説明

超臨界含浸を用いたモノリス状金属化合物複合シリカエアロゲルの製造方法

【課題】シリカ湿潤ゲルに金属化合物を液相で含浸する方法においては、化合物の種類や濃度により、ゲル内部への浸透に長時間を要したり、内部まで十分浸透しないため、モノリス状金属化合物複合シリカエアロゲルが得られない場合が多々見られた。
【課題を解決する手段】シリカ湿潤ゲル体に、金属化合物を混合した乾燥媒体を含浸し、乾燥させて金属化合物とシリカ粒子が複合化したシリカエアロゲルを得る方法において、含浸工程と乾燥工程を共に乾燥媒体の超臨界条件で行うことを特徴とするモノリス状金属化合物複合シリカエアロゲルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、高性能断熱材、高性能触媒、高機能光材料の前駆体として優れている、モノリス状複合シリカエアロゲルを製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、シリカエアロゲルを調製する方法としては、アルコキシシランを用いて溶媒を内部に含む湿潤ゲル体を調製し、超臨界状態で乾燥する方法(U.S.P. 4,327,065明細書参照)があり、複合シリカエアロゲルを製造する方法としては、シリカアルコゲルを金属化合物のアルコール溶液に含浸し、その後超臨界乾燥する方法(特開平6−227809)がある。
【0003】
【発明が解決しようとする問題】上記のU.S.P. 4,327,065号明細書記載の方法で得られるシリカエアロゲルは、ナノメートルレベルのシリカ粒子が樹枝状に凝集した、低密度で、空隙率、比表面積の極めて大きな多孔体であり、低い熱伝導率を持つ断熱材や特殊ガラスの前駆体として用いられる。これらは他の金属成分を複合化することにより、赤外線反射能の付与による断熱性の向上や、高機能触媒としての利用、新たな光物性の付与などが期待できる。
【0004】しかし、シリカ湿潤ゲルの調製時に他の金属化合物を混合して複合化を行おうとした場合、アルコキシシランの反応が複合化する成分により影響を受けるため、複合化する成分の量が増大するにつれて、ナノメーターレベルの構造制御が困難となるという問題点があった。また、シリカ湿潤ゲルに金属化合物を液相で含浸する方法においては、構造の制御については良好であるものの、化合物の種類や濃度により、ゲル内部への浸透に長時間を要したり、内部まで十分浸透しない場合が多々見られた。結果として組成が限定されたり,ゲルの不均質により乾燥、熱処理の時点で割れや変形を伴うため、モノリス状の複合エアロゲルが得られない場合があった。
【0005】
【発明の解決しようとする問題】そこで、この発明は、ナノメータレベルの構造が十分制御され、かつ均質性の高いモノリス状金属酸化物複合シリカエアロゲルを迅速に得ることを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、この発明は、シリカ湿潤ゲル体に、金属化合物を混合した乾燥媒体を含浸し、乾燥させて金属化合物とシリカ粒子が複合化したシリカエアロゲルを得る方法において、含浸工程と乾燥工程を共に乾燥媒体の超臨界条件で行うことにより、モノリス状金属酸化物複合シリカエアロゲルが効率的に得られることを見いだして、本発明を完成するに至った。
【0007】この発明におけるシリカ湿潤ゲル体は、ケイ酸分を主成分とし、内部に溶媒を含むゼリー状の物質であれば、種類、および調製方法は特に限定されない。具体例をあげると、例えばテトラメトキシシランを用い、アンモニア等の塩基触媒または塩酸等の酸触媒の存在下で加水分解して得られるシリカ湿潤ゲル体、ケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス)に塩酸等の酸を加えて得られるシリカ湿潤ゲル体などが用いられる。
【0008】これらのシリカ湿潤ゲルは、あらかじめ超臨界乾燥に使用する媒体もしくはそれと親和性のある溶媒中に含浸して応じて内部の溶媒を置換する。超臨界乾燥法に用いる媒体は複合化する成分の種類、性質に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、通常はメタノール、エタノール等のアルコール類と二酸化炭素およびこれらの2成分系が用いられる。
【0009】次いで、これらのシリカ湿潤ゲルは、乾燥媒体および金属化合物と共に圧力容器に密閉される。金属化合物は、乾燥媒体に溶解し、シリカ湿潤ゲルと反応もしくは吸着して担持される物質であれば、種類は特に限定されない。具体例を挙げると、チタンテトライソプロポキシド、アルミニウムトリn-ブトキシド等の金属アルコキシドおよびそれらを適当な配位子で修飾した複合体、チタニルアセチルアセトナトなど金属アセチルアセトナトおよびその誘導体等が用いられる。
【0010】シリカ湿潤ゲルを密閉した圧力容器はそのまま昇温昇圧されるか、または外部より高圧ポンプ等を用いて乾燥媒体を導入して昇圧したのち昇温して、臨界点以上の条件で3〜12時間保持される。超臨界点の条件は、乾燥媒体および金属化合物の種類によって異なり、例えばアルコールと二酸化炭素の2成分系を乾燥媒体に用い、金属化合物としてチタンテトライソプロポキシド-アセチルアセトナトを用いる場合においては80℃、160気圧以上である。金属化合物は超臨界条件の下でシリカ湿潤ゲル内に急速に拡散し、ゲル中の水酸基と反応もしくはゲル表面に吸着して担持される。その後、温度、圧力を保持したまま、複合化成分を含まない乾燥媒体を圧力容器内に2〜3時間流通させ、過剰の金属化合物を容器内より除去したのち、減圧、乾燥してエアロゲルを得る。得られたエアロゲルを空気中500℃以上で熱処理することにより金属酸化物複合シリカエアロゲルが得られる。
【0011】
【本発明の実施の形態】本発明の実施の形態は、以下の通りである。
(1)シリカ湿潤ゲル体に、金属化合物を混合した乾燥媒体を含浸し、乾燥させて金属化合物とシリカ粒子が複合化したシリカエアロゲルを得る方法において、含浸工程と乾燥工程を共に乾燥媒体の超臨界条件で行うことを特徴とするモノリス状金属化合物複合シリカエアロゲルの製造方法。
(2)金属化合物が、チタンテトライソプロポキシド、アルミニウムトリn-ブトキシド等の金属アルコキシドおよびそれらを適当な配位子で修飾した複合体、チタニルアセチルアセトナトなど金属アセチルアセトナトおよびその誘導体のいずれかひとつである上記1記載のモノリス状金属化合物複合シリカエアロゲルの製造方法。
(3)乾燥媒体が、アルコール類及び/又は炭酸ガスである上記1又は上記2に記載されたモノリス状金属化合物複合シリカエアロゲルの製造方法。
(4)シリカ湿潤ゲルがアルコゲルである上記1ないし上記3のいずれか一つに記載されたモノリス状金属化合物複合シリカエアロゲルの製造方法。
【0012】
【実施例】以下に、この発明を具体化した実施例を示すが、本発明はこれによって何ら限定されるべきものではない。
<実施例1>テトラメトキシシラン、メタノール、0.0135mol/lアンモニア水溶液を20℃の条件下で混合し、内径30mm、深さ10mmの容器中に流し込んで静置し、シリカの湿潤ゲル体を得た。このゲルを密閉して、48時間、60℃で熟成した。その後、過剰量の2−プロパノール中に24時間、途中数回2−プロパノールを交換しながら含浸することによって未反応成分の除去と溶媒交換を行った。
【0013】次に、50mlの圧力容器中に、上記シリカ湿潤ゲル体を3個、濃度1.24mol/lのチタンテトライソプロポキシド−アセチルアセトナトの2−プロパノール溶液25mlを入れ、密閉後二酸化炭素を導入して200気圧まで昇圧し、さらに80℃まで加熱して超臨界状態とした。圧力容器内の圧力は圧力調整器で一定とした。この状態でそれぞれ3,6,12時間保持し、シリカ湿潤ゲル表面に上記チタン化合物を結合させた。
【0014】次に、同圧力容器内に超臨界二酸化炭素を毎分2mlで3時間流通させ、残存する2―プロパノールおよび上記チタン化合物を容器内より除去して、超臨界二酸化炭素のみの状態とした。次いで温度を保ったまま、1分あたり1気圧の減圧となるよう徐々に二酸化炭素を抜いて常圧とし、エアロゲルを得た。このエアロゲルを酸素中、500℃で焼成してチタニア複合シリカエアロゲルを得た。
【0015】<比較例1>実施例1と同様にして調製したシリカ湿潤ゲルを、濃度1.24mol/lのチタンテトライソプロポキシド−アセチルアセトナトの2−プロパノール溶液25mlに、常温常圧で、それぞれ3,6,12時間含浸してチタン化合物を担持した。次に、50mlの圧力容器中に、上記シリカ湿潤ゲル体を3個、2−プロパノール溶液25mlを入れ、二酸化炭素を導入して圧力を200気圧とし,さらに80℃まで加熱して超臨界状態とし以降は実施例1と同様にして、チタニア複合シリカエアロゲルを得た。
【0016】実施例1、比較例1のようにして得られた、チタニア複合シリカエアロゲルの中心部分(直径15mm、高さ5mm程度)およびそれ以外の外部に含まれるチタンの原子比(ケイ素とチタンの原子数の合計を100%とする)を蛍光X線分析法により測定し、表1にまとめた。
【0017】
【表1】


【0018】上記表からわかるように、実施例1の超臨界含浸を用いて調製したチタニア複合シリカエアロゲルは、溶液中で含浸を行った比較例1のエアロゲルに比べ、短時間でチタン成分がゲル内部に浸透していることがわかる。
【0019】実施例2実施例1において、チタンテトライソプロポキシド−アセチルアセトナトの2−プロパノール溶液の濃度をそれぞれ0.618、0.309、0.155mol/lとし、保持時間を12時間とした他は、実施例1と同様にしてチタニア含浸シリカエアロゲルを調製した。
【0020】比較例2比較例1において、チタンテトライソプロポキシド−アセチルアセトナトの2−プロパノール溶液の濃度をそれぞれ0.618、0.309、0.155mol/lとし、保持時間を12時間とした他は、比較例1と同様にしてチタニア含浸シリカエアロゲルを調製した。
【0021】実施例2、比較例2のようにして得られた、チタニア複合シリカエアロゲルの中心部分(直径15mm、高さ5mm程度)およびそれ以外の外部に含まれるチタンの原子比(ケイ素とチタンの原子数の合計を100%とする)を蛍光X線分析法により測定し、表2にまとめた。
【0022】
【表2】


【0023】上記表からわかるように、チタン化合物の濃度が低い場合、比較例2の溶液での含浸では、内部まで十分チタン成分が浸透していないが、実施例2の超臨界含浸を用いて調製したチタニア複合シリカエアロゲルでは、ゲル中心部のチタン含量が向上していることがわかる.超臨界状態においては、一般的に溶媒の粘性は液体の10分の1以下に、また物質の拡散係数は10倍以上になる。このため、複合化する成分の、シリカ湿潤ゲルの細孔内への拡散が促進され、迅速かつ均質な複合化が達成できたものと考えられる。
【0024】
【発明の効果】本発明によると、常温常圧の液相で含浸させる場合よりも迅速に、かつより均質な状態で含浸が行えるから、金属酸化物を担持したモノリス状複合シリカエアロゲルを、効率よく得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】シリカ湿潤ゲル体に、金属化合物を混合した乾燥媒体を含浸し、乾燥させて金属化合物とシリカ粒子が複合化したシリカエアロゲルを得る方法において、含浸工程と乾燥工程を共に乾燥媒体の超臨界条件で行うことを特徴とするモノリス状金属化合物複合シリカエアロゲルの製造方法。
【請求項2】金属化合物が、チタンテトライソプロポキシド、アルミニウムトリn-ブトキシド等の金属アルコキシドおよびそれらを適当な配位子で修飾した複合体、チタニルアセチルアセトナトなど金属アセチルアセトナトおよびその誘導体のいずれかひとつである請求項1記載のモノリス状金属化合物複合シリカエアロゲルの製造方法。
【請求項3】乾燥媒体が、アルコール類及び/又は炭酸ガスである請求項1又は請求項2に記載されたモノリス状金属化合物複合シリカエアロゲルの製造方法。
【請求項4】シリカ湿潤ゲルがアルコゲルである請求項1ないし請求項3のいずれか一つに記載されたモノリス状金属化合物複合シリカエアロゲルの製造方法。

【特許番号】特許第3118571号(P3118571)
【登録日】平成12年10月13日(2000.10.13)
【発行日】平成12年12月18日(2000.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−264778
【出願日】平成11年9月20日(1999.9.20)
【審査請求日】平成11年9月20日(1999.9.20)
【実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【識別番号】220000390
【氏名又は名称】 220000390 工業技術院物質工学工業技術研究所長
【参考文献】
【文献】特開 平11−128722(JP,A)