超電導ケーブルおよび同ケーブルを用いたマグネット
【課題】超電導ケーブルの性能を充分発揮させて、損失が少なく、かつ高い安定性を有する大電流用の超電導ケーブルおよび同ケーブルを用いたマグネットを提供する。
【解決手段】中心に芯1を配置し、この芯の外周に超電導素線2,3,4,5,6を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせた構成とした超電導ケーブルにおいて、最内層以外のすべての層における前記超電導素線の撚りピッチ長を最内層の撚りピッチ長以下に設定し、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置する構成とする。
【解決手段】中心に芯1を配置し、この芯の外周に超電導素線2,3,4,5,6を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせた構成とした超電導ケーブルにおいて、最内層以外のすべての層における前記超電導素線の撚りピッチ長を最内層の撚りピッチ長以下に設定し、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置する構成とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導機器に使用される超電導ケーブルおよび同ケーブルを用いた超電導マグネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルは電源と超電導コイルとを接続する導体や、電力輸送用導体、そしてこれを巻き線とした超電導コイルとして用いられる。また、これらの超電導ケーブルを用いる超電導コイルは、超電導磁気エネルギ貯蔵(SMES:Superconducting Magnetic Energy Storage)、核融合装置用超電導コイルなどに広く用いられる。超電導ケーブルは、大電流供給用として用いることを目的とするため、超電導素線を多数組み合わせた形で構成される。
【0003】
多数の超電導素線を組み合わせた超電導ケーブルでは、各超電導素線のインダクタンスを等しくすることが難しく、超電導素線を撚り合せたり、捻ったり、編んだりすることでそのインダクタンスの違いを軽減する努力が払われてきた。
【0004】
また、直流導体として用いるか、交流導体として用いるかによって、あるいは低温超電導を用いるか、高温超電導を用いるかによって、大きくその設計が異なる。
【0005】
しかし、交流導体、パルス導体、直流導体のいずれの導体であっても、電流を通すときに発生する誘導電圧が、線路に含まれる直流抵抗(接続抵抗)、高温超電導導体にあっては磁束流抵抗によって生じる電圧に比べ、十分小さくない場合には、超電導素線間の僅かなインダクタンスの違いによって電流偏流が生じ、導体の臨界電流(あるいは定格電流)以下の電流しか通すことができない事態が生じる。また、高温超電導素線を用いた導体の場合では、磁束流抵抗の増加とともにこの偏流は解消されるが、多くの損失が発生し、超電導導体のメリットが十分発揮されない場合がある。
【0006】
さらに、コイルなどに超電導体が用いられる場合には、変動磁界によって生じる超電導素線間の結合損失を低減するため、素線表面にホルマール等の絶縁体あるいはCuNi、Cr等の高抵抗体を配し、素線間の電気抵抗を大きくしているが、この対策は、損失を減少するためには有効であるが、導体の安定性を確保するうえでは逆効果となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−25785号公報
【特許文献2】特開平10−312718号公報
【特許文献3】特開平9−45150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、多数の超電導素線を用いた超電導ケーブルでは各超電導素線のインダクタンスの違いによって電流偏流を生じ、充分な性能を発揮することができない。また、損失を減少する目的の高抵抗線を用いたケーブルでは、十分な安定性を発揮することができない。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、超電導ケーブルの性能を充分発揮させて、損失が少なく、かつ高い安定性を有する大電流用の超電導ケーブルおよび同ケーブルを用いたマグネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、中心に芯を配置し、この芯の外周に超電導素線を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせた構成とした超電導ケーブルにおいて、最内層以外のすべての層における前記超電導素線の撚りピッチ長を最内層の撚りピッチ長以下に設定し、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置したことを特徴とする超電導ケーブルである。
【0011】
請求項2の発明は、中心に芯を配置し、この芯の外周に超電導素線を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせた構成とした超電導ケーブルにおいて、各層における超電導素線の撚り方向を同一方向とし、かつ各層の撚りピッチ長をその内側の撚りピッチ長以下にし、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置したことを特徴とする超電導ケーブルである。
【0012】
請求項3の発明は、中心に芯を配置し、この芯の外周に超電導素線を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせ、そのうち内側の2層以上と外側の2層以上とに対して電流の往路および復路を設定した超電導ケーブルにおいて、往路側の層と復路側の層における前記超電導素線の撚り方向は互いに異なる方向とし、かつ内側に配置される往路または復路となる2層以上の層内では外側の層ほど撚りピッチ長を短くする一方、外側に配置される往路または復路となる2層以上の層内では外側の層ほど撚りピッチを長くし、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置したことを特徴とする超電導ケーブルである。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の超電導ケーブルにおいて、前記抵抗体は、CuNi、Cr、ホルマールのいずれかから成ることを特徴とする超電導ケーブルである。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1から4までのいずれかに記載の超電導ケーブルを巻線として用いたことを特徴とするマグネットである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る超電導ケーブルおよびそれを用いたマグネットによれば、電流偏流を有効に抑制することができるとともに、高い安定性を有するものとなり、核融合装置等の分野で優れた効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態による超電導ケーブルを示す構成図で、(a)は3層構造の超電導ケーブルの全体構成を示す図、(b)は(a)の2層目までを示す図、(c)は1層目のみを示す図。
【図2】(a),(b)は、前記第1実施形態に対応する超電導素線の各撚りピッチについて、最内層(1層目)のツイストピッチに対する関係を示すグラフ。
【図3】本発明の第2実施形態による超電導ケーブルの一例を示し、(a)は多層同軸構造の超電導ケーブルの構成図、(b),(c)はそれぞれ2層目、1層目を示す図。
【図4】(a),(b)は、それぞれ第2実施形態に係る超電導ケーブルの各撚りピッチの関係を示すグラフ。
【図5】本発明の第3実施形態による超電導ケーブルの一例を示し、(a)は多層同軸構造の超電導ケーブルの構成図、(b),(c)はそれぞれ送り側、戻り側の撚り線を示す図。
【図6】(a)は本発明の第4実施形態による超電導ケーブルの一例を示す図、(b)は軸直角断面図。
【図7】前記第4実施形態の変形例を示し、層間に絶縁物を配置して層間の電気的な絶縁を確保した構成を示す図。
【図8】前記第4実施形態の他の変形例で、絶縁スペーサを用いた構成を示す図。
【図9】前記第4実施形態の別の変形例を示し、高抵抗体を被覆した超電導素線と通常の素線とを交互に配置した構成を示す図。
【図10】前記第4実施形態の作用を説明するための図で、電気的短絡部の電気抵抗および隣接線に移行できる電流の割合との関係を示すグラフ。
【図11】前記第4実施形態の作用を説明するための図で、冷却能力および発熱量の時間的変化を示すグラフ。
【図12】(a),(b)は本発明の第5実施形態を示すもので、コンジット内に納められる超電導ケーブルの一例を示す図。
【図13】前記第5実施形態の変形例を示す図。
【図14】前記第5実施形態の別の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
[第1実施形態(図1,図2)]
図1(a)は、本実施形態による高温超電導ケーブルとして3層構造の例を示したものである。同図(b)は、その1層と2層とを示し、(c)は1層目のみを示す。
【0019】
この高温超電導ケーブルは、中心に配置された円管状のパイプ1からなる芯の周りに、円形断面の超電導素線2,3,4を複数の層として巻きつけて構成されている。各層の超電導素線2,3,4には、液体ヘリウム温度で用いられるNbTi線、Nb3Sn線、Nb3Al線などのほか、酸化物高温超電導素線(例えば、Bi2212、Bi2223等)の線材が適用されている。
【0020】
本実施形態では外層側の2層目および3層目の超電導素線3,4の撚りピッチ長を、最内層である1層目超電導素線2に対して短く設定してある。即ち、図1(a),(b),(c)にそれぞれ1/2ピッチとして示す矢印線の長さが各層の撚りピッチ長を表しており、本実施形態では、このように、最内層の以外の全ての層において最内層以下に設定される。
なお、本実施形態では、各層毎に撚り方向を異ならせた、いわゆる交互撚りとしてある。
【0021】
一般に、大電流を供給するための超電導導体は、数百本から数千本の超電導素線を束ねて用いられるが、このような多くの超電導素線を束ねた導体で各々のインダクタンスを等しくしないと、抵抗が0の超電導素線では大きな電流偏流が生じる。すなわち、多数の超電導素線が幾何学的に全く等しく配置されずに集合された超電導ケーブルでは各超電導素線に等電流を通すことは困難であり、結果として最も多くの電流が供給される超電導素線がそのケーブルの能力を決定してしまうことになる。
したがって、こうした多数の超電導素線を組み合わせた超電導ケーブルでは、各超電導素線のインダクタンスを如何にそろえるかが大きな問題となる。
【0022】
図1(a),(b)に示すように、本実施形態の高温超電導ケーブルにおいては、超電導素線2,3,4を中心のパイプ1の周りに幾何学的に対称に撚られた状態で何層にも重ねて同軸上に配置してあり、この場合、各層内では超電導素線2,3,4同士は全く幾何学的に対称で各素線のインダクタンスは全て等しくなる。
【0023】
一方、図1(c)に示すように、1層のみしか存在しない超電導ケーブルでは、同軸に配置することで、各超電導素線2のインダクタンスを等しくすることができ、電流の偏流を避けることができる。しかし、素線数が数百本、数千本となる場合、1層のみでケーブルを構成することは、導体の電流密度を極端に下げることになり、事実上不可能である。
【0024】
これに対して、多層の同軸ケーブル構成が必要となるが、ここで問題となるのは、仮に撚りピッチ長を全ての層で等しい導体を製作した場合に、各層間の電磁的な結合(インピーダンスの違い)で層毎に流れる電流値が異なってしまうことである。より具体的には外層ほど電流が流れやすくなることが知られている。
【0025】
そこで、本発明では層間の偏流を防止するため、層毎に撚り方向を変えたり、層毎に撚りピッチ長を変えることに想到したものであり、本実施形態では外層側の2層目および3層目の超電導素線3,4の撚りピッチ長を、最内層である1層目の超電導素線2に対して短くすることにより、層間の偏流を防ぐようにしたものである。
【0026】
次に、図2(a),(b)によって撚りピッチ長の関係を説明する。図2(a)は具体的に、交互撚りの3層構造の同軸ケーブルにおける撚りピッチ長の関係を計算によって求めた例を示している。この図2(a)に示すように、3層構造のケーブルでは、例えば1層目の撚りピッチを500mmにした場合、2層目32mm、3層目34mmとなる。
【0027】
また、図2(b)は4層構造の場合を示している。この場合には、図2(b)に示すように、1層目の撚りピッチ長500mmに対し、2層目では43mm、3層目では17mm、4層目では25mmとなる。
【0028】
以上のように、層間の電流偏流は超電導素線に流れる電流がつくる周方向磁界が引き起こすものであるが、本実施形態によれば、外層の撚りピッチ長を最内層の撚りピッチ長以下に短くすることで、偏流の原因となる周方向磁界を打ち消す導体軸方向の磁界を発生させ、電流の偏流を防ぐことができる。
【0029】
[第2実施形態(図3,図4)]
図3(a)は、本発明の第2実施形態による超電導ケーブルを例示したものである。
【0030】
この超電導ケーブルは、中心に配置されたパイプ1の周りに、円形断面の超電導素線2,3,4を、各層の撚り方向を全て同一方向に設定し、かつ外側ほど撚りピッチ長を短くして3層に巻きつけて作製してある。図3(b)は、そのうち2層目までを示し、同図(c)は1層のみを示している。
【0031】
本実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果が奏されるのは勿論であるが、交互撚りとの明確な差として、偏流の原因となる周方向磁界を打ち消すための軸方向磁界が効率よく利用できる点が挙げられる。
【0032】
即ち、第1実施形態で示した交互撚りの同軸ケーブルでは、隣り合う層が互いに逆向きの導体軸方向磁場を出すため、偏流の原因となっている周方向の磁場を効率よくキャンセルすることができないが、本実施形態によればこれを克服することができる。
【0033】
具体的な計算によって求めた撚りピッチ長の関係を図4(a),(b)に示す。この図4(a)に示すように、3層撚りのケーブルの場合には、例えば1層目の撚りピッチ長500mmに対し、2層目は150mmm、3層目は275mmのような構成を選ぶことにより、また同図(b)に示すように、4層撚りのケーブルの場合には、例えば1層目の撚りピッチ長500mmに対し、2層目の撚りピッチ長は325mm、3層目は200mm、4層目は125mmのような構成を選定することで、層間の偏流を抑制することができる。
【0034】
なお、図4では、全ての層の撚りピッチ長を50mmにした場合に各層間に流れる電流が一致するように見えるが、実際の値は1mm程度ずつずれている。仮に全て層を50mmピッチにすると、その僅かな差で大きな電流偏流が起こってしまう。したがって、ケーブルの製作を考えた場合、なるべく大きな撚りピッチ長を選ぶ方が好ましい。
【0035】
本実施形態によれば、全て同一方向撚りの同軸ケーブルとし、かつ、少くとも各層の撚りピッチを最内層の撚りピッチ長以下にすることにより、層間の偏流を防ぐことができ、偏流による導体の性能低下や損失の増加を防止することができる。
【0036】
[第3実施形態(図5)]
次に、図5(a),(b),(c)は同軸のケーブルに電流の往路(送り側)と復路(戻り側:リターン)とを有する第3実施形態のケーブルを例示したものである。この例では4層構造を示しており、内側に配置する1層目と2層目の超電導素線2,3が送り側とされ、外側に配置する3層目と4層目の超電導素線5,6が戻り側とされている。そして、送り側の層と戻り側の層とについて、撚り方向は互いに異なる方向としてある。
【0037】
この場合、図5(b)に示すように、内側に配置される送り側の各層(1層目、2層目)内では外側(2層目)ほど撚りピッチ長を小さくし、また図5(c)に示すように、外側に配置される戻り側の各層(3層目、4層目)内では外側の層(4層目)ほど撚りピッチ長を大きくしている。なお、3層目と4層目との間には絶縁シート7が介在され、往復路間での電気的絶縁が図られている。
【0038】
本実施形態ではこのような構成にすることにより、送り側の超電導素線2,3、および戻り側の超電導素線5,6の各層間の偏流を防ぐことができる。復路(リターン)を持たないケーブルの場合、外側の層の撚りピッチ長を最内層より短く構成することで、周方向磁場を打ち消すための軸方向磁場を形成してきたが、本実施形態によれば、復路(リターン)が形成する周方向磁場は、往路が形成する磁場と逆向きであり、往路の偏流を抑制する効果が奏される。
なお、図5には4層構造のケーブルを示してあるが、さらに多層構造のケーブルに適用できることは勿論である。
【0039】
[第4実施形態(図6〜図9)]
図6(a),(b)は本実施形態による超電導ケーブルの一例を示している。
【0040】
この超電導ケーブルは、各層(例えば2層)の超電導素線2,3の撚りピッチ長の最小公倍数の長さを周期とし、その周期ごとの軸方向位置において、その断面内の全ての層を電気的短絡部8によって電気的に短絡したものである。
【0041】
前述した第1実施形態および第2実施形態の構成では、層間に電流の偏流がなくなった場合でも、全ての外乱に対して必ずしも高性能の導体になったとはいえない。これは、1本の超電導素線が電磁力などによって動き、発熱して超電導状態が崩れた場合、絶縁された素線間では電流が隣接する超電導素線へ移ることができないため、この発熱を抑えることができず、ケーブル全体の超電導状態を破壊してしまうことになるためである。
【0042】
これに対し、本実施形態では、ケーブルの全ての層を各層の撚りピッチ長の最小公倍数ごとに電気的に短絡することで、各層の超電導素線のコンダクタンスを等しくし、これにより偏流を防いだ状態を維持しつつ、素線間の電流再配分が可能なケーブルを構成することができる。
【0043】
また、最内層の撚りピッチ長を外層の撚りピッチ長の整数倍にすることで、より短い間隔で電気的短絡部を形成している。これは超電導素線間の電流再配分の速度が短絡部間の距離に大きく影響するからである。即ち、短絡部が長いと、外乱によって超電導状態が崩れたときに発生する抵抗に比べて、短絡部間に形成される回路のインダクタンスが大きくなり、結果として電流が再配分する時定数が大きくなる。時定数が大きいということは即ち、電流が他の線へ移るのにより時間がかかることを意味しており、短絡の効果が十分発揮されないことにつながる。
【0044】
そこで、本実施形態では、最内層の超電導素線2の撚りピッチ長を外層の超電導素線3の撚りピッチ長の整数倍にすることで、短い間隔の短絡部ピッチを実現することができる。
また、各超電導素線2,3のコンダクタンスを揃えるためには、各超電導素線2,3が電気的に絶縁されていることが必要となる。
【0045】
そこで、本実施形態では図7に示すように、各層の超電導素線2,3,4の層間に絶縁物(層間絶縁シート)9を介在させ、これにより層間の電気的な絶縁を確保している。
【0046】
また、同軸撚りのケーブルの場合、同一層内の超電導素線2,3,4は互いに線接触しているため、素線表面に高抵抗体を配置するか、Crメッキなどにより素線を硬くするか、あるいは(10μm程度の)薄いホルマール絶縁などをすることで、素線間の絶縁が確保できる。ところが、異なる層に属する素線間は点接触になるため、このような方法では十分な絶縁をとることができない。
【0047】
そこで、本実施形態では各層の間に絶縁物9を配置することで、層間の絶縁を確保できる。また、層間に絶縁シートなどを配置することで、素線が他の層の素線間の溝に落ち込んでインダクタンスが乱れることについても、これを防止することができる。
【0048】
さらに、図8に示すように、各層の層間に孔あきシート、その他の流体の流通が可能な絶縁スペーサ10を配置してもよい。このような構成によって冷媒の通路を確保することで、層間絶縁の他に、冷媒による冷却効果を向上させ、安定な導体を構成することも可能である。
なお、中央に配置されたパイプ1等の芯に冷媒を流すことで、安定性を向上させることもできる。
【0049】
また、図9には各層内に配置される導体構成として、CuNi、Cr、ホルマール等の高抵抗体を被覆した超電導素線(表面高抵抗線)11と、通常の超電導素線2,3,4とを交互に配置した構成を示している。
【0050】
このような構成とすることにより、表面に絶縁被覆、高抵抗体等を配置した冷却の悪い素線11の近傍に表面の冷却が良好な通常の超電導素線2,3,4を配置することができ、電流再配分が起こった時の性能向上に役立つものとすることができる。
【0051】
本実施形態の超電導ケーブルに用いられる超電導素線としては、NbTi線、Nb3Sn線、Nb3Al線、または酸化物超電導導体の銀シース線(Y系、Bi系、Tl系、Hg系)など全ての超電導素線が適用でき、本発明ではこれらに対して優れた効果が奏される。特に、低温超電導では偏流防止及び電気的短絡部を設けることによる安定性の向上、また酸化物超電導素線では偏流防止による損失低減にそれぞれ有効である。
【0052】
[第4実施形態の作用(図10,図11)]
上述した第4実施形態において、電気的短絡部を設けた超電導ケーブルの様々な態様を示したが、本実施形態では、その電気的短絡部の抵抗値を規定する。
図10は、電気的短絡部の素線間接触抵抗(2Rc)と常電導抵抗(Rn)との比、および隣接する超電導素線へ移ることができる電流の割合を示している。
【0053】
即ち、電気的短絡部が効果を発揮するためには、少なくとも1本の超電導素線が短絡ピッチ長において発生できる最大常電導抵抗よりも電気的短絡部の抵抗値を小さくする必要がある。具体的には、電気的短絡部の間隔が1m、超電導素線が直径1mm、RRR=100、銅比1の時の1m当りの常電導抵抗は、1.8E−10Ωm×1m/(0.5e−3)2/π=0.23mΩであり、少なくとも電流が他の超電導素線へ移るためには、これ以下の接触抵抗である必要がある。
【0054】
さらに、電気的短絡部を設けた超電導ケーブルにおいて、少なくとも短絡ピッチ長の線路のインダクタンスLと、常電導抵抗Rnとの比(L/Rn)が、10msより小さくなるように定める。
【0055】
図11は、超電導ケーブルの発熱および冷媒冷却能力の時間特性を示している。この図11に示すように、一般的な超電導素線を冷却する冷媒(例えばヘリウム)の冷却性能は時定数1msを持つ超電導ケーブルの発熱特性よりも優っているが、時定数10msの超電導ケーブルの発熱特性は、冷媒の冷却性能を若干上回ってしまう。超電導素線が素線の動きなどの発熱によって常電導転移する場合、10ms以内に広がる常電導部の長さは、線材長手方向の熱拡散距離以下であり、銅を安定化材として用いた超電導素線の場合、おおよそ100mm程度である。
【0056】
また、直径1mm程度の素線間の線路のインダクタンスは1m当り約2×10−7H程度である。より具体的には、冷媒が5K以下の超臨界ヘリウムにの場合には、10msの間に広がる常電導領域を100mmとすると、このときの発生抵抗は上述した一般的な超電導素線の値を用いて約2×10−5Ωとなる。
【0057】
この常電導抵抗に対して短絡部間の線路インダクタンスが2×10−7H以下であれば、電流再配分の時定数は10ms以下となる。このことから、短絡ピッチ長を1m以下にすることにより非常に安定なケーブルを提供することができる。
【0058】
このような、短絡ピッチの導体は、第2実施形態で示した同方向撚りの同軸構成で、特に撚りピッチが短くかつ各層の撚りピッチが全て等しい場合に最も容易に実現できる。
【0059】
[第5実施形態(図12〜図14)]
図12(a),(b)は、ケーブル・イン・コンジット型の短絡方法、つまり周期的に各層を電気的に短絡する超電導ケーブルが、ステンレスパイプ等のコンジット13に収納される構成についての短絡方法について示している。
【0060】
即ち、本実施形態では、図12(a),(b)に示すように、ケーブル中央に配置されたパイプ等の芯1の外径を、電気的に短絡する部分で大きくしたパイプ径増大部12を設け、これにより大径となった部分の空隙率を小さくし、素線同士を良好に密着させるようにしている。
このような構成によれば、素線間の接触電気抵抗を低くすることができる。
【0061】
なお、図13に示すように、前記と逆に、電気的に短絡したい部分のコンジット13の内径を小さく構成してもよい。このような構成によっても、前述と同様の効果が奏される。
一方、図14はコンジット等を持たないケーブルについて、電気的短絡部に工夫を施した場合を示している。
【0062】
即ち、図14に示すように、電気的に短絡したい部分のケーブル外周に、そのケーブルの構成部材と熱収縮率が異なる熱収縮リング15を配置した構成とするものである。この超電導ケーブルが、NbTi等の非熱処理導体で構成される場合には、この熱収縮リング15を、常温から極低温までの熱収縮率が導体中央に配置されたパイプ1等の熱収縮率よりも大きい材料、例えばジュラルミンを用い、冷却後にこのリングの部分に圧縮力が加わるようにする。この場合の短絡ピッチは前記第3実施形態と同様である。
【0063】
また、超電導ケーブルがNb3Sn、Nb3Al、酸化物超電導体等の熱処理導体で構成される場合においては、当該金属リングの常温から熱処理温度までの熱膨張率が導体中心に配置されたパイプ1等の熱膨張率よりも小さい材料、例えばタングステン等を用い、熱処理中にこの部分に圧縮力が加わり、拡散接合するように構成する。
【0064】
本実施形態によれば、このような構成とすることにより、特別な作業を行わずに、電気的短絡部を設けることができ、高い安定性を有するケーブルを提供することができる。
【0065】
[他の実施形態]
上述した各実施形態の超電導ケーブルによれば、電流偏流を抑制して高い安定性能を有することから、これを超電導マグネットに適用することができる。
この場合においては、超電導マグネットとして、高度に安定した特性を得ることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 芯(パイプ)
2,3,4,5,6 超電導素線
7 絶縁シート
8 電気的短絡部
9 層間絶縁シート
10 絶縁スペーサ
11 表面高抵抗線
12 パイプ径増大部
13 コンジット
14 断面積縮小部
15 熱収縮リング
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導機器に使用される超電導ケーブルおよび同ケーブルを用いた超電導マグネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルは電源と超電導コイルとを接続する導体や、電力輸送用導体、そしてこれを巻き線とした超電導コイルとして用いられる。また、これらの超電導ケーブルを用いる超電導コイルは、超電導磁気エネルギ貯蔵(SMES:Superconducting Magnetic Energy Storage)、核融合装置用超電導コイルなどに広く用いられる。超電導ケーブルは、大電流供給用として用いることを目的とするため、超電導素線を多数組み合わせた形で構成される。
【0003】
多数の超電導素線を組み合わせた超電導ケーブルでは、各超電導素線のインダクタンスを等しくすることが難しく、超電導素線を撚り合せたり、捻ったり、編んだりすることでそのインダクタンスの違いを軽減する努力が払われてきた。
【0004】
また、直流導体として用いるか、交流導体として用いるかによって、あるいは低温超電導を用いるか、高温超電導を用いるかによって、大きくその設計が異なる。
【0005】
しかし、交流導体、パルス導体、直流導体のいずれの導体であっても、電流を通すときに発生する誘導電圧が、線路に含まれる直流抵抗(接続抵抗)、高温超電導導体にあっては磁束流抵抗によって生じる電圧に比べ、十分小さくない場合には、超電導素線間の僅かなインダクタンスの違いによって電流偏流が生じ、導体の臨界電流(あるいは定格電流)以下の電流しか通すことができない事態が生じる。また、高温超電導素線を用いた導体の場合では、磁束流抵抗の増加とともにこの偏流は解消されるが、多くの損失が発生し、超電導導体のメリットが十分発揮されない場合がある。
【0006】
さらに、コイルなどに超電導体が用いられる場合には、変動磁界によって生じる超電導素線間の結合損失を低減するため、素線表面にホルマール等の絶縁体あるいはCuNi、Cr等の高抵抗体を配し、素線間の電気抵抗を大きくしているが、この対策は、損失を減少するためには有効であるが、導体の安定性を確保するうえでは逆効果となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−25785号公報
【特許文献2】特開平10−312718号公報
【特許文献3】特開平9−45150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、多数の超電導素線を用いた超電導ケーブルでは各超電導素線のインダクタンスの違いによって電流偏流を生じ、充分な性能を発揮することができない。また、損失を減少する目的の高抵抗線を用いたケーブルでは、十分な安定性を発揮することができない。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、超電導ケーブルの性能を充分発揮させて、損失が少なく、かつ高い安定性を有する大電流用の超電導ケーブルおよび同ケーブルを用いたマグネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、中心に芯を配置し、この芯の外周に超電導素線を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせた構成とした超電導ケーブルにおいて、最内層以外のすべての層における前記超電導素線の撚りピッチ長を最内層の撚りピッチ長以下に設定し、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置したことを特徴とする超電導ケーブルである。
【0011】
請求項2の発明は、中心に芯を配置し、この芯の外周に超電導素線を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせた構成とした超電導ケーブルにおいて、各層における超電導素線の撚り方向を同一方向とし、かつ各層の撚りピッチ長をその内側の撚りピッチ長以下にし、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置したことを特徴とする超電導ケーブルである。
【0012】
請求項3の発明は、中心に芯を配置し、この芯の外周に超電導素線を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせ、そのうち内側の2層以上と外側の2層以上とに対して電流の往路および復路を設定した超電導ケーブルにおいて、往路側の層と復路側の層における前記超電導素線の撚り方向は互いに異なる方向とし、かつ内側に配置される往路または復路となる2層以上の層内では外側の層ほど撚りピッチ長を短くする一方、外側に配置される往路または復路となる2層以上の層内では外側の層ほど撚りピッチを長くし、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置したことを特徴とする超電導ケーブルである。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の超電導ケーブルにおいて、前記抵抗体は、CuNi、Cr、ホルマールのいずれかから成ることを特徴とする超電導ケーブルである。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1から4までのいずれかに記載の超電導ケーブルを巻線として用いたことを特徴とするマグネットである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る超電導ケーブルおよびそれを用いたマグネットによれば、電流偏流を有効に抑制することができるとともに、高い安定性を有するものとなり、核融合装置等の分野で優れた効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態による超電導ケーブルを示す構成図で、(a)は3層構造の超電導ケーブルの全体構成を示す図、(b)は(a)の2層目までを示す図、(c)は1層目のみを示す図。
【図2】(a),(b)は、前記第1実施形態に対応する超電導素線の各撚りピッチについて、最内層(1層目)のツイストピッチに対する関係を示すグラフ。
【図3】本発明の第2実施形態による超電導ケーブルの一例を示し、(a)は多層同軸構造の超電導ケーブルの構成図、(b),(c)はそれぞれ2層目、1層目を示す図。
【図4】(a),(b)は、それぞれ第2実施形態に係る超電導ケーブルの各撚りピッチの関係を示すグラフ。
【図5】本発明の第3実施形態による超電導ケーブルの一例を示し、(a)は多層同軸構造の超電導ケーブルの構成図、(b),(c)はそれぞれ送り側、戻り側の撚り線を示す図。
【図6】(a)は本発明の第4実施形態による超電導ケーブルの一例を示す図、(b)は軸直角断面図。
【図7】前記第4実施形態の変形例を示し、層間に絶縁物を配置して層間の電気的な絶縁を確保した構成を示す図。
【図8】前記第4実施形態の他の変形例で、絶縁スペーサを用いた構成を示す図。
【図9】前記第4実施形態の別の変形例を示し、高抵抗体を被覆した超電導素線と通常の素線とを交互に配置した構成を示す図。
【図10】前記第4実施形態の作用を説明するための図で、電気的短絡部の電気抵抗および隣接線に移行できる電流の割合との関係を示すグラフ。
【図11】前記第4実施形態の作用を説明するための図で、冷却能力および発熱量の時間的変化を示すグラフ。
【図12】(a),(b)は本発明の第5実施形態を示すもので、コンジット内に納められる超電導ケーブルの一例を示す図。
【図13】前記第5実施形態の変形例を示す図。
【図14】前記第5実施形態の別の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
[第1実施形態(図1,図2)]
図1(a)は、本実施形態による高温超電導ケーブルとして3層構造の例を示したものである。同図(b)は、その1層と2層とを示し、(c)は1層目のみを示す。
【0019】
この高温超電導ケーブルは、中心に配置された円管状のパイプ1からなる芯の周りに、円形断面の超電導素線2,3,4を複数の層として巻きつけて構成されている。各層の超電導素線2,3,4には、液体ヘリウム温度で用いられるNbTi線、Nb3Sn線、Nb3Al線などのほか、酸化物高温超電導素線(例えば、Bi2212、Bi2223等)の線材が適用されている。
【0020】
本実施形態では外層側の2層目および3層目の超電導素線3,4の撚りピッチ長を、最内層である1層目超電導素線2に対して短く設定してある。即ち、図1(a),(b),(c)にそれぞれ1/2ピッチとして示す矢印線の長さが各層の撚りピッチ長を表しており、本実施形態では、このように、最内層の以外の全ての層において最内層以下に設定される。
なお、本実施形態では、各層毎に撚り方向を異ならせた、いわゆる交互撚りとしてある。
【0021】
一般に、大電流を供給するための超電導導体は、数百本から数千本の超電導素線を束ねて用いられるが、このような多くの超電導素線を束ねた導体で各々のインダクタンスを等しくしないと、抵抗が0の超電導素線では大きな電流偏流が生じる。すなわち、多数の超電導素線が幾何学的に全く等しく配置されずに集合された超電導ケーブルでは各超電導素線に等電流を通すことは困難であり、結果として最も多くの電流が供給される超電導素線がそのケーブルの能力を決定してしまうことになる。
したがって、こうした多数の超電導素線を組み合わせた超電導ケーブルでは、各超電導素線のインダクタンスを如何にそろえるかが大きな問題となる。
【0022】
図1(a),(b)に示すように、本実施形態の高温超電導ケーブルにおいては、超電導素線2,3,4を中心のパイプ1の周りに幾何学的に対称に撚られた状態で何層にも重ねて同軸上に配置してあり、この場合、各層内では超電導素線2,3,4同士は全く幾何学的に対称で各素線のインダクタンスは全て等しくなる。
【0023】
一方、図1(c)に示すように、1層のみしか存在しない超電導ケーブルでは、同軸に配置することで、各超電導素線2のインダクタンスを等しくすることができ、電流の偏流を避けることができる。しかし、素線数が数百本、数千本となる場合、1層のみでケーブルを構成することは、導体の電流密度を極端に下げることになり、事実上不可能である。
【0024】
これに対して、多層の同軸ケーブル構成が必要となるが、ここで問題となるのは、仮に撚りピッチ長を全ての層で等しい導体を製作した場合に、各層間の電磁的な結合(インピーダンスの違い)で層毎に流れる電流値が異なってしまうことである。より具体的には外層ほど電流が流れやすくなることが知られている。
【0025】
そこで、本発明では層間の偏流を防止するため、層毎に撚り方向を変えたり、層毎に撚りピッチ長を変えることに想到したものであり、本実施形態では外層側の2層目および3層目の超電導素線3,4の撚りピッチ長を、最内層である1層目の超電導素線2に対して短くすることにより、層間の偏流を防ぐようにしたものである。
【0026】
次に、図2(a),(b)によって撚りピッチ長の関係を説明する。図2(a)は具体的に、交互撚りの3層構造の同軸ケーブルにおける撚りピッチ長の関係を計算によって求めた例を示している。この図2(a)に示すように、3層構造のケーブルでは、例えば1層目の撚りピッチを500mmにした場合、2層目32mm、3層目34mmとなる。
【0027】
また、図2(b)は4層構造の場合を示している。この場合には、図2(b)に示すように、1層目の撚りピッチ長500mmに対し、2層目では43mm、3層目では17mm、4層目では25mmとなる。
【0028】
以上のように、層間の電流偏流は超電導素線に流れる電流がつくる周方向磁界が引き起こすものであるが、本実施形態によれば、外層の撚りピッチ長を最内層の撚りピッチ長以下に短くすることで、偏流の原因となる周方向磁界を打ち消す導体軸方向の磁界を発生させ、電流の偏流を防ぐことができる。
【0029】
[第2実施形態(図3,図4)]
図3(a)は、本発明の第2実施形態による超電導ケーブルを例示したものである。
【0030】
この超電導ケーブルは、中心に配置されたパイプ1の周りに、円形断面の超電導素線2,3,4を、各層の撚り方向を全て同一方向に設定し、かつ外側ほど撚りピッチ長を短くして3層に巻きつけて作製してある。図3(b)は、そのうち2層目までを示し、同図(c)は1層のみを示している。
【0031】
本実施形態によっても、前述した第1実施形態と同様の効果が奏されるのは勿論であるが、交互撚りとの明確な差として、偏流の原因となる周方向磁界を打ち消すための軸方向磁界が効率よく利用できる点が挙げられる。
【0032】
即ち、第1実施形態で示した交互撚りの同軸ケーブルでは、隣り合う層が互いに逆向きの導体軸方向磁場を出すため、偏流の原因となっている周方向の磁場を効率よくキャンセルすることができないが、本実施形態によればこれを克服することができる。
【0033】
具体的な計算によって求めた撚りピッチ長の関係を図4(a),(b)に示す。この図4(a)に示すように、3層撚りのケーブルの場合には、例えば1層目の撚りピッチ長500mmに対し、2層目は150mmm、3層目は275mmのような構成を選ぶことにより、また同図(b)に示すように、4層撚りのケーブルの場合には、例えば1層目の撚りピッチ長500mmに対し、2層目の撚りピッチ長は325mm、3層目は200mm、4層目は125mmのような構成を選定することで、層間の偏流を抑制することができる。
【0034】
なお、図4では、全ての層の撚りピッチ長を50mmにした場合に各層間に流れる電流が一致するように見えるが、実際の値は1mm程度ずつずれている。仮に全て層を50mmピッチにすると、その僅かな差で大きな電流偏流が起こってしまう。したがって、ケーブルの製作を考えた場合、なるべく大きな撚りピッチ長を選ぶ方が好ましい。
【0035】
本実施形態によれば、全て同一方向撚りの同軸ケーブルとし、かつ、少くとも各層の撚りピッチを最内層の撚りピッチ長以下にすることにより、層間の偏流を防ぐことができ、偏流による導体の性能低下や損失の増加を防止することができる。
【0036】
[第3実施形態(図5)]
次に、図5(a),(b),(c)は同軸のケーブルに電流の往路(送り側)と復路(戻り側:リターン)とを有する第3実施形態のケーブルを例示したものである。この例では4層構造を示しており、内側に配置する1層目と2層目の超電導素線2,3が送り側とされ、外側に配置する3層目と4層目の超電導素線5,6が戻り側とされている。そして、送り側の層と戻り側の層とについて、撚り方向は互いに異なる方向としてある。
【0037】
この場合、図5(b)に示すように、内側に配置される送り側の各層(1層目、2層目)内では外側(2層目)ほど撚りピッチ長を小さくし、また図5(c)に示すように、外側に配置される戻り側の各層(3層目、4層目)内では外側の層(4層目)ほど撚りピッチ長を大きくしている。なお、3層目と4層目との間には絶縁シート7が介在され、往復路間での電気的絶縁が図られている。
【0038】
本実施形態ではこのような構成にすることにより、送り側の超電導素線2,3、および戻り側の超電導素線5,6の各層間の偏流を防ぐことができる。復路(リターン)を持たないケーブルの場合、外側の層の撚りピッチ長を最内層より短く構成することで、周方向磁場を打ち消すための軸方向磁場を形成してきたが、本実施形態によれば、復路(リターン)が形成する周方向磁場は、往路が形成する磁場と逆向きであり、往路の偏流を抑制する効果が奏される。
なお、図5には4層構造のケーブルを示してあるが、さらに多層構造のケーブルに適用できることは勿論である。
【0039】
[第4実施形態(図6〜図9)]
図6(a),(b)は本実施形態による超電導ケーブルの一例を示している。
【0040】
この超電導ケーブルは、各層(例えば2層)の超電導素線2,3の撚りピッチ長の最小公倍数の長さを周期とし、その周期ごとの軸方向位置において、その断面内の全ての層を電気的短絡部8によって電気的に短絡したものである。
【0041】
前述した第1実施形態および第2実施形態の構成では、層間に電流の偏流がなくなった場合でも、全ての外乱に対して必ずしも高性能の導体になったとはいえない。これは、1本の超電導素線が電磁力などによって動き、発熱して超電導状態が崩れた場合、絶縁された素線間では電流が隣接する超電導素線へ移ることができないため、この発熱を抑えることができず、ケーブル全体の超電導状態を破壊してしまうことになるためである。
【0042】
これに対し、本実施形態では、ケーブルの全ての層を各層の撚りピッチ長の最小公倍数ごとに電気的に短絡することで、各層の超電導素線のコンダクタンスを等しくし、これにより偏流を防いだ状態を維持しつつ、素線間の電流再配分が可能なケーブルを構成することができる。
【0043】
また、最内層の撚りピッチ長を外層の撚りピッチ長の整数倍にすることで、より短い間隔で電気的短絡部を形成している。これは超電導素線間の電流再配分の速度が短絡部間の距離に大きく影響するからである。即ち、短絡部が長いと、外乱によって超電導状態が崩れたときに発生する抵抗に比べて、短絡部間に形成される回路のインダクタンスが大きくなり、結果として電流が再配分する時定数が大きくなる。時定数が大きいということは即ち、電流が他の線へ移るのにより時間がかかることを意味しており、短絡の効果が十分発揮されないことにつながる。
【0044】
そこで、本実施形態では、最内層の超電導素線2の撚りピッチ長を外層の超電導素線3の撚りピッチ長の整数倍にすることで、短い間隔の短絡部ピッチを実現することができる。
また、各超電導素線2,3のコンダクタンスを揃えるためには、各超電導素線2,3が電気的に絶縁されていることが必要となる。
【0045】
そこで、本実施形態では図7に示すように、各層の超電導素線2,3,4の層間に絶縁物(層間絶縁シート)9を介在させ、これにより層間の電気的な絶縁を確保している。
【0046】
また、同軸撚りのケーブルの場合、同一層内の超電導素線2,3,4は互いに線接触しているため、素線表面に高抵抗体を配置するか、Crメッキなどにより素線を硬くするか、あるいは(10μm程度の)薄いホルマール絶縁などをすることで、素線間の絶縁が確保できる。ところが、異なる層に属する素線間は点接触になるため、このような方法では十分な絶縁をとることができない。
【0047】
そこで、本実施形態では各層の間に絶縁物9を配置することで、層間の絶縁を確保できる。また、層間に絶縁シートなどを配置することで、素線が他の層の素線間の溝に落ち込んでインダクタンスが乱れることについても、これを防止することができる。
【0048】
さらに、図8に示すように、各層の層間に孔あきシート、その他の流体の流通が可能な絶縁スペーサ10を配置してもよい。このような構成によって冷媒の通路を確保することで、層間絶縁の他に、冷媒による冷却効果を向上させ、安定な導体を構成することも可能である。
なお、中央に配置されたパイプ1等の芯に冷媒を流すことで、安定性を向上させることもできる。
【0049】
また、図9には各層内に配置される導体構成として、CuNi、Cr、ホルマール等の高抵抗体を被覆した超電導素線(表面高抵抗線)11と、通常の超電導素線2,3,4とを交互に配置した構成を示している。
【0050】
このような構成とすることにより、表面に絶縁被覆、高抵抗体等を配置した冷却の悪い素線11の近傍に表面の冷却が良好な通常の超電導素線2,3,4を配置することができ、電流再配分が起こった時の性能向上に役立つものとすることができる。
【0051】
本実施形態の超電導ケーブルに用いられる超電導素線としては、NbTi線、Nb3Sn線、Nb3Al線、または酸化物超電導導体の銀シース線(Y系、Bi系、Tl系、Hg系)など全ての超電導素線が適用でき、本発明ではこれらに対して優れた効果が奏される。特に、低温超電導では偏流防止及び電気的短絡部を設けることによる安定性の向上、また酸化物超電導素線では偏流防止による損失低減にそれぞれ有効である。
【0052】
[第4実施形態の作用(図10,図11)]
上述した第4実施形態において、電気的短絡部を設けた超電導ケーブルの様々な態様を示したが、本実施形態では、その電気的短絡部の抵抗値を規定する。
図10は、電気的短絡部の素線間接触抵抗(2Rc)と常電導抵抗(Rn)との比、および隣接する超電導素線へ移ることができる電流の割合を示している。
【0053】
即ち、電気的短絡部が効果を発揮するためには、少なくとも1本の超電導素線が短絡ピッチ長において発生できる最大常電導抵抗よりも電気的短絡部の抵抗値を小さくする必要がある。具体的には、電気的短絡部の間隔が1m、超電導素線が直径1mm、RRR=100、銅比1の時の1m当りの常電導抵抗は、1.8E−10Ωm×1m/(0.5e−3)2/π=0.23mΩであり、少なくとも電流が他の超電導素線へ移るためには、これ以下の接触抵抗である必要がある。
【0054】
さらに、電気的短絡部を設けた超電導ケーブルにおいて、少なくとも短絡ピッチ長の線路のインダクタンスLと、常電導抵抗Rnとの比(L/Rn)が、10msより小さくなるように定める。
【0055】
図11は、超電導ケーブルの発熱および冷媒冷却能力の時間特性を示している。この図11に示すように、一般的な超電導素線を冷却する冷媒(例えばヘリウム)の冷却性能は時定数1msを持つ超電導ケーブルの発熱特性よりも優っているが、時定数10msの超電導ケーブルの発熱特性は、冷媒の冷却性能を若干上回ってしまう。超電導素線が素線の動きなどの発熱によって常電導転移する場合、10ms以内に広がる常電導部の長さは、線材長手方向の熱拡散距離以下であり、銅を安定化材として用いた超電導素線の場合、おおよそ100mm程度である。
【0056】
また、直径1mm程度の素線間の線路のインダクタンスは1m当り約2×10−7H程度である。より具体的には、冷媒が5K以下の超臨界ヘリウムにの場合には、10msの間に広がる常電導領域を100mmとすると、このときの発生抵抗は上述した一般的な超電導素線の値を用いて約2×10−5Ωとなる。
【0057】
この常電導抵抗に対して短絡部間の線路インダクタンスが2×10−7H以下であれば、電流再配分の時定数は10ms以下となる。このことから、短絡ピッチ長を1m以下にすることにより非常に安定なケーブルを提供することができる。
【0058】
このような、短絡ピッチの導体は、第2実施形態で示した同方向撚りの同軸構成で、特に撚りピッチが短くかつ各層の撚りピッチが全て等しい場合に最も容易に実現できる。
【0059】
[第5実施形態(図12〜図14)]
図12(a),(b)は、ケーブル・イン・コンジット型の短絡方法、つまり周期的に各層を電気的に短絡する超電導ケーブルが、ステンレスパイプ等のコンジット13に収納される構成についての短絡方法について示している。
【0060】
即ち、本実施形態では、図12(a),(b)に示すように、ケーブル中央に配置されたパイプ等の芯1の外径を、電気的に短絡する部分で大きくしたパイプ径増大部12を設け、これにより大径となった部分の空隙率を小さくし、素線同士を良好に密着させるようにしている。
このような構成によれば、素線間の接触電気抵抗を低くすることができる。
【0061】
なお、図13に示すように、前記と逆に、電気的に短絡したい部分のコンジット13の内径を小さく構成してもよい。このような構成によっても、前述と同様の効果が奏される。
一方、図14はコンジット等を持たないケーブルについて、電気的短絡部に工夫を施した場合を示している。
【0062】
即ち、図14に示すように、電気的に短絡したい部分のケーブル外周に、そのケーブルの構成部材と熱収縮率が異なる熱収縮リング15を配置した構成とするものである。この超電導ケーブルが、NbTi等の非熱処理導体で構成される場合には、この熱収縮リング15を、常温から極低温までの熱収縮率が導体中央に配置されたパイプ1等の熱収縮率よりも大きい材料、例えばジュラルミンを用い、冷却後にこのリングの部分に圧縮力が加わるようにする。この場合の短絡ピッチは前記第3実施形態と同様である。
【0063】
また、超電導ケーブルがNb3Sn、Nb3Al、酸化物超電導体等の熱処理導体で構成される場合においては、当該金属リングの常温から熱処理温度までの熱膨張率が導体中心に配置されたパイプ1等の熱膨張率よりも小さい材料、例えばタングステン等を用い、熱処理中にこの部分に圧縮力が加わり、拡散接合するように構成する。
【0064】
本実施形態によれば、このような構成とすることにより、特別な作業を行わずに、電気的短絡部を設けることができ、高い安定性を有するケーブルを提供することができる。
【0065】
[他の実施形態]
上述した各実施形態の超電導ケーブルによれば、電流偏流を抑制して高い安定性能を有することから、これを超電導マグネットに適用することができる。
この場合においては、超電導マグネットとして、高度に安定した特性を得ることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 芯(パイプ)
2,3,4,5,6 超電導素線
7 絶縁シート
8 電気的短絡部
9 層間絶縁シート
10 絶縁スペーサ
11 表面高抵抗線
12 パイプ径増大部
13 コンジット
14 断面積縮小部
15 熱収縮リング
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に芯を配置し、この芯の外周に超電導素線を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせた構成とした超電導ケーブルにおいて、
最内層以外のすべての層における前記超電導素線の撚りピッチ長を最内層の撚りピッチ長以下に設定し、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置したことを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項2】
中心に芯を配置し、この芯の外周に超電導素線を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせた構成とした超電導ケーブルにおいて、
各層における超電導素線の撚り方向を同一方向とし、かつ各層の撚りピッチ長をその内側の撚りピッチ長以下にし、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置したことを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項3】
中心に芯を配置し、この芯の外周に超電導素線を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせ、そのうち内側の2層以上と外側の2層以上とに対して電流の往路および復路を設定した超電導ケーブルにおいて、
往路側の層と復路側の層における前記超電導素線の撚り方向は互いに異なる方向とし、かつ内側に配置される往路または復路となる2層以上の層内では外側の層ほど撚りピッチ長を短くする一方、外側に配置される往路または復路となる2層以上の層内では外側の層ほど撚りピッチを長くし、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置したことを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項4】
前記抵抗体は、CuNi、Cr、ホルマールのいずれかから成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超電導ケーブル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の超電導ケーブルを巻線として用いたことを特徴とするマグネット。
【請求項1】
中心に芯を配置し、この芯の外周に超電導素線を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせた構成とした超電導ケーブルにおいて、
最内層以外のすべての層における前記超電導素線の撚りピッチ長を最内層の撚りピッチ長以下に設定し、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置したことを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項2】
中心に芯を配置し、この芯の外周に超電導素線を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせた構成とした超電導ケーブルにおいて、
各層における超電導素線の撚り方向を同一方向とし、かつ各層の撚りピッチ長をその内側の撚りピッチ長以下にし、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置したことを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項3】
中心に芯を配置し、この芯の外周に超電導素線を同軸上に3以上の層として配置し、かつ前記超電導素線は各層毎に撚り合わせ、そのうち内側の2層以上と外側の2層以上とに対して電流の往路および復路を設定した超電導ケーブルにおいて、
往路側の層と復路側の層における前記超電導素線の撚り方向は互いに異なる方向とし、かつ内側に配置される往路または復路となる2層以上の層内では外側の層ほど撚りピッチ長を短くする一方、外側に配置される往路または復路となる2層以上の層内では外側の層ほど撚りピッチを長くし、超電導素線の各層内では、抵抗体によって被覆した超電導素線と通常の超電導素線とを交互に配置したことを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項4】
前記抵抗体は、CuNi、Cr、ホルマールのいずれかから成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超電導ケーブル。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の超電導ケーブルを巻線として用いたことを特徴とするマグネット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−262933(P2010−262933A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143230(P2010−143230)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【分割の表示】特願2000−70640(P2000−70640)の分割
【原出願日】平成12年3月14日(2000.3.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【分割の表示】特願2000−70640(P2000−70640)の分割
【原出願日】平成12年3月14日(2000.3.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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