説明

超純水中の微量過酸化水素の濃度測定方法

【課題】高精度で信頼性の高い過酸化水素の濃度測定を行う方法を提供する。
【解決手段】純水製造装置の配管から分取した試料水を第1の配管により電量滴定セルに導入して電気滴定により過酸化水素濃度を測定する試料水電気滴定工程と、実質的に過酸化水素を含まない水からなる基準水を第2の配管により前記電量滴定セルに導入して電気滴定により過酸化水素濃度を測定する基準水電気滴定工程と、前記試料水電気滴定工程における測定結果を、前記基準水電気滴定工程における測定結果で補正して、前記試料水中の過酸化水素濃度を求める過酸化水素の濃度測定方法において、第1の配管と第2の配管の途中にこれら配管の温度の高い側から温度の低い側へ熱を伝導させる共通の熱交換器を介在させて、微量過酸化水素の濃度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微量の過酸化水素の濃度測定方法に関する。更に詳しくは超純水製造装置の末端、または各ユニットの前後における過酸化水素の濃度測定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程等に使用される超純水は、一般に前処理システム、一次純水システムおよび二次純水システムなどを経て製造されユースポイントに供給されて使用される。
また、ユ−スポイントで使用した超純水のうち、薬品混入の少ないものは回収され、薬品等が除去されて、前処理システムや一次純水システムに返送され、再度超純水製造の原水として使用される。
【0003】
ところで、二次純水システムにおいては、水中の有機物を分解除去するために、低圧紫外線照射装置を用いた紫外線照射工程が多く用いられている。低圧紫外線照射装置から照射される185nmの波長の紫外線は、超純水中で酸化力の強いヒドロキシラジカル(OH・)を生成する。このヒドロキシラジカルは超純水中の微量の有機物を有機酸や炭酸ガスに分解し、イオン性の分解生成物は、後段に配置したポリシャー(非再生式混床式イオン交換樹脂)と呼ばれる強塩基性アニオン交換樹脂または強塩基性アニオン交換樹脂と強酸性カチオン交換樹脂の混合物を充填したカラムで吸着除去される。
【0004】
しかし、紫外線照射量が過剰であったり、処理対象の超純水中に有機物が殆どなかったような場合には、反応にあずからなかったヒドロキシラジカルは過酸化水素となる。
このようにして発生した過酸化水素のほとんどは過酸化水素分解樹脂、触媒等により分解除去が可能である。
【0005】
しかし、除去が不十分であると、残存した過酸化水素は後段のポリッシャーにて一部分解され溶存酸素となる。そして、ポリッシャーで分解されなかった過酸化水素と共にユースポイントに供給されてしまい、例えば半導体プロセスなどにおいて微細な配線などを腐食する等の不具合を起こさせる虞がある。
【0006】
また、半導体等の洗浄等のプロセスで使用された純水を回収し被処理水とする場合などには、洗浄剤である高濃度の過酸化水素を含む。この過酸化水素は活性炭等によりそのほとんどが除去されるが、微量に残留した過酸化水素は、超純水製造装置の各ユニットにおいて悪影響を与える可能性がある。このため、装置の安定運転、管理のために活性炭処理の後段等において過酸化水素の濃度を常時監視することも行われている。
【0007】
さらに近年、半導体の急速な高集積化に伴う、より微細な配線や、銅、タングステンなどの配線の製造などにおいて、超純水についてもさらなる高水質が求められている。例えば、溶存酸素(DO)は許容濃度が1ppbオーダー以下であり、過酸化水素濃度についても1ppb、サブppbオーダー以下の濃度が常に必要とされてきている。
【0008】
このような問題に対処して、特許文献1には、紫外線照射による超純水中の溶存有機物の分解工程において、超純水内の有機物濃度を測定し、紫外線照射量を、有機物を分解するのに必要な範囲に制御して、過酸化水素を発生させないようにする方法が提案されている。
【0009】
さらに、超純水中の微量の過酸化水素を高い精度で測定する過酸化水素モニターとして、特許文献2には、試料水と基準水を各々ヨウ素電量滴定し、試料水の滴定の結果を基準水の滴定の結果で補正して微量の過酸化水素濃度の測定を可能にしたモニターが開示されている。
【0010】
しかしながら、ヨウ素電量滴定による超純水中の過酸化水素の連続測定では、測定結果のバラツキが大きく、現実的には定量下限値が10ppbどまりである。このような測定精度では、出口水の過酸化水素濃度がppbオーダーの低圧紫外線照射装置におけるフィードバック制御の、過酸化水素濃度の検出手段として使用するには不十分であった。また、現在高品質超純水に求められている過酸化水素濃度が1ppbオーダーまたはサブppbオーダーという水質管理にも用いることが難しいという問題が生じた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−112941
【特許文献2】特開2004−181369
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来の問題を解決すべくなされたもので、高精度で信頼性の高い過酸化水素濃度測定を行う方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、ヨウ素電量滴定による超純水中の過酸化水素の連続測定装置における測定結果のバラツキを解消すべく鋭意研究をすすめたところ、過酸化水素濃度測定時の試料水と基準水のわずかな温度差が測定結果のバラツキに大きく関係していることを突き止めた。
【0014】
すなわち、測定対象である試料水の配管と過酸化水素を含まない基準水の配管は、共通の三方弁を介して電量滴定セルへ通じる共通の配管に接続されているが、試料水がユースポイントで使用された超純水の排水を回収した水である場合、その回収水はいったんタンク(またはピット)に貯蔵された後、活性炭などの回収装置へと送水される。このため、タンク(またはピット)などの設置環境により水温が変化する場合がある。また、比較的高濃度の過酸化水素を活性炭で処理する場合、活性炭の発熱反応によって水温が変化することもある。このような場合には、試料水と基準水との温度差が生じてしまう。
【0015】
そして、二次純水システム中の過酸化水素濃度の測定において、基準水と試料水にわずかな温度差がある場合や、温度の時間的な変動がある場合には、その影響で測定値のバラツキが生じることが判明した。
【0016】
そこで、本発明の微量過酸化水素の濃度測定方法は、純水製造装置の配管から分取した試料水を第1の配管により電量滴定セルに導入して電気滴定により過酸化水素濃度を測定する試料水電気滴定工程と、実質的に過酸化水素を含まない水からなる基準水を第2の配管により前記電量滴定セルに導入して電気滴定により過酸化水素濃度を測定する基準水電気滴定工程と、前記試料水電気滴定工程における測定結果を、前記基準水電気滴定工程における測定結果で補正して、前記試料水中の過酸化水素濃度を求める過酸化水素の濃度測定方法において、第1の配管と第2の配管の途中にこれら配管の温度の高い側から温度の低い側へ熱を伝導させる共通の熱交換器を介在させたことを特徴としている。
【0017】
本発明における試料水と基準水の電気滴定には、共通の電量滴定セルを用いることが好ましい。電量滴定セルを共通に用いることにより、測定回路が簡素化され、電量滴定セルの温度管理が容易になる。
【0018】
本発明に用いる微量過酸化水素の濃度測定装置は、第1の配管と第2の配管の途中に設ける共通の熱交換器の部分を除いて、市販の過酸化物モニター「ノキシア」(野村マイクロ・サイエンス(株)の登録商標)と共通の構造を採用している。
【0019】
試料水と基準水の電気滴定は、一般に、例えば10分置きに交互に行われる。
【0020】
本発明に使用される熱交換器としては、例えば、内部に互いに独立した第1及び第2の流路が形成され、各流路の両端がそれぞれ独立して外部に開口するノズルに接続された金属ユニットからなり、第1の流路の両端のノズルは第1の流路が第1の配管の途中に介在するよう第1の配管に接続され、第2の流路の両端のノズルも第2の流路が第2の配管の途中に介在するよう第2の配管に接続された構造のものが使用される。
【0021】
この金属ユニットは、例えば、耐食性の良好な金属板を積層して外周部を液密に封止した積層領域を有し、第1及び第2の流路の両端のノズルは外層の金属板に突設されるとともに、内層の金属板の表面には、隣接する金属板との間で流路を構成する凹溝が形成され、内層の各金属板は縁部が隣接する金属板と互いに一体的にろう接され、第1及び第2の流路の少なくとも一部は、前記凹溝によって構成された構造とされている。
【0022】
前記熱交換器において、金属板の流路を形成する凹溝は、導入される試料水や基準水との接触面積を大きくして熱交換を迅速に行わせるため、狭い間隔で平行するように蛇行させて形成されている。
【0023】
本発明に使用する熱交換器としては、特に限定されないが、例えば、市販の「ブレージング式熱交換器BX−024」((株)日阪製作所 商品名)が適している。
【0024】
本発明に用いられる熱交換器、三方弁、電量滴定セル及び熱交換器から電量滴定セルに至る配管系は共通のボックス内に収容されるが、熱交換器と電量滴定セルは、熱交換器から電量滴定セルに至る径路において異なる熱的影響を受けないようにするため、できるだけ互いに接近させて設置することが好ましい。
【0025】
本発明における電気滴定としては、過酸化水素濃度の測定に用いられている公知の電気滴定が適している。例えば、過マンガン酸を使用した電位差滴定による過酸化水素測定法や、ヨウ素を使用した電量滴定方法などを用いることができるが、ヨウ素電量滴定がより好適である。
【0026】
ヨウ素電量滴定は、定量の試料水に酸性下で過剰のヨウ素イオンを加えて試料水中の過酸化水素とヨウ素イオンを化学量論的に反応させてヨウ素を生成させる第1のステップと、第1のステップで生成したヨウ素と過剰かつ定量のチオ硫酸ナトリウムとを反応させる第2のステップと、第2のステップの結果、残留した未反応の前記チオ硫酸ナトリウムを逆滴定する第3のステップとからなっている。
【0027】
第1のステップでは、過酸化水素とヨウ素イオンは化学量論的に反応し、ヨウ素を生成する。
【0028】
+2KI →I+2KOH (1)
【0029】
第2のステップでは、生成したヨウ素と定量のチオ硫酸ナトリウムとが反応する。
【0030】
+2Na →2NaI +Na (2)
【0031】
ヨウ素電量滴定では、過酸化水素とヨウ素イオンが化学量論的に速やかに反応してヨウ素を生成し、かつ、ヨウ素と反応しないで残留したチオ硫酸ナトリウムが100パーセントの電流効率で化学量論的に迅速に反応して定量される。
【0032】
同様にして、基準水についても、同じ条件で電量滴定が行われるが、基準水は過酸化水素を含まないので、基準水についての電量滴定結果は、ブランク値として第3のステップである試料水の電量滴定結果の補正に用いられる。
【0033】
なお、第1のステップと第2のステップは同時であってもよい。
【0034】
補正方法は次のとおりである。
【0035】
試料水を用いて測定した時の残留したチオ硫酸ナトリウム量(残留チオ硫酸ナトリウム量)と基準水を用いて測定した時の残留したチオ硫酸ナトリウム量(全チオ硫酸ナトリウム量)との差が試料水中の過酸化水素濃度になる。
すなわち、
(試料水中の過酸化水素濃度)=(全チオ硫酸ナトリウム量)−(残留チオ硫酸ナトリウム量)
となる。
【0036】
したがって、過酸化水素濃度が低くなるほど、全チオ硫酸ナトリウム量と残留チオ硫酸ナトリウム量の差が誤差と同程度もしくはこれ以下にまで小さくなり、それぞれについてより正確な測定が必要となる。本発明では、一般的な測定においては無視できる程度の温度変化が、本測定系での測定値に影響を与えることを見出し、試料水および基準水の温度を等温として測定することにより、精度を著しく向上させ、より低濃度の微量の過酸化水素の濃度測定を可能としたのである。
【0037】
なお、この理由は、現在のところ結論は出ていないが、次のいずれかであると推測される。
・ (1)の反応が比較的遅いため
・温度によって、チオ硫酸ナトリウムの電量滴定の電流効率が100%近傍でわずかに変動するため。
・電量滴定のセンサーの感度もしくは温度特性自体が測定の都度わずかに変化するため。
【0038】
試料水と基準水の電気滴定のサイクルは、例えば、1回の電気滴定に要する試料水や基準水の量、1時間あたりの測定回数などから、試料水、基準水の流量を設定し、プログラム制御により、三方弁の切替えを自動で制御させる。
【0039】
また、このとき、第1または第2の配管の経路にバッファー容器を設置してもよい。電気滴定は基準水および試料水について交互に行うため、1回の滴定に要する時間の分、試料水と基準水では、熱交換器を出水してから滴定が開始されるまでの時間が異なる。したがって、始めに基準水を滴定する場合には、第1の配管にバッファー容器を設置し、試料水を該バッファー容器内に1回の滴定に要する時間分滞留させることにより、熱交換器を通じて等温とした基準水および試料水の間に、滴定までの時間差による微小な温度差が生じることを防ぐことができる。
【0040】
バッファー容器は、試料水の電気滴定又は基準水の電気滴定の一方が行われている間、他方の側の試料水又は基準水を貯留するためのものである。すなわち、バッファー容器に試料水、もしくは、基準水が滞留している間に、電気滴定を行うようにするものである。
【0041】
バッファー容器は、例えば、配管をコイル状に巻回・固定して所定の内容量としたもので構成するようにしてもよい。
【0042】
さらに、第2の配管の経路(基準水側)に溶存過酸化水素を分解する酸化剤分解材を充填したゼロ水カラムを設置することにより、一定水質の基準水が得にくい場合でも、正確な電気滴定を行うことができる。この場合、始めに試料水の滴定を行うが、基準水を滞留させておくことにより、ゼロ水カラムにバッファー容器としての機能を持たせることもできる。
【0043】
酸化剤分解材としては、超純水中の過酸化水素を除去できるものであれば特に限定されないが、例えば、酸化剤分解樹脂、白金、Pdなどの触媒、活性炭などが用いられる。具体的には、酸化剤分解樹脂として、N−Lite ANP(野村マイクロ・サイエンス(株)製)などが好適に用いられる。適切な基準水がない場合でも、このようなカラムを設置することにより高い測定精度を維持することができる。
【0044】
なお、バッファー容器とゼロ水カラムを併用することも可能であるが、熱交換器からサンプルポットまでの滞留時間が長すぎ、この間の温度変化が無視できない程度となり、その結果精度が低下するため、好ましくない。
【0045】
また、滴定までの時間差をなくすために、バッファー容器に基準水または試料水を滞留させず、2台の電量滴定セルを用い、それぞれの電量滴定セルにセンサーを設置して、基準水と試料水について同時に電量滴定することもできる。しかし、この場合には、上述のように、センサーの感度等の変化により測定値のバラツキが生じるため、好ましくない。
【0046】
電気滴定では、例えば、滴定セル内に電解液と緩衝液を入れ撹拌してから排液し、待ち時間の間に滴定セル内に遊離したヨウ素の影響を除いてから、図1のフローの操作を開始する[測定開始]。まず、基準水を注入し電気滴定して排液し、この基準水の注入、電気滴定、排液、滴定の操作を所定の回数繰り返し、測定結果はメモリーに記憶させる[基準水滴定]。次に、試料水について同様の操作を基準水と同じ回数繰り返し、測定結果をメモリーに記憶させる[試料水滴定]。その後、メモリー内の基準水滴定の滴定値で、試料水滴定の滴定値を補正して、試料水の過酸化水素濃度を得る[測定終了]。この一連の操作は、プログラム制御により自動で行わせることが可能であり、純水供給ラインの過酸化水素濃度を常時監視することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明は、微量の過酸化水素を含む超純水から分取した試料水と、過酸化水素を含まない超純水から分取した基準水とを配管を通じて互いに熱交換させ、温度を同一にした上で同一の試薬を用いて共通の電量滴定セルにおいて滴定することにより、高精度で信頼性の高い過酸化水素濃度測定を行う方法を提供する。特に、超純水製造装置の末端の過酸化水素濃度を10ppb以下、さらには1ppb以下のオーダーで正確に測定し、末端の過酸化水素濃度のモニターを行う方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本発明の測定の1サイクルを示すフロー図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に用いた過酸化水素濃度の測定装置を概略的に示すブロック図である。
【図3A】図3Aは、基準水及び試料水の電量滴定前の温度を示すグラフであり、熱交換器を介在させなかった場合の温度である。
【図3B】図3Bは、基準水及び試料水の電量滴定前の温度を示すグラフであり、熱交換器により伝熱を行った場合の温度である。
【図3C】図3Cは、基準水及び試料水の電量滴定前の温度を示すグラフであり、熱交換器を通じた後、試料水をバッファー容器に通じた場合の温度である。
【図4】図4は超純水製造装置の概略構成図である。
【図5A】図5Aは本発明の一実施形態における過酸化水素濃度の測定値を示すグラフであり、熱交換器を設置した場合の測定値である。
【図5B】図5Bは本発明の一実施形態における過酸化水素濃度の測定値を示すグラフであり、熱交換器を設置しなかった場合の測定値である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
次に本発明の超純水中の微量過酸化水素濃度の測定方法について図面を用いて説明する。
【0050】
図2は、本発明の一実施形態に用いた過酸化水素濃度の測定装置を概略的に示す図である。
【0051】
この過酸化水素濃度の測定装置は、試料水ライン1、基準水ライン2を有し、これらのライン1,2には互いに熱交換を行う共通の熱交換器3が設置され、その下流において三方弁4を介して電量滴定セル5へ通ずる共通ライン6に接続されている。
【0052】
熱交換器3の上流側の試料水ライン1,基準水ライン2には、それぞれ流量調整弁7,8が設けられ、下流側には、それぞれ試料水、基準水を一時的に貯留する試料水ポット9、基準水ポット10が配置され、試料水ライン1,基準水ライン2により供給される試料水、基準水は、一旦、これらのポット9,10に貯留された後、再び試料水ライン1,基準水ライン2により三方弁4側に送られるようになっている。
【0053】
制御装置11は、図示を省略した流量計により流量調整弁7,8をフィードバック制御するとともに、三方弁4を所定のシーケンスで切換え制御する。なお、これらの制御はマニュアル制御も可能になっている。符号12は、熱交換器3下流の基準水ライン2に介挿されたゼロ水カラムであり、基準水中の過酸化水素などの電量滴定の結果に影響を与える不純物を分解除去する。
【0054】
試料水ライン1は、洗浄等に使用された超純水の回収ライン、超純水製造装置の途中の配管、超純水供給ラインなどに接続され、分取した試料水は試料水ライン1から熱交換器の試料水入口ノズル3a1へ導入される。基準水ライン2は、過酸化水素を含まない超純水供給ラインなどに接続され、超純水供給ラインなどから分取された基準水は基準水ライン2から熱交換器3の基準水入口ノズル3a2へ導入される。
【0055】
熱交換器3へ導入された試料水及び基準水は、各々独立した熱交換器を構成する複数のステンレス板の凹溝の流路を通る間に、ステンレス板を介して、温度の高い側から低い側へ伝熱して熱交換が行われ、試料水は出口ノズル3b1、基準水は出口ノズル3b2から再び下流側の試料水ライン1,基準水ライン2に出水されて、試料水は試料水ポット9へ導入され、基準水は、基準水ポット10へ導入される。
【0056】
熱交換器3の入口側の試料水及び基準水に温度差があっても、熱交換器3で熱交換が行われるため、試料水ポット9へ導入される試料水と基準水ポット10へ導入される基準水は等温になっている。
【0057】
試料水ポット9または基準水ポット10からは三方弁4を介して、試料水と基準水が所定の時間間隔で電量滴定セル5側に交互に供給されるようになっており、電量滴定セル5では、プログラム制御により、基準水の電量滴定と試料水の電量滴定が所定のシーケンスで行われ、それぞれの電量測定結果は、制御装置11内のメモリーに記憶され、演算装置により試料水の測定結果が基準水の測定結果で補正される。
【0058】
なお、試料水及び基準水の電量滴定を行う際には、電量滴定セル5などに付着した微量の試薬や過酸化水素などの不純物による影響を避けるために、基準水の電量滴定の際には基準水によるパージを行い、試料水の測定の際には試料水を用いたプレパージを行うことが望ましい。
【0059】
図1に示した装置による電量滴定の操作は、例えば、次のように行われる。
すなわち、基準水の電量滴定を行う直前に、基準水を、サンプリングポンプにより計量管を介して電量滴定セル5に導入してプレパージし、その後、計量管を介して定量を電量滴定セル5に導入して電量滴定を行う。
【0060】
この後、電量滴定セル5を試料水でプレパージし、電磁三方弁を操作して、試料水を、計量管を介して定量を電量滴定セル5に導入して電量滴定を行う。
【0061】
基準水ポット10と試料水ポット9には、基準水又は試料水を、流量調節弁7、8により流量を調節して常時導入し、オーバーフローによって排出するようにする。このように、して、基準水ポット10と試料水ポット9を用いて、特定のタイミングで、測定にかかるサンプルが採取される。
【0062】
試料水、もしくは基準水の温度に経時的な変動がある場合、熱交換器3の出口側で、試料水と基準水の温度が等温となっても、その経時的な変動が残り、実際に測定する基準水および試料水の温度は異なってしまう。この経時的な温度変動による影響をなくすため、ゼロ水カラム12に基準水を滞留させて、その間に試料水の滴定を行うことが好ましい。
【0063】
このように、ゼロ水カラム12を設置することにより、測定時の水温差による測定誤差をさらに減少させることができる。なお、バッファー容器を設置した場合も同様である。
【0064】
さらに、1)流量を計測して流量調整弁7、8により流量を制御する、2)流量を計測して、基準水測定後、試料水を測定するタイミング(測定間隔)を適切に制御する、3)水温を計測し、基準水測定後、試料水を測定するタイミングを制御する、などの流量フィードバック制御を行うこともできる。3)においては、例えば、試料水および基準水の温度差が所定の範囲内であること確認し、試料水の測定を開始する。また、水温差が所定の範囲内にない場合には、再度、基準水の測定をやり直すなどしてもよい。
【0065】
なお、サンプルポットは、3方弁によって代用することも可能である。
【0066】
これらの測定を行う装置としては野村マイクロ・サイエンス(株)社が販売している「ノキシア(登録商標)」などが適している。
【0067】
図4は、超純水製造装置の概略構成図である。超純水製造装置13では、地下水や河川水等の原水は、前処理装置14、一次純水装置15を経て、一次純水タンク16に貯蔵される。その後、紫外線照射装置17、混床式ポリッシャー18、脱気膜(装置)19、限外ろ過装置(UF)20を経て不純物である重金属、有機物、溶存酸素等が除去され、超純水としてユースポイント21に供給される。
【0068】
本発明の一実施形態に用いる過酸化水素濃度測定装置22は、例えば、このような超純水製造装置13内のいずれかの経路に設置することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例により、本発明をより具体的に説明する。
【0070】
図2に示した構成の装置により、試料水中の過酸化水素濃度を測定した。
熱交換器3より出水した測定前の基準水と試料水の温度は、Pt100測温抵抗体を基準水ライン2と試料水ライン1のそれぞれの経路にT字型連結管を用いて挿入し測定した。熱交換器3を設置した場合には、熱交換器3と基準水ポット10または試料水ポット9の間で温度を測定した。さらに、バッファー容器を設置した場合には、バッファー容器と試料水ポット9の間で温度を測定した。
【0071】
基準水および試料水についての電量滴定は、以下のように行った。
【0072】
測定用の基準水20mlを電量滴定セル5に導入し、緩衝液1mlと、チオ硫酸ナトリウム及びヨウ化カリウムを含んだ電解液5mlを分注し撹拌した。3分間撹拌した後、電量滴定セル5の溶液中のチオ硫酸ナトリウムの電量滴定を行った。滴定の済んだ基準水は配管を通じて排出した。試料水についても同様にして電量滴定を行った。
【0073】
また、実施例及び比較例で用いた各装置等の仕様及び実験条件等は以下の通りである。
(熱交換器)
ブレージング式熱交換器 BXC−024 NU−20 (日阪製作所(株)製)
(バッファー容器)
大きさ:外径φ86mm、内径φ70mm、高さ300mm
材質:PTFE製
容量:1000ml
(ゼロ水カラム)
大きさ:外径φ86mm、内径φ70mm、高さ500mm
材質: PTFE製
酸化剤分解樹脂:N−Lite ANP(野村マイクロ・サイエンス(株))
1L充填
(過酸化水素濃度測定装置)
ノキシア(登録商標(野村マイクロ・サイエンス(株)製))
(基準水の純度)
電気抵抗:18.2MΩ・cm
(測定サイクル)
基準水 1回
試料水 1回
1サイクルの時間 60分
【0074】
実施例1
基準水として半導体工場純水装置末端の超純水(電気比抵抗として18.2MΩ・cm以上)を使用し、試料水は、上記半導体工場の排水の回収系の水とした。サンプリングポイントは、活性炭、ついで、混床式イオン交換樹脂で処理の直後とした。
図2に示した構成の装置においてゼロ水カラム12を設置しない装置を用い、試料水中の過酸化水素濃度を測定した。
試料水の温度変動が23℃から24℃、基準水の温度変動が26℃から28℃であったが、測定前の試料水及び基準水の温度は図3Bのようになり、試料水と基準水の温度はほぼ等温になっている。基準水の流量調整弁8での流量が60〜120ml/minで変動していたため、流量フィードバック制御を行った。電量滴定は基準水から行った。
測定は、1サイクルが、基準水を約10分間で測定した後、排水を行い、試料水を約10分測定、排水した。
データ数は122である。
【0075】
実施例2
図2に示した構成の装置のゼロ水カラム12に代えて、バッファー容器を試料水ライン2の経路の、熱交換器3と試料水ポット9の間に設置し、試料水中の過酸化水素濃度を測定した。電量滴定は基準水から行った。測定前の試料水及び基準水の温度は図3Cのようになり、試料水の温度の推移は、基準水の温度の推移よりちょうど10分遅れている。
流量調整弁7、8で測定された試料水及び基準水の流量は各々100ml/分であった。
その他の条件は実施例1と同様である。
データ数は88である。
【0076】
実施例3
図2に示した構成の装置で試料水中の過酸化水素濃度を測定した。電量滴定は試料水から行った。
その他の条件は実施例2と同様である。
データ数は145である。
【0077】
比較例1
図2に示される装置において、熱交換器3、バッファー容器(ゼロ水カラム12)を設置せず、流量フィードバック制御を行い、試料水中の過酸化水素濃度を測定した。
測定前の基準水と試料水には図3Aのように3〜4度の温度差がある。
データ数は56である。
【0078】
比較例2
図2に示される装置において、熱交換器を設置せず、ゼロ水カラムを設置し、流量調整弁8での基準水の流量フィードバック制御を行ない、試料水中の過酸化水素濃度を測定した。
その他の条件は実施例1と同様である。
データ数は92である。
【0079】
実施例4
次に、試料水として、図4のような純水装置の末端から採取した超純水を用い、過酸化水素濃度を測定した。基準水として、同じ超純水装置の末端から採取した超純水を用いた。末端の水質は、電気抵抗18.2MΩ・cm、溶存酸素濃度0.5ppbであった。
図2の装置を用いて、試料水の過酸化水素濃度を測定した。その他の条件は実施例3と同様である。
測定結果は図5Aのようである。
【0080】
比較例3
図2の装置のうち、熱交換器を設置せず、超純水中の過酸化水素濃度を測定した。その他の条件は実施例4と同様である。
測定結果は、図5Bのようである。
【0081】
以上の測定による過酸化水素濃度の測定値の平均および標準偏差を表1にまとめた。
【表1】

【0082】
実施例1〜4においては、比較例1〜3に比べて測定値の標準偏差が小さくなっていることが分かる。
また、実施例4においては、1ppb以下の濃度測定が可能であったことが分かる。
【符号の説明】
【0083】
1…試料水ライン、2…基準水ライン、3…熱交換器、3a1…試料水入口ノズル、3a2…基準水入口ノズル、3b1…試料水出口ノズル、3b2…基準水出口ノズル、4…三方弁、5…電量滴定セル、6…共通ライン、7、8…流量調整弁、9…試料水ポット、10…基準水ポット、11…制御装置、12…ゼロ水カラム、13…超純水製造装置、14…前処理装置、15…一次純水装置、16…一次純水タンク、17…紫外線照射装置、18…混床式ポリッシャー、19…脱気膜、20…限外ろ過装置(UF)、21…ユースポイント、22…過酸化水素濃度測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水製造装置の配管から分取した試料水を第1の配管により電量滴定セルに導入して電気滴定により過酸化水素濃度を測定する試料水電気滴定工程と、実質的に過酸化水素を含まない水からなる基準水を第2の配管により前記電量滴定セルに導入して電気滴定により過酸化水素濃度を測定する基準水電気滴定工程と、前記試料水電気滴定工程における測定結果を、前記基準水電気滴定工程における測定結果で補正して、前記試料水中の過酸化水素濃度を求める過酸化水素の濃度測定方法において、
第1の配管と第2の配管の途中にこれら配管の温度の高い側から温度の低い側へ熱を伝導させる共通の熱交換器を介在させたことを特徴とする微量過酸化水素の濃度測定方法。
【請求項2】
前記試料水電気滴定工程及び前記基準水電気滴定工程における電気滴定が電量滴定であることを特徴とする請求項1に記載の微量過酸化水素の濃度測定方法。
【請求項3】
前記電量滴定が、定量の試料水に酸性下で過剰のヨウ素イオンを加えて試料水中の過酸化水素とヨウ素イオンを化学量論的に反応させてヨウ素を生成させる第1のステップと、第1のステップで生成したヨウ素と過剰かつ定量のチオ硫酸ナトリウムとを反応させる第2のステップと、第2のステップの結果、残留した未反応の前記チオ硫酸ナトリウムを逆滴定する第3のステップとからなることを特徴とする請求項1または2に記載の微量過酸化水素の濃度測定方法。
【請求項4】
前記試料水電気滴定工程及び前記基準水電気滴定工程を所定の時間間隔で繰り返し行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の微量過酸化水素の濃度測定方法。
【請求項5】
前記熱交換器と前記電量滴定セルは共通のケース内に収容されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の微量過酸化水素の濃度測定方法。
【請求項6】
前記共通のケース内の第1の配管又は第2の配管の経路に、前記試料水の電気滴定又は前記基準水の電気滴定の一方が行われている間、他方の側の試料水又は基準水を貯留するバッファー容器を設置することを特徴とする請求項5に記載の微量過酸化水素の濃度測定方法。
【請求項7】
前記バッファー容器が第2の配管の経路に設置される、溶存過酸化水素を分解する、酸化剤分解材を充填したゼロ水カラムであることを特徴とする請求項6に記載の微量過酸化水素の濃度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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