説明

超電導ケーブルシステム

【課題】通常時は超電導ケーブル線路として利用でき、冷却機能喪失時はこの超電導ケーブル線路を常電導ケーブル線路として利用できる超電導ケーブルシステムを提供する。
【解決手段】超電導ケーブルシステムは、冷媒の冷却機構200と、超電導ケーブル100と、充填手段とを備える。超電導ケーブル100は、冷却機構の動作時に冷媒で冷却される超電導導体層12と、この超電導導体層12の外側に設けられる電気絶縁層と、冷媒と共に超電導導体層を収納する真空断熱管14とを有する。充填手段(気体供給源420、開放バルブ440B)は、冷却機構200が動作不能で超電導導体層12を超電導状態に維持できない冷却機能喪失時に、真空断熱管14の断熱空間に熱伝導材料を充填する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブルを用いて送電線路を構成する超電導ケーブルシステムに関するものである。特に、通常時は超電導ケーブル線路として利用し、超電導ケーブルの冷却機構が正常に動作できない冷却機能喪失時は、同ケーブルを常電導ケーブル線路として利用することができる超電導ケーブルシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルは、一般にフォーマの外周上に超電導導体層を有する導体を二重の金属管で構成される真空断熱管内に収納してなる構成を備える。このような超電導ケーブルにおいて、超電導導体層を外部から電気的に絶縁する構成には以下の二つが挙げられる。一つ目の構成は、超電導導体層の上に電気絶縁層が形成され、当該電気絶縁層も超電導導体層と共に冷媒により冷却される低温絶縁型の構成である(例えば、特許文献1の図1)。二つ目の構成は、断熱管の上に電気絶縁層が形成され、当該電気絶縁層が冷媒により冷却されない常温絶縁型の構成である(例えば、特許文献1の明細書0003を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-065879号公報
【特許文献2】特開平08-064041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
いずれの絶縁方式の超電導ケーブルであっても、冷媒は冷凍機や冷媒の循環機構を含む冷却機構で冷却・循環され、その冷媒により超電導導体層は極低温に冷却されて超電導状態とされる。そのため、天災などの不測の事態により、この冷媒の冷却機構が正常に動作しない場合、超電導導体層を超電導状態に維持することが困難と判断されると、警報が発信されると共に超電導ケーブル線路が送電系統から遮断される。勿論、別ルートによる送電が試みられるが、天災などで別ルートの確保も困難な場合、送電が滞ることになる。その際、送電停止から復旧に至る通常の手順は、次の通りとなる。
(1)保護装置により超電導ケーブル線路が遮断され、同線路での送電が停止される。
(2)保護装置が動作した原因や異常の発生状況が確認され、「超電導ケーブルでの再送電が可能かどうか」が判断される。
(3)別ルートや予備回線での送電が可能な場合は、その送電を継続しつつ、超電導ケーブル線路の異常確認を行うと共に、必要に応じて超電導ケーブル線路を速やかに改修し、復旧する。
【0005】
一方で、天災などで予備回線も使用不能の場合、冷却機構が正常に動作しなくても、端末やジョイントを含む超電導ケーブル本体が損傷していなければ、この超電導ケーブル本体を利用して、非常用の送電線路として利用できれば便利である。特に、災害の復旧などのための緊急の送電が求められる場合、超電導ケーブルの本来の送電容量を下回る容量であっても送電ができれば、貴重な電力として有効な場合が生じ得る。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、通常時は超電導ケーブル線路として利用でき、冷却機能喪失時はこの超電導ケーブル線路を常電導ケーブル線路として利用できる超電導ケーブルシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、超電導導体層を極低温に維持できない状況で、超電導ケーブル本体には外傷等の損傷が無い場合、超電導ケーブルを常電導ケーブルとして利用することを検討した。一般に、超電導ケーブルは、超電導導体層の他に、事故電流を分流する常電導導電部材を備えている。この導体を冷却機能喪失時の主たる送電用導体として利用することを検討したところ、単にこの常電導導電部材に通電しただけでは、その発熱の影響を無視することが困難であるとの知見を得た。これは、通常、超電導導体及び常電導導電部材は真空断熱管に覆われているため、これらの導電部材が発熱すると、その熱を真空断熱管の外部に放熱することが非常に困難になるからである。従って、上記導電部材を送電用導体として継続的に送電を行うことができない。本発明は、上記の知見に基づいて上記導電部材の放熱を可能にするようになされたもので、下記の構成を備える。
【0008】
本発明の超電導ケーブルシステムは、冷媒の冷却機構と、前記冷媒の流路を有する超電導ケーブルとを備える超電導ケーブルシステムである。この超電導ケーブルは、前記冷却機構の動作時、前記冷媒により冷却される超電導導体層と、この超電導導体層の外側に設けられる電気絶縁層と、前記冷媒と共に超電導導体層を収納する真空断熱管とを有する。そして、前記冷却機構が動作不能で、前記超電導導体層を超電導状態に維持できない冷却機能喪失時に、前記真空断熱管の断熱空間に熱伝導材料を充填する充填手段を備える。
【0009】
この構成によれば、通常時は超電導ケーブルを超電導ケーブル線路として送電に利用し、冷却機能喪失時は上記超電導ケーブルを常電導ケーブル線路として送電に利用することができる。これは、真空断熱管の断熱空間に熱伝導材料を充填することで、この断熱管の断熱特性を低下させて伝熱管とし、上記超電導ケーブルを常電導ケーブルとして利用した場合の発熱を、伝熱管を通して放熱させることができるからである。
【0010】
本発明の超電導ケーブルシステムの一形態として、上記充填手段は、上記熱伝導材料となる気体を有する気体供給源と、その気体供給源から上記断熱空間に気体を供給・停止する第一バルブとを備えることが挙げられる。
【0011】
この構成によれば、第一バルブの操作により、冷却機能喪失時に真空断熱管の断熱空間に気体を充填させることができる。それにより、通常時の真空断熱管を冷却機能喪失時に伝熱管として利用することができる。
【0012】
上記第一バルブを備える本発明の超電導ケーブルシステムの一形態として、さらに上記断熱空間を真空引きする真空ポンプを備え、第一バルブは、上記気体供給源と真空ポンプとを断熱空間に対して選択的に連通させる開閉バルブであることが挙げられる。
【0013】
この構成によれば、冷却機能喪失時は、上記開閉バルブの動作により、上記断熱空間を気体供給源と連通させる。そして、その断熱空間に気体を充填して非真空状態とすることで、通常時の超電導ケーブルを冷却機能喪失時に常電導ケーブルとして継続的に送電路として利用することができる。一方、超電導導体層を超電導状態に維持できるように冷却機構が復旧してからは、開閉バルブの動作により、上記断熱空間を真空ポンプと連通させる。そして、この真空ポンプで断熱空間を真空引きすることにより、冷却機能喪失時に常電導ケーブルとして利用していたケーブルを、再度超電導ケーブルとして利用することができる。なお、この復旧作業の過程において、送電は停止されている。
【0014】
本発明の超電導ケーブルシステムの一形態として、上記充填手段は、液体供給源と、供給管と、排出管と、第二バルブと、圧送手段とを備えることが挙げられる。液体供給源は、上記熱伝導材料となる液体を貯える。供給管は、この液体供給源から上記断熱空間に液体を供給する。排出管は、上記断熱空間から液体を排出する。第二バルブは、上記供給管及び排出管の各々を上記断熱空間に連通・遮断する。圧送手段は、上記液体を、供給管、断熱空間及び排出管を流通経路として循環させる。
【0015】
この構成によれば、冷却機能喪失時には、熱伝導材料として液体を真空断熱管の断熱空間に導入し、この断熱管を介して、常電導ケーブルとして利用した際に導体となる導電部材の発熱を放熱することができる。この導電部材としては、超電導導体の一部を構成する常電導体や、事故電流を分流する常電導導体部材(後述)などが挙げられる。また、圧送される液体の温度を導電部材の発熱に伴い上昇する断熱管の温度よりも低温とすることで、冷却機能喪失時に常電導ケーブルの発熱を冷却することもできる。
【0016】
本発明の超電導ケーブルシステムの一形態として、上記充填手段は、上記真空断熱管内の冷媒流路と上記真空断熱管の断熱空間とを連通させる連通管と、この連通管を連通・遮断させる第三バルブとを備えることが挙げられる。
【0017】
この構成によれば、冷却機能喪失時、真空断熱管内の冷媒流路内の冷媒を侵入熱により気化させ、第三バルブを操作することで、その気化した冷媒を、連通管を介して上記断熱空間に導入することができる。そのため、超電導ケーブルを常電導ケーブルとして利用する冷却機能喪失時には、気化冷媒の導入された断熱管を介して、上記常電導ケーブルの導体の発熱を放熱することができる。
【0018】
上記連通管と第三バルブとを有する本発明の超電導ケーブルシステムの一形態として、上記連通管の途中に、冷却機能喪失時に気化した冷媒の圧力を開放する放圧弁と、この気化した冷媒の温度を上昇させる熱交換部との少なくとも一方を備えることが挙げられる。
【0019】
上記放圧弁を備えることで、冷媒が気化する際の急激な連通管内の圧力上昇を緩和することができる。また、上記熱交換部を備えることで、気化した冷媒が、過度に低温のまま断熱空間に導入されることを防止し、断熱管に近接する常温の部材が不必要に冷却されて悪影響を受けることを抑制できる。
【0020】
本発明の超電導ケーブルシステムの一形態として、上記超電導ケーブルは、上記超電導導体層に並列され、上記電気絶縁層の内側に配置される常電導導電部材を備えることが挙げられる。
【0021】
この構成によれば、冷却機能喪失時に超電導ケーブルを常電導ケーブル線路として運用する際、常電導ケーブルの導体として常電導導電部材を利用することができる。
【0022】
本発明の超電導ケーブルシステムの一形態として、上記超電導ケーブルは、上記電気絶縁層を上記真空断熱管の外側に備える常温絶縁型超電導ケーブルであることが挙げられる。
【0023】
超電導ケーブルが常温絶縁型超電導ケーブルであれば、冷媒の有無にかかわらず、電気絶縁層は超電導ケーブルとしての利用、又は常電導ケーブルとしての利用のいずれにおいても所定の絶縁特性を有するため、冷却機能喪失時での利用においても高い絶縁特性を確保することができる。
【0024】
本発明の超電導ケーブルシステムの一形態として、上記超電導ケーブルは、上記電気絶縁層を上記真空断熱管の内側に備える低温絶縁型超電導ケーブルであることが挙げられる。
【0025】
超電導ケーブルが低温絶縁型超電導ケーブルであれば、冷却機構の動作時、冷媒の含浸された電気絶縁層により、高い絶縁特性が確保された超電導ケーブル線路を構築できる。
【0026】
本発明の超電導ケーブルシステムの一形態として、前記超電導ケーブルが低温絶縁型超電導ケーブルで、前記冷媒が液体冷媒である場合、前記超電導ケーブルの電気絶縁層は、超電導ケーブルとして利用する場合に必要な電気絶縁層の厚みよりも厚く形成されていることが挙げられる。
【0027】
低温絶縁型超電導ケーブルの場合、通常、電気絶縁層に冷媒を含浸することで十分な絶縁特性を確保しており、冷却機能喪失時、真空断熱管の内側の空間に冷媒を供給することができず、上記ケーブルの電気絶縁層から冷媒が抜ければ、電気絶縁層の絶縁特性は冷媒含浸時のそれに比べて低下する。上記形態の構成によれば、冷却機能喪失時に電気絶縁層から冷媒が抜けても、超電導ケーブルとして利用する場合に必要な電気絶縁層の厚みよりも厚い電気絶縁層を有するため、常電導ケーブルとして利用する場合の絶縁特性の低下を抑制することができる。
【0028】
本発明の超電導ケーブルシステムの一形態として、上記超電導ケーブルが低温絶縁型超電導ケーブルである場合、冷却機能喪失時、上記低温絶縁型超電導ケーブルにおける真空断熱管の内側の空間に気体を加圧充填する加圧充填機構を備えることが挙げられる。
【0029】
この構成によれば、電気絶縁層から冷媒が抜けている場合でも、真空断熱管の内側の空間に加圧充填機構で気体を加圧充填することにより、同ケーブルを常電導ケーブルとして利用する際に十分な絶縁特性を確保することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の超電導ケーブルシステムによれば、通常時には超電導ケーブルとして利用していたケーブルを、冷却機能喪失時には常電導ケーブルとして利用することができ、冷却機能喪失時における送電路を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施形態1に係る本発明の超電導ケーブルシステムの概略構成図である。
【図2】実施形態2に係る本発明の超電導ケーブルシステムの概略構成図である。
【図3】実施形態3に係る本発明の超電導ケーブルシステムの概略構成図である。
【図4】実施形態4に係る本発明の超電導ケーブルシステムの概略構成図である。
【図5】本発明の超電導ケーブルシステムに用いる常温絶縁型超電導ケーブルの一例を示す横断面図である。
【図6】本発明の超電導ケーブルシステムに用いる常温絶縁型超電導ケーブルの別の一例を示す横断面図である。
【図7】本発明の超電導ケーブルシステムに用いる低温絶縁型超電導ケーブルの一例を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。各図において、共通する部材又は対応する部材には同じ符号を付している。なお、図1〜4では、常温絶縁型と低温絶縁型の両絶縁方式の超電導ケーブルについて説明を行う便宜上、各超電導ケーブルの一部の構成部材や付属部材は省略している。例えば、常温絶縁型超電導ケーブルの場合、通常、同ケーブルの冷媒流路と後述する冷媒管300との連結には図示しない絶縁継手が必要とされる。
【0033】
〔実施形態1〕
[超電導ケーブルシステムの概要]
図1に基づいて、本発明の実施の形態に係る超電導ケーブルシステムを説明する。このシステムは、超電導ケーブル100、終端接続部150、冷媒の冷却機構200、及び冷媒管300を備える。超電導ケーブル100は、冷媒20で冷却される超電導導体層12と、その導体層12に並列される常電導導電部材(図示略)、及び断熱空間を有する真空断熱管14を備える。超電導導体層12の両端部は終端接続箱150から常電導の電流リード(三角形で表示)を介して常温へと引き出されている。さらに、このシステムは、断熱空間に連通する真空ポンプ410、気体供給源420、真空ポンプ410と気体供給源420の断熱空間に対する連通状態を選択する第一バルブ440、及び開閉バルブ470とを備える。
【0034】
通常時、冷却機構200で冷却された冷媒20は超電導ケーブル100の一端から供給されて他端から排出され、冷媒管300を通って再度冷却機構200に戻される。或いはその逆に冷媒20が循環される。この冷媒20の循環により、超電導ケーブルの超電導導体層12は極低温に冷却され、超電導状態に維持される。
【0035】
一方、冷却機構200が正常に動作しない冷却機能喪失時には、冷媒20の供給・循環は行わず、気体供給源420から断熱空間に気体を充填し、常電導導電部材を主たる導体とする常電導ケーブルとして送電路を確保する。
【0036】
以下、このシステムの詳細を説明するが、その説明に先立って、利用される超電導ケーブルを図5〜図7に基づいて説明する。超電導ケーブル100には、常温絶縁型超電導ケーブルと低温絶縁型超電導ケーブルのいずれもが利用でき、各超電導ケーブル100の一端(図1の左側)は一方(図1の左側)の終端接続部150を介して冷却機構200につながっている。
【0037】
[常温絶縁型超電導ケーブル]
まず、常温絶縁型超電導ケーブル100naの基本構造を図5に基づいて説明する。常温絶縁型超電導ケーブル100na(単に超電導ケーブル100ということがある)は、導体部10Aと、導体部10Aを内部に収納する断熱管14と、断熱管14を収納する常温絶縁部を備え、この常温絶縁部は、内側から順に保形用のパイプ状構造物15、及び電気絶縁層17を備える。通常、この超電導ケーブル100naは、後述する半導電層など、他の構成部材も有するが、図5では省略している。この点は図6、図7においても同様である。
【0038】
{導体部}
導体部10Aは、代表的には、フォーマ11と、フォーマ11の外周に形成される超電導導体層12と、保護層13とを備える。フォーマ11は、超電導導体層12の支持体に利用される部材であり、例えば、エナメルなどの絶縁被膜を備える複数の金属線を撚り合わせた中実体や、絶縁パイプや金属パイプなどの中空体を利用することができる。このフォーマ11を異常電流の分流路とする場合は、金属などの導電材料でフォーマ11を構成する。導電材料でフォーマ11を構成した場合、冷却機能喪失時には、フォーマ11が常電導導電部材の一つとして利用される。そのため、本例のシステムを常電導ケーブル線路として運用する際に導体となる部材(図1ではフォーマ11)の断面積を調整することで、冷却機能喪失時に常電導ケーブルとして送電できる容量を調整できる。本例では、素線絶縁金属線を撚り合わせた中実体とした。なお、フォーマ11と超電導導体層12の間にクッション層(図示せず)を設けても良い。
【0039】
超電導導体層12としては、例えば、酸化物超電導体を備えるテープ状線材が好適に利用できる。テープ状線材は、例えば、Bi2223系超電導テープ線(Ag−MnやAgなどの安定化金属中に酸化物超電導体からなるフィラメントが配されたシース線)、RE123系薄膜線材(RE:希土類元素、例えばY、Ho、Nd、Sm、Gdなど。金属基板に酸化物超電導相が成膜された積層線材)が挙げられる。超電導導体層12は、上記テープ状線材を螺旋状に巻回して形成した単層構造、または多層構造のものが挙げられる。本実施形態では、多層構造の超電導導体層12とした。この超電導導体層12、特に上記安定化金属や金属基板も、冷却機能喪失時には、常電導ケーブルの導体の一つとして利用される。
【0040】
保護層13は、超電導導体層12の外周を覆い、超電導導体層12を保護すると共に、断熱管14との絶縁を確保する。この保護層13は、クラフト紙などを巻回することで形成できる。
【0041】
{真空断熱管}
真空断熱管14は、導体部10を内部に収納する内管14aと、内管14aを内部に収納する外管14bとを備える二重管構造である。内管14aは、その内部(収納空間)に冷媒20が充填・循環される冷媒流路として機能する。この冷媒20により、超電導導体層12が超電導状態に維持される。冷媒20の代表例としては、液体窒素や液体ヘリウム、ヘリウムガスなどが挙げられる。この内管14aと、内管14aの外周に設けられる外管14bとで断熱管14を構成することで、外部からの侵入熱などにより冷媒20の温度が上昇することを抑制する。内管14aと外管14bとの間の断熱空間は真空引きされ、それによって通常時は真空断熱層が形成されている。但し、冷却機能喪失時には、この断熱空間に後述する気体供給源420から気体が導入される。その他、内管14aと外管14bとの間にスーパーインシュレーションといった断熱材や、内管14aと外管14bとを離隔させるスペーサを配置すると、断熱管14の断熱性を高められる。
【0042】
本例における断熱管14を構成する内管14aと外管14bは、共にコルゲート管である。両管14a,14bをコルゲート管にすることで、断熱管14(即ち、超電導ケーブル100)の曲げ剛性を小さくすることができ、管路内などへの超電導ケーブル100の布設をより容易にすることができる。なお、両管14a,14bは、ストレート管であっても良い。常温絶縁型超電導ケーブル100na、100nbでは、断熱管14の外側に電気絶縁層17があるため、断熱管14は電圧印加部位である。
【0043】
断熱管14の材料は、ステンレスが好適に利用できる。ステンレスは銅などに比べて導電率が低く、冷却機能喪失時に常電導導電部材として利用することは困難である。但し、この断熱管14をアルミニウム又はアルミニウム合金で構成すれば、高導電率であるため、常電導導電部材として利用することが期待できる。
【0044】
{パイプ状構造物}
パイプ状構造物15は、その外周面に形成される分流導体16(後述)や電気絶縁層17を保形する常温絶縁型超電導ケーブル用の部材であり、所定の機械強度、機械特性を有することが重要である。特に、超電導ケーブル100に所定の可撓性を持たせるために、パイプ状構造物15も所定の可撓性を有することが求められる。これらの点を考慮して、パイプ状構造物15としては、アルミニウムのストレートパイプや、SUSのコルゲートパイプなどを利用することができる。その他、パイプ状構造物15は、樹脂などの非導電材料でできていても良い。ここで、このパイプ状構造物15が導電材料であれば、後述する分流導体16やフォーマ11と同様に、パイプ状構造物15自身も超電導ケーブルとしての運用において異常電流を分流させる機能の一部を分担できる。また、導電材料からなるパイプ状構造物15は、冷却機能喪失時における常電導導電部材としても利用できる。このパイプ状構造物15は、必要に応じて設ければ良い。パイプ状構造物15があれば、真空断熱管14がコルゲートパイプであっても、分流導体16や電気絶縁層17を容易に形成できる。一方、パイプ状構造物を設けずに断熱管14の上に直接電気絶縁層を形成しても良いし、後述する分流導体16を有する場合、断熱管14の上に分流導体16、電気絶縁層17を順次形成しても良い。
【0045】
{電気絶縁層}
電気絶縁層17は、超電導ケーブル100が適用するケーブル線路に要求される絶縁性能を満足するために必要である。この電気絶縁層17には、常電導ケーブルで実績がある電気絶縁強度に優れる材料、代表的にはCVケーブルに利用される架橋ポリエチレンなどが利用できる。架橋ポリエチレンなどの絶縁性樹脂であれば、断熱管14の外周、又は断熱管14を収納するパイプ状構造物15、若しくは後述する分流導体16の上に絶縁性樹脂を押し出すだけで電気絶縁層17を容易に形成できる。
【0046】
{その他のケーブル構成:分流導体}
必要に応じて、図6に示すようにパイプ状構造物15と電気絶縁層17との間に分流導体16を設けた常温絶縁型超電導ケーブル100nb(単に超電導ケーブル100ということがある)としてもよい。分流導体16は、異常電流が生じたときに、その異常電流を分担する常電導導体である。また、冷却機能喪失時に常電導導電部材として利用できる。この分流導体16は、超電導ケーブル線路の長手方向の接続部(超電導ケーブル100の中間接続構造や終端接続構造など)で超電導導体層12、およびフォーマ11に接続されている。そのため、分流導体16、超電導導体層12およびフォーマ11とで異常電流を分担できるようになっている。なお、分流導体16は、必須の構成要素ではない。
【0047】
分流導体16は、異常電流を分担する役割を担う観点から、高導電性の金属材料、つまり電気抵抗値が低い銅やアルミニウム、銀などの金属材料から構成される。特に、銅は、銀に次ぐ高い導電率を有し、銀よりも格段に安価である点で、分流導体16として好適である。
【0048】
上記分流導体16は、銅撚り線で構成されるセグメント導体など既存の常電導ケーブルの導体に準じた部材をパイプ状構造物15上に巻回することで形成することができる。
【0049】
電気絶縁層17の内側、外側には安定した電気特性を得るのに有効な半導電層(図示せず)が設けられるのが一般的である。また、電気絶縁層17の外周には、代表的には、銅やアルミニウムなどの常電導材料から構成された外側遮蔽層(図示せず)が設けられる。外側遮蔽層は、電気絶縁層17の外側の電位を与えるもので、従来の電力ケーブルと同様に常電導材料を利用できる。また、外側遮蔽層の外周には、外気の水分を遮断する遮水層や、所定の絶縁特性を有し、外側遮蔽層を保護する防食層(図示せず)が設けられている。
【0050】
[低温絶縁型超電導ケーブル]
次に、低温絶縁型超電導ケーブル100cの基本構造を図7に基づいて説明する。低温絶縁型超電導ケーブル100c(単に超電導ケーブル100ということがある)は、内側から順に、フォーマ11、超電導導体層12(内側導体)、電気絶縁層17、超電導導体層18(外側導体)、保護層13を備えるコア10Bを、真空断熱管14内に収納した構成である。ここでは、互いに撚り合わせた3心のコア10Bを一つの断熱管14内に収納した3心一括型の超電導ケーブル100cを示すが、コア10Bの心数は特に限定されず、単心でも構わない。
【0051】
低温絶縁型超電導ケーブル100cにおいても、フォーマ11、超電導導体層12、保護層13、真空断熱管14は、常温絶縁型超電導ケーブル100na、100nbと同様の構成が利用できる。超電導導体層18(外側導体)は、超電導導体層12(内側導体)と同様の超電導線材を用いて構成することができる。
【0052】
電気絶縁層17は、冷媒に浸漬されて、内側導体12での使用電圧に対して要求される絶縁を確保するための層である。この電気絶縁層17には、常電導ケーブルで実績があり超電導ケーブルの運用温度(極低温)で使用でき、電気絶縁強度に優れる材料、例えば絶縁紙とプラスチック層との複合テープや、クラフト紙が好適に利用できる。複合テープとしては、PPLP(住友電気工業株式会社の登録商標)を利用できる。
【0053】
超電導導体層(外側導体)18は、交流ケーブルの場合は内側導体12への通電に伴って生じる磁界を相殺するための超電導シールド層である。直流ケーブルの場合、単極送電では、内側導体12と外側導体18とで電流の往路と帰路を構成する往路導体層又は帰路導体層として超電導導体層(外側導体)18を利用する。双極送電では、例えば2条の超電導ケーブルを用い、各超電導ケーブルの各内側導体12を往路導体層及び帰路導体層とし、超電導導体層(外側導体)18を各中性線とする。
【0054】
この低温絶縁型超電導ケーブル100cにおいては、フォーマ11を金属で構成することで、冷却機能喪失時における常電導導電部材として利用することができる。但し、低温絶縁超電導ケーブル100cは、冷却機能喪失時においては電気絶縁層17が冷媒に浸漬されないため、通常時よりも絶縁特性が低下する。そのため、冷却機能喪失時には、この低下分を考慮した絶縁設計(絶縁厚)を適用することが望ましい。例えば、超電導ケーブル100cの電気絶縁層17の厚みを、超電導ケーブルとして利用する場合に必要な電気絶縁層の厚みよりも厚く形成すればよい。特に、冷却機能喪失時に本例のシステムを常電導ケーブル線路として利用する際、電気絶縁層に冷媒が含浸されていなくても、常電導ケーブルの導体に印加される電圧に対して絶縁特性を有する程度の厚みに電気絶縁層を構成すれば良い。
【0055】
[超電導ケーブルシステムの各部の構成]
{冷却機構}
冷却機構200(図1)は、超電導導体層12を冷却する冷媒20を所定温度に冷却し、超電導ケーブル100と冷媒管200とを含む循環経路に冷媒20を圧送する。より具体的には、冷媒管300を介して冷却機構200に戻されて供給開始時に比べて温度上昇した冷媒20を再度所定の低温に冷却する冷凍機210と、冷凍機210で冷却された冷媒20を循環経路に圧送する循環機構(図示略)と、冷却塔215とを備える。冷凍機210により冷媒20を所定の低温に冷却する。この冷凍機210には、冷却塔215が連結され、冷凍機210自体の放熱側(高温側)を冷却する。循環機構にはポンプが利用できる。なお、この冷却機構200は、冷媒20の冷媒排出バルブ(図示略)を備えることが好ましい。冷却機能喪失時、液体の冷媒20は昇温されて気化するため、冷媒排出バルブを開放することで、気化した冷媒を冷媒流路から排出し、超電導ケーブル100および冷媒管300内の圧力が過大にならないようにする。
【0056】
{冷媒管}
冷媒管300は、超電導ケーブル100に並列して布設され、冷媒20の往路と復路の一方を構成する。本例の冷媒管300は、冷媒20の復路を構成している。この冷媒管300は、超電導ケーブル100の真空断熱管14と同様の二重真空構造の断熱管が利用できる。超電導ケーブル100が常温絶縁型の場合、同ケーブル100の真空断熱管14が高電位となるため、その真空断熱管14につながる冷媒管300にも電気絶縁層310を設ける、或いは超電導ケーブルの冷媒流路と冷媒管との接続箇所に絶縁継手を設ける必要がある。超電導ケーブル100が低温絶縁型の場合、その真空断熱管14は接地電位であるため、その断熱管14につながる冷媒管300に電気絶縁層は不要である。その場合でも、冷媒管(常温絶縁)300に防食層(図示略)を設けておくことが好ましい。この冷媒管300の一端(図1の左側)は冷却機構200に接続され、他端(図1の右側)は超電導ケーブル100の他端と他方(図1の右側)の終端接続部150を介して連結されている。ここで、超電導ケーブルが複数条で構成する場合、冷媒管は使用せず、いずれかの超電導ケーブルにより冷媒循環経路を形成してもよい。
【0057】
{真空ポンプ}
真空ポンプ410は、真空断熱管14の断熱空間を真空引きするポンプである。例えば、冷却機能喪失時に超電導ケーブル100を常電導ケーブルとして利用する際、断熱空間には気体が充填されて非真空となる。その後、冷却機構200が復旧されるなどして、超電導ケーブル100による送電が可能になった場合、再度断熱空間を真空に復帰するために真空ポンプ410が利用される。この真空引きにより断熱空間を真空とすれば、再度超電導ケーブル100として送電を行うことができる。なお、この真空ポンプ410は、超電導ケーブルシステム建設時の断熱管14の真空引きにも使用することができる。
【0058】
{気体供給源}
気体供給源420は、真空断熱管14の断熱空間に供給する熱伝導材料である気体を収納する。冷却機能喪失時、この気体供給源420は、例えばタンクなどの閉鎖容器でも良いし、単に連通管450の端部を開口端とし、その開口端につながる大気の開放空間としてもよい。気体供給源420をタンクとした場合、そのタンク内に熱伝導材料となる窒素ガスなどの気体を貯える。大気の開放空間を気体供給源420とした場合、空気が熱伝導材料となる。再度断熱管14を真空引きすることによって超電導ケーブルとして復旧させる場合、大気中の水分を断熱管14内に充填するのは好ましくなく、含有水分の少ない窒素ガスや乾燥空気を気体供給源420内に収納しておくことが好ましい。また、断熱管14を大気開放する場合、連通管450の途中に大気の水分を除去する脱気手段(図示略)を挿入することも有効である。
【0059】
{第一バルブ}
第一バルブ440は、真空断熱管14の断熱空間に対し、真空ポンプ410及び気体供給源420を選択的に連通させるバルブである。本例では、断熱空間につながる連通管450(後述する)を分岐させ、その一方の分岐管450Lに開閉バルブ440Aを、他方の分岐管450Rに開閉バルブ440Bを設けて、両開閉バルブ440A、440Bで第一バルブ440を構成している。勿論、2つのバルブ440A、440Bの代わりに、連通管440の分岐箇所に設けた三方弁を第一バルブ440としても良い。さらに、連通管450のうち、断熱空間から分岐までの途中にも元バルブとなる開閉バルブ470を設けている。本例のシステムを超電導ケーブルとして運用する際は、真空断熱管14は真空封じ切りで運用されるのが通常であり、通常運用時には開閉バルブ470を閉として真空断熱管14を封じ切り、冷却機能喪失時に開閉バルブ470を開とする。
【0060】
{連通管}
連通管450は、真空断熱管14の断熱空間と真空ポンプ410又は気体供給源420とをつなぐ配管である。本例では、上記断熱空間から1本の連通管450を引き出し、その連通管450の途中を二股に分岐している。一方の分岐管450Lは真空ポンプ410につながり、他方の分岐管450Rは気体供給源420につながる。
【0061】
{コンプレッサー}
必要に応じて、気体供給源420と開閉バルブ440Bとの間における分岐管450Rの途中にコンプレッサー460を設けても良い。このコンプレッサー460により気体を加圧して、速やかに断熱空間に気体を充填させることができる。
【0062】
上述した連通管450、真空ポンプ410、気体供給源420及びコンプレッサー460は、超電導ケーブル100の運用当初から設置されているか、事後的に設置されるかは問わない。例えば、連通管450、真空ポンプ410、気体供給源420、及びコンプレッサー460を超電導ケーブル100の運用当初から設置しておいても良いし、予め真空断熱管14に短い連通管と開閉バルブ470とを接続しておき、冷却機能喪失時に残りの連通管、真空ポンプ410気体供給源420、及びコンプレッサー460を事後的に接続してもよい。
【0063】
{システムの運用手順}
上述した本発明の超電導ケーブルシステムは、次のように運用する。
【0064】
(1)冷却機構200が正常に運転できる通常時、第一バルブ440(開閉バルブ440A、440B)及び開閉バルブ470は閉じられ、真空断熱管14の断熱空間は真空状態に保持される。そのとき、断熱管14内の収納空間には冷媒が流通され、超電導導体12(18)が超電導状態に維持されて、超電導ケーブル100として送電路が構成される。
【0065】
(2)冷却機構200が正常に運転できない冷却機能喪失時、冷媒20の超電導ケーブル100への供給は行わず、冷媒排出バルブを開放して、昇温により気化した冷媒20を冷媒流路から排出する。昇温に要する時間を短くするために、窒素ガスを断熱管の内側(冷媒流路《収納空間》)に導入しても良い。排出される冷媒の温度が所定の温度に上昇したことを確認した後、気体供給源420から真空断熱管14の断熱空間に気体を供給する。具体的には、開閉バルブ470、440Bを開放する。この開放以前の断熱空間は、真空状態に保持されているため、開閉バルブ470、440Bを開放により、気体供給源420から断熱空間に気体が自然に流入し、断熱空間内に熱伝導材料である気体が充填される。この気体の充填により、真空断熱管14は伝熱管となる。ここで、冷媒の昇温を早くする別の手段として、気体供給源420から真空断熱管14の断熱空間に気体を少量供給し、断熱管14の断熱性能を若干低下させることも有効である。冷媒の温度がまだ低い状態で、断熱管14の断熱性能を下げすぎると、断熱管14表面の温度が低下して凍結等の問題が生じる可能性があるので、冷媒の温度状況、断熱管14への気体供給量の調整が必要となる。この気体の供給が過剰となった場合、真空ポンプ410で排気することが有効である。
【0066】
(3)その状態で、超電導ケーブル100の常電導導電部材を導体として送電を行う。通常、この送電容量は、超電導ケーブルとして利用する場合の容量に比べれば小さいが、少しでも電力を供給することで、冷却機能喪失時の電力として有効に利用される。
【0067】
(4)超電導ケーブル100を常電導ケーブルとして利用している間に、冷却機構の利用を復旧させる。この復旧がなされたら、一旦、送電を停止した後、開閉バルブ440Bを閉じて気体供給源420と断熱空間との連通を遮断し、さらに開閉バルブ440Aを明ける。そして、真空ポンプ410で断熱空間内の気体を排気して、再度断熱空間内を所定の真空とする。
【0068】
(5)真空断熱管14の断熱空間が所定の真空度に達したら、開閉バルブ440A、470を閉じ、超電導ケーブル100の収納空間に冷媒20を供給した後、復旧された冷却機構200を運転して冷媒20を循環させ、超電導ケーブルとして再度送電を開始する。
【0069】
{作用効果}
上記の超電導ケーブルシステムによれば、通常時は超電導ケーブル100として送電路を構成し、冷却機能喪失時にはそのケーブル100を常電導ケーブルとして利用することで、送電路を構成することができる。冷却機能喪失時にケーブル100を常電導ケーブルとして運用しても、通常時に真空断熱管であったものを伝熱管として利用できるため、常電導ケーブルとして運用した際に導体が発熱しても、十分に放熱することができる。そのため、災害時などにおいて、冷却機構200が正常に動作せず、かつ予備回線も利用不能な場合などに、緊急避難的に常電導ケーブルとして送電を行うことができる。
【0070】
また、真空ポンプ410と気体供給源420とを選択的に断熱空間に連通することで、冷却機構200の復旧後には、真空ポンプ410で断熱空間を真空に復帰させ、再度超電導ケーブル100として送電路を構成することができる。特に、断熱空間や収納空間(冷媒流路)に気体を導入することで、超電導ケーブルの昇温を効率的に行うことができる。
【0071】
〔実施形態2〕
次に、冷却機能喪失時に、超電導ケーブルの真空断熱管の断熱空間に液体を充填して、同ケーブルを常電導ケーブルとして使用する実施形態2を図2に基づいて説明する。超電導ケーブル100、冷却機構200は実施形態1と共通であるため、主に相違点を説明する。この実施形態2では、断熱空間に液体を供給する液体供給源520と、この液体供給源520から断熱空間に液体を供給する供給管522と、断熱空間から液体を排出する排出管524と、液体供給源520と断熱空間とを連通・遮断する第二バルブ526とを備える。
【0072】
{液体供給源}
液体供給源520は、断熱空間に供給する液体を貯留する。通常、タンクが液体供給源520として好適に利用できる。液体の具体例としては、安価で入手が容易な水が利用できる。本例では、この液体供給源520にポンプ528(圧送手段)を併設している。このポンプ528は、液体を加圧して断熱空間内に圧送する。さらに、必要に応じて、液体供給源520には放熱機構(図示略)を設けても良い。放熱機構は、排出管524から液体供給源520に復帰された液体を再度冷却するもので、液体供給源520を構成するタンクの外周に放熱フィンを設けたり、ラジエータなどの構成が利用できる。
【0073】
{供給管・排出管}
液体供給源520と断熱空間とは、供給管522及び排出管524を介して連通される。この液体供給源520、供給管522、真空断熱管14、及び排出管524を流路として冷媒20が循環される。本例では、真空断熱管14の一端側(図2の左側)に供給管522を接続し、同断熱管14の他端側(図2の右側)に排出管524を接続している。
【0074】
{第二バルブ}
この供給管522と排出管524の各々には、開閉バルブ526、526が設けられ、その両開閉バルブで第二バルブ526が構成される。この第二バルブ526を開放することで、液体供給源520から液体を断熱空間に供給でき、同バルブ526、526を閉じることで、液体供給源520と断熱空間とを遮断する。
【0075】
{システムの運用手順}
(1)通常時に超電導ケーブル100を送電路として利用することは実施形態1と基本的に同様である。その際、第二バルブ526(開閉バルブ526、526)は閉じられている。
【0076】
(2)冷却機能喪失時、実施形態1と同様に、気化した冷媒20を外部に排出した後、第二バルブ526(開閉バルブ526、526)を開いて、液体供給源520から断熱空間に水を導入する。断熱空間が水で充填されることにより、真空断熱管14は伝熱管となる。その状態で、常電導導電部材を主たる導体として、送電を行う。この送電時、常電導導電部材等の導体となる部材は発熱するが、断熱空間に液体を循環することで、常電導導電部材を冷却することも期待できる。
【0077】
{作用効果}
本例のシステムでも、実施形態1と同様に、通常時は超電導ケーブル100として送電路を構成し、冷却機能喪失時はそのケーブルを常電導ケーブルとして送電路を構成することができる。特に、水を断熱空間に流通させることで、常電導ケーブルの導体として利用される常電導導電部材の発熱を冷却することができる。
【0078】
通常、断熱空間に一旦水を導入すると、その断熱管を再度真空断熱管として利用することは事実上不可能であるが、超電導ケーブル100の真空断熱管14を棄損しても、同ケーブルを常電導ケーブルとして送電する緊急性が求められる場合に本例のシステムを好適に利用することができる。
【0079】
〔実施形態3〕
次に、冷却機能喪失時に、超電導ケーブルの冷媒を気化させ、その気化冷媒を真空断熱管の断熱空間に充填して、同ケーブルを常電導ケーブルとして使用する実施形態3を図3に基づいて説明する。超電導ケーブル100、冷却機構200は実施形態1と共通であるため、主に相違点を説明する。この実施形態3では、真空断熱管14の冷媒流路と断熱空間とを連通する連通管610、放圧弁620、熱交換部630、及び第三バルブ640を備える。
【0080】
{連通管}
連通管610は、真空断熱管14の冷媒流路(収納空間)と断熱空間とを連通する配管である。冷却機能喪失時、冷却機構200が正常に動作しないため、冷媒温度が上昇し、液体冷媒は気化する。連通管610は、気化した冷媒を冷媒流路から断熱空間へ流通させる。
【0081】
{放圧弁}
この連通管610の途中には、放圧弁620が設けられている。冷却機能喪失時、冷媒20の気化は、急激な体積膨張を伴うため、放圧弁620を開放することで、連通管610内の圧力が過大にならないようにできる。
【0082】
{熱交換部}
連通管610の途中には、熱交換部630も設けられている。冷媒20は、気化しても相当な低温である。例えば液体窒素は、1気圧の場合、約77K(-196℃)で気化するが、気化した窒素ガスも極低温の気体である。このような低温の気化した冷媒が直ちに断熱空間に導入されると、断熱管14が急激に冷却され、断熱管14に近接する他の部材に対して悪影響を及ぼす虞がある。そのため、気化した冷媒を熱交換部630で昇温してから断熱空間に導入することで、上記の悪影響を排除することができる。熱交換部630の具体的な構成としては、連通管610の途中に気化した冷媒を貯留できる適宜な容器を設けることが挙げられる。この容器はフィンを設けるなどして外気との接触面積を増やすことで、気化した冷媒の昇温をより効率的に行うことができる。或いは連通管610を長くすることも熱交換部630として利用できる。
【0083】
{第三バルブ}
さらに、連通管610の途中には、第三バルブ640が設けられている。本例では、熱交換部630と真空断熱管14の断熱空間との間の連通管610の途中に開閉バルブを設け、第三バルブ640としている。通常時、断熱空間内は真空であるため、この第三バルブ640を開放すれば、気化した冷媒が断熱空間内に導入される。熱交換部630と真空断熱管14の収納空間(冷媒流路)との間の連通管610の途中にさらに開閉バルブ(図示略)を設けて、合計2つの開放バルブで第三バルブ640としてもよい。
【0084】
{システムの運用手順}
(1)通常時に超電導ケーブルを送電路として利用することは実施形態1と同様である。その際、第三バルブ640は閉じられている。
【0085】
(2)冷却機能喪失時、液体冷媒が昇温されて気化すると、第三バルブ640を開放して、断熱管14の収納空間から連通管610を介して断熱管14の断熱空間に気化した冷媒を導入する。
【0086】
(3)その際、必要に応じて、放圧弁620を開放し、連通管610内の圧力が過大にならないようにする。
【0087】
(4)気化した冷媒は、連通管610を通って熱交換部630に一旦導入され、そこで昇温される。そして、昇温された気化冷媒が断熱空間に導入される。この気化冷媒の導入により、真空断熱管14は伝熱管となる。その状態で、常電導導電部材を導体として、送電を行う。
【0088】
{作用効果}
本例のシステムでも、実施形態1と同様に、通常時は超電導ケーブル100として送電路を構成し、冷却機能喪失時はそのケーブルを常電導ケーブルとして送電路を構成することができる。特に、気化した超電導ケーブル100の冷媒を熱伝導材料として断熱管14の断熱空間に導入するため、上記冷媒とは別に断熱管14への充填用の熱伝導材料を用意しておく必要がない。また、放熱弁620を設けることで、気化した冷媒により連通管610内が過大な圧力になることを防止できる。さらに、熱交換部630を設けることで、気化した冷媒が過度に低温のままで断熱空間に導入され、断熱管14に近接する部材に悪影響が及ぶことも回避できる。
【0089】
〔実施形態4〕
次に、電気絶縁層を真空断熱管の内側に備える低温絶縁型超電導ケーブルを用いた超電導ケーブルシステムにおいて、冷却機能喪失時に断熱管内の収納空間にガスを充填する加圧充填機構を備えるシステムを図4に基づいて説明する。このシステムの基本構成は、図1のシステムと共通である。以下の説明は、主に図1のシステムとの相違点について行う。
【0090】
このシステムは、低温絶縁型超電導ケーブル100cにおける真空断熱管14の内側の空間(収納空間)に気体を加圧充填する加圧充填機構480を備える。加圧充填機構480は、例えば、大気や窒素ガスなどの気体を貯留するタンクと、この気体を収納空間に加圧供給する圧縮機を備える。この加圧充填機構480は、開閉バルブ480Vを介して連通管で低温絶縁型超電導ケーブル100cの収納空間に接続されている。
【0091】
低温絶縁型超電導ケーブル100cは、通常、電気絶縁層に冷媒を含浸することで十分な絶縁特性を確保している。そのため、冷却機能喪失時、真空断熱管14の内側の空間に冷媒を供給することができず、電気絶縁層から冷媒が抜ければ、電気絶縁層の絶縁特性は冷媒含浸時のそれに比べて低下する。そこで、冷却機能喪失時に低温絶縁型超電導ケーブル100cを常電導ケーブルとして運用する際、収納空間(冷媒流路)から冷媒20を排出した後、開閉バルブ480Vを開けて加圧充填機構480から収納空間内に気体を加圧供給する。これにより、収納空間内の圧力が加圧され、非加圧の場合に比べて電気絶縁層の絶縁特性を改善することができる。
【0092】
上述の本例では、連通管450とは別に収納空間につながる加圧充填用の連通管を設け、その連通管に対して加圧充填機構480を接続したが、連通管450における開閉バルブ470と分岐管450L、450Rとの間に別の分岐を設け、その分岐箇所と収納空間との間を加圧充填用の連通管で接続しても良い。その場合、加圧充填用の連通管の途中に開閉バルブを設ければよい。この構成で超電導ケーブル100cを常電導ケーブルとして運用する際、まず加圧充填用の開閉バルブと開閉バルブ440Aが閉の状態で、開閉バルブ440B、470を開け、断熱管14の断熱空間に気体供給源420から気体を導入して伝熱管とする。その後、開閉バルブ470を閉じ、加圧充填用の開閉バルブを開け、気体供給源420から収納空間内に加圧気体を充填する。つまり、この構成の場合は、気体供給源420が加圧充填機構480を兼ねることになる。その他、本例では、実施形態1を基本構成とする超電導ケーブルシステムについて説明したが、実施形態2又は3に加圧充填機構を組み合わせても良い。
【0093】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、以上の各実施形態では、冷却機能喪失時に断熱空間に熱伝導材料を充填するための構成を個々に設けているが、これら個々の構成を組み合わせて利用しても良い。その他、常温絶縁型超電導ケーブルを用い、フォーマを非導電材料で構成し、真空断熱管の外側に常電導導部材を設けたシステムとしても良い。その場合、冷却機能喪失時には、常温絶縁型超電導ケーブルは、超電導状態を維持できなくなった超電導導体層と前記常電導導電部材とを導体とする常電導ケーブルとして機能する。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の超電導ケーブルシステムは、通常時は超電導ケーブル線路として送配電に利用し、冷却機能喪失時は常電導ケーブル線路として、超電導ケーブルとしての送電容量よりも低容量に限定した送電に利用することができる。
【符号の説明】
【0095】
100 超電導ケーブル
100na、100nb 常温絶縁型超電導ケーブル
100c 低温絶縁型超電導ケーブル
10A 導体部 10B コア
11 フォーマ 12 超電導導体層(内側導体) 13 保護層
14 真空断熱管
14a 内管 14b 外管
15 パイプ状構造物 16 分流導体 17 電気絶縁層
18 超電導導体層(外側導体) 19 防食層
150 終端接続部
20 冷媒
200 冷却機構 210 冷凍機 215 冷却塔
300 冷媒管 310 電気絶縁層
410 真空ポンプ 420 気体供給源 440 第一バルブ
440A、440B 開閉バルブ 450 連通管 450L、450R 分岐管
460 コンプレッサー 470 開閉バルブ
480 加圧充填機構 480V 開閉バルブ
520 液体供給源 522 供給管 524 排出管
526 第二バルブ(開閉バルブ) 528 ポンプ
610 連通管 620 放圧弁 630 熱交換部 640 第三バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒の冷却機構と、前記冷媒の流路を有する超電導ケーブルとを備える超電導ケーブルシステムであって、
前記超電導ケーブルは、
前記冷却機構の動作時、前記冷媒により冷却される超電導導体層と、
この超電導導体層の外側に設けられる電気絶縁層と、
前記冷媒と共に超電導導体層を収納する真空断熱管とを有し、
さらに、前記冷却機構が動作不能で、前記超電導導体層を超電導状態に維持できない冷却機能喪失時に、前記真空断熱管の断熱空間に熱伝導材料を充填する充填手段を備えることを特徴とする超電導ケーブルシステム。
【請求項2】
前記充填手段は、
前記熱伝導材料となる気体を有する気体供給源と、
その供給源から前記断熱空間に気体を供給・停止する第一バルブとを備えることを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブルシステム。
【請求項3】
さらに前記断熱空間を真空引きする真空ポンプを備え、
前記第一バルブは、前記供給源と前記真空ポンプとを前記断熱空間に対して選択的に連通させる開閉バルブであることを特徴とする請求項2に記載の超電導ケーブルシステム。
【請求項4】
前記充填手段は、
前記熱伝導材料となる液体を貯える液体供給源と、
この液体供給源から前記断熱空間に液体を供給する供給管と、
前記断熱空間から液体を排出する排出管と、
前記供給管及び排出管の各々を前記断熱空間に連通・遮断する第二バルブと、
前記液体を、供給管、断熱空間及び排出管を流通経路として循環させる圧送手段とを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の超電導ケーブルシステム。
【請求項5】
前記充填手段は、
前記真空断熱管内の冷媒流路と前記真空断熱管の断熱空間とを連通させる連通管と、
この連通管を連通・遮断させる第三バルブとを備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超電導ケーブルシステム。
【請求項6】
前記連通管の途中に、冷却機能喪失時に気化した冷媒の圧力を開放する放圧弁と、この気化した冷媒の温度を上昇させる熱交換部との少なくとも一方を備えることを特徴とする請求項5に記載の超電導ケーブルシステム。
【請求項7】
前記超電導ケーブルは、前記超電導導体層に並列され、前記電気絶縁層の内側に配置される常電導導電部材を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の超電導ケーブルシステム。
【請求項8】
前記超電導ケーブルは、前記電気絶縁層を前記真空断熱管の外側に備える常温絶縁型超電導ケーブルであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の超電導ケーブルシステム。
【請求項9】
前記超電導ケーブルは、前記電気絶縁層を前記真空断熱管の内側に備える低温絶縁型超電導ケーブルであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の超電導ケーブルシステム。
【請求項10】
前記冷媒は液体冷媒であり、
前記低温絶縁型超電導ケーブルの電気絶縁層は、超電導ケーブルとして利用する場合に必要な電気絶縁層の厚みよりも厚く形成されていることを特徴とする請求項9に記載の超電導ケーブルシステム。
【請求項11】
冷却機能喪失時、前記低温絶縁型超電導ケーブルにおける真空断熱管の内側の空間に気体を加圧充填する加圧充填機構を備えることを特徴とする請求項9に記載の超電導ケーブルシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−66308(P2013−66308A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203824(P2011−203824)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】