説明

超耐熱電線・ケーブル

【課題】高温で使用しても引張強度および導電率が低下しない導体を有する超耐熱電線・ケーブルを提供すること。
【解決手段】 インジウム−銅合金線導体1の外周にマイカ/ガラス貼り合わせテープの絶縁体2を施し、その外周にシリカガラス糸編組3を形成し、その外周に金属線補強層4を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力、制御、計測等の用途に適した電線・ケーブルに関し、特に、高温で使用可能な超耐熱電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
図5は高温で使用される従来の電線を示す。図5に示す電線は、ニッケルをめっきされたタフピッチ銅(TPC)あるいは無酸素銅(OFC)の導体1と、マイカ/ガラス貼り合せテープの絶縁体2と、電気用ガラス糸編組3と、補強層4より構成されている。
【0003】
絶縁体2として使用されるマイカ/ガラス貼り合せテープは、例えば、−200〜1000℃の範囲で誘電性及び電気絶縁性を維持し、特に、高温では、絶縁を維持するゲルに変態し、冷却したときに絶縁及び封止を確保する絶縁テープであって、マイカ粒子を支持する結合剤を含浸したガラス繊維織物から成るマイカテープと、ガラス繊維がポリテトラフルオロエチレンで被覆されたガラステープを貼り合せて構成される(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平4−52568号公報
【0004】
導体1としては、ニッケルをめっきされたTPCあるいはOFCに代えてニッケルを被覆されたOFCが使用されることもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の電線によると、導体1としてニッケルをめっきされたTPCあるいはOFC、あるいはニッケルを被覆されたOFCを使用しているため、300℃以上の高温で使用すると時間経過とともに、導体の軟化が進んで引張強度が低下し、また、ニッケルの拡散により導体の導電率の低下を招くことになって実用上問題が出てくる。
【0006】
また、導体として耐熱性の高いニッケル線を使用する場合も有るが、ニッケルの導電率が低いため、TPCに比べて電流が多く流せないという問題が有る。
【0007】
従って、本発明の目的は、高温で使用しても導体の軟化による引張り強度の低下が生じない超耐熱電線・ケーブルを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、定格電流を低くする必要のない超耐熱電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を実現するため、インジウム−銅合金の硬あるいは焼鈍した単線、あるいは複数の前記単線を撚り合わせた撚り合わせ線より成る導体を有することを特徴とする超耐熱電線・ケーブルを提供する。
【0010】
本発明では、上記単線はニッケルのめっきを施されても良い。また、上記単線は、0.01から0.3%(重量比、以下、重量比の記載を省く)のインジウムを含むことが好ましい。
【0011】
本発明では、マイカガラステープとシリカガラス糸より成る絶縁体を有することが好ましく、また、編組あるいは横巻きされたシリカガラス糸層を有することが好ましい。このシリカガラス糸層は、シリコン塗料を塗布されると、防湿性が付与される。
【0012】
本発明では、最外層に金属編組を設けることにより補強された超耐熱電線・ケーブルが得られる。
【0013】
本発明の超耐熱ケーブルは、複数、例えば3本の超耐熱電線を撚り合せたものであり、その上にシリカガラス糸の編組層を設け、更に、その上に金属編組補強層を設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の超耐熱電線・ケーブルによると、引張強度の低下及び導電率の低下を抑制して耐熱度を上げたため、電線・ケーブルの交換周期が長くなり、交換のための工事費を低減することができる。また、無機系の材料を絶縁層及び補強層に使用しているため、火災時に燃焼しても腐蝕性で有害なハロゲン系ガスの発生を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の実施の形態における超耐熱電線を示す。図1において、導体1として耐熱性の良いインジウム−銅合金を使用し、酸素による表面酸化を防止するため耐熱性のよいニッケルをめっきとして施した素線を撚り合わせて導体とし、絶縁体2として、耐熱性のよい無機絶縁体であるマイカ/ガラステープを使用し、絶縁補強層3として、耐熱性の良いシリカガラス糸編組を使用する。最外層に、シリカガラス糸編組の絶縁補強層3の補強層4として、金属線、例えば、ステンレス線による編組を施す。
【0016】
絶縁体2において、マイカとガラステープは接着剤としてシリコーン樹脂を使用して貼り付けられる。シリコーン樹脂は使用中に劣化してSiOへと変化するが、SiOはガラスの成分として使用されているものであり、絶縁性能も高い材料であるので、使用上の問題は無い。
【0017】
導体1を構成する素線はニッケルめっきを施したインジウム−銅合金の焼鈍材であり、インジウム量は、0.01〜0.3%とするが、特性及びコストのバランスの点で、0.01〜0.1%が合理的である。
【0018】
図2は、図1の超耐熱電線(補強層4を省く)を3本撚り合せ、間隙にガラスヤーン介在層5を設け、それらの外周にガラステープバインダ6、シリカガラス編組7、及びステンレス線編組の補強層8を形成した超耐熱ケーブルを示す。
【0019】
図2において、シリカガラス糸編組7、及び補強層8は省略することができる。
【0020】
以下、導体1の耐熱性及びケーブルの耐熱性を評価する。
【0021】
(a)導体の耐熱性
図3は、0.1%インジウム−銅合金線の焼鈍温度に依存した引張強度(MPa)を曲線Aで示し、TPCの焼鈍温度に依存した引張強度(MPa)を曲線Bで示す。0.1%インジウム−銅合金の硬線の場合の引張強さはTPCと比べて大きく軟化点も高いが、焼鈍材の状態ではTPCと同等の引張強さであり、焼鈍材は柔軟性の点ではTPCと遜色ない。
【0022】
0.1%インジウム−銅合金の焼鈍材について、熱処理による強度変化の測定結果をTPCと比較して、表1に示す。TPCに比べて0.1%インジウム−銅合金は高温でも引張強度の低下が小さいことが分かる。
【表1】

【0023】
(b)ケーブルの耐熱性の評価
図4は、ケーブルの耐熱性を評価するため、加熱炉中でケーブルの絶縁抵抗を測定した結果を示す。図4において、曲線Cは絶縁抵抗であり、曲線Dは加熱炉温度である。加熱炉中に当該ケーブルを収納して、加熱する。加熱温度は図3の加熱炉温度の曲線Dに従って加熱する。
【0024】
ケーブルの絶縁抵抗測定結果を図4の曲線Cで示す。試験結果を見ると、加熱温度が上がるとともに、絶縁抵抗は低下していくがやがて飽和する。約800℃で、絶縁抵抗の値は1MΩ・mを示し、長さが短ければ十分使用可能な値を示している。
【0025】
以上の実施の形態において、導体1としてインジウム−銅合金線を使用したが、インジウムを含む他の合金線、例えば、銅−錫−インジウム系合金、銅−インジウム−ボロン系合金、銅−インジウム−燐系合金等も導体1として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態における超耐熱電線を示す断面図。
【図2】本発明の実施の形態における超耐熱ケーブルを示す断面図。
【図3】図1の超耐熱電線の導体の焼鈍温度−引張強度の関係を示すグラフ。
【図4】図2のケーブルの加熱炉温度−絶縁抵抗の関係を示すグラフ。
【図5】従来の電線を示す断面図。
【符号の説明】
【0027】
1 ニッケルめっきインジウム−銅合金線導体
2 マイカ/ガラス貼り合せテープ
3 シリカガラス糸編組
4 補強層
5 ガラスヤーン介在層
6 ガラステープバインダ
7 シリカガラス糸編組
8 ステンレス線編組補強層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジウム−銅合金の硬あるいは焼鈍した単線、あるいは複数の前記単線を撚り合わせた撚り合わせ線よりなる導体を有することを特徴とする超耐熱電線・ケーブル。
【請求項2】
前記単線がニッケルめっきを施されていることを特徴とする請求項1記載の超耐熱電線・ケーブル。
【請求項3】
前記単線が0.01〜0.3%のインジウム重量濃度を有することを特徴とする請求項1記載の超耐熱電線・ケーブル。
【請求項4】
前記導体がマイカガラステープとシリカガラス糸より成る絶縁体によって絶縁されることを特徴とする請求項1記載の超耐熱電線・ケーブル。
【請求項5】
前記絶縁体がシリカガラス糸の編組あるいは横巻によって被覆されていることを特徴とする請求項4記載の超耐熱電線・ケーブル。
【請求項6】
前記シリコンガラス糸の編組あるいは横巻がシリコン塗料を塗布されていることを特徴とする請求項5記載の超耐熱電線・ケーブル。
【請求項7】
前記シリコンガラス糸の編組あるいは横巻が金属編組補強層によって被覆されていることを特徴とする請求項5記載の超耐熱電線・ケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−19225(P2006−19225A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198336(P2004−198336)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】