説明

超親水性/疎水性パターン化表面、アナターゼTiO2結晶パターン及びそれらの作製方法

【課題】超親水性/疎水性パターン化表面、アナターゼTiO結晶パターン及びそれらの作製方法を提供する。
【解決手段】FTO基板に、フォトマスクを介して、紫外線(UV)照射を行って形成した超親水性/疎水性パターン化表面の超親水性領域に選択的に析出させたアナターゼTiO結晶パターン、その作製方法及び該アナターゼTiO結晶パターンを用いた電子デバイス。
【効果】超親水性領域では、TiOの析出が促進され、一方の疎水性領域では、析出が抑制される結果、FTO基板上の親水性/疎水性パターンに沿って、アナターゼTiO結晶パターンを形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超親水性/疎水性パターン化表面と、アナターゼTiO結晶パターン及びそれらの作製方法に関するものであり、更に詳しくは、本発明は、フォトマスクを介した紫外線照射により形成されるFTO表面の超親水性/疎水性パターン化表面、及びこれを用いたアナターゼTiO結晶パターンと、それらの作製方法に関するものである。
本発明品は、例えば、分子センサー、ガスセンサー、溶液センサー、色素増感型太陽電池、光触媒等の電子デバイスとして利用できるアナターゼTiO結晶パターンを提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、分子センサー、ガスセンサー、溶液センサー、色素増感型太陽電池、光触媒等の様々な分野において、アナターゼ型TiOに注目が集まっている。特に、センサーや色素増感型太陽電池向け材料としては、高比表面積を有する多孔質アナターゼTiO膜が必要とされている。また、これらのデバイスにおいては、透明導電性基板のフッ素ドープ酸化スズ膜(FTO基板)や、ITO基板、導電性ポリマー基板等上への多孔質アナターゼTiO電極層の形成が求められている。
【0003】
先行技術文献では、例えば、ゾルゲル法による色素増感型太陽電池向けTiO電極の形成技術が提案されている(非特許文献1)。また、他の先行技術文献では、例えば、アナターゼ型TiO膜の液相形成技術として、ナノ針状アナターゼTiO結晶集積粒子と多孔質アナターゼTiO結晶膜及びそれらの作製方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
このように、センサーや色素増感型太陽電池への応用のためには、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)透明導電膜上へのTiO膜形成技術が必要である。しかし、溶液中からのTiO結晶の析出によりTiO膜を形成させるためには、基板の表面状態により析出速度が異なり、特に、FTO基板表面でのTiO核形成密度が低いため、核形成密度を上げ、連続TiO膜を形成する必要があった。
【0005】
また、デバイスとして用いる際に、基板上の特定部位にのみ、TiO電極を形成させる必要があった。更に、基材へのコーティングを行う際、反応溶液容器壁面へのTiOが起こり、溶液中の原料イオンの低下による基材上へのTiO析出速度の低下や、反応溶液容器の汚染が問題となっていた。
【0006】
【特許文献1】特願2007−100949号
【非特許文献1】Srikanth K,Rahman MM,Tanaka H, et al.Investigation of the effect of sol processing parameters on the photoelectrical properties of dye−sensitized TiO2 solar cells SOLAR ENERGY MATERIALS AND SOLAR CELLS 65(1−4):171−177 JAN 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記従来法の問題点を解決することが可能な新しいアナターゼTiO結晶パターンの作製技術を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、FTO表面に形成した超親水性/疎水性パターン化表面を用いて、マイクロサイズのアナターゼTiO結晶パターンを形成することに成功し、本発明を完成するに至った。本発明は、超親水性/疎水性パターン化表面、アナターゼTiO結晶パターン及びそれらの作製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)基板に形成した超親水性/疎水性パターン化表面の超親水性領域に選択的に析出させたアナターゼTiO結晶パターンからなることを特徴とするアナターゼTiO結晶パターン。
(2)基板が、FTO、シリコン、ガラス、金属、セラミックス又はポリマー基板である、前記(1)に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
(3)基板が、平板、粒子、繊維、又は複雑形状の形態を有する、前記(1)に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
(4)FTO層の超親水性領域に析出させたナノTiO結晶層を有する、前記(1)に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
(5)ナノTiO結晶が、c軸方向に該c軸をFTO基板に垂直に立てるように異方成長している、前記(4)に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
(6)超親水性/疎水性パターン化表面が、フォトマスクを介した紫外線照射によりFTO表面に形成したものである、前記(1)に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
(7)アナターゼTiO結晶パターンが、酸化チタン結晶が析出する反応系から液相反応により超親水性領域に選択的に析出させたものである、前記(1)に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
(8)FTO層が、酸化スズの単相からなり、TiO層がアナターゼTiO単相からなる、前記(4)に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
(9)TiO層が、ナノ結晶からなるナノサイズの凹凸と、FTOの表面形状由来の凹凸を合せ持ったハイブリッド階層凹凸構造を有している、前記(4)に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
(10)前記(1)から(9)のいずれかに記載のアナターゼTiO結晶パターンを作製する方法であって、フォトマスクを介した紫外線照射により基板表面に超親水性/疎水性パターン化表面を形成し、酸化チタン結晶が析出する反応系を用いて液相反応により、該超親水性領域にアナターゼTiO結晶パターンを選択的に析出させることを特徴とするアナターゼTiO結晶パターンの作製方法。
(11)FTO表面に超親水性/疎水性パターン化表面を形成する、前記(10)に記載のアナターゼTiO結晶パターンの作製方法。
(12)酸化チタン結晶が析出する反応系として、フッ化チタン酸アンモニウム、ヘキサフルオロチタン(IV)酸塩、チタン酸塩、アセチルアセトンチタニル、しゅう酸チタン(IV)塩、又は硫酸チタンを含むチタン含有溶液を用いる、前記(10)に記載のアナターゼTiO結晶パターンの作製方法。
(13)反応系が、水溶液反応、非水溶液反応、又は水熱反応による反応系である、前記(10)に記載のアナターゼTiO結晶パターンの作製方法。
(14)反応系のホウ酸を添加して、あるいは反応系の温度、原料濃度又はpHを変化させてアナターゼTiO結晶を析出させる、前記(10)に記載のアナターゼTiO結晶パターンの作製方法。
(15)超親水領域に10−30nmのナノ結晶の集積体により覆われたTiOマイクロパターン領域を形成する、前記(10)に記載のアナターゼTiO結晶パターンの作製方法。
(16)前記(1)から(9)のいずれかに記載のアナターゼTiO結晶パターンを構成要素として含むことを特徴とする電子デバイス。
【0009】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、マイクロサイズのアナターゼTiO結晶パターンであって、基板に形成した超親水性/疎水性パターン化表面の超親水性領域に選択的に析出させたアナターゼTiO結晶パターンからなることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明は、該アナターゼTiO結晶パターンを作製する方法であって、フォトマスクを介した紫外線照射により基板表面に超親水性/疎水性パターン化表面を形成し、酸化チタン結晶が析出する反応系を用いて液相反応により、該超親水性領域にアナターゼTiO結晶パターンを選択的に析出させることを特徴とするものである。
【0011】
更に、本発明は、上記アナターゼTiO結晶パターンを構成要素として含む電子デバイスの点に特徴を有するものである。
【0012】
本発明では、フォトマスクを介した紫外線照射によりFTO表面に、超親水性/疎水性パターン化表面を形成させる。また、疎水性表面よりも、親水性表面において、TiOの核形成及び膜形成が促進されることを見いだし、疎水性/超親水性FTOパターン化表面を用いたアナターゼTiO結晶のパターン化及び析出を実現した。
【0013】
このプロセスでは、水溶液プロセスにおいて、アナターゼTiO結晶を析出させることができるため、結晶化のための高温加熱処理を必要とせず、各種の低耐熱性基板などへの展開が可能である。本発明は、FTO表面の超親水性/疎水性パターン化表面を用いて、アナターゼTiO結晶パターンを形成することを最も主要な特徴とする。
【0014】
FTO成膜後、大気中で保管することによって、FTO表面に大気中の浮遊有機分子の吸着等が起こり、疎水性を示す疎水性表面が形成される。疎水性表面として、有機分子等の付着したFTO表面が用いられるが、その他、疎水性表面修飾を行ったFTO表面を用いることもできる。
【0015】
超親水性表面は、上記FTO表面に、大気中にてUV照射を行うことで形成されるが、その他、真空中や窒素ガス中などの異なる雰囲気でのUV照射や、異なる波長の光照射、あるいは、有機溶媒での洗浄などによる親水化で形成することもできる。
【0016】
チタン含有溶液には、後記する実施例に示すフッ化チタン酸アンモニウムの他、ヘキサフルオロチタン(IV)酸ナトリウム(NaTiF)、ヘキサフルオロチタン(IV)酸カリウム(K[TiF])、チタン酸ナトリウム(NaTi)、アセチルアセトンチタニル(TiO(CHCOCHCOCH)、しゅう酸チタン(IV)アンモニウム(n水和物)((NH[TiO(C]・nHO)、しゅう酸チタン(IV)カリウム(2水和物)(K[TiO(C]・2HO)、硫酸チタン(III)(n水和物)〔第一〕(Ti(SO・nHO)、硫酸チタン(IV)(n水和物)〔第二〕(Ti(SO・nHO)等によるチタン含有水溶液を用いることができる。
【0017】
また、酸化チタン結晶が析出する反応系であれば、有機溶液等の、非水溶液反応系も用いることができる。更に、酸化チタン結晶が析出する反応系であれば、水熱反応等も用いることができる。ホウ酸を添加せず、温度や原料濃度、pHを変化させて、アナターゼTiO結晶を析出させることもできる。
【0018】
反応系の温度も、原料濃度、添加剤、pH等に合わせて、水溶液の凝固点以上かつ沸点以下(およそ0−99℃)の範囲に調整することができる。TiO膜の作製の際、FTO基板以外に、シリコン、ガラス、金属、セラミックス、ポリマー等の種々の基板を用いることができる。また、平板上基板以外に、粒子基材、繊維基材、複雑形状基材等も用いることができる。
【0019】
従来、特に、センサーや色素増感型太陽電池向け材料として、FTO基板等の透明導電性基板や、ITO基板、導電性ポリマー基板等へ多孔質アナターゼTiO電極層等を形成することが求められていたが、基板上の特定部位にのみ、マイクロサイズのTiO結晶パターンを形成することは困難であった。
【0020】
これに対し、本発明では、フォトマスクを介した紫外線照射によりFTO基板表面等に形成した超親水性/疎水性パターン化表面を用いて液相反応により、該超親水性領域にアナターゼTiO結晶パターンを選択的に析出させることによりマイクロサイズのアナターゼTiO結晶パターンを作製することを実現したものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)基板に形成した超親水性/疎水性パターン化表面の超親水性領域に選択的に析出させたアナターゼTiO結晶パターンを提供できる。
(2)FTO基材表面等に、超親水性処理を施すことにより、アナターゼTiO結晶膜を形成することができ、その膜密度を上げることができる。
(3)FTO基材表面等に、超親水性領域及び疎水性領域にパターン化された表面を形成することができる。
(4)FTO基材表面等に形成された超親水性/疎水性領パターン化表面を用いることにより、基材上にアナターゼTiO結晶パターンを形成することができる。
(5)疎水性有機膜の形成などにより、反応容器に疎水処理を施すことで、容器壁面へのTiO析出を抑制することができる。
(6)FTO基材表面等に高いアスペクト比(2以上、実施例では7.5)を具備するナノTiO結晶を析出させることができる。
(7)また、これらのナノTiO結晶を基板に垂直方向にc軸配向させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
本実施例では、FTO基材表面等に、超親水性領域及び疎水性領域にパターン化された表面を形成した。また、FTO基材表面等に形成された超親水性/疎水性領パターン化表面を用いることにより、基材上にアナターゼ結晶TiOパターンを形成した。
【0024】
FTO基板(FTO,SnO:F,Asahi Glass Co.,Ltd.,9.3−9.7Ω/□,26×50×1.1mm)に、紫外線(UV)照射を10分間行った。UV照射には、セン特殊光源製低圧水銀ランプ(PL16−110)を用いた。この光源での主となる光の波長は、184.9nm及び253.7nmである。照射ランプの波長スペクトルを図1に示す。
【0025】
初期のFTO表面は、水に対する接触角96°を示す疎水性表面であるのに対し、UV照射時間の増加に伴い、接触角は70°(0.5分)、54°(1分)、30°(2分)、14°(3分)、5°(4分)、0°(5分)と減少し、5分以上では、接触角が計測限界以下のほぼ0°の超親水性を示した。UV照射によるFTO表面の接触角変化を図2に示す。
【0026】
フォトマスク(凸版印刷製、テストチャートNo.1−Nタイプ、(Test−chart−No.1−N type,quartz substrate,1.524mm thickness,guaranteed line width 2μm±0.5μm,Toppan Printing Co.,Ltd.))を介したUV照射により表面変性を行ったFTO基板を、以下に示す水溶液に浸漬することにより、FTO基板上にTiOパターンを形成した。TiOのパターン化プロセスを図3に示す。
【0027】
フッ化チタン酸アンモニウム([NHTiF)(2.0096g)及びホウ酸(1.86422g)を、それぞれ50℃の蒸留水100mLに溶解した。両水溶液を混合し、シリコンラバースポンジで覆ったFTO基板(フォトマスクを介したUV照射処理を施したFTO基板)を浸漬した後、water bathを用いて50℃で25時間保持した。
【0028】
フッ化チタン酸アンモニウム及びホウ酸の混合溶液中での濃度は、それぞれ0.15M、0.05Mであった。この溶液条件にて、pHは約3.9となった。溶液は、反応開始10分後程度から白濁しはじめた。その後、溶液中で生成した粒子は徐々に沈降し、数時間後には溶液上部は透明になった。
【0029】
25時間後、シリコンラバースポンジを外し、更に2時間浸漬した。浸漬後、蒸留水で基板を洗浄し、自然乾燥させた。浸漬前のFTOは、青緑色を呈していたのに対し、浸漬後の超親水性領域は、黄緑色を呈していた。また、浸漬後の疎水性領域は、浸漬前と同様に、青緑色であった。
【0030】
これは、FTO上に透明なTiO膜が形成されたため、回折される光の波長が変化したためと考えられる。浸漬後のFTO基板表面のSEM像を図4に示す。超親水性領域は、黒色であり、疎水性領域は、白色であった。図4におけるパターンの平均線幅は、55μmであった。
【0031】
ラインエッジラフネスの標準偏差を見積もったところ、約2.8μmであり、これより、約5%のラフネスと見積もることができる(2.8/55)。これは、現在の電子デバイス形成のための基準値5%と同程度であった。最小線幅は、フォトマスクの最小線幅及び照射光波長に依存するため、高解像度フォトマスクの使用などにより、少なくとも1μm以下にまで改良することが可能と考えられる。
【0032】
UV照射FTO領域に析出したTiO、及びUV非照射領域のFTO表面のSEM像を図5に示す。基板となるFTO層は、図5b1,b2に見られるように、ラフネスの大きな粒子膜であり、直径約100−500nmの角張った粒子から構成されていた。また、疎水性領域(図5b1,b2)からは、TiOは、ほとんど観察されなかった。
【0033】
一方、超親水性領域に沿って形成されたTiOマイクロパターン領域(図5a1,a2)は、10−30nmのナノ結晶の集積体により覆われていた。このナノ結晶は、異方成長したアナターゼTiO結晶であると考えられる。ナノ結晶から構成されるナノサイズの凹凸に加え、TiO膜は、直径約100−500nmからなる大きな凹凸も有していた。
【0034】
これは、角張った粒子から構成されるFTO層の上に、薄くナノTiO層が形成されたため、TiO層表面がFTO基板の大きな凹凸形状を有しているためと考えられる。これらの効果により、TiO膜は、小さなナノ結晶からなるナノサイズの凹凸と、FTOの表面形状由来の大きな凹凸を合わせ持った、特異なハイブリッド階層凹凸構造を有していた。
【0035】
FTO上に形成したTiO膜の断面SEM写真を図6に示す。ガラス基板上に、表面凹凸の大きい多結晶FTO層が約900nm形成されていた。FTO層のラフネスは、約100−200nmであった。超親水性FTO表面からは、ナノTiO結晶が観察された。
【0036】
一方、疎水性FTO表面からは、TiOは観察されなかった。超親水性FTO表面は、ナノTiO結晶のアレイで覆われており、それらは、直径約20nm、長さ約150nmの長い形状をしていた。これらの観察結果は、XRDやTEMにおける評価と矛盾しない。
【0037】
ナノTiO結晶は、c軸方向に優先的に異方成長し、その結果、XRDやTEM観察時の電子線回折において、101回折線の強度に対し、004回折強度が強くなったものと考えられる。
【0038】
このc軸方向への異方成長の結果、ナノTiO結晶は、高いアスペクト比(長さ150nm/直径20nm)を有する形状へと成長したものと考えられる。また、図6の断面SEM像に見られるように、c軸方向に異方成長した結晶が、c軸をFTO基板に垂直に立てるように結晶成長していることも、XRDや電子線回折における強い004の回折強度(c軸配向)をもたらしたものと考えられる。
【0039】
FTO基板上に形成したTiO膜のXRD観察を行った際には、酸化スズ由来の強いXRDピークによりTiOからの回折線の評価が困難であったため、FTOコーティングなしのガラス基板上に形成したTiO膜のXRDパターンを示す(図7)。シリコンラバースポンジを用いず、混合溶液調整直後から基板を浸漬した。
【0040】
2θ=25.3,37.7,48.0,53.9,55.1及び62.7°の位置に弱い回折線が観察され、アナターゼTiO(ICSD No.9852)の101,004,200,105,211及び204回折線に帰属された。004回折線の強度は非常に強く、高いc軸配向を示している。004回折線と101回折線の積分強度比(積分面積比)は2.6倍、強度高さ比は2.2倍であった。
【0041】
(004)面に垂直方向の結晶子サイズは、回折線半値幅よりシェラーの式を用いて17nmと見積もられた。また、ガラス基板由来のブロードなピークも2θ=25°に観察された。シリコンラバースポンジを用いず、混合溶液調整直後から、25時間浸漬して、FTO基板上に形成したTiO膜のTEM写真及び電子線回折パターンを図8に示す。
【0042】
FTO基板上に形成したアナターゼTiO結晶膜のTEM像及び電子線回折パターンである。(d)は、(a)の拡大像であり、(e)は(d)の拡大像であり、(b)は、(a)のTiO領域の電子線回折像であり、(c)は、(a)のFTO領域の電子線回折像である。
【0043】
図8aからは、FTO層が大きなラフネスを有していること、及びその表面に、TiO結晶が析出していることが示されている。図8bからは、TiO層が、アナターゼTiO単相から成ること、101回折線よりも004回折線強度が強く高いc軸配向を有していること、及びFTO面に垂直方向に、c軸が向いていることが示されている。
【0044】
図8cからは、FTO層が、酸化スズ単相から成っていること、及び結晶方位が揃っていることが示されている。図8dからは、TiO層は、FTO面に垂直方向に長手方向を向けた、長い結晶の集積から成っていることが示されている。
【0045】
また、その拡大像の図8eにおいては、長い結晶領域からアナターゼTiOに帰属される格子像が観察されており、結晶がアナターゼTiO単相であること、及びそのc軸がFTO面と垂直方向を向いていることが示されている。これらのTEM観察結果は、上述のSEM観察及びXRD評価結果と矛盾しない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上詳述したように、本発明は、超親水性/疎水性パターン化表面、アナターゼTiO結晶パターン及びそれらの作製方法に係るものであり、本発明により、基板に形成した超親水性/疎水性パターン化表面の超親水性領域に選択的に析出させたアナターゼTiO結晶パターンを提供できる。FTO基材表面等に形成された超親水性/疎水性領パターン化表面を用いることにより、基材上にアナターゼTiO結晶パターンを形成することができる。本発明は、例えば、分子センサー、ガスセンサー、溶液センサー、色素増感型太陽電池、光触媒等として好適に利用できるマイクロサイズのアナターゼTiO結晶パターンを提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】低圧水銀ランプのスペクトルを示す。
【図2】UV照射によるFTO表面の接触角変化を示す。
【図3】UV照射によるTiO析出促進効果の評価、及び同効果を利用したパターニングを示す。
【図4】FTO表面(親水領域と疎水性領域)に形成したTiOパターンのSEM像を示す。
【図5】(a1,a2)UV照射FTO領域に析出したTiO及び(b1,b2)UV非照射領域のFTO表面のSEM像を示す。a2,b2は、それぞれ、a1,b1の拡大像。
【図6】FTO上に形成したTiO膜の断面SEM像を示す。(b)は(a)の拡大像。
【図7】ガラス基板上に形成した多孔質アナターゼTiO結晶膜のX線回折パターンを示す。
【図8】FTO基板上に形成したアナターゼTiO結晶膜のTEM像及び電子線回折パターンを示す。(d)は、(a)の拡大像。(e)は(d)の拡大像。(b)は、(a)のTiO領域の電子線回折像。(c)は、(a)のFTO領域の電子線回折像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に形成した超親水性/疎水性パターン化表面の超親水性領域に選択的に析出させたアナターゼTiO結晶パターンからなることを特徴とするアナターゼTiO結晶パターン。
【請求項2】
基板が、FTO、シリコン、ガラス、金属、セラミックス又はポリマー基板である、請求項1に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
【請求項3】
基板が、平板、粒子、繊維、又は複雑形状の形態を有する、請求項1に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
【請求項4】
FTO層の超親水性領域に析出させたナノTiO結晶層を有する、請求項1に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
【請求項5】
ナノTiO結晶が、c軸方向に該c軸をFTO基板に垂直に立てるように異方成長している、請求項4に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
【請求項6】
超親水性/疎水性パターン化表面が、フォトマスクを介した紫外線照射によりFTO表面に形成したものである、請求項1に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
【請求項7】
アナターゼTiO結晶パターンが、酸化チタン結晶が析出する反応系から液相反応により超親水性領域に選択的に析出させたものである、請求項1に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
【請求項8】
FTO層が、酸化スズの単相からなり、TiO層がアナターゼTiO単相からなる、請求項4に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
【請求項9】
TiO層が、ナノ結晶からなるナノサイズの凹凸と、FTOの表面形状由来の凹凸を合せ持ったハイブリッド階層凹凸構造を有している、請求項4に記載のアナターゼTiO結晶パターン。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかに記載のアナターゼTiO結晶パターンを作製する方法であって、フォトマスクを介した紫外線照射により基板表面に超親水性/疎水性パターン化表面を形成し、酸化チタン結晶が析出する反応系を用いて液相反応により、該超親水性領域にアナターゼTiO結晶パターンを選択的に析出させることを特徴とするアナターゼTiO結晶パターンの作製方法。
【請求項11】
FTO表面に超親水性/疎水性パターン化表面を形成する、請求項10に記載のアナターゼTiO結晶パターンの作製方法。
【請求項12】
酸化チタン結晶が析出する反応系として、フッ化チタン酸アンモニウム、ヘキサフルオロチタン(IV)酸塩、チタン酸塩、アセチルアセトンチタニル、しゅう酸チタン(IV)塩、又は硫酸チタンを含むチタン含有溶液を用いる、請求項10に記載のアナターゼTiO結晶パターンの作製方法。
【請求項13】
反応系が、水溶液反応、非水溶液反応、又は水熱反応による反応系である、請求項10に記載のアナターゼTiO結晶パターンの作製方法。
【請求項14】
反応系のホウ酸を添加して、あるいは反応系の温度、原料濃度又はpHを変化させてアナターゼTiO結晶を析出させる、請求項10に記載のアナターゼTiO結晶パターンの作製方法。
【請求項15】
超親水領域に10−30nmのナノ結晶の集積体により覆われたTiOマイクロパターン領域を形成する、請求項10に記載のアナターゼTiO結晶パターンの作製方法。
【請求項16】
請求項1から9のいずれかに記載のアナターゼTiO結晶パターンを構成要素として含むことを特徴とする電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−13038(P2009−13038A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180260(P2007−180260)
【出願日】平成19年7月9日(2007.7.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)経済産業省「平成18年度 戦略的技術開発委託費(高感度環境センサ部材開発に係るもの)」産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】