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超硬材における硬質被膜の除去方法及び超硬材の製造方法
説明

超硬材における硬質被膜の除去方法及び超硬材の製造方法

【課題】超硬材工具類又は金型類等の超硬材表面の硬質被膜を選択的に除去でき、かつ、超硬母材の劣化を最小限に抑制することが可能な超硬材における硬質被膜の除去方法を提供する。
【解決手段】第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物を含有する超硬合金粒子が、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素あるいはこれらの元素を含有する合金からなるバインダー金属で焼結された超硬母材の表面を、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第13族元素及び第14族元素(但し、炭素は除く。)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物又はホウ化物を含有する硬質被膜で被覆してなる超硬材を、硬質被膜除去用の処理容器内にてアルカリ薬液に接触させることによって硬質被膜を除去する方法であって、
前記超硬母材に対して犠牲陽極として作用する金属を、前記超硬母材に接触させた状態で、前記超硬母材と共に前記アルカリ薬液中に配置する硬質被膜の除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬材における硬質被膜の除去方法及び超硬材の製造方法に関する。詳しくは、その表面に硬質被膜が形成されてなる超硬工具類又は金型類などの超硬材において、これらの製作時の規格外品又はこれらを切削加工等に用いた使用劣化品の硬質被膜を除去するための薬液及びこの薬液を用いた硬質被膜の除去方法並びに当該硬質被膜を除去した超硬材に再度硬質被膜を成膜する超硬材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超硬材は、超硬母材の表面にCVD法(化学的気相成長法)又はPVD法(物理的気相成長法)などを用いて窒化物などの硬質被膜を形成させた超硬工具類又は金型類のことである。超硬材は、硬度、靭性、耐摩耗性等の特性に優れるため、これらの特性が要求される各種の切削加工や金型などの分野で起用されている。
【0003】
超硬母材は、WC(タングステンカーバイド)などの超硬合金粒子を、Fe、Co、Ni、Cu等のバインダー金属を用いて1500℃前後で焼結させたものであり、非常に高い硬度と靭性を有する。超硬母材は、超硬合金粒子の粒径とバインダー金属の量を変化させることにより硬度、靭性などの特性が変化するため、金属加工工具類や金型類などの使用用途の必要性に適したものが用いられている。通常、超硬合金粒子の粒径が小さい又はバインダー金属量が少ないほど超硬母材の硬度は高くなる傾向にある。
【0004】
硬質被膜は、超硬母材の耐摩耗性や耐食性の更なる向上を目的に、その母材表面にCVD法やPVD法を用いて形成した硬質材料からなる被膜のことであり、超硬工具類又は金型類の寿命向上に寄与する。硬質被膜に用いられる化合物としては、TiN、CrN、VN、TiAlN、AlCrN、TiAlCrN、TiSiN等の窒化物、TiC、CrC、VC等の炭化物、TiCN等の炭窒化物があり、これらを含有する物質を単層あるいは複層重ねて被覆して用いられる。
【0005】
ところで、超硬材はこれらの製作時において硬質被膜の被覆工程で被膜不良を生じた「規格外品」やその使用時に短時間で部分剥離や耐摩耗性不良等を生じた「欠陥品」、更には、通常の長時間使用で硬質被膜が磨耗してしまい寿命に達した「寿命劣化品」などが発生する。この様な「規格外品」「欠陥品」「寿命劣化品」は、資源保護の観点から、これらを粉砕して希少金属のタングステンをWC粉として回収してリサイクル使用されているのが殆どである。
しかし、現状のリサイクル方法では粉砕、分級、再焼結、形状加工と回収工程が多く、リサイクル費用が嵩んでしまう問題がある。
【0006】
一方、不良、欠陥又は寿命劣化した硬質被膜を超硬母材から除去して、硬質被膜を再被覆するリユース方法が効率的、コスト的にも有利である。そのため、従来から種々の除去薬液を用いた硬質被膜の除去方法が試みられている。
従来技術における薬液を用いた硬質被膜の除去方法として、酸をベースとした薬液を使用する方法や、過酸化水素を含有するアルカリ薬液を使用する方法が知られている。
酸をベースとした薬液を使用する方法の例として、特許文献1には、ステンレス鋼の表面に被覆されたTiN被膜を除去する方法で、該被膜が形成されたステンレス鋼を70℃以上に加温された15〜30体積%の硝酸水溶液に浸漬する方法が開示されている。また、過酸化水素を含有するアルカリ薬液を使用する方法の例として、特許文献2には、過酸化水素を1〜60重量%、界面活性剤を0.05〜5重量%含有し、かつ、pH7.5〜12のアルカリ性水溶液に被膜除去対象の部材を浸漬する方法が開示されている。
【0007】
また、本出願人は、特許文献3にて、100℃以上250℃以下の高温のアルカリ溶液中で、硬質被膜の除去を行うことを報告している。この除去方法では、上記温度範囲で処理することにより、超硬母材の表層劣化を抑制すると同時に硬質被膜の選択除去が可能となる。また、超硬母材の表面劣化をより抑制するために、アルカリ溶液にさらに腐食防止剤を添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59−41479号公報
【特許文献2】特開2005−48248号公報
【特許文献3】国際公開第2010/062835号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1で開示された酸をベースとした薬液では、硬質被膜は除去されるが、超硬母材表層からバインダー金属が溶解するため、超硬母材表層が脆化してしまう。そして、この上に硬質被膜を再被覆した再生品は切削加工等を行うと直ぐに母材が破損してしまうため、耐久性が不十分という問題がある。
また、特許文献2で開示された過酸化水素を含有する薬液では、過酸化水素が直接、WC等の超硬合金粒子を浸食するため、同様に母材の強度の低下をきたし、再生品とした場合の耐久性が不十分である。
【0010】
このように特許文献1、2などで開示された従来の薬液を使用した硬質被膜の除去方法では、「硬質被膜の選択的除去」と「超硬母材の劣化防止」の両方を満足できる技術完成には至っていないのが現状であり、工業的に実施するには必ずしも適当なものとはいえなかった。
また、特許文献3で開示された方法は、「硬質被膜の選択的除去」及び「超硬母材の劣化防止」の観点からは優れたものであるが、「超硬母材の劣化防止」という点では、バインダー金属が僅かであるがダメージを受けて溶解してしまうことがあるため改善余地が残されていた。
【0011】
かかる状況下、本発明の目的は、超硬材工具類又は金型類等の超硬材表面の硬質被膜を選択的に除去でき、かつ、超硬母材の劣化を最小限に抑制することを可能とする、超硬材における硬質被膜の除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> 第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物を含有する超硬合金粒子が、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素あるいはこれらの元素を含有する合金からなるバインダー金属で焼結された超硬母材の表面を、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第13族元素及び第14族元素(但し、炭素は除く。)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物又はホウ化物を含有する硬質被膜で被覆してなる超硬材を、硬質被膜除去用の処理容器内にてアルカリ薬液に接触させることによって硬質被膜を除去する方法であって、
前記超硬母材に対して犠牲陽極として作用する金属を、前記超硬母材に電気的に接続した状態で、前記超硬母材と共に前記アルカリ薬液中に配置する硬質被膜の除去方法。
<2> 犠牲陽極作用の対象となる前記超硬母材の前記超硬母材の構成成分が、前記バインダー金属である前記<1>に記載の硬質被膜の除去方法。
<3> 前記バインダー金属が、Coを主成分として含有する前記<1>又は<2>に記載の硬質被膜の除去方法。
<4> 前記超硬母材に対して犠牲陽極として作用する金属が、前記処理容器内部のアルカリ薬液に接する部分の構成材料に対しても犠牲陽極作用を有する金属である前記<1>乃至<3>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<5> 前記超硬材と前記アルカリ薬液との接触を、100℃以上250℃以下の温度でおこなう前記<1>乃至<4>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<6> 前記アルカリ薬液が、超硬母材の腐食抑制剤を含有する前記<1>乃至<5>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<7> 前記腐食抑制剤が、前記超硬母材を構成する第4族元素、第5族元素、第6族元素、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素からなる単体あるいは該元素を含む化合物である前記<6>記載の硬質被膜の除去方法。
<8> 前記腐食抑制剤が、コバルト化合物である前記<7>記載の硬質被膜の除去方法。
<9> 前記腐食抑制剤が、タングステン酸コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルト又はコバルト金属である前記<8>に記載の硬質被膜の除去方法。
<10> 前記腐食抑制剤が、還元剤である前記<6>に記載の硬質被膜の除去方法。
<11> 前記還元剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸及びエリソルビン酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種である前記<10>記載の硬質被膜の除去方法。
<12> 前記還元剤が、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、オリゴ糖又は多糖類である前記<6>記載の硬質被膜の除去方法。
<13> 前記還元剤が、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、エリトロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、デオキシリボース、プシコース、グルコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、マンノース、イドース、タロース、フコース、ラムノース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ツラノース、セロビオース、ラフィノース、マルトトリオース、アカルボース、スタキオース、ガラクトース、リボース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、グリコーゲン、デンプン、セルロース、デキストリン、グルカン、レバン及びイヌリンから選ばれた少なくとも1種である前記<12>記載の硬質被膜の除去方法。
<14> 超硬合金粒子が、W、Ti、Nb、Ta、V、Crからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物を含有する前記<1>乃至<13>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<15> 硬質被膜が、Ti、V、Cr、Si及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物又は炭窒化物を含有する前記<1>乃至<14>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<16> 硬質被膜が、TiN、TiAlN、TiSiN、TiAlCrN、CrN、TiCrN、VN、TiC及びTiCNからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する前記<1>乃至<15>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<17> 硬質被膜が、単層あるいは複層の膜で構成されてなる前記<1>乃至<16>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<18> アルカリ薬液が、1〜20mol/L(OH-換算)のアルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物を含有する前記<1>乃至<17>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<19> アルカリ薬液が、1〜20mol/L(OH-換算)の水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムを含有する前記<18>記載の硬質被膜の除去方法。
<20> 前記処理容器が、気密性処理容器であって、気相部分を不活性気体及び/又は還元性気体及び/又はアルカリ薬液から発生する蒸気で置換した気密性処理容器内で、前記超硬材から硬質被膜の除去を行う前記<1>乃至<19>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法。
<21> 前記<1>乃至<20>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法により硬質被膜を除去し、再度硬質被膜を成膜する硬質被膜に被覆された超硬材の製造方法。
<22> 前記<1>乃至<20>のいずれかに記載の硬質被膜の除去方法により硬質被膜を除去し、次いで、超硬母材表面に物理的処理を行った後、再度硬質被膜を成膜する硬質被膜に被覆された超硬材の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、超硬材工具類又は金型類等の超硬材における超硬母材の表面腐食を十分に抑制しつつ、超硬母材表面の硬質被膜を選択的に除去することができるため、超硬材の効率的かつ安価なリユースを実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物を含有する超硬合金粒子が、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素あるいはこれらの元素を含有する合金からなるバインダー金属で焼結された超硬母材の表面を、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第13族元素及び第14族元素(但し、炭素は除く。)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物又はホウ化物を含有する硬質被膜で被覆してなる超硬材を、硬質被膜除去用の処理容器内にてアルカリ薬液に接触させることによって硬質被膜を除去する方法であって、
前記超硬母材に対して犠牲陽極として作用する金属を、前記超硬母材に電気的に接触させた状態で、前記超硬母材と共に前記アルカリ薬液中に配置する硬質被膜の除去方法(以下「本発明の除去方法」と称す。)に関する。
なお、本発明において、第4族元素、第5族元素、第6族元素は、それぞれ長周期型周期表の第4族、第5族、第6族に属する元素を意味する。
【0016】
本発明の除去方法の特徴は、前記アルカリ溶液中において前記超硬母材に対して犠牲陽極として作用する金属あるいは合金(以下、「犠牲陽極金属」と称す場合がある。)を、前記超硬母材に電気的に接続した状態で、前記超硬母材と共に前記アルカリ薬液中に配置することにある。犠牲陽極金属が超硬母材よりも電気化学的に腐食しやすいため先に腐食する。その結果、腐食した犠牲陽極金属から超硬母材へ電子が供給されるため、超硬母材の表面腐食を最小限に抑制しながら硬質被膜のみを選択的に除去できる。
なお、外部電源を用いて防食対象である超硬母材を陰極とする方法(いわゆる、カソード防食)もあるが、この方法では装置構成が複雑になるという欠点があり、特に超硬材と外部電極との接続が困難な気密性容器などを硬質被膜除去用の処理容器に使用したときに問題となる。
これに対し、犠牲陽極金属を用いた本発明の除去方法では、外部電源を用いないため、気密性容器などの場合においても、処理容器内に犠牲陽極金属を電気的に接続した状態で配置すればよいので容易に超硬母材の腐食抑制を行うことができるという利点がある。
【0017】
本発明の除去方法は、犠牲陽極作用の対象となる前記超硬母材の構成成分が、バインダー金属である場合に好適であり、Coを主成分として含有するバインダー金属の場合に特に効果的である。
【0018】
また、上記犠牲陽極金属は、前記処理容器内部のアルカリ薬液に接する部分の構成材料に対しても犠牲陽極作用を有する金属であることが好ましい。
犠牲陽極金属が、容器構成材料よりも優先的にアルカリ薬液に腐食されることで、容器構成材料を防食し、処理容器自身の耐久性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の除去方法では、室温から280℃程度の温度で除膜が可能であり、前記超硬材とアルカリ薬液との接触温度が硬質被膜の種類や膜厚と除膜時間を考慮して適時選定すればよい。
超硬母材の表層劣化を最小限に抑制すると同時に、実用的な速度で硬質被膜の選択除去することができることから、前記超硬材とアルカリ薬液を、100〜250℃で接触させることが好ましく、170〜220℃の温度で接触させることがより好ましい。接触させる温度が、低すぎると硬質被膜の除去が不十分となることがあり、また、接触させる温度が高すぎると、加温設備、処理容器などに特別の設備を要することが多く、処理コストがかさむという問題が生じるため好ましくない。
【0020】
以下、本発明の除去方法に係る超硬材、犠牲陽極金属、アルカリ薬液についてより詳細に説明する。
【0021】
<超硬材>
本発明の除去方法の処理対象である超硬材は、バインダー金属を用いて超硬合金粒子を焼結結合してなる超硬母材の表面に硬質被膜を形成させた超硬工具類又は金型類のことである。
【0022】
超硬材の母材となる超硬合金粒子としては、Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta,Wなどの第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物が挙げられ、これらの炭化物は1種又は2種以上を混合して使用することもできる。
この中でも、特に、W、Ti、Nb、Ta、V、Crからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物であることが好ましく、特に高強度である点から、WCが特に好適である。また、超硬合金粒子としてWCを使用するには、性能向上のため、他の元素が添加されてもよい。添加元素としては、例えば、耐熱性向上のためのTi、Ta、Nb等が挙げられる。なお、上記超硬合金粒子において、化学式は構成元素を示すものであり、化学式の化学量論比は特に限定されない。
また、超硬合金粒子の粒径は、特に限定はないが、通常、0.1〜20μm程度である。
【0023】
バインダー金属は、超硬合金粒子を結合する、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素あるいはこれらの元素を含有する合金である。これらの中でも、特にCoを含有することが好ましい。
また、超硬材の粘り強さを高める観点からは、バインダー金属として、CoのみあるいはCoを主成分とした合金が靭性に優れるため好適に使用される。なお、本発明において、「Coを主成分とした合金」とは、Coを80mol%以上含有する合金を意味する。
また、超硬材の硬度、靭性などの性質を変化させるために、上記金属元素以外の元素をバインダー金属中に含んでもよい。
【0024】
硬質被膜は、超硬母材表面にCVD法やPVD法を用いて形成される。硬質被膜の材料は、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第13族元素及び第14族元素から成る群より選ばれた少なくとも1種の元素(但し、炭素は除く)の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物又はホウ化物を主成分とする。
具体的には、TiN、CrN、VN、TiAlN、AlCrN、TiAlCrN、TiSiN等の窒化物、TiC、CrC、VC、BC等の炭化物、TiCN等の炭窒化物、TiO、AlO,ZrO等の酸化物、CrB等のホウ化物などが挙げられる。硬質被膜は、これらの化合物を含有する薄膜を単層あるいは複層重ねて被覆して形成されている。
これらの中でも硬質被膜が、Ti、V、Cr、Si及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物又は炭窒化物から成る群より選ばれた少なくとも1種を含有することが好ましく、特に、TiN、TiAlN、TiSiN、TiAlCrN、CrN、TiCrN、VN、TiC及びTiCNからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物が好ましい。硬質被膜が、これらの化合物を含有すると、本発明の薬液によって容易に除去することができる。
なお、本発明では、上記窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物及びホウ化物において、化学式は構成元素を示すものであり、化学式の化学量論比は特に限定されない。
【0025】
<超硬母材に対して犠牲陽極として作用する金属(犠牲陽極金属)>
犠牲陽極金属は、本発明の除去方法における、アルカリ薬液を用いた硬質被膜の除去処理条件下において、超硬母材の表面腐食をより抑制できる犠牲陽極効果が発現できる材料であれば良く、超硬母材の構成成分に合わせて適宜選択される。
すなわち、犠牲陽極金属は、前記アルカリ薬液中において、前記超硬母材の構成成分よりも電気化学的に腐食されやすい金属あるいは合金であり、超硬母材と電気的に導通が取れた状態で、前記超硬母材と共に前記アルカリ薬液中に配置することにより、自らが優先的に腐食されながら超硬母材に電子を供給することによって、超硬母材の構成成分の薬液中への溶解を抑制し、アルカリ薬液中という、過酷な腐食環境における超硬母材の腐食を抑制することができる。
【0026】
上記犠牲陽極金属として、具体的には、Pb、Sn、Ni、Co、Fe、Zn、Cr、Mn、Ti、Al、Mgなどの金属やこれらの合金の内から、前記超硬母材の構成成分(特にバインダー金属)よりも前記アルカリ薬液中において電気化学的に腐食しやすいものを選択することができる。
例えば、超硬母材のバインダー金属として、Coバインダーを例に挙げて犠牲陽極金属を選定すると、腐食し易さの目安として標準電極電位を参考にCoよりも標準電極電位が低いFe、Zn、Cr、Mn、Ti、Al、Mgなどが犠牲陽極金属として挙げられる。この中でも、取り扱い易さや消耗性、価格などを考慮するとTi、Fe、Znなどの金属あるいはそれを主成分とした合金が好ましく、安価で汎用性があるFeがより好ましい。
【0027】
犠牲陽極金属は、超硬母材に電気的に接続した状態で、超硬母材と共にアルカリ薬液中に配置されることにより、犠牲陽極作用により超硬母材の腐食を抑制する。
犠牲陽極金属は、超硬母材と直接又は他の導電部材を介して電気的に接続した状態が確保できれば良く、その方法は特に限定されない。
超硬母材と犠牲陽極金属とを接続する方法としては、超硬材の母材部分と犠牲陽極金属を直接接触させる様に物理的に固定しても良いし、導電材料を介して導通が取れるように接続しても良い。また、被膜除去対象の超硬材を処置容器内にセットする際に用いる固定用治具を犠牲陽極金属で作製して導通を取っても良い。更には、超硬母材表面にメッキ、蒸着、溶射などで犠牲陽極金属の皮膜を形成する方法などが挙げられる。
例えば、超硬母材と他の導電部材を介して接続する方法としては、導電性がある素材のリボン、線などを超硬母材部と犠牲陽極金属の双方に接触させる方法、導電性がある素材で作られたホルダー(超硬材の固定用治具)に超硬材と犠牲陽極金属の双方をセットする方法などが挙げられる。
【0028】
犠牲陽極金属の形状は特に限定はなく、棒状、箔状、網状、成型状などの形状を、処理容器の形状、処理対象の超硬材形状などを考慮して適宜選択される。
超硬母材と犠牲陽極金属とを接続する他の導電部材としては、導電性があり被膜除去処理中に消失しなければ良く、特に限定されるものではない。
実用上は、アルカリ薬液に腐食しない材料が好ましく、例えば、Au、Pt、Ag、Cu、Pb、Sn、Niの何れか、あるいはこれらを含む合金から選択すればよい。
【0029】
犠牲陽極金属の必要要件を整理すると、アルカリ薬液を用いての超硬材表面の硬質被膜除去処理において、超硬母材表面の腐食を最大限に抑制しつつ、硬質被膜のみを選択的に除去できる犠牲陽極効果を発現できることである。
具体的には、(1)超硬母材よりも標準電極電位が低く、除膜処理中に犠牲陽極効果が十分に継続できるために(2)アルカリ薬液と十分な面積で接触していること、(3)処理中に消失しない十分な量であること、が犠牲陽極金属として重要な要件である。
【0030】
<アルカリ薬液>
次いで、アルカリ薬液について説明する。
アルカリ薬液は、pH7以上のアルカリ性水溶液である。アルカリ薬液において、pHの調整は、アンモニアの溶解、水酸化物の添加などいかなる方法で行ってもよいが、水酸化アルカリ、すなわち、Li、Na、K、Rb等のアルカリ金属水酸化物又はBe、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属水酸化物を単独あるいは複数種類含有することによって行われることが好ましい。なお、この中でも水への溶解度や比較的安価であることから水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを用いることが好ましい。
これらの水酸化物を、好ましくは1〜20mol/L(OH-換算)、特に好ましくは5〜15mol/Lの濃度範囲で含有する水溶液で用いると効率的に硬質被膜を除去することができる。
なお、溶媒として、水以外にも本発明の効果を損なわない範囲で、アルコール類などの水溶性の有機溶媒を含んでいてもよい。
【0031】
アルカリ薬液は、超硬母材表層の部分的腐食をより抑制する目的で、腐食抑制剤を含有することが好ましい。
【0032】
腐食抑制剤を含有するアルカリ薬液を超硬材に接触させた場合、超硬母材表面に吸着した腐食抑制剤や、超硬母材のバインダー金属と腐食抑制剤との間の反応で生成した表面化合物によって、超硬母材のWC等の超硬合金粒子及びCo等のバインダー金属のアルカリ薬液による酸化などの腐食を抑制、ないしは、腐食速度を低下させ、超硬母材の腐食劣化を抑制することができる。
【0033】
このような腐食抑制剤としては、
腐食抑制剤(a):超硬母材金属の溶解によって生成する化学種をアルカリ薬液に予め含有させておくことで腐食を抑制する腐食抑制剤、
腐食抑制剤(b):アルカリ薬液中の溶存酸素等の酸化剤を還元することが可能であり、超硬母材の酸化を防ぐことにより腐食を抑制する腐食抑制剤、
腐食抑制剤(c):母材金属の表面に保護被膜を形成し腐食を抑制する腐食抑制剤、
が挙げられる。
なお、これらの腐食抑制剤は、複数種を同時にアルカリ薬液に含有させて用いてもよく、アルカリ薬液に適当な腐食抑制剤を複数種含有させることにより、超硬母材の腐食の抑制効果をより向上させることができる場合がある。
以下、腐食抑制剤(a)、(b)及び(c)について詳細に説明する。
【0034】
「腐食抑制剤(a)」
腐食抑制剤(a)は、薬液中に添加することで超硬母材を構成する母材金属(超硬合金粒子やバインダー金属における金属元素)の溶解によって生成する化学種を予め薬液中に含有させることにより、腐食溶出の抑制を図るものである。
腐食抑制剤(a)は、前記超硬母材を構成する第4族元素、第5族元素、第6族元素、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素をからなる単体あるいは該元素を含む化合物からなり、使用される超硬母材における母材金属及び/又はバインダー金属によって適宜選択される。なお、腐食抑制剤(a)は複数種を同時にアルカリ薬液に含有させてもよい。
アルカリ薬液による超硬材の腐食は、バインダー金属の腐食に主に起因するため、アルカリ薬液は、腐食抑制剤(a)として、バインダー金属を構成するFe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を含む金属単体あるいは該元素を含む化合物を含有させることが好ましい。
特にバインダー金属として好適なCoを含有する合金を使用した超硬母材の場合には、アルカリ薬液は、腐食抑制剤(a)として、コバルト化合物を含有することが好ましい。
このようなコバルト化合物としては、タングステン酸コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルト等が挙げられ、この中でもタングステン酸コバルト、水酸化コバルトが好ましく、タングステン酸コバルトが特に好ましい。
例えば、超硬合金粒子としてWC,バインダー金属として、Coを含有する合金を使用した超硬母材の場合には、腐食抑制剤(a)として、コバルト金属、タングステン金属、酸化コバルト、酸化タングステン、水酸化コバルト、タングステン酸コバルト、タングステン酸ナトリウム、コバルト酸ナトリウム、リン酸コバルトなどが挙げられる。この中でもタングステン酸コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルト、コバルト金属が好ましく、タングステン酸コバルトが特に好ましい。
【0035】
「腐食抑制剤(b)」
腐食抑制剤(b)は還元剤であり、アルカリ液系薬液中の溶存酸素等の酸化剤を還元して超硬母材の酸化を防ぐことにより、超硬材の腐食を抑制できる。
【0036】
腐食抑制剤(b)の好適な一例として、例えば、一般式(1)で示される化合物が挙げられ、好適な具体例としては、ジヒドロキシマレイン酸が挙げられる。
なお、一般式(1)で示される化合物は、還元性の水素を供出することによりアルカリ薬液中の酸化剤を還元し、超硬母材の腐食を抑制すると考えられている。
【0037】
【化1】

(式中、R1はカルボキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基のいずれか、R2は炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基、水酸基のいずれかであり、R1とR2が環構造を形成していてもよい。X1、X2はそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属のいずれかである。)
【0038】
また、上記一般式(1)で示される化合物のR1とR2が環構造を形成した場合の一例である一般式(2)で示される化合物も、腐食抑制剤(b)の好適な一例である。
【0039】
【化2】

(式中、R3は水素原子若しくは炭素数1〜6のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アシル基、アルコキシカルボニル基であり、nは0又は1、X3、X4はそれぞれ独立に水素原子、アルカリ金属のいずれかである。)
【0040】
一般式(2)で示される化合物としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウムが挙げられ、アルカリ薬液にこれらの化合物を少なくとも1種含有させることが好ましい。
【0041】
また、腐食抑制剤(b)の他の好適な一例として、一般式(3−a)、(3−b)で示される化合物が挙げられる。
【0042】
【化3】


【化4】

(式(3−a)、(3−b)中、R4はカルボキシル基、アルデヒド基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、又はアシル基、R5は水素原子又は水酸基である。)
【0043】
一般式(3−a)、(3−b)で示される化合物の中でも、オルト又はパラの位置関係にある水酸基(OH)の組を少なくとも一組持つ化合物は、還元性の水素を供出した後のベンゼン環が安定な共役構造の六員環を形成し、高い還元力を有するため好適である。
上記化合物の例として、没食子酸、m−ガロイル没食子酸、カテコール、ヒドロキノンが挙げられ、アルカリ薬液にこれらの化合物を少なくとも1種含有させることが好ましい。また、これらの中でも没食子酸が特に好適である。
【0044】
また、腐食抑制剤(b)の他の好適な一例として、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、オリゴ糖又は多糖類が挙げられる。
なお、還元性を示す糖類は、環式構造が解けて鎖式構造になる際に還元性の官能基であるアルデヒド基が現れることにより還元性を示す。また、一部の糖は鎖式構造になった際に現れるケトン基が構造変化してアルデヒド基となることにより還元性を示す。
また、その構造上、還元性を持たない二糖類、三糖類、四糖類、オリゴ糖又は多糖類も、薬液中で加水分解が進行することで還元性を持つ糖類が生成し、還元性を示す。これらの例としてスクロースが挙げられる。
具体的には、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、エリトロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、デオキシリボース、プシコース、グルコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、マンノース、イドース、タロース、フコース、ラムノース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ツラノース、セロビオース、ラフィノース、マルトトリオース、アカルボース、スタキオース、ガラクトース、リボース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、グリコーゲン、デンプン、セルロース、デキストリン、グルカン、レバン及びイヌリン等が挙げられ、アルカリ薬液にこれらの糖類を少なくとも1種含有させることが好ましい。
この中でも、アルカリ薬液にマルトース、ラクトース、スクロース、グルコース及びフルクトースを少なくとも1種含有させることが好ましい。
【0045】
また、腐食抑制剤(b)の他の好適な一例として、含リン系還元剤又は含イオウ系還元剤が挙げられる。
含リン系還元剤又は含イオウ系還元剤は、アルカリ液系薬液中の溶存酸素等の酸化剤を還元することが可能であり、超硬母材の酸化を防ぐことにより、腐食抑制できる。含リン系還元剤又は含イオウ系還元剤として、例えば、次亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどが挙げられ、この中でもチオ硫酸ナトリウムが好適である。
【0046】
「腐食抑制剤(c)」
腐食抑制剤(c)は、母材金属と結合し表面に保護被膜を形成し腐食を抑制するタイプの腐食抑制剤であり、アゾール化合物又はその塩、チオ尿素化合物及びアセチレン系化合物が挙げられる。
【0047】
腐食抑制剤(c)の一例であるアゾール化合物又はその塩は、アゾール構造に含まれる窒素の孤立電子対が金属に配位することにより超硬母材の表面に安定な被膜を形成し、酸化剤等の侵入を防止して腐食を抑制しているものと考えられる。アゾール化合物又はその塩として具体的には、1H−テトラゾール、5−アミノ−1H−テトラゾール、5−メチル−1H−テトラゾール、1−メチル−5−エチル−テトラゾール、1−メチル−5−メルカプト−テトラゾール、5−(2−アミノフェニル)−1H−テトラゾール、1−シクロヘキシル−5−メルカプト−テトラゾール、1−フェニル−5−メルカプト−テトラゾール、1−カルボキシメチル−5−メルカプト−テトラゾール及びこれらのアルカリ塩、ベンゾトリアゾール、メチルベンゾトリアゾール、ジメチルベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾールなどが挙げられ、この中でもベンゾトリアゾールが好適である。
【0048】
腐食抑制剤(c)の一例であるチオ尿素化合物は、一般式(4)で示される構造を分子中に持つ化合物の総称であり、窒素や硫黄を含む極性基が超硬母材を構成する金属元素にキレート吸着し、酸化剤等の侵入を防ぎ腐食抑制できるものと考えられる。チオ尿素化合物として具体的には、チオ尿素、メチルチオ尿素、ジメチルチオ尿素、エチレンチオ尿素などが挙げられ、この中でもチオ尿素が好適である。
【化5】

【0049】
腐食抑制剤(c)の一例であるアセチレン系化合物は、分子中にC≡C三重結合を含む有機化合物の総称であり、三重結合のπ電子を母材金属元素の空軌道に供出することで母材金属との間に結合を形成し、酸化剤の侵入を防止でき、腐食抑制効果を発揮すると考えられる。例えば、2−プロピン−1−オール、1−ヘキシン−3−オール、3−ブチン−1−オールなどが挙げられ、2−プロピン−1−オールは好適である。
【0050】
これらの腐食抑制剤の添加量は、アルカリ薬液による硬質被膜を除去する作用を損なわない範囲で適宜決定される。また、上述のように腐食抑制剤は、複数種を同時にアルカリ薬液に含有させて用いてもよい。
具体的には、腐食抑制剤(a),(b)及び(c)のそれぞれを一種類だけ添加する場合におけるアルカリ薬液中の濃度は、腐食抑制剤(a)の場合で、通常、0.001〜10mol/L、好適には0.01〜1mol/Lの範囲であり、腐食抑制剤(b)の場合で、通常、0.001〜10mol/L、好適には0.01〜1mol/Lの範囲であり、腐食抑制剤(c)の場合で、通常、0.001〜10mol/L、好適には0.05〜2mol/Lの範囲である。
但し、この範囲に限定されたものではなく、腐食抑制剤量が多過ぎると硬質被膜の除膜が困難となる場合があり、一方、少な過ぎると超硬母材の腐食抑制効果が小さくなる可能性があり、アルカリ薬液の種類や濃度又は処理温度を、硬質被膜の除去速度と超硬母材の腐食抑制効果を考慮して最適な条件に設定する必要がある。
具体例を挙げると、超硬合金粒子がWC、バインダー金属が、Coを主成分とする合金、硬質被膜が、TiAlN、TiSiN及びTiAlCrNからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する単層、あるいは複層の膜(厚み:1〜5μm程度)で構成されている場合において、温度170〜220℃にて、10mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に対して、腐食抑制剤として、タングステン酸コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルトを各々単独で使用した場合の好適な濃度範囲は0.01〜1mol/L、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、マルトースを各々単独で使用した場合の好適な濃度範囲は0.01〜1mol/L、ベンゾトリアゾール、2−プロピン−1−オールを各々単独で使用した場合の各々の好適な濃度範囲は、0.05〜2mol/Lである。
【0051】
また、これらの腐食抑制剤を複数種類混合して使用する場合、相乗効果によって単独の腐食抑制剤のみを含有させた場合と比較して、各腐食抑制剤の好適な濃度範囲は減少する傾向にあるため、組み合わせる腐食剤の種類により最適な条件に設定する必要がある。
他の腐食抑制剤と組み合わせる場合の好適な濃度は、腐食抑制剤(a)の場合で、0.0001〜0.1mol/L、腐食抑制剤(b)の場合で、0.0001〜0.5mol/L、腐食抑制剤(c)の場合で、0.0005〜1mol/Lである。
具体例を挙げると、超硬合金粒子がWC、バインダー金属が、Coを主成分とする合金、硬質被膜が、TiAlN、TiSiN及びTiAlCrNからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する単層、あるいは複層の膜(厚み:1〜5μm程度)で構成されている場合において、温度170〜220℃にて、10mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に対して、腐食抑制剤として、水酸化コバルトとアスコルビン酸を混合して使用する場合、各々の好適な濃度範囲は水酸化コバルトが0.0001〜0.1mol/L、アスコルビン酸が0.0001〜0.5mol/Lであり、各々を単独で使用した場合に比べて好適な濃度範囲が減少する。
【0052】
なお、アルカリ薬液は、腐食抑制剤以外にも本発明の目的を損なわない範囲で他の添加成分を含んでいてもよい。例えば、pH緩衝剤、安定化剤、界面活性剤、ラジカル捕捉剤などを適宜添加することができる。
【0053】
次に本発明の好適な実施方法について説明する。尚、本発明は以下に述べる実施方法に限定されるものではない。
【0054】
1)アルカリ薬液の調製
上述のようにアルカリ薬液におけるpH調節には、水酸化アルカリが好適に使用される。所定濃度の水酸化アルカリ水溶液の調製は、以下の手順で行うことができる。
まず、耐食性のある容器に所定量の水を入れ、これに選定した所定量の水酸化アルカリ化合物を攪拌しながら室温で徐々に添加して溶解又は分散させる。なお、水酸化アルカリ化合物の添加時に発熱を伴い、容器破損又は突沸等が考えられる場合は、冷却しながら添加することが好ましい。また、この様に得られた水酸化アルカリ水溶液に上述の腐食抑制剤を添加する場合は、選定された腐食抑制剤が所定濃度となる量を計量し、計量された腐食抑制剤を前記水酸化アルカリ水溶液に撹拌しながら、徐々に添加して溶解又は分散させて腐食抑制剤含有水酸化アルカリ水溶液を調製すればよい。尚、腐食抑制剤の添加は、水酸化アルカリ化合物の添加と、同時に又は引き続いて行ってもよい。
【0055】
2)超硬材と犠牲陽極金属との導通
超硬材と犠牲陽極金属との導通を取る方法は、導電性がある素材のリボン、線などを超硬材と犠牲陽極金属の双方に接触させる方法、導電性がある素材で作られたホルダーに超硬材と犠牲陽極金属の双方をセットする方法などが挙げられる。
【0056】
3)超硬材とアルカリ薬液との接触
超硬材とアルカリ薬液との接触は、超硬材をアルカリ薬液に浸漬する方法、超硬材上にアルカリ薬液を滴下する方法などが挙げられるが、通常、超硬材をアルカリ薬液に浸漬する方法で行われる。具体的には、まず、前記アルカリ薬液に対して耐食性を有する耐圧容器に、除膜対象となる超硬材が完全に浸漬できる所定量のアルカリ薬液を入れ、続いて室温で、超硬材と犠牲陽極金属とが電気的に導通が取れた状態でアルカリ薬液に浸漬して耐圧容器の蓋を閉め密閉する。尚、この時に酸化性ガス排除の目的で、気密性の耐圧容器の気相部分を窒素又はアルゴンガス等の不活性気体及び/又は硫化水素等の還元性気体及び/又はアルカリ薬液から発生する蒸気で置換することが好ましい。
【0057】
4)除膜処理
前述の超硬材が浸漬された耐圧容器を用いる場合は、この容器を通風型オーブン、オイルバス又は熱媒用ジャケット付き加熱機等の加熱装置内にセットする。または、熱媒用ジャケットまたはヒーターなどの加熱機能を有する耐食性耐圧装置を使用して、この装置内にアルカリ薬液及び超硬材と電気的に導通が取れた犠牲陽極金属をセットして用いても良い。続いて、加熱装置を所定の温度まで昇温して所定時間保持することで除膜処理を行なう。
超硬材とアルカリ薬液との接触温度は、硬質被膜の種類や膜厚と除膜時間を考慮して適時選定すればよいが、実用的な除膜速度を確保するためには、好ましくは100〜250℃の範囲であり、より好ましくは150〜220℃の範囲である。
尚、加熱装置は、本発明の所定温度で加熱ができるものであれば前記したものに限定されるものではない。
なお、処理時間(浸漬時間)は、硬質被膜の膜種(構成元素)、膜厚、処理温度などを考慮して適宜決定されるが、通常、1時間〜100時間(好適には5〜72時間)である。時間が短すぎると、十分に除膜できない場合があり、100時間で除膜が十分に行われるので、これ以上の時間をかける必要はないことが多い。
【0058】
5)取り出し、水洗
加熱装置内にセットされた耐圧容器が所定の温度になるまで冷却したのち、耐圧容器から除膜処理された超硬材を取出し、該超硬材を水洗することによりアルカリ薬液を除去する。
【0059】
6)乾燥
水洗によりアルカリ薬液が除去された超硬材表面の付着水を除去する目的で、通常の乾燥機で水分を乾燥除去して、硬質被膜が除去された超硬材が得られる。尚、この時の乾燥は水分が乾燥除去できるのであれば乾燥機及び乾燥条件は、特に限定されない。
【0060】
以上のように、本発明の除去方法により超硬母材表面を硬質被膜で被覆してなる超硬材において、製造時不良品及び使用劣化による寿命到達品の硬質被膜を選択的に除去することができる。そのため、硬質被膜除去後の超硬母材に再度硬質被膜を成膜することで、硬質被膜に被覆された超硬材をリサイクルして製造することが可能となる。
具体的には、硬質被膜が除去された超硬材表面にアルゴンガスを用いたイオンボンバードクリーニング等によって、表層に形成される酸化被膜層などの不純物層を除去する。この後にCVD法やPVD法によって、硬質被膜を形成する。
また、硬質被膜形成に先立って、油脂分除去のための溶剤洗浄や、超硬母材表面に発生した脆弱層を除去するためのブラストや研磨等の物理的処理を実施しても構わない。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
使用した薬剤、除膜装置、分析装置は次の通りである。
「薬剤」
・水酸化ナトリウム(東ソー(株)製 製品名「トーソーパール」)
・タングステン酸コバルト (三津和化学薬品(株)製)
・L-アスコルビン酸 (和光純薬(株)製)
【0063】
「除膜処理装置」
1)耐圧容器:オーエムラボテック社製(形式:MR98)の仕様
最高使用温度:250℃、最高使用圧力:5MPa
容量:98mL
材質:外筒SUS316/内筒PTFE
2)オーブン:ADVANTEC社製 DRS−620DAの仕様
内寸法:W610×D500×H492mm(内容積:150L)
内装材質:SUS304
使用温度範囲:40〜270℃
【0064】
「分析装置」
1)エネルギー分散型X線分析装置(EDX) (EDAX INC.社、型番:Genesis XM2)
SEM側条件(日本電子株式会社製、型番:JSM6510)
加速電圧:20kV
作動距離:10mm
スポットサイズ:50

「計量装置」
1)精密天秤 (ザルトリウス・メカトロニクス・ジャパン株式会社、型番:CPA324S)
【0065】
「実施例及び比較例に使用したサンプル」
1)超硬材(エンドミル)
メーカー:株式会社不二越
品名:GSMILL
型番:2GS6
刃径:6mm
全長:50mm
刃長:20mm
「超硬母材(WC/Co系超硬母材)」
超硬合金粒子:WC
バインダー金属:Coを主成分とする合金
「硬質皮膜」
TiAlN及びTiAlCrN(二層被覆)
2)Co板
メーカー:株式会社ニラコ
品名:CO―103441
サイズ:厚さ0.4mm×縦100mm×横100mm
純度:99.9%
上記Co板を長さ50mm×幅10mmに切断してサンプルとして使用した。
3)Fe棒
メーカー:株式会社ニラコ
品名:FE―222654
サイズ:直径10mm×長さ500mm
純度:99.5%
上記Fe棒を長さ80mmに切断して犠牲陽極金属として使用した。
4)Cu棒
メーカー:株式会社ニラコ
品名:CU−112651
サイズ:直径10mm×長さ150mm
純度:99.9%
上記Cu棒を長さ80mmに切断して犠牲陽極金属として使用した。
5)Ptリボン
メーカー:株式会社ニラコ
品名:PT−350322
サイズ:厚さ0.1mm×幅4mm×長さ200mm
純度:99.98%
上記Ptリボンを長さ30mmに切断してサンプルと犠牲陽極金属の双方に接触させ、電気的に導通をとるために使用した。
【0066】
実施例1
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。
この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、超硬合金粒子がWCであり、かつ、バインダー金属がCoを主成分とする合金からなる超硬母材(WC/Co系超硬母材)の表面に、硬質被膜を構成する化合物として、TiAlNとTiAlCrNとを二層に被覆したエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm、長さ50mm、幅10mm)のそれぞれを、Ptリボン(厚さ0.1mm、長さ30mm、幅4mm)を介して、犠牲陽極金属であるFe棒(φ10mm、長さ80mm)と電気的に導通が取れた状態でFe棒と共に前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0067】
実施例2
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gとL−アスコルビン酸:0.18gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm×長さ50mm×幅10mm)のそれぞれを、Ptリボン(厚さ0.1mm、長さ30mm、幅4mm)を介して、犠牲陽極金属であるFe棒(φ10mm、長さ80mm)と電気的に導通が取れた状態でFe棒と共に前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0068】
実施例3
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gとタングステン酸コバルト:0.069gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解(タングステン酸コバルトは未溶解分が残るためスラリー液となる)して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm×長さ50mm×幅10mm)のそれぞれを、Ptリボン(厚さ0.1mm、長さ30mm、幅4mm)を介して、犠牲陽極金属であるFe棒(φ10mm、長さ80mm)と電気的に導通が取れた状態でFe棒と共に前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0069】
実施例4
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gとタングステン酸コバルト:0.034gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解(タングステン酸コバルトは未溶解分が残るためスラリー液となる)して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm×長さ50mm×幅10mm)のそれぞれを、Ptリボン(厚さ0.1mm、長さ30mm、幅4mm)を介して、犠牲陽極金属であるFe棒(φ10mm、長さ80mm)と電気的に導通が取れた状態でFe棒と共に前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0070】
実施例5
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40g、L−アスコルビン酸:0.18g、タングステン酸コバルト:0.034gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解(タングステン酸コバルトは未溶解分が残るためスラリー液となる)して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm×長さ50mm×幅10mm)のそれぞれを、Ptリボン(厚さ0.1mm、長さ30mm、幅4mm)を介して、犠牲陽極金属であるFe棒(φ10mm、長さ80mm)と電気的に導通が取れた状態でFe棒と共に前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0071】
実施例6
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。
この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm、長さ50mm、幅10mm)のそれぞれを、Ptリボン(厚さ0.1mm、長さ30mm、幅4mm)を介して、犠牲陽極金属であるFe棒(φ10mm、長さ80mm)と電気的に導通が取れた状態でFe棒と共に前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、150℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0072】
実施例7
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:20g、L−アスコルビン酸:0.18g、タングステン酸コバルト:0.017gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解(タングステン酸コバルトは未溶解分が残るためスラリー液となる)して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm×長さ50mm×幅10mm)のそれぞれを、Ptリボン(厚さ0.1mm、長さ30mm、幅4mm)を介して、犠牲陽極金属であるFe棒(φ10mm、長さ80mm)と電気的に導通が取れた状態でFe棒と共に前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0073】
比較例1
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。
この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm×長さ50mm×幅10mm)のそれぞれを前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0074】
比較例2
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gとL−アスコルビン酸:0.18gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm×長さ50mm×幅10mm)のそれぞれを前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0075】
比較例3
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gとタングステン酸コバルト:0.17gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解(タングステン酸コバルトは未溶解分が残るためスラリー液となる)して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm×長さ50mm×幅10mm)のそれぞれを前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0076】
比較例4
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40g、L−アスコルビン酸:0.18g、タングステン酸コバルト:0.17gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解(タングステン酸コバルトは未溶解分が残るためスラリー液となる)して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm×長さ50mm×幅10mm)のそれぞれを前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0077】
比較例5
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm×長さ50mm×幅10mm)のそれぞれを前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、150℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0078】
比較例6
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:20gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm×長さ50mm×幅10mm)のそれぞれを前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、170℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0079】
比較例7
100mLメスフラスコに水酸化ナトリウム:40g、L−アスコルビン酸:0.18g、タングステン酸コバルト:0.17gを量り取り、これに純水を徐々に加えて溶解(タングステン酸コバルトは未溶解分が残るためスラリー液となる)して室温まで冷却したのち100mLに定容してアルカリ薬液を調製した。この調製液60mLを前述の耐圧容器に仕込み、続いて、実施例1と同様のエンドミル(φ6mm、長さ50mm、刃部長さ20mm)並びにCo板(厚さ0.4mm×長さ50mm×幅10mm)のそれぞれを、Ptリボン(厚さ0.1mm、長さ30mm、幅4mm)を介して、Cu棒(φ10mm、長さ80mm)と電気的に導通が取れた状態でCu棒と共に前記アルカリ薬液に浸漬して耐圧容器を密閉した。なお、エンドミルに被覆された硬質被膜の膜厚は4μm程度である。
この耐圧容器を、前述の加熱オーブン内に入れて、200℃まで昇温し、この温度で24時間の除膜処理を行なった。所定時間経過後、オーブン温度を20℃に設定して冷却した。オーブン内の耐圧容器温度が60℃以下になったことを確認したのち、耐圧容器内からエンドミル並びにCo板を取り出し、純水で十分に水洗し、さらにエアブローで水分を除去して除膜処理エンドミル並びにCo板を得た。除膜条件及び評価結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
表1において、評価基準は以下のとおりである。
「超硬材(エンドミル)」
外観:
○:除膜前の超硬母材と同等の外観であった。
×:除膜前の超硬母材と比べて外観が悪化した。

除膜可否:
○:硬質皮膜が完全に除膜された。
×:硬質皮膜の一部が除膜できず。
Co脱離:
○:処理後のEDXによるCo半定量値が6wt%を越えていた。
△:処理後のEDXによるCo半定量値が3〜6wt%であった。
×:処理後のEDXによるCo半定量値が3wt%未満であった。
「Co板」
腐食状況:
○:処理後の腐食量(減肉量)が0.5μm未満である。
×:処理後の腐食量(減肉量)が0.5μm以上である。
「総合判定」
○:エンドミル、Co板での評価で全てが○のもの。
△:エンドミル、Co板での評価で×が無く、△が一つ以上のもの。
×:エンドミル、Co板での評価で×が一つ以上のもの。
【0082】
以上の実施例及び比較例の結果から、超硬材の硬質被膜除去において、犠牲陽極金属を対象超硬材の母材部と電気的に導通させて、アルカリ薬液(腐食抑制剤を含んでも可)を用いて除膜処理することにより、超硬母材(特に金属バインダー成分)の腐食を抑制しつつ、硬質被膜のみ選択的に除去できることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によると、超硬材において超硬母材の表面劣化を最小限に抑制しつつ、超硬母材表面の硬質被膜を選択的に除去できるため、超硬材の製造及び再生利用分野で非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第4族元素、第5族元素及び第6族元素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物を含有する超硬合金粒子が、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素あるいはこれらの元素を含有する合金からなるバインダー金属で焼結された超硬母材の表面を、第4族元素、第5族元素、第6族元素、第13族元素及び第14族元素(但し、炭素は除く。)からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物、炭窒化物、酸化物又はホウ化物を含有する硬質被膜で被覆してなる超硬材を、硬質被膜除去用の処理容器内にてアルカリ薬液に接触させることによって硬質被膜を除去する方法であって、
前記超硬母材に対して犠牲陽極として作用する金属を、前記超硬母材に電気的に接続した状態で、前記超硬母材と共に前記アルカリ薬液中に配置することを特徴とする硬質被膜の除去方法。
【請求項2】
犠牲陽極作用の対象となる前記超硬母材の構成成分が、前記バインダー金属である請求項1に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項3】
前記バインダー金属が、Coを主成分として含有する請求項1又は2に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項4】
前記超硬母材に対して犠牲陽極として作用する金属が、前記処理容器内部のアルカリ薬液に接する部分の構成材料に対しても犠牲陽極作用を有する金属であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項5】
前記超硬材と前記アルカリ薬液との接触を、100℃以上250℃以下の温度でおこなう請求項1乃至4のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項6】
前記アルカリ薬液が、超硬母材の腐食抑制剤を含有する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項7】
前記腐食抑制剤が、前記超硬母材を構成する第4族元素、第5族元素、第6族元素、Fe、Co、Cu及びNiからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素からなる単体あるいは該元素を含む化合物である請求項6記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項8】
前記腐食抑制剤が、コバルト化合物である請求項7記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項9】
前記腐食抑制剤が、タングステン酸コバルト、水酸化コバルト、酸化コバルト又はコバルト金属である請求項8に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項10】
前記腐食抑制剤が、還元剤である請求項6に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項11】
前記還元剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸及びエリソルビン酸ナトリウムから選ばれた少なくとも1種である請求項10記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項12】
前記還元剤が、単糖類、二糖類、三糖類、四糖類、オリゴ糖又は多糖類である請求項6記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項13】
前記還元剤が、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、エリトロース、キシルロース、リボース、アラビノース、キシロース、デオキシリボース、プシコース、グルコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、マンノース、イドース、タロース、フコース、ラムノース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、ツラノース、セロビオース、ラフィノース、マルトトリオース、アカルボース、スタキオース、ガラクトース、リボース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、グリコーゲン、デンプン、セルロース、デキストリン、グルカン、レバン及びイヌリンから選ばれた少なくとも1種である請求項12記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項14】
超硬合金粒子が、W、Ti、Nb、Ta、V、Crからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の炭化物を含有する請求項1乃至13のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項15】
硬質被膜が、Ti、V、Cr、Si及びAlからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素の窒化物、炭化物又は炭窒化物を含有する請求項1乃至14のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項16】
硬質被膜が、TiN、TiAlN、TiSiN、TiAlCrN、CrN、TiCrN、VN、TiC及びTiCNからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を含有する請求項1乃至15のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項17】
硬質被膜が、単層あるいは複層の膜で構成されてなる請求項1乃至16のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項18】
アルカリ薬液が、1〜20mol/L(OH-換算)のアルカリ金属水酸化物及び/又はアルカリ土類金属水酸化物を含有する請求項1乃至17のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項19】
アルカリ薬液が、1〜20mol/L(OH-換算)の水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムを含有する請求項18記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項20】
前記処理容器が、気密性処理容器であって、気相部分を不活性気体及び/又は還元性気体及び/又はアルカリ薬液から発生する蒸気で置換した気密性処理容器内で、前記超硬材から硬質被膜の除去を行う請求項1乃至19のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法。
【請求項21】
請求項1乃至20のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法により硬質被膜を除去し、再度硬質被膜を成膜することを特徴とする硬質被膜に被覆された超硬材の製造方法。
【請求項22】
請求項1乃至20のいずれか1項に記載の硬質被膜の除去方法により硬質被膜を除去し、次いで、超硬母材表面に物理的処理を行った後、再度硬質被膜を成膜することを特徴とする硬質被膜に被覆された超硬材の製造方法。

【公開番号】特開2013−64180(P2013−64180A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203467(P2011−203467)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(594146179)株式会社新菱 (19)
【Fターム(参考)】