説明

超臨界サイクルヒートポンプ装置

【課題】断熱圧縮された高圧冷媒が超臨界状態となる超臨界サイクルヒートポンプ装置において、放熱器において加熱される被加熱流体を冷却することにより、ヒートポンプの性能向上を図ることができ、ヒートポンプを停止させることなく連続運転が可能な超臨界サイクルヒートポンプ装置を提供する。
【解決手段】冷媒14を断熱圧縮する圧縮機1と、断熱圧縮された冷媒11を冷却する放熱器2と、高圧の冷媒12を断熱膨張させて低圧にする膨張弁3と、断熱膨張して低圧低温になった冷媒13を蒸発させる蒸発器4とを備え、断熱圧縮された高圧冷媒が超臨界状態となる超臨界サイクルヒートポンプ装置において、放熱器2において冷媒との熱交換により加熱される被加熱流体を放熱器2に導入する前に冷却するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒サイクルの高圧側で臨界圧力以上の超臨界状態となりうる冷媒を用い、圧縮機の吐出圧力を超臨界状態で運転する超臨界サイクルヒートポンプ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷媒サイクルの高圧側で超臨界状態となりうる冷媒を用いるヒートポンプシステムは、圧縮機の吐出圧力を臨界圧力以上の超臨界状態で運転することにより、高温の加熱を効率よく行なえる特性を有している。従来のフロン系冷媒では概ね60℃であったところを、80〜120℃の高温水および熱風を発生することができ、給湯分野にとどまらず、さまざまな乾燥装置として利用されている。
1)特許文献1には、温水を発生させ、被加熱流体に水を使用して温水を発生させて給湯を行うシステムであって、放熱器の出口に自然水と熱交換を行なう熱交換器および冷水により冷媒を蒸発させる熱交換器を2台並べて、熱交換器の前後に設置したバルブの開閉操作により暖房給湯運転および暖房給湯・冷房運転相互の切替を可能とするシステムが開示されている。
2)特許文献2には、被加熱流体に空気を使用し、熱風を発生させて乾燥に適用するシステムであって、外気および排気の一部をバイパス導入するとともに、COPを最大にする圧縮機の吐出圧力を運転しながら求め、常に高効率な運転を可能とするシステムが開示されている。
3)特許文献3には、被加熱流体に空気を使用して循環運転し、熱風を発生させて乾燥に適用するシステムであって、簡単な制御で、通常乾燥運転モードと省エネ乾燥モードを切り替え可能とするシステムが開示されている。
4)特許文献4には、被加熱流体に空気を使用して外気を導入し、熱風を発生させて乾燥に適用するシステムであって、ヒートポンプの熱源として供給する作用水を、一定量貯留されたものが循環使用されるとともに、乾燥機から排出された作用済の乾燥気体により昇温することで、常時一定水温とし、エネルギー効率が高く、安定した運転が可能なシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2006−051617号パンフレット
【特許文献2】特開2010−38469号公報
【特許文献3】特開2010−82113号公報
【特許文献4】特開2010−196939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒートポンプシステムを効率よく運転するため、COP(Coefficient Of Performance)を向上させるためには、以下方法がある。
(1)ヒートポンプにより発生する熱量を増やすこと。
手段には、圧縮機出口圧力をより高め高温の熱源を作り出す方法及び放熱器でより低温まで回収する方法がある。この場合、圧縮機出口圧力を高めると発生熱量が増えるが、圧縮機に必要な動力も上昇するため、必ずしもCOP向上につながらない場合もある。これに対し、放熱器でより低温まで回収する方法は、有効である。
(2)冷媒の圧縮に用いる動力を減らすこと。
手段には、圧縮機出口圧力を低くする方法および圧縮機入口圧力を高める方法がある。圧縮機出口圧力を低くすると必要動力は減るが、発生熱量および高温熱源の温度も減少するため、必ずしもCOP向上につながらない他、被加熱側に必要な温度に達しない場合もある。これに対し、圧縮機入口圧力を高める方法は、有効である。但し、サイクルの低圧側において臨界圧未満である必要があり、冷媒として二酸化炭素を用いる場合、上限は概ね7.5MPaGである。また、熱源流体温度が蒸発器蒸発温度より高い必要が有り、チラー水や冬季の冷却塔循環水等の低い温度の熱源流体が使用できなくなる。また熱源流体出口温度も蒸発器蒸発温度より高い必要があり、入口と出口の温度差を大きくとれず、熱源流体の流量を多く必要とすることもあり、ポンプ等の付帯設備費は運転コスト上昇を招き必ずしも効果的でない場合が多い。
【0005】
上記(1)(2)より超臨界状態となりうる冷媒を用いるヒートポンプシステムにおいてCOPの高い点で運転を行なうためには、冷媒サイクル低圧側が臨界圧を越えないことが一つの条件(制限)となる。
冷媒サイクルの低圧側入口運転点は、高圧側の放熱器の出口冷媒が断熱膨張された点であるので、放熱器の冷媒出口温度に依存する。
冷媒として二酸化炭素を用いる場合、冷媒サイクル高圧側での放熱器の冷媒出口温度が最高で50℃以下であることが望まれ、その場合、伝熱に必要な温度差を5℃とした場合は冷却源である被加熱流体の入口温度は45℃になるが、実用上は冷媒出口温度は最高で45℃以下、被加熱流体の入口温度が40℃以下であることが望ましい。
また、被加熱流体の入口温度は−40℃以上であることが望ましい。これは−40℃未満であると運転停止時に被加熱流体だけが流れている場合、蒸発器内の冷媒蒸発温度も−40℃未満となり、内部圧力が大気圧以下まで下がり冷媒サイクル系内へ外気が漏れこむため、容器の気密性を完璧にする必要が生じ、また、万一漏れ込んだ場合、水分や不凝縮ガスとしての空気が悪影響を与えるため抽気設備の設置を配慮する等の必要性が生じる。さらに、運転中においても断熱圧縮によって臨界点圧力以上に昇圧する必要あり、圧縮比が過大で圧縮動力も非常に大きくなり、圧縮機性能、効率の低下を生じる。
また、熱源流体が液体の場合凍結の問題も生じ、水の場合は低くても−5℃以上、ブラインの場合も不凍液の種類に因るが、一般的には−20℃以上となる。
【0006】
被加熱流体として空気を用いる場合、一般に外気および室内又は工場内設置場所の空気が用いられる。ヒートポンプシステムは一般に機械室に設置され、乾燥装置として使用する場合は特に室内温度は上昇しやすい傾向にあるため、40℃を充分に超えるケースも想定される。また、近年の温暖化により外気であっても40℃を超えるケースも出てきている。
従って、被加熱流体の入口温度が40℃を超える場合、従来の技術では、装置を停止させるか、サイクルの低圧側圧力を下げてCOPの低い運転点にて運転する必要があった。実際には装置保護の問題も有り、被加熱流体入口温度である空気温度が大略40℃を超える場合は超臨界サイクルヒートポンプ装置を停止し警報等を出力するシステムがとられている。
【0007】
本来、被加熱流体の温度が上昇し被加熱流体の加温温度差が小さくなり、少ない熱量供給で済み、効率が向上する条件において装置の運転を停止をするため、逆に全体の効率が低下する現象が生じている。この実運転における経済性低下が超臨界サイクルヒートポンプ装置導入の大きな障害になってきている。
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、冷媒を断熱圧縮する圧縮機と、断熱圧縮された冷媒を冷却する放熱器と、高圧の冷媒を断熱膨張させ低圧にさせる膨張弁と、断熱膨張して低圧低温になった冷媒を蒸発させる蒸発器を備え、断熱圧縮された高圧冷媒が超臨界状態となる超臨界サイクルヒートポンプ装置において、放熱器において加熱される被加熱流体を冷却することにより、ヒートポンプの性能向上を図ることができ、ヒートポンプを停止させることなく連続運転が可能な超臨界サイクルヒートポンプ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明の超臨界サイクルヒートポンプ装置は、冷媒を断熱圧縮する圧縮機と、断熱圧縮された冷媒を冷却する放熱器と、高圧の冷媒を断熱膨張させて低圧にする膨張弁と、断熱膨張して低圧低温になった冷媒を蒸発させる蒸発器とを備え、断熱圧縮された高圧冷媒が超臨界状態となる超臨界サイクルヒートポンプ装置において、前記放熱器において冷媒との熱交換により加熱される被加熱流体を前記放熱器に導入する前に冷却するようにしたことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、冷媒サイクルは、冷媒サイクルの高圧側で超臨界状態となりうる冷媒を使用し、冷媒を圧縮機により超臨界状態まで圧縮し、圧縮された冷媒を放熱器により冷却し、高圧の冷媒を膨張弁により膨張させて低圧にし、膨張して低圧になった冷媒を蒸発器で蒸発させる。蒸発器においては、熱源流体を用いて冷媒を蒸発させる。この時、熱源流体は冷媒により蒸発潜熱エネルギーを奪われて低温熱源流体となる。放熱器において、冷媒は被加熱流体の入口温度近くまで冷却される。この時の放熱器出口の冷媒は、ヒートポンプの性能向上のために低くすることが望まれ、被加熱流体の温度を低くする必要がある。
そのため、本発明においては、被加熱流体を放熱器に導入する前に冷却して低温被加熱流体とする。放熱器に供給される被加熱流体に、低温被加熱流体を使用することにより、冷媒の温度を低くすることができる。従って、冷媒サイクル高圧側の放熱器の冷媒出口温度を、低温度まで冷却することが可能になり、冷媒サイクルが効率よく運転され、COPを向上させることができる。また、被加熱流体を放熱器に導入する前に冷却することにより、装置の運転停止を無くし、連続運転を可能とし運転効率を上げることができる。
【0011】
本発明の好ましい態様は、前記被加熱流体は空気または水であることを特徴とする。
本発明においては、被加熱流体を一度冷却させるので、被加熱流体が空気の場合、除湿が同時に行なわれるので、被加熱流体を乾燥に用いることにより、有効度が増す。また、被加熱流体が水の場合、温水を発生させて給湯を行うことができる。超臨界サイクルヒートポンプ装置においては、被加熱流体を100℃以上の高温状態にも加熱できるため、被加熱流体に水を使用した場合、大気圧以上(100℃以上)の蒸気発生用にも使用できる。
本発明において、被加熱流体は、空気以外のガス流体でも液流体でもよい。ガス流体の場合、空気以外に毒性、爆発性、腐食性、分解・変性が無いガス流体であれば良く、例えば、窒素ガス、炭酸ガス等を使用する場合もある。可燃性ガスにおいては、充分に運用方法や対策を講じれば加熱に使用できる。また、被加熱流体は、水以外の液流体でもよい。液流体としては、ガス流体同様に毒性、腐食性、分解・変性が無い流体が望ましく、揮発性、爆発性、可燃性液流体であっても充分に運用方法や対策を講じれば加熱に使用できる。また、高温熱媒(熱媒油等)を使用すれば、100℃以上の高温熱媒を得ることもできる。
本発明においては、被加熱流体を一度冷却させるので、冷却晶析させて上澄み液を再濃縮するような液の場合、冷却晶析と濃縮を同時に行なうことができるので、有効度が増す。
【0012】
本発明の好ましい態様は、前記蒸発器で前記低圧低温の冷媒を蒸発させるための熱源流体はチラー水及び/又は冷却水であることを特徴とする。
本発明において、熱源流体としてチラー水(ブライン)及び/又は冷却水を使用する場合は、熱源流体を冷熱源として使用する場合であり、極力熱源流体の出口温度が低い方が良い。冷却水の場合は凍結の問題があるので冷媒の蒸発温度は少なくとも0℃以上が望ましいが、これ以下では不凍液を含むブラインを使用する。熱源流体を直接冷却する場合は、毒性、腐食性、分解・変性が無い流体が望ましいが、揮発性、爆発性、可燃性液流体であっても充分に運用方法や対策を講じれば冷却に使用できる。但し、熱源液流体の凍結条件によって熱源流体出口温度を決定しなければならない。
また、本発明において、熱源流体はガス流体であってもよい。ガス流体の場合、空調用冷熱利用が多く考えられるが、空気以外に毒性、爆発性、腐食性、分解・変性が無いガス流体であれば良く、例えば、窒素ガス、炭酸ガス等を使用する場合もある。可燃性ガスにおいては、充分に運用方法や対策を講じれば冷却に使用できる。
【0013】
本発明の好ましい態様は、前記放熱器の入口側に予冷器を設置し、冷熱源流体により被加熱流体を冷却することを特徴とする。
放熱器において被加熱流体により冷却された後の冷媒の温度が低いと冷媒サイクルのCOPが向上するので、被加熱流体温度は低く設定した方がより効率的である。したがって、本発明においては、被加熱流体を冷却して被加熱流体の温度を低下させるために放熱器の入口側に予冷器を設置している。そして、予冷器において被加熱流体を冷却する手段として、冷熱源流体を使用している。
【0014】
本発明の好ましい態様は、前記放熱器の入口側に予冷器を設置し、前記蒸発器の入口側の熱源流体により被加熱流体を冷却することを特徴とする。
本発明においては、被加熱流体を冷却して被加熱流体の温度を低下させるために放熱器の入口側に予冷器を設置し、予冷器において被加熱流体を冷却する手段として、蒸発器の入口側の熱源流体を使用している。本発明によれば、被加熱流体を冷却するための冷熱源流体源を別途設ける必要がない。
【0015】
本発明の好ましい態様は、前記予冷器から出る加温された熱源流体の一部又は全量を前記蒸発器の入口側へ戻すことを特徴とする。
本発明によれば、予冷器において被加熱流体から熱を奪って加温された熱源流体の一部または全量を蒸発器の入口に戻すことによりヒートポンプの熱源として有効に使用することもできる。
【0016】
本発明の好ましい態様は、前記放熱器の入口側に予冷器を設置し、前記蒸発器の出口側の熱源流体により被加熱流体を冷却することを特徴とする。
本発明においては、被加熱流体を冷却して被加熱流体の温度を低下させるために放熱器の入口側に予冷器を設置し、予冷器において被加熱流体を冷却する手段として、蒸発器の出口側の熱源流体を使用している。本発明によれば、被加熱流体を冷却するための冷熱源流体源を別途設ける必要がない。
【0017】
本発明の好ましい態様は、前記予冷器から出る加温された熱源流体の一部又は全量を前記蒸発器の入口側へ戻すことを特徴とする。
本発明によれば、予冷器において被加熱流体から熱を奪って加温された熱源流体の一部または全量を蒸発器の入口に戻すことによりヒートポンプの熱源として有効に使用することもできる。
【0018】
本発明の好ましい態様は、前記冷媒は二酸化炭素であることを特徴とする。
本発明によれば、COを冷媒としたヒートポンプ装置は、圧縮機の吐出圧力を臨界圧力以上の超臨界状態で運転することにより、高温の加熱を効率良く行なえる特性を有していることから、被加熱流体として空気を用いる場合、加熱空気は樹脂や木材等の乾燥に利用することができ、また被加熱流体として水を用いる場合、温水は給湯に利用することができる。
【0019】
本発明の好ましい態様は、前記放熱器の入口側の被加熱流体の入口温度は、40℃以下、−40℃以上であることを特徴とする。
本発明によれば、冷媒として二酸化炭素を用いる場合、冷媒サイクル高圧側での放熱器の冷媒出口温度が最高で50℃以下であることが望まれ、その場合、伝熱に必要な温度差を5℃とした場合は冷却源である被加熱流体の入口温度は45℃になるが、実用上は冷媒出口温度は最高で45℃以下、被加熱流体の入口温度が40℃以下であることが望ましい。
また、被加熱流体の入口温度は−40℃以上であることが望ましい。これは−40℃未満であると運転停止時に被加熱流体だけが流れている場合、蒸発器内の冷媒蒸発温度も−40℃未満となり、内部圧力が大気圧以下まで下がり冷媒サイクル系内へ外気が漏れこむため、容器の気密性を完璧にする必要が生じ、また、万一漏れ込んだ場合、水分や不凝縮ガスとしての空気が悪影響を与えるため抽気設備の設置を配慮する等の必要性が生じる。
【0020】
本発明の好ましい態様は、前記放熱器の入口側に前記被加熱流体の温度を検出する手段を設け、前記被加熱流体を冷却するために前記予冷器に供給する流体の流量を調整する流量調整手段を設け、前記被加熱流体の温度を所定温度に保つように前記流量調整手段を制御することを特徴とする。
本発明によれば、被加熱流体の温度変化に対して、被加熱流体を冷却するために予冷器に供給する冷却用の流体の流量を調整することにより、予冷器において冷却された後の低温被加熱流体の温度を一定に保つことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、以下に列挙する効果を奏する。
(1)冷媒サイクルの放熱器出口温度は、ヒートポンプシステムのCOPを向上するためには低いことが望ましい。冷媒サイクルの高圧側で超臨界状態となりうる冷媒を用いる場合、放熱器出口温度が所定温度以上だと、蒸発器での冷媒の蒸発が不可能になる場合があること、及び高温による容器の耐圧制限があること等により、運転に制限を加える必要があった。本発明では、放熱器において加熱される被加熱流体を放熱器に導入する前に冷却することにより、ヒートポンプの性能向上を図ることができ、ヒートポンプを停止させることなく連続運転を可能とし運転効率を上げることができる。
(2)予冷器において被加熱流体を冷却する手段として、冷熱源流体を使用し、予冷器において被加熱流体は冷熱源流体により冷却され、低温被加熱流体となる。放熱器において冷却に使用される被加熱流体が低温化することにより、放熱器出口側の冷媒の温度を低くすることができる。この結果、放熱器入口側の冷媒と出口側の冷媒の比エンタルピ差(kJ/kg)に冷媒循環量(kg/s)を掛けた値である発生熱量(kW)が増えると共に、蒸発器入口側の冷媒と出口側の冷媒の比エンタルピ差(kJ/kg)に冷媒循環量(kg/s)を掛けた値である発生冷熱量(kW)も増やすことができる。よって、冷媒サイクルのCOPを向上させることができる。
(3)蒸発器において熱源として用いられ冷媒により蒸発潜熱エネルギーを奪われて温度が低下した低温熱源流体によって被加熱流体を冷却すれば、ヒートポンプで発生する冷熱量を使用することになり、全体の熱必要量が増えることはない。また、予冷器で被加熱流体から熱を奪った熱源流体を、蒸発器において冷媒を蒸発させるための熱源流体として使用することも可能である。この結果、ヒートポンプシステムを効率よく運転し、COPを向上させることができる。
(4)予冷器によって冷却される低温被加熱流体部に温度を検出するセンサーを設置し、冷熱源流体の流量を調整して低温被加熱流体の温度を目標設定温度となるように制御することにより、被加熱流体の温度変化に対して低温被加熱流体の温度を一定に保つことができ、冷熱源流体の入口温度変動の影響を受けること無く安定して運転ができる。
(5)被加熱流体の温度が変化しても低温被加熱流体の温度を一定に保つことができ、ヒートポンプシステムを常に効率よく運転することができると共に、被加熱流体の温度が装置の上限温度を超える場合でも、ヒートポンプシステムを停止させることなく連続運転が可能であり、停止による効率低下を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は本発明の超臨界サイクルヒートポンプ装置の一実施形態を示す系統図である。
【図2】図2は本発明の超臨界サイクルヒートポンプ装置の他の実施形態を示す系統図である。
【図3】図3は本発明の超臨界サイクルヒートポンプ装置の更に他の実施形態を示す系統図である。
【図4】図4は圧力−エンタルピ線図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る超臨界サイクルヒートポンプ装置の実施形態を図1乃至図4を参照して説明する。図1乃至図4において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。本実施形態においては、冷媒サイクルの高圧側で超臨界状態となりうる冷媒として、二酸化炭素(CO)を用いる場合を説明する。冷媒サイクルの高圧側で超臨界状態になれば、二酸化炭素以外の他の冷媒であってもよい。
【0024】
図1は本発明の超臨界サイクルヒートポンプ装置の一実施形態を示す系統図である。
図1に示すように、超臨界サイクルヒートポンプ装置は、冷媒を超臨界状態まで断熱圧縮する圧縮機1と、断熱圧縮された冷媒を冷却する放熱器2と、高圧の冷媒を断熱膨張させ低圧にさせる手段である膨張弁3と、断熱膨張して低圧低温になった冷媒を蒸発させる蒸発器4と、被加熱流体を放熱器2に導入する前に被加熱流体を冷却する予冷器5とを備えている。
【0025】
図1に示すように構成された超臨界サイクルヒートポンプ装置において、冷媒14は圧縮機1により超臨界状態まで圧縮される。圧縮後の冷媒11の温度は、ヒートポンプシステムで発生させる熱により加熱される加熱対象物の要求仕様によるが、冷媒として二酸化炭素を用いる場合、80〜130℃くらいで使用されることが多い。
圧縮後の冷媒11は、放熱器2により冷却され冷媒12となる。この時の冷媒11と冷媒12の比エンタルピ差(kJ/kg)に冷媒循環量(kg/s)を掛けると、発生熱量(kW)となる。冷媒12は、冷媒を低圧にして膨張させる手段である膨張弁3により冷媒13となり、蒸発器4により加熱されて冷媒14に戻る。この時の冷媒13と冷媒14の比エンタルピ差(kJ/kg)に冷媒循環量(kg/s)を掛けた値が発生冷熱量(kW)である。よって、冷媒サイクルのCOPを向上させるためには、放熱器2で冷却された後の冷媒12の温度は低いことが望まれる。
【0026】
冷媒12の温度は、放熱器2において冷却に使用される被加熱流体の放熱器入口温度に依存する。この時の被加熱流体は本実施例では空気を想定するが、水などの流体でも構わない。冷媒として二酸化炭素を用いる場合、冷媒出口温度を最高温度の目安である概ね50℃まで冷却するには、放熱器での被加熱流体入口温度は概ね40℃以下であることが望まれる。
被加熱流体に空気を用いる場合、一般に外気または室内空気を導入する。空気を放熱器2で加熱することにより発生させた熱風を乾燥工程に用いた後の排風を循環してもよい。
【0027】
ヒートポンプシステムは一般に機械室に設置され、乾燥装置として使用する場合は特に室内温度は上昇しやすい傾向にあるため、40℃を超えるケースもありうる。また、近年の温暖化により外気であっても40℃を超えるケースも出てきている。
また、前述したように冷媒12の温度が低いと冷媒サイクルのCOPが向上するので、被加熱流体温度は低く設定した方がより効率的である。したがって、本発明においては、被加熱流体を冷却して被加熱流体の温度を低下させるために予冷器5を設置している。
【0028】
図1に示す実施形態においては、予冷器5において被加熱流体8を冷却する手段として、冷熱源流体20を使用している。予冷器5において、被加熱流体8は冷熱源流体20により冷却され、低温被加熱流体9となる。放熱器2において冷却に使用される被加熱流体が低温化することにより、冷媒12の温度を低くすることができる。
この結果、冷媒11と冷媒12の比エンタルピ差(kJ/kg)に冷媒循環量(kg/s)を掛けた値である発生熱量(kW)が増えると共に、冷媒13と冷媒14の比エンタルピ差(kJ/kg)に冷媒循環量(kg/s)を掛けた値である発生冷熱量(kW)も増やすことができる。よって、冷媒サイクルのCOPを向上させることができる。
【0029】
本発明の超臨界サイクルヒートポンプ装置の他の実施形態を示す図2においては、予冷器5において被加熱流体8を冷却する手段として、熱源流体6の一部を使用している。そして、予冷器5において被加熱流体8から熱を奪って加温された熱源流体6の一部または全量を蒸発器4の入口に戻すことによりヒートポンプの熱源として有効に使用することもできる。
【0030】
本発明の超臨界サイクルヒートポンプ装置の更に他の実施形態を示す図3においては、予冷器5において被加熱流体8を冷却する手段として、蒸発器4において冷媒により蒸発潜熱エネルギーを奪われた低温熱源流体7を使用している。低温熱源流体7はブースタポンプ21により予冷器5に供給される。そして、予冷器5において被加熱流体8から熱を奪って加温された低温熱源流体の一部または全量を蒸発器4の入口に戻すことによりヒートポンプの熱源として有効に使用することもできる。
この場合、被加熱流体8を低温被加熱流体9にするのに必要な低熱源は、ヒートポンプで発生する冷熱量を使用するうえに、冷媒12の温度が下がることで蒸発器4で発生する冷熱量は、冷媒12の温度を下げるのに必要な熱量分増量する。よって、全体の熱必要量が増えることはない。
【0031】
冷媒12は膨張弁3により低圧まで膨張され冷媒13となる。冷媒を膨張させる手段として膨張弁3を用いたが、キャピラリチューブであってもよい。冷媒13は蒸発器4において熱源流体6によって蒸発されて冷媒14に戻る。
熱源流体としては、一般に冷却水またはチラー水、ブラインの類が使用され、熱源流体は概ね−20℃〜40℃の範囲にある。冷却水とは、冷却塔水・工水・市水の類の常温の水であり、チラー水とは冷却水より低温の水であり一般には冷凍機などにより作られる。
【0032】
熱源流体6と低温熱源流体7の温度差が概ね5℃となるように、熱源流体量の流量は調整される。図1に示す実施形態においては、低温被加熱流体9を流す管路に温度を検出するセンサー15を設置する。該センサー15により検出される温度に基づいて、温度調節計16により冷熱源流体20を流す管路に設けられた制御弁17の開度を制御して冷熱源流体の流量を調整することにより、低温被加熱流体9の温度を目標設定温度になるように制御する。なお、図2および図3に示す例においては、センサー15、温度調節計16および制御弁17により熱源流体6または低温熱源流体7の流量を調整することにより低温被加熱流体の温度を目標設定温度になるように制御する。この結果、被加熱流体8の温度が変化しても低温被加熱流体9の温度を一定に保つことができ、ヒートポンプシステムを常に効率よく運転することができると共に、被加熱流体の温度が装置の上限温度を超える場合でも、ヒートポンプシステムを停止させることなく連続運転することができる。
【0033】
冷媒として二酸化炭素を用いる場合、被加熱流体の上限温度は40℃、下限温度は蒸発器4において正圧を保つため−40℃とする。
冷媒として二酸化炭素を使用し、被加熱流体として40℃の外気を導入し、熱源流体として−5℃のブラインを使用し、冷媒サイクルで125℃まで昇温するケースを想定する。尚、低温熱源流体は−10℃で取り出すものとする。
被加熱流体の冷却を行なわない場合、冷媒12の温度は概ね45℃、冷却を行なう場合、冷媒12を概ね25℃および5℃まで冷却するとする。
【0034】
図4は圧力−エンタルピ線図である。図4に示すように、冷媒サイクルはサイクル1、2、3となる。図4中、サイクル1、2、3における一部の直線は、本来、重なって図示されるべきであるが、各サイクルを識別できるように一部の直線を重ならないように図示している。表1はサイクル1、2、3における主要な値を示す。
【表1】

【0035】
サイクル1の場合、40℃の外気を冷却することなく、そのまま放熱器2に導入する。
サイクル2の場合、40℃の外気を予冷器5で25℃まで冷却するので、冷熱源としては20℃程度の冷却水があれば被加熱流体の冷却が可能である。
図1に示すように、被加熱流体の冷却のために冷熱源流体を単独で設けた場合は、発生熱量のみならず、発生冷熱量も向上させることが可能となる。
サイクル3の場合、40℃の外気を予冷器5で5℃まで冷却するので、冷熱源としては0℃程度のチラー水もしくはブラインを必要とするが、大幅にCOPを向上させることが可能である。
図3に示すように、被加熱流体の冷却に、冷媒13を蒸発させる蒸発器4において冷媒により蒸発潜熱を奪われた低温熱源流体7を使用することもできる。
被加熱流体の冷却に使用する熱量は、サイクル1の冷媒12である345kJ/kgと、サイクル3の冷媒12である210kJ/kgとの差であるが、この冷熱量は、サイクル1での冷熱発生量である冷媒13と冷媒14のエンタルピ差90kJ/kgと、サイクル3における冷熱発生量である冷媒13と冷媒14のエンタルピ差225kJ/kgとの差と同じであるので、新たに熱量を必要としない。
以上のように、被加熱流体を放熱器に導入する前に冷却することで、COPを大幅に向上させることが可能である。
【0036】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0037】
1 圧縮機
2 放熱器
3 膨張弁
4 蒸発器
5 予冷器
6 熱源流体
7 低温熱源流体
8 被加熱流体
9 低温被加熱流体
11,12,13,14 冷媒
15 センサー
16 温度調節計
17 制御弁
20 冷熱源流体
21 ブースタポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を断熱圧縮する圧縮機と、断熱圧縮された冷媒を冷却する放熱器と、高圧の冷媒を断熱膨張させて低圧にする膨張弁と、断熱膨張して低圧低温になった冷媒を蒸発させる蒸発器とを備え、断熱圧縮された高圧冷媒が超臨界状態となる超臨界サイクルヒートポンプ装置において、
前記放熱器において冷媒との熱交換により加熱される被加熱流体を前記放熱器に導入する前に冷却するようにしたことを特徴とする超臨界サイクルヒートポンプ装置。
【請求項2】
前記被加熱流体は空気または水であることを特徴とする請求項1記載の超臨界サイクルヒートポンプ装置。
【請求項3】
前記蒸発器で前記低圧低温の冷媒を蒸発させるための熱源流体はチラー水及び/又は冷却水であることを特徴とする請求項1記載の超臨界サイクルヒートポンプ装置。
【請求項4】
前記放熱器の入口側に予冷器を設置し、冷熱源流体により被加熱流体を冷却することを特徴とする請求項1記載の超臨界サイクルヒートポンプ装置。
【請求項5】
前記放熱器の入口側に予冷器を設置し、前記蒸発器の入口側の熱源流体により被加熱流体を冷却することを特徴とする請求項1記載の超臨界サイクルヒートポンプ装置。
【請求項6】
前記予冷器から出る加温された熱源流体の一部又は全量を前記蒸発器の入口側へ戻すことを特徴とする請求項5記載の超臨界サイクルヒートポンプ装置。
【請求項7】
前記放熱器の入口側に予冷器を設置し、前記蒸発器の出口側の熱源流体により被加熱流体を冷却することを特徴とする請求項1記載の超臨界サイクルヒートポンプ装置。
【請求項8】
前記予冷器から出る加温された熱源流体の一部又は全量を前記蒸発器の入口側へ戻すことを特徴とする請求項7記載の超臨界サイクルヒートポンプ装置。
【請求項9】
前記冷媒は二酸化炭素であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の超臨界サイクルヒートポンプ装置。
【請求項10】
前記放熱器の入口側の被加熱流体の入口温度は、40℃以下、−40℃以上であることを特徴とする請求項9記載の超臨界サイクルヒートポンプ装置。
【請求項11】
前記放熱器の入口側に前記被加熱流体の温度を検出する手段を設け、前記被加熱流体を冷却するために前記予冷器に供給する流体の流量を調整する流量調整手段を設け、前記被加熱流体の温度を所定温度に保つように前記流量調整手段を制御することを特徴とする請求項10記載の超臨界サイクルヒートポンプ装置

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−132650(P2012−132650A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287037(P2010−287037)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)