等を挙げることができる。また、キサンテン骨格を有する色素、例えば、ローダミン、エリスロシン、エオシン系列の色素を用いることができる。
【0041】
[有機無機複合ナノファイバー(I)]
本発明において、有機無機複合ナノファイバー(I)の大きさは、用いるポリマー(A)の分子量、形状、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)の含有率等、用いるシリカソースの種類や使用割合等によって調整することが可能であり、特に該有機無機複合ナノファイバー(I)の太さが10〜100nm、アスペクト比が10以上であるものを容易に製造することができる。
【0042】
前記有機無機複合ナノファイバー(I)中の前記ポリマー(A)の含有率は5〜30質量%に調整可能であり、該ポリマー(A)は前述の通り、フィラメントの形状として含まれている。
【0043】
前記有機無機複合ナノファイバー(I)はその生成過程(ゾルゲル反応時)において3次元空間でランダム配列し、2〜100μmの大きさの会合体(シリカ含有ナノ構造体)を形成する。このような会合体からなる粉体の表面積は50〜200m2/gの範囲になる。
【0044】
有機無機複合ナノファイバー(I)及びその会合体の製造方法については、前記した本発明者がすでに提供した特許文献に記載されたいずれの手法であっても良い。
【0045】
[シリカを主構成成分とするナノファイバー(II)]
上述した有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体を加熱焼成すると、形状を維持したまま、その内部に含まれていたポリマー(A)が除去され、シリカを主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体を得ることができる。ここで、シリカを主構成成分とするということは、例えば、焼成が不十分でポリマー(A)、または併用した有機色素分子中の炭素原子等が炭化して含まれていたり、金属イオンや金属ナノ粒子を併用した場合においては、金属原子が含まれていたりすることがあるものの、ナノファイバーの形状はシリカ(B)によって形成されているこというものであり、シリカ(B)の含有率は通常90質量%以上、好ましくは95質量%である。
【0046】
焼成温度は500℃以上であればよく、焼成時間は温度により適宜に設定することができる。500℃よりもっと高い温度では1時間であればよく、500℃付近では2時間以上焼成することが望まれる。
【0047】
焼成して得られる会合体の構造は焼成前と変わりがなく、ナノファイバー(II)の太さが10〜100nm、アスペクト比が10以上であり、この太さのナノファイバーが3次元空間でランダム配列してなる会合体は2〜100μmの大きさを保ったままである。焼成後に得られる粉体の比表面積は焼成前より大きく、概ね100〜400m2/gである。
【0048】
[疎水化処理]
本発明では、超疎水性粉体とするために疎水性基をシリカ(B)に導入する必要がある。当該導入は、疎水性基を有する化合物との接触で容易に行なうことができ、化学結合による導入と、物理吸着による導入が挙げられる。
【0049】
[化学結合による疎水性基の導入]
前述の有機無機複合ナノファイバー(I)、又はシリカを主構成成分とするナノファイバー(II)の表面にはシリカ(B)が存在しており、その一部はシラノール基のまま存在している部分もある。このシラノール基と反応できる化合物であって、且つ疎水性基を有するものあれば、シリカ(B)に化学結合させることができる。従って、化学結合にて疎水性基を導入したものは、有機無機複合ナノファイバー(I)が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)のフィラメントが、疎水性基を有する化合物(1)が化学結合しているシリカ(B)で被覆されてなる超疎水性粉体である。
【0050】
前記疎水性基としては、例えば、炭素数1〜22のアルキル基、置換基を有していても良い芳香族基(置換基としては、炭素数1〜22のアルキル基、フッ素化アルキル基、部分フッ素化アルキル基等の疎水性基)、炭素数1〜22のフッ素化アルキル基、炭素数1〜22の部分フッ素化アルキル基等が挙げられる。
【0051】
これらの疎水性基を有する化合物(1)を効率的に前記ナノファイバー(I)又はナノファイバー(II)の会合体の表面のシリカ(B)に導入するためには、当該化合物(1)が、疎水性基を有するシランカップリング剤を単独、又は混合したものであることが好ましい。このとき、疎水性基を有するシランカップリング剤との接触量を調整することによって、得られる粉体を疎水性〜超疎水性と調整することも可能である。
【0052】
前記シランカップリング剤として、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等のアルキル基の炭素数が1〜22までのアルキルトリメトキシシランまたはアルキルトリクロロシラン類が挙げられる。
【0053】
また、表面張力低下に有効なフッ素原子を有するものとして、(部分)フッ素化アルキル基を有するシランカップリング剤、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン等を用いることもできる。
【0054】
また、芳香族基を有するシランカップリング剤として、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン等を、取り上げることができる。
【0055】
[化学結合で超疎水性基を導入した超疎水性粉体の製造方法]
前述の超疎水性粉体の製造方法は、前記有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体又はナノファイバー(II)の会合体を溶剤中に分散し、疎水性基を有する化合物(1)と混合すればよく、好ましくは、疎水性基を有するシランカップリング剤の溶液と混合する方法である。
【0056】
疎水性基を有するシランカップリング剤はクロロホルム、塩化メチレン、シクロヘキサノン、キシレン、トルエン、エタノール、メタノールなどの溶剤に溶解させて用いることができる。これらの溶剤は単独または混合して用いることもできる。
【0057】
上記溶液中、シランカップリング剤の濃度は1〜5質量%であれば好適に用いることができ、特に1〜5質量%アンモニア水のエタノール溶液と混合して用いることがより好ましい。混合する際の体積比としては、シランカップリング剤の溶液に対し、アンモニア水エタノール溶液は5〜10倍量であれば好適である。
【0058】
ナノファイバー(I)又は(II)の会合体からなる粉体の分散液を上記混合溶液と混合することで、シランカップリング剤のシランが会合体表面にあるシリカ(B)にSi−O−Si結合で導入され、超疎水性粉体とすることができる。
【0059】
粉体中にポリマー(A)が含まれている、有機無機複合ナノファイバー(I)からなる会合体を用いる場合、上記溶液と混合する時間は、10〜24時間であることが好ましい。又、ポリマー(A)を含まないナノファイバー(II)からなる会合体である粉末を用いる場合には、混合時間は2時間以上であれば、容易に疎水性基を導入することができる。一定時間攪拌混合を行なった後、得られた粉対を濾過または遠心分離して、固形分をトルエン、クロロホルム、ヘキサン、シクロヘキサンなどの溶剤で洗浄し、それを常温乾燥させることで超疎水性粉体を得ることができる。
【0060】
[物理吸着による疎水性基の導入]
前述のナノファイバー(I)又はナノファイバー(II)の会合体表面を形成するシリカには、疎水性基を有する化合物(2)を物理吸着する能力がある。この能力を応用することで、ナノファイバー(I)又はナノファイバー(II)の表面の自由エネルギーを低下させ、超疎水性粉体とすることができる。
【0061】
前記疎水性基を有する化合物(2)としては、例えば、疎水性ポリマー(2−1)、両親媒性ポリマー(2−2)、長鎖アルキル基含有化合物(2−3)、またはフッ素含有化合物(2−4)が挙げられる。尚、前記疎水性基を有する化合物(2)としては、その化合物中に疎水性を示す部分(基)があるか、又は化合物として疎水性を示すものであればよく、例えば、後述するポリプロピレンオキシド等においては明確な「疎水性基」が存在していないが、水と任意の割合で混和することがない点において疎水性を示す化合物であり、本願では疎水性基を有する化合物(2)として包含する。
【0062】
前記疎水性ポリマー(2−1)としては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート類を好適に用いることができる。具体的には、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリベンジル(メタ)アクリレート、ポリシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ポリt−ブチル(メタ)アクリレート、ポリグリシジル(メタ)アクリレート、ポリペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート等であり、また、汎用のポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニル酢酸エステル、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート等の、水に容易に溶解しないポリマーを挙げることができる。
【0063】
前記両親媒性ポリマー(2−2)としては、例えば、ポリアクリルアミドであるポリN−イソブチルアクリルアミド、ポリN、N−ジメチルアクリルアミド等、また、ポリオキサゾリンであるポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリビニルオキサゾリン、ポリフェニルオキサゾリン、ポリプロピレンオキシド等を好適に用いることができる。
【0064】
前記長鎖アルキル基含有化合物(2−3)としては、炭素数6〜22のアルキル基を有する化合物であるアルキルアミン、アルキルカルボン酸、アルキルスルホン酸、アルキルリン酸などを好適に用いることができる。
【0065】
前記フッ素含有化合物(2−4)として、例えば、2,3,4−ヘプタフルオロブチルメタクリレート、DIC株式会社製のFLUONATE K−700,K702,K703,K−704,K−705,K−707,K−708などを好適に用いることができる。
【0066】
[物理吸着で超疎水性基を導入した超疎水性粉体の製造方法]
前述の表面エネルギーを低下させうる疎水性基を有する化合物(2)を効率的に前記ナノファイバー(I)又はナノファイバー(II)の会合体の表面のシリカ(B)に物理吸着させるためには、これらの化合物を単独、又は数種類を溶剤中に溶解させ、その溶液中にナノファイバー(I)又はナノファイバー(II)を分散し、室温、例えば20〜30℃で1〜24時間攪拌することで十分可能である。
【0067】
前記溶剤としては、前記化合物(2)を溶解させることができると同時に、シリカとも親和性を保つことが望ましい。具体的には、トルエン、四水素化フラン、塩化メチレン、クロロホルム、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、キシレンなどを挙げることができる。
【0068】
上記溶液中、前記化合物(2)の濃度は1〜5質量%であれば好適に用いることができる。その際、化合物(2)とナノファイバー(I)または(II)の質量比(2)/(I)又は(II)を5/100〜100/100にすることが好ましい。このとき、ナノファイバー(I)又は(II)の濃度が1〜10質量%になるように、前述の溶剤を適宜追加することが好ましい。或いは、予めナノファイバー(I)又は(II)を、化合物(2)を分散させた溶剤と混和する溶剤に分散させておいてから、前記化合物(2)の溶剤に添加し攪拌する方法であっても良い。
【0069】
一定時間攪拌混合を行なった後、混合物を濾過または遠心分離して、固形分をトルエン、クロロホルム、ヘキサン、シクロヘキサンなどの溶剤で洗浄し、それを常温乾燥させることで本発明の超疎水性粉体を得ることができる。
【0070】
上記の手法で得られる超疎水性粉体は、水との濡れ性が全くなく、水に混合しても粉体として水面に浮かぶことしかできない。これは疎水性残基の導入前では、水中に完全に沈むことと全く異なるものである。また、上記で得られる超疎水性粉体は、水と混合し、攪拌した場合、水滴を超疎水性粉体からなる固体粒子で包み込んだ、外層は固体の殻、内相は液体の「ビー玉」のような球状体を形成することができる。この「ビー玉」は机の上で水銀のように転がることができる。また、上記で得る超疎水性粉体を両面テープに固定した場合、その上での水接触角は160°を簡単に越えることができる。
【0071】
[エマルジョン]
本発明のエマルジョンは、上記で得られる超疎水性粉体を用いることで、水滴をオイル相に安定に分散したものであることを特徴とし、超疎水性粉体、水性溶液(X)、水と非相溶の媒体(Y)(オイル)の3成分を主要構成物とする。
【0072】
本発明でのエマルジョン形成において、オイル相と水性溶液相の体積比は1/9から8/2までの広い範囲であることを特徴とする。オイルの体積が水性溶液より圧倒的少なくても、または多くても、いずれの場合でも、水滴がオイル中に分散された油中水型エマルジョンを形成する。これは一般的な両親媒性界面活性剤を用いるエマルジョン形成において、体積比率が高い方が連続相となる場合と比較し、全く異なる挙動である。
【0073】
上記エマルジョンを形成する際、超疎水性粉体の使用割合は、水性溶液(X)に対し、0.1wt%以上であればよく、その上限は特に限定することではないが、5wt%であることが望ましい。
【0074】
オイル相を構成する溶剤は、水と非相溶の媒体(Y)である。この媒体(Y)としては、水と混ざらない液体であれば特に限定せず好適に用いることができる。例えば、極性官能基を有さない炭素原子数3〜28の脂肪族炭化水素、ハロゲン原子を含有する官能基を有している脂肪族炭化水素(好ましくは炭素原子数3〜28)や芳香族炭化水素、水と混合しないエステル類化合物(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル)等の、25℃で液状の有機溶剤であれば好適に用いることができる。
【0075】
また、オイル相を構成する水と非相溶の媒体(Y)は一種類であってもよく、複数溶剤の混合物でも良い。
【0076】
さらに、オイル相には、化学反応を起こしやすい官能基を有する有機化合物を溶解させて用いることもできる。例えば、エポキシ類化合物、エステル類化合物、ケトン類化合物、アルデヒド類化合物、アミド類化合物、アミノ類化合物、シラン類化合物などを取り上げることができる。これらの有機化合物の使用割合としては、オイル相全体の0.1〜30wt%範囲にすることができる。
【0077】
エマルジョンの水滴を構成する水性溶液(X)としては、水溶性有機化合物を含むことができる。水溶性有機化合物としては、水中可溶である限り特に制限されることはないが、基本的に有機酸(カルボン酸、スルホン酸、リン酸)類、有機塩基(アミン、芳香環窒素)類、アミド類、アルコール類、4級化有機塩類(アンモニウム、ホスホニウム)、水溶性染料、糖類、アミノ酸、DNA、タンパク質、ポリアミン類、ポリオキサゾリン類、ポリエーテル類、ポリ酸類などを好適に用いることができる。例えば、酢酸、酒石酸、ビタミンC、リンゴ酸、桂皮酸、トシル酸、アクリル酸、メタクリル酸、p−ビニルフェニルスルホン酸、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ピリジン、ビニルピリジン、イミダゾール、ピラジン、アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムクロライド、ローダミンB、アシッドレット、コンゴーレット、テトラ(スルホン酸フェニル)ポルフィリン、ポリエチレンイミン、ポリアリールアミン、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリンなどを挙げることができる。
【0078】
上記水溶性有機化合物の水中濃度は、0.1wt%から20wt%までにすることができるが、エマルジョンの安定性を優先した場合、0.1wt%から10wt%までにすることが好適である。
【0079】
また、エマルジョンの水滴を構成する水性溶液(X)として、水溶性無機化合物を含むことができる。水溶性無機化合物としては、水中可溶である限り特に制限されることはないが、基本的にイオン性金属塩類、金属ナノ粒子類、金属酸根からなるポリオキソメタレート類、遷移金属錯体類を用いることができる。例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオンの塩化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩を用いることができる。また、金属ナノ粒子として、粒子径が50nm以下の銀ナノ粒子、金ナノ粒子、白金ナノ粒子、バナジウムナノ粒子などを挙げることができる。また、ポリ金属オキソメタレートとして、[Na(H2O)P5W30O110]3−、Na3[PMoVI12O40]3−、[PMoVMoVI11O40]4−、[Mo6O19]2−、[W6O19]2−、[P2Mo18O62]6−、[V2W18O62]6−などを挙げることができる。
【0080】
上記水溶性無機化合物の水中濃度は、0.1wt%から20wt%までにすることができるが、エマルジョンの安定性を優先した場合、0.1wt%から10wt%までにすることが好適である。
【0081】
特に、有機化合物含有または無機化合物含有の水性溶液を用いる場合、水性溶液/オイルの割合(質量基準)は、通常1/9から7/3までの範囲であり、安定なエマルジョンを得るためには、1/9から6/4までの範囲にすることが好ましい。
【0082】
本発明でのエマルジョン作製では、攪拌効率が低いマグネチックステーラーを用いることで、容易にエマルジョンを得ることができる。剪断力が強い分散機(高速回転ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー)を使用することで、安定性に優れ、エマルジョンサイズも小さいエマルジョン液を得ることもできる。
【0083】
剪断力が強い分散機を使用する場合、エマルジョン作製時間は数秒から数分間で作製することができる。エマルジョン作製温度は液体成分が凝集しない範囲であれば良いが、通常水性液体が凍らない温度であることが好ましい。
【0084】
本発明でのエマルジョンは単純にエマルジョンを作製することよりも、それを応用することに意義がある。例えば、レドックス系室温重合反応を行なう場合、エマルジョン分散液のオイル相には、重合性モノマーと還元剤(または酸化剤)を溶解し、一方、水性溶液からなる液滴には、酸化剤(または還元剤)を溶解させることで、界面付近で重合開始を引き起こすことができる。また、例えば、重合性水溶性モノマーと水溶性酸化剤(または還元剤)を水滴に溶解したエマルジョンを調製し、オイル相には還元剤(または酸化剤)を溶解させることで、界面重合を引き起こすこともできる。さらに、エマルジョンを作製後、オイル相に水中不安定な金属アルコキシドを加えることで、界面にてゾルゲル反応を引き起こし、構造が制御された金属酸化物を作製することができる。また、水滴に反応性物質Aを含むエマルジョン液と水滴に反応性物質Bを含むエマルジョン液を調製し、それらを混合させることで、水滴間での物質伝達により反応を起こすことができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、特に断わりがない限り、「%」は「質量%」を表わす。
【0086】
[1H−NMR]
JEOL JNM−LA300型核磁気共鳴吸収スペクトル測定装置により1H−NMRスペクトルを取得した。化学シフト値δは、テトラメチルシランを基準物質として表わした。
【0087】
[走査型電子顕微鏡によるナノファイバーの会合体や粉体の形状分析]
単離乾燥した会合体や粉体を両面テープにてサンプル支持台に固定し、それをキーエンス製表面観察装置VE−9800にて観察した。
【0088】
[透過型電子顕微鏡によるナノファイバーの会合体や粉体の形状分析]
単離乾燥した会合体や粉体を両面テープにてサンプル支持台に固定し、JEM−2200FS型透過型電子顕微鏡(200kv、日本電子株式会社製)にて観察した。
【0089】
[熱重量損失分析]
SII Nano Technology Inc社製、TG/DTA6300
【0090】
[比表面積測定]
Micrometrics社製 Flow Sorb II 2300
【0091】
[接触角測定]
接触角は自動接触角計Contact Angle System OCA (Dataphysics社製)により測定した。
【0092】
合成例1
[有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体からなる粉体1の作製]
特許文献(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報)に開示した方法により、形状が異なる粉体を作製した。
【0093】
<線状のポリエチレンイミン(P5K)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量500,000、平均重合度5,000、Aldrich社製)5gを、5Mの塩酸水溶液20mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末を1H−NMR(重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH3)と2.3ppm(CH2)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0094】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿した粉末を濾過し、その粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の粉末をデシケータ中で室温(25℃)乾燥し、線状のポリエチレンイミン(P5K)を得た。収量は4.5g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、P5Kの重合度は加水分解前の5,000と同様である。
【0095】
<有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体の合成>
一定量のP5Kを蒸留水中に混合し、それを90℃に加熱し透明溶液を得た後、全体が3%の水溶液になるように調製した。該水溶液を室温(25℃)で自然冷却し、真っ白のP5Kの会合体を含有する水溶液を得た。攪拌しながら、その水溶液100mL中に、70mLのTMOS(テトラメトキシシラン)のエタノール溶液(体積濃度50%)を加え、室温で1時間攪拌続けた。析出した沈殿物をろ過し、それをエタノールで3回洗浄した後、40℃で加熱下乾燥することにより、粉体15gを得た。図1に得られた粉体のSEM写真を示す。ナノファイバーの会合体であることを確認した。
【0096】
これで得た粉体の熱重量損失分析から、ポリマー含有量が7%であることを確認した。また、比表面積測定を行なった結果、105m2/gであった。
【0097】
合成例2[シリカを主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体からなる粉体2の作製]
合成例1で得た粉体1(5g)を空気導入条件下、電気炉にて600℃、2時間加熱し、粉体1に含まれたポリエチレンイミンを除去し、白い粉体2を得た。比表面積は187m2/gであった。図2に粉末2のSEM写真を示した。焼成後のナノファイバー構造には変化がないことが示唆された。
【0098】
合成例3[超疎水性粉体S−1の合成]
2%アンモニアのエタノール溶液50mLと20%デシルトリメトキシシラン(DTMS)のクロロホルム溶液5mLとを混合し、その混合液に0.5gの粉体1を加え、室温で24時間攪拌した。反応液をろ過後、得られた粉末をエタノールで3回洗浄した。乾燥後の粉末は水中では全く沈むことなく、水面で浮かぶ状態であった。これは疎水化処理前の粉体S−1が水中に完全に沈む傾向と全く異なった。
【0099】
得られた粉末を両面テープに接着させ、粉体からなる表面を形成させた後、それの接触角を測定したところ、水の接触角は177.5°であった。粉末の膜状態で、超疎水性であることが強く示唆された。これを超疎水性粉体S−1とする。
【0100】
合成例4[超撥水性粉体S−2の合成]
2%アンモニアのエタノール溶液50mLと20wt%デシルトリメトキシシラン(DTMS)のクロロホルム溶液5mL混合し、その混合液に0.5gの粉体2を加え、室温で24時間攪拌した。反応液をろ過後、得られた粉末をエタノールで3回洗浄した。乾燥後の粉末の(150〜800℃間)熱重量損失は8.4%であった。これは、シランカップリング剤導入による有機残基の量に相当する。この粉末は水中では全く沈むことなく、水面で浮かぶ状態であった。このことは疎水化処理前の粉体2が水中に完全に沈む傾向であったことと全く異なった。図3に粉末のSEM写真を示した。
【0101】
得られた粉末を両面テープに接着させ、粉体からなる表面を形成させた後、それの接触角を測定したところ、水の接触角は179°を超えた。粉体の膜状態で、超疎水性であることが強く示唆された。これを超疎水性粉体S−2とする。
【0102】
少量の超疎水性粉体S−2の粉体に染料の水溶液を一滴落とし、それをスパジュールで混ぜたところ、水が閉じ込まれたビー玉が形成した。図4には、異なる染料液からできたビー玉の写真イメージである。このビー玉は内部にソフトな水、外層はハードな固体粉体からなる球状体である。
【0103】
合成例5[ポリブチルアクリレートが吸着した超疎水性粉体S−3の合成]
ポリブチルアクリレート200mgを20mLのトルエンに溶解し、その溶液に200mgの粉体1を加え、その混合物を室温にて3時間攪拌した。混合液をろ過後、得られた粉体をトルエンで3回洗浄した。乾燥後の粉体は水中では沈むことなく、水面で浮かぶ状態であった。これは疎水化処理前の粉体1が水中に完全に沈む傾向と全く異なった。
【0104】
得られた粉体を両面テープに接着させ、粉体からなる表面を形成させた後、それの接触角を測定したところ、水の接触角は178.4°であった。粉体の膜状態で、超疎水性であることが強く示唆された。これを超疎水性粉体S−3とする。
【0105】
合成例6[ポリエチルメタクリレートが吸着した超疎水性粉体S−4の合成]
合成例5において、ポリブチルアクリレートの代わりにポリエチルメタクリレートを用い、粉体1の代わりに粉体2を用いる以外は、合成例5と同様にして粉体を得た。乾燥後の粉体は水中では沈むことなく、水面で浮かぶ状態であった。これは疎水化処理前の粉体2が水中に完全に沈む傾向と全く異なった。熱重量損失の分析結果、ポリマーの吸着率が12.9%であった。
【0106】
得られた粉末を用いて合成例5と同様にして水の接触角を測定したところ水の接触角は179.7°であった。粉体の膜状態で、超疎水性であることが強く示唆された。これを超疎水性粉体S−4とする。
【0107】
図5にこの粉体S−4のTEM写真を示した。ポリマー吸着前の粉体2のシリカ表面は平滑であったが、ポリマー吸着後ではシリカ表面に数ナノメートルの大きさの粒が全体に広がっていることが観察された。即ち、ポリマーはナノファイバーの表面にナノメートルオーダーの薄膜を形成している状態であることを確認できた。
【0108】
図6には、この粉体の熱分析チャートを示した。ポリマー単独の熱分解温度は327℃あたりであるが、粉体S−4に吸着されたポリマーの耐熱性が向上し、熱分解温度は409℃にシフトした。ナノファイバー表面にナノ薄膜状態で吸着したポリマーは、シリカとナノメートルオーダーでハイブリッド構造を形成したと考えられる。
【0109】
この粉体S−4を種々の溶剤に1週間浸漬した後、粉体を濾過、室温乾燥した。処理後の粉体を両面テープに接着させてから、その上に水滴を落とし、濡れ性を調べた。図7に水滴の濡れ状態を示した。水、ヘキサン、トルエンに浸漬後得られた粉体を両面テープに接着した表面では、水滴が球状状態で、濡れ性が全くなかった。しかしながら、メタノール、エタノール、クロロホルム、アセトン、THFに浸漬後得られた粉体を両面テープに接着した表面では、いずれも水に濡れる状態であった。
【0110】
上記濡れ性をチェックした後のテープを乾燥機中放置し、80℃で2時間加熱した。それを取り出し、室温状態で再び濡れ性を調べた。図8に濡れ状態を示した。水、ヘキサン、トルエンに浸漬後の系では、依然濡れる傾向はまったくなく、水滴はまん丸の状態であった。メタノール、エタノール、クロロホルム、アセトン、THFに浸漬後の系でも、表面は水滴に濡れにくく、図7で見えたような水滴の広がりはなく、水滴は楕円状または球状を維持した。
【0111】
上記図7と図8の結果から、粉体S−4を非極性または極性溶剤中浸漬しても、表面吸着のポリエチルメタクリレートは脱離しないことを強く示唆する。極性溶剤中浸漬後室温で乾燥した場合、極性溶剤によりシリカナノファイバー表面に吸着したポリマーの微小構造ドメインの表面エネルギーにやや変化が生じ、それが濡れ性を増すことになるが、それを加熱処理することで、表面エネルギーは元の低下状態に回復し、濡れ性を防ぐことになることを強く示唆する。
【0112】
合成例7[ポリメチルメタクリレートが吸着した超疎水性粉体S−5の合成]
合成例5において、ポリブチルアクリレートの代わりにポリメチルメタクリレートを用いる以外は、合成例5と同様にして粉体を得た。乾燥後の粉末は水中では沈むことなく、水面で浮かぶ状態であった。
【0113】
得られた粉体を用いて実施例1と同様にして水の接触角を測定したところ、174°を超えた。粉体の膜状態で、超疎水性であることが強く示唆された。これを超疎水性粉体S−5とする。
【0114】
合成例8[フッ素含有化合物が吸着した超撥水性粉体S−6の合成]
合成例7において、ポリエチルメタクリレートの代わりにポリ(2,3,4−ヘプタフルオロブチルメタクリレート)200mgを用いる以外は、合成例7と同様にして粉体を得た。乾燥後の粉体は水中では沈むことなく、水面で浮かぶ状態であった。熱重量損失の分析結果、ポリマーの吸着率が9.8%であった。これを超疎水性粉体S−6とする。
【0115】
得られた粉体6を用いて合成例3と同様にして水の接触角を測定したところ179.6°であった。また、30%エチルアルコール含有のアルコール水溶液でも接触角が168°であった。さらに、50%アルコール水溶液でも表面が濡れなかった。尚、合成例6で得られた粉体5では30%アルコール水溶液の接触角は48°である。フッ素原子による表面自由エネルギー低下能はアルコールに対しても発現され、弾き効果を示した結果と考えられる。
【0116】
実施例1
7mLの蒸留水と3mLのトルエンをガラス容器に加えた後、上層のトルエンに、合成例3で得た超疎水性粉体S−1(0.01g)を加え、それをマグネティクスターラーで60分攪拌し、油中水エマルジョンを得た。このエマルジョン液を24時間静置後、液の状態を目視で観察した。乳白色のエマルジョン液は安定ままで、7mLの水はわずかのトルエン中に安定に分散された(図9)。エマルジョンの上層には、余分のトルエンが残存した。
【0117】
実施例2
超疎水性粉体S−1を0.1g用いた以外、実施例1と同様な条件でエマルジョンを作製した。24時間静置後のエマルジョン分散液状態を図10に示した。実施例1の結果に比べ、超疎水性粉体使用量を10倍にしたことで、上層にはトルエン残存はなかった。
【0118】
実施例3
トルエン(6mL)、蒸留水(5mL)、合成例4で得た超疎水性粉体S−2(0.1g)を実施例2と同様な方法で混合し、油中水エマルジョンを作製した。作製後のエマルジョン液をガラススライドに落とし、それを光学顕微鏡にて観察したところ、ほぼ透明状態の球状液滴がトルエン中に分散された様子が観察された(図11a)。連続相を構成するトルエンが蒸発した後、水を内部に含む固体状球状粒子が観察された(図11b)。それを完全に乾燥させた後では、球状体が割れた状態が観察された(図11c)。
【0119】
上記のことから、トルエン中分散状態での水滴は固体で安定化され、その固体はトルエンが蒸発した後でも、水滴を閉じ込む状態になることがわかる。
【0120】
実施例4
合成例4〜8で得た超疎水性粉体を用い、実施例2と同様な条件でエマルジョンを作製した。表1にその結果を示した。
【0121】
【表1】
【0122】
E−1のエマルジョン液一滴をガラススライドに乗せ、それを光学顕微鏡で観察した。乗せて0分から、1分、2分、3分,4分の刻みでエマルジョンの時間変化の過程を図12に示した。初期の球状エマルジョン液滴は分散媒のトルエンが蒸発することにつれて、変形した。トルエンが全部蒸発したところでは、固体殻同士が接触した状態となり、水滴表面の粉体イメージが観察されるが、内部の水は漏れなかった。即ち、実施例3の結果と同様に、固体エマルジョンの分散媒がなくなっても、超疎水性粉体による球状水滴は維持されることを確認した。
【0123】
実施例5 [各種溶剤を用いたエマルジョン]
トルエンをその他の溶剤に変えた以外、実施例2と同様な条件で、エマルジョンを作製した。表2にその結果を示した。
【0124】
【表2】
【0125】
実施例6 [炭酸ナトリウムを含むエマルジョン]
0.106g(0.001mol)炭酸ナトリウムを4mLの蒸留水に溶解した。一方、0.075gの超疎水性粉体S−2を6mLのトルエン中に分散した。この2液を混合し、水滴には炭酸ナトリウムを含むエマルジョンE−11を調製した。このエマルジョンは静置8時間後でも安定した。
【0126】
実施例7 [塩化カルシウムを含むエマルジョン]
0.111g(0.001mol)の塩化カルシウムを4mLの蒸留水に溶解し、その溶液を0.075gの超疎水性粉体S−2を6mLのトルエン中に分散してなる分散液と混合し、塩化カルシウムを水滴に含むエマルジョンE−12を調製した。このエマルジョンは静置8時間後でも安定した。
【0127】
応用例1[油中水型エマルジョンを用いた炭酸カルシウム結晶作製]
実施例6で得たエマルジョンE−11から8mLを取り出し、実施例7で得たエマルジョンE−12の8mLと混合し、その混合エマルジョンを室温下4時間攪拌した。この時点で混合物から白色沈殿が得られた。混合物に30mLの蒸留水を加え、超疎水性粉体が分散したトルエン相を分離し、水相を遠心分離にて洗浄し、白色固体を回収した。得られた固体粒子のXRD測定から、カルサイト型炭酸カルシウム結晶であることが判明された(図13)。また、固体粒子のSEM観察から、角が丸めの炭酸カルシウム結晶粒が集合してなる球状体であることが明らかとなった(図14)。この球状体を押しつぶしたところ、内部は空洞であった(図15)。即ち、炭酸イオンの固体エマルジョンとカルシウムイオンの固体エマルジョンを混合したところ、エマルジョン界面で、両イオンが結合し、炭酸カルシウムが析出した。また、その析出反応はエマルジョンの球状形状に沿って進行し、結果として、中空構造の炭酸カルシウム結晶集合体が形成した。
【0128】
比較に、同様な濃度の炭酸イオン水溶液とカルシウムイオン水溶液を調製し、それらを混合したところ、白色沈殿物が析出した。この析出物も、同じくカルサイト型炭酸カルシウム結晶であったが(図16)、SEM観察では、四角形の板状結晶であった(図17)。即ち、単純水溶液系からは丸めの結晶粒とそれらの球状集合体に生長することはできなかった。
【0129】
この結果から、超疎水性粉体から形成された油中水型エマルジョンは、特殊形態を有する構造体合成に有効な反応場であることがわかる。
【0130】
応用例2 [油中水型エマルジョンを用いた水溶性モノマーのラジカル重合]
蒸留水6.65g中に0.35gのヒドロキシエチルメタクリレートを混合し、その溶液に過硫酸カリウム0.0175gを溶解した。この水溶液を3.0mLのトルエンと混合し、それに0.07gの超疎水性粉体S−2を加え、マグネチックスターラーで30分激しく攪拌した。これで形成したエマルジョン液を窒素ガスで10分間バブリングした。その後、0.003mLエマルジョン液中にテトラメチルエチレンジアミンを加え、20℃条件下20時間攪拌した。反応終了後、エマルジョン液に30mLの蒸留水を加え、攪拌しながら、エマルジョンを破壊した。遠心分離にて水相とトルエン相を分離し、超疎水性粉体はトルエン相に移動させた。水相を回収し、エパポレーターにて濃縮後、真空乾燥し、白色のポリマーを得た。この方法で得たポリヒドロキシエチルメタクリレートのGPC測定結果、分子量分布が1.65であった。
【0131】
比較に、トルエンと超疎水性粉体なしに、単純水溶液中で同様な仕込みで反応を行ない、得られたポリマーのGPC測定を行なった。その結果、分子量分布は2.79であった。以上のことから、超疎水性粉体からなるエマルジョンを用いた重合反応はポリマーの分子量分布を狭くさせることに効果的であることがわかる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性溶液の水滴が、シリカを主成分としてなる超疎水性粉体からなる殻に包まれ、これが水と非相溶の媒体中に分散してなる油中水型エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
固体粒子を、相分離状態の水とこれと非相溶の溶剤(以下、オイルと称する場合がある。)に加える際、固体粒子そのものが界面活性剤のように働き、水滴をオイル中、又はオイル滴を水中に分散させてエマルジョンを形成することができる。これは、早くも1907年、Pickeringの報告によって知られた(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、その概念は100年過ぎた今に来て、やっと多くの関心を集めている。
【0003】
固体粒子が界面活性剤として機能するには、固体粒子そのものの表面物性、即ち濡れ性が重要な要素である。今までの知見では、水接触角がやや90°以上、又はやや90°以下を示す固体粒子の場合、比較的、効率よく水中油型又は油中水型のエマルジョンを形成することができると言われている。これは、固体粒子が親水性−疎水性バランスを持つことが必要条件であることを示唆する。
【0004】
最近の多くの事例からもわかるように、固体粒子が水にも濡れ性を示し、またオイルにも濡れるなどの両親媒性を有する際、その固体粒子は界面活性剤として安定化エマルジョンを与えることができる。例えば、表面疎水性を有するシリカ粒子を用い、ヒドロキシプロピルセルロースの存在下、パラフィンオイル中、水滴を安定に分散した油中水型エマルジョンが形成できる(例えば、非特許文献2参照)。又、疎水性を有するシリカナノ粒子を用い、高速剪断力を有する分散機の攪拌下、水滴をトルエン中に分散した油中水型エマルジョンが形成できる(例えば、非特許文献3参照)。)。単分散性ポリスチレンラテックスを用い、一定の塩濃度の条件下、水滴をシクロヘキサンなどの溶剤に分散した油中水型エマルジョンを作製できることも報告されている(例えば、非特許文献4参照)。単分散性ポリメタクリレート系ポリマー微粒子を用い、デカリン中に水滴を分散した油中水型エマルジョンを得ることができる(例えば、非特許文献5参照)。また、疎水性アルキル基でキャップされた銀ナノ粒子を用い、トリクロロエチレンを水中に分散した水中油型エマルジョンが形成できることも報告されている(例えば、非特許文献6参照)。また、カーボンナノチューブを用い、水滴をトルエン中に分散した油中水型エマルジョンも報告されている(例えば、非特許文献7参照)。しかし、水を完全に弾く固体粒子、即ち水そのものには全く濡れない超撥水性固体粒子でエマルジョンを形成させた例はない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Pickering,S.U.,J.Chem.Soc.,91巻,2001頁,1907年
【非特許文献2】Midomore B.R.,J.Colloidal Interface Sci.,213巻、257頁、1999年
【非特許文献3】Binks,B.P.et al.,Langmuir,16巻、2539頁、2000年
【非特許文献4】Binks,B.P.et al.,Langmuir,17巻,4540頁,2001年
【非特許文献5】Dicsmore,A.D.et al.,Science,298巻,1006頁,2002年
【非特許文献6】Dai,L.L.,Langmuir,21巻,2641頁,2005年
【非特許文献7】Wang H.et al.,Langmuir,19巻,3091頁,2003年;Panhuis et al.,ChemComm.,1726頁,2005年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超撥水性を示す固体粒子は、内部にナノ空間が多く、その空間には空気がトラップされた状態である。そのため、超撥水性粉体は水に全く濡れず、水には分散できないが、オイル中には非常に分散されやすく、完全に濡れてしまう。即ち、超疎水性粉体は通常の固体界面活性剤で要求される明確な両親媒性を示さない。従来の概念、例えば前記非特許文献3によれば、両親媒性を示さない粒子では安定エマルジョンを作ることはできない。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、従来の概念とは全く異なる、超疎水性粉体を固体界面活性剤して用いることによる、水滴がオイル中に分散された油中水型エマルジョン及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、シリカを主成分とする超疎水性粉体は、それ自体は全く水に濡れない状態であるのに、それを油性液体、水性液体と混合することで、油中水型のエマルジョンを効率的に形成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、水性溶液の水滴が、シリカを主成分としてなる超疎水性粉体からなる殻に包まれ、これが水と非相溶の媒体中に分散してなることを特徴とする油中水型エマルジョン及びその製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の超疎水性粉体からなる油中水型エマルジョンは、水性液体を水と全く混ざらないオイル中に効率的に分散できることを特徴とする。従って、本発明の技術は、オイルに不溶性、又は非分散性の水溶性物質を有効にオイル中に分散させることが出来る。このことから、本発明の技術はエマルジョンを反応場として用いることができる。例えば、オイル相に溶解した化合物と水滴中に含まれた化合物とを、超疎水性粉体からなる固体界面(殻)を経て反応させ、目的化合物を得ることができる。しかも、従来の界面活性剤方式での汚染のような、不純物の混入が全くなく、超疎水性粉体ときれいに単離できる。また、本発明技術を利用すれば、酵素、微生物を含む水滴をオイル中に分散することができるため、酵素/微生物の触媒作用によるオイル中での化合物の分解などに利用出来る。更にまた、異なる化合物を含む油中水型エマルジョン同士を混合することで、危険性を伴う劇的反応を温和に反応させることができる。従って、本発明の技術は、産業上の水/オイル界面を伴う様々な用途に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】合成例1で得たシリカ粉末の走査型電子顕微鏡写真である。粉体はナノファイバーから構成された束状構造である。
【図2】合成例2で得た焼成後のシリカ粉末の走査型電子顕微鏡写真である。焼成後でもナノファイバーから構成された束状構造が維持されている。
【図3】合成例4で得られた超疎水性粉体S−2の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】合成例4で得た超疎水性粉体S−2を用いて作製したビー玉写真イメージ。内部は水、外側は固体粒子からなる殻である。
【図5】合成例6で得た超疎水性粉体S−4のTEM写真である。左図:ポリエチルメタクリレートが吸着される前、右図:吸着後。
【図6】合成例6で得た超疎水性粉体S−4の熱分析(TG−DTA)チャートである。
【図7】合成例6で得た超疎水性粉体S−4で作製した超疎水性膜(上図)、とその膜表面で形成した水滴の接触イメージである。
【図8】図7で超疎水性膜を80℃に乾燥したときの濡れ性写真である。
【図9】実施例1で得たエマルジョンの写真である。
【図10】実施例2で得たエマルジョンの写真である。
【図11】実施例3で得たエマルジョン及び乾燥状態までの光学顕微鏡写真である。
【図12】実施例4で作製したエマルジョンE−1の時間変化における光学顕微鏡写真である。
【図13】応用例1で作製した球状炭酸カルシウムのXRDパターンである。
【図14】応用例1で作製した球状炭酸カルシウムのSEM写真である。
【図15】応用例1で作製した球状炭酸カルシウムを割ってから観察したSEM写真である。
【図16】比較用炭酸カルシウムのXRDパターンである
【図17】比較用炭酸カルシウムのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で用いる超疎水性粉体は、シリカを主成分とし、水に全く濡れない固体粉末である。超疎水性を示す粉体は、内部にナノ空間が多く、その空間には空気がトラップされた状態である。そのため、超疎水性粉体は水に全く濡れず水中に分散できないが、オイル中には非常に分散されやすく完全に濡れてしまう。しかしながら、超疎水性のシリカ系粉体がオイルに完全に濡れた場合、粉体中のナノ空間にトラップされた空気成分が追い出され、見かけ状では「オイルコート固体」となる。この状態では、水に対し疎水性(接触角として70〜150°の範囲)を示すことができても、超疎水性(接触角として150°以上)を示すことはできない。それと同時に、この「オイルコート固体」の内部には、−O−Si−O−Si−O−の結合が多く包まれ、これの分極性により、「オイルコート固体」内部には荷電状態の静電的ドメインがリッチに存在する。従って、この「オイルコート固体」は、その大きな「疎水性比表面積」をもって、水分子との疎水相互作用を引き起こすことで、水分子同士の水素結合を促進すると同時に、内部の静電的ドメインをもって、水分子との静電引力で水分子を「オイルコート固体」表面に引き寄せることができる。本発明のエマルジョンは、シリカ系超疎水性粉体のこのような性質の一面を利用し、水をオイル中に分散させた油中水型エマルジョンである。
【0013】
本発明者らは既に、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが水性媒体中で自己組織化的に成長する結晶性会合体を反応場にし、溶液中でその会合体表面にてアルコキシシランを加水分解的に縮合させ、シリカを析出させることで、ナノファイバーを基本ユニットにした複雑形状のシリカ含有ナノ構造体(粉体)及びそれらの製法を提供した(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報参照。)。
【0014】
この技術の基本原理は、溶液中で直鎖状ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの結晶性会合体を自発的に生長させることであり、一旦結晶性会合体ができたら、後は単に該結晶性会合体の分散液中にシリカソースを混合して、結晶性会合体表面上だけでのシリカの析出を自然に任せることになる(いわゆる、ゾルゲル反応)。これで得られるシリカ含有ナノ構造体は基本的にナノファバーを構造形成のユニットとするものであり、それらユニットの空間的配列によって全体の構造体の形状を誘導するため、ナノレベルの隙間が多く、表面積が大きい粉体である。
【0015】
このような粉体は、自然界での超疎水性を発現するに必要とする基本構造、即ち、ナノファイバーが集合して、マイクロメーター次元の大きさを形成することと非常に良く似ている。従って、この粉体表面を表面張力が低い化学残基で修飾さえすれば、超疎水性を発現することは可能であると考えられる。
【0016】
このような考え方をもとに、本発明者らは、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーにより誘導されたナノファイバーを基本構造とするマイクロメーターオーダーのシリカ含有ナノ構造体(シリカを含有するナノメートルオーダーの基本単位からなる構造体のことを示す。)である粉体表面に疎水性基を結合させることで、粉体そのものを超疎水性にすることができる事を見出し、特開2010−043365号公報等として提供している。
【0017】
本発明で用いる直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー鎖中にある直鎖状ポリエチレンイミン骨格部分が水分子の存在下で結晶化することにより、ポリマー鎖が相互に会合して繊維状に成長するが、それをフィラメントと定義する。このフィラメントの表面でゾルゲル反応が起こることによって、該フィラメントがシリカで被覆された有機無機複合ナノファイバー(I)が形成されるが、この反応時に複数の有機無機ナノファイバー(I)間がシリカによって結合されたり、凝集したりすることによって、有機無機ナノファイバー(I)の会合体(バンドル)が形成される。また、この有機無機ナノファイバー(I)の会合体(バンドル)を焼成すると、全体形状を維持したまま、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー鎖を除去することができ、シリカを主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体を得ることができる。
【0018】
[直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)]
本発明で用いる直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)としては、線状、星状、櫛状構造の単独重合体であっても、他の繰り返し単位を有する共重合体であっても良い。共重合体の場合には、該ポリマー(A)中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)のモル比が20%以上であることが、安定なフィラメントを形成できる点から好ましく、該ポリエチレンイミン骨格(a)の繰り返し単位数が10以上である、ブロック共重合体であることがより好ましい。
【0019】
前記直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)としては、結晶性会合体形成能が高いほど好ましい。従って、単独重合体であっても共重合体であっても、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)部分に相当する分子量が500〜1,000,000の範囲であることが好ましい。これら直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)は市販品または本発明者らがすでに開示した合成法(前記特許文献を参照。)により得ることができる。
【0020】
[シリカ(B)]
本発明で用いる超疎水性粉体は、前記直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)のフィラメントがシリカ(B)で被覆されてなる有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体、又は当該有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体から前記ポリマー(A)を焼成により除去して得られるシリカ(B)を主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体を基本構造とする。
【0021】
前記シリカ(B)は、前記ポリマー(A)のフィラメントの存在下、該フィラメント表面でゾルゲル反応によって得られるものであり、該シリカ(B)の形成に必要なシリカソースとしては、例えば、アルコキシシラン類、水ガラス、ヘキサフルオロシリコンアンモニウム等を用いることができる。
【0022】
アルコキシシラン類としては、テトラメトキシシラン、メトキシシラン縮合体のオリゴマー、テトラエトキシシラン、エトキシシラン縮合体のオリゴマーを好適に用いることができる。さらに、アルキル置換アルコキシシラン類の、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン等、更に、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等を、単一で、又は混合して用いることができる。
【0023】
また、上記シリカソースに、他のアルコキシ金属化合物を混合して用いることもできる。例えば、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、または水性媒体中安定なチタニウムビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド水溶液、チタニウムビス(ラクテート)の水溶液、チタニウムビス(ラクテート)のプロパノール/水混合液、チタニウム(エチルアセトアセテート)ジイソプロポオキシド、硫酸チタン、ヘキサフルオロチタンアンモニウム等を用いることができる。
【0024】
[金属イオン]
前記有機無機複合ナノファイバー(I)中には金属イオンを安定に取り込むことができ、従って、金属イオンを含有する超疎水性粉体を得ることもできる。
【0025】
前記ポリマー(A)中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)は金属イオンに対して強い配位能力を有するため、金属イオンは該骨格中のエチレンイミン単位と配位結合して金属イオン錯体を形成する。該金属イオン錯体は金属イオンがエチレンイミン単位に配位されることにより得られるものであり、イオン結合等の過程と異なり、該金属イオンがカチオンでも、またはアニオンでも、エチレンイミン単位への配位により錯体を形成することができる。従って、金属イオンの金属種は、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位と配位結合できるものであれば制限されず、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、半金属、ランタン系金属、ポリオキソメタレート類の金属化合物等のいずれでも良く、単独種であっても複数種が混合されていても良い。
【0026】
上記アルカリ金属としては、Li,Na,K,Cs等が挙げられ、該アルカリ金属のイオンの対アニオンとしては、Cl,Br,I,NO3,SO4,PO4,ClO4,PF6,BF4,F3CsO3などが挙げられる。
【0027】
アルカリ土類金属としては、Mg,Ba,Ca等が挙げられる。
【0028】
遷移金属系の金属イオンとしては、それが遷移金属カチオン(Mn+)であっても、または遷移金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MOxn−)、またはハロゲン類結合からなるアニオン(MLxn−)であっても、好適に用いることができる。なお、本明細書において遷移金属とは、周期表第3族のSc,Y、及び、第4〜12族で第4〜6周期にある遷移金属元素を指す。
【0029】
遷移金属カチオンとしては、各種の遷移金属のカチオン(Mn+)、例えば、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Y,Zr,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,W,Os,Ir,Pt,Au,Hgの一価、二価、三価または四価のカチオンなどが挙げられる。これら金属カチオンの対アニオンは、Cl,NO3,SO4、またはポリオキソメタレート類アニオン、あるいはカルボン酸類の有機アニオンのいずれであってもよい。ただし、Ag,Au,Ptなど、エチレンイミン骨格により還元されやすいものは、pHを酸性条件にする等、還元反応を抑制してイオン錯体を調製することが好ましい。
【0030】
また遷移金属アニオンとしては、各種の遷移金属アニオン(MOxn−)、例えば、MnO4,MoO4,ReO4,WO3,RuO4,CoO4,CrO4,VO3,NiO4,UO2のアニオン等が挙げられる。
【0031】
本発明における金属イオンとしては、前記遷移金属アニオンが、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位に配位した金属カチオンを介してシリカ(B)中に固定された、ポリオキソメタレート類の金属化合物の形態であってもよい。該ポリオキソメタレート類の具体例としては、遷移金属カチオンと組み合わせられたモリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジン酸塩類等を挙げることができる。
【0032】
さらに、各種の金属が含まれたアニオン(MLxn−)、例えば、AuCl4,PtCl6,RhCl4,ReF6,NiF6,CuF6,RuCl6,In2Cl6等、金属がハロゲンに配位されたアニオンもイオン錯体形成に好適に用いることができる。
【0033】
また、半金属系イオンとしては、Al,Ga,In,Tl,Ge,Sn,Pb,Sb,Biのイオンが挙げられ、なかでもAl,Ga,In,Sn,Pb,Tlのイオンが好ましい。
【0034】
ランタン系金属イオンとしては、例えば、La,Eu,Gd,Yb,Euなどの3価のカチオンが挙げられる。
【0035】
[金属ナノ粒子]
上記した通り、本発明では金属イオンを有機無機複合ナノファイバー(I)に取り込むことができる。従って、これらの金属イオンのなかでも、還元反応により還元されやすい金属イオンは、金属ナノ粒子に変換させることで、金属ナノ粒子を含有した超疎水性粉体を得ることもできる。
【0036】
金属ナノ粒子の金属種としては、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム、マンガン、ニッケル、ロジウム、コバルト、ルテニウム、レニウム、モリブデン、鉄等が挙げられ、超疎水性粉体中の金属ナノ粒子は一種であっても、二種以上であってもよい。これら金属種の中でも、特に、銀、金、白金、パラジウムは、その金属イオンがエチレンイミン単位に配位された後、室温または加熱状態で自発的に還元されるため特に好ましい。
【0037】
超疎水性粉体中の金属ナノ粒子の大きさは、1〜20nmの範囲に制御できる。また、金属ナノ粒子は、ポリマー(A)とシリカ(B)との有機無機複合ナノファイバー(I)の内部、または外表面に固定することができる。
【0038】
[有機色素分子]
ポリマー(A)中の直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)はアミノ基、ヒドロキシ基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基を有する化合物と、水素結合及び/又は静電気引力により、物理的な結合構造を構成することができる。従って、これらの官能基を有する有機色素分子等を超疎水性粉体中に含有させることが可能である。
【0039】
前記有機色素分子としては、単官能酸性化合物、または二官能以上の多官能酸性化合物を好適に用いることができる。
【0040】
具体的には、例えば、テトラフェニルポルフィリンテトラカルボン酸、ピレンジカルボン酸などの芳香族酸類、ナフタレンジスルホン酸、ピレンジスルホン酸、ピレンテトラスルホン酸、アンスラキノンジスルホン酸、テトラフェニルポルフィリンテトラスルホン酸、フタロシアニンテトラスルホン酸、ピペス(PIPES)などの芳香族または脂肪族のスルホン酸類、acid yellow,acid blue,acid red,direct blue,direct yellow,direct red系列のアゾ系染料等を挙げることができる。また、キサンテン骨格を有する色素、例えば、ローダミン、エリスロシン、エオシン系列の色素を用いることができる。
【0041】
[有機無機複合ナノファイバー(I)]
本発明において、有機無機複合ナノファイバー(I)の大きさは、用いるポリマー(A)の分子量、形状、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)の含有率等、用いるシリカソースの種類や使用割合等によって調整することが可能であり、特に該有機無機複合ナノファイバー(I)の太さが10〜100nm、アスペクト比が10以上であるものを容易に製造することができる。
【0042】
前記有機無機複合ナノファイバー(I)中の前記ポリマー(A)の含有率は5〜30質量%に調整可能であり、該ポリマー(A)は前述の通り、フィラメントの形状として含まれている。
【0043】
前記有機無機複合ナノファイバー(I)はその生成過程(ゾルゲル反応時)において3次元空間でランダム配列し、2〜100μmの大きさの会合体(シリカ含有ナノ構造体)を形成する。このような会合体からなる粉体の表面積は50〜200m2/gの範囲になる。
【0044】
有機無機複合ナノファイバー(I)及びその会合体の製造方法については、前記した本発明者がすでに提供した特許文献に記載されたいずれの手法であっても良い。
【0045】
[シリカを主構成成分とするナノファイバー(II)]
上述した有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体を加熱焼成すると、形状を維持したまま、その内部に含まれていたポリマー(A)が除去され、シリカを主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体を得ることができる。ここで、シリカを主構成成分とするということは、例えば、焼成が不十分でポリマー(A)、または併用した有機色素分子中の炭素原子等が炭化して含まれていたり、金属イオンや金属ナノ粒子を併用した場合においては、金属原子が含まれていたりすることがあるものの、ナノファイバーの形状はシリカ(B)によって形成されているこというものであり、シリカ(B)の含有率は通常90質量%以上、好ましくは95質量%である。
【0046】
焼成温度は500℃以上であればよく、焼成時間は温度により適宜に設定することができる。500℃よりもっと高い温度では1時間であればよく、500℃付近では2時間以上焼成することが望まれる。
【0047】
焼成して得られる会合体の構造は焼成前と変わりがなく、ナノファイバー(II)の太さが10〜100nm、アスペクト比が10以上であり、この太さのナノファイバーが3次元空間でランダム配列してなる会合体は2〜100μmの大きさを保ったままである。焼成後に得られる粉体の比表面積は焼成前より大きく、概ね100〜400m2/gである。
【0048】
[疎水化処理]
本発明では、超疎水性粉体とするために疎水性基をシリカ(B)に導入する必要がある。当該導入は、疎水性基を有する化合物との接触で容易に行なうことができ、化学結合による導入と、物理吸着による導入が挙げられる。
【0049】
[化学結合による疎水性基の導入]
前述の有機無機複合ナノファイバー(I)、又はシリカを主構成成分とするナノファイバー(II)の表面にはシリカ(B)が存在しており、その一部はシラノール基のまま存在している部分もある。このシラノール基と反応できる化合物であって、且つ疎水性基を有するものあれば、シリカ(B)に化学結合させることができる。従って、化学結合にて疎水性基を導入したものは、有機無機複合ナノファイバー(I)が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)のフィラメントが、疎水性基を有する化合物(1)が化学結合しているシリカ(B)で被覆されてなる超疎水性粉体である。
【0050】
前記疎水性基としては、例えば、炭素数1〜22のアルキル基、置換基を有していても良い芳香族基(置換基としては、炭素数1〜22のアルキル基、フッ素化アルキル基、部分フッ素化アルキル基等の疎水性基)、炭素数1〜22のフッ素化アルキル基、炭素数1〜22の部分フッ素化アルキル基等が挙げられる。
【0051】
これらの疎水性基を有する化合物(1)を効率的に前記ナノファイバー(I)又はナノファイバー(II)の会合体の表面のシリカ(B)に導入するためには、当該化合物(1)が、疎水性基を有するシランカップリング剤を単独、又は混合したものであることが好ましい。このとき、疎水性基を有するシランカップリング剤との接触量を調整することによって、得られる粉体を疎水性〜超疎水性と調整することも可能である。
【0052】
前記シランカップリング剤として、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等のアルキル基の炭素数が1〜22までのアルキルトリメトキシシランまたはアルキルトリクロロシラン類が挙げられる。
【0053】
また、表面張力低下に有効なフッ素原子を有するものとして、(部分)フッ素化アルキル基を有するシランカップリング剤、例えば、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル)トリクロロシラン等を用いることもできる。
【0054】
また、芳香族基を有するシランカップリング剤として、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン等を、取り上げることができる。
【0055】
[化学結合で超疎水性基を導入した超疎水性粉体の製造方法]
前述の超疎水性粉体の製造方法は、前記有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体又はナノファイバー(II)の会合体を溶剤中に分散し、疎水性基を有する化合物(1)と混合すればよく、好ましくは、疎水性基を有するシランカップリング剤の溶液と混合する方法である。
【0056】
疎水性基を有するシランカップリング剤はクロロホルム、塩化メチレン、シクロヘキサノン、キシレン、トルエン、エタノール、メタノールなどの溶剤に溶解させて用いることができる。これらの溶剤は単独または混合して用いることもできる。
【0057】
上記溶液中、シランカップリング剤の濃度は1〜5質量%であれば好適に用いることができ、特に1〜5質量%アンモニア水のエタノール溶液と混合して用いることがより好ましい。混合する際の体積比としては、シランカップリング剤の溶液に対し、アンモニア水エタノール溶液は5〜10倍量であれば好適である。
【0058】
ナノファイバー(I)又は(II)の会合体からなる粉体の分散液を上記混合溶液と混合することで、シランカップリング剤のシランが会合体表面にあるシリカ(B)にSi−O−Si結合で導入され、超疎水性粉体とすることができる。
【0059】
粉体中にポリマー(A)が含まれている、有機無機複合ナノファイバー(I)からなる会合体を用いる場合、上記溶液と混合する時間は、10〜24時間であることが好ましい。又、ポリマー(A)を含まないナノファイバー(II)からなる会合体である粉末を用いる場合には、混合時間は2時間以上であれば、容易に疎水性基を導入することができる。一定時間攪拌混合を行なった後、得られた粉対を濾過または遠心分離して、固形分をトルエン、クロロホルム、ヘキサン、シクロヘキサンなどの溶剤で洗浄し、それを常温乾燥させることで超疎水性粉体を得ることができる。
【0060】
[物理吸着による疎水性基の導入]
前述のナノファイバー(I)又はナノファイバー(II)の会合体表面を形成するシリカには、疎水性基を有する化合物(2)を物理吸着する能力がある。この能力を応用することで、ナノファイバー(I)又はナノファイバー(II)の表面の自由エネルギーを低下させ、超疎水性粉体とすることができる。
【0061】
前記疎水性基を有する化合物(2)としては、例えば、疎水性ポリマー(2−1)、両親媒性ポリマー(2−2)、長鎖アルキル基含有化合物(2−3)、またはフッ素含有化合物(2−4)が挙げられる。尚、前記疎水性基を有する化合物(2)としては、その化合物中に疎水性を示す部分(基)があるか、又は化合物として疎水性を示すものであればよく、例えば、後述するポリプロピレンオキシド等においては明確な「疎水性基」が存在していないが、水と任意の割合で混和することがない点において疎水性を示す化合物であり、本願では疎水性基を有する化合物(2)として包含する。
【0062】
前記疎水性ポリマー(2−1)としては、例えば、ポリ(メタ)アクリレート類を好適に用いることができる。具体的には、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート、ポリブチル(メタ)アクリレート、ポリベンジル(メタ)アクリレート、ポリシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ポリt−ブチル(メタ)アクリレート、ポリグリシジル(メタ)アクリレート、ポリペンタフルオロプロピル(メタ)アクリレート等であり、また、汎用のポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニル酢酸エステル、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリイミド、ポリカーボネート等の、水に容易に溶解しないポリマーを挙げることができる。
【0063】
前記両親媒性ポリマー(2−2)としては、例えば、ポリアクリルアミドであるポリN−イソブチルアクリルアミド、ポリN、N−ジメチルアクリルアミド等、また、ポリオキサゾリンであるポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリビニルオキサゾリン、ポリフェニルオキサゾリン、ポリプロピレンオキシド等を好適に用いることができる。
【0064】
前記長鎖アルキル基含有化合物(2−3)としては、炭素数6〜22のアルキル基を有する化合物であるアルキルアミン、アルキルカルボン酸、アルキルスルホン酸、アルキルリン酸などを好適に用いることができる。
【0065】
前記フッ素含有化合物(2−4)として、例えば、2,3,4−ヘプタフルオロブチルメタクリレート、DIC株式会社製のFLUONATE K−700,K702,K703,K−704,K−705,K−707,K−708などを好適に用いることができる。
【0066】
[物理吸着で超疎水性基を導入した超疎水性粉体の製造方法]
前述の表面エネルギーを低下させうる疎水性基を有する化合物(2)を効率的に前記ナノファイバー(I)又はナノファイバー(II)の会合体の表面のシリカ(B)に物理吸着させるためには、これらの化合物を単独、又は数種類を溶剤中に溶解させ、その溶液中にナノファイバー(I)又はナノファイバー(II)を分散し、室温、例えば20〜30℃で1〜24時間攪拌することで十分可能である。
【0067】
前記溶剤としては、前記化合物(2)を溶解させることができると同時に、シリカとも親和性を保つことが望ましい。具体的には、トルエン、四水素化フラン、塩化メチレン、クロロホルム、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、キシレンなどを挙げることができる。
【0068】
上記溶液中、前記化合物(2)の濃度は1〜5質量%であれば好適に用いることができる。その際、化合物(2)とナノファイバー(I)または(II)の質量比(2)/(I)又は(II)を5/100〜100/100にすることが好ましい。このとき、ナノファイバー(I)又は(II)の濃度が1〜10質量%になるように、前述の溶剤を適宜追加することが好ましい。或いは、予めナノファイバー(I)又は(II)を、化合物(2)を分散させた溶剤と混和する溶剤に分散させておいてから、前記化合物(2)の溶剤に添加し攪拌する方法であっても良い。
【0069】
一定時間攪拌混合を行なった後、混合物を濾過または遠心分離して、固形分をトルエン、クロロホルム、ヘキサン、シクロヘキサンなどの溶剤で洗浄し、それを常温乾燥させることで本発明の超疎水性粉体を得ることができる。
【0070】
上記の手法で得られる超疎水性粉体は、水との濡れ性が全くなく、水に混合しても粉体として水面に浮かぶことしかできない。これは疎水性残基の導入前では、水中に完全に沈むことと全く異なるものである。また、上記で得られる超疎水性粉体は、水と混合し、攪拌した場合、水滴を超疎水性粉体からなる固体粒子で包み込んだ、外層は固体の殻、内相は液体の「ビー玉」のような球状体を形成することができる。この「ビー玉」は机の上で水銀のように転がることができる。また、上記で得る超疎水性粉体を両面テープに固定した場合、その上での水接触角は160°を簡単に越えることができる。
【0071】
[エマルジョン]
本発明のエマルジョンは、上記で得られる超疎水性粉体を用いることで、水滴をオイル相に安定に分散したものであることを特徴とし、超疎水性粉体、水性溶液(X)、水と非相溶の媒体(Y)(オイル)の3成分を主要構成物とする。
【0072】
本発明でのエマルジョン形成において、オイル相と水性溶液相の体積比は1/9から8/2までの広い範囲であることを特徴とする。オイルの体積が水性溶液より圧倒的少なくても、または多くても、いずれの場合でも、水滴がオイル中に分散された油中水型エマルジョンを形成する。これは一般的な両親媒性界面活性剤を用いるエマルジョン形成において、体積比率が高い方が連続相となる場合と比較し、全く異なる挙動である。
【0073】
上記エマルジョンを形成する際、超疎水性粉体の使用割合は、水性溶液(X)に対し、0.1wt%以上であればよく、その上限は特に限定することではないが、5wt%であることが望ましい。
【0074】
オイル相を構成する溶剤は、水と非相溶の媒体(Y)である。この媒体(Y)としては、水と混ざらない液体であれば特に限定せず好適に用いることができる。例えば、極性官能基を有さない炭素原子数3〜28の脂肪族炭化水素、ハロゲン原子を含有する官能基を有している脂肪族炭化水素(好ましくは炭素原子数3〜28)や芳香族炭化水素、水と混合しないエステル類化合物(例えば酢酸エチル、酢酸ブチル)等の、25℃で液状の有機溶剤であれば好適に用いることができる。
【0075】
また、オイル相を構成する水と非相溶の媒体(Y)は一種類であってもよく、複数溶剤の混合物でも良い。
【0076】
さらに、オイル相には、化学反応を起こしやすい官能基を有する有機化合物を溶解させて用いることもできる。例えば、エポキシ類化合物、エステル類化合物、ケトン類化合物、アルデヒド類化合物、アミド類化合物、アミノ類化合物、シラン類化合物などを取り上げることができる。これらの有機化合物の使用割合としては、オイル相全体の0.1〜30wt%範囲にすることができる。
【0077】
エマルジョンの水滴を構成する水性溶液(X)としては、水溶性有機化合物を含むことができる。水溶性有機化合物としては、水中可溶である限り特に制限されることはないが、基本的に有機酸(カルボン酸、スルホン酸、リン酸)類、有機塩基(アミン、芳香環窒素)類、アミド類、アルコール類、4級化有機塩類(アンモニウム、ホスホニウム)、水溶性染料、糖類、アミノ酸、DNA、タンパク質、ポリアミン類、ポリオキサゾリン類、ポリエーテル類、ポリ酸類などを好適に用いることができる。例えば、酢酸、酒石酸、ビタミンC、リンゴ酸、桂皮酸、トシル酸、アクリル酸、メタクリル酸、p−ビニルフェニルスルホン酸、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ピリジン、ビニルピリジン、イミダゾール、ピラジン、アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムクロライド、ローダミンB、アシッドレット、コンゴーレット、テトラ(スルホン酸フェニル)ポルフィリン、ポリエチレンイミン、ポリアリールアミン、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリンなどを挙げることができる。
【0078】
上記水溶性有機化合物の水中濃度は、0.1wt%から20wt%までにすることができるが、エマルジョンの安定性を優先した場合、0.1wt%から10wt%までにすることが好適である。
【0079】
また、エマルジョンの水滴を構成する水性溶液(X)として、水溶性無機化合物を含むことができる。水溶性無機化合物としては、水中可溶である限り特に制限されることはないが、基本的にイオン性金属塩類、金属ナノ粒子類、金属酸根からなるポリオキソメタレート類、遷移金属錯体類を用いることができる。例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオンの塩化物、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩を用いることができる。また、金属ナノ粒子として、粒子径が50nm以下の銀ナノ粒子、金ナノ粒子、白金ナノ粒子、バナジウムナノ粒子などを挙げることができる。また、ポリ金属オキソメタレートとして、[Na(H2O)P5W30O110]3−、Na3[PMoVI12O40]3−、[PMoVMoVI11O40]4−、[Mo6O19]2−、[W6O19]2−、[P2Mo18O62]6−、[V2W18O62]6−などを挙げることができる。
【0080】
上記水溶性無機化合物の水中濃度は、0.1wt%から20wt%までにすることができるが、エマルジョンの安定性を優先した場合、0.1wt%から10wt%までにすることが好適である。
【0081】
特に、有機化合物含有または無機化合物含有の水性溶液を用いる場合、水性溶液/オイルの割合(質量基準)は、通常1/9から7/3までの範囲であり、安定なエマルジョンを得るためには、1/9から6/4までの範囲にすることが好ましい。
【0082】
本発明でのエマルジョン作製では、攪拌効率が低いマグネチックステーラーを用いることで、容易にエマルジョンを得ることができる。剪断力が強い分散機(高速回転ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー)を使用することで、安定性に優れ、エマルジョンサイズも小さいエマルジョン液を得ることもできる。
【0083】
剪断力が強い分散機を使用する場合、エマルジョン作製時間は数秒から数分間で作製することができる。エマルジョン作製温度は液体成分が凝集しない範囲であれば良いが、通常水性液体が凍らない温度であることが好ましい。
【0084】
本発明でのエマルジョンは単純にエマルジョンを作製することよりも、それを応用することに意義がある。例えば、レドックス系室温重合反応を行なう場合、エマルジョン分散液のオイル相には、重合性モノマーと還元剤(または酸化剤)を溶解し、一方、水性溶液からなる液滴には、酸化剤(または還元剤)を溶解させることで、界面付近で重合開始を引き起こすことができる。また、例えば、重合性水溶性モノマーと水溶性酸化剤(または還元剤)を水滴に溶解したエマルジョンを調製し、オイル相には還元剤(または酸化剤)を溶解させることで、界面重合を引き起こすこともできる。さらに、エマルジョンを作製後、オイル相に水中不安定な金属アルコキシドを加えることで、界面にてゾルゲル反応を引き起こし、構造が制御された金属酸化物を作製することができる。また、水滴に反応性物質Aを含むエマルジョン液と水滴に反応性物質Bを含むエマルジョン液を調製し、それらを混合させることで、水滴間での物質伝達により反応を起こすことができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、特に断わりがない限り、「%」は「質量%」を表わす。
【0086】
[1H−NMR]
JEOL JNM−LA300型核磁気共鳴吸収スペクトル測定装置により1H−NMRスペクトルを取得した。化学シフト値δは、テトラメチルシランを基準物質として表わした。
【0087】
[走査型電子顕微鏡によるナノファイバーの会合体や粉体の形状分析]
単離乾燥した会合体や粉体を両面テープにてサンプル支持台に固定し、それをキーエンス製表面観察装置VE−9800にて観察した。
【0088】
[透過型電子顕微鏡によるナノファイバーの会合体や粉体の形状分析]
単離乾燥した会合体や粉体を両面テープにてサンプル支持台に固定し、JEM−2200FS型透過型電子顕微鏡(200kv、日本電子株式会社製)にて観察した。
【0089】
[熱重量損失分析]
SII Nano Technology Inc社製、TG/DTA6300
【0090】
[比表面積測定]
Micrometrics社製 Flow Sorb II 2300
【0091】
[接触角測定]
接触角は自動接触角計Contact Angle System OCA (Dataphysics社製)により測定した。
【0092】
合成例1
[有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体からなる粉体1の作製]
特許文献(特開2005−264421号公報、特開2005−336440号公報、特開2006−063097号公報、特開2007−051056号公報)に開示した方法により、形状が異なる粉体を作製した。
【0093】
<線状のポリエチレンイミン(P5K)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量500,000、平均重合度5,000、Aldrich社製)5gを、5Mの塩酸水溶液20mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末を1H−NMR(重水)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH3)と2.3ppm(CH2)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0094】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿した粉末を濾過し、その粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の粉末をデシケータ中で室温(25℃)乾燥し、線状のポリエチレンイミン(P5K)を得た。収量は4.5g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、P5Kの重合度は加水分解前の5,000と同様である。
【0095】
<有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体の合成>
一定量のP5Kを蒸留水中に混合し、それを90℃に加熱し透明溶液を得た後、全体が3%の水溶液になるように調製した。該水溶液を室温(25℃)で自然冷却し、真っ白のP5Kの会合体を含有する水溶液を得た。攪拌しながら、その水溶液100mL中に、70mLのTMOS(テトラメトキシシラン)のエタノール溶液(体積濃度50%)を加え、室温で1時間攪拌続けた。析出した沈殿物をろ過し、それをエタノールで3回洗浄した後、40℃で加熱下乾燥することにより、粉体15gを得た。図1に得られた粉体のSEM写真を示す。ナノファイバーの会合体であることを確認した。
【0096】
これで得た粉体の熱重量損失分析から、ポリマー含有量が7%であることを確認した。また、比表面積測定を行なった結果、105m2/gであった。
【0097】
合成例2[シリカを主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体からなる粉体2の作製]
合成例1で得た粉体1(5g)を空気導入条件下、電気炉にて600℃、2時間加熱し、粉体1に含まれたポリエチレンイミンを除去し、白い粉体2を得た。比表面積は187m2/gであった。図2に粉末2のSEM写真を示した。焼成後のナノファイバー構造には変化がないことが示唆された。
【0098】
合成例3[超疎水性粉体S−1の合成]
2%アンモニアのエタノール溶液50mLと20%デシルトリメトキシシラン(DTMS)のクロロホルム溶液5mLとを混合し、その混合液に0.5gの粉体1を加え、室温で24時間攪拌した。反応液をろ過後、得られた粉末をエタノールで3回洗浄した。乾燥後の粉末は水中では全く沈むことなく、水面で浮かぶ状態であった。これは疎水化処理前の粉体S−1が水中に完全に沈む傾向と全く異なった。
【0099】
得られた粉末を両面テープに接着させ、粉体からなる表面を形成させた後、それの接触角を測定したところ、水の接触角は177.5°であった。粉末の膜状態で、超疎水性であることが強く示唆された。これを超疎水性粉体S−1とする。
【0100】
合成例4[超撥水性粉体S−2の合成]
2%アンモニアのエタノール溶液50mLと20wt%デシルトリメトキシシラン(DTMS)のクロロホルム溶液5mL混合し、その混合液に0.5gの粉体2を加え、室温で24時間攪拌した。反応液をろ過後、得られた粉末をエタノールで3回洗浄した。乾燥後の粉末の(150〜800℃間)熱重量損失は8.4%であった。これは、シランカップリング剤導入による有機残基の量に相当する。この粉末は水中では全く沈むことなく、水面で浮かぶ状態であった。このことは疎水化処理前の粉体2が水中に完全に沈む傾向であったことと全く異なった。図3に粉末のSEM写真を示した。
【0101】
得られた粉末を両面テープに接着させ、粉体からなる表面を形成させた後、それの接触角を測定したところ、水の接触角は179°を超えた。粉体の膜状態で、超疎水性であることが強く示唆された。これを超疎水性粉体S−2とする。
【0102】
少量の超疎水性粉体S−2の粉体に染料の水溶液を一滴落とし、それをスパジュールで混ぜたところ、水が閉じ込まれたビー玉が形成した。図4には、異なる染料液からできたビー玉の写真イメージである。このビー玉は内部にソフトな水、外層はハードな固体粉体からなる球状体である。
【0103】
合成例5[ポリブチルアクリレートが吸着した超疎水性粉体S−3の合成]
ポリブチルアクリレート200mgを20mLのトルエンに溶解し、その溶液に200mgの粉体1を加え、その混合物を室温にて3時間攪拌した。混合液をろ過後、得られた粉体をトルエンで3回洗浄した。乾燥後の粉体は水中では沈むことなく、水面で浮かぶ状態であった。これは疎水化処理前の粉体1が水中に完全に沈む傾向と全く異なった。
【0104】
得られた粉体を両面テープに接着させ、粉体からなる表面を形成させた後、それの接触角を測定したところ、水の接触角は178.4°であった。粉体の膜状態で、超疎水性であることが強く示唆された。これを超疎水性粉体S−3とする。
【0105】
合成例6[ポリエチルメタクリレートが吸着した超疎水性粉体S−4の合成]
合成例5において、ポリブチルアクリレートの代わりにポリエチルメタクリレートを用い、粉体1の代わりに粉体2を用いる以外は、合成例5と同様にして粉体を得た。乾燥後の粉体は水中では沈むことなく、水面で浮かぶ状態であった。これは疎水化処理前の粉体2が水中に完全に沈む傾向と全く異なった。熱重量損失の分析結果、ポリマーの吸着率が12.9%であった。
【0106】
得られた粉末を用いて合成例5と同様にして水の接触角を測定したところ水の接触角は179.7°であった。粉体の膜状態で、超疎水性であることが強く示唆された。これを超疎水性粉体S−4とする。
【0107】
図5にこの粉体S−4のTEM写真を示した。ポリマー吸着前の粉体2のシリカ表面は平滑であったが、ポリマー吸着後ではシリカ表面に数ナノメートルの大きさの粒が全体に広がっていることが観察された。即ち、ポリマーはナノファイバーの表面にナノメートルオーダーの薄膜を形成している状態であることを確認できた。
【0108】
図6には、この粉体の熱分析チャートを示した。ポリマー単独の熱分解温度は327℃あたりであるが、粉体S−4に吸着されたポリマーの耐熱性が向上し、熱分解温度は409℃にシフトした。ナノファイバー表面にナノ薄膜状態で吸着したポリマーは、シリカとナノメートルオーダーでハイブリッド構造を形成したと考えられる。
【0109】
この粉体S−4を種々の溶剤に1週間浸漬した後、粉体を濾過、室温乾燥した。処理後の粉体を両面テープに接着させてから、その上に水滴を落とし、濡れ性を調べた。図7に水滴の濡れ状態を示した。水、ヘキサン、トルエンに浸漬後得られた粉体を両面テープに接着した表面では、水滴が球状状態で、濡れ性が全くなかった。しかしながら、メタノール、エタノール、クロロホルム、アセトン、THFに浸漬後得られた粉体を両面テープに接着した表面では、いずれも水に濡れる状態であった。
【0110】
上記濡れ性をチェックした後のテープを乾燥機中放置し、80℃で2時間加熱した。それを取り出し、室温状態で再び濡れ性を調べた。図8に濡れ状態を示した。水、ヘキサン、トルエンに浸漬後の系では、依然濡れる傾向はまったくなく、水滴はまん丸の状態であった。メタノール、エタノール、クロロホルム、アセトン、THFに浸漬後の系でも、表面は水滴に濡れにくく、図7で見えたような水滴の広がりはなく、水滴は楕円状または球状を維持した。
【0111】
上記図7と図8の結果から、粉体S−4を非極性または極性溶剤中浸漬しても、表面吸着のポリエチルメタクリレートは脱離しないことを強く示唆する。極性溶剤中浸漬後室温で乾燥した場合、極性溶剤によりシリカナノファイバー表面に吸着したポリマーの微小構造ドメインの表面エネルギーにやや変化が生じ、それが濡れ性を増すことになるが、それを加熱処理することで、表面エネルギーは元の低下状態に回復し、濡れ性を防ぐことになることを強く示唆する。
【0112】
合成例7[ポリメチルメタクリレートが吸着した超疎水性粉体S−5の合成]
合成例5において、ポリブチルアクリレートの代わりにポリメチルメタクリレートを用いる以外は、合成例5と同様にして粉体を得た。乾燥後の粉末は水中では沈むことなく、水面で浮かぶ状態であった。
【0113】
得られた粉体を用いて実施例1と同様にして水の接触角を測定したところ、174°を超えた。粉体の膜状態で、超疎水性であることが強く示唆された。これを超疎水性粉体S−5とする。
【0114】
合成例8[フッ素含有化合物が吸着した超撥水性粉体S−6の合成]
合成例7において、ポリエチルメタクリレートの代わりにポリ(2,3,4−ヘプタフルオロブチルメタクリレート)200mgを用いる以外は、合成例7と同様にして粉体を得た。乾燥後の粉体は水中では沈むことなく、水面で浮かぶ状態であった。熱重量損失の分析結果、ポリマーの吸着率が9.8%であった。これを超疎水性粉体S−6とする。
【0115】
得られた粉体6を用いて合成例3と同様にして水の接触角を測定したところ179.6°であった。また、30%エチルアルコール含有のアルコール水溶液でも接触角が168°であった。さらに、50%アルコール水溶液でも表面が濡れなかった。尚、合成例6で得られた粉体5では30%アルコール水溶液の接触角は48°である。フッ素原子による表面自由エネルギー低下能はアルコールに対しても発現され、弾き効果を示した結果と考えられる。
【0116】
実施例1
7mLの蒸留水と3mLのトルエンをガラス容器に加えた後、上層のトルエンに、合成例3で得た超疎水性粉体S−1(0.01g)を加え、それをマグネティクスターラーで60分攪拌し、油中水エマルジョンを得た。このエマルジョン液を24時間静置後、液の状態を目視で観察した。乳白色のエマルジョン液は安定ままで、7mLの水はわずかのトルエン中に安定に分散された(図9)。エマルジョンの上層には、余分のトルエンが残存した。
【0117】
実施例2
超疎水性粉体S−1を0.1g用いた以外、実施例1と同様な条件でエマルジョンを作製した。24時間静置後のエマルジョン分散液状態を図10に示した。実施例1の結果に比べ、超疎水性粉体使用量を10倍にしたことで、上層にはトルエン残存はなかった。
【0118】
実施例3
トルエン(6mL)、蒸留水(5mL)、合成例4で得た超疎水性粉体S−2(0.1g)を実施例2と同様な方法で混合し、油中水エマルジョンを作製した。作製後のエマルジョン液をガラススライドに落とし、それを光学顕微鏡にて観察したところ、ほぼ透明状態の球状液滴がトルエン中に分散された様子が観察された(図11a)。連続相を構成するトルエンが蒸発した後、水を内部に含む固体状球状粒子が観察された(図11b)。それを完全に乾燥させた後では、球状体が割れた状態が観察された(図11c)。
【0119】
上記のことから、トルエン中分散状態での水滴は固体で安定化され、その固体はトルエンが蒸発した後でも、水滴を閉じ込む状態になることがわかる。
【0120】
実施例4
合成例4〜8で得た超疎水性粉体を用い、実施例2と同様な条件でエマルジョンを作製した。表1にその結果を示した。
【0121】
【表1】
【0122】
E−1のエマルジョン液一滴をガラススライドに乗せ、それを光学顕微鏡で観察した。乗せて0分から、1分、2分、3分,4分の刻みでエマルジョンの時間変化の過程を図12に示した。初期の球状エマルジョン液滴は分散媒のトルエンが蒸発することにつれて、変形した。トルエンが全部蒸発したところでは、固体殻同士が接触した状態となり、水滴表面の粉体イメージが観察されるが、内部の水は漏れなかった。即ち、実施例3の結果と同様に、固体エマルジョンの分散媒がなくなっても、超疎水性粉体による球状水滴は維持されることを確認した。
【0123】
実施例5 [各種溶剤を用いたエマルジョン]
トルエンをその他の溶剤に変えた以外、実施例2と同様な条件で、エマルジョンを作製した。表2にその結果を示した。
【0124】
【表2】
【0125】
実施例6 [炭酸ナトリウムを含むエマルジョン]
0.106g(0.001mol)炭酸ナトリウムを4mLの蒸留水に溶解した。一方、0.075gの超疎水性粉体S−2を6mLのトルエン中に分散した。この2液を混合し、水滴には炭酸ナトリウムを含むエマルジョンE−11を調製した。このエマルジョンは静置8時間後でも安定した。
【0126】
実施例7 [塩化カルシウムを含むエマルジョン]
0.111g(0.001mol)の塩化カルシウムを4mLの蒸留水に溶解し、その溶液を0.075gの超疎水性粉体S−2を6mLのトルエン中に分散してなる分散液と混合し、塩化カルシウムを水滴に含むエマルジョンE−12を調製した。このエマルジョンは静置8時間後でも安定した。
【0127】
応用例1[油中水型エマルジョンを用いた炭酸カルシウム結晶作製]
実施例6で得たエマルジョンE−11から8mLを取り出し、実施例7で得たエマルジョンE−12の8mLと混合し、その混合エマルジョンを室温下4時間攪拌した。この時点で混合物から白色沈殿が得られた。混合物に30mLの蒸留水を加え、超疎水性粉体が分散したトルエン相を分離し、水相を遠心分離にて洗浄し、白色固体を回収した。得られた固体粒子のXRD測定から、カルサイト型炭酸カルシウム結晶であることが判明された(図13)。また、固体粒子のSEM観察から、角が丸めの炭酸カルシウム結晶粒が集合してなる球状体であることが明らかとなった(図14)。この球状体を押しつぶしたところ、内部は空洞であった(図15)。即ち、炭酸イオンの固体エマルジョンとカルシウムイオンの固体エマルジョンを混合したところ、エマルジョン界面で、両イオンが結合し、炭酸カルシウムが析出した。また、その析出反応はエマルジョンの球状形状に沿って進行し、結果として、中空構造の炭酸カルシウム結晶集合体が形成した。
【0128】
比較に、同様な濃度の炭酸イオン水溶液とカルシウムイオン水溶液を調製し、それらを混合したところ、白色沈殿物が析出した。この析出物も、同じくカルサイト型炭酸カルシウム結晶であったが(図16)、SEM観察では、四角形の板状結晶であった(図17)。即ち、単純水溶液系からは丸めの結晶粒とそれらの球状集合体に生長することはできなかった。
【0129】
この結果から、超疎水性粉体から形成された油中水型エマルジョンは、特殊形態を有する構造体合成に有効な反応場であることがわかる。
【0130】
応用例2 [油中水型エマルジョンを用いた水溶性モノマーのラジカル重合]
蒸留水6.65g中に0.35gのヒドロキシエチルメタクリレートを混合し、その溶液に過硫酸カリウム0.0175gを溶解した。この水溶液を3.0mLのトルエンと混合し、それに0.07gの超疎水性粉体S−2を加え、マグネチックスターラーで30分激しく攪拌した。これで形成したエマルジョン液を窒素ガスで10分間バブリングした。その後、0.003mLエマルジョン液中にテトラメチルエチレンジアミンを加え、20℃条件下20時間攪拌した。反応終了後、エマルジョン液に30mLの蒸留水を加え、攪拌しながら、エマルジョンを破壊した。遠心分離にて水相とトルエン相を分離し、超疎水性粉体はトルエン相に移動させた。水相を回収し、エパポレーターにて濃縮後、真空乾燥し、白色のポリマーを得た。この方法で得たポリヒドロキシエチルメタクリレートのGPC測定結果、分子量分布が1.65であった。
【0131】
比較に、トルエンと超疎水性粉体なしに、単純水溶液中で同様な仕込みで反応を行ない、得られたポリマーのGPC測定を行なった。その結果、分子量分布は2.79であった。以上のことから、超疎水性粉体からなるエマルジョンを用いた重合反応はポリマーの分子量分布を狭くさせることに効果的であることがわかる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性溶液(X)の水滴が、シリカを主成分としてなる超疎水性粉体からなる殻に包まれ、これが水と非相溶の媒体(Y)中に分散してなることを特徴とする油中水型エマルジョン。
【請求項2】
前記水性溶液(X)中に水溶性無機化合物を含むものである請求項1記載の油中水型エマルジョン。
【請求項3】
前記水性溶液(X)中に水溶性有機化合物を含むものである請求項1記載の油中水型エマルジョン。
【請求項4】
前記シリカを主成分としてなる超疎水性粉体が、
有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体を含有する超疎水性粉体であって、該ナノファイバー(I)が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)のフィラメントが、疎水性基が結合しているシリカ(B)で被覆されてなるものである請求項1〜3の何れか1項記載の油中水型エマルジョン。
【請求項5】
前記有機無機複合ナノファイバー(I)の太さが10〜100nm、アスペクト比が10以上であり、且つ該有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体の大きさが2〜100μmの範囲である請求項4記載の油中水型エマルジョン。
【請求項6】
前記シリカを主成分としてなる超疎水性粉体が、
シリカ(B)を主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体を含有する超疎水性粉体であって、該シリカ(B)に疎水性基が結合してなるものである請求項1〜3の何れか1項記載の油中水型エマルジョン。
【請求項7】
前記ナノファイバー(II)の太さが10〜100nm、アスペクト比が10以上であり、且つ該ナノファイバー(II)の会合体の大きさが2〜100μmの範囲である請求項6記載の油中水型エマルジョン。
【請求項8】
前記水と非相溶の媒体(Y)が、ハロゲン原子を含有する官能基を有していても良い脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素からなる群から選ばれる25℃で液状の有機溶剤である請求項1〜7の何れか1項記載の油中水型エマルジョン。
【請求項9】
水と非相溶の媒体(Y)に、シリカを主成分としてなる超疎水性粉体を分散させた後、この分散液と水性溶液(X)とを混合し攪拌する工程を有することを特徴とする油中水型エマルジョンの製造方法。
【請求項10】
前記シリカを主成分としてなる超疎水性粉体が、
有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体を含有する超疎水性粉体であって、該ナノファイバー(I)が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)のフィラメントが、疎水性基が結合しているシリカ(B)で被覆されてなるものである請求項9記載の油中水型エマルジョンの製造方法。
【請求項11】
前記シリカを主成分としてなる超疎水性粉体が、
シリカ(B)を主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体を含有する超疎水性粉体であって、該シリカ(B)に疎水性基が結合してなるものである請求項9記載の油中水型エマルジョンの製造方法。
【請求項1】
水性溶液(X)の水滴が、シリカを主成分としてなる超疎水性粉体からなる殻に包まれ、これが水と非相溶の媒体(Y)中に分散してなることを特徴とする油中水型エマルジョン。
【請求項2】
前記水性溶液(X)中に水溶性無機化合物を含むものである請求項1記載の油中水型エマルジョン。
【請求項3】
前記水性溶液(X)中に水溶性有機化合物を含むものである請求項1記載の油中水型エマルジョン。
【請求項4】
前記シリカを主成分としてなる超疎水性粉体が、
有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体を含有する超疎水性粉体であって、該ナノファイバー(I)が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)のフィラメントが、疎水性基が結合しているシリカ(B)で被覆されてなるものである請求項1〜3の何れか1項記載の油中水型エマルジョン。
【請求項5】
前記有機無機複合ナノファイバー(I)の太さが10〜100nm、アスペクト比が10以上であり、且つ該有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体の大きさが2〜100μmの範囲である請求項4記載の油中水型エマルジョン。
【請求項6】
前記シリカを主成分としてなる超疎水性粉体が、
シリカ(B)を主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体を含有する超疎水性粉体であって、該シリカ(B)に疎水性基が結合してなるものである請求項1〜3の何れか1項記載の油中水型エマルジョン。
【請求項7】
前記ナノファイバー(II)の太さが10〜100nm、アスペクト比が10以上であり、且つ該ナノファイバー(II)の会合体の大きさが2〜100μmの範囲である請求項6記載の油中水型エマルジョン。
【請求項8】
前記水と非相溶の媒体(Y)が、ハロゲン原子を含有する官能基を有していても良い脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素からなる群から選ばれる25℃で液状の有機溶剤である請求項1〜7の何れか1項記載の油中水型エマルジョン。
【請求項9】
水と非相溶の媒体(Y)に、シリカを主成分としてなる超疎水性粉体を分散させた後、この分散液と水性溶液(X)とを混合し攪拌する工程を有することを特徴とする油中水型エマルジョンの製造方法。
【請求項10】
前記シリカを主成分としてなる超疎水性粉体が、
有機無機複合ナノファイバー(I)の会合体を含有する超疎水性粉体であって、該ナノファイバー(I)が、直鎖状ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)のフィラメントが、疎水性基が結合しているシリカ(B)で被覆されてなるものである請求項9記載の油中水型エマルジョンの製造方法。
【請求項11】
前記シリカを主成分としてなる超疎水性粉体が、
シリカ(B)を主構成成分とするナノファイバー(II)の会合体を含有する超疎水性粉体であって、該シリカ(B)に疎水性基が結合してなるものである請求項9記載の油中水型エマルジョンの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
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【図8】
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【図11】
【図12】
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【図14】
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【図16】
【図17】
【公開番号】特開2011−225694(P2011−225694A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95894(P2010−95894)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】
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