説明

超臨界水酸化反応シミュレーション方法およびプログラム

【課題】 超臨界水を用いた酸化反応のシミュレーションにおいて、反応に関与する固体表面近傍での状態を、コンピュータを用いて正確かつ簡便に評価する。
【解決手段】 超臨界水酸化反応シミュレーション方法は、流体計算パラメータを設定する流体計算パラメータ設定ステップS1と、複数の固体反応モデルの中から適切な固体反応モデルを選択する固体反応モデル選択ステップS2と、選択された固体反応モデルで使用する固体反応パラメータを設定する固体反応パラメータ設定ステップS3と、流体計算パラメータ設定ステップS1、固体反応モデル選択ステップS2、固体反応パラメータ設定ステップS3の結果に基づいて流体計算を行なう流体計算ステップS4と、流体計算ステップの結果を出力する出力ステップS5と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータを利用して超臨界水を用いた酸化反応を計算する超臨界水酸化反応シミュレーション方法およびそのためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超臨界流体は、環境、エネルギー・資源、新素材開発などの多方面への応用が考えられる。とりわけ、環境へ有害物質を排出しないクローズドシステムでの処理が可能であることから、超臨界水の廃棄物処理への適用が進んでおり、実規模装置が製作されつつある。
【0003】
従来は、これら超臨界水廃棄物処理装置の設計は、経験にたよる部分が大きかった。このため、反応物質が液体・気体・超臨界流体のように、密度などの物理量が空間的に連続に変化するような「均質媒体」である場合には、反応容器内の超臨界流体を連続的に近似するなど、ある程度のシステム評価は可能であった。
【0004】
反応物質がスラリのような固体である場合、反応により、温度や酸素濃度が固体表面近傍で局所的に大きな変化を示し、その結果として反応容器内の流動状況も変化するような、複雑な現象になる。
【0005】
従来技術では、粒子固体については、粒子周りの流れを考慮した反応速度についての理論式・経験式が提案されている(非特許文献2の式(2・147)、非特許文献3の式(8)、非特許文献4の式(20)参照)。しかし、反応容器のような多数の粒子が存在する系においては、粒子群を連続体とみなした取り扱いが主流であり(特許文献1、非特許文献1参照)、反応容器内の超臨界流体の流れに応じて粒子が局所的に集群するような現象を取り扱うことはできない。そのような観点から、従来の反応容器設計で用いられている手法は、非常に大まかな設計にとどまっている。また、十分な反応効率を確保するため、あるいは粒子の集群などに起因する局所的な温度上昇などを安全側に評価するなど、全体的に反応容器を大型に設計している。
【特許文献1】特開2002-326029号公報
【非特許文献1】化学工学会編「化学工学便覧」p.226.
【非特許文献2】化学工学会編「化学工学便覧」p.139.
【非特許文献3】R. Zevenhoven, M. Jaervinen, “CFB Combustion, Particle Slip Velocity and Particle/Turbulence Interactions,” Proc. Of the 7th Int. Conf. On Circulating Fluidized Beds, 2002, pp. 475-482.
【非特許文献4】D. Kunii, M. Suzuki, “Particle-to-Fluid Heat and Mass Transfer in Packed Beds of Fine Particles,” In. J. Heat Mass Transfer, Vol. 10, 1967, pp. 845-852.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような固体反応を伴う反応容器設計では、局所的な温度変化や酸素濃度を正確に評価することは容易ではなく、したがって、それらを過大に評価して余裕を持たせ、必要以上に大型の容器を設計することになる。
【0007】
本発明の目的は、超臨界水を用いた酸化反応のシミュレーションにおいて、反応に関与する固体表面近傍での温度や酸素濃度などの状態を、コンピュータを用いて正確かつ簡便に評価することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る超臨界水酸化反応シミュレーション方法は、プログラムされたコンピュータによって、超臨界水を用いた酸化反応を計算する超臨界水酸化反応シミュレーション方法であって、流体計算パラメータを設定する流体計算パラメータ設定ステップと、複数の固体反応モデルの中から適切な固体反応モデルを選択する固体反応モデル選択ステップと、選択された固体反応モデルで使用する固体反応パラメータを設定する固体反応パラメータ設定ステップと、前記流体計算パラメータ設定ステップ、固体反応モデル選択ステップ、固体反応パラメータ設定ステップの結果に基づいて流体計算を行なう流体計算ステップと、前記流体計算ステップの結果を出力する出力ステップと、
を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る超臨界水酸化反応シミュレーションプログラムは、コンピュータに、流体計算パラメータを設定する流体計算パラメータ設定ステップと、複数の固体反応モデルの中から適切な固体反応モデルを選択する固体反応モデル選択ステップと、選択された固体反応モデルで使用する固体反応パラメータを設定する固体反応パラメータ設定ステップと、前記流体計算パラメータ設定ステップ、固体反応モデル選択ステップ、固体反応パラメータ設定ステップの結果に基づいて流体計算を行なう流体計算ステップと、前記流体計算ステップの結果を出力する出力ステップと、を実行させて、超臨界水を用いた酸化反応のシミュレーションを行なわせる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、超臨界水を用いた酸化反応のシミュレーションにおいて、反応に関与する固体表面近傍での温度や酸素濃度などの状態を、コンピュータを用いて正確かつ簡便に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態を、図1ないし図3を参照して説明する。図1は、本発明に係る反応容器シミュレーション方法の全体構成を示す流れ図であって、プログラムにより、コンピュータを利用して実行される。本実施形態は、流体計算パラメータを設定する流体計算パラメータ設定ステップS1と、複数の固体反応モデルの中から適切な固体反応モデルを選択する固体反応モデル選択ステップS2と、選択された固体反応モデルで使用する固体反応パラメータを設定する固体反応パラメータ設定ステップS3と、を有する。そして、これらのステップの結果に基づいて流体計算を行なう流体計算ステップS4と、この流体計算ステップの結果を出力する結果出力ステップS5を有する。
【0012】
流体計算パラメータ設定ステップS1は、反応容器に入力する超臨界水の流量、温度、あるいは酸化反応に利用する酸素濃度など、流体解析に必要なパラメータを入力する仕組みを持つ。固体反応モデル選択ステップS2は、スラリ等の反応粒子の投入形態に応じて、使用する固体反応工学モデルを選択することができ、固体反応パラメータ設定ステップS3は、選択した固体反応モデルに必要なパラメータを設定することができる。本実施形態の例では、粒子表面近傍についての固体反応モデルを3種類、および粒子内部についての固体反応モデルを2種類具備している。
【0013】
この実施形態に用意されている固体反応モデルについて具体的に説明する。まず、固体粒子表面についてのモデルについて説明する。
【0014】
酸化反応の進行に伴い、反応に必要な粒子表面近傍の酸素濃度がバルク(粒子表面から十分に離れた位置)の酸素濃度に比べて低くなる。スラリなどの微小粒子をシミュレートする際には、解析のメッシュサイズと比べ粒子が小さく、粒子表面近傍の酸素濃度を正確に計算することができないため、バルクの酸素濃度を用いて粒子表面近傍の酸素濃度を推定することにより、従来よりも正確な反応速度が予測できる。
【0015】
一般的に、粒子表面での単位表面積あたりの反応速度q[mol/m/s]は
【数1】

で与えられる。ここで、qMTは酸素が表面に到達して瞬時に反応すると仮定したときの反応速度[mol/m/s]である。一方、qCHEMは表面までの酸素の輸送抵抗が無視できると仮定したときの反応速度[mol/m/s]で、基本的には粒子表面の温度に依存する。qMT>>qCHEMの場合、粒子表面の酸素濃度はゼロではなく、qは表面酸素濃度と表面温度に依存する反応律速となる。qMT<<qCHEMの場合、粒子表面の酸素濃度はほぼゼロであり、qは粒子表面までの酸素の移動律速となる。
【0016】
本実施形態の例では、粒子表面への酸素移動を考慮したqMTを表す反応モデルを具備している。図2に示すように、固体粒子1の近傍の酸素濃度分布2を、直線(折れ線)3で近似する。酸素移動律速では、粒子表面に単位時間に到達する酸素量は、酸素濃度を表す直線の傾きで表されるため、酸素の拡散係数[m/s]をDとすると、
MT=(D/δ)C=kdiff
と書ける。ここで、Cはバルクの酸素濃度[mol/m]、kdiffは物質移動係数[m/s]である。δは、図2のモデルにおいて、粒子表面からバルクの酸素濃度と判断される位置までの距離[m]である。また、ここでは酸素移動律速のため、粒子表面における酸素濃度をゼロとしている。δは、シャーウッド数Shを用いて
δ=d/Sh
と与える。dはスラリ粒子の直径[m]である。
【0017】
本実施形態の例では、シャーウッド数Shを決めるための、以下の3種類のモデルを具備している。
【0018】
(1)流量が小さい場合
Sh=一定
(2)スラリ粒子数密度が小さい場合
Sh=2+0.6Re1/2Sc1/3
Re=ρ/μ
Sc=μ/(ρD)
ρはバルク流体の密度[kg/m]、uはバルク流体の流速[m/s]、μはバルク流体の粘性係数[Pa・s]である。
【0019】
(3)スラリ粒子数密度が大きい場合、粒子が流動層化している場合
(i)粒子のスリップ速度から計算したレイノルズ数ReがRe>2のとき
Sh=2φ+0.89Re1/2Sc1/3
(ii) 粒子のスリップ速度から計算したレイノルズ数ReがRe<2のとき
Sh=[f/{6(1−φ)ζ}]Pe
φは流体の空間体積率、fは粒子の形状因子、ζはチャンネル因子、Peはペクレ数(=RePr=μC/λ、λは熱伝導度)である。
【0020】
反応容器の設計者は、反応物である粒子の大きさ、単位時間の投入量、投入形式などに応じて、適切な固体反応モデルを選択することがでる。選択された固体反応モデルは、粒子近傍の酸素濃度を正確にモデル化しているため、正確な反応速度を求めることができる。
【0021】
本実施形態の効果を説明する。固体反応をともなう反応容器の設計では、通常は、バルクの酸素濃度を用いて反応速度を評価する。例として、図3に、バルク酸素濃度が2%であるときの、従来技術の方法を用いたときの反応速度(点線で示す)と本発明の方法を用いたときの反応速度(実線で示す)の比較を示す。図3において横軸は温度、縦軸は反応速度である。ここでは、Sh=2を仮定している。
【0022】
一般に、超臨界水を用いた反応炉では、運転温度を700K以上に設定する。従来技術では、700K以上の温度でも、反応速度は温度とともに上昇する。本発明によるシミュレーション方法では、反応速度の上昇にともなう粒子表面における酸素濃度の減少により、反応が物質移動律速に遷移する効果を考慮することができ、現実に近い反応速度を用いたシミュレーションが可能になる。800K以上では、両者の差は1桁以上になり、本発明に係るシミュレーション技術を用いることにより、システム設計において、必要以上に反応容器を大きく設計する必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るシミュレーション方法の全体構成を示す流れ図。
【図2】固体粒子表面近傍の酸素濃度分布を示す図。
【図3】従来技術で評価した固体粒子表面の反応速度と、本発明に係るシミュレーション方法を用いて評価した固体粒子表面の反応速度を比較して示すグラフ。
【符号の説明】
【0024】
1…固体粒子
2…酸素濃度分布
3…酸素濃度近似分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プログラムされたコンピュータによって、超臨界水を用いた酸化反応を計算する超臨界水酸化反応シミュレーション方法であって、
流体計算パラメータを設定する流体計算パラメータ設定ステップと、
複数の固体反応モデルの中から適切な固体反応モデルを選択する固体反応モデル選択ステップと、
選択された固体反応モデルで使用する固体反応パラメータを設定する固体反応パラメータ設定ステップと、
前記流体計算パラメータ設定ステップ、固体反応モデル選択ステップ、固体反応パラメータ設定ステップの結果に基づいて流体計算を行なう流体計算ステップと、
前記流体計算ステップの結果を出力する出力ステップと、
を有することを特徴とする、超臨界水酸化反応シミュレーション方法。
【請求項2】
酸素が粒子表面に到達して瞬時に反応すると仮定したときの反応速度をqMTとし、表面までの酸素の輸送抵抗が無視できると仮定したときの反応速度をqCHEMとするとき、選択される前記固体反応モデルにおいて評価される固体粒子表面での単位表面積あたりの反応速度qが、
【数1】

で与えられること、を特徴とする請求項1に記載の超臨界水酸化反応シミュレーション方法。
【請求項3】
バルクでの酸素濃度をCとし、スラリ粒子の直径をdとし、超臨界流体中の酸素の拡散係数をDとするとき、酸素が粒子表面に到達して瞬時に反応すると仮定したときの反応速度qMTが、
MT=DC/δ
と表わされ、シャーウッド数Shを用いて、δが
δ=d/Sh
で与えられること、を特徴とする請求項2に記載の超臨界水酸化反応シミュレーション方法。
【請求項4】
前記シャーウッド数Shとして、一定の実数を入力すること、を特徴とする請求項3に記載の超臨界水酸化反応シミュレーション方法。
【請求項5】
バルク流体の密度をρとし、バルクでの流体の流速をuとし、バルク流体の粘性係数をμとするとき、
前記シャーウッド数Shが、
Sh=2+0.6Re1/2Sc1/3
Re=ρ/μ
Sc=μ/(ρD)
で与えられること、を特徴とする請求項3に記載の超臨界水酸化反応シミュレーション方法。
【請求項6】
流体の空間体積率をφとし、粒子の形状因子をfとし、チャンネル因子をζとし、ペクレ数をPeとし、熱伝導度をλとするとき、
固体粒子のスリップ速度から計算したレイノルズ数ReがRe>2のときには、
シャーウッド数Scが、
Sh=2φ+0.89Re1/2Sc1/3
として与えられ、
固体粒子のスリップ速度から計算したレイノルズ数ReがRe<2のときには、
シャーウッド数Scが、
Sh=[f/{6(1−φ)ζ}]Pe
として与えられること、を特徴とする請求項3に記載の超臨界水酸化反応シミュレーション方法。
【請求項7】
コンピュータに、
流体計算パラメータを設定する流体計算パラメータ設定ステップと、
複数の固体反応モデルの中から適切な固体反応モデルを選択する固体反応モデル選択ステップと、
選択された固体反応モデルで使用する固体反応パラメータを設定する固体反応パラメータ設定ステップと、
前記流体計算パラメータ設定ステップ、固体反応モデル選択ステップ、固体反応パラメータ設定ステップの結果に基づいて流体計算を行なう流体計算ステップと、
前記流体計算ステップの結果を出力する出力ステップと、
を実行させて、超臨界水を用いた酸化反応のシミュレーションを行なわせる超臨界水酸化反応シミュレーションプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−155271(P2006−155271A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−345528(P2004−345528)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発委託研究 産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】