説明

超純水の製造方法

【課題】尿素の酵素分解装置を含む超純水製造装置を使用する超純水の製造方法であって、尿素の分解効率が高く、超純水中の全有機体炭素(TOC)を一層低減することが出来、しかも、生産性に優れた超純水の製造方法を提供する。
【解決手段】原水の前処理装置(A)、一次純水製造装置(B)および二次純水製造装置(C)を備え、更に、架橋ウレアーゼ固定化繊維を収容した尿素の酵素分解装置(10)を含む超純水製造装置を使用し、尿素の酵素分解装置(10)における架橋ウレアーゼ固定化繊維に対する被処理水の接触時間を3分以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超純水の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超純水は半導体などの電子産業分野で洗浄水として多量に使用されている。超純水の製造方法の一例として、原水の前処理装置、一次純水製造装置および二次純水製造装置を備え、更に、尿素の酵素分解装置を含む超純水製造装置を使用する方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
上記の方法は、原水中に存在している尿素を酵素でアンモニアと二酸化炭素とに分解することにより、製造される超純水中の全有機体炭素(TOC)を効率的に低減化し得るように改良された方法である。そして、尿素の酵素分解装置としては、活性炭、ゼオライト、イオン交換樹脂などの担体を充填したカラムにウレアーゼの水溶液を通液することにより、担体にウレアーゼを吸着担持させたものが使用され、10分以上の接触時間で90%尿素分解率が達成されるとのことである。上記の接触時間は空間速度SVに換算すると約6h−1以下である。
【0004】
しかしながら、上記のような粒状あるいは球状の担体にウレアーゼを吸着担持させたものは、担体の単位量当りのウレアーゼの吸着担持量(密度)が十分とは言えず、また、酵素の脱離による処理水への漏洩や尿素分解能力の経時的な低下が危惧され、更に、担体が多孔質の場合は吸着担持されたウレアーゼに尿素が届くまでの拡散速度が尿素の分解反応の律速となるという問題がある。しかも、電子産業分野で洗浄水として多量に使用される超純水の製造方法として、尿素の酵素分解装置における速度SV6h−1以下という条件は余りにも処理速度が遅すぎて生産性が低く、しかも、長い接触時間のために担体に吸着担持されたウレアーゼの溶出濃度が増大するという危惧がある。斯かる問題に対処するためと思われるが、上記の提案においては尿素の酵素分解装置は原水の前処理装置に含ませるように制限されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−86997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、尿素の酵素分解装置を含む超純水製造装置を使用する超純水の製造方法であって、尿素の分解効率が高く、超純水中の全有機体炭素(TOC)を一層低減することが出来、しかも、生産性に優れた超純水の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、原水の前処理装置、一次純水製造装置および二次純水製造装置を備え、更に、架橋ウレアーゼ固定化繊維を収容した尿素の酵素分解装置を含む超純水製造装置を使用し、尿素の酵素分解装置における架橋ウレアーゼ固定化繊維に対する被処理水の接触時間を3分以下とすることを特徴とする超純水の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0008】
架橋ウレアーゼ固定化繊維は、繊維の単位量当りのウレアーゼの吸着担持量(密度)が高く、また、酵素の脱離による処理水への漏洩や尿素分解能力の経時的な低下が殆どなく、尿素の分解反応速度が高い。また、尿素の酵素分解装置の充填量を減少することができ、処理量の向上及び処理装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は本発明で使用する超純水製造装置の一例を示す系統図である。
【図2】図2は尿素の酵素分解装置の一例の断面説明図である。
【図3】図3は本発明で使用する架橋ウレアーゼ固定化繊維による尿素の分解試験(参考例1)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、図1に基づき本発明で使用する超純水製造装置の基本的構成について説明する。本発明で使用する超純水製造装置の基本的構成は、原水の前処理装置、一次純水製造装置および二次純水製造装置から成り、この点は、前述の特開平6−86997号公報に記載されたものと同様である。
【0011】
原水の前処理装置(A)は、除濁UF装置(1)と活性炭塔(2)とを順次に設けて構成されている。なお、活性炭塔(2)は任意の設備であり、状況によっては省略することが出来る。
【0012】
一次純水製造装置(B)は、RO膜装置(3)と電気再生式イオン交換装置(4)とを順次に設けて構成されている。電気再生式イオン交換装置(4)の代わりにRO膜装置を使用し、2段の膜分離装置を配置することも可能である。一次純水製造装置(B)で得られた一次純水は一次純水槽(5)にて貯留される。
【0013】
二次純水製造装置(C)は、低圧紫外線酸化装置(6)、脱気装置(7)、混床式イオン交換装置(8)及びUF膜装置(9)を順次に設けて構成されている。低圧紫外線酸化装置(6)はTOCをイオン化ないし分解する機能を有する。二次純水製造装置(C)の前段には後述の酵素反応装置(10)が設けられ、ここで、被処理水中の尿素はアンモニアと二酸化炭素とに分解されるが、これらは脱気装置(7)及び混床式イオン交換装置(8)で除去される。
【0014】
なお、上記の前処理装置(A)、一次純水製造装置(B)および二次純水製造装置(C)の各構成要素は、何れも、超純水製造装置の分野では周知であり、それらの運転条件についても同様である。また、前述の特開平6−86997号公報の図1(a)又は(b)と同一の構成としてもよい。
【0015】
本発明の特徴は、酵素反応装置(10)に架橋ウレアーゼ固定化繊維を収容した点にある。なお、架橋ウレアーゼ固定化繊維を収容した酵素反応装置(10)は、尿素の分解効率が高いため、その設置位置は任意に選択することが出来る。図1においては、一次純水製造装置(B)と二次純水製造装置(C)との間に設置されているが、設置位置は前処理装置(A)の前後の何れであってもよい。
【0016】
ところで、本出願人の一人は、陰イオン交換グラフト鎖搭載多孔性中空孔膜にウレアーゼを吸着させた後にトランスグルタミナーゼでウレアーゼを架橋固定したウレアーゼ固定多孔性中空糸膜を提案すると共に、これによれば4M尿素溶液であっても3分程度の膜内滞留時間で尿素が100%分解される実験結果を報告している(「グラフト重合のおいしいレシピ」 斎藤恭一、須郷高信共著、丸善株式会社 2008年2月15日発行、第152頁)。
【0017】
ところが、ウレアーゼ固定多孔性中空糸膜は、中空糸膜内部への液の浸透を前提としているため、前述と同様に、拡散速度が尿素の分解反応の律速となる等の問題があり、超純水製造装置における尿素の酵素分解装置としては適切ではない。
【0018】
本発明で使用する架橋ウレアーゼ固定化繊維は、中空糸膜の代わりに繊維を使用し、ウレアーゼ固定多孔性中空糸膜と同様の方法で得ることが出来る。繊維としては、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられるが、強度やコストの点から、ナイロン繊維が好適である。
【0019】
先ず、放射線グラフト重合法に従って、繊維に例えば電子線を照射してラジカルを形成させた後、陰イオン交換グラフト鎖を導入する。陰イオン交換グラフト鎖の導入に使用する単量体としては、特に制限されないが、例えば、アミノ基を有する炭素数1〜10の脂肪族アルコールとα,β−不飽和カルボン酸とから導かれるα,β−不飽和カルボン酸エステル、すなわち、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N−メチル−N−エチルアミノエチルアクリレート、N−メチル−N−エチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。これらの中では、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)が好ましい。
【0020】
放射線としては、α、β、γ線、電子線などがあり何れも使用可能であるが、電子線が適している。また、放射線を照射した後、生成したラジカルを起点として単量体と接触させる前照射法や、単量体溶液中で放射線を照射する同時照射法があるが、安定した製造が可能になるのは、前照射法である。照射線量は、通常50〜300kGyである。重合溶媒は特に制限されないが、通常は水で十分である。単量体濃度は、通常1〜10(v/v)%、重合温度は通常25〜60℃、重合時間は通常1〜30時間である。また、次の式(1)で表されるグラフト率は通常15〜50%でり、次の式(2)で表されるグラフト基密度は0.5〜5(mmol/g−dry)である。
【0021】
[数1]
グラフト率[(w/w)%]=(付与したグラフト鎖重量)/(重合前繊維重量)×100・・式(1)
【0022】
[数2]
グラフト基密度[(mmol/g−dry)]=(付与したグラフト基モル数)/(陰イオン交換グラフト鎖搭載繊維重量)・・式(2)
【0023】
次いで、陰イオン交換グラフト鎖搭載繊維にウレアーゼを吸着させる。この際、ウレアーゼは、適当な緩衝液、例えば、pH8.0の20mM Tris−HCl緩衝液に溶解して溶液として使用される。吸着方法は、特に制限されないが、適当長さに切断した陰イオン交換グラフト鎖搭載繊維をカラムに充填しカラム上部からウレアーゼ溶液を供給するカラム方式を採用するならば、カラムの流出液中のウレアーゼ濃度を追跡することにより、ウレアーゼの吸着状況を容易に把握することが出来る。カラム上部から供給するウレアーゼ溶液の濃度は通常0.01〜0.5(w/v)%である。
【0024】
次いで、トランスグルタミナーゼ等の酵素的架橋剤によってウレアーゼを架橋する。酵素的架橋剤溶液の濃度は通常0.001〜0.1(w/v)%である。架橋反応は、上記のカラム方式によるウレアーゼの吸着操作に引き続き行うのが簡便であり、適当なポンプを使用してカラムに酵素的架橋剤溶液を循環させることによって行う。架橋温度は通常25〜60℃、架橋時間は通常1〜10時間である。
【0025】
その後、未架橋のウレアーゼを溶出除去する。溶出には例えば0.1〜1M濃度のNaCl水溶液を使用することができる。この操作は、前記のカラム方式を採用し、カラム上部からNaCl水溶液を供給して行うのが簡便である。カラムの流出液中のウレアーゼ濃度を追跡することにより、未架橋のウレアーゼの溶出除去状況を容易に把握することが出来る。
【0026】
ウレアーゼの架橋固定容量と架橋率とは次の式(3)及び(4)によって算出することが出来る。
【0027】
[数3]
ウレアーゼの架橋固定容量(mmol/mL−bed)=[(ウレアーゼ吸着量)−(ウレアーゼ洗浄および溶出量)]/(陰イオン交換グラフト鎖搭載繊維のカラム充填体積)・・式(3)
【0028】
[数4]
架橋率(%)=[(ウレアーゼ吸着量)−(ウレアーゼ洗浄および溶出量)]/(ウレアーゼ吸着量)×100・・式(4)
【0029】
図2に例示した尿素の酵素分解装置(10)は、内部に架橋ウレアーゼ固定化繊維(15)が収容され、被処理水流入管(11)に接続された散水管(12)が上部に配置され、処理水流出管(13)に接続された集水管(14)が下部に配置された装置構造を有する。尿素を含む被処理水は、散水管(12)の通水孔から加圧状態で供給され、架橋ウレアーゼ固定化繊維(15)と降下流で接触し、集水管(14)のスリットを介して取り出される。そして、原水中に存在している尿素はウレアーゼにより二酸化炭素とアンモニアに分解される。
【0030】
本発明に係る超純水の製造方法は、前記のような超純水製造装置を使用し、尿素の酵素分解装置(10)における架橋ウレアーゼ固定化繊維(15)に対する被処理水の接触時間を3分以下とすることを特徴とする。
【0031】
架橋ウレアーゼ固定化繊維(15)に対する被処理水の接触時間(架橋ウレアーゼ固定化繊維床の滞留時間)が3分を超える(SV=20h−1未満)の場合は、滞留時間が長すぎて処理水中のウレアーゼの溶出濃度の増加が懸念される。上記の接触時間は好ましくは2分以下(SV=30h−1以上)である。接触時間の下限は、通常5秒(SV=714h−1)、好ましくは10秒(SV=357h−1)である。接触時間が5秒より短い場合は尿素の分解反応に支障を来す恐れがある。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
製造例1:
窒素雰囲気下、太さ25μmの市販のナイロン−6(Ny)繊維1.0gの表面に200kGyの電子線を照射した後、濃度3(v/v)%のDMAEMA水溶液に40℃で10分浸漬し、Ny繊維にグラフト鎖を付与し、陰イオン交換グラフト鎖搭載繊維を得た。前記の式(1)のグラフト率は37%であり、前記の式(2)のグラフト基密度は1.7(mmol/g−dry)であった。
【0034】
次いで、上記の陰イオン交換グラフト鎖搭載繊維0.2gを1cm毎に切断し、内径5.5mmのカラムに充填し、カラムの上部からシリンジポンプによりSV:20h−1の条件下に供給し陰イオン交換グラフト鎖搭載繊維にウレアーゼを吸着させた。
【0035】
次いで、上記のシリンジポンプの代わりにペリスタポンプを使用し、濃度0.04(w/v)%のトランスグルタミナーゼ(TG)溶液をカラムの上部から供給して循環してウレアーゼを架橋した。
【0036】
次いで、上記のペリスタポンプの代わりにシリンジポンプを使用し、濃度0.5MのNaCl水溶液をカラムの上部からSV:20h−1の条件下に供給して未架橋のウレアーゼを溶出除去し、架橋ウレアーゼ固定化繊維を得た。前記の式(3)のウレアーゼの架橋固定容量13(mg/mL−bed)であり、前記の式(4)の架橋率は79%であった。
【0037】
参考例1:
上記の製造例1における未架橋のウレアーゼを溶出除去操作の後、シリンジポンプから0.2mg/L(200ppb)の尿素水溶液を供給し、架橋ウレアーゼ固定化繊維による尿素の分解試験を行った。試験は尿素水溶液の供給速度(SV)を変えて行った。結果を図3に示す。同図から明らかなようにSV=300h−1(接触時間12秒)においても尿素の分解率は100%であった。
【0038】
実施例1及び比較例1:
図1及び図2に示す、処理水量3m/hの超純水装置を使用した。図2に示す尿素の酵素分解装置の架橋ウレアーゼ固定化繊維(15)には製造例1と同様な方法で得られたものを1cm毎に切断して使用した。原水としては尿素をTOCとして約10ppb添加した横浜市水を使用した。架橋ウレアーゼ固定化繊維(15)に対する被処理水の接触時間は0.3分(18秒)(SV=200h−1)とした。得られた超純水のTOCを測定し表1に示した。比較のため、尿素の酵素分解装置を使用しなかった以外は上記と同様にして超純水を製造し、得られた超純水のTOCを測定し表1に示した。
【0039】
【表1】

【符号の説明】
【0040】
A:前処理装置
B:一次純水製造装置
C:二次純水製造装置
1:除濁UF装置
2:活性炭塔
3:RO膜装置
4:電気再生式イオン交換装置
5:一次純水槽
6:低圧紫外線酸化装置
7:脱気装置
8:混床式イオン交換装置
9:UF膜装置
10:酵素反応装置
11:被処理水流入管
12:散水管
13:処理水流出管
14:集水管
15:架橋ウレアーゼ固定化繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水の前処理装置、一次純水製造装置および二次純水製造装置を備え、更に、架橋ウレアーゼ固定化繊維を収容した尿素分解装置を含む超純水製造装置を使用し、尿素分解装置における架橋ウレアーゼ固定化繊維に対する被処理水の接触時間を3分以下とすることを特徴とする超純水の製造方法。
【請求項2】
架橋ウレアーゼ固定化繊維が、陰イオン交換官能基をグラフト重合により固定した繊維にウレアーゼを固定化した後、更にトランスグルタミナーゼでウレアーゼを架橋して得られたものである請求項1に記載の超純水の製造方法。
【請求項3】
架橋ウレアーゼ固定化繊維の繊維がナイロン繊維である請求項1又は2に記載の超純水の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−34962(P2013−34962A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174281(P2011−174281)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000232863)日本錬水株式会社 (75)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】