説明

超硬刃研削工具及び超硬工具の製造方法

【課題】 従来より製造コストを低減させることが可能な超硬工具の製造方法及び超硬刃研削工具の提供を目的とする。
【解決手段】 本発明に係る超硬刃研削工具10は砥石部14に溝部15を備えているので、通常のマシニングセンターであっても、溝部15を備えない従来の超硬刃研削工具に比べて研削加工時間を短縮することができる。しかも、超硬刃研削工具10の先端面14Cが凹面形状になっているので研削屑が効率よく排除され、加工精度を向上させることが可能である。そして、加工精度向上に基づくNG品の削減及び研削加工時間の短縮により、製造コストを低減することが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬刃の一部を研削して段付き状に陥没した凹部を形成し、その凹部にダイヤモンド焼結板材を埋設して超硬刃の一部とした超硬工具の製造方法及びそのような凹部を超硬刃に研削加工するための超硬刃研削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、超硬刃の一部にダイヤモンド焼結板材埋設用の凹部を研削加工するためには、例えば図13及び図14に示した研削工具1,3が用いられていた。図13の研削工具1は、ダイヤモンドの粉粒を電着させた円柱状の砥石部2を先端に備えた構造になっている。また、図14の研削工具3は、図13の研削工具1の改良品であって、砥石部2の外周面に溝部2Aを設け、研削効率の向上を図ったものである(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実開昭58−169953号公報(第2,4図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、超硬刃に上記凹部を研削加工する前に、その超硬刃自体は、例えば円板形砥石を用いて硬鋼材シャフトから削り出される。このとき円板形砥石は、研削盤、マシニングセンター等の工作機械に取り付けられ、例えば3000〜5000rpmの回転数で駆動されるが、円板形砥石の外周部の加工接触面が非常に小さいため加工が可能であった。
【0004】
ところが、上記した研削工具1,3の砥石部2は、円板形砥石に比べると、径寸法が十分小さく、その径寸法に対する砥石部2の加工接触面が十分大きいため、円板形砥石と同等の周速を得るためには、研削工具1,3の回転数を十分に(例えば、50000rpm程度まで)上げる必要があった。
【0005】
しかしながら、増速装置を備えた特種な工作機械(例えば、マシニングセンター、研削盤)を用いても回転数を十分に上げることはできず、約12000rpm程度にすることが限界であった。そして、図13の研削工具1を12000rpm程度で回転駆動した場合には、超硬刃にダイヤモンド焼結板材埋設用の凹部を研削加工するために、長時間(数日間)の加工時間を要し、製造コストが高くなっていた。しかも、増速装置を備えた特殊な工作機械は高価であるため、これも製造コストが高くなる原因になっていた。また、高速エアスピンドルを用いると50000rpmで研削工具1を回転駆動することができ、研削効率は向上するが、工具寿命が短くなると共に設備費が増加するという問題が発生する。
【0006】
これに対し、図14の研削工具3を用いた場合には、研削効率が向上し、例えば、850rpm程度の回転数であっても(即ち、通常の工作機械を用いても)、図13の研削工具1に比べて研削加工時間の短縮を図ることが可能になる。しかしながら、研削効率の向上に伴い、単位時間当たりの研削屑の発生量も増加するので、砥石部2の先端面2B(図14参照)と凹部4の底面4Aとの間に研削屑が挟まり、加工精度が低下するという問題が生じていた。そして、NG品が増え、結局、超硬工具の製造コストが高くなっていた。なお、高速エアスピンドルを用いて図13の研削工具1を高速回転させた場合も同様に研削屑の問題が発生する。
【0007】
上記問題に加え、従来の研削工具1,3を用いて研削加工された凹部4では、図15に示すように、凹部4の底面4Aと段差面4Bとの間の角部4Cにダイヤモンド焼結板材5が乗り上がることがある。これに対し、ダイヤモンド焼結板材5の底部に面取りを追加加工すればよいが、凹部4の角部4Cに対応した寸法になるように面取りを追加加工することは困難である。このため、ダイヤモンド焼結板材5が凹部4の角部4Cに乗り上がることを確実に防ぐことができず、位置決め精度等のばらつきによりNG品の量が増え、これも超硬工具の製造コストが高くなる原因になっていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、従来より製造コストを低減させることが可能な超硬工具の製造方法及び超硬刃研削工具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る超硬刃研削工具は、超硬刃の一部にダイヤモンド焼結板材埋設用の凹部を研削加工するためのものであって、工作機械の回転駆動軸に取り付け可能な取付軸部の先端に、ダイヤモンドの粉粒を電着させた砥石部を有してなる超硬刃研削工具において、砥石部は、先端に向かって拡径しかつ外周面が軸方向に対して3〜4度の勾配で傾斜した円錐台形状をなすと共に、砥石部の先端面は、外周縁から中心に向かうに従って徐々に窪んだ凹面形状をなし、砥石部には、外周面と先端面とに開放した溝部が形成されたところに特徴を有する。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の超硬刃研削工具において、砥石部の外周面と溝部の内面との間の少なくとも一部の稜線を、砥石部の軸方向に対して60±10度に傾斜させたところに特徴を有する。
【0011】
請求項3の発明は、請求項2に記載の超硬刃研削工具において、溝部は、砥石部の軸方向と略平行な第1の内面と、砥石部の軸方向に対して傾斜した第2の内面と、それら第1及び第2の内面が交差してなる内側稜線とを有した形状であるところに特徴を有する。
【0012】
請求項4の発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の超硬刃研削工具において、砥石部の先端面は、軸方向と直交する面に対して5〜7度の勾配で傾斜したところに特徴を有する。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の超硬刃研削工具において、溝部を複数設けると共に、砥石部の先端面を軸方向から見たときに、隣り合った溝部の間における円弧状外縁部の両端間を結ぶ弦と、その弦と平行な円弧状外縁部の外接線との距離を、砥石部の先端面の外径に対して5分の1以下にしたところに特徴を有する。
【0014】
請求項6の発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の超硬刃研削工具において、砥石部のうちダイヤモンドの粉粒の電着対象物である錐形金属部の先端外縁部に、0.02〜0.08mmの面取り処理が施されたところに特徴を有する。
【0015】
請求項7の発明に係る超硬工具の製造方法は、超硬刃の一部を研削して段付き状に陥没した凹部を形成し、その凹部にダイヤモンド焼結板材を埋設して超硬刃の一部とした超硬工具の製造方法において、請求項1乃至6の何れかに記載の超硬刃研削工具を用いて超硬刃に凹部を研削加工しかつ凹部の段差面に、超硬刃研削工具における砥石部の外周面を押し付けることで、凹部の段差面を凹部の底面に対して覆い被せる側に傾斜させ、その段差面にダイヤモンド焼結板材の側面を突き合わせて位置決めするところに特徴を有する。
【0016】
請求項8の発明は、請求項7に記載の超硬工具の製造方法において、ダイヤモンド焼結材のみからなる焼結板材本体部の裏面に超硬合金板を重ねて焼結させておき、凹部を研削加工後、その凹部の深さを計測する工程と、ダイヤモンド焼結板材全体の板厚を、凹部の深さに対応させるように超硬合金板を平面研削する工程と、ダイヤモンド焼結板材における超硬合金板を凹部の底面に鑞付けする工程とを行うところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0017】
[請求項1,2,3,4及び7の発明]
請求項1及び7の発明によれば、超硬刃研削工具の砥石部に溝部を設けたので、溝部を有しない従来の研削工具に比べ、超硬刃への凹部の研削加工時間が短縮される。しかも、増速装置を有しない通常の工作機械に取り付けて研削加工を行うことができる。さらに、本発明に係る超硬刃研削工具の砥石部における先端面は、凹面形状になっているので、砥石部の先端面と凹部の底面との間に、研削屑を収容可能なスペースが形成される。これにより、研削屑を原因とした加工精度の低下が防がれ、NG品を減らすことができる。また、砥石部の外周面が傾斜しているので超硬刃に形成される凹部の段差面も傾斜し、凹部のうち底面と段差面との間の角部を、ダイヤモンド焼結板材の側面から離すことができる。これにより、ダイヤモンド焼結板材が凹部内の角部に乗り上がることがなくなり、凹部の段差面とダイヤモンド焼結板材の側面との当接位置が安定し、位置決め精度が向上する。ここで、砥石部の外周面の勾配は3〜4度であるので、凹部の段差面と、ダイヤモンド焼結板材の側面との間のうち非当接部分の隙間を狭くすることができる。このように、本発明に係る超硬刃研削工具及び超硬工具の製造方法によれば、研削加工時間が短縮されかつNG品を減らすことができ、製造コストを低減することが可能になる。
【0018】
ここで、砥石部の外周面と溝部の内面との間の少なくとも一部の稜線を、砥石部の軸方向に対して60±10度に傾斜させることが好ましい(請求項2の発明)。特に、砥石部の回転方向における後方側の稜線が、砥石部の軸方向との直交する面に対して20〜40度で交差していることが好ましい。また、請求項3の構成のように、溝部が、砥石部の軸方向と略平行な第1の内面と、砥石部の軸方向に対して傾斜した第2の内面と、それら第1及び第2の内面とが交差してなる内側稜線とを有した形状としたことで、汎用品である錐形砥石を用いて、超硬刃研削工具を製造することができ、超硬刃研削工具自体の製造コストを低減することが可能になる。さらに、砥石部の先端面は、軸方向と直交する面に対して5〜7度の勾配で傾斜した構造にすることが好ましい(請求項4の発明)。
【0019】
[請求項5の発明]
請求項5の超硬刃研削工具によれば、溝部を複数設けたので、溝部が1つである場合に比べて研削効率を向上させることができる。ここで、砥石部の先端面を軸方向から見たときに、隣り合った溝部の間の円弧状外縁部の両端間を結ぶ弦と、その弦と平行な円弧状外縁部の外接線との間の距離を、砥石部の先端面の外径に対して10分の1から5分の1にすることが好ましい。
【0020】
[請求項6の発明]
請求項6の超硬刃研削工具では、砥石部のうちダイヤモンドの粉粒の電着対象物である錐形金属部の先端外縁部に、0.02〜0.08mmの面取り処理を施したので、ダイヤモンドの粉粒が錐形金属部材の先端外縁部に電着し易くなり、超硬刃研削工具自体の形状のばらつきが抑えられる。これにより、異なる超硬刃研削工具を用いて研削を行った場合に、それら研削部分の形状のばらつきを抑えることができる。
【0021】
[請求項8の発明]
請求項8の超硬工具の製造方法によれば、凹部を研削加工後、その凹部の深さに対応した大きさに、ダイヤモンド焼結板材全体の板厚を調整してから、ダイヤモンド焼結板材における超硬合金板を凹部の底面に鑞付けすることで、超硬刃の表面とダイヤモンド焼結板材の表面とを確実に面一にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図12に基づいて説明する。本実施形態の超硬刃研削工具10は、図1に示すように取付軸部11の先端に砥石部14を有する。取付軸部11の先端部11Aは、段付き状に外径が小さくなっており、砥石部14の基端部分は、取付軸部11の先端部11Aより段付き状に外径が大きくなっている。
【0023】
なお、超硬刃研削工具10は、例えば、ハイス鋼からなる硬鋼材シャフトから削り出して製造され、その硬鋼材シャフトを心出しするためのセンター孔10A,10Bが超硬刃研削工具10の両端面の中心に形成されている。また、これらセンター孔10A,10Bは奥側が閉塞した形状になっている。
【0024】
砥石部14は、取付軸部11に一体成形された錐形金属部14S(図2参照)にダイヤモンドの粉粒16(図3参照。以下、「ダイヤモンド粉粒16」という)を電着してなり、全体として先端側(即ち、取付軸部11から離れた側)に向かって外径が徐々に拡径した円錐台形状になっている。また、図2に示すように、砥石部14の外周面14Bは、砥石部14の軸方向(例えば、図2の矢印L1の方向)に対して例えば3〜4度(図2の角度X)の勾配で傾斜している。さらに、砥石部14の先端面14Cは、砥石部14の軸方向と直交する架空の面S1に対し、5〜7度(図2の角度Y)の勾配で外周縁から中心に向かうに従って徐々に窪んだ凹面形状になっている。
【0025】
図3に示すように、砥石部14には、外周面14Bと先端面14Cとに開放した溝部15が複数(例えば、3つ)形成されている。これら溝部15は、同一形状をなし、砥石部14の周方向に均等配置されている。各溝部15は、例えば、砥石部14の軸方向と略平行な第1の内面15Aと、砥石部14の軸方向に対して傾斜した第2の内面15Bと、それら第1及び第2の内面15A,15Bが交差してなる内側稜線15Cとを有してなり、第2の内面15Bが、溝部15の回転方向において第1の内面15Aより後側に配置されている。また、溝部15の内側稜線15Cの一端部は、図3に示すように、センター孔10Bの開口縁に位置している。さらに、第2の内面15Bと砥石部14の外周面14Bとの間の稜線15Dは、砥石部14の軸方向に対して60±10度(図9の角度Z参照)で傾斜している。
【0026】
より具体的には、図4に示すように、各溝部15は、ダイヤモンド粉粒16が電着される前の錐形金属部14Sに対し、錐形砥石20を押し付けて形成される。この錐形砥石20は、端面20Aに対して外周面20Bが略60度の角度で傾斜している。そして、錐形砥石20の端面20Aと外周面20Bとによって、溝部15の第1及び第2の内面15A,15Bが研削される。このとき、錐形砥石20における端面20Aが、砥石部14の軸方向と平行になるように配置される。これにより第1の内面15Aが砥石部14の軸方向と略平行になり、第2の内面15Bが軸方向に対して傾斜し、前記稜線15Dが軸方向に対して60±10度の角度で傾斜する。
【0027】
なお、本実施形態では、溝部15の第1及び第2の内面15A,15Bが汎用品である錐形砥石20によって一度に加工されるので、これらを別々に加工した場合に比べて超硬刃研削工具10の製造コストを低減させることができる。
【0028】
図5には、砥石部14の先端面14Cを、軸方向から見た状態が示されている。同図に示すように、先端面14Cのうち隣り合った溝部15,15間の円弧状外縁部の両端間を結ぶ弦G1と、その弦G1と平行な円弧状外縁部の外接線L2との間の距離Wは、先端面14Cの外径D(例えば、8mm)に対して10分の1〜5分の1(具体的に、本実施形態では略1/8)になっている。
【0029】
図6には、ダイヤモンド粉粒16を電着させる前の状態の錐形金属部14Sの先端外縁部が拡大して示されている。同図に示すように、錐形金属部14Sの先端外縁部には、微細な面取り処理が施されている。この面取り処理によって錐形金属部14Sに形成された面取りテーパ面14Eは、軸方向に対して例えば45度の角度をなし、その面取り寸法は、例えば0.02〜0.08mmになっている。具体的には、錐形金属部14Sの径方向(同図の左右方向)において、面取り処理前の錐形金属部14Sにおける先端エッジ部14Fから、面取り処理後の面取りテーパ面14Eの縁部までの寸法L3が0.02〜0.08mmになっている。
【0030】
図3に示すように、ダイヤモンド粉粒16は、錐形金属部14Sの表面全体に電着し、図7(A)に示すように、面取りテーパ面14Eにも電着している。ここで、仮に錐形金属部14Sに面取り処理を施していないと、図7(B)に示すように、例えば錐形金属部14Sの先端エッジ部14Fでダイヤモンド粉粒16が隆起し、これにより電着後に砥石部14の先端外縁部の形状がばらついたり、或いはダイヤモンド粉粒16が欠け落ちる事態が生じ得る。しかしながら、本実施形態では、錐形金属部14Sの先端外縁部に面取り処理が施されているので、上記した事態の発生を防ぐことができる。また、錐形金属部14Sの先端エッジ部14Fの欠けも防止することができる。これらにより、超硬刃研削工具10自体の形状のばらつきが抑えられると共に、異なる超硬刃研削工具10を用いて研削を行った場合に、それら研削部分の形状のばらつきを抑えることができる。
【0031】
次に、上記構成からなる本実施形態の超硬刃研削工具10を用いて図8に示した超硬工具30を製造する方法について説明する。この超硬工具30は、超硬合金製の超硬シャフトを研削してなり、シャフト部30Sの先端に刃部30Hを備えた構造をなしている。刃部30Hは、大径部30H1の先端同軸上に小径部30H2を備え、その小径部30H2の先端をテーパー状に先細りにした構造になっている。また、刃部30Hの周面には複数の超硬刃31が形成され、それら各超硬刃31が、大径部30H1と小径部30H2とに跨って超硬工具30の軸方向に延びている。
【0032】
複数の超硬刃31のうち所定の超硬刃31には、軸方向の2箇所に互いに形状が異なる1対の凹部32,32が形成されている。これら両凹部32,32は、超硬刃31の平坦部分を研削して段付き状に陥没している。そして、一方の凹部32は、平面形状が略半円形をなし、大径部30H1の先端部から小径部30H2に僅かに差し掛かった位置に亘って形成されている。他方の凹部32は、平面形状が略扇形をなし、小径部30H2の先端部からテーパー状の先端部に亘って形成されている。また、略半円形の凹部32における円弧部は、略扇形の凹部32における円弧部に比べて曲率半径が大きくなっている。そして、各凹部32,32に対応した形状のダイヤモンド焼結板材35,35がそれぞれ各凹部32,32に埋設されて超硬刃31の一部になっている。
【0033】
ダイヤモンド焼結板材35は、図11に示すように、ダイヤモンド焼結材のみからなる焼結板材本体部35Aの裏面に超硬合金板35Bを重ねた構造になっている。具体的には、焼結板材本体部35Aと超硬合金板35Bとを重ねて超高圧で互いに押し付け、この状態で超高温で加熱することで焼結板材本体部35Aと超硬合金板35Bとを焼結してダイヤモンド焼結板材35が形成されている。なお、ダイヤモンド焼結板材35の全体の板厚は、例えば1.4mmになっており、そのうち焼結板材本体部35Aの厚さは、0.2又は0.5mmになっている。
【0034】
さて、上記超硬工具30を製造するためには、前記した略扇形の凹部32用と略半円形の凹部32用に、砥石径が異なる2種類の超硬刃研削工具10が用意される。これら各超硬刃研削工具10は、マシニングセンターの主軸(本発明に係る「工作機械の回転駆動軸」に相当する)に脱着可能なツールシャンク(図示せず)に固定され、マシニングセンターのマガジンラック(図示せず)に格納される。また、ワークとしては、予め複数の超硬刃31が研削加工されかつ、両凹部32,32は加工されていない超硬工具30が用意される。そして、このワークとしての超硬工具30が、マシニングセンターのワーク治具(図示せず)に取り付けられる。
【0035】
さらに、マシニングセンターの別のワーク治具(図示せず)には、略扇形及び略半円形の凹部32,32に対応させて、予め半円形状及び略扇形状に加工された各ダイヤモンド焼結板材35,35が固定される。具体的には、ワーク治具の平坦面にダイヤモンド焼結板材35の焼結板材本体部35A側が接着剤で固定される。この接着剤は、特殊な接着解除液を加えることで接着効果を除去可能なものが用いられる。
【0036】
上記準備が完了したらマシニングセンターを起動する。すると、砥石部14の径が比較的小さい一方の超硬刃研削工具10がツールシャンクを介してマシニングセンターの主軸に取り付けられる。そして、図9に示すように、超硬刃研削工具10の軸方向が、超硬刃31の平坦面31Hに対して直交する方向に向けられ、刃部30Hの先端部において、超硬刃31から側方に離された位置に配置される。このとき、超硬刃研削工具10の先端面14Cは、超硬刃31の平坦面31Hに対して0.2mm(図9の寸法t参照)沈んだ位置に位置決めされる。
【0037】
次いで、超硬刃研削工具10が、例えば約800〜900rpmで回転駆動されかつ回転軸と直交する方向に移動し、砥石部14の外周面14Bが超硬刃31に押し付けられる。これにより、超硬刃31の平坦部分が研削され、刃部30Hの先端部に略扇形の凹部32が加工される。詳細には、砥石部14の外周面14Bのうち溝部15の稜線15Dで超硬刃31を構成する超硬合金を恰も切削するように比較的深く研削し、外周面14Bにおける溝部15以外の部分で面粗度を高めるように研削する。これにより、溝部15を有しない従来の超硬刃研削工具に比べて効率よく超硬刃31を研削加工することができる。そして、超硬刃31が設定値で0.2mm研削されたら、超硬刃研削工具10が超硬工具30から離脱され、マシニングセンターに備えた計測器により、超硬刃研削工具10によって研削された略扇形の凹部32の深さが自動計測される。そして、設定値の0.2mmと実測値との差を、超硬刃研削工具10のマシニングセンターの主軸に対する取り付け誤差寸法として求める。
【0038】
次いで、この取り付け誤差寸法を反映させて、実際の凹部32の深さが1.4mmになるように、超硬刃研削工具10の先端面14Cが、平坦面31Hに対して再び所定位置に配置される。そして、超硬刃研削工具10が回転軸と直交する方向に移動し、超硬刃31に扇形状で深さ1.4mmの凹部32が研削加工される。
【0039】
ところで、超硬刃研削工具10にて研削加工している間に研削屑が発生する。しかしながら、本実施形態の超硬刃研削工具10では、砥石部14の先端面14Cが凹面形状になっているので、砥石部14の先端面14Cと凹部32の底面32Cとの間に、研削屑を収容可能なスペースが形成される。これにより、砥石部14の先端面14Cと凹部32の底面32Cとの間に研削屑が挟まっても上記スペースに収容されると共に、砥石部14の外周面14Bと段差面32Bとの隙間から研削屑が排出され、超硬刃研削工具10の位置が軸方向でばらつくことがなくなり、研削屑を原因とした加工精度の低下が防がれる。特に、本実施形態では、砥石部14の先端面14Cの全体が超硬刃31に重なることはないので(図9の二点鎖線参照)、研削屑が、前記したスペースを通って超硬刃31の刃先側から効率よく排除される。
なお、別のワークにおいて、砥石部14の先端面14Cの全体がワークに重なるような加工を行った場合は、前記したスペースに収容された研削屑が砥石部14における周面のうちワークに押し付けられた部分と反対側で、溝部15を通して前記スペースの外部に排出される。
【0040】
超硬工具30に必要な略扇形の凹部32が全て加工されたら、それら略扇形の凹部32毎に深さが自動計測される。そして、ツール交換が行われ、砥石径が比較的大きな他方の超硬刃研削工具10がマシニングセンターの主軸に取り付けられ、その超硬刃研削工具10によって略半円形の凹部32が略扇形の凹部32と同様に加工される。
【0041】
次いで、超硬工具30及びダイヤモンド焼結板材35をマシニングセンターのワーク治具から取り外す。そして、略扇形及の略円形の凹部32,32に各ダイヤモンド焼結板材35を埋設する作業を行う。具体的には、ダイヤモンド焼結板材35のうち超硬合金板35Bに溶けた鑞を付け、図10に示すように、その超硬合金板35Bを凹部32の底面32Cに宛がう。そして、図11に示すように、ダイヤモンド焼結板材35の側面35Sを凹部32の段差面32Bに押し付ける。
【0042】
ここで、本実施形態の超硬刃研削工具10で研削加工された凹部32の段差面32Bは、砥石部14の外周面14Bに対応して、底面32Cに覆い被さる側に傾斜している。これにより、ダイヤモンド焼結板材35は、凹部32の底面32Cと段差面32Bとの間の角部32Dに乗り上がらないように離され、ダイヤモンド焼結板材35の側面35Sを各凹部32,32の段差面32Bに押し付けたときに、それら側面35Sと段差面32Bにおける底面32Cから離れた側の縁部同士(図11の35E,32E)が確実に当接する。即ち、超硬刃31に対するダイヤモンド焼結板材35の位置決め精度が向上する。また、砥石部14の外周面14Bの勾配は3〜4度であるので、凹部32の段差面32Bと、ダイヤモンド焼結板材35の側面35Sとの間のうち非当接部分の隙間を狭くすることができ、その隙間が鑞で埋められる。
【0043】
このように本実施形態の超硬刃研削工具10及び超硬工具30の製造方法によれば、通常のマシニングセンターであっても溝部15を備えない従来の超硬刃研削工具に比べて研削加工時間を短縮することができる。しかも、研削屑を効率よく排除して加工精度を向上させることが可能であると共に、超硬刃31に対するダイヤモンド焼結板材35の位置決め精度を向上させることができる。そして、これら加工精度、位置決め精度の向上に基づくNG品の削減及び研削加工時間の短縮により、製造コストを低減することが可能になる。
【0044】
なお、図8に示されたワークとしての超硬工具30に代え、図12に示された超硬工具30Xも上記したマシニングセンターを用いて製造することもできる。この超硬工具30Xは、同一径で軸方向に延び、先端部がテーパ状に先細りになっている。そして、この超硬工具30Xにおける所定の超硬刃31に形成された凹部32,32は、略扇形と略半円形になっているが、これら略扇形と略半円形の曲率半径は同じになっている。この場合、1種類の超硬刃研削工具10のみを使用してツール交換を行うことなく、超硬工具30Xに略半円形及び略扇形の両凹部32,32を加工することができる。
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0045】
(1)前記実施形態の超硬刃研削工具10には、複数の溝部15が形成されていたが、溝部15は1つであってもよい。
【0046】
(2)前記実施形態では、超硬刃研削工具10をマシニングセンターに取り付けて超硬工具30を研削加工する場合について説明したが、研削盤に超硬刃研削工具10を取り付けて超硬工具30を研削加工してもよい。
【0047】
(3)前記実施形態では、図8に示された超硬工具30において、曲率半径が異なる凹部32,32を研削加工するために、砥石径が異なる2種類の超硬刃研削工具10を用いていたが、超硬刃研削工具10に円弧研削(即ち、超硬刃研削工具10が回転軸と直交する方向で円弧状に移動する研削)を行わせることで、1種類の超硬刃研削工具10で曲率半径が異なる凹部32,32を研削加工してもよい。また、図12に示された超硬工具30Xにおける同じ曲率の凹部を円弧研削で加工してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態に係る超硬刃研削工具の部分側断面図
【図2】超硬刃研削工具における先端部の側断面図
【図3】超硬刃研削工具における先端部の斜視図
【図4】超硬刃研削工具の砥石部及び錐形砥石の斜視図
【図5】超硬刃研削工具を軸方向から見た砥石部の底面図
【図6】超硬刃研削工具の砥石部における先端外縁部の断面図
【図7】超硬刃研削工具の砥石部における先端外縁部の断面図
【図8】超硬工具の側面図
【図9】超硬刃研削工具を超硬工具の超硬刃に対向させた状態の側面図
【図10】超硬工具の断面図
【図11】超硬刃の凹部にダイヤモンド焼結板材を埋め込んだ状態の断面図
【図12】超硬工具の側面図
【図13】従来の研削工具の側面図
【図14】従来の研削工具の側面図
【図15】従来の研削工具で超硬刃を研削した場合の凹部の断面図
【符号の説明】
【0049】
10 超硬刃研削工具
11 取付軸部
14 砥石部
14B 外周面
14C 先端面
14S 錐形金属部
15 溝部
15A 第1の内面
15B 第2の内面
15C 内側稜線
15D 稜線
16 ダイヤモンド粉粒
30 超硬工具
31 超硬刃
31H 平坦面
32I,32 凹部
32B 段差面
32C 底面
32D 底面側角部
35 ダイヤモンド焼結板材
35A 焼結板材本体部
35B 超硬合金板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬刃の一部にダイヤモンド焼結板材埋設用の凹部を研削加工するためのものであって、工作機械の回転駆動軸に取り付け可能な取付軸部の先端に、ダイヤモンドの粉粒を電着させた砥石部を有してなる超硬刃研削工具において、
前記砥石部は、先端に向かって拡径しかつ外周面が軸方向に対して3〜4度の勾配で傾斜した円錐台形状をなすと共に、前記砥石部の先端面は、外周縁から中心に向かうに従って徐々に窪んだ凹面形状をなし、
前記砥石部には、外周面と先端面とに開放した溝部が形成されたことを特徴とする超硬刃研削工具。
【請求項2】
前記砥石部の外周面と前記溝部の内面との間の少なくとも一部の稜線を、前記砥石部の軸方向に対して60±10度に傾斜させたことを特徴とする請求項1に記載の超硬刃研削工具。
【請求項3】
前記溝部は、前記砥石部の軸方向と略平行な第1の内面と、前記砥石部の軸方向に対して傾斜した第2の内面と、それら第1及び第2の内面が交差してなる内側稜線とを有した形状であることを特徴とする請求項2に記載の超硬刃研削工具。
【請求項4】
前記砥石部の先端面は、軸方向と直交する面に対して5〜7度の勾配で傾斜したことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の超硬刃研削工具。
【請求項5】
前記溝部を複数設けると共に、前記砥石部の先端面を軸方向から見たときに、隣り合った前記溝部の間における円弧状外縁部の両端間を結ぶ弦と、その弦と平行な前記円弧状外縁部の外接線との距離を、前記砥石部の先端面の外径に対して5分の1以下にしたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の超硬刃研削工具。
【請求項6】
前記砥石部のうちダイヤモンドの粉粒の電着対象物である錐形金属部の先端外縁部に、0.02〜0.08mmの面取り処理が施されたことを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の超硬刃研削工具。
【請求項7】
超硬刃の一部を研削して段付き状に陥没した凹部を形成し、その凹部にダイヤモンド焼結板材を埋設して前記超硬刃の一部とした超硬工具の製造方法において、
前記請求項1乃至6の何れかに記載の超硬刃研削工具を用いて前記超硬刃に前記凹部を研削加工しかつ前記凹部の段差面に、前記超硬刃研削工具における前記砥石部の外周面を押し付けることで、前記凹部の段差面を前記凹部の底面に対して覆い被せる側に傾斜させ、その段差面に前記ダイヤモンド焼結板材の側面を突き合わせて位置決めすることを特徴とした超硬工具の製造方法。
【請求項8】
ダイヤモンド焼結材のみからなる焼結板材本体部の裏面に超硬合金板を重ねて焼結させておき、
前記凹部を研削加工後、その凹部の深さを計測する工程と、前記ダイヤモンド焼結板材全体の板厚を、前記凹部の深さに対応させるように前記超硬合金板を平面研削する工程と、前記ダイヤモンド焼結板材における前記超硬合金板を前記凹部の底面に鑞付けする工程とを行うことを特徴とする請求項7に記載の超硬工具の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬刃の一部にダイヤモンド焼結板材埋設用の凹部を研削加工するためのものであって、工作機械の回転駆動軸に取り付け可能な取付軸部の先端に、ダイヤモンドの粉粒を電着させた砥石部を有してなる超硬刃研削工具において、
記砥石部には、外周面と先端面とに開放した溝部が形成され、
前記溝部は、前記砥石部の軸方向と略平行な第1の内面と、前記砥石部の軸方向に対して傾斜した第2の内面と、それら第1及び第2の内面が交差してなる内側稜線とを有してなり、その内側稜線の一端部が、前記砥石部の先端面に形成されたセンター孔の開口縁に位置し、
前記第2の内面と前記砥石部の外周面との間の稜線が、前記砥石部の軸方向に対して60±10度傾斜したことを特徴とする超硬刃研削工具。
【請求項2】
前記砥石部のうちダイヤモンドの粉粒の電着対象物である錐形金属部の先端外縁部に、0.02〜0.08mmの面取り処理が施されたことを特徴とする請求項1に記載の超硬刃研削工具。
【請求項3】
前記砥石部は、先端に向かって拡径しかつ外周面が軸方向に対して3〜4度の勾配で傾斜した円錐台形状をなしたことを特徴とする請求項2に記載の超硬刃研削工具。
【請求項4】
超硬刃の一部を研削して段付き状に陥没した凹部を形成し、その凹部にダイヤモンド焼結板材を埋設して前記超硬刃の一部とした超硬工具の製造方法において、
前記請求項1乃至3の何れかに記載の超硬刃研削工具を用いて前記超硬刃に前記凹部を研削加工しかつ前記凹部の段差面に、前記超硬刃研削工具における前記砥石部の外周面を押し付けることで、前記凹部の段差面を前記凹部の底面に対して覆い被せる側に傾斜させ、その段差面に前記ダイヤモンド焼結板材の側面を突き合わせて位置決めすることを特徴とした超硬工具の製造方法。
【請求項5】
ダイヤモンド焼結材のみからなる焼結板材本体部の裏面に超硬合金板を重ねて焼結させておき、
前記凹部を研削加工後、その凹部の深さを計測する工程と、前記ダイヤモンド焼結板材全体の板厚を、前記凹部の深さに対応させるように前記超硬合金板を平面研削する工程と、前記ダイヤモンド焼結板材における前記超硬合金板を前記凹部の底面に鑞付けする工程とを行うことを特徴とする請求項4に記載の超硬工具の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−205328(P2006−205328A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22748(P2005−22748)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000205052)大見工業株式会社 (27)
【Fターム(参考)】