説明

超親水性ナノ構造体

超親水性ナノ構造体の実施形態はナノ粒子を含む。前記ナノ粒子は多孔質クラスターに形成されている。多孔質クラスターは凝集クラスターに形成されている。製品の実施形態は、基材上に超親水性ナノ構造体を備える。超親水性ナノ構造体を製造する方法の実施形態は、ナノ粒子を含有する溶液を基材に塗布することを含む。前記基材は前記ナノ粒子の多孔質クラスターの凝集クラスターを形成するために加熱される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面科学の分野に関し、より具体的には、表面の親水性挙動の改善が所望される表面科学の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
冷たい表面が急に暖かい湿った空気に接触すると、しばしば、曇り(fogging)が生じる。曇りは光を散乱し、多くの場合、その表面を半透明にする。重度の曇りは、最終的に透明材料の実用性を損なう可能性があり、例えば、その曇ったものが車のフロントガラスまたはゴーグルレンズである場合には危険な状態になり得る。
【0003】
例として、ガラスまたはプラスチック製の眼鏡レンズの曇りは、空気中の水蒸気が空気と眼鏡レンズとの温度差によって凝結し、その結果、小さな水滴が眼鏡レンズの表面に付着して光を複雑な方法で不規則に反射または屈折させる場合に生じる。そのような曇りの発生を防止するためには、表面張力を低下させることによって、水滴の生成が防止されるように、眼鏡レンズの表面を親水性活性剤のような防曇液で被覆することが知られている。しかしながら、この技術では、防曇液は蒸発したり、拭き取られたりするために、被覆された防曇液が長期間にわたって効果を維持することができないという問題に悩まされている。
【0004】
現在の商品の防曇コーティングは、多くの場合、時間とともに繰り返されるクリーニングの後には有効性を失い、従って、それらの有効性を保証するために定期的に再塗布する必要がある。多くの組成物が防曇用途のために提案されてきた。例えば、エベルジェ(Heberger)らの「Anti−fog coating and coated film」と題された特許文献1は、表面に塗布され、本質的に縞のない(streak free)の被覆面を提供する被覆ポリマーフィルムを教示している。別の例は、「Water repellant agent for glass」と題された特許文献2である。該文献の中で、コンドーらは、ガラス(例えばフロントガラス)に塗布するための撥水剤組成物を教示しており、そのような組成物はオルガノシランとジオルガノポリシロキサンとの混合物である。さらに別の例は、「Transparent anti−fog coating」と題された特許文献3であり、該文献の中で、ソン(Song)らは、ポリマーと、アルミニウム含有架橋剤と、ヒドロキシル基またはシロキサン基を含む界面活性剤と、を含有する透明コーティングを教示している。
【0005】
患者の歯の細部の正確な鏡像が最も重要なものであり、かつ非毒性が必須である歯鏡のような特定の用途においては、そのような組成物は完全には満足のいくものではない。また、それらの組成物は防曇問題に対する総合的な解決策を提供することもない。あるものは長い硬化を必要とし、あるものは有毒である。多くのものは、現在使用されている高速ドリルによって発生する水の中では直ちに溶解して、歯鏡から洗い流されてしまうであろう。また、術野において細部を見るために適当な視認性を提供しない。歯鏡を歯に近接させることにより、反射が拡散され、正確なセメント充填に必要な歯の細部が不明瞭になる。
【0006】
より一般的には、水を強力に引きつける(超親水性)またははね返す(超疎水性)表面は、それぞれ、膜または小滴流による自己洗浄(self−cleaning)に対する2つの基本的な手段の鍵である(非特許文献1参照)。20世紀初頭に確立された理論(非特許文献2および非特許文献3)は濡れ現象を一般的な表面特性に関連づけることができたが、表面構造の役割は、例えば、ハス葉(ネルンボ・ヌシフェラ(Nelumbo Nucifera))、コロカシア・エスクレンタ(Colocasia esculenta)(サトイモ)、ナミブ砂漠甲虫(Namib desert beetle)(非特許文献4参照)などの多くの生物系に関する調査の後に最近再検討されてきており、非常に濡れた表面の実現に対する複雑な階層的微細構造の有意性が明らかにされた。これらの研究は、最初の目的は超疎水性を達成することであったが、生物学的表面の形態を模倣することに基づいた自己洗浄技術に対する新たな戦略を促した(非特許文献5参照)。
【0007】
一方、TiOは、従来の学問分野の境界を越えた多くのエネルギーおよび環境問題への応用に対して面白い可能性を有する独特な光触媒として、ごく最近では注目を受けている(例えば、非特許文献6)。その表面の濡れ性を高めることができるUV光誘発光触媒活性の発見以来(非特許文献7および8参照)、TiOは、自己洗浄および関連する汚染防止、抗菌用途において広範囲に用いられてきている(非特許文献9参照)。しかしながら、TiOに基づく技術の重要な課題は濡れ挙動を持続させる困難さから生じるが、この課題を克服するために、例えば、不透明システム(非特許文献10および11参照)、または複合システム(非特許文献12参照)を用いて多くの思い切った措置が取られてきた。TiOナノ粒子およびポリエチレングリコール(非特許文献13および14)の多層のアセンブリの最近の試みは紫外線照射を使用しない短寿命の超親水表面を示した。該表面に対する極度の濡れ挙動は中温への曝露後に衰退した。用途の点から見て、外部刺激の必要性を避けながら、TiOから超親水性表面を得ることは、特に、極度の濡れ特性が光学的透明性のような付加的な機能性と組み合わせられ得る場合(非特許文献15参照)、究極の自己洗浄技術であると考えられている。実際には、低反射率かつ高透過率の用途のために従来の透明基材(例えばガラス)上にTiOを組み込むことは、しばしば困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,455,142号明細書
【特許文献2】米国特許第5,853,896号明細書
【特許文献3】米国特許第5,804,612号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】アール.ブロッセイ(R.Blossey)、Nature Materials 2(2003年)301
【非特許文献2】エイ.ビー.ディ.ケイシー(A.B.D.Cassie)ら、Transactions of the Faraday Society 40(1944年)0546
【非特許文献3】アール.エヌ.ウェンツェル(R.N.Wenzel)、Industrial and Engineering Chemistry 28(1936年)988
【非特許文献4】ダブリュ.バースロット(W.Barthlott)ら、Planta 202(1997)1
【非特許文献5】エル.ツァイ(L.Zhai)ら、Nano Letters 4(2004年)1349
【非特許文献6】エックス.チェン(X.Chen)、エス.エス.マオ(S.S.Mao)、Chemical Reviews 107(2007年)2891
【非特許文献7】アール.ワン(R.Wang)ら、Nature 388(1997年)431
【非特許文献8】アール.ワン(R.Wang)ら、Advanced Materials 10(1998年)135
【非特許文献9】アイ.ピー.パーキン(I.P.Parkin)ら、Journal of Materials Chemistry 15(2005年)1689
【非特許文献10】シー.パン(C.Pan)ら、Materials Research Bulletin 42(2007年)1395
【非特許文献11】ゼット.ゼット.グ(Z.Z.Gu)ら、Applied Physics Letters 85(2004年)5067
【非特許文献12】ディ.リー(D.Lee)ら、Nano Letters 6(2006年)2305
【非特許文献13】ダブリュ.ワイ.ガン(W.Y.Gan)ら、Journal of Materials Chemistry 17(2007年)952
【非特許文献14】エス.ソン(S.Song)ら、Materials Letters 62(2008年)3503
【非特許文献15】シー.ダブリュ.グオ(C.W.Guo)ら、Chemphyschem 5(2004年)750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記した懸案を鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態は超親水性(suprehydrophilic)ナノ構造体、製品、および超親水性ナノ構造体を製造する方法を包含する。本発明の超親水性ナノ構造体の実施形態は、ナノ粒子を含む。同ナノ粒子は多孔質クラスターに形成されている。前記多孔質クラスターは凝集クラスター(aggregate clusters)に形成されている。本発明の製品の実施形態は、基材上に超親水性ナノ構造体を備える。本発明の超親水性ナノ構造体を製造する方法の実施形態は、ナノ粒子を含有する溶液を基材に塗布することを含む。同基材は加熱されて、同ナノ粒子の多孔質クラスターの凝集クラスターを形成する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】超親水性を生じる本発明のナノ構造体の一実施形態の図。
【図2】本発明の実施形態に従った基材上における超親水性ナノ構造体の図。
【図3】本発明の実施形態に従った凝集クラスター、多孔質クラスター、およびナノ粒子の実施形態を示し、また本発明の凝集クラスターの例のAFM画像、並びに本発明のナノ粒子の例のTEM画像を提供する図。
【図4A】本発明の処理表面の例および未処理表面の上において拡張する液体の時系列写真をそれぞれ提供する図。
【図4B】本発明の処理表面の例および未処理表面の上において拡張する液体の時間系列写真をそれぞれ提供する図。
【図5A】本発明の処理表面の例の上で拡張する液体に関係するデータのグラフ。
【図5B】本発明の処理表面の例の上で拡張する液体に関係するデータのグラフ。
【図5C】本発明の処理表面の例の上で拡張する液体に関係するデータのグラフ。
【図6A】本発明の処理表面の例についての光透過および反射率データ、並びに分光エリプソメトリーデータをそれぞれ提供する図。
【図6B】本発明の処理表面の例についての光透過および反射率データ、並びに分光エリプソメトリーデータをそれぞれ提供する図。
【図7】未処理表面と比較した、本発明の処理表面の例の防曇特性を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、その特定の例示的な実施形態に関して記載され、従って添付された図面を参照する。
本発明の実施形態は、超親水性ナノ構造体、超親水性ナノ構造体の製品、および超親水性ナノ構造体を製造する方法を包含する。
【0014】
図1は、本発明の超親水性ナノ構造体100の実施形態の上面図を示している。超親水性ナノ構造体100は複数の凝集クラスター102を備える。各凝集クラスター102は複数の多孔質クラスター(図示せず)を含んでいる。各多孔質クラスターは複数のナノ粒子(図示せず)を含有する。上方から観察した場合の凝集クラスターの形状は、図1に示すように、円形、長円形、棒状、紡錘状、または他の適当な形状であり得る。超親水性ナノ構造体100は、そのような形状の混合物を含んでいてもよい。実施形態によれば、凝集クラスター102の寸法は、約150nm〜5μmの範囲内にあり得る。他の実施形態によれば、凝集クラスター102の寸法は、約200nm〜5μmの範囲内にあり得る。
【0015】
図2は、製品200の実施形態の側面図を示す。製品200は、基材204上に超親水性ナノ構造体100を備える。超親水性ナノ構造体100は複数の凝集クラスター102を含んでいる。実施形態によれば、凝集クラスター102の高さは約150nm〜5μmの範囲内で変化し得る。他の実施形態によれば、凝集クラスター102の高さは約200nm〜5μmの範囲内で変化してもよい。
【0016】
基材204は、ベース基材と超親水性ナノ構造体100との間に層が存在する層状基材であってもよいことは当業者には明らかであろう。
図3は、本発明の単一の凝集クラスター102の実施形態の側面図を示す。前記凝集クラスターは複数の多孔質クラスター306を含んでいる。図3に示すように、多孔質クラスター306は球形に形成されてもよいし、または複数の形状の混合を含む他の形状を有してもよい。例えば、多孔質クラスター306の形状は長円形、棒状、紡錘状、他の適当な形状であり得る。実施形態によれば、多孔質クラスター306の寸法は20〜600nmの範囲内にあり得る。他の実施形態によれば、多孔質クラスター306の寸法は約50〜600nmの範囲内にあってもよい。
【0017】
単一の多孔質クラスター306を凝集クラスター102の右側に図示する。多孔質クラスター306は複数ナノ粒子308を含有する。単一のナノ粒子308は多孔質クラスター306から左上方に図示されている。図3ではナノ粒子308の形状は球形または量子ドット形状として示されているが、ナノ粒子308は複数の形状の混合を含む他の形状を有してもよい。例えば、ナノ粒子308は、ナノロッド、ナノスピンドル、ナノシート、ナノワイヤー、ナノディスク、分枝ナノ粒子、または他の適当なナノ粒子であり得る。実施形態によれば、ナノ粒子308の寸法は約1〜100nmの範囲内にあり得る。他の実施形態によれば、ナノ粒子308の寸法は約1〜50nmの範囲内にあってもよい。凝集クラスター102、多孔質クラスター306、およびナノ粒子308の代表的な寸法は、図3では、それぞれ200nm、50nmおよび5nmとして示されている。
【0018】
実施形態によれば、ナノ粒子308はTiOナノ粒子を含む。そのようなTiOナノ粒子は、H、N、S、CまたはBドーパントのような1つ以上のドーパント、またはそのようなドーパントの組み合わせを含有してもよい。
【0019】
本発明の超親水性ナノ構造体100の用途としては、自己洗浄性コーティングまたは防曇コーティングとしての超親水性ナノ構造体100の使用が挙げられる。そのような防曇コーティングは、表面上における水滴の凝結が望ましくない、特に、その表面が透明である、あらゆる状況において用いることができる。そのような状況の例としては、スポーツゴーグル、自動車のフロントガラス、公的輸送車両の窓、法執行機関用およびVIP保護用の装甲自動車の窓、太陽パネル、温室の囲い、サン・ウィンド・ダストゴーグル(sun−wind−dust goggles)、レーザー安全目保護眼鏡(laser safety eye protective spectacles)、化学的/生物学的防護フェイスマスク、爆発物処理作業員用の弾道シールドおよび軽戦闘用車両用のビジョンブロックが挙げられる。さらに、本発明の付加的な用途としては、眼鏡レンズ、カメラ、様々な種類の光学装置用レンズ、歯鏡および窓ガラスが挙げられる。
【0020】
より一般的には、本発明の超親水性ナノ構造体100の用途としては、汚染制御のための自己洗浄、自己洗浄性または防曇性の窓、自己洗浄性または防曇性の医療用途(例えば歯鏡)、自己洗浄性または防曇性の可撓性プラスチックフィルムが挙げられる。後者の一例は、市場で陳列される食品を包むために用いられる可撓性プラスチックフィルムである。そのようなプラスチックフィルムはその表面上における水滴または曇りの形成を妨げるので、顧客はプラスチックフィルムを通して見て、製品(例えば冷蔵食品または冷凍食品)を容易に観察することができる。
【0021】
本発明の超親水性ナノ構造体を製造する方法の実施形態は、ナノ粒子を含有する溶液を提供することを含む。前記溶液は基材に塗布される。次に、前記基材は加熱されて、ナノ粒子の多孔質クラスターの凝集クラスターを形成する。実施形態において、前記基材への溶液の塗布は、基材上に溶液をスピンキャストすることを含む。前記溶液の基材への塗布に続く基材の加熱の実施形態は、約50〜600℃の範囲内の温度を有する窯または炉の中で前記基材を約5分〜12時間の範囲内の期間にわたって加熱することを含む。前記溶液の基材への塗布に続く基材の加熱の他の実施形態は、約200〜600℃の範囲内の温度を有する窯または炉の中で前記基材を約1〜12時間の範囲内の期間にわたって加熱することを含む。さらに別の実施形態において、前記基材は約500℃の温度を有する窯または炉内で約5時間にわたって加熱される。前記基材の加熱により、ナノ粒子の多孔質クラスターを凝集クラスターに形成するので、前記基材の加熱はか焼法と称され得る。すなわち、本発明の超親水性ナノ構造体は加熱またはか焼工程において形成される。
【0022】
前記超親水性ナノ構造体を製造する方法の実施形態は、ナノ粒子を形成することをさらに含む。実施形態において、前記ナノ粒子は電気化学法を用いて形成される。そのような技術は、イオン溶液内に一対の電極を配置し、電極間に電圧を印加することを含む。これは溶液中にイオンチャネルを形成する。該イオンチャネルは、塩の金属を酸化させて、ナノ粒子の多孔質クラスターを形成する。実施形態において、第1電極および第2電極は、一対のPtおよびTiの電極対、PtおよびFeの電極対、FeおよびFeの電極対、FeおよびTiの電極対、並びにTiおよびTiの電極対から選択され得る。実施形態によれば、イオン性塩溶液は、NaCl、NaF、KCl、KFまたは別の適当な塩を含有する水溶液である。他の実施形態において、ナノ粒子の多孔質クラスターは、ゾルーゲルアプローチのような別の溶液化学アプローチを用いて形成される。
【0023】
本発明の超親水性ナノ構造体を製造する代替的な実施形態は、物理気相成長法(例えばレーザアブレーション法)を用いる。そのような方法は、チャンバ内に事前に製造されたTiO固体ターゲット材を配置することを含み、前記チャンバは、真空に維持されてもよいし、または大気圧までの圧力によってO、N、Arのような気体で充填されてもよい。このターゲット材は、レーザービーム、電子ビームまたはイオンビームのようなエネルギービームによって気化され、気化したターゲット材はガラスまたはプラスチックシートのような基材上に堆積して、TiOナノクラスターの多孔質網状組織を形成する。
【0024】
紫外線(UV)光触媒作用によって誘発される極度の表面濡れ現象の発見以来、TiOは自己洗浄および防汚コーティングのような環境にやさしい用途のための材料の選択肢になった。それでもなお、持続的な超親水性を示すが、外部刺激、特に長期にわたって濡れ表面を劣化させることもある紫外線照射を必要としない表面を実現するという重要な課題が残る。本発明は、光活性化を必要とすることなく、かつ連続した濡れ−脱濡れ(dewetting)サイクルに対する安定性を有する極度の超親水性を示す多孔質TiOナノ構造体である。加えて、この究極のTiOの濡れ表面は、近UVから赤外線の波長範囲にわたって光透過性を示し、それにより、透明性が同じく重要である実用的な防曇技術を可能にする。
【0025】
多くの生物系によって反映されるような、極度の濡れ性における表面微細構造の重要性を考慮して、階層的多孔質TiO表面を設計し、ガラス基材上に堆積させた。階層的多孔質TiO表面は、3つの異なる長さスケールにおける粗さ、すなわち、数百ナノメートル以上の範囲にある巨視的な粗さ(すなわち図1、図2および図3の凝集クラスター102)と、数十ナノメートル〜何百ナノメートルの寸法を備えた二次的な特徴形状(feature)(すなわち図3の多孔質クラスター306)と、数ナノメートルの直径を有する個々のTiOナノ粒子(すなわち図3のナノ粒子308)とを備えた自己相似形態を有する。TiOの固有の親水性は、階層的多孔質構造と相まって、非常に望ましい極度の濡れ挙動を提供することが示された。図3において、第1挿入図310は、凝集クラスターおよび隣接する凝集クラスターの例のAFM(原子間力顕微鏡)画像を提供する。この画像における球形の物体は多孔質クラスターである。図3において、第2挿入図312は、多孔質クラスターのナノ粒子の例のTEM(透過型電子顕微鏡)画像を提供する。
【0026】
自己相似多孔質TiOで被覆されたガラス上および未処理のガラス表面上における水滴の初期の拡張段階(spreading stages)を図4Aおよび図4Bにそれぞれ示す。高められた拡張により、水滴は陥凹部に浸透し、多孔質TiO表面で200〜300ミリセカンド以内に拡張する。その結果、ガラス基材上の水滴の接触角は約34°であるが、自己相似多孔質TiOの表面は減少する平衡接触角を示す。この極度の超親水性挙動の活性化のために、紫外線照射も可視光線も適用されなかった。
【0027】
図4Aおよび図4Bは、自己相似多孔質TiOおよび未処理表面の上において拡張する液体の動的特性をそれぞれ示す。選択された画像は、自己相似多孔質TiO表面(図4A)および未被覆ガラス基材(図4B)との接触後の初期段階における0.5μlの水滴の拡張を示している。TiO表面および未処理表面の静止接触角は、それぞれ、1°および34°である。TiO表面については、超親水性挙動(5°未満の接触角)が非常に速く(すなわち液滴付着後、最初の160msの間に)確立される。ここで、時間ゼロ(t=0)は、液滴が表面上に放出される直前のフレームとして定義される。
【0028】
固体表面上における液体の拡張は、概してタンナー冪法則(Tanner power law)によって記述される(ジー.マクホール(G.McHale)ら、Physical Review Letters 93(2004)036102参照)。前記文献は、液滴付着からの時間(t)による接触角(θ)の減少、θ∝(t+t)−nを予想しており、ここでtは定数である。図5Aは、200nm(試料A)および400nm(試料B)の厚さの多孔質TiO層に対する時間の関数としての接触角の変化を提供しており、これは、自己相似多孔質TiO表面上に付着させられた水についての初期段階の接触角の時間依存挙動を示している。図5A(および図5Bおよび図5C)中の実線は、測定データの冪法則へのフィッティングである。冪乗係数(power coefficient)nは自己相似多孔質TiOの厚さにつれて増大し、これは多孔質TiO層の厚さの増大がより効率的な液体の拡張をもたらすことを示唆している。図5Bは、自己相似多孔質TiO表面上における水滴のxおよびy方向(表面に平行および垂直)における拡張のグラフを提供する。〜0.3cm/sの平均速度を有する表面への優先的な拡張があり、その後に水滴の多孔質層への滲み込みが続く。
【0029】
自己相似多孔質TiO表面の安定性は、連続した濡れ−脱濡れサイクルに対するそれらの応答の検討によって試験した。濡れ−脱濡れサイクルの回数の増大に対する時間による接触角の変化を図5Cに示す。冪法則依存性は、20サイクルを超える連続濡れサイクルに対して本質的に不変のままである。TiO表面上における環境からの炭化水素の吸着は接触角の増大をもたらすことがしばしば報告されてきた。減少する接触角の時間依存挙動における些少な変動は、自己相似多孔質TiO表面が表面汚染に対して耐性を有することを示唆している。
【0030】
観察された極度の濡れ現象は、ウェンツェルモデルの枠組の下で解釈することができる(アール.エヌ.ウェンツェル(R.N.Wenzel)、Industrial and Engineering Chemistry 28(1936)988参照)。前記モデルによれば、表面粗さは、初期親水性平面の濡れ性を高めるように作用する。液体が全表面において完全に浸透する均質な濡れ型においては、見かけの接触角(θ)は、cosθ=rcosθによって与えられる。前記式中、rは、液滴の下の見かけの接触領域に対する広がった表面の比であり、θは、同質の平面上における接触角(ヤングの接触角)である。rは常に1より大きいので、接触角は他の親水性(θ<90°)表面に対して減少するであろう。自己相似多孔質TiO表面のような自己相似層について、平坦なTiOに対してはθ=50〜70°であるが(アール.ワン(R.Wang)ら、Nature 388(1997)431;およびエヌ.スティーヴンズ(N.Stevens)ら、Langmuir 19(2003)3272参照)、多数の長さスケールによる全体的な粗さの増大は、常に増大するrをもたらし、よって完全に濡れた表面(θ〜0°)を容易にする。
【0031】
自己洗浄および防汚技術に好都合な極度の濡れ挙動に加えて、自己相似多孔質TiO表面は、それらの表面を防曇用途に対して理想的にする光学的透明性を示す。図6Aは、自己相似多孔質TiO表面で被覆されたガラス基材の透過率および反射率のスペクトルを未処理ガラス基材のスペクトルと比較している。光学的透明性は、自己相似多孔質TiO表面を被覆することによって本質的に影響されないままである。多孔質TiO被覆ガラスについて、300〜2500nmの波長範囲において、90%以上の透過率および6〜8%の反射率が得られる。
【0032】
自己相似多孔質TiO被覆ガラスの分光エリプソメトリー測定は、375〜830nmの波長範囲において70°の入射角で行なった。測定されたΔ(デルタ)およびΨ(プサイ)データは、図6Bに示したように、ブルッゲマンの有効媒質論(effective−medium theory(EMT))を用いてフィッティングした(エム.モサデック−ウル−ラーマン(M.Mosaddeq−ur−Rahman)ら、Journal of Applied Physics 88(2000)4634参照)。有効誘電関数は、ガラス基材上の多孔質TiO層の存在を考慮に入れることによって計算し、空隙率は〜70%であると見積もった。EMTモデルは、図6Bの挿入図に示す、自己相似多孔質TiO層の屈折率を波長の関数として導き出す。ここで、前記屈折率は可視波長範囲において1.40±0.04の値を有し、これはバルクTiOの屈折率(〜2.7)より著しく低い。
【0033】
自己相似多孔質TiOの超親水性と組み合わせられた光学的透明性によって可能にされる防曇性の潜在力を示すために、未処理スライドガラスおよび自己相似多孔質TiO被覆スライドを約−15℃の温度の冷凍装置内に配置し、その後、湿った空気に曝露した。図7は、スライドガラス(左)およびその隣のTiO被覆スライド(右)の防曇特性を示している。後者の場合、水滴が効率的に拡張して均一な膜を形成する結果として、「LBNL」の文字列は明瞭に解像され得る。一方、未処理ガラス表面は不十分な濡れ性を有するので、水分はその表面において個別の液滴として凝結して、光散乱をもたらし、未処理ガラス表面の下の文字列を不明瞭にしている。被覆面が脱濡れを防止する能力を示すことも注目される。被覆ガラス表面は水中への浸漬後は完全に湿れたままであり、この状態は水が蒸発するまで維持される。
【0034】
実験
アナターゼTiOナノ粒子をゾルゲル法によって合成した。前記ゾルゲル法は、Ti前駆体と、酸または塩基とを含有した水溶液を形成することを含んだ。いくつかの例では、前記溶液はアルコールも含有した。いくつかの例では、前記溶液は界面活性剤も含有した。ほとんどの例において、結果として生じた溶液を一定期間にわたって撹拌した。次に、前記溶液を加熱またはか焼して、アナターゼTiOナノ粒子を得た。第1実施例では、前記水溶液は、チタンプロポキシド(titanium propoxide)、エタノール、HCl、およびF127界面活性剤を含有した。モル濃度は1:40:0.5:0.005であったが、1:(10〜500):(0.001〜10):(0.00001〜10)であってもよい。前記溶液を24時間撹拌し、次いで、炉内において500℃で5時間にわたってか焼した。第2実施例では、前記水溶液は、塩化チタン、メタノール、NaOHおよびトリトン(Triton)X100界面活性剤を含有した。モル濃度は、1:40:0.2:0.02であったが、1:(10〜500):(0.01〜10):(0.0001〜10)であってもよい。前記溶液を1時間撹拌し、次いで、炉内において300℃で2時間にわたってか焼した。第3実施例では、前記水溶液は、チタンブトキシドおよびHFおよびHOを含有した。モル濃度は1:10:10であったが、1:(0.001〜10):(1〜100)であってもよい。前記溶液を24時間にわたって180℃に加熱した。第4実施例では、前記水溶液は二酸化チタン微粉末(P25)、HCl、およびNaClを含有した。モル濃度は1:0.1:0.05であったが、1:(0.0001〜10):(0.0005〜1)であってもよい。前記溶液を24時間撹拌し、次いで、炉内において500℃で24時間にわたってか焼した。Ti前駆体の代替案としては、チタンアルコキシドおよび他の適当なTi前駆体が挙げられる。アルコールの代替案としては、プロパノールおよび他の適当なアルコールが挙げられる。酸の代替案としては、硝酸および他の適当な酸が挙げられる。塩基の代替案としては、KOHおよび他の適当な塩基が挙げられる。界面活性剤の代替案としては、P125および他の適当な界面活性剤が挙げられる。
【0035】
水中に分散させたゾルゲル合成アナターゼTiOナノ粒子を平坦なソーダ石灰ガラススライド(ゴールド シール(Gold Seal))上にスピンコートして、多孔質TiOナノ粒子コーティングを形成した。結果として生じた膜を続いて500℃で5時間にわたってか焼した。試料の表面の凹凸像(topographical image)は、日立(S−4300SE/N)電界放出SEM、タッピングモードでのヴェーコ ナノスコープ(Veeco Nanoscope)III原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))およびフィリップス(Philips)CM200/FEG TEMを用いて得た。試料の組成および結晶化度を決定するために、X線回折(シーメンス(Siemens)D−500回折計)を適用した。表面特徴の統計分析は、WSXMソフトウェアを用いることにより行なった。
【0036】
結果として生じた構造と接触した水滴の拡張挙動を動的接触角測定によって検討した。水滴(20℃において、18.1MΩの抵抗率、72.8mN/mの表面張力)を、マイクロリッターピペットの使用により、TiO表面上に優しく付着させ、液滴プロファイルのビデオ画像を記録するために、CCDカメラレンズアレイ装置を60Hzのフレームレートで用いた。前記水滴は0.5〜3.0μlの体積(0.49〜0.89mmの直径)を有し、接触角測定は80%の相対湿度を有する環境で行なった。防曇実験のために、未被覆スライドガラスおよびTiO被覆スライドガラスの双方を−15℃の温度の冷凍装置に1時間にわたって配置し、続いて、それらのスライドガラスを湿度の高い実験室空気に晒した。
【0037】
被覆試料の透過率および反射率は、積分球を装備した紫外可視分光光度計(パーキン・エルマー(Perkin−Elmer)、ラムダ(Lambda)900))を用いて測定した。製造したTiO膜の屈折率を判定するために、フィルム テック(FilmTek)3000分光エリプソメーターを用いた。
【0038】
結論
多くの生物系に存在する階層的微細構造から発想を得て、UV光活性化を必要とすることなく、安定した超親水性濡れ挙動を示す自己相似多孔質TiO表面を製造した。実際、この研究では光は適用しなかった。これはTiOにおいて超親水性を誘発するために、従来の光触媒反応の必要も、促進剤の必要もないことを示唆する。本願において得られた自己相似多孔質TiO表面はまた、高い可視透過率を有する好ましい光学的応答を示す。前記光学的応答は、超親水性と相まって、手頃な自己洗浄性窓および防曇コーティングをより現実に近づける。
【0039】
参考文献:
【0040】
【表1】

本願および添付された特許請求の範囲においては、単数形「a」、「and」および「the」は、文脈が明らかに他に規定していない限り、複数の指示対象を含む。
【0041】
本発明の前述の詳細な説明は、例示のために提供され、本発明を網羅したり、または本発明を開示された実施形態に限定したりするものではない。従って、本発明の範囲は添付する特許請求の範囲によって定められる。
【0042】
本出願は、2009年5月8日出願の米国仮特許出願番号第61/176,864号に対する優先権を主張する。前記特許文献は参照により本願に余すところなく援用される。
本発明は、米国エネルギー省によって与えられた契約番号第DE−AC02−05CH11231号の下において国庫補助によってなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子を含有する超親水性ナノ構造体であって、
前記ナノ粒子は多孔質クラスターに形成されており、
前記多孔質クラスターは凝集クラスターに形成されている、超親水性ナノ構造体。
【請求項2】
基材と、
前記基材の表面の少なくとも一部の上に位置する超親水性ナノ構造体と、を備える製品であって、前記超親水性ナノ構造体は、
ナノ粒子を含有し、
前記ナノ粒子は多孔質クラスターに形成されており、
前記多孔質クラスターは凝集クラスターに形成されている、製品。
【請求項3】
前記ナノ粒子は二酸化チタンを含有する、請求項2に記載の製品。
【請求項4】
前記ナノ粒子はさらにドーパントを含有する、請求項3に記載の製品。
【請求項5】
前記ドーパントは、H、N、S、C、Bおよびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項4に記載の製品。
【請求項6】
前記ナノ粒子は約1〜100nmの範囲内の寸法を有する、請求項2に記載の製品。
【請求項7】
前記ナノ粒子は約1〜50nmの範囲内の寸法を有する、請求項6に記載の製品。
【請求項8】
前記多孔質クラスターは約20〜600nmの範囲内の寸法を有する、請求項2に記載の製品。
【請求項9】
前記多孔質クラスターは約50〜600nmの範囲内の寸法を有する、請求項8に記載の製品。
【請求項10】
前記凝集クラスターは約150nm〜5μmの範囲内の寸法を有する、請求項2に記載の製品。
【請求項11】
前記凝集クラスターは約200nm〜5μmの範囲内の寸法をする、請求項2に記載の製品。
【請求項12】
超親水性ナノ構造体を製造する方法であって、該方法は、
ナノ粒子を含有する溶液を基材に塗布することと、
前記基材を加熱して、凝集クラスターを形成することと、を含み、前記凝集クラスターの各々は、前記ナノ粒子の多孔質クラスターを含む、方法。
【請求項13】
前記ナノ粒子を形成することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ナノ粒子の形成は、電気化学法を用いて、ナノ粒子を形成することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子の形成は、ゾルゲル法を用いて、ナノ粒子を形成することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記溶液の基材への塗布は、前記溶液を基材上にスピンキャストすることを含む、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A−4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−526041(P2012−526041A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−509981(P2012−509981)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2010/033927
【国際公開番号】WO2010/129807
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(500210903)ザ、リージェンツ、オブ、ザ、ユニバーシティ、オブ、カリフォルニア (31)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【Fターム(参考)】