説明

超純水製造システムの運転方法

【課題】超純水配管の施工から初期通水前までに配管内に存するTOCの濃度を低減した超純水製造システムの運転方法を提供する。
【解決手段】初期通水するにあたり、施工済みの配管の一端を開放し、他端から外気圧より高い圧力で4時間以上除塵除湿気体を通気してから通水する。これにより、初期通水前の配管内に存する残留微粒子数を所定の値に低減させるまでに要する初期通水時間および初期通水量を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、初期通水前の超純水配管内に存するTOCの濃度を低減した超純水製造システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、半導体集積回路の製造システムにおいて、シリコン・ウェハの洗浄に用いられる超純水には、水温25℃での比抵抗が18.2MΩ・cm以上で、イオン化合物(陽イオン、陰イオン、金属)、TOC(Total Organic Carbon)、残存微粒子、バクテリアの含有量等が1ppbの高い純度の水質が要求されている。
【0003】
さらに、近年では、溶存酸素(DO: Dissolved Oxygen)がシリコン・ウェハ表面の酸化の原因となることから、溶存酸素濃度も3ppb程度まで減少させた超純水が要求されるようになってきている。
【0004】
このため、超純水の製造には、従来のフィルター、逆浸透膜装置、イオン交換装置等の慣用の機器の他に、酸素透過膜装置等が用いられるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−50048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、超純水製造システムにおいては、配管の施工が完了し、初期通水を開始した後は、できるだけ短い期間内に所定の水質の超純水を製造し得るようになることが望ましいが、超純水に要求される水質基準が高くなるほど、所定の水質の超純水が得られるまでの初期通水時間が長くなるという問題がある。
【0007】
すなわち、所定の水質の超純水を製造するように超純水製造システムを設計しても、配管工事を行って通水を行えばすぐに所定の水質の超純水が製造されるわけではなく、施工後通水を開始した後、長時間通水を続けるうちに徐々に水質が上昇してきて、最終的に所定の水質の超純水が得られるようになるのである。
【0008】
このように、所定の水質になるまで製造された超純水を使用できないため、所定の水質になるまでに要する初期通水時間が長くなると、大量の水が無駄になってしまうという問題があった。また、初期通水に要する時間が長くなる分、超純水製造システムの稼動開始までの期間が長くなるという問題があった。
【0009】
本発明者は、かかる従来の難点について研究をすすめたところ、初期通水前の配管内の雰囲気の状態が、通水後の水質が設計値に到達するまでの初期通水時間に大きい影響を与えるとの知見を得た。
【0010】
本発明は、このような状況を鑑みてなされたものである。本発明は、初期通水前の配管内のTOC濃度を低減して、通水後の水質が設計値に到達し所定の水質を得られるようになるまでに要する初期通水時間を短縮し、初期通水量を低減することのできる超純水製造システムの運転方法を提供することを目的とする。
【0011】
なお、本明細書では、超純水製造システムの施工後、通水後の水質が設計値に到達し所定の水質の超純水が得られるようになるまで行う通水を、初期通水という。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の他の一態様による超純水製造システムの運転方法は、超純水製造システムの接続部を有する超純水配管に初期通水するにあたり、施工済みの配管内に少なくとも4時間除塵除湿気体を通気した後、通水することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、少なくとも4時間、施工済みの配管内に除塵除湿気体を通気してから通水するという比較的簡易な方法で、接着剤等に含まれる有機物が超純水に溶解するのを防止することができる。よって、TOCを短期間で低減することのできる超純水製造システムの運転方法を提供することができる。
【0014】
さらに、外気圧より高い圧力で通気することにより、外部雰囲気中の微粒子等が配管内に混入するのを防げるので、残存微粒子数が所定の値に到達するまでの初期通水時間をも大幅に短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】参考実施例1と参考比較例1について、初期通水時間と溶存酸素濃度との関係を示したグラフ。
【図2】参考実施例2と参考比較例2について、初期通水時間と残存微粒子数との関係を示したグラフ。
【図3】実施例1と比較例1について、初期通水時間とTOC濃度との関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に本発明を実施するための形態について説明する。
【0017】
本発明においては、初期通水前の配管内に存する空気による汚染を防止するため、配管内に清浄気体を通気して配管内の空気を清浄気体で置換する。
【0018】
通気する清浄気体としては、溶存酸素を低減させるため、清浄な不活性ガスを用いる。清浄な不活性ガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどを用いることができるが、経済的な面から窒素ガスが好ましい。特に、酸素がほとんど含まれない高純度の窒素ガスが好ましい。高純度の窒素ガスは、超純水製造システムにおいて広く使われている入手しやすいものを用いることができる。
【0019】
通気は、配管内の空気を清浄気体で置換できるように行う。たとえば配管の一端を開放して他端から清浄気体を供給し配管内の空気を外部に排出させる。通気は、配管施工完了後から開始してもよいが、配管を施工し始めるのとほぼ同時に通気を開始し、施工中も連続して通気していたほうが、配管内の清浄度を維持でき、施工後の立ち上げ時間を一層短縮できる点で好ましい。すなわち、配管の一端から通気しながら、その他端に配管を順次接続していくほうが好ましい。いずれにしても、配管施工完了後には必ず清浄気体を配管内に流通させて配管内の空気を外部に排出し清浄気体で置換する。
【0020】
通気の対象となる配管は、超純水製造システムの施工完了後には超純水を移送することとなる連続した配管、すなわち、超純水移送配管である。脱気前の一次純水が送られる配管を含めても良いが、少なくとも、脱気後の二次純水、いわゆる超純水をユースポイントまで移送する経路の配管が対象に含まれる。施工完了後の超純水移送配管が対象となることはもちろんであるが、施工中の配管であっても、配管が接続され施工が済んだ部分については、通気の対象となる配管に含めることができる。施工が済んだ部分の配管に連続して通気して、施工済みの配管内の空気を清浄気体で置換しておくことで、施工済みの配管内の雰囲気は施工現場に搬入した時点の清浄さと同等かそれより清浄な状態に保たれる。
【0021】
超純水移送配管の途中には、屈曲部、バルブ、分岐がそれぞれ複数個所存在していてもよい。ループ部分を有する構造であってもよい。配管全体がループする構造であってもよい。換気できない箇所(デッドポイント)が生じないような配管構造であることが好ましいが、デッドポイントが生じたとしても、配管の主な部分に通気できて配管内の空気を外部に排出できる構造であればよい。配管内の空気を外部に排出し、常に配管内を換気することにより、配管内の雰囲気は清浄な状態に保たれる。
【0022】
対象とする配管の材質としては、特に制限はなく、たとえば、硬質塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン(HDPE)などの樹脂製の配管を用いることができる。これらは、超純水移送配管として一般に用いられている材質である。金属製の配管は、金属酸化物が混入するのを避けるため、超純水移送配管としては一般に用いられていない。
【0023】
本発明において、清浄気体の通気は、外気圧以上の圧力で行うことが好ましいが、特に高圧である必要はない。外気圧以上の圧力で通気すれば、特に高圧でなくても配管内が外部雰囲気に比べて陽圧となるため、配管接続作業中でも外部雰囲気中の粉塵等の不純物の混入を防げるからである。また、本発明において、供給する清浄気体の温度は特に問わない。通常の温度(たとえば25℃)で十分である。また、通気の流量や流速も特に問わない。
【0024】
配管内の空気が清浄気体で置換されれば十分である。配管内の空気が清浄気体で置換されれば、接着剤を用いた場合に配管内に充満する溶剤ガスが配管外に排出されるためTOCが軽減される。配管内の空気が清浄な不活性ガスで置換されれば、配管内の空気に含まれていた酸素が配管外に排出されるため溶存酸素濃度も低減される。
【0025】
通気する期間は、少なくとも配管の施工完了から初期通水直前までの期間であり、好ましくは配管の施工開始から初期通水直前までの期間全部である。配管の施工完了から初期通水直前までの期間の長さは特に限定されないが、少なくとも配管内の空気が清浄気体で置換されるまでの時間は通気することが好ましい。配管内の空気が完全に置換されていない場合であっても、ある程度置換されていれば、本発明による効果は得られる。
【0026】
置換されたかどうかは、配管出口において流出される気体を調べること等により知ることができるが、簡便のため、配管全体の容積に応じた適当な容量の清浄気体を用意し、用意した清浄気体がなくなった時点で通気を終了するようにしても良い。供給する清浄気体の量は、配管全体の容積や流量等によるが、たとえば1時間当たり300リットル〜1000リットル程度であり、大量ではない。
【0027】
配管内の空気が清浄気体で置換されるまでに要する通気時間は、清浄気体の流速(単位時間当たりに供給する清浄気体の流量)、配管の長さや内径等による。前述のように流速は問わないが、流速を上げることで、配管施工完了後に行う通気時間を短縮することができる。配管施工中にも連続して通気している場合には、配管施工完了時には置換がほとんど完了しているので、配管施工完了後に行う通気時間はさらに短縮することができる。
【0028】
PVCのような材質の配管部材の場合には、接着剤を用いて配管を接続するのが通常である。接着剤を用いる場合には、塗布された接着剤を乾燥させ有機溶媒を揮散させることが必要となる。接着剤の有機溶媒を揮散させるときに多く発生する有機溶剤ガスを配管外に排出し、TOCを軽減させるためである。接着剤が乾燥しきる前に配管を閉じてしまうと、配管を閉じた後も溶剤ガスが発生するため配管内部に溶剤ガスが充満し、初期通水の際、水中のTOCが大幅に増加する結果となる。
【0029】
このように配管の接続に接着剤を使用する場合には、接着剤の乾燥や有機溶媒の揮散に要する時間を確保するべく、たとえば、一昼夜、連続して清浄気体を通気することが好ましい。接着剤を固化させ接着強度が出るまでに要する時間が通常4時間程度であることを考慮すると、少なくとも4時間程度は清浄気体を通気して配管内を換気することが好ましい。また、接着剤を使用しない場合、例えば熱溶着する場合にも、少なくとも4時間程度は清浄気体を通気して配管内を換気することにより、配管内に残存する有機物で水中のTOCが増加するのを防止する効果が得られる。
【0030】
TOC低減が目的の場合、酸素が含まれない不活性ガスを通気する必要はなく、酸素が含まれる除塵除湿気体を通気すればよい。たとえば、外気圧露点温度がマイナス30℃〜マイナス60℃程度の除塵除湿空気(クリーンドライエアー)を通気することにより、TOC濃度の早期低減を達成することができる。もちろん、高純度の窒素ガスなどの清浄な不活性ガスを通気してもよい。その場合、溶存酸素の低減とTOC濃度の早期低減の両方を達成することが可能となる。さらに、外部気圧よりも高い圧力で配管内に通気することにより、外部雰囲気内の粉塵等の微粒子の混入をも防止することができる。すなわち、外部気圧よりも高い圧力で配管内に清浄な不活性ガスを通気することにより、溶存酸素濃度の早期低減、TOC濃度の早期低減、および、残留微粒子の早期低減の3つの効果が同時に得られる。
【0031】
配管内の雰囲気を清浄に保つため、配管内の空気の置換が完了していても、また、接着剤の乾燥等が終了していても、初期通水開始までの間、連続して清浄気体を通気することが好ましい。通気を途中で停止して通水開始までの間に通気しない期間が生じた場合、配管内の雰囲気の清浄度が低下するおそれがあるからである。
【0032】
配管の施工開始から施工期間中も通気する場合には、通気期間は、施工開始から施工完了までの期間と施工完了から初期通水開始までの期間を加えた期間になる。たとえば、施工開始から施工完了までが1日間で施工完了から初期通水開始までの期間が1日間であれば2日の間、施工開始から施工完了までが60日間で施工完了から初期通水開始までが3日間であれば63日間、連続して通気することとなる。
【0033】
なお、施工後初期通水開始前には、配管検査のため配管内に通気するのが通常である。この配管検査における通気は、配管に漏れがないかなどを確認するために、テスト対象区間の配管をバルブやフランジ等で閉じて高圧で行う気密テストである点で、本発明における通気とは異なる。本発明における通気は換気目的であるから、本発明による通気を行う際は、配管を閉じない。気密テストの期間中は、配管の端部を開放して通気することはできないので、本発明の通気期間から除かれる。
【0034】
以上説明したように、本発明では、配管の少なくとも一端を開放して、配管内に清浄な不活性ガスを通気することで、配管内の空気が清浄な不活性ガスで置換されるので溶存酸素濃度を下げることができる。
【0035】
外気圧より高い気圧で配管内に清浄気体を通気することにより、配管内が外部に比べて陽圧となるため、塩化ビニル樹脂やポリフッ化ビニリデンなどの樹脂製の配管の場合であっても、外部雰囲気中の粉塵等の不純物の混入を防ぐことができる。樹脂製の配管は、静電気を生じやすく不純物が吸着しやすい性質を有するが、配管内を外部に比べて陽圧にすることにより、不純物が配管内に混入吸着されなくなるからである。したがって、配管内面の清浄度を、施工現場に最初に搬入された時と同等またはそれ以下の清浄度に保つことができ、初期通水開始後に残存する微粒子の個数を短時間で低減させることができる。
【0036】
初期通水前、少なくとも4時間、施工後の配管内に清浄気体を通気することで、接着剤の乾燥や有機溶媒の揮散が促進され、TOCの値を早期に低減させることができる。
【0037】
通気する清浄気体として酸素が含まれる除塵除湿空気を通気する場合には、酸素が含まれるゆえ溶存酸素濃度を下げる効果は期待できないが、接着剤の乾燥や有機溶媒の揮散が促進され、TOCを低減させる効果は得られる。
【実施例】
【0038】
次に、参考実施例、参考比較例、実施例および比較例について説明する。
【0039】
(参考実施例1)
参考実施例1および参考比較例1は、内径40mmでポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる超純水用の清浄な配管部材を用いて現場で熱溶着により接続して所定の形状の配管になるよう施工された配管に、超純水を初期通水し、水中の溶存酸素濃度を計測した例である。初期通水用に供給した超純水は、酸素除去処理済のもので、溶存酸素濃度が1〜5ppb程度の水である。
【0040】
この配管は、全長約300メートルで、全体としてループになっている。このうち、計測実施区間は30メートルである。この計測実施区間中には、直管部分のほか、屈曲部分が40箇所、分岐が4箇所、バルブが7箇所にある。この配管部材は、超純水用の配管部材として入手可能なもので、事前に配管内部が洗浄されて内部に窒素ガスが封入され両端がキャップ等で密封された清浄な状態で配管工事現場に搬入されたものである。
【0041】
参考実施例1は、初期通水するにあたり、配管内に清浄な不活性ガスを通気して配管内の空気を不活性ガスで置換した後、通水した例である。具体的には、この配管の施工期間中、当該配管の一端を開放にして順次配管部材を熱溶着により接合しながら、他端より連続して高純度(99.999%)の窒素ガスを供給し、配管内に窒素ガスを流通させて、配管内の空気を窒素ガスで置換した。すべての配管の接続が終了した後(施工完了後)、さらに配管内に窒素ガスを通気した。配管内の空気が窒素ガスで置換されたのを見計らって、開放していた端部を閉じてループ配管とし、4m/hの流量で、当該ループ配管に通水した。当該配管中の長さ30m程度の区間を流通する超純水について、水中の溶存酸素濃度を計測した。溶存酸素濃度の計測には、オービスフェア社の溶存酸素(DO)分析計[MOCA−3600]を用いた。
【0042】
参考比較例1では、施工期間中も施工完了後も配管内に清浄な不活性ガスを全く通気しなかった点を除いては、参考実施例1と同一の条件である。
【0043】
図1は、参考実施例1と参考比較例1の場合について、初期通水時間と溶存酸素濃度との関係を示したグラフである。縦軸は水中の溶存酸素濃度(単位はppb)を表し、横軸は初期通水時間(単位は時間)を表している。
【0044】
同図に示すように、参考実施例1では、参考比較例1に比べて、溶存酸素濃度が低減するまでの初期通水時間が大幅に減少した。具体的には、参考実施例1では、溶存酸素濃度が、初期通水開始の4時間後には5ppbにまで減少し、供給した水の溶存酸素濃度と同等程度にまで減少した。6時間後には3.2ppb、9時間後には2.5ppb、12時間後には2.2ppb、18時間後には約1.8pppb、24時間後には約1.5ppbにまで減少した。
【0045】
これに対し、参考比較例1では、12時間後にようやく10ppbまで減少し、18時間後に約5.8ppbとなり、24時間後でも約4.5ppb残存していた。すなわち、供給した水の溶存酸素濃度である5ppbにまで回復するのにも20時間程度を要し、24時間経過後でも3ppbには遠く及ばなかった。
【0046】
このように、配管内が洗浄され配管内の空気が窒素ガスで置換されていた配管部材を用いて施工した場合であっても、施工済みの配管内に窒素ガスを通気し、配管内の空気を窒素ガスで置換した場合には、置換しなかった場合に比べて、溶存酸素濃度を所定の値に低減させるまでに要する初期通水時間を大幅に短縮することができ、したがって初期通水量も低減させることができた。
【0047】
図1では割愛しているが、溶存酸素濃度をさらに低減させる場合には、さらに長時間初期通水する必要があり、施工済みの配管内を不活性ガスで置換した場合と置換しない場合に要する初期通水時間の差は、さらに顕著な差となって表れる。
【0048】
このような顕著な差が生じたのは、次のような理由によると考えられる。すなわち、窒素ガスを通気しない場合には、配管部材のキャップを開けて配管に接続する際および通水開始時までの間に外部雰囲気中の酸素が配管内に流入するので、通水開始時までには配管内の酸素がかなり増加してしまうのに対し、窒素ガスを通気する場合には、配管内の空気が窒素ガスで置換されるため配管内の酸素は増加しないためであると考えられる。
【0049】
予め管内の空気が窒素ガスで置換されていない状態の配管部材を用いて施工した場合には、この溶存酸素濃度の差はさらに顕著となる。すなわち、配管内に普通に酸素が存在する状態で初期通水を開始した場合には、通水開始直後の水中の溶存酸素濃度はほぼ飽和状態(約8ppm)であるのに対し、施工済みの配管内に窒素ガスを通気して配管内の空気を窒素ガスで置換した場合は、通水開始直後の水中の溶存酸素濃度は供給した水に比べてほとんど増加しないからである。
【0050】
(参考実施例2)
参考実施例2は、残存する微粒子数を計測した例である。計測器としては、米国PMS社製の微粒子数計測計[UDI−50]を用いた。溶存酸素濃度を計測する代わりに、微粒子数を計測した点が異なる他は、参考実施例1と同じである。
【0051】
参考比較例2は、施工期間中も施工完了後も、清浄気体を全く通気しなかった点を除いては、参考実施例2と同じである。
【0052】
図2は、参考実施例2と参考比較例2の場合について、水中に存する0.05μm以上の微粒子数と初期通水時間との関係をグラフで示したものである。縦軸は0.05μm以上の微粒子数(個/mL)を示し、横軸は時間を示している。
【0053】
同図に示すように、参考実施例2では、初期通水開始の12時間後に4個となり、18時間後には2個、24時間後には1.6個にまで減少し、48時間後には1.2個、96時間後には1個にまで減少した。
【0054】
これに対し、参考比較例2では、24時間後でも5個以上あり、36時間後で4個、72時間後で2個になり、96時間後でも1.6個程度残存しており、1個未満にはならなかった。参考比較例2では、4個まで減少するのに参考実施例1の3倍の時間を要し、2個まで減少するのには参考実施例1の4倍の時間を要した。
【0055】
このように、初期通水開始後、参考実施例2では参考比較例2に比べて、きわめて短時間で0.05μm以上の微粒子数を減少させることができ、4日後には、所定の値である1個にまで減少させることができた。
【0056】
すなわち、配管内に高純度の窒素ガスを通気して配管内を窒素ガスで置換することにより、水中の溶存酸素濃度を所定の範囲内の値に減少させるまでに要する時間が短くなっただけでなく、0.05μm以上の微粒子数を所定の値まで低減させるのに要する時間をも短くすることができた。その結果、初期通水時間および初期通水量を参考比較例2に比べて低減させることができた。
【0057】
(実施例1)
実施例1は、塩化ビニル樹脂(PVC)からなる超純水用の配管、いわゆるクリーンPVC配管を用いた例である。配管の内径、長さ、形状等は、参考実施例1と同様である。施工開始時から連続して通気し、接着剤を用いて順次配管を接続しながら施工した。施工完了後にも4時間以上通気した。配管内に通気した気体は、除塵除湿気体、具体的には、外気圧露点温度マイナス30℃程度の除塵除湿空気(クリーンドライエアー)である。通気終了後速やかに、開放していた端部を閉じてループを有する配管とし、4m/hで初期通水を開始した。所定時間経過後、当該配管中の長さ30m程度の区間の超純水について、残存するTOC濃度を計測した。用いた計測器は米国アナテル社のTOC分析計[A−1000XP]である。
【0058】
比較例1は、配管内に清浄気体を通気しなかった点を除いては、実施例1と同一の条件である。
【0059】
図3は、実施例1と比較例1の場合について、TOC濃度と初期通水時間との関係をグラフで示したものである。縦軸はTOC濃度(単位はppb)を示し、横軸は初期通水時間(単位は時間)を示している。
【0060】
図3に示すように、実施例1では、TOC濃度が、初期通水開始の24時間後に8ppbとなり、36時間後には5.7ppb、48時間後には4ppbにまで減少し、72時間後には2.8ppbとなり、96時間後には2.1ppbにまで減少した。
【0061】
これに対し、比較例1では、初期通水開始直後のTOC濃度が非常に高く、48時間後でも10ppbであり、96時間後でも実施例1の場合のTOC濃度の約2.5倍に相当する5.3ppbであった。
【0062】
このように、配管の施工開始から施工完了を経て初期通水開始まで、少なくとも配管の最後の接続部に接着剤を塗布してから4時間、連続して配管の一端から配管内に除塵除湿気体を通気した場合(実施例1)には、通気しなかった場合(比較例1)に比べて半分以下の短期間で、初期通水開始後の配管内の水に含まれるTOC濃度を低減させることができた。その結果、初期通水時間および初期通水量を比較例1に比べて大幅に低減させることができた。
【0063】
図3では割愛しているが、TOCをさらに低減させる場合、さらに長時間初期通水する必要があり、施工済みの配管内を換気した場合と換気しない場合に要する初期通水時間の差は、さらに顕著な差となって表れる。たとえばTOCを0.7ppb程度まで低減させる場合には、両者の初期通水時間の差は数日間〜数十日間程度になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水製造システムの接続部を有する超純水配管に初期通水するにあたり、
施工済みの前記配管内に少なくとも4時間除塵除湿気体を通気した後、通水することを特徴とする超純水製造システムの運転方法。
【請求項2】
前記通気は、外気圧より高い圧力で行うことを特徴とする請求項1に記載の超純水製造システムの運転方法。
【請求項3】
前記通気は、配管の施工開始時から連続して行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の超純水製造システムの運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−613(P2012−613A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179301(P2011−179301)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【分割の表示】特願2005−164769(P2005−164769)の分割
【原出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】