説明

超電導ケーブル

【課題】 絶縁層における直流電界分布を平滑化できる超電導ケーブルを提供する。
【解決手段】 本発明超電導ケーブルは、超電導導体12と絶縁層13とを有する超電導ケーブルである。この絶縁層13は、その内周側の抵抗率が低く、外周側の抵抗率が高くなるようにρグレーディングが施されている。この構成により絶縁層13における径方向の直流電界分布が平滑化でき、絶縁層13の厚み低減を図ることができる。また、絶縁層のρグレーディングは、絶縁紙と複合紙の組合せ、あるいは複合紙におけるプラスチックフィルムの厚さの比率を変えることで自由度の高い設計が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブルに関するものである。特に、絶縁層の径方向における電界分布を平滑化できる直流超電導ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
直流超電導ケーブルとして、図5に記載の超電導ケーブルが提案されている。この超電導ケーブル100は、3本のケーブルコア10を断熱管20内に収納した構成である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ケーブルコア10は、中心から順にフォーマ11、超電導導体12、絶縁層13、帰路導体14、保護層15を具えている。超電導導体12は、フォーマ11上に超電導線材を多層に螺旋状に巻回して構成される。通常、超電導線材には、酸化物超電導材料からなる複数本のフィラメントが銀シースなどのマトリクス中に配されたテープ状のものが用いられる。絶縁層13は絶縁紙を巻回して構成される。帰路導体14は、絶縁層13上に超電導導体12と同様の超電導線材を螺旋状に巻回して構成する。そして、保護層15には絶縁紙などが用いられる。
【0004】
また、断熱管20は、内管21と外管22とからなる二重管の間に断熱材(図示せず)が配置され、かつ二重管内が真空引きされた構成である。断熱管20の外側には、防食層23が形成されている。そして、フォーマ11(中空の場合)内や内管21とコア10の間に形成される空間に液体窒素などの冷媒を充填・循環し、絶縁層13に冷媒が含浸された状態で使用状態とされる。
【0005】
一方、常電導ケーブルでは、絶縁層における直流電界の高くなる箇所に局部的なρグレーディングを形成して、その部分の直流電界を下げることが行われている(例えば特許文献2)。
【0006】
常電導ケーブル、例えば直流OFケーブルでは、負荷に応じて絶縁層の径方向に温度勾配が発生し、それに伴って絶縁層の直流電界分布が大きく変化する。これは、直流の電界分布を決める絶縁層の抵抗率(ρ)が温度により大きく変化し、温度が高いほど抵抗率が小さくなるためである。例えば、負荷がないときは、絶縁層中の温度がほぼ一定のため、電界の円筒座標構造により、導体側(内周側)の電界が高く、シース側(外周側)の電界が低い。一方、負荷がかかると導体側の温度がシース側の温度に比べて高くなり、導体側の抵抗率が小さく、シース側の抵抗率が大きくなる。そのため、抵抗率に依存する直流の電界分布は、シース側の電界が高くなり、導体側の電界が低くなる。
【0007】
このように、常電導ケーブルでは負荷によって最大電界強度となる位置が変化し、通常、最大負荷時のシース側の電界ストレスが絶縁層の弱点になることから、絶縁層におけるシース側の電界強度を下げるために、シース側に抵抗率の小さいクラフト紙を適用して局所的なρグレーディングを施すことが行われている。
【0008】
【特許文献1】特開2003-249130号公報(図1)
【特許文献2】特開平11-224546号公報(図13、図14)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の超電導ケーブルでは、絶縁層が内周側から外周側にわたって一様な電気特性の材料で構成されており、最大電界強度となる箇所の電界強度を局部的に緩和することはもちろん、絶縁層の厚さ方向全体にわたって直流の電界分布を平滑化するための工夫はなされていない。そのため、超電導ケーブルにおいても、より絶縁特性に優れた絶縁構造や絶縁層をコンパクト化できる絶縁構造が求められている。
【0010】
その際、常電導ケーブルで既に利用されているρグレーディングなどの絶縁設計技術をそのまま超電導ケーブルに転用することも考えられる。しかし、常電導ケーブルでは負荷の状態によって絶縁層の径方向の温度分布が大きく変化するのに対し、超電導ケーブルでは絶縁層が極低温状態に保持されているという特殊事情がある。そのため、超電導ケーブルでは、この特殊事情を考慮して常電導ケーブルとは異なった手法により絶縁設計がなされるべきである。
【0011】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その主目的は、絶縁層における直流電界分布を平滑化できる超電導ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、直流超電導ケーブルには直流超電導ケーブルに適した絶縁設計の手法があるはずであるとの考えの下、超電導ケーブルの絶縁層における直流の電界分布に関して種々の検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明超電導ケーブルは、超電導導体と絶縁層とを有する超電導ケーブルであって、前記絶縁層は、その径方向の直流電界分布が平滑化されるように、絶縁層の内周側の抵抗率が低く、外周側の抵抗率が高くなるようにρグレーディングが施されていることを特徴とする。
【0014】
超電導ケーブルは、そのケーブルに用いられる超電導線材を極低温に冷却する必要上、負荷の変動による絶縁層の温度変化も小さく、常電導ケーブルに比べれば非常に温度が安定した絶縁層を有している。そのため、超電導ケーブルの絶縁層では負荷に関わらずほぼ一様な電界分布となっており、常電導ケーブルの絶縁層のように、無負荷時と最大負荷時で最大電界強度となる位置が変わることもない。そこで、絶縁層の内周側の抵抗率が低く、外周側の抵抗率が高くなるようにρグレーディングを施すことで、絶縁層の径方向(厚さ方向)の全体にわたって直流電界分布を平滑化することができる。
【0015】
以下、本発明の超電導ケーブルをより詳しく説明する。
本発明超電導ケーブルは、代表的には、ケーブルコアと、ケーブルコアを収納する断熱管とから構成される。そのうち、ケーブルコアは、超電導導体、絶縁層を有することを基本構成とする。通常は、ケーブルコアにフォーマも設けられる。
【0016】
フォーマは、超電導導体を所定形状に保形するもので、パイプ状のものや撚り線構造のものが利用できる。その材質には、銅やアルミニウムなどの非磁性の金属材料が好適である。フォーマをパイプ状のものとした場合、フォーマ内を冷媒の流路とできる。
【0017】
超電導導体は、超電導材料から構成される導体部分である。例えば、超電導線材をフォーマ上に螺旋状に巻回することで層状に超電導導体を形成する。超電導線材の具体例としては、Bi2223系酸化物超電導材料からなる複数本のフィラメントが銀シースなどのマトリクス中に配されたテープ状のものが挙げられる。超電導線材の巻回は単層でも多層でもよい。また、多層とする場合、層間絶縁層を設けてもよい。層間絶縁層は、クラフト紙などの絶縁紙やPPLP(住友電気工業株式会社製、登録商標)などの複合紙を巻回して設けることが挙げられる。
【0018】
絶縁層には、内周側の抵抗率が低く、外周側の抵抗率が高くなるようにρグレーディングを施す。このρグレーディングは、従来の常電導ケーブルにおいて利用されていた局部的なρグレーディングではなく、絶縁層の厚さ方向の全体にわたって施す。この構成により、絶縁層の厚さ方向全体の直流電界分布を平滑化でき、絶縁層の厚みを低減することができる。
【0019】
その際、絶縁層は抵抗率が段階的に異なる複数層から構成されることになるが、その層数は特に問わない。実用的には、2層あるいは3層程度が好ましいが、この層数を増やすことで絶縁層の厚さ方向に実質的に連続して抵抗率が変化する絶縁層を構成することができる。中でも、これら各層の厚みは均等にすることが望ましい。抵抗率の異なる各層の厚みが均等であれば、絶縁層の厚さ方向における直流電界分布の平滑化がより効果的に行える。
【0020】
ρグレーディングを施すには、抵抗率(ρ)の異なる絶縁材料を用いる必要がある。抵抗率を変える代表的な手段としては、次のものがある。
【0021】
絶縁紙の場合、例えばクラフト紙の密度を変えることで抵抗率を変えることができる。また、クラフト紙にジシアンジアミドを添加したり、クラフト紙をシアノエチル紙で構成することにより、抵抗率が一般的なクラフト紙よりも低い低抵抗クラフト紙とすることができる。一般的なクラフト紙の抵抗率ρ(20℃)は1014〜1017Ω・cm程度、低抵抗クラフト紙の同抵抗率は一般的なクラフト紙の抵抗率の半分ぐらいである。
【0022】
絶縁紙とプラスチックフィルムからなる複合紙には、代表的にはポリプロピレンフィルムにクラフト紙をラミネートしたもの(PPLP)が挙げられる。この種の複合紙において、複合紙全体の厚みTに対するプラスチックフィルムの厚みtpの比率(tp/T)×100を変えることにより抵抗率の異なる複合紙を得ることができる。ここでは、この比率(tp/T)×100をk値とし、この比率kの値を例えば40%〜90%程度の範囲で変化させることにより抵抗率を変えればよい。通常、比率kが大きいほど抵抗率ρが大きくなる。例えば、比率kが40%の複合紙の抵抗率ρ(20℃)は1016〜1018Ω・cm程度、同60%の複合紙の抵抗率ρ(20℃)は1017〜1019Ω・cm程度、同80%の複合紙の抵抗率ρ(20℃)は1018〜1020Ω・cm程度である。さらに、複合紙を構成する絶縁紙の密度、材質、添加物などを変えることでも複合紙の抵抗率を変えることができる。
【0023】
以上の絶縁紙と複合紙を用いてρグレーディングを構成する場合、例えば、次の構成が考えられる。
【0024】
A:絶縁紙だけを用いる場合
(1)密度の低い絶縁紙で低ρ層を形成し、その外側に密度の高い絶縁紙で高ρ層を形成する。
(2)抵抗率の低い材質からなる絶縁紙で低ρ層を形成し、その外側に抵抗率の高い材質からなる絶縁紙で高ρ層を形成する。
(3)添加物を加えることで抵抗率を低くした絶縁紙で低ρ層を形成し、その外側に添加物のない絶縁紙で高ρ層を形成する。
【0025】
B:複合紙だけを用いる場合
(1)比率kの低い複合紙で低ρ層を形成し、その外側に比率kの高い複合紙で高ρ層を形成する。
(2)複合紙を構成する絶縁紙の抵抗率を上記Aの手法で変えて、絶縁層の内側に低ρ層を形成し、その外側に高ρ層を形成する。
【0026】
C:絶縁紙と複合紙を組み合わせる場合
(1)絶縁紙と複合紙を交互に巻いて低ρ層を形成し、その低ρ層の外周に複合紙だけを巻いて高ρ層を形成する。
(2)絶縁紙と複合紙を交互に巻いて絶縁層を構成し、上記AまたはBの手法で絶縁紙または複合紙の抵抗率を変えることにより絶縁層の内側に低ρ層を形成し、その外側に高ρ層を形成する。例えば、絶縁紙と比率kが低い複合紙を交互に巻いて低ρ層を形成し、その外側に絶縁紙と比率kが高い複合紙を交互に巻いて高ρ層を形成する。
(3)絶縁紙だけで低ρ層を形成し、その外側に複合紙だけで高ρ層を形成する。その場合、低ρ層は内側から外側に向けて抵抗率が高くなるように絶縁紙を巻くことが好ましい。
【0027】
以上の各構成において、絶縁紙だけで構成する構造が最も低コストである。複合紙と絶縁紙とを複合して用いれば、複合紙のみで絶縁層を構成する場合に比べて高価な複合紙の使用量を低減でき、ケーブルコストを下げることができる。
【0028】
比率kが60%以上の複合紙を用いてρグレーディングを形成することが好ましい。より好ましくは、絶縁層の全てを比率kが60%以上の複合紙で構成することである。複合紙を構成する絶縁紙とプラスチックフィルムの各抵抗率の違いにより、直流電界ストレスは直流耐電圧特性に優れたプラスチックフィルムに大きくかかる。そのため、絶縁層に占めるプラスチックフィルムの比率を高めることで絶縁層の直流耐電圧特性を改善し、絶縁層の厚みを低減することが可能となる。さらに好ましくは、比率kが70%以上の複合紙を用いてρグレーディングを形成すればよい。
【0029】
また、複合紙のうち、プラスチックフィルムにラミネートする絶縁紙は気密度が比較的高い値のクラフト紙を選択することが好ましい。交流ケーブルの場合、PPLPは低損失{低誘電率(ε)、低損失角(tanδ)}を実現することと高インパルス(Imp.)耐圧を実現するために、比較的気密度が小さい(例えば約1500ガーレ秒)クラフト紙をラミネートしている。直流ケーブルの場合、交流によって生じる誘電体損は存在しないので、プラスチックフィルムにラミネートするクラフト紙の選択肢が広い。そのため、やや高めの気密度、例えば3000ガーレ秒以上のクラフト紙を使用して、比率kが40〜50%を越えるとImp.耐圧が低下し始める弱点を克服できる。とりわけ、比率kが高く、かつ気密度も高めのクラフト紙を用いた複合紙で絶縁層を構成すれば、直流耐電圧とImp.耐圧の双方に優れる超電導ケーブルを得ることができる。
【0030】
さらに、絶縁層は、超電導導体の近傍に、他の箇所よりも誘電率が高い高ε層を有することが好ましい。この構成により、上述した直流耐電圧特性の向上に加えて、Imp.耐圧特性も向上させることができる。なお、誘電率ε(20℃)は一般的なクラフト紙で3.2〜4.5程度、比率kが40%の複合紙で2.8程度、同60%の複合紙で2.6程度、同80%の複合紙で2.4程度である。
【0031】
その他、絶縁層は、その内周側ほど誘電率εが高く、外周側ほど誘電率εが低く構成してもよい。このεグレーディングは、絶縁層の局部に形成されているのではなく、絶縁層の径方向全域に亘って形成する。本発明超電導ケーブルは直流特性に優れたケーブルであるが、現行の送電線路は交流で構成されている。今後、送電方式を交流から直流へ移行することを考えた場合、過渡的に本発明ケーブルを用いて交流を送電するケースが想定される。例えば、送電線路の一部のケーブルを本発明超電導ケーブルに交換したが残部が交流用ケーブルのままであるとか、送電線路の交流用ケーブルを本発明超電導ケーブルに交換したが、ケーブルに接続される送電機器は交流用のままとなっている場合などである。この場合、本発明ケーブルで過渡的に交流送電を行い、その後、最終的に直流送電に移行されることになる。そのため、本発明ケーブルにおいては、直流特性に優れているのみならず、交流特性をも考慮した設計とすることが好ましい。交流特性をも考慮した場合、内周側ほど誘電率εが高く、外周側ほど誘電率εが低い絶縁層とすることで、サージなどのインパルス特性に優れたケーブルを構築することができる。もちろん、絶縁層における超電導導体の近傍に、他の箇所よりも誘電率が高い高ε層を設ける局部的なεグレーディングと径方向全域に亘る上記εグレーディングとを組み合わせることが効果的である。そして、上記過渡期がすぎて直流送電が行われることになった場合には、過渡期に用いていた本発明ケーブルをそのまま直流ケーブルとして利用することができる。
【0032】
通常、上述したPPLPは、比率kを高くすると高ρ低εとなる。そのため、絶縁層の外周側ほど比率kの高いPPLPを用いて絶縁層を構成すれば、外周側ほど高ρになり、同時に外周側ほど低εにできる。
【0033】
一方、クラフト紙は、一般に気密度を高くすると高ρ高εになる。そのため、クラフト紙だけで外周側ほど高ρであると共に外周側ほど低εの絶縁層を構成することは難しい。そこで、クラフト紙を用いる場合は、複合紙と組み合わせて絶縁層を構成することが好適である。例えば絶縁層の内周側にクラフト紙層を形成し、その外側にPPLP層を形成することで、抵抗率ρはクラフト紙層<PPLP層となり誘電率εはクラフト紙層>PPLP層となるようにすれば良い。
【0034】
その他、絶縁層の内外周の少なくとも一方、つまり超電導導体と絶縁層との間や、絶縁層とシールド層との間に半導電層を形成しても良い。前者の内部半導電層、後者の外部半導電層を形成することで、超電導導体と絶縁層の間あるいは絶縁層とシールド層の間での密着性を高め、部分放電の発生などに伴う劣化を抑制する。
【0035】
上記の絶縁層の外側に帰路導体を設けることは単極方式の送電を行う際に必要な構成である。交流超電導ケーブルでは、超電導線材の交流損失を減らすためにも超電導導体の外周に漏れる磁束を遮蔽するためのシールド層が必要であるが、直流超電導ケーブルでは、交流超電導ケーブルのシールド層に相当する箇所に帰路導体を設ける必要がある。つまり、絶縁層の外側に超電導線材からなる帰路導体を設けることで、超電導導体を単極送電における往路電流流路とし、帰路導体を帰路電流流路として用いることができる。この帰路導体は、超電導導体と同一の電流容量を具える構成とする必要がある。超電導ケーブルを複数のコアが断熱管内に収納された多心一括型とし、単極送電方式または双極送電方式を採用することも可能である。後者の場合、本発明ケーブルにおける交流超電導ケーブルのシールド層に相当する導体は中性線としての機能を有する。なお、本発明ケーブルにより過渡的に交流を送電する場合が考えられることは既に述べたが、本発明ケーブルで交流を送電する場合、上述した帰路導体がシールド層として機能する。
【0036】
その他、フォーマと超電導導体との間にクッション層を介在してもよい。クッション層は、フォーマと超電導線材間における金属同士の直接接触を回避し、超電導線材の損傷を防止する。特に、フォーマを撚り線構造とした場合、クッション層はフォーマ表面をより平滑な面にする機能も有する。クッション層の具体的材質としては、絶縁紙やカーボン紙が好適に利用できる。
【0037】
一方、断熱管は、例えば、外管と内管とからなる二重構造の二重管の間に断熱材を配置し、内管と外管との間を真空引きする構成が挙げられる。通常、内管と外管との間には、金属箔とプラスチックメッシュを積層したスーパーインシュレーションが配置される。内管内には、少なくとも超電導導体が収納されると共に、超電導導体を冷却する液体窒素などの冷媒が充填される。
【0038】
この冷媒は、超電導線材を超電導状態に維持できるものとする。現在、冷媒には液体窒素の利用が最も実用的と考えられているが、その他、液体ヘリウム、液体水素などの利用も考えられる。特に、液体窒素の場合、ポリプロピレンを膨潤させない液体絶縁であり、比率kが高い、つまりポリプロピレンの厚みの大きい複合紙で絶縁層を構成した場合でも直流耐電圧特性やImp.耐圧特性に優れた超電導ケーブルを構成することができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明超電導ケーブルによれば、次の効果を奏することができる。
【0040】
(1)絶縁層の内周側の抵抗率が低く、外周側の抵抗率が高くなるようにρグレーディングを施すことで、絶縁層の厚さ方向の全体にわたって直流電界分布を平滑化することができる。それに伴って、直流耐電圧特性を改善し、絶縁層の厚みを減少することができる。
【0041】
(2)絶縁層のρグレーディングは、絶縁紙と複合紙の組合せ、あるいは複合紙におけるプラスチックフィルムの厚さの比率を変えることで自由度の高い設計が可能である。そのため、要求される超電導ケーブルの特性に応じて、様々な特性の超電導ケーブルを作製することができる。
【0042】
(3)比率kの高い複合紙を絶縁層に用いることや、絶縁層に占めるプラスチックフィルムの比率を高めることで絶縁層の直流耐電圧特性を改善し、絶縁層の厚みを低減することが可能となる。
【0043】
(4)絶縁層を内周側ほど高εとすることで、本発明ケーブルで交流送電を行う場合にも交流の電気特性に優れたケーブルとすることができる。そのため、送電方式を交流と直流の間で変更する過渡期において、本発明ケーブルで交流を送電する際にも高い電気性能を有するケーブルとして利用することができる。
【0044】
(5)絶縁層における超電導導体の近傍に、他の箇所よりも誘電率が高い高ε層を設けることで、上述した直流耐電圧特性の向上に加えて、Imp.耐圧特性も向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0046】
(実施例1)
[全体構造]
図1(A)に示すように、本発明超電導ケーブル100は、1心のケーブルコア10と、そのコア10を収納する断熱管20とから構成される。
【0047】
[コア]
このコア10は、中心から順に、フォーマ11、超電導導体12、絶縁層13、帰路導体14および保護層15を有する。
【0048】
<フォーマ>
フォーマ11には、中空の金属パイプを用いた。中空のフォーマを用いた場合、その内部を冷媒(液体窒素)の流路とできる。
【0049】
<超電導導体>
超電導導体12には、厚さ0.24mm、幅3.8mmのBi2223系Ag-Mnシーステープ線材を用いた。このテープ線材をフォーマの上に多層に巻回して導体を構成する。また、交流ケーブルとは異なり、各層の電流の均流化を考慮する必要はない。
【0050】
<絶縁層>
このような超電導導体12の外周には絶縁層13が形成される。ここでは、絶縁層を、その厚さ方向に2分割して、内周側を低ρ層13Aとし、外周側を高ρ層13Cとした。低ρ層13Aは、クラフト紙とPPLP(クラフト紙とポリプロピレンをラミネートした複合紙)を交互巻きして構成している。その低ρ層に用いたPPLPの比率k((ポリプロピレンフィルムの厚みtp/複合紙全体の厚みT)×100)は40%、抵抗率ρ(20℃)はAΩ・cmである(Aは定数)。一方、高ρ層13Cは、比率kが60%のPPLPで構成した。そのPPLPの抵抗率ρ(20℃)は1.5AΩ・cm程度である。
【0051】
<帰路導体>
絶縁層13の外側には、帰路導体14を設けた。直流では電流の往復流路が必要なため、単極送電では帰路導体14を設けて帰路電流の流路として利用する。帰路導体14は、超電導導体12と同様の超電導線材で構成され、超電導導体12と同様の送電容量を有している。
【0052】
<保護層>
この帰路導体14の外側には絶縁材料で構成される保護層15が設けられている。ここでは、クラフト紙の巻回により保護層15を構成している。この保護層15により、帰路導体14の機械的保護と共に、断熱管(内管21)との絶縁をとり、断熱管20への帰路電流の分流を防ぐことができる。
【0053】
[断熱管]
断熱管20は内管21および外管22を具える2重管からなり、内外管21、22の間に真空断熱層が構成される。真空断熱層内には、プラスチックメッシュと金属箔を積層したいわゆるスーパーインシュレーションが配置されている。内管21の内側とコア10との間に形成される空間は冷媒の流路となる。また、必要に応じて、断熱管20の外周にポリ塩化ビニルなどで防食層23を形成しても良い。
【0054】
[直流電界分布]
上記の超電導ケーブルを用いて、無負荷時と最大負荷時の絶縁層における厚さ方向の直流電界分布を調べた。比較のため、図1(B)に示すように、絶縁層13が全て同一の抵抗率をもつクラフト紙で構成されたコア10を持つ超電導ケーブルを作製し、その直流電界分布も同様に調べた。比較ケーブルの絶縁層13を構成するクラフト紙の抵抗率ρ(20℃)は1015Ω・cm程度である。
【0055】
その結果を図2(A)に示す。比較ケーブルでは、絶縁層の厚さ方向において、直流電界分布は負荷状態に関わらず導体側が高く、その反対側(保護層側)が低い状態となる(破線表示)。一方、本発明ケーブルでは、抵抗率の相違に伴って段階的な直流電界分布となり(実線表示)、直流電界分布の平滑化が実現できることがわかる。
【0056】
なお、OFケーブルでは、図2(B)に示すように、無負荷時には導体側(内周側)の直流電界が高く、シース側(外周側)の直流電界が低い分布となるが、最大負荷時には、逆に導体側(内周側)の直流電界が低く、シース側(外周側)の直流電界が高い分布となる。
【0057】
これらの結果から、本発明超電導ケーブルによれば絶縁層の厚さ方向における直流電界分布を平滑化することができ、直流耐電圧特性を改善して絶縁層の厚さを低減できることがわかる。
【0058】
(実施例2)
次に、実施例1における絶縁層のρグレーディングを3段階とした構成を図3(A)に示す。本例の超電導ケーブルもケーブルコアが断熱管内に収納されている構造であり、断熱管自体の構成は実施例1と同様であるため、コア10の断面構造のみ図3(A)に示している。また、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0059】
ここでは、超電導導体12側から保護層15側に向かって低ρ層13A、中ρ層13B、高ρ層13Cの3層で絶縁層13を構成している。いずれの層も複合紙(PPLP)により構成されている。各層の構成材料の比率kと抵抗率ρ並びに誘電率εは次の通りである。この構成によれば、絶縁層の外周側ほど比率kの高いPPLPを用いているため、絶縁層の外周側ほど高ρになると同時に外周側ほど低εとなっている。
低ρ層:比率k=60%、抵抗率ρ(20℃)=AΩ・cm、誘電率ε=B
中ρ層:比率k=70%、抵抗率ρ(20℃)=約1.2AΩ・cm、誘電率ε=約0.95B
高ρ層:比率k=80%、抵抗率ρ(20℃)=約1.4AΩ・cm、誘電率ε=約0.9B
ここで、A,Bは定数である。
【0060】
本例においても、絶縁層の厚さ方向における直流電界分布は図3(B)に示すように抵抗率の相違に応じた3つの段階を有する分布となる。そのため、絶縁層の厚さ方向における直流電界分布を平滑化でき、絶縁層の厚みを低減することができる。特に、比率kの高いPPLPで絶縁層を構成することで、直流耐電圧特性に優れるポリプロピレンが絶縁層に占める割合を高めることができ、絶縁層の厚み低減効果がより一層期待できる。
【0061】
(実施例3)
次に、実施例1と同様の超電導ケーブルに、さらにεグレーディングを組み合わせた構成を図4に基づいて説明する。本例の超電導ケーブルもケーブルコアが断熱管内に収納されている構造であり、断熱管自体の構成は実施例1と同様であるため、コア10の断面構造のみ図4に示す。また、実施例1との相違点を中心に説明する。
【0062】
本例では、絶縁層13における低ρ層13Aと高ρ層13CをいずれもPPLPで構成し、さらに超電導導体12の直上にクラフト紙を厚さ0.5mmに亘って巻回し、誘電率εが絶縁層13の他の箇所に比べて高い高ε層13Dを形成した。各層の構成材料の諸条件は次の通りである。誘電率と抵抗率は全て20℃における値である。
高ε層:誘電率ε=4.0
低ρ層:誘電率ε=2.8、比率k=40%、抵抗率ρ=約AΩ・cm
高ρ層:誘電率ε=2.6、比率k=60%、抵抗率ρ=約1.5AΩ・cm
ここで、Aは定数である。
【0063】
本例の構成によれば、超電導導体の直上に高ε層13Dを設けることで、上述した直流耐電圧特性の向上に加えて、Imp.耐圧特性も向上させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明超電導ケーブルは、直流の電力輸送手段として利用することができる。その他、送電方式を交流から直流に移行する過渡期において、交流を送電することにも好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】(A)は実施例1における超電導ケーブルの横断面図、(B)は比較ケーブルのコアの横断面図である。
【図2】(A)は実施例1の超電導ケーブルにおける絶縁層の直流電界分布を示すグラフ、(B)はOFケーブルにおける絶縁層の直流電界分布を示すグラフである。
【図3】(A)は実施例2における超電導ケーブルのコアの横断面図、(B)は同ケーブルにおける絶縁層の直流電界分布を示すグラフである。
【図4】実施例3における超電導ケーブルのコアの横断面図である。
【図5】従来の超電導ケーブルの横断面図である。
【符号の説明】
【0066】
100 超電導ケーブル
10 コア
11 フォーマ 12 超電導導体 13 絶縁層 14 帰路導体 15 保護層
13A 低ρ層 13B 中ρ層 13C 高ρ層 13D 高ε層
20 断熱管
21 内管 22 外管 23 防食層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導導体と絶縁層とを有する超電導ケーブルであって、
前記絶縁層は、その径方向の直流電界分布が平滑化されるように、絶縁層の内周側の抵抗率が低く、外周側の抵抗率が高くなるようにρグレーディングが施されていることを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項2】
ρグレーディングが、絶縁紙とプラスチックフィルムからなる複合紙と絶縁紙との組合せにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブル。
【請求項3】
ρグレーディングは、複合紙の厚さに対するプラスチックフィルムの厚さの比率kが異なる複合紙の組合せにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブル。
【請求項4】
比率kが60%以上の複合紙を用いていることを特徴とする請求項3に記載の超電導ケーブル。
【請求項5】
前記絶縁層は、その内周側ほど誘電率εが高く、外周側ほど誘電率εが低く構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超電導ケーブル。
【請求項6】
前記絶縁層は、超電導導体の近傍に、他の箇所よりも誘電率が高い高ε層を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の超電導ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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