超速硬無収縮グラウト材

【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野 本発明は、新規な組成の超速硬無収縮グラウト材に関する。
従来技術とその問題点 機械設備類の据付け、土木及び建築構造物の構築に際しては、必ず接合を必要とする箇所がある。グラウト材は、これらの構造物の間隙を充填することにより、接合をより完全にする為に使用される材料であり、この様な接合部においては、収縮は極力避けなければならないので、低収縮性乃至無収縮性グラウト(以下無収縮グラウトという)が使用されている。無収縮グラウトは、ポルトランドセメント、細骨材、膨脹材、各種の混和材料などからなる無収縮グラウト材を水で練り合わせて調製されるもので、一般に流出管内径を18mmとした時のPロート(P18)による流下時間が14〜22秒、或いは下端内径を14mmとした時のJロート(J14)による流下時間が6〜10秒となるように練り上げて、注入施工される。この様なポルトランドセメント系グラウトには、下記の如き問題点がある。
(イ)早強性及び速硬性が不十分であるため、長時間にわたって設備を休止出来ない箇所或いは道路、軌道などの休止時間の限られた公共施設などでは、使用できない。
(ロ)ポルトランドセメント系グラウトは、膨脹材を配合することにより、材令7日程度までの水和の比較的初期に膨脹を起こさせ、その後の長期的乾燥収縮量を減少させることにより、施工体の体積減少を出来るだけ補償しようとするものであるが、過剰膨脹を生じない程度の膨脹剤の使用量では、膨脹量が不十分であって、硬化体が長期的に乾燥条件に置かれると、収縮して、施工時の体積よりも減少する。
近年、経費削減及び工費短縮の両方の観点から、グラウトに対して早強性及び速硬性のより一層の改善が求められる様になってきているため、ポルトランドセメントに代って超速硬セメントを使用することがあり、この場合に得られるグラウトは、速硬性無収縮グラウトまたは超速硬無収縮グラウトと呼ばれている。しかしながら、この様な超速硬セメント系グラウト材にも、以下の様な問題点がある。
(イ)一般にグラウトは、練り上がってから注入が終了するまでかなりの時間を要するのが通例であるから、練り上がり後一定の時間(例えば30分間)施工可能な程度の流動性が維持されていなければならない。超速硬セメント系グラウト材では、凝結遅延剤を添加することにより、得られる超速硬無収縮グラウトの流動性を確保しようとしているが、その流動性は、常温でも十分ではなく、まして施工温度が30℃を上回る場合には、時間の経過に伴う流動性の低下は著しくなり、施工が困難となる。この場合、混練水を増加させたり、流動性低下時に水を追加したりすることは、グラウトの無収縮性、強度などに悪影響を及ぼすので好ましくない。
問題点を解決するための手段 本発明者は、上記の如き技術の現状に鑑みて研究を重ねた結果、無機質結合材に特定の添加物を配合した超速硬セメント系グラウト材が公知材料の問題点を実質的に解消乃至大巾に軽減し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、下記の超速硬無収縮グラウト材を提供するものである:「ポルトランドセメント 30〜80重量部アルミナセメント 5〜50重量部石膏 5〜20重量部水酸化カルシウム及び/又は炭酸カルシウム 1〜20重量部からなる無機質結合材100重量部に対し、オキシカルボン酸及び/又はその塩類 0.01〜2.0 重量部亜鉛化合物 0.001〜0.5 重量部膨脹材 0.005〜0.02重量部減水剤 0.01〜2.0 重量部流動化剤 0.001〜2.0 重量部を配合してなる超速硬無収縮グラウト材。」
以下に、本発明で使用する各成分およびその使用割合について、説明する。周知の通り、組成物においては、各成分が相互に影響し合って、相乗的な効果を奏するので、個々の成分の限定理由を明確に示すことは、必ずしも、妥当でない場合もあるが、一応の限定理由を併せて示す。
本発明では、無機質結合材として、ポルトランドセメント、アルミナセメント、石膏並びに水酸化カルシウム及び/又は炭酸カルシウムを使用する。
ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどが挙げられ、これらの一種または二種以上を使用する。
石膏としては、二水石膏、α型半水石膏、β型半水石膏、II型二水石膏、III型二水石膏などの一種または二種以上を使用する。
無機質結合材100重量部(以下単に部とする)中の各成分の配合割合は、ポルトランドセメント30〜80部、アルミナセメント5〜50部、石膏5〜20部、水酸化カルシウム及び/又は炭酸カルシウム1〜20部である。ポトランドセメント及びアルミナセメントの配合割合が上記の範囲外となる場合には、早強性及び速硬性が十分に発現され難くなる。石膏の配合割合が5部未満の場合には、早強性及び速硬性の改善が十分行われなくなるのに対し、20部を上回る場合には、長期間経過後の硬化物に異常膨脹を生ずることがある。水酸化カルシウム及び/又は炭酸カルシウムの量が1部未満の場合には、やはり早強性及び速硬性の改善が十分行われなくなるのに対し、20部を上回る場合には、長期間経過後の硬化物の強度が低下する傾向が認められる。
本発明においては、無機質結合材に対し、さらにオキシカルボン酸及び/又はその塩の少なくとも一種、亜鉛化合物の少なくとも一種、膨脹材の少なくとも一種、減水剤の少なくとも一種及び流動化剤の少なくとも一種を添加する。
オキシカルボン酸及び/又はその塩と亜鉛化合物とは、相乗的な効果を発揮して、グラウトの流動性の低下を抑制し、その可使時間を延長するものである。オキシカルボン酸としては、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、クエン酸などが例示され、その塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが例示される。これらの中でも、グルコン酸、クエン酸、そのアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩がより好ましい。亜鉛化合物としては、酸化亜鉛、塩化亜鉛、臭化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸水素亜鉛、酢酸亜鉛、ギ酸亜鉛、リン酸亜鉛などが挙げられる。無機質結合材100部に対する配合割合は、オキシカルボン酸及び/又はその塩0.01〜2部および亜鉛化合物0.001〜0.5部である。この両者のいづれか一方の量がその下限値未満となる場合には、両者の相乗的作用によるグラウトの流動性低下防止の効果が十分に発揮出来ないのに対し、両者のいづれか一方の量がその上限値を上回る場合には、流動性のより一層の改善は達成されず、むしろ硬化体の強度低下を生ずる。
膨脹材としては、アルミニウム粉、鉄粉などの金属粉の酸化膨脹機構を利用する酸化膨脹型膨脹材を使用することがこの好ましい。石灰系およびカルシウムサルホアルミネート系などの水和膨脹機構を利用する水和膨脹型膨脹材は、これを上記無機質結合材に配合する場合に、膨脹性に特異な現象を示すので、好ましくない。この様な酸化膨脹型膨脹材としては、JIS K 5906「塗料用アルミニウム粉」の第2種に準ずる粒度(88μm網目ふるい上残分2%以下)のアルミニウム粉を使用することが好ましい。無機質結合材100部に対する膨脹材の配合割合は、0.005〜0.02部とする。その配合割合が0.005部未満の場合には、膨脹が不十分となるのに対し、0.02部を超える場合には、過剰膨脹を生ずる。
所定の流動性を得るに要する水量を減少させて硬化体の強度を高め且つ乾燥収縮量を減少させる減水剤としては、特に限定されず、公知のものをそのまま使用することが出来る。例えば、ナフタリンスルホン酸のホルマリン縮合物の塩を主成分とするもの{花王(株)製の商標名“マイティ100"、“マイティ150"、竹本油脂(株)製の商標名“ポールファイン510N"など}、高縮合トリアジン系化合物{ポゾリス物産(株)製の商標名“NL−1450"、“NL−4000"など}、アルキルアリルスルホン酸塩ポリマー{ダーレックス(株)製の商標名“ダーレックススーパー20"など}が具体的に挙げられる。無機質結合材100部に対する減水剤の配合割合は、0.01〜2.0部とする。その配合割合が0.01部未満の場合には、減水効果が十分に発揮されず、2.0部を上回る場合には、グラウトの硬化中に固液の分離を生ずることがある。
本発明においては、グラウトの粘稠性を低下させて、材料の分離を防止するとともに、グラウトの充填性を改善するために、流動化剤を使用する。流動化剤としては、特に限定されず、カゼイン、カゼインカルシウム、メラミンスルホン酸のホルマリン縮合物{例えば、昭和電工(株)製の商標名“メルメント”など}の公知のものが使用可能である。無機質結合材100部に対する流動化剤の配合割合は、0.01〜2.0部とする。その配合割合が0.01部未満の場合には、流動性改善の効果が十分でなく、2.0部を上回る場合には、所要の流動性を得るための混練水量が増大し、同時に粘稠性も大きくなって、充填性が悪化する。
本発明のグラウト材には、必要に応じて、増量材、細骨材などを配合することが出来る。
増量材は、長期強度の改善、コストの低減などの目的で添加されるものであり、セメント水和環境下に水酸化カルシウムまたは炭酸カルシウムと反応して、カルシウムシリケート系化合物を生成し得る材料を使用する。この様な材料として、フライアッシュ、シリカヒューム、高炉水砕スラグなどの活性シリカ質微粉末が挙げられる。増量剤の使用量は、グラウト材の組成によっても異なるが、通常無機質結合材100部に対し、200部程度以下である。増量剤の量が過剰である場合には、早強性が低下する傾向がある。
細骨材は、乾燥収縮量の低下、コストの低減などの目的で使用されるものであり、具体的には、川砂、海砂、山砂、珪砂、寒水石、砕砂などが例示される。細骨材の粒径は、最大2.5mm以下とすることが好ましい。細骨材の使用量は、グラウト材の組成によっても異なるが、通常無機質結合材100部に対し、250部程度以下である。細骨材の量が過剰である場合には、流動性が低下する。
発明の効果 本発明グラウト材においては、無機質結合材にオキシカルボン酸と亜鉛化合物とを併せて配合することにより、高い流動性と長い可使時間が得られるので、グラウト材を使用する構築における作業性が改善される。また、本発明グラウト材から得られる硬化体では、水和開始の数時間後から生成するエトリンジャイトの膨脹により、乾燥収縮が補償されるので、公知のポルトランドセメント系グラウト硬化体に比して乾燥収縮量がかなり小さくなる。さらに、膨脹材の存在による水和初期の膨脹、並びに減水剤及び流動化剤の存在による乾燥減量の縮小により、収縮量の減少をより一層抑制するとともに、早強性をも改善する。
したがって、本発明によれば、流動性、作業性及び早強性に優れた超速硬無収縮グラウト材が得られる。
なお、参考までに、本発明による超速硬無収縮グラウト材(I)、公知のポルトランドセメント系グラウト材(II)及び公知の超速硬セメント系グラウト材(III)の各種の特性を総括的に示すと、下記の通りである。第1表において、各記号は、下記の通りの意味を有する。
○…優秀△…普通×…劣る 第 1 表 (I) (II) (III)
流動性 ○ ○ ○ 可使時間 ○ ○ × 水和初期無収縮性 ○ ○ ○ 長期材令無収縮性 ○ × ○ 速硬性 ○ × ○ 早期強度 ○ × ○ 実 施 例 以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明確にする。
実施例1〜4 まず下記第2表に示す組成を有する無機質結合材を調製した。
第 2 表 ポルトランドセメント 50部アルミナセメント 30部石膏 10部水酸化カルシウム 10部 次いで、得られた無機質結合材100部に対し、第3表に示すような割合で、発明のその他の成分を配合して、本発明のグラウト材を得た。
第3表において、各記号は、下記の通りの意味を有する。
(A1)…グルコン酸(A2)…酒石酸(A3)…クエン酸(B1)…酸化亜鉛(B2)…塩化亜鉛(B3)…硫酸亜鉛(C)…ナフタリンスルホン酸のホルマリン縮合物系減水剤、商標名“マイティ100"、花王(株)製、(D)…メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物系流動化剤、商標名“メルメント”、昭和電工(株)製(E)…膨脹剤、粒径50μm以下のアルミニウム粉末

かくして得られた本発明グラウト材に第4表に示す割合で砂及び水を加え、均一に混練した後、凝結時間(第4表)、所定時間経過後の圧縮強度(第5表)及び経時後のJ14ロート流下時間(第6表)を調べた。
なお、第4表、第5表及び第6表には、比較例1及び2として、市販ポルトランドセメント系無収縮グラウト材及び超速硬セメント系無収縮グラウト材をそれぞれ使用した場合の結果を併せて示す。
第4表において、各記号は、下記の通りの意味を有する。
S/G…砂/グラウト材の重量比W/G…水/グラウト材の重量比





また、実施例1〜6及び比較例1〜2のグラウト材を使用して、型枠に注型し、材令7日まで保持した後、脱型し、温度20℃、相対湿度60%で養生乾燥し、土木学会編「膨脹コンクリート設計施工指針(案)」のマイクロメータ法による膨脹率測定を行ったところ、第1図に示す通りのグラフが得られた。
第4表乃至第6表及び第1図に示す結果から、本発明のグラウト材は、適切な可使時間を有しており、流動性、速硬性、早強性に優れ、硬化後の収縮量も極めて小さいことが明らかである。
【図面の簡単な説明】
第1図は、本発明グラウト材及び比較グラウト材を使用して得られた硬化体の収縮率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】ポルトランドセメント 30〜80重量部アルミナセメント 5〜50重量部石膏 5〜20重量部水酸化カルシウム及び/又は炭酸カルシウム 1〜20重量部からなる無機質結合材100重量部に対し、オキシカルボン酸及び/又はその塩類 0.01〜2.0 重量部亜鉛化合物 0.001〜0.5 重量部膨脹材 0.005〜0.02重量部減水剤 0.01〜2.0 重量部流動化剤 0.001〜2.0 重量部を配合してなる超速硬無収縮グラウト材。

【第1図】
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【特許番号】第2668076号
【登録日】平成9年(1997)7月4日
【発行日】平成9年(1997)10月27日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭63−57659
【出願日】昭和63年(1988)3月10日
【公開番号】特開平1−230455
【公開日】平成1年(1989)9月13日
【出願人】(999999999)住友大阪セメント株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭53−85821(JP,A)